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嫌気性消化

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嫌気性消化
5.1 消化ガス利用関連技術
5.1.1 嫌気性消化(円筒形、卵形)
5.1.1.1 原理
嫌気性消化とは、酸素の存在しない(嫌気性)条件下で行われる有機物の生物分解をいう。
汚泥中の有機物は、嫌気性細菌の働きにより酸性発酵期、酸性減退期、およびアルカリ発酵期を経
て分解される。
酸性期には汚泥中のセルロースを含む炭水化物、タンパク質、脂肪などの高分子有機物を酸生成菌
の働きで、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの揮発性有機酸と低級アルコール類に加水分解する。pH は
発酵期には 5∼6 まで低下するが、減退期には 6.8 程度まで上昇する。
次いでアルカリ期にはメタン生成菌の作用で有機酸などの中間生成物がメタン、二酸化炭素、アン
モニアなどの最終生成物へと分解される。pH は 7.0∼7.4 程度となる。
消化温度を 30∼35℃とし適切な消化日数(汚泥の消化タンクでの滞留日数)をとれば、汚泥中の有
機物の 40∼60%が液化・ガス化により減少する。
5.1.1.2 設備構成概要
消化方式は一段消化、二段消化がある。二段消化は、生物反応が進行する一次タンクでは加温とか
くはんが行われ、後続の二次タンクでは沈殿分離により消化汚泥と溶解性の有機物を含む脱離液が分
離される。一次タンク、二次タンクでの消化日数はそれぞれ 20 日、10 日程度(中温消化の場合)と
される。
図 5.1.1.1 汚泥消化のフローの例(一段消化)
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
- 55 -
図 5.1.1.2 汚泥消化のフローの例(二段消化)
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
消化タンクは密閉構造の鉄筋コンクリート製で形状は、円筒形が古くから用いられてきた。最近は
かくはん性に優れた卵形や亀甲形なども採用されている。
図 5.1.1.3 に消化タンクの形状を示す。
図 5.1.1.3 汚泥消化タンクの形状の例
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
タンク内部の汚泥をかくはんするため機械式またはガス式のかくはん装置が設けられる。発生した
消化ガスを利用して汚泥の加温を行う。また加温による熱の放散を少なくするため、タンク周壁のカ
バーに軽量ブロックなどの熱伝導率の小さい材料で被覆及び二重壁等により保温構造とする。さらに
消化ガスを溜めるガスホルダーを設ける。
- 56 -
5.1.1.3 一般的な特徴
発生する消化ガス量は、含水率 97%前後の汚泥の場合、有機物 1kg 当り 500∼600 NL、汚泥量に対
して 10∼14 倍量程度である。消化ガスの組成は消化の程度等により異なるが、おおよそ表 5.1.1.1
に示すようなものであり、約 3∼15 倍の空気が混入すると爆発する恐れがある。
表 5.1.1.1 消化ガスの成分
出典:下水道施設計画・設計指針と解説 後編 日本下水道協会(2001)
また、消化ガスの低位発熱量は 21,000∼23,000kJ/Nm3(5,000∼5,500cal/Nm3)であり、一般には消
化タンクの加温用ボイラの燃料として用いられる。大容量の消化タンクでは、消化ガスでガス内燃機
関を運転して、その動力で発電し、ガス内燃機関の排ガス中のエネルギーを廃熱ボイラにより回収す
るとともに、内燃機関の冷却水の熱回収を行い、消化タンクの加温に利用している所もある。この場
合、消化ガスの有するエネルギーの約 30%は電力に変換され、さらに汚泥消化タンクの加温用熱量を
加えると 70%程度の利用が見込まれる。
この電力量は下水処理場全体の消費電力量の 20∼30%に当たる。
5.1.1.4 事業事例 大阪市
都市名
大阪市
利 用
下水汚泥
場 内
供用時期
平成 5 年度から順次
場 外
事業費
−
効
果
化石燃料の削減、温室効果ガス削減
技 術 <状 況>
特
消化率の向上、消化
日数の短縮
高温高濃度消化
<実機導入済み>
総エネルギー
又は施設規模
−
徴
エネルギー当り
事業費
−
費用補助制度
維持管理費
−
下水道国庫補助事業
大阪市建設局下水道河川部
(1)はじめに
大阪市では、明治 27 年に近代下水道事業に着手して以降、110 年あまりが経過した。
下水処理場については、昭和 15 年の最初の 2 か所の通水に始まり、現在では 12 か所で下水処理を
行っているが、当初は発生した汚泥を液状のまま海洋投棄していた。その後、海洋汚染が深刻な問題
となってきたため、昭和 35 年以降は、嫌気性消化と機械脱水により処理し、汚泥ケーキは埋め立て
処分されるようになった。
その後、汚泥の沈降圧密性の悪化に伴う濃縮汚泥濃度や回収率の低下が、返流水負荷の増大や消化
率の低下等の悪影響を、水処理・汚泥処理全体に及ぼすようになった。
大阪市では、この課題を克服するため、昭和 50 年代に汚泥処理システムを総合的に検討し、高濃
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度消化システムを確立した。
本文では高濃度消化法の概要と高温高濃度消化法への発展について述べる。
(2)導入目的
昭和 40 年代後半以降、生活様式の変化や都市化の進展等に伴って汚泥性状は変化し、重力濃縮槽
の引抜濃度は低下した。昭和 50 年度には 3.9%程度あった濃縮槽引抜汚泥濃度は年々減少し、昭和
59 年度には 2.4%となった。同時に濃縮槽における固形物回収率も低下し、返流水負荷の増加が水処
理にも悪影響を及ぼす事態となった。
また、濃縮濃度の低下は、消化槽投入汚泥量の増大による消化日数不足、汚泥の加温に必要な熱量
の増加等の原因となり、消化率の低下による脱水、焼却対象の汚泥量の増大も招くこととなる。
この問題を克服するために、大阪市に適した効率的な汚泥処理システムを検討した結果、大阪市型
の「高温高濃度消化法」を構築した。
1)汚泥濃縮の目標濃度
まず、目標となる汚泥濃縮濃度の設定と目標濃度を得るための方法を検討した。
嫌気性消化で発生する消化ガスだけで、年間を通じて消化槽の加温熱量をまかなえる濃度の汚泥
を、消化槽に投入する必要がある。濃縮プロセスを嫌気性消化の前工程と位置づけて、エネルギー
的視点から目標となる濃縮汚泥濃度を検討したところ、有機物含有率 70%が前提であるが、消化ガ
スを有効利用してその排熱で消化タンクの加温熱量をまかなうことにすれば、5%程度の汚泥濃度
が目標になると判断した。
また、実設備に不可欠な汚泥の輸送・撹拌を考えると、それらに必要な動力が異常に大きくなら
ない程度の上限濃度も考慮する必要がある。これについても検討を行ったところ、汚泥濃度が高く
なるに従い、水に比べより多くの動力が必要になり、汚泥濃度が 4%を超える程度までは撹拌動力
の伸びが緩やかであるが、汚泥濃度が 6%になると撹拌動力が急激に大きくなることがわかった。
この物理的側面からの判断では、目標とすべき汚泥濃度は 4∼5%程度と考えられた。
エネルギー面から評価した必要濃度と物理的な面から検討した拘束を受けると考えられる濃度
が同程度であったことから、濃縮プロセスの目標濃度を 4∼5%と設定した。
2)目標汚泥濃度を効率的に得るための濃縮方法
まず重力濃縮について、高い固形物回収率を維持しながら高濃度の汚泥を得る手法について調査
を行ったが、重力濃縮単独で 4∼5%の目標濃度を安定的に得ることが困難であることがわかった。
そこで、薬品を添加しないことを前提に、消費動力を最も重要な判断指標として、加圧浮上濃縮、
遠心濃縮という機械濃縮の適用方法について検討を行ったところ、加圧浮上濃縮では余剰汚泥で濃
縮濃度 5%を安定的に確保することが困難であり、かつ消費電力が 150kWh/t-DS 程度と大きいこ
とがわかった。
一方、遠心濃縮では余剰汚泥単独でも濃縮濃度 5%を確保でき、消費電力も 80kWh/t-DS 程度で
あることから、初沈汚泥は重力濃縮槽単独で、余剰汚泥は重力濃縮後遠心濃縮で処理する方法が、
最も効率的であると判断できた。
- 58 -
なお近年、遠心濃縮以外にさらに経済的に効率よく濃縮濃度5%を確保するため、ベルト型ろ過
濃縮機や差速回転型スクリュー濃縮機を実施設で稼動させている。
3)嫌気性消化
従来の濃度の汚泥では、消化槽の有機物負荷が 1kg/m3・日程度までであったが、濃度が 4∼5%
になると、従来のままの運転では有機物負荷が 2kg/m3・日程度にまで大きくなることから、消化機
能への影響の検討を行ったが、2.5kg/m3・日程度までは消化機能に影響はなかった。また、消化日
数についても従来の 3 分の 2 程度確保すれば十分であることがわかった。
引き続き、高濃度汚泥を嫌気性消化した後の固液分離特性、調質及び脱水方法について検討を行
ったところ、高濃度の消化汚泥では2次消化槽での濃縮倍率が低いこと、洗浄槽での洗浄操作によ
る濃度上昇も見込めないことから、従来の2次消化槽と洗浄槽を省略し、場内返流負荷を削減する
ほうがはるかに有利であるという結論に達した。
以上の検討結果を示すフローが図 5.1.1.4 である。
余剰汚泥
5%
1.5%
脱水
遠心濃縮
重力濃縮
初沈汚泥
4%
消化
重力濃縮
図 5.1.1.4 高濃度消化法
4)高温高濃度消化法への発展
高濃度消化法への移行に伴い、消化槽内での発泡現象が頻繁に起こるようになった。この対策の
ひとつとして、泡の粘性を下げるために消化温度を中温域から高温域に上げることを試みた。その
結果、予想以上に安定した運転を行うことができた。高温域に上げることで消化反応速度が上昇し、
粘性の低下のためにガス分離が促進されたと考えられる。
この結果をふまえ、平成 5 年から本格的に高温高濃度消化の運転を採用することとし、現在に至
っている。
(3)事業概要
高温高濃度消化による効果について、以下に述べる。
1)ガス発生量の増大
図 5.1.1.5 は、津守下水処理場における昭和 59 年度から平成 8 年度までの消化率と消化ガス発生
量の年間平均値の変化を示したものである。
すべての汚泥を中温高濃度消化し始めた平成 2 年度以降、
消化ガス発生量は大幅に増加しており、
高温消化に移行した平成 5 年度以降はさらに増加している。一方消化率は、従来消化から中温高濃
- 59 -
度消化に移行してもほとんど変化なく、45%程度であったが、高温消化に運転を切り替えてからは
約 55%に上昇していることがわかる。
消化率(%)、消化温度(℃)
60
中温高濃度 高温高濃度
消化
消化
30,000
50
25,000
40
20,000
30
20
15,000
消化率
消化温度
ガス発生量
10,000
10
ガス発生量m3/日
従来の消化
5,000
0
0
S59 S60 S61 S62 S63 H元 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8
年度
図 5.1.1.5 消化率とガス発生量の経年変化
2)補助燃料量の削減
図 5.1.1.6 は、津守下水処理場で年間に消費された消化槽加温用ボイラ燃料と汚泥焼却炉の燃料
の和を、平成元年度と平成 6 年度で比較したものである。燃料は灯油換算で示してある。当処理場
は当時 400t/日の容量の焼却炉が設置されており、他処理場からトラック輸送されてくる汚泥ケー
キも焼却処分していた。そのため、その量や性状によって燃料消費状況は変わるが、従来どおり消
化していた平成元年度に比べ、平成 6 年度は高温高濃度消化により加温熱量が増加したにもかかわ
らず、消化ガスの貢献が大きく、燃料の消費量が 60%削減されているのがわかる。
消化ガス
重油
灯油
化石燃料
平成元年度
従来消化
平成6年度
高温高濃度消化
図 5.1.1.6 津守下水処理場の汚泥処理過程での年間消費燃料量(灯油換算)
3)高温高濃度化による汚泥固形物量の削減とそれに伴う温室効果ガスの削減
住之江下水処理場では、平成 16 年度までは従来消化を行っており、平成 17 年度から高温高濃度
消化に移行した。
当処理場の平成 16 年度と平成 18 年度の汚泥量と温室効果ガス排出量を表 5.1.1.2
で比較している。なお、当処理場の汚泥は平野下水処理場に送泥され、溶融と焼却両方の方法によ
- 60 -
り減量されているが、表では全量を焼却した場合の温室効果ガス排出量を示している。
表 5.1.1.2 高温高濃度消化による温室効果ガス削減効果
消化汚泥の固形物量 (t-DS/年)
メタン
(kg-CH4/年)
焼却に伴う
一酸化二窒素
温室効果ガス
(kg-N2O/年)
排出量
二酸化炭素換算
(t-CO2/年)
平成 16 年度
(従来消化)
4,275
平成 18 年度
(高温高濃度消化)
3,526
Δ749
184
151
Δ32
16,878
13,921
Δ2,957
5,236
4,319
Δ917
差
焼却汚泥量の削減だけを考慮すれば、高温高濃度消化の導入によって、DS 換算で年間約 750 ト
ンの固形物が減少し、炭酸ガス換算で年間約 900 トンの温室効果ガスを削減できている。
4)嫌気性消化導入による汚泥固形物量の削減とそれに伴う温室効果ガスの削減
海老江下水処理場では阪神淡路大震災により消化槽が損壊したため、平成 7 年 1 月から汚泥の消
化を休止していたが、平成 15 年度から運転を再開し、平成 17 年度から高温高濃度消化法を導入し
た。これに伴う温室効果ガス排出量の変化について、表 5.1.1.3 に示した。
なお、当処理場の汚泥は舞洲スラッジセンターに送泥され、すべて溶融処理を行っているため、
指標として溶融に伴う温室効果ガス排出量を用いている。
表 5.1.1.3 嫌気性消化導入による温室効果ガス削減効果
汚泥の固形物量 (t-DS/年)
一酸化二窒素
溶融に伴う
(kg-N2O/年)
温室効果ガス
二酸化炭素換算
排出量
(t-CO2/年)
嫌気性消化を
行わない場合
10,580
高温高濃度消化
を行う場合
5,625
Δ4,955
18,102
9,624
Δ8,478
5,612
2,983
Δ2,628
差
溶融汚泥量の削減だけを考慮すれば、嫌気性消化の導入によって、DS 換算で年間約 5,000 トン
の固形物が減少し、炭酸ガス換算で年間約 2,600 トンの温室効果ガスを削減できている。
(4)今後の展望
現在、高温高濃度消化法対応にむけて消化槽の更新を順次行っている。平成 22 年度には放出下水
処理場においても高温高濃度消化法を導入する予定であり、これで本市に現存するすべての消化槽が
高温高濃度化することになる。
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