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ニューズレター No. 7 学際・複合・新領域 学融合に基づく医療システムイノベーション 拠点リーダー 片岡 一則 教授 (工学系研究科マテリアル工学専攻) Interdisciplinary, combined fields, new disciplines Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration Project Leader: Prof. Kazunori Kataoka (Dept. of Materials Engineering, School of Engineering) 文部科学省の事業「グローバルCOEプログラム」は2007年度にスタートしました。現在、東京大学には16拠点あり、 また他大学の2拠点とも協力しています。2009年度にも1拠点が採択され、今後も増えていく見込みです。グローバル COEの各拠点の活動は、東京大学における教育研究活動の主なものの1つであり、これらの拠点の活動をニューズレターと いう形で順次ご紹介しております。 No. 7 のこの号では、学際・複合・新領域分野の「学融合に基づく医療システムイノベーション」を取りあげます。 = Contents = 1 7 13 14 15 16 拠点探訪 Interview with Prof. Kazunori Kataoka, project leader(拠点探訪英訳) 拠点概要 CMSI学生インタビュー CMSI- GCOE Student Workshop CMSI社会還元系:学生交流プログラム 2009年6月19日 東京大学 COEプログラム推進室 1 拠点探訪 目を向けて、社会還元を意識した学問・教育を行なわないといけないのです。そうすることによって、科学技術イノベーショ ンとともに社会経済イノベーションを推進し、新しい時代を作っていける人材を養成していきます。 学際・複合・新領域 学融合に基づく医療システムイノベーション 具体的には、どのようにするのでしょうか。 片岡:我々は、「Π(パイ)型人材」と言ってい 拠点の目的 ますが、科学技術イノベーションの推進(PUSH) グローバルCOE「学融合に基づく医療システムイノベーション」の拠点探訪にお伺いしました。拠点リーダーの片岡一則先 方ができる人材のことです。そういう人を育成す 生にお話をお聞きします。初めに、この拠点の目的をお教えください。 るためには、いくつかの柱があります。 と社会経済イノベーションの牽引(PULL)の両 1つは何といっても、やっぱり科学技術が基本 片岡教授:ご承知のように、日本は超高齢・成熟社会に向かって世界の先 ですから、新しい先進医療を支えるような先端的 頭を走っています。そして、特に医療関連分野では、国民は健康で安心で な科学技術。これを我々はナノメディシンと呼ん きる人生を送りたいと望んでいますし、関連する産業も伸ばしていく必要 でいます。ナノテクノロジーをベースにした、新 があります。そのためには、政策・法律・監視体制など社会基盤整備が不 しい医療のことです。文部科学省の科学技術振興 可欠ですが、あまりうまくいっているとは言えないのが現状です。他方で、 調整費のプロジェクト「医療ナノテクノロジー人 医療分野への先端科学技術の導入がどんどん進んでいます。低侵襲診断・ 材養成ユニット」で、平成16年から医療とナノ 治療、分子標的創薬、再生医療などですが、そういったものを実現する鍵 テクノロジーを融合させた教育を、医学系と工学 はナノサイエンスに基づいたナノメディシンです。我々の拠点は、すでに 系の大学院生を対象に進め、それをベースにして、 いろいろな教育体系を作ってきました。 ナノメディシンの科学技術基盤を持っていますので、それをいっそう発展 させるとともに、社会的見識と先導的経営力を持った人材を育成すること。 片岡教授 それが拠点の目的です。 先端科学技術、特に医療分野では、医療を受ける側の人にとって期待も大きいですが、不安もありますよね。 「ナノバイオ・インテグレーション研究拠点」もありますが、これも片岡先生がリーダーですよね。 片岡:そうです。これもやはり文部科学省のプロジェクトですが、これは教育ではなく研究プロジェクトで、理科系は学内の ほとんどすべての部局が参加しています。医学系、工学系、薬学系、理学系、農学生命科学、および総合文化の各研究科、そ 片岡:そのとおりです。だから、象牙の塔に閉じこもってはいられないのです。社会との接点を十分に考え、バランス感覚を れに東大の中の3つの研究所(生産技術研究所、先端科学技術研究センター、医科学研究所)の研究者たちがメンバーになっ 持って推進していく必要があります。科学者・技術者であっても、社会・経済・経営のことも分かる人でなければなりません。 ています。総勢50人ぐらいです。関連分野の研究者が一堂に集まって、ナノテクノロジーとバイオの融合領域を共同研究と そういう広い視野を持って社会を先導し、先端科学技術が新たに実用化され産業化される道を切り開ける人材を育成しようと いう形で進めています。 考えています。 そのほかにも、工学系にバイオエンジニアリング専攻ができていますし、医学系では疾患生命工学センターがあります。後 者は医工連携を行なうセンターで、医工連携部とティッシュ・エンジニアリング部が活動を始めています。このように東大に 医療費の増加が問題になっていますが。 は確固たる科学技術基盤がすでにできているのです。 片岡:この10年ぐらいの日本は、医療費抑制という方向でやってきましたが、本当にこれでいいのかということです。本当 に抑制できるのかということもあるし、GDPの中に占める医療費の割合を見ると、先進国の中では決して高くはありません。 例えばアメリカやヨーロッパの国々に比べると半分ぐらいです。かつて医療機器の輸出国だった日本は、ここ十数年の間に輸 研究例がケース・スタディに 入がどんどん増えてきて、今では国内で使われている機器の半分以上が輸入した製品です。医薬品は、もっと大変な状況です。 そういう基盤の上で、グローバルCOEとして博士後期の大学院生を教育されるわけですが、こちらの拠点では、どのような ライフサイエンス分野の登録特許数も、日本は明らかに減りつつあります。 方法で行なわれていますか。 これは単に医療費が減ったとか増えたという問題ではなくて、例えば我々が病院に行って医療を受けると、それに伴ってお 金が海外に流出していくという構造になっているということです。これがもしも逆だったら、 診断・治療を受ける人もハッピー 片岡:社会に対する責任と、マネジメント・リーダーシップを重視しています。社会に目を向けると、新しい医療技術が社会 になるし日本の国も豊かになるはずです。この問題を何とかしなくてはいけないと思っています。 に出ていったときに、社会がそれをどう受け止めるか。つまり社会的責任ということをきちんと考えなくてはなりません。ま た、さきほどもお話ししましたが、日本の医療分野が国際的な競争力を取り戻すためには、科学者、技術者といえども経済の 1 この拠点には、医学、薬学それに工学という3つの分野の研究者のほかに、法学や経済学の先生方も入っている意味が分かり ことをよく知らなければなりません。国際的な視野に立って考え行動することが必要ですので、それに対応した教育を行なお ました。 うと考えています。 片岡:医療を支えてきた医学、薬学、工学という3つの科学技術分野がしっかりと手を携えて、こういった社会経済問題にも 講義だけでは、それはできませんね。 学融合に基づく医療システムイノベーション グローバルCOE ニューズレター No .7 2 片岡:そこで我々は、ケース・スタディに基づく学際的教育を実施し始めました。博士後期課程の1年目では基礎学力をつけ このほか、長寿命人工関節があります。 ますが、このケース・スタディは2年目の学生を対象に行ないます。まず特任教員をきちんと配置します。そして、医学系、 関節には、お椀のような形になっている 工学系と薬学系という異分野の学生が8人ぐらいでチームを組みます。チームで、実用化とか産業化の過去の代表的な事例を 骨頭という部分がありますが、特に股関 学習して、これがどのように社会に受け入れられたのだろうかということを学習した上で、先端医療システムに関連する企業 節の骨頭には大きな荷重がかかります。 や施設を見学します。インターンシップですね。 日本人の平均寿命は、医療技術の進歩な そういう準備をした上で、課題を選定しそれ どでずいぶん長くなりました。そうなる が事業化や社会需要にどのようにして至るのか と、手術しても5年、10年と経つと摩 を、ブレーン・ストーミング的に一緒に考えて 擦で摩耗してしまいますので、以前だと 発表させます。東大では、ナノメディシンに関 それほど持たなくてもよかったのが、今 する基礎的な研究、応用研究を数多く行なって では再手術の必要がでてくるようになり いますので、課題には事欠くことはありません。 ました。ところが、細胞の膜と同じよう この拠点でRA(リサーチ・アシスタント)に な構造を持ったポリマーを、お椀の表面 なる大学院生は、多かれ少なかれナノバイオロ にコーティングしておくと、これが全く ジー、ナノエンジニアリング、ナノマニピュレー 摩耗しないということが最近分かってき ションのいずれかに該当する研究を行なってい たのです。これを使った人工関節の臨床 ますので、自分の研究に近いところからケース・ 治験が東大病院で始まっています。 スタディのテーマを持ってきてもらいます。 基礎的な研究例についても、お教えください。 何か例を挙げてもらえますか。 片岡:バイオエンジニアリング専攻の一木(いちき)隆範先生の研究室では、生きたままのラットの脳の中を見ることができ 片岡:テーラーメイド人工骨というものがあります。人工骨は医療現場では非常にニーズが高いのですが、現在のものは機能 るようになっています。そうすると、例えば実際に脳に刺激を与えたときに何が起こるのかを、その場で観察できるのです。 的にはまだ本当の骨に遠く及びません。これを何とかしなくてはいけない。そこで、工学部で生体材料(バイオマテリアル) 将来的にはいろんな精神神経疾患の薬の開発にも役立つものと期待されます。 の研究が急速に進歩していますし、一方では鄭(てい)雄一先生の3次元造形技術がある。薬学では、骨を再生誘導する製剤 を探索する方法や、そういう薬を適切な方法でデリバリーする方法もかなり進んできています。この3つを合わせたら何がで きるだろうかと考えたら、生体材料と生理活性物質をインクジェット・プリンターで3次元造形して、再生誘導能を有する高 機能人工骨がつくれるんじゃないだろうかというような着想が生まれたのです。 社会との接点 社会科学イノベーションのためには、学生も社会を見なければならないと思いますが、具体的にはどのようにするのですか。 パソコンで印刷に使うインクジェット・プリンターですか。 片岡:神奈川県に、医療機器や医療材料 片岡:そうです。インクジェット・プリンターは字を書いていますけど、結局は造形技術です。要するに、コントロールすれ を作っている会社がありますが、その研 ばインクを好きなように出せるのです。実際、骨の材料であるリン酸カルシウムが固まるような液をインクジェットの先端か 究センターには、東大病院の手術室に匹 らピューッと出すと、その液が出てきたところだけ固まるのです。それで例えば頭蓋骨を簡単に作ることができるのです。こ 敵するような手術室があります。何のた の方法は、2008年から大規模治験に入っています。 めにつくったかというと、例えば新しい ただ、これは新しいものですから、それを実際に世の中に受け入れてもらうためには、どうすればよいか。また、医療産業 カテーテルや医療機器をつくると、最初 的に成り立つのかという経済的な側面も検討する必要があります。 こんなふうにして医学、 工学それに薬学の学生が一緒になっ はお医者さんでさえ使えないのです。だ てケース・スタディをやっていくわけです。 から、臨床のお医者さんをトレーニング するための疑似手術室を、自社内につ 研究例が、ケース・スタディとなって教育に使われるわけですね。ほかの研究例についてもお教えくださいますか。 くったわけです。そこに第一線の外科医 を呼んで、その最新の装置なり設備を実 3 片岡:これは私の研究ですが、高分子ナノキャリアによるがんの標的治療。ミセルというのですが、50ナノメートル、つま 際に体験してもらい、トレーニングをす りウィルスと同じくらいの大きさのナノカプセルを作って、その中に制がん剤を入れて人体に投与すると、血管の中をぐるぐ る。例えば、注射ロボットというのがあ る回ってがんの組織に集まって、がん細胞にその制がん剤を的確に送り届けます。これは既に臨床治験といって、実際にがん ります。腕があって、注射器で注射する の患者さんに投与するところまで来ています。今はいわゆる制がん剤ですが、将来的にはこの概念を、さらに遺伝子などにま と、ちゃんと静脈に入ればいいのですが、 で広げていくのがこれからの課題です。なおかつ、それを外部の物理エネルギーと融合させる。例えば光の当たったときだけ 突き抜けてしまったりすると装置が「痛 薬が出るというようなことをやってみたいと考えています。 い!」などと言うわけです。 学融合に基づく医療システムイノベーション グローバルCOE ニューズレター No .7 4 疑似体験というわけですね。 東大の大学院生が行って経験するということもできそうです。 片岡:同じように心臓にカテーテルを入れることなど、普通は工学系の学生にはできないですよね。医師免許を持っていませ マネジメントの関係でも、海外の大学に行くのでしょうか。 んので。だけど、そこでならロボットですからできるわけです。しかもそれを医学と工学という異分野の学生が一緒になって 行ないますから、非常に教育効果が高いのです。また、MRIを作っている会社では、実際に学生が自分で装置の操作を体験 片岡:イギリスに、インペリアル・カレッジというビジネススクールがありますが、そういうところに行きたいという人には、 をしてみることもできます。 そういう道も用意しています。多面的に人材を育成しようとしていることがお分かりいただけると思います。 このほか、医学系整形外科の中村耕三先生の発案ですが、いま問題になっていることを積極的に実地に見たほうがよいので はないかということで、例えば療養型の介護施設を実際に大学院生に見学させようとしています。今そこでは、どんな状況に 修了後は、どのような場で活躍することができるのでしょうか。 なっているのか、何が問題かというのを目の当たりにしてもらう。そうすると、自ら問題意識を持つようになります。 片岡:例えば科学の分野にあって、社会と対話しつつ学融合イノベーションを先導する人です。また、お医者さんなど医療に 大学院生は、それぞれ自分の博士論文のための研究がありますが、それとの関係はどうなのでしょうか。 従事していて、医工薬学に精通し、医療システムのグランドデザインを行なうことができる人。そのほかにも、グローバルな 視点で医薬品、医療機器審査の国際的戦略を先導する行政官も生まれてくると思います。こういう行政官は、非常に大切です。 片岡:学生には、今お話ししたようなことが、自分の研究とどのような関係があるのかというのは多分まだ分からないと思い 例えば審査などのガイドラインが作られますが、作るのは結局は人間です。ですから、やはりいろいろな国の思惑があるわけ ます。その仕上げをするのがケース・スタディです。そうすることによって、実際に最先端の科学技術と社会で問題になって です。黙っていると、日本が思わしくない方向にガイドラインができてしまう、ということになってしまいます。だからそう いることが結びついているということを事例で学習をするわけです。一度こういう学習をしておくと、研究者になって、その いう場に出ていって、単に聞いているだけではなくて、自分の意見をきちんと英語で説明できなければならない。そのために ような局面に出くわしたときに単純な拒否反応をしがちな場面でも、よりポジティブに考えることができるのではないでしょ は、法律の条文を知っているだけではなくて、やはり深い科学知識が必要になってきます。 うか。もちろん中には、大学院を修了したあとビジネスの世界に入っていく人もいるかもしれません。そのようなマネジメン 産業界では、QOL(Quality of Life:生活の質)を高める機器、医薬品、サービスの開発を先導する技術者や、世界の科学 トを行なう人や、社会医学関連の仕事をしている人たちともその視点で話ができると思うわけです。 技術と医療に精通した経営者も出てくるかも知れません。いろいろな活躍の場で、COEでできた人脈がきっと役にたつはず そうしないとお互いに自分の主張をしているだけになってしまい、非常に不幸な状態に陥ってしまいます。 「科学技術は偉 です。 大なんだ。専門家以外の人に分かるわけがない」と。そうすると相手のほうは、 「また気違い科学者が恐ろしいことをやろう としている」とか思うわけです。つまり、もう完全に相手を信頼しないような状況になってしまう。このような状況は、お互 文科系の学生に、ナノテクノロジーの勉強はきついかも知れませんね。 いを知る機会がないという単なるコミュニケーション不足やミスマッチだけの問題だと思うのです。そういうことを、少しず つでも解決していくことが非常に重要なことです。 片岡:例えばケース・スタディのときに一緒に入ってもらいます。そうすると、社会的に受容されるんですか、経済的にどう なんですかということが問題になったときに、今度は経済学とか法律の立場からどう考えるのか、彼の側から問題を投げかけ ることができます。文科系の学生も結局、いつ何どき、そういう科学技術が深く関係する局面に出会うとも限りません。だか 医療イノベーションを先導する 人 材 の 育 成 ら、それは文科系の学生にとっても大きな意味があると思います。普通だと、さきほどの医療機器メーカーの手術室を文科系 グローバル化ということでは、どういうことを考えていらっしゃいますか。 レーション技術を使いながら、最先端の医療技術というのをみんな習得しているというのが分かればいい。そういうものに対 の学生が見る機会はまずありません。だけど、そういうところへ行って、ああこんなに進んでいるんだとか、こういうシミュ する拒否反応がなくなるのではないかと思っています。 片岡:まず、海外への学生の派遣ですが、主なところとしてはアメリカのハーバード大学のマサチューセッツ総合病院。ここ は、再生医療とナノメディシンで世界をリードしています。テキサス大学のMDアンダーソンがんセンターもナノメディシン まさに学際領域という感じの拠点だということが、よく分かりました。 で先端を走っています。そういったところのサマースクールに学生が参加することによって、各国の大学院生などの若手研 究者と交流することは相互の啓発と国際的な人脈形成におおいに役立つはずです。これ以外にも今、アメリカのNIH(国立 片岡:私は、日本の大学は、教員が学生、特に博士課程の学生を囲い込んでしまうことが問題だと思っています。一つの研究 衛生研究所)の中の国立が 室にじっとしていて、そこでだけ実験をやっているわけです。共同研究といっても、せいぜい自分たちの分野内での話です。 ん研究所(NCI:National 自分の研究分野に近いところで何が行なわれているかは分かっても、全然違うところでどんな形で研究が行なわれているかを Cancer Institute)、 こ こ は 知る機会はほとんどないのが現状です。だから、企業からは、博士号を取得した人は使い物にならないなどと言われるわけで スタンフォード、カルテッ す。前総長の小宮山先生がよくおっしゃっていた「学問の細分化」です。研究者も結局は人間ですから、 知り合いをつくる、 ネッ ク、ノースウェスタン、ハー トワークを作るということは非常に大切です。東大は総合大学ですから、一つのキャンパスにいろいろな分野の研究室があり バードなど主な大学はほと 学生がいるわけですから、これを活用しない手はないと思います。 んど入っているところです が、このNCIを経由して、 我々の拠点の大学院生を受 今日はどうもありがとうございました。 (インタビュアー: COEプログラム推進室長 矢野正晴) け入れてくれる予定です。 これは例にすぎませんが、 そういう最先端のところに 5 学融合に基づく医療システムイノベーション グローバルCOE ニューズレター No .7 6 Interview with Prof. Kazunori Kataoka, project leader Interdisciplinary, combined fields, new disciplines Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration Project objectives I am visiting “Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration,” one of the Global COE Project bases, to interview its leader, Professor Kazunori Kataoka. Professor Kataoka, could you tell us the aims of the Center? Prof. Kataoka: Japan is leading the world in moving toward a superaging, maturing society. People wish to live healthy and comfortable lives and, in order to fulfill their needs, it is especially necessary to promote the growth of the medical services industry and other relevant industries. To do so, the social infrastructure, including policies, laws and regulations, and supervisory systems should be adequately developed, but I am afraid, to date, we have not been very successful. In the medical field, more and more cutting-edge scientific technologies have been applied, including less-invasive diagnoses and treatments, moleculartargeted drug discoveries, and regeneration therapies. The key to the application of these technologies is nanoscience-based nanomedicine, Professor Kataoka which our Center already has. The aims of the Center are to further develop its existing scientific and technological infrastructure for nanomedicine and to train researchers to acquire both socially-oriented insights and leadership and managerial skills, so that scientific innovation can materially benefit society in a timely manner. Kataoka: Medical care has been supported by a strong combination of medicine, pharmacy and engineering. Those involved in these three scientific-technological fields should also direct their attention to socio-economic issues and provide education and training to raise researchers’ awareness of how they can contribute to society. By doing so, we can promote scientific-technological innovation as well as socio-economic innovation, and in this way train researchers to play a leading role in creating a new era. Could you give us specific examples? Kataoka: We have named such researchers “�-type researchers.” They can both ‘push’ scientif ic-technological innovation and ‘pull’ socio-economic innovation. In providing training to help researchers become competent �-type researchers, there are some important factors. One of them is full involvement in cuttingedge scientif ic technology that can suppor t new advanced medicine , which we call ‘nanomedicine.’ Nanomedicine is a new field of medicine where nanotechnology is applied. Since 2004, under the “Nano Bioengineering Education Program,” a project funded by the Special Coordination Funds for Promoting Science and Technolog y of the Ministr y of Ed u c a t i o n , C u l t u r e , S p o r t s , S ci e n ce a n d Te ch n o l og y ( M E X T ). We h ave p r ov i d e d mainly graduate students in the School of Medicine and School of Engineering with an education where medicine and nanotechnology are integrated. Through these educational efforts, we have established a variety of different educational curricula. There is the “Center for NanoBio Integration.” You also serve as the leader for this Center. People have high expectations for cutting-edge scientific technologies but at the same time they also feel anxiety. This is particularly true for those who receive medical care using advanced technologies. Kataoka: Yes, that is true, and therefore we should not confine ourselves in an ‘ivory tower’ of academia. We need to consider carefully how we can make the best use of these technologies and especially promote their practical application in a well-balanced manner. We need scientists and engineers who can understand social, economic and business issues. Therefore, one of the goals of our Center is to train researchers who can lead society from a broader perspective and find new ways to commercialize and industrialize cutting-edge scientific technologies. There has been concern over the increase in medical expenses? Kataoka: Over the last decade, the Japanese Government’s policy has been to reduce medical expenses. But, is this really the right direction? It is not clear whether we can really control medical expenses or, that they can be treated in isolation to other societal investments. Indeed, the ratio of medical expenses to GDP in Japan is not high in comparison with the ratios in other developed countries. For example, the ratio in Japan is merely half the ratios of the United States and European countries. Japan was once an exporter of medical devices but over the last decade or so, the number of imported medical devices has kept increasing. Now more than half of the devices used in Japan are imported. As for drugs, the ratio of imported products is much higher. In the life science field, the number of registered patents is obviously decreasing in Japan. The issue is not whether medical costs have decreased or increased but, for example, if you go to a hospital and receive treatment, the money you will pay there will go overseas. If this situation is reversed, people who are diagnosed and receive treatment would feel happy and Japan would become affluent. I think we have to address this issue. Now I understand why the Center involves researchers in the fields of law and business economics, in addition to the fields of medicine, pharmacy and engineering. 7 Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration Kataoka: Yes. This is also a project sponsored by MEXT. This is not an educational project; it is a research project in which almost all science-related faculties and institutions at the University participate. Project members consist of researchers from the Graduate Schools of Medical Science, Engineering, Pharmaceutical Sciences, Science, Agricultural and Life Sciences, and Arts and Sciences; and three institutes of the University of Tokyo (Institute of Industrial Science, Research Center for Advanced Science and Technology, and Institute of Medical Science). There are approximately 50 members in total. Researchers from relevant disciplines gather to conduct joint research in the integrated field of nanotechnology and bioengineering. In addition, a Department of Bioengineering has been established in the School of Engineering. In the Faculty of Medicine, there is the Center for Disease Biology and Integrative Medicine, which aims to promote cooperative efforts between medicine and engineering. The Cooperative Unit of Medicine and Engineering Research and the Division of Tissue Engineering have already started research activities. As these examples show, the University of Tokyo has already established a solid foundation in scientific technology. Research examples as case studies Based on this solid foundation, doctoral students receive an education provided as part of the Global COE project. What kind of educational methods do you adopt in your Center? Kataoka: We emphasize responsibility to society and management leadership. We have to constantly monitor the needs of society to understand how society will react to new medical technology when it is introduced. It is important to consider our social responsibility. As I have mentioned earlier, in order for Japan to regain its competitiveness in the field of medicine, scientists and engineers are also required to be familiar with economic issues. It is necessary for them to think and act globally. Our aim is to provide ‘best in class’ education to meet these goals. Global COE News Letter No.7 8 Classroom lectures alone may not suffice? Kataoka: We have therefore started providing interdisciplinary education based on case studies. Students in the first year of the doctoral course learn the basics and, in their second year, they are required to take curricula based on the case study method. Professors are designated to be responsible for the curricula. About eight students from different disciplines – medicine, engineering and pharmacy – make a team and study as a team representative cases of practical application and industrialization of previous new medical technologies to understand how they were accepted by society. The students then visit companies and institutions involved in advanced medical care systems. This is a kind of internship program. After completing this preparatory work, students select a technology for brainstorming in which they discuss how the technology can be commercialized and how it can meet social needs. The students are required to give a presentation on the results of their brainstorming. Because many basic and applied research projects concerning nanomedicine have been conducted at the University of Tokyo, students never have difficulty in finding a subject for discussion. Graduate students who serve as research assistants (RAs) at this Center have conducted research on subjects more or less associated with either nanobiotechnology, nanoengineering or nanomanipulation, we ask them to pick up a theme for case studies from among those they are familiar with. tissues. The drug is delivered to the cancerous tissues accurately. We are already conducting a clinical study in which drug-loaded micelles are administered to cancer patients. This micelle technology has so far only been applied to delivering anticancer dr ugs , bu t in fu ture we will expand its application to genes. We are also considering fusing micelles and external physical ener g y. For example, we could design a micelle to release the drug only when it is exposed to light. Another example is long-life artificial joints. In a hip joint there is a socket-shaped par t called the acetabulum. Particularly in the hip joint, an excessive load is placed on the acetabulum. As medical technology has advanced, the average life expectancy of the population of Japan has significantly increased. An artificial hip joint may wear out in five to ten years after surgery, which was long enough before. But now people live longer, and those with an artificial hip joint may need to undergo surgery again in their lifetime. It has recently been proven that, if you coat the surface of the acetabulum with a polymer that has the same structure as the cellular membrane, the acetabulum will not wear out at all. A clinical study of an artificial hip joint using this technique has been started at the University of Tokyo Hospital. Is there an example involving basic research? Could you give us some examples? Kataoka: One of them is tailor-made artificial bone. There is a very high demand for artificial bones in clinical settings, but the types currently available fall far short of real bones in terms of functionality. We wanted to do something about it. At the Faculty of Engineering, research on biomaterials has progressed rapidly. There is also the three-dimensional manufacturing technology developed by Dr. Yuichi Tei/Ung-il Chung. At the Faculty of Pharmaceutical Sciences, methods to discover a drug that guides bone regeneration and to deliver such a drug appropriately have also been developed at a rapid pace. We thought we might be able to create something new and useful if we combine these technologies. As a result, we have come up with an idea: we may be able to use an inkjet printer to produce three-dimensional structures from biomaterials and physiologically active substances, based on which we could develop high-performance artificial bones that help regenerate bone. You mean inkjet printers for computers? Kataoka: Yes. Inkjet printers are conventionally used to print text, but the underlying technology is a modeling technology. You can control the amount of ink to be ejected. If you eject from the nozzle of an inkjet printer a curing solution that makes calcium phosphate (a main constituent of bones) harder, the place onto which the liquid has been ejected hardens. In this way, we can easily make, for example, a skull bone. A large-scale clinical study of this method has started in 2008. This is a new method, so what should we do to have it accepted by the public? We also need to assess if this method could be commercially profitable in the healthcare industry. In this way, students in medicine, engineering and pharmaceutical sciences conduct an interdisciplinary case study. So you use research examples as case studies to educate students. Are there any other research examples? Kataoka: This is my research project: cancer targeted therapy using polymer nanocarriers. We encase an anticancer drug in a nanocapsule as small as 50 nanometers, which is the size of a virus. This nanocapsule is called a micelle. When administered to a patient, micelles containing the drug circulate through the blood vessels until they reach cancerous 9 Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration Kataoka: In the laboratory of Dr. Takanori Ichiki, an associate professor of bioengineering, researchers can see inside the brain of a living rat. This allows students to observe what is happening when the brain is stimulated. It is expected that this will be useful in developing drugs for treating various neuropsychiatric disorders. Points of contact between students and society F o r s u c c e s s f u l so c i a l s c i e n c e innovation, students also have to keep monitoring the needs of society. What specific measures have been taken? Kataoka: In Kanagawa Prefecture, there is a company manufacturing m e d ic a l d ev ices a nd ma te r ia ls t h a t h a s a n o p e r a t i ng t h e a te r compa r a ble to t he one at t he U n i ve r s i t y of To k yo H os p i t a l . Why? Because before doctors can use a newly developed medical device such as a catheter, they need training. The manufacturing company has therefore constructed ‘pseudo-oper ating theater s’ on their premises to provide training for clinicians. They invite first-line Global COE News Letter No.7 10 surgeons to experience their cutting-edge equipment and facilities. One of those new developments is an injection robot. If you insert a needle into the vein in the robot’s arm correctly, everything’s okay. But if the needle penetrates the vein, the robot says, “Ouch!” National Cancer Institute (NCI) of the US National Institute of Health (NIH). This is just an example and it is likely that there will be more opportunities for graduate students of the University of Tokyo to study at the most advanced institutions in the world. So, they can simulate real usage? Are there also overseas programs to study management? Kataoka: It is not usually allowed for students studying engineering to insert a catheter into the heart. They are not qualified doctors. But they can with the robot. In our program, students of medicine and students of engineering gather together in the operating theater to experience the use of such cutting-edge instruments. This has a significant educational effect. One of the companies manufacturing MRI allows our students to simulate the operation of an MRI system. In addition, based on an idea by Dr. Kozo Nakamura of the Department of Orthopedic Surgery at the Faculty of Medicine, we provide students with as many opportunities as possible to learn about current issues in actual settings. One such example is a visit by graduate students to convalescent care facilities. After seeing actual situations with their own eyes and finding problems there, they become problem-conscious. Kataoka: There is the Imperial College Business School in the UK. If there are any students who wish to study there, we have a system to support them. These efforts of ours show you how well our program is designed to help students become versatile and adaptable. Graduate students have to carry out their own research activities to complete their doctoral thesis. How do they correlate their research with the case study program? Kataoka: I do not think that students understand, at this stage, how the activities I have mentioned affect their own research. The case study program serves as the finishing step to help students understand how cutting-edge scientific technology and society are connected. Once students learn this connection firsthand through a case study, I think, after becoming researchers, they can address any issues positively, even when they face issues that they might just simply not understand and reject otherwise. Some may go into the business world after completing the postgraduate course and become involved in management. I believe they are ready to discuss and share their views with those involved in social medicine. Without these experiences, researchers in fields of scientific technology and people who are not involved in scientific technology tend to just see things from their own point of view and not listen to others, resulting in a very unfavorable situation. The researcher may say, “Scientific technology is great. Laymen will never understand.” In response, the layman may say, “Those crazy scientists are trying some terrible manipulation again!” In this situation, they will never be able to trust each other. But this happens only due to a lack of communications, and different priorities, stemming from lack of opportunities to get to know each other. It is important that we resolve this situation bit by bit. Training students to become leaders in medical systems innovation What programs do you offer in terms of globalization? Kataoka: We offer programs for students to participate in summer schools at overseas medical institutions. One of them is the Massachusetts General Hospital in Harvard University, which leads the world in regeneration therapy and nanomedicine. Another is The University of Texas MD Anderson Cancer Center, which is also a world-leading institute in nanomedicine. For our students, participating in summer schools offered by these institutions would be very benef icial: they can interact with graduate students and young researchers from other countries, enabling them to learn from each other and build a global network of personal relationships. In another progr am that we ar e planning, students from our Center are given the opportunity to study at Stanford U nive r si t y, C alifor nia I ns ti tu te of Te c h n o l o g y, N o r t hwe s t e r n University, Harvard University, and other major univer sities via the 11 Medical System Innovation through Multidisciplinary Integration After completing the course, how do students make use of what they have learned? Kataoka: For example, they can lead innovation through multidisciplinary integration in the field of science while communicating with the public. They can be doctors or other medical care providers who can design a comprehensive medical care system based on a thorough knowledge of medicine, engineering and pharmaceutical sciences. They may serve as government officials who can initiate global evaluation strategies concerning drugs and medical devices. Government officials with a global perspective are very important. In preparing guidelines for evaluation, government officials from different countries have different intentions. They are human beings, after all. If you keep silent, the completed guidelines may not be in favor of Japan. Government officials should not just be there and listen to others, but should also join in the discussion and express their opinions in English. To do so, just being familiar with the texts of laws and regulations is not enough. They also need profound scientific knowledge. Some students going into engineering industry may lead the development of devices, drugs and services that improve quality of life. Others may become business persons with in-depth global knowledge both of scientific technology and medicine. I am sure that, on various occasions, they will be able to make use of their network of contacts built through the COE project. For students in the liberal arts, nanotechnology-related subjects may be too difficult to understand. Kataoka: We encourage them to join our case study program. When questions such as “Is it acceptable in terms of social standards?” or “Is it economically viable?” emerge, students specializing in economics or law can join in the discussion. They may also be able to raise questions from the standpoint of economics or law. Students in the liberal arts may also face situations at any time when they have to deal with issues closely associated with scientific technology. So joining our program should be very meaningful for them, too. They usually have almost no opportunity to see the operating theater of the company that manufactures medical devices I mentioned earlier. But students on our COE program are provided with an opportunity to see cutting-edge technology and understand how simulation technology is applied to help doctors learn about advanced medical technology. After this experience, I do not think they will simply reject nanotechnology or other technology as being too complicated in the future. I now can clearly understand how truly multidisciplinary your Center is. Kataoka: I think the problem with Japanese universities is that faculty members enclose their students, especially doctoral students, within the laboratory. Students are confined to one laboratory and conduct experiments there. Even what they call joint research is limited within their research field. In this way, they may be able to understand what other researchers do in fields closely related to theirs, but they have little opportunity to know what kind of studies are being conducted in fields that are not relevant to their own. This is why companies say that graduates with a doctorate are useless. This is the ‘segmentation of knowledge’ often pointed out by previous President Komiyama. Researchers are human beings after all and therefore it is very important for them to become acquainted with other people and build networks. The University of Tokyo consists of different departments and there are laboratories and students in various fields on its campus. Students should take advantage of this environment. Thank you for giving us your time for this interview today. (Interviewer: Masaharu Yano, COE Program Promotion Office) Global COE News Letter No.7 12 拠点概要 CMSI学生インタビュー 東京大学グローバルCOE「学融合に基づく医療システムイノベーション」とは 「学融合に基づく医療システムイノベーション(CMSI:Center for Medical System Innovation) 」は、医療分野におけるイ ノベーションをグローバルな視点で牽引しうるリーダー人材の育成を目的とした教育プログラムです。医工薬融合領域におけ る最先端の成果に関する講義だけでなく、成果の社会還元に関する講義、分野横断的な実習、企業や海外大学での長期間のイ ンターンシッププログラム、ケーススタディーなどの実践的なカリキュラムを介し、各個人レベルでの知と経験の統合を目指 上野 傑さん します。 所属:薬学系研究科 統合薬学専攻 生体異物学教室 博士課程2年 拠点のミッション グローバルCOEプログラム、そして「学融合に基づく医療システムイノベーション(CMSI)」にはどういった印象を持っ 日本は世界に類を見ない超高度高齢化社会へ世界の先頭を走り、人類未体験状況を受け入れるための新たな社会システム構 ていますか。 築を模索しています。特に医療関連分野は、健康で安心できる人生を望む国民の関心が集中するとともに、科学技術立国の中 単に研究の延長としてその内容の発表をして終わるのではなく、博士課程の私の視点を広げるような教育プログラムを提供 核産業としての期待が高く、世界リーダーとしての地位確立が最優先国家戦略と位置づけられています。今日、医療分野への しようとしていること、学生からの積極的な姿勢を評価してくれること、そしてグローバルな視点で貢献できることに強く共 先端科学技術の導入は加速の一途を辿っており、とりわけ、先端医療の究極目標である低侵襲診断・治療、分子標的創薬、再 感を覚えました。本プログラムでは、すでに講義を受講していますが、他研究科の学生から出る質問によって自分の視野の狭 生医療の実現の鍵であるナノテクノロジー・ナノサイエンスに立脚した医療体系、すなわち、ナノメディシン確立の必要性が さに気付かされる事があります。例えば、私はつい分子機序の面から物事を考えがちですが、工学系や医学系の方は臨床現場 叫ばれています。ナノメディシンは、生体の機能や構造をナノスケールで理解する「ナノバイオロジー」 、生体の機能や構造 での使われ方など、実医療に目を向けた非常に芯を突いた質問をしてくる。こういった価値観をぶつけ合う「場」として講義 に啓発されたシステムやデバイスを創成する「ナノエンジニアリング」 、上記のような知識やデバイスを用いて生体をナノス の有用性を感じる機会が多々あります。異なる価値観に触れることで自分の専門性に対する自覚も高まります。一方で他研究 ケールで操作して医療へと展開する「ナノマニピュレーション」の三つの柱とその融合により実現されています。 科との前提の違いに適応できない場合、自分の知識や経験の限界を感じ、どのように異分野の方々と連携すべきか、相手のニー 本拠点はこれら三本柱の強固な科学・技術的基盤を既に持っており、その一層の促進を通じて成果の社会還元を先導する人 ズは何かなどと考えさせられる機会も多いです。 材を育成することを目的とします。その際、先端科学・技術が社会において、ときに期待のみならず不安を惹起することも十 分理解し、象牙の塔に籠もって独善的になることなく、社会との接点を十分考慮してバランスのとれた推進を行ないます。 拠点の人材育成構想 「学融合」をテーマとするこのプログラムですが、ご自身の研究にはどう活用していこうとお考えですか。 私は各臓器においてがんが転移しやすい環境を作る原因物質として、糖鎖結合蛋白質(レクチン)に焦点を当てて研究して います。がんの転移メカニズムに迫ることで、転移をブロックする医薬品の開発にもつながると考えています。がんの転移形 本拠点では医工薬が緊密に連携する世界最先端の研究開発および先端医療を推進している現場に確固たる軸足を置きつつ、 成の可視化を目指し、工学系の小動物イメージングや医学系のMRIやCT、分子イメージング技術を活用したいと考えており、 多様な事業化・産業の生の姿や現実の社会での経験を積む機会を提供する体制を形成します。この体制を最大限活用して、先 これには他研究科との連携が不可欠だと思います。 端医療システム実現のための複合的分野を科学として統合するとともに、教育体制を構築して当該分野を先導する国際的人材 を育成します。育成された人材は、ナノメディシンに代表される先端科学技術を理解・推進・評価できる力量とともに、社会・ CMSIでは海外大学との連携についてもチャンスが数多くあります。どのようなチャンレンジをしたいですか。 経済・経営にも広い視野を持つ「П(パイ)型人材」として、社会を先導し、先端科学技術が新たに実用化・産業化される道 子供の頃に通っていたカリフォルニアのインターナショナルスクールでの経験から、「日本人は会議の時に黙っている」こ を切り開くことが期待されます。 とが多く、その当然の帰結として日本人は世界的に存在感がなくなっていると感じます。これは単にディスカッションに慣れ ていないだけだと思いますので、CMSIが海外への渡航への支援など博士課程の学生に実践的な教育の機会を提供するとい うのは重要だと思いますし、臆せず参加していきたいと考えています。 CMSIの卒業生は多様なキャリアパスを選択することが期待されています。上野さんご自身はどういったキャリアパスを描 き、それに対してCMSIでの活動はどのように貢献しうるのでしょうか。 3年間で薬学系の博士号を取得するのが第一の目的です。その専門性を軸に様々な分野に派生させていく、つまり社会から の多面的な期待に応え得る人材になりたいと考えています。私はビジネスの世界にも興味がありますので、今回のCMSIで 培った人脈やスキルを活用して、ビジネススクールへの進学や企業経営に関わる仕事など、知を結集させ、問題解決を行なっ ていくようなプロセスに関わっていきたいと考えています。 最後にCMSIに参加する学生さんに一言お願い致します。 私も主体的、積極的に活動に参加していこうと考えていますので、他の学生の皆さんも協力して頂きたいと思います。ぜひ そのような中で、自分の狭い視野をはるかに越えるような、斬新な視点からのご意見を頂ければと考えています。 13 学融合に基づく医療システムイノベーション グローバルCOE ニューズレター No .7 14 CMSI - GCOE Student Wo r k s h o p CMSI社会還元系:学生交流プログラム 「学融合に基づく医療システムイノベーション(CMSI) 」では、医工薬融合による最先端研究の推進と同時に、研究者の 「学融合に基づく医療システムイノベーション(CMSI)」では、最先端科学技術のイノベーションを推進すると同時に、 社会・ 国際的な発表能力向上を目指し、「CMSI- GCOE Student Workshop」という取り組みを行なっている。このワークショッ 経済的側面においてもイノベーションを推進することのできる人材の育成を目指している。そのため医学系、工学系、薬学系 プでは、海外協力拠点より第一線の研究者を招聘、アドバイザーを務めて頂き、本GCOEプログラムに参加する学生の研究 の各領域に加え、社会還元学系を新設し、科学技術の事業化に向けたスキルセット、マインドセットの構築や、技術革新が社 発表にアドバイスをいただくことで、先端研究のより一層の推進と国際的な人材交流が期待される。 会に及ぼす影響などについても学ぶことを本プログラムの特色としている。その社会還元学系の取り組みとして、特に異なる 第1回の Workshop が2008年に開催されたので、以下に報告する。 専門性を持った海外大学の学生と国際的な交流を持ち、コミュニケーション能力を高める目的で「学生交流会」 を企画している。 その初めての取り組みとして、2008年12月にスタンフォード大学のビジネススクール(GSB : Graduate School of Business)との学生交流会が開催されたので以下に報告する。 第1回CMSI- GCOE Student Workshop 開催報告 CMSI- GCOE Student Workshop オーガナイザー 第一回 「スタンフォードビジネススクール - 東京大学学生交流会」 開催報告 桶葭興資(工学系研究科マテリアル工学専攻博士課程3年) 長田健介(工学系研究科マテリアル工学専攻、CMSI工学系特任講師) スタンフォードGSB交流会オーガナイザー 日時:2008年11月19日(水) 上野傑(薬学系研究科統合薬学専攻 博士課程2年) 会場:山上会館 201、203会議室 プログラム “Frontiers in Nanomedicine” Adviser: Prof. E. Wagner 日時:2008年12月17日(水) “Frontiers in Nanobiomaterials” Adviser: Prof. M. Textor 会場:医学部図書館大会議室 プログラム 13: 00 ~ 14: 10 発表(3名) 13: 00 ~ 14: 00 発表(3名) 9:00-10:00 本郷キャンパスツアー(GSB学生) 14: 30 ~ 15: 20 発表(3名) 14: 20 ~ 15: 20 発表(3名) 10:00-11:30(第一部) 講演(東京大学 小宮山宏総長、経済産業省大臣官房審議官 石黒憲彦氏) 15: 40 ~ 17: 20 発表(5名) 15: 40 ~ 17: 00 発表(4名) 11:30-12:30(第二部) 学生グループ討論会 第1回CMSI- GCOE Student Workshop には、医工 「学融合に基づく医療システムイノベーション」に所属する学生とスタンフォード大学ビジネススクール(GSB : 薬の各研究科から30名を超える参加者が集まった。本 Graduate School of Business)との学生交流会が、80名を越える参加者を集め開催された。当交流会は、社会還元 ワークショップには海外連携拠点から Ernst. Wagner 教 系リーダーの木村廣道特任教授(薬学系研究科)が主催し、東京大学からは30名のGCOE博士学生が参加した。 授(LMU University of Munich) と Marcus Textor 教 授 GSBからは、学生28名と代表教授1名が参加し、日本発のイノベーション「J-Innovation」をテーマとした学生討 (ETH, Zurich)をアドバイザーとして招き、“Frontiers in 論会という位置付けで行なわれた。 Nanomedicine” と “Frontiers in Nanaobiomaterials” の二つ 第 一 部 に お い て、 小 宮 山 宏 総 長 が「Year 2050 : benchmark of のセッションを設け、各テーマの議論を深めた。 civilization」、石黒憲彦氏が「Policy for Enhancement of Open Innovation 本ワークショップでは両セッションを合わせて、20名 in Japan」というタイトルでそれぞれ講演され、東京大学におけるリーダー の博士取得者と博士課程大学院生の口頭による発表 (英語) シップ教育の在り方や、日本発のイノベーション振興の施策について活発 が行なわれた。各発表に対して、二人の教授のアドバイス な質疑応答が行なわれた(写真左:講演される小宮山宏総長) 。第二部に をはじめ、参加者ひとりひとりの疑問点において十分議論 は各テーブルにGCOEの特任教員が配置され、10人1組になって第一部 する、双方向性の高いワークショップであった。各発表者 の講演内容についてグループ討論を行なった。 は、素朴な質問からデータの解釈まで充実した議論を通し、 さらに交流会で得られたネットワークを基に、学生同 研究内容全体の解釈を新たにすることができた。また、参 士はその後六本木に場所を移し、同年代でありつつ視点 加者が互いの先端的な研究内容を知ることで、より洗練さ の違う海外学生と学生生活や将来の夢をお互いに語り合 れた研究の推進が今後期待される。今回初めて英語の口頭 い、大きな刺激を受けることができた。 発表を行なう大学院生も多く見られ、今後の国際発表につ GSB海外研修プログラムの中でも、東京大学訪問は今 ながる有意義なワークショップであった。 回が初めてであり、当学生交流会が成功したことは、両 2009年以降もCMSI- GCOE ワークショップは随時開催される予定であり、新たに参加、発表される方々も 大学の今後の交流にも大きな意味があったと考えている この機会を十分に生かして、国際的発信力の高く視野の広い先端研究者となることを期待される。 15 安西智宏(CMSI社会還元系 特任講師) 学融合に基づく医療システムイノベーション (写真右:当交流会参加者)。 グローバルCOE ニューズレター No .7 16