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1 転送のための生命維持装置 装着

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1 転送のための生命維持装置 装着
1 転送のための生命維持装置
装着
はじめに
災害時において,ライフラインの途絶した被災地内で医療を行うことは限界がある.緊
急手術,透析治療,集中治療が必要な傷病者を適切に選別し,適正な治療が行える医療施
設に,適切なタイミングで転送することが救命の鍵となる.阪神・淡路大震災では,挫滅
症候群(クラッシュ症候群)による死が「防ぎ得た死」として社会問題となった.東海地
震の際には,400 名を超えるクラッシュ症候群が危惧されており,タイミングを逃すこと
のない転送と後方病院での透析療法・集中治療が救命の鍵となるだろう.地震災害時の転
送について考えてみる.
想定される災害患者の病態と転送の際に考慮する生命維持装置
装着
地震災害では,建物の倒壊や屋内の設備などによる外傷やクラッシュ症候群,火災によ
る熱傷,粉塵の吸入による呼吸障害などが想定される.
1) 気道:A
●気管挿管
舌根沈下や唾液,血液,分泌物による気道の閉塞,意識障害の場合は気管挿管による気
道確保が必要となる.移動や体動により,気管挿管チューブが抜けたり,深くなったりす
る場合があるため固定は確実に行い,固定位置をくり返し確認する.
2) 呼吸:B
意識障害を有する頭部外傷,胸部外傷,気道熱傷,粉塵の吸入による呼吸障害患者に対
して考慮する.
●経皮的酸素飽和度モニタ
動脈血酸素化の指標として経皮的かつ経時的に測定可能である.最近では,非常に小型
の機器が普及しており,転送の際のモニターとして優れている.特に,航空機の搬送の際
には,上空での減圧による気胸の悪化や呼吸障害のモニターとして不可欠である.
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災害医療
●人工呼吸器
自発呼吸が障害された患者の長距離搬送の際に有用である.圧駆動式と電気駆動式があ
る.圧駆動式では十分な酸素が,電気駆動式では電源の確保が重要である.
8
章
●胸腔ドレナージ
災
害
発
生
時
に
お
け
る
医
療
ス
タ
ッ
フ
の
必
須
技
術
緊張性気胸ではもちろんのこと,航空搬送を行う胸部外傷患者では,気胸の悪化が考慮
されるため搬送前に胸腔ドレーンの挿入が必要となる.
3) 循環:C
●心電図モニタ,除細動装置・AED
クラッシュ症候群では,筋組織の崩壊により高カリウム血症を来す.そのため心室細動など
の致死性不整脈の監視・治療の目的に持続心電図モニタや除細動装置・AEDは必要である.
●血圧モニタ
循環のモニタとして,特に出血性ショックが疑われる患者に対して血圧モニタは必要で
ある.
●輸液ポンプ,シリンジポンプ
大量輸液や血管作働薬などの微量点滴が必要な場合には,輸液ポンプやシリンジポンプ
が必要となる.
移動交通手段
転送のための搬送手段の確保とともに,添乗医療チームや搬送を安全に遂行するための
医療資器材の確保がポイントとなる.ただでさえ医療資源が不足している被災地内から移
動手段や添乗医療チーム,医療資器材を調達することは,被災地内の医療資源をますます
枯渇させることになるため,被災地外から移動手段と医療資器材を有した医療チームを被
災地内に投入する必要がある.想定される移動交通手段としては以下がある.
1) 救急車・ドクターカー(図 1)
災害時の転送手段として陸路が一般的である.軽症患者ではマイクロバスなどにより同時
に多数の患者搬送が可能であるが,重症患者の転送には救急車やドクターカーが用いられる.
2) ヘリコプター(図2)
重症患者を迅速に転送する手段として極めて有効である.ドクターヘリは,平時より救
急患者搬送に従事しているため医療機器や酸素,電源が整備されている.消防防災ヘリ,
自衛隊ヘリ,警察ヘリ,民間ヘリなど国内には多数のヘリコプターがあり,災害時にはそ
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れらの活用が有用であると考えられるが,重症患者搬送のためには医療機器に加え,酸素
や電源の確保を調整する必要がある.
3) 固定翼(自衛隊輸送機,図3)
東海地震,関東直下型大地震,南海・東南海大地震に備えて,内閣府が中心となり自衛
隊機の C1 型輸送機を用いた
対応計画が検討されている.
固定翼機は,離着陸のための
滑走路が必要な欠点がある反
面,短時間で多くの患者を同
時に長距離搬送でき,夜間・
図 1 ドクターカーと内部
荒天気象下でも安定した飛行
ドクターカーは循環監視モニタ,経皮的酸素飽和度モニタ,血圧計,
が可能である利点を有する.
人工呼吸器,輸液ポンプ,シリンジポンプ,除細動器,酸素,吸引
機などを有する
患者搬送の際には輸送機内
図 2 ドクターヘリと内部
人工呼吸器と酸素配管,通信設備(写真中央),患者監視モニタ,除細動器,輸液ポンプと医療器材(写
真左)
図 3 固定翼と搬送の際に必要な資器材
写真左:航空自衛隊 C1 輸送機,写真中央:輸送機内部.上段に医療器材,下段に患者を搭載(C1 一機
で 8 名の重症患者が搬送できる),写真右:患者監視モニタと人工呼吸器,輸送ポンプ.担架への確実な
固定が必要である
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災害医療
に,医療チームとともに医療機器や酸素ボンベを持ち込む必要がある.
8
章
災害時の転送時の注意点
災
害
発
生
時
に
お
け
る
医
療
ス
タ
ッ
フ
の
必
須
技
術
1) 被災地から持ち出すな
前述の通り,被災地内は医療資源や医療スタッフが枯渇している.転送の際に,被災地
内の医療資器材や医療スタッフを転送に使うのではなく,被災地外より医療資器材を有し
た医療チームを投入し,転送を行う.
2)酸素,電源の確保
特に長距離搬送のときには,搬送前より十分な酸素・電源(充電)の確保に努める.
3) 緊急時のバックアップ
緊急時のバックアップとして気管挿管チューブが抜けた場合の再挿管の準備,人工呼吸
器が壊れた場合のバッグ・バルブ・マスク,モニターが壊れた場合の予備のモニターや経
皮的酸素飽和度モニタなどを用意する.
まとめ
安全な転送のためには運行機関との連携が不可欠である.必要な医療資器材や酸素,電
源を周到に準備し,安全な環境で搬送することが必要である.緊急時の対応に対する備え
も必要となる.
■引用・参考文献
1) 判田乾一.大規模災害発生時の広域搬送医療計画について.日本集団災害医学会誌.11(1),
2006,1-6.
2) 小濱啓次.ドクターヘリ 救急医療とヘリコプター:実現への道程・運用の実際・航空医学.東京,
へるす出版.2003,146p.
3)特集:再確認!救急医療における「搬送」.EMERGENCY CARE.19(2),2006,9-50.
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