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概要 - 水産研究・教育機構
2012 年 PICES*年次会合におけるニホンウナギに関するワークショップ報告 課題名:東アジアにおけるウナギ(Anguilla japonica)の加入について 共同コンビーナー:Ruizhang Guan(集美大学;中国)、岸田 達(水研センター)、Tae Won Lee(国立忠南大学;韓国)、前 彰裕(水産庁)、Wann-Nian Tzeng(曾萬年)(国立台湾 海洋大学)、内田和男(水研センター) 背 景 ニホンウナギは東アジアにおける重要な漁業資源の 1 つですが、この 3 年間シラスウナ ギの漁獲量は日本のみならず東アジア各国で低レベルに留まり、シラスウナギ来遊量減少 の原因解明、及びニホンウナギ資源に対する適切な管理方策の検討が必要と考えられてい ます。ニホンウナギは東アジアに広く分布する資源であるため、この資源を適正に管理し 持続的に利用して行くためにはニホンウナギを漁獲し利用している東アジア各国が問題意 識を共有し、足並みを揃えて資源管理に取り組んでいくことが理想です。そのため、国際 的な協力体制構築の足掛かりとして、水産総合研究センター並びに水産庁は PICES 年次会 合が広島市で開催される機会を捉え、中国、韓国、台湾のウナギ資源に造詣の深い研究者 を招聘し、シラスウナギ来遊量減少について原因の検討と対策を協議するため国際ワーク ショップを開催しました。ワークショップの目的は以下の諸問題、すなわち 1)東アジア沿 岸域へのシラスウナギ来遊量の年変動のメカニズムについて、2)シラスウナギ加入量を維持 するための有効な手段について、さらにこれらの研究を有効に進めるために、3)必要な情報 交換について、4)国際的な協力の持ち方について、を協議することにありました。 話題提供と議論の要約 ワークショップは 3 つのセッションに分かれ、最初のセッションは Wann-Nian Tzeng 教授(国立台湾海洋大学)の座長で進められました。ここでは、内田和男博士(水研セン ター・増養殖研・内水面研究部長)が、ニホンウナギ産卵場で採集された親ウナギの耳石 に関する最新の分析結果を含む日本のウナギの生活史に関する総説を行いました。産卵場 で採集された親ウナギの 5 割弱が主に海水履歴を持つウナギであったこと、主に淡水履歴 を持つウナギのうち約 4 割が日本の河川由来のものと推定されたことなどの研究成果が紹 介され、ウナギの生息場所を考える上で沿岸域や汽水域を含め幅広く考える必要があるこ と、大陸、日本列島を含む東アジア各地から回帰したウナギが産卵に寄与している可能性 が高いことなどが示されました。 *PICES(北太平洋海洋科学機構): 北太平洋における海洋環境、生物資源と生態系等に関す る調査の促進と調整を行うため 1992 年に設立された政府間機関。加盟国はカナダ、中国、日 本、韓国、ロシア、米国の 6 カ国。 図1.産卵場で採集された親ウナギの生活履歴(Mochioka et al. (2012)より作 図)(内田氏の講演より) 張 成年博士(水研センター・増養殖研・資源生産部)は産卵海域における成熟ウナギ の発見と、海洋での回遊に関する所見について講演し、西マリアナ海嶺付近の比較的表層 で成熟ウナギが発見されたことなどを紹介しました。渡邊朝生センター博士(水研センタ ー・中央水研・海洋生態系研究センター長)はニホンウナギの産卵場および幼生輸送域に おける海洋条件について講演し、産卵海域での亜表層水塊の特性がウナギ卵仔魚の輸送に 関係すること、幼生の輸送過程での中規模渦の影響も注目されていることなどを講演しま した。 図2.2009 年に採集された成熟したニホンウナギの雄(左)と雌(右)(張氏の講演より) 2番目のセッションは Tae Won Lee 教授(Chungnam 国立大学(韓国))が座長を務め、 中国、台湾、日本、韓国研究者からの報告がありました。黒木洋明博士(水研センター・ 増養殖研・資源生産部)は我が国沿岸域のウナギ生息域減少の可能性、近年の低水準期に おけるシラスウナギ来遊量の年変動実態などを示し、近年シラスウナギ来遊時期が遅れて いる現象などについても報告しました。Tae Won Lee 教授は韓国におけるウナギ漁獲量変 動の実態を紹介し、朝鮮半島西岸に注ぐ Guem 川(錦江)では 2 月の終わりごろ水温が 5℃ を上回る時期からシラスウナギ来遊のピークが始まっていたが、2010 年以降はピークが不 明瞭でしかも時期が遅れていることが報告されました。Ruizhang Guan 教授(集美大学(中 国))は中国におけるシラスウナギ加入量減少要因として環境汚染、乱獲、管理の遅れを指 摘し、養殖対象種の他種ウナギへの切り替えも含め解決案を報告しました。Wann-Nian Tzeng 教授は台湾の河川ごとのウナギ種組成の差異と輸送の影響を考察し、更に台湾にお けるニホンウナギの資源解析結果事例、シラスウナギ来遊量変動における気候変動の影響 についての研究事例を報告しました。 図3.東京湾河口域における黄ウナギ調査風景 (黒木氏の講演より) 図4. 韓国西岸におけ る潮汐流を利用 したシラスウナ ギ漁風景(Lee 教 授の講演より) 3 番目のセッションは Ruizhang Guan 教授が座長を務め、岸田 達博士(水研センター・ 研究推進部)がヨーロッパにおけるヨーロッパウナギの管理方策についてレビューを行い ました。ヨーロッパでは 2007 年に EU が管理の目標を定め、それを実現するために加盟国 がウナギ管理計画を策定し実行に移しています。東アジアに広範に分布し各国で利用され ているニホンウナギは、ヨーロッパにおけるヨーロッパウナギと類似の関係にあるため、 EU の取り組み事例は東アジア地域の参考になると考えられます。 最後に、内田和男博士が総合討論の議長を務めました。複数の国によって指摘された資 源減少についての考え得る原因は、1)内水面および沿岸域における生息域の縮小、2)乱 獲、3)海況の変化でした。ニホンウナギ資源の回復を図り持続的に利用するために、ワー クショップとしては、1)漁獲データ収集についての国際協力、2)ニホンウナギの分布と 回遊に関する調査・研究の強化、3)資源管理については、第一段階として国ごとのシラス ウナギ、ウナギ成魚に対する取り組みを強化すること、4)河川及び沿岸域におけるウナギ の生息域および環境の保全、5)ウナギ放流の有効性の評価を実施することが必要であると 総括されました。情報交換の継続、及びそのための枠組みの構築についての重要性も認識 されました。 講演リスト 内田和男:ニホンウナギの生活史(総説) 張 成年、山本敏博、黒木洋明、岡崎 誠、渡邊朝生:産卵海域における成熟ウナギの発 見と、海洋での回遊に関する所見 安倍大介、岡崎 誠、渡邊朝生、黒木洋明、張 成年:ニホンウナギの産卵場および幼生 輸送域における海洋条件について 黒木洋明:日本におけるニホンウナギの生態および加入の年変動について Tae Won Lee:韓国におけるニホンウナギの生態および加入について Ruizhang Guan:中国におけるニホンウナギの生態および加入の年変動について Wann-Nian Tzeng、Yu-San Han:台湾におけるニホンウナギ加入における時空間的変化 岸田 達、内田和男:ヨーロッパにおけるウナギ管理方策について ワークショップ参加者