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大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験

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大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
福井大学教育実践研究 2
0
0
8,第3
3号,pp.
1
4
3−1
5
4
資
料
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
福井工業大学
工学部
宇宙通信工学科
加
藤
芳
信
(福井大学教育地域科学部附属教育実践総合センター特別研究員)
宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すことを目的として,福井工業大学工学部宇宙通信工学科
における学生実験を紹介する。2年生前期から3年生前期までの実験は電気電子工学科とほぼ同じ実験
内容であるが,
3年生後期から4年生後期までの実験は宇宙通信工学科独自の実験内容(宇宙通信・リモ
ートセンシング関係)である。直径10mパラボラアンテナ受信システムを使った実験は,他大学ではで
きないユニークな実験である。3年生後期と4年生後期に,学生1人ずつが実験で得られた成果を教員
と受講学生全員の前で15分程度発表する「実験成果発表会」を開催することもユニークである。また,
衛星追尾実験に使っている Visual Basic による衛星軌道計算プログラムについても記している。
キーワード:学生実験,宇宙通信,リモートセンシング,パラボラアンテナ,衛星軌道計算プログラム,
衛星追尾,ノア,ランドサット,テラ,アクア,MODIS,画像処理,実験成果発表会,大学教育
1.はじめに
遠隔観測)関係の研究をしている。2006年11月のインド
全国の国公私立大学において,宇宙関連の学科がある
で開催された SPIE Asia-Pacific Remote Sensing 国際会
大学は十数校あるが,宇宙通信工学科という名前の学科
議でのアメリカ合衆国(USA)
,中国,インド,日本
がある大学は福井工業大学だけである。筆者が所属する
の代表者による基調講演を聴き,現在および近い将来の
宇宙通信工学科の教育目標は,基礎となる電気・電子工
宇宙開発能力の国家間の順位は,!USA,"ロシア,
学や電波・通信技術に加え,人工衛星や天体の特性を理
#中国,$インド,%EU,&日本,であるとの印象を
解するためのカリキュラムにより,宇宙通信の基礎から
受けた。各国は宇宙関連分野の研究を,将来を見据えな
最先端までを体系的に修得することである。講義等で学
がら国の威信をかけて精力的に,かつ着実に進めている。
習した知識を体験的に理解し,定着させるために学生実
例を挙げれば,月探査衛星は,
2007年9月に日本(かぐ
験がある。宇宙通信工学科の学生実験では,
2年生前期か
や),同年10月に中国,
2008年10月にインドがそれぞれ打
ら3年生前期までの1年半は電気電子工学科とほぼ同じ
ち上げている。このような大規模な宇宙開発研究に加え,
実験を行い,3年生後期から4年生後期までの1年半は
現在,私たちが恩恵を受けている宇宙関連技術も数多く
宇宙通信工学科独自の実験,即ち,宇宙通信・リモート
ある。例えば,自動車のナビゲーション・システムは
センシング関係の実験,を行っている。特に,直径10m
GPS(全地球測位システム)の一応用技術である。また,
パラボラアンテナ受信システムを使った実験や,実機(本
毎 日 の 天 気 予 報 で 見 る 雲 の 画 像 は,静 止 気 象 衛 星
物の設備・機器)を使った実験は,他大学ではできない
MTSAT(日本名:ひまわり)によるものである。
ユニークな実験である。また,3年生後期と4年生後期
このように宇宙関連分野の技術は現在および将来にお
に,学生1人ずつが実験で得られた成果を教員と受講学
いて重要な位置を占めるのであるが,それを教育する大
生全員の前で15分程度発表する「実験成果発表会」を開
学は日本には少なく,更に学生実験も出来る大学は極め
催することもユニークである。
て少ない。その理由の1つは通信がディジタル化したた
本稿は宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すこ
め,教員は旧来のアナログの教え方とは違う教え方をし
とを目的とする。第2節では学生実験の内容を紹介する
なければならず,講義で理論は教えることが出来たとし
ことの意義を述べる。第3節∼第5節では宇宙通信工学
ても,それを実証・実体験するための実験をどのように
科の学生実験を紹介する。なお,実験内容は毎年少しず
するのかが難しいことにある。LSI化が進み,中の信
つ変わっていくので,本稿に記した実験内容は,筆者が
号を取り出せないことも学生実験をやりづらくしている。
記録を詳細にとっていた2003∼2005年度を基に[1−3],
更に,日本では宇宙関連分野の教育は新しい分野の教育
必要に応じて2008年前期までの実験内容を付加してある。
なので,何を講義すべきか,何を実験すべきかの手本が
第6節では,衛星追尾実験で使っている Visual Basic に
殆どない。従って,本稿で宇宙通信工学科の学生実験の
よる衛星軌道計算プログラムについて記している。
内容を紹介することは,将来の日本の宇宙関連分野の教
育の1つの手本を示すことになり,意義がある。また,
2.学生実験の内容を紹介することの意義
内容の一部(携帯電話の活用,衛星追尾実験でのドップ
筆者は衛星リモートセンシング(人工衛星を利用した
ラー効果など)は高校の授業でも役立つものである。
―1
4
3―
加藤 芳信
3.2年生前期から3年生前期までの学生実験
理と取扱い法を学習し,交流波形の観察を行う。
(トランジスタの静特性:トランジスタの原理を学習し,
のテーマと内容概要
宇宙通信工学の基礎は電気工学(電子・通信・情報工
基本的な接続法とその静特性を測定する。
学を含む)である。従って,宇宙通信工学科の学生実験
)電磁誘導に関する三法則の実験:ファラデー,レンツ,
の最初の1年半は電気工学分野の実験を行う。教育目標
ノイマンの各法則について実験し,理解する。
は,各種測定器の取り扱い方,基本的電気量の測定法を
*金属抵抗の温度特性の測定:各種金属線の温度による
修得し,各種素子,各種部品,各種機能回路などの実験
抵抗の変化を測定し,各温度特性を理解する。
により,電子・通信の基礎技術の実際を体験的に修得し,
+磁化特性の測定:永久磁石の磁束の測定と強磁性体の
電子・通信の基礎事項,基本的現象や特性を把握するこ
磁化特性の測定により,磁気作用を理解する。
とである。実験は「福井キャンパス」にて,宇宙通信工
,銅電量計による電気化学の実験:電解溶液中のイオン
学科と電気電子工学科が一緒に行う。従って,実験項目
の関係(ファラデーの電気分解の法則)を理解し,電気
には,単相変圧器や同期発電機など,いわゆる強電関係
メッキの原理について学習する。
の実験も含まれる。それにより,幅広い知識が得られる。
以下に半期ごとの実験テーマと内容を記す。実験は必
3.2
電子・通信工学実験実習Ⅱ(2年生後期)
2年生後期には電気・電子工学の基礎∼応用事項につ
修科目であり,週3時間で半期1単位である。
(注)筆者は2000年度まで電気工学科に属しており,学
いて,1週1テーマの割で以下の!∼-の実験を行う。
生実験も担当していた。1980年代に主任教授からの指示
第2,3週(実験テーマ",#)では学生1人1人が,
で,2年生と3年生の実験指導書の約1/4の内容を改
論理回路を設計し,穴あきプリント基板にダイオード,
訂/新規執筆したことがある。現在の電気電子工学科の
抵抗,トランジスタを半田付けして回路を製作し,設計
実験指導書は,実験担当教員により毎年改訂されている
通りに動作するかを実験する。
が,筆者執筆の基本的な内容が現在でもかなり残ってい
!実験ガイダンス。
る。
"ダイオードと論理回路Ⅰ:ダイオードの特性を測定し,
ダイオード,抵抗,トランジスタを用いたAND,OR,
3.1
電子・通信工学実験実習Ⅰ(2年生前期)
NOT回路を設計する。
2年生前期には電気・電子工学の基礎事項について,
1
#ダイオードと論理回路Ⅱ:設計した回路を製作し,理
週(2コマ180分で時間延長あり)1テーマの割で,以
論通りの結果が得られるか,測定し検討する。
下の!∼,の実験を行う。安全管理についても第2週で
$RLC共振回路:直列RLC共振回路と並列RLC共
説明する。実験は,宇宙通信工学科と電気電子工学科の
振回路で,周波数を変化させた時の特性を測定し,ベク
学生が一緒に行う。学生数が多いので,まず学生を2つ
トルを求め,共振回路を理解する。
の曜日(月曜日午後と火曜日午前)に分け,更に5∼11
%四端子回路網:抵抗器を用いて抵抗減衰器を構成し,
人の学生が1つの班になるように分ける。班ごとに実験
その減衰特性を測定することにより,四端子回路網の原
テーマ#∼,をまわす。実験担当教員は1人1テーマず
理を理解する。
つを担当する。大学院生TA(ティーチングアシスタン
&過渡現象の観測:CR回路で生じる過渡現象の理論を
ト)がつく場合もある。各テーマとも実験機材は複数台
基に,実際に波形を観測し,現象を理解する。
(テーマによっては学生1人に1台ずつ)用意してある。 '半導体の熱電効果の測定:半導体・金属接合における
学生は実験レポートを実験後1週間をめどに提出する。
ペルチェ効果による吸熱量の測定,及び,ゼーベック効
!実験ガイダンス:各実験テーマの実験上の注意と実験
果によるゼーベック電圧の測定を行う。
内容の説明,レポート作成上の注意。
(光電変換素子の特性測定:光エネルギーを電気エネル
"安全の手引き:実験を行う際の安全管理の説明。
ギーに変換する現象を理解するために,フォトダイオー
#抵抗値の測定:電圧計・電流計を用いてオームの法則
ドと太陽電池の特性を測定する。
の実証と,ホイートストンブリッジ法による精密測定を
)光束および照度の測定:球形光束計で白熱電球の光束
行う。
を測定し,照度計で室内照度分布を測定する。
$電圧計・電流計の校正:直流電位差計を用いて,電圧
*直流モータの特性試験:モータの始動,速度制御およ
計・電流計の指示値の誤差・校正について検討する。
び負荷特性試験を通して,モータの運転理論や特性を理
%相互インダクタンスの測定:交流ブリッジを用いて,
解する。
自己インダクタンス・相互インダクタンスの測定を行う。 +変圧器の特性試験:変圧器の無負荷試験,短絡試験を
&L・C・Rの測定:万能ブリッジを用いて,交流回路
行い,変圧器の特性を理解する。
のインピーダンスの測定を行い,インダクタL,コンデ
,オペアンプ・アクティブフィルタ:Op-Amp(演算増
ンサC,抵抗Rについて理解する。
幅器)の特性を理解し,その取扱いに習熟し,Op-Amp
'オシロスコープによる各種測定:オシロスコープの原
の応用としてのアクティブフィルタの概念を理解する。
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4―
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
-発光素子と数値の表示:発光ダイオードLEDとレー
4.3年生後期から4年生後期までの学生実験
ザーダイオードLDの構造,発光の様子,電流特性の違
(宇宙通信・リモートセンシング関係実験)の概要
いを理解する。数値表示用LEDを組込んだ論理回路を
3年生後期からの学生実験は,宇宙通信工学科独自の
実験(宇宙通信・リモートセンシング関係実験)になる。
配線し,数値表示の実際を理解する。
3年生後期の八木アンテナの指向特性実験だけを除き,
3.3
電子・通信工学実験実習Ⅲ(3年生前期)
実験は全て「あわらキャンパス」で行われる。あわらキ
3年生前期には電気・電子・通信・情報工学の基礎∼
ャンパス(福井県あわら市北潟2
13−21)は福井キャン
応用事項について,1週1テーマの割で以下の!∼-の
パス(福井市学園3−6−1)から北に約26km離れて
実験を行う。第2週では安全管理について説明し,徹底
いるため,移動には学園バス(無料)または自家用車を
する。第3,4週では学生1人1人が,
1個のトランジス
利用する。
タを用いた増幅回路を設計し,穴あきプリント基板にト
あわらキャンパス(写真1∼3参照)には,フロント
ランジスタ,抵抗,コンデンサを半田付けして回路を製
エンドとして①10mφ(直径10m)パラボラアンテナ受
作し,設計通りに動作するかを実験する。
信システム(2001年5月稼動)があり,これを利用した
!実験ガイダンス。
"安全の手引き。
#トランジスタ増幅回路Ⅰ:与えられた仕様に基づき,
トランジスタ増幅回路を設計する。次回までに,部品(ト
ランジスタ,抵抗,コンデンサ,穴あき基板,線材)を
各自購入し,自宅等で回路を製作する。なお,授業の空
き時間や放課後に実験室にて半田付けして回路を製作し
てもよい。
$トランジスタ増幅回路Ⅱ:製作した回路について利得,
歪み,位相,周波数帯域幅等の特性を測定し,電子回路
の基本である増幅回路について理解する。回路が上手く
写真1.あわらキャンパスにある直径1
0mのパラボラアンテ
ナ:米国 ViaSat 社製(後方は2号館)
動作しない場合は,その実験室にて回路を直し,再度測
定する。
%差動増幅回路:相互特性測定,入力と出力の電圧波形
の位相観測,増幅度の周波数特性測定を行う。
&マイクロ波回路:ガンダイオードのマイクロ波発振特
性,周波数測定,未知インピーダンス測定により,マイ
クロ波素子,スミスチャートを理解する。
'AM変調・復調回路:実習回路を用いて,変調度及び
AM検波出力の測定,AM検波回路の周波数特性測定に
より,振幅変調・復調の原理を理解する。
(同期発電機の特性試験:同期発電機の電機子巻線抵抗
測定,無負荷飽和試験,三相短絡試験から各種定数,外
部特性を算出し,同期機の理論を理解する。
写真2. 2号館2階の衛星受信室にあるパラボラアンテナ制御
システム:米国 ViaSat 社製
)SCRの位相制御試験:SCRによる電力制御の仕組
みを理解し,電球負荷を用いて電力制御の実際を計器測
定及びオシロスコープ波形観測にて確認する。
*画像処理:濃淡変換,フィルタ処理,2値化処理など,
コンピュータ画像処理の基礎的実験を行う。
+電子計算機の基礎:マイクロコンピュータTK−85を
用いて,機械語で書いたプログラムを実行し,その構造
と動作を理解する。
,FM変調・復調回路:実習回路を用いて,被変調波の
スペクトル,弁別回路のS特性などを測定し,周波数変
調・復調の原理を理解する。
-ディジタル回路:基礎的なロジック回路のディジタル
IC(TTL)の働きや特性を理解する。
写 真3.2号 館2階 の 衛 星 受 信 室 に あ る テ ラ・ア ク ア 衛 星
MODIS 受信システム:ノルウェー国 Kongsberg 社製
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加藤 芳信
バックエンドとして,②テラ・アクア衛星 MODIS 受信
的利用法,成果発表会用スライド作成のための Power
システム(2
003年9月稼動)[4],③宇宙空間プラズマ
Point の効果的利用法の実習を行う。
観測衛星「あけぼの」受信システム(2
004年2月稼動),
#∼$変復調実験:高周波受信機 NRD−545を用いたA
④太陽電波観測システム(2
004年7月稼動)
,⑤銀河電
M及びFMに関する変調・復調実験。これは3年生後期
波観測システム(2004年9月稼動)がある。更に,①を
の実験「"∼%高周波受信機」の追加実験である。
構成するSCC(Station Control Computer,地上局制
%∼&あわら宇宙通信システム:パラボラアンテナ部設
御コンピュータ)の代りに,利用者(教員又は学生)が
備と地上局室部設備の講義と現場調査実習(1回)
,受
パラボラアンテナの向きを自由に制御できる⑥実験用ア
信システムの構成に関する講義(1回)。
ンテナ制御システム(2003年8月稼動)がある。これら
'∼)
の設備に約6億円かかっている。学生実験には①,⑥,
700-MRB の動作原理の講義(1回)と特性測定実験(2
②,③が使用される。
回)。
教育目標は,あわらキャンパスにある衛星追尾・電波
*∼+
L/Sバンド人工衛星用受信機:Mycrodyne
Visual Basic プログラムと衛星追尾実験:VB
受信設備を使用して,各部装置の特性測定や操作などの
の基礎と衛星軌道計算プログラム作成(1回)
,衛星追
実習テーマを段階的に修得し,最終的に,総合的な受信
尾実験(2回)
,レポート作成(1回)。
データの取得及び解析法を修得することである。実験内
容は次第に専門的になり,レベルも高くなっていくの
4.3
宇宙通信工学実習Ⅱ(4年生後期)概要
で,
1つのテーマが4週にわたるものもある。実験の特色
4年生後期の1月には卒業論文の締切りと卒業研究発
は,実機(本物の設備・機器)を使用することである。
表会があり,12月後半から1月末まで学生は特に忙しく
これは他大学では実施できないユニークな実験方法であ
なるため,学生実験は以下のテーマで12月中旬に終わる
る。
ようにしている。
以下に,各学期の実験の概要を記す。(実験の詳細は
!リモートセンシング基礎:LANDSAT 衛星画像処理。
"テラ・アクア衛星 MODIS 受信システム:講義と実習。
第5節に記す。)
#MODIS 画像データ解析:講義と実習。
4.1
電子・通信工学実験実習Ⅳ(3年生後期)概要
$宇宙空間環境と EXOS-D(あけぼの)衛星:講義。
以下の実験テーマについて教員4人(大家,加藤,青
%EXOS-D 磁場データ解析:講義と実習。
山,中城)で対応している[5]。実験は必修科目であ
&EXOS-D 波動データ解析:講義と実習。
る。
'レポート作成。
!実験ガイダンス。
(発表会用 Power Point 作成。
"∼%高周波受信機:DSP(ディジタル信号プロセッ
)∼*実験成果発表会。
サ)方式高周波受信機の原理と構成の講義(1回)
,日
本無線(株)製・高周波受信機NRD−5
45の特性測定
5.宇宙通信・リモートセンシング関係実験の
内容詳細
(3回)。
&∼)アンテナ指向特性:アンテナの講義(1回)
,福
井キャンパスにおける足羽山TV放送アンテナタワーに
本節では,筆者が主担当者となっている実験テーマ6
つと実験成果発表会について詳細を記す。
向けたVHF八木アンテナの指向特性実験(1回)
,太
陽に向けた10mφパラボラアンテナの指向特性実験(1
回),レポート作成(1回)。
5.1
パラボラアンテナ部設備の現場調査実習
4年生前期の実験テーマ「%∼&あわら宇宙通信シス
*∼+衛星追尾:衛星軌道計算理論の講義(1回)
,ア
テム」の中の
「パラボラアンテナ部設備の現場調査実習」
ンテナ制御装置と衛星軌道計算プログラムの説明ならび
について説明する。
に NOAA 衛星追尾実験(2回)
,レポート作成(1回)
。
,∼-実験成果発表会。
あわらキャンパス(北緯3
6.
264度,東経136.
235度)
の10mφパラボラアンテナ受信システムは,教育と研究
での利用を目的に2001年5月15日に設置された。本実習
4.2
宇宙通信工学実習Ⅰ(4年生前期)概要
では,写真4∼6に示すように,パラボラアンテナの外
以下の実験テーマについて教員3人(加藤,青山,中
観観察後,内部に入り,梯子を昇り降りして,
1∼3階に
城)で対応している[6]
。なお,4年生前期および後
ある L/S バンド(1.
7GHz 帯,2.
2GHz 帯)信 号,Xバ
期の実験は2
007年度まで必修科目であったが,
2008年度
ンド(8GHz 帯)信号,アンテナ制御信号等に関する機
より選択科目である。
器と配線を追い,アンテナ駆動用サーボモータや乾燥空
!実験ガイダンス。
気循環装置等の様子を観察し,メモを取り,携帯電話の
"コンピュータの使用方法:学生所有のノートパソコン
カメラで撮影する。学生は日頃,アンテナ内部に入れな
を用いて,レポート作成のための Word,Excel の効果
いので,興味を持って観察・調査する。
―1
4
6―
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
なお,自分の携帯電話で撮影させる理由は,①現在で
5.2
L/S バンド人工衛星用受信機の特性測定実験
は全員が携帯電話を持っていること,②携帯電話のカメ
4年生前期の実験テーマ#∼$について説明する。人
ラ機能が向上しており,小さな文字などもかなり綺麗に
工衛星用受信機は,普通の受信機(例えば「!∼"変復
撮影できること,③自分の携帯電話で撮影したのだから,
調実験」で用いる高周波受信機NRD−5
45)とは次の
その画像に愛着が持てること,④携帯電話に保存された
点で異なる。①周波数が高い(Lバンド=1.
7GHz 帯,
画像を,いかにして自分のレポートを書くためのパソコ
Sバンド=2.
2GHz 帯,Xバンド=8GHz 帯)。②衛 星
ンに持っていくか(例えばメールで送るなど)を自分で
から送られてくる情報はディジタル・データであるため,
考えて試せること(メディア・リテラシーの育成)
,⑤
受信電波からディジタル信号に復調する機能がある。③
自分の持っている機器が有効活用されることに喜びを感
人工衛星は地上約5
00∼1000km で地球の周りを円運動
じること,⑥以上により,学生が実験に,より積極的に
しているので,地上局で受信する電波の周波数はドップ
取り組むようになると期待できること,のためである。
ラー効果を受け,変動する(Lバンドの NOAA 衛星の
場合,第5.
3節で述べるように約±4
2KHz)。この変動
幅をカバーするのに,帯域幅を広くするのではなく,帯
域幅はそのままで,変動する受信周波数にロックする機
能がある。実験で使用する7
00−MRB の場合,Lバン
ドで約±300KHz の範囲でロック可能である。
特性測定実験ではこれらのことも含めて実験する。主
な実験項目は次の通りである。
① AGC
on と off の場合の入 出 力 レ ベ ル 特 性 の 測 定
(AGC:Automatic Gain Control 自動利得調整の略)。
②帯域幅特性の測定。
③周波数・位相自動調整機能の測定。
写真7に2
006年度の実験の様子を示す。写真に写って
写真4.パラボラアンテナの外観を調べる。
いる L/S バンド人工衛星用受信機 700-MRB(真中の機
器),信号発生器の1台(左の上側の機器)
,スペクトル
アナライザ(右の下側の機器)は,写真2に写っている
実機(本物の設備・機器)を取りはずして使っている。
このように実機を使う実験は,他大学では殆ど行われて
いない。
写真5.1階の調査:ACU(Antenna Control Unit),通信盤,
電源盤等を確認する。
写真7.L/S バンド人工衛星用受信機 700-MRB の特性測定実
験の様子
5.3
衛星追尾実験
実験に使用する Visual Basic による衛星軌道計算プロ
グラムは,大家教授のテキスト「衛星追尾観測の基礎」
[7]を基本にして,更に種々の摂動を考慮して,加藤
研究室の西川裕宣氏(2005年3月修士了)が筆者の指導
の下で Visual Basic6.
0を用いて作成したものである(詳
写真6.2階の調査:チルト用モータ制御盤,ケーブル配線,
乾燥空気循環装置などを確認する。
細は第6節に記す)[8−10]。実験で使用する軌道計算
プログラムでは,計算モデルとして永年項計算モデルと
―1
4
7―
加藤 芳信
Unit の略)に送る。ACU はアンテナを制御し,アンテ
SGP8 計算モデルを選択できる。
3年生後期の衛星追尾実験は基礎的なもので,4年生
ナは指示された方向に向く。また,ホストPCは1秒毎
前期の実験が本格的なものとなる。4年生前期の実験テ
または2秒毎に時刻と実際のアンテナの方位角と仰角と
ーマ「!∼"Visual Basic プログラムと衛星追尾実験」
観測された電波強度(Power Meter の値)を CSV 形式
の中の「VB の基礎と衛星軌道計算プログラム作成」で
で記録する。その間,学生は,衛星追尾中の情報(スペ
は,各自のノートパソコンを使用して,まず,Visual Ba-
クトルアナライザによる受信電波波形,ACU によるア
sic(2年生前期に学習済み)の復習(三角形の面積計
ンテナの向き,他)を携帯電話で撮影する(写真1
0,
11
算,sin 波形表示プログラム作成など)をする。次に,
参照)。
衛星位置計算の重要部分(ケプラー方程式の計算,観測
⑥ホスト PC に記録された受信電波強度などの実験デー
地点座標変換計算など)約60行を削除した衛星軌道計算
タ(CSV ファイル)を USB メモリで吸い上げ,各自の
プログラムを配布する。学生は実験指導書に書かれたプ
ノートパソコンにコピーし,Excel でグラフ化し,解析
ログラムに基づき,プログラムを完成させる。見本の入
する(図4参照)。
図4では,10時9分20秒にアンテナに,追尾開始時刻
力データにより正しく動作するかを確認する。
「衛星追尾実験」では,図1に示す実験用アンテナ制
(10分20秒)の位置に動くよう命令する。方位角 Az 方
御システムを用いる。実験手順は次の通りである。
向は9分35秒に,仰角EL方向は9分40秒にその位置に
①まず,教員(筆者)が学生に今日の追尾対象衛星と受
なり,10分20秒まで静止する。衛星がアンテナの方向に
信スケジュールを写真8のように黒板に書いて説明する。 入ってくるにつれ,受信電波 強 度Pは-24dBm から-21
写 真8は,2004年12月2日 の NOAA17号(あ わ ら キ ャ
dBm へ変動しながら増大する。1
0分20秒から1
1分20秒
ンパス上空を11時22分39秒から11時37分31秒まで飛行す
まで衛星を追尾する。その間,Pはほぼ−21dBm と大
る)のパスを4つのグループに分けて追尾させるスケジ
きく,一定であるので追尾は成功である。11分20秒から
ュール図である。例えば,第1グループでは,追尾開始
11分50秒までアンテナを静止させる。衛星はアンテナの
時刻11時25分30秒から追尾終了時刻11時26分00秒までの
方向から外れていくので,−21dBm から−24.2dBm へ
30秒間追尾するのであるが,追尾開始の90秒前(11時24
変動しながら減少している。なお,Pは,L/S バンド受
分00秒)にアンテナに追尾開始時刻の位置に移動するよ
信機 700-MRB が高周波増幅段で出力端子を持たないた
う命令を出す。15∼30秒でアンテナはその位置に到達し, め,中間周波増幅段の出力端子を Power Meter に接続
静止する(衛星がアンテナの方向に入ってくる時の電波
して測定した。そのため,電波の有無で約3dBm しか
の強度を観測する)
。追尾開始時刻から追尾終了時刻ま
変化しないのである。パラボラアンテナの所での電波強
でアンテナは衛星を追尾し(追尾中の電波の強度を観測
度は,電波の有無で約2
5dBm 以上変化するのであるが,
する),その後,11時27分00秒まで静止させる(衛星が
そのことはスペクトルアナライザまたは 700-MRB の高
アンテナの方向から外れていく時の電波の強度を観測す
周波増幅段の LED メーターで確認できる。
る)。
追 尾 対 象 衛 星 は1.
7GHz 帯 の NOAA 衛 星(1.
698
②学生はインターネットの Celes Trak WWW(http : //
GHz,
1.
7025GHz,
1.
707GHz のいずれか)または8GHz
celestrak.com/)から 2 line element データ(追尾する
帯の Terra 衛星(8.
2125GHz)または Aqua 衛星(8.
160
衛星が NOAA(ノア)衛星ならば weather.txt,Terra
GHz)である。標準の追尾対象衛星は NOAA 衛星であ
(テラ)衛星または Aqua(アクア)衛星ならば resource.
る。その理由は,① NOAA 衛星は1
2号から1
8号まであ
txt)をダウンロードする。
り,実験の授業時間内に上空に飛んでくる確率が高いこ
③各自のノートパソコンまたは図1の学生用端末にて,
と,② NOAA 衛星の電波が1.
7GHz 帯で,
10mφパラボ
衛星軌道計算プログラムを立ち上げ,2 line element デ
ラ ア ン テ ナ の 電 力 半 値 幅 が1度 で あ り,8GHz 帯 の
ータ(図2参照)から必要な数値をコピー・アンド・ペ
0.
25度と比べて広く,追尾しやすいこと,のためである。
ーストし,指示された追尾スケジュールに基づき,追尾
の開始時刻と終了時刻を入力し,衛星軌道計算プログラ
ムを実行する(図3参照)。計算結果(1秒毎または0.
5
秒毎の時刻Tと方位角 Az と仰角 EL)を CSV ファイル
で保存する。
④その CSV ファイルを実験に合うよう一部分修正し,
図1の学生端末からホスト PC(アンテナ制御パソコ
ン)に登録する(写真9参照)。
⑤ホスト PC は CSV ファイルに書かれている時刻Tご
とに方位角 Az(Azimuth の略)と仰角 EL(Elevation
の略)をアンテナコントローラ ACU(Antenna Control
図1.実験用アンテナ制御システム
―1
4
8―
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
写真8.黒板による追尾スケジュールの説明
写真1
0.衛星追尾中にスペクトルアナライザによる受信電波波
形などを携帯電話またはデジタルカメラで撮影。
図2.
2line element データの例:
2
0
0
4年1
2月2日の NOAA1
7号
写真1
1.携帯電話で撮影したスペクトルアナライザによる受信
電波波形:2
0
0
4年1
2月2日 NOAA1
7号(追尾 成 功,セ ン タ ー
周波数1.
7
0
7GHz,スパン5
0MHz)
図3.軌道計算プログラムの実行結果:2004年12月2日 NOAA17号
図4.衛星追尾実験結果(Excel でグラフ表示):2
0
0
4年1月
1
5日 NOAA1
7号(1分間のプログラム追尾)
。
1回の衛星の飛行(1パス)は約11∼16分である。これ
を1∼4グループに分けて追尾実験を行う。スペクトル
アナライザによる受信波形を携帯電話のカメラで撮影し,
制御パソコンに記録された Power Meter の値(受信電
波強度)などを表計算ソフト Excel でグラフ化して,追
尾の成功を確認する。
衛星の1パス全体を追尾する場合,ドップラー効果(衛
星が受信地点に近づいてくる時,受信周波数は衛星の送
写真9.ホスト PC のスケジュール登録画面
信周波数より高くなり,衛星が遠ざかっていく時,受信
周波数は衛星の送信周波数より低くなる)が観測される。
―1
4
9―
加藤 芳信
すなわち,受信周波数は,衛星が水平線から昇ってくる
るトルーカラー合成画像表示を行い,どれ位の大きさの
時が最も高く,アンテナ仰角が最大の時に衛星の送信周
物体まで識別できるのか等を確認する(図5参照)
。次
波数と等しくなり,衛星が水平線に沈んでいく時が最も
に,各バンドの見え方や,種々の3バンド合成カラー画
低くなる。例えば,NOAA 衛星で最大仰角が約6
0度以
像表示を実習する。LANDSAT5号1997年1月13日デー
上の場合,スペクトルアナライザで受信波形を拡大して
タでは,リモートセンシングの有効利用例として,ロシ
キャリア部分を表示させて観測すると,受信開始直後は
アタンカー「ナホトカ号」重油流出事故での重油の帯の
キャリアは衛星の送信周波数より約4
2KHz 高い所にあ
検出(普通の処理では見えないものを見えるようにす
り,その後,キャリアは徐々に低い方へ動いていき,受
る)を実習する(図6参照)。
信終了直前にはキャリア は 衛 星 の 送 信 周 波 数 より約
42KHz 低い所にある(写真12参照)
。
ここで,ドップラー効果によるLバンドでの最大周波
数偏移を求めるためのごく荒い近似計算を紹介する(衛
星が円軌道で動くことや地上局からの仰角と方位角を考
慮した正式の計算法は学生の課題となっている)
。今,
衛星の送信周波数を fs=1,
700,
000KHz とする。衛星が
水平線から昇ってきた時,衛星の進行方向が受信地点に
向かっていると仮定する。衛星の速度v=7.
5km/s,電
波の速度=光速c=300,
000km/s とする。受信 地点で
の受信周波数 fr は fr=fs×c/(c−v)の関係式より,
fr=1700000×300000/299992.
5=1700042.
5KHz と な る。
すなわち,
受信周波数は衛星の送信周波数より,4
2.
5KHz
高くなることが分かる。
写真1
2.衛星追尾でのドップラー効果の観測:2
0
0
8年6月3
0日
NOAA1
8号(送信周波数1.
7
0
7GHz,最大仰角7
6.
4度)の受信
波形を拡大してキャリアを表示。スペクトルアナライザの設定
はセンター周波数1.
7
0
7GHz,スパン1
0
0KHz(スパンは写真1
1
より5
0
0倍拡大している)
。この写真では,受信終了直前なので,
キャリアの周波数はセンター周波数(=NOAA1
8号の送信周波
数)より4
1KHz 低い。
図5.2
0
0
0年6月1
5日 の LANDSAT7号,RGB=band 3
2
1ト
ルーカラー合成画像表示,
3
0m解像度(富山県∼福井県の全体
表示:約横1
8
5Km×縦1
7
0Km)
図6.1
9
9
7年1月1
3日 の LANDSAT5号,band5で の ナ ホ ト
カ号重油流出事故の重油の帯の検出(金沢港∼三国町付近を表
示。小松市沖の丸の中に重油の帯がある。
)
5.5
テラ・アクア衛星 MODIS 受信システム
4年 生 後 期 の 実 験 テ ー マ「"テ ラ・ア ク ア 衛 星
MODIS 受信システム」について説明する。本システム
は,図7に示すように,米国 NASA が打ち上げた地球
5.4
リモートセンシング基礎
環 境 観 測 衛 星 Terra(テ ラ)及 び Aqua(ア ク ア)の
4年生後期の実験テーマ!では,衛星リモートセンシ
MODIS(モ ー デ ィ ス:Moderate-resolution
Imaging
ングについての講義と,加藤研究室開発の衛星データ画
Spectroradiometer:中分解能撮像分光放射計)データ
像処理ソフト StShop[11]を用いた LANDSAT(ラン
を,
10mφパラボラアンテナで直接受信し,データ処理
ドサット)衛星データ画像処理実習を行う。LANDSAT
及び蓄積し,画像解析するシステムである[4]。Terra
7号2000年6月15日および2001年10月15日データを用い
は10時30分 頃(±90分),Aqua は13時30分 頃(±90分),
た画像処理実習では,まず,人間の目と同じように見え
及びそれらの12時間後に高度約7
05km で日本上空に飛
―1
5
0―
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
来 す る。MODIS の 観 測 範 囲 は 幅2,
330km,長 さ 最 大
換される。
5,
400km であり,空間分解能は250m(Band1,
2)と5
00
#「MODIS レシーバ」は,IF 信号を復調してディジタ
m(Band3∼7)と1000m(Band8∼36)の3種 類 あ
ル信号に変換し,ビット・シンクロナイザで一次同期を
り,バンドは可視域から赤外域(0.
4∼14μm)まで36
とる。
バンドある。MODIS の観測対象は,雲の性質,放射エ
$復号されたデータを「衛星データ復調装置(フレーム
ネルギー束,エアロゾル,気温と湿度,地表面温度,積
・シンクロナイザ内蔵)
」により画像データ(レベル0,
雪,土地被覆,土地利用変化,植生ダイナミクス,森林
1A,1Bなど)に変換する。受信のスケジューリング
火災,噴火,海面温度,海色,海氷,などである。筆者
も行うが,SCC(地上局制御 PC)とは独立に設定する。
は受信スケジュールの設定と受信データの保存・管理を
%「衛星データ処理装置」は受信データのカタログ化と
担当している。毎日,平均6パス受信し,平均2
4GB の
高次データ処理を行う。「データアーカイブ装置」,「衛
データをハードディスクに保存している。
星データ解析装置」はデータ保存や画像解析などを行う。
図7のシステム構成について説明する。
実験では,本システムのハードウェア及びソフトウェ
!10mφパラボラアンテナは,
「ACU(アンテナ・コン
アについて講義と実習を行う。実習では,ソフトウェア
トロール・ユニット)
」によって方位制御され,Terra-
のディレクトリの確認,Terra 及び Aqua 衛星の受信ス
MODIS と Aqua-MODIS からの信号を受信する。
ケジュールの設定と確認,受信中または処理中の様子観
"アンテナで受信されたXバンド(8GHz)の信号は,「周
察,画像データ検索などを行う。
波数変換部」で7
20MHz の中間周波数(IF 信号)に変
図7.テラ・アクア衛星 MODIS 受信システムの構成図
5.6
MODIS 画像データ解析
瞰図作成」
(図9参照),「植物の活性度を調べる NDVI
4年生後期の実験テーマ#では,学生所有のノートパ
ソコンにリモートセンシング画像処理ソフトER
(正規化植生指数)画像」がある。
Map-
per(評価版,インストール後2週間使用可能)をイン
ストールし,MODIS のレベル1Bデータを画像処理す
る。実験に用いる MODIS データは計1.
5GB位になる
ので,実験当日までにノートパソコンのハードディスク
に約2GBの空きを確保させている。課題として「昼の
3バンド合成カラー表示画像」
(図8参照),「250m解像
度画像」,
「赤外バンドによる夜の地球画像」,「台風の鳥
図9.2
0
0
3年9月1
1日 Terra 衛星受信データによる宮古島付近
の台風1
4号の立体画像:この立体画像の作成方法は次の通りで
ある。雲の表面温度と地表温度が観測できる赤外バンドの
MODIS データを用いる。色は,温度に応じて赤∼青の擬似カ
ラーを与える。高さは,高度が1
0
0
0m 高くなる毎に気温が6.
5
度下がるという湿潤大気の性質を利用して,観測温度を高さ方
向に与えればよい。
図8.昼の3バンド合成カラー表示画像の例:2
0
0
3年1
0月5日
Terra 衛星,RGB=band 76
3ナチュラルカラー表示,北陸∼信
越∼関東地方。
―1
5
1―
加藤 芳信
5.7
6.1
実験成果発表会
3年生後期(1月下旬)と4年生後期(12月中旬)に,
衛星軌道計算の理論
人工衛星は,図10に示すように,地球の周りを楕円軌
学生1人ずつが,実験で得られた成果を教員と受講学生
道を描き,周回運動している。人工衛星の軌道の理論式
全員の前で Power Point により15分程度発表(質疑応答
は,①ニュートンの万有引力の法則F=Gm1m2/r2(F:
を含む)する。教育目標は,内容理解の補強,発表の経
衛星に働く引力,G:万有引力定数,m1:地球の質量,
験,発表法の修得である。発表会には大学院生も参加で
m2:衛星の質量,r:地球の中心から衛星までの距離)
き,主に教員と大学院生が発表者に質問やアドバイスを
と,②ケプラーの法則(第1法則:衛星は地球をひとつ
する。この発表会は卒業研究発表会のプレゼンテーショ
の焦点とする楕円軌道上を動く。第2法則:衛星と地球
ンの練習にもなっている。この様な実験成果発表会は他
を結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である(面積速
大学では殆ど行われていない。
度一定)
。第3法則:衛星の公転周期の2乗は,軌道の
長 半 径 の3乗 に 比 例 す る。)を 基 に し て 導 出 さ れ る
[7,12−14]。
この軌道は衛星位置を示すベクトル式(春分点赤道面
座標系)で,式!のように表される[7,1
2]。式!に
は衛星軌道を定義する軌道6要素が含まれている。即ち,
軌道面を定める要素:
"
!軌道面傾斜角(Orbital Inclination)
"昇交点赤経(Right Ascension)
Ω
軌道面内の楕円軌道を定める要素:
#軌道長半径(Semi Major Axis)
!
$離心率(Eccentricity)
ε
%近地点引数(Perigee)
ω
軌道において時刻tにおける位置を定める要素:
写真1
3.実験成果発表会の様子
&平均近点離角(Mean Anomaly)
6.衛星軌道計算プログラム
M
但し,実際にインターネットの Celes Trak WWW
(http :
衛星軌道計算プログラム SatelliteSearch は,①パラ
//celestrak.com/)で入手できる軌道要素は,図1
1に示
ボラアンテナを用いた衛星追尾に関係する種々の実験に
すような「2line element」と呼ばれるものである。軌
#! の関係式に
道長半径 !は,平均運動 #から !!"
!"!
使えること,②将来の光学式望遠鏡による衛星観測に使
えること,を目的として開発された。第5.
3節で述べた
て求められる("は定数)。平均近点離角Mは,
学生実験用の衛星軌道計算プログラムはそのサブセット
ケプラー方程式(E−ε sinE=M)の解の離心近点離角
Eを経て,真近点離角 #の算出に利用される。
である。SatelliteSearch は,大家教授のテキスト「衛星
追尾観測の基礎」[7]の基本式(式!参照)を基にし
て,更に種々の摂動を考慮し[1
2−14],相田政則氏の
Calsat32(Visual
Basic)[15]と SGP 系軌道計算プロ
グラム(FORTRAN)[16]を参考にして,加藤研究室
の西川裕宣氏(2005年3月修士了)が筆者の指導の下で
Visual Basic 6.
0を用いて作成したものである[8−10]。
プログラム行数は約3,
000行,実行ファイル容量は244KB
である。計算モデルとして永年項計算モデルと SGP 系
計 算 モ デ ル(SGP,SGP4,SGP8,SDP4,SDP8)を
選択できる。
図1
0.衛星軌道と軌道要素の関係
学生実験用の衛星軌道計算プログラムでは,永年項計
算モデルと SGP8計算モデルだけを選択できる。プロ
衛星追尾のためには,基本的には式!の衛星位置と観
グラム行数は約2,
000行,実行ファイル容量は1
64KB で
測地点を地心座標系に変換し,更に地平座標系に変換し
ある。Lバンド(1.
7GHz 帯)衛星(NOAA12号∼NOAA
て,パラボラアンテナの方位角 Az と仰角 EL を求めれ
1
8号)に対しては永年項計算モデルと SGP8計算モデ
ばよい。しかし,上式から得られる衛星位置は軌道6要
ルのどちらでも1
00%追尾に成功している。Xバンド(8
素が与えられた時点(エポック)における衛星位置のみ
GHz 帯)衛星(Terra と Aqua)に対しては SGP8計算
である。衛星位置はたえず変化しており,現在または未
モデルでほぼ100%追尾に成功している。
来の位置を予測するのに時間経過の反映だけでは,衛星
を追尾できる値を得ることは出来ない。正確な衛星位置
―1
5
2―
大学における宇宙通信・リモートセンシング関係学生実験
式!
1行目
衛星識別番号U
打上げ年と番号A
2行目
衛星識別番号
軌道面傾斜角
エポック
昇降点赤経
離心率
平均運動変化率 00
0
0
0
‐0
ドラグ
近地点引数
平均運動
平均近点離角
0
9
2
5
6
周回番号3
図1
1.2line element の例(Terra 衛星)と意味
を算出するために,衛星に及ぶ影響を考慮する摂動論を
0106255)=0.
6088度 と い う 計 算 が 成
km)=tan−1(0.
用いる。摂動として,永年項(時間の経過につれて一様
り立つ。これは,1秒間に約0.
61度の変化,即ち目視で
に累積する)
,長周期項(近地点引数の変化に伴ないゆ
太陽のほぼ直径分変化することを意味する。アンテナの
っくり変化する)
,短周期項(平均近点離角の変化に伴
電力半値幅の観点から考えてソフトの精度は,最低でも
ない変化する)がある。摂動として永年項だけを考慮し
0.
3度以内を保たなければならない。また,時間的にも
たモデルが永年項計算モデルであり,更に短周期項と長
0.
5秒以内の誤差でなければならない。
周期項を考慮したモデルが SGP,SGP4,SGP8,SDP4,
SDP8計算モデル[1
6]である。
作成した衛星軌道計算プログラム SatelliteSearch で
は,2line element(図11参照)の各要素を用いること
により,これらの摂動も含めて軌道計算できるようにな
っている。なお,2line element の各要素の解説は[17]
が詳しい。図1
1のエポック(元期)の数値05028.
90385670
の意味は,UT(Universal Time:世界標準時)で2005
年の1月1日から数えて28.
9038567
0日(即ち2005年1
月28日21時41分33.
2秒UT)であることを示す。時間の
図1
2.衛星の軌道半径の説明図
計算には修正ユリウス日[18]を用いている。
(注)摂動について説明する。地球重力の変化,太陽や
月などの引力,大気の抵抗,太陽の光圧,地球の自転軸
6.3
SatelliteSearch 計算による追尾実験の結果
の変化などさまざまな力が衛星に働く。これらの力の大
実験の結果,Lバンド衛星の追尾では,どの計算モデ
きさは,中心力(衛星から地球の中心へ向かう引力)に
ル(即ち,永年項計算モデル,SGP,SGP4,SGP8,SDP
比べて100
0分の1以下と微小であるが,衛星の軌道を
4,SDP8計算モデル)でも1
00%追尾に成功した。Xバ
徐々に変化させる。この微小変化のことを摂動(pertur-
ンド衛星の追尾の場合は,SGP8計算モデルが最良で,
bation)と言う[12]。対象物体に対する摂動を考慮す
ほぼ100%の割合で追尾できた[9,
10]。なお,Xバンド
る近似手法を摂動論と言う。
衛星の追尾の場合,計算の時間間隔(従って,パラボラ
アンテナを制御する時間間隔)が1秒の場合,スペクト
6.2
衛星追尾プログラムに対する要求精度
ルアナライザで受信電波を観察すると,受信強度が1秒
10mφパラボラアンテナの電力半値幅は,Lバンドで
周期で変動した。計算の時間間隔を0.
5秒とすると,電
1.
0度,Xバンドで0.
25度である。追尾が難しいのは電
波の受信強度の周期的な変動はなく,強い電波が受信さ
力半値幅の狭いXバンドの方である。ここで,Xバンド
れた。このことは第6.
2節の最後に説明したことを実験
衛星追尾に必要な精度を見積もってみる。例えば高度
で確認したことになる。即ち,計算の時間間隔は,Lバ
705km の地球観測衛星 Terra/Aqua は,図12のように
ンド衛星追尾の場合は1秒でよいが,Xバンド衛星追尾
運動している。地球半径が6
370km なので,この軌道の
の場合は0.
5秒以下でなければならない。
円 周 は,2×π×(6
370km+705km)=44453.
536km
で あ る。Terra/Aqua の 軌 道 周 期 が98.
9分 で あ る の
7.おわりに
で,1秒 間 に 移 動 す る 距 離 は,
44453.
536km/(98.
9×
本稿は宇宙関連分野の大学教育の1つの手本を示すこ
60)=7.
491km である。1秒間に変化する角度は,衛
とを目的として,宇宙通信工学科における宇宙通信・リ
−1
星 が 地 上 局 の 真 上 を 飛 ん だ 時,tan (7.
491km/705
モートセンシング関係学生実験について詳述した。特に
―1
5
3―
加藤 芳信
パラボラアンテナを使った実験(第5.
3節,第6節)は
[8]西川裕宣,加藤芳信:“Visual Basic 6.
0を用い
他大学にも参考になると思われる。第5.
3節の衛星追尾
た衛星軌道計算ソフトウェア”
,平成1
6年度電気
実験で記したドップラー効果については,中学,高校の
関係学会北陸支部連合大会講演論文集 CD-ROM,
理科や物理の授業などに参考になると思われる。また,
携帯電話を実験に利用する理由は第5.
1節に記してある。
CP-53(2004-09)
[9]西川裕宣:“Visual Basic 6.
0を用いた衛星軌道
宇宙通信工学科は2005年3月に最初の卒業生を送り出
計算プログラムと衛星追尾実験”
,平成16年度福
し,現在(2008年9月)までに4回卒業生を送り出した。
井工業大学大学院電気工学専攻修士論文(2005-
学生は本文で紹介した実験実習に熱心に取り組んできた。
02)
学生は着実に成長し,例えば毎年1月末に開催される卒
[10]加藤芳信,西川裕宣:“人工衛星軌道計算プログ
業研究発表会のプレゼンテーションを見ても,実験成果
ラムの改良とパラボラアンテナによる衛星追尾実
発表会の経験が生かされており,本文で紹介した実験実
験”,平成17年度電気関係学会北陸支部連合大会
習の教育効果が確認されている。
講演論文集 CD-ROM,C-37(2005-09)
[11]加藤芳信,稲田昌恭,小田祥継,奥山誠,藤田裕
参考文献
介:“各種衛星 CD-ROM データ(BSQ 並び)画
[1]加藤芳信,青山隆司,中城智之:“宇宙通信・リ
像処理プログラム−雲量と陸域・海域に着目した
モートセンシング関係実験について”
,平成1
6年
画像表示の検討−”,福井工業大学研究紀要,
vol.33,pp.381-388(2003-03)
度電気関係学会北陸支部連合大会講演論文集 CD-
[12]飯田尚志:“衛星通信”
,第2章
ROM,CP-54(2004-09)
[2]加藤芳信:“大学における宇宙通信・リモートセ
姿勢,オーム社(1997-02)
ンシング関係学生実験”
,第26回北陸三県教育工
[13]長沢工:“天体の位置計算
衛星の軌道と
増補版”
,地人書館
(1985-09)
学研究大会福井大会・第2
9回全日本教育工学研究
協議会北陸大会発表論文集,B-6,pp.48-53(2005-
[14]長沢工:“軌道決定の原理”,地人書館(2003-05)
03)
[15]相田政則:
“Calsat32 のページ", http : //homepage1.
nifty.com/aida/jr1huo_calsat32/index.html
[3]加藤芳信:“大学における宇宙通信・リモートセ
ンシング関係学生実験”
,教育システム情報学会
[16]Felix R. Hoots and Ronald L. Roehrich :
30周年記念全国大会講演論文集,E2-7,pp.485-486
"Spacetrack Report Number 3 :
(2005-08)
Propagation of NORAD Element Sets", http : //
celestrak.com/NORAD/documentation/spacetrk.
[4]加藤芳信,青山隆司:“地球環境観測衛星 Terra
pdf(1988−12)
/Aqua-MODIS 受信システム”,福井工業大学研
[17]フランクリン・アントニオ
究紀要,vol.34,pp.331-338 (2004-03)
Models for
N6NKF(JAMSAT
[5]大家寛,加藤芳信,青山隆司,中城智之:“電子
日本アマチュア衛星通信協会訳):“軌道要素の
・通信工学実験実習”
,福井工業大学宇宙通信工
解説”
,http : //www.jamsat.or.jp/keps/kepmodel.
学科3年後期テキスト(全154頁)(2004-10)
html
[6]加藤芳信,青山隆司,中城智之:“宇宙通信工学
[18]馬目洋一:“ユリウス日(Julian Day)”,
実習”,福井工業大学宇宙通信工学科4年テキス
http : //homepage1.nifty.com/manome/astrology
ト(全331頁)(2005-04)
/julian.html(修正ユリウス日の計算式記載)
[7]大家寛:“衛星追尾観測の基礎”
,福井工業大学
宇宙通信工学科3年テキスト(2003-04)
Experiments on Space Communication and Remote Sensing for University Students
Yoshinobu KATO
Key words : student experiment, space communication, remote sensing, parabola antenna,satellite orbit calculation program,
satellite tracking, NOAA, LANDSAT, Terra, Aqua, MODIS, image processing, experiment result symposium,
academic education
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