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資料8−1 - 消費者庁
資料8−1 平成14年5月28日 IMD 国際競争力年鑑2002 結果概要について 電通総研 主任研究員 袖川芳之 1.総合ランキングの概要 <全体的な概要> • 総合ランキングの1位はアメリカで、2位以下を大きく引き離しています。アメリカは 94年から連続で1位を獲得しています。 • 2位以下はフィンランド、ルクセンブルグ、オランダ、シンガポール、デンマーク、ス イスと小国が上位を占めています。その中でもヨーロッパの小国が躍進し、昨年2 位のシンガポール(5位)や香港(9位)は順位を落しています。 • 日本は01年の26位から02年は30位と順位を下げました。アジアの国の中では マレーシアと韓国に抜かれ、中国が31位とすぐ後に迫っています。 <日本の総合順位の推移> 89年から93年まで日本は1位を維持していましたが、その後順位を下げ始め、90 年代半ば以降はトップグループからはずれ、未だに下落傾向にあります。 日本の総合ランキングの順位の推移 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 (年度) ( 発表年) 00 01 02 0 順位︵位︶ 5 10 15 20 25 30 35 ※94年、96年、2001年にデータの継続性に断裂があります。 94年:途上国と先進国のランキングを統合、96年:世界経済フォーラムと別々に発 表。IMD 独自の計算方式へ、01年: I MD内での計算方法の大幅な変更。 1 2.ランキングから見る日本の強みと弱み 1)日本が高い順位を維持している項目 →輸出競争力、初等教育、R&D費、特許件数は高順位を維持しています。 <経済パフォーマンス> →経済の対外的な競争力(aggressiveness)は高順位を維持しています。 • 経常収支 1位 • 製品輸出 3位 • 消費者物価のインフレ率 3位 <政府の効率性> →教育も基礎的な教育のレベルは高順位にあります。 • 中学校レベルへの進学率 1位 • 高等学校レベルの教育の達成率 2位 • 識字率 3位 →政府は財政赤字を持つものの、外貨準備高がカバーしています。 • 総外貨準備高 1位 • 貸出−貸借の利子率のスプレッド(開き) 3位 <インフラ> →特許取得件数は多いものの、特許取得の海外戦略に乏しいと指摘されています。 • 居住者に対する特許の付与数 1位 • 海外での特許獲得数 2位 →R&D費は国際的に高い水準にあります。 • 総R&D費のGDP比 3位 • 一人当りの総R&D費 1位 • ビジネス部門の一人当りR&D比 3位 • 稼動しているコンピュータの世界シェア 2位 2)日本が最下位に近い項目 <国内経済> →GDP比率で経済パフォーマンスを見ると、日本の順位は下がります。 • GDPに対する輸出入比率 49位 • サービス輸出のGDP比 48位 →オフィス賃料を除いても、国民の生活コストは国際的に高水準です。 • 生活コスト指数 48位 <政府の効率性> →教育の競争経済への貢献度は、日本人自身がほとんど評価していません。(大学 教育の質自体の評価ではないことに留意) • 大学教育は競争主導の経済のニーズにマッチしている(調査)49位 • 教育システムは競争主導の経済のニーズにマッチしている(調査) 47位 2 →外国人の能力や外資の活用面で不都合を感じています。 • 公共部門の契約は外国人入札者にも十分に開かれている(調査) 48位 • 移民法は外国人労働者を雇う際の障害となっている(調査) 49位 • 外国企業は国内法によって差別されている(調査) 47位 <産業効率> →ベンチャー精神や新事業の立ち上げの気運に乏しい。 • 起業家精神は自国では普通にみられる(調査)49位 • 新しい企業の立ち上げは珍しいことではない(調査) 48位 →コーポレート・ガバナンスに問題を感じています。 • 株主の権利と責任は十分に定義されている(調査) 49位 • 株主価値は十分に管理されている(調査) 49位 • 金融機関の透明性は十分に確保されている(調査) 47位 <インフラ> • 国の文化は国外のアイデアに閉鎖的である(調査) 49位 • 産業部門に対する電力コスト(1時間当りのキロワット) 48位 3)昨年(2001年調査)から大きく下落した項目(抜粋) →対内直接投資は増えつつあるものの、他国の伸びには追いついていません。 • 対内直接投資額(ストック) の実質成長率 10→35位 • 対内直接投資(フローの額)14→24位 →税収が落ちこんでおり、また税制に対する不満もあります。 • 所得税の徴収額(GDP比)14→20位 • 利益に対する平 均法人税額 28→46位 • 税金は職の獲得やさらに収入の高い職を獲得する意欲を損ねている(調査)23 →37位 • 国境を超えたベンチャー企業は外国人パートナーと自由に交渉できる(調査)26 →43位 →グローバルな労働市場から人材を調達できない上に、国内の労働者のモチベーシ ョンは下がっています。 • 生産拠点の移転(空洞化)は自国の将来にとって脅威である(調査) 33→45位 • 頭脳流出は自国の競争力には影響していない(調査) 9→21位 • 技量を持ったエンジニアは自国の労働市場で調達できる(調査) 16→23位 • 労働者のモチベーションは自国では高い(調査) 6→12位 • 労使関係は一般的に生産的である(調査) 5→10位 • 資本コストはビジネスの発展を阻害している(調査) 15→30位 • 製造業の労働コスト (変化率)4→36位 →知力活用のためのインフラも不足しています。 • 企業間の技術協力が欠けている(調査) 8→16位 • 通信分野への投資(GDP比)25→30位 3 4)変化の兆し(=順位が大幅に向上した項目(抜粋)) →政府の政策に対して共感が高まり、政策が好意的に捉えられています。市場の開 放度が進んでいると評価しています。 • 政府内の政策の方向性に関するコンセンサスは高い(調査) 49→40位 • 政党は今日の経済的課題を理解している(調査)48→41位 • 為替政策は企業の競争力に役立っている(調査)41→32位 • 新しい法整備は企業の競争力を損ねてはいない(調査)42→23位 • 外国の金融機関は国内市場にアクセスしている(調査) 43→34位 • 外国の資本市場へのアクセスは国内企業に制限されている(調査) 35→30位 →成熟したグローバルな世界運営の視点も芽生えています。 • 経営層は広く信頼されている。(調査) 36→28位 • 環境法とその遵守はビジネスの競争力を削いでいる(調査) 18→8位 • 持続的発展は自国では優先順位が高い(調査) 28→20位 これらの結果、総合ランキング以下のカテゴリー別の順位は次ページの表のように なります。 4 3.項目別 日本の順位変化の全体像(01年と02年の比較) 順位に網掛けをした部分が5位以上順位を下げた項目です。 註:( )内は含まれるデータの数。 順位は各項目での日本の順位。 統=使用統計データ、調=調査データ、未=未使用統計データの数 総合ランキング 大項目 中項目 国内経済 (33指標) 5 位→11 位 貿易 (20指標) 18 位→16 位 海外投資 (10指標) 8 位→20 位 雇用 (7指標) 8 位→9 位 物価 (4指標) 47 位→45 位 財政 (11指標) 25 位→15 位 財政政策 (14 指標) 25 位→33 位 制度枠組 (22指標) 32 位→30 位 産業の法制度 (24指標) 41 位→41 位 教育制度 (13指標) 23 位→33 位 生産性(11指標) 26 位→23 位 雇用市場 (20指標) 37 位→41 位 金融 (19 指標) 26 位→33 位 経営慣行 (11指標) 43 位→41 位 グローバリゼーションの衝撃 (5指標)30 位→39 位 基礎インフラ (20指標) 24 位→28 位 技術的インフラ (20指標) 19 位→24 位 科学的インフラ (22指標) 2 位→2 位 健康と環境 (18指標) 14 位→11 位 価値観 (10指標) 44 位→48 位 経済パフォーマンス 16位→29 位 (68指標) 総 合 ランキング 政 府 の 効 率 性 26 位→30位 (314指標) *314項目の内訳 ・使用統計データ →126 指標 ・調査データ →116 指標 ・未使用統計・データ →72 指標 29 位→31 位 (84指標) 産業の効率性 30 位→35 位 (60指標) インフラ 19 位→16 位 (74指標) 5 内訳 統=6、調=1、未=26 統=10、調=0、未=10 統=10、調=0、未=0 統=5、調=0、未=2 統=2、調=0、未=2 統=6、調=1、未=4 統=6、調=3、未=5 統=4、調=17、未=1 統=1、調=0、調=23 統=5、調=7、未=1 統=6、調=0、未=5 統=7、調=9、未=4 統=7、調=9、未=3 統=0、調=11、未=0 統=0、調=5、未=0 統=12、調=2、未=6 統=13、調=7、未=4 統=16、調=5、未=1 統=7、調=6、未=5 統=3、調=7、未=0 4.日本の順位はなぜ下がっているのか 1)日本が( I MDの考える)“競争力のある国”の要件を満たしていない I MDの考える「国際競争力」とは、「企業が競争力を持続的に発揮できるような環 境を、国がどれだけ提供できるかという能力」を指しています。IMD は次の4つの対 立軸を設定して、「国際競争力」 範疇に入れる項目を検討しています。 「対外的競争力」vs 「優秀な人材や資金を引きつける魅力(attractiveness)」 「地域密着」vs「 グローバルに活動する能力」 「資産」vs「 自他の資源を活用するプロセスの能力」 「社会の同質性」vs「 個人がリスクに挑戦する意欲」 • I MDが競争力を評価する軸は時代と共に変化しており、それぞれの軸で後者(太 字の項目)への配慮が色濃く見うけられます。 • この評価軸からすると、日本のように中規模の国内市場をもつ国は評価が低くなり がちになります。(同様のことはヨーロッパ先進国にもあてはまります。) 2)アンケート調査で日本人が自信を失っている。 (1)日本が順位を下げる原因となっている項目の多くは調査項目です。多くの日本人が おそらく実態以上に悲観的に日本に対して点数をつけています。 (2)一般的に日本人は自国について、他国より悲観的に点数をつける傾向があり、日 本人の評価が適切であっても、他国の調査対象者が甘くつけている可能性がありま す。一般的な調査でも同様の傾向が見られます。 (3)対象者のサンプル数が各国で異なります。 • 日本のようにサンプル数が百人を超える国と、30人程度の国とでは、調査精度に 差が出ます。サンプル数の少ない国ほど、ばらつき効果が効き、異常に高い値や 低い値が出やすくなります。また、サンプル数が少ないほど、対象者も精鋭化する ことが考えられます。 • 性別・年齢が統一されていないため、国によってサンプル構成が相当異なること が予想されます。 • 管理職になる年齢や、MBA 取得の有無が、大学教育の評価に強く影響すること が考えられます。 3)実際に実態が悪くなっている • 日本の経済パフォーマンスはそこそこではあるが、かつてのように世界1、2を争う 項目は少なくなってきています。 4.総括 6 I MDの「国際競争力年鑑」は、「国際競争力」の定義上、企業経営者がグローバル な視点でどの国や地域に投資すべきかを検討するための資料です。 従って企業経営にとって、優秀な人材、資金、有利な待遇が得られる場所がどこか を見当をつけるために利用されるものです。調査の客観性、公平性に若干の問題点 は指摘されているものの、これはひとつの市場の声であり、グローバル化する経済の 中で日本が魅力的な国として繁栄するためには重要な示唆を与えてくれる資料だと思 います。 以上 7 ※参考 1.「国際競争力年鑑」について <I MDとは> I MDは、I MEDEとI MI が90年に合併して設立された、インターナショナルなビジネ ススクールです。MBA コースで米国流のケーススタディをヨーロッパで本格的に採用 していることが特徴で、経営幹部研修に定評があります。 日本企業としては電通が「パートナー」として参加しています。そのほか、「ビジネス・ アソシエーツ」として味の素、キヤノン、日立製作所、伊藤忠商事、松下電気産業、ソ ニー・インターナショナル、トヨタ自動車・ヨーロッパが参加しています。 <国際競争力年鑑とは> • 『国際競争力年鑑(The World Competitiveness Yearbook)』は314の指標を 使って、49カ国の国際競争力を比較したレポートです。 • I MDの定義する国際競争力とは、「企業の競争力を維持する環境を提供できる 国の能力」のことです。 • 89年より毎年4月頃に発表されています。(95年までは世界経済フォーラムと共 同で制作、発表していました) • 内容は、国際競争力の国別の総合ランキングの他、収集したデータごとのランキ ング、それをテーマごとに括ったテーマ別のランキングなどから構成されていま す。 2.ランキングの構造 1)総合ランキング 49 カ国の総合的な国際競争力をランキングしたもの。下の4つの大項目の点数を合 計して順位が決められます。 2)大項目 「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「産業の効率性」「インフラ」の 4 つの項目が あります。 3)中項目 4 つの大項目ごとに 5 つずつあります。中項目1つが5点として、20項目あるので、1 00点満点でランキングが算定されます。 4)個別データ 最も基本となる総数314の個別データ。統計データ198 項目、調査データ116 項目 からなりたっています。両者をランキングの計算に入れる際の比重はハードデータ: サーベイデータ=2:1で計算されている。 (1)統計データ • 統計データは、世銀や国連などの国際機関による信頼のできる統計データの 他、各国にあるパートナー・インスティチュート(協力機関。日本では電通総研) がよりリアルタイムの数字を提供しています。 8 • 198 項目の統計データは、さらに、ランキング計算に使用する126項目と、はラ ンキングの計算には使用しない未使用データ (参考データ) 72 項目に分けら れます。 (2)調査データ • 調査の対象者は、国際経験のあるビジネスマンで、トップからミドルクラスのマネ ジメント層、と指定されていますが、年齢、男女比を含めより具体的なプロフィー ルの指定はなく、国によって人数もまちまちです。 • 調査では、その国に居住している人が当該国のみについて評価します。(従っ て、日本人は日本についてのみ評価します。) • アンケートの実施時期は、各国とも12月∼3月上旬です。 • 調査データの対象者は全世界で3,532サンプルですが、各国別の数などは 公表されていません。(日本のサンプル数は、電通総研の推定で120∼130サ ンプルです。) 以上 9