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産業厚生常任委員会 平成27年度行政視察報告書(PDF形式
宿毛市議会 産業厚生常任 産業厚生常任委員会 常任委員会 平成27年度行政視察報告書 平成27年度行政視察報告書 期 間 視察場所 平成27年8月3日~8月5日 島根県邑智郡邑南町 広島県安芸高田市 参加委員 随 行 産業厚生常任委員長 野々下 昌 文 副委員長 原 田 秀 明 委 川 田 栄 子 員 〃 山 上 庄 一 〃 山 戸 〃 寺 田 公 一 議会事務局議事係長 寛 柏 木 景 太 産業厚生常任委員会の所管事務調査のため、島根県邑智郡邑南町及び広島県安芸高田 市を訪問した。調査方法については、先に送付済みの調査事項を元に先方より説明を受 け、その後、当市出張者の質問に回答してもらう方法により、邑南町においては「日本 一の子育て村を目指す邑南町の取り組みについて」 、安芸高田市においては「住民との協 働のまちづくりについて」の調査を行った。その概要は次のとおりである。 ◎ 邑南町 1 町勢について 邑南町は島根県中南部に位置する、面積419.2㎢、人口11,391人(平成2 7年7月1日現在)の町である。平成16年に3町村が合併し誕生した。中山間地特有 の盆地が多い地形で、町内のほとんどが標高100mから600mの地域。夏季の降水 量が多く、冬季も降雪が多い。面積の86%を山林が占め、主な産業は農林業である。 また町内には西日本最大級のスキー場があり、広島市中心部から1時間という立地の良 さもあって、入込客も多く、観光サービス業にも力を入れている。 近年は「食」と「農」に着目した「A級グルメのまちづくり」構想と、子育て世代に やさしく住みやすいまちづくりをめざす「日本一の子育て村」構想を2本柱に、定住促 進に向け取り組んでいる。 1 日本一の子育て村を目指すきかっけについて 日本一の子育て村を目指すきかっけについて 邑南町は高速道路の整備により広島市から車で1時間という距離にあり、商業圏域で はあるものの、通勤圏域にはならず、人口が流出する恐れがあった。合併以降、右肩下 がりの人口減少が続き、現時点での高齢化率は42%を超えている。このような中、さ らなる人口減少に歯止めをかけるため、若者の定住促進と出生率の向上を目指し、高齢 者の支え手を増やすため、平成23年度より定住プロジェクトを開始した。このプロジ ェクトには「攻め」と「守り」があり、このうち「守り」の分野を担うのが「日本一の 子育て村構想」で、いかにして子育てしやすい環境を整えることを目的としている。 2 構想の主要な部分を担う医療、保健、福祉分野と教育分野における子育て支援につ 構想の主要な部分を担う医療、保健、福祉分野と教育分野における子育て支援につ いて (1)特色ある取り組みについて (1)特色ある取り組みについて 邑南町の子育て環境を整備するうえで、最も密接に関係してくるのは、医療、保健、 福祉の分野と教育分野である。各分野における具体的かつ特色ある取り組みについて報 告する。 ① 医療分野における支援について 医療分野の支援においては町内の公立邑智病院が中心的な役割を担っている。公立邑 智病院は、邑南町と隣町の川本町、美郷町の3町が共同で運営する組合立の病院である。 この病院の特色は、産婦人科、小児科の専門医が常勤していることである。また、この 専門医を含めた11名の医師が常勤し、交代制の当直勤務を行うことで24時間の救急 受付を可能としている。また重篤な患者に対しては、ドクターヘリによる緊急搬送を行 っており、島根県立中央病院救命救急センターや広島市救命救急センターまで、20分 での搬送が可能となっている。 ② 保健分野における支援について 保健分野の支援は、負担軽減対策としての、子どもの医療費無料化である。現在は他 市町村でも広く行われているが、平成23年度の時点で実施している自治体は少数だっ た。以前は、就学前の児童の医療費を無料化していたが、平成23年度より一気に「子 ども医療費」という形で中学校卒業まで無料化を拡充した。この施策実施により年間1, 500万円の財源不足が生じるようになった。 他には各検診費用の助成を行い、できるだけ保健に係る費用の負担を抑えるよう取り 組んでいる。特に平成26年度から開始した特定不妊治療費の助成に関しては、島根県 の助成で足らない部分を上乗せする形で実施しており、実際に妊娠に至ったケースもあ り、非常に有効な施策となっている。 ③ 福祉分野における支援について 福祉分野における主要な支援施策は、第2子目以降の保育料完全無料化である。他の 保育料軽減のケースでは、子どもが同時に入所した場合に第2子半額、第3子無料など の軽減を行うことがあるが、邑南町では、入所時期に関係なく、2人目以降の子どもが 1人でも入所した場合、保育料は完全無料となる。子どもが複数の世帯への支援が目的 で、平成23年度に開始した当時は山陽圏では初の取り組みであった。近年は近隣市町 村にも広がっており、島根県吉賀町では第1子の保育料も完全無料化していて、鳥取県 では県全域で第3子以降の保育料無料化を実施している。このように保育料無料化の動 きは各地に広まっており、国の施策も追随するのではないかと期待している。 次に特徴的な事業としては、保育所の完全給食事業がある。国から補助される保育所 運営費には3歳児以上の主食代が含まれておらず、保育所の給食では、米飯を各家庭か ら持参させていた。そこで、平成23年以降、各保育所で炊飯を実施するようになり、 完全給食を実現した。これは米の購入費を行政が全額補助することで、保育所側、保護 者側の負担軽減を行うものである。温かいご飯を提供することで、子ども達の食が太く なり、調理師は炊き込みご飯などのバリエーションのある料理を提供できるようになっ た。さらに保育の現場では、年長児に当番制で米研ぎをさせるなど、お手伝いの習慣化 を図ったり、園庭での羽釜の炊飯を経験させることで火の怖さや大切さの学習を行って いる。また、購入する米は地元産のコシヒカリであり、生産者の顔が見えるということ で、食に対する安心感にもつながっている。 その他の事業としては、保育所の周辺に広がる雑木林の整備や、園庭へのビオトープ の設置など、子ども達が自由に自然の中で遊べる環境を整備している。 また、病児保育事業として体調不良児型と病児対応型の保育事業を実施している。体 調不良児型は、登園後に体調不良になった児童を看護する事業であり、最も規模の大き い保育園1か所に看護師を配置して実施している。病児対応型の保育事業は、公立病院 に1カ所、民間病院に1カ所の病児保育室を設け、朝から体調不良になっている児童が 通院したのち、保護者がどうしても仕事が休めない場合、病院で一時的に保育するとい う事業である。平成20年度から事業を開始したが、平成25年度には年間420名も 利用するなど、共働き世帯が多い邑南町にとっては欠かせないサービスとなっている。 邑南町内には幼稚園は無いが、保育所が9か所あるため、待機児童は1人もいない。 最大規模の保育所は120名の定員だが、最小規模の保育所は20名の定員に4名しか 在席していない。しかしながら町長の方針では、保育所の統廃合は行わない。一定以下 の児童数に減ったら統廃合を考えるという数の問題ではないと考えており、保育所及び 小学校、中学校は地域の子育ての拠点であるため、それを守るために、まずは定住施策 をしっかりと実施していく。定住施策をやり尽くしたうえで、どうしても子どもがいな い場合に統廃合を考えるということである。そのため保育所の他に小学校が8校、中学 校も3校あるが、いずれも統廃合についての議論は起きていない。児童、生徒数が減少 することで教員等が減らされる可能性もあるが、町独自での教員の加配等は行わず複式 学級等で対応することになると考えている。 この他にも、在宅の保護者と乳幼児を対象に、子育て支援センターや社協が中心にな り、各地域の保育所等に出張する子育てサロンを開設している。また、 「子育て支援ポイ ント付与制度」を今年度より始めており、子育てサロンや乳幼児健診等に参加すると、 町内での買い物に使えるポイントが与えられるというものである。 エ 教育分野における支援について 教育分野における特徴的な支援としては、教育現場での人材を充実させることにある。 ひとつは「笑顔キラキラ事業」として、要望のあった各小中学校に学習支援員や生活支 援員を配置し、教師だけではフォローしづらい生徒の支援に当たっている。もうひとつ は学校図書館司書の全小中学校への配置である。専任の図書館司書を全学校に配置し、 学校図書室を充実させることで、図書の貸出冊数が飛躍的に伸びている。 町内には唯一の高校として島根県立矢上高校があるが、近年は定員割れが起きており 行政の支援が欠かせない。町内の遠隔地からバスで通学する生徒に対する通学費の補助 や町外の生徒が居住する学生寮の維持費、公益費の補助を行うなど、遠方から通う学生 への支援を行うことで定員を維持し、町内唯一の高校を守ろうと努力している。 矢上高校の特徴的な取り組みとしては、大学受験を控えた3年生の希望者を対象に、 放課後、ネット環境を活用した現役東大生によるオンライン授業を実施している。町内 には進学塾等が無いため、東大ネットアカデミーという会社の協力を得て、双方向のオ ンライン授業による学習支援を行っている。 矢上高校の生徒数は1学年が約120人程度であり、卒業生のうち毎年5,6人程度 が地元企業に就職している。ほとんどの卒業生は大学や専門学校に進学しているのだが、 邑南町独自の奨学金制度を設けており、大学等の卒業後に邑南町内で就職すれば奨学金 の返還を免除するというもので、邑南町に戻ってこられるようサポートしている。 (2)各分野の支援体制を確立するまでの経緯について (2)各分野の支援体制を確立するまでの経緯について 以上のような支援体制を中核とする「日本一の子育て村構想」を立ち上げる経緯とし ては、最初に平成22年度の過疎地域自立促進計画の策定が上げられる。平成22年度 から6年間の計画期間では、これまでハード事業にしか使えなかった過疎債を、ソフト 事業に充当できるようになった。町としてソフト事業に充当できるよう陳情していた経 緯もあり、当時、過疎債の特別枠分として1億8,200万円を充当できることになっ た。平成22年10月には、この使い道について、町長、副町長、財政課、農林振興課、 保健課、定住企画課の関係各課で協議を始めている。 この協議の中で、過疎ソフトを使うのであ れば思い切った起爆剤的な事業展開をすべ きとの提案があり、負担軽減対策を中心に実 施することになった。そこで、 「日本一の子 育て村」を看板に掲げて、子育て支援に特化 した施策を打ち出すことになった。その後、 保育を主管する福祉課も交えて何度か協議 を行い、具体的な施策を絞り込んでいく中で、 平成22年の時点では、翌年度からの中学生 までの医療費無料化と第2子以降の保育料 の無料化の実施が決定した。他にも様々な施 策案が提案され、現在までに不妊治療費の助成、保育所の完全給食、病児保育の拡充な どが実現している。 これらの施策を行うにあたっては、広報やチラシを全戸配布することで町内に周知し、 また町外に向けても積極的にPRを行った。 このような構想を立ち上げ、実現していくうえで、子育てとは関係がないと思われる 部署からも、子育て支援や定住支援につながる知恵を出し合って、多岐にわたる協議を 行った。各部署の垣根を越えて全体で連携したことが、構想の立ち上げと施策の実現に 貢献したといえる。そのため福祉、保健、教育以外の分野でも、子育て支援に積極的に 関わっており、子どもが生まれると、出生記念証や車用のステッカーをプレゼントして いる。また防災行政無線で町内全域に子どもの誕生をお知らせするなど、町を挙げて子 育て支援に取り組むという町民の気運を高めている。 現在は子育て村推進本部を設置し、各部署の職員の他、保育師や看護師、教員などが 参加して各プランに対する提言等を行っている。年4回程度の総会の他、各幹事会や分 科会なども随時開催し、検討を加えている。 (3)日本一の子育て村構想の財源について (3)日本一の子育て村構想の財源について 「日本一の子育て村構想」関連事業の財源には、後述する住宅支援事業も含めて、過 疎対策事業債を十分に活用している。10年間の構想期間中の財源確保については、ま ずは過疎債をしっかり使うと同時に、基金の積み上げを行い、将来の財源に充てること になっている。 保健、福祉分野の支援では、先述したように子ども医療費の無料化拡充に伴い年間約 1,500万円の不足、第2子以降の保育料無料化については年間約3,500万円の 不足など、合計約5,000万円の財源不足が生じている。それを確保するために過疎 債の活用と将来のために基金の積み上げを行うこととなった。当初の計画では、10年 間の期間中、過疎法が適用される最初の5年間は、7割の地方交付税の戻り分を活用す るとともに、残り3割の町の自主財源分については、これを後年度の負担に残さないよ うに、当該年度での減債基金として積み立てを行っている。過疎法の適用が終了すると されていた平成28年以降の5年間については、基金を取り崩して財源に充てていき、 10年間の財源を確保しようという計画であった。平成24年6月の過疎法改正により、 適用期間が延長されたが、ソフト事業に適用されるかどうかは未定である。今後過疎法 の適用が続く場合は活用し続けていくが、仮に過疎法が終了しても基金の積み立てが現 時点で3億円を超えているので、それを財源に充てることができる。 このように過疎債を財源として活用することで、施策の実施にあたっても、税金を上 げるなどの住民負担を重くすることはなかった。また、邑南町の一般会計の規模は12 0億円程度であるが、これまでに教育費の削減は一切行っていない。 (4)子育て支援の成果について (4)子育て支援の成果について 日本一の子育て村構想等の定住施策の成果として、人口動態における転入、転出に伴 う社会動態の増加が上げられる。合併以降、減少が続いていたものの平成25年に初め て増加に転じた。転出者よりも転入者が増えたということで、定住促進の効果が現れて いると考えられる。また、平成22年度から定住コーディネーターとして専従職員を配 置し、定住希望者のフォローを行った結果、平成25年度は56名、平成26年度は6 3名の定住者につながった。死亡等による自然減の状態は続いているものの、人口減少 に一定の歯止めをかけていると考えられる。 また平成24年度の邑南町の合計特殊出生率が2.65で、過去5年間の平均でも2. 15と全国や島根県の平均よりもかなり高くなっている。これは1人の女性が生涯に出 産する子どもの数であり、邑南町では2人目、3人目の子どもを出産する女性が多く、 多子世帯が増えている。年間の出生数自体は、ほぼ横ばいであるものの、子育てしやす い環境を整備してきた成果であると考えている。 3 若者定住支援の取り組みについて 若者定住支援の取り組みについて 日本一の子育て村構想の一環として、若者の定住促進のための住宅支援、就労支援等 も実施している。 (1)住宅支援について (1)住宅支援について 邑南町の住宅支援としては、子育て支援の観点から両親と祖父母世代の同居、近居を 推進する「多世代による安心子育て住ま居る(スマイル)推進事業」を今年度より開始 した。これは新築、改築時の工事費について10%の補助を行うもので、同一家屋内で の3世代同居(上限100万円) 、同一集落内での3世代近居(上限80万円) 、2世代 の同居又は近居(上限50万円)が補助対象となる。子育ての環境を、両親のみならず 祖父母世代にわたって、皆で支えていくということが事業の目的である。 「日本一の子育 て村構想」自体が地域での子育てを主眼にしているため、この構想に合致した事業と言 える。 また定住コーディネーターの他に、2名の定住促進支援員がいて、主に移住者用の空 き家開拓を行っている。地元の方々に委嘱しているが、空き家の所有者と顔見知りで接 する機会も多く、所有者の説得にあたり、了承が得られれば空き家バンクに登録してい る。空き家バンクへの登録以降は、定住コーディネーターが移住希望者との仲介を行い、 コーディネーターと支援員が共同で地域に移住者を招き入れている。昨年の実績として は、ある地域の公民館長が無報酬で支援員の業務を行い、自ら開拓した空き家に1世帯 3人を招き入れることができた。ここは公民館単位の地域で、移住者の受入に積極的な ため、公民館長が率先して移住者の受入れを行っている。このような地域が増えれば、 空き家の有効利用も進み、移住者も安心して住むことができるようになる。 現在の空き家バンクへの登録件数は30件程度であるが、登録してもすぐに借り手や 買い手が見つかる物件もあれば、改修等の必要があるため数年前から残っている物件も ある。邑南町ではU・Iターンの移住者に限り、空き家の改修費用を2分の1(上限1 00万円)補助しており、昨年度は10件程度に補助を行った。 (2)就労支援について (2)就労支援について 移住者への就労支援については、商工観光課内に設置されている無料職業紹介所にて 邑南町内での仕事を紹介している。求人の多い仕事内容としては、公立邑智病院や各種 福祉施設等での仕事である。特に、合併前の旧石見町が「福祉のまちづくり」を進めて いた関係で、他の自治体よりも介護施設や障害者施設などの福祉施設が多い。病院や福 祉施設には、医師や放射線技師などの専門職から看護や介護関係の仕事、総務的な事務 職など、様々な職種があることから、その中で自分に合った仕事を選ばせている。 また、その時々で求人のある仕事を紹介することも多く、例えば町役場の臨時職員と して採用した実績もある。このような就労支援にも定住コーディネーターが関わること で、移住者の就労までしっかりとサポートし、安心して移住できる環境を整えている。 現在、邑南町内では求人数が多く、選ばなければ就職できる状態になっている。福祉 施設は常に人手不足の状態で、また町外から誘致した製造業の企業が7社あり、そちら でも随時職員を募集している。このように就労環境は多少のミスマッチはあるものの良 好と言える。 4 移住者増につながる観光振興の取り組みについて 移住者増につながる観光振興の取り組みについて (1) 「A級グルメのまちづくり構想」について 「A級グルメのまちづくり構想」について 邑南町の「攻め」と「守り」の定住プロジェクトにおける「攻め」の分野を担う「A 級グルメのまちづくり構想」について説明する。 先述したように邑南町の人口減少を食い止めるための手段として、定住促進プロジェ クトを進めている。プロジェクト開始前の邑南町の課題としては、雇用の場が無い、基 幹産業である農林業の担い手不足、地元購買率の低下、特産品や目立った観光資源が無 い、ということが挙げられていた。この解決策として、農林業を活かし、小さくても雇 用を生み出す仕組みをつくれないものか、地域おこし協力隊を活用できないか、豊かな 地域資源をいかに観光資源に変えていくか、外貨の獲得方法、特産品の開発などに取り 組むことになった。 それを受けて平成22年度に邑南町農林商工連携ビジョンを策定し、その後の活動指 針とした。これが「A級グルメのまちづくり構想」である。邑南町農林商工連携ビジョ ンは5カ年の計画期間であり、平成23年度から始まって本年度が最終年度である。こ の連携ビジョンの柱になるのが、 「食」から「職」を生み出すパイオニアづくり、 「食」 の産業の担い手づくり、 「食」による観光誘客の推進の三本柱である。この三本柱を中心 に産業振興を進めてきた。 この構想のメインテーマとして掲げられた「A級グルメ」とは、 「邑南町で生産される 良質な農林産物を素材とする、ここでしか味わえない食や体験」と定義している。邑南 町に来た人に、誇りを持って提供できる素材や加工品を全てA級グルメに含めている。 当初、A級グルメという言葉から、全国に広まっているB級グルメに対抗する存在と して、高級食材や一流料理を売りにしてまちづくりを進めている自治体だと思われてい た。邑南町のA級グルメはそうではなく、農業者を巻き込んだ農商工連携の6次産業化 に向けて推進していくものであり、主な食材には高原野菜や石見和牛があり、素材香房 味蔵という施設を拠点に情報発信と観光客の誘客を進めて行くことになった。 素材香房味蔵は平成23年に設立され、イタリアンレストランとともに食の研究所と いう商品開発所も併設しており、香木の森公園内に建てられている。当時は町営施設で あったが、今年度より株式会社化している。設立当初の味蔵の目的は、地元生産者との 交流とA級グルメの発信であり、様々な雑誌等に取り上げられることで、邑南町の知名 度が増していった。 味蔵の大きな特徴としては、地域おこし協力隊員を「耕すシェフ」として3年間雇用 し、働きつつ研修を行い、その後に起業してもらい、定住につなげることである。邑南 町農林商工連携ビジョンでは3つの目標値を定めており、その1つは5年間で「食」と 「農」に特化した5名の起業家を輩出することであった。残る2つの目標値は、定住人 口200名増の確保と観光入り込み客数年間100万人の実現である。 平成27年5月現在で21名の地域おこし協力隊員がいる。味蔵を中心とした「耕す シェフ」事業には10名が携わっており、味蔵で料理研修をしながら農園での農業研修 もしている。他の隊員は、 「アグリ女子」という有機農業の普及と人材育成及び6次産業 の商品開発に携わる女性の方や「耕すあきんど」という産直市での店舗サポート、ミニ 観光案内の運営に携わる事業、 「ガーデンプロデューサー」という香木の森公園内のガー デニング企画に携わり観光振興につなげる事業、 「アグサポ隊」という就農に向けた技術、 経営感覚を磨き地域との良好な関係の構築を図る事業等に携わっている。 「耕すシェフ」事業は、東京の華調理師学校と広島の酔心調理師専門学校と連携協定 を結び、これらの学校の卒業生に味蔵に来てもらい、3年間学んだあと、できれば町内 でレストランを開くなどの起業か、町内での就職を選択し、雇用を生んで家族も定住さ せることが目的である。もし邑南町を離れることになった場合でも町のPR隊として活 動してもらうように考えている。 地域おこし協力隊の受入と定住状況であるが、平成24年から平成27年5月までに 33名の隊員を受け入れ、現在研修中の方が22名で、研修終了後に定住された方が5 名。残念ながら町外に出られた方が6名となっている。 邑南町のA級グルメは県外に対しては有名になってきたが、平成25年に町内の方を 対象に、町に対する満足度のアンケート調査を行った結果、商工業の振興について満足 度が低いという厳しい結果となった。そこで、町内向けにA級グルメ活動への理解を得 るために始めたのが、邑南町の食文化を教育できる拠点の「食の学校」である。ここで 邑南町の食文化の普及に努めている。 計画期間の最終年度を迎える邑南町農林商工連携ビジョンの成果としては、先述した ように計画当初の起業家輩出の目標は5名であったが、現在は28名を輩出している。 農家民泊の方を含めているので数が多くなっているが、飲食店関係の分野では8名が起 業している。定住人口200名の確保については、現時点で197名を確保しており達 成できる見込みである。観光入り込み客数年間100万人の実現については、残念なが ら平成26年度で91万人となっている。平成24年から25年にかけても91万人か ら93万人を推移しており、目標を達成できていないが、平成24年の災害により観光 地の一部を閉鎖していた影響によるものと考えている。この100万人を達成するため に、国立島根大学との共同研究室を役場内に設け、一緒に検討しているところである。 また、隣の浜田市との連携を深めるために「食の協定」等を結んでいる。 今年度より、小さくても雇用を生む仕組みの確立ということで、これまでは、 「食」を テーマとした取り組みを中心として実施してきたが、それ以外の工業系や林業系などの 幅広い分野の起業家を育てなければならないと考え、起業家支援センターを役場内に設 置し、専門的なアドバイザーとともに活動している。 邑南町農林商工連携ビジョンについては、平成28年度からの新しいビジョンを今年 度中に策定する予定である。 (2)青少年旅行村の取り組みについて (2)青少年旅行村の取り組みについて 青少年旅行村は昭和47年に建てられ、当時から50メートルプールや400メート ルのグラウンドを備えていて、平成10年のリニューアルにより、ウォータースライダ ーやオートキャンプ場を備える施設となった。しかしながら、営業活動の不足により、 新たな観光客が少なく、利用客の固定化がみられ、施設の老朽化も進むなどの問題が生 じていた。そこで平成26年度より、西日本最大級のスキー場を運営する瑞穂ハイラン ドから提案を受け、指定管理を実施することとなった。今後、指定管理者に期待するこ とは観光客数の増加やスポーツ交流の拠点化であり、さらには外国スポーツチームの合 宿誘致なども進めて行きたいと考えている。 瑞穂ハイランドスキー場は年間約16万人ものスキー客が訪れる施設であるが、夏季 の利用者獲得も目指しており、邑南町との利害が一致し、青少年旅行村のキャンプ場等 を活用してもらった。民間の経営になると、PRが非常に効果的で、広島方面への積極 的な宣伝効果もあり、今年の利用者数は出足から好調である。 (3)イルミネーション事業(INAKAイルミ)の取り組みについて 邑南町東部には日本一の赤字路線と言われるJR三江線が走っているが、この路線と 周辺地域の活性化に向けて取り組みを行っている。この路線の駅がある地域は人口12 0人程度で高齢化率が60%を超え、地域の高齢化と活力の低下、集落機能の低下など が課題となっている。このような地域と路線の活性化、さらには地元企業の発展を目指 し、地域資源の有効な活用策を模索していた。その一つとして地上高約20メートルの 高架橋上にある宇都井駅をイルミネーションで飾り、夜間に幻想的な風景をつくりだす イベントを実施した。平成22年の開始時より5年が経過したが、今や2日間で約1万 人を集めるイベントとなった。また、邑南町内にはトリコンというLED製造会社があ り、この会社のLEDランプをイルミネーションに使用することで地元企業の後押しに もなった。三江線の利用者数もイベント期間中は増えており、赤字解消には至らないも のの、地域の方々が連携し、町職員や鉄道事業者、企業と一緒になって話し合いを行い、 一生懸命活動したことが大きな成果と考えている。 5 その他の質問事項 (1)公民館活動について (1)公民館活動について 空き家の開拓に地域の公民館が大きな役割を果しているように、邑南町では公民館活 動が活発に行われている。町内には12館あり、それぞれに町の正職員が1名配置され、 館長と臨時職員の3名体制で運営している。住民との距離が近いため、空き家の開拓だ けでなく、住民との様々な協働の事業を実施している。 (2)観光客数について (2)観光客数について 邑南町への観光入り込み客数は年間91万人程度であるが、その主な内訳は道の駅瑞 穂への来客が25万人、瑞穂ハイランドスキー場に16万人、香木の森公園に10万人 となっており、残りはその他の観光施設等である。交通事情の良い広島県方面からの入 込客が最も多い。特に目立った観光施設があるわけではなく、浜田市方面や世界遺産の 石見銀山へ向かう観光客が、ついでに立ち寄るという周遊型の観光客が多くなっている。 また、飛行機を使って邑南町に来る場合も、広島空港を利用される場合が多く、韓国、 中国、台湾等への国際線もあることから、外国のスポーツチームの合宿を誘致する動き も始まっている。現在、トライアスロンの韓国ナショナルユースチームが合宿を行って おり、最初の大きな取り組みといえる。 (3)ケーブルテレビについて (3)ケーブルテレビについて 邑南町には「おおなんケーブルテレビ」というケーブルテレビ局があり、当初は町営 で運営していたが、平成26年度より一般社団法人に移行した。地上デジタル放送移行 時の難視聴地域対策を利用して、全地域にケーブル網を整備し、現在の加入率は95% となっている。月額利用料は1,500円で、20メガバイトのインターネットを利用 すると3,500円の追加となる。ケーブルテレビ開始時から3年以内に引き込み工事 を行った場合は1万円の工事費負担で済んでいる。最初の設備投資額は24億円程度で、 平成27年度の当初予算では4,600万円を町から支出している。行政放送にあたる コミュニティチャンネルでは、行政情報やイベント等の各種のお知らせの他に、各地域 の防災カメラの映像や健康体操教室、町内の求人情報等も放送している。 ◎ 安芸高田市 1 市勢について 安芸高田市は広島県北部に位置し、平成 16年の旧高田郡6町の合併により誕生した。 面積は537.75㎢、人口は30,358 人(平成27年7月1日現在)である。広島 市に隣接し、中国自動車道、一般国道54号 線、JR路線等が走り、中心部の交通の利便 性は良い。市域内は大小様々な山に囲まれ、 面積の約8割を森林が占め、小丘陵と小盆地 によって形成されており、主要産業は、稲作、 野菜等の農業である。 戦国武将毛利元就の生誕地として知られ、ゆかりの史跡が多い。また市内各地域には 古来より神楽が伝えられ、22の神楽団が活動している。近年は、サッカーチームサン フレッチェ広島の練習拠点や湧永製薬ハンドボール部の本拠地となっており、伝統文化 の継承とスポーツ振興を前面に出したまちづくりを進めている。 2 協働のまちづくりの取り組みついて 協働のまちづくりの取り組みついて 現在、安芸高田市内には32の地域振興組織とそれらを代表する6つの連合組織があ る。さらには各振興組織の連絡、連携、調整を図り市民参画と協働のまちづくりを推進 する「まちづくり委員会」を設置している。これらの組織の取り組みや行政の支援等に ついて報告する。 (1)地域振興組織の設立の背景と概要について ① 設立の背景について 設立の背景には、旧6町の合併がある。合併により周辺部が寂れる、職員、議員の大 幅な削減によりきめ細かな行政サービスができなくなる、住民の意見が市政に反映され にくくなるなどの心配する声が聞かれた。これに対応するため、高田郡合併協議会の中 で、住民自治組織を確立し、住民と行政の共存によるまちづくりを推進することで合意 形成がなされた。地域の様々な問題に対し、行政が一方的に事業を行うのではなく、住 民自らの力で解決する事や住民と行政の協働が求められている。こうした地域課題を、 住民自治組織活動を通じて整備、集約し行政に反映させるシステムを確立する必要があ った。また、今後の人口減少による地域社会の担い手が不足し、集落単位では地域資源 管理機能、相互扶助機能などの自治機能の低下が懸念される中で、集落を束ねて自治機 能を確保する横の連携を図る仕組みをつくる必要もあった。 そのために「自らの地域は自らの手で」という自立的な住民自治活動を根付かせる必 要があると考え、合併時までに各町において地域振興組織を設置することが確認された。 これを受けて、市内全域に32の自治組織と旧町ごとの活動連携を図るための6つの連 合組織の設置となった。 これとは別に、主な集落単位の市が決めた行政区も存在する。これは主に市の配付物 等を担うなど、行政的な関わりが多く、地域振興組織の活動とは違っている。地域振興 組織の組織化以前から行政区はあり、その中でも町内会など、一定のコミュニティが存 在しており、このようなコミュニティが振興組織の元になっている。最も規模の大きい 吉田地区では、複数の行政区が集まって地域振興組織を立ち上げているが、町内会単位 で組織化をはかっている地域が多い。 ② 地域振興組織の概要について 地域振興組織の区域は、大字単位、小学校区単位及び旧村単位が主であり、住民が自 ら決めた範囲となっている。よって規模の範囲が志部府親交会の43世帯から吉田地区 振興会の2,278世帯まで様々であり、設立時期も40年以上活動している地域から、 合併直後に結成されて10年程度の地域もある。最も古い組織は川根振興協議会で昭和 47年2月の設立、最も新しい組織は、坂下地域振興会で平成16年3月の設立となっ ている。 地域振興組織の形態は、全て地縁型組織であり、集落を基層単位として組織化されて いる。基本的に区域内のコミュニティ団体及び住民は全て構成団体であり構成員となっ ている。市が指定した範囲で構成されるというものではなく、地域の住民がまとまりや すい地域で自主的に構成されている。地域内の様々なコミュニティの代表により構成さ れ、これらのコミュニティを相互に関連付け、全体で活動している。また、財源につい ては年会費、寄付金、市の助成金が主な部分を占めている。 ③ 行政の協働のまちづくりの推進について 住民との協働のまちづくりを推進するには、まず住民と行政のパートナーシップを形 成する必要があると考える。そのため、行政と住民の役割分担について調査、研究を進 め、行政が果たすべき役割の明確化を図るとともに、行政情報の公開、提供の充実や住 民の自治意識の醸成につとめている。 次に地域振興活動を支援するため、人材の育成や情報提供の充実、活動の拠点づくり を進め、個性と魅力ある地域づくりを推進している。 続いて参加と協働のまちづくりシステムの構築や住民参加の環境づくりを推進し、住 民参加体制の確立を図ることにより、参加と協働のまちづくりを積極的に推進し活力の ある地域社会の形成を進めて行くことが必要と考えている。 (2)地域振興組織の活動状況と課題について ① 活動状況について 地域振興組織の活動状況については、旧町単位で住民主体による実行委員会を組織し、 祭りの開催の他、市内32の地域振興組織において、スポーツイベントの開催、高齢者 ふれあいサロン、みまもり活動、子どもの安全確保、資源ゴミ回収活動、花のある集落 景観整備活動、地域防災組織活動、特産品の開発、地域将来計画プランの策定、歴史遺 産保全活動、これらの活動の地域内周知を図るための広報等の発行など、年に数度の行 事から日常的な活動まで、地域ごとに多様な活動が展開されている。 ② 活動の展開における課題について 地域振興組織活動の課題については、危機意識、地域課題の共通認識の度合い、人材、 アイデアの蓄積、自治意識の程度等について各組織の間で格差があること。次に、行政 の下請け意識、各種行事への動員、一部役員への過重負担、無関心層への対応など組織 運営の課題が上げられる。 地域振興組織は合併に対する危機感から生まれた組織であるが、時の経過とともに活 動の熱意が下がっている組織もある。毎年、祭りなど決まった行事を実施するためだけ に存続している組織も多い。後述する川根振興協議会や生桑振興会は、中山間地に位置 し、農協の撤退などによる危機感が強く、活発に活動している。それに対して、危機感 が弱く、目立った活動を行わない組織もあり、各地域により振興組織の活動には差が生 じており、高めていくことへの課題がある。 (3)行政の支援について 地域振興組織への行政の支援としては、主に財政的支援と人的支援が上げられる。 ① 財政支援について 地域振興組織への具体的な財政支援の内容としては、組織の運営費、施設等の維持管 理費等の活動支援助成として旧町単位の6連合組織に合計1,800万円、地域振興会 が取り組む特色ある地域づくり事業支援助成として、6連合組織に合計2,280万を 助成している。また、旧町単位で開催する6つの祭りに対しても、地域祭事業補助金と して合計711万円の助成をしている。 活動支援助成費1,800万円のうち、半分の900万円は6連合組織へ均等に15 0万円ずつ支給し、残りの900万円については、各連合組織の世帯数により按分して 支給している。当初は全額を均等に配分していたようだが、世帯数の多少により作業等 の量も変わってくるため、現在の支給方法になった。各連合組織の中では、主な活動を 担う役員に対して報酬を支払う組織もあるが、ほとんどの組織の役員は無報酬で働いて いる。なお先述した行政区については、区長に別途報酬を支給している。 事業支援助成費2,280万円は各連合組織に380万円ずつ助成しており、自らで 考えて自由に使える費用である。これにより、地域の清掃活動や草刈り、花植え、子ど も達の見守り活動や地域防災活動などに使われている。 ② 人的支援について 人的支援については、行政職員の地域活動への積極的参加により、職員が地域振興組 織の事務的なサポートも含め、様々な地域活動への積極的な関わりの中で、住民との信 頼関係を構築し、継続的な地域活動を支えている。地域振興組織への窓口としては、本 庁の政策企画課と5つの連合組織の事務局を各支所に設置している。 ③ その他の支援について その他の支援としては市民フォーラムの開催がある。これは地域振興組織や地域づく りに取り組む団体、個人等から市の将来像づくり、地域振興まちづくり活動等の日々の 活動を通じての提案や意見を受け、今後の施策に反映するとともに、地域振興組織等の 活動内容や各地域の情報の共有化とともに、交流の場とすることを目的にまちづくり委 員会で企画、運営し、平成17年から毎年開催している。 次に、市内の市民活動団体で活動されている、ボランティア活動中の事故に対して保 険金を給付するまちづくりサポーター保険制度を設けており、市が保険料を負担してい る。 (4)対話の場の確保 市と地域振興組織との対話の場を確保する取り組みには、市長の施政方針やその年度 の主要事業を伝えて意見交換会を行うため、市が主催し、地域振興組織と連携してテー マ別に実施するテーマ別懇談会。地域振興組織が主催し、市の関係部局と連携して実施 する自治懇談会。それに市民又は市内に通勤、通学する人の10人以上の団体が主催し て実施する団体懇談会の3つの対話の場も設けている。 (5)まちづくり委員会の取り組みについて まちづくり委員会の設置の経緯においては、合併特例法第5条の4に、合併によって 住民の意見が合併市町村の施策に反映しにくくなるという懸念があり、そのことが合併 推進の妨げになっていることに対して、合併市町村の施策全般に関して、よりきめ細や かに住民の意見を反映していくために地域審議会を設けることができるとあり、安芸高 田市においては合併協議の中で、既に組織されている地域振興会と行政の協働体制の拡 充が現実的ということで、地域審議会に代わる組織として住民と行政の協働を基調とす る安芸高田市のまちづくりを推進するため、日々の活動に汗する地域振興会の代表を中 心としたまちづくり委員会を、平成17年4月1日に条例制定により設置した。 組織の体制としては、現在の委員数は30名で、各旧町単位に設置する6つの連合組 織から推薦を受けた、それぞれ5名の代表により構成されている。 活動の内容については、組織活動の連携、主要事業の進捗状況把握、まちづくりに関 わる提案、提言、市民フォーラムの企画運営などを実施している。まちづくり委員会の 中に小委員会を設け、具体的な地域課題等について協議を行っている。検討テーマにつ いてはそれぞれ市の関係部局も出席し、子育て支援、地域防災、高齢者福祉、地域防犯、 障害者援助、観光、ゴミの減量化、多文化共生社会、空き家の有効活用等についてそれ ぞれ協議し、報告を取りまとめ提言書として市長に提出するとともに、各振興会にも提 案している。 3 川根振興協議会、生桑振興会の取り組みついて 川根振興協議会、生桑振興会の取り組みついて (1)川根振興協議会の取り組みについて 川根振興協議会は安芸高田市北端の高宮町川根地域にて、昭和47年に設立された最 も古い地域振興組織である。川根振興協議会では、農協の撤退により店舗が廃止された ことを受け、住民の出資により、ふれあいマーケットの「万屋(よろずや) 」とガソリン スタンドの「油屋(あぶらや) 」を運営したり、通学・通院をはじめ、市の中心部への運 行など利用者の利便性の向上と高齢者に配慮した運行を目指し、市から運行予約受付業 務の委託を受けて、市町村営有償運送事業「かわねもやい便」を運営し、地域住民の生 活の支えとなっている。 「かわねもやい便」の利用料は、川根地区内では100円、旧高 宮町域内では200円、安芸高田市中心部まで来ると500円かかる。通常のタクシー 料金に比べると非常に安価な利用料となっている。 また、若者定住促進住宅という旧高宮町時代に始まった川根地区独自の制度があり、 川根地区に移住しコミュニティに入ることを条件に、間取り等を自由に設計できる「お 好み住宅」を子育て世代の若者に貸している。合併後も7棟の住宅が建設されている。 (2)生桑振興協議会の取り組みについて 生桑振興会は、旧美土里町生桑地域にて、平成14年に設立された。この振興会でも、 農協の撤退により閉鎖が決定したガソリンスタンドを譲り受け、石油商品に加え食料品、 日用品等の生活サービスを提供する機能を備えた拠点を整備し、集いの場となる地域サ ロンを併設し地域の活性化に取り組んでいる。 (3)地域有償運送について 安芸高田市では、公共交通機関の少ない地域には、バスに代わり予約制のワゴン車を 平日のみ走らせている。日中のバス等の利用者が少ない地域に対し、バスを廃止する代 わりに、利用者の自宅近くまで送迎できる予約制のワゴン車にて対応していた。しかし 川根地区と生桑地区は、市内でも特に離れた地域であり、地形的にも集落的にも限られ た地域であった。市のワゴン車は1時間以内に巡回できる地域に限られていたため、こ の2地区については、振興会単位で独自に、運転手も含めた運送事業を実施している。 この2地区に対しては無償で市有のワゴン車を貸与しているが、運行主体はあくまでも 市であり、地区に委託して実施している形式で、営業許可を得ている。 現在でも2地区のワゴン車運行経費については、地方交付税、過疎債、一般財源から 支出しており、車両購入費用等の初期費用は広島県からの助成を受けた。2地区以外の 有償運送についても、バス会社、タクシー会社とも長い協議を経て合意に至っている。 4 若者定住促進に向けた住宅政策について 安芸高田市でも将来的な人口減少が予想され、定住促進に向けた取り組みが必要とさ れている。住宅政策としては平成24年度から市営住宅の跡地等を活用した「子育て・ 婚活定住促進団地」の分譲や「安芸高田市に住めーる補助金」の制度化をして、住宅建 築の誘導を図っている。 (1)子育て・婚活定住促進団地について (1)子育て・婚活定住促進団地について 子育て世代、婚活世代に向けて「子育て・婚活定住促進団地」の分譲を行っている。 1つは、耐用年数の過ぎた8棟35戸の市営住宅を2年間で解体し、平成23年度に団 地整備を行い平成24年度より分譲開始した「アイリス・ニュータウン」である。もう 1つは安芸高田市土地開発公社の解散に伴い、平成24年度に市が買い取り、分譲を開 始した「上甲立ひまわり団地」である。アイリス・ニュータウンは224平米から37 9平米の10区画を251万3千円から442万3千円の金額で販売し、完売した。上 甲立ひまわり団地は、249平米から351平米の16区画を262万8千円から37 9万4千円の金額で販売した結果、10区画が売れている。これらの団地は保育所・小 学校が1キロの範囲内にあり、子育ての環境に恵まれている。 これらの団地の分譲は、後述する補助金等を活用し、できる限り市内の建築業者に施 工してもらうこととしている。またある程度の省エネ設備等の設置を建築要件としてお り、快適で環境にやさしい住宅建設を誘導している。 また市商工会、市内建築業者と市が共同し、広島市内や都市部において定住相談会等 を開催して、官民一体となった定住促進PR活動等を実施している。 この実績としては、 「高宮えのき団地」の2区画を含めて、市外世帯5世帯と市内世帯 17世帯の計22の子育て世帯に分譲している。 (2)安芸高田市に住めーる補助金について 安芸高田市では毛利元就の「三矢の訓」にあやかり「三矢の住宅政策」として「子育 て・婚活定住促進団地購入補助金」 「子育て・婚活住宅新築等補助金」 「安全・安心・住 環境リフォーム補助金」を制度化し、この3つの補助金を総称して「安芸高田市に住め ーる補助金」としている。 子育て・婚活住宅新築等補助金は子育て世 帯、婚活世帯が団地を購入する場合、団地購 入費の10%から30%を補助し、100万 円を限度額として実施している。この補助金 の平成24年度から平成26年度までの交付 額は、21件に対しての775万8千円であ り、これに伴う換地の財産売り払い収入が7, 161万7千円となっている。この収入をも とに若者定住支援基金をつくり、新築支援の 補助金や空き家の改修補助金等に充てている。 子育て・婚活住宅新築等補助金は、子育て、婚活世帯が市内建築業者による施行もし くは市内不動産業者が販売する住宅を購入する時に、新築の場合は、婚活世帯又は市外 の子育て世帯に50万円、市内の子育て世帯に25万円、購入の場合は、婚活世帯又は 市外の子育て世帯に限り25万円を補助している。平成25年度からの2年間で、27 件に対し825万円を補助し、その結果、市内建築業者の受注金額は約5億6千万円と なった。 安全・安心・住環境リフォーム補助金は、市民の生活環境の向上を図るため、市内に 本社機能のある事業所や個人事業者を利用して、住宅のバリアフリー化等のリフォーム を行う場合に、工事費用の20%(上限20万円)を補助している。この補助金につい ても平成24年度からの3年間で、244件に対し4,161万8千円を補助し、市内 建築事業者の受注金額は約5億2千万円となっている。 なお、これらの新築やリフォームの補助については、市内の建築事業者に受注するこ とが条件であり、地元の木材等、市産の材料を活用することなどは要件にはない。 (3)地域への波及効果について 上記事業の地域への波及効果の1つに、市内業者が結集し安芸高田市ブランド住宅事 業協同組合を結成したことが挙げられる。これにより市内で建築される住宅を市内の業 者で受注できる仕組み作りにつながっている。 また、3種類の補助金の効果として、良質な宅地の提供、快適な持ち家の建築誘導、 持ち家の改修促進などが進んでいると考えている。 (4)今後の住宅政策について ① 民間活力による団地整備促進 今後の住宅政策として、民間の業者が市内で分譲を希望する場合の財政支援等を実施 している。その内容は、民間の団地整備に対して市が道路や上下水道等の先行投資を実 施することや、住宅団地内の道路、水道等の公共施設工事に対して工事費の2分の1(上 限1千万円)の補助などである。 また、老朽化した公営住宅を除却し、住宅団地を造成して分譲を進めて行く事業では、 民間事業者に売却することで、団地の整備、分譲も図っている。この場合、分譲地は全 て事業者が買うようになるが、共用部分の整備について市が補助金を出しているため、 分譲後に市へ寄付することになり、共用部分の維持、管理は市が担当する。この敷地造 成は先述した安芸高田市ブランド住宅事業協同組合が実施しており、この敷地を購入し た場合は、加盟事業者において住宅を建設するよう、全ての敷地の建築業者が指定され ている。 市営住宅の管理については、公営住宅長寿命化計画に基づき、住宅の状況によって解 体、維持管理の継続、払い下げ等の処理を行っている。先述したアイリス・ニュータウ ンは、まとまった市営住宅を解体したため、分譲用の団地整備を行って販売し、購入や 住宅建設に対して補助を行った事例である。今後も解体予定の市営住宅があるが、立地 条件等も考慮に入れつつ団地整備等について検討していく。 ② 空き家を活用した定住促進の推進 空き家対策は全国的に大きな問題となっているが、安芸高田市においては平成26年 度に空き家対策専門スタッフという非常勤職員2名を配置し、市内の空き家を特定し実 態調査を実施した。その結果、特定戸数が1902戸で、所有者が判明したのは1,6 33戸であった。これらの所有者に対して空き家管理の意向調査を実施し、約1,00 0の回答があった。その回答結果をもとに、今年度、空き家対策協議会を設置して、今 後の方針、対策等を協議することになった。当然、定住促進を推進するうえでは、空き 家の活用も進めて行かなければならない。そのためには空き家バンクへの登録促進、不 動産業者等と連携した物件の売買、賃貸を図ることになっていく。 安芸高田市の住宅政策全般の方針として、既存のものを十分に活用し、分譲地の整備 等についてもできるだけ民間の力を活かした整備促進を図っていく。 (5)結婚サポート事業について 住宅政策の中でも「婚活世帯」という言葉が出てきたが、環境生活課にて結婚サポー ト事業を展開している。これは結婚コーディネーターを含めて結婚相談所を開設し、婚 活イベント等を実施している。現在の結婚コーディネーターは18名で、平成21年度 の制度開始以降、現在までに23組が成立している。なお、上記の住宅政策でいう「婚 活世帯」の定義は、単なる独身者ではなく、これらの結婚コーディネーターや結婚相談 所等の事業を活用した方々のことである。 5 その他の質問事項 (1)農業者への支援について (1)農業者への支援について 川根地区、生桑地区等で農協が撤退したが、農業者への営農支援等は農協が継続して 実施している。ブロッコリーやアスパラガス等の野菜栽培が盛んであるが、営農支援員 が各農家を巡回して指導にあたっている。行政としては農協と連携して販売促進や特産 品の開発等を実施している。また、定住促進にも関連するが、新規就農者に対する支援 等を実施しており、技術習得を目指して農業学校等に通う方に対し、授業料や寮費等の 補助を行っている。そのような学校を出た後、すぐに就農することもできるが、市内の 農協に勤務して研修を積んだ後に就農することもできる。しかしながら農家の後継者不 足については、他の地域と同じく安芸高田市でも難しい問題となっている。 (2)就労支援について 若者の定住促進に向けての就労支援であるが、安芸高田市は広島市と隣接している関 係で、その方面に通勤する方が多い。安芸高田市内に希望に見合う職種が無い場合は市 外の通勤圏内に職を求められることになるため、市内での就労支援等は特にない。