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ベックニュース
BEQNews
[ベックニュース]
◉食を通じてQOLの向上に
貢献する栄養通信
Better quality of life
through better nutrition
編集・発行●株式会社 ジェフコーポレーション 〒105-0012 東京都港区芝大門1-16-3 芝大門116ビル3F http://www.jeff.jp (03)3578-0303
提 供●株式会社 クリニコ 〒153-0063 東京都目黒区目黒4-4-22 http://www.clinico.co.jp (03)3793-4101
◉病態栄養 TOPICS シトルリンとはーその機能と栄養学的意義ー
◉Trend
日本人の食事摂取基準(2015 年版)にみる
高齢者の栄養管理の考え方
◉臨床現場訪問 褥瘡患者における
アルギニン配合栄養補助飲料使用例
◉連載 高齢者の栄養ケアのあれこれ その❶
高齢者の食欲低下とうつ
marilyn barbone/Shutterstock.com
2015
24
No.
病態栄養トピックス⑰
シトルリンとは
ーその機能と栄養学的意義ー
米倉竹夫 先生
よねくら・たけお◉近畿大学医学部奈良病院小児外科教授
近年、生体を維持する上でなくてはならない一酸化窒素(NO)
を
産生するアミノ酸として、
アルギニンとともに注目されているのが
シトルリンである。最近の研究では、短腸症候群における栄養管理
において重要なマーカーとしても注目されるなどシトルリンに関す
る話題が多い。長年シトルリン研究に取り組む近畿大学医学部奈良
病院小児外科教授 米倉竹夫先生にシトルリンの機能や栄養管理
⬆
図1
における重要性等について伺った。
NO産生を
介した作用
シトルリンの生理作用
シトルリンは、
アルギニン※1 の前駆物質で、生体内では主に小腸に
おいて産生されます。
シトルリンはアミノ酸の一種ですが、
コドン
(遺
伝記号の単位)で指定されているアミノ酸ではないため通常はたん
ぱく質に含まれておらず、食物からあまり摂ることはできません。
⬆
図2
シトルリンは、
シトルリンは
アルギニンを経て
内皮細胞において、
NOを産生する。
●アルギニンの前駆体としてのたんぱく質合成促進作用
●尿素サイクルの構成成分としてのアンモニアの解毒作用
●NO※2 産生を介した血管拡張および血流促進等の作用
に、肝細胞の細胞質においてシトルリン→アルギニノコハク酸→ア
●抗酸化作用
ルギニン→オルニチン→シトルリンと巡る、
オルニチン回路(尿素回
路:urea cycle)
の構成要素として生体に有害なアンモニアを尿素
などの生理作用を有しています。
として体外に排泄する重要な役割を担っています。
シトルリンは炎症の強い時期でも NO 産生を維持
※1 アルギニン:アミノ酸の一種で、成長ホルモンの分泌を促進し、
たんぱく質
合成・糖代謝・脂質代謝を促進することにより筋肉を増強し、
基礎代謝を高める作
用を有する。
またアルギニンはNOを産生し、
シトルリンに変換される。
コラーゲン
合成や細胞分裂を促すことにより、創傷治癒作用が期待される。
感染症などで炎症が強いときは、
生体においては NO 阻害物質が
どんどん産生されます。それはたんぱく質のメチル化が進むことに
より、NO 合成酵素活性を抑制する非対称性ジメチルアルギニン
※2 一酸化窒素
(NO)
:NOは種々の細胞において産生される重要な生理活性物
質。特に血管内皮細胞で産生されるNOは、強い血管拡張作用を有し組織におけ
る血流の維持に重要な役割を有している。
(ADMA)
が血中に増加するからです。ADMA はアルギニンと構造
がよく似ているので、ADMA が増えるといわばアルギニンを押し
のけて、NO 産生細胞の中にどんどん取り込まれることになり、NO
シトルリンはどう産生される?
産生が阻害されるのです。
このように、
アルギニンとADMA は同じ
アルギニンやグルタミンが腸管細胞内のミトコンドリア内で代謝
トランスポーターを介して細胞内に取り込まれますが、
シトルリンは
され、遊離アミノ酸としてシトルリンが血中に放出されます。特にグ
ADMAとは別のトランスポーターを介して NO 産生細胞の中に取
ルタミンの 25%はシトルリンに代謝されます。その 75%が腎臓で、
り込まれることが分かりました。ですからADMAによってNO産生
残りの大半も末梢組織においてアルギニンに再合成され、
たんぱく
が抑制されている場合でもシトルリンはNO産生細胞に取り込まれ、
合成や生体の維持に重要な生理活性物質であるNOを産生するな
Cit-NO cycleによってNOの産生が維持されるのです。
ど重要な役割を担っています。
また、
シトルリンは、Citrulline-NO cycle(以下 Cit-NO cycle)
と
シトルリンとアルギニンの関わり
呼ばれる代謝回路においてアルギニノコハク酸シンターゼ
(ASS)、
アルギニンを経口摂取した場合は、腸管にて約 30%が代謝され
アルギニノコハク酸リアーゼ
(ASL)
により再びアルギニンに合成さ
(一部はシトルリンに代謝されます)
、代謝されずに吸収されたアル
れることで、
NO産生が維持されます。外因性のシトルリンもNO産
ギニンは大部分が肝臓で尿素合成に使われてしまいます。
すなわち
生細胞に取り込まれ、Cit-NO cycle を介しNO産生を惹起します
投与したアルギニンの半量は尿として体外に排泄されるだけです。
(図 1、図 2)。
一方、
シトルリンを経口摂取した場合は、腸管から吸収され肝臓
には取り込まれず、大部分は腎臓に運ばれアルギニンに変換され全
アンモニア解毒作用
身に供給されます。
このためアルギニンの有効性を発揮させるには、
さらに、
シトルリンは肝臓においてアンモニアの解毒に関与し、特
アルギニン自身を投与するよりも、
シトルリンを投与した方が効果
1
シトルリンとはーその機能と栄養学的意義―
が得られるのではないかと考えられています。
短腸TPNモデルに対する
シトルリン補充療法の有用性
シトルリンの経口摂取で血漿アルギニン濃度が
上昇
短腸症候群による長期TPN依存患者では血漿シトルリンが著明
例えば、ある実験によれば、
シトルリンを投与すると血漿アルギニ
に低下していますが、
ラットの短腸モデルにおいても同様に血中シ
ン濃度が 1.6 倍に高まりました。
また、
シトルリンを投与した方が、
ア
トルリンの低下を認めることが報告されています。
このように腸管
ルギニンを投与するよりも、
アルギニン濃度が持続されることが分
容量の減少などにより腸管からのシトルリンの供給が低下すると、
かりました。
このことから、血中のアルギニンレベルを上昇させるに
Cit-NO cycle を介してのNO産生が低下し、微小循環障害が惹起
は、
アルギニンだけを摂取するよりもシトルリンを同時に摂取した
され、PNALD(静脈栄養関連肝障害)
や IFALD(腸管不全関連肝障
方が有効であると考えられます。特にアルギニンとシトルリンを組
害)
などの病態発生に関与している可能性も考えられています。
み合せて摂取すると、相乗的にNOの産生が上昇することが報告さ
私どもの実験では、絶食下の短腸モデルラットにTPN投与を1週
れています
(図 3)
。
間施行したところ、血漿中のシトルリン、
アルギニン、
オルニチンな
どの各種アミノ酸値が低下しました。絶食下にTPNを施行すること
シトルリンの栄養管理への応用
で、食事を介してのグルタミン供給がなくなるとともに小腸自体の
ーアルギニン、
シトルリン含有の栄養補助食品についてー
ボリュームが減少することによりシトルリンの合成量が減少したた
近年、免疫能の調整(immunomodulation)
あるいは褥瘡など創
めと考えられます。
傷治癒を促す目的で、
アルギニンを配合した栄養補助食品の有用
そこで、
この短腸TPNモデルに対するシトルリン補充療法の有用
性が注目されています。そうした栄養補助食品においても、前述の
性について検討しました。比較としてシトルリン代謝に関連するア
ように、
アルギニン、
シトルリンを一緒に添加した方が NO 産生能を
ミノ酸であるアルギニンを添加したTPN投与群、
シトルリン代謝に
促す面で有利だと思います。
さらに例えば腎不全がベースにある症
直接関与しないアミノ酸としてアラニンを添加したTPN投与群を
例では、腎臓でのシトルリン代謝を考慮しアルギニンを減量しシト
作成しました。
ルリンリッチな組成のものが有効かもしれません。
また、創傷治癒能
本実験では小腸 80%切除により血漿シトルリン値の低下を認め、
力を高めるためにも、単にアルギニンリッチの組成にするというこ
またシトルリンを添加したTPNを施行することにより血漿シトルリ
とではなく、NO 産生系を活性化させることによる血流の改善が重
ン値の上昇、
さらにオルニチン回路を構成するアルギニンやオルニ
要で、NO 産生系に直接働くシトルリンの方が重要かもしれません。
チン値の上昇も認めました。一方、
アルギニンを投与しても血漿中
前述のようにNO 産生においては、NO 産生細胞に取り込まれる際
のアルギニン値は上昇しましたが、
シトルリン投与におけるアルギ
のアルギニンとシトルリンのトランスポーターが異なっていること
ニン値の上昇よりもその値は高くありませんでした。
これは血中の
から、効率よく産生を促すためにも両者をあわせて投与する意義は
アルギニンは、肝臓において速やかにオルニチンに分解されるのに
対し、
シトルリンを TPNに添加したことにより、血中に投与された
あると思います。
シトルリンは用量依存的に腎臓や末梢細胞および組織にてアルギ
シトルリンをめぐるTOPICS
ニンに代謝された後、肝臓でオルニチン回路や Cit-NO cycleに取
ー小腸機能との関係ー
り込まれて代謝されるためと考えられます。本実験結果から、短腸
私は小児外科医なので、小児の短腸症候群の研究を行っていま
に対するアルギニン値の上昇にはアルギニンを投与するよりもシト
す。短腸症候群のように腸管機能が低下している症例では、
シトル
ルリンを使用した方が有効であると考えられました。
リンの血中濃度が低下することが分かり、そしてこのシトルリン濃
侵襲用のアミノ酸輸液剤があれば
度が予後に非常に
通常の食事を摂っている場合は、
グルタミン、
アルギニン、
さらに
影 響 す るとい う
はオルニチンさえも腸管でシトルリンに変換されるので、
シトルリン
データを得ました。
の欠乏については問題は起こらないでしょう。
しかし腸管が正常に
またシトルリン値
機能している場合はよいのですが、例えば絶食下でTPN投与が行
は腸管自身の長さ、
われている場合は、基本的には、
シトルリンは合成されないので、腸
ボリューム、あるい
管はアルギニンをできる限りシトルリンに変換したり、筋たんぱくを
は機能不全の程度
崩壊させてでもシトルリンを合成しようとします。そこに感染ある
に関係することが
いは多臓器不全といった侵襲が加わると、NO 産生維持のためのシ
分 かり、短 腸 症 候
トルリンが急激に必要になってくるので、相対的にシトルリン欠乏が
群における栄養管
惹起されます。
このような病態の場合には積極的なシトルリンの供
理において重要な
給が必要で、多臓器不全の際のアミノ酸輸液としてはアルギニンを
マーカーであると
減らして、
シトルリンを添加した方がよいと考えています。
指摘されています。
それだけでなく、種々の研究からシトルリンをうまく使うことに
よって、TPN 投与時の腸管萎縮を防いだり、炎症時でも肝機能低下
を食い止めることができる侵襲用のアミノ酸輸液剤が実現できる
かもしれないと考えており、
シトルリンの有用性について研究を続
けています。
⬆
図3
2
最近の話題や用語を紹介㉒
日本人の食事摂取基準(2015 年版)に
みる高齢者の栄養管理の考え方
葛谷雅文 先生
くずや・まさふみ ◉ 名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学教授
昨年、
日本人の食事摂取基準が改定され 2015 年版が発表された。
なっていくものと捉えており、一般の方々にも広く知ってもらおうと、
2015 年版は、特に高齢者の項において、今話題の概念であるサル
2014 年 5 月に、
「フレイル」
という名称でこの概念について声明を
コペニア
(筋肉減弱症)
、
フレイルティ
(虚弱)
について紹介されてい
出しました。
フレイルティだと発語が難しそうなので、一般にはフレ
ることが注目される。そこで、2015 年版の作成に関った名古屋大学
イルという言葉を広めていこうということになったのです。
教授 葛谷雅文先生に、高齢者の栄養状態の特殊性や栄養管理の基
サルコペニアとフレイルの関連性
本的な考え方等について伺った。
一方、サルコペニアの定義は、狭義では筋肉量減少のみ、広義で
日本人の食事摂取基準(2015 年版)の特徴
は筋力低下や身体機能低下が含まれたものとされています。
これに
日本人の食事摂取基準(2015 年版)の特徴としては、
まず、5 年前
対してフレイルの定義は国際的に定まった基準はないのですが、今、
の基準では、その目的を
「健康の維持・増進」
と
「生活習慣病の発症
最も使われているのは、2000 年代になりFriedらが提唱したもの
予防」
としていましたが、今回はこれに
「生活習慣病の重症化予防」
です。
表1に挙げた5項目のうち3項目が当てはまればフレイルとし、
が付け加えられました。
これは、高齢化の進展や糖尿病などの生活
1~2 項目が当てはまる場合はフレイルの前段階と定義づけをしま
習慣病の有病者数が増加したことが考慮されています。
また、対象
した。
が健康な個人・集団だけでなく、高血圧や高血糖、腎機能低下や脂
質異常など保健指導レベルにあるものも含められました。そして、
エネルギー摂取量の指標について、
BMI で目標を示し、それを維持
できる量を定める方針としたこと、食事摂取アセスメント、栄養の過
① 体重減少
② 主観的疲労感
③日常生活活動量の減少
④ 身体能力
(歩行速度)の減弱
⑤ 筋力
(握力)
の低下
不足の評価などが見直されたことなどが挙げられると思います。
また、高齢者の項について、2010 年版の作成当時は高齢者の各
上記の 5 項目中 3 項目以上該当すればフレイル、
1~2 項目ならフレイルの前段階
種栄養素必要量の設定が大きな論点でしたが、今回の改定にあたっ
て求められたことは、主に高齢者の特徴について言及することでし
た。その中で最も重要な点は、成人とは異なった高齢者独自の視点
⬅
表 1 Fried らのフレイルの定義
で栄養を考えていく必要があるということで、作業の過程で注目さ
れた病態がフレイル、サルコペニアです。それに認知症を加えて、
シ
この 5 項目のうち、サルコペニアと重なるのは、筋力と身体能力
ステマティック・レビューを行いました。
です。
したがってサルコペニアがある人は、
フレイルにも該当する人
フレイルとは
ような身体的な要素だけでなく、例えば精神・心理的な問題や社会
1980 年頃から海外の文献でフレイルティ(frailty)、あるいはフレ
的孤立といった環境、
「認知症」の問題等も含めて考える必要がある
イルエルダリー (frail eldery)という用語が散見されるようになり
大きな概念と捉えるべきものだと思います。
がかなり多いわけです。
ただ、
フレイルはサルコペニアに関連する
ました。
フレイルティとは、老化に伴う種々の機能低下(予備能力の
状態、
すなわち健康障害に陥りやすい状態を指します。
日本人にお
高齢者のたんぱく質の推定平均必要量は
0.85(g/kg 体重 / 日)
いては、ADL が低下して要介護認定を受けた高齢者と、
自立してい
日本人の食事摂取基準(2015 年版)の「高齢者」の項では、
こうし
る高齢者との中間にあたり、老化現象として見過ごされがちな身体
たフレイルやサルコペニアについて触れ、特にたんぱく質との関係
的機能や筋肉量の低下をそのまま放置しておくと要介護状態に陥
を主に概説しました。
フレイルとサルコペニアの予防のターゲット
りやすい方々が該当します。
日本では、
2006 年に介護保険制度が改
臓器とゴールは、骨格筋とその機能維持であり、骨格筋量、筋力、身
定され、介護に至らないようにするための予防が重視されるように
体機能はたんぱく質摂取量に強い関連があるためです。実際に高齢
なると、介護予防という言葉が使われ始めました。
フレイルティは前
者はたんぱく質を十分摂れていない状況があることから、あえて強
述のように要介護状態に至る前段階として捉えることができ、
この
調して記載されています。
低下)
を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加している
介護予防との関連性が高く、
まさしく介護予防とフィットする概念と
日本人の食事摂取基準(2015 年版)では高齢者(70 歳以上)のた
いえます。
んぱく質の推定平均必要量は 0.85
(g/kg 体重 / 日)
と成人の 0.72
これまで日本では、
フレイルティ、
フレイルエルダリーにあたる高
(g/kg 体重 / 日)
よりも高い値を基に算出されています。推奨量算
齢者は、
一般的に虚弱高齢者という呼称が使われていましたが、
「虚
定係数を成人と同様の 1.25とすると、高齢者のたんぱく質推奨量
弱」
だとネガティブすぎるという声がありました。
日本老年医学会で
は 1.06
(g/kg 体重 / 日)
となります。高齢者では軽度の腎機能障害
は、高齢化社会が進展する我が国にとってこの概念は非常に重要に
ステージの範疇にある対象者も多く、
これまでは、そうした方々に
3
日本人の食事摂取基準
(2015 年版)
にみる高齢者の栄養管理の考え方
はたんぱく質の摂取は控える指導がなされていましたが、サルコペ
ニア、
フレイルの予防を考慮すると、推奨量程度のたんぱく質を摂
取することの危険性は低いと考えられます。
それ以外の栄養素との関係についてはシステマティックレビュー
を行い、その結果を掲載しました。
また、認知症に関しては、栄養と
年齢(歳)
目標とするBMI(kg/m2)
18~49
18.5~24.9
50~69
20.0~24.9
70 以上
21.5~24.9
⬅
表 2 2015 年版において目標とするBMI
認知症発症または認知機能低下リスクに関してシステマティックレ
厚生労働省 日本人の食事摂取基準
(2015 年版)
の概要より 3
1,2
男女共通。
あくまでも参考として使用すべきである。
2
観察疫学研究において報告された総死亡率が最も低かった BMI を基に、疾患別の発症率
とBMIとの関連、死因とBMIとの関連、
日本人の BMI の実態に配慮し、
総合的に判断し
目標とする範囲を設定。
3
70 歳以上では、総死亡率が最も低かった BMIと実態との乖離が見られるため、
虚弱の
予防及び生活習慣病の予防の両者に配慮する必要があることも踏まえ、
当面目標とする
BMI の範囲を 21.5~24.9とした。
1
ビューを試み、
エッセンスを記載しました。
高齢者の栄養管理の課題
❶高齢者の区分
高齢者といえば、
これまで日本人の場合、65 歳以上というイメー
ジが定着しているようです。食事摂取基準においては、現在、
高齢者
以上で
「21.5~24.9」
と設定されました
(表 2)
。転倒予防や介護予
を 70 歳以上で区切り、
70 歳以上高齢者についての細かい区分は定
防の観点もふまえ、50 歳代以上は BMI の下限を上げています。
められていません。70 歳にしているのは、厚生労働省が毎年行って
今回、BMI を重要視しているのは、栄養状態が健康に及ぼす影響
いる国民健康・栄養調査の年齢区分にある程度沿っているからです。
が画一的なものではなく、年齢を考慮する必要があるためです。
た
しかし当然、今後は 70 歳以上の人口が増えていくことが明白で
だ、私が問題点としてあげたいのが、特定健診(メタボリックシンド
すから、高齢者をもう少し細かく層別化する必要があることが問題
ローム健診(メタボ健診))の矛盾点です。
メタボ健診の対象者は現
点として上がっています。確かに90 歳以上の人口も少しずつ増え、
在 40 歳から74 歳までとなっており、その BMI の目標値は 25 未満
しかも、元気な 90 歳以上の方も増えてきているのは事実ですから
です。
しかし実際に生命予後との関連を見ると、高齢者の適当な
「超高齢者」
という視点も必要になるかもしれません。
BMI はもう少し高値なのが現実です。一方、介護予防事業は 65 歳
以上が対象です。市町村は要介護認定を受けていない 65 歳以上の
❷ 高齢者の過栄養の留意点
高齢者全てに基本チェックリストを配布しています。25 項目からな
病気に関連する栄養状態としては過栄養と低栄養があります。過
るチェック項目の中に低栄養予防に関する項目があります。例えば、
栄養は生活習慣病に直結し、糖尿病や、高血圧、
メタボリックシンド
「6 ヵ月間で 2~3kg 以上の体重減少がありましたか」
とBMI を問う
ロームなどにつながり、
ひいては動脈硬化性疾患を誘発します。
し
設問です。
かしながら、
これらの過栄養は高齢者、
とくに後期高齢者に対して
このように、65 歳から74 歳の高齢者はメタボ健診と介護予防事
も成人と同様に心血管疾患の発症や生命予後に著しい影響を与え
業両者の対象となっています。例えば、ある高齢者が、
メタボ健診で
るか否かは十分検討する必要があります。
保健師に
「あなたは BMI 26 です、
もう少し痩せなきゃ駄目ですよ」
高齢者では内臓脂肪が蓄積しやすく、
メタボリックシンドローム
と指導されたので半年で 4kg ほどダイエットしたとします。
すると
の有病率が高いことが知られる一方で、高齢者のメタボリックシン
介護予防事業のチェックでは、逆に
「あなた、痩せてきています。痩
ドロームは心血管病発症や心血管死のリスクにはならない、
との報
せ予防が必要です」
といった指導の矛盾が起きる場合もあるでしょ
告も数多く存在します。例えばノルウェーのコホート研究では、40
う。実際に市民、
さらには医療者からも
「過栄養予防」
と
「低栄養予
~59 歳、60~74 歳、75~89 歳に分けてメタボリックシンドローム
防」ではいったいどちらが重要か、
とよく質問されます。
この点を
(国際糖尿病学会基準)の有無別に生存率(心血管死ならびに全死
しっかりと市民に指導する保健師、管理栄養士などに明確にする必
亡)
をみたところ、40~59 歳ではメタボリックシンドロームの存在
要が大きいと思います。
は心血管死および全死亡に強く関連していたが、60 歳以降では明
その一つの対策としては、
年齢の層別化を見直すことではないか
らかな差は認められなくなったと報告されています。
と思っています。
メタボ健診は 64 歳まで、高齢者になるまでという
また、BMIに関しても、BMI 高値の全死亡さらには心血管死に関
かたちで区切り、介護予防事業に関しては、65 歳以上を対象にして
する影響は明らかに加齢とともに減少するとの報告もあります。
日
もよいですが、爆発的に増えるのは後期高齢者ですから、
75 歳以上
本人のコホート調査でも、BMI≧30kg/m2 のような極端な肥満以
の高齢者に重点的に行って、65 歳から75 歳までの 10 年間は生活
外は高齢者の肥満による生命予後に与える影響はほとんどないこ
習慣病予防の必要がある場合や、逆に低栄養予防を必要とする場
とがわかっています。
合など様々ですから個別対応を行っていくといった方法です。
このように成人で問題となった過栄養に関する健康障害、生命予
今後高齢者人口の増加にともない、データも集積されていくで
後へのリスクは加齢とともに減弱してくるのが一般的であり、高齢
しょうから、
細かい層別化も実現していくと思います。
者の栄養管理においては十分留意すべきでしょう。
最後に
❸ 過栄養予防と低栄養予防の指導の矛盾
今後の超高齢社会を考えたときに今回ご紹介したフレイルの概
2015 年版の総説では、
日本人の生命予後で最も有利な BMI が
念は非常に重要になると思います。特に、低栄養
(体重減少)はフレ
年齢別に紹介され、それによると70 歳以上では 27.4kg/m2 です。
イルの重要な要因であることは間違いありません。今後このフレイ
また、国内外の論文をもとに総死亡率が低い BMI の範囲などを検
ル・介護予防の概念が普及し、
さらには予防法が市町村に広がるこ
討した結果、年齢が高くなるほど栄養状態が悪い人の割合が増え、
とが日本の超高齢社会を乗り切る大きな医療政策上の重要視点で
サルコペニア、
フレイルの危険性が高まることが判明しました。そう
あると思います。低栄養の改善はその予防対策の一つとして、
ます
したデータも踏まえ、2015 年版において目標とするBMI は 70 歳
ます重要になっていくと思います。
4
臨床現場訪問㉕
褥瘡患者における
アルギニン配合栄養補助飲料使用例
褥瘡患者の栄養管理においては、
十分なエネルギー補給とともにたんぱく質やビタミン、
アルギニン等の創傷治癒過程で必要な栄養素の
適切な摂取も重要と言われている。
今回は、
褥瘡患者の栄養管理においてアルギニン配合栄養補助飲料
(エンジョイArgina/クリニコ社)
を
使用することで、
創傷治癒を得られた症例を 2 施設からご報告いただいた。
Case
看護主任
栄養科主任
1
しました。その間の栄養状態
医療法人新光会生田病院
も血 清 総たん ぱく
(TP)6.2
~6.9 g/dL、血清アルブミン
白川真美 先生
須佐亜貴子 先生
(Alb)3.4~3.7g/dL の 範 囲
で維持することができました
(写真 1、2)。
褥瘡対策管理委員会
で適切なケアを
目指す
当院は、神奈川県川崎市生
田 の 地に開 院 以 来、約 50 年
にわたり精神医療の分野で
地域医療に取り組んでいます。
褥瘡治療に関しては、院内に
褥瘡対策管理委員会(以下委
員 会)があり、褥 瘡 の ある入
院患者さんについては、毎月
完治後は、
褥瘡防止の一助
となるとの期待からエンジョ
イArgina を 1 日 1 本 飲 ん で
もらうようにして現在まで管
⬆褥瘡管理対策委員会の検討会
⬆写真1 エンジョイArgina飲用開始時
左肘部分 1.5×1.5cm
治療:コメガーゼにイソジンシュガーを
含ませながらポケットに詰め込む。
ガーゼ、カブレステープで保護
理を続けています。
症例 アルギニン配合
栄養補助飲料の評価
●52 歳男性 ●既往 全身火傷にて皮膚移植術施行
●褥瘡発生部位
本症例においては、委員会
左肘部に皮膚潰瘍(褥瘡治療にて対処) の介入により、常に適切な創
●エンジョイArgina 飲用期間 約 3ヵ月
部治療が行えたことに加え、
⬆写真2 エンジョイArgina飲用約3ヵ月後
1 回必ず褥瘡の写真を撮影し
アルギニン配合栄養補助飲
て画像を持ち寄り、事例検討会を行っています。必要があれば回診
料を利用した栄養管理が奏功したと考えています。特に今回使用し
たエンジョイArginaには、
アルギニンに加え、
シトルリン、
コラーゲ
を行って、
さらに詳細な検討を加えます。
ンペプチドが配合されています。
アルギニンとシトルリンを組み合
基本的に入院中の患者さんは、加齢とともに、食事摂取量が低下
わせて摂取することは、
アルギニン単独摂取よりも効率的との報告
することにより栄養状態や ADL が低下し、それが褥瘡の発生へと
があると聞いていますので、
これはあくまでも印象ですが、
コラー
繋がっていくものと考えられます。
したがって委員会では、例えばオ
ゲンペプチドも含め配合されている成分が創傷治癒の助けになっ
ムツを利用するようになった患者さん、ADL や自立度の低下が顕
たのではないかと捉えています。
著で褥瘡のリスク状態にある患者さんを常に注意深くピックアップ
して、褥瘡予防のための診療計画書を作成するようにしています。
委員会には医師、看護師をはじめ、栄養士、薬剤師、事務職等多様な
また、
エンジョイArgina はグレープミックスとピーチの 2 種類が
あり、
ジュース感覚で飲みやすく、
この患者さんも常に全量摂取し
ていただいたことも大きいと思います。
職種が参加し、治療だけではなく栄養の補給方法、薬剤の適切な選
前述のようにこの患者さんは、創部完治後は当病棟から他の病
択や使用方法をはじめ、患者さんに関わるあらゆる問題に対応する
棟へ移りましたが、現在もエンジョイArgina を 1 日 1 本飲用してい
ようにしています。
ただいています。飲用前は、肘の他に仙骨部分の褥瘡も再発を繰り
褥瘡の栄養管理で注目しているアルギニン
返していましたが、
飲用後は今のところ褥瘡の再発はありません。
本症例は、通常の管理を続けても左肘部位にある皮膚潰瘍の改善
様々なバリエーションがあれば
がみられないとの報告が委員会にあり、回診を行いました。患者さん
本症例の結果を受け、他の褥瘡患者さんにおいてもアルギニン
はかなり痩せた状態だったこともあり、褥瘡とみなして栄養の面で
も積極的に介入・処置していくことになりました。栄養面の検討では、
十分な栄養量を確保することに努め、その上で創傷治癒に必要と言
が必要と考えられる症例には積極的な投与を検討するようにして
います。その際、例えば、嚥下障害があって液体が飲みにくい患者さ
んには、
アルギニン等を含んだゼリータイプの栄養補助食品を使う
われているアルギニンの投与を検討していたところ、
アルギニン配
など患者さんの状態にあわせて適切な食品を選択するようにして
合栄養補助飲料(以下エンジョイ Argina)
を知りました。1 日 3 回の
います。
軟 菜 食(1600kcal/ 日)に 加 え て 毎 食 1 本 エ ン ジ ョイArgina
エンジョイArgina は、味もおいしく、飲みやすいのですが、
むせ
(200kcal)を飲 用していただき、1 日の 総 投 与 エネ ル ギ ー 量 は
のある方のためにゼリータイプ等のバリエーションがあるとよいと
2200kcalとしました。患者さんは毎回、全量摂取されていました。
思います。
また、味の種類もさらに増やしていただければ、多くの患
創 部 は 最 大 2.0×2.0cm でポケットが ありました。エンジョイ
者さんが飽きずに飲み続けられるのではないかと思います。
Argina 飲用開始後創部は順調に治癒が進み、約 3 ヵ月後には消失
5
褥瘡患者におけるアルギニン配合栄養補助飲料使用例
Case
看護師
2
栄養科長
理学療法士
麻生川明乃先生
師長
に参加する機会があり、半固形状流動食なら注入は 30 分ほどで済
み、流動食投与中、長時間同一体位を続けることが避けられるとの
鈴木和美 先生
高橋晶子先生
中村伸子 先生
前田丈志先生
看護部長
6月17日◉半固形状流動食に切り替え 褥瘡の栄養管理の講習会
医療法人山紀会山本第一病院
情報を得て、受講後、早速半固形状流動食の投与に切り替えました。
1 日のエネルギー投与量は 900kcal、
たんぱく質は 45g でした。
以前の液体流動食を使用していたときに比べて、約 30 分同一体
位継続時間が短縮されました。あわせて創部の湿潤環境を保つこ
とができるパッドも導入して管理しました。
7月11日◉エンジョイArgina 投与開始 講習会やメーカーからの
本症例は、93 歳女性で、既
往歴に糖尿病と高血圧、心不
全、慢 性 腎 炎 が あります。ヘ
モグロビン A1c は 6.5 で血糖
降下薬を服用中です。褥瘡委
員会による処置と栄養管理
にて 6 ヵ月ほどで完治した症
例でその経緯を以下に紹介
します。
説明でかねてより褥瘡の治癒過程で必要な栄養素であるアルギニ
⬆褥瘡委員会の皆さん
ンの有用性に注目していたので、栄養科からの提言もあり、
エンジョ
イArginaを1日1本(200kcal・たんぱく質5g)
プラスし、
エネルギー
症例 1100kcal/ 日、
たんぱく質 50g/ 日の投与を開始しました
(写真 1)。
●93 歳女性 ●基礎疾患 糖尿病 高血圧 7月29 日◉創部は 3.5×3.5cmに縮小し、炎症と感染兆候も改善さ
心不全 慢性腎炎
れ、肉芽形成も良好になり、1ヵ月後にはポケットも縮小していきま
●褥瘡発生部位 仙骨部 した
(写真 2)
。
●エンジョイArgina投与期間 約 3ヵ月
症例の治療と経過
8月26 日◉創 部 は 3.0×3.0cmとなり、ポケットも 縮 小しました。
某年 4月1日◉仙骨部に1.0×2.5cm の褥瘡を認めました。当初は、
DESIGN-Rの点数は、最高で27点だったのが13点まで下がりました。
食事摂取量が徐々に低下したことによる摂取カロリーの低下が主原
因とみられたため、食事を汎用流動食に変更しました。
ただ、糖尿病
9月30 日◉創部は2.0×2.0cmまで縮小し、
ポケットも消失しました。
があるために1日600kcal
(たんぱく質24g)
の投与を続けていました。
この頃から右側臥位禁止を解除して通常の体位に戻しました
(写真3)。
4 月 23 日◉褥 瘡が 5.0×4.0cm に悪 化したことから、2kcal/mL
10月10 日◉創部は 1.5×1.5cm、浸出液も少量となり、DESIGN-R
の高濃度汎用液体流動食で 1 日 1200kcal(たんぱく質 48g)
に増
は 9 点でした
(写真 4)。
量しています。その際は創部壊死もあり、それまで壊死組織除去剤
12 月には 0.5×1.0cmとさらに縮 小させることが できました。
治療中の栄養状態も、TP が 5.37g/dL から6.44g/dL、Alb は 2.99
(ブロメライン)、抗炎症剤(アズノール)で処置を行っていましたが、
それに加え、壊死部のデブリードメントならびに、
エアマットを使用
g/dL から3.06g/dLと上昇し、
改善傾向にありました。
して仙骨部の創部が床面に当たらないよう管理しました。
体重も一時期 36.6kgまで減少しましたが、10 月には 37.8kgと
増加傾向に転じています。
今回の症例では、
5月9日◉デブリードメント、
および白糖・ポピヨンヨード配合軟膏(ネ
グミンシュガー)の塗布を 1 日 2 回に増やしましたが、改善せず、仙骨
部右側に創部があったので、右側臥位禁止にして様子を見ました。流
1. 半固形状流動食の使用により長時間の同一体位を防げた
動食投与を 1200kcalに増量してからしばらくは体重が 2kg 増えま
2. エンジョイArgina を使用することにより、TP、Alb 値の改
善がみられ褥瘡の改善に繋がった
したが、体調がかなり悪く、微熱が続いたため抗生剤を投与したとこ
ろ、下痢が続き、体重は 1ヵ月に38kg から36kgと逆に2kg 減ってし
3. エアマットの使用、体位交換、背抜きの実施により創部圧迫
が回避できた
まいました。その間、褥瘡の大きさにも改善は見られませんでした。
❶
❸
❷
❹
❶写真1 7月11日
エンジョイArgina
投与開始時 4.0×4.0cm
DESIGN-R 27点
ネグミンシュガーと
メロリンパッドで1日2回処置
ことがポイントと考えられました。
❷写真2 7月29日
3.5×3.5cm
DESIGN-R 19点 炎症兆候改善、肉芽形成も
良好となる
り高い重症褥瘡患者さんについては多職種が共同で回診して検討
❸写真3 9月30日
2.0×2.0cm
DESIGN-R 13点 ポケット消失
きな経験となりました。特に、栄養投与については管理栄養士から、
質の高いケアを提供するには
当院では褥瘡委員会が活動しており、DESIGN-R の点数がかな
し、対策を講じるよう決めています。本症例は初めてその回診の対
象となり、多職種との連携が強化されたケアが実施できたことは大
ポジショニングや体位交換については理学療法士から適切な情報
を得て管理できたことは大きな進歩と捉えています。観察、処置だ
❹写真4 10月10日
1.5×1.5cm
DESIGN-R 9点 縮小傾向、浸出液も
少量となる
けでなく、栄養管理、
ポジショニングの徹底などが褥瘡発生防止、改
善には重要であり、質の高いケアを提供するためには、多職種との
連携を図ることが必要不可欠であるとあらためて痛感しています。
6
連載コラム
高齢者の栄養ケアのあれこれ その❶
高齢者の食欲低下とうつ
吉田貞夫 先生
よしだ・さだお◉沖縄メディカル病院あがりはまクリニック院長・金城大学客員教授
今回から数回にわたって、
これまで自分が高齢者の栄養ケアを
で検討すべきと考えていた、栄養素をどうす
行ってきたなかで、心に浮かんだことをゆる~く書かせていただき
る、成 分 をどうする、
どの 製 剤 を 使う、
どの
ます。
どうぞよろしくお願いします。
ルートを使うということよりも、
むしろ、
どう
第1回は、高齢者の食欲低下に関してです。栄養サポートチーム
したら食べてもらえるのか…、その問題の方
(NST)
に参加していると、食欲が低下した症例のマネジメントは必
がより深刻で、
その解決策を医療・介護スタッ
須です。
「どうしてこの患者さんは食事を食べてくれないのか…?」
フが切望しているということを知り、
自分の
そんなことばかり考えてしまいますよね。
NSTというものに対する考え方が一瞬揺ら
いきなり話が逸れますが…、実は、
自分、食べることが大好き。沖
ぐくらいの衝撃を受けたのです。
このときの
縄では、そういう人を
『ガチマヤー』
といいます。
NSTをやっている
経験がもとになって、昨年、
『認知症の人の食
人に、美味しいものを食べることに関心がないっていう人は少ない
事支援 最短トラブルシューティング』
(医歯薬
かもしれませんね。
自分もまさにそのタイプです。
もし万が一、
自分
出版)
という本を企画・編集させていただくことになったわけです。
が
「食欲がない…。
」
なんていったら、周囲はとてもビックリして、いっ
⬆認知症の人の食事支援
最短トラブルシューティング
吉田貞夫 編 認知症で食事を食べてくれない高齢者の方々と接してみると、
さ
たい何事が起こったのかと心配してしまうと思います。そんなくら
まざまな原因で食事が食べられないんだということがわかりました。
いなので、食欲がない患者さんをみると、人一倍たいへんなことに
味覚障害のために食事が美味しく感じられない、食事を食事と認識
感じてしまうのかもしれません…。患者さんの食欲のことを考えつ
できない、食事に毒を入れられているという妄想、虫がたかってい
つ、
自分の食欲とか、
「業
(ごう)」の深さなんかと向き合ってしまう毎
る幻覚、
便秘…。なかでも、今でもどうにも困ってしまうのは、
食事を
日。でも、それが
「生きる力」
ということでもあるんだろうな、なんて
2~3口ばかり食べて、
「もうたくさんです。
」
と笑顔で断られる方で
思ったりもします。
す。
よくよく理由を聞いてみますが、
しつこく聞けば聞くほど、笑顔
でかわされてしまうばかり…。
もしかしたら、環境が自宅とは違うの
原因がわからぬまま食欲低下が続き…
で、
まるで、近所の集まりか何かに出かけてきているように思って、
さて、本題です。高齢の患者さんが食事を摂れないとき、
さまざま
遠慮しているのかな…。食事ではなく、
お茶菓子を出されて断るよ
な原因を考えますよね。便秘していないか、胃炎や胃潰瘍などはな
うなつもりでいるのかな…などと想像してみますが、依然として謎
いか、糖尿病で高血糖になっていないか、肝機能障害はないか、腎
のままです。
機能が悪化していないか、心不全を発症していないか、悪性腫瘍な
どはないか…。
しかし、最終的に行き当たるのは、認知症やうつであ
いかに最短で適切なケアに辿り着くか
ることも少なくありません。
認知症の高齢者の摂食障害で悩みを抱えているのは、高齢者の
自分が、認知症による摂食障害の怖さ、根深さを思い知らされた
多い慢性期の病院や施設だけではないと思います。
むしろ、高齢者
のは、
かれこれ13年ほど前です。
自分の外来に通院してくれていた9
のケアを担当している施設は、認知症のケアのノウハウがあるかも
0歳代の女性の患者さんが、ある日、肺炎を発症して入院されました。
しれません。一方、急性期病院の若手の看護師さんたちは、疾患や
幸い、抗菌薬が奏効して、症状は改善しましたが、その後、ほとんど
術後などのケアは勉強していても、認知症の高齢者のケアには慣れ
食事を食べてくれないのです。何かほかに疾患があるのでは?と思
ていなくて、
思うように食事を食べてもらえず、
困り果てているのか
い、上記のような可能性をシラミ潰しに検査しましたが、
これといっ
もしれません。
また、回復期リハビリテーション病棟では、骨格筋の
た異常は認められません。結局、その後2~3週間、食事摂取量が改
減少(サルコペニア)
を防ぐために、
エネルギー、
たんぱく質をしっ
善せず、その患者さんは胃瘻を造設することになりました。造設自体
かり摂取してもらいたいところですが、食事を食べてくれない認知
はうまくいったのですが、経腸栄養を開始すると、胃食道逆流により
症の高齢者も多く、
アウトカムを改善できないことも珍しくありま
肺炎を発症してしまいました。当時は半固形状の栄養剤はまだあり
せん。
ませんでしたし、ペクチンの投与も試してみましたが、あまり効果が
思うように食べてもらえないという経験が続くと、認知症の高齢
ありませんでした。外来に通院してくれていたときには、あんなにニ
者は食事を食べなくても仕方がない…とみなすようになってしまっ
コニコ笑ってくれていた患者さんが、食事が摂れず、悪くなっていく
てはたいへんなことです。
また、適切なケアに辿り着くまでに、何週
のをどうにもできない…。今となってみれば、
日常の診療でしばしば
間もの時間がかかってしまうようでは、栄養状態を維持することが
体験する
「よくある話」なのかもしれませんが、地域医療に携わり始
できなくなってしまいます。上記の書籍を出版する際、
自分は、
こう
めたばかりの自分としては、
とても心が痛む記憶となりました。
した現場で、
最短コースで適切なケアに辿り着けるガイドブックとな
ることを目指して編集を進めました。今後も、現場でどのようなこと
なぜ食べてもらえないのだろう
が問題となっているのかをリサーチし、現場のニーズに合うトラブ
その後、沖縄に移住することとなり、
NSTに本格的に取り組むと、
ルシューティングとなるよう、
磨き上げていきたいと思っています。
認知症による摂食障害で悩む患者さん、
ご家族、医療・介護スタッフ
次回は、高齢者のうつの話題について触れてみたいと思います。
などがとても多いということを身に染みて感じました。当時、
NST
お楽しみに。
7
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