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無症候性頸動脈狭窄を指摘された男性

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無症候性頸動脈狭窄を指摘された男性
動脈硬化
Q&A
無症候性頸動脈狭窄を指摘された男性
■ 症例 58 歳男性。
■ 病歴 数年前から近医で高血圧症を指摘され、アムロジピン 5 mg を内服していたが、高コレステ
ロール血症を指摘されたため、精査加療目的で紹介受診となった。四肢のしびれ、めまいな
ど自覚症状なし。
■ 生活歴 喫煙なし。飲酒は機会飲酒。
■ 家族歴 母に脂質異常症あり、虚血性心疾患・脳血管障害・糖尿病・高血圧の家族歴はなし。
■ 身体所見 身長 160.3cm、体重 65.7kg、BMI 25.6、ウェスト周囲径 86cm、血圧 168/109mmHg、脈
拍 72 整、黄色腫、アキレス腱肥厚なし。甲状腺腫なし。両側頸動脈雑音聴取せず。神
経学的所見に異常なし。
■ 検査所見 T-Cho 325mg/dL、TG 157mg/dL、HDL-C 54mg/dL、LDL-C(Friedwald の式による)
240mg/dL、FBS 105mg/dL、HbA1c 6.2%、Cre 0.71mg/dL、eGFR 84mL/min/1.73m2、
TSH 2.5μU/mL、free T4 1.8ng/dL、free T3 2.6pg/mL、尿蛋白 ++、尿潜血 −、尿中
微量アルブミン 115mg/g・Cre、リポ蛋白電気泳動 small dense LDL(+)、midband
(+)、心電図 異常なし、胸部レントゲン 異常なし。受診当日に行った頸動脈エコー
において右総頸動脈狭窄率 79%、左内頸動脈狭窄率 69%、両側ともにソフトプラーク
を認める。
右頸動脈エコー。点線内の青色部分は血流を示し、血管内腔を表す。点線の間の部分は
動脈硬化病変を表す。
質問 1) 本症例のリスクアセスメント及び必要な検査は?
質問 2) 本症例の頸動脈狭窄に対する治療方針は?
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解答および解説 1)
本症例のリスクアセスメントであるが、糖尿病及び糖尿病性腎症、高血圧(Ⅱ度)、脂質異常症(高
LDL コレステロール血症、高トリグリセリド血症)に加え、内臓肥満があり、メタボリックシンドロー
ムを合併していると評価される。また無症候性ではあるが、両側の頸動脈狭窄を合併している。尿蛋
白 ++ であり、1 日 1 g 以上の蛋白尿があると予想されるため、降圧目標は 125/75mmHg 未満とし、
RAS 系阻害薬を中心とした治療を行う。LDL コレステロールに関しては 1 次予防であり、現行のガイ
ドラインからは 120mg/dL 未満が推奨される。
検査に関しては可能であれば、頭部 MRI による脳虚血病変の評価と造影 CT による頸動脈、頭蓋内
動脈の評価を行うことが望ましい。また、虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症の合併の可能性が高いと
考えられるため、トレッドミル検査(血圧のコントロールののち)や ABI の測定を行うことが推奨さ
れる。
解答および解説 2)
2009 年脳卒中ガイドラインによれば、本症例のような無症候性の頸動脈狭窄に対しては動脈硬化リ
スクファクターの管理と必要に応じての抗血小板療法を含む内科的加療が勧められている(グレード
C1)。60%以上の無症候性頸動脈狭窄では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術及び
周術期管理に熟達した術者、施設において頸動脈剥離術(CEA)を行うことが推奨されている(グレー
ド B)。ただし、無症候性頸動脈狭窄に対する CEA の手術適応には周術期合併症が 3 %未満の高い治
療水準が要求される。
本症例に対しては管理栄養士による栄養指導(カロリー制限、塩分制限、コレステロール制限)に加え、
脳梗塞のリスクが高い 、 ハイリスク患者と診断し、ピタバスタチン 2 mg、エナラプリル 5 mg を直ち
に 開 始 し た。1 ヵ 月 後 血 圧 は 138/84mmHg、T-Cho 240mg/dL、TG 104mg/dL、HDL-C 60mg/dL、
LDL-C 159mg/dL、FBS:126mg/dL、HbA1c 6.1%、Cre 0.76mg/dL、UA 5.0mg/dL、尿蛋白 +となっ
たため、エナラプリルを 10mg へ増量し、トリクロルメチアジド 1 mg、エゼチミブ 10mg、 アスピリ
ン 100mg を追加することにより降圧目標 125/75mmHg 未満、LDL コレステロール 120mg/dL 未満を
目標として治療を継続することとした。しかしながら、このような症例ではさらなる LDL コレステロー
ルの低下を目指してもよいと思われる。また本症例は CT、MRI の結果を待って脳神経外科医への紹
介を行う予定になっている。なお、本症例においてはアスピリンによる治療を開始したが、無症候性
頸動脈狭窄の脳梗塞 1 次予防に対し、抗血小板薬が有効であるとするエビデンスはまだ示されていな
い。
荒井 秀典(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
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