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下水道雨水管理計画策定マニュアル(全体)

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下水道雨水管理計画策定マニュアル(全体)
下水道雨水管理計画策定マニュアル
平成 24 年 11 月
一般社団法人 全国上下水道コンサルタント協会
下水道雨水排水マニュアル改訂 WG
序
この度,
「下水道雨水管理計画策定マニュアル(平成 24 年 11 月)」を,(一社)全国上
下水道コンサルタント協会(以下,
「水コン協」と略称),技術委員会,下水道雨水排水
マニュアル改訂WGによる企画と検討を経て出版の運びとなりました。水コン協の関
係委員各位にはそのご苦労に対し心より感謝申し上げます。
本マニュアルに関連して「下水道雨水排水計画策定マニュアル(平成 12 年 3 月)」が
水コン協「業務拡大部会」の活動成果の一つとして 12 年前に出版されています。この
マニュアルの特徴は,当時の雨水流出解析手法が高度化した状況を反映し,古くから
基本的にはピーク流出に対応した施設計画を,時系列の解析手法にまで設計思想を広
げようと試みるものでした。その時点の活動には,私も一委員として及ばずながら参
画させていただきました。
その後雨水計画の思想はさらに視野の広いものとなり,人を重視しソフト対策と自
助の促進を図る内容へと進化してきました。本マニュアル作成に関わられた方々が後
述なさっているとおりであります。この間,国や(公社)日本下水道協会からの関連
マニュアルも相次いで出版され,官民のパートナーシップは充実の度を増しているこ
とを実感します。
水コン協会員各位には本マニュアルを大いに活用し,社会資本整備の一環として重
要な位置付けにある下水道雨水管理計画を全国の事業者と一体となって推し進めてい
ただきますようお願い致します。
また,下水道事業者各位におかれましては,下水道雨水計画を見直される際には,
最新の思想と知見を反映した本マニュアルを,是非ご参照いただきますようお願い申
し上げます。
平成 24 年 11 月
(一社)全国上下水道コンサルタント協会
会長
木下 哲
技術委員会
(社名は五十音順,敬称略)
委員長
池田
信己
オリジナル設計(株)
副委員長
市川
浩
日本上下水道設計(株)
委
鈴木
郁雄
(株)ドーコン
東北支部
斎藤
勇治
(株)三水コンサルタント
関東支部
山﨑
義広
(株)三水コンサルタント
古屋敷
高山
直文
尚人
(株)東京設計事務所
(株)日水コン
山元
裕美
中部支部
岩本
基廣
日本水工設計(株)
日本水工設計(株)
関西支部
野崎
圭吾
オリジナル設計(株)
中国・四国支部 吉浪
康行
復建調査設計(株)
九州支部
伸夫
(株)東京設計事務所
員 北海道支部
津田
技術委員会 下水道雨水排水マニュアル改訂 WG
(社名は五十音順,敬称略)
WG長
WGメンバー
古屋敷 直文
内田
徹也
(株)東京設計事務所
(株)エイト日本技術開発
菅
伸彦
オリジナル設計(株)
村上
敏雄
中川
望
オリジナル設計(株)
(株)クリアス
石川
美宏
(株)建設技術研究所
吉本
健太郎
(株)建設技術研究所
山﨑
義広
吉川
出田
真幸
功
(株)三水コンサルタント
(株)三水コンサルタント
石井
康浩
(株)東京設計事務所
中日本建設コンサルタント(株)
富永
昌伸
(株)日水コン
服部
貴彦
(株)日水コン
東
正史
日本上下水道設計(株)
秋葉
竜大
日本水工設計(株)
山元
裕美
森谷
敦人
日本水工設計(株)
(株)ニュージェック
小保方 和彦
パシフィックコンサルタンツ(株)
オブザーバー
池田
信己
オリジナル設計(株):技術委員長
事務局
加藤
雅夫
(一社)全国上下水道コンサルタント協会
はじめに(改訂にあたって)
近年,市街化の進展や,計画の想定を上回る降雨の頻発化による都市域の浸水が増
大しており,早急な雨水浸水対策が望まれている。
一方,多くの自治体も,人口減少下であることも含めて,財政が逼迫している状態
であり,限られた財源のなかで,効率的な対策がもとめられている。
今回改訂前の「下水道雨水排水計画策定マニュアル(平成 12 年 3 月)
」は,当時の
「下水道施設計画・設計指針と解説」(公益社団法人 日本下水道協会)で十分記述さ
れていなかった雨水排水計画の策定手法のマニュアルとして取りまとめたものである。
平成 17 年 7 月の国の下水道政策研究委員会から「都市における浸水対策の新たな展
開」についての提言があり,それにもとづき,国から平成 18 年 3 月,「下水道総合浸
水対策計画策定マニュアル(案)
」が発刊され,浸水被害の最小化を目的とした「人(受
け手)主体の目標設定」「選択と集中」「ソフト・自助の促進による被害の最小化」の
基本的な雨水整備の方針の転換が示された。
また,平成 21 年度に発刊された「下水道施設計画・設計指針と解説」(公益社団法
人 日本下水道協会)では以下のような基本的考え方が示された。
「雨水管理計画は,住民の生命・財産及び交通・通信等の都市機能を浸水から守り,
都市の健全な発達に寄与するという目的に立ち,地区の実状を考慮するとともに段階
的な整備目標を設定し,管きょやポンプ場の整備に加え,雨水流出抑制手法等を積極
的に取り入れるなど効率的な雨水排除計画を策定するとともに,都市において近年頻
発する集中豪雨に対して,ソフト対策及び自助の促進等を取り入れ,効果的に浸水被
害の最小化を図る総合的な計画とする。」
既マニュアルは上述の考え方の先取りの部分も多々あったが,発刊後,シミュレー
ション技術や雨水対策手法の進歩,特定都市河川浸水被害対策法の制定,浸水被害緊
急改善下水道事業,下水道総合浸水対策緊急事業(H21.4.1 廃止)
,下水道浸水被害軽
減総合事業(H22 雨に強い都市づくり支援事業への統合)の創設等の制度変更も生じ
ておりそれらにも対応すべく,最新の考え方に基づき改訂を行ったものである。
なお,本改訂は,当協会の技術委員会のなかで,業務拡大部会の業務として,会員
各社にアンケートをおこない,既マニュアルの使用頻度が高く,改訂の要望も高かっ
たため実施したものである。
雨水管理計画全般の業務の折のハンドブック的な使い方をしていただくようお願い
したい。
平成 24 年 11 月
(一社)全国上下水道コンサルタント協会
技術委員長
池田 信己
目 次
第1章 総論
1.1 マニュアルの背景と目的
1
1.2 雨水整備の特徴・課題と計画策定にあたって求められる要件
3
1.3 雨水管理計画策定の基本方針
7
1.4 雨水管理計画の事業化に向けたプロセス
10
1.5 本マニュアルの構成
12
1.6 用語の定義
14
第2章 雨水管理計画の変遷
2.1 雨水管理計画の変遷
15
2.2 雨水管理に関する関連計画・事業制度の整理
18
2.3 雨水管理計画に関する主な指針、マニュアル等
22
第3章 下水道雨水基本構想
3.1 構想の必要性
23
3.2 構想の成果
25
3.3 構想の検討項目と検討フロー
27
第4章 基礎調査
4.1 総説
35
4.2 水文調査
42
4.3 流域内調査
46
4.4 浸水実態調査
50
第5章 整備目標
5.1 総説
52
5.2 重点地区,整備優先順位の設定
53
5.3 整備目標(整備水準)の設定
55
第6章 解析手法
6.1 総説
61
6.2 水位・流量の算定手法
62
6.3 雨水流出等の算定手法
64
6.4 流出解析モデルの概要
68
6.5 流出解析モデルの活用
77
第7章 既存施設の能力評価
7.1 既存施設の能力評価を行う目的
90
7.2 既存施設の能力評価で用いる解析手法
91
7.3 解析結果の妥当性検討
95
7.4 既存施設の能力評価
97
第8章 雨水対策手法
8.1 総説
99
8.2 ハード対策
100
8.3 ソフト対策
107
8.4 その他の有効な手法
109
第9章 整備計画
9.1 総説
111
9.2 段階的整備計画
114
第 10 章 施設計画
10.1 管路施設
117
10.2 ポンプ場施設
119
10.3 流出抑制施設
122
10.4 その他施設
134
10.5 雨水の多目的利用
136
10.6 概算事業費
137
第 11 章 費用効果の把握
11.1 総説
142
11.2 費用効果算定項目
143
11.3 費用効果の評価手法
145
11.4 便益の算定手法
146
第 12 章 改善効果の評価
12.1 改善効果を評価する目的
150
12.2 改善効果の評価時期
151
12.3 改善効果の評価手法
152
12.4 改善効果の評価の流れ
153
第1章 総 論
1.1 マニュアルの背景と目的
本マニュアルは,最新の技術や制度に対応した内容を含め,今後の計画策定にあたり実
務者にとって有用なマニュアルとすることを目的とする。
【解説】
我が国は,高度成長期から安定成長期を経て混沌とした低迷期を迎え,高齢化社会への
移行に伴う福祉対応などを受けて,公共投資の削減・建設コストの縮減や投資に見合う費
用対効果(B/C)が求められている。特に,既存整備施設がどの程度機能を果たすのかを
適正に評価し,掲げた対策目標とそれを達成する効率的な施設計画が求められている。
一方,行政改革に伴う地方自治ひいては住民自治の強化とともに,市民の公共投資への
意識変化がおき,事業者はその事業の適正な評価と決定過程の情報を公開する義務が生じ
ている。雨水整備は,多大な投資と長期間の整備を要するため,事業の妥当性並びに効率
的な建設・運用について十分に検討し,説明責任を果たす必要がある。
また,浸水被害を引き起こすような大降雨(ゲリラ豪雨,超過降雨)の発生頻度は,近
年特に増加傾向にあることから,早急な対応が求められている。
さらには,リスク管理の重要性,BCP(事業継続計画)のような緊急事態への備えなど
雨水の総合的な観点からの管理もますます重要になっており,
「下水道施設計画・設計指針
と解説 2009 年版 (社)日本下水道協会」においては,「管きょ,ポンプ場及び雨水流出抑
制施設等の整備による効率的な雨水排除とソフト対策,自助を組み合わせかつ雨水利用の
観点を考慮しつつ,効果的に浸水被害の最小化を図る雨水に関する総合的な計画」を「雨
水管理計画」という言葉で表現している。
以上のような社会の変化に応ずるべく,雨水整備の計画策定について考える必要がある。
「下水道雨水排水計画策定マニュアル 平成 12 年 3 月 (社)全国上下水道コンサルタン
ト協会 技術委員会業務拡大部会」(以下「H12.3 マニュアル」)は,当時の「下水道施設
計画・設計指針と解説 1994 年版 (社)日本下水道協会」で十分記述されていなかった雨水
排水計画の策定手法のマニュアルとしてとりまとめたものである。
「H12.3 マニュアル」は,現在の雨水排水計画の基本的方向である,災害防止の観点に
よる「人主体の目標設定」,整備の「選択と集中」,
「ソフト・自助の促進による被害の最小
化」についても触れられており,策定から約 10 年が経過した現在でも活用できるマニュ
アルとなっている。
しかし,
「H12.3 マニュアル」発刊後,シミュレーション技術の進歩といった技術的変化
や,緊急的な浸水対策としての事業制度の変化や特定都市河川に係る流域水害対策計画な
ど,制度的な変更も生じていることから,その充実が求められている。
このような背景を受け,今回の改訂は,
「H12.3 マニュアル」をベースとして最新の技術
1-1
(1)
や制度に対応した内容に見直し,今後の計画策定にあたり実務者にとって有用なマニュア
ルとすることを目的とする。
有用なマニュアルとするために,最新の情報を加えるとともに今後の計画策定において
どのようなことに留意すべきか,という観点から,以下に示すような内容を改訂のポイン
トとしてとりまとめている。
●
雨水整備に求められる要件と基本方針を再整理
●
雨水管理の基本方針となる雨水基本構想について提案
●
「選択と集中」を踏まえた整備目標の考え方や段階的整備の考え方などについて整
理
●
流出解析モデルの最新の情報やモデルによる諸検討を行うにあたってのポイント
を整理
●
雨水対策手法、施設計画、段階的整備計画について整理するとともに雨水対策施設
の選定にあたり重要となる費用算定、費用効果に関する内容を記述
●
雨水管理計画における PDCA の考え方を記述
1-2
(2)
1.2 雨水整備の特徴・課題と計画策定にあたって求められる要件
雨水管理計画の策定にあたって,社会的背景や現状の雨水整備の特徴・課題から,今後
以下のような要件が求められる。
(1) 地域ごとの実状を踏まえた状況把握
(2) 今後の浸水対策の全体像の把握
(3) 貯留・浸透等を考慮した水環境の保全
(4) その他関連計画(河川など)と下水道の整合
【解説】
近年,国土交通省では,主要な行政目的に係る政策について,目標値を掲げて評価を行
っている。政策チェックアップ(実績評価方式)は,国土交通省の中心的な評価方式で,
政策目標ごとに業績指標とその目標値を設定し,定期的に業績を測定して目標の達成度を
評価するものである。表 1-1 には,様々な指標のうち,浸水被害軽減に関する目標の達成
状況を抽出して示しているが,この状況から以下のようなことがわかる。
●
下水道による都市浸水対策達成率(全体)は,平成 24 年度末の目標値約 55%に対
して約 53%(平成 23 年度末)と概ね順調に推移している。今後,達成率 100%を
目指した整備が望まれる。
●
下水道による都市浸水対策達成率(重点地区)は,平成 24 年度末の目標値約 60%
に対して約 27%(平成 23 年度末)となっており,さらなる整備が望まれる。
●
ハザードマップを作成・公表し,防災訓練等を実施した市町村の割合(内水)は,
平成 24 年度末の目標値約 100%に対して約 15%(平成 23 年度末)となっており,
さらなる整備が望まれる。
●
近年発生した床上浸水の被害戸数のうち未だ床上浸水の恐れがある戸数は,平成 24
年度末の目標値約 7.3 万戸に対して約 10.0 万戸(平成 23 年度末)となっており,
概ね順調に推移している。今後,被害戸数ゼロを目指した整備が望まれる。
表 1-1 浸水被害軽減に関する目標の達成状況
施策の
方向性
指標の
分類
指標*
下水道による都
市浸水対策達成
率
安全で
安心な
暮らし
の実現
浸水被
害の軽
減に関
する指
標
ハザードマップ
を作成・公表し,
防災訓練等を実
施した市町村の
割合(内水)
近年発生した床
上浸水の被害戸
数のうち未だ床
上浸水の恐れが
ある戸数
平成 19
年度末
平成 20
年度末
平成 21
年度末
平成 22
年度末
平成 23
年度末
目標値
(平成 24
年度末)
全体
約 48%
全体
約 50%
全体
約 51%
全体
約 52%
全体
約 53%
全体
約 55%
重点地区
約 20%
重点地区
約 24%
重点地区
約 25%
重点地区
約 26%
重点地区
約 27%
重点地区
約 60%
約 6%
約 9%
約 12%
約 14%
約 15%
約 100%
約 14.8
万戸
約 13.9
万戸
約 13.3
万戸
約 12.3
万戸
約 10.0
万戸
約 7.3
万戸
1-3
(3)
*(指標の定義)
下水道による都市浸水対策達成率:
都市浸水対策を実施すべき区域のうち、商業・業務集積地区等の重点地区は10年に1回程度、浸水のおそれのある
その他の地区は5年に1回程度発生する規模の降雨に対応する下水道整備が完了した区域の面積割合。
全 体 :都市浸水対策を実施すべき区域面積のうち、5年に1回程度発生する規模の降雨に対応する下水道整
備が完了した区域面積
重点地区:都市浸水対策を実施すべき区域のうち、商業・業務集積地区等の重点地区の区域面積のうち、10年
に1回程度発生する規模の降雨に対応する下水道整備が完了した区域面積
ハザードマップを作成・公表し、防災訓練等を実施した市町村の割合(内水)
:
地下空間利用が高度に発達し浸水の恐れのある地区、または、H9年度以降床上浸水被害等が発生した地区を有する
市町村数のうち、内水ハザードマップを作成・公表かつ防災訓練等(※)を実施した市町村数
※防災訓練等:内水ハザードマップを活用した防災訓練(洪水想定の防災訓練時に内水ハザードマップ配布等を
しているものも含む)のほか、町内会の集会などでのマップの配布、住民が中心となったマップの
普及活動等、積極的にマップの活用を推進するための取組みが行われている場合を含む。
近年発生した床上浸水の被害戸数のうち未だ床上浸水の恐れがある戸数:
過去10年間(平成9年度から平成18年度までの間)に床上浸水を受けた家屋のうち、被災時と同程度の出水で、
依然として床上浸水被害を受ける可能性のある戸数。
出典:国土交通省 政策チェックアップを基に整理
(http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/hyouka/seisakutokatsu_hyouka_fr_000007.html)
上記の状況から,浸水被害軽減に関して,今後ますますの対応が必要な状況にあること
がわかる。これに対して現状の雨水整備の特徴や課題として以下のようなことがいえる。
・ 雨水整備の状況を住民が十分把握できていない可能性がある。
・ 雨水整備が,被害発生後の事後対策となっている場合もあり,全体像を見据えた整
備となっていると必ずしもいえない。
・ 雨水整備とその他関連する計画が,一元的な管理の下に行われていない場合がある。
雨水管理計画の策定にあたっては,社会的背景や雨水整備の特徴・課題に配慮して,今
後以下のような要件が求められる。
(1)について
概して,浸水被害は不定期に発生し,数年が経過すると地域住民の記憶から薄れてゆく
傾向にある。つまり,被害が発生した時に雨水整備の必要性が強調されるが,永続的な声
となりにくい。
一方,雨水整備には発生した被害を解消・軽減するために長い年月と費用が必要である。
また,施設が完成しても,その恩恵は相応の豪雨が発生するまで感受され難い。
したがって,下水道事業者は,まず,現況排水施設の能力はどの程度なのか,浸水発生
の頻度や被害の度合い(床下・床上)はどの程度なのか把握することが必要である。
また,近年,都市型浸水が多発し,地下空間の浸水による人的被害が発生した例もあり,
事前に浸水の危険性のある区域を予想するとともに,リアルタイムに浸水の危険性を情報
として提供するなどして,住民との共通認識を持つことが重要であり,状況把握が非常に
重要となる。
(2)について
汚水整備に比して,雨水整備は施設そのものの規模が大きく,整備費も膨大となる。
一方,コスト縮減が唱えられる昨今,ただ単に,既往計画規模の施設の建設を続けるこ
1-4
(4)
とは,整備に長期間を要し効果の発現が遅くなるため,適切な投資手法とは考えにくい。
浸水被害の程度・緊急度により整備の優先度を設定し,段階的な整備計画を策定すること
が重要である。
現在,浸水対策の目標設定は,
「生命の保護」,
「都市機能の確保」,
「個人財産の保護」と
いうような観点から行うべきという方向転換がなされている。これにあわせて,地域の資
産価値と財政事情などを考慮して,どの程度の目標が適正なのか検討して設定することが
望まれる。
また,浸水被害の発生頻度とその度合い,土地利用状況(資産価値)などから,整備優
先順位を判断する必要がある。さらに,一連の排水系統の整備が完了しなければ,相当規
模の施設整備を進めても,一部区域での浸水解消に留まり,対策効果の発現は限定的なも
のとなってしまう。
したがって,浸水原因を明らかにし,計画する施設整備とその効果,投資額を受益者が
理解しやすい情報として提供する必要がある。
このような問題・課題を受け,3章で後述する「下水道雨水基本構想」を立案すること
によって今後の浸水対策の全体像の把握が求められる。
(3)について
雨水排水施設整備の目的は,浸水被害の解消・軽減にあり,雨水の速やかな排除を基本
とし,雨水幹線やポンプ場の能力の増強を図ることを基本としてきたが,都市部において
は土地利用や地下埋設物の制約上,新規施設の築造が困難な場合がある。
このような課題の改善手法として,雨水の浸透,貯留などを導入した流出抑制型下水道
が適用されている。雨水の浸透や貯留により,地域内の水をストックし,非常用水や環境
用水の確保,浸透事業での地下水涵養ひいては河川の低水流量の増加などが図られ,雨水
流出抑制効果とともに水循環を回復させる役割も期待できる。
下水道は都市域の水量と水質双方の制御を責務とされている。したがって,雨水流出抑
制対策は,治水面に加えて,水環境保全の有効な手段であり,今後積極的に導入する必要
がある。
(4)について
近年,都市部においては,土地の高度利用や市街地の拡大など都市化の進展により雨水
流出量が増大し,都市型の水害が頻発するようになった。
一方,下水道により浸水解消を図ろうとしても,放流先河川の整備が進んでいない場合,
放流規制を受けることが多く,下水道の整備は,根本的な浸水解消とはなり得ない。
すなわち,下水道雨水排水施設の整備により,河川へ放流するピーク量が高くなるため,
河川流下能力を超過しないよう下水による雨水放流量の制限を受け,ひいては下水道施設
整備に関して制限を受ける可能性が高い。特に,現況の河川流下能力が相対的に低く,今
後の改修も難しい地区に関しては,雨水整備の根本的な課題となる。
このような状況から,下水道雨水排水施設の整備を推進するにあたっては,放流先の河
川計画との整合・調整を十分に図っておく必要がある。
近年,河川と下水道とが体系化された総合的な雨水排水計画を策定することにより,双
1-5
(5)
方が一体となって地域の治水安全度の向上を図るとともに,都市部における雨水対策事業
の効率的な推進を図ることを目的とした「総合的な都市雨水対策計画」の必要性が認識さ
れ,相互関係部局による協議会などが開催されるようになっている。下水道で分担すべき
対策規模を早急に把握するとともに,河川計画との整合を図っていく必要がある。
また,近年水質改善や水循環の観点からの水環境の観点からの計画も求められているこ
とから,それらの計画との整合も重要である。
1-6
(6)
1.3 雨水管理計画策定の基本方針
雨水管理計画は,「下水道施設計画・設計指針と解説 2009 年版 (社)日本下水道協会」
において効果的に浸水被害の最小化を図る総合的な計画と位置づけられており,本マニュ
アルにおいても,雨水管理計画の基本的な考え方を遵守する。雨水管理計画策定にあたっ
ての基本方針は以下のとおりとする。
(1) 地域の実状を考慮した段階的な整備目標の設定
(2) 対策の組み合わせと定期的な見直しによる効率的な計画の立案
(3) 住民への情報提供と住民と協力した効率的な浸水被害の最小化
(4) 雨水利用・その他関連計画への配慮(河川計画との整合など)
【解説】
雨水管理計画は,住民の生命・財産及び交通・通信等の都市機能を浸水から守り,都市
の健全な発達に寄与することを目的としており,効果的に浸水被害の最小化を図る総合的
な計画と「下水道施設計画・設計指針と解説 2009 年版 (社)日本下水道協会」で位置づけ
られている。本マニュアルにおいても,雨水管理計画の基本的考え方に準じることとし,
雨水整備に求められる要件に対する基本方針を以下の図 1-1 に示すとおりとする。
基本方針をイメージ図で示すと,以下の図 1-2 に示すとおりとなる。
基本方針
雨水整備に求められる要件
地域ごとの実状を踏まえた状況把握
地域の実状を考慮した
①現況排水施設の能力把握
段階的な整備目標の設定
②浸水発生頻度や被害度合いの把握
③把握した情報の住民への提供
対策 の組 み 合わ せと 定 期 的
な見 直し に よる 効率 的 な 計
画の立案
今後の浸水対策の全体像の把握
①浸水被害の程度による整備優先度設定
②適正な目標設定
③受益者が理解しやすい情報の提供
住民への情報提供と
貯留・浸透等を考慮した水環境保全
住民と協力した効率的な
①流出抑制型下水道の適用
浸水被害の最小化
②非常用水や環境用水の確保
③地下水涵養,河川の流量回復
雨水利用・その他関連計画
その他関連計画(河川など)と下水道の
への配慮(河川計画との整
整合
合など)
①放流先の河川計画との整合・調整
②相互関係部局との連携
図 1-1 求められる要件と基本方針
1-7
(7)
河
農業用排水路
川
道路・住宅・公園等
整合・連携
開発計画
下水道
雨水管理計画
(内水被害軽減を主眼)
雨水利用・その他関連
計画への配慮(整合)
地域の実状を考慮した段階的な整備目標の設定
時間軸設定:長期・中期・当面
地域レベル:重点地区・一般地区
ハード+ソフト対策等により
整備目標の達成へ
効率的な浸水被害の最小化
対策の組み合わせと定期的な見直しによる
効率的な計画の立案
ソフト対策
ハード対策
速やかな排除(=排水)施設
雨水流出抑制施設
(管きょ,ポンプ場等)
(貯留・浸透施設等)
自助・共助
公助
止水板,
ハザード
マップ,
土のう設置,
避難行動
避難勧告,
自助対策支援
整備水準:5~10 年を標準
図 1-2 基本方針イメージ
雨水管理計画策定にあたっての基本方針の内容について以下に示す。
(1)について
一般に,雨水整備は汚水整備に比べて対象水量が大きくなるため,整備費用が多額とな
る。よって,対象区域全体に対して均一的な整備を行うとなると整備期間が非常に長くな
る恐れがある。効率的な雨水整備を行うためには,雨水基本構想の立案による浸水対策の
全体像の把握を行うべきである。全体像が把握できれば,予算に応じた効率的な投資が可
能となる。そして,重点的に対策を行う地区を選択し,期限を決めて集中的に整備を行う
べきである。
また,これまでの対策は,概ね 5~10 年に 1 回の大雨に対して浸水させないような施設
整備が行われてきた。しかしながら,近年はゲリラ豪雨や集中豪雨など,計画降雨を超過
する降雨が頻発している。また,地形や土地利用形態の違いにより被害状況が異なるにも
1-8
(8)
かかわらず目標設定が画一的である場合が多い。このような状況を改めるためには,地域
ごとに想定される浸水被害に応じた,地域ごとの目標設定を行うべきである。
(2)について
これまでの対策では,管きょやポンプ場の整備を基本としてきたことから,整備期間が
長くなり,対策効果の発現が遅れる傾向にあった。このような状況を改めるためには,貯
留,浸透施設やソフト対策を視野に入れた,地域に合った雨水整備方法を採用していくべ
きである。
また,段階的な目標設定(当面,中期,長期)を行い,整備効果の早期発現が特に必要
な地域については当面目標に向けた整備を行うべきである。なお,段階的な目標設定にあ
たっては,浸水対策の全体像の把握を行うべきである。さらには,実施した事業を定期的
に確認,評価し,効率的な計画を維持していくことが重要である。
(3)について
被害最小化のため自助や共助を促進するためには,十分な情報提供が必要である。浸水
の危険性・整備効果をわかりやすい情報として提供し,リスクコミュニケーションの充実
により住民と共同した取り組みを目指す必要がある。
雨水整備は整備費用が高く,限られた予算でのハード整備だけでは浸水被害を解消でき
るとは限らない。よって,被害を最小化するためには,ハード対策だけではなく,住民自
らの災害対応である「自助」と近隣住民が協力し合う「共助」,それを支援するための「公
助」といったソフト対策を促進する必要がある。自助・共助を促進するためには,十分な
情報提供や補助制度の充実なども考えていく必要がある。
(4)について
計画策定にあたっては,近年水質改善や水循環の観点からの水環境の観点からの計画も
求められていることから,積極的な雨水利用の観点や関連計画への配慮を行うことが重要
である。
また,河川計画との整合については,放流先河川の整備が進んでいない場合,河川への
放流制限を受ける可能性があり,その場合,下水道施設能力を十分に発揮できない可能性
がある。このような状況から,雨水排水施設整備を推進するにあたっては,放流先の河川
計画との整合・調整を十分に図っておく必要がある。
1-9
(9)
1.4 雨水管理計画の事業化に向けたプロセス
雨水管理計画の事業化にあたっては,以下の計画を策定する必要がある。
(1) 下水道雨水基本構想
(2) 基本計画(全体計画)
(3) 事業計画
【解説】
従来は,下水道区域全域を同一目標で均等に整備することを前提に基本計画を策定し事
業を進めており,段階的な整備目標や整備の「選択と集中」が必ずしも考慮されていなか
った。今後,効率的な雨水管理計画の事業化にあたっては,地域の実情を考慮した雨水管
理基本方針を示す下水道雨水基本構想が重要である。
また,事業の実施段階で計画に変更が生じることになった場合,必要に応じて計画段階
(下水道雨水基本構想,基本計画,事業計画のどこまでフィードバックするかは状況に応
じて判断する)にフィードバックさせることで,事業の妥当性を再検証するのが望ましい。
さらに,治水(防災),利水,水辺環境の観点からのマスタープラン(本マニュアルで
は,「H12.3 マニュアル」にならい水環境整備基本構想と呼ぶ)がある場合,その内容を
考慮したものとすることが望ましい。
図 1-3 に雨水管理計画の事業化に向けたフローを示す。
(1) について
基本計画は,整備水準を一律としていた時点の計画であり,必ずしも優先順位の考え方
などが示されていない。雨水整備には多大な投資と長期の整備期間が必要であり,効率的
な雨水整備には「選択と集中」が求められている。このような地域の状況に応じた,かつ
ソフト対策も含めた雨水整備目標,整備優先順位,雨水整備方法を定め,雨水管理の事業
展開を明確にした下水道雨水基本構想の策定が重要である。
近年は,頻発する超過降雨に自助,共助を促す情報提供を目的とした内水ハザードマッ
プの作成が進められている。内水ハザードマップでは,地域の現状治水安全度が示される
ため,その活用は下水道雨水基本構想の策定に非常に有効である。
(2) について
下水道事業を行うために整備の方向付けを行うものが基本計画である。
基本計画は,都市全域の雨水排除計画を策定するものとした一律整備水準となっている
ものが多い。よって,必ずしも優先順位の考え方などが示されていない。また,標準的作業
内容にも,優先順位付け,区域ごとの整備水準の設定等は含まれてない。
対象区域が,浸水がほとんどなく,または浸水があったとしても明らかに内水によるも
のではなく,雨水整備に関して段階的な整備目標や整備の「選択と集中」を必要としてい
ない場合は,従来どおり基本計画を立案することで問題ないと考えられるが,「選択と集
中」が求められる場合は,下水道雨水基本構想に基づいた時間軸,地域レベルを考慮した
基本計画の検討が必要である。
1-10
(10)
(3) について
事業計画は,今後およそ 5~7 年で整備する箇所の具体的な計画を立案するものである。
START
雨水整備に関して段階的な整備目標や整
NO
備の「選択と集中」を必要としているか
利水の観点
治水・防災の観点
水辺環境の観点
YES
水環境整備基本構想
●将来目標像
●計画降雨
●段階的整備構想
●費用対効果
等
下水道雨水基本構想
水辺整備構想
貯留・浸透構想
水循環構想
●根幹的施設配置
●組合せ対策手法評価
●ソフト対策計画
●概算事業費
等
●施設計画設計
●ソフト対策計画
●浸水被害軽減効果評価
●年次別財政計画 等
基本計画
ノンポイント負荷対策
事業計画
必要に応じて
フィードバック
事業実施
事業効果の確認
END
図 1-3 雨水管理計画の事業化に向けたフロー
1-11
(11)
水資源計画
1.5 本マニュアルの構成
本マニュアルは,以下の構成としている。なお,下記の(1)及び(2)は総論としてとりまとめ,
それ以外は各論としてとりまとめる。
(1) 雨水管理計画の変遷(第 2 章)
(2) 下水道雨水基本構想(第 3 章)
(3) 基礎調査(第 4 章)
(4) 整備目標(第 5 章)
(5) 解析手法(第 6 章)
(6) 既存施設の能力評価(第 7 章)
(7) 雨水対策手法(第 8 章)
(8) 整備計画(第 9 章)
(9) 施設計画(第 10 章)
(10) 費用効果の把握(第 11 章)
(11) 改善効果の評価(第 12 章)
【解説】
(1) について
雨水管理計画を策定するにあたっては,雨水管理計画に係わる法令や事業制度,計画策
定にあたって準拠すべき指針,マニュアルなどにどのようなものがあるかを把握する必要
がある。ここでは,必要な情報として,雨水管理計画に係わる法令や事業制度,雨水管理
計画に関連する指針,マニュアルなどについて示している。
(2) について
雨水管理計画を立案するにあたっては,整備目標や整備水準,整備エリア,整備スケジ
ュールなどを明確にする必要があるが,これらは地域によって異なる可能性がある。下水
道雨水基本構想は,各地域の実状を踏まえた地域ごとの多様な整備目標やスケジュールな
どを策定するものである。ここでは,下水道雨水基本構想の必要性,構想策定により得ら
れる成果,構想の検討項目と検討フローについて示している。
(3) について
基礎調査を行うべき内容,調査フロー,雨水管理計画の立案にあたって重要な基礎調査
項目における留意点などについて示している。
(4) について
整備目標となる整備目標や整備水準,整備エリア,整備スケジュールなどの基本的考え
方について示している。
(5) について
雨水の流出を表現・評価・検討するための解析手法について,その概要を解説するとと
1-12
(12)
もに,近年,降雨特性や地域特性を考慮した効率的な雨水対策施設計画の立案などに広く
利用されている「流出解析モデル」に関する知見を中心に整理を行っている。
例えば,雨水流出量などの各種算定手法の種類と特徴や,目的に応じた算定手法の選定
方法をはじめ,流出解析モデルの概要,活用方法,モデル使用上の留意点などについて示
している。
(6) について
既存施設の能力評価を行う目的や能力評価に用いる手法,解析結果の妥当性検討,能力
評価にあたってのポイントについての考え方を示している。
(7) について
雨水対策手法には,管きょやポンプ場の設置や流出抑制対策などのハード対策と自助・
共助,公助によるソフト対策などがある。ここでは,雨水対策手法として,ハード対策,
ソフト対策,その他の有効な手法に分類し,その概要と選定にあたってのポイントについ
て示している。
(8) について
段階的整備計画は,整備目標や整備水準,整備エリア,整備スケジュールにより雨水整
備方法が異なる。ここでは,雨水整備計画の基本方針,段階的整備計画の考え方や立案例
について示している。
(9) について
管路施設,ポンプ場施設の施設計画にあたっての留意点や,流出抑制施設の種類や概要,
導入にあたっての留意点,その他施設(分水施設)の特徴について示している。また,雨
水の多目的利用についても示している。さらに,概算事業費の算出例などについても示し
ている。
(10) について
整備計画で位置づける施設については,投資効果を定量的に評価する必要がある。ここ
では,費用効果の算定項目,評価手法,便益の算定手法について示している。
(11) について
整備計画を立案する際には,選定した雨水対策手法により,どの程度の効果があるかを
定量的に評価する必要がある。ここでは,改善効果の評価目的,評価時期,評価手法,評
価の流れについて示している。
1-13
(13)
1.6 用語の定義
本マニュアルで用いる用語をそれぞれ以下のように定義する。
(1) 下水道雨水基本構想
雨水管理に関する事業展開を明確にするための計画であり,下水道全体計画で十分
に示されていない,地区別の整備目標,整備順位,整備方法を明確にし,自治体にお
ける雨水管理の方針を示すものである。
(2) 雨水管理計画
「下水道施設計画・設計指針と解説
2009 年版
(社)日本下水道協会」で示されて
いるとおり,管きょ,ポンプ場及び雨水流出抑制施設等の整備による効率的な雨水排
除とソフト対策,自助を組み合わせかつ雨水利用の観点を考慮しつつ,効果的に浸水
被害の最小化を図る雨水に関する総合的な計画をいう。
(3) ハード対策
管路施設、ポンプ施設、貯留浸透施設など、施設そのものによる浸水対策をいう。
公助と自助による対策がある。
(4) ソフト対策
維持管理・体制、情報収集・提供、施設の効率的・効果的運用、自助対策の支援な
どによる浸水対策をいう。公助と自助による対策がある。
(5) 公助
行政による浸水対策をいい、下水道管理者によるもの、他の管理者によるものおよ
び他行政機関との連携により行うハード対策およびソフト対策が含まれる。
(6) 自助
住民もしくは施設管理者等が自身の責任において浸水被害を軽減するために行う活
動をいい、止水板の設置、土のうの設置、避難活動等のハード対策およびソフト対策
が含まれる。なお本マニュアルでは、地域内の住民や施設管理者が協力し合うことに
よる浸水被害の軽減を図る活動である共助もこれに含まれる。
1-14
(14)
第2章 雨水管理計画の変遷
2.1 雨水管理計画の変遷
都市化の進展や気候変動等の自然環境の変化などに応じ,雨水管理計画策定の考え方
や雨水整備事業に関する法令・制度が改められているため,計画を策定する上では,これら
の変遷・経緯等を体系的に理解することが重要である。
【解説】
都市の健全な発達を図るため,浸水被害の防除は下水道の基本的な役割として位置づけ
られており,都市化の急速な発展による雨水流出形態の変化や地下空間の利用拡大など,
都市構造の変化に伴い,浸水被害の要因や対策のあり方・方向性も変化している。
今後も雨に強いまちづくりの実現に向け,雨水対策を推進していく必要があるが,その
ためには,雨水の排除に加えて雨水を管理する視点から整備目標や対策手法を定め,さら
に適切な財源確保による効率的な事業化が実現できる雨水管理計画を策定する必要がある。
そのため,既定計画の見直しも含む雨水管理計画の策定にあたっては,これまでの経緯
並びに最新の情報を体系的に理解することが重要である。
雨水管理計画に関する法令・事業制度および答申・報告の変遷を表 2-1 に示す。
2-1
(15)
表 2-1 雨水対策事業の変遷
年度
制法令(◆),事業制度(◇)
1900
M33年度
◆下水道法制定(「土地の清潔を保持する」こと
を目的)
1958
S33年度
1993
H5年度
答申・報告
◆新下水道法制定(「都市の健全な発達と公衆
衛生の向上に寄与する」ことを目的。合流式
下水道を前提とした都市内の浸水防除)
(重点施策)
雨水流出抑制型の下水道施設
排水設備の整備,普及を促進
流域下水道雨水幹線の事業化
1994
H6年度
-
1995
H7年度
(重点施策)
大都市等の雨水排水能力の確保
他の質的向上を図る事業
1996
H8年度
-
1997
H9年度
◇雨水流出抑制施設整備促進事業の創設
1998
H10年度
◇高度雨水情報提供システムモデル事業の創
設
1999
H11年度
◇地下街等内水対策緊急事業の創設
(H16.4.1 廃止)
2000
H12年度
◇緊急都市内浸水対策事業の創設
(H15.4.1 拡充,H16.4.1 廃止)
2002
H14年度
-
2003
H15年度
◆社会資本整備重点計画法→下水道整備緊
急措置法の廃止
◆下水道法施行令改正(雨水の貯留および浸
透について明確化)
◆特定都市河川浸水被害対策法
2004
H16年度
◆特定都市河川浸水被害対策法 施行
◇浸水被害緊急改善下水道事業の創設
2005
H17年度
◇広域的な浸水対策の推進
→雨水流域下水道の創設
2006
H18年度
◇下水道総合浸水対策緊急事業の創設
(H19.4.2 拡充,H21.4.1 廃止)
2007
H19年度
◇都市水害対策共同事業の創設
2008
H20年度
2009
H21年度
備考
福岡・東
京水害
○都市計画中央審議会(「今後の下水道の整
備と管理は,いかにあるべきか」答申)
○地下空間洪水対策研究会(「地下空間にお
ける緊急的な浸水対策の実施について」提
言)
○都市計画中央審議会下水道小委員会(「今
後の下水道制度のあり方について」報告)
○都市型水害検討委員会(都市型水害に対す
る緊急提言)
○下水道政策研究会委員会(「中長期的視点
における下水道 整備・管理の在 り方につい
て」報告)
○社会資本整備審議会下水道流域管理小委
員会(「今後の下水道整備と管理および流域
管理の在り方について」報告)
○地下街等浸水時避難計画策定手法検討委
員会
○下 水道政 策 研究 会 委員 会(下水 道 法 上の
浸水対策の位置づけを明確化)
○豪雨災害対策総合政策委員会(総合的な豪
雨災害対策についての緊急提言)
○下水道政策研究委員会浸水対策小委員会
(「都市における浸水対策の新たな展開」提
言)
◇雨に強い都市づくり支援事業の創設
(新世代下水道支援事業制度の拡充)
←雨水流出抑制施設整備促進事業へ移行
←高度雨水情報提供システムモデル事業へ移
行
◇下水道浸水被害軽減総合事業の創設
(H22 拡充)
←雨に強い都市づくり支援事業へ統合
2-2
(16)
福岡水害
東海水害
東海豪雨
新潟・福
井等水害
H17神 田
川豪雨
中国・九
州北豪雨
雨水管理計画の策定において,整備水準や対策施設規模の決定の指標として計画降雨の
確率年があげられるが,近年の降雨特性や被害特性等の変化から,確率年の設定の考え方
も変わってきている。例えば,従来の確率年は 5~10 年とすることが標準であったが,近
年は,地域の実状や費用対効果を勘案した確率年を設定することができるものとされてい
る。
また,従来では,対象地域での一律的な対策手法の採用が一般的であったが,近年は,
選択的かつ集中的な観点から,段階的な雨水整備の推進によって効率的に被害の最小化を
進める手法が求められている。
整備目標(整備水準)の考え方・提言の変遷を表 2-2 に示す。
表 2-2 整備目標(整備水準)の考え方・提言の変遷
年度
出典
内容
1959
S34 年度
下水道施設基準 1959 (社)日本
水道協会
都市の実情に応じ 3~5 年に 1 回の降雨強度を選ぶ。
1964
S39 年度
下水道施設基準 1964 (社)日本
水道協会
都市の実情に応じ 3~5 年に 1 回の降雨強度を選ぶ。
1972
S47 年度
下水道施設設計指針と解説
1972 年版 (社)日本下水道協会
確率年は、原則として 5~10 年とする。
1984
S59 年度
下水道施設設計指針と解説
1984 年版 (社)日本下水道協会
確率年は、原則として 5~10 年とする。
1994
H6 年度
下水道施設計画・設計指針と解説
1994 年版 (社)日本下水道協会
確率年は、原則として 5~10 年とする。
2001
H13 年度
下水道施設計画・設計指針と解説
2001 年版 (社)日本下水道協会
確率年は,5~10 年を標準とする。
2002
H14 年度
下水道政策研究会委員会,中期
的視点における下水道整備・管理
の在り方について(H14)
〈全国的〉
[当面]5 年に 1 度の大雨
[中長期的]少なくとも 10 年に 1 度の大雨
〈都市機能集積地区等〉
[当面]少なくとも 10 年に 1 度の大雨
[中長期的]B/C 等を考慮し,例えば 30~50 年に 1 度の大雨
2006
H18 年度
下水道都市浸水対策技術検討委
員会,下水道総合浸水対策計画
策 定マニュアル(案),H18.3,国
土 交 通 省 都 市・地 域 整 備局 下 水
道部
既往最大レベルの集中豪雨に対して緊急かつ効率的に,都市浸水に
よる被害の最小化を図ることを目的とする。
〈都市における浸水対策の基本的方向の転換〉
・「降雨(外力)」主体の目標→「人(受け手)主体の目標設定」
・地域全域で一律の整備→地区と期間を限定した整備(選択と集中)
・ハード施設のみの整備→ソフト・自助の促進による被害の最小化
下水道施設計画・設計指針と解説
2009 年版 日本下水道協会
雨水排除計画で採用する確率年は,5~10 年を標準とする。
なお,必要に応じて,地域の実状や費用対効果を勘案した確率年を設
定することができる。
〈当面の目標〉
既往最大降雨に対し,ハード整備に加え,ソフト対策と自助を組み合わ
せた総合的な対策により浸水被害の最小化を目指す。なお,ハード整
備は中期目標水準を目指す。
〈中期目標〉
[重点地区]ハード整備の中期目標水準を概ね 10 年に 1 回発生する降
雨に対する安全度の確保を基本
[一般地区] ハード整備の中期目標水準を概ね 5 年に 1 回発生する降
雨に対する安全度の確保を基本
〈長期目標〉
ハード整備に加え,ソフト対策と自助を組み合わせた総合的な対策に
より,既往最大降雨(過去に観測した最大規模の降雨量)対する浸水
被害の最小化を図る。
2009
H21 年度
※「原則として~する」:多少の例外のあるもの、「標準とする」:幅があるもの
2-3
(17)
2.2 雨水管理に関する関連計画・事業制度の整理
下水道の雨水管理計画は,河川のほか,道路等の雨水排水施設,その他関連施策等を
勘案し,流域全体での視点から必要な整合と調整を図るとともに,総合的な雨水管理体系と
して考え,内水被害防止を主眼とした計画として策定する。そして,各計画策定プロセスを経
て,適切な事業化の実現を図る。
(1) 関連計画
(2) 事業制度
【解説】
(1)について
近年の土地利用の高度化の進展や,流域状況の変化,河川・下水道の相互影響などによる
流出・氾濫形態の変化等により,今までのような河川・下水道の個別の施設計画,施設整備
だけでは効果的・効率的に浸水被害を防除できず,また,予想されない箇所で浸水被害が生
じるなどの問題が顕在化しているのが実状である。
よって,下水道の雨水管理計画は,流域界および流域面積,自然・社会条件,流域の基本
条件(計画目標や将来像)等について、河川整備状況や整備計画との整合を図り,流域全体
の浸水被害を解消していく中で,内水被害防止を主眼とした計画として策定する必要がある。
なお,特定都市河川浸水被害対策法に基づき,特定都市河川および特定都市河川流域に指定
された場合,関係する河川管理者,下水道管理者並びに都道府県および市町村の長によって,
共同して浸水被害の防止を図るための「流域水害対策計画」を策定することとなっている。
また,役割分担の明確化や整備スケジュールの調整,さらには都市域の雨水排除に関係す
る資産活用による対策コスト縮減などを図るため,河川のみならず,道路・住宅・公園等の
関連施策,開発計画・農業用排水路等と必要な整合を図り,都市づくりの視点から下水道の
雨水管理計画を策定することが肝要である。
さらに,下水道の雨水管理計画は,雨水の速やかな排水のみではなく,貯留・浸透等によ
る雨水流出抑制対策や浸水被害の最小化の観点からソフト対策を取り入れるなど,雨水管理
体系として考え,地域の浸水に対する安全度を効率的・戦略的に向上させる計画とすること
が求められる。
2-4
(18)
表 2-3 雨水管理に関する関連計画
事業区分
計画の主な概要
下 水 道
・ 下水道事業では内水被害防止を主眼とした雨水管理計画として策定する必要
がある。
・ 雨水管理計画は,住民の生命・財産および交通・通信等の都市機能を浸水か
ら守り,都市の健全な発達に寄与するという目的に立ち,地区の実状を考慮
するとともに段階的な整備目標を設定し,管きょやポンプ場の整備に加え,
雨水流出抑制手法等を積極的に取り入れるなど効率的な雨水管理計画を策
定するとともに,都市において近年頻発する集中豪雨に対して,ソフト対策
および自助の促進等を取り入れ,効果的に浸水被害の最小化を図る総合的な
計画とする。
(主な資料:下水道施設計画・設計指針と解説 (社)日本下水道
協会)
・ 管理分担基準:流域面積 2km2 未満が原則
河
川
・ 河川事業では外水被害防止を主眼とした雨水管理計画(洪水防止計画,河川
整備基本方針等)として策定する必要がある。
・ 洪水防御計画は,河川の洪水による災害を防止または軽減するため,計画基
準点において計画の基本となる洪水のハイドログラフ(以下「基本高水」と
いう。)を設定し,この基本高水に対してこの計画の目的とする洪水防御効
果が確保されるよう策定するものとする。
・ 河川整備基本方針においては,計画基準点における基本高水のピーク流量と
その河道および洪水調節施設への配分,並びに主要地点での計画高水流量を
定め,河川整備計画においては,段階的に効果を発揮するよう目標年次を定
め,一定規模の洪水の氾濫を防止し,必要に応じそれを超える洪水に対する
被害を軽減する計画とする。その際に,既存施設の有効利用やソフト施策を
重視するとともに,流域における対応を取り込むものとする。(主な資料:
河川砂防技術基準 国土交通省水管理・国土保全局)
・ 管理分担基準:流域面積 2km2 以上が原則
路
・ 道路の円滑な走行性を確保するためにも,降雨時に路面が滞水しないように
しなければならない。
・ 降雨,地下水のいずれも,その様相は現地の自然条件や地形条件等に強く依
存するものであるため,これらをよく調査・把握した上で適切な排水対策を
行うことが大切である。(主な資料:道路土工要綱 (社)日本道路協会)
開発計画
・ 開発計画は都市計画法に基づき,主として建築物の建築または特定工作物の
建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更のことである。
・ 開発計画に関係がある公共施設(道路,水路,下水道等)については,管理
することとなる者等と協議しなければならない。
・ 開発区域内の下水道に関する計画については,地方公共団体で開発指導要
綱,技術基準が定められており,これに準じる必要がある。
・ 技術基準では下水道施設の設計基準,雨水流出抑制施設の設置基準等が記さ
れている。
(主な資料:各都市の開発指導要綱および技術基準を参照し要約)
道
※下水道,河川との管理分担区分については,通達(昭和 48 年 7.5
定められている。
2-5
(19)
都下事発第 17 号,河治発第 12 号)で
(2)について
雨水対策事業に関する最新の法令・事業制度のうち,最新の主要情報を以下に示す。
① 下水道法施行令(平成 23 年 6 月 24 日)に基づく交付対象事業施設の範囲(雨水対策
関連施設)
公共下水道の施設のうち,その設置または改築が基幹事業の交付対象事業になるもの
として,管きょ等・終末処理場に加え,主要な管きょを補完するポンプ施設およびその
他の主要な補完施設が定められている。主要な管きょを補完するポンプ施設以外の主要
な補完施設としては,ます,取付管,マンホール,雨水吐,吐口,調整池,滞水池等の
施設がある。
② 下水道浸水被害軽減総合事業
地方公共団体,関係住民等が一体となって,貯留浸透施設等の流出抑制対策に加え,
内水ハザードマップの公表等の総合的な浸水対策を推進するための事業制度として,平
成 21 年度に「下水道浸水被害軽減総合事業」を創設し,平成 22 年度には本事業に「雨
に強い都市づくり支援事業」を統合している。事業実施にあたっては,対象地区の概要,
整備目標,事業内容,年度計画等を定めた「下水道浸水被害軽減総合計画」を策定する
必要がある。
③ 都市水害対策共同事業
内水氾濫対策を受け持つ下水道と洪水氾濫対策を受け持つ河川がより一層連携・共同
し,相互の施設を融通利用することにより,効率的な浸水対策を推進するため,平成 19
年度予算から実施している。
下水道の雨水貯留施設と河川の洪水調節施設を,出水特性や規模に応じて融通利用す
るため,過去 10 年間に当該地区または近傍の地区において,下水道の事業計画または
河川の整備計画で対象とする降雨を上回る降雨により浸水被害が発生している地域を
対象として,相互の施設をネットワーク化するための管きょ,ポンプ施設等を設置する
ものである。
④ 雨水貯留施設の事業連携
国土交通省では,雨水の貯留浸透について,関係部局が連絡調整を綿密に行いながら
事業連携を積極的に推進することとし,浸水被害が頻発する市街地等において,下水道,
道路,公園等の雨水貯留浸透施設を一体的かつ計画的に整備する仕組みづくりの一環と
して,下水道,道路,公園,河川,住宅・建築等の関係部局の連名により,平成 19 年 3
月 30 日付けで雨水貯留浸透の推進(事業連携の強化)についての通知文書を発出して
おり,市町村が各事業における雨水貯留浸透施設を一体的に進めるにあたり,所管事業
において必要な事業実施および支援設置を講じることとしている。
貯留浸透の積極的な取り組みにあたっては,国土交通省として,下水道浸水被害軽減
総合事業のみならず通常の下水道事業や新世代下水道支援事業制度により支援するこ
ととしている。
2-6
(20)
表 2-4 雨水管理に関する事業制度
事業制度
対象施設
参考とする主な
指針・手引き
① 下水道法施行令
(H23.6.24)に基
づく交付対象事業
施設の範囲(雨水
対策関連施設)
公共下水道の施設のうち,その設置または改築が
基幹事業の交付対象事業になるものとして,管き
ょ等・終末処理場に加え,主要な管きょを補完す
るポンプ施設およびその他の主要な補完施設
「下水道施設計
画・設計指針と解説
※2
」等
② 下水道浸水被害軽
減総合事業
ハード対策については、①の施設整備に加えて、
貯留・排水施設、雨水浸透施設、透水性舗装、貯
留浸透機能を有する下水道施設、浄化槽の改造
ソフト対策については、降雨情報提供施設、防水
ゲート、止水板、逆流防止施設、内水ハザードマ
ップ
「下水道総合浸水
対策計画策定マニ
ュアル(案)※3,
H18.3」等
③ 都市水害対策共同
事業
ネットワーク化施設、その他下水道・河川共同で
施設を利用するために必要な施設
「雨水ポンプ場ネ
ットワーク計画策
定マニュアル※4,
2008.3」等
雨水貯留浸透施設
「雨水浸透施設の
整備促進に関する
手引き(案)※5,
H22.4」等
④ 雨水貯留浸透の事
業連携(H19.3.30
通知)※ 1
「下水道事業の手引き 平成 23 年版」を参照し、作成
※1 都市における安全の観点からの雨水貯留浸透の推進について(平成 19.3.30 国営整第 156 号,国土政第
238,国都事第 22 号,国都市第 415 号,国都街第 85 号,国都公緑第 242 号,国都下事第 339 号,国河
治第 211 号,国道地環第 46 号,国住備第 179 号,国住街第 255 号)
※2 下水道施設計画・設計指針と解説 (社)日本下水道協会
※3 下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案) 平成 18 年 3 月 国土交通省都市・地域整備局下水道部
※4 雨水ポンプ場ネットワーク計画策定マニュアル 2008 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
※5 雨水浸透施設の整備促進に関する手引き(案) 平成 22 年 4 月 国土交通省都市・地域整備局下水道部 国
土交通省河川局治水課
2-7
(21)
2.3 雨水管理計画に関する主な指針、マニュアル等
下水道の雨水管理計画は,既存の指針,マニュアル等を十分に把握して策定する。
【解説】
浸水の防除をはじめとした雨水管理は,下水道の根幹的な役割であり,様々な観点での
指針やマニュアルが整備されている。雨水管理計画の策定にあたっては,既存の指針やマ
ニュアル等を十分に把握した上で,検討を行うものとする。
雨水管理計画に関する主な指針,マニュアル等を表 2-5 に示す。
表 2-5 雨水管理計画に関わる主な指針,マニュアル等
No
指針,手引き,マニュアル
発行年月
作成,発行,発刊 ※
1
下水道雨水調整池技術基準(案)解説と計算例
1984年
社団法人 日本下水道協会
2
下水道施設計画・設計指針と解説 2009 年版
2009年
社団法人 日本下水道協会
3
下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案)
平成18年3月
4
内水ハザードマップ作成の手引き(案)
平成18年3月
5
内水ハザードマップ作成の手引き(案)
平成21年3月
6
雨水浸透施設の整備促進に関する手引き(案)
平成22年4月
国土交通省
道部
国土交通省
道部
国土交通省
道部
国土交通省
道部
国土交通省
都市・地域整備局下水
都市・地域整備局下水
都市・地域整備局下水
都市・地域整備局下水
河川局治水課
7
総合的な都市雨水対策計画の手引き(案)
1998年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
8
流出解析モデル利活用マニュアル
1999年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
9
下水道雨水浸透技術マニュアル
2001年6月
財団法人 下水道新技術推進機構
10 流出解析モデル利活用マニュアル
2003年6月
財団法人 下水道新技術推進機構
11 プレキャスト式雨水地下貯留施設技術マニュアル
2004年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
2006年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
2007年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
14 雨水ポンプ場ネットワーク設備技術マニュアル
2008年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
15 雨水ポンプ場ネットワーク計画策定マニュアル
2008年3月
財団法人 下水道新技術推進機構
流出解析モデル利活用マニュアル(雨水対策におけ
る流出解析モデルの運用手引き)
小規模雨水貯留浸透・排水配管システム技術マニュ
13
アル
12
16 地下空間における浸水対策ガイドライン
平成14年3月
財団法人 日本建築防災協会
17 地下街等浸水時避難計画策定の手引き(案)
平成16年5月
財団法人 日本建築防災協会
18 雨水浸透施設技術指針(案) 調査・計画編
平成7年9月
19 増補改訂 雨水浸透施設技術指針(案) 調査・計画編 平成18年9月
20
宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指
平成10年2月
針の解説
社団法人 雨水貯留浸透技術協会
社団法人 雨水貯留浸透技術協会
社団法人 日本宅地開発協会
21 下水道雨水排水計画策定マニュアル
平成12年3月
社団法人全国上下水道コンサルタ
ント協会 技術委員会業務拡大部会
22 流域貯留施設等技術指針(案) 増補改訂
平成19年4月
社団法人 雨水貯留浸透技術協会
※ 発刊当時の発行者名
2-8
(22)
第3章 下水道雨水基本構想
3.1 構想の必要性
下水道の雨水整備は,浸水被害が生じた際に事後的な対応として検討される場合も少な
くない。また,浸水実績や浸水危険度と実際の整備状況が一致していないような事業の進め
方になっている場合もある。このような課題を解消するため,下水道管理者が対策地域内の
どのエリアに対し,どのレベルの対策を,いつまでに進めていけば良いかを総攬できる雨水
対策の全体像として下水道雨水基本構想が必要である。
【解説】
1) 背 景
下水道事業における雨水計画は,整備区域を一律の整備水準で整備を進めることとして
きたが,近年では「下水道浸水被害軽減総合事業」などにより,雨水整備の優先度が高い
地域を中心に「選択と集中」と言う観点で浸水対策を進めてきている。
ただし,この「選択と集中」という観点からの雨水整備は,整備区域内の浸水被害が大
きい地区(重点地区)に対してのみ進められているものである。
そのため,現時点では,例えば浸水が発生していない市街化区域や市街化調整区域の整
備水準の設定や整備優先順位の設定など行政区域全体の「選択と集中」という観点からの
雨水整備の方針は明確になっていない場合が多い。
2) 構想の目的と位置づけ
下水道雨水基本構想は,既存の内水ハザードマップや浸水想定区域図,浸水被害実績等
の基礎資料を踏まえ,行政区域全体の雨水管理に関する基本方針を明確にすることを目的
として作成する。
下水道雨水基本構想では,下記の3つの基本方針を設定するものとする。
●
地域の実状(被害状況,地形等)に応じた適切かつ段階的な雨水整備目標
●
緊急性やリスク等を考慮した整備優先順位に基づく段階整備方針
●
多様な対策手法の組み合わせによる整備方法
したがって,下水道雨水基本構想は,下水道全体計画,下水道事業計画の前段に位置づ
けられるものであり,雨水管理計画の中に,下水道雨水基本構想,下水道全体計画,下水
道事業計画が含まれるものである。
3) 検討対象範囲
下水道雨水基本構想の対象範囲は,行政区域全体を基本とする。つまり,下水道計画区
域外であっても「他部局(他事業)で整備する区域」,「浸水実績及び浸水が想定されない
ため整備対象外とする区域」など,下水道計画区域以外の区域に対する雨水整備の基本方
針を整理する。
3-1
(23)
4) アウトプット
下水道雨水基本構想は,対象地域の雨水整備の全体像を示すものとする。基本構想のア
ウトプットは,浸水被害状況や人口,産業の集積状況,重要施設等の配置等から分割した
地区ごとの「雨水整備目標」,「段階的整備方針(整備優先順位)」,「概略の雨水整備方法」
とする。
5) 整備目標年
段階的整備計画における目標年の目安は以下のとおりとする。
「当面」
5 年程度
「中期」
10 年程度
「長期」
整備完了年
6) 下水道雨水基本構想のイメージ
図 3-1 に下水道雨水基本構想のイメージを示す。
基礎情報
・ 降雨規模別浸水被害実績図
・ 内水ハザードマップ
・ 浸水発生時のリスク
・ 地域防災計画 など
河川計画
・ 放流規制
・ ポンプ運転調整
など
下水道雨水基本構想
・ 地域の実状に合った雨水整備目標
・ 整備優先順位に基づく段階整備方針の設
定
・ 地域に応じた整備方法の検討(ハード
対策・ソフト対策)
・ 整備水準主義ではなく被害最小化を目的
構想にしたがった事業展開
図 3-1 雨水基本構想イメージ
3-2
(24)
財政状況
・ 予算計画
・ 自治体の予算配分
など
3.2 構想の成果
下水道雨水基本構想を検討することにより,以下の成果を得ることができる。
(1) 地区ごとの課題の明確化(浸水常襲地区の地形的問題や放流規制による制約等)
(2) 地区に応じた適切なかつ段階的な雨水整備目標
(3) 地区に応じた雨水整備方法と段階整備方針(整備優先順位)
(4) 下水道雨水基本構想マップ
(5) 行政内部の認識共有資料
【解説】
下水道雨水基本構想は,対象地域の雨水整備の全体像を示すものである。構想策定プロ
セスでは,地区ごとの実態を詳細かつ正確に把握し,課題をよりリアルに浮き彫りにする
ことが出発点となる。課題を良く把握することで今後何をすべきかが自ずと明確になり,
戦略的な雨水管理方針を定めることができる。
(1)について
個別の地区ごとに雨水対策上どのような課題があり,どのような対策が求められている
のかを明確にすることは雨水整備を行う上で最も基本的な情報であり,対策の迅速化,目
的意識の共有化に効果的である。
(2)について
雨水整備の目標水準は,下水道雨水基本構想の対象区域内で一律である必要はない。当
面は,緊急的に雨水整備を行う地区(重点地区)に対して,地域の実状を鑑み必要に応じ
て他の地区よりも高い雨水整備目標とし,浸水被害の早期軽減・解消を図るものとする。
当面の目標設定においては,被害発生確率の大小,浸水被害が生じた場合の規模やリス
ク,浸水要因分析結果等を参考に検討する。このような目標設定により,戦略的,積極的
に雨水整備対策を進めることが可能となる。
中・長期の目標設定では,対象区域全体に対して一律の雨水整備水準を確保するように
事業を進める方針とする。
(3)について
上記目標に対しどのような対策の組み合わせによる整備方法が妥当なのかを検討する
とともに,どのような優先順位および整備スケジュールで事業を推進していくべきか,段
階整備方針を明確にし,雨水基本構想としてとりまとめる。
この検討段階においては,必要コスト,予算の引き当て方法についても概略想定し,事
業の実現可能性を概略評価しておく。
3-3
(25)
(4)について
当面,中期,長期の各段階における雨水整備計画について,細分化された地区ごとにど
のような方針で整備すべきかを分かり易く図化したものが下水道雨水基本構想マップであ
る。下水道雨水基本構想マップは,雨水対策を検討する際の基本的な方向性を示すもので
あり,雨水整備事業の進捗や社会情勢に合わせ適宜更新を行う。
(5)について
下水道雨水基本構想マップを作成することにより,雨水対策について下水道部局と関係
各署間での内水被害についての共通認識を持つことが可能となる。
雨水整備方針の全体像を図化することで,行政内部での問題認識共有資料として広く活
用することができる。
3-4
(26)
3.3 構想の検討項目と検討フロー
下水道雨水基本構想の検討項目は以下のとおりとする。
(1) 基礎調査
(2) 浸水被害の想定
(3) 浸水要因分析と地域ごとの課題整理
(4) 地域ごとの雨水整備目標設定
(5) 対策検討
(6) 段階的整備方針
(7) 下水道雨水基本構想マップ作成
【解説】
下水道雨水基本構想策定は,以下に示すフローにしたがって検討する。
START
(1)基礎調査
・地形・地勢
・流域界
・河川計画
・内水ハザードマップ
・水文(降雨量,外水位)
・排水施設(整備状況)
・浸水実態
・浸水リスクマップ など
浸水再現・確認
(2)浸水被害の想定
・降雨規制別の浸水被害想定図
(3)浸水要因分析と地域ごとの課題整理
(4)地域ごとの雨水整備目標設定
・当面,中期,長期の雨水整備水準等
(5)対策検討
・整備方法(ハード対策,ソフト対策の組合わせ)
対策効果確認
(6)段階的整備方針
・整備優先順位
・予算の見通し,B/C 検討
(7)下水道雨水基本構想マップ作成
図 3-2 下水道雨水基本構想検討フロー
3-5
(27)
(1)について
下水道雨水基本構想を検討する上で必要となる基本情報を収集・整理する。
① 地形・地勢
② 降雨量,外水位
③ 既存雨水排水施設の状況
④ 既存雨水整備計画資料
⑤ 河川計画関連資料(河川改修計画,放流規制,ポンプ運転調整など)
⑥ ライフラインの状況
⑦ 地下空間の利用状況
⑧ 地域防災計画
⑨ 雨水浸透適地の状況
⑩ 浸水被害実績
⑪ 人口・資産等の分布状況
⑫ 浸水被害想定区域図,内水ハザードマップ,洪水想定区域図,洪水ハザードマッ
プ,防災マップ
など
(2)について
対象流域内において浸水被害の発生しやすい地域,発生した場合の被害規模,被害内容
について浸水実績資料や解析等を用いて想定する。浸水および浸水による被害の実績は,
過去 10 年程度を目安とし,雨水整備の進捗も考慮して整理する。また,モデル検討を行
う場合には,過去の浸水被害実績等の既存資料を参考に再現性を確認する。
(3)について
浸水被害実績と被害想定検討結果を整理し,浸水被害と降雨との関係,地形,雨水管網
の整備状況,制約条件(放流規制等)から浸水要因を分析する。これと人口や産業の集積状
況,重要施設の配置等を勘案し,
「生命の保護」,
「都市機能の確保」,
「個人財産の保護」の
観点から対象区域を,同等の浸水被害ポテンシャルを有する地区に分割する。また,分割
した地区ごとに雨水管理に関する課題を整理する。
(4)について
(3)で整理した地区ごとの特性に応じた当面,中期,長期の雨水整備目標を設定する。
各地区の実状(被害状況,地形等)を勘案し,浸水被害が大きく,緊急性が高い地区につ
いては他の地区よりも高い雨水整備目標とするなど,地域の実状に見合った適切な雨水整
備目標を設定する。浸水被害が過去になく被害が想定されない地域では,当面は施設整備
は行わないという選択もある。
(5)について
対策は,当面,中期,長期の3段階に分けて検討し,各段階の対策が完了した上で次の
段階へと進むこととし,流域全体に対する投資バランス,効果の早期発現に配慮する。
3-6
(28)
当面の対策は,必ず実施すべきものであり,中・長期はその時点で投資可能な予算を考
慮し適宜実施するものである。対策手法及び効果検証は,従来手法だけでなくシミュレー
ションモデルを用いた検討手法も取り入れる方法もある。
また,放流先河川から下水道の雨水排水施設整備に対して制約を受ける場合,上記の検
討によって設定された計画目標を踏まえて,河川計画等と整合・調整を図ることが望まし
い。
限られた予算の中で着実に事業を推進していくためには,貯留・浸透対策といった流出
抑制対策の取り組みや導入も重要となる。
特に浸透施設は,一般には計画の内数として見込まず,プラスアルファの効果として計
画の外数として見込むことに留まる例がほとんどであるが,積極的に設置推進するために
は,構想の段階から流出抑制を考慮に入れた雨水整備計画を検討することが望ましい。
(6)について
地区ごとの当面および中・長期の雨水整備目標から,各段階に応じた整備優先順位を設
定する。
地区に応じた雨水整備目標例を表 3-1 に示す。現況の整備状況,浸水被害発生状況等の
地域事情を踏まえ,どの対策を当面の目標に設定するかを検討する。
表 3-1 地区に応じた雨水整備目標例
雨水整備目標
①
浸水常襲地域対応
②
超過降雨対応
③
地下街対策
④
例.5 年確率降雨対応
⑤
放流規制対応
⑥
例.10 年確率降雨対応
局所整備
(重要地区)
一律整備
(区域全域)
表 3-2 地区に応じた雨水整備スケジュール設定例
当面
中期
整備
地区名
整備目標
優先
長期
整備
整備
整備目標
順位
優先
整備目標
順位
優先
順位
A
④
5
④
5
⑥
5
B
②
4
④
2
⑥
4
C
①
1
④
1
⑥
3
D
⑤
3
⑥
4
⑥
2
E
③
2
⑥
3
⑥
1
3-7
(29)
当面,中期における対策と長期(最終段階)における対策は,管網の接続,下流の流下能
力,対策施設の有効利用等において矛盾を生じないよう整合を図るよう留意する。
例えば,上流域で超過降雨対応を実施した結果,将来計画時に下流域で浸水が生じたり,
下流側管渠能力が不足したりすることのないように配慮しなければならない。
また,大規模幹線は,最終の整備完了まで期間を要し,早期に効果が発現できないため,
早期に工事完了できる区間を先行的に整備し,重点地区対策地区の排水系統を接続し,暫
定的な貯留管として活用することで,当該地区や下流域の浸水被害の軽減を図るなどが挙
げられる。将来的に全区間工事完了した際には,対象区域全体の浸水被害の軽減に効果を
発揮できるように考慮する。
(7)について
上記の検討を踏まえて,当面,中期,長期における地区別の雨水整備目標,段階整備方
針(整備優先順位等),雨水整備方法を示した雨水基本構想マップとしてとりまとめる。図
3-3,図 3-4 に作成例を示す。
なお,下水道雨水基本構想の策定後は,具体的な施設計画(全体計画,事業認可計画)
の策定を行うこととなる。
3-8
(30)
現 状
B 地区
B-①
下水道計画区域外で豪雨時
の局所浸水実績有り
B-②
下水道計画区域内で豪雨時
の局所浸水実績有り
A 地区
A-①
高台 で浸 水被 害実 績, 将来
想定無し
A-②
浸水 被害 実績 は無 いが 重要
施設が複数有り
C 地区
C-①,②
浸水常襲地域有り
E 地区
E-①
1/5 で整備済みだが,一部浸
水被害有り
E-②
1/5 で整備済みだが,地下街
等の重要施設複数有り
D 地区
D-①
1/5 確率で整備済み
D-②
1/5 確率で整備済みだが,一
部放流規制による浸水実績
有り
全体像
(当面)
(当面)
(当面)
(当面)
図 3-3 下水道雨水基本構想マップ作成(例)
3-9
(31)
当 面
(5年程度)
地区の特性に応じた浸
水被害軽減対策を実施
局所的,あるいは超過降
雨対策が中心
地
区
名
A
整備済み
状況
未整備
当面(5 年程度)の整備計画
整備対象
優先順位
(整備予定年)
整備水準
主な整備方法
概算事業費
A-②
5
(H**年度)
1/5
(局所対策)
管きょ整備
ハザードマップ等ソ
フト対策
約**百万円
(1/10)
(局所対策)
管きょ整備
(一部道路事業との
連携)
約**百万円
B
未整備
局所対策
4
(H**年度)
C
未整備
浸水常襲
エリア
1
(H**年度)
(1/5)
(局所対策)
管きょ整備
約**百万円
D
1/5 整備
放流規制
対応
3
(H**年度)
(1/10)
(局所対策)
管きょ,ポンプ場,
貯留施設整備
約**百万円
E
1/5 整備
地下街
対策
2
(H**年度)
(1/10)
(局所対策)
管きょ,貯留施設整備
ハザードマップ等ソ
フト対策
約**百万円
図 3-4(1) 下水道雨水基本構想 段階整備方針(例)
3-10
(32)
中 期
(10 年程度)
長期対策に向けた段階
的な整備水準向上対策
を実施
地
区
名
整備済み
状況
A
中期(10 年程度)の整備計画
整備対象
優先順位
(整備予定年)
整備水準
一部
1/5 整備
A-①
5
(H**年度)
1/5
管きょ整備
約**百万円
B
未整備
(局所 1/10)
B-②
2
(H**年度)
1/5
管きょ整備
約**百万円
C
未整備
(局所 1/10)
全域
1
(H**年度)
1/5
管きょ整備
約**百万円
D
1/5 整備
(局所 1/10)
D-②
4
(H**年度)
1/10
管きょ,貯留施設整備
ハザードマップ等ソ
フト対策
約**百万円
E
1/5 整備
(局所 1/10)
E-②
3
(H**年度)
1/10
管きょ,貯留施設整備
約**百万円
主な整備方法
図 3-4(2) 下水道雨水基本構想 段階整備方針(例)
3-11
(33)
概算事業費
長 期
(整備完了時)
下水道計画区域内は一
律 10 年確率で整備
下水道計画区域外地区
は局所対策のみ
地
区
名
整備済み
状況
A
長期(整備完了時)の整備計画
整備対象
優先順位
(整備予定年)
整備水準
1/5 整備
全域
5
(H**年度)
1/10
管きょ整備
約**百万円
B
1/5 整備
B-②
4
(H**年度)
1/10
管きょ整備
約**百万円
C
1/5 整備
全域
3
(H**年度)
1/10
管きょ整備
約**百万円
D
1/5 整備
(一部 1/10)
D-①
2
(H**年度)
1/10
管きょ,貯留施設整備
ハザードマップ等ソ
フト対策
約**百万円
E
1/5 整備
(一部 1/10)
E-①
1
(H**年度)
1/10
管きょ,貯留施設整備
約**百万円
主な整備方法
図 3-4(3) 下水道雨水基本構想 段階整備方針(例)
3-12
(34)
概算事業費
第4章 基礎調査
4.1総
説
基礎調査は,雨水整備の計画策定にあたっての基礎となるものである。
調査にあたっては,目的・用途に応じて,必要となる資料の収集・調査を行う必要がある。
【解説】
基礎調査は,雨水整備の計画策定にあたっての基礎となる調査であり,調査項目および
調査内容が,以後の解析手法・下水道施設の能力評価の精度や,整備方法および整備計画
の決定に大きく影響するため適切に実施する必要がある。
計画にあたっては,対象区域の地勢,地形,気候条件,各種統計資料や既存施設,既計
画などを十分に把握し,検討を進める必要がある。また,既に雨水計画に基づき整備を進
めている地域にあっても,浸水発生頻度が高い地域や,過去に大規模な浸水被害の発生し
た地域では,必要に応じた計画諸元の見直しや,シミュレーションを活用した施設計画の
確認や見直しも必要である。
したがって,雨水整備状況と浸水発生の関連性を鑑み,目的・用途に応じた基礎調査と
することが大切である。
4.1.1 基礎調査体系
基礎調査は広範囲に及ぶために,目的・用途に応じた調査内容で段階的に実施する。
調査レベル:概略調査,詳細調査
調査事項の分類:水文調査,流域内調査,浸水実態調査
【解説】
浸水現象は,自然現象に伴う降雨と,流域内の地表面状態(不浸透域率・地表面勾配・
低地部や窪地等)と,流域内に張り巡らされた排水路(規模・形態等)によって複雑な出
水形態を経て起こるものである。したがって,広範囲の基礎調査が必要となるため,目的・
用途に応じた調査内容で段階的に実施する。
基礎調査は,地形特性と浸水特性の把握に重点を置いた「概略調査」を行ったうえで,
目的に応じた調査事項を抽出した「詳細調査」の順で実施する必要がある。
概略調査は,対象区域の概要や浸水特性の把握を主眼においたもので,基本構想・基本
計画などへの利用を想定している。詳細調査は,解析や施設計画策定など,事業実施に向
けた詳細検討への利用を想定している。
概略調査における地形特性の把握では,流域全体の地形勾配や大規模な低地部,排水区
界,排水系等について調査する。また,浸水特性の把握では,浸水履歴を中心に調査する。
なお,浸水特性(発生場所や時期等)は,区域内での排水施設や開発施設の整備状況(位
置や規模等)によって,時系列的な不連続性をもたらすことがある。このため,浸水区域
4-1
(35)
の変遷を,区域内の河川整備,下水道整備,その他の開発に伴う整備に関連させて時系列
的に整理・把握しておくと良い。
その後,調査目的が明確になった時点で「詳細調査」として必要に応じて追加調査する
(「4.2 水文調査」~「4.4 浸水実態調査」を参照)。
なお,データ整理は,地形特性の把握だけではなく,以降の解析においても利用可能で
あることを考慮すると,GIS(Geographic Information System)を利用するなど,出来
る限り電子情報化することが望ましい。
表 4-1 に調査事項に応じた内容とその調査目的を整理する。
4-2
(36)
分
類
水文調査
流 域内 調 査
4-3
(37)
同左
同左
地形図
地下街等の位置,規模
○
○
同左
同左
資産分布
浸水被害規模
(過去 20 年程度)
同左
発生年月日
浸水被害戸数(床上,床下)
○
○
道路冠水
治水経済調査
○
同左
○
浸水時間
○
○
○
○
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
整備目標
最大浸水深
〃
同左
地形区分による概略調査
浸透適地
最大浸水面積
同左
△
○
同左
各種台帳
○
対象区域の
概要把握
同左
都市施設(重要施設)
地域防災計画
等配置
河川計画(現況・計画)
河川流域界
地形・流域界・排水施
排水区界
設・河川
下水道計画図
時系列データ
最大値
外水位
時系列データ
最大値
水位・流量
時系列データ
詳細
最大値
基礎調査区分
概略
(地域特性,浸水特性の把握)
降雨量
調査事項
表 4-1 基礎調査の概要
○
○
○
○
△
◎
○
◎
○
○
○
○
◎
◎
◎
△
◎
○
◎
○
○
○
○
○
目的・用途
既存施設の
解析手法
能力評価
○
○
○
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
施設計画
注1)○:原則として必要。うち,◎は,特に詳細な資料(データ)が必要な項目。必要に応じた現地調査により補足することが必要。
注2)△:目的,内容に応じて適用を判断する項目。
浸 水実 態 調 査
○
○
○
○
○
○
○
○
投資効果の
把握
[参考] 浸水履歴の整理例
作成例) ○○市の浸水履歴(調書)
浸水発生
降雨量
X 年○月○日
X 年○月○日
(台風○号)
Y 年○月○日
Z 年○月○日
Z 年○月○日
(台風○号)
(台風○号)
(台風○号)
○mm
○mm
○mm
○mm
○mm
△mm/hr
△mm/hr
△mm/hr
△mm/hr
△mm/hr
○○地区
○○地区
○○地区
○○地区
○○地区
面積:約○ha
面積:約○ha
面積:約○ha
面積:約○ha
面積:約○ha
写真あり
被害調書あり
被害調書あり
住民聞取り
写真あり
床上浸水○戸
床上浸水○戸
床上浸水○戸
床上浸水○戸
床上浸水○戸
床下浸水△戸
床下浸水△戸
床下浸水△戸
床下浸水△戸
床下浸水△戸
浸水原因
河川外水位
河川外水位
排水路能力不
(推定)
(内水型)
(内水型)
足(溢水型)
浸水規模
被害規模
排水路能力不
不明
足(溢水型)
河川改修
整備状況
x年○月○日
x年○月○日
雨水幹線整備
x年○月○日
x年○月○日
調整池設置
x年○月○日
開発状況
○幹線道路完 (下水道雨水
成
事業着手)
作成例) ○○市の浸水履歴(図面)
Z 年○月○日(台風○号)
<ベース図面>
縮 尺:1/10,000~2,500
地形図:「できるだけ当時のもの」または「下水道一般図」
<地形>
・地形図,電子データ,数値地図,DM等を活用
<浸水概要>
・浸水区域をプロット(降雨ごとに色分け)
<排水路整備状況>
・排水関連施設の整備済み区間をプロット
<開発状況>
・整備済みの開発区域,路線等をプロット
・地下街等の位置
4-4
(38)
x年○月○日
○○団地完成
4.1.2 調査フロー
基礎調査は,調査項目が広範囲にかつ調査内容が詳細に及ぶことから,既存資料の確
認・整理を十分行った上で,必要に応じて現地調査を実施する。
【解説】
雨水排水計画区域内では,下水道排水施設に加え,管理者の異なる河川や各種排水路,
農業用排水路などを含めた水系単位での現況把握と,それぞれの整備進捗状況の把握が重
要である。また,調査範囲が広範囲となることから,調査区分(概略・詳細)に関わらず,
既存資料を最大限活用した調査方法とする。また,必要に応じて現地調査を行い,不足内
容の追加を行うものとする。
図 4-1 に基礎調査フローを示す。また,調査事項ごとの既存資料の名称・内容などを表
4-2 に示す。
START
目的・用途の確認
資料収集
(概略・詳細共通)
概略調査
詳細調査
対象区域の概要把握
解析・計画策定など
内容確認
(水文,流域,浸水実態)
内容確認
(水文,流域,浸水実態)
計画検討に
十分か
現地調査(測量・観測)
データの整理(水文,流域,浸水実態)
END
図 4-1 基礎調査フロー
4-5
(39)
[参考] 収集の整理方法について
水文調査,流域状況調査,浸水実態調査については,図面(写真含む)と調書(流量計算書
含む)で整理しておく。
特に,流域状況や浸水状況の調査では,多くの関連図書(資料)が管理部署ごとに保管され
ている場合が多く,収集には多大な時間を要するものである。
したがって,効率的かつ重点的な収集整理を行うには,資料の特徴区分や目的・用途に応じ
た整理を行う。
<収集整理の工夫例>
① 調査項目ごとに「既存資料リスト表」などを作成しておく。
リスト記載内容 : 資料名,保管場所,形態(紙 or 電子データ等),調査の年次や対象範囲,
内容項目等
② 既存の「雨水排水計画平面図」または「下水道台帳」を活用して,整備状況や浸水区域情
報を図面上に整理する。
図面記載内容
: 下水道雨水排水施設の整備(着色),農業水路(用水,排水の色分け),
浸水常襲区域(区域,周辺の等高線(コンター線))等
③ 上記②の図面作成に併せて,排水区の各種情報を調書として整理する。
調書整理内容
: 排水区名,排水区界と面積(計画,現況),浸水常襲区域情報(位置・区
域名称,生起年,区域界,写真の有無等),下水道雨水排水施設の整備状
況(着色),農業水路(用水,排水の色分け)等
④ 解析などでの使用を考慮し,電子データで整理することを基本とする。
電子データなどの活用:
・帳票:スプレッドシート(Excel 等),データベース,ワープロソフト等
・地図:GIS,台帳管理ソフト,市販地理データベース等
・現地写真や映像:デジタルカメラ・ビデオ等
4-6
(40)
分類
水 文調 査
流 域内 調 査
浸 水実 態 調 査
4-7
(41)
河川管理者保管データ
河川断面(現況・計画)
河川計画流量(現況・計画)
許容放流量
低地部(周辺地盤に対し)
河川計画
資産分布
浸水被害規模
被害規模
浸水状況
浸透域,不浸透域
地形図 1/2,500 程度
市販デジタルマップ
開発計画図
床下浸水(敷地内)戸数
床上浸水戸数
家屋資産額,事業所償却・在庫資産額,
農作物資産額等
治水経済調査等
当時の地形図,写真等
生起年月日,浸水地点(区域),最大浸水域,
浸水深,浸水時間
水防記録等(自治体,消防他)
排水系統ごとの比率(浸透能力マップとし
て地形図 1/2,500 程度に整理)
緊急交通路,防災拠点,災害時医療拠点,
地域防災計画,ハザードマップ
要援護者施設
地形図(白図,数値地図,DM 等)
道路台帳
各種地盤高低図
10~20cm ピッチ
(地形図(コンター図)に範囲を図示)
排水施設の系統,規模
費用便益
氾濫解析のキャリブ
レーション
流出係数
地表面流出モデル
施設計画(緊急度,優先
度等)
施設計画
浸水解析(H-S 曲線)
流量計算
地表面流出モデル
管内水理モデル
地形図(白図,数値地図,DM 等)
土木管内図(河川)
下水道区画割施設平面図(基本・認可計画)
下水道流量計算書(基本・認可計画)
下水道台帳(雨水,汚水)
圃場整備計画図(農業用排水路)
道路側溝
下水道雨水きょ
農業用排水路等
流出解析モデルのキ
ャリブレーション
実績ハイエトグラフ
確率降雨強度式
設計ハイエトグラフ
主な適用項目先
施設の所管先(管理事務所など)保管データ
維持管理記録・台帳
名
河川流域界
排水区界
都市施設(重要施設)等配置
地形・流域界・
排水施設・河
川
料
気象統計情報(気象庁)
その他自治体保管データ
資
流域界
放流先の外水位
外水位
10 分ピッチ
時系列降雨(浸水実績降雨)
ポンプ場稼動記録
排水路内の最大水位
10 分,1,12,24,48 時間等
容
降雨記録(20 年間以上)
内
水位・流量
降雨量
調査事項
表 4-2 既存資料から得られる調査項目と内容
4.2 水文調査
水文調査は,降雨確率年の照査や浸水解析が行えるように,以下について調査を行う。
(1) 降雨量
(2) 水位・流量
(3) 外水位
【解説】
「概略調査」にあっては N 年確率の降雨強度式の算定や,最大雨水流出量の算定を合理
式で行うことから各種数値は最大値とする。また,「詳細調査」にあっては N 年確率のハ
イエトグラフや不定流解析が行えるように時系列データの入手に努める。
表 4-3 水文調査の項目
調査区分
概略調査
詳細調査
(1)降雨量
毎年・非毎年最大値
・気象庁統計情報
浸水時の実績ハイエト
・気象庁統計情報
(2)水位・流量
最大水位
・排水路内
・吐口
ハイドロ,連続水位
・排水路内
・吐口
・ポンプ場
(3)外水位
最大水位
・放流先の外水位
浸水時の連続水位
・放流先の外水位
(1)について
降雨量のデータは,雨水管理計画を策定するための基礎データとなる。降雨量データは,
計画降雨等を設定する上で使用する「毎年・非毎年最大降雨データ」と,浸水特性や浸水
原因の把握,浸水シミュレーション等に使用する「時系列降雨データ」に大別される。降
雨量データの収集は,利用目的に応じて種類と期間を選定し実施する。
① 毎年・非毎年最大降雨データ
降雨量の毎年・非毎年最大データは,気象庁で観測・整理された資料(気象統計情報な
ど)を用いることができる。また,確率降雨強度算定に用いた統計期間が古い場合には,
最新のデータを追加するよりも既存資料(気象庁データ)で再整理する方が効率的な場合
があるので,対象とする年数を十分検討したうえで実施する。
<短時間および長時間降雨強度の資料の収集>
降雨継続時間 10 分,1 時間,12 時間,24 時間の毎年データを収集する。
データ収集期間は,少なくとも 20 年以上(できれば 40 から 50 年分)とする。
4-8
(42)
② 時系列降雨データ
過去に浸水を生じさせた降雨と,これに伴う流出量の把握が必要であるため,時系列で
記録・整理された資料(ポンプ場流入データ等)を調査する。
降雨の時系列データは,近傍に信頼できる観測施設を有する機関があれば,このデータ
を用いる。また,近傍に有効なデータが存在しない場合,公開されている気象統計情報(気
象庁)を入手し,これを用いる事も出来る。
なお,入手に際しては,既存資料で排水路流量や水位が時系列的に整理され,かつ解析
対象とする降雨を対象に収集する。
●
ポンプ場・処理場や,河川管理事務所等,近傍で観測された降雨情報
●
気象統計情報(気象庁)
(2)について
計画区域内の水位・流量データは,観測所などの既存資料の収集を行うとともに,必要
に応じて実測調査を行うものとする。
計画区域内の水位・流量データは,利用目的に応じた降雨時のものを収集する。計画区
域内での水位・流量データは,排水路やポンプ施設で観測されたものを用いることも可能
である。
ただし,排水路では水位・流量とも連続的に観測されていることは稀であり,関連調査
などで行われた観測結果の調査を行うとともに,資料に不足のある場合や解析上の必要性
などに応じて,実測調査を行う。
<既存資料例>
●
ポンプ場の稼動記録
●
排水路の水位観測記録
●
各種調査報告書(観測結果)
●
出水時の痕跡水位(排水路壁)
●
その他(写真,付近住民への聞取り)
実測調査にあたっては,晴天時・雨天時ともに適切な調査結果を得るため,次の様な項
目について検討し実施する。なお,実測調査の手法など,詳細については「流出解析モデ
ル利活用マニュアル」に整理されているので参照されたい。
① 調査計画
② 調査期間
③ 測定地点の選定
④ 降雨量の測定方法
⑤ 流量,水位,流速の測定方法
⑥ 測定結果の記録方法
4-9
(43)
[参考] X バンド MP レーダ
(1) 最新の雨量観測データ
現在の降雨観測技術は,地上雨量計による観測,降雨レーダによる観測,気象衛星による観
測に大別できる。このうち,降雨レーダによる観測においては,(独)防災科学技術研究所で
2000 年に X バンドのマルチパラメータレーダ(X バンド MP レーダ)が研究・開発され,降
雨強度推定は従来の手法よりも精度が高く,特に,災害をもたらすような強い雨ほど高精度で
あることがわかっている。
(2) 現状と今後の見通し
国土交通省では,近年頻発している局地的な大雨に対し,適切な水防活動や河川管理を行う
ため,2008 年より X バンド MP レーダ(XRAIN)の全国展開を開始し,2010 年より試験運
用を開始している。また,2012 年よりインターネットによる雨量データ提供社会実験を開始
しており,今後の雨量データ配信や,観測データ活用方法の検討が行われている。
(3) 下水道計画への活用性
従来の降雨レーダ(C バンドレーダ)が 1km メッシュであるのに比べて,X バンド MP レ
ーダによる降雨観測では降雨の偏在性を 250m メッシュ程度で考慮できることから,ゲリラ豪
雨などの局所的な降雨についても従来の降雨レーダより細かな評価が可能である。したがって,
雨水流出解析を行う場合の降雨データとして用いることで,より精度の高い解析を行うことが
可能となる。
また,リアルタイムで配信される観測データを活用することで,浸水対策や合流改善対策に
おける下水道施設の効果的な運用が可能となる。
従来のレーダ雨量計
図
X バンド MP レーダ
従来のレーダ雨量計(C バンドレーダ)と X バンド MP レーダの比較イメージ
出典:国土交通省水管理・国土保全局
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/index.html
4-10
(44)
(3)について
河川および海域での外水位データは,計画水位および実測水位について把握するものと
し,データの収集は,河川部局,水位観測所や各種調査報告書等の資料を基に行う。外水
位データは吐口近傍のデータを収集するものとする。
これら適当なデータがない場合は,必要に応じて現地確認等を行う。
① 水位観測所(河川)または検潮所(海域)の水位記録
② 各種調査報告書(観測結果)
③ 出水時の痕跡水位(護岸や橋脚部等)
④ その他(写真,付近住民への聞取り)
4-11
(45)
4.3 流域内調査
流域内調査は,対象流域ごとに以下の事項について行う。
(1) 地形・流域界・排水施設・河川
(2) 都市施設(重要施設)等配置
(3) 浸透適地
【解説】
流域内調査は,対象流域ごとに,地形形状や現状の排水状況(排水系統)の把握,また,
これらを基とした,流域界および流域面積の整理を行う事を目的として行う。
浸透適地については,地形区分による概略調査(適地,不適地の推定程度)とする。
表 4-4 流域内調査の項目
調査区分
(1) 地 形 ・ 流 域 界 ・
排水施設・河川
概略調査
詳細調査
・同左(道路台帳や現地調査で補足)
・ 〃
・ 〃
・ 〃
・ 〃
・ポンプ場等の施設台帳
・下水道台帳
・河川断面(現況・計画)
・同左
・河川計画流量(現況・計画) ・ 〃
・許容放流量
・ 〃
・地形図
・地下街等の位置,規模
・河川流域界
・排水区界
・下水道計画図
(2) 都市施設(重要施
設)等配置
・緊急交通路
・防災拠点
・災害時医療拠点
・要援護者施設
・同左
・ 〃
・ 〃
・ 〃
(3)浸透適地
・地形区分による概略調査
・地形区分による概略調査
(必要に応じて,土質,地下水分布等の
調査を追加)
流域内調査では,国土交通省国土地理院発行の「数値地図(空間基盤データ)」などの航
空レーザー測量データや,DM(Digital Mapping)など,電子データを利用することを考
慮する。数値地図からは,道路,鉄道,河川,海岸線,行政界,地名,公共施設,標高な
どのデータを抽出して整理する。
なお,近年では,行政区域,鉄道,道路,河川,土地利用メッシュ,公共施設など,国
土に関する様々な情報を整備した GIS 情報が,国土交通省より公開されている。
(参考 URL
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/gis/index.html)
また,流域内調査など地域特性を把握するために必要となる収集データやその入手先な
どについては,
「 流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構」
に詳細に記述されているので参照されたい。
4-12
(46)
(1)について
対象流域ごとに 1/2,500~1/5,000 程度の地形図などの既存資料に基づく「地形調査」,
既存資料に基づく「排水路系統調査」,「河川計画調査」,「既存関連計画調査」を行い,流
域界の設定を行う。また,必要に応じて,現地調査を実施し流域界や排水施設の確認を行
う。
① 地形調査
地形図により対象流域の全体的な状況,低地・窪地の区分を整理し,地形形状を把握す
る。地盤高データは,地形図,下水道マンホール部の地盤高,数値地図(国土地理院)等
から整理する。
洪水ハザードマップや内水ハザードマップが作成されている場合には,地形形状や土地
利用状況が整理されているので,この資料を活用することで効率化が図ることができる。
なお,隣り合う排水区域や市町村との間であふれた水の移動の可能性,局所的窪地が存
在する可能性がある場合は,必要に応じて現地調査を行う。
② 排水路系統調査
既存施設が記載された図面(下水道台帳等)や下水道計画図を基に整理することを基本
とする。
資料が不足する場合や,解析や評価などを目的として詳細なデータが必要となる場合な
どには,必要に応じた現地調査を行う。
●
既存施設:台帳や竣工図による調査。
●
計画施設:計画図による調査。
●
各種排水路計画(河川,下水道,農業用排水路:ルート,規模,設計基準)
③ 河川計画調査
河川部局が所有する構造図等を基に整理することを基本とする。資料が不足する場合や,
解析や評価などを目的として詳細なデータが必要となる場合などには,必要に応じた現地
調査を行う。
また,河川の能力,集水区域(流域界,流域面積等),整備計画等は,下水道雨水管理
計画の方針や施設計画に大きく影響する。このため,河川資料に関しては現況のみならず
計画についても調査,整理することが非常に重要である。
河川計画について調査すべき主な事項は以下のとおりである。
●
河川断面
●
流域界,流域面積
●
河川計画流量
●
許容放流量
●
河川整備計画(スケジュール等)
4-13
(47)
④ 既存関連計画調査
流域界や雨水流出量に係わる関連計画(区画整理や住宅団地に関する大規模開発等)に
ついて,調整池等の既存施設だけでなく計画についても調査する。
[参考] 農業用排水路の特徴
農業用排水路では,用水機能と排水機能を個別または兼用して有していることから管理者
(水管理組合),位置,水系について調査を行う。機能別には 3 タイプあり,基礎調査段階で
の留意点は以下のとおりである。
●
用水機能水路について
農業用用水路では,河川からの取水施設(堰,樋門)により常時河川から定量取水が行
われている。 したがって,このタイプの水路は排水機能を付加することができないため
に,排水の路水系調査では明確に区分しておく。
●
排水機能水路について
一般的に農業用排水路では,一定時間湛水を許容した設計となっていることから,該当
地区の将来土地利用計画の見通しについても再度関係機関との調整を含めた調査を要す
る。
●
用排兼用機能水路について
用排兼用水路は,一般に計画的な圃場整備が行われていない地区に多く見受けられ,市
街化とともに都市排水路へと機能変化してゆく。
[参考2] 水田の許容湛水深
水田の許容湛水深は,水稲へのダメージが大きな成長時期(穂ばらみ期:7 月~9 月)に
支配されている。この時期の許容湛水深と湛水継続時間は,「土地改良事業計画基準」では
以下のように扱われている。
許容湛水深
:
30cm
許容湛水深を超える場合の継続時間
: 24 時間を限度
(2)について
災害時において重要となる都市施設等や,浸水が発生した場合深刻な被害を受ける危険
性のある地下街・地下室・地下駐車場などについて調査する。調査にあたっては,地域防
災計画等を用いるものとする。
●
防災関連施設(災害時の防災拠点や避難所,緊急医療施設,役所,消防本部,消防
署等)
●
災害時要援護者関連施設(養護老人ホーム,身体障害者療護施設,児童養護施設等)
4-14
(48)
●
道路施設(避難経路,緊急輸送路,アンダーパス等)
●
鉄道施設
●
地下空間(地下街・地下駐車場・地下鉄等)
(3)について
浸透適地は,計画区域を対象に地形区分による概略調査とする。浸透適地は,地形から
判断した情報を,縮尺 1/10,000~ 1/25,000 程度の下水道一般図にプロットし,施設計画策
定に際して「浸透適地マップ」を作成可能な資料の収集に努める。地形区分による浸透適
地の考え方を「増補改訂 雨水浸透施設技術指針(案) 調査・計画編 平成 18 年 9 月 (社)
雨水貯留浸透技術協会」から引用し表 4-5 を参考に示す。
表 4-5 地形区分による浸透適地
適
地
不適地
①
②
③
④
⑤
⑥
台地・段丘(構成地質による)
扇状地
自然堤防(構成地質による)
山麓堆積地
丘陵地(構成地質による,急斜面は適さない)
浜堤・砂丘地
①
②
③
④
沖積低地(デルタ地帯)
人工改変地(盛土地は盛土材による)
切土面で第三紀砂土岩
旧河道(ただし,扇状地上の河道跡は適地の場合もある),後背湿地,
旧湖沼
⑤ 法令指定地(地滑り防止区域,急傾斜崩壊危険区域)
⑥ 雨水浸透で法面地盤の安定が損なわれる恐れのある地域
⑦ 雨水浸透で他の場所の居住および自然環境を害する恐れのある地域
[参考] 「浸透マップ」作成の手順
解説には,「地形による浸透適地の整理」についての概略を示した。実際には地形のみでの
判断とはならず,浸透施設の導入検討に際しては,種々の調査を追加し,判断を行う必要があ
る。調査および導入検討については「増補改訂 雨水浸透施設技術指針(案) 調査・計画編 平
成 18 年 9 月 (社)雨水貯留浸透技術協会」や「下水道雨水浸透技術マニュアル 2001 年 6 月 (財)
下水道新技術推進機構」を参照されたい。
ステップ
内 容 等
1.概略調査
(既存資料で可能な調査)
① 地形による浸透適地の整理。
② 各種土質調査結果の整理
・地下水位,透水係数,粒度分布等
2.詳細調査
(現地試験が必要な調査)
① 現地浸透試験
② 土質・地下水位調査
4-15
(49)
4.4 浸水実態調査
浸水実態調査は,過去の浸水実績から,浸水解析,対策効果の評価が行えるように,浸
水被害時の被害規模と資産分布について調査する。
(1) 浸水被害規模
(2) 現況資産分布
【解説】
調査対象地域における浸水の定性的把握を目的に行った「浸水特性の把握」で整理した
浸水のうち,被害規模が明確で,浸水解析が行える浸水について「浸水履歴」として整理
する。
なお,各種調査の詳細については「下水道事業における費用効果分析マニュアル(案) 平
成 18 年 11 月 (社)日本下水道協会(下水道の浸水対策事業における費用効果分析マニュ
アル(案))」を参照されたい。
(1)について
浸水被害規模は,浸水状況(浸水区域,浸水深,浸水時間),浸水発生降雨(総雨量,降
雨パターン),流域状況(外水位,土地利用形態,排水路形態),浸水被害家屋数などから
定量的に把握する。浸水被害の規模を可能な限り正確に把握するために,以下の項目につ
いて既存資料をもとに調査する。
① 浸水状況(浸水区域,浸水深,浸水時間)
② 浸水発生時降雨資料(総雨量,降雨ハイエトグラフ)
③ 浸水発生時の被害規模(床上浸水戸数,床下浸水戸数,道路冠水)
④ 人の活動する地下空間(地下街,地下室,地下駐車場等)
(2)について
現況資産分布は,浸水発生箇所を中心に,対策後の被害額の算定評価が行えるように調
査する。
一般的に,浸水による被害には,直接被害(物的被害)と間接被害(失われる純便益の
一部)の表 4-6 に示すように 2 つに区分されている。
また,下水道区域内での浸水特性は,河川氾濫時でのそれと比較して以下の点で異なっ
ていることから,現況資産分布調査は直接被害に重点をおいた調査とする。
① 浸水深が小さく,浸水域が狭い。
② 浸水時間が短い。
③ 高度に土地利用された区域が多い。
4-16
(50)
表 4-6 浸水被害の区分
直接被害
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
家屋被害
家庭用品被害
事業所被害
人的被害
農作物被害
農漁家被害
公共土木施設被害
その他の被害
間接被害
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
営業損失(付加価値生産被害)
経済活動への波及
家庭における応急対策費用
鉄道被害
道路被害(通行被害)
精神的被害
緊急対策費
地価への影響
生活への影響
したがって,現況資産分布調査は,浸水が想定される区域(過去の浸水発生区域,地形
や土地利用の変遷から浸水の恐れのある区域)について,地形図を用いて整理しておく必
要がある。
また,
「4.3 流域内調査」で調査した,浸水が発生した場合深刻な被害を受ける危険性の
ある地下街・地下室・地下駐車場などの位置,用途,人の出入りの度合いについても調査
し,同時に地形図を用いて整理しておく必要がある。
[参考] 基礎調査に関する参考資料,文献など
本章では,計画策定や解析・評価に必要な基礎調査についての概要を示している。実施に
あたっては,それぞれの段階で,さらに詳細な資料調査や現地調査,実測調査を行うことが
必要となる。
詳細な各種調査の実施にあたって,特に参考とされたい各種文献を以下に示す。
① 下水道施設計画・設計指針と解説
2009 年版
(社)日本下水道協会
平成 18 年 11 月
② 下水道事業における費用効果分析マニュアル(案)
(社)日本下水道協会
③ 流出解析モデル利活用マニュアル
2006 年 3 月
(財)下水道新技術推進機構
④増補改訂 雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編 平成 18 年 9 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
⑤ 下水道雨水浸透技術マニュアル
⑥ 内水ハザードマップ作成の手引き
2001 年 6 月
(財)下水道新技術推進機構
平成 21 年 3 月
国土交通省都市・地域整備局下水道部
4-17
(51)
第5章 整備目標
5.1 総 説
これまでの雨水対策は,地域全体を一律の目標で整備を行うものであったが,時間と財政
的な制約の中で浸水被害の最小化を図るためには,浸水常襲地区や浸水によるリスクが高
く緊急的に整備が求められる地区を選定して整備の重点化(選択と集中)による段階的な整
備目標を設定し,効率的に事業を進める計画とする。
このため,整備目標としては,地区の実状や特性を考慮し,重点地区,整備優先順位,雨
水整備水準について定めることが重要である。
【解説】
これまでの対策は,地形や土地利用形態の違いにより被害状況が異なるにもかかわらず
地域全体を一律の目標で整備を行うもので,全体に対して均一的な整備を行うと費用が膨
大で整備期間が長くなり,効果の発現までに相当の期間を要して早急に対策が必要な地域
の整備がなかなか進まない状況にあった。
早期に浸水被害の軽減を図るためには,浸水常襲地区などの緊急的に整備が求められる
重点地区を選択し,期限を決めて集中的に整備する必要がある。
また、今後の浸水対策の目標設定は,「生命の保護」,「都市機能の確保」,「個人財産の
保護」というような観点から,過去に被害が無くとも浸水におけるリスクの大きい地区で
は重点地区として優先的に整備を進める必要がある。
このため,整備対象地区を細分化して浸水被害実績と浸水被害想定を整理・検討し,重
点地区,各地区の整備優先順位を設定するとともに,地区特性に応じ当面,中期,長期の
整備目標を設定するものとする。
整備目標は,地域全体をはじめから一律にする必要はなく,当面は個別の浸水被害の早
期軽減・解消を目標とし,中・長期的に流域一体整備に向けて事業を進めるものとし,過
去に浸水被害がなく被害の想定もできない地域では当面は現状維持という選択もあり、過
去に被害が無くとも被害リスクの大きい地区では重点地区として検討する。
一方,近年頻発する集中豪雨に対しては,ハード施設の整備だけでは浸水を解消するこ
とが現実的に困難であるため,地区の特性を考慮した許容限界水深など浸水軽減目標を設
定するとともに,行政が行う情報提供などの公助によるソフト対策,住民などが自ら行う
自己防衛的な自助によるハード対策およびソフト対策,行政と住民が連携した共助による
ソフト対策などを総合的に用い浸水被害の軽減を図る計画とする。
このことから,整備目標は,地区特性に応じ「重点地区」,
「整備優先順位」を定め,地区
特性および時間軸に応じた「計画対象降雨」,
「浸水被害軽減目標」,投資可能額を考慮した
「段階的整備計画」,「整備期間」を設定する。
5-1
(52)
5.2 重点地区,整備優先順位の設定
雨水施設の整備には,膨大な費用と長い年月が必要となる。早期に浸水被害の軽減を図
るためには浸水常襲地区や浸水発生時の被害の大きさなどを考慮した重点地区を設定す
る。
また,浸水発生時の被害の大きさなどを考慮し,各地区における整備優先順位を設定す
る。
(1) 重点地区
浸水被害の大きさやその発生頻度を考慮して優先的に整備を進める地区。
(2) 一般地区
重点地区以外の整備対象地区。
【解説】
地球温暖化による気候変動の影響などにより,近年,集中豪雨の頻発,降雨強度の増大
など,今まで進めてきた雨水対策施設の計画規模を上回る豪雨が発生している。また,都
市化の進展により浸透・保水能力が低下し,短時間に多量の雨水が流出してピーク流量が
増大してきている。
このため,下水道整備や河川改修などが進められているにもかかわらず,依然として浸
水に対する安全度が向上しない状況にある。
浸水に対する安全度を早期に向上させるため,浸水常襲地区や浸水による被害・リスク
の高い地区は,重要地区として緊急的に整備を実施する地区と位置づける。
さらに浸水の発生頻度,被害の大きさ,リスクの大きさ,投資効果などを総合的に判断
して,各地区における整備優先順位を決定する。
(1)について
重点地区は,浸水被害の大きさやその発生頻度を考慮して整備を優先的に進める地区で
あり,過去の浸水実績のほか,内水ハザードマップの活用により被害やリスクの大きさを
想定して決定する。
また,上記の資料がない場合には,流出解析モデルによる浸水シミュレーションにより
流出・氾濫現象を解析することで,浸水想定地区や浸水被害状況を把握することができる。
「下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案) 平成 18 年 3 月 国土交通省 都市・地域
整備局下水道部」によると,人命・財産の保護と都市機能を確保する視点から,重点地区
は「生命の保護」,「都市機能の確保」,「個人財産の保護」の3つに分類して対応する目標
を設定するものとされている。
<生命の保護>
「生命の保護」の観点からは,「高度地下空間利用地区」,「高齢者・障害者等災害時要
援護者関連施設地区」が該当し,それらの地区では対象施設への浸水を確実に防止する
ことが目標となる。
<都市機能の確保>
「都市機能の確保」の観点からは,「商業・業務集積地」,「交通拠点施設・主要幹線地
5-2
(53)
区」,「防災関連施設地区」が該当し,幹線道路の場合には交通の支障となるような浸水
を防止するなど,施設の機能が確保されることが目標となる。
<個人財産の保護>
「個人財産の保護」の観点からは,床上浸水の発生する可能性のある「浸水常襲地区
(一般市街地)」が該当し,家屋の床上浸水防止などに緊急に対応することが目標とな
る。
(2)について
重点地区以外の整備対象地区で,浸水発生頻度が低く,あるいは浸水の発生しない整備
の緊急性が低い地区とする。
5-3
(54)
5.3 整備目標(整備水準)の設定
5.3.1 計画対象降雨
整備水準は,計画対象降雨で表現する。
計画対象降雨については,降雨の再現期間(降雨確率年)または確率降雨強度式を基本
とする。なお,重点地区においては,実績の降雨を用いることもある。
【解説】
整備目標は浸水の発生確率で表現することが理想的であるが,浸水の発生は流域の地形
条件,土地利用形態によって変化し,時系列的にも同一でないため,浸水の発生確率を一
律に表現することは難しい。一方,従来から用いられてきた降雨確率は,設計流出量算定
式の差違や地形的な条件により,浸水の発生確率と同等なものではなく,一般市民に理解
されにくいことから,整備目標を時間降雨強度で表現しようという考え方もあるが,各地
点で到達時間が異なるため 1 時間の降雨強度が発生する浸水に対して支配的であるとは言
い難く,また,発生確率を表現することができない。
したがって,浸水の発生確率を表現するためには,計画雨水量の算定に用いる降雨確率
年(確率降雨強度式)を用いることが妥当である。また,一般市民に浸水の状況や原因を
説明する場合には,整備目標とした確率降雨強度式が必要となり,投資効果の評価で想定
被害額を算定する場合にも降雨の再現期間が必要になる。
よって,整備目標は,降雨の再現期間(降雨確率年),または確率降雨強度式で表現する。
なお,下水道における雨水排除計画で採用する降雨確率年は,5~10 年を標準とする。
5.3.2 確率降雨モデル
確率降雨モデルとして,雨量-継続時間-頻度関係を用いた確率降雨強度式を作成す
る。確率降雨モデルは,その使用目的に応じて以下の 2 とおり作成する。
また,超過降雨における検討を行う場合には,既往最大降雨,または過去に大規模な浸
水を被った降雨のハイエトグラフを収集する。
(1) 整備目標降雨モデル
雨水排水施設計画の規模を定めるための降雨モデル
(2) シミュレ-ション降雨モデル
雨水排水施設の能力評価,浸水被害額の算定に用いるための降雨モデル
【解説】
現状における降雨資料としては,対象地域近傍の気象庁観測所における降雨継続時間10
分,1時間,24時間の毎年最大値データを少なくとも 20年分,できれば40から 50年分を収
集する。また,近くに信頼のおける降雨観測所があればその値を用いても良い。非毎年最
大値や,上記以外の降雨継続時間の資料が入手できれば確率計算の精度が上がる。
確率降雨強度式としては,タルボット型(Talbot),シャーマン型(Sherman),久野・石黒
型,クリ-ブランド型(Cleveland)などがある。これらの式型による特徴や,算出の方
5-4
(55)
法は「下水道施設計画・設計指針と解説 2009年版 (社)日本下水道協会」に詳しい記述が
あるので,これを参照する。
(1)について
雨水排水施設の計画規模を定めるための降雨モデルであり,従来のピ-ク流出量を算出
するための雨量-継続時間-頻度関係を用いた確率降雨強度式をいう。主に管きょの設計
に用いるが,調整池の設計や合流式下水道の越流水対策の検討に使用するための降雨ハイ
エトグラフを作成する基礎としても用いられている。
(2)について
一般にシミュレーションのための降雨モデルであり,下水道では雨水調整池容量の算定
や,合流式下水道越流水対策の検討の必要性から発展し,現在では浸水対策の検討を含む
下水道雨水排水施設の能力評価に用いられる。
浸水解析は浸水位置,浸水深と浸水時間の算出を目的とするため,短時間間隔の時系列
的降雨モデル,降雨ハイエトグラフが必要となる。また,想定被害額を算定する場合には,
再現期間が明確な確率降雨モデルを作成する必要がある。この場合,降雨モデルの再現期
間は既存の排水施設の排水能力から,50年確率程度までと考えられる。一般の都市におけ
る既存の排水施設の能力はおおむね2年確率から5年確率の降雨に対応できる程度である
ため,必要に応じて 2年確率降雨から50年確率降雨までを作成する。想定被害額の算定に
おいて,既存施設の排水能力と比べてあまり大きな確率降雨まで計算しても,計算される
数値にあまり差が出ないので,50年確率まで程度が妥当である。また,都市域においては
流達時間が 1時間以下と比較的短いこと,排水施設への流入時間が 5分から7分程度である
ことを考慮して降雨データの計算時間間隔は5分から10分程度が妥当である。
以上のように,浸水評価のための降雨モデルは再現期間が,例えば2年,3年, 5年,10
年,20年,30年, 50年の確率降雨ハイエトグラフ(時間間隔 5分から 10分程度)と考えら
れる。
これらの確率降雨モデルは,降雨継続時間毎の確率平均降雨強度から降雨波形を定めて
ハイエトグラフを作成する方法が一般的であるが,確率論的には不十分なところもあるた
め,実降雨ハイエトグラフから直接求める方法も提案されている(浅田,張,平井:都市
雨水排除システム排水能力の確率的評価,下水道協会誌論文集
No.18
平成 9年10月 21
日)。
また,超過降雨としては,観測既往最大降雨や,過去に大規模な浸水を引き起こした降
雨などを用いるものとする。
5-5
(56)
5.3.3 段階的な整備目標
これまでの雨水排水計画は,地域全体を一律の目標で整備を行うものであったが,重点
的に整備を進める地区,整備期間を決めて,それぞれの地区,期間別に応じた段階的な整
備目標を設定する。
(1) 当面の目標
(2) 中期の目標
(3) 長期の目標
【解説】
雨水排水計画の理想的な目標は浸水被害の解消であるが,時間的制約,財政的制約から
これを早期に実現することは困難である。このため早期に浸水被害の最小化を図るために,
地区特性,整備期間に応じた段階的な整備目標を定める。
平成 19 年の社会資本整備審議会答申では時間軸に応じた目標設定のあり方として,次
のとおり記述されている。
<当面の目標>
●
重点地区
既往最大降雨に対し,ハード整備に加え,ソフト対策と自助を組み合わせた総合的な
対策により浸水被害の最小化を目指し,緊急性を持って取り組みを推進する。なお,ハ
ード整備は中期目標水準を目指し,着実な取り組みを推進する。
<中期の目標>
●
重点地区
人命の保護,都市機能の確保,個人財産の保護の観点から,地下空間高度利用地区,
商業・業務集積地区,床上浸水常襲地区などを「重点地区」として,既往最大降雨に対
し,浸水被害の最小化を図る。その際,ハード整備の中期目標水準は,地区の被害状況
等を踏まえ,概ね 10 年間に 1 回発生する降雨に対する安全度の確保を基本としつつ,
事業の継続性・実現性等を勘案して設定する。
●
一般地区
ハード整備の中期目標水準は,地区の実情等を踏まえ,概ね 5 年間に 1 回発生する降
雨に対する安全度の確保を基本としつつ,事業の継続性・実現性等を勘案して設定する。
また,ハード整備の中期目標水準を上回る降雨に対しては,ソフト対策,自助を推進す
る。
<長期の目標>
ハード整備に加え,ソフト対策と自助を組み合わせた総合的な対策により,既往最大
降雨(過去に観測した最大規模の降雨量)に対する浸水被害の最小化を図る。その際,
ハード整備の長期的目標水準は,地区の実情等を踏まえ,許容可能な浸水深,費用対効
果を勘案しつつ設定する。
5-6
(57)
(1)について
当面の目標としては,緊急的な整備が必要である重点地区を対象に 5 年程度の期間で浸
水の被害軽減を図ることとする。
ハード施設は,中期の目標に整合を図りつつ,管きょやポンプ場などの流下施設の増強
や貯留・流出抑制施設の効果的,かつ効率的な組み合わせなどにより浸水被害の軽減を図
るものとする。
また,ハード整備に加え,ソフト対策,自助,共助を組み合わせた総合的な対策により
整備目標を超える降雨に対する浸水被害の最小化を図る。
(2)について
中期の目標としては,10 年程度の期間におけるハード整備の整備目標と位置づけられる。
浸水解消を図るためのハード整備の整備水準は地域の実状や費用対効果を勘案して 5 年
から 10 年確率の降雨を標準とする。平成 19 年の社会資本整備審議会答申では,一般地区
については,概ね 5 年間,重点地区については,概ね 10 年間に 1 回発生する降雨に対す
る安全の確保が基本とされている。
なお,重点地区については,整備水準を超える降雨に対して浸水軽減目標(機能保全水
深)を定め,ハード整備に加え,ソフト対策,自助,共助を組み合わせた総合的な対策で
浸水被害の最小化を図る。
(3)について
長期の目標は,長期構想として位置づけられ,中期の整備目標の施設整備がほぼ終了し
た時点の整備目標であり,整備完了時の目標となる。
この時点では,中期の整備目標で整備した施設が既設の状態となり,改築・更新計画に
合わせた流下施設の更なる増強,貯留・流出抑制施設の追加整備等で,より高い整備水準
を目指すこととする。その際のハード施設の長期的目標水準は,地域の実状や費用対効果
を勘案して中期よりも安全度の高い水準を検討する。
5-7
(58)
5.3.4 浸水被害軽減目標
重点地区については,整備目標を超える降雨に対しても安全性が確保されるよう浸水被害
軽減目標(機能保全水深)を設定する。
浸水被害軽減目標は,重点地区の特性を考慮しつつ設定する。
(1) 「生命の保護」
(2) 「都市機能の確保」
(3) 「個人財産の保護」
【解説】
集中豪雨などに対してハード整備のみで浸水を解消することは現実的に難しいもので
あり,重点地区については,整備目標を超える降雨に対しても安全性が確保されるよう浸
水被害軽減目標として地区の特性に応じた許容限界水深(機能保全水深)を設定する。
浸水軽減目標を満足するかは,浸水シミュレーションによって確認することができ,満
足しない場合には,計画対象降雨の再検討,ソフト対策等を検討する。
(1)について
「生命の保護」の観点から対象施設への浸水を確実に防止することが求められる。
したがって,公助だけでなく自助(止水板や土のう積み)も含めて施設(地下街,地下
鉄駅構内,災害時要援護者関連施設)への浸水が防止できる許容限界水深を設定する。
(2)について
「都市機能の確保」の観点から,商店街,役所,主要ターミナル駅などの施設機能を確
保が求められる。
機能保全水深としては,氾濫流速および浸水深と移動限界との関連から,乗物の移動限
界水深である 20cm 程度を目安とする。
(3)について
「個人財産の保護」の観点から,床上浸水の防止が求められる。
建築基準法施行令第 22 条によると,「床の高さは,直下の地面から 45cm 以上とするこ
と」とされており,床上浸水を防止するためには 45cm 程度以下を目安とする。
5-8
(59)
5.3.5 整備目標を超える降雨への対応
整備目標を超える降雨に対しては,行政の行う公助によるソフト対策のほか,住民等が自
ら実施する自助の促進,行政と住民が連携した共助によるソフト対策等を合わせた計画で対
応する。
【解説】
近年発生する集中豪雨などに対して行政で行う浸水対策などのハード対策のみで対応
することは,長期間にわたり膨大な費用が必要となり,緊急的に対策を完了することは困
難である。
そこで,整備目標を超える降雨に対する被害の軽減のため,住民の的確な対応を促すた
めの施設整備水準・整備状況の情報提供,降雨・水位・浸水の情報提供をする。また,内
水ハザードマップの作成・公表,浸水に関する防災手引きやリーフレットの作成・公表な
どの公助によるソフト対策による被害の軽減を図る。
一方,住民等が自ら実施する地下施設等の止水板の設置や浸水時の土のう設置など自助
によるハード対策,避難訓練や土のう積み訓練などのソフト対策を促進して浸水被害の軽
減を図る。また、マンションの上階等を一時的な避難場所として提供する取り決めなど行
政と住民が連携した共助により被害の軽減を図る。
ソフト対策や自助による対策については,「下水道総合浸水対策計画策定マニュアル
(案) 平成 18 年 3 月 国土交通省 都市・地域整備局下水道部」に詳しい記述があるので,
これを参照する。
5-9
(60)
第6章 解析手法
6.1 総 説
雨水の流出解析手法は,対象地域の実態等を考慮のうえ,設計・評価における目的や適
用範囲に応じて,適切に選定する必要がある。
【解説】
効果的で効率的な雨水整備方法・整備計画を立案するためには,既存施設や対策施設の
排水能力を評価・把握し,浸水原因や対策効果,投資効果などを明らかにする必要がある。
そのため雨水の流出解析が必要となるが,雨水の流出解析手法には合理式や合理式合成法
のほか,修正 RRL 法や流出解析モデルなど幾つかの手法があり,これら流出解析手法の
選定においては対象とする地域の実態や下水道施設の状況を考慮のうえ,目的,適用範囲,
設計・評価の要求レベルに応じて,適切な手法を選定することが肝要である。
本章では,雨水流出機構を表現・評価・検討するための解析手法について,その概要を
解説するとともに,近年,降雨特性や地域特性を考慮した効率的な雨水対策施設計画の立
案などに広く利用されている「流出解析モデル」に関する知見を中心に整理を行った。
●
水位・流量の算定手法(6.2 項)
●
雨水流出等の算定手法(6.3 項)
●
流出解析モデルの概要(6.4 項)
●
流出解析モデルの活用(6.5 項)
6-1
(61)
6.2 水位・流量の算定手法
水位や流量を算定する際には,できる限り簡略な方法で行うことが望ましいが,氾濫現象
等の分析を行う場合には,より精度の高い算定手法が必要となる。
(1) 水位計算
(2) 流量計算
【解説】
(1) について
管きょなどの能力検証を行う場合,最も簡略な方法は,流速・流量が変化しないと仮定
した等流計算による方法である。しかし,簡略な方法による計算では,圧力状態や背水な
どの影響を受けているところではその水位を正確に把握することはできない。そこで,既
存施設の施設能力を適正に評価するためには,その解析に求められる精度や使用目的に応
じて,3 つの水位計算方法(等流,不等流,不定流)を使い分ける必要がある。
① 等
流:定常流の中で流速や流量などの流れの状態が場所的に変化しない流れで,
圧力状態や背水などの影響を受けない流量計算の際に用いる。
② 不等流:定常流の中で,流れの状態が場所的に変化する流れで,下流側の背水の影
響を受けた際の流量計算で用いる。
③ 不定流:流れの状態が場所的,時間的に変化する流れで,ループ管網や圧力状態な
どの流量計算を行う際に用いる。
表 6-1 に水位計算方法の条件を示す。
表 6-1 水位計算方法の条件
区分
等 流
不等流
不定流
緩勾配の管きょ
○
○
○
逆勾配の管きょ
×
○
○
背水の影響を受ける流れ
×
○
○
圧力流れ(サーチャージ流れ)
×
○
○
ループ流れ
×
×
○
条件
○…解析可能,×…解析不可能
(2) について
現在,我が国で数多く利用されている管きょ流量算定方法に「合理式」がある。これは
ピーク流出量の算定公式であり,主に管きょ計画断面の検討に利用される。また,流出量
の時間的変化(流出ハイドログラフ)を求める方法には,一般に合理式合成法,修正 RRL
法,タンクモデル,等価粗度法などの手法が用いられている。ただし,これらの解析手法
はいずれも地表面流出を解析しているものであり,複雑な管路網,背水現象,圧力流れ,
時系列の溢水状況など,既存の下水道施設をモデル化して能力検討を行う手法ではない。
6-2
(62)
しかし,近年の雨水流出事象の把握においては,下記に示すような評価・検証が求めら
れていることから,地表面流出から管内水理までを容易かつ正確に解析することが可能で
ある「流出解析モデル」の活用例が多くなっている。
<近年求められている評価・検証内容(例)>
●
既往降雨による現況施設や将来計画施設の排水能力
●
放流先河川等からの背水影響
●
時系列の水位変動状況
●
水理構造物(堰,ゲート,ポンプ,分水構造,貯留施設等)や河川との一体解析
●
流域に設置された雨水浸透施設の流出抑制効果
●
ループ管や圧力流れ(サーチャージ流れ)を考慮した排水能力
●
マンホールふた浮上・飛散の可能性
●
地表面への溢水・氾濫状況
流出解析モデルを用いたシミュレーションを行えば,管路内の任意地点における流量を
時系列に把握でき,解析結果のアニメーション表示も可能であることから,近年では降雨
特性や地域特性を考慮した効率的な雨水対策施設計画の立案に不可欠なツールとして広く
利用されている。そこで,合理式などの従来解析手法については,すでに他の文献で手法
の紹介がなされているため,本マニュアルでは流出解析モデルを中心に記述を行う。
合理式,修正 RRL 法などの従来手法については「下水道施設計画・設計指針と解説 2009
年版 (社)日本下水道協会」,「水理公式集 平成 11 年版 (社)土木学会」を参照されたい。
6-3
(63)
6.3 雨水流出等の算定手法
6.3.1 雨水流出量の算定
雨水流出量の算定には,計画施設と解析目的を考慮し,入手可能なデータ・条件に対応
した手法を選定する。
(1) 算定手法の特徴
(2) 算定手法の選定方法
【解説】
(1)について
雨水流出量の算定手法は,計画施設や解析目的に応じて,入手可能なデータと条件に見
合った適切な手法を選定する必要がある。
表 6-2 に従来算定手法と時系列算定手法について,それぞれの特徴を整理する。
表 6-2 算定手法の種類と特徴
項 目
雨水量
算定式
対象
降雨
雨水量
算出
水理
構造物
従来算定手法
・合理式
・実験式
時系列算定手法 1
・合理式合成法
・修正 RRL 法
・流出解析モデル
・原則として,降雨強度公 ・設計ハイエトグラフ,実績 ・設計ハイエトグラフ,実績
式を用いる。
降雨による解析が可能。
降雨による解析が可能。
・基本的に懸案地点のピー
ク流量算出に用いる。
・排水面積以外には,流達
時間,流出係数のみが流
出量を決定する。
・懸案地点のハイドログラ
フを作成可能である。
・水理構造物を組み込んだ
解析はできない。
・複雑な水理構造物を組み ・堰,オリフィス,ポンプ,
込んだ解析は困難。
貯留施設等の組み込みが
可能であり,上下流への
影響も時系列的に把握す
ることができる。
・主に管きょ設計
・主に貯留施設等の貯留量
の算定
・現況施設,計画施設の能
力評価
・ネットワーク,ループ管,
サーチャージ解析
・浸水予想区域の検討
・リアルタイムコントロー
ル(RTC),等
・ピーク流量による能力判
定しかできないため,最
終計画に対する評価しか
できない。
・懸案地点での評価は可能
であるが,複数地点の評
価を行うためには,複数
ケースの解析が必要とな
る。
・複数地点の時系列的な同
時評価が可能であるた
め,浸水状況や対策施設
の効果等を把握すること
ができる。
適用
評価
時系列算定手法 2
6-4
(64)
・任意地点のハイドログラ
フを作成可能である。
・管内水理計算は,不定流
計算に基づいているた
め,逆勾配,ループ状管
網,圧力状態等の管きょ
内の流れを解析できる。
(2)について
管きょ断面設計においては,原則として「合理式」を用いることとなっている(「下水
道施設計画・設計指針と解説 2009 年版 (社)日本下水道協会」より)。合理式は,懸案地
点における最大ピーク量の算出方法として適用されるものであり,各地点のピーク発生時
は独立しており,時間的な関連性,継続性はないものである。しかしながら,合理式は簡
易に算定できる式であり,これまでの実績から見ても問題のある式とはいえない。一方,
流出解析モデルでは時間的な連続性はあるものの,管きょ断面を選定するためにはトライ
アル計算を行わなければならず,当初設計段階で用いる式としてはあまり良い手法ではな
い。そこで,管きょ断面設定を行う当初設計では,従来どおり合理式を用いた設計手法が
望ましいものと考えられる。
現況管きょ網の能力評価においては,合理式のピーク流量を用いた水位計算を行うと,
安全側に評価されるといえる。そのため,既存施設の有効利用を図り,できる限りコスト
をおさえた改善対策を行うためには,管きょのサーチャージ効果やループ管によるピーク
遅延効果などの流出現象を解析できる計算手法が望まれる。
表 6-3 に解析目的による流量算定方法の種類と特徴を示す。
表 6-3 解析目的による雨水流出量算定手法
合理式等
合理式
合成法等
流出解析
モデル
①ピーク流出量の算定
(管きょ断面の算定)
○
○
○
②流出ハイドログラフの算定
×
○
○
③現況管きょや将来計画管きょの能力評価
・背水現象(放流先水位の影響)等の解析
・時系列の水位状況や溢水状況の解析
・管きょのサーチャージ解析
・ループ管の解析,等
×
×
○
④管路と水理構造物・河川との一体解析
×
×
○
⑤浸透施設を取り入れた解析
×
○
○
⑥貯留施設を取り入れた解析
×
○
○
解析目的
○…解析可能,×…解析不可能
6-5
(65)
6.3.2 雨水調節量の算定
調整池の雨水調節容量を算定する手法には,雨水調節計算がある。
【解説】
宅地などの土地開発が行われると,当該区域の雨水流出機構が変化し,開発区域および
その周辺地域において溢水による被害が生じる恐れがあるため,開発に際しては必要に応
じて調整池などの流出抑制施設を設置する。これら調整池からの下流許容放流量の設定に
あたっては,調整池下流の下水道管きょ,放流先河川の流下能力,さらに河川改修計画な
どについても調査を行い,適切な値を設定する必要がある。
雨水調節量計算は,開発地区から流出する調整池への流入量 Qi と放流量 Qo の差が調整
池に水平に貯留するものとして連続式によって行う。
図 6-1 水深とオリフィスとの関係
出典:下水道雨水調整池技術基準(案)解説と計算例 (社)日本下水道協会
図 6-2 流入・流出ハイドログラフ
出典:流域貯留施設等技術指針(案)増補改訂 (社)雨水貯留浸透技術協会
なお,具体的な雨水調節量の算定手法については「下水道施設計画・設計指針と解説
2009 年版 (社)日本下水道協会」,「流域貯留施設等技術指針(案)増補改訂 平成 19 年 4 月
(社)雨水貯留浸透技術協会」,「下水道雨水調整池技術基準(案)解説と計算例 1984 年
(社)日本下水道協会」などを参照されたい。
6-6
(66)
[参考] CommonMP(水・物質循環解析ソフトウェア共通プラットフォーム)
平成 21 年 7 月 16 日,国土交通省河川局(当時),国土技術政策総合研究所,土木学会,建
設コンサルタンツ協会,国土交通省都市・地域整備局下水道部(当時),全国上下水道コンサ
ルタント協会により「CommonMP 開発・運用コンソーシアム」が設立され,CommonMP の
開発・運営に係る検討が進められている(http://framework.nilim.go.jp/)。
CommonMP(Common Modeling Platform for water-material circulation analysis)とは,
異なった機能を持つ要素モデルが一体的に協調・稼働させるための水・物資循環解析ソフトウ
ェアの共通プラットフォームであり,河川流域における様々な水理・水文・生態などの複合現
象を再現するシミュレーションモデルをつなぎあわせて河川流域の複雑な水・物質循環を再現
することができるよう,要素モデルを共有利用するための OS のような機能を持ったモデル構
築・解析実行ツールである。
データの取り込み,要素モデルの登録,付属する GIS エンジンとの連動が可能であり,解析
モデルの構築機能,計算実行機能,プロジェクト管理機能を持っている。現在,産官学からな
るコンソーシアムが結成され CommonMP 開発プロジェクトが進められており,今後,同プラ
ットフォーム上における運用が主流となる可能性が高いツールである。
<解析モデル構成の共通基盤>
●
解析モデルを一般化・共通化するのではなく,モデル構成の基盤を準備するもの
●
要素となるモデルの交換,追加,削除が行える
●
いずれのモデルでも共通するような機能については共通化されている
図 6-3 CommonMP のイメージ
現在,下水道分野における CommonMP の普及促進や流総計画モデルの統一化,一元管理を
目的として,国土技術政策総合研究所にて CommonMP を活用した流総計画(晴天時汚濁負荷
解析)モデル開発が進められており,平成 24 年度以降は,マニュアルの整備や流総計画策定
での活用を視野に適用検証が予定されている。これらが実用化されれば,流総計画に関する各
種データの蓄積・一元管理が可能となり,流総計画の見直し時の検討の容易化・効率化に加え,
放流先水域の水環境保全に関する検討などの各種検討が可能となる。
6-7
(67)
6.4 流出解析モデルの概要
雨水流出モデルにおける雨水流出機構は,降雨損失モデル,表面流出モデル,管内水理
モデル,氾濫解析モデルの 4 プロセスによって構成・表現される。
【解説】
都市域の雨水流出機構は,地表面における降雨量の損失を捉えた降雨損失機構,有効降
雨が地表面を流れる経過を捉えた表面流出機構,管路施設内の流れを捉えた管内水理機構
により表現される。さらに,管路施設の能力不足などにより発生する浸水は,地表面氾濫
流を捉えた地表面氾濫機構により表現される。流出解析モデルでは,これら 4 つのプロセ
スをモデル化することにより都市域の雨水流出を定量的に算出・表現する。
本マニュアルでは,これら 4 プロセスの考え方や概念を整理する。なお,詳細なモデル
式については,「流出解析モデル利活用マニュアル
2006 年 3 月
(財)下水道新技術推
進機構」を参照されたい。
雨水流出機構の概念を図 6-4 に示す。
図 6-4 雨水流出機構の概念図
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
6-8
(68)
6.4.1 降雨損失モデル
都市域の降雨は,下水管に流入するものと,流入せずに浸透・窪地貯留等により損失す
るものがあり,これらを降雨損失という。
降雨損失を計算する代表的なものに,以下に示す手法がある。
(1) 降雨損失モデル
(2) 流出係数モデル
【解説】
降雨損失は,浸透や窪地貯留などの降雨損失要素を取り込んだもので,代表的な有効降
雨量の算出には以下のものが挙げられる。これらは,流域や解析条件に応じて使い分ける
必要がある。
(1) について
降雨損失モデルは,さまざまな降雨損失要素をモデルに組み込んだもので,降雨損失の
代表的なものには「窪地貯留損失」と「土壌浸透損失」がある。これら損失は,土地利用
の状況から浸透域と不浸透域に大別される区域ごとに設定される(図 6-5)。
図 6-5 降雨損失モデル
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
(2) について
流出係数モデルは,各降雨損失を流出率として表すもので,都市流域の流出計算に用い
られることが多い。流出係数には,ピーク流出係数と総流出係数があり,一般に都市域で
用いられるのはピーク流出係数である。このため,流出計算が都市流域だけを対象とする
場合には,流出係数によって損失を表すことができ,
「有効降雨量=降雨量×流出係数」の
式となる。
流出係数は,一般に工種別面積と工種別基礎流出係数からおおむね想定できるが,降雨
規模によって幅があるため,キャリブレーションにより調整を行う。
6-9
(69)
[参考] 流出シミュレーションにおける窪地貯留深,最終浸透能の設定値について
流出解析モデルを用いた流出シミュレーションにおいて,窪地貯留深およびホートン式の浸
透能は対象とする流域特性やキャリブレーションにより設定されるものであるが,「合流式下
水道越流水対策と暫定指針-1982 年版-(社)日本下水道協会
窪地貯留深(浸透域)Dp
p.18」によると,
:約 6mm
窪地貯留深(不浸透域)Dimp :約 2mm
都市域の場合の平均的な最終浸透能 f c :約 10mm/hr
との記述があることから,これら数値をひとつの目安にすることも考えられる。
出典:合流式下水道越流水対策と暫定指針 -1982 年版-
6-10
(70)
(社)日本下水道協会
6.4.2 表面流出モデル
表面流出モデルは,各ノード(マンホール等の接続点)に流入するハイドログラフを算定す
るもので,以下に示す方法がある。
(1) 時間面積法(タイムエリア法)
(2) 非線形貯留法
(3) 二重線形貯留法
【解説】
地表面流出は,各小流域で得られる有効降雨を管路内の流入ハイドログラフに変換する
もので,以下に示す方法などがある。
(1)について
時間面積法(タイムエリア法)は,流達時間を基準にノード(マンホール等の接続点)
が受け持つ区域を等到達時間に分割し,各等到達時間域での有効降雨による流出ハイドロ
グラフを求め,これを単位図の手法により重ね合わせたものをノードに流入するハイドロ
グラフとする方法である(図 6-6)。
図 6-6 時間面積法(タイムエリア法)の概念
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 2009 年版 (社)日本下水道協会
(2)について
非線形貯留法は,貯留量 S と流出量 Q との関係を S
k Q m のような非線形方程式で与
え,これに連続の式を組み合わせたもので,どのタイムステップにおいても水深と流量を
6-11
(71)
数値的に解くことが可能である。この方法では,地表水は広い範囲にわたって非常に薄い
層として概念化されている(図 6-7)。
浸透域
不浸透域
※流域を単純化
模擬河道長L
流域幅
図 6-7 非線形貯留法の概念
(3)について
二重線形貯留法は,地表面貯留を表現するタンクと,降雨と流出のピークの差を表現す
るタンクの 2 つの線形貯留タンクを組み合わせたモデルである。貯留式は,貯留量 S と流
出量 Q との関係を S
k Q のように与え,この貯留式を 2 段で用いて連続の式と組み合
わせる(図 6-8)。
S
S1
k Q
Q1
S2
図 6-8 二重線形貯留法の概念
6-12
(72)
Q2
6.4.3 管内水理モデル
管内水理モデルでは,ループ管や水理構造物(堰,ゲート,ポンプ,分水構造,貯留施設
等)を有する下水道管網内の時系列水位・流量変化の算定が可能である。
【解説】
下水道管路は,図 6-9 に示すように,雨水の流入点であるノード(マンホール等の接続
点)と流水現象の起こる管きょとの組み合わせとしてモデル化を行い,合流,分水,越流
(堰),ポンプなどによる流れの変化は,マンホールのみにおいて生じるものとし,管きょ
における流入量(上流)と流出量(下流)の差はマンホールでの貯留量の変化として表現
される。なお,実際にマンホールがない場合は仮想のマンホールを設置する。
図 6-9 管路のモデル化概念図
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
管内の流れは,質量保存則,運動量保存則,およびエネルギー保存則に従い,質量保存
則からは連続式が導かれ,ニュートンの第 2 法則( F
ma ,ここで, F :応力, m :質
量, a :加速度)からは運動方程式が得られる。また,管内の流れは,数学的に一対の双
6-13
(73)
曲線型の一次微分方程式によって一次元的に表現される(サンヴナン方程式)。
なお本来,これらの基本式は,自由水面をもつ開水路について成り立つものである。そ
のため,圧力管状態を解析する場合には,管きょの天端に流量を無視できるくらいの水路
(プライスマンスロット)を立ち上げ,開水路として取り扱うことで対応している(図
6-10)。
また,地表面を越えた水は,各ノードの地表面より上に仮想貯留池を持たせることによ
り,平面的な広がりを考慮して浸水量を表現している(図 6-11)。
[サンヴナン方程式]
A
Q
0
t
x
1 Q 1
Q2
gA t gA x A
不定流
h
x
cos
So
Sf
0
等流
不等流
Q :流量(m3/s)
t :時間(s)
S o :=sin (下水管の勾配)
x :流下距離(m)
S f :摩擦勾配
A :断面積(㎡)
h :水位(m)
g :重力の加速度
:水平面との角度(ラジアン)
仮想貯留池面積
地表面レベル
マンホール面積
管
図 6-10 プライスマンスロット概念図
き
ょ
管
き
図 6-11 地上部モデル化概念図
6-14
(74)
ょ
6.4.4 氾濫解析モデル
排水施設の能力不足等により発生する都市域の内水氾濫事象は,地表面を流れる氾濫
流の二次元不定流計算により表現することが可能である。
【解説】
排水施設の能力不足などにより地表面に溢れた水の流れ(氾濫流)は,二次元不定流計
算により表現することが可能であり,それら計算により浸水範囲や浸水深,浸水時間など
が求められることから,主に浸水想定区域図や内水ハザードマップの作成に用いられる。
二次元不定流モデルは,地表面において直交する二方向について運動方程式をたてるた
め,氾濫原の分割の仕方による氾濫流向の変化が少ないという特徴を有している。また,
各項を省略することなく計算を行うことから,モデルパラメータや地表面データ(標高デ
ータ)が正確であれば精度の高い結果が得られる利点を有しているが,計算が煩雑になり
多くの演算時間を要する側面もある(表 6-4)。
表 6-4 氾濫解析解法の種類と概要
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
なお,これら二次元不定流計算を行う氾濫解析モデルは,流出解析モデルを開発した各
社から追加モジュールとしてリリースされている(氾濫解析モデルの名称は,表 6-5 を参
照)。これらの氾濫解析モデルでは,地上部の氾濫解析は最も精度が高いとされる二次元不
定流,地下部の管路などについては管内水理モデルで解析を行っている。
この方法の場合,地表面を標高メッシュで表現するため,道路の有無に係らず内水氾濫
解析が可能である。
6-15
(75)
地 表 面 は,メッシュで表 現 してい
るため,流向に制限はない。
管きょモデルは,流出解析モデル
と同様の解析を行う。
図 6-12 氾濫解析モデルのモデル化イメージ
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
●
「浸水地点の把握」から「浸水区域の把握」へ
管きょ一次元のみの解析結果
●
管きょ一次元+地表面二次元の解析結果
氾濫解析結果の利用方法(例)
・事業効果の検証
→浸水被害軽減額の評価,等
・浸水危険エリアの表現
→ハザードマップ作成,等
・浸水状況の視覚的表現
→事業説明・水害教育,等
図 6-13 氾濫解析結果の出力イメージ
6-16
(76)
6.5 流出解析モデルの活用
6.5.1 解析機能
流出解析モデルは,前項 6.4 に示す降雨損失,表面流出,管内水理,地表面氾濫のよう
な都市域の雨水流出機構を計算・表現する機能のほか,汚濁負荷量解析やリアルタイムコ
ントロール,河川統合解析,GIS 機能を有している。
(1) 汚濁負荷量モデル
(2) リアルタイムコントロール(RTC)
(3) 河川統合解析
(4) GIS 機能
【解説】
流出解析モデルでは,前項 6.4 に示す降雨損失,表面流出,管内水理,地表面氾濫のよ
うな都市域の雨水流出機構を定量的に計算・表現する機能を有するほか,汚濁負荷量モデ
ルやリアルタイムコントロール,河川統合解析,GIS 機能を有している。
表 6-5 に,代表的な流出解析モデルの機能概要を示す。
表 6-5 主な流出解析モデルの機能概要
MIKE Urban
(InfoWorksCS 2D)
(MIKE FLOOD)
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
(xp2D)
をもとに加筆
(1)について
流出解析モデルでは流量解析のほか,汚濁負荷量解析が可能である。
汚濁負荷量解析は,合流式下水道改善対策計画の策定などにおいて用いられ,地表面の
汚濁負荷量流出解析,雨水ます内の汚濁物質の堆積と流出解析,管きょ内汚濁負荷量輸送
解析を行うことで,処理場に流入する汚濁負荷量や合流式下水道の未処理下水として,吐
口から公共用水域に放流される汚濁負荷量を定量的に算出することができる。
6-17
(77)
(2)について
リアルタイムコントロール(RTC)は,貯留施設や排水ポンプ,可動堰,水門などの水
理構造物を管路システム中に配備し,実際の降雨量や水位観測値をもとに,これらを即時
かつ効果的に操作して,浸水防止や水質汚濁の削減を行う手法である。主な流出解析モデ
ル(表 6-5 を参照)では,管内水位や水量をもとに堰,水門,ポンプなどの操作をシミュ
レートする機能が付いており,モデル上で現象を再現・予測することが可能となっている。
また現在では, ICT(情報通信技術)により降雨情報や幹線水位,流量などのデータを
リアルタイムで収集し,これらデータを用いて事前に構築されたモデルにより演算処理を
行うことで,既設管路能力を活用した貯留運用や流入量予測値をもとに効率的な雨水ポン
プ運転・ゲート操作などを試みる取組みが積極的に検討・運用され始めている(図 6-14)。
上図のリアルタイムコントロールシステムは,浸水に対する安全性を確保したうえで,
既設管路の貯留能力を活用して下水道からの合流式下水道雨天時越流水による放流水域の
水質汚濁を削減することを目的としたシステムであり,東京アメッシュ,幹線水位,ポン
プ井水位のデータをリアルタイムで収集,監視しながら幹線の貯留能力を十分引き出せる
ように雨水ポンプなどの運転制御を行うものである。
図 6-14 リアルタイムコントロールの一例(東京都/梅田ポンプ所)
出典:「梅田ポンプ所流域リアルタイムコントロールシステムの運用について」
東京都下水道局技術調査年報 2006
6-18
(78)
(3)について
流出解析モデルでは,河川からの影響(下水道吐口における河川水位の背水影響評価)
や,河川への影響(下水ポンプ場からの排水による河道ネック地点での越水評価)を考慮
する必要がある場合には,下水道と河川とを統合的に解析することが可能である。
河川統合解析には,「下水道と河川を 1 つの流出解析モデルで一体的にシミュレーショ
ンを行う手法」,若しくは「それぞれを個々の解析モデルによりシミュレーションを実施し,
その結果を連動させる手法」がある。
前者の河川統合解析は,河川を下水道施設と同様にモデル化して解析するものであり,
流域が小さい河川を対象とすることが多い。下水道と河川を一体的に解析する場合には,
流域規模などの流域特性を十分に把握して,統合解析が可能かを適宜検討する必要がある。
河川のモデル化にあたっては,河川上下流の水位・流量などの境界条件を明確にしてモ
デルに反映する必要がある。なお,河川上下流の境界条件が不明な場合には,実際の降雨
量と河川水位(流量)の観測値をもとに,河川流域の地表面粗度係数や流出係数,および
河道の粗度係数を用いたキャリブレーションを実施し,実態に即したモデル化を行うこと
が望まれる。
一方,後者の河川統合解析では,河川を解析する流出解析モデルが限定されることや,
データ受け渡しの際にデータ変換プログラムを要するなどの留意すべき点がある。計算結
果の連動は,図 6-15 に示すように時系列的に相互計算を行う。
① 受水側の河川モデルを先行して解析し,河川水位を計算する(河川水位の算出)。
② 算出された河川水位を境界条件として,放流側の下水道管きょモデルの計算を行
い受水側(河川)への流量を計算する。
③ 下水道管きょ網からの計算結果を境界条件として,河川モデルの水位計算を行う。
以降は,この相互計算の繰り返しにより,河川の計算水位と下水道管きょ網の計算水位
の整合性を保つように計算を行う。
図 6-15 時系列的な相互計算フロー
出典:流出解析モデル利活用マニュアル 2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
(4)について
GIS 機能は,GIS データベースと流出解析モデルデータとの統合を図ることにより,モ
デルネットワークの設定とチェックという煩雑な作業に要する時間を大幅に短縮すること
ができる。
6-19
(79)
6.5.2 モデル利用上の留意点
流出解析モデルによる解析結果を得るためには,各種調査データをもとにモデル化を行
い,各種パラメータの設定を行う必要がある。
流出解析モデルの適用にあたっては,以下に留意する必要がある。
(1) 基礎資料の収集とモデルへの反映
(2) キャリブレーションの精度
(3) 解析結果の妥当性の確認
【解説】
流出解析モデルを用いた流出解析手法は,従来解析手法に比べ,管路網や水理構造物,
地表面のモデル化を一度行えば,降雨条件や検討ケースを変更した解析結果を容易に得る
ことができる。しかし,目的に応じた適切な解析結果を得るためには,以下の点を十分に
考慮したモデル化,およびシミュレーションを行う必要がある。
(1) について
流域や施設のモデル化を行う際には,対象とする降雨や下水道管網などのデータに加え,
解析の目的や要求される精度に応じて,複数の降雨データ,地盤高データ,不浸透域など
の土地利用形態,浸透施設の設置状況や浸透能力,河川データ(河道断面や外水位)など
が必要となる(「第 4 章 基礎調査」を参照)。
これらモデル化の基礎となる資料は,施設台帳の収集や現地の実態調査により正確な情
報を収集・把握するとともに,モデルへ適切に反映することが重要である。
(2) について
流出解析モデルにおける解析では,モデル利用者が対象流域の流出特性を踏まえ,最も
適した諸元・パラメータを設定する必要がある。そのため,キャリブレーションは対象流
域モデルの妥当性を確保するための重要な作業であり,目的に応じた解析精度を確保する
ためには,必要に応じて実測調査を実施してキャリブレーションに用いる測定データの量
と質を確保するとともに,雨水流出機構に精通した技術者が適切な諸元・パラメータを設
定することが重要である。
特に,解析結果に基づき雨水貯留施設などの下水道施設設計を行う場合には,より精度
の高いキャリブレーションを要する。
(3)について
流出解析モデルの解析結果は,モデル構築におけるデータ誤入力や,各種パラメータ,
計算条件の誤設定により,想定される水理現象と大きく異なる結果となる場合がある。そ
のため,流入量と流出量とのバランス(計算誤差)の確認や,実際の現象や水理学的事象
などの知見に照らし合わせ,使用目的に応じた精度が確保されているかについて,熟練し
た技術者がその妥当性を判断・確認する必要がある。
6-20
(80)
6.5.3 流出解析モデルの適用にあたっての考え方
流出解析モデルを適用するにあたり,下記に示す適用とその考え方を以下に整理する。
(1) 堰やオリフィス等の分水構造がある場合の考え方
(2) 雨水浸透施設の考え方
(3) サーチャージ解析の考え方
(4) キャリブレーションの視点
【解説】
(1)について
合流式下水道の雨水吐における遮集(堰による分水)では,従来の手法では,計画下水
量に対し定量遮集できる堰幅・堰高を設定し,定量(3Q 遮集等)の分水として評価・計
画されていたが,実際には計画遮集量以下でも越流が発生し,雨水吐に計画下水量が流れ
込んだ際には 5~6 倍の遮集量になるケースが多々ある。また,下流側や放流先河川の背
水影響を受ける場合には,複雑な解析が求められる。
そのため,このような場合には管路施設と水理構造物(堰,オリフィス等)とを一体に
解析・評価することが望ましい。
[解析事例] 分水施設の形状の違いによる遮集量の計算事例
ここでは,流出解析モデルを用いた分水施設の形状の違いによる遮集量の計算事例を示す。
表 6-6 に分水施設の検討ケース,図 6-16 に解析対象降雨を示す(総降雨量 52.5mm,最大降
雨強度 54.0mm/hr,降雨時間 6.0hr)。
表 6-6 各種水理構造物による遮集量解析検討ケース
ケース 1
ケース 2
水理構造物
設置概要
流入渠
・
□1,650
×1,650
0.6‰
正面
越流堰
ケース 3
ボルテックスバルブ※
オリフィス
遮集管
φ500
2.4‰
放流渠
流入渠
・
□1,650
×1,650
0.6‰
正面
越流堰
遮集管
φ500
2.4‰
放流渠
流入渠
・
□1,650
×1,650
0.6‰
正面
越流堰
遮集管
φ500
2.4‰
放流渠
・3Q遮集を対象とした施 ・φ350mmのオリフィスを設置。 ・TYPE375Cのボルテックスバル
設であるが,越流堰長は ・ 越 流 堰 高 を ケ ー ス 1 よ り も
ブを設置。
必要堰長よりも長い。
0.25mかさ上げ。
・越流堰高をケース1よりも
0.25mかさ上げ。
※ボルテックスバルブとは,装置内で渦流を発生させることにより空気核を開口部へ形成し,一定水位
区間をほぼ同一流量に制御する装置である(図 6-17 を参照)。また,オリフィスに比べ開口部を大き
く出来るため,ごみなどのつまりの可能性を低くすることができる。
6-21
(81)
図 6-16 解析対象降雨
Vortex Valve QH-Graph
流出
Head ( m )
バルブ本体
空気吸入
流入
Fiow ( I/s )
図 6-17 ボルテックスバルブの構造と流出特性
表 6-7,図 6-18 に示す解析結果から分かるように,従来手法の合理式では分水の計算を一定
量の分水として評価していたが,流出解析モデルでは,実際の分水施設形状や水位状況に応じ
て遮集量を計算・評価することが可能となっている。
表 6-7 解析結果(遮集状況の比較)
ケース1
(遮集管)
大
降
雨
ケース2
(オリフィス)
ケース3
(ボルテックスバルブ)
全遮集量
(m3)
5,047
3,869
3,438
最大遮集量
(m3/s)
0.520
0.270
0.190
最大遮集倍率
(倍)
8.67
4.50
3.17
超過遮集量
(m3)
1,677
389
6
6-22
(82)
大降雨(流量)
遮集管+堰
流入水量
13,555 m3
3.5
3
3
流量(m /s)
2.5
2
1.5
1
0.5
0
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
時刻
遮集管
22:00
堰
23:00
0:00
3Q流量
超過遮集量
1,677 m3
12 %
全遮集量
5,047 m3
37 %
越流水量
8,508 m3
63 %
最大遮集量
0.52 m3/s
最大遮集倍率
8.67 倍
オリフィス+堰
流入水量
13,514 m3
3.5
3
3
流量(m /s)
2.5
2
1.5
1
0.5
0
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
時刻
オリフィス
22:00
堰
23:00
0:00
3Q流量
超過遮集量
389 m3
3%
全遮集量
3,869 m3
29 %
越流水量
9,645 m3
71 %
最大遮集量
0.27 m3/s
最大遮集倍率
4.5 倍
ボルテックスバルブ+堰
流入水量
13,504 m3
3.5
3
3
流量(m /s)
2.5
2
1.5
1
0.5
0
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
時刻
ボルテックスバルブ
22:00
23:00
堰
3Q流量
0:00
超過遮集量
6 m3
0%
全遮集量
3,438 m3
25 %
越流水量
10,066 m3
75 %
最大遮集量
0.19 m3/s
最大遮集倍率
3.17 倍
図 6-18 解析結果(流量)
出典:合流式下水道越流水(CSO)対策の研究(その 3) 1999 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
6-23
(83)
(2)について
雨水浸透施設は,雨水流出量の総量を削減し,またピーク流出量を低減させる効果があ
り,浸水対策の一手法として,また事業費縮減の一方策として活用できる。
流出解析モデルにおけるモデル化の方法として,以下に示す 3 手法が挙げられる。
① 浸透施設による浸透能力相当分を土壌浸透能に加える方法
雨水浸透施設による浸透能力相当分を,本来の土壌浸透能に加えることで有効降雨を
表現する方法である。不浸透域(屋根面,道路面)に雨水浸透施設を設置する場合には,
不浸透域を疑似的に浸透域と想定して解析を行う。
出典:流出解析モデル利活用マニュアル
2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
図 6-19 浸透施設の考え方(a)
② 浸透施設による浸透能力相当分を降雨から差し引く方法
雨水浸透施設による浸透能力相当分を,降雨から差し引くことで有効降雨を表現する
方法である。土地利用区分(緑地面,屋根面,道路面等)ごとに雨水浸透施設の浸透能
力相当分を降雨から差し引いた仮想降雨を作成し,それぞれに与えて解析を行う。
出典:流出解析モデル利活用マニュアル
2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
図 6-20 浸透施設の考え方(b)
6-24
(84)
③ 仮想浸透マンホールを設ける手法
雨水浸透施設による浸透能力相当分を,仮想的に設けるマンホールに持たせることで
有効降雨を表現する方法である。実際の現象に即して,浸透ます,浸透側溝などの効果
を表現するもので,発生した雨水は雨水浸透施設により土壌浸透し,浸透能力を超えた
雨水は下水道管路へと流入する。
出典:流出解析モデル利活用マニュアル
2006 年 3 月 (財)下水道新技術推進機構
図 6-21 浸透施設の考え方(c)
雨水浸透施設の浸透量(土壌浸透能)は,降雨初期の土壌が乾燥している状態を最大値
として,降雨時間の経過とともに単位時間当たり浸透量は減衰し,最終的にほぼ一定値と
なる(図 6-22)。
土壌浸透能
(mm/hr)
初期浸透能
最終浸透能
降雨時間t(s)
降雨開始(s)
図 6-22 浸透能の時間変化
雨水浸透施設の浸透量は,同じ地形分類でも場所的な土質条件などの違いによりその浸
透能力が異なる。また,雨水浸透施設の目詰まりを起因とした経年変化(浸透能力の減衰)
が生じることを踏まえ,評価対象となる地域や時期に応じて浸透能のパラメータ設定を行
うことが望ましい。
また一般的に,雨水浸透施設には浸透ますの周囲に砕石層を充填させるが,これら充填
砕石の部分には空隙があるため,必要に応じて,それら空隙に貯留される損失を窪地貯留
などの損失として見込むことも考えられる。
6-25
(85)
(3)について
現況施設の改善を行う際には,既存施設の能力を十分に活用し,対策施設規模の縮小や
対策費用の軽減を図る観点から,管きょのサーチャージ効果を取り入れた評価を行うこと
も考えられる。また,計画降雨時までは自然流下で流すことができ,超過降雨時にはサー
チャージ効果により流下能力が確保できる場合もある。
このサーチャージ効果を見込んだ管きょ流下能力の評価は,流出解析モデルによる解析
により可能である。この手法を用いれば,管きょ流下能力を通常手法より大きく評価する
ことができるため,事業費縮減の一方策と考えられる。しかしながら,水圧の上昇や空気
圧の上昇が発生するとマンホールふた浮上・飛散が発生する恐れがあるため,サーチャー
ジ効果の検討を行う際には,併せてマンホールふた浮上・飛散についても配慮する必要が
ある。
なお,マンホールふた浮上・飛散の安全対策計算例は,「下水道マンホール安全対策の
手引き(案) 平成 11 年 3 月 (社)日本下水道協会」を参照されたい。
[解析事例] サーチャージ効果を見込んだ管きょ流下能力の評価
ここでは,サーチャージ効果を見込んだ管きょ流下能力の評価事例を示す。
① 検討の概要
この排水区は,当初合流式下水道として低地部の既成市街地を中心に計画され,その後宅
地開発された丘陵地帯の住居地域については分流式で事業が進められてきた。しかし,その
後の急速な都市化に伴い雨水流出量が増加し,浸水被害が度々発生している。こうした状況
から,流出解析モデルを用いて,5 年確率降雨で計画されている既存施設を 10 年確率降雨に
も対応できる雨水整備計画を立案した。なお,その解析の際にはサーチャージ効果を見込む
ものとして考えた。
② 対象区域の概要
対象区域の計画概要を以下に示す。
●
計画区域面積
181.50 ha(うち直接放流
12.33 ha)
●
幹線延長
約 3,580 m
●
ポンプ場能力
汚水:0.529 m3/s,雨水:9.683 m3/s
③ 流域特性値
対象区域の流域特性の概要を以下に示す。
●
不浸透域率
59%
●
直接流出率
20%
●
地表面粗度係数
浸透域 0.030 ,不浸透域 0.014
●
凹地貯留深
浸透域 6mm,不浸透域 2mm
④ 計画降雨
岩井法によって算定した降雨強度式から作成した中央集中型ハイエトグラフを用いた。降
雨継続時間は 3 時間とした。
⑤ キャリブレーション
既往降雨(H7.9.24 台風 14 号)での現況管網による流出解析を行い,浸水被害実績と解析
6-26
(86)
結果との比較により,パラメータのキャリブレーションを行った。
⑥ 現況における流出解析結果
現況の管網およびポンプ施設をモデル化し,計画降雨によるシミュレーションを行った結
果,流域の広範囲にわたり浸水が発生した。この浸水原因については,管きょ能力不足とポ
ンプ能力不足が考えられるが,どちらが主要因であるか判断することが困難であった。
そのため,ポンプ場へと流入する区間を上流部に影響が出ない開水路へと変更したモデル
を別途作成し,管きょの能力判定を行った。その結果,流域の上流部において浸水を起こす
ことが認められ,管きょの能力不足が主要因であると判断された(図 6-23)。
縦断図表示路線
凡
例
浸水箇所
水位が GL-80cm 以上
浸水発生箇所
最高水位線
地表レベル
管底レベル
管頂レベル
マンホール
図 6-23 現況の流出解析結果(上段:平面図表示,下段:縦断図表示)
⑦ 対策案と流出解析結果
流域上流部で発生する浸水被害を解消するため,管きょの流下能力不足区間にバイパス管
きょを新設するものとした。ここで,幹線などの主要な管きょにおいては,地表から 1m 未
満にならない程度のサーチャージ効果を見込むものとし,それに対応するバイパス管きょ計
画を立案した。併せて,前計画(5 年確率に対応した計画)のポンプについても,10 年確率
計画降雨の流入量に対応できるポンプ施設に見直しを図った。
6-27
(87)
●
バイパス管きょ
φ600~φ3000
●
分水人孔
40 ケ所
●
A ポンプ場
(当初計画)
6,393m
(今回計画)
φ1000×120(m3/分)×3 台(既設) →
φ1000×140(m3/分)×3 台(更新)
φ1350×220(m3/分)×3 台(将来) →
φ1350×260(m3/分)×3 台(更新)
対策施設のモデル化を行い,10 年確率計画降雨によるシミュレーションを行った。その結
果,降雨ピーク時には圧力管状態になるものの,幹線などの主要な管きょ区間における浸水
は解消し,サーチャージ効果を見込んだ施設計画が立案されていることが認められた(図
6-24)。
縦断図表示路線
凡
例
浸水箇所
水位が GL-80cm 以上
浸水の解消
地表レベル
最高水位線
管底レベル
管頂レベル
マンホール
図 6-24 対策後の流出解析結果(上段:平面図表示,下段:縦断図表示)
6-28
(88)
(4)について
キャリブレーションは,対象流域のモデル化の妥当性を判断・評価するための重要な作
業である。キャリブレーションを行うに際しては,解析の目的,地域特性およびモデル化
した対象流域の諸元,実測データの信頼性を十分に理解して行う必要がある。
キャリブレーションは,なるべく複数降雨の各種観測データを用いて実施することが望
ましい。
表 6-8 にキャリブレーションの視点と主な調整パラメータを示す。
表 6-8 キャリブレーションの視点と主な調整パラメータ
項目
必要なデータ
キャリブレーションの視点
主な調整パラメータ
総流出量
・降雨観測データ
・流量観測データ
(またはポンプ
排水量と排水時
間)
・流量観測値と解析結果との比
較を行い,総流出量の整合性
を確認する。
・不浸透面積率
・直接流出域率
・初期,最終浸透能
・流出係数,等
・降雨観測データ
・流量観測データ
・流量観測値と解析結果との比
較を行い,初期流出量および
流出時刻の整合性を確認す
る。
・窪地貯留深
・初期浸透能,等
・同上
・流量観測値と解析結果との比
較を行い,ピーク流量・水位
の整合性を確認する。
・地表面粗度係数
・管内粗度係数
・浸透減衰係数,等
・浸水記録と解析結果との比較
・浸水記録
(浸水範囲,浸水継
を行い,浸水範囲の整合性を
続時間,浸水深)
確認する。
・浸水継続時間や浸水深が既知
の場合には,その整合性につ
いても確認する。
・不浸透面積率
・直接流出域率
・初期,最終浸透能
・流出係数,等
降雨初期の
流出量
ピーク流量・水位
および発生時刻
浸水状況
6-29
(89)
第7章 既存施設の能力評価
7.1 既存施設の能力評価を行う目的
既存施設の排水能力を評価・把握することで,内水による浸水の原因が雨水排除施設の
どこにあるのかを明らかにする。
【解説】
これまで下水道施設は,5~ 10 年確率降雨に対応する排水能力を確保すべく,雨水排水
計画を策定して施設整備が進められてきた。しかし,雨水排水計画を策定した当時の予測
を上回る都市化により不浸透域が増加していること,5~10 年確率降雨を上回る超過降雨
が増加していることに伴い,現状では雨水流出量が既存施設の有する排水能力を上回り,
内水による浸水が発生している。
内水による浸水の発生原因として,次の要因が考えられる。
① 下水道施設の能力不足による浸水
② 河川などに放流できないことによる浸水
③ 計画時を上回る超過降雨による浸水
雨水流出量や下水道施設の排水能力を計算し,下水道施設のどこに問題があり,どの程
度の確率年降雨に対して安全であるかを確認することは,効果的で効率的な改善対策を策
定し,施設計画を実施する上で重要な項目である。
また,従来の雨水排水計画は,排水区に降った雨を流量調節することなく,河川などに
全量放流することが基本であったが,放流先の水位が高く自然排水できないケースや,河
川管理者が河道の流下能力に合わせて放流量を制限しているケースもあることから,改善
対策を策定する上で,放流先となる河川などに対する能力評価を行うこともポンプ場施設
や貯留施設の必要性に関わる重要な項目である。
なお,下水道施設が未整備の排水区においても,何らかの施設で雨水排除が行われてい
ることから,既存の排水路や道路側溝,ポンプ場施設,貯留施設などがある場合にはそれ
らの活用状況を把握し,排水能力を評価しておくことが望ましい。
7-1
(90)
7.2 既存施設の能力評価で用いる解析手法
既存施設の能力評価を行う場合,以下に示す解析手法が用いられている。
(1)雨水流出量の算定は合理式を基本とする。
水位計算は等流,または不等流計算により動水勾配線を算出する。
(2) 詳細な能力評価を行う場合は流出解析モデルを用いる。
(3) 既存施設の排水能力と合わせて,浸水区域を想定する場合は,「①浸水シミュレーショ
ン手法」,「②地形情報を活用した手法」,「③浸水実績を活用した手法」のいずれかで
設定する。
【解説】
(1)について
管きょやポンプ場施設の設計では一般的に合理式によるピーク流出量が用いられ,貯留
施設の検討でハイドログラフが必要となる場合は,合理式合成法が採用されている。合理
式は降雨強度式,流出係数,流達時間に関する資料の入手が容易であり,計算過程も簡便
で広く採用されていることから,雨水流出量の算定は合理式を基本とする。
なお,合理式は任意地点でのピーク流出量を計算するものであり,合理式による任意地
点のピーク流出量を用いた管きょの水位は,時間の連続性を保証したものではない。この
ことの解決には,降雨継続時間内の降雨強度による流出量を比流量として与え,同一時刻
における排水区域内の管きょの水位を計算するなどの工夫が必要となる。
また,下水道施設の管きょは背水の影響がないものとして扱い,水面勾配は管底の勾配
と等しいものとして, Manning(マニング)式や Kutter(クッター)式で流速を計算し
ている。しかし,放流先となる河川や接続先となるマンホール内の水位が管頂よりも高く
背水の影響を受ける場合や,雨水流出量に対して管きょの排水能力が小さい状況では,等
流または不等流計算により動水勾配線を算出し,動水勾配線が地盤高を上回るかどうか検
証する必要がある。
(2)について
合理式による雨水管理計画は任意地点のピーク流量を算定するものであり,排水区全体
を時系列的に非定常で評価することはできない。下水道システムは一般的に管きょ,堰,
ポンプ場施設などから構成されている。特に,内水による浸水は非定常流れにおける圧力
管状態において発生しており,排水区全体をより詳細に能力評価を行う場合は,ポンプの
運転状況や管きょ内の水位挙動など,それらを一体的に取り扱うことのできる流出解析モ
デルが有効である(流出解析モデルの詳細は「6.4 流出解析モデルの概要」を参照)。
(3)について
浸水区域を想定する手法として,「内水ハザードマップ作成の手引き(案)(国土交通省
平成 21 年 3 月)」において,以下の 3 手法が挙げられている。
① 浸水シミュレーション手法(図 7-1)
② 地形情報を活用した手法(図 7-2)
7-2
(91)
③ 浸水実績を活用した手法(図 7-3)
浸水区域を想定する際は,地域特性や下水道施設を適切に評価することができる流出解
析モデルを用いた浸水シミュレーション手法が望ましい。
しかし,流出解析モデルでシミュレーションを行うためのデータが不十分で,下水道施
設の整備率が低く,浸水実績が不明な場合は地形情報を活用した手法を,浸水実績のデー
タが十分にあり,想定される浸水状況が浸水実績をもとに再現可能であると判断できる場
合は浸水実績を活用した手法を適用する(各手法の詳細は「内水ハザードマップ作成の手
引き(案)(国土交通省
平成 21 年 3 月)」を参照)。
図 7-1 浸水シミュレーション手法のイメージ
出典:内水ハザードマップ作成の手引き(案)平成 21 年 3 月
国土交通省都市・地域整備局下水道部
7-3
(92)
図 7-2 地形情報を活用した手法のイメージ
出典:内水ハザードマップ作成の手引き(案)平成 21 年 3 月
国土交通省都市・地域整備局下水道部
7-4
(93)
図 7-3 浸水実績を活用した手法のイメージ
7-5
(94)
7.3 解析結果の妥当性検討
既存施設の解析結果は,その妥当性を検証しておくことが重要である。
(1) 既存施設の能力検討に先立ち,採用する解析手法の信頼性と妥当性を検証する。
(2) 解析結果の評価は,浸水記録や管きょ内の水位記録などを参考とする。
(3) 浸水被害の想定は,解析結果で得られた浸水深をもとに,現地調査で床上・床下浸水
および道路冠水の判定を行う。
【解説】
(1)について
既存施設の能力評価に先立ち,管きょ内の水位記録や浸水実績などにより,採用する解
析手法の信頼性と妥当性について検討することは,改善対策手法や事業実施順位の妥当性,
対策効果の判定など,改善対策の有効性を評価する上で重要である。
したがって,排水区内に解析手法の評価のための適当な記録がない場合を除き,既存施
設の能力評価に先立ち,採用する解析手法の実用性を検証することを原則とする。
(2)について
解析結果は,浸水記録や管きょ内の水位記録などを参考にして評価を行う。
浸水記録には,浸水区域や床上・床下浸水,道路冠水などの浸水状況が調書として整理
されている。こうした浸水記録のある排水区では,浸水区域や浸水深を参考にして解析結
果の妥当性を検証することができる。ただし,浸水実績を整理する際は降雨の時間帯にも
留意する必要があり,浸水発生が深夜で道路冠水程度の被害であれば浸水被害として報告
されない場合があるため注意が必要である。
管きょ内での水位は,マンホール内の最高水位が記録されていたり,自記記録計による
水位の記録がある。自記記録計の種類によっては,急激な水位上昇によるマンホール内で
の閉塞空気の圧縮,ポンプ運転やゲート操作による空気圧力伝播によって必ずしも正確な
水位が記録されていない場合があるため注意を要する。
ポンプ場施設ではポンプの流量計や堰による計測はまれで,一般的にはポンプ運転日誌
の中でポンプ運転台数と稼働時間が整理されている。そのほかに,ポンプ井水位と吐き出
し井水位の記録があれば,ポンプの性能曲線を利用したシステムカーブからポンプの吐出
量を計算することもできる。
(3)について
浸水記録は浸水深ではなく,床上・床下浸水および道路冠水等の被害状況で整理されて
いることが多く,被害状況から浸水深を想定する場合は一般的に,
「下水道事業における費
用効果分析マニュアル(案) 平成 18 年 11 月 (社)日本下水道協会」や「内水ハザードマッ
プ作成の手引き(案) 平成 21 年 3 月 国土交通省 都市・地域整備局下水道部」で記載され
ている次の浸水深を参考としている。
① 床上浸水:浸水深 45cm 以上
7-6
(95)
② 床下浸水:浸水深 20cm 以上~ 45cm 未満
③ 道路冠水:浸水深 20cm 未満
※アンダーパスは別途考慮
しかし,解析時に使用する地盤高は必ずしも宅盤高と一致しておらず,道路や宅盤の違
いといった詳細な地形の凹凸までは浸水シミュレーションで再現することは難しい。
そのため,解析で得られた浸水深で被害状況を設定し,解析手法の妥当性を検証するこ
とはできる限り避け,被害状況については浸水深をもとに現地調査を行い,実際に床上・
床下浸水が発生するかどうか,道路冠水の範囲は妥当かどうか確認する。
7-7
(96)
7.4 既存施設の能力評価
既存施設の能力評価は,施設ごとに以下に示す項目について行うことを基本とする。
(1) 管きょやポンプ場施設の能力評価は,ピーク流出量を対象に評価を行う。
(2) 貯留施設の能力評価は,ハイドログラフから計算した貯留量を対象に評価を行う。
(3) 雨水浸透施設は,雨水流出過程の施設と位置付けて評価を行う。
【解説】
(1)について
管きょやポンプ場施設の場合,合理式等から計算されるピーク流出量(合流式下水道で
は時間最大汚水量を含む)を排除できる排水能力が必要である。
管きょの場合,能力評価の対象は,幹線管きょを主体とし、必要に応じて主要な枝線を
加えることとする。なお、道路冠水などが発生している箇所については,周辺範囲を含め
た全ての管きょを対象とすることを考慮する。なお,能力評価で対象とする主要な枝線と
は,内水による浸水の発生が懸念される次の対象区域にある枝線が該当する。
① 浸水実績のある箇所
② 地盤高の低い箇所
③ 動水位の高い箇所
④ 増補施設によって水位の影響を受けると予想される箇所
合理式によるピーク流出量の計算では,管きょの摩擦損失から動水位を計算し,動水位
が地盤高を越えないかどうか確認する。サーチャージを考慮した流出解析モデルを使用す
れば,ポンプの運転状況などを反映した実測水位や浸水実績の再現が可能となり,より詳
細な能力評価を行うことができる。
なお,確率年降雨ごとに雨水流出量から動水位を計算し,管きょ内の水位,マンホール
からの溢水箇所と溢水量から浸水区域と浸水深を表示することによって,排水区全体の能
力評価や個別の管きょの能力状態,浸水に対する安全度,浸水の原因などについて知見を
得ることができる。
(2)について
貯留施設の能力評価では,ハイドログラフから計算される貯留量をもとに評価を行う。
貯留施設への貯留方式はオリフィス,堰,ポンプ場施設によるものが多く,施設ごとに流
量公式が種々あるため,その構造については十分に調査し確認する。
なお,貯留施設の貯留量は,流入量と流出量を逐次計算する雨水調節計算で行うことが
一般的であり,貯留池の時間的水位記録をもとに貯留施設の評価を行うこともできる(雨
水調節計算については「6.3.2 雨水調節量の算定」を参照)。
また,貯留施設は満水になると対策効果はゼロとなるため,管きょやポンプ場施設と異
なり,ピーク流出量よりも総流出量が重要となる。そのため,貯留施設の能力評価は一般
的に用いられている 24 時間継続の中央集中型降雨だけでなく,実際に浸水被害が発生し
た実績降雨や,長雨・連続降雨などのモデル降雨についても評価しておくことが望ましい。
7-8
(97)
(3)について
雨水浸透施設は雨水流出過程の施設として位置づけ,その効果は雨水流出量を低減する
施設として評価することができる。
雨水浸透施設が設置されている場合,ピーク流出量や総流出量を計算し,管きょ内の水
位の低下や浸水軽減効果を定量的に評価する。
なお,雨水浸透施設の流出抑制効果については,「下水道雨水浸透技術マニュアル 2001
年 6 月 (財)下水道新技術推進機構」,「増補改訂 雨水浸透施設技術指針(案) 調査・計画
編 平成 18 年 9 月 (社)雨水貯留浸透技術協会」および自治体で発行している宅地開発に
伴う浸透施設等設置技術指針などを参照する。
7-9
(98)
第8章 雨水対策手法
8.1 総 説
雨水対策手法は,長期的な見通しを立てたうえで,雨水排除,貯留,浸透に加え,雨水の
有効的な活用や災害リスク等も含め,総合的雨水管理計画に向けて,段階的に効果の発現
を期待できる確認が可能な手法を選定する必要がある。
【解説】
雨水対策の手法は,目標を達成するために必要となるハード対策について,経済性を考
慮して計画することが基本となる。一方、実際は関係機関における制約により長期的に実
施が困難な場合もしばしばあり,各自治体の整備優先順位に応じて段階的に実施可能な施
策を選択する必要がある。
また,健全な水循環の構築,水環境の創出といった循環型社会への寄与が望まれる背景
から,貯留した雨水を晴天時に有効活用する等の役割についても留意のうえ,総合的な効
果を検証してハード対策手法を選定する。
更に,最近では,超過降雨が増加する傾向や財政事情から整備の遅れが課題となってい
る。このため,長寿命化対策により既存施設を最大限有効活用するとともに,適宜,維持
管理の効率化,情報収集・提供,被害最小化のための連携支援等のソフト対策についても
取り入れることが望ましい。
雨水対策手法は,一般に図 8-1 に示すように分類される。
管 き ょ の 新 ・ 増 設
ポ ン プ場 新 ・ 増 設
ハ ー ド 対 策
貯
留
施
設
浸
透
施
設
維持管理の効 率化
雨水対策手法
雨 水 整備 手法
ソ フ ト 対 策
情 報 収 集 ・ 提 供
多種にわたる連携・ 支援
施設のネ ット ワー ク化
そ
の
他
降 雨 情 報 管 理
土 地 利 用 の 管 理
図 8-1 雨水対策手法の分類
8-1
(99)
8.2 ハード対策
ハード対策手法は,合理式等によって算出されたピーク雨水流出量に対して,管渠やポン
プ場を活用して強制的に排水する手法と,雨水を貯留したり浸透させたりして,できる限り雨
水の流出を遅らせ,または減少させる流出抑制型手法に分けられる。
前者は,雨水を速やかに排除するために必要な管きょやポンプ場等の施設規模を定め,
後者は、雨水を緩やかに流すことでピーク流出量を抑制し,下流の雨水排水施設への負荷
を軽減することで能力増強を図ったり,放流先となる河川の流下能力に整合させるために,
必要な雨水貯留・浸透施設等の規模を定める。
両手法ともに、地上・地下の環境条件,経済性,用地確保の難易,維持管理等を総合的
に評価したうえで,最適な対策手法を採用する。
(1) 排水能力の増強対策
排水施設の能力を増強する対策。「管きょの新設・増設」と「ポンプ場の新設・増設」に大
別される。
(2) 雨水流出抑制対策
雨水のピーク流出量を抑制する対策。「雨水貯留型」,「雨水浸透型」に大別される。
【解説】
(1)について
① 管きょの新設・増設
管きょの流下能力を向上させる方法としては,新設・増設による手法がある。前者の
新設は管きょの新規布設あるいは能力増強を目的とした布設替えであり,後者の増設は
流下能力の不足分を別途の管きょで流下させるもので管きょの増設,すなわち増補管を
意味する。また,増設は緊急対策として暫定的に貯留の目的で布設する場合もある。
管きょ施設は,自然流下を原則としているため,地上・地下の環境条件,経済性,用
地確保の難易,維持管理等を総合的に評価し,地形に順応した配置計画を策定する。な
お,管きょルートはマンホール部等におけるエネルギー損失を極力小さくなるよう考慮
する。計画区域内に既存排水路がある場合には,効率的な整備を行うために積極的にそ
の活用を図ることが重要である。ただし,農業排水路の場合,市街地からの雑排水の排
水路として利用しているものもあるため,市街化が進んでいない段階では農業排水路と
して,市街化が進んだ後には下水道施設とするなど,時系列的に活用する方法もある。
② ポンプ場の新設・増設
ポンプ排水区域は,原則として放流先水域の計画外水位を基準にして動水こう配線を
上流に引き,地表面がこれより下になる区域とする。この場合の計画外水位は,地域の
重要度,経済性,維持管理等を総合的に判断する。また,外水位が低く自然流下が可能
な場合にはバイパス管の布設も考慮する。
一方,ポンプ場の新設・増設は用地確保等の地上・地下の環境・施工条件から困難な
場合が多い。このような場合には,流出抑制施設等による他の手法との組み合わせを考
慮することが有効である。
8-2
(100)
(2)について
近年の急激な都市化の進展は,都市における雨水の浸透域を減少させ,その結果として,
雨水流出量を増大させるとともに短時間に雨水が流出する原因となっている。また,放流
先の河川改修の遅延によって放流可能な雨水流出量に規制が設けられることがあり,抑制
が必要となる場合がある。このため,雨水対策はこれまでの河川改修に併せた下水道整備
による雨水をできるだけ速やかに流出させる対策に加え,雨水を貯留,浸透させ,できる
だけゆっくり流出させたり,減少させたりする雨水流出抑制手法が極めて重要となってい
る。
なお,雨水流出抑制は,単に施設による対応のみでなく,雨水が管きょに流出する以前
の対策等,土地利用の計画的管理も有効であり,開発行為に対する行政の適切な指導およ
び啓発の他,河川,道路など行政所管の連携を密にし,一体となって対応する必要がある。
雨水流出量の抑制手法は,図 8-2 に示すように雨水貯留型と雨水浸透型に大別される。
<雨水貯留型の特徴>
●
雨水が河川等の水域へ流出するのを一時的に抑え,浸水被害を軽減する。
●
植物への散水に使用する他,施設の洗浄水としても活用できる。
<雨水浸透型の特徴>
●
雨水の流出を抑制する効果の他,地下水の涵養や健全な水循環の形成等,多用な
効果が期待できる。
公園貯留,校庭貯留,棟間貯留
広場貯留,駐車場貯留
オ ン サ イト 貯 留
各戸貯留
公共用施設用地への貯留
雨
水
貯
留
雨水調整池
雨水貯留管
オ フ サ イ ト 貯 留
雨水滞水池
治水緑地
防災調整池
空隙貯留浸透施設
(貯留構造体を用いた浸透槽)
雨水流出量の抑制
浸透トレンチ,浸透側溝
雨
水
浸
透
浸透ます,浸透マンホール
透水性舗装
浸透井
土
地
利
用
の
計
画
的
管 理
図 8-2 雨水流出抑制対策の分類
8-3
(101)
降雨強度(mm/h)
浸透・貯留による流出抑制効果
流出抑制能力
継続時間(t)
図 8-3 オンサイト貯留・浸透による流出抑制(ハイエトグラフ)
雨水流出量(m3/s)
ピーク流出抑制量
浸透・貯留による流出抑制量
継続時間(t)
雨水流出量(m3/s)
図 8-4 オンサイト貯留・浸透による流出抑制(ハイドログラフ)
流入ハイドロ
貯留による
流出抑制量
流出ハイドロ
継続時間(t)
図 8-2 オフサイト貯留による流出抑制(ハイドログラフ)
① 雨水貯留型
雨水貯留型は,雨水総流出量に変化はないが,流出した雨水を一時貯留(ピークカッ
ト)して,下流への流出量を平準化することによって抑制する手法である。この雨水貯
留型には,降った雨をその場所に貯留するオンサイト貯留と,流出した雨水を集水して
別の場所に貯留するオフサイト貯留がある。前者は,雨水の流出を発生源で抑制するも
ので,公園・校庭・棟間貯留施設などがあり,規模の小さい施設が流域全体に分散する。
また,後者には雨水調整池,雨水貯留管等の施設があり,既存施設を増強する場合に採
用されることが多く,比較的大規模に雨水流出を抑制するものである。
8-4
(102)
<特
徴>
●
オンサイトは比較的小規模,オフサイトは比較的大規模な抑制施設となる傾向がある。
●
貯留池(調整池)と貯留管に大別される。
●
用地を確保しやすい場合は,貯留池(調整池),確保しづらい場合は公道下を利用し
た貯留管となることが多い。
●
貯留方式には,オリフィス方式,ポンプ方式,溜めきり方式の3方式がある。
●
貯留池(調整池)の場合,堀込み式,ダム式,地下式に大別される。
●
貯留管の場合,流入施設が越流方式となり,ポンプ排水となる傾向がある。
長所
・ 溜めた雨水は、雑用水(樹木への散水
など)として利用でき、水道代の節約に
なる。また、トイレ洗浄水として利用する
と 1~3 日分相当が確保できる。
・ 設置スペースはほとんど必要なく、比較
的簡単な工事で設置できる。
出典:(社)雨水貯留浸透技術協会
短所
・ 容量は 200 リットル程度が主流であり、地
域ぐるみなどの一体的な連携による設
置数拡大がないと、大きな流出抑制の
効果は期待できない。
図 8-6 各戸貯留(オンサイト施設の例)
長所
・ 軽量で施工性が良い
・ 材料のフレキシビリティが高い
・ 浸透機能の付加が可能
・ 運搬車両の小型化、重機が不要
・ トータルコストが廉価
・ 工期の短縮が可能
短所
・ 火気に弱い
・ 高深度の条件では採用が困難
・ コンクリート製より強度が低い
図 8-7 プラスチック製地下雨水貯留施設(オンサイト施設の例)
8-5
(103)
長所
・ 下流雨水施設の小規模化が可能
・ 暫定的に許容放流量による制約を受け
る場合は、将来、超過降雨対応としてグ
レードアップが可能
・ 他事業との連携により、景観向上や遊
歩道等としての活用が可能
・ 晴天時は、グラウンドやテニスコート等、
住民が利用する施設としての活用が可
能
短所
・ 用地確保が困難な地区では、深い構造
となり経済性が低くなる傾向
・ 堆砂除去等の計画的な浚渫が必要
図 8-8 下水道雨水調整池(オフサイト施設の例)
②
雨水浸透型
雨水浸透型は,降った雨水を地中に浸透させることによって,雨水総流出量そのもの
を減少させる効果がある。地下水涵養効果が期待できるが,目詰まりによる長期的な機
能の維持,地下水汚染等に対する課題がある。雨水浸透施設には浸透地下トレンチ,浸
透ます,透水性舗装等が代表的とされてきたが,最近では貯留構造体を用いた浸透槽等
も採用事例を増やしつつある。採用する浸透方法については,地形・地質条件,浸透能
力の評価,機能の担保,維持管理性等に十分留意する必要がある。
また,雨水浸透施設は,単独で設置されることは希で,各種の流出抑制施設と組み合
わせて設置されることが一般的である。集水区域の規模,設置場所の土地利用の状況等
に配慮し,浸透ますと浸透トレンチあるいは浸透ますと浸透側溝など各種の雨水浸透施
設の構造様式と組み合わせたり,雨水浸透施設と棟間貯留等のオンサイト雨水貯留施設
との組み合わせが行われるが,地盤の浸透能力を適切に生かすとともに,雨水浸透施設
への目詰まり物質の流入を防止することができるよう,雨水排水システムを構築するこ
とが重要である。
一方,雨水浸透施設は土地管理が必要であり,住民に対する行政の適切な指導および
啓発を図るだけでなく,公共施設用地での対応を含め,住民と行政が一体となって推進
を図ることが重要である。
8-6
(104)
<特
徴>
●
浸透能力を持続的に確保するための維持管理方法が確立されていないことが懸案となりう
る。
●
土質条件により,施設の浸透能力が左右されるため,適用できない場合がある。
●
健全な水循環の構築に寄与できる。
●
下水道計画上の位置づけとして,浸透量を見込むかを明確に区分けすることによって,活用
用途が異なる(恒久的な下水道施設あるいは補助的施設等の使い分け)。
●
急斜面等地滑りをおこす可能性のある地盤での利用は不可となる。
●
浸透舗装は,車両等の通過による舗装面の摩耗が起因した性能の低下が懸案となっているた
め,交通量の多い場所での採用は適さない。排水性舗装との組み合わせ等により,役割を明
確化して活用することが望ましい。
浸透ます
浸透トレンチ
浸透舗装
浸透ますの構造
出典:(社)雨水貯留浸透技術協会
図 8-9 各種雨水浸透施設
③ 流出抑制施設の効果的な活用
大規模な開発地区においては,近年,調整池に加え,校庭,公園,集合住宅の棟間等
に雨水を貯留するオンサイト雨水貯留施設や雨水浸透施設を開発地区に面的に分散配
置し,調整池への貯留負担の軽減を図ることによって調節容量の削減が図られるように
なった。
8-7
(105)
雨水浸透施設は,雨水貯留施設と併用することにより,雨水貯留施設の調節容量の減
少が図られるだけでなく,雨水の浸透により地下水涵養が促進されるなど,都市化によ
る不浸透化が緩和され,健全な水循環の保全・再生等の効果が期待できる。
流出抑制方式の検討に当たって留意すべき事項は,以下のとおりである。
●
治水上,土地利用上から支障のない配置,構造であること
●
施工が容易で経済的であること
●
関係部局との協議・調整が必要であること
●
維持管理が容易であること
●
生態系,水循環等の環境保全効果が期待できること
●
住民,指定工事店などへの広報活動を行うことによって,事業の進捗を図るととも
に事業効果の明確化を図ること
●
雨水貯留・浸透施設技術要綱等の基準を作成することが望ましい
●
雨水浸透は,長期的な機能維持に配慮のうえ,将来的な下水道上の位置付けも念頭
に入れて事業着手すること
なお,事業化にあたっては,事前に施設管理者と効果,財源等について十分に協議し,
総合的に評価のうえ採用する必要がある。
8-8
(106)
8.3 ソフト対策
これまでの浸水対策は,一定の整備水準を定めたうえで,施設の整備によるハード
対策を推進することにより,浸水解消と軽減が図られるものであるが,整備完了には
長期間を要する他,厳しい財政事情等が足かせとなり,事業が大幅に遅れている場合
も少なくない。
また,近年,計画規模を上回るような局所的な集中豪雨が各地で頻発している状況
を踏まえると,ハード対策のみでの浸水被害の防除は困難である。
そこで,浸水被害を最小化していくために,ハード対策とあわせて,維持管理体制
や情報収集・提供,他の事業との連携を促す等のソフト対策を促進する必要がある。
【解説】
浸水対策は,これまで整備水準を定めたうえで,下水道整備によるハード対策を推進す
ることにより,起こりうる降雨に対して浸水解消と軽減を目的として,鋭意,整備が進め
られてきた。
近年では,全国的な傾向として各地で局所的な集中豪雨が頻発し浸水被害が発生しやす
くなっている状況から,雨水整備水準の見直しを検討するケースもでてきているが,新た
な対策施設の整備までに長期間を要する他,厳しい財政事情等もあり,ハード対策だけで
は対応が困難となっているのが実情である。
このような背景から,従来の施設整備によるハード対策に加えて,ソフト対策を目標達
成のための対策の一部として組み込み,浸水被害の最小化を図っていくことが必要となっ
ている。
ソフト対策には,公助によるものと自助・共助によるものがあり,前者は効率的な維持
管理体制の構築,情報収集・提供,他の事業主体との連携,自助対策の支援等がある。後
者は主に地域住民の協力が前提となるものであり,日常における道路雨水ますの清掃,降
雨時の土のう積み,災害発生時に向けた自主的訓練,災害ボランティアとの連携等があり,
今後の雨水対策の一部として非常に重要な役割を担うものとして期待されている。
特に,自助・共助によるソフト対策は,地域住民がどのような対応を実施していけばよ
いかを把握しない限り発展は望めない。地域住民の理解を深めるため,日頃から啓発活動
を通じて行政サイドで実施する対応,自助に求める対応について明確化し,個人が受けも
つ対応の重要性を認識していただき,協力を得る必要がある。
ソフト対策は,ハード対策との組み合わせにより効果を発現する場合がほとんどである
ことから,地域の特性を考慮のうえ,段階的な発現効果を確認しながら目標に到達してい
くことに留意し,施策に反映していく工夫を計画に盛り込む必要がある。
8-9
(107)
表 8-1 ソフト対策手法の特徴
対策の特徴
実施に至るまで
の調整等
ハ 情
自 下 他
運
報
で
共 円主 水 部
用ド
の
の 調
有 滑防 道 局
支対 広
実 整
化 化衛 部
と
援策 報
施
の 局 の
の
・
○
○
○ ○
○
○
○
ー
区 分
ソフト対策手法
・雨期前の重点的管路清掃,ポンプ場の点検作業
・危機管理体制,事前準備体制
・下水道施設被災状況調査体制の構築
・光ファイバーネットワークの活用による浸水情報の収
降雨時 集・提供及び処理・制御等
・被災時 ・降雨・水位情報を利用した施設の効率的運用
・被災後 ・降雨情報,幹線水位情報の提供
情
・住民等からの浸水情報の収集と提供
報
収
・下水道雨水排水整備状況図の作成・公表
集
・内水ハザードマップの作成・公表
・
・過去の浸水履歴の表示
提
平常時 ・浸水に関する防災手引き・リーフレットの作成・配布
供
(防災) ・建築上の配慮に対する普及啓発
・住民の理解を深めるための取り組み(でまえ授業・見
学会・個別訪問等)
・住民にわかりやすい対策効果の設定と公表
・止水版及び土のうの配布,各戸貯留・浸透施設の設
自助対策の支援
置に対する支援制度
・法律等による各戸貯留・浸透施設の設置促進を目的と
した施策
・土地利用規制等による浸水に強いまちづくり
他の事業主体との連携 ・低地における住宅の嵩上げの義務づけを目的とした施
策
・雨水ポンプの運転調整
・被災時支援
・道路雨水ますの清掃
・土のう積み・体験訓練
・避難所,避難経路等の確認,自主避難訓練
・高齢者等災害時要援護者の支援
・非常時持ち出し品の確保
・災害ボランティアとの連携
・電話等の情報伝達手段がたたれることを想定した情報
自 助・共 助
伝達訓練
・様々なハザードマップをもとに地域特性に応じた項目を
追加した複合的ハザードマップ作り
・マンション上階等を一時的な待避場所として提供する
取り決め
・水はけを良くするための雨水ますや側溝のごみや泥の
定期的清掃
維持管理・体制
公助
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
住
民
の
協
力
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
出典;下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案)
平成 18 年 3 月 国土交通省 都市・地域整備局下水道部を一部加筆
8-10
(108)
8.4 その他の有効な手法
その他・有効な手法としては,降雨の偏在性を考慮した施設の効率的な利用を図るネット
ワーク化,また関係部局への情報提供による各種支援が可能な降雨情報管理,さらに土地
利用の規制および建物等の耐水性を図る土地利用の管理等がある。施設の効率的な運
用,多目的な利用の観点から,これら手法を採用する。
(1) 施設のネットワーク化
(2) 降雨情報管理
(3) 土地利用の計画的管理
【解説】
(1)について
一般に,降雨は流域において一様に生じるものではなく地域的に偏在している。これは,
降雨強度が大きいほどその傾向は顕著である。
このため,管きょ,ポンプ場等の施設をネットワーク化することは,降雨の偏在性から
施設の効率的な運用が可能であり,また局地的な計画規模以上の降雨に対しても浸水の回
避が期待される。更に,合流改善対策,防災対策等の施設をネットワークに加えることに
よって,施設の使用頻度の向上および有効利用を図ることができる。
ネットワーク化を図る目的は、管きょをループ的な構造とし、雨水を分散することより
能力不足となる箇所の負荷を軽減することにあるが、地形条件等により本来見込んでいな
かった雨水が、局所に集中して過負荷となることが課題として挙げられる。
最適なネットワーク化を図るためには、流出解析モデル等を利用して効果と影響を検証
することが望ましい。
(2)について
降雨情報管理は,降雨時の早期動員体制,ポンプ場および雨水貯留施設の運転支援,関
係管理事務所ならびに防災センターへの情報提供等に対して有効な支援システムとして活
用される。具体的には,雨水施設の運用上における降雨情報管理は,合流改善対策と浸水
対策を同一の施設で行う場合や,先行待機型のポンプ運転など雨水施設全般の効率的運用
に向けて活用できる。
海外では,既存排水システム内の送水・貯留能力を最大限に活用するために,降雨予測
情報を組み合わせたリアルタイムコントロールによる制御が図られている事例もある。リ
アルタイムコントロール制御は,量・質の負荷変動に対して時系列的に対応するものであ
り,浸水対策のみならず合流改善策,処理場に対する最適運転や適正流入量対策等に応用
することができる。
8-11
(109)
図 8-10 梅田ポンプ所流域におけるリアルタイムコントロール事例
出典;「梅田ポンプ所流域リアルタイムコントロールシステムの運用について」
東京都水道局技術調査年報 2006
(3)について
雨水流出量の抑制は,施設の対応のみならず,雨水が管きょに流入する以前において,
流出量を減少させる対策を含めた土地利用の管理が必要であり,行政の適切な指導及び流
出抑制の啓発の他,河川,道路,公園施設等の各管理者との対応等行政間の連携を密にし,
行政が一体となって検討することが重要である。
8-12
(110)
第9章 整備計画
9.1 総 説
雨水整備計画は,雨水管理の観点から,住民の生命・財産および交通・通信等の都市機
能を浸水から守り,都市の健全な発達に寄与すること目的として行う。
対象となる地区の実状と財政を考慮し,段階的な目標を設定し,雨水管や雨水ポンプ場
の整備だけでなく,調整池等の流出抑制施設を取り入れ,効率的,かつ効果的な雨水整備
計画を策定するものとする。
また,各戸における浸透施設等の自助の促進や,ハザードマップ等のソフト対策を取り入
れ,浸水被害の最小化を図る総合的な計画とする。
【解説】
雨水整備計画は計画確率年降雨に対応したピーク雨水流出量をできるだけ速やかに流
下させ,排水させる方法が基本的な計画手法となるが,これに貯留および浸透,管渠のル
ープ化などにより,できるだけ雨水の流出を遅らせたり,減少させたりする流出抑制を組
み合わせて行なう。
これは,雨水整備は所要口径が大きいことから多額の事業費を必要とする財政的な要因
や,下流側の水路の流下能力不足や放流規制等の放流先の状況などの外的要因によるもの
であり,これらを考慮しながら効率的な雨水整備を行っていく必要があるためである。
また,雨水整備を行ったことにより,当該地区からの既設水路(管きょ)への雨水流入
量が増加することがあるが,その水路に流入する他の地区の雨水排水能力に影響を及ぼさ
ないよう留意する。
降雨については,従来から形態が異なってきていることにも配慮しなければならない。
浸水被害を発生させる降雨の多くは計画降雨を超過するものがほとんどであるが,これら
の中にはきわめて短時間でかつ局所的なものもある。
したがって,ピーク雨水流出量に対応した施設計画だけではなく,局所的な対策手法と
して速効性があり比較的建設費が安価な雨水貯留施設あるいは雨水浸透施設と組み合わせ
た施設整備手法が効果的な場合も多い。さらに,超過降雨対策として,既往最大降雨が発
生した場合,どの程度の浸水被害が発生するかを把握することも必要である。
整備を進めるにあたっては,河川管理者や土地改良区など,排水先を管理している機関
と十分な協議を行うとともに,上位計画として特定都市河川浸水被害対策法に基づく流域
水害対策計画が策定されている場合は,整合を取った計画とする必要がある。
以上から雨水整備計画の基本方針は,下記に示すとおりとする。
① 浸水常襲地区から順次緊急的に整備を行う。
② 流域水害対策計画が策定されている場合には整合を図る。
③ 費用対効果に配慮し,コスト縮減に向けた効率的な整備方法を採用する。
9-1
(111)
(ⅰ) 排水施設
原則として,ピーク雨水流出量を管きょ,ポンプ場等の流下・排水施設で対応する。
既存排水施設能力を超えるような場合は,分水し,バイパス管に流下させることも考慮
する。また,ポンプは,計画雨水量を遅滞なく排水できる能力を確保する。さらに,管
きょ内の流況は自由水面での流下を原則とするが,土地利用状況,人口および資産の集
積度等を勘案して,既存の管きょの場合は施設の能力を最大限に活用することを念頭に,
サーチャージ状態を許容する場合もある。その場合,流出解析などを用いて既存の管き
ょの流下能力を適切に評価する。
(ⅱ) 流出抑制施設
雨水整備については,雨水を速やかに公共用水域に排除することを基本的な方針とし
て整備を行ってきたが,近年の急激な都市化の進展により,不浸透域が増えたことによ
る雨水流出量の増大や,放流先河川の流下能力不足を原因とする排水能力の減少などに
より,浸水被害が発生しているケースも多く見られる。
これらの対策については,一般的に河川改修や下水道の整備などの直接的な対策が整
備効果を期待しやすいともいえる。ところが,これらには多額の事業費が必要であり,
さらに事業実施時期を放流先の河川整備状況等に整合させることも困難なことがある。
このような状況の下で,近年,雨水流出そのものを極力減らすことによって浸水防除
を図ることを目的として,雨水の流出抑制を考慮した施設整備手法が導入されることが
ある。流出抑制施設のうち,雨水浸透施設においては,地下に雨水を浸透させることに
よって,地下水の低下あるいは地盤沈下を防止し,さらに湧水の復活など,都市域の水
循環の健全化の面でも効果を発揮する場合がある。
流出抑制施設の整備にあたっては,下水道のみならず,行政側の関係部局,民間事業
者,住民等を巻き込んだ総合的な取り組み方針を示していく必要がある。
検討にあたっては,放流先河川の許容放流量,都市化の進展による流出量の増大など
の条件を整理し,整備目標の高水準化への対応などの流出抑制施設の位置づけを定め,
整備の時間軸に配慮して効率的な流出抑制施設を選定する。
① 雨水貯留施設
一般に,雨水貯留施設は下記に示すような状況の場合に設置されることが多い。
●
放流先河川等の改修の遅延によって放流量に制限がある場合
●
上流域の開発によって,下流側の管きょ流下能力の不足およびポンプ排水能力が不
足している場合
●
整備水準の向上において,管きょおよびポンプ場の増強が困難な場合
放流先河川への放流量に制限がある場合は,比流量見合になるようにピーク雨水流出
量をカットする必要がある。また,下流側の管きょおよびポンプ場の能力を補完する場
合は下流側の管きょの能力に見合うようにピーク雨水流出量をカットする。この場合,
管きょの改修で対応する場合と比較すると,改修延長が長くなるほど経済的に有利とな
る。なお,雨水調整池は比較的広い用地が必要であり,公共用地内に設置する場合,管
理者と十分に協議し,管理区分を明確にする必要がある。
9-2
(112)
② 雨水浸透施設
雨水浸透施設の能力は土壌の浸透能および地下水の状況等,さまざまな要件が作用し,
効果を把握し難いが,適切な調査のもとに設置された施設については,それらの適切な
維持管理を担保として下水道計画に位置付けることも可能な場合がある。
当面は,
「雨水浸透施設の整備促進に関する手引き(案) 平成 22 年 4 月 国土交通省 都
市・地域整備局下水道部,国土交通省 河川局治水課」等に基づき,雨水浸透施設の導
入を考慮していくことが望ましい。
9-3
(113)
9.2 段階的整備計画
雨水整備計画は,各種対策手法を組み合せ,当面,中期,長期の各整備目標に対して,
段階的に効率的な整備計画を策定する。
【解説】
雨水排除施設は,概して汚水処理関連施設に比較して規模が大きくなり,施設整備には
時間を要することから,重点的,効率的,継続的な事業の展開を図るため,段階的な整備
により,早期に効果を発現できる計画とする。
また,流下型施設(管きょおよびポンプ場の新・増設)と流出抑制施設(貯留施設,浸
透施設)を併せた総合的なハード整備に加え,情報提供や自助対策の支援等のソフト対策
の促進を図り,近年,多発している計画超過降雨に対して浸水被害の最小化を目指すもの
とする。
段階的な整備計画の策定にあたっては,整備の優先順位を明確にすることを目的として,
社会的な影響(生命の保護,都市機能の確保,個人資産の保護)や浸水被害実績等の浸水
危険度を踏まえて,「下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案)平成 18 年」や,関連
する事業制度を参考に,対象地区について表 9-1 に示す区分(例)に示すように「重点地
区」,「一般地区」等の分類を行い,段階的な整備計画を立案することが望ましい。
「重点地区」と「一般地区」は,以下のとおりに設定する。
重点地区: 人命の保護,都市機能の確保,個人財産の保護の観点から設定された,地下
空間高度利用地区,商業・業務集積地区,床上浸水常襲地区
一般地区: 重点地区以外の下水道計画区域
表 9-1 段階的整備の区分(例)
整備段階
当面
中期
中期
(レベルアップ)
長期
対象地区
対象降雨
重点地区
10 年確率かつ既往最大降雨
一般地区
―
重点地区
10 年確率かつ既往最大降雨
一般地区
5 年確率程度
重点地区
10 年確率かつ既往最大降雨
一般地区
10 年確率程度
重点地区
10 年確率かつ既往最大降雨
一般地区
10 年確率
備考
中期=長期のケー
スもある
各整備目標に対する段階的整備計画の例を表 9-2 に示し,各段階の整備計画について概
説する。中期の計画については 5 年確率相当の整備完了後 10 年確率にレベルアップする
など段階的に整備を行うケースもあるため,本事例においては 2 段階に分けたケースを示
した。
9-4
(114)
① 当面の計画
地下空間利用地区,商業地区,床上浸水常襲地区等を勘案して当面の整備の中心とな
る重点地区を設定し,整備計画を立案する。
既存排水路の流下能力不足を考慮し,投資効果および中長期の目標との整合にも配慮
した効率的なハード整備計画を立案するとともに,既往最大降雨に対して浸水被害の最
小化を目指し,ソフト対策を推進する。
ハード整備は,早期の効果実現が可能な手法を優先的に適用し,放流規制等にも対応
できるよう,流下管による手法だけでなく,雨水流出抑制施設についても検討する。
一方,ソフト対策では,内水による浸水情報や避難方法等に係る情報を提供する内水
ハザードマップ等の公表により,地域住民の防災意識の向上と自発的な避難の心構えを
養い,自助の促進を図る。
② 中期計画
通常,既設管きょの流下能力が計画雨水流出量に対して不足している場合が多いこと
から,既設排水路を経済性の観点から極力活用することを原則としながら,中期の目標
の計画降雨に対する排水施設の増強を図る。管きょの増強は,不足量に対する増補管の
設置や雨水吐口の統合を図る新設管などを検討する。また,ポンプ場の場合は維持管理,
経済性,用地取得の難易性から施設の集約化あるいは雨水調整池によるピークカットに
よる放流量の平準化が望ましい。なお,放流河川に放流規制がある場合は,比流量等に
ついて河川管理者と十分協議する必要がある。
排水施設によるハード整備に加え,緊急性,実現性,経済性等を総合的に検討し,公
共用地での貯留浸透施設,貯留管,オフサイト型の雨水調整池,雨水流出量そのものを
減少させる雨水浸透施設などを有機的に組合せ,早急に事業化を行い整備の促進を図る。
ソフト対策では,情報提供に加えて自助対策を支援するため,止水板や土のうの配布
などに対する支援制度の事業化を推進する。
③ 中期計画(レベルアップ)
ハード整備では,大規模幹線を新設して既設管きょから分水し,貯留施設として活用
することで重点地区における中期の目標の計画降雨に対応できる対策を実施する。
ソフト対策では,下水道事業だけでなく他の事業との連携策などの検討を推進する。
④ 長期計画
ハード整備では,中期の目標における排水区界・流域界にとらわれず,例えば,中期
計画で整備した大規模貯留管を流下管として流末に大規模ポンプ場を整備し,既往最大
降雨に対しても被害の最小化を図れる対策を実施する。
ソフト対策では,これまでの整備段階で策定した制度(各戸貯留浸透施設補助制度な
ど)や対策・施策(各戸貯留浸透,校庭貯留など)を実施し,総合的な施策により浸水
に強いまちづくりを目指す。
9-5
(115)
表 9-2 雨水対策施設の段階的整備(例)
9-6
(116)
第 10 章 施設計画
10.1 管路施設
管路施設は,次の各項を考慮して定める。
(1) 管きょの断面は,計画雨水量を支障なく排水できるよう決定しなければならない。
(2) 管きょの配置は,水頭の損失が最小となるよう,地形,地質,道路幅員,地下埋設物な
どを十分考慮する。
(3) 管きょの断面,形状および勾配は,管きょ内に沈殿物が堆積しないよう,適正な流速が
確保できるように定める。
(4) 既存排除施設がある場合は,その能力を適切に評価したうえで活用する。
(5) 管きょの構造については,地震時にもその機能を損なわない構造としなければならな
い。
【解説】
(1)について
管きょの能力を決定する場合には,雨水管きょにあっては計画雨水量に基づいて行う。
(2)について
管きょは,自然流下を原則とするため,一般的には地形に順応した配置計画を行わなけ
ればならない。地質,道路幅員,地下埋設物などの状況を十分考慮し,水頭の損失が最小
となるようにその配置を定める必要がある。
特別な場合として,高地盤地区の雨水を河川や海岸沿いの低地盤部を通過させて自然放
流しようとする場合,計画超過降雨の発生時には,圧力流れとなる区間が生じるので,こ
のような区間は水密マンホールを使用するなどして,雨水が噴出しない構造とするととも
にマンホールふたの浮上・飛散や転落防止などの施設面での最小限の施策を行う必要があ
る。
高地盤地区
マンホールふたの
浮上・飛散等の対策
外水位
低地盤地区
図 10-1
低地盤部を通過する雨水排水計画の例
10-1
(117)
(3)について
管きょは,雨水が適正な流速で支障なく流下するように,その断面積,断面形状,勾配
など,管きょ内に堆積物が堆積しないように配慮する必要がある。特に,管きょを雨水貯
留管として計画する場合には,堆積物への対策を考慮する。また,管きょの分合流点,屈
曲点,マンホールなどにおけるエネルギー損失をできるだけ少なくするよう配慮する。
(4)について
計画区域内に既存の排水路がある場合には,面的整備管まで対象とした水位計算の結果
に基づくなど,その採用の採否について検討する。その際には,排水路の系統,能力,構
造およびその将来計画について十分考慮する。
(5)について
管路施設の計画にあたっては,施設の重要度などに応じた地震対策を講じるとともに,
既存施設については,施設の重要度,緊急度などを総合的に判断して段階的に地震対策を
行う必要がある。
また,災害時などのリスク分散のための管路ネットワーク化についても検討する。
図 10-2
大規模雨水幹線の建設などによる雨水幹線ネットワーク化
出典:下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案)平成 18 年 3 月
国土交通省都市・地域整備局下水道部
10-2
(118)
10.2 ポンプ場施設
ポンプ場施設は,次の各項を考慮して定める。
(1) ポンプ場の位置の選定および施設計画にあっては,立地条件および環境条件を十分考
慮して計画する。
(2) 雨水ポンプは,計画雨水量を支障なく排水できる容量でなくてはならない。
(3) ポンプ場は浸水しない構造とする。
(4) ポンプ場の位置は,計画区域内からの排水を合理的に集水できる地点であることおよ
び放流先が確保できることを考慮して計画する。
(5) 急激な豪雨の襲来にも対応できる施設とする。
(6) ポンプ場は,地震時にもその機能を損なわない構造としなければならない。
【解説】
(1)について
ポンプによる排水区域は,原則として放流先の計画外水位を基準にした動水勾配を引き,
これが地表面に出る区域とする。なお計画外水位まで水位が上昇しないときに自然排水が
可能な場合には,ポンプ施設を通さずバイパス管で雨水の自然排水を行うことも考慮する
必要がある。
また,施設計画にあたっては,以下の点に留意する必要がある。
●
揚水後の沈砂池の設置やスクリューポンプの場合の沈砂池の省略などにより,工事費
の低減,工期の短縮,維持管理の容易さを図ることを検討する。
●
駆動用原動機は,台風時,雷雨時などの停電のことも考慮のうえ,起動の信頼性から
内燃機関または自家発電による電動機とすることが望ましい。
●
小降雨時の運転頻度など,電動機駆動の経済性,省エネを考慮して小ポンプの設置を
検討する。
●
騒音,振動,大気汚染などが発生しないよう周辺環境に配慮する。
●
雨量情報をリアルタイムで取り込み,流出解析モデルなどの解析結果を利用して,ポ
ンプ運転の最適制御についても検討する。
(2)について
雨水ポンプの容量は,計画雨水量を遅滞なく排除できるよう計画し,あらかじめ雨水貯
留管として計画された場合を除き,原則として管きょ内貯留は考慮しない。
また,ポンプの故障・整備時や改築時の危機管理対応として予備機を設置する。
(3)について
ポンプ場の位置は,区域内で最も低い箇所となることが多いので,降雨時に浸水してそ
の機能が停止することのないよう配慮する必要がある。計画外水位以下の構造は,防水性
を確保する。また,沈砂池からの溢水に配慮し,特に電気関係の機器は絶対に浸水しない
よう高位置に設置する必要がある。止水壁の設置,搬出入口の高さも十分に検討する。
10-3
(119)
(4)について
ポンプ場の位置によっては,流入管が深くなったり,放流管延長が長くなったりするこ
とで建設費が増大し,経済性の観点から不利となるため,合理的に集水できる位置を選定
することが重要である。
また,ポンプの排水に対して十分な排水能力を有する放流先を確保することが必要であ
る。
(5)について
ポンプ井の水位が設定値以上になってから始動する従来型のポンプでは,急激な雨水流
入に対応することが困難な場合がある。
雨水の急激な流入に対応するために,ポンプ井水位が通常型ポンプの運転可能水位まで
上昇する以前に揚水可能な状態で待機する先行待機型ポンプがあり,地形状況などにより
採用される例も多くある。先行待機型ポンプは,立軸軸流ポンプ,立軸斜流ポンプおよび
立軸渦巻斜流ポンプに適用できる。
立軸軸流ポンプ
立軸斜流ポンプ
図 10-3
立軸渦巻斜流ポンプ
ポンプ設備の構造断面の例
出典:下水道施設計画・設計指針と解説
2009 年版
(社)日本下水道協会
(6)について
ポンプ場施設は地震時においても,必要な排水機能が発揮できなければ,浸水被害が広
がり,その被害も甚大となる可能性があるため,必要な地震対策を講じておかなければな
らない。既存施設では,耐震診断を十分に行い,施設の重要度や緊急度に応じて地震対策
を行う必要がある。
また,冷却系統,燃料系統の補機類について,災害に伴う停電に対しても機能確保でき
るよう自家発電設備の設置,ポンプ場のネットワーク化も検討する。
津波対策については,自家発電設備,受変電設備を想定津波高以上の高さに設置,揚水
ポンプへの冠水対応型モータの採用,開口部などの水密性の確保,設備への衝撃を緩和す
10-4
(120)
る防護壁の設置を検討する。
図 10-4
雨水ポンプ場ネットワークのイメージ
出典:雨水ポンプ場ネットワーク計画策定マニュアル 2008 年 3 月
(財)下水道新技術推進機構
図 10-5
津波に対する防護レベルと対応策の事例
出典:耐津波対策を考慮した下水道施設設計の考え方 平成 24 年 3 月
下水道地震・津波対策技術検討委員会
10-5
(121)
10.3 流出抑制施設
雨水流出抑制施設は,雨水貯留施設と雨水浸透施設があり,また貯留型施設は,主にオ
ンサイト貯留施設とオフサイト貯留施設に分類される。施設の選定に当たっては維持管理体
制,投資効果,事業計画などを総合的に勘案して決定する。
(1) 雨水貯留施設
(2) 雨水浸透施設
(3) 雨水貯留・浸透施設
【解説】
流出抑制施設は、貯留型と浸透型に大別される。これを図示すると図 10-6 のようになる。
浸透ます
浸透施設
(拡水法)
浸透トレンチ
トラフ&トレンチ
浸透側溝
雨水浸透施設
透水性舗装
浸透井戸
(井戸法)
流出抑制施設
貯留浸透施設
オンサイト浸透施設
(流域貯留施設)
乾式井戸
湿式井戸
浸透池
空隙貯留浸透施設
小堤貯留
小掘込貯留
地下貯留
雨水貯留施設
各戸貯留
オフサイト貯留施設
(調節(整)池)
ダム式
掘込式
越流堤式
地下式
図 10-6 流出抑制施設の構造形式による分類
(1)について
雨水貯留施設は,主にオンサイト貯留施設とオフサイト貯留施設に分類される。
オンサイト貯留施設は,浸水区域あるいは浸水被害の発生が予想される区域内に小規模
な貯留施設を面的に点在させ,分散して貯留する方法であり,公園,校庭,棟間,駐車場
貯留などがある。オンサイト貯留施設は維持管理する施設が増えるため施設計画において
10-6
(122)
用地の確保や維持管理計画を十分に検討して策定を行うものとする。
オフサイト貯留施設は,貯留管と雨水貯留池がある。排水区域内の下流側に比較的大規
模な貯留施設を設置するもので,用地確保の問題などを考慮して施設計画を行う必要があ
る。施設の設計に当たっては,施設の設置位置,施設規模,貯留施設への導水方法および
換気・臭気対策など項目を考慮して計画しなければならない。
また,次の点に配慮して施設計画を検討する必要がある。
① 雨水貯留施設の設置位置は,能力不足となる施設の近くに設置し経済的にも有利と
なるものとする。
② 雨水貯留施設の規模は,排水区域内の施設能力以上の雨水を貯留できる施設とする。
また,貯留施設への導水方法および既存施設からの分水方法についても検討し,施
工性,経済性を総合的に考慮して決定する。
③ 雨水貯留施設は , 貯留後 , 次の降雨に備えるためにできるだけ速やかな排水を行う必
要がある。また,底泥堆積への対策として,清掃・維持管理を考慮した形状とする必要
がある。
④ 長時間に及ぶ貯留においては,貯留水の腐敗による臭気が懸念される。特に管内貯
留や地下式雨水貯留池では悪臭物質のうち,硫化水素,メルカプタン等の硫化化合
物の拡散が期待できず,悪臭防止法の規制に抵触する場合がある。また,作業環境
上も非常に危険なことから,この場合には排気設備及び脱臭設備を設置する。
⑤ 排水方法には自然流下による方法,ポンプ排水による方法があり,オフサイト施設
では動水勾配の関係から比較的深くなる場合が多く,この場合にはポンプ排水とな
る。
⑥ 合流改善対策との併用利用を行う雨水貯留施設では初期雨水も雨水貯留施設へ流入
するため,雨水貯留施設内の沈殿水は水質によって放流先の選択も必要となる。
これら貯留型施設の構造形式および概念図は表 10-1~表 10-2 ,図 10-6 ~ 図 10-10 に
示すとおりである。
(参照)現在ではオフサイト貯留施設計画について、「下水道施設計画・設計指針と解
説
2009 年版
(社)日本下水道協会」にも項があり、解説されている。
10-7
(123)
表 10-1 雨水貯留施設の一般的構造形式
型 式
構 造 の 概 念
備 考
公園,校庭,集合住
宅の棟間等に小堤
を造り雨水を貯留す
る。
小堤
HWL
小
堤 貯 留
小 堤 貯 留
オ
ン
サ
イ
ト
貯
留
施
設
側溝
A棟
B棟
進
入
路
小 堀 込 貯 留
小 掘 込 貯 留
HWL
雨水管
地下
下 貯
地 下 貯 留
地
貯 留留
側溝
敷地内や建物の屋
根に降った雨を地下
の貯留槽で貯留す
る。
地下貯留槽
側溝
堤体
ダ ム 式
ダ
ム
式
(堤高15m未満)
(堤高 15m 未満)
オ
フ
サ
イ
ト
貯
留
施
設
HWL
主として丘陵地の谷
部に設けたダムによ
り雨水を貯留する。
放流管
HWL
掘
込
式
堀 込 式
道路
雨水管
放流水路
貯留槽
地 下 式
地
下
式
雨水管
排水ポンプ
河川
調整池
HWL
越
流 堤 式
越 流 堤 式
越流堤
公園,校庭,集合住
宅等の棟間を浅く掘
込み雨水を貯留す
る。
主として平坦地を掘
込み雨水を貯留す
る。HWLが地盤高
程度となる。
公共施設用地等の
地下に貯留する。雨
水は下水道管渠に
より集水する。
河川水路の洪水を
越流堤により貯留し
下流の洪水負担を
軽減する。
出典:宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針の解説 1998 年 2 月
(社)日本宅地開発協会
10-8
(124)
図 10-7 児童公園流域貯留の概念図
出典:流域貯留施設等技術指針(案)-増補改訂版-2007 年 3 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
10-9
(125)
図 10-8 近隣公園流域貯留の概念図
出典:流域貯留施設等技術指針(案)-増補改訂版-2007 年 3 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
10-10
(126)
図 10-9 駐車場の貯留施設概念図
出典:流域貯留施設等技術指針(案)-増補改訂版-2007 年 3 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
10-11
(127)
図 10-10 中層住宅における棟間貯留の概念図
出典:流域貯留施設等技術指針(案)-増補改訂版-2007 年 3 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
10-12
(128)
図
10-11 砕石空隙貯留施設の構造例
出典:宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針の解説 1998 年 2 月
(社)日本宅地開発協会
表 10-2 地下調整池の形式
梁・柱・スラブ型式
調
整
池
単
独
利
用
他
施
設
と
複
合
利
用
地下トンネル型式
P
P
共同溝等
P
P
地
下
河
川
の
階
段
整
備
P
地下調整池として
運用される範囲
地下河川
出典:都市河川計画の手引き -立体河川施設計画編- 1995 年 4 月
(財)国土開発技術研究センター
10-13
(129)
(2)について
雨水浸透施設は,降った雨水を地中に浸透させることによって,雨水総流出量そのもの
を減少させる効果がある。また、雨水浸透施設の砕石間隙による貯留効果も期待でき、特
に近年増加傾向にあるゲリラ豪雨のような局所的・短期的な豪雨については大きな効果を
もたらす。
雨水浸透施設には浸透トレンチ,浸透ます,透水性舗装等があり,地形・地質条件,浸
透能力の評価,機能の担保,維持管理等を考慮して施設整備手法を立案する。雨水浸透施
設の構造形式は表 10-3 に示すとおりである。
また,雨水浸透施設は,集水区域の規模,設置場所の土地利用の状況等に配慮し,浸透
ますと浸透トレンチあるいは浸透ますと浸透側溝など各種の雨水浸透施設の構造様式と組
み合わせが行われるが,地盤の浸透能力を適切に生かすとともに,雨水浸透施設への目詰
まり物質の流入を防止することができるよう,雨水排水システムを構築することが重要で
ある。各種雨水浸透施設を組み合せて設置する概念図を図 10-12 に示す。
10-14
(130)
表 10-3
雨水浸透施設の一般的構造形式
出典:増補改訂雨水浸透施設技術指針[案]調査・計画編 2006 年 9 月
(社)雨水貯留浸透技術協会
10-15
(131)
図 10-12
集合住宅の浸透型施設設置の概念図
出典:宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針の解説 1998 年 2 月
(社)日本宅地開発協会
(3)について
雨水浸透施設は,雨水貯留施設と併用することにより,雨水貯留施設の調節容量の減少
が図られるだけでなく,雨水の浸透により地下水の涵養が促進されるなど,都市化による
不浸透化が緩和され,水循環システムの保全・再生等の効果が期待される。
流出抑制施設の面的整備の概念は,表 10-4 に示すとおりである。このような流出抑制方
式の選定にあたっては,治水上並びに構造上の安全性が確保されること,さらに生態系・
水循環等の環境保全効果および施工・維持管理などに留意する必要がある。
10-16
(132)
表 10-4 流出抑制方式の概念
流出抑制方式
特 徴
①調節(整)池
掘
・流末に,ダム式あるいは堀込み式の調節(整)池を
設け,雨水の流出を抑制する。
・もっとも一般的な流出抑制手法であるが,比較的広
い用地を集約的に確保する必要がある。
貯
留
②流域貯留施設
型
・流域を細分割し,各流域に小規模な貯留型施設を分
散配置し流出を抑制する。
・公園,運動場,広場,集合住宅の棟間等の用地を利
用した貯留型施設(流域貯留施設)を設置する。
施
設
単 ③調節(整)池+流域貯留施設
独
浸
透
型
施
設
単
独
・調節(整)池を主に,土地利用上無理のない範囲で
流域貯留施設を併用する。
・流域貯留施設で集水しきれない区域の雨水は,流末
の調節(整)池で流出抑制する。流域貯留施設の併
用により調節(整)池の規模(用地,水深)は①に
比べ少なくてすむ。
④浸透型施設
・各種浸透型施設を流域内に分散配置し,全流域の雨
水を浸透型施設に集水する。
・貯留型に比べ,施設設置のための用地が少なくてす
むが,この方式が採用できるのは浸透能力の継続が
確保できる流域に限られる。
⑤調節(整)池+浸透型施設
・調節(整)池を主に,浸透能力の継続が確保できる
区域に浸透型施設を設置する。
・浸透型施設で処理しきれない雨水は,流末の調節
(整)池に集約し,流出抑制する。③と同様調節
(整)池の容量は少なくてすむ。
貯
留
⑥流域貯留施設+浸透型施設
浸
・流域の地形,地質,土地利用等の条件に応じ,流域
貯留施設,浸透型施設を適当に分散配置する。
透
併
用 ⑦調節(整)池+流域貯留施設
+浸透型施設
型
・調節(整)池を主に,流域の特性を考慮して無理の
ない範囲で流域貯留施設,浸透型施設を分散配置す
る。
・流域で処理しきれない雨水は,流末の調節(整)池
に集約し流出抑制する。
記号説明 :河川,下水道,水路等集排水施設
:調節(整)池 :流域貯留浸透施設
出典:宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針の解説 1998 年 2 月
(社)日本宅地開発協会
10-17
(133)
10.4 その他施設
その他,分水施設などの計画は,既存施設の能力以上の分水量を安定して確保できる
構造とし,維持管理が容易な構造とする。
【解説】
バイバス管,雨水貯留施設の容量は,既設施設からの分水量で決定するため,分水施設
の検討が必要となる。分水施設の計画にあたっては,所定の分水量が分水できる構造とし,
浸水対策としては,動水勾配を低下させるために有効な位置に設置し、構造が簡易で維持
管理が容易であることが望ましい。主な分水施設としては,堰,オリフィス,ボルテック
スバルブ,分岐施設などが挙げられるが,それぞれの分水量,計算精度,維持管理,建設
費および分水特徴に応じて設置することとする。
分水施設による水量制御には堰(越流機能)やオリフィス(縮流機能)による単体制御
または,これらの組み合わせによる複合制御方法がある。
表 10-5 に主な分水構造の水理特性を示す。
表 10-5 主な分水構造の水理特性
構
造
流
れ
分水特性
短
所
越流
流入管の流下方向と平行また
は垂直に 堰を設 け,越 流 させ
る。構造が簡単で,維持管理が
容易である。
オリフィス
縮流
合流管きょの流入量(水頭)
合流管と遮集管の方向(位置)に
が設計どおりであれば比較的, よっては遮集管に押し込み流れ現象
定量分水可能である。
を生じ遮集量の増大を招く。
遮集管 への 流量 制御は 水頭差に
大きく影響する。
分水堰+
オリフィス
越流
+縮流
上記の構造を単体で用いる
上記の構造を単体で用いるより,
より定量的に制御可能である。 構造物が大きくなりがちである。
分水堰
ボルテックス
バルブ
縮流
ボルテックスバルブにより遮
集量を制御し,それ以上の流入
を堰により越流させる。
堰長が大きく(構造物の占有面積
大)なりがちである。
越流方向(堰の位置)によっては
越流量の制御が難しい。
分水特性は良いが,一定遮集は不
可能である。
ボルテックスバルブは,オリフィス同様に遮集量を制御し,オリフィスと同程度の遮集
量の増加抑制効果がある。図 10-13 にボルテックスバルブの設置例を示す。ボルテックス
バルブの水理特性はオリフィスと異なり,図 10-14 に示すとおり流入水深の増加に伴い,
遮集量が一度急激に減少した後,再び穏やかに増加していく遷移領域がある。この遷移領
域はボルテックスバルブの型式によって異なるが,どの型式においても同じような水理特
性を有している。この遷移領域内の水理特性を活用した堰高の設定とインバート内の平均
水深を睨んだ堰長を設定すれば,ほぼ定量遮集は可能である。
10-18
(134)
ボルテックスバルブ
ボルテックスバルブ
越流堰
越流堰
遮集管渠
流入管渠
流入管渠
遮集管渠
放流管渠
図 10-13 ボルテックスバルブ越流堰型分水人孔構造図
2.0
1.8
1.6
遷移領域
1.4
Head (m)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
50.0
100.0
150.0
200.0
Q ( l /s )
図 10-14 ボルテックスバルブの H-Q曲線(例)
10-19
(135)
250.0
10.5 雨水の多目的利用
雨水の多目的利用は,流出抑制施設の形式によりその目的が異なる。
(1) 雨水貯留施設にはオンサイト貯留,オフサイト貯留があり,これらは再利用水として利
用可能である。
(2) 雨水浸透施設には地下トレンチ,浸透側溝,透水性舗装等があり,これらは地下水の
涵養,河川維持流量の確保が期待される。
(3) 利用目的によって必要な水質を確保または,各施設における水質を考慮して利用しな
ければならない。
【解説】
(1)について
オンサイト貯留・オフサイト貯留施設に貯留された雨水は,雑用水(トイレ用水,洗車・
清掃用水),散水用水,防火用水,空調冷却用水等に再利用可能である。ただし,雨水貯留
施設の適切な維持管理を行ない,貯留水の水質悪化・腐敗等利用に際して支障がないよう
に留意する必要がある。
(2)について
近年,下水道の管きょ敷設後の舗装復旧に当たり地下水の涵養,河川維持流量の確
保を目的に地下浸透性舗装を採用する都市が増加している。しかし,個人住宅等における
浸透ますの設置は,住民の理解が必要であり建築確認時の指導による方法により促進を図
る必要がある。
(3)について
現在の利用目的は前記したごとく,雑用水,散水用水,防火用水等であるが,その水質
によっては修景施設,親水施設への利用も可能である。
10-20
(136)
10.6 概算事業費
雨水整備計画の主な施設は、管きょ施設、ポンプ施設、雨水貯留・浸透施設でありこれら
の施設の最適な組み合わせを選定するためには、設置可能な施設を抽出し、概算事業費を
算出して比較する。
【解説】
以下に,施設ごとの概算事業費算出の目安を示す。
(ⅰ)管きょ施設
管きょの建設費は,
「流域別下水道整備総合計画調査指針と解説 平成 20 年 9 月 (社)
日本下水道協会」に記載されている費用関数を用いることができる。
① 開削工法
y= (1.23×10-5D2+0.56×10-3D+ 9.26)×(105.3/ 102.3)
管きょの適用範囲(φ 150mm≦D≦φ 1,200mm)
ここで, y:m 当り建設費 (万円/m)
D:内径(mm)
② 小口径推進工法
y= (4.16×10-5D2- 0.59×10-3D+25.6)×(105.3/ 102.3)
管きょの適用範囲(φ250mm≦D≦φ700mm)
ここで, y:m 当り建設費 (万円/m)
D:内径(mm)
③ 推進工法
y= (2.44×10-5D2- 36.9×10-3D+67.5)×(105.3/ 102.3)
管きょの適用範囲(φ800mm≦D≦φ2,000mm)
ここで, y:m 当り建設費 (万円/m)
D:内径(mm)
④ シールド工法
y= (1.06×10-5D2-16.1×10-3D+102)×(105.3/ 102.3)
管きょの適用範囲(φ1,350mm≦D≦φ5,000mm)
ここで,
y:m 当たり建設費(万円/m)
D:内径(mm)
(注)
管きょ施設建設費の費用関数は、平成9年度単価で作成されており、建設工事費デフレー
タ(平成 17 年度基準,平成 9 年度=102.3
, 平成 23 年度=105.3)を用いて平成 23 年度
単価に補正。
・最新デフレータ確認先
国土交通省総合政策局
情報政策課
建設統計室
統計解析係
http://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/def.htm
(ⅱ)ポンプ場
ポンプ場の建設費は,「流域別下水道整備総合計画調査指針と解説 平成 20 年 9 月
10-21
(137)
(社)日本下水道協会」に記載されている費用関数を用いることもできるが,その適用に
ついては実績等を踏まえて十分に吟味する必要がある。
① 建設費
全体工事
C=85.5Q0.60×(105.3/78.1)
土木・建築工事
C=39.5Q0.56×(105.3/78.1)
設備工事
C=46.7Q0.62×(105.3/78.1)
② 維持管理費
M=1.00Q 0.69×(105.3/78.1)
ここで, C:建設費(百万円)
M:維持管理費(百万円/年)
Q:計画流量(m3/分)
(注)
ポンプ施設の費用関数は、昭和 54 年度単価で作成されており、建設工事費デフレータ(平
成 17 年度基準,昭和 54 年度=78.1
, 平成 23 年度=105.3)を用いて平成 23 年度単価に
補正。
・最新デフレータ確認先
国土交通省総合政策局
情報政策課
建設統計室
統計解析係
http://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/def.htm
表 10-6 建設工事費デフレーター (2005 年度基準)
10-22
(138)
(ⅲ)流出抑制施設
① 雨水浸透施設
浸透ますと浸透トレンチなど雨水浸透施設の概算事業費は設置数量と単価より算出
する。浸透ます,浸透トレンチ等の雨水浸透施設の概算設置費用を表 10-7 に示す。
表 10-7
No
雨水浸透施設設置費用
浸透タイプ
浸透マス
(人力による土工)
92(112)
(1 基あたり)
2
浸透マス
(機械による土工)
70(91)
(1 基あたり)
3
浸透トレンチ
(人力による土工)
12~13(15~17)
(1m あたり)
4
浸透トレンチ
(機械による土工)
14~16(18~21)
(1m あたり)
5
透水性アスコン舗装工
(歩道)
3(4)
(1 ㎡あたり)
6
透水性平板舗装工
(歩道)
8(10)
(1 ㎡あたり)
1
備
費用(千円)
考
・トレンチの土被り
:150~450mm
・(
)内は諸経費を
30%とした場合
(平成 11 年度単価を用いたコスト積算結果)
出典:雨水技術資料第 36 号
② オンサイト貯留施設
オンサイト貯留は,学校校庭,駐車場などに雨水貯留施設を設置する方法である。学
校校庭内のグランドと駐車場に掘込式,堰堤式,側溝式,空隙式などの雨水貯留施設を
設置した場合の概算事業費の一例を図 10-14,表 10-8 に示す。
・ 計算条件:集水区域面積
設置場所
10,000m 2
グランド( 4,000m2)
駐車場 ( 390m2)
貯留水深
H=0.10~1.50m
10-23
(139)
駐車場 A=350m2
H=0.10,H=1.50m
A=10,000m2
クランド
A=4,000m2
H=0.10m,0.30m
図 10-14 オンサイト貯留施設の設置場所
表 10-8 オンサイト貯留施設概算事業費の算出例
施設設置
場所
貯留方式
集水区域
(m2)
計画数値等
貯留量
(m3)
貯留高
(mm)
グランド
掘込式
10,000
貯留水深 H=0.10m
400
40
13,037
33
貯留水深 H=0.30m
1,200
120
15,649
13
堰堤式
4,000
貯留水深 H=0.10m
400
100
10,694
27
2
4,000m
(一部区域) 貯留水深 H=0.30m
概算工事費
貯留水量当り
(千円) 事業費(千円/m3)
1,200
300
11,648
10
駐車場
掘込式
10,000
貯留水深 H=0.10m
39
4
4,844
124
390m2
空隙式
10,000
貯留水深 H=1.50m
234
23
4,969
21
空隙率 R=0.40
10-24
(140)
③ オフサイト貯留施設
●
雨水調整池
雨水調整池の概算事業費としては,質的対策も含めた雨水滞水池が参考となる。雨
水滞水池の事業費は,7.7 万円/m 3~ 34.3 万円/m 3 程度であり,その平均は 18.8 万
円/m 3 である(22 個所の調査,用地費を除く)。図 10-15 には,地下式雨水滞水池の
費用関数を示す。なお,雨水滞水池(質対策)の場合,脱臭設備などの設置が必要で
あるため,通常の雨水調整池に比べ事業費が高くなっているので留意する必要がある。
図 10-15 地下式雨水滞水池の費用関数(用地費除く)
出典:平成7年下水道雨水貯留施設調査報告書,建設省土木研究所
●
雨水貯留管
貯留水量が 2,000m 3~38,000m 3 の 29 個所の統計によると貯留管の事業費は 3.8~
57.5 万円/m 3,平均 30.3 万円/m 3 となっており,施設自体の事業費はばらつきが
あるものの割高となっている。ただし,貯留管の場合,設置場所が公道下などの場合
が多く,用地費用はほとんど必要としないことを考慮する必要がある。
10-25
(141)
第11章 費用効果の把握
11.1 総 説
雨水排水施設の整備計画を策定する際には,整備方法や整備順位の妥当性を把握する
ために,透明性および客観性の確保,効率性の一層の向上が求められていることから,整備
期間や投資計画を想定した上で,費用効果の把握を行う必要がある。また,環境整備効果
など非計測の効果項目についても配慮して検討する必要がある。
【解説】
雨水施設は規模が大きく,事業費も多大であるため,一連の排水系統の整備が完了する
までは多大な時間と費用が必要となるが,浸水に対しては,投資効果が得られないという
ことを理由に事業を行わないということはできず,ナショナルミニマムとして整備を図っ
ていく必要がある。
効率的な対策手法の選定や段階的な整備計画の策定,及び各地区の整備順位を決定する
ためには,各種検討案の費用効果把握した上で,最も効率的な案を採用する必要があり,
そのために費用効果を把握する。また、事業の透明性,客観性の確保の観点においても,
費用効果の把握が重要である。
また,最終案の決定にあたっては,整備期間や浸水被害のリスクなど,費用効果のみで
判断することができない項目もあるので総合的に判断する必要がある。
従来,治水経済要綱をベースとした積み上げ方式の費用対効果が多く行われているが,
以下に示すことから河川氾濫とは異なるため,下水道雨水排水計画には適さない部分もあ
る。
●
浸水深が小さく,浸水域が狭い
●
浸水時間が短い
●
土地利用,資源集積密度が高い
●
地下利用されている部分の被害が大きい
そのため,下水道雨水排除計画の投資効果の把握にあたっては,実績浸水深や氾濫シミ
ュレーション等により,下水道特有の浸水被害を適切に評価することが必要である。
11-1
(142)
11.2 費用効果算定項目
費用効果算定項目には,雨水整備の効果を直接的に定量化したものではないものも含ま
れることから,算定結果の評価に当たっては,非計測の効果項目が含まれることを明記する
ことが必要である。
(1) 費用効果項目
(2) 便益算定項目
【解説】
(1)について
浸水被害は発生頻度が少ないため,実績によるデータは得られにくいことから,実際の
現象を再現できる氾濫シミュレーション等を用い,以下の項目について計画降雨並びに超
過降雨を含めた定量的な評価を行う必要がある。
① 雨水対策整備率
計画面積に対する整備進捗状況を把握するため、雨水対策整備済み面積を計画面積で
除して算定を行う。
② 浸水面積削減率
実態を把握することは困難であるため,氾濫シミュレーション等を用いて算出した浸
水深さにより算定を行う。
③ 浸水被害額の軽減
氾濫シミュレーション等を用いて算出した浸水深さにより被害額の算定を行う。
・ 家屋被害
・ 家庭用品被害等
④ 精神的安心感の向上
氾濫シミュレーション等を用いて算出した超過降雨に対する浸水深さにより,安心度
の評価を定性的に行う。
・ 床上浸水・床下浸水等
⑤ 受認限度の軽減
氾濫シミュレーション等を用いて算出した浸水面積,時間,深さに対し,受認限度の
評価を行う。
(2)について
便益算定項目を選定する際に,雨水排水施設の便益として,直接被害,間接被害に関係
なく何らかの関連があるとすると,その項目は多大となってしまう。これらの項目を全て
検討を行ったとしても,必ずしも良い結果につながるわけではないため,各項目の算定数
値が全体に占める割合(便益算定の効率性)を考えて検討を行う必要がある。
(ⅰ) 被害軽減効果
被害軽減による効果は,直接被害と間接被害に分けて次のような項目が考えられる。
① 直接被害
11-2
(143)
●
家屋被害:評価額を算出し,浸水深さ別に被害率を乗じて算出を行う。
●
家庭用品被害
●
事業所被害(在庫資産等を含む)
●
自動車被害
●
農漁家被害(在庫資産等を含む)
●
農作物被害
●
公共土木施設被害:地下埋設物の NTT や電気の被害を,一般被害額にある一定の
率(被害率)を乗じて算出を行う。
●
その他の被害:人的被害,自動販売機被害
② 間接被害
●
営業損失(付加価値生産被害)
●
家庭における応急対策費用
●
事業所における応急対策費用
●
公的機関における応急対策費用
●
交通断絶による波及被害
●
土地のイメージ低下
●
精神的被害
(ⅱ) 環境整備効果
① 利用効果
●
レクレーション効果
●
交通利用効果:交通混雑の緩和,事故の減少(交通事故の減少,転落事故の減少)
●
施設上部利用による効果
●
用地確保効果
② 存在効果
●
防災空間効果
●
景観修景効果
③ その他
●
悪臭発生防止による効果
●
蚊,蠅の発生の防止による効果
(ⅲ) 事業に伴う経済的波及効果
11-3
(144)
11.3 費用効果の評価手法
雨水管理計画では,経済的な視点から,整備方法の妥当性・整備優先順位の妥当性等
についての評価が求められる。そこで,費用効果の評価の際には,流出抑制効果やサーチ
ャージ効果に配慮した定量的評価を行うと共に,下水道整備スケジュール等を勘案した年度
別の建設・維持管理費および整備による便益を算出し,雨水整備の優先順位の評価を行う
ものとする。
【解説】
費用効果の分析手法としては,市場価格アプローチ(量-反応法,代替費用法),家計
生産関数アプローチ(回避支出法,旅行費用法),ヘドニック価格法(HPM),仮想市場法
(CVM)等がある。雨水整備についても,これらの手法を用いて投資費用に対する発現効
果を定量的に分析する「費用効果分析」を行うことが求められている。
しかしながら,雨水整備については,浸水を寛容できるものではないため,費用便益の
みで議論することが難しい場合もある。そのため,非計測項目等を加えて評価を行うわけ
であるが,項目を増やすことにより二重計上しないように注意する必要がある。
また,コスト縮減策に有効な流出抑制効果やサーチャージ効果に配慮した定量的な評価
が必要であり,施設規模縮小・費用軽減効果が取り込まれた形の施設計画を立案すること
ができる氾濫シミュレーション等の流出解析手法を用いることが必要である。さらに,多
目的利用(量的質的対応)も視野に入れて評価を行い,雨水整備の必要性をアピールして
いくことも必要であるととともに,雨水整備の優先順位と改善効果の評価を行い,財政部
局や住民の理解や協力を得ることも必要と考えられる。
11-4
(145)
11.4 便益の算定手法
便益は下記の資料等を参考に算定する。
(1) 算定資料・算定事例
(2) 便益算定のためのパラメータ,基準数値の整理
【解説】
(1)について
費用効果分析の算定事例および積算資料として,次のものが挙げられる。
① 下水道事業における費用効果分析マニュアル(案) 平成 18 年 11 月 (社)日本下水道協会
下水道事業における費用効果分析手法を示したマニュアルである。参考資料として
「下水道の浸水対策事業における費用効果分析マニュアル(案)」が記載されており,
「11.2 費用効果算定項目」で挙げた項目について便益の算定方法が示されている。
② 治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省 水管理・国土保全局河
川計画課
治水事業の諸効果のうち,経済的に評価できるものを治水事業の便益として把握する
と共に,一方で治水事業を実施するための費用および施設の維持・管理に要する費用を
治水事業の費用として算出し,両者を比較することにより当該事業の経済性を評価して
いる。
③ 川崎市における雨水整備効果について:下水道協会誌 1999 年(Vol.36,No.439)
現行の雨水整備水準である 5 年確率降雨から,望ましい雨水整備水準へ引き上げるた
め,費用効果分析を行い,調査・検討を行っている。検討結果より,超過確率降雨に対
する浸水面積の解消並びに費用効果からみて,雨水整備水準を 10 年確率に上げること
の妥当性を評価している。
④ 広島市における費用効果分析について:下水道協会誌
月刊下水道
1999 年( Vol.36, No.439),
1998 年( Vol.21,No.12)
ヘドニックアプローチ法と市場価格アプローチ法を用い,浸水地域の効果計測の定量
化について調査・研究を行っている。
⑤ 大阪市大規模下水道幹線費用便益:月刊下水道
1998 年(Vol.21,No.12)
浸水対策のための大規模幹線である「なにわ大放水路」の計画にあたって,その事業
効果を不動産評価額を用いた浸水被害軽減額による評価を行っている。その概要は以下
のとおり。
●
1951 年~1989 年の 39 年間の 20mm/ hr 以上の 118 降雨を対象として算出
●
被害軽減額
●
事業費は利子率 4.5%,償却期間 50 年間で算出
●
費用便益比は 4.6 と算定
15,510 億円
(2)について
便益算定のために用いられているパラメータ,基準数値の事例を示す。なお,治水経済
11-5
(146)
調査マニュアル(案)については,河川等の大規模浸水を想定したものであるため,下水道
の浸水被害のレベルになじむように,各自治体の状況に応じて修正を行う必要がある。
(ⅰ) 直接被害額の算定数値
① 都道府県別家屋 1m2 当たり評価額
(千円/m2)
都道府県
22 年評価額
23 年評価額
都道府県
22 年評価額
23 年評価額
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
新潟
富山
石川
福井
山梨
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
150.6
162.3
136.2
153.2
146.1
146.5
162.9
168.1
159.2
146.9
166.8
172.9
233.6
184.5
161.0
158.2
161.4
151.8
174.8
165.5
163.7
167.7
169.4
177.8
146.8
159.2
134.2
149.9
144.0
144.3
159.2
163.7
155.2
143.7
162.1
167.9
223.9
178.2
157.9
154.7
158.2
148.4
170.7
162.1
159.3
162.9
163.7
172.6
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
158.0
179.3
190.4
166.2
167.5
169.0
153.2
171.7
166.2
162.6
164.5
136.5
155.2
155.2
162.7
156.4
149.9
150.7
139.6
146.2
131.5
138.7
166.6
153.5
174.3
182.9
160.9
163.5
164.2
150.5
169.0
162.2
158.1
160.3
133.1
151.2
151.2
159.0
151.5
146.4
147.4
136.5
142.8
128.2
135.5
158.0
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
② 被害率
床上
床下
家屋
農漁家
100~
199
0.266
200~
299
0.580
300cm
以上
0.834
A グループ
0.032
B グループ
0.044
0.126
0.176
0.343
0.647
0.870
C グループ
0.050
0.144
0.205
0.382
0.681
0.888
0.021
0.145
0.326
0.508
0.928
0.991
0.099
0.056
0.0
0.000
0.232
0.128
0.156
0.199
0.453
0.267
0.237
0.370
0.789
0.586
0.297
0.491
0.966
0.897
0.651
0.767
0.995
0.982
0.698
0.831
家庭用品
事務所
50~
99
0.119
50cm
未満
0.092
償却資産
在庫資産
償却資産
在庫資産
※A,B,C は,地盤勾配の区分で,A;1/1000 未満,B;1/1000~1/500,C;1/500 以上
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
③ 1 世帯当たり家庭用品評価額
(千円/世帯)
22 年評価額
23 年評価額
14,541
14,653
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
11-6
(147)
④ 農漁家 1 戸当たり償却資産評価額および在庫資産評価額
(千円/戸)
22 年評価額
23 年評価額
償却資産
1,920
1,802
在庫資産
474
469
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
⑤ 産業分類別事業所従業員 1 人当たり償却資産評価額および在庫資産評価額
(千円/人)
産業分類
大分類
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
P
Q
R
中分類
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
49 ~54
55
56
57
58
59
60
産業名
鉱業
建設業
製造業
食品製造業
飲料・たばこ・飼料業
繊維工業
衣服・その他の繊維製品製造業
木材・木製品製造業
家具・装備品製造業
パルプ・紙・紙加工品製造業
印刷・同関連産業
化学工業
石油製品・石炭製品製造業
プラスチック製品製造業
ゴム製品製造業
なめし皮・同製品・毛皮製造業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
非鉄金属製造業
金属製品製造業
一般機械器具製造業
電気機械器具製造業
情報通信機械器具製造業
電子部品・デバイス製造業
輸送用機械器具製造業
精密機械器具製造業
その他の製造業
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業
卸売・小売業
卸売業
各種商品小売業
織物・衣服・身の回り品小売業
飲食料品小売業
自動車・自転車小売業
家具・じゅう器・機械器具
小売業
その他の小売業
金融・保険業
不動産業
飲食店・宿泊業
医療・福祉
教育、学習支援業
複合サービス事業
サービス業
公務
償却資産
22 年
23 年
評価額
評価額
12,563
12,788
1,386
1,411
4,344
4,370
2,348
2,363
8,724
8,777
2,808
2,825
582
585
1,960
1,971
1,577
1,586
7,636
7,682
2,529
2,544
10,152
10,213
34,149
34,356
3,599
3,580
3,606
3,628
607
611
5,115
5,146
14,226
14,312
8,204
8,254
2,590
2,605
3,307
3,327
2,762
2,778
2,317
2,331
5,961
5,997
5,317
5,349
2,398
2,413
2,369
2,383
114,287 112,275
5,574
5,674
5,544
5,643
1,922
1,957
2,147
2,186
1,789
1,821
1,789
1,821
1,789
1,821
1,789
1,821
1,789
1,821
1,821
4,618
23,771
1,870
1,476
1,127
4,618
4,618
4,618
1,789
4,537
23,352
1,837
1,450
1,108
4,537
4,537
4,537
在庫資産
22 年
23 年
評価額
評価額
3,489
4,392
2,768
3,484
5,005
4,671
1,652
1,542
8,478
7,912
3,503
3,269
1,577
1,472
4,407
4,112
2,750
2,567
4,265
3,981
1,057
986
11,587
10,813
45,526
42,485
2,672
2,493
1,988
1,855
2,604
2,430
5,049
4,712
15,719
14,669
8,824
8,235
3,550
3,313
6,971
6,505
4,274
3,988
5,156
4,812
3,703
3,456
4,542
4,238
4,112
3,838
7,220
6,738
3,652
4,597
776
977
1,009
1,270
2,077
2,159
3,986
4,143
1,654
1,591
2,315
2,227
379
365
1,927
1,854
2,452
2,358
1,492
255
8,857
126
41
198
255
255
255
1,551
321
11,149
159
52
249
321
321
321
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
11-7
(148)
⑥ 車両被害
車両被害率は,浸水深さに準じた被害率を想定する。
⑦ 自動販売機被害率
自動販売機被害率は,最大浸水深さに準じた被害率を想定する
(ⅱ) 間接被害額の算定数値
① 営業停止日数
営業停止日数は,次のとおりとし,営業停滞日数は営業停止日数の 2 倍とする。
床上
停止日数
床下
50cm
未満
50~
99
100~
199
200~
299
300cm
以上
3.0
4.4
6.3
10.3
16.8
22.6
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
② 応急対策費用
労働単価は,10,750 円/世帯・日とし,下記の清掃日数を乗じて算出する。
床
床下
50cm
未満
50~
99
上
100~
199
200~
299
300cm
以上
清掃所要延べ
日数(日)
4.0
7.5
13.3
26.1
42.4
50.1
代替活動被害
単価(千円/戸)
82.5
147.6
206.5
275.9
326.1
343.3
代替活動被害単価
(千円/事業所)
470
925
1,714
3,726
6,556
6,619
家庭
事業所
出典;治水経済調査マニュアル(案) 平成 24 年 2 月改正 国土交通省水管理・国土保全局河川計画課
③ 鉄道障害時間
流出量が排水施設の能力を超えている時間をとる方法や,駅周辺にある一定水位以上
湛水が継続している時間をとる方法がある。
④ 緊急対策費
公的費用は,一般資産被害額の一定割合を計上し,民間対策費は,浸水深別被害額を
想定する。
⑤ 地価への影響
地価上昇分を考慮したものに対し,浸水による影響を地価上昇分の一定割合(地価変
動に対する下水道による影響率)と仮定して算定する方法と,地価上昇分を考慮せずに,
平均地価の一定割合を損失額とする方法がある。
⑥ 浸水による不快感
家屋および家庭用品被害の一定割合を想定する方法や,過去の訴訟事例より決定する
方法等がある。
11-8
(149)
第12章 改善効果の評価
12.1 改善効果を評価する目的
雨水管理施設の整備に伴う改善効果を整備段階ごとに把握していくことは,今後も事業を
継続して実施していく上で重要となってくる。
今後は,雨水管理計画で設定した整備目標が達成できているか,達成できていない場合
は何が問題となっているか確認し,必要に応じて雨水管理計画の見直しを実施するといった
「改善効果の評価」が必要である。
【解説】
雨水管理施設を整備することによって,雨水管理計画を策定する際に想定した計画規模
までの降雨に対しては,本来であれば 100%の改善効果が得られるはずである。
しかし,以下に示すように,地域特性や社会情勢の変化に伴い,整備段階ごとに雨水管
理計画の見直しが必要となってくるケースが考えられる。
① 雨水管理計画を策定した当時と諸条件が変わった
② 計画規模を上回る降雨で浸水が発生した
③ 雨水管理施設を整備したが,計画規模を下回る降雨で浸水被害が発生した
本マニュアルでは,雨水管理施設の整備が完了した後に行う作業項目として,雨水管理
計画で設定した整備目標が達成できているか確認するための「改善効果の評価」について,
評価時期の考え方や評価手法を記述する。
12-1
(150)
12.2 改善効果の評価時期
改善効果の評価は,以下に示す整備段階で実施する。
(1) 雨水管理計画で定めた,「当面計画・中期計画・長期計画」の整備完了時
(2) 事業計画の整備完了時
【解説】
(1)について
雨水管理施設を整備した際の改善効果を把握するためには,これまでに発生していた浸
水被害が解消もしくは軽減されていなければ判断することができない。
本マニュアルでは,雨水管理計画の策定時に,整備目標を「当面計画」
・
「中期計画」
・
「長
期計画」の 3 段階に分けて設定しており,それぞれの整備段階で設定している整備目標が
達成できているかを評価する必要がある。
(2)について
下水道事業では,全体計画で決定した排水区に対して,一般的に 5~7 年の期間で整備
可能な雨水管理施設を対象に,事業計画を策定して事業実施している。
その際,今後も継続して事業を実施していくかを判断するため,事業計画に従い整備し
た雨水管理施設が,現状でどの程度の改善効果が期待できるのかを評価しなければならな
いケースがある。
具体的なケースとして,整備期間内で計画規模を上回る降雨で浸水被害が発生し,雨水
管理計画の見直しが必要かどうかを判断しなければならない場合,地域住民に対して事業
実施することで得られる改善効果を説明する場合,下水道事業の再評価を実施する場合な
どが考えられる(下水道事業の再評価については「第 11 章 費用効果の把握」を参照)。
12-2
(151)
12.3 改善効果の評価手法
雨水管理計画の改善効果は,以下の 2 ケースで評価する。
(1) 整備面積に基づく整備率の算定
(2) 浸水被害の改善効果に基づく改善度の算定
【解説】
(1)について
雨水管理施設は一般的に,流末側から順に整備していくことから,雨水管を整備した区
域では,計画規模の降雨に対して 100%の改善効果が期待できる。
よって,排水区の全体計画面積に対して,雨水管を整備した区域の面積値の割合で「整
備率」を求めることが可能である。
整備率(%)=整備済み面積/排水区の全体計画面積×100
整備率で評価する場合,雨水幹線やポンプ場施設といった主要な施設のみを整備した段
階では整備率がゼロとなる。そのため,少なくとも雨水幹線に接続する面整備管が整備さ
れなければ整備率を算定することができない。
なお,計画目標を上回る降雨規模に関しては,
「整備率」で改善効果を評価することが困
難であるため,後述する浸水被害に基づく「改善度」で評価する必要がある。
(2)について
雨水管理施設を整備する以前に発生した浸水被害と,雨水管理施設を整備した後で発生
した浸水被害を比較することで,改善効果を「改善度」として評価することができる。
浸水被害は,以下に示す項目について,それぞれ改善度を算定することになる。
改善度(%)= 100-事業実施後の浸水被害/事業実施前の浸水被害×100
①床上浸水の発生戸数
②床下浸水の発生戸数
①~③について改善度を算出する
③道路冠水の面積値
浸水被害の発生状況は,「浸水実績に基づき設定する方法」と,「浸水シミュレーション
に基づき設定する方法」の 2 種類が考えられる。
浸水実績を用いる場合,雨水管理施設を整備する前に発生した浸水被害を比較対象とし,
事業実施後に同程度の降雨で浸水被害が発生していれば「改善度」を評価できる。しかし,
事業実施後にそういった降雨が発生しなかった場合や,浸水被害が発生しても降雨規模が
異なるケースでは,「改善度」を正確に把握することができない。
浸水シミュレーションでは,同じ降雨で事業実施前と事業実施後の浸水状況を把握する
ことが可能であり,事前にモデルを作成していれば検証作業に掛かる負担が少ないため,
できる限り計画策定時から浸水シミュレーションを用いていくことが望ましい。
12-3
(152)
12.4 改善効果の評価の流れ
改善効果の評価は,以下に示す PDCA サイクルを継続的に実施することで確認する。
(1) 計画の策定(Plan)
(2) 事業の実施(Do)
(3) 事業の効果検証(Check)
(4) 計画の見直し(Act)
※評価の流れは図 12-1 及び図 12-2 を参照
【解説】
(1)について
計画の策定(Plan)は,「12.2 改善効果の評価時期」で記述したとおり,雨水管理計画
(当面計画・中期計画・長期計画)の策定と,5~7 年で雨水管理施設を整備するための事
業計画の策定といった 2 種類ある。
必要最低限として,雨水管理計画の策定時(当面計画・中期計画・長期計画)を対象に,
改善効果を評価することが望ましい。
(2)について
事業の実施(Do)では,計画の策定( Plan)で定めた雨水管理施設について,事業化で
必要となる各種手続きと建設工事を行う。
なお,当面計画や事業計画であれば,実施期間は 5~ 7 年が目安となるが,中期計画や
長期計画では施設規模が非常に大きくなることから,当面計画や事業計画の実施期間であ
る 5~7 年を目安にして整備段階を分割することを検討しなければならない。
(3)について
事業の効果検証( Check)では,雨水管理施設を整備することによって,計画策定時に
定めた整備目標が達成できているかを検証する。
事業の効果検証には,整備目標が達成できていないと判断された場合に,その原因を調
査・解析して明らかにする作業も含まれている。
なお,改善効果を評価する場合,
「12.3 改善効果の評価手法」で記述した「整備率」や「改
善度」に加えて,事業計画に関しては「第 11 章 費用効果の把握」で記述した費用効果分
析による下水道事業の再評価も実施する。
(4)について
計画の見直し( Act )は,事業の効果検証で整備目標を達成できなかった場合に,問題
点に対する改善策を講じて,雨水管理計画を見直すものである。
12-4
(153)
【Plan】
雨水管理計画の策定
【Do】
雨水管理施設の
【Act】
※当面・中期・長期の 3 段階
段階的な整備
雨水管理計画の見直し
【Check】
改善効果の評価
※整備目標の確認
改善効果の有無
改善効果が不十分な場合
改善効果が十分な場合
次の計画段階に進む
図 12-1
改善効果の評価フロー(雨水管理計画の場合)
【Plan】
事業計画の策定
※事業実施の手続き
都市計画法,下水道法
【Do】
雨水管理施設の整備
【Check】
改善効果の評価
※整備率・改善度の確認
費用効果分析の実施
改善効果が不十分な場合
改善効果の有無
改善効果が十分な場合
【Act】
事業の継続
事業の中止
(雨水管理計画の見直し)
図 12-2
改善効果の評価フロー(事業計画の場合)
12-5
(154)
あとがき
現行の「下水道雨水排水計画策定マニュアル」は,技術委員会業務拡大部会で作成
されたマニュアルです。
「業務拡大部会」という名のとおり,新規業務の需要喚起とコ
ンサルタント技術者がマニュアルを作成することにより技術力を示すことが作成の大
きな趣旨です。
一方で,現行のマニュアルが作成されて以降,雨水管理の方針は,
「人(受け手)主体
の目標設定」「整備の選択と集中」「ソフト対策の促進による被害の最小化」に転換し
てきました。この転換にともなって,下水道総合浸水対策計画策定マニュアル(案)を
はじめとした,雨水管理計画や雨水関連施設に関するマニュアルや手引きが作成,改
訂され,現在は全般的に教科書が出そろった感があります。
全国上下水道コンサルタント協会で作成するマニュアルの趣旨と,現在の雨水管理
に関する状況を踏まえて,WGで議論を積み重ねた結果,改訂の方針は以下のとおり
としました。
① ハザードマップ作成以後の雨水管理に向けたステップとして,地域ごとの「整備
目標」,
「整備方法」,
「段階整備方針」といった基本方針を明確にするための「下
水道雨水基本構想」の立案を提案する。
② 雨水管理に関する業務を行ってきた経験と知見を活かし,コンサルタント技術者
の視点から,各種の検討において留意すべき事項について示す。
③ 雨水管理に関する各種検討において,参考とすべきマニュアル,手引きを明示す
る。
雨水管理は,今後も下水道で取り組んでいくことになる大きな課題です。本マニュ
アルを,業務の拡大や業務を遂行する上での参考書としていただければ幸いです。
同じ自治体内においてもそれぞれの地区によって浸水状況やその原因が異なり,現
在の雨水管理計画では地区に応じて目標を設定し,対策手法を検討している状況にあ
ります。また,ソフト対策についても,手法が整理・確立されているとはいえない状
況です。このため,各論において具体的な検討手法や決定方法が示すことができてい
ない部分もあります。このような部分については,これからのコンサルタント技術者
の知見が集積した段階で,本マニュアルをレベルアップしていければと考えています。
おわりに,本マニュアルを改訂するにあたり,通常のコンサルタント業務に従事し
ながら,原稿を作成していただいた 17 名のWGメンバーの皆様と,的確な助言をいた
だいた技術委員の皆様に感謝いたします。
平成 24 年 11 月
下水道雨水排水マニュアルWG長
(155)
古屋敷 直文
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