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落ちないSOAP

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落ちないSOAP
落ちないSOAP
結末(落ち)のない
7. SOAP記録
前項ではSOAPのA(アセスメント)に焦点を当てて学習しました。本項では,
全体が分かりやすい展開になっているか,看護ケアに生かせる記録になっている
かという視点でSOAPを見てみましょう。あなたの記録は,「落ちないSOAP」に
なっていませんか? 汚れが落ちないSOAP(石鹸)も「落ち」のない,つまり,話
の効果的な結末のないSOAP
(看護記録)も役に立ちません。分かりやすい展開で,
「落ち」のあるSOAPになれば,看護ケアに生かせる記録になるはずです。誰が読
んでも腑に落ちる「落ち」をつけてこそ,患者に見せることができる記録,看護
が見える記録なのです。
SOAPって何?
ここでの「SOAP」は,問題志向システム(POS:Problem Oriented System)で
患者の経過記録を書く時の形式を指しています。問題志向システム(POS)では,
患者の基礎データを収集し,分析し,問題を抽出します。そして,抽出した問題
ごとにSOAPで経過を書きます。ある1つの問題について,S(患者の主観的データ)
とO(客観的データ)を集め,それらを根拠にA(解釈,分析,評価)し,今後,
看護師はその問題をどうしていくのかという具体的なP(計画)を立てます。い
くらSOAPの形になっていても,問題ごとに書かれていなければ,バラバラの情報
を整理できませんから,
「落ち」がつくわけがありません。問題ごとに書かれてい
てこそ,テーマが明確で,情報が整理され,筋道が通って,
「落ち」がつくのです。
なぜ落ちないSOAPになってしまうのか?
まず一つには,
SOAPの決め手となるA(アセスメント)ができていないことが,
「落ちないSOAP」の原因です。これについては,前項で説明しました。この機会
2
に,もう一度,よく読んでおいてください。
今回は,問題志向システムの経過記録であることを理解していただくために,
「問題ごと」のSOAPでないと,
「落ちないSOAP」になってしまうということを説
明しましょう。
「どの問題について,どの看護上の診断について(経過を)書く
のか」がはっきりしないままにSOAPで書くと,「落ちないSOAP」になってしま
うということです。問題志向システムですから問題のとらえ方が肝心なのです
が,問題のとらえ方がまずいが故の「落ちないSOAP」には,次の3つのパター
ンがあります。
●問題が見えていないSOAP
#.
S だるいが,昨日よりまし。食欲がない。内視鏡検査は初めてなので緊張して
いる。
O 咳や痰なし。発熱なし。嘔吐,嘔気はないが,昼食は3割程度しか食べてい
ない。表情穏やかに妻と談笑中だったが,看護師が行くと検査についての不
安を訴えた。
A 感染徴候なし。
P 検査について説明。気になることは何でも質問してくださいと伝えた。
確かにSOAPの形になっています。患者の言ったこと,看護師が見たこと,看護
師が考えたこと,計画が書かれています。しかし,問題が明確でないため,いろ
んなことがバラバラに書かれています。看護師は患者の「感染」
「食欲」
「不安」に
着目しているものの,はっきり問題としてとらえていないため,情報を系統立てて
整理できず,その場限りのメモのような記録になっています。この次にこの患者を
担当する看護師が,
「感染」
「食欲」
「不安」の何に着目するのか,
「感染」
「食欲」
「不
安」について継続して評価し,対処してくれるのか,何の保証もない,行き当た
りばったりの記録です。これでは,看護も行き当たりばったりになってしまいます。
●問題が2つ以上混在しているSOAP
#.疼痛コントロール
S 夜間眠れなかったが,今は痛みはまし。プルゼニド を使うとおなかが痛い。
O オキシコンチン 内服しているが,疼痛コントロール不良。本日から朝夕,
定期的にボルタレンSR 内服となった。また,ボルタレン坐薬 もレスキュー
落ちないSOAP 結末(落ち)のないSOAP記録
3
に使うことになった。
A 排便コントロールにプルゼニド を使うと,腸蠕動が激しく抵抗があるよう。
P 経過観察。
問題は「疼痛コントロール」と明確に掲げてあるのですが,SOAPで書かれて
いる内容は,
「疼痛コントロール」と「排便コントロール」の2つです。この2
つは「痛み,不快」
「麻薬の効果,副作用」という点で関連が深いのですが,1
つのSOAPに混在させてはいけません。SOで情報は書けても,A(アセスメント)
やP(プラン)につながりません。
「排便コントロール」は宙に浮いてしまうこ
とになります。SOAPは「問題ごと」ですから,1つのSOAPで2つの問題を同時
に取り上げることはできず,2つを分けて書かないといけません。
●問題がすり替わっているSOAP
#.親役割の 藤
S 昨日より発赤疹はましですね。顔の皮膚がきれいになりました。
O 母親が面会に来院し,看護師と一緒に抱っこ,授乳を実施した。顔の皮膚が
きれいになったことを喜び,笑顔で児に話しかけていた。発赤疹は,顔面は
枯れてきているが,前胸部は著明。
A 前胸部は汗や唾液による湿潤や衣類などが刺激になり,皮膚トラブルが改善
しにくい。
P 前胸部の清潔に留意し,各勤務帯で1∼2回は清拭する。
ここで掲げた問題が「皮膚トラブル」と言うなら,まだ納得できそうですが,
「親役割の
藤」と言われると,どうにも納得できません。「魚屋」と看板を揚げ
ておいて,ケーキを売っているようなものです。読む人が混乱します。
落ちるSOAPにするために
「なぜ落ちないSOAPになってしまうのか?」を分かっていただいたところで,
落ちるSOAPにするために何が必要かを整理しておきましょう。
① 患者について,
「今,何が問題になっているのか」「どんな看護上の診断,問
題が挙がっているのか」を頭に入れて,情報を収集しましょう。
② たくさんの情報を集めても,的外れではA(アセスメント)できません。患
4
者を前にした時,焦点を当てた情報が不足なく収集できるように,何をどこ
まで観るのか,何をどこまで聴くのか,計画を立てておきましょう。
③ 経過記録にSOAPを書き始める前に「今,何について記録しようとしているか」
「どの看護上の診断,問題について書くのか」を明確にし,書き始めは「こ
の問題について,SOAPします」という1つの問題を,SOAPの前に掲げます。
④ 頭の中で一度,SOAPにしてみましょう。とりあえず書き始めるのはよくあり
ません。
⑤ 情報を根拠にアセスメント(解釈,分析,評価)を引き出すだけの知識が必
要です。例えば,単純な問題では,正常値が分かっていないと正常か異常か
の判断ができません。さらに複雑な問題になると,現在の病状の理解のみで
なく,患者の全体像を,過去からの要因や今後の予測を含めて,関連図や概
念図を描くように理解や整理できていないと,アセスメント(解釈,分析,
評価)ができないこともあります。
⑥ A(アセスメント)はP(プラン)を導くものです。立案した看護計画に沿っ
て,
「次の一手は何か」というP(プラン)を明確にします。ところが,「次
の一手が想像できない」なんてことは起きていませんか? これは,最終的
な患者目標(ゴール)に気を取られ過ぎて目の前が見えていない,つまり,
頂上だけを見ていて目の前のカーブが見えていない,ということです。だか
ら,本当は「次は曲がる」という計画になるはずが,毎回「山に登る」とい
う計画になってしまい,何のためのA(アセスメント)なのか分からなくな
るのです。最終的な患者目標(ゴール)を見据えながら,「今,どうなって
いるのか」
「次の一手をどうするか」を考え,解釈,分析,評価しましょう。
⑦ P(プラン)で「次の一手が想像できない」のは,経験や知識の不足によっ
ても起こります。具体的にどんな方法で介入していいのか分からず,せっか
く分析しても生かせずに,
「計画続行」という大きなP(プラン)を書いて
しまうこともあるでしょう。
⑧ A(アセスメント)やP(プラン)は,個々の看護師が専門職として責任を
持って書くことが大切ですが,決して個人のものではありません。「責任を
持つ」とは,
「無責任なことをしない」ということです。自信がないまま勝
手なことを書いてしまうのは,無責任です。医師の記録や考えを確認したり,
チームの先輩や同僚と相談したり,カンファレンスを活用したり,また,最
終的には患者・家族に確認するなどして,誰が読んでも腑に落ちる「落ち」
をつけましょう。
落ちないSOAP 結末(落ち)のないSOAP記録
5
では,以上のことを踏まえて3つの事例を読んでみましょう。
事例のSOAPのどこが,どうだったらいいのか,
考えてみてください。
達人イッチ
1
PC1.合併症の危険性: ●
脳出血
❶
S はい,そうです。おはようございます。
O 名前や年齢,場所を問うが,上記のように答える。JCS3∼ 10程度。
ろれつ障害あり。嘔気なし。●
昼食は部分的に介助が必要だったが,
❷
自分でスプーンを持ち,主食9割,副食8割摂取。嚥下障害なし。
発熱なし。本日よりリハビリ予定。
A 意識レベル低下なし。
P 計画続行。
❶問題は「脳出血の危険」で,新たな出血の徴候がないかをモニタリングし
●
ているはずですが,脳出血とは別の内容がO(客観的データ)に出てきます。
❷記録を書いた看護師は「脳出血の危険」のみでなく,
●
「誤飲の危険」や「誤
,また「ADLの問題」が同時に気になっているようです。
飲性肺炎の危険」
しかし,SOAPは「問題ごと」に書かれていなければ,情報を整理できま
せん。
「脳出血の危険」についてモニタリングしているのですから,A(アセスメン
ト)では,脳出血の徴候の有無について判断したことを明確にしましょう。
6
1
今,どの問題について書いているのかを,
常に意識して書くことが大事なんですね!
新米看護師
マイコさん
PC1.合併症の危険性:脳出血
S はい,そうです。おはようございます。
O 名前や年齢,場所を問うが,上記のように答える。❶1日のうちに
JCS3であったり,10であったり,意識レベルにムラがある。ろ
れつ障害あり。嘔気なし。
A 意識レベルほかの症状に変化なく,新たな脳出血の徴候はなし。
P 計画続行。
2
PC1.胃切除術後に関連した合併症の危険性: ●
ダンピング症
❶
候群,吻合部狭窄など
なぜ,こんなに血糖値に波があるのか? 運動するように言われる
S ●
❷
から,午前と午後に廊下を歩くようにしている。
O 10:00(食後2時間)の血糖値161mg/dℓ。朝食後より血糖値が上
昇することを不安に思っている様子。散歩を心掛けているが,病棟
内の廊下を往復する程度で,運動量は少なめ。「外来を歩きたいけ
ど人がいっぱいいる」と話される。食事は20分程かけて食べるよう
に心掛けており,胸やけ,嘔気,嘔吐なし。食後30分は坐位になっ
ているが,その後は臥床していることが多い。
A 運動療法は理解しているが,距離が短いため,回数を増やすように
促していく必要あり。食事摂取方法は守られている。
ダンピング症候群,吻合部狭窄について,症状のモ
P 運動を促す。●
❸
ニタリング続行。
落ちないSOAP 結末(落ち)のないSOAP記録
7
❶ダンピング症候群と吻合部狭窄では,観察点や指導内容などの看護計画が
●
異なります。問題を2つに分けましょう。
❷ダンピング症候群は,既に症状(血糖値の変動)があり,その対処(食事
●
療法,運動療法)もしている問題です。ダンピング症候群への援助は,食
事の指導が中心になります。患者自身が,「自分にはいつどんな症状が出や
すいのか」を知って,それに合わせた食習慣をつくることが大切です。で
「#.後期ダンピング症候群(低血糖,高血糖)の予防に
すから,例えば,
ついての知識不足に関連した,非効果的治療計画管理リスク状態」と診断
して,指導の計画を立て,患者の理解や実施状況を確認しましょう。
❸吻合部狭窄は,症状はなく,可能性があるのでモニタリングしている問題で
●
すから,共同問題として,
「PC.胃切除術後に関連した合併症の危険性:
吻合部狭窄」でよいでしょう。
また,S(主観的データ)とO(客観的データ)が混乱しているので,整理
しましょう。
2
❶●
●
❷後期ダンピング症候群(低血糖,高血糖)の予防についての
知識不足に関連した,非効果的治療計画管理リスク状態
S 食事は20分程かけて食べるように心掛けており,胸やけ,嘔気な
し。なぜこんなに血糖に波があるのか。運動するように言われるか
ら,午前と午後に廊下を歩くようにしている。外来を歩きたいけど
人がいっぱいいる。
O 10:00(食後2時間)の血糖値161mg/dℓ。血糖値上昇について不
安を訴えた。運動は病棟廊下を往復する程度。食後30分は座位に
なっているが,その後は臥床していることが多い。
A 運動療法の必要性は理解しているが,運動量が少ない。運動の場所
がないことが一因になっている。食事療法(摂取方法)は守られて
いる。
P 廊下を歩く回数を増やすように促す。また,日中の臥床時間を減ら
すように提案し,1日の活動に関する計画を一緒に立案する。
8
3
#.●
睡眠パターン混乱
❶●
❷
S 全然眠れなかったので,自分で持っていた眠剤を追加して飲んだ。
O 巡視時(2時,4時)には,寝息を立てており,開眼することもな
かった。0時に申し出があり,屯用の眠剤を手渡したが,その後,
相談なく追加した様子。ふらつきなし。持参薬(眠剤)を預けてい
ただくように説明したが,納得していただけなかった。
A 眠剤を自己管理したいと言うが,量や効果,副作用についての知識
がなく,危険。
眠剤の管理方法について,主治医や薬剤師と検討し,改めて患者
P ●
❸
と話し合う機会を持つ。
❶問題がすり替わっているSOAPです。「睡眠」の問題だったはずが,「眠剤
●
の管理」の話になってしまいました。
❷一番気になることは,眠剤を飲んで,眠れたかということなのですが,患者
●
の主観的データがなく,評価できません。
「痛み」と同じで,
「睡眠」も,ど
んなによく眠っているように見えても,眠りの質と満足感は患者にしか分か
「睡眠パターン混乱」については,情報が足りず,全
りません。ですから,
く「落ち」のないSOAPです。
❸「眠剤の管理」については,看護上,大切な情報です。ですから,看護診断
●
を用いた看護過程の展開をされている場合には,新たに看護診断を立案する
ことが望ましいです。しかし,一時的な問題であったり,看護診断を用いな
「何について
かったりする場合もあるでしょう。そのような場合にも,
SOAPを書くのか」といった問題点やテーマを明確に掲げておくのがよいで
しょう。
落ちないSOAP 結末(落ち)のないSOAP記録
9
3
❶●
●
❷☆眠剤の管理について
「全然眠れなかったので,自分で持っていた眠剤を追加して飲ん
S だ」。持参薬(眠剤)を預けていただくように説明したが,「いちい
ちナースコールで呼ぶのも面倒だし,元々自宅で飲んでいた薬なの
だから,渡す必要はない」「2錠で効く日もあれば,4錠飲むこと
もある」
O 0時に屯用の眠剤を手渡した。その後,相談なく追加し,指示され
た1回量の倍は飲んだ様子だが,ふらつきなどの副作用はなし。
A 眠剤を自己管理したいと言うが,量や効果,副作用についての知識
がなく,危険。
❸P 眠剤の管理方法について,主治医や薬剤師と検討し,改めて患者と
話し合う機会を持つ。
4
ことわざで,
「骨を折らずに利益を得ること」を「濡れ手に粟」と言いますが,
間違って,
「濡れ手に泡」だと思っている人がいるそうです。SOAP(石鹸)で「濡
4
れ手に泡」を立てても,すぐに流してしまうことから,「いくら努力しても実り
がないこと」を言うと思っているようです。ことわざとしては間違いですが,話
としては,
「なるほど」と納得できますね。分かりやすく,看護ケアに生かせる
SOAPを書くための学習においては,
「濡れ手に粟(骨を折らずに利益を得るこ
と)
」も,
「濡れ手に泡(いくら努力しても実りがないこと)」もありません。あ
きらめずにコツコツと,日々研鑚していきましょう。
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