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在宅慢性呼吸器疾患患者への三元通信システム
日呼吸会誌 ●原 41(3) ,2003. 173 著 在宅慢性呼吸器疾患患者への三元通信システムによる遠隔診療支援の試み 小泉 知展1) 山口 伸二1) 花岡 正幸1) 藤本 圭作1) 久保 惠嗣1) 中井 桂司2) 滝沢 正臣2) 村瀬 澄夫2) 小林 俊夫3) 鈴岡 正博4) 要旨:今回在宅通信医療支援の一つとして,慢性呼吸不全患者に対して,患者宅,およびその主治医(病院) との伝送に,さらに呼吸器専門病院との 3 元通信遠隔診療支援システムを試みた.患者への問診および呼 吸循環動態の測定情報を双方向でリアルタイムに共有し,呼吸器専門医の観点から遠隔診療支援を行った. 3 例の患者に試験的に行ったが,このシステムは,直接の対面診療とほぼ同様な情報交換が可能で,日常の 患者の QOL 保持および主治医との適切な病診連携の確立に有用と思われた. キーワード:遠隔医療,遠隔在宅医療支援,慢性呼吸不全 Telemedicine,Telehomecare,Chronic respiratory failure 緒 言 されている.月一回の病院受診を行なっているが,呼吸 状態の悪化により入院歴が 2 回あり. 慢性呼吸不全患者の増加に対応して,在宅酸素療法を 患者 2;66 歳男性.3 年前から在宅酸素療法が開始さ はじめ在宅人工呼吸器療法が保険診療として認められ, れている.既往に平成 13 年に腹部大動脈瘤の手術歴が さらに訪問看護支援体制も確立されてきている.その中 ある.平成 13 年 9 月に胃癌が発見され,現在経口抗癌 で患者により良い在宅診療を行うこと,継続した日々の 剤治療が行われている. 病態の把握を行うこと,在宅での呼吸循環動態のモニタ 患者 3;78 歳男性.慢性閉塞性肺疾患にて 10 年前よ リングを行うこと等を目的に,病院側と患者自宅の二元 り在宅酸素療法が導入されている.平成 7 年に急性増悪 間を,公衆通信回線を利用し情報伝達の試みはされてき を来たし入院.その時より夜間のみ人工呼吸器管理が必 た 1) ∼3) .しかしながら,この方法では一医療施設と一患 者との,主治医を中心とした情報伝達に限定されていた. 要となり,在宅人工呼吸器(TLV-100;フジアールシー) を導入し在宅診療となった. 今回われわれは,在宅の慢性呼吸不全患者宅と,その主 方法は,遠隔患者宅に遠隔伝送装置(TMS-5002,日 治医である機関病院間に加え,さらに呼吸器専門病院と 本光電) ,機関病院に遠隔受診管理装置(TMS-5102, の三元間システムを確立し,双方向でリアルタイムに在 日本光電)を設置した.さらに信州大学病院医療情報部 宅患者の情報を共有しながら診療支援を行う多元遠隔医 にその受診管理および監視装置を設置した.この多地点 療診療支援システムの運用を試みたので報告する. システムの概要を Fig. 1 に示した.患者通信上,患者へ 対象と方法 の問診のほかに,患者の心電図波形,心拍数,血圧値, 動脈血酸素飽和度(コンバインセンサ TX-001 T,日本 対象は,在宅酸素療法施行中の慢性閉塞性肺疾患患者 光電) ,呼気二酸化炭素分圧(NPB-75,マリンクロット 3 名で,うち一名は夜間のみ在宅人工呼吸器を装着して (株) ) を測定した.これらをリアルタイムにデジタル通 いる患者である.3 名の患者背景を示す. 患者 1;77 歳の男性.約 10 年前より体動時呼吸困難 を自覚し,平成 10 年に慢性閉塞性肺疾患と診断された. 平成 11 年 3 月より在宅酸素療法および訪問看護を開始 信回線(ISDN 回線)を用いて,患者の状況を会話およ び画像により把握し送受信を試みた. 結 果 以下の項目が送受信可能であった.定期的送信では, 〒390―8621 松本市旭 3―1―1 1) 信州大学医学部第 1 内科 2) 同 医療情報部 3) 厚生連鹿教湯三才山病院 4) 会田病院 (受付日平成 14 年 2 月 13 日) 週一回定期時間を決め,送受信を試みた.Fig. 2 に示す ように一画面上に患者,主治医および呼吸器専門医の 3 施設の映像を映し出した.この状況で,主治医から患者 への問診を行なった.さらに患者に心電図モニターを装 着させ,心拍数,血圧,動脈血酸素飽和度を測定し,そ 174 日呼吸会誌 41(3) ,2003. Respiratory disease patients confined to home Central system Department of Medical Infomatics Monitors with joint remote operation Router Router INSnet64 Router ISDN network Multiple TV conferencing Shinshu University School of Medicine Monitors with joint remote operation Multiple TV conferencing Multiple TV conferencing Kakeyu-Misayama Hospital Aida Hospital Fig. 1 Guideline of telemedicene network system Fig. 2 Photographs of three persons participating the telemedicine network. Fig. 3 Cardiopulmonary monitor image obtained by the telemedicine system for a patient at home. の結果を伝送した(Fig. 3) .呼気二酸化炭素分圧の測定 は患者に実際その場で測定し,その測定結果を口頭で伝 から入院を希望されることがあったが,この一年間呼吸 えてもらった.それらの結果を参考に主治医から患者に 状態は落ち着いており,呼吸器症状の変化による入院歴 適時指示をした.さらに,呼吸器専門医から必要に応じ はない.一時,食欲不振,不眠といった鬱症状が出現し て主治医および患者に医療上必要な助言を行った. た.主治医がうつ病と診断し薬物治療が開始され早期に 臨時送信では,定期送信の他に,訪問看護者が患者宅 対応が可能であった.前立腺肥大による頻尿等の訴えが を訪問した際に行った.また,患者が異常を感じたとき, あることから,必要に応じて泌尿器の専門医もこの通信 あるいは問い合わせの必要性のある時には,前もって電 に加わりその症状の推移を観察している.症例 2 は,咳 話連絡して頂き,主治医側から送信した. 嗽,喀痰等の呼吸器症状の変動が大きく,その症状を早 この送受信の結果,各患者における利点や欠点と思わ 期かつ的確に把握でき,必要に応じて抗菌薬等の追加処 れる点を上げる.症例 1 では,現在まで約一年近くこの 方や,変更を決定している.また,この送受信を通じて 通信を継続している.今まで,呼吸状態に対する不安等 胃癌に対する経口抗癌剤投与の投薬指導も可能であっ 通信伝送による在宅診療支援 た.症例 3 は,通信導入後 3 カ月で,呼吸不全の増悪を 175 とが必要であろう. きたし主治医病院で死亡された.在宅時のみならず入院 今後このシステムの応用として,薬剤師および理学療 後患者診療への助言や人工呼吸器の設定やその調節に呼 法士の参加を考慮中である.在宅での服薬指導や呼吸器 吸器専門病院と主治医病院間でこの通信画面を利用し直 リハビリテーションを,この伝送画面を通して可能と思 接的な医療支援が可能であった.欠点として,患者宅側 われる.特にリハビリテーションは慢性呼吸器患者の管 の音声の調節や画面操作に難渋することがあること,実 理上重要な要素である.入院中のみならずその外来や在 際には生じなかったが,急変時の患者側からの緊急送信 宅での継続性が要求される4).在宅でのリハビリテーシ には対応できないことが挙げられた. ョンの継続性が低いことが指摘されているので,このシ 考 察 ステムの応用により在宅での継続性が保持されると期待 され,包括的な患者管理にも有用と考えられる.また, 高齢化に伴い慢性呼吸器疾患患者の増加が著しい.し 最近睡眠時無呼吸症候群患者や慢性閉塞性肺疾患患者に かしながら呼吸器専門医の育成はまだ十分でなく,呼吸 非侵襲的人工呼吸器療法が広く普及している.この際夜 器専門医の地域間の偏在が存在する.また長野県は,山 間での管理が問題となるので,夜間の呼吸循環動態の伝 間地域が多く,患者の定期通院に支障が多いこと等の理 送システムを検討したいと考えている. 由で,医療の地域格差が生じている.いままで,テレビ 本システムを導入するにあたり,機材特にセンターシ 電話を用いて,患者と病院間での二元通信の在宅診療支 ステム機材が高価格であること,通信料の支払いおよび 援システムが試みられているが,今回はさらに情報伝達 診療報酬が認められないこと等の今後の課題は多い.し 範囲を広げ,一般家庭医ないしは一般病院との医師との かしセンターシステム器械一台から回線次第でいくつも 診療支援を目的にこの多地点システムを開発した.この の通信連携が可能になることから,さらに拡大した多地 システム導入により,主治医と呼吸器専門医との診療協 点設定が可能である.これにより得られるより多くの情 力が得られ,従来の対面診療に近い医療内容を患者に提 報伝達の利点が大きいと思われる.一方,光ファイバー 供することが可能と思われた.今回対象にした患者は, を用いたインターネット回線も各家庭への普及も試みら 当初信州大学附属病院で入院加療し,在宅酸素療法や人 れてきている.これらの回線ではその回線容量がより多 工呼吸器導入等の治療方針決定後は,通院の都合で地域 いため,画像転送速度や精度がより向上すると予想され の機関病院の医師に主治医を委託している患者であっ る.これらの情報通信技術網の開発と高度利用により, た.一般に本システムを応用活用するにあたり,その対 遠隔診療支援の一助になればと考える. 象は,1)地理的,交通機関等で通院が困難である患者, このような情報化の進歩のなかで,個人情報保持の問 2)一人暮しあるいは精神的に動揺の激しい患者,3)入 題がある.このシステムでは新たな回線を,対象となる 退院を繰り返すあるいは病状が変動しやすい患者等が適 施設のみの対面通信網で形成しているので,現在ところ 切であろうと考えている. を個人情報保持については問題ないと考えている. 慢性呼吸不全患者にとって,“息が苦しい”といった 最後に,在宅酸素療法施行中の患者と,主治医および 症状は患者にとって大きな不安要素であり,また外出等 呼吸器専門病院との多地点の送受信通信システムを試験 が少ないことから,抑うつにもなりやすく,日常生活上 的に行った.このシステムの稼動性および有用性は非常 精神的負担が大きい.このシステム導入は,医師との対 に高いと思われた.慢性疾患を対象とした遠隔医療診療 面が可能でもあり,患者および介護者の QOL の改善が 支援のひとつとして有用な方法と思われた. 最も期待される.さらに,安心感のある在宅医療は,患 なお,本研究は,文部科学省高度先進医療開発 A 研究の 者の不安から生じる入院希望を回避でき,入院費用の削 遠隔診療の適応拡大のための高度新技術開発に関する研究の 減にもつながると予想される.また,頻回の連絡を取り 一部として行った. 合うことにより急性増悪を早期に把握しその対策を立て ることも可能である. 文 献 また,患者宅に設置する伝送装置の操作性については 1)本間 達,若松秀俊:在宅用小型補助呼吸装置を用 比較的簡便で,高齢者にも十分対応可能と思われた.し いた救急遠隔医療用システムの開発.日本臨床生理 かしながら,音量や画質設定がいったん固定されても, 学会誌 2000 ; 30 : 285―292. マイクとの位置関係や室内の証明位置等により,微妙に 2)Finkelstein J, O’ Connor G, Friedmann RH : Devel- 調節が必要になりその操作に難渋することがあった.こ opment and implementation of the home asthma の対策として,訪問看護者が訪問している時間帯に合わ せて,送受信を行ない,訪問看護者が操作を補助するこ telemmonitoring(HAT)system to facilitate asthma selfcare. Medinfo 2001 ; 10 : 810―814. 176 日呼吸会誌 41(3) ,2003. 3)鈴木康之,宮坂勝之,中川 聡,他:在宅医療支援 ビリテーションをどう考えるか―科学的根拠から実 と遠隔医療.BME 1998 ; 1 : 242―246. 践まで―.呼吸 2001 ; 21 : 1235―1241. 4)塩谷隆信,佐竹将宏,高橋仁美,他:在宅呼吸リハ Abstract Telemedicine support system in home care of patients with chronic respiratory failure : Preliminary results Tomonobu Koizumi1), Shinji Yamaguchi1), Masayuki Hanaoka1), Keisaku Fujimoto1), Keishi Kubo1), Keiji Nakai2), Masaomi Takizawa2), Sumio Murase2), Toshio Kobayashi3) and Masahiro Suzuoka4) First Department of Medicine, and 2)Department of Medical Infomatics, Shinshu University School of Medicine, 1) 3) Kakeyu-Misayama Hospital, 4)Aida Hospital. 3―1―1 Asahi Matsumoto, 390―8621, Japan. We report the preliminary results of an advanced telemedicine system for the delivery of home care services. We have been trying out a system for a ternary telemedicine network for remote consultation in patients with chronic respiratory failure. The elements of this system are : the patients at home, the home doctor(and! or coml) munity hospital) , and an institution with respiratory staff(Shinshu University) , which were linked by ISDN lines. The system allows real-time visualization, at home, of the patients and their physiological data, which are transmitted simultaneously to both the community hospital and Shinshu University. Respiratory specialists can advise the home doctor on the treatment and follow-up evaluations of distant patients. We consider that the telemedicine network system has the potential to improve clinical outcomes and to provide home care services to patients with chronic health conditions.