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下山 淳一 固体化学と磁気科学手法による新高温超

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下山 淳一 固体化学と磁気科学手法による新高温超
平成 20 年度 実績報告
「新規材料による高温超伝導基盤技術」
研究代表者
下山 淳一
東京大学大学院工学系研究科・准教授
固体化学と磁気科学手法による新高温超伝導材料物質の創製
§1.研究実施の概要
本研究課題では、“新規高機能超伝導材料物質の化学設計と合成”、“異方的電磁物性の
解明と制御技術確立”、“新高温超伝導材料物質の創製”の 3 つの研究項目を実施し、鉄系超伝
導体を含めて、次世代新高温超伝導材料の創製を最終的な目標としている。20 年度の研究は
試料合成設備の導入・稼動に約 3 ヶ月を要したため、実施できたのがわずか 3 ヶ月間であったも
のの、鉄系新超伝導物質探索、および鉄系超伝導体の磁場配向特性評価に着手し、それぞれ期
待通りの次年度につながる成果を挙げることができた。
新物質探索においては、新しいペロブスカイト型類縁構造をブロック層に持つ新物質を 5 つ発
見した。うち 3 種が超伝導を示し、特に Fe2P2Sr4Sc2O6 は As を含まない鉄系超伝導体最高の 17
K(常圧下)を記録した。ペロブスカイト層の化学組成の柔軟性から今後も多くの新超伝導体発見
が期待でき、より高い Tc の実現を目指していく。
一方、層状鉄系ニクタイド物質の磁場配向特性を調べたところ、これまで磁場配向を試みた全
ての化合物が結晶の ab 面内に磁化容易軸を持つことを示す配向挙動を示し、回転磁場を用いる
ことによって c 軸配向体が得られることがわかった。但し、磁気異方性は意外に小さく、また希土類
元素由来の磁性が異方性にあまり影響しないという、銅酸化物超伝導体とは異なる性質が認めら
れた。興味深い成果としては斜方晶である SrNi2P2(Sr122)において回転変調磁場を用いて、3
軸磁場配向に成功したことが挙げられ、これは銅酸化物超伝導体 RE247 系に次いで超伝導体と
しては 2 例目である。21 年度以後は磁気異方性支配因子の構造化学的理解を深める研究を進
めながら、c 軸配向焼結体の作製とその臨界電流特性評価およびピン止め中心の導入を平行して
行い、鉄ニクタイド系超伝導体の材料としてのポテンシャルを高める予定である。
1
§2.研究実施内容
2.1
新規超伝導物質の設計と探索
鉄系超伝導体の基本構造は Fe の正方格子を有することであるが、これまでに報告されて
いる鉄系超伝導体の結晶構造は、REFeAsO(1111)系、AEFe2As2(122)系、LiFeAs(111)系、
FeSe(11)系の 4 種類に限られていた。我々は、鉄系超伝導体に新たなブロック層を導入す
ることによって新物質開発を行うことを企図した。鉄砒化物の超伝導発現機構は銅酸化物
系とは異なるものの、キャリアドープによって超伝導が発現する点など、いくつかの共通
点が見られる。銅酸化物においては Tc の向上は銅酸素面の枚数を増やすこと、構造的な二
次元性を増すことによって達成されている。そこで我々は新たなブロック層として、ペロ
ブスカイト型の酸化物層の導入を試みた。我々は以前から類似した系である酸硫化物系に
おいて物質開発を行っており、特にペロブスカイト型酸化物層とアンチフルオライト型硫
化物層の積層した層状酸硫化物について多くの新物質を発見している[1]。そこで今回、こ
のペロブスカイト層と硫化物層が積層した層状酸硫化物の硫化物層が鉄砒化物層と同一構
造的であること、鉄砒化物において報告されているよりはるかに多様な構造が存在するこ
とに着目した。なお、酸砒化物におけるこのような積層の例として、MnAs 層を有する
(Mn2As2)(Ba2MnO2)[2]及び FeAs 層を有する(Fe2As2)(Sr3Sc2O5)[3]が報告されている。
系統的な材料探索を行うことにより、現在までに(Fe2As2)(Sr4Sc2O6)、(Fe2As2)(Sr4Cr2O6)、
(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2As2)(Sr4Sc2O6)の 5 種類の新物質を発見した。
発見した新物質はいずれも図 1 のような結晶構造を持ち、非常に二次元性の高い構造を有
していることが特徴である。本系が発見されてから約一ヶ月であるが、当グループ及び他
グループの研究により、現在までに M = Fe, Co, Ni, Pn = P, As, AE = Sr, Ba, M' = Sc, V,
Cr と非常に多様な元素が導入可能であることが既に分かっている。これら新物質の帯磁率
及び抵抗率を測定した結果、(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2P2)(Sr4Sc2O6)、(Ni2As2)(Sr4Sc2O6)の
三種の新物質において完全反磁性とゼロ抵抗を確認し、新超伝導体であることを明らかに
した。特に(Fe2P2)(Sr4Sc2O6)は超伝導転移温度が 17 K と、常圧で As を含まない鉄系超伝
導体として最も高い転移温度を有している(図 2)。また一連の新物質の構造的特徴を明ら
かにし、これらの物質が 1111 系より長い Fe-Pn 距離を有し、鉄ニクタイド層の構造的完
全性が 1111 系よりも相対的に高いことを明らかにした。これらの成果は既に各論文誌へ投
稿済み[4-6]である。またこれら一連の発見を契機として、現在ペロブスカイト酸化物層を
有する鉄砒化物は、非常に多くの研究者が参入する鉄系超伝導体の中でも最も研究の活発
な一分野となっている。現在我々は FeAs 層を有する新物質へのキャリアドープによる超
伝導の発現、発見した超伝導体群の Tc の向上、さらなる新物質の探索などを進めている。
2
0
H = 1 Oe
FC
-1
4p M / H
AE4M’2O6
0.1
ZFC
-2
4pM / H
M2Pn2
0
-0.1
FC
-0.2
c
-3
b
0
a
10
15
T/K
20
20
T/K
図 1 (M2Pn2)(Sr4M'2O6)の結晶構造
2.2
10
図 2 (Fe2P2)(Sr4Sc2O6)の磁化率の温度依存性
3d ニクタイド系の磁気異方性と磁場配向体作製
磁場配向法は磁化容易軸を整列させる静磁場配向が一般的であるが、それだけでなく磁
化困難軸や三軸結晶軸の整列を可能とする回転(変調)磁場配向法がある。後者の配向法は最
近開発された手法で、本研究プロジェクトにおいて鉄ニクタイド系超伝導体に適用する研
究も進めている。しかしながら、適用できる物質側の定量的な条件はまだ明らかにされて
いないのが現状である。今年度では、伝導冷却式超伝導磁石の室温ボア内で試料の回転を
可能とする回転制御機構を新規に導入し、これまで我々が扱ってきた銅酸化物高温超伝導
体で行ってきた配向条件をベースとして各種鉄ニクタイド系物質の磁化軸方向の決定や
(一軸・三軸)配向条件の探索を行った。
写真 3(a)に既設の伝導冷却式超伝導磁石および今年度新規に導入した強磁場用回転駆動
装置の概観を示す。超伝導磁石は重量物であり、磁石の回転により回転磁場を生み出す手
法は現実的ではないことから、配向させたい試料を回転させることで回転(変調)磁場配向を
実現した。写真 3(b)には駆動装置回転部の拡大図を示すが、実際の配向実験は水平方向に
印加した磁場のもと、配向させる試料を回転ステージ上に固定し室温ボア内の磁場中心位
置にて回転制御することで行われる。なお、配向はすべて室温で行い、磁場中心位置はフ
ランジからボア内方向に約 40cmのところに存在し、粉末試料を 12 時間硬化型エポキシ
樹脂と混錬したのち直方体のアクリル製の型に流し込み、粉末を配向させる方式で磁場配
向体を得た。図 4 に磁場印加方向と試料の位置関係を示した。180 度ごとに静止(2 秒)と回
転(60rpm)を繰り返す間欠回転磁場の場合、配向軸の決定はa, b, g面の XRD 測定より行い、
それぞれ第一磁化容易軸、第二容易軸、磁化困難軸を明らかにできる。
今年度では、対象物質として「122 相」および「1111 相」に着目した。122 相について
は室温にて斜方晶である SrNi2P2(Sr122)と正方晶である BaNi2P2(Ba122)を用い、結晶構
造が三軸配向性(あるいは系の三軸磁気異方性)に与える影響を見出すとともに、磁性の
3
主な支配因子と考えられる NiP 層が生み出す磁化軸についても明らかにした。一方、1111
相については、[REO][FeAs] (RE = La, Nd)に用い、これらの配向効果から FeAs 層や Nd3+
イオンが生み出す磁気異方性の協奏あるいは競合関係についての知見を得た。
図 5 に La1111 および Nd1111 について 10 T 中で回転磁場配向(回転条件:60 rpm)させ
た粉末配向体試料のg面の X 線回折パターンを示す。比較として La1111 の粉末 XRD パタ
ーンも併せて示した。まず、希土類イオンでもf電子に起因した磁性を持たない RE=La
の場合では、粉末 XRD パターンと比べて 00l ピークが主たる回折ピークとなり、回転磁場
による c 軸配向が実現している。しかし、回折ピーク強度は図 B のような高い強度を示さ
ず、FeAs 層が生み出す層内―層間磁気異方性が 122 相のそれよりも低いことが示唆され
る。しかし、2 次の Stevens 因子が負で c 軸磁化容易軸を示すとされる Nd イオンを含む
Nd1111 においても配向体の XRD パターンは La1111 のそれとあまり変わらない。この結
果についての解釈は難しいが、少なくとも Nd イオンが生み出す磁気異方性に比べて FeAs
が作る磁気異方性のほうが高いことを意味している。この問題を定量的に理解するには磁
場配向条件(印加磁場、回転速度)の変化に対する配向性の変化や粒径を変数とした配向
性の変化を調べる必要がある。
図 6(a)(b)に斜方晶 Sr122 および正方晶 Ba122 について 10T 中で間欠回転磁場配向させ
た粉末配向体試料のa, b, g面の X 線回折パターンを示す。斜方晶 Sr122 では、unknown
ピークも見られるが、各面の XRD パターンは異なっており間欠回転磁場による 3 軸結晶配
向が実現できていることを示している。つまり、第一磁化容易軸、第二容易軸、磁化困難
軸はそれぞれ b 軸、a 軸、c 軸であり、NiP 層方向が磁化容易軸である。一方で、正方晶
Ba122 ではb面とg面の分離が実現されていない。このことは、今回の配向磁場条件では間
欠回転磁場のうち静止効果として現れる第一磁化容易軸の整列については有効に機能した
一方、回転効果として現れる磁化困難軸の整列には不十分であることを意味する。また、
この結果からも少なくと磁化容易軸は NiP 層方向であることも明らかとなった。これら 2
つの結果より、結晶構造の違いが系の磁化容易軸方向に大きな影響を与えないが、三軸配
向挙動に大きな影響を及ぼすことを見出した。
(a)
伝導冷却式
超伝導磁石(<10T)
(b)
回転
ステージ
回転
駆動装置
図3
室温ボア
φ100mm
(a)伝導冷却式超伝導磁石と強磁場用回転駆動装置の外観図。(b)強磁場用回転駆動装置の拡大写真
4
102
10
20
30
006
114
203 212
[LaO][FeAs]
powder
40
50
115
220
214
106
104
005
磁場印加方向と試料の位置関係
0
006
001
005
004
[NdO][FeAs]
10 T (rotated)
003
110
111
112,103
004
201 200,113
図4
102
Intensity (a.u.)
003
005
004
003
102
[LaO][FeAs]
10 T (rotated)
60
70
2q (deg)
図 5.(右) 回転磁場中配向 RE1111 相(RE=La,Nd)試料の
g面における XRD パターン。
(b)
0
10
060
20
30
40
50
60
70
040
10 T
(modulated rot.)
060
200
006
g
200
006
101
101
b
0
2q (deg)
図6
BaNi2P2
020
Intensity (a.u.)
200
004
002
020
g
a
10 T
(modulated rot.)
unknown
040
020
b
SrNi2P2
006
Intensity (a.u.)
a
060
(a)
10
20
30
40
50
60
70
2q (deg)
(a)斜方晶 Sr122 および(b)正方晶 Ba122 の間欠回転磁場配向体の各面の XRD パ
ターン。斜方晶 Sr122 では 3 軸結晶配向が実現できた。
<参考文献>
[1] K. Otzschi et al., J. low Temp. Physics, 117 (1999) 729
[2] E. Brechtel et al., 1979 Z. Naturforsh 34, 777
[3] X. Zhu et al., 2009 Phys. Rev. B 79 024516.
[4] H. Ogino et al., arXiv: 0903.3314
[5] H. Ogino et al., arXiv: 0903.5124
[6] Y. Matsumura et al., arXiv: 0904.0825
5
§3.研究実施体制
(1)「下山・東大」グループ
① 研究分担グループ長: 下山 淳一 (東京大学、准教授)
② 研究項目
1. 新規高機能超伝導材料物質の化学設計と合成
2. 異方的電磁物性の解明と制御技術確立のための磁場配向挙動研究
3. 新高温超伝導材料物質の創製 --- 21 年度より研究実施予定
§4.成果発表等
原著論文発表
① 発表総数(発行済:国内(和文) 0件、国際(欧文) 0件):
② 未発行論文数(“accepted”、“in press”等)(国内(和文) 0件、国際 (欧文) 2 件)
1. T. Ogino, Y. Matsumura, Y. Katsura, K. Ushiyama, S. Horii, K. Kishio and J.
Shimoyama, “Superconductivity at 17K in Sr4Sc2Fe2P2O6: new superconducting
layered oxypnictides with thick perovskite oxide layer”, submitted to Supercond.
Sci. Technol. arXiv: 0903.3314.
2. T. Ogino, Y. Katsura, S. Horii, K. Kishio and J. Shimoyama, “New Iron-based
oxyarsenides Sr4M2Fe2As2O6(M = Sc, Cr)”, submitted to Supercond. Sci. Technol.
arXiv: 0903.5124.
6
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