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農業生態系研究におけるリモートセンシング利用の概論
高度先進技術研修 農業環境の情報把握と管理のためのR/S・GISの利用技術 No.1 農業生態系研究における リモートセンシング利用の概論 岐阜大学 流域圏科学研究センター 秋山 侃 [email protected] 秋山研究室URL: http://www.green.gifu-u.ac.jp/-akiyama/ 2006年11月6日 No.2 目 次 1. 分光反射特性 2. 概念と原理 3. 地球観測衛星の進歩 4. 衛星リモートセンシングの新たな展開 1. 概念と原理 (1) 時・空間を縮める科学 これまでの科学は, 遠くのものを近づけ,小さいものを拡大すること で進歩を遂げてきた。 しかし,地球には大きすぎて見えないものがある。 動きがゆっくり過ぎて見えないものもある。 空間と時間を圧縮し,全容を見易くする科学, それがリモートセンシングである。 No.3 (2)リモートセンシングとは(定義) リモ-トセンシング(Remote Sensing): 日本語では「遠隔測定」とか,略して「隔測」。 中国語では「遥感」。 離れた所から直接触れずに対象物を同定あるいは 計測し,また,その性質を分析する技術。 (日本リモ-トセンシング学会 1992) No.4 リモートセンシングの原理模式図 (1)光源(太陽光),(2)光路,(3)対象物,(4)光路,(5)センサ 受動型センサ:(1)(2)(3)(4)(5),能動型センサ: (5)(4)(3)(4)(5) No.5 2.分光反射特性 No.6 (1)リモートセンシングで使われる波長帯 可視域,赤外域, マイクロ波域が中心 (日本リモートセンシング学会 1992,科学技術調査会1979より作成) 物体の波長別反射特性 No.7 物体はそれぞれ特有の反射特性を持っている 図. 土壌,水および緑色植物の分光反射パターン (日本リモートセンシング学会 1992より作成) No.8 主な地球観測衛星(光学センサ搭載) 人工衛星/センサ 打上げ年月・国 観測波長帯・数 * 現在運行中の地球観測衛星 Landsat-1-5 /MSS/TM Landsat-7 /ETM + 1972.7USA 1999.4 USA SPOT-4,5 /HRVIR IRS 1D /LISS-III 1998.3 France 1997.9 India TERRA /ASTER /VNIR /MODIS (LCB) /MODIS (LCP) NOAA-17,18 /AVHRR 1999.12 USA IKONOS 2 /Imaging sensor QuickBird /Imaging sensor EO-1 /Hyperion 17号2002.6 18号2005.5 USA 1999.2 USA 2001.1 USA 2002.1 USA 空間分解能 Vis;2, NIR;2 80m Vis3,NIR1, MIR2、TIR1 30m TMと同 60m Panchromatic;1 15m Vis;2, NIR;1,MIR;1 20m Panchrom;1 10m Vis;2, NIR;1, 23.5m MIR;1 70.5m Panchromatic;1 5.8m Vis;2, NIR;1 Vis;1, NIR;1 Vis;2, MIR;3 Vis;1, NIR;1, MIR;1, TIR;2 15m 250m 500m 1.1km 1.1km Vis;3, NIR;1 Panchromatic;1 Vis;3, NIR;1 Panchromatic;1 VNIR (0.357-1.0):60 SWIR (0.9-2.577):160 3.3-4.0m 0.82m 2.44m 0.61m 30m 30m * Vis;Visible, NIR;Near Infra-red, MIR;Mid IR, TIR;Thermal IR Panchromatic;Panchromatic mode Point;Pointing function 観測周期(日) 18d (16d) 16d 26d (Point) 25d (Point) 16d (Point) 1d 1d 2-3d (Point) 1-3d(Point) 16d No.9 (2) 衛星観測波長帯 波長 (µm) 0.4 0.5 紫外線 NOAA AVHRR Landsat 7 ETM 0.9 可視光線 1 1 23 2 4 6 8 10 ・・ 14 ・・ 赤外線 2 4 3 5 7 4 5 6 パンクロマティック MODIS 0.405µm ~ 14.385µm まで36バンド 3. 地球観測衛星の進歩 No.10 (1)衛星データの3つの分解能向上 空間分解能: どの程度細かいものまで 識別できるか(地上解像度) 波長分解能: 観測波長帯の数と間隔 時間分解能: 観測の頻度(回帰日数) No.11 Landsat衛星を例として Landsatの観測仕様 1972年~,Landsat1~7号,当初MSS,TMを経て現在ETM。 衛星/センサ 運用期間 Landsat1 1972.7.23~ MSS 1978.1.6 Landsat4 TM 1982.7.16~ 2001.6.5 波長( nm) 500-600,600-700 700-800,800-1100 空間分解能 観測幅 観測周期 80m 185km 18日 30m 185km 16日 30m 15m 185km 16日 同上( MSS ) + (TM) 450-520,520-600 630-690,760-900 1550-1750,10.4-12.5μ 2080-2350 Landsat7 ETM 1999.4.5~ 同上( MSS ) + (TM) + ( PAN) 520-900 ALOS(高性能陸域観測衛星) No.12 2006年1月打ち上げ、同年10月からデータ配信 地図作成、地域観測、災害把握、資源探査、技術開発 項目 PRISM 観測波長帯 0.52-0.77 AVNIR2 PALSAR 1.270 GHz 0.61-0.69, 0.76-0.89 (Lバンド) (ミクロン) 地表分解能(m) 2.5 10 10 観測幅(km) 70(35) 70 70 特徴 3方向視 高頻度観測可 入射角可変 0.42-0.50, 0.52-0.60 No.13 Terra衛星 1999年12月打ち上げ、日・米・カナダでセンサ製作 CERES, MISR, MODIS, ASTER, MOPITT 項目 MODIS・AQUA 36波長 (2), (5), (29) 地表分解能(m) 250, 500, 1000 観測幅(km) 70 毎日2回観測 特徴 観測波長帯 ASTER VNIR,SWIR,TIR (4), (6), (5) 15, 30, 60 60 Pointing NOAA,SPOT,Landat衛星の機能比較 No.14 数値データ:演算が可能 位置情報をもったデータ: 他の情報と重ね合わせが可能 Landsat SPOT 2700km 185km 60km×2 毎日 16日 26日 不可視領域: 近赤外 近赤外・中赤外 近赤外 過去の画像: 1979年~ 1972年~ (1984年~) 1986年~ 特 徴 広域性: 反復性(周期): NOAA (2)画像上にみる空間分解能の違い 116º 44º 00’ 20’ 117º 20’ 43º 10’ NOAA AVHRR (1,100 m) TERRA MODIS (250 m) Landsat 7 ETM+ (30 m) R:G:B = 1:2:1 R:G:B = 1:2:1 R:G:B = 5:4:2 図. 3種衛星による対象域の画素比較,部分拡大(31 X 37km2) No.15 (3)波長分解能が高いと何が分かるか No.16 Reflectance Spectral characteristic of scene Measured Reflectance EO-1 Hyperion images (Hyperspectral sensor) Multispectral Imaging Few bands Band 4 Band 4 Band 3 Band 2 Band 1 Wavelength Wavelength (Pearlman et al. 2001) Measured Reflectance Hyperspectral Imaging Hundreds of bands Wavelength Takahashi et al.2003 (4)時間分解能(観測頻度)向上のメリット No.17 JERS:44日,ERS:35日,SPOT:26日, Landsat:16日 NOAA:毎日,Terra/MODIS:毎日,ひまわり:1時間 観測間隔が短いと,変化を追跡しやすい。 植物の生長,気象・環境の変化や災害監視に役立つ。 頻度的に快晴データを取得できる確率が高い。 モザイク画像を作成して雲のない画像を合成できる。 例えば,NOAA画像から作成するMVC合成画像。 光学センサの泣き所 - 雲 No.18 Landsat 5号(光学センサ搭載)が17年間に撮った 16,540枚の日本各地の画像の雲量を調べたところ, 日本全国平均の快晴率は6.17%,すなわち16回に 1回程度の確率で雲の少ないデータ(雲量20%以 下)が撮れる。 Landsat の回帰日数は16日だから,平均すると 16×16=256日に1度しか,快晴データを取得できない 。 日本各地の快晴日データ取得の 割合(Landsat 5号) No.19 地域や季節により変動する。 日本で最も高いのは関東地方。 資料:秋山・川村 2003 No.20 世界の快晴日データ取得割合の比較 砂漠地帯は毎日快晴 :CCR0 :CCR20 CCR≦20 日本 1.27% 4.90% 6.17% (a) 日本 全42シーン WRS 105~113-28~42 80 オーストラリア 14.00 39.00 53.00 (b) 中国内蒙古草原 WRS 124-29, 124-30 (c) オーストラリア WRS 96-82 (Graetz 1987改図) 沖縄 岐阜 60 60 40 90 北海道 30 20 0 JFMAMJJASOND JFMAMJJASOND JFMAMJJASOND 月 図表:日本,中国内蒙古,オーストラリアの比較(秋山・川村2003) 0 太陽高度(°) データ取得率(%) 100 中国内蒙古 16.91 27.94 44.85 No.21 マイクロ波センサ搭載衛星 マイクロ波は天候に影響されない 表. 現在運行中のマイクロ波センサを積んだ地球観測衛星 衛星名 ERS-1, 2 運行年 1991~ 波長 C 入射角 23° 欧州 JERS-1 日本 L 38.5° カナダ 1992~98 1994~ C 欧州 2002~ C 可変 15-45° 偏波 VV 空間分解能 12.5m 回帰日数 35日 観測幅 100km JERS-1 HH 18m 75km RADARSAT1, 2 ENVISAT HH 10-100m 44日 24日 100km HH/VV 30m 35日 56-100km RADARSAT1, 2 ENVISAT 衛星名 ERS-1, 2 国名 ※波長:C(5.3GHz , 5.66cm),L(1.275GHz , 23.5cm) No.22 JERS-1 SAR(左,マイクロ波)と Landsat TM(右,光学センサ) 画像の比較 資料:RESTEC 4. 衛星リモートセンシングの新たな展開 No.23 地球観測衛星の仕事 人工衛星リモートセンシング 航空機リモートセンシング 雲の分布,水蒸気情報,降水情報 火山活動情報 鉱物資源地質 地形情報 海氷情報 海上ブイ 氷雪・水源情報 波・風等海面情 報 海面温度 情報 油・汚染情報 赤潮情報 沿岸災害情報 植生分布情報 植物生育情報 豊プランクトン海域情報 穀物生産予測情報 (リモート・センシング技術センター) (1) 研究から実利用へ No.24 環境分野:土地利用変化,開発地域の環境監視,海洋汚染監視, 水質モニタリング,植生調査,水涵養機能評価など 防災分野:火山噴火,土砂災害,地震被害など 農業分野:作物適地把握,収量予測,作付け面積推定, 食味マップ,気象被害推定,土壌図作成など 水産分野:表面水温分布,沿岸環境マップ,魚況予測図など 林業分野:森林管理簿,伐採地抽出,森林資源情報, 森林が固定するCO2量の推定など 地図作成:1/25,000地形図修正,道路地図作成など 海洋・気象分野:海氷速報,降雨量予測,オゾン層観測など (2) 新たな研究領域の開発 No.25 衛星生態学への期待 空間 • 広域性,反復性 • 放牧圧の影響評価が困難 広域モニタリング (リモートセンシング) GPS/GIS・モデルの利用 実際の放牧地で草生産への 放牧の影響を定量的に評価 放牧試験区 (生態プロセス研 究) 時間 • 詳細な機能評価 • 広域スケールへの適用不可 No.26 地理的要因データの作成 DEM (Digital Elevation Model) バッファ解析 ■ Terra ASTERデータ(プロダクト4A01) ■ GIS上でバッファを発生 ■ 空間分解能15 m ■ 畜舎,川からの距離の計算 ◆ 標高(Elev) ◆ 傾斜(Grad) ◆ 方位(Asp) ◆ 家からの距離(disFarm) ◆ 川からの距離 (disRiber) No.27 *BC: バイトカウンター(梅村ら 2003) GPSとBCの取り付け ■ 羊5頭に取り付け (表1参照 ) ■ 2004年6月1日~9月20日(112日間) *GPS_Sは各月5日間 表1. GPSとBCの取り付け方法 No Age Sex GPS_T GPS_S 1 1 Female 2 2 Male 3 4 3 4 ○ ○ BC ○ Female ○ ○ Female ○ ○ 5 4 Female ○ GPS_T: GPS首輪 (Televilt, Prosec Collar 600UD) GPS_S: 携帯型GPS (Sony, HGR3S) BC: バイトカウンター (梅村ら2003) Male: 去勢雄羊 GISデータベースの作成 No.28 ■ 空間の最小スケール:Terra MODISデータ (250 m×250 m) Terra MODIS衛星 ◆ 草量(GBM) ◆ CP含有率(CP) GPS&BC ◆ 放牧強度(GI) GIS: geographical information systems ASTER/DEM, etc. ◆ 標高(Elev) ◆ 傾斜(Grad) ◆ 方位(Asp) ◆ 家からの距離 (disFarm) ◆ 川からの距離 (disRiver) 空間的分布の 季節変化(5~9月) ■ 草量 川の近く高い ■ 草質 川の近く低い ■ 放牧強度 家の近くが高い 5,9月に広い分布 地理的な影響 • 家からの距離 • 川からの距離 広域生態系監視の新たな手法 No.30 ■ 地球環境変化や生態系の変動 広域的な情報を時系列的に反復し, 定量的に取得する必要。 従来の「点」による調査では状況を 把握できないため,「面」的調査を可能にする 新たな技術が要求されている。 ■ リモートセンシング技術は有効な道具 地理情報システム(GIS)分野の発達も著しく, リモートセンシングとの併用により,応用分野は格 段に拡大。