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評価結果票:無償資金協力 評価実施部署:モロッコ事務所(2013 年
案件別事後評価(内部評価)評価結果票:無償資金協力 評価実施部署:モロッコ事務所(2013 年 3 月) 国名 モロッコ Ⅰ 案件概要 事業費 交換公文締結 事業完了 相手国実施機関 関連調査 案件従事者 関連案件 事業の背景 事業の目的 洪水対策機材整備計画 交換公文限度額:782 百万円 供与額:685 百万円 2007 年 8 月 2009 年 2 月 エネルギー・鉱山・水利・環境庁(旧国土整備・水利・環境省水利庁、現エネルギー・鉱山・水利・環 境省水利局) 基本設計調査 2006 年 11 月~2007 年 6 月 コンサルタント 株式会社建設企画コンサルタント(2009 年 1 月 29 日受託者地位継承後、株式会社ア ンジェロセック) 施工業者 機材調達 三菱商事株式会社 我が国の協力 ・多目的小型ダム建設用機材整備計画(無償資金協力、1986 年) ・小規模ダム建設用機材整備計画(無償資金協力、1989 年) ・ウェルガ川流域農業開発計画(無償資金協力、灌漑施設整備用建設機材の供与、1995 年) モロッコでは、10 月から 4 月の雨季にしばしば激しい降雨に見舞われ、鉄砲水や土石流を伴う洪水が 発生している。モロッコにおける自然災害の中で、洪水は発生回数および被災者数が最も多く、死者及 び負傷者数も地震に次いで多い。また、洪水被害は増加傾向にあり、洪水被害増加の原因として、近年 の異常気象とともに、洪水調整機能を有する防災ダムの未整備や河川・水路の排水能力の不足、人口増 加、都市開発、農業開発に伴う危険地帯の住民の増加が挙げられる。モロッコ政府は、国家洪水対策計 画および具体的な洪水対策事業を実施するための洪水対策活動計画を策定し、ダム建設等の工事を順次 進めていたが、建設機材の不足および老朽化により事業の進捗は遅れていた。日本は、過去 3 回(1986 年、1989 年、1995 年)にわたり、無償資金協力により建設機材の供与を行っており、日本が供与した 機材が洪水対策事業の実施に主力として活用されてきたが、稼働開始から 10 年以上が経過し、経済寿 命を超えていた。そのため、モロッコ政府は日本政府に対し、洪水対策活動計画の実施に必要な建設機 材調達のための無償資金協力を要請した。 アウトカム 洪水対策用建設機材を整備することにより、モロッコ全土にわたる洪水対策事業現場 30 カ所におい て洪水対策活動計画に基づく中小ダム建設および河川水路・堤防建設・整備事業の促進を図る。 アウトプット 日本側 ・洪水対策事業(ダム、河川水路、堤防建設等)の工事用機材(ブルドーザー、油圧ショベル、ホイル ローダー、モーターグレーダー、振動ローラー、ダンプトラック、クレーン付きトラック、スペアパー ツ一式) 相手国側 ・なし Ⅱ 評価結果 総合評価 モロッコ政府は、頻発する洪水による人的・物的被害を防止するため、ダム建設、水路・堤防の建設、整備などの具体的 な洪水対策事業を進めてきたが、全体的に計画工事量に対し建設機材が不足していた。また、既存の建設機材の老朽化も著 しく、日本が供与した機材の中で最新のものでも稼働開始から 10 年以上が経過し、スクラップ化が進んでいた。実施機関 の水利庁はスクラップ機材から部品の活用などを行い、稼働継続の努力をしていたものの、故障頻度が高くなり、稼働率は 50~70%に低下し、作業性能も劣化していた。また、機材の更なる老朽化に伴い、機材の稼働率および作業性能の急速な低 下とスクラップ台数の増加が見込まれていた。 本事業は、事業目的とした中小ダム建設、及び河川水路整備事業の促進について、ダム等の建設・整備実績数を達成し、 また、2010 年に発生した洪水被害への対応にも活用され、洪水対策事業を通じた雇用創出や、整備されたダムが農業用水 の流量調整等に活用されるなど、想定通りの効果発現が認められる。持続性については、本事業で整備された機材は概ね良 好に維持・活用されており、また、同機材を活用して建設された施設にかかる維持管理体制も同様に整っていることから、 特に問題は見受けられなかった。妥当性については、モロッコ国の開発政策・開発ニーズおよび日本の援助政策と事前評価・ 事後評価の両時点において合致しているが、効率性については、事業期間が計画値をやや上回った。 以上より、総合的に判断すると本事業の評価は非常に高いといえる。 1 妥当性 本事業の実施は、事前評価時・事後評価時ともに、 「国家洪水対策計画」というモロッコの開発政策、洪水調整機能を有 する防災ダムの整備、これに要する建設機材更新の必要性という喫緊のニーズ、および日本とモロッコとの経済協力政策協 議において合意された重点分野に合致しており、妥当性は高い。 2 有効性・インパクト 本事業の実施により、事業目的(アウトカム)として掲げられたダム建設および河川水路・堤防整備については、概ね計 画通りの効果発現が見られた。供与された機材の稼働率等のデータの確認はできていないものの、2007~2011 年の 5 年間 で、ダム建設についてはロックフィルダム、石積みダム、コンクリートダムの各種ダムの合計で、計画値 17 件を上回る 21 件が建設され、河川水路・堤防建設については計画値 13 件に対し 8 件であった。計画値と実績値の差異は、計画対象地以 外の地域で発生した 2009 年および 2010 年の洪水災害への対応のため、特に被害の激しかった場所でダム建設および河川水 路整備を集中的に実施したためである。これら実績値は、本事業実施前の機材で建設可能な件数を上回るものであり、洪水 被害発生地域に事業対象地域の変更があったものの、本事業で整備された建設機材により洪水対策事業の実施能力が向上し たといえる。 インパクトについては、洪水対策施設整備が完了したサイトでは、これまで洪水被害は報告されていない。公共工事の実 施にあたっては、水利局と内務省との取り決めにより、建設工事従事者の 40%は地元人材を充当することとされているた め、本事業の対象となった洪水対策事業の実施にあたっても地元労働者の雇用が創出された。現地踏査を実施したアハラ ル・ダム(石積みダム)では、2010 年 9 月から 2012 年 4 月までの建設期間に、地元労働者を中心に延べ 4 万人の雇用が行 われた。また、本事業の対象サイトで整備されたコンクリートダムなど比較的規模の大きなダムでは、農業用水向けの放水 口が設置されており、農業用水の流量を調整できるようになっており、こうした機能の活用も確認されている。さらに、南 部地域においては、ダムの貯水が地下水の涵養につながり、地域によってはハッターラ(伝統的地下水路)への一定量の水 供給がなされ、ナツメヤシや野菜類の安定した栽培も可能となっている。この他、河川水路整備が行われたムリルトでは、 事業実施前には洪水の危険性が高く、使用できなかった川沿いの土地に幹線道路が整備され、道路沿いに多目的ホールや消 防署、車両ターミナルが整備されるなど、地域の開発という波及効果も認められた。なお、洪水対策事業の実施に係る住民 移転・用地取得を求めるケースはあったものの住民の同意を得られたために大きな問題は発生していない。また、施工中及 び完工後の自然環境へのインパクトについては水資源管理の観点から流域公社がモニタリングを行っているが、これまでの ところ負のインパクトは報告されていない。 よって、有効性・インパクトは高い。 定量的効果 2006 年基準値* (基本設計調査時) 4件 計画値 (2007~2011 年)** 7件 目標年実績値 (2007~2011 年) 6件 2012 年実績(見込) (事後評価年)*** 1件 6件 1件 9件 2件 8件 1件 指標 1:ロックフィルダ ムの建設件数 指標 2:石積みダムの建 3件 5件 設件数 指標 3:コンクリートダ 4件 5件 ムの建設件数 指標 4:河川水路・堤防 6件 13 件 建設整備の件数 (出所)エネルギー・鉱山・水利・環境省水利局へのヒアリング (注 1)*2006 年基準値は、基本設計調査時点での現有機材で可能な建設件数。 (注 2)**目標年計画値は、2007~2011 年の 5 年間における合計の見込み件数。 (注 3) ***2012 年の建設予定件数。 コンクリートダム 石積みダム 河川水路整備事業で整備された幹線道 (アイン・コワチア・ダム) (アハラル・ダム) 路(ムリルト) 3 効率性 本事業の事業費は計画内に収まった(計画比 88%)ものの、機材の免税手続きの遅延により機材のサイトへの到着が遅 れたため、事業期間が計画を若干上回った(計画比 110%)。アウトプットについては、計画通りであったことが確認され た。よって、効率性は中程度である。 4 持続性 本事業で整備された機材は、水利局傘下の独立機関である中央機材保管所により管理 が行われており、洪水対策事業の実施は水利局中小ダム局が行っている。機材の維持管 理を行う中央機材保管所には、管理職、技術者、機械工、電気工、車両整備等その他要 員が配置されており、2007 年 46 名から 2011 年以降 100 名の体制に拡充されている。な お、正職員数については 2007 年 23 名から 2011 年以降 28 名と 5 名の増員にとどまって いるが、契約職員については 23 名から 72 名と大幅に増員されている。主に車両整備等 を担当する契約職員の増加によるものであるが、弾力的な予算運用を行うための措置で ある。モロッコの技術者のレベルは総じて高く、中央機材保管所の技術者等は本事業で 整備された建設機材・車両の維持管理を適切に行うのに十分な技術水準を有している。 建設機材の修理・交換部品費は、2008~2011 年は 5~7 百万ディルハムで推移しており、 本事業で調達された工事機材 また同期間において、本事業により整備された機材のうち、事故車を除いて、故障等に より継続的に使用不能な状態となっている建設機材はない。日常の維持管理は適切に行われ、洪水対策事業に十分に活用さ れている。 以上より、体制面、技術面、財務面、維持管理状況共に問題なく、本事業によって発現した効果の持続性は高い。 Ⅲ 教訓・提言 実施機関への提言: ・洪水対策という案件の性格上、対応策として洪水被害に見舞われた地域に予算面も含めて集中的な対応が求められるが、 より精密な洪水危険個所の優先付けを行い洪水リスクの高い地域での施設整備を早期に実施することにより、洪水被害を抑 制でき、より一層のプロジェクト実施効果の発現が期待される。 ・本事業の効果を直接的に計測する指標として、建設現場での供与機材の稼働率等に関するデータの記録および提供が望ま れる。 JICA への教訓: ・洪水対策に係る施設整備では、予定していた建設工事が予期しない洪水被害に見舞われた場所に優先度が変更される場合 も頻繁に発生する。このため、プロジェクトの有効性の指標として、供与機材を活用した施設の完成件数を充てることのみ ならず、建設現場での供与機材の稼働率等、有効性を直接的に推し量る指標を併用することを検討する。 ・本事業で整備された機材を活用したダム建設工事・河川水路整備事業では、内務省との取り決めにより一定の割合で地元 の労働者を雇用したことから、施設整備による洪水被害件数の減少のみならず、地元労働者の雇用機会の確保等、社会的な インパクトの発現にも結びついた。