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カキ殻等による漁場環境改善利用技術の開発
研 究 分 野 3 漁場環境の維持・保全 部 名 漁場保全部 研 究 課 題 名 (2) カキ殻等による漁場環境改善利用技術の開発 予 算 区 分 県単 試験研究実施年度・研究期間 平成 13 年度∼平成 17 年度 担 当 (主)松山和弘 (副)加賀新之助 協 力 ・ 分 担 関 係 <目的> カキ殻の処理対策が大きな問題となっており、再資源化へ向けた取り組みがなされている。カキ殻はその 9 割以上が炭酸カルシウムで占められており、これまでに飼肥料、土壌改良材、底質改良材などに利用されてき ている。一方、本県の内湾漁場では底質への有機物堆積が進行し、これにより夏季の成層形成期には貧酸素水 域の発達がみられる漁場もある。貧酸素状態になると、底質から硫化物イオンやアンモニムイオンなどが溶出 し、これらが貧酸素と相まって水産生物のへい死などの悪影響を及ぼす危険性が高まるため、貧酸素水発生へ の対策は養殖業振興の面から大きな課題となっている。 そこで本研究では、漁場環境改善対策及び廃棄物対策の両面から、カキ殻による水質改善効果について明ら かにすることを目的とする。 平成 13 年度においてカキ殻による硫化物イオン及びアンモニムイオンの海水からの除去効果について検討 した結果では効果が認められなかったことから、今年度は底泥上の海水の溶存酸素(DO)濃度とpH の推移 に及ぼすカキ殻の影響を室内実験により検証した。 <試験研究方法> 1 カキ殻 大船渡市赤崎漁協の清水地先に野積みされているものを譲り受け、水道水で洗浄した後、80∼90℃で乾 燥した。粉砕機で粉砕し、目合い 0.5mm と 2mm のフルイでサイズ分けし、粒径 0.5∼2mm のものを試験 に使用した。 2 底泥の採取 実験に使用した底泥は平成 15 年 2 月 17 日、大船渡湾清水地先の水深 23m の海底からエクマンバージ採 泥器により採取した。これを実験室に持ち帰って貝殻や小石を取り除き均質とし、使用時まで 5℃で保管し たものを実験に使用した。 3 供試泥の性状分析 乾泥率、強熱減量、CODについて水質汚濁調査指針(日本水産資源保護協会編 1980)及び漁場環境保 全調査推進事業調査指針(水産庁 1997)に基づき、強熱減量は 550℃での強熱法、CODはアルカリ性 KMnO4法によった。 4 カキ殻の DO、pH に対する影響試験 (1) カキ殻で泥表層を覆った場合の影響試験 9 本の 300ml 三角フラスコに底泥を 100g ずつとり、50g のカキ殻を泥上に表面を覆うように添加した。 表面を平らに均した後、 フラスコを DO 濃度、 pH 既知の人工海水で満たしフィルムで密栓した。 これを 15℃ の恒温室(照度約 200lux)に静置し、1 日、3 日、6 日後にそれぞれ 3 本ずつ取り出して海水中の DO 濃度 (ウィンクラー法)と pH を求めた。また、カキ殻を添加しないもの 9 本についても同様に試験し対照とし た。 (2) カキ殻を泥中に混和した場合の影響試験 このうち 8 本に 50g のカキ殻を添加して混和した。 16 本の 300ml 三角フラスコに底泥を 100g ずつとり、 残りの 8 本には 25g のカキ殻を添加し混和した後、さらに 25g のカキ殻を表面を覆うように添加した。こ れらについて(1)と同様に 1 日(3 本) 、3 日(3 本) 、6 日(2 本)後の DO 濃度と pH を求めた。また、カ キ殻を添加しないもの 8 本についても同様に試験し対照とした。 <結果の概要・要約> 1 供試泥の性状 今回実験に使用した泥は乾泥率 19.2%、強熱減量 17.0%、COD57.9mg/gdrymud であった。 この性状と採取地点付近のこれまでの調査による知見から、成層形成期には貧酸素水塊を惹起する性質のもの であると推察された。 80 2 カキ殻で泥表層を覆った場合の影響 図 1 に示すようにカキ殻で泥表面を覆った場合でも対照と比較して DO 値に大きな差はなく、本試験結果 からはカキ殻による貧酸素化の遅延効果は認められなかった。 しかしながら、カキ殻を添加することにより pH の低下速度は低下していた(図 2) 。 3 カキ殻を泥中に混和した場合の影響 図 3 に示すようにカキ殻を泥中に混和した場合においても DO 値の推移は対照と大きな差が無く、この場 合でもカキ殻による貧酸素化の遅延効果は認められなかった。 また、泥表面を覆った場合と同様に pH の低下速度は低下していた(図 4) 。 <主要成果の具体的なデータ> DO(mg/l) かき殻添加 かき殻無し 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 かき殻添加 かき殻無し 8.00 7.90 7.80 PH 7.70 7.60 7.50 7.40 0 1 2 3 経過日数 4 5 0 6 図1 カキ殻の添加がDOの経日変化に およぼす影響 0 1 2 3 4 経過日数 5 2 3 4 経過日数 5 6 図2 カキ殻の添加がPHの経日変化に およぼす影響 かき殻混 かき殻混・載 カキ殻無し 8.0 7.0 6.0 5.0 DO(mg/l) 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 1 かき殻混 かき殻混・載 8.00 7.90 7.80 PH 7.70 7.60 7.50 7.40 6 かき殻無し 0 図3 カキ殻の混和がDOの経日変化に およぼす影響 1 2 3 4 経過日数 5 6 図4 カキ殻の混和がPHの経日変化に およぼす影響 <今後の問題点> 昨年度からの室内実験により、カキ殻による硫化物イオン・アンモニウムイオンの吸着除去効果、貧酸素 化の遅延効果とも確認できなかったことから、カキ殻そのものの作用による漁場環境改善効果は期待しがた いものと考えられる。 石灰散布による底質環境改善効果について過去に報告されていることから、焼成したカキ殻による効果に ついても把握しておく必要がある。 <次年度の具体的計画> 焼成したカキ殻を使用して、硫化物イオン・アンモニウムイオンの吸着除去効果、貧酸素化の遅延効果に ついてこれまでと同様室内実験により確認する。 81