...

23.離婚原因としての悪意の遺棄

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

23.離婚原因としての悪意の遺棄
平成23年6月30日報告分
23.離婚原因としての悪意の遺棄
最高裁昭和39年9月17日第一小法廷判決
1.事案
X女とY男が婚姻
↓
Y男の父親が亡くなり、Y男は相当な財産を相続
↓
Y男の兄Aが妻と別居し、子ども2人とともにX女・Y男に同居を求める
↓
Y男はこれを快く思わなかったがX女の懇請もあり同居開始
↓
AがY男の財産管理に干渉するなどしてA・Y男は不仲に
X女はY男をないがしろにしてことあるごとにAを立ててこれと親密にすることとなった
↓
Aが刑事事件を起こし、その際X女がY男の財産を持ち出したことをめぐってX女・Y男
間に紛争がたえなくなる
↓
X女が家を出て、Y男はこれを機に同居を拒否
↓
X女はY男と別居し、X女とAおよびその子らは同居するようになる
↓
X女はY男からの生活費も供与されなくなったので生活保護を申請し、生活扶助を受ける
これに関しX女はY男の婚姻当初の女性関係を不貞行為とし、また別居後の状態はY男に
よるX女の悪意の遺棄に当たるとして離婚を求め、合わせて財産分与としてY男所有の田
畑・家屋の所有権の移転を求めた
1審
X女の請求を斥けた
1
↓
X女は控訴
↓
2審
X女・・・1審同様遺棄の主張+婚姻を継続しがたい重大な事由を主張
Y男・・・婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして離婚反訴請求
↓
Y男の反訴請求を認め離婚を容認、遺棄については棄却し、財産分与も否定
↓
X女は上告
↓
上告棄却
2.争点
・離婚原因としての悪意の遺棄とは何か
・別居し、生活費の供与がなされなくとも悪意の遺棄とならないのはいかなる場合か
3.離婚原因
裁判離婚をする場合、離婚原因が必要である。
離婚原因(770条)
・配偶者に不貞な行為があったとき
・配偶者から悪意で遺棄されたとき
・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
・その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
本判決では2号の悪意の遺棄が問題となっている。
悪意の遺棄とは・・・
正当な事由なく夫婦の一方が752条の同居・協力・扶助の義務を放棄し果たさないこと
ここでいう悪意とは単に「知っている」ということではなく「積極的に婚姻共同生活の廃
絶という遺棄の結果たる害悪の発生を企図し、もしくはこれを容認する意思」をいうもの
と解されている。
2
遺棄の形・・・
遺棄する者が相手方を置き去りにして家を飛び出す場合
相手方を別居させたまま同居を許さない場合
専業主婦が正当な理由なく家事を放棄した場合 etc…
遺棄の判断要素・・・
同居・協力・扶助義務違反を別々に考え、いずれに違反する場合も遺棄と評価することが
可能。しかし、一体化して義務違反となっていることが多く、ことに同居・協力義務違反
のみで遺棄と判断したものは見当たらない。通常は扶助義務を履行しないことが遺棄の客
観的判断の要素となりうるといえる。
悪意の遺棄には必要な期間の定めはなく、期間の長さよりもはっきりとした悪意が認めら
れるかという点が重要となっている。
遺棄とならない場合は?・・・
別居も同居義務違反なので悪意の遺棄に当たるが、
・病気治療や妊娠・出産のため
・子供の教育のため
などは一慨には同居義務違反とはいえず、悪意の遺棄には当たらない。
・配偶者の虐待・暴力を避けるために家を出る場合
・婚姻破綻に主たる責任を負う相手方に対して破綻後の同居・扶助を拒否する場合
など同居または扶助を拒否するにつき正当な事由のある場合は悪意の遺棄には当たらない。
本件では生活費を供与しないという点で遺棄に当たるという論理構成もありうるが、同
居・扶助義務の拒否の正当な理由として、XがYの意思に反してAらを同居させ、その同
居後においてAと親密の度を加えて、Yをないがしろにし、かつAなどのためひそかにY
の財産より多額の支出をしたことに根本原因があるとし、婚姻を破綻させることについて
主たる責任のある配偶者(X)にはその履行を求める正当な理由がないので悪意の遺棄に
は当たらないと判断された。
★770条1項2号の悪意の遺棄は5号の例示であると解する立場からは悪意の遺棄に当
たらなくても同居・協力関係が不十分で婚姻関係が破綻しているとして、婚姻を継続し
がたい重大な事由があるとして離婚が認められることがある。
3
婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき・・・
社会通念からみて、配偶者に婚姻生活の継続を強いることがひどすぎるといわねばならな
いほど婚姻関係が破壊させられた場合
相手方配偶者の責めに帰すべき事由による場合と必ずしも相手方配偶者の責めに帰すべき
事由よらない場合が含まれる。どのような場合がそれにあたるかは結局裁判官の裁量にゆ
だねられる。
遺棄には当たらないが婚姻を継続しがたい重大な事由がある例
・夫が仕事のために十分に同居・協力の義務を尽くさなかった
3.最後に
悪意の遺棄で離婚を請求するよりも婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして離婚を請
求したほうが認められる可能性が高いのではないかと思った。一方的に別居したり、同居
を拒否すると悪意の遺棄で離婚を請求されかねないので、どちらにせよ夫婦間の話合い
が必要であると思った。
参考文献
『判例プラクティス民法Ⅲ
親族・相続』松本恒雄、潮見佳男(2010 信山社)
『民法 親族・相続』栁澤秀吉(2010
嵯峨野書院)
『離婚判例ガイド』二宮周平、榊原富士子(2005 有斐閣)
『離婚の法律解説』金井 正元(2008 一橋出版)
4
Fly UP