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学術論文賞受賞について - 日本フルードパワーシステム学会

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学術論文賞受賞について - 日本フルードパワーシステム学会
五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
解
説
学術論文賞受賞について*
五嶋裕之**, 田中豊***, 一柳健****
* 平成 23 年 6 月 3 原稿受付
** 機械振興協会技術研究所,〒203-0042 東京都東久留米市八幡町 1-1-12
***法政大学デザイン工学部,〒102-8160 東京都千代田区富士見 2-17-1
****菊池製作所ものづくりメカトロ研究所,〒192-0152 東京都八王子市美山町 2161-12
1.はじめに
この度は,思いがけず日本フルードパワーシステム学会賞の学術論文賞を受賞し,非常に光栄に思うと同
時に,本研究を評価していただいた学会員・諸先生方にこの場を借りて感謝申し上げる.本稿では,受賞対
象となった,
「パラレルメカニズムを用いた曲げ加工機による管材の三次元加工 1)」の内容について概要を紹
介する.
2.管材加工技術の課題
現在金属管材は,曲げなどの二次加工がなされ,配管部品や機械構造部品として産業界で広く利用されて
いる 2).管材は,重量に対して曲げ剛性やねじり剛性が高いため,軽量化や省資源,コスト低減に有利であ
ると考えられる.
金属管材の単純な形状の曲げ加工については,これまでに多くの加工法,加工機が実用化されている.代
表的なものに,回転引き曲げ,プレス曲げなどがある.これらの加工は,素材を塑性変形させて金型の形状
を金属部分に転写する方法であり,大量生産には非常に有利である.しかし,管材の断面形状や曲げ半径に
合わせて多数の型を製作しなければならないため,多品種少量生産では高コストとなる.さらに曲げ半径が
連続的に変化するような曲げや,ねじりを含む複雑な三次元形状の曲げを行うことは原理的に困難であった.
また近年,任意の断面形状設計が可能なアルミ押出し形材が,軽量構造部材として注目されている.押出
し材では,円管や角管などの単純な形状の他に,開断面や非対称形状など,複雑な断面形状が実現可能であ
る.このような素材では,従来の曲げ加工法は適用が困難である.MOS 曲げ 3)や可動金型(押抜き型)の位
置と姿勢を制御する押通し曲げ 4) 5)による加工が試みられているが,複雑な三次元曲げに対する形状制御が難
しく十分な加工精度が得られないという課題がある.
3.パラレルメカニズムを用いた曲げ加工機の概要
本研究では,押通し曲げ加工における可動金型の駆動に,電動アクチュエータに比べコンパクトに大出力
が得られる油圧駆動パラレルメカズムを用いることで,従来の押通し曲げ加工機に比べシンプルな構造で任
意の三次元形状に加工が行えるという特徴を持つ,管材の曲げ加工システムおよび三次元形状制御の一手法
を提案した.
押通し曲げ加工は,断面形状に合わせた,固定,可動一組の金型に材料を押通すことで加工を行うもので
あり,可動金型の位置と姿勢,押通す管材の押出し量を制御することによって,任意の三次元形状の曲げ加
工を実現することができる.本研究では,可動金型駆動部に従来のシリアルメカニズム(スライド,回転テ
ーブル)による一般的な多軸制御ではなく,Stewart-Gough プラットフォームと呼ばれる六自由度のパラレル
メカニズムを用いる構造を採用した.可動金型の位置と姿勢を制御するためには,金型の位置と姿勢から駆
動アクチュエータの操作量を求める逆機構演算が必要である.一般的に,シリアルメカニズムでは逆機構解
を求めることは困難であるが,パラレルメカニズムでは逆機構解を容易に求めることができる.このため,
これまでの押通し曲げ加工機に比べ,多軸制御のための計算がより簡便になるという特徴があり,また,機
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五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
械的な回転中心が存在しないため,可動金型の回転中心を任意の位置に指定できるという利点がある.試作
した曲げ加工機の概観を図 1 に示す.
曲げ加工機の構造は図 2 に示すように,加工ヘッド,パラレルメカニズムと管材の送り装置から構成され
る.動作プラットフォーム側に可動金型,ベース側に固定金型を取り付ける.可動金型の動作は,前述のよ
うにパラレルメカニズムによる六自由度の駆動を採用している.すなわち,固定ベース上に六個の伸縮可能
な油圧シリンダをユニバーサルジョイントにて結合し配置する.各油圧シリンダの上端もユニバーサルジョ
イントにて動作プラットフォームに結合する.各シリンダの伸縮量を電気油圧サーボ機構により調節し,可
動金型の位置と姿勢を制御する構造となっている.管材の送り装置は,油圧サーボモータ駆動のボールねじ,
および磁歪式リニア変位センサより構成され,可動金型の動作に同期しながら,素材を必要な量だけ固定金
型と可動金型に押通すことができる.表 1 に本加工機の主な仕様を示す.
4.三次元曲げ加工と形状制御
三次元曲げ加工であっても,図 3 に示すようなねじりのない円管の加工であれば,本試作機では二次元の
加工原理を,素材を送り出し繰り返し適用することで,比較的容易に加工ができる.曲げ加工における管材
の加工誤差の大きな影響要因はスプリングバックである.この問題に対しては,加工目標に比べ曲げ量が少
なくなることを考慮し,予め曲げ量を大きめに与える加工パラメータを用いることにより,問題解決が可能
である.図 3 に示すような曲げ加工では,予備的な実験を繰り返して加工パラメータ修正することで,加工
誤差を減少することができる.図 3 の医療機器用手すりの加工例でも最終的に目標である±1mm の形状精度
を実現することができた.しかし,複雑な三次元曲げではスプリングバックの影響を推定すること自体が難
しく,加工形状制御および誤差修正のための新たな手法を検討する必要があった.ここでは,ねじりの加わ
った角管の三次元曲げとして特徴的な,螺旋形状を取り上げ形状制御および補正の一手法を提案した 1).
提案した形状制御パラメータ:α により,螺旋加工外周面の形状制御が実際に可能であるか確認実験を行
った.被加工物はいずれも□=20[mm],A6063 の軟調質材(O 材)であり,提案した形状制御パラメータを
用いて曲げ加工を実施した.第一ステップとして,α = 0 すなわち形状制御をおこなわずに加工を実施した.
螺旋加工は二次元曲げとねじり曲げの合成によって行われると考え,単純曲げおよび単純ねじりについてお
こなった予備実験から曲率 κ,ねじれ率 τ について修正量を推定し,形状誤差を修正していった.図 4 に加
工結果の一例を示す.その結果,幾何学的な関係から求めた螺旋軌道値と実験結果は,ほぼ一致するように
なった.しかしながら,図 4 の外周面部を拡大した図 5 に示すように,三次元的なスプリングバックの影響
による,螺旋外周面のエッジ部分に生じるずれの問題は未解決である.そこで第二ステップとして導出した
形状制御パラメータ α を変化させて実験を行った.図 6 は α =5.25°とした場合の実験結果であり,螺旋外
周面のエッジ部分のずれが解消されていることがわかる.図 7 では α =50.75°として,意図的に螺旋外周面の
ずれを大きくしようとした場合であり,エッジ部分が外周面に対し鋭角に立ち上がる形状となっている.以
上により,従来は困難であった,三次元的なスプリングバックを,形状制御パラメータを新たに導入するこ
とで,制御し補正することが可能であることが確かめられた.
5.おわりに
本研究では,金属管やアルミ押出し材などの長尺材を,複雑な三次元形状に加工することが可能な,パラ
レルメカニズムを用いた曲げ加工機を提案した.本曲げ加工機は,電動アクチュエータに比べコンパクトに
大出力が得られる油圧駆動パラレルメカニズムにより,可動金型の位置と姿勢を制御するため,加工形状制
御の自由度が高く,円形,非円形,開断面などの素材を,任意の三次元形状に曲げることができる.ねじり
を伴う三次元曲げの一例として,アルミ角管の螺旋形状加工を取り上げ,形状創生のためのパラメータ導出,
三次元形状制御パラメータおよび加工補正パラメータの提案を行った.提案した形状制御パラメータを用い
れば,従来は困難であった,三次元的なスプリングバックの影響を制御し補正することが可能である.三次
元形状制御パラメータは,管材の断面形状が非円形であれば原理的に任意の三次元加工形状に適用が可能で
ある.
本論文では,三次元曲げ加工と形状制御の事例として螺旋曲げ加工の実験結果を報告したが,その後実用
化を進め,現在では複雑な三次元形状加工サンプルの提供,受託加工も実施している.本加工機が今後産業
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五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
界で大いに利用され,微力ながら日本のものづくりの発展に役立つことを願っている.最後に,本研究は平
成 14 年から平成 16 年にかけて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて実施した『大
学発事業創出実用化研究開発』のプロジェクトの成果に基づくものであり,研究開発プロジェクトを遂行す
るにあたり,タマティーエルオー(株)殿,東京工科大学殿,
(有)流体サーボ殿には大変なご尽力をいただ
いた.ご支援いただいた関係各位に心より感謝を申し上げる.
参考文献
1) 五嶋,田中,一柳:パラレルメカニズムを用いた曲げ加工機による管材の三次元加工,日本フルードパ
ワーシステム学会論文集,Vol.41, No.4 (2010), pp.74/79.
2) 日本塑性加工学会編:チューブフォーミング,コロナ社(1992).
3) 村田,
大橋,鈴木:円管の新しいフレキシブルな押通し曲げ,
日本機械学会論文集 C 編, Vol.55, No.517(1989),
pp.2488/2492.
4) 貝田,平野,藤井,吉田:アルミ押出形材の曲げ加工技術,神戸製鋼技報,Vol.47, No.2(1997),pp.17/20.
5) 浜野:アルミニウム押出し形材の押通し曲げ加工に関する研究,東京都立大学学位論文(2002),pp.115/128.
著者紹介
ごとう
ひろゆき
五嶋 裕之 君
1987 年神奈川大学大学院工学研究科修士課程,2010 年法政大学大学院システムデザ
イン研究科博士後期課程修了,博士(工学)
(法政大学)
.1987 年株式会社日立製作
所を経て,1990 年機械振興協会技術研究所,2004 年同所生産技術部システム課課長,
2011 年同所生産技術部部長代理,同年法政大学デザイン工学部兼任講師(非常勤),
現在に至る.環境対応油圧システム,パラレルメカニズムの産業応用研究に従事.日
本フルードパワーシステム学会,日本機械学会などの会員.
E-mail: [email protected]
たなか
田中
ゆたか
豊
君
1985 年東京工業大学大学院修士課程修了,その後東工大精密工学研究所助手を経
て,1991 年法政大学講師,1992 年同助教授,2002 年同教授,現在,法政大学デ
ザイン工学部長.この間,2000 年 5 月から 2001 年 3 月まで米国ユタ大学客員助
教授.工学博士(1991 年東京工業大学).日本フルードパワーシステム学会の国
際交流担当理事
E-mail: [email protected]
いちりゅう
一柳
けん
健
君
1959 年名古屋大学工学部機械工学科卒業,同年株式会社日立製作所日立研究所入社,
1974 年工学博士(名古屋大学)
『アキュームレータによる油圧系の振動制御法』,1981
年同社機械研究所へ転籍,1986 年株式会社日立建機技術研究所転属,1997 年東京
工科大学工学部教授,2006 年株式会社菊池製作所ものづくりメカトロ研究所所長,
現在に至る.
E-mail: [email protected]
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図 1 試作した曲げ加工機の概観
図2
第 42 巻
第 E1 号
曲げ加工機の構造
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五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
表 1 曲げ加工機の仕様
Bending tube diameter: D
10~60 [mm]
Length of parts: L
up to 2300 [mm]
Bending radii : R / D
3~∞
Pushing force: Fp
150 [kN]
Pusher feeding speed
0~0.1 [m/s]
Offset: u
0~100 [mm]
Angle of die : q
0~25 [deg]
図3
第 42 巻
第 E1 号
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医療機器用手すり
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2011 年 8 月(平成 23 年)
五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
図4
図5
第 42 巻
第 E1 号
螺旋形状の加工実験
スプリングバック補正無し(α=0)
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2011 年 8 月(平成 23 年)
五嶋・田中・一柳:学術論文賞受賞について
第 42 巻
第 E1 号
図6
スプリングバック補正有り(α=5.25°)
図7
スプリングバック補正過剰(α=50.75°)
- E40 -
2011 年 8 月(平成 23 年)
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