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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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<研究論文>「日本型土地システム」の検討(続) : 日本型
とアジア型の比較研究序説
小森, 治夫
財政学研究 (1992), 17: 54-70
1992-08-01
http://hdl.handle.net/2433/156202
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
財政学研究
■
第17号
研究論文
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の検討(続)
―日本型とア ジア型の比較研究序説―
小
1は
じめ に
森
治
夫
ら、 「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の概 念 を 導 出 した
ので あ る。 この よ うな研究 方法 、す な わ ち、 ヨー
ロ ッパ の土 地 法制 との比較 か ら日本 の土地 問題 ・
(1)本 稿 の課 題 と構 成
土 地 政 策 の特 質 を検 討 す る とい うの は 、渡 辺 洋
「現 代 日 本 の 土 地 問 題 と 土 地 政 策
三 氏 を は じめ とす る法 学 者 の方 法 論 で あ り、近
(上)」i)で は、 日本 に お け る土 地 所 有 の 独 自性
年 の土 地 問 題 ・土 地 政 策 研 究 の 主 流 の一 っ を な
を あ らわ す キ ー概 念 と して 、 「日本 型 土 地 シス
す もの であ っ た と言 え よ う2)。 前 稿 で は 、 そ の
テ ム 」 の生 成 と発 展 の過 程 を概 括 し、新 た な土
業 績 に も学 びっ つ 、 「日本 型 土 地 シ ス テ ム」 の
地 政 策 の た め の基 礎 理 論 を提 起 した。
概 念 を提 起 した わ け で あ る。
前稿
「日本 型 土 地 シ ス テ ム」 と は、一 言 で いえ ば、
それ に対 して 、本 稿 で提 起 す る新 たな 方 法論
絶 対 的土 地 所 有権 を前 提 と して 、 ま た 、都 市 計
は 、戦 前 か ら戦 後 初 期 に か けて膨 大 な 研 究 蓄 積
画 ・土 地 利 用 計 画 な ど の公 共 的 な土 地 管 理 ・規
が あ る と と もに 、近 年 、NIES、ASEAN
制 の 欠如 を前 提 と した上 で 、土 地 価 格 を支 え る
の経 済 発 展 に触 発 さ れ て再 び研 究 が盛 ん にな っ
財政 ・金 融 面 で の 国 家 的 支 援 を 背 景 とす る 、法
て い る ア ジア研 究 に着 目 をす る こ と で あ る3)。
人 企 業 と金 融 機 関 の土 地 所 有 ・土 地 投 機 の問 題
と くに 、最 近 、現 代 土 地 政 策 ・土 地 税 制 の 一 つ
で あ り、,地価上 昇 ・土地 投機 によ るキ ャ ピタル ・
の モ デ ル と して 、戦 後 期 の東 ア ジア(台 湾 、韓
ゲ イ ンの獲 得 を公 的 な制 度 と して容 認 す る社 会
国)の 土 地 政 策 。土 地 税 制 に着 目 した研 究 が あ
構 造 の ことで あ る 。 ま た 、 「日本 型 土 地 シス テ
らわれ て い る が4)、 本 稿 で は そ れ と は 異 な り、
ム」 と は 、 こ の よ うな キ ャ ピタ ル ・ゲ イ ンを政
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の ル ー ツ と して の 戦 前
治 資 金 と して 政 権 党 に還 流 させ 、土 地 市 場 へ の
期 の ア ジア社 会 に つ い て の検 討 を 行 う。 す な わ
公 共 的 介 入 を困 難 にす る シス テ ム と も言 う こと
ち 、 「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の ル ー ツ は ア ジ ア
がで きる。
社 会 に あ る 、 とい う試 論 を提 起 す る こ とか ら本
こ の よ う に前 稿 で は 、 ヨー ロ ッパ 型 の土 地 利
稿 を始 め る こ ととす る 。 こ こで は、膨 大 な研 究
用権 優 位 の シス テ ム との対 比 か ら始 め て 、土 地
蓄 積 の あ る ア ジア研 究 の 中 か ら、専 門 の イ ン ド
所 有 の 日本 的 特 質 を検 出 した 。 っ ま り、 ア メ リ
研 究 の み な らず ア ジア論 、共 同体 論 な ど に鋭 い
カ 、 イ ギ リス は相 対 的 土 地 所 有 権 で あ り、土 地
問 題 提 起 を して お られ る小 谷 注 之 氏 の イ ン ドに
利 用 権 が土 地 所 有 権 に優 先 して い るの に対 して 、
お け る 「資 本 主 義 の た め の土 地制 度 改 造 」 の研
ドイ ツ 、フ ラ ンス 、 日本 は絶 対 的 土 地 所 有 権 で
究 お よ び戦 前 か らの優 れ た ア ジ ァ研 究 者 で あ る
あ り、土 地 所 有 権 が土 地 利 用 権 に優先 して い る。
ウイ ッ トフォ ー ゲ ル 氏 の 「中 国 の 経 済 と社 会 」
しか し 、 ドイ ッ 、 フ ラ ンス で は 、都 市 計 画 関 連
「東 洋 的 専 制 主 義 」 の 研 究 に注 目す る。 そ して 、
法 の整 備 に よ って 「土 地 利 用 が土 地 所 有 に優 先
ア ジァ的 土 地 所 有 の特 質 を 、 第一 に 「土 地 所 有
す る シス テ ム 」 を作 り出 して お り、 い わ ば 、 日
が 土 地 利 用 に優 先 す る シス テム 」 と し、 第 二 に
本 だ け が絶 対 的土 地 所 有 権 で 「土 地 所 有 が土 地
専 制 主 義 的 国 家 権 力 に よ る 「上 級 土 地 所 有 権 」
利 用 に優 先 す る シス テ ム 」 に な って い る こ とか
と規 定 す る。
一54―
「日本 型 土 地 シ ステ ム」 の検 討(続)
第1章
の 「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の ル ー ツ は
次 に、 「上 級 土 地 所 有 権 」 に っ いて は 、第3
ア ジア社 会 に あ る とい う試 論 の提 起 を うけ た 本
章 で 検 討 を行 うが 、 こ こで は、土 地 の私 的 所 有
稿 の 中心 的 な課 題 は 、 この 「土 地 所 有 が土 地 利
権 の 上 に 、国 家 権 力 に よ るい わ ば 「上 級 土 地 所
用 に優 先 す る シス テ ム 」 お よ び 「上 級 土 地 所 有
有 権 」 が 強 力 に存 在 した とい う仮 説を提 起 す る。
権 」 と い う二 っ の視 点 か ら、 日本 的土 地 所有 の
っ ま り、 戦 前 に は専 制 主 義 的 国家 権 力 の 「上 級
特 質 を理 論 的 に概 括 す る こ とに よ り、 「日本 型
土 地 所 有 権 」 に支 え られ て寄 生 地 主 が土 地 を 支
土 地 シス テ ム」 の概 念 を よ り深 め る ことに あ る。
配 し、 戦 後 は法 人 企 業 が国 家 権 力 の 「上 級土 地
そ の際 、前 稿 で は 、 「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の
所 有権 」 に支 え られ て 土 地 を支 配 して い る と い
形 成 過 程 と して戦 後 期 の検 討 を行 った わ け で あ
う仮説 で あ る。 これ を検 証 す るた め に、戦 前期
るが 、絶 対 的 土 地 所 有 権 、都 市 計 画 ・土 地 利 用
に っ いて は、 土 地 収 用 制 度 の歴 史 を概 括 し、 そ
計 画 の欠 如 な ど 「日本 型 土 地 シス テ ム」 の前 提
の 権 力 性 、 す なわ ち 、専 制 主 義 的 国家 権 力 に よ
は戦 前 期 に既 に形 成 さ れて い るわ けで あ るか ら、
る土 地 所 有 権 の制 限 と強 権 的 な土 地 収 奪 の実 態
本 稿 で は戦 前 期 に まで さ か の ぼ っ て 、 戦 後 期 、
を 明 らか にす る。
そ して現 代 に至 る まで の過 程 を概 括 す る こ と と
す る。
戦 後 期 にっ いて は 、 「国 家 と法 人 企 業 の 経 済
力 が土 地 の集 積 ・集 中 を可 能 に す る法 的 枠 組 」
で は 、 「土 地 所 有 が土 地 利 用 に優 先 す
と、 そ の 前 提 と して の 「零 細 土 地 所 有 者 の経 済
る シ ス テ ム」 が いっ 、 ど の よ うに して成 立 した
的 不安 定 」 と の相 互 依 存 関 係 で説 明 しよ う とす
のか を検 討 す る。 戦 前 期 につ い て は 、地 租 改 正
る仮説 を 提 起 し、 漁 民 の場 合 、農 民 の場 合 、 都
に は じま る明 治 初 期 の土 地 制 度 改 革 が地 主 的土
市 の 零 細 土 地 所 有 者 の場 合 の そ れ ぞ れ に っ いて
地 所 有(寄 生 地 主 制)の 急 速 な発 展 を導 い た こ
の概 括 を行 い、 「上 級 土 地 所 有 権 」 は戦 後 も形
と、 そ して そ の私 法 的 表 現 が土 地 利 用 権 を保 障
を 変 え つ つ 強 力 に存 在 して い る ことを検証 す る。
第2章
した 旧 民 法 か ら土 地 所 有 権 絶 対 の明 治 民 法 へ と
第4章 で は 、本 稿 の一 応 の到 達 点 と残 され た
変 化 した こ と に よ り、 「土 地 所 有 が土 地 利 用 に
課 題 にっ いて 述 べ る こ とに よ り、本 稿 の ま と め
優 先 す る シ ス テ ム」 が 成 立 した こ とを明 らか に
とす る こ と とす る 。
す る。
戦 後 期 にっ い て は 、戦 後 改 革 期 の農 地
改 革 を め ぐる 自作 農 創 設 と耕 作 権 保 障 の対 抗 を
②
アジア的土地所有 の特質 一
試論的提起
検 討 し、 結 局 は 自作 農 創 設 政 策 が実 施 され た も
の の 、農 地 に関 して は農 地 法 の体 系 に よ り 「土
本 節 で は、 ア ジア研 究 の膨 大 な蓄積 の中 か ら、
地 利 用 が 土 地 所 有 に優 先 す る シス テ ム 」 が存 在
小 谷 注 之 氏 の イ ン ドに お け る 「資 本 主 義 のた め
す る な ど 、 「利 用 権 保 障 の体 系 」 が萌 芽 的 に で
の 土 地 制 度 改造 」 の研 究 、並 び に ウイ ッ トフ ォー
あれ 形 成 され て い た こと を評 価 す る 。 しか し、
ゲ ル 氏 の 「中 国 の 経 済 と社 会 」 「東 洋 的専 制 主
高 度 成 長 期 に お い て 、原 材 料 と農 作 物 を輸 入 し
義 」 の 研 究 に注 目 して 、 ア ジア 的土 地 所 有 の 特
工 業 製 品 を輸 出す る 「低 賃 金 加 工 貿 易 方 式 」 を
質 に っ い て の 試 論 的 な提 起 を行 う こ と とす る。
確 立 す る政 策 、す なわ ち 、農 業 を工 業 の犠 牲 と
ま ず 、 小 谷 注 之 氏 の 研 究 、 イ ン ドに お け る
す る政 策 の た め に た び重 ね られ た農 地 法 の改 正
「資 本 主 義 の た め の土 地 制 度 改 造 」 に っ い て で
な ど に よ り農 地 法 の体 系 が崩 さ れ る一 方 、 自治
あ るが5)、 そ れ は1793年 の コー ン ウ ォー リス卿
体 が媒 介 と な って 法 人 企 業 へ の土 地 の集 積 ・集
の 「ザ ミー ンダ ー リー永 代 定 額 地 税 取 決 」 に始
中 をす す め た こ とな ど に よ り、 「利 用 権 保 障 の
ま る。 イ ギ リスが 最 初 に本 格 的 な領 土 と して 獲
体 系 」 が破 壊 さ れ 、 「土 地 所 有 が土 地 利 用 に 優
得 したイ ン ドのベ ンガル地 方 に は、ザ ミー ンダ ー
先 す る シス テ ム」 が再 び確 立 した こ とを指 摘 す
ル と呼 ば れ る在 地 の領 主 的 階 層 が広 範 に 存在 し
る。
て い た が 、彼 らは領 土 内 の農 民 か ら地 代 を徴 収
―55―
財政学研究
第17号
し、決 め られ た額 を ム ガー ル国 家 に上 納 す る徴
の階 級 に排 他 的 な近 代 的 土 地 所 有 権 を 帰属 させ
税 請 負 人 で あ った 。 ベ ンガ ル支 配 に あた っ た イ
よ う とい う政 策 、言 い か え れ ば 、 「私 的 土 地 所
ギ リス東 イ ン ド会 社 は、 ザ ミー ンダ ー ル層 を徴
有 」 の法 的 な確 立 で あ る。 この 「私 的土 地 所有 」
税 請 負 人 と して 、 納 入 す べ き地 税 の 額 の取 決 め
の法 認 と は 、一 言 で言 え ば 、 土地 の 細 分 化 を阻
を行 った 。 そ して 、1793年 に ベ ンガ ル総 督 コ ー
止 し、地 税 徴 収 を確 実 に す る最 も有 効 な手 段 な
ンウ ォー―リス は、 この 時点 で ザ ミー ンダ ー ル と
の で あ る 。 っ ま り、貧 窮 化 して 地 税 を滞 納 した
の間 に取 決 め られ て い た地 税 額 を 、今 後 永 久 に
農 民 の土 地 を没 収 し、 そ れ を 土 地 市 場 で競 売 に
固 定 す る こ とを宣 言 した。 これが 「ザ ミー ンダー
か け る こ とに よ って 、最 大 限 の 地 税 収 奪 を実 現
リー永 代 定 額 地 税 取 決 」 で あ る。 この こ と は 、
す る と と もに 、商 人 な どの 富 裕 階 層 の手 に土 地
当時 の封 建 的重 層 的 な 土 地 所 有 関係 、す なわ ち、
が速 や か に移 動 し う るよ う にす る手 段 で もあ っ
国家 、 ザ ミー ン ダ ー ル な ど の中 間 介 在 者 、直 接
た の で あ る。
生 産 者 農 民 、 村 落 共 同 体 の土 地 所 有 関 係 の うち
以 上 は ライ ー ヤ トワー リー制 を念 頭 に お い た
か ら、 どの特 定 の 階 級 に排 他 的 な近 代 的 土 地 所
もの で あ るが 、ザ ミー ンダー リー制 の場合 もま っ
有権 を 与 え るか と い う問 題 に対 して 、 ザ ミー ン
た く同様 で あ って 、 地主 で あ る ザ ミー ン ダー ル
ダー ルに そ れ を 与 え る と い う解 答 で あ っ た とい
が地 税 を滞 納 した な らば 、 ただ ち に土 地 は没 収
う意 味 を もっ ので あ る 。 これ に よ っ て 、 ザ ミー
さ れ市 場 で競 売 に ふ され た ので あ る。そ の結果 、
ン ダ ール 層 は近 代 法 的 な排 他 的 土 地 所 有 権 を認
19世 紀 初 め ま で に 、 約3分
め られ て 、地 主 と して の立 場 を確 立 した の に対
リー(所 領)が 競 売 に よ って カ ル タ ッタ な ど に
の2の ザ ミー ンダ ー
して 、逆 に農 民 は今 まで もって い た土 地 占有 権
在 住 す る商 人 階 層 な どの 手 に移 っ た とい わ れ て
を 否 定 され 、 きわ めて 不 安 定 な任 意 小 作 人 の立
い る。 そ の結 果 は寄 生 地 主 制 の 展 開 、 っ ま り、
場 に落 と され た ので あ っ た 。
「土 地 所 有 が 土 地 利 用 に優 先 す る シス テ ム 」 の
しか し、 こ の イ ギ リス型 の地 主 階 級 の育 成 を
ね らった 政 策 は失 敗 に終 わ る 。 そ れ は 、 ベ ンガ
確 立 とな った の で あ る。
この よ うな 「資 本 主義 の た め の土 地 制度改 造 」
ル地 方 の 開 発 に伴 い 、 ザ ミー ンダ ー ル の取 り分
は 、 イ ン ドの よ うな 植 民 地 にお いて 、 イ ギ リス
は増 大 した の に対 して 、東 イ ン ド会 社 の地 税 収
な ど本 国資 本 主 義 の た め の 本 源 的 蓄 積 の場 と し
入 は増 え なか っ た か らで あ る 。 そ して 、 この よ
て 、 あ るい は商 品市 場 と して 開 発 さ れ て い く過
うな 財 政 的 見 地 か らの ザ ミー ンダ ー リー制 批 判
程 に お い て展 開 され る と と もに 、 日本 や ロ シア
か ら、 ラ イ ー ヤ トワ ー リー制 の理 念(国 家 的 土
の よ うな後 発資 本主 義 国 にお け る国 内改 革(地
地所 有 を前 提 に 、個 別 農 民 に土 地 占有 権 を認 め、
租 改正 、農 奴 解 放 な ど)の 過 程 に お い て も同様
彼 らと直 接 に地 税 の取 決 め を行 う)や 地 税 村 請
の意 味 を も って 展 開 され6)、
制 の 理 念(土 地 は村 落 土 地 所 有 者 団 体 の共 有 財
利 用 に優 先 す る シ ス テ ム」 の確 立 に至 る の で あ
産 で あ る と し、土 地 所 有 者 団 体 全 体 に一 括 して
る。
地 税 を賦 課 す る)が 台 頭 し、激 しい土 地 所 有 論
「土 地 所 有 が土 地
次 に 、 ウイ ッ トフ ォ ーゲ ル氏 の 「中国 の経 済
と社 会 」 の研 究 で あ るが7)、 彼 の方 法 論 の特 徴
争 が 展 開 され る わ け で あ る 。
こ の よ うな イ ギ リス の植 民 地 政策 、す なわ ち 、
「資 本 主 義 の た め の土 地 制 度 改 造 」 の本 質 とは
何 で あ ろ うか 。
は、 自然 的諸 条 件 、 す な わ ち、気候 お よび土地 、
と りわ け 、 水 の 重 要 性 に注 目 す る点 に あ る。
「水 の理 論 」 と言 わ れ るゆ え ん で あ る。
ザ ミー ンダ ー リー制 にせ よ 、 ライ ー ヤ トワー
リー制 に せ よ 、 これ らは一 っ の土 地 の上 に さま
ウイ ッ トフ ォー ゲ ル 氏 は農 業 生 産 に お け る第
一 の特 殊化 的契 機 と して 、 水 利状 態 、す なわ ち、
ざ ま な土 地 所 有 権 が重 層 的 に積 み重 な って い る
人 工 灌 概 が 存在 す るか 否 か の重要 性 を指摘 す る。
封 建 的 な土 地 所 有 関係 を処 分 し、 い ず れ か一 っ
っ ま り、農 業 生 産 にお い て は、 降 雨 に よ って供
一56一
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の検 討(続)
給 さ れ る自然 的 な水 量 を もっ て農 耕 が営 ま れ る
(氾 濫)灌 概 」 が ひ ろが り、 や が て 支 流 の小 河
天 水 農 耕 地 域 と 、人 工 灌 概 に よ る水 の不 足 の補
川 か ら引 水 した畑 地 灌 概 が 普 及 した 。 そ し て 、
充 を必 要 とす る地 域 との二 っ の基 本 形 態 に分 類
小 地 域 ご との支 配 者 が大 規 模 な 開 墾 や治 水 工 事
さ れ る とす る。
を行 い 、用 水 路 や貯 水 池 を 設 けて 水 利 に努 め た
支 那 の農 業 地 帯 は 、 ウ イ ッ トフ ォ ー ゲ ル氏 に
結 果 、秦 と漢 に よ る中 国統 一 が 行 わ れ た ので あ
よ れ ば 、二 大 農 業 地 帯 に分 け られ る。す なわ ち、
る。 さ らに 、階 ・唐 の 時代 に は、 黄 河 と長 江 を
熱 帯 、亜 熱 帯 に位 置 し稲 作 地 域 で あ る南 部 お よ
結 ぶ 大 運 河 が 開 設 され 、華 中 。華南 の米 作 地 域
び 中部 と、温 帯 に位 置 す る北 部 の小 麦 お よ び黍
に お い て は大 規 模 な人 工 灌 溜施 設 が構 築 され た。
作 地 域 で あ る。 そ して 、支 那北 部 お よび 中部 は、
この よ うな水 利 施 設 を維 持 ・管 理 し、水 利 統 制
自然 の降 雨 だ け な ら収 穫 が 減 退 す る の で 、人 工
を行 う こ とに よ って農 業 生 産 力 の向 上 を 推 進 で
灌 概 に よ り収 穫 を保 障 す る こ と が 必 要 と な る 。
き た権 力 者 は 中国 統 一 を確 保 で きた し、 それ が
そ れ に対 して 、支 那 南 部 で は 、入 工 灌 概 に よ っ
で きな か った政 権 は経 済 的 基 盤 を失 って 転 覆 し
て 米 作 の二 期 作 に増 進 す る こ とが 可 能 と な る 。
た の で あ る8)。 この よ うに 、 治 水 ・灌 概 事 業 と
っ ま り、 ど ち らに と って も、 人 工 灌 概 は支 那 農
大 運 河 の開 設 の上 に 、 中央 集 権 的 な 大 帝 国 が 築
業 の必 須 的 条 件 な ので あ る。
か れ 、隆 盛 を み た とい う歴 史 を 踏 まえ て ウ イ ッ
次 に 、 ウ イ ッ トフ ォ ―ゲ ル 氏 は農 業 生 産 にお
け る第 二 の特 殊 化 的 契 機 と して 、治 水 の広 狭 の
トフ ォ ー ゲ ル氏 の理 論 は構 築 され て い る ので あ
る。
次 序 を指 摘 す る 。っ ま り、 人 工 灌 概 が 広 大 な面
と ころ で 、 中国 で は 、紀 元 前350年 頃 、 秦 の
積 に な る と 、公 共 事 業 の 形 態 で の 政 府 の干 渉 が
宰 相 商 鞍 の法 律 に よ り、古 来 の農 業 共 産 主 義 制
必 要 とな る。 言 いか え れ ば 、 中 央 集 権 的 な 政 府
度 か ら自 由 な土 地 私 有 制 へ の変 遷 が 法制 的 に宣
に よ って 治 水 ・灌 概 事 業 が 遂 行 され る よ うに な
言 され た とさ れて い る。 この よ うに土 地 の私 有
る。 こ こか ら、 治 水 ・灌 概 事 業 を 担 当 す る特 別
化 が 比 較 的 早 くか ら進 む一 方 、 高 利 貸 資 本 が 貨
の 中 央 官 庁 が で き、 莫 大 な国 家 資 金 が 治 水 ・灌
幣 経 済 と と もに発 達 し、貨 幣経 済 は農 民 に租 税
概事 業 に投 入 され る こ と にな る。 今 一 っ 、 天 文
と地 代 を 、少 な く と もそ の一 部 を 貨 幣形 態 で 納
学 の 発達 が きわ め て重 要 で あ る。 と くに、雨 期 、
め る よ う に させ る 。 この支 払 義 務 が耕 地 を担 保
す な わ ち、諸 河川 の増 水 お よ び減 水 の 始 期 お よ
と した高 利 貸 付 の利 用 を小 農 民 に強 制 し、や が
び 終 期 が 重要 性 を 帯 び る に至 る場 合 は 、暦 の正
て は そ の零 細 な土 地 を小 農 民 は喪 失 す る こ と と
確 さが 強 く要 求 され るの で あ る。 こ う して 、政
な る。 そ の結 果 は 、大 土 地 所 有 の形 成 で あ り 、
府 の 天文 官 が 特権 的地 位 を 占 め る一 方 、 民 衆 の
他 方 で の 小 作 人 へ の零 落 で あ った の で あ る。 こ
天文 学 的観 測 は禁 止 され 、 天 文 学 的 活動 が 政 府
の点 にっ いて 、 ウ イ ッ トフ ォー ゲ ル 氏 は 、中 国
に よ って 独 占 され た こ と は注 目 に値 しよ う。
が そ の他 の主 な東 洋 的 文 明 の どれ よ り も私 的 土
こ う して 、 「水 を治 め る もの は国 家 を治 め る」
地 所 有 を 維 持 す る点 で 進 ん で い た と述 べ て い る
と言 わ れ た 「東洋 的専 制 国 家 」 が誕 生 す る ので
が 、 「東 洋 的 専 制 国 家 」 と私 的 土 地 所 有 との 関
あ る。
係 は どの よ う な もので あ っ た の で あ ろ うか 。
この よ う に、 ウイ ッ トフ ォー ゲル氏 に と って 、
彼 の見 解 に よれ ば 、私 的 土 地 所 有 が優 越 し地
中 国 の 経 済 ・社 会 構造 を 分 析 す る キ ー 概 念 は 、
主 制 が 普 及 を して も、土 地 財 産 が 強化 され る こ
ま さ に治 水 ・灌 概 事業 な の で あ る。 中 国 文 明 の
と も、 土地 所 有 者 の独 立 の組 織 が生 み 出 され る
発 祥 地 は黄 河 の 中 流 流 域 で あ るが 、 天水 農 耕 に
こ と もな か っ た。 そ して 、税 制 、法 制 、 お よ び
はや や 降 雨 不 足 で 、灌 概 に よ る補 水 が 決 定 的 で
政 治 の観 点 か らす れ ば 、 私 的 土 地 所 有 は 、伝 統
あ った 。 こ のた め 、 小 河 谷 に堰 を 設 け た り、 扇
的 中 国 社 会 の 崩 壊 の際 に も、 そ の誕 生 の 際 と同
状 地 末 端 の湧 水 や 地 下 水 な どを 利 用 した 「出 水
様 に 弱 い もの で あ っ た 、 と述 べ て い る。っ ま り、
一57―
財政学研究
「東 洋 的専 制 国家 」 は私 的土 地 所 有 者 に対 して
第17号
手 段 と して導 入 さ れ た が 、結 局 は土地 の商品 化 、
圧 倒 的 に 強大 な権 力 を もち 、土 地 を は じめ とす
土 地 市 場 の成 立 を通 じて寄 生 地 主 と零 細 小 作 農
る私 有 財 産 を容 易 に取 り上 げ る自 由 を持 ち続 け
の体 制 、つ ま り、 「土 地 所 有 が 土 地 利 用 に優 先
た の で あ る 。 「東 洋 的専 制 国家 」 は い わ ば 「上
す る シス テ ム 」 の確 立 に 至 る こ と、 第 二 に 、 こ
級 土 地 所 有 権 」 と して 、私 的土 地 所 有 者 の上 に
の 「資 本 主 義 の た め の土 地 制 度改 造 」 の過 程 は、
君 臨 し続 け た の で あ る。
わ が国 の地 租 改 正 に は じま る明 治 初 期 の土 地 制
ウ イ ッ トフォ ー ゲ ル氏 は 、戦 後 の 「東 洋 的 専
度 改革 に お い て も同 じ意 味 を も って展 開 され る
制主 義 」 の研 究 の 中 で 、東 洋 的専 制 主 義 を 「社
こ とを検 討 した 。 ま た 、 ウ イ ッ トフ ォー ゲ ル 氏
会 よ り強 力 な国 家 」 「専 制 権 力 」 と して 特徴 づ
の 中 国研 究 に よ りな が ら、 第 一 に 、人 工 灌 概 と
けて い る9)。 っ ま り、 東洋 的専 制 国 家 は、社 会
そ の広 大化 を 契 機 と して 、 典 型 的 な 「東 洋 的 専
の非 政 府 勢 力 が政 治機 構 を 牽 制 しコ ン トロ ール
制 国家 」 が 誕 生 した こ と 、第 二 に 、 土 地 の私 有
す る強 力 な独 立 の 団体 に な らな い よ う、 断 固 阻
化 が比 較 的早 くか ら進 み 、 高 利 貸 付 を媒 介 と し
止 したの で あ る 。 ま た 、東 洋 的専 制 国家 は、 財
て土 地 市 場 が形 成 され 、 大 土 地 所 有 者 と小 作 人
政 的 ・司 法 的 ・法 制 的 お よ び政 治 的措 置 を通 じ
あ るい は零 細土 地 所 有 者 に分 化 した こ と 、第 三
て 、私 有 財 産 の発 展 を制 限 した の で あ る。 例 え
に 、 しか し 「東 洋 的 専 制 国 家 」 は私 的 土 地 所 有
ば、 それ は税 制 の網 を 農業 経済 の上 に 強 固 に は
者 の 自由 を一 方 的 に 制 限 す る権 力 、 い わ ば 、
りめ ぐ らす た め に 、徴 税 機 関 を人 民 登 録 お よび
「上 級 土 地 所 有 権 」 を持 ち 続 け た こ と を 検 討 し
動 員 機 関 と して広 く配 置 して 、 す べ て の青 年 男
た。
子 を 国家 の望 む とお りの労 役 、 兵役 、納 税 に服
この よ うに 、 「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の ル ー
せ しめ た こ とで あ る。 ま た 、富 裕 な 商 人 に 罪 状
ツ は ア ジ ア社 会 に あ る と い う試 論 的 提 起 を うけ
を デ ッチ上 げ る こ とに よ り、 あ ぼ しい財 産 を 直
て 、 ア ジア 的土 地 所 有 の 特 質 を 検 討 した 結 果 、
接 に徴 発 す る こ と も頻 繁 に行 わ れ た 。 つ ま り 、
第 一 に 「土 地 所 有 が 土 地 利 用 に優 先 す る シス テ
富 裕 な商 人 は 中央 集 権 化 した独 裁政 府 の 官吏 た
ム 」 、第 二 に専 制主 義 的 国 家 権 力 に よ る 「上 級
ち の手 に か か って 、逮 捕 、訊 問 、拷 問 を され た
土 地 所 有権 」 を 、 ア ジ ア的 土 地 所 有 の特 質 と規
上 に全 財 産 を没 収 さ れ る危 険 に た え ず脅 か され
定 す る こ とが で きた 。
て い た の で あ る 。 そ して 、大 きな土 地 財 産 も決
以 下 の第2章
、第3章
で は、 こ の 「土 地 所 有
して徴 発 の博 外 で は な か った こ と は言 うま で も
が土 地 利 用 に優 先 す る シ ス テ ム」 お よ び 「上 級
な い 。 っ ま り、東 洋 的専 制 国家 に よ る資 産 の 没
土 地 所 有 権 」 とい う二 っ の 視 点 か ら、戦 前 、戦
収 に よ って 、私 有 財 産 は容 易 に侵 害 され る もの
後 、 そ して現 代 に 至 る まで の 日本 的 土 地 所 有 の
で あ り、所 有 権 の安 全 は保 障 されて い なか った。
特 質 を理 論 的 に概 括 す る こ と に よ り 、 「日本 型
言 い か え れ ば 、東 洋 的 専 制 国家 の代 表 者 は そ の
土 地 シス テ ム 」 の概 念 を よ り深 め る作 業 を行 う
所 属 員 に対 す る無 制 限 の専 制 的権 力 を も って お
こ と とす る。
り、初 期 の資 本 家 た ち に対 して も保 護 の必 要 を
感 じな か った の で あ る。 こ こに 、新 た に興 りつ
∬ 土地所有 と土地利用
っ あ っ た資 本 主 義 形 式 の動 産 を発 達 さ せ る こ と
に決 定 的 な利 益 を見 い だ した ヨー ロ ッパ 絶 対 主
(1)「 土 地 所有 が土 地 利 用 に優 先 す る シス テム」
の 成立
義 の統 治 者 との違 い が あ る と言 え よ う。
一一 戦前期を中心 に 一
以 上 、 小谷 注 之 氏 の研 究 に よ りな が らイ ギ リ
ス植 民 地 政 策 下 の イ ン ドに お け る 「資 本 主 義 の
戦 前 期 の土 地 所 有 と土 地利 用 をめ ぐる歴 史 上
た め の土 地 制 度 改 造 」 の本 質 を検 討 し、第 一 に 、
の エ ポ ッ クの第 一 は 、 「資本 主義 の た め の土 地
「私 的 土 地 所 有 」 の 法認 は最 大 限 の地 税 収奪 の
制 度 改 造 」 の 日本 版 と して の 地 租 改 正 を は じめ
一58一
「日本 型 土 地 シ ス テ ム」 の 検 討(続)
とす る明 治 初 期 の土 地 制 度 改 革 が 、地 主 的土 地
し、土 地 移 動 が 活 発 化 した こ とで あ る。 と りわ
所 有(寄 生 地 主 制)の 急 速 な発 展 を導 い た こ と
け 、1881年 に は じま る松 方 デ フ レ期 に は 、 自作
で あ る10)。
農 ・自小 作農 の 急 激 な土 地 喪 失 が進 み 、少 数 の
に 、明 治 政 府 は、農 業 お よ
地 主 の手 へ土 地 が 集 中 した の で あ る。 と い うの
び農 民 の土 地 利 用 に重 要 な意 味 を もっ 二 っ の法
1871(明 治4)年
は 、100分 の3と い う租 率 は 、 明 治 政 府 が 旧来
令 、 す な わ ち、 米 麦 輸 出 の禁 止 解 除 と 「田畑 勝
の収 入 を増 加 も させ な いが 低 下 もさ せ な い こ と
手 作 り」(大 蔵 省 達 第47号)を
を建 前 と して決 定 した わ けで あ るが 、 この よ う
布 達 して 、土 地
の 使 用 と収 益 の 自 由 を認 め た 。 そ して 、1872
な幕 藩 体 制 下 の重 い貢 租 水 準 を維 持 、継 承 した
(明 治5)年
に は、土 地 制 度 史 上 に 歴 史 的 な意
高 額 の金 納 地 租 の重 圧 は、 農 民 を急 速 に没 落 さ
義 を もっ 「地 所 永 代 売 買 禁 止 ノ解 禁 」(太 政 官
せ る こ と とな り、地 主 制 成 立 へ の道 を開 い た の
布告 第50号)を
布 告 して 、 土 地 の所 持 お よ び売
で あ る 。 ま た 、地 租 改 正 は私 的 土 地 所 有 の法 的
買 の自 由 を 宣言 し、 土 地 所 有 にっ いて 身 分 上 の
確 認 に と どま らず 、地 主 的 土 地 所 有 を強 化 、創
制 限 を しな い こ とを 明 らか に した 。 これ に よ り
出 した側 面 が指 摘 で き るの で あ る。 つ ま り、開
土 地 は封 建 的 な 拘 束 か ら解 放 され 、土 地 の私 的
墾 永 小 作 、認 定 永 小作 、 普 通 小 作 、質 地 小 作 な
所 有 権 が 法 的 に確 認 され た と言 え よ う。
ど につ い て は 、小 作 の権 利 が 慣 例 的 に保 障 さ れ
この 「地 所 永 代 売買 禁止 ノ解 禁 」 の 前 提 とな
る と と もに 、 土地 の取 引 を盛 ん にす る た め に発
布 され た の が 、 同 年 の 「地 券 渡 方 規 則 」(大 蔵
て い た に もか か わ らず 、地 主 ・小 作 関 係 を地 主
優 位 に編 成 替 す る こ とを 強 行 した の で あ る11)。
この よ うに 「資 本 主 義 の ため の土 地 制度 改造 」
あ る。 当 初 は土 地 所 有 権 の移 転
に よ り、戦 前 期 の 日本 的土 地 所 有 の特 質 で あ る
の都 度 に地 券 を発 行 、 交付 す る こ と と な って い
地 主 的 土 地 所 有 は成 立 した わ けで あ るが 、 この
た がK後 の大 蔵 省 達第83号 で は売 買 に限 る こ と
地 主 的 土 地 所 有 を私 法 面 にお いて 確 定 した の が
な くす べ て の私 有 地 に対 して 地 券 を発 行 す る こ
明 治 民 法 で あ る。言 い か え れ ば 、 この時 点 、 す
と とな った 。 この地 券 発行 で は、 政 府 は 「一 地
一 主 」 とい う方 針 を立 て た が 、 現 実 に は二 重 所
なわ ち 、 旧民 法 が公 布 され る と と もに 、 そ の直
前 か ら始 ま る 日本 民 法 典 論 争 を 経 て 、明 治 民 法
有 権 的 な所 有 関係 が広 範 に存 在 した た め、 しば
制 定 に至 る過 程 こそ が 、戦 後 ま で を も貫 く 「土
しば 困難 な 問題 が 発生 した 。 しか し、 政 府 は上
地 所 有 が 土 地 利 用 に優 先 す る シス テ ム」 が確 立
級 土 地 所 有 権 者 に地 券 を 与 え る と い う形 で 、
す る一 大 エ ポ ッ,クで あ る。
省 達 第25号)で
「一 地 一 主 」 と い う方 針 を徹 底 的 に 貫 い た の で
こ こで は 、 当初 ボ ア ソナ ー ドが 中 心 と な って
あ った 。 こ こに 、 明治 初期 の土 地 制 度 改 革 の重
起 草 し、1890(明
要 な ポ イ ン トが あ る。
年 実 施 予 定 で あ っ た 旧民 法 と明治 民 法 と を比 較
そ して 、1873(明
治6)年
に、封 建 体 制 下 で
治23)年
公 布 、1893(明 治26)
す る こと か らそ の過 程 を検 討 して み よ う12)。旧
数 百 年 行 わ れ て きた 田 畑 貢 納 の 法 を 地 価100分
民 法(財 産 篇)第30条
の3の 税 率 の金 納 地 租 に 改 正 す る 「
地 租 改正 法 」
物 ノ使 用 、収 益 及 ヒ処 分 ブ為 ス権 利 ヲ謂 フ。 此
「地 租 改 正 条 例 」等 が 公布 さ れ た 。 こ う して 、
ノ権 利 ハ 法 律 又 ハ 合 意 又 ハ 遺 言 ヲ以 ッテ ス ル ニ
そ の 後1881(明
治14)年
は、 「所 有 権 トハ 自 由 二
半 ば まで 、9年 間 にわ
非 ラ サ レハ 之 ヲ制 限 ス ル コ トヲ得 ス」 と 、規 定
た る地 租 改 正 事 業 が実 施 され る こ とに な る ので
して い る。 っ ま り、一 方 で封 建 的領 主 的 土 地 所
あ る。 この地 租 改 正 の結 果 、 明 治政 府 は一 定 額
有 を 否 認 す る と もに 、 自 由 な土 地 所 有権 を保 障
の 金納 地 租 を確 保 す る こ とに よ り予 算制 度 を 確
して い るわ け で あ る 。 ま た 、 用 益 権 と して 、
立 す る こ とが可 能 とな った が 、 こ こで重 要 な こ
「用 益 権 」(44条 ∼109条)、
と は、 土 地私 有権 の設 定 と地租 の 金 納 化 とが 行
「住 居 権 」(110条 、114条)、 「賃 借 権 」(115条 ∼
わ れ る こ と によ り、土 地 抵 当金 融 が 広範 に 展 開
154条)、 「永 借 権 」(155条 ∼170条)、
一59―
「使 用 権 」 お よ び
「地 上 権 」
財政学研究
(171条 ∼178条)を
第17号
置 き、 こ れ ら は物 権 と規 定
他 方 、明 治 民 法 で は用 益 権 は物 権 と債 権 に別
して い る。 こ の よ うに 、旧 民 法 にお いて は、 用
れ 、物 権 に属 す る もの と して は地 上 権 ・永 小 作
益 権 との 関 係 で 所 有 権 は絶 対 的 強 大 性 を有 しな
権 ・地 役 権 が認 め られ 、債 権 に属 す る も の と し
い もの で あ っ た こ と に注 目 して お き た い 。
て は使 用 借 権 お よ び賃 借 権 が 認 め られ て い る 。
と ころ が 、 旧 民 法 にっ いて は 、 そ の公 布 以 前
つ ま り、 わ が国 の用 益 権 の大 半 を 占 め る賃 借 権
か ら実 施 延期 を求 め る声 が 高 くな り、法 典 実 施
に つ い て 、 明治 民 法 は、対 抗 要 件 が 賃 借 権 者 に
延 期 派 と法典 実 施 断 行 派 と の間 で 、 日本 民 法 典
不 利 で あ り(第605条
論 争 が3年 以 上 にわ た って は な ば な し く展 開 さ
の安 定 性 が な く(第604条
れ た13)。最 も有 名 な の は延 期 派 の穂 積 八 束 氏 の
期 間 の制 限)、 譲 渡 ・転 貸 が で きな い(第612条
賃 借 権 の対 抗 力)、 期 間
賃 貸 借契 約 の存続
「民 法 出 デ テ忠 孝 亡 ブ」 とい う、 い わ ば 煽 情 的
賃 貸 借 の譲 渡 の 自由 の 制 限)、 建 物 買 取 請 求
な批 判 で あ る 。 しか し こ こで重 要 と思 わ れ るの
権 。造 作 買 取請 求 権 が な い等 、 い わ ば賃 借 権 は
は、 日本 民 法 典 論 争 の細 部 に立 ち入 る こ とで は
土 地 の 所有 権者 の意 の ま ま に な る きわ め て 劣弱
な く、次 に二 点 に注 目す る こ とで あ る。 そ の第
一 は 、 この論 争 は と くに家 族 法 の範 囲 に属 す る
な 効力 の用 益権 な ので あ る16)。この よ うな 旧民
部 分(人 事 編 と財 産 取 得 編 後 半)に 集 中 し、土
の 絶対 性 の 強 化 の背 景 に あ るの は、 当 時 の地 主
地 制 度 に関 す る議 論 は あ ま り見 られ な か った こ
的 土地 所 有 、寄 生 地 主 制 の確 立 に あ る こ と は言
とで あ る。 な お 、土 地 制 度 に 関 す る反対 理 由 は
う まで もな い17)。
法 か ら明 治 民 法 へ の変 化 、す な わ ち土 地 所 有権
二 つ あ り、一 つ は、賃 借 権 を物 権 化 す る こ とや
複 雑 な用 益 権 、住 居 権 等 お よ び地 役 の諸 規 定 は
②
「
利用権保障 の体系 」の形成 と 「土地所有
日本 の 旧慣 に 反 す る とす る もの で あ り、 今一 っ
が土地利用 に優先す る システム」への再転
は、農 業 に重 大 な 関係 の あ る入 会権 につ いて 規
換
程 を設 け な い の は不 備 で あ る と い う もの で あ る
14)
。注 目す べ き第 二 の 点 は、 この よ うな 激 しい
論 争 を経 て 、結 局 、1892(明
治25)年
の施 行 延 期 案 が 国 会 を 通過 し、1893(明
に旧 民 法
治26)
―
戦後期 を中心 に 一
本 節 で は 、戦 後 期 の土 地 所 有 と土地 利 用 を め
ぐる歴 史 上 の エ ポ ック に つ い て の 理論 的 な概 括
を行 う。
年 に は新 た に 法典 調 査 会 が 組 織 され 、明 治 民 法
まず 検 討 さ れ る べ き は、戦 後最 大 の土 地 改 革
の編 纂 に着手 され た ので あ るが 、成 立 した明 治
で あ る農 地 改 革 で あ る。 農地 改革 に よ って 、戦
民 法 を見 る と あ ま り論 争 され る こ とが なか っ た
前 の地 主 的 土 地 所 有 、寄 生 地 主 制 は基 本 的 に解
土 地 制 慶 に関 す る重 要 な点 、つ ま り賃 借 権i、用
体 さ れ た 。 しか し、農 地 改革 途上 の 議 論 に お い
益 権 が も のの 見 事 に地 主 優 位 の体 系 に変 化 させ
て は 、小 作 料 金 納 化 に つ い て は高 い評 価 が さ れ
られ て い る こ とで あ る15)。
た が 、 自作 農 創 設 に対 して は批 判 が あ っ た 。 そ
こ の よ う に して 、結 局 、 旧民 法 は施 行 の陽 の
目を 見 る こ と な く、明 治 民 法 は1896(明
治29)
れ は 、小 作 農 に と って 、 自 作 農 化 は決 定 的 に重
要 で はな く、 む し ろ所 有 権 はそ の ま ま に して お
年 に総 則 ・物 権 ・債 権 の3編 が 、1898(明 治31)
い て 、耕 作 権 の確 立 を 中 心 に して 、 民 主 的 農 民
年 に親 族 ・相 続 の2編 が公 布 さ れ る。 この 明治
組 織 に よ って農 地 管 理 を 行 うこ とが 、農 村 の民
民 法 第206条 は、 「所有 者 ハ 法 令 ノ制 限 内 二於
主 化 に有 効 な方 途 で あ る とす る批 判 で あ る。 っ
テ 自 由 二其 所 有 物 ノ使 用 、収 益 及 ヒ処 分 ヲ為 ス
ま り、農 民 に と って 、土 地 は所 有 権 で は な く、
権 利 ヲ有 ス」 と規 定 し、第207条 は 、 「土 地 ノ
耕 作 権 で あ る とい う主 張 で あ る18)。これ は戦 前
所 有 権 ハ 法 令 ノ制 限 内 二於 テ其 土 地 ノ上 下 二及
以 来 の土 地 所有 権 中 心主 義 に対 す る根 本 的 な批
フ」 と規 定 して い る。 この こ とは 、土 地 所 有 権
判 を な して お り、 この耕 作 権 保 障 の方 向 で農 地
の 自 由性 を保 障 した もの で あ る。
改 革 が進 め られ て いた な らば、 「土 地 利 用 が 土
―60一
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の検 討(続)
地 所 有 に優 先 す る シス テ ム」 が戦 後 い ち早 く確
「利 用権 保 障 の体 系 」 は破 壊 さ れ 、 「土 地 所 有
立 す る可 能 性 が あ っ た と言 え るで あ ろ う。
が 土 地 利 用 に優 先 す る シス テ ム 」 に と って か わ
しか し、実 際 の農 地 改 革 の過 程 は 、 中国 革 命
られ る こ とに な った 。例 え ば 、農地 法 の場 合 は、
の進 展 と冷 戦 体 制 の成 立 を 目前 に した ア メ リカ
1970(昭 和45)年
占領 軍 の意 図 に よ る と こ ろの 自作 農 創 設 方 式 で
1条 の 目的 に 、 「土 地 の農 業 上 の効 率 的 な利 用
の農 地 法 の大 改正 に よ り、 第
あ っ た 。っ ま り、 小 作 農 に土 地 所 有 権 と富 農 化
を図 る」 こ とが加 え られ 、取 得 上 限 面積 は無 条
へ の幻 想 を 与 え な が ら、 農 民 層 の 急 進 化 を抑 え
件 に撤 廃 され 同 時 に取 得 下 限面 積 が 引 き上 げ ら
る こと によ り、 日本 の 保 守 的 基 盤 を 支 え る農 民
れ た(都 道 府 県 平 均50ア ー ル)。 ま た 、10年 以
層 を育 成 す る とい う意 図 の も と に、 自作 農 創 設
上 の 契 約 期 闘 を持 っ 貸 借 に っ い て は、都 道 府 県
に力 点 が お か れ た の で あ る。 そ の 結 果 は、 戦 前
知 事 の許 可 が 不 要 とさ れ 、小 作 料 に 関 す る規 定
以来 の過 小農 制 の解 消 で はな く、 む しろ再 生 産
も従来 の 強 制 力 を もつ 最 高 限 度額 の法 定制 か ら、
で あ った こ と は周 知 の 事実 で あ る。
勧 告 の基 準 と な る にす ぎな い標 準 額 制 に切 り換
しか しな が ら、 「土 地 利 用 を 土地 所 有 に優 先
え られ た 。 さ らに 、従 来 全 面 的 に禁 止 され て い
す る シス テ ム 」 は、高 度 成 長 期 ま で は農 地 法 の
た 不 在 地 主 さえ 、拳 家 離 村 の場 合 に は認 め られ
体系 と して存 在 した の で あ る。 農地 法 は農地 改
る よ うにな っ た 。 こ う して 、 「農 地 はそ の耕 作
革 の 効果 を維 持 ・定 着 させ 自作 農 の 権利 を 保 護
者 み ず か らが 所 有 す る こ とを最 も適 当 で あ る と
す るた め に 、1952(昭
律 で あ る。農 地 法 に よ って 農地 に 関 す る権 利 の
認 め 」 る と い う自作 農 の理 想 は完 全に姿 を消 し、
一 筆 規 制 の制 度 も大 き く崩 れ る ことに な った物。
設 定 、移 転 はす べ て都 道 府 県 知 事 の 許 可 を 要 す
い わ ば 国 や 自治 体 が 「利 用 権 保 障 の体 系 」 を 破
る もの とさ れ 、―筆 規制 とい わ れ る徹 底 した 介
壊 した の で あ る。
和27)年
に制 定 され た 法
入 に よ って小 作地 所 有 の拡 大 を 阻止 し よ う と し
本来 で あれ ば、 公 共 的 に農 地 と して維 持 す る
た 。 さ らに 、農 地 改 革 で創 設 され た 自作 農 を 理
こ とを 考 え 、 その た め に は農 業 へ の所 得 保 障 は
想 の農 業 経 営 単 位 と考 え て 、都 道 府 県 ご と に定
ど うす るか 、 農 業 生 産 力 の発 展 を ど の よ うに 実
め られ た最 小 お よ び最 大 の経 営 規 模(都 道 府 県
現 す るの か を 考 え て 、都 市 部 に お け る消 費 需 要
平 均 で最 小 三 反歩 最 大 三 町歩)を 維 持 す るた め
と農 村 部 にお け る生 産 供 給 を シス テ ム と して ど
に 、買 手 の経 営 規 模 が この範 囲 に収 ま らな い 場
う結 び っ け るか を 考 え な けれ ば な らな い と こ ろ
合 に は権 利 の移 動 そ の もの を許 可 しな い こ と と
で あ る。 しか し、実 際 に は 、 ジ ェ ラル ド ・カ ー
さ れ て い た19)。この よ うに農 地 法 の体 系 に よ る
テ ィス と石 川 真 澄 が 「土 建 国 家 」 と喝破 した よ
耕 作 権 保 障 に加 え て 、農 地 改 革 に よ り農 業 水 利
うに 、 公共 土 木 事業 の 予 算 で も って 、農 業 と農
権 が地 主 か ら農 民 の手 に うつ り、農 業 水 利 権 は
民 の心 を 買 い取 る とい う政 策 が と られ た の で あ
水 利 組 合 ま た は土 地 改 良 区 を主 体 とす る集 団 的
る23)。農 民 が 農 業 に関 心 を な く し、現 金 収 入 に
権 利 と して保 障 さ れ る こ と とな っ た2。)。ま た 、
ば か り目 が い くと い う状 況 に な れ ば 、農 地 の売
漁 民 の場 合 に は 、1949(昭
買 は よ り スム ー スに い くこ と は ま ち が い な い 。
和24)年
の新 漁 業 法
に よ り、漁 業 調 整 委 員 会 に よ る漁 業 調 整 とい う
つ ま り、先 祖 か ら受 け継 いだ 大 切 な農 地 が 、単
方 式 で 、漁 業 権 は漁 業 協 同組 合 を主 体 とす る集
な る公 共 投 資 の対 象 に 、 あ る い は単 な る資 産 運
団 的権 利 と して保 障 さ れ る こ と とな った21)。こ
用 の対 象 に な って しま った ので あ る 。
の よ うに萌 芽 的 で は あ るが 、利 用 権 を保 障 す る
法 的 な枠 組 が戦 後 に は形 成 され て いた ので あ る。
この よ うに 、 「利 用 権 保 障 の体 系 」 は農 地 法
の改 正 な どに よ り破 壊 され る と と もに 、 自治 体
これ は 「利 用 権 保 障 の体 系 」 と言 い う る もの で
が媒 介 とな って零 細 土地 所 有 者 、漁 業 権 者 か ら
あ ろ う。
法 人 企 業 へ土 地 所 有 権 、 漁 業 権 を売 り渡 す こ と
しか し、 高 度 成 長 期 に 入 る と と もに 、 そ の
一61一
に よ って も破 壊 され た と言 え よ う。
財政 学研究
高 度 成 長 期 に は、地 域 開 発 政 策 の 全 国 的展 開
に よ り、,自治 体 が 企業 誘 致 に狂 奔 した わ け で あ
第17号
よ り直 結 す る こ と にな る。
本来 、金 融機 関 が 企業 に融 資 す る とき は 、 当
る が 、 そ の 際 、 自治 体 が媒 介 とな って 、 内 陸性
該 企業 の収 益性 、 自己 資 本 比 率 な どの 「経 営 力」
の土 地 を土 地 所 有 者 か ら買 い取 って 法人 企業 へ
を 調 査 す る こ とに よ り、 融 資 の リス クを判 断 す
売 り渡 す 、 あ るい は臨海 部 の公 共 水 面 を 漁業 補
る もの で あ る。 しか し、わ が 国 の場 合 は、 土 地
償 に よ り漁 民 か ら買 い取 って 法人 企 業 へ 売 り渡
を 唯一 の担 保 に金 を 貸 す と い う 「土 地 本 位 制 」
す と い う、土 地 の公 的所 有 を通 過 点 と した 「土
が ま か り とお って きた ので あ る 。
地 商 品 化 と法 人 企 業 へ の土 地 の集 積 ・集 中 の シ
で は日本 にお いて はなぜ土 地 な のか 。 なぜ
ス テ ム」 に注 目 す べ きで あ る。 と くに 、 自治 体
「土 地 神 話 」 が か く も強 い の か 。 そ して 、 そ の
に よ り造 成 さ れ た 臨海 工 場 用 地 が 、造 成 原価 な
前 提 と して の継 続 的 な地 価 上昇 はなぜ 可能 とな っ
い しは造 成 原 価 を割 る きわ め て安 い価 格 で 、進
た の か26)。
出 企 業 に分 譲 さ れ た こ と は、土 地 所 有 と土 地 利
そ の 第一 は、 高 度 成 長 期 に お け る急 激 か っ 膨
用 の問 題 を考 え る際 に は大 きな 問 題 で あ る24)。
大 な 大 都市 地 域 へ の人 口集 中 で あ る。 その結 果 、
さ らに 、 こ の よ うな地 域 開 発 の進 展 は 、 周辺 地
土 地 需 要 は局地 的 に集 中 す る一 方 で 、 そ の よ う
域 の地 価 相 場 を 引 き上 げ 、住 宅 地 、 商業 地 、近
な 土地 の供 給 は きわ め て 制 限 さ れ て いた 。 第 二
郊 農 地 な ど の地 価 高 騰 を ひ きお こ した が 、 開 発
に、 わ が 国 で はす べ て にお い て金 銭 的 評 価 が 圧
利 益 を社 会 的 に還 元 す る シス テ ム が欠 如 して い
倒 的 に強 く、 土 地 の場 合 も利 用 価 値 よ り も資 産
た た め 、 そ の後 の地 価 高 騰 に よ る莫 大 な 含 み 資
価 値 が 高 く評価 され る 。 そ れ ゆ え 、土 地 の鑑 定
産 利 益 はす べ て法 人 企 業 が取 得 す る こ とに な っ
評 価 も収益 還 元 法 で は な く、取 引事 例 比 較 法 が
た 。 こ う して 、法 人 企 業 は土 地 所 有 に特 別 な位
申 心 で あ る。 第 三 に、 ヨー ロ ッパ の場 合 は事 業
置 を 占 め る よ うに な った の で あ る。
用 と住 宅用 の土 地 が き ちん とゾ ー ニ ン グ され て
次 に 、高 度 成 長 期 の不 動 産 金 融25)にっ い て 検
い るが 、 日本 の場 合 は都 市 計 画 ・土 地 利 用 計 画
討 して み よ う。高 度 成 長 期 に お け る土 地 と金 融
が 欠如 して い るた め、 事 業 用 と住 宅 用 の土 地 が
との 関 わ りに っ い て は、一 般 的 に次 の よ うに言
混 在 した え ず 変 動 して い る 。つ ま り、土 地 市 場
う こ とが で きる で あ ろ う。高 度 成 長 期 に は 、経
が単 一 で 、 事業 用 と住 宅 用 とい う階 層 性 が な い
済 成 長 と と もに地 価 が上 昇 し、土 地 の担 保 能 力
の で あ る。 そ の た め、 土 地 の需 要 が高 ま れ ば工
も増 大 した 。 この土 地 の担 保 能 力 を重 視 した信
用 の供 与 は 、法 人 企 業 へ の資 金 供 給 の 円滑 化 を
業 地 か ら住 宅地 へ 、 あ る い は住 宅 地 か ら商 業 地
へ と土 地 の転用 が きわ めて 容易 な システ ム とな っ
もた ら し、設 備 投 資 が容 易 に行 え る状 況 を っ く
て い る27)。そ の 上 、 大 都 市 地 域 の国 ・公 有 地 は
りだす こ とに よ って 、高 度 成 長 を達 成 す る大 き
民 問 に払 下 げ られ 、 土 地 の転 用 を図 るテ コ と し
な要 因 とな った の で あ る 、 と。 つ ま り、 法入 企
て利 用 され た 。
業 が地 価 上 昇 を見 込 ん で土 地 の先 行 的取 得 を行
ウ ォル フ レ ンは 「日本 の 土 地 は なぜ こ う も高
う と、 この保 有 土 地 資 産 の帳 簿 価 額 と時価 に よ
い の か 」 とい う質 問 に 答 え て 、 い っ たん 高 騰 し
る評 価 額 との差 が い わ ゆ る 「含 み益 」(未 実 現
た地 価 が非 常 に下 が り に くい理 由 と して 、 「日
の キ ャ ピタ ル ・ゲ イ ン)を 形 成 し、 そ の増 価 す
本 の産 業 が重 要 な 基 本 資 産 と して 土 地 を組 み込
る土 地 資 産 は金 融 機 関 か らの借 入 を確 保 す るた
ん で い る」 こ と、 っ ま り 「企 業 が も って い る土
め の最 も重 要 な担 保 と して機 能 した の で あ る。
地 資 産 は、 銀行 か らお 金 を 借 りる とか 、 そ の他
他 方 、,不動 産 業 を営 む企 業 の場 合 は 、取 得 不
の 資金 調 達 の 際 に担 保 と して っ か う」 か らで あ
動 産 を担 保 とす る金 融 機 関 か らの借 入 れ に依 存
る と して 、 「大 イ ンフ レを 招 くこ と な く、大 量
して土 地 取 得 を進 め る とい う行 動 パ ター ンを と
の 資金 を創 出 で き る と い う こ と に、 日本 の資 金
る の で 、地 価 上 昇 が金 融 機 関 か らの 融資 拡 大 に
市 場 を 管理 、育 成 して い る金 融 関 係 者 は気 づ い
一62一
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の 検 討(続)
た 」 と述 べ 、再 度 「高 い地 価 とい うの が 日本 の
ル ヘ シ」 と され 、 協 議 が ま とま らな い場 合 に は
産 業 界 の 資 金 調 達 方 式 に深 く関 係 して い る 」 と
「双 方 ヨ リ評 価 人 各 一 人 ヲ出 シ地 方 長 官 之 ヲ折
強 調 して い る28)。
衷 シテ 内務 省 ノ決 ヲ請 ヒ之 ヲ定 ム ル モ ノ トス 」
この よ う に して 、 土 地 の評 価 額 を高 め 、担 保
と定 め られ て い た 。 こ の最 初 の土 地 収 用 制 度 の
価 値 を高 め る こ と に よ って 、 よ り多 量 の資 金 を
特 徴 は、 「公 用 買 上 ハ 必 ス其 地 ヲ要 セ サ ル ヲ得
引 き出 す(あ
ス テ ムが 形 成
サ ル ニ ア ラサ レハ 之 ヲ行 ハ サ ル モ ノ トス 、故 二
して 、 こ の よ うに資 産
人 民 之 ヲ拒 ム ヲ得 ス」 とあ る よ うに 、無 限大 に
る い は貸 し出す)シ
され て きた の で あ るQそ
の保 全 と増 殖 を進 め る上 で 土 地 が 特 別 な位 置 を
占 め る と と もに 、1970年 代 初 あ と1980年 代 半 ば
強 い行 政 権 限 で あ る。
1889(明 治22)年2月
に 、 大 日本 帝 国 憲 法 が
の土 地 投 機 が 「土 地 所 有 と土 地 利 用 の分 離 」 を
発 布 さ れ た の に伴 い 、 公用 土 地 買 上 規 則 を よ り
完成 させ た の で あ る。
精 緻 な もの にす るた め に 、 同 年7月
に5章41条
か らな る土 地 収 用 法 が 公 布 され た。 この法 律 の
皿
国家権力と土地所有
― 「上級土地所有権」の検討
特 徴 は 、 は じめ て補 償 額 評 価 の た め の機 関 で あ
る土 地 収 用 審 査 委 員 会 の必 要 を 認 め た こ とで あ
る。
(1>土 地収用制度 の権力性
一 戦 前期を中心 に 一
こ の法 律 に よ り土 地 の収 用 ・使 用 が 認 め られ
たの は、 以 下 の土 地 で あ る。
「一 、 国 防 其 他 兵 事 二要 ス ル土 地
本 節 の課 題 は 、戦 前 期 の 国家 権 力 と土 地 所 有
の関 係 を 「上 級 土 地 所 有 権 」 とい う概 念 で 検 討
二 、政府 、府県郡市 町村 及公 共組合 ノ直接 ノ
公用 二供 スル土地
と に よ っ て 、土 地 収 用 制 度 の権 力性 、す な わ ち、
三 、官立公立 ノ学校病院其他 学芸 及慈善 ノ用
二供 スル土地
専 制 主 義 的 国 家 権 力 に よ る土 地 所 有 権 の 制 限 と
四、鉄道電信航路標識及 び測候所 ノ建 設用地
強 権 的 な土 地 の収 奪 の実 態 とを 明 らか にす る こ
五、河川溝渠 ノ掘墾道路橋梁 埠頭 水道及下水
す る た め に 、土 地 収 用 制 度 の歴 史 を概 括 す る こ
ノ築造用地
とで あ る29)。
最 初 の土 地 収 用 制 度 は 、1875(明
治8)年
の
「公 用 土 地 買上 規 則 」 で あ る。 こ の 規 則 は12条
六、防火及水害予防並検疫所 火葬 場其他公衆
ノ衛 生 二要 ス ル土 地 」
の簡 単 な法 令 で あ る が 、事 業 の認 定 手続 き と補
そ の手 続 き と して は 、 内 閣 が 公共 の利 益 に必
償 の原 則 を含 む土 地 収 用 の体 系 が一 応 成 立 した
要 な こ と を認 定 す る の を建 前 と して 、 内 務 大 臣
と言 え よ う。 この規 則 で は、公 用 土 地 買 上 に必
が認 定 に関 す る案 を閣 議 に提 出 す る こと にな っ
要 な公 共 の利 益 に つ い て は、 「国郡 村 市 ノ保 護
て い た 。 工 事 認 定 後 に協 議 の制 度 が あ り 、協 議
便 益 二供 ス ル タ メ 」 とあ り、 ま た 「但 国郡 村 市
不 調 の と き は、 土 地 収 用 審 査 委 員会 の 裁 決 を 請
ノ保 護 便 益 二供 ス ル タメ人 民 ニ テ鉄 道電 線上 水
う こ と に な って い た 。土 地 収 用 審査 委 員 は府 県
等 ノ大 土 工 ヲ起 ス時 」 は 「此 ノ 規 則 二準 ス ル 」
会 常 置 委 員 を もって 充て 、会長 は地 方長官 で あ っ
こ と とな って い た 。買 上 の対 象 と して は、土 地
た 。 補 償 金 額 は 「所 有 者 及 関係 人 ヲ シ テ相 当 ノ
の ほ か 「其 地 二属 シ タル植 物 建 造 物 等 」 も認 め
価 格 ヲ得 セ シ ム ル」 と あ り、 そ の ほか補 償 にっ
られ た 。手 続 きは 、 内務 省 を通 じて 太政 官 に上
い て種 々 精 細 な規 定 が 設 け られ 、買 戻権 も別 に
陳 し、允 裁 を得 る もの と され た 。補 償 に つ いて
設 け られ る等 、公 用 土 地 買 上 規 則 よ り数 段精 細
は 、 「買 上 ル地 価 ハ 券 面 二記 シ タル代 価 タ ルヘ
な規 定 が設 け られ る に至 っ た わ け で あ る。
シ、然 レ トモ地 価 相 違 ヲ生 セ シ時 ハ所 有 者 ト買
上 ヘ キ該 庁 トノ商 議 ヲ以 テ代 価 増 減 ス ル コ トア
―63一
この 土 地 収 用 法 は1900(明
治33)年
に 改正 さ
れ るが 、 そ の 特 徴 は、 第 一 に 、土 地 収 用 権 は法
財政学研究
第17号
的規 制 を ま った く受 けず 、 私 入 の土 地 所 有 権 に
ハ 法 律 ノ定 ム ル所 二依 ル 」 と定 め て い る。 っ ま
圧 倒 的優 位 に た ち、 第 二 に 、 中 央集 権 的 色 彩 が
り、所 有 権 の不 可 侵 性 を た しか に宣 言 して は い
きわ め て 濃 い 、 と い う こ とで あ る。 例 え ば 、収
る が 、他 方 で は 、公 益 とい う名 の 下 に所 有 権 が
用 法 適 用 事 業 の 列 挙 に際 して 、 「国 防 其 ノ他 軍
制 限 さ れ る こ とは容 易 に行 わ れ得 たの で あ った。
事 二関 ス ル事 業 」 が トップ に あ げ られ 、 ま た 、
この意 味 で は 、個 人 の土 地 所 有権 の 上 に は 、個
列 挙 の最 後 に 「其 ノ他 公 用 ノ 目的 ヲ以 テ国 道 府
人 の土 地 所 有 権 を容 易 に 制 限 し うる強 力 な専 制
県 市 町村 其 ノ他 公 共 団 体 二於 テ施 設 ス ル事 業 」
主 義 的 国 家 権 力 が存 在 す るの で あ る 。 これ はい
と述 べ て 、事 実上 す べ て の公 共 事 業 を収 用 法 適
わ ば 「上 級 土 地 所 有 権 」 で あ る。
用 事 業 に して い る 。 ま た 、事 業 の認 定 に関 して
も、 「土 地 ヲ収 用 又 ハ 使 用 ス ル コ トヲ得 ル事 業
ハ主 務 大 臣 之 ヲ認 定 ス」 と しな が ら も、 「但 シ
②
「
上級土地 所有権」 と法人企業 の土 地所有
一 戦 後期 を中心 に ―
軍 機 二関 スル 事 業 ハ 此 ノ限 二在 ラス 」 と して い
るば か りで な く、主 務 大 臣 に対 して認 定 の基準 、
戦 後 改 革 に よ って 、 絶 対 主 義 的 天 皇 制 と寄 生
あ る い は要 件 を ま っ た く示 して いな いの で あ る。
地 主 制 は解 体 され た 。 日本 国 憲 法 第29条 に よ り
土地 収 用 審 査 委 員 会 につ い て も、地 方 長 官 が会
財 産 権 は保 障 され る と と も に 、公 共 の福 祉 に よ
長 と な る ほか 、6人 の委 員 の うち3人 は高 等 文
る制 約 を うけ る旨 が 明 記 され た。土 地 収用 法 は、
官 の中 か ら内 務 大 臣 が 任 命 し、3人 は道 府 県 名
1951(昭 和26)年
誉 職 参 事 の中 か ら互 選 され る もの で あ った 。
の改 正 で特 徴 的 な こ と は、 第 一 に 、土 地 収 用 法
な お 、土 地 収 用 制 度 の運 用 実態 の典 型 と して 、
に全 面 改 正 が 行 わ れ た3。)。こ
が適 用 され る公 共 事 業 の範 囲 が 明 確 化 さ れ た こ
渡 良 瀬 川 の洪 水 調 節 池 の新 設 に伴 う谷 中村 事 件
と、第 二 に、事 業 認 定 の手 続 に関 す る規 定 が厳
に簡 単 にふ れ て お こ う。補 償 問 題 の歴 史 的原 点
密 化 され た こ と、 第 三 に、 土 地 収 用 審 査 会 が土
と いわ れ る この事 件 の場 合 は 、 まず 極 端 に安 い
地 収 用 委 員 会 と改 称 され 、 民 主 化 さ れ た こ と、
買 収 単 価 で あ り、 しか も住 民 が反 対 す る と栃 木
第 四 に 、収 用 の 対 象 と な る私 権 が 明 確 化 さ れ 、
県 は あ らゆ る手 段 を使 って この反 対 を押 し潰 し
損 失 補 償 規 定 が 具 体 化 され た こ と な ど で あ る。
て い る 。例 え ば 、堤 防 決 壊 箇 所 を放 置 した うえ
この よ うに 、土 地 所 有 権 の保 障 が 徹 底 さ れ 、収
に、 堤 防 復 旧 工 事 の名 の もと に堤 外 地 の水 制 用
用 手 続 きが 慎重 か っ 複 雑 と な り、土 地 収 用 法 は
の柳 を切 り倒 し、護 岸 を こわ し、残 って い る堤
戦 前 ほ どに は権 力主 義 的 で は な くな った こ とに
防 を 破 壊 した 。 ま た 、非 買 収 派 を酒 色 を も って
よ り、専 制 主 義 的 国 家権 力 に よ る 「上 級 土 地 所
誘 惑 す る な ど卑 劣 な切 り崩 し工 作 を行 い 、土 地
有 権 」 も解 体 され た か の よ うに み え た 。
収 用 審 査 会 で は ほ とん ど審 議 らしい審 議 もせ ず、
こ こで 、 ヨー ロ ッパ 諸 国 の土 地 問 題 の歴 史 を
栃 木 県 の原 案 ど お りの価 格 で土 地 を 引 き渡 し地
ふ りか え って み れ ば 、 産 業 革 命 の進 展 に伴 い都
上物 件 を移 転 す る よ うに との裁 決 を下 し、強 制
市 人 口 が増 大 す る 中 で 、 深 刻 な 「住 宅 問 題 」
執行 を行 っ た の で あ る。
「社 会 問 題 」 を引 き起 こ し た ヨ ー ロ ッパ 諸 国 で
こ の よ うに戦 前 期 の土 地 収 用 制 度 の特 徴 は 、
は、19坦 紀 の末 か ら20世 紀 に か け て 「自 由 権 」
専 制 主 義 的 国 家 権 力 に よ る土 地 所 有 権 の制 限 に
に代 わ る 「生 存 権 」 「社 会 権 」 と い う新 しい権
あ り、強 権 的 な土 地 の収 奪 に あ る と言 え よ う。
利 の体 系 が拡 大 し、 土地 所 有 権 優 先 の 「ロー マ
こ こで は財 産 権 の 自 由 は一 応 は保 障 さ れ て はい
法 型 」 か ら土 地 利用 権優 先 の 「ゲ ル マ ン法 型 」
て も、専 制 主 義 的 な国 家 権 力 に よ って簡 単 に 個
へ の移 行 が行 わ れ た と され て い る31)。 しか し、
人 の土 地 所 有 権 は くっ が え さ れ て しま うの で あ
わ が 国 の場 合 は、 「生 存 権 」 「社 会 権 」 を明 記
る。 明 治 憲 法 第27条 は 、 「日本 臣民 ハ其 ノ所 有
した民 主 主 義 的 憲 法 が施 行 され て も、萌 芽 的 な
権 ヲ侵 サ ル ル コ トナ シ。公 益 ノ為 必 要 ナ ル処 分
「利 用 権 保 障 の 体 系 」 の 形 成 は あ っ た もの の 、
一64一
「日本 型土 地 シス テム」 の 検討(続)
ヨー ロ ッパ の よ うな 「土 地 利 用 が 土 地 所 有 に優
求 め るか 、部 分 補 償 を求 め るか の相 違 は あ っ て
先 す る シス テ ム」 へ の移 行 が 行 わ れ な か った の
も、 か な りの沿 岸 漁 家 は漁 民 と して の生 活 を捨
で あ る。 こ こで は そ の理 由 にD'い て検 討 して み
て 、転 職 せ ざ るを得 な い状 況 に追 い込 ま れ た の
よ う。
で あ る32)。
これ は、 一 般 論 的 に言 え ば 、 「生 存 権 」 「社
この よ うな漁 民 の生 活 の 不安 定 さ にっ け こむ
会 権 」 な ど の新 しい権 利 を保 障 す る民 主 主 義 的
形 で 、都 道 府 県 知 事 は公 有 水 面 埋 立 法 を活 用 し
憲 法 が で きて も、 そ の 権 利 を 守 る法 律 や 機 構 が
て 、 臨 海 部 の公 共 水 面 を漁 業 補 償 に よ り買 い取
具 体 的 に作 られ ず に 、逆 に 「旧 い 慣 習 を 温 存 、
り、工 業 用 地 を造 成 して 、 場 合 に よ って は造 成
誘 導 す る制 度 」 が 作 られ 、 さ らに そ の前 提 と し
原 価 を割 る よ うな きわ め て安 い 価 格 で 法 人 企 業
て 、 ナ シ ョナル ・ミニマ ム保 障 が 欠 如 した 「経
に売 り渡 した の で あ る。 そ の結 果 、 残 され た沿
済 的 不 安 定 」、 い い か え れ ば 生 存 競 争 の 厳 しさ
岸 漁 家 は 、埋 立 や公害 を原 因 とす る漁 場 の縮小 ・
が あれ ば、 その両 者 の相 互 依 存 関 係 と して 仮 説
悪 化 に悩 ま さ れ る こ と にな るの で あ る。
的 に説 明 す る こ とが で き るで あ ろ う。 本 稿 で と
次 に 、農 民 の場 合 を考 え て み る と 、戦 後 の農
り あげ る土 地 所 有 の 場 合 に は 、 前 提 と して の
地 改 革 に よ っ て成 立 した零 細 自作 農 体 制 は、 高
「零 細 土 地 所 有 者 の経 済 的不 安 定 」 と 「国 家 と
度 成 長 政 策 の も とで急 速 に分 解 した 。1961(昭
法 人 企業 の経 済力 が土 地 の 集積 。集 中 を可 能 に
和36)年
す る法 的 枠 組 」 との 相 互 依 存 関 係 を明 らか にす
大 、 農 業 の生 産 性 向上 、農 地 保 有 合 理 化 と農 業
の農 業 基 本 法 は 、農 業 生 産 の選 択 的 拡
る ことが 必 要 と な る。 そ こで 、 以 下 で は、 漁 民
経 営 近 代 化 、 自立 農 家 育 成 、 農 産 物 価 格 安 定 、
の 場 合 、 農 民 の 場 合 、 都市 の 零 細 土 地 所 有 者 の
農 民 の職 業 転 換 促 進 等 を政 策 課 題 と して いたが 、
場 合 の そ れ ぞ れ に っ いて の 「経 済 的 不 安 定 」 を
真 の 狙 い は最 後 に あ げ られ て い る潜 在 的 過 剰 人
論 じる と と も に、 「国 家 と法 人 企業 の 経 済 力 が
口 と して 零 細 土 地 所 有 に結 合 して いた 農 家 労 働
土 地 の 集 積 ・集 中 を 可 能 にす る法 的 枠 組 」 との
力 を 、第 二 次 産 業 に追 加 労 働 力 と して 大 量 に吸
相 互 依存 関係 を 検 討 す る こ と に よ り、 戦 後 期 に
収 す る こ とに あ った 。 ま た 、農 産物 貿 易 の 自 由
も 「上 級 土 地 所 有 権 」 が 強 力 に存 在 した と い う
化 圧 力 が ア メ リカ を 中心 とす る諸 国 か ら強 ま り、
仮説 を検 証 しよ う とす る もの で あ る。
外 国 農 産 物 へ の安 易 な依 存 政 策 を と った こ と に
そ こで 、 ま ず 、 漁 民 か ら漁業 権 を買 い取 って 、
よ り、麦 を は じめ とす る穀 物 、豆 類 、 果 実 、 畜
臨海 性 の 工業 地帯 を海 面 の 埋立 て に よ って 造 成
産 物 な ど の輸 入 が 急 増 し、 そ れ らの農 産 物 の 自
す る場 合 を考 え て み よ う。 高度 成長 期 に は、 第
給 率 は大 幅 に低 落 した 。 この よ うな農 業 政 策 の
二 次 、第 三 次 産 業 就 業 者 と漁 民 との 所 得 格 差 の
結 果 、 か な りの農 民 は農 業 か ら離 れ て都 市部 へ
是 正 を うた った 「漁 業 構 造 改 善 事 業 」 が 実施 さ
流 動化 して 賃 金 労 働 者 とな る こ と を 強 い られ 、
れ た が 、 そ の 真 の狙 い は人 ロ 流 動 化 政 策 と い う
あ る程 度 の農 民 は零 細 経 営 と して農 村 に と ど ま
名 の 第一 次産 業 切 捨 政 策 で あ り、 と くに沿 岸 漁
りつ っ 賃 労 働 兼 業 化 し、少 数 の農 業 専 従 的経 営
家 は労働 力 の老 齢 化 が す す み 、 漁民 の生 活 は不
と と もに 、 農 業 の 機 械 化 に よ る借 金 返 済 に追 わ
安 定 とな った 。 ま た 、漁 業 の分 野 に お い て は 、
れ るな ど、 農 民 の 生 活 に と っ て は きわ め て不 安
元来 、 大 企業 と中 小企 業 の 格差 が 激 しいが 、 そ
定 な 状 況 が 作 り出 され た の で あ る。元 来 、 わ が
の 中 小企 業 が漁 村 経 済 に お い て は支 配 的 な 地 位
国 の農 業 経 営 は、 一 般 に零 細 小 規 模 で 、技 術 ・
にあ り、一 部 の有 力 者(網
生 産 力 の発 達 が 立 ち遅 れ 、 生 産 性 も低 く、農 業
元)が 漁 業 協 同組 合
を 支 配 し、地 方 ボ ス や行 政 と一 緒 に な って漁 業
所 得 水 準 が 低 い こ とを 特 徴 と して い た 。 ま た 、
権 の 放棄 とい う形 で 「海 を売 る」 とい う事 態 も
農 産 物 の価 格 保 障制 度 は米 以 外 は き わ め て不 十
生 じた の で あ る。 この よ うに 、 将来 の 漁 業 に対
分 で あ った 。 そ の 上 に 、1967(昭
す る展望 や 後継 者 の有 無 に よ って 、 全 面 補償 を
政 府 は 「総 合農 政 」 政 策 を 打 ち 出 して 、小 農 維
一65一
和42)年 以降 、
財政 学研究
第17号
持 の基 礎 制 度 で あ る食料 管 理 制 度 と農地 制 度 を
が 借 家 よ り有 利 に な る条 件 が 形 成 さ れ る 。 さ ら
大 幅 に改 正 して 、 「減 反 」政 策 を 強 行 した。 そ
に、 中 所 得 者 層 以 下 で も持 家 が買 え るよ うに住
の た め 、農 民 の生 活 は い よ い よ不安 定 な もの と
宅 ロ ー ンが 普 及 され るが 、 そ れ は 「公 的 融 資+
な った 。 さ ら に、 山村 農民 の場 合 に は、 高 度 成
企 業 内 融 資+生 命 保 険 」 と い う構 造 に な って お
長 期 以 前 に生 活 を 支 え て い た林 業 や薪炭 生産 が 、
り、 いわ ば命 を担 保 に して金 を借 り る と い う リ
外 材 輸 入 の増 大 や 生 活 様 式 の 変 化 に よ って 、 ス
ス ク負 担 の シス テ ム に な って い るの で あ る 。 こ
ク ラ ップ化 され る こ と に よ り、 その 生 活 は ます
の よ うに 、生 涯 賃 金 の か な りの部 分 に あ た る重
ます 不 安 定 な もの とな った ので あ る。
い住 宅 ロ ー ンを抱 え 、都 市 の 零 細 土 地 所 有 者 の
この よ うな 中 、 農村 地域 へ の工 業 導 入 の た め
生 活 は苦 しい 。 そ の上 、全 国 レベ ル 、 国 際 レベ
に内 陸 性 の工 業 団地 を 造成 す る場 合 を考 えて み
ル の転 勤 が あ り、 や っ と手 に い れ た 住 宅 を手 放
る と 、 自治 体 が土 地取 引 を 斡旋 す る ケ ー ス と 自
す か 、単 身 赴 任 を強 制 され る こ と にな る 。
治 体 が土 地 を買 収 して 団地 を造 成 す る ケ ー ス と
さ らに 、既 に述 べ た よ う に、 日本 の土 地 利 用
が あ る が 、 い ず れ にせ よ 自治体 は雇 用 機 会 の増
計 画=用 途 地域制 は きわ め て緩 やか な規制 とな っ
大 、財 政 収 入 の増 加 な ど地 域 の 発 展 の た め に と
て お り、 い わ ば何 で も隣 に 建 っ 可 能 性 が あ る。
い う名 目 で介 入 す るわ けで あ る。 っ ま り、 自治
最 も規 制 が き び しい と言 わ れ る第 一 種 住 居 専 用
体 が 媒 介 とな って 、土 地 所 有 者 か ら土 地 を買 い
地 域 で さ え 、高 さ10メ ー トル の ビル が建 て られ
集 め る、 あ るい は斡旋 す る こ と に よ り、 農 地 の
る の で あ る 。 そ うい う意 味 で は、 住 宅 と して の
工 業 団地 へ の転 換 を はか るわ けで あ る。 こ の よ
み利 用 す る もの に と って は、 利 用 権 は制 約 さ れ
うに 高度 成長 期 に は膨 大 な 面 積 の農 地 が 転 用 さ
る可 能 性 が高 い 、弱 い権 利 とな らざ るをえ な い。
れ た の で あ るが 、 そ の法 的 な背 景 と して 、 た び
ま た 、地 価 は 「最 有 効 使 用 の 原 則 」 に も とつ く
重 な る農 地転 用許 可 基 準 の緩 和 に注 目す べ き で
と ころ の 「売 買 事 例 主 義 」 で 決 定 され る こと に
あ る。 ま た、 近 郊 農 村 の場 合 は 、都 市 化 の進 展
な って い る。 この よ うに わ が 国 は 、 住 宅 地 域 、
に よ って 、農 地 を宅 地 に転 換 す る こと に よ り何
商 業 地 域 、工 業 地 域 を厳 然 と区 別 し、地 価 も異
倍 もの利 益 を 得 る こ とが 可 能 に な っ た 。農 業 に
な る体 系 を もっ とい うヨー ロ ッパ諸 国 とは、 ま っ
展望 の もて な くな っ た近 郊 農 家 が 、土 地 を資 産
た く異 な る土 地 シス テ ム、地 価 シス テ ム の国 な
とみ て 、 最 も高 く売 れ る時 期 に 、最 も高 く売 れ
の で あ る。
る相 手 に土 地 を売 る こと を考 え る の は い わ ば 当
然 で あ る33)。
この よ うに 、 ナ シ ョナ ル ・ミニ マ ム と して の
社 会 保 障 が欠 如 し、 漁民 、 農 民 、都 市 住 民 の生
さ らに 、都 市 の零 細 土 地 所 有 者 の場 合 を検 討
活 が きわ め て不 安 定 で 、 いわ ば 生 存 競 争 の きび
して み よ う。 本 来 、労 働 移 動 を考 え る と借 家 の
しい わ が 国 で は、 わ ず か に 所 有 す る零 細 な土 地
方 が 有 利 で あ る こと は言 うま で もな い 。戦 前 に
に資 産 と して の意 義 を見 いだ し、 それ に しが み
お いて も、都 市 部 に お いて は ほ とん ど の勤 労 者
っ か ざ るを え な い わ け で あ るが 、国 家 や法 人 企
が 借 家 住 い で あ った 。 と ころ が 、土 地 所 有 者 の
業 の地 域 關 発 や都 市 再 開 発 に よ って 、 そ の所 有
権 利 が 強 く借 地 ・借 家 人 の権 利 が弱 い場 合 、 あ
権 は簡 単 に 吹 き飛 ば され て しま うよ うな 、 そ う
る い は借 地 ・借 家 人 の権 利 が一 定 保 障 さ れ て も
い う弱 い個 人 の権 利 に対 して 強 大 な国 家 と法 人
借 地 ・借 家 の供 給 が需 要 よ り も少 な い場 合 には、
企 業 の経 済 力 とい う法 的 枠 組 にな って い るの で
高 家 賃 が 一 般 化 す る こ とに な る。 そ の うえ 、地
あ る。
価 上 昇 率 が利 子 率 を上 回 る状 態 が恒常 化す れば、
借 金 を して で も土 地 を買 い急 い だ方 が有 利 とな
IVお
わ りに
り、 イ ン フ レー シ ョ ンが さ らに そ の資 産 効 果 を
高 め る こ とに な る。 っ ま り、結 局 は、持 家 の方
一66一
本稿 の中心 的な課 題 は、前稿で は必ず しも十
「日本 型 土 地 シ ス テ ム」 の 検 討(続)
分 に検 討 で きな か った二 っ の 視 点 、 す な わ ち 、
地 主的土地所有(寄 生地主制)の 急速 な発展 を
第 一 は 、土 地 所 有 と土 地 利 用 の視 点 、 つ ま り 、
導 いた こと、そ してそ の私法的表現 が土地利 用
「土地 所 有 が土 地利 用 に優 先 す る シ ス テ ム 」 の
権 を保 障 した旧民法か ら土地所有権絶対 の明治
視 点 か ら、第 二 は 、専 制 主 義 的 国家 権 力 に よ る
民 法へ と変化 した ことによ り、 「
土地所有 が土
「上 級 土 地 所 有 権 」 とい う視 点 か ら、 「日本 型
地利用 に優 先す るシステム」 を確立 した ことを
土 地 シス テ ム」 の 検 討 を行 う こ とで あ った 。 そ
指摘 した。
して 、本 稿 の 中心 的 な課 題 の 検 討 に 先 立 って 、
戦 後 期 に つ いて は、 戦 後 改 革 期 の農 地 改革 を
「日本 型 土 地 シス テ ム」 の ル ー ツ は ア ジ ア 社 会
め ぐ る自作 農 創 設 と耕 作 権 保 障 の対 抗 を検 討 し、
に あ る と い う試 論 を提 起 し、 ア ジア 的土 地 所 有
結 局 は自作 農 創 設政 策 が 実 施 さ れ た もの の 、農
の特 質 を検 討 し、 日本 型 と ア ジア型 との比 較 研
地 に つ い て は農 地 法 の 体 系 に よ り 「土 地 利 用 が
究 の手 が か りをっ か む こ と を試 み た 。 この よ う
土 地 所 有 に優 先 す る シ ス テ ム」が 存在 す るな ど、
な 課 題 に対 して 、本 稿 の積 極 的 な主 張 点 を概 括
「利 用 権 保 障 の体 系 」 が 萌 芽 的 に せ よ形 成 され
す れ ば 、次 の よ うに な る で あ ろ う。
第1章
て い た こ とを評 価 した 。 しか し、高度 成 長期 に 、
で は 、以 上 の本 稿 の課 題 と構 成 を提 起
原 材 料 と農 産 物 を輸 入 す る 「低 賃 金 加 工 貿 易 方
しっ っ 、 ア ジ ァ的 土 地 所 有 の特 質 に っ い て試 論
式 」 を確 立 す る政 策 、 す な わ ち 、農 業 を工 業 の
的 な検 討 を行 っ た 。 まず 、小 谷 注 之 氏 の研 究 に
犠 牲 とす る政 策 の た め に た び重 ね られ た農 地 法
よ り なが らイ ギ リス植 民 地 政 策 下 の イ ン ドに お
の改 正 な どに よ って 農 地 法 の体 系 が 崩 さ れ る一
け る 「資 本 主 義 の た め の土 地 制 度 改 造 」 の本 質
方 、 日本 型 地 域 開 発 の 展 開 過 程 に お いて 、 自治
を検 討 し、第 一 に 、 「私 的 土 地 所 有 」 の法 認 は
体 が媒 介 とな って 法 人 企 業 と りわ け大 企 業 へ の
最 大 限 の 地税 収 奪 の手 段 と して 導 入 さ れ た が 、
土 地 集 中 を す す め た こ とな ど に よ り、 「利 用 権
結 局 は土地 の 商 品 化 、土 地 市 場 の成 立 を通 じて
保 障 の体 系 」 が 破壊 され 、 「土 地 所 有 が土 地 利
寄生 地主 制 に至 る こ と 、第 二 に 、 この過 程 はわ
用 に優 先 す る シス テ ム」 が 再 び確 立 した こ とを
が 国 の地 租 改 正 に は じま る明 治 初 期 の土 地 制 度
指 摘 した 。 そ して 、 高 度 成 長 期 に お け る不 動 産
改革 と同 じ意 味 を も って 展 開 さ れ た こ とを検 討
金 融 の 占 め る特 別 な 意 義 にっ いて 検 討 し、所 有
した 。
す る土 地 を担 保 と した 信 用 創 出 に よ って設 備 投
ま た、 ウイ ッ トフ ォ ー ゲ ル氏 の研 究 に よ りな
資 資 金 の調 達 を 可 能 に す る構 造 、す な わ ち 、 日
が ら、 第一 に 、人 工 灌 概 とそ の広 大 化 を契 機 と
本 経 済 の発 展 そ れ 自体 に地 価 上 昇 メ カ ニ ズ ムが
して 、典 型 的 な 「東 洋 的 専 制 国 家 」 が誕 生 した
ビル トイ ン され た構 造 に な って い る こ とを 明 ら
こ と、第 二 に、土 地 の私 有 化 が 比 較 的 早 くか ら
か に した 。 そ して 、 こ の よ うに資 産 の保 全 と増
進 み 、 高 利 貸 付 を 媒 介 と して 土 地 市 場 が形 成 さ
殖 を進 め る上 で 土地 が 特 別 な位 置 を 占 め る と と
れ 、 大 土 地 所 有 者 と小 作 人 あ る い は零 細 土 地 所
もに 、1970年 代 初 め と1980年 代 半 ば の土 地 投 機
有 者 に分 化 した こ と、 第 三 に 、 しか し 「東 洋 的
が 「土 地 所 有 と土 地 利 用 の分 離 」 を完 成 させ た
専 制 国 家 」 は私 的 土 地 所 有 者 の 自 由 を一 方 的 に
こ とを指 摘 した 。
制 限 す る権 力 、 い わ ば 「上 級 土 地 所 有 権 」 を持
ち続 け た こ と を検 討 した 。
第3章
で は、 専 制 主 義 的 国 家 権 力 に よ る 「上
級 土 地 所 有 権 」 と い う視 点 か ら、 「日本 型 土 地
第2章 で は 、土 地 所 有 と土地 利 用 の視 点か ら、
シス テ ム 」 を検 討 した 。 封 建 的 な土 地 所 有 関係
「日本 型 土 地 シス テ ム 」 の検 討 を行 った 。 っ ま
は、地 租 改 正 を は じめ とす る明 治 初 期 の土 地 制
り、 「土 地 所 有 が 土 地 利 用 に優先 す るシス テム」
度 改 革 に よ って 廃止 され た。 っ ま り、地 券 発 行
が ど の よ う して 形 成 さ れ た のか を歴 史 的 に検 討
の 「一 地 一 主 」 の方 針 に よ り、 封 建 的 な上 級 土
した わ け で あ る が 、戦 前 期 につ い て は 、地 租 改
地 所 有 権 は完 全 に 廃 止 され 、土 地 の私 的所 有 権
正 を は じめ とす る明 治 初 期 の 土 地 制 度 改 革 が 、
が法 的 に確 認 を され た 。 しか し、 そ の土 地 の私
一67一
財政学研究
第17号
的 所 有 権 の上 に 、 国家 権 力 に よ るい わ ば 「上 級
れ る専制主義的国家権力 の 「上 級土 地所 有権 」
土 地 所 有 権 」 が強 力 に存 在 した とい うの が本 稿
に支え られて寄生地主が土地 を支配 していたよ
の仮 説 で あ った の で あ る。 っ ま り 、 戦 前 に は 、
うに、戦後 は国家権力 の 「
上級土地所有権 」 に
専 制 主 義 的 国 家 権 力 の 「上 級 土 地 所 有権 」 に 支
支え られて 、法人企業が土地 を支配 して いると
え られ て 寄 生 地 主 が土 地 を支 配 し、戦 後 にな る
言 って も過言で はないと結論 づけた。
と、 法 人 企 業 が国 家 権 力 の 「上 級 土 地 所 有 権 」
以 上 が 、 本 稿 の一 応 の到 達 点 で あ り、 「日本
に支 え られ て土 地 を支 配 して い る と い う のが 本
型 土 地 シ ス テ ム」 の検 討 を 「土 地 所 有 が 土 地 利
稿 の 主 張 で あ る。
用 に優 先 す る シス テ ム」 と 「上 級 土 地 所 有 権 」
戦 前 期 にっ い て は、土 地 収 用 制 度 の歴 史 にっ
と い う二 っ の視 点 か ら行 う こ と にっ いて は 、 あ
いて の検 討 を行 う こ と によ って 、土 地 収 用 制 度
る程 度 、達 成 で き た と思 わ れ る。 しか し、本 稿
の権 力 性 、す な わ ち 、 そ の専 制 主義 的 国 家 権 力
で の 日本 型 と ア ジア型 との比 較 研 究 は試 論 的 な
に よ る土 地 所 有 権 の制 限 と強権 的 な 土 地 の収 奪
提 起 で あ り、戦 後 の ア ジア の 土 地 改 革 を も視 野
の実 態 を明 らか に す る こ と に よ って 、 「上 級 土
に お さ め た本 格 的 な比 較 研 究 にっ い て は34)、次
地 所 有 権 」 の存 在 の 検 証 と した 。
稿 以 降 の課 題 とさ せ て い た だ き た い 。
戦 後 期 に つ い て は、 民主 主義 的 憲 法 の制 定 と
土 地 収 用 法 の民 主 化 に よ り、 専 制 主 義 的 国 家 権
注
力 に よ る 「上 級 土 地 所 有 権 」 も解 体 され たか の
1)拙 稿 「現代 日本 の土 地 問題 と土 地政 策(上)」 、 「財
よ うに み え た もの の、 結 局 は ヨー ロ ッパ 諸 国 の―
よ うな 「土地 利 用 が 土 地 所 有 に優 先 す る シ ス テ
政学 研究 』第16号 、1991年 。
2)渡 辺 洋三 ・稲 本 洋之助 編 『現代 土地 法 の 研 究
下 』、
ム」 に も移行 しなか っ た理 由 を検 討 した 。っ ま
岩 波書店 、1983年 。稲 本 洋之 助 ・戒 能通厚 。田山輝明 ・
り、 高 度 成 長 期 に 、 「零 細 土 地 所 有 者 の経 済 的
原 田純孝 編著 「ヨー ロ ッパ の土 地 法制 』、 東 京 大 学 出
不安 定 」 を前 提 と して 、 「国 家 と法 人 企 業 の経
版 会、1983年 。野 村 総合研 究 所 「
地 価 と土 地 システム』
、
済力 が 土 地 の 集 積 ・集 中 を可能 にす る法的 枠組 」
野 村総合 研 究所 、1988年。
が作 られ た結 果 、戦 後 も国 家 権 力 の 「上 級 土 地
3)戦 前 か らの膨 大 な ア ジア硫 究 に っ い て は、 例 え ば 、
所 有 権 」 に支 え られ て 法 人 企 業 が土 地 を支 配 し
東 洋史研 究 論文 目録 編集 委員 会編 「日本 にお け る東 洋
て い る と い う仮 説 を提 起 し、漁 民 の場 合 、農 民
史 論文 目録 』(4分
の場 合 、 都 市 の零 細 土 地 所 有 者 の場 合 の そ れ ぞ
参 照。国 際的 な ア ジア的生 産様 式論 争 にっ い て は、 例
れ にっ いて 、 「経 済 的 な不 安 定 」 と 「国 家 と法
えば、塩 沢君夫 『ア ジア的 生 産 様 式論 』、 御 茶 の 水 害
人企 業 の経 済 力 が 土 地 の集 積 ・集 中 を可 能 に す
房 、1970年、参照 。最 近 の ア ジア研 究 に っ い て は、 例
る法 的 枠 組 」 と の相 互 依 存 関 係 を検 討 す る こ と
えば、渡辺 利夫 『
転 換す るア ジア』、弘 文 堂 、1991年 、
に よ り、 こ の仮 説 を検 証 しよ う と した 。 そ の結
第 顎章
冊)、 日本 学 術振興 会 、1964∼68年、
本 の 中の ア ジア、参 照。
論 は、 わ が 国 は ナ シ ョナ ル ・ ミニ マ ム と して の
4)宮 本 憲一 ・植 田和弘 編 「
東 ア ジアの土 地 問 題 と土 地
社 会 保 障 が 欠 如 し、漁 民 、農 民 、都 市 住 民 の生
税 制』、勤草書 房 、1990年 。本 間義 人 編 『
韓 国 ・台 湾 の
活 は きわ めて 不 安 定 で生 存 競 争 が 激 しい た め 、
土 地政 策』、東 洋 経済 新報 社 、1991年。川 瀬光 義 『台 湾
零 細 土 地 所 有 に資 産 と して の意 義 を見 い だ さざ
の土地政 策 』
、青 木書 店 、1992年。
るを え な いわ け で あ る が 、国 家 や法 人 企 業 の地
5)小
谷『涯
之 『マル クス とア ジア』、青 木 書 店 、1979年 。
域 開 発 や 都 市 再 開 発 は個 人 の所 有 権 を簡 単 に 吹
同 「
近 代 に おけ る ア ジア社 会 玉 永 原 慶 二 ・阪 東 宏 編
き飛 ば して しま う とい う、 きわ め て弱 い個 人 の
『
講座
権 利 に対 して 巨大 な国 家 と法 人 企 業 の経 済 力 と
木 書店 、1978年、所 収 。なお 、小 谷 氏 の 業 績 へ の コ メ
い う法 的 枠 組 に な って い る と い う も の で あ る 。
ン トと して、中村 哲 「
近 代 世 界 史 像 の 再 構 成 』、 青 木
そ して 、戦 前 は土 地 収 用 制 度 の権 力 性 に代 表 さ
書 店、1991年 、第2章
―68―
史 的唯 物論 と現 代
第3巻
世 界史 認 識 』、 青
歴史 学 にお け る ア ジ ア認 識 の
「日本 型土 地 シス テ ム」 の 検 討(続)
(以下 省略)
課題 、参照 。
6)「
土 地 改 革 後 の ザ ミー ン ダ ー リー 制 、 ラ イ ーヤ トワ ー
リー制 は重層 的 な前近 代的 土地 所有 が資 本主 義 に従 属
させ られ 、形態変 化 した近 代 的農 奴制 の一 種 で あ る と
(民法成 立過 程研 究会 「明 治民 法 の制定 と穂 積 文 書 』、
有斐 閣 、1956年 、129ペー ジ)
16)水 本 浩、前 掲書 。
「
考 えた ほ うが よい ので はな か ろ うか 。…(中 略)…
ロ
17)「 土 地 制度 の基 本法 と もい うべ き民 法 にお い て 、 土
シアの農奴 解放 後 の土地 所有 関 係 も基 本 的 に同 一 で あ
地所 有権 中心 主 義が と られ、土 地 利用 権 の保 障 が きわ
る といえ よ う。そ うであ るな らば、 日本 の地 租 改 正 を
め て不十 分 な もの に とどま った とい うこ とが、 わ が 国
ロシアの農 奴解 放、 イ ン ドの18世 紀末 ∼19世 紀 前半 の
の土 地問 題 の解決 を今 日に至 るまで 困難 に させ る出 発
土 地 改革 と同一性 格 と し、寄生 地主 制 を半封 建 的土 地
点で あ った と いえ よ う。
」(渡 辺 洋三 「土 地 と財産 権』、
所 有 と規定 す る こと は再 考 を要 す る 。
」(中 村 、 同上
岩波 書店 、1977年 、21ペ ー ジ)
書 、148ペー ジ)
18)上 原信 博 「
農 地改 革過 程 と農 地改 革論 」、東 京 大学社
7)K.A.Wittfogel,WirtschftundGesellscaft,1931,
『解 体 過 程 に あ る支 那 の 経 済 と 社 会 』(平
会科 学研 究所 編 『
戦 後改 革6農
野義太郎監
の 理 論 』(森
谷 克 己 ・平 野 義 太 郎 訳)、
東洋的社会
No34『 転 換 期 の土 地 問題 』、有 斐 閣、1984年 、所 収。
日本 評 論 社 、
20)新 沢 嘉芽 統 「農業 水利 規制 の基 本 的性 格 に っ い て」、
1939年 。
8)旗
「水利 科学 』第1巻 第1号 、1957年 、新 井信 男編 ゼ水 利
手 勲 『水 資 源 の世 界 誌 』、 日 本 経 済 評 論 社 、1991年 。
9)K.A.Wittfoge1,0rientalDespotism,1957,「
東
洋 的専制 主義 』(ア ジア経 済研 究所 訳)、論争 社 、1961
年。
10)福
制 度論 』(近 藤康 男責 任編 集
年 、(増
訂 版)1970年
版)1962
21)鈴 木 旭 「漁業権 制 度 と漁場 利用 」、 「漁 業 経 済 研 究 』
合併 号 、1981年、 長 谷 川 旭 編 「漁 業
経 済論 』(近 藤 康 男責 任編 集
。 同 『地 租 改 正 』、 吉 川 弘 文 館 、
1968年 。 同 「近 ・現 代 」、 北 島 正 元 編 「体 系 日本 史 叢 書
地 制 度 史 ■ 』、 山 川 出 版 社 、1975年 、 所 収 。
11)水 林彪 「日本 近代土 地 法制 の成 立」、 「法学協会雑誌』
12)水 本浩 「
土 地 問題 と所 有権 』
、有斐 閣 選 書 、(初 版)
1973年、(改 訂 版)1980年o
昭和 後期 農 業 問 題 論 集
24)、農 山漁村 文化 協 会、1984年 、所収 。
22)華
山 、前掲 論文 。
23)ジ
ェ ラ ル ド 。カ ー テ ィ ス=石
川真澄
『 「土 建 国 家 」
ニ ッ ポ ン』、 光 文 社 、1983年 。
24)現
第89巻 第11号 、1972年。
昭和 後期 農 業 問 題 論 集
9)、 農 山漁 村 文化協 会 、1983年 、所 収 。
第26巻 第1・2号
島 正 夫 「地 租 改 正 の 研 究 』、有 斐 閣 、(初
7土
学出 版会 、1975年、所 収 。
19)華 山謙 「戦後 の土 地改 革」、 ジ ュ リス ト増刊 総 合特集
訳)、 申 央 公 論 社 、1933年 。K.A.Wittfogel,Theorie
derorientahschenGesellschaft,1938,「
地 改革 』、 東 京大
在 、 開 発 が 問 題 と な って い る ウ ォ ー タ ー ・ フ ロ ン
ト、 ベ イ ・エ リア地域 は、高度成 長 期 に格 安 の 価 格 で
自治 体 か ら法 人 企業 に分 譲 され た もの であ り、 結 果 論
13)星 野通編 著 『民法典 論 争資料 集 』
、 日本評 論社 、1969
で はあ る が、 この時点 で工 場用 地 を分 譲方 式 で は な く
年 。中 村菊男 『近代 日本 の法 的形 成』、有信 堂 、1956年。
賃貸 方式 で行 って いた ら、莫大 な キ ャ ピタル ・ゲ イ ン
宮 川澄 「旧民 法 と明治 民 法』、青木書 店 、1965年。
がす べ て法人 企業 の手 に落 ち る とい うこ とはな か った
14)前
掲 、 福 島 「近 ・現 代 」、289ペ ー ジ 。
15)「
既 成 民 法 ヲ改 正 シ タ ル 重 大 ナ ル 点 」
で あろ う。
25)不 動産 金融 の概 念 は、① 既所 有不 動 産 を 担 保 とす る
「(一)編 次(学 理 と便 利 に従 う)
金融 、②取 得不 動産 を担 保 とす る金 融 、 とに 分 類 す る
既 成法 典、人 事編 、財産 編、財 産 取得 編 、 債
ことが で きる。(伊 藤進 「
担 保 法 にお け る理 念 の変 革」
権 担保 編、証 拠編 、修正 法典 、総 則編 、 物権
日本 土地 法学 会編 『土地 問 題叢書10不
編 、債権 編、親 族編 、相続 編
資源 と法 』、1978年、所 収)
(二)賃 借権 ヲ債 権 トシタ コ ト(登 記 二依 リテ物 権
二均 シキ効 力 ヲ与 フ)
(三)用
動 産 金 融 ・水
26)「 地 価 の上昇 は高 度経 済成 長 と論 理 的 に結 び っ い た
もの で はな い。ま たわ が国 の狭 い国 土 に必然 的 に付 随
益 権 ヲ認 メ ザ ル コ ト(本 邦 二慣 習 ナ シ)」 … …
一69一
す る もの だ と考 え る必 要 もないの で あ って 、地 価 の上
財政学研究
昇 は、主 と して 政府 の無 策、 あ るいは不 作 為 に 起 因 し
第17号
29)華 山謙 「補償 の理 論 と現 実 』
、勤 草書 房 、1969年 。 同
て い るとい う ことを、私 は今 ま でに も機会 あ る ご と に
「
用 地補 償 の手引 』
、鹿 島 出版 会、1982年 。 高 田賢 造 ・
主 張 して きた 。
」(華 山謙 「
現 代 の土 地 神話 』、 朝 日新
国宗正 義 「土地 収用 法』、 日本 評論 社 、1963年。高 田賢
聞 社 、1981年、3ペ ー ジ)
造 「
新 訂土 地収 用法 』
、 日本評 論社 、1968年 。
27)「 大都 市 圏 にお いて は、そ もそ も厳 格 な 都 布 計 画=
土地 利 用規 制 を欠如 して いた こ とともあいま って、種々
の土 地 利用 形態 が お のおの 空間 的 に純化 した形 で 成 立
30)華 山、前 掲 『
補 償 の理論 と現 実 』「
用 地補 償 の手 引 』。
31)篠 塚 昭 次 『土 地所 有権 と現 代』、 臼本 放 送 出 版 協 会 、
1974年。
した ことはな く、 む しろ諸土 地利 用形 態 の混 在 と変 動
32)例 え ば、君津 市 へ の八 幡製 鉄 進 出 に伴 う漁 業 権 放 棄
こそ が常態 で あ った。 したが って 、当面 の 視 点 との 関
の ケー スにっ い て は、松 島浄 「地 域 開発 と地 元 住 民 の
わ りで言 えば 、工業 的土 地利 用 は常 に商業 的 土 地 利 用
対応」
、橋本 茂 「君津 市(町)に
な らびに住 宅 的土地 利 用 との混 在 のな かで存 在 した の
そ の相互 関係 」、舘逸 雄編 『巨大 企 業 の進 出 と住 民 生
で あ る。(コ ンビナ ー トはま った く新 規 に 海 面 埋 立 等
活 』、東京大 学 出版 会、1981年 、所 収 、参 照 。
お け る リー ダーた ち と
で造 成 さ れた用 地 に立 地す る のであ って 、む しろ 特 殊
33)「 農 家が 土地 を売 る動 機 は、 自宅 の 新 築 、 貸 家 ・ア
例 外的 な性 格 を持 っ)。そ れ ゆ え 、 工 業 地 に お け る地
パ ー トの建設 お よ び相 続税 の支払 い、の三 っ に ほ ぼ集
代 ・地 価 は、 こう した混在 状態 の もとで、 集約 化 が 可
約 され る とい って よ い。
」(華 山 、前掲 『現 代 の土地 神
能 な商 業的 ・住 宅的 利 用に お いて成立 す る、 よ り高水
話 』、78ペ ー ジ)
準 の地 代 。地価 に影 響 され規 定 されてい くことにな る。
」
(大 泉 英 次 『土 地 と 金 融 の 経 済 学 』、 日 本 経 済 評 論 社 、
1991年 、165ペ ー ジ)
28)K.V.ウ
34)土 地 改 革 の比較 研究 に っ いて は 、 中 村 哲 、 前 掲 書 、
第6章
近 代 世界 にお け る農業 経 営、± 地所 有 と土 地
改 革 、参 照 。
ォ ル フ レ ン 「日本 を ど う す る!?』 、 篠 沢 勝 訳 、
(こ もり
早 川 書 房 、199工年 、 五5∼17ペ ー ジ。
一70一
は るお
当研 究会 会員)
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