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連作5首 - FC2
02 短歌作品 〔五首〕 translucency 佐伯紺 49 幼年期は終わらない 植木諏訪 24 たくさんの他人 中村みなみ 50 やわらかな陽射し ぐら 25 フィクション 森屋和 51 プロローグ 佐々木朔 26 慌ただしい国 山崎有理 52 12月26日水曜日 朝 中山美優 27 回転運動 和久井幸一 53 長靴の音 松本翠 28 空に大穴 沖野樹里 54 緩やかに衰えてゆく動物園で 綾門優季 29 汽水類 新上達也 55 怠惰/シスターフッド 家永楓 30 来春(らいはる) 中川治輝 56 人に成るまえ 小野田美咲 31 あいつよ 久石ソナ 57 無傷 狩野悠佳子 32 氷なし 山階基 58 恋と差延 坂梨誠治 33 野に放つ 渋谷美穂 59 応用芸術 佐久間慧 34 そうだ 短歌食べよう 西山ぜんまい 60 海の近く 渋谷美穂 35 裏路地 藤井朱里 61 〔十二首〕 ひかり2013 安田直彦 62 あそびパワー 安蒜さつき 36 ロード・ムービー 山中千瀬 63 冬への扉 植木諏訪 37 グランド・フィナーレ 山中千瀬 64 たかしくん ぐら 38 クレジット 山中千瀬 65 摸倣子 佐々木朔 39 黄昏のレタルギア 吉田隼人 66 鎌倉晩冬 高田崇一朗 40 〔三十首〕 上旬 種田郁子 41 選ばれて春 佐伯紺 68 ある種の戦いの歌 堂那灼風 42 世界の終わりが遅刻してくる 森屋和 72 入射角39° 中川聡 43 くじらの前歯 狩野悠佳子 76 言の葉の指す物 松本翠 44 メインストリート・ストリーム 山階基 80 隷属のチョコレート 三田史也 45 青の挨拶 井上法子 84 からっぽは死ね。 綾門優季 46 女体家族 藤本未奈子 88 兄は一人っ子 大村椅子 47 びいだまのなかの世界 吉田隼人 92 恋をしなくとも育つ 小野田美咲 48 わたしと鈴木たちのほとり 吉田恭大 96 幼年期は終わらない 植木諏訪 ばすでんしゃしかくいものをきにいって図工のなかにとじこめていた 蹴っ飛ばしたボールコロコロ転がって土管の中の虫たち殺す カラス来いこっちへ来いよ大都市へたぶん誰かがそう言ったんだ 東京都ひっくり返すと徒競走さらに返すと嘘つきみたい 日だまりでいじけた泥んこ洗っても取れなくて紐こんがらがった 24 │ やわらかな陽射し ぐら 春ぬくくねぶりかぶればおもてよりじゅげむじゅげむを口遊む子よ 君たちは勝ち誇った顔をして今最高のおにぎりを食む 願わくはねるねるねーるね食う子供くわい食う大人にならないで 朝露をその身いっぱいたくわえて芽はしなやかに光の方へ 日曜の朝は重力が無いらしく娘は都庁を抱えてはねる 25 │ プロローグ 佐々木朔 あのひとに近づきたくて買ってきた本にあのひとは出てこない きょう読んだ本の話をしてほしい 三月は地獄にはそぐわない 本日は反省点が多いのでなるべく早くお風呂を空けて 総動員しようことのは 大ぶりの類語辞典を使い魔にする 買ってきたレターセットの役割はあのひとのため減ってゆくこと 26 │ 月 日水曜日 朝 中山美優 │ 人の人生の朝 2 時半 うたた寝に飽き心地よい羽毛布団と別れの決意 時過ぎ おはようの声純愛は祖父母 時半 目覚ましは遠き耳鳴り今日の匂いにまぶたを閉じる 26 分 あのカーブミラーまで 分で走り切れたならよーいどん 3 日 27 12 50 時を過ぎ へらへら臨む食卓で淋しきこころ満たす残りもの 時 1 7 8 8 9 9 長靴の音 松本翠 雨音の辺りを包み込むことのその静寂に満たされている ひと ホ ー ム に て ﹁お 母 さ ん﹂ と 泣 く 女 が い て 御 徒 町 駅 夜 十 一 時 温かなジャスミンティーを飲みながら液晶テレビの吹雪に魅入る めずらしく積もれる雪を踏みしめてほこらしげなる長靴の音 水無月に生まれし霧と呼ばれたる掴み所のない女の子 28 │ 緩やかに衰えてゆく動物園で 綾門優季 緑ごけは安堵するたび繁茂して息をするたび透きとおる庭 象が踏んでも壊れない筆箱をインドの道に置いて遊ぼう ふくらんだ頬を小指でつっついた刹那に破裂するハムスター 白熊にファーストキスを奪われるあいだ安定してろ流氷 人間と天使のさかいめに笛をおいて開始の合図を待とう 29 │ 怠惰/シスターフッド 家永楓 真昼間の居留守うるはしわたくしは一城主にて傾城を待つ 白桃は指しずませて剝かれをりあやされたるはいづれか知らね かつてわれ少年なりきまりまりとかさぶた剝きて主食としけり 水草は骨格のごと頚椎ゆ泡をはきゐてこの世の享楽 わら 花野より花野似あはぬひと一人降りきて燃えるように咲ひぬ 30 │ 人に成るまえ 小野田美咲 抱きしめたその腕をどうか離して 抱きしめかえして離れないから 話せない人がいつのまに 離せない人になっていたから涙 涙の温かさは昼間にきみとおだやかに過ごしてしまうから いだ 産 み 落 と し な ど せ ず に 抱かれつづけたからさあ、 抱きしめかえすとき 本当はわたしの日ではないのです あなたがはじめてこどもを産んだ日 31 │ 無傷 狩野悠佳子 待つようにつむれば熱い まっしろなタバコをじっと見ていた瞳 雪の日のまぶた乾かす ヒーターにマイナスイオンランプが灯る くすりゆび腕首耳の蜜を吸いリングを結わえ上げていく蝶 夕焼けのゆくえに背中をぴったりとつけて更衣室の窓になる もう試すように触れないでください 風は無傷でありたくて吹く 32 │ 恋と差延 にふれると 坂梨誠治 はほのかに光りつつゆっくりと 階に向かった あめの夜は望遠鏡をかたづけて海月のサラダでもつくりましょう なつかしいこえを窓辺に聞いている枯れた言葉を煙管に詰めて 伝書鳩に愛を託していたころの空にはなにが見えたのだろう 6 │ 6 花束を抱きしめたまま深くねむるあなたの横で満月になる 33 6 応用芸術 佐久間慧 僕 は 幾 度 と な く そ れ を 誤 記 し て、 訂 正 し て、 お 詫 び し ま す。 まったくこんな朝に芸術は応用されて私たちの生活を彩る 少なくとも決める立場じゃない、 そう思うでしょって後ろを向く 浴槽はお湯をたたえて私たち一人一人の心の中にラブ・コメディ 物事に集中できる空間で眠る 明日の午前中までは 34 │ 海の近く 渋谷美穂 来た道が片側二車線へと変わるここは横浜馬車道の街 港へと近づくほどに上がりゆくコントラストに体を浸せば こちらから飛んでも落ちても自己責任 腰の高さの柵はそのままで 最近は不景気なんだ週末の暴走族も朝陽を拝めぬ 本当に青い海だ若者は波に当たって裂けて散りなよ 35 │