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ムダ取りの概念が 職人集団の新たな力を引き出す

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ムダ取りの概念が 職人集団の新たな力を引き出す
ムダ取りの概念が
職人集団の新たな力を引き出す
金井大道具
舞台装置という特殊なオーダーメイド品をつく
り上げる職人たちが改善活動に取り組んでいる。
金井大道具
(東京都中央区)
は歌舞伎や演劇、イベ
ント、ファッションショー、テレビ番組の舞台美
術を手がける。改善活動に取り組む中で、生産性
への認識を新たにした。見える化や在庫、動作と
いった基本に着目することで作業を合理化。業務
の見直しによる課題発見と検証、対策のサイクル
を確立し、組織風土の変革に挑戦する。伝統芸能
を支えてきた技能と技術を次世代につなぎながら、
より洗練された職人集団へと生まれ変わろうとし
ている。
金井大道具の皆さん(最前列左から2番目が大郷浩司製作
課課長、岡田透美術課課長)
伝統芸能を支える
絵の具を使用して描く。平面的に描かれることが
特徴で、リアルさよりも飾ったときの美しさを重
金井大道具は江戸三座の1つ、市村座の劇場付
視する。屋台は木材を加工して部品をつくり、組
き大道具製作会社として 1886 年に創業。以来、歌
み立てる。部品の精巧さに加え、運搬と解体を考
舞伎を中心とした舞台美術の世界で先陣を切って
慮した設計製作ノウハウを要する。立体造形物は
きた。
イメージとなる写真や画像を見ながら、発砲スチ
歌舞伎の大道具とは桜や松、部屋の内部などの
ロールをカッターとニクロム線を使いながら、加
風景を描いた背景画である「書割
(かきわり)
」や
工して仕上げていく。さらに完成品を劇場で組み
建物を表現する「屋台
(やたい)
」のほか、樹木・
立て、施工し、劇中での舞台転換
(大道具の移動)
花、灯篭、石碑などの立体造形物のこと。
と終演後の解体作業までを手がける。金井大道具
書割はベニヤ板をつなげたキャンバスに特殊な
はこれら一連の業務を担うことができる世界屈指
の大道具製作会社でもある。
会
社
概
要
会 社 名:金井大道具㈱
所 在 地:〒 104-0041 東京都中央区新富 2-8-1
設 立:1886 年
従業員数:186 名
事業内容:歌舞伎や演劇の大道具、イベント、ファッ
ションショー、テレビ番組のセットの設計
と製作、施工
工場管理 2016/12
「自分たちは特別」という
意識を払拭
大道具は観客をストーリーに引き込み、役者の
演技を引き立てる。舞台で欠かすことのできない
存在である。携わる職人は矜持を持ち、技能の研
鑽に余念はないが、依頼者である舞台関係者も個
1
松の立ち木製作作業。ストーリーや演者のことを
想像し忠実に仕上げる
発砲スチロール
で作成した灯篭
と石碑。造型と
塗装の熟練技能
でリアルな質感
を演出する
性的でこだわりが強い。その依頼に応えようとす
る大道具製作業者は試行錯誤を重ね、造形や塗装
技能を駆使してつくり上げる。金井大道具の現場
と現場をつなぎ、意思疎通を円滑に行うことで全
も矜持とこだわりを持った職人の集団である。
社的な成果を期待した。
一方で職人気質は弱点にもつながる。
「自社しか知らないので、自分たちの業務に問題
「習うより慣れろ」という技能職特有のならわし
意識はなかったし、改善意識を持とうという発想
である。同社もこの慣習が当てはまる。厳しい年
自体がありませんでした」
(大郷氏)
。
「自分たちは
長者の仕事を若手が熱心に観察し、1つひとつ覚
量産品ではなく一品ものをつくっているので、生
えることでキャリアを積み上げていく。厳しい上
下関係のなかであいさつを含めた基本的な礼儀と
産性ということのイメージが湧きませんでした」
(岡田氏)
と2人は率直な感想を明かす。
立ち振る舞いは鍛えられる一方で、仕事の段取り
最初に取り組んだことは現場の整理・整頓・清
や作業方法など、従来方法を踏襲することに疑問
掃の3S 活動。乱雑に置かれた木材や工具、仕掛
を持つ社員は多くなかった。
け品、完成品を適所に整頓し、作業スペースを確
さらに、もう1つ課題がある。
「古典芸能やエン
保した。また、生産管理板や出荷管理用のプラカ
ターテイメントという華やかで特殊な業界が顧客
ードを導入し、見える化を実施。進捗状況の把握
のため、
『自分たちは特別』という認識から、生産
と搬入作業の効率が向上した。
性に対する意識の希薄さがあったと思います」と
量産型製造業の一般的な取組みで成果を実感し
金井勇一郎社長は打ち明ける。
た同社。若手からベテランまで、多くの社員がこ
そこで専門のコンサルタントを招き、客観的な
れまでの仕事の取り組み方を再考するきっかけに
指摘を受けることで、組織と社員の意識変革に向
なった。
けた活動に取り組むことを検討。製造業で実績が
ある PEC 協会の指導による現場改善に取り組むこ
守破離を実践し、柔軟性を養う
とになった。
若手管理職が中心になって
現場改善を推進
大郷氏の製作課では屋台や造形物を製作する。
造形物のなかでは、家具や花、木の実など劇中に
頻出するアイテムがある。こうしたアイテムは、
2015 年 11 月から本格的な現場改善の取組みが始
急な案件や追加製作が生じたときのために、つく
まった。活動の中心になったのは生産管理部製作
り置きしておく。このことを「つくりすぎのムダ」
課の大郷浩司課長と同美術課の岡田透課長の2名。 としてコンサルタントから指摘された。
技能と技術、マネジメント力が成熟しつつある若
現場の管理者として、安全在庫は保有しておき
手管理職をリーダーにすることでコンサルタント
たいのが本音。しかし、改めて考えてみると、
「念
2
Vol.62 No.14 工場管理
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