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第4章 入出力電流波形改善法

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第4章 入出力電流波形改善法
第4章
入出力電流波形改善法
66
第4章
入出力電流波形改善法
近年,電力変換器の入力高調波低減に対する要求は厳しくなってきており,マトリ
ックスコンバータを実用化する際にも,この入力高調波の低減策は重要な検討課題の
一つとなる。これまでに提案されたマトリックスコンバータの制御法による入力電流
高調波低減は,間接交流変換器において入力電流高調波低減策として用いる自励式整
流回路の場合と比較するほど十分ではない。その主な理由として,マトリックスコン
バータは1段の変換器で電源側の制御と負荷側の制御を同時に行っていることによる
制約などが挙げられる。したがって,これらの制約を克服できるマトリックスコンバ
ータの入力電流波形改善法を提案し,入力電流ひずみ率低減の可能性を追求すること
はマトリックスコンバータの実用化にあたって重要であると考えられる。
本章では前章で提案したスイッチングパターン発生法を用いて,入出力電流波形改
をさらに改善する方法に対して検討し,その有効性を明らかにする。まず,マトリッ
クスコンバータを出力側からは制御電圧源として動作する電圧形変換器と見なし,電
源側からは制御電流源として動作する電流形変換器と見なす考え方を提示する。次に,
この考え方に基づいて,キャリヤ比較による PWM 制御とマトリックスコンバータの
制御電圧源および制御電流源としての動作の関係を定式化し,制御法を理論的に導出
する。また,第 3 章で言及した,入力中間相を出力することで発生する出力電圧の誤
差をなくす方法を説明する。さらに,理論的に導出した制御法をシミュレーションお
よび,実験を行い,本章における検討結果の妥当性を明らかにする。
本章の構成は以下の通りである。
4.1 節では,入出力電流を正弦波化する時基本となる方針に対して説明する。まず,
電源電圧と出力電流を制御電源と制御電流現へのモデル化を行い,電圧源の脈動と電
流源の脈動を補償する指令値発生法を提案する。
4.2 節では,中間相出力比の定量的な検討を行う。中間相出力比が入力電流波形と直
接的な関係にあることを定性的に示す。次に,出力側 3 相電流が制御された電流源で
あるとみなすことで,中間相出力比と入力電流波形を数式的に関連づける。
第4章
入出力電流波形改善法
eu
67
Ls
va
imax_i
imax= iu
L
R
ia
Cs
ev
vb
N
imid= iv
imid_i
ew
ib
MC
imin= iw
図 4.1
N'
imin_i
vc
ic
マトリックスコンバータにおける入出力各部の電流の定義
4.3 節では,PWM 制御方式によってマトリックスコンバータの入力基本波力率が 1
になることを理論式によって証明する。
4.4 および,4.5 節では本章で提案する制御方式をシミュレーションと実験によって
その妥当性を明らかにする。
4.1
4.1.1
入出力電流の正弦波化の方針
マトリックスコンバータにおける各部の波形
以降の説明では,マトリックスコンバータの各部を流れる電流の名称を図 4.1 のよ
うに定義する。なお図 4.1 では,入力電圧の大小関係が最大相は u 相,中間相は v 相,
最小相は w 相となっている。出力電流は a 相と b 相が正方向で,c 相は負方向である。
次に図 4.2 に各部において電圧と電流波形の模様を示した。また描かれた入力電流の
波形は模式的なものである。LC フィルタとマトリックスコンバータの間を流れる電
流は,その名称に添え字_i が付されている。
図 4.2 に示すように,マトリックスコンバータの主回路は LC フィルタを介して電
源に接続される。この LC フィルタは PWM 制御による周波数成分を除去することが
目的であるため,PWM スイッチング周波数が通常数 kHz 以上に設定されることを考
えると LC フィルタの L による電源周波数における電圧降下の影響は小さい。したが
って,マトリックスコンバータの出力側から見ると,電源電圧がマトリックスコンバ
ータのスイッチングにより切り出されたようになる。電源が電圧源的であることを考
えると,出力側から見たマトリックスコンバータは PWM により制御される制御電圧
第4章
vu
入出力電流波形改善法
68
入力電圧
出力線間電圧
vab
Sau
Sav
Saw
eu
ev
LS
iu
CS
N
ew
iv
iw
iu_i
L
R
ia
Sbu
Sbv
Sbw
vb
N'
ib
Scu
Scv
Scw
iu
va
vc
ic
ia
入力電流
図 4.2
出力電流
マトリックスコンバータにおける入出力各部の電圧電流波形の例
源と見なすことができる。
一方,マトリックスコンバータの負荷にモータなどが接続される場合を考えると,
モータの漏れインダクタンス等の影響により,電流は平滑化され PWM キャリヤ周期
内では出力電流はほぼ一定と見なすことができ,等価的に電流源として取り扱うこと
ができる。電源側からマトリックスコンバータを見た場合,出力電流を PWM 制御に
より電源側に切り出すように動作することになる。したがって,電源側から見たマト
リックスコンバータは PWM により制御される制御電流源と見なすことができる。
以上のように,マトリックスコンバータの PWM 制御は,出力側に対する制御電圧
源としての動作と,電源側に対する制御電流源としての動作の双方を決定づけている
ことになる。したがって,入出力電流の正弦波化を考えるには,出力電流制御に必要
な制御電圧源としての機能を維持しつつ,マトリックスコンバータを制御電圧源とし
て動作させる際の PWM 制御における自由度を利用して電源側に正弦波状の電流を合
成する制御電流源として動作させるようにすればよいことになる。
4.1.2
電源電圧のモデル化
まず,議論の説明上,直流電圧源 EDC を持つ三角波キャリヤ比較 PWM 方式の電圧
第4章
入出力電流波形改善法
69
ev- ew
ev- eu ew- eu
ew - ev ev- ew
eu - ew
ew- eu
ev- eu
eu - ev
1
2
3
4
el-l,max eu- ew
e u - ev
1
el-l,mid
0
5
ew - ev
6
(Y-axis is normalized with respect to minimum value of el-l,max )
図 4.3
入力電圧の等価電圧源としての取り扱い
形インバータについて考える。出力電圧 PWM 指令値 v*x _ PWM と,実際に出力される電
圧実値の 1 キャリヤ周期内での平均値 v x の関係を考えると次式のようになる。
ここで,
x は任意の出力相(x = a ~ c)を意味し,Atri は三角波キャリヤの振幅である。
vx =
v*x _ PWM
2 Atri
E DC
(x = a ~ c)
(4.1)
また,見方を変えると,出力電圧 PWM 指令値 v*x _ PWM は,出力電圧指令値 v *x を三角波
キャリヤの振幅 Atri と直流電圧源 EDC の比で規格化した値とも考えられる。
v*x _ PWM =
2 Atri *
vx
EDC
(4.2)
一般に v *x および v*x _ PWM の関係を明確にするため,ここで v x を含めて制御系の流れ
に沿って整理すると次のようになる。
まず,電流制御系やモータ制御系などからの指令値によって,出力電圧指令値 v *x が与
えられる。次に, v *x は(4.1)式によって直流電圧源 EDC で規格化され, v*x _ PWM に変換
される。最後に v*x _ PWM は PWM 制御器へ与えられ,負荷の x 相に実際の電圧の 1 キャ
リヤ内の平均値 v x が出力される。制御が正確に行なわれているならば,v x の値は va* と
等しくなる。
次に(4.1)式をマトリックスコンバータに拡張する。マトリックスコンバータにお
いて電圧形インバータの直流側電圧に相当するものは電源の線間電圧の式(3.1)であ
る。式(3.1)の el −l ,max , el −l ,mid の波形を図 4.3 に表示する。電圧形インバータの直流
電源と異なり,マトリックスコンバータの出力電圧制御に用いる 2 つの入力線間電圧
第4章
入出力電流波形改善法
70
el −l ,max ,el −l ,mid は図 4.3 のように脈動するため,電圧形インバータと同様な電圧指令値
の(4.1)式を用いる場合,出力電圧指令値 v *x が正弦波であっても実際の出力電圧 v x は正
弦波にならず,ひずんだ波形になる。
4.1.3
PWM による出力電圧
前章の 3.2 節で説明した PWM パターンを用いて,出力電圧の実値と電圧指令値の
関係を示すと(4.3)式になる。ただ,出力電圧は 1 キャリヤにおける平均値とする。
v*xl
v*xh - v*xl
vx =
el −l ,max +
el −l ,mid
2 Atri
2 Atri
(4.3)
*
前章では出力の 1 相に va* と vam
の 2 つの指令値を用いた。本章においても出力の 1
相に対して 2 つの指令値を用いるが,符号を v*xh , v*xl のように表示する。ここで,x
は任意の出力相(x = a ~ c)を意味し,h と l は指令値信号の電圧レベルがハイとロウを
*
意味する。すなわち, va* を v*xh へ, vam
を v*xl に置き換えて説明を進む。
ここで,(4.3)式の第2項 el −l ,mid の係数 v*xh − v*xl は,入力の中間相が出力 x 相に接続され
るデューティとなっているのが分かる。そこでこれを中間相出力比 k x と表記し,次式
のように定義する。前章において km の場合は, 出力 3 相に対して同じ値をとっていた
が,本章では,出力の各相別に独立されたパラメータで考える。
k x = v*xh − v*xl
(4.4)
出力される電圧実値 v x (1 キャリヤ周期内の平均値)の値を v *x と等しくすることを
考え,(4.3)式の v x を v *x に置換し,(4.4)式の関係を用いると,出力 x 相の PWM 指令値
v*xh , v*xl は次式のようになる。
v*xh =
el − l , mid
2 Atri *
v x + k( )
x 1−
el − l , max
el − l , max
(4.5)
v*xl =
el − l , mid
2 Atri *
vx−k(
)
x
el − l , max
el − l , max
(4.6)
(4.5)および(4.6)式により,中間相出力比 k x と制御系の出力電圧指令値 v *x を独立に設
定することが可能となる。すなわち, v x を出力電流制御で要求される値に制御し,か
つ,中間相出力比 k x を自由な変数として使用できることになる。
4.1.4
入力線間電圧脈動の補償
ここで,電圧指令値を操作することにより入力電圧脈動を補償する方法を考える。
第4章
入出力電流波形改善法
71
まず,MC が入力電圧の位相にかかわらず必ず出力できる最大電圧は入力線間電圧振
幅の 3 / 2 倍で,図 4.3 の線間電圧 el −l ,max の瞬時値の最小値 min( el −l ,max )である。
(4.1)式の EDC の代わりに el −l ,max の最小値 min( el −l ,max )を用い,MC の制御系内の PWM
電圧指令値 v*x _ PWM を表わすと次式のようになる。
v*x _ PWM =
2 Atri
v *x
min (el − l , max )
(4.7)
(4.7) 式 に 対 し て el −l ,max の 脈 動 を 補 償 す る た め , 出 力 電 圧 指 令 値 v *x を
min( el −l ,max )/ el −l ,max を用いて新たに規格化を行う。さらに,(4.5)と(4.6)式を用いて 2 つ
の PWM 指令値 v*xh , v*xl を求めると次式になる。
v*xh =
el − l , mid
min
(el − l , max)*
vx _ PWM + k( )
x 1−
el − l , max
el − l , max
(4.8)
v*xl =
min
el − l , mid
(el − l , max)*
vx _ PWM−k(
)
x
el − l , max
el − l , max
(4.9)
本方式では,上式の v*x _ PWM は出力電流の PI 制御器から出力される指令値であり,
右辺第1項の係数 min( el −l ,max )/ el −l ,max によって線間電圧 el −l ,max の脈動を補償する形に
なっている。
以上の方法により,出力電圧を指令値通りに制御しつつ,中間相出力比 k x を自由に
設定できるとともに,出力電圧指令値の補正により電源電圧の脈動分の補償も実現し,
結果として出力電流を指令値どおりに制御することが可能となる。
4.1.5
出力側電流源のモデル化
マトリックスコンバータの出力 3 相電流が指令値通りに制御されている場合,例え
ば 1 キャリヤ周期の間では,出力側に接続された誘導性負荷が負荷電流をある程度維
持しようと働くため出力側は電流源的な振る舞いをすると考えることができる。した
がって,入力電流を制御するには,これら出力側の制御電流源を用いて入力側の中間
相電流を調整すればよい。
図 4.4 に入力中間相の等価回路を示す。中間相出力比 kx は,入力中間相と出力 x 相
の電流源を接続するデューティと言い換えることができる。したがって,電流 imid_i の
1 キャリヤ周期あたりの平均値 Avg(imid_i)は,次式のように中間相と接続するデューテ
ィと出力電流の積で表される。
imid _ i =
ka
k
k
ia + b ib + c ic
2 Atri
2 Atri
2 Atri
(4.10)
第4章
入出力電流波形改善法
72
ただし,Atri は三角波キャリヤの振幅である。次に,出力側 3 相電流は、正方向と負
方向の 2 組に分けて考えると、図 4.5 のように単相等価回路に考えることができ,脈
動を持つ 2 つの電流源,図 4.6 に示した+isum ,−isum であるとみなすことができる。isum
の値は次式で表される。
isum = sgn(ia ) ia + sgn(ib ) ib + sgn(ic ) ic
(4.11)
(ただし、関数 sgn は、引数の符号が正なら 1、引数の符号が負なら 0 を返す)
図 4.6 における 2 つの仮想電流源は,それぞれの符号は常に変わらないが,値は周
期的に変化する。この周期は出力側の電流の位相により与えられる。
第4章
入出力電流波形改善法
73
imid
rs
imid_i
Ls
emid
duty ka
ia
duty kb
ib
duty kc
ic
Cs
図 4.4
マトリックスコンバータの入力中間相の等価回路
+isum
imid
rs
imid_i
Ls
emid
図 4.5
-isum
Cs
マトリックスコンバータの入力中間相の単相等価回路
2
+isum
1
ia +ic
ia
ia +ib
ib
ib +ic
ic
ib +ic
ic
ia +ic
ia
ia +ib
0
-1
ib
−isum
-2
(Y-axis is normalized with respect to maximum value of isum.)
図 4.6
マトリックスコンバータの負荷側等価電流源 + isum , − isum
第4章
4.2
入出力電流波形改善法
74
中間相出力比の検討
本節では,前節で説明した中間相出力比を用いて,マトリックスコンバータの入力
電流を正弦波化する具体的方法を説明する。
4.2.1
中間相出力指令値
図 4.7 を用いて,中間相出力比 kx とを用いて入力電流正弦波化の方針を説明する。
まず,入力電流の基本波力率は 1 であると前提する。図 4.7(a)は中間相出力比 ka , kb , kc
を 0 に設定した時の入力 v 相電流波形例である。中間相出力比が 0 のため,入力の中
間相は 1 キャリヤ周期の間を通じて,出力相に全く接続されない。このため v 相が中
間相となる期間では,図 4.2 のように,v 相の LC フィルタとマトリックスコンバータ
の間のパルス状電流 iv_i が全く流れない。その結果,電流 iv は低次のひずみを多く含ん
だ波形になる。
図 4.7(b)は,v 相が中間相となる期間で,ka , kb , kc を然るべき値に設定した場合であ
る。v 相の LC フィルタとマトリックスコンバータの間を流れる電流 iv_i を調整すれば,
図のように iv を正弦波にできると考えられる。
ただし v 相が最大相や最小相の期間は,
u 相や w 相が中間相となるから,同様の考え方で中間相出力比を調整すれば良い。
すなわち,中間相出力比 ka , kb , kc を制御して中間相のパルス状電流 imid_i を調整し,中
間相電流 imid が図 4.7(c)の i*mid のような然るべき波形に制御すれば,入力 3 相電流波形
は平衡な正弦波になる。
第4章
入出力電流波形改善法
75
0
Continuous waveform : iv
Pulse waveform : iv_i
(a) k x を 0 にした場合の入力電流波形
0
Continuous waveform : iv
Pulse waveform : iv_i
(b) k x を適当にした場合の入力電流波形
iv
iw
iu
i*mid
0
(c) 入力電流波形と入力中間相電流の指令値
図 4.7
中間相出力比 k x と入力電流波形の関係
第4章
入出力電流波形改善法
4.2.2
76
中間相出力比の定量的な検討
*
入力電流を正弦波化するため,図 4.7(c)中間相電流指令値 imid
と一致するような,
ka , kb , kc の決定法について述べる。
まず,入力中間相の入力電流を制御する際には,負荷側各相の電流のうち,その符号
が中間相電流指令値の符号と一致する出力相の電流のみを用いて制御を行う。すなわ
*
ち,出力 x 相の電流 ix が中間相電流の指令値 imid
と反対方向(異符号)なら,デューテ
ィ k x は 0 とし,その出力相の電流は入力中間相には流さない。次に,出力 x 相の電流
*
ix が中間相電流の指令値 imid
と同方向(同符号)なら,デューティ k x は正の値とする。
*
複数の出力相電流の符号が imid の符号と一致する場合はその2相の k x を等しい値にす
る。
*
例えば, imid
>0, ia >0, ib >0, ic <0 の場合, k a = kb >0 , k c =0 にする。この 2
つの制御則は,図 4.6 の + isum , − isum の等価電流源のうち符号の一致する一方を用い
て, imid を合成することと等価である。以上の考え方をまとめると,出力 x 相の中間
相出力比 k x は次式で与えられる。
k x = 2 Atri
*
imid
isum
(4.12)
*
*
ただし, ix が imid
と異符号の出力 x 相では k x =0 にし,出力電流が imid
と同符号の出力
相の電流のみを入力電流制御に用いる。
この式の形は電圧形インバータの式の形と相対になっている。すなわち、本章で述べ
た制御法は出力側の電流源を用いて入力電流波形を電流形インバータのように合成す
るものである。
次に,中間相出力比 k x を求めるため,(4.12)式の演算を実現する方法を具体的に説明
*
する。マトリックスコンバータの入力力率を 1 に制御することを考えると, imid
の波
*
形は入力電圧と同相の三相正弦波電流波形の一部となるようにすればよい。この imid
の波形は以下の手順で求められる。まず,入力電源電圧の位相情報を用いて図 4.7(c)
*
*
に示した中間相電流指令値 imid
の位相を決定する。すなわち,imid
の位相は入力電圧位
*
相と同じにする。次に指令値 imid
の振幅を決めるには入力電流の振幅を知る必要があ
る。そこでマトリックスコンバータの損失を無視し,入力側の有効電力 Pin と出力側
*
の有効電力 Pout は等しいと仮定し,出力側有効電力の情報から imid
の振幅を決める。ま
*
*
ず, imid
を入力電流値 I in _ peak で規格化した値 imid
_ peak で表記する。
*
imid
_ peak =
*
imid
I in _ peak
(4.13)
第4章
入出力電流波形改善法
77
次に,入力側の有効電力 Pin と出力側の有効電力 Pout は等しいと仮定すると式(4.14),
(4.15) から式(4.16)が成り立つ。
Pin = uin _ d × I in _ d = 2 3 min(∆emax ) × 3 2 I in _ peak
Pout = u out _ d × I out _ d =
min(∆emax ) *
u d × id
2 Atri
2 Atri × I in _ peak = u d* _ std × id
(4.14)
(4.15)
(4.16)
式(4.13) に(4.16)式を代入し,整理すると(4.17)式になり,最終的に(4.18) 式となる。
k x = 2 Atri
kx =
I in _ peak *
imid _ peak
isum
ud* _ std id
isum
*
imid
_ peak
(4.17)
(4.18)
*
(ただし ix が imid
_ peak と異符号の出力 x 相では, k x =0)
uin _ d , uout _ d は入出力 d 軸電圧を, I in _ d , I out _ d は入出力電流であり,入力力率 1 で
*
制御するため, I in _ d は I in _ peak で置換できる。また, imid
は図 4.7(c)で,常に±0.5 の間
*
で変化する。 isum は出力相の電流検出値のうち, imid
_ peak と同符号を持つ相の和で決定
する。id は出力電流検出値の d 軸成分である。u d* は id* − id を PI 制御器に加えて求まる,
規格化出力電圧 d 軸成分である。制御系により自動的に,脈動する仮想電圧源 el − l ,max
の最小値 min( el − l ,max )で規格化されている。以上で述べた指令値を演算する制御系を
ブロック図で示すと図 4.8 のようになる。
第4章
入出力電流波形改善法
78
MC
3φSource
Ls
3φ LOAD
Cs
PLL
abc-dq
id
iq
∑
isum
θ in
i*d
i*q
PI
*
imid
table1
θ in
θ in
table2
table3
図 4.8
4.3
dq-abc
v *x_PWM
x=a~c
(output phase)
el-l,mid
el-l,max
v *xl
PLD
PI
u*d_std u*q_std
kx
min(el-l,max)
el-l,max
ω*
v*xh
Digital
Signal
Processor
制御ブロック図
提案方式による入力電流波形特性検討
本説では,入力中間相の電流のみを基本波力率1の正弦波入力電流の一部となるよ
う制御し,入力最大相,最小相の電流波形は直接的には制御しないが,出力電流が三
相平衡である場合,最大相,最小相の入力電流も基本波力率 1 の正弦波入力電流の一
部となることを理論的に証明する。
まず,負荷電流を PWM 制御した結果,入力側の最大相電流,中間相電流,最小相
電流の 1 キャリヤ周期における平均値をそれぞれ i max_ i , i mid_i , i min_ i とすると,これら
第4章
入出力電流波形改善法
79
は出力電流とスイッチングデューティ比の積の和から求められ、次式となる。
val* + Atri
vbl* + Atri
vcl* + Atri
imax_ i =
ia +
ib +
ic
2 Atri
2 Atri
2 Atri
k
k
k
imid _ i = a ia + b ib + c ic
2 Atri
2 Atri
2 Atri
imin_ i
(4.19)
(4.20)
*
*
*
Atri−vah
Atri−vbh
Atri−vch
=
ia +
ib +
ic
2 Atri
2 Atri
2 Atri
(4.21)
(4.19)式から(4.21)に各相の出力電圧指令値である(4.5),(4.6)式と中間相出力比
の(4.12)式を代入し整理すると次式となる。
imax_ i =
1
*
(va*ia* + vb*ib* + vc*ic*)− imid
el − l , max
el − l , mid
(4.22)
el − l , max
*
imax_ i = imid
imax_ i = −
(4.23)
1
*
(va*ia* + vb*ib* + vc*ic*)− imid
(1 −
el − l , max
el − l , mid
el − l , max
)
(4.24)
上 3 つの式で使用されている変数を具体的な数式で表す。出力電圧指令値 v*a ,v*b ,v*c
は三相平衡となっているため次式のように表される。
*
v a* = V out
sin ωout t
*
v b* = V out
sin (ωout t − 2 π / 3 )
(4.25)
*
v c* = V out
sin (ωout t − 4 π / 3 )
また,出力電流が正弦波状に制御され,負荷力率角がφあるとすると出力電流は次式
のように表せる。
i a = I out sin (ω out t − φ)
i b = I out sin (ω out t − 2 π / 3 − φ)
(4.26)
i c = I out sin (ω out t − 4 π / 3 − φ)
以下,中間相電流の傾きの正負によって図 4.9 に示すようにⅠ,Ⅱの二つの場合に分
けて考える。Ⅰ,Ⅱの期間では中間相電流は中間相電圧と位相の一致した正弦波とな
るように制御される。このため、中間相電流指令値と中間相電圧を次式のよう表す。
*
i mid
= I in sin ωin t
(4.27)
第4章
入出力電流波形改善法
80
最大電圧相
中間電圧相
I
Ⅱ
図 4.9
I
Ⅱ
最小電圧相
入力電流波形
e mid = V in sin ωin t
(4.28)
ここで,I in は入力電力と出力電力の関係から求まる定数となる。 Ⅰ,Ⅱの期間で(4.27),
(4.28)式のωint はそれぞれ次式の範囲で値をとる。
Ⅰ
−π6 <ωint <π6
(4.29)
Ⅱ
5π6 < ωint < 7π6
(4.30)
また,入力電圧は三相平衡であるため最大相電圧と最小相電圧は(4.28)式において位相
を 2π/3 ずつずらしたものとなり次式のように表される。
Ⅰ
emax = Vin sin (ωint + 2π/ 3)
Ⅱ
emax = Vin sin (ωint − 2π/ 3)
emin = Vin sin (ωint − 2π/ 3)
emin = Vin sin (ωint + 2π/ 3)
(4.31)
(4.32)
入力電圧を表す(4.28),(4.31),(4.32)式より el −l ,max と el −l ,mid を求めると次式となる。
Ⅰ
e l − l , max =
3V in cos ωin t
e l − l , mid =
3V iin (cos ωin t − π / 3)
(4.33)
第4章
Ⅱ
入出力電流波形改善法
e l − l , max = − 3V in cosωin t
81
(4.34)
e l − l , mid = − 3V in (cos ωin t + π 3)
出力電圧指令値の(4.25)式,出力電流の(4.26)式,中間電流指令値の(4.27)式及び入力線
間電圧を表す(4.33),(4.34)式を(4.22)から(4.24)式に代入し整理すると最大相電流,
中間相電流,最小相電流は次式となる。
I max_ i = I in sin (ωin t + 2π/ 3)
Ⅰ
I mid_i = I in sinωin t
(4.35)
I min_ i = I in sin (ωin t − 2π/ 3)
I max_ i = I in sin (ωin t − 2π/ 3)
Ⅱ
I mid_i = I in sinωin t
(4.36)
I min_ i = I in sin (ωin t + 2π/ 3)
図 4.9 に示すようにⅠとⅡの期間では中間相に対する最大相と最小相の位相の進み
遅れが逆になっているが,入力相電圧の(4.28),(4.31),(4.32)式と入力相電流の(4.33),
(4.34)式よりⅠ,Ⅱの期間の双方において,最大相電流,最小相電流も含め入力電流は
入力電圧と同位相の正弦波電流となることが証明された。したがって,入力中間相の
入力電流波形を制御すれば,結果として最大相,最小相の入力電流も基本波力率 1 の
三相平衡正弦波となる。
第4章
4.4
入出力電流波形改善法
82
シミュレーションによる検討
以降ではシミュレーション及び実験により,図 4.8 に示した本論文で検討する制御
方式による入出力電流波形を検証する。シミュレーションの条件は表 4.1 に示す。
まず,入力電流が理論通り,正弦波状に制御できることを確認するためのシミュレ
ーションを行った。図 4.10 の(a)から(c)の波形は 4.3 節の(4.19)式から(4.21)式の 3 つの
計算値を示している。これらの値は出力電流の検出値と制御系内の v*xh , v*xl から算出
した演算値で,LC フィルタとマトリックスコンバータの間を流れるパルス状電流を
1キャリヤ周期ごとに平均した値に相当する。
これらに入力 u 相の電流波形 iu と,(4.19)
式から(4.21)式の 3 つの計算値を併せて図 4.10(d)に示す。imax_ i ,imid _ i ,imin_ i は図 4.10(a),
(b),(c)のようにそれぞれ別々に演算しているが,(d)に示すようにこれらを合わせると
同一の三相平衡正弦波電流となる。また,これらを合わせた正弦波状電流演算値と実
際の電源電流(u 相の iu のみ表示)は一致していることがわかり,検討した方式により入
力電流の正弦波化が実現されていることが確認できる。
表 4.1
シミュレーションの定数
Parameters in simulation
Output current
7[A]
Load
L Load
5[mH]
(Per phase)
R Load
1 [Ω]
第4章
入出力電流波形改善法
83
1.5
1
0.5
(a)
1
0.5
0
-0.5
-1
(b)
-0.5
-1
-1.5
(c)
2
1
0
-1
-2
0.06
0.065
0.07
0.075
0.08
0.085
(d)
図 4.10
入力電流の合成(シミュレーション結果)
上から,入力最大相,中間相,最小相の平均電流波形,
各相の平均電流波形と u 相に流れる電流波形
0.09
第4章
4.5
入出力電流波形改善法
84
実験による検討
試作装置により実験を行った結果を示す。本論文で検討する制御方式の入出力電流
波形改善効果を確認するため,本章においても 2 つの条件で比較検討を行った。
まず,方式 A では入力電圧の脈動の補償を行わない条件で中間相出力比のみを制御
した。すなわち,4.1.3 節の式(4.5),(4.6)と中間電圧出力比の(4.12)式を用いて制御した
場合である。
一方,方式 B では入力電圧脈動を考慮しながら中間相出力比制御を用いた場合であ
る。すなわち,(4.8)と(4.9)式を求め,最後に(4.12)式を用いた場合であり,本論文で述
べた全ての制御を行った場合である。
次に,これらの方式 A および B について,実験による入出力電流波形を図 4.11 と
図 4.12 に示す。方式 A では入力電流 imid のみがシミュレーション結果と同様に正弦波
状に制御されているのが分かる。しかし,他の imax と i min に相当する入力電流の正負の
ピーク付近がひずんでいる。これに対して,方式 B では,理論通りに入力電流および
出力電流の双方が正弦波になっている。すなわち,入力電圧脈動の考慮により出力電
流の波形も同時に改善され,その結果として入力電流の波形も改善していることが分
かる。
また,図 4.13 と 4.14 に入力電流の周波数解析結果の一例として変調比 54[%]の場合
の結果を示す。図 4.13 は出力周波数が 30Hz,図 4.14 に出力周波数が 50Hz の結果で
ある。前述の制御方式 A,B の結果を同時に示した。出力周波数の変化による入力電
流 THD の大きな変化はみられず,商用電源周波数(50Hz)と出力周波数が一致した図
4.12 ではひずみ率がやや高い数値を示した。入力電流の THD(20 次まで計算)は方式 A
の場合 9.01[%]と 10.77[%]で,方式 B では 3.82[%]と 4.58[%]であり,方式 B における
入力電流の THD の改善が確認された。また,方式 A で目立っていた低次の高調波成
分が方式 B では効果的に抑えられている。
図 4.15,4.16 にマトリックスコンバータの各部の波形を示す。図 4.15 は入出力の電
圧及び電流波形であり,4 番目の電流波形をマトリックスコンバータと入力 LC フィ
ルタの間を流れている電流の波形である。図 4.16 はそのマトリックスコンバータと入
力 LC フィルタの間を流れている電流の波形とその移動平均をあわせて示したもので
ある。移動平均はシミュレーションと同様に(4.19)∼(4.21)式で求めた1キャリヤ周期
における平均値に相当する。これら図より移動平均の波形は入力電流パルス列の現れ
る期間と位相の一致した正弦波となっており,4.3 節の解析結果を裏付けるものとなっ
ている。また,図 4.16 の入力線間電圧との位相関係もあわせて考えると入力基本波力
率も 1 となっていることが分かる。
第4章
入出力電流波形改善法
85
以上の実験結果をまとめると,マトリックスコンバータの中間相出力比を操作する
ことによる入力電流波形の改善効果は有効であり,本論文で検討した入力電圧脈動お
よび出力電流波形の補償を併用することにより,入出力電流の正弦波化が両立できる
ことを示した。さらに,図 4.11 と図 4.12 を比較すると,図 4.12 は図 4.11 に対し,入
出力電流の双方が同時に改善されている点は大変興味深い結果である。
一般に三相平衡回路の瞬時電力には脈動が存在しない。従って,エネルギー蓄積要
素を持たないマトリックスコンバータの場合でも,入出力の電流を同時に三相平衡正
弦波にすることは原理的に可能であることは明らかである。これに対し,入出力電流
のいずれが一方にひずみが生じたとすると,瞬時電力の平衡条件から他方の電流にも
必然的にひずみを生ずることとなる。入出力電流の双方にひずみを生じている状況が
図 4.11 の結果である。これに対し,入出力の瞬時電力平衡状態を維持しつつ,入出力
電流の双方が正弦波化されている状況が図 4.12 であると考えられる。
したがって,本論文で検討した制御法は,入出力電流が同時に正弦波化されている
図 4.12 の状態を実現できており,マトリックスコンバータの入出力電流制御における
原理的到達点を実現したものと言える。
4.6
第 4 章のまとめ
本研究では,正弦波入出力電流を実現するための PWM 制御に基づくマトリックス
コンバータの制御法における考え方を示し,この考え方に基づいて具体的な制御法を
導出した。マトリックスコンバータが電源側に対しては制御電流源として,出力側に
対しては制御電圧源として動作していることに着目し,制御電圧源および制御電流源
としての振る舞いと PWM 指令値の関係を定式化し,これに基づいて理論的に制御法
を導出した。その際,出力電流制御に2種類の入力線間電圧を用い,その出力比率を
調整することで出力電流の制御性を維持しつつ,入力電流の波形改善が実現された。
さらに,入力電圧および出力電流の脈動の影響を補償する制御を組み込むことで,入
出力電流が同時に正弦波化されるマトリックスコンバータの入出力電流制御における
理想的な状況が実現されることが理論的および実験的に確認された。
第4章
入出力電流波形改善法
86
入力 u相電圧(50V/div)
出力 a相電圧(50V/div)
入力 u相電流(0.5A/div)
出力 a相電流(1A/div)
Time scale is 10 msec / div.
図 4.11
検討方式 A の実験波形
入力 u相電圧(50V/div)
出力 a相電圧(50V/div)
入力 u相電流(0.5A/div)
出力 a相電流(1A/div)
Time scale is 10 msec / div.
図 4.12
検討方式 B の実験波形
第4章
入出力電流波形改善法
87
8%
Method A(THD=9.01)
7%
Method B(THD=3.82)
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
Order
図 4.13
出力が 30Hz の時の入力電流周波数解析結果
8%
Method A(THD=10.77%)
7%
Method B(THD=4.58%)
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
1
2
3
4
図 4.14
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
Order
出力が 50Hz の時の入力電流周波数解析結果
第4章
入出力電流波形改善法
88
図 4.15 各部電圧電流の実験波形
(上から,電源線間電圧,出力電圧,電源側入力電流,入力電流,5ms/div, 電圧 50V/div,
2A/div
電流 0.5A/div)
図 4.16
入力電流の移動平均
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