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第9回 ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 (東京都港区) NPOで

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第9回 ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社 (東京都港区) NPOで
 ∼企業家精神とは、すでに行っていることをより上手に行うことよりも、まったく新しいことを行うことに価値を見出すことである∼
―――――――― P.F.ドラッカー
成熟社会、人口減少、超高齢化―――。これから数十年続くであろう社会潮流を前にして、企業は新たな価値創造、
イノベーションが求められている。変わりゆく時代のなかで、常に機会をとらえてきた企業は存在する。その時、企
業家はいかに判断を下し、新たな価値を創造してきたのであろうか。この連載企画では、新たな価値創造を担ってき
た九州地場企業にフォーカスし、その源流を探っていきたい。
第9回
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社
(東京都港区)
∼聴こえのユニバーサルデザインを
九州・佐賀から世界へ
を手がけており、九州発・佐賀発の世界商品づくり
を目指している。
難聴克服のために
∼音声の明瞭度を高める技術開発
COMUOONの特徴は、マイクとデバイスとスピー
NPOでの研究を経て
ソーシャルベンチャー設立へ
カーというシステム全体で「聴こえやすい音、特に
ユ ニ バ ー サ ル・ サ ウ ン ド デ ザ イ ン ㈱(東 京 都 港
ところにある。原音に忠実な聴こえやすく明瞭な音
区)は、難聴者向けの音響支援機器COMUOONの開
づくりを手がけている。技術の中核は、音の明瞭度
発・製造・販売を手がけるベンチャー企業である。
を決める1kHz∼4kHzの周波数帯をコントロール
同社社長の中石真一路氏は、大手レコード会社EMI
し、言葉としての認識率を向上させる音づくりにあ
ミュージック(現ユニバーサルミュージック)での
る。システムの構成は、ショットガンマイクによっ
本業の傍ら、2010年から次世代音響機器に関する研
て雑音や騒音、電波のノイズを極力拾わないように
究を手がけた。研究は1年で終了となるが、
「難聴で
した上で、デバイスで周波数帯や増幅の制御とノイ
ある父に聴こえやすい環境を提供できたら」と感じ
ズ除去を行い、アルミハニカム構造のフラットス
た中石氏は、研究継続のために2011年にNPO法人
ピーカーで原音を忠実に再現するしくみとなってい
日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会(千葉県
る。この3者の最適な組み合わせを導き出すべく、
松戸市)を設立。寄付などを集めて独自に研究開発
延べ100人におよぶ難聴者とのコミュニケーションや
を続け、2012年に父とともに同社を設立、2013年
実証研究がなされ、その調整と高度化が図られてい
12月にはCOMUOONの販売開始に至っている。同社
る。
音のなかでも難しいとされる音声」をデザインする
は、東京発でありながら、佐賀県で研究開発と製造
▲COMUOON
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九州経済調査月報 2014.6
▲佐賀県立ろう学校の授業でのCOMUOON活用風景
佐賀県との出会い
∼地域技術が繋いだ縁で商品化が加速
教育における聴こえの支援事業として、ろう学校や
東京発の同社が、佐賀県と繋がるきっかけとなっ
実証を行うとともに、学校への寄贈も行っている。問
たのは、佐賀エレクトロニックス㈱製作所(佐賀県
い合わせに応じてCOMUOONの貸出しも行っており、
吉野ヶ里町)の回路設計技術にあった。中核技術の
その効果を体験・検証してもらう機会を提供している。
難聴学級などでのCOMUOONの体験を通じて効果の
ひとつであるリスニングエンジンは、佐賀エレクト
ロニックスの親会社である新日本無線㈱(東京都中央
聴こえのユニバーサルデザインを目指して
区)の高級オーディオ用オペアンプMUSESが採用
同社は、佐賀市にR&Dセンターを設置するととも
されており、これを難聴支援用にチューニングすべく、
に、2014年4月には福岡市に九州ヘッドオフィスを
DSPやA/Dコンバーターなどの各種のデバイスが
構え、九州での事業展開を加速している。創業者の
システム化されている。そのシステムのデザイン(回
中石氏が熊本県出身ということもあり、九州との深
路設計)を佐賀エレクトロニックスが担当するとと
い縁があることに加え、COMUOONという難聴・聴
もに、セットの組立と出荷前の品質管理までを行な
覚障害の解決策を目の前にして積極的に試行し、良
うODM (Original Design Manufacturing)となってい
いと判断すればスピード感をもって取り入れていこ
る。そのような縁もあり、佐賀県健康福祉本部障害
うとする九州の地域性が、事業化を後押ししている。
福祉課(佐賀市)が佐賀県聴覚障害者サポートセン
音声の聴こえ易さは、難聴者に限ったことではな
ター(佐賀市)と連携して難聴者へのCOMUOONの
い。生活の様々な場面で音をメインとしたコミュニ
試聴会などを開催し、高度難聴者への効果を高める
ケーションが行われているものの、健聴者でも「聴
べく研究開発が続けられている。COMUOONは、音
こえにくい」と感じる場面は多い。電話や病院の窓
を増幅するだけではなく、原音に近い音の制御と音
口での呼び出し、駅のアナウンスなどでは、音の聴
の歪みを究極まで抑えているため、実証の各所で、
「十
こえ易さが求められる。同社は、ニーズのワンメイ
数年ぶりに人の肉声を聞いた」
「お父さんの声が聞け
クをプランニングするサウンドデザインファームと
てうれしかった」
「先生の声が大きくハッキリと聞こ
して、誰もがいつでも聴き取りやすい音づくり、すな
え授業がとても楽しく感じられた」という難聴者の
わち「聴こえのユニバーサルデザイン」を目指して、
喜びの声があがっており、製品開発へのフィードバッ
事業の幅を拡げていこうとしている。
(岡野 秀之)
クがなされている。その結果、中度難聴者が補聴器
をつけずに聞こえる画期的なスピーカーとして高く
評価され、2013年度の佐賀県ユニバーサルデザイン
【会社概要】
推奨品や、佐賀県第2回トライアル発注選定商品と
企 業 名 ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社
なっている。なお、同社では、NPO法人日本ユニバー
代 表 者 代表取締役 中石 真一路
サル・サウンドデザイン協会を通じて、難聴児童の
本 社 東京都港区海岸1-7-8-6F
■主な導入先ならびに実証・検証現場
・九州大学病院 耳鼻咽喉科
・福岡市南区役所
・そうごう薬局 塩原店
・福岡市立心身障がい福祉センター(あいあいセンター)
・福岡県立福岡聴覚特別支援学校
・福岡県立久留米聴覚特別支援学校
・佐賀県立ろう学校
・佐賀県聴覚障害者サポートセンター
・佐賀市役所
・基山町役場
・白石共立病院
・佐賀県医療センター好生館
・長崎県立ろう学校佐世保分校
九州ヘッドオフィス
福岡市中央区大名2-4-22-3F
九州R&Dセンター
佐賀市鍋島町八戸溝114
佐賀県地域産業支援センター第3研究開発室内
設 立 2012年4月6日
資 本 金 2,750万円(資本準備金含む)
年 商 約1,000万円(2013年度)
事業内容 聴こえ支援機器の設計・開発・販売。
スマートフォンアプリケーションの
設計・開発や室内空間のサウンドデ
ザインも担い、音響に関するトータル
コンサルティングを行う
九州経済調査月報 2014.6
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