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一和牛生産組合における肉質改善指導
一和牛生産組合における肉質改善指導 上越家畜保健衛生所 篠川 温 金子周義 五十嵐利男 山内清治 はじめに 表1 A農場のH12、H13枝肉成績 上越市名立区の肉用牛肥育農家3戸からなる和 牛生産組合は、JA、NOSAI等関係機関とともに肉 対象:黒毛和種去勢牛 用牛部会を構成し、平成元年頃から高品質牛肉 の生産を目的とした活動を行ってきた 。しかし 、 3農家に共通して枝肉格付・価格の低迷といった 枝肉平均 枝肉平均 重量(kg) 単価(円/kg) 4等級以上 格付率(%) 出荷 頭数 A農場 18 0 422 1,200 畜産経営 集計* 21 64 436 1,782 *:新潟県畜産協会H13畜産経営診断7農場平均値 問題が続いたため、平成13年から家畜保健衛生 所(家保)も肉用牛部会に参加し、体重測定や 血液検査の結果をもとに飼料給与方法などを検 ビタミンA濃度検査成績 討・改善することになった。 調査を開始した平成13、14年の血中ビタミンA 調査方法 調査では肥育ステージ別に栄養状態その他を 把握する必要があったため、常時約30頭を飼養 (V.A)濃度検査成績をみると、全体的に低レベ ルで推移し、特に15ヶ月齢以降では欠乏症危険 域のものが多数みられた(図1)。 す る 生 産 組 合中 最 大規 模 の A農場 を モ デル と し で。年3回の体重測定にあわせて肥育ステージ別 に抽出して血液生化学検査を行い、また飼料の 給与状況を聞き取り、飼料計算を実施した。 ビタミンA濃度(IU/dl) 160 た。調査期間は平成13年度から平成19年11月ま 140 120 100 80 60 40 20 0 5 10 15 20 25 関係機関の役割 30 :下限値 月 齢 図1 ビタミンA濃度検査成績 血液検査、体重測定、給与飼料の分析結果や 枝肉成績を整理・分析し、改善策の検討が行わ また、V.A40単位未満、40単位以上での日増体 れた。家保が血液検査や衛生管理を担当し、普 重0.7kg以上の割合について相関があるかχ2検 及センター、全農、農協が給与飼料をはじめと 定を行ったところ1%の危険率で有意差があり、 した一般飼養管理の指導にあたった。また、NOS 40単位を切ると増体が極めて悪くなることがわ AIおよび家畜診療所は事故・疾病の発生予防に かった(図2 )。これらのことからA農場ではV.A つとめ、畜産研究センターは超音波肉質診断を 補給対策が必要と考えられた。 A農場枝肉成績 平成12、13年の枝肉成績をみると出荷頭数18 頭のうち格付4等級以上のものは1頭もなく、枝 肉平均重量および平均単価ともに新潟県畜産協 ビタミン A濃 度 (IU /dl) (IU/dl) A濃 度 ビタミン 実施し 、出荷予定牛の仕上がり具合を確認した 。 160 140 120 100 80 60 40 20 0 0.0 0.7 40 0.2 0.4 0.6 0.8 DG 1.0 1.2 1.4 会による平成13年畜産経営診断7農場の平均値を 大きく下回る成績であった(表1)。 1.6 DG(kg) Χ2検定1%危険率で有意差あり 図2 ビタミンA濃度とDGの関係 A農場の肉質改善対策 A農場では平成13年からV.A管理の目的で肥育 180 前期にヘイキューブ、チモシー乾草給与を開始 150 キューブを給与したほか、増体をよくするため 120 V.A(IU/dl) し、14年からはさらに仕上げ期においてもヘイ :A4以上 :A3以下 :下限値 90 60 にそれまでの充足率TDN75%、CP92%から肥育中 30 期以降TDN103%、CP131%に高めた。16年から、 0 5 素牛導入時にV.A100万単位を経口投与すること 15 20 25 30 月齢 としたほか、肥育中期以降低単位V.Aが配合され 図4 追跡によるV.A濃度の推移 た飼料に変更し、仕上げ期にヘイキューブのス ポット給与を行うようにした。肥育中期以降のT 10 (2)体側成績 DN、CPの充足率はそれぞれ110%、140%に上げ 表2に示すとおり、28ヶ月齢時の体重は、14~ た。 また、16年に後継 者が就農し 、『 にいが た 16年に比べ17~19年では増加傾向にある。10ヶ 和牛肥育名人塾』に参加するなど積極的に知識 月齢から28ヶ月齢までの増加体重をみてみると 、 の吸収につとめ、それまで目分量で給与してい 最も大きな19年では14、15、16年に比べ100kg以 た濃厚飼料を毎回計量給与することとし、17年 上増加している。 から開始された血液生化学検査の結果をもとに また、日増体重を検証すると、全ての年でA農 群および個体の栄養状態を確認することで飼養 場では15ヶ月齢以降で低レベルとなり、早い時 管理の改善を図った。 期に食い止まりがみられているが、日増体重が 最も少なくなる肥育後期~仕上げ期にかけて17 年から19年では過去3年間より100g以上増加して 対策効果の検証 おり、食い止まりの傾向が改善していることが (1)V.A濃度 大幅に変更がなされた平成16年前後のV.A濃度 わかる(図5)。 表2 を比較すると、平成16年以降は全体的に高めに 年度別体重の推移 平均月齢区分 推移し、15ヶ月齢以降も下限値を下回るものが 10ヶ月 15ヶ月 21ヶ月 28ヶ月 10~28ヶ月 増体重 H14 310 436 565 649 339 H15 305 419 568 634 329 H16 307 411 581 664 357 H17 273 437 599 721 448 H18 271 422 568 676 405 H19 260 471 615 736 476 年度 ほぼみられなくなったことがわかる(図3)。 また、V.A濃度追跡調査を実施した13頭につい て追跡調査結果と格付成績を照らし合わせると 、 A3以下だったものはいずれかの時期にV.A濃度が 35IU/dl以下と低い値を示しているのに対し、A4 1.2 以上の成績であった6頭は概して高い値で推移し 1.0 ていたことがわかる(図4)。 DG(kg) 0.8 250 0.4 200 ビタミンA濃度(IU/dl) H14 H15 H16 H17 H18 H19 0.6 z :~H15 :H16~ 0.2 0.0 150 導入~15ヶ月 15~21ヶ月 21ヶ月以降 図5 体測区間日増体重の年度による比較 100 50 (3)枝肉成績 0 5 10 図3 15 20 月齢 25 30 対策前後のV.A濃度比較 35 平成12、13年には枝肉格付A4以上が1頭もなか ったが、14~16年では37.3%となり、17年以降 は常に50%以上を維持。17~19年では64.9%と 上昇した(図6)。 枝肉重量では14~16年の平均が425kgであるの 課題 に対し、17~19年は461kgと増量した(図6 )。 今回の分析で、A農場では15ヶ月齢から食い止 枝肉単価も1,647円から2,028円と徐々に上昇し まりの傾向が認められる。現在市場では大型の ている。 ものが好まれる傾向にあるため、名立区和牛生 産組合では肉質改善とともに、枝肉重量500kgを 80 平均上物率(A4以上) 一つの目標として掲げ、さらなる枝肉成績向上 60 H14~16 37.3% % 40 H17~19 64.9% 20 に向け取り組んでいる。家保は関係機関と連携 0 し、今後もビタミンA濃度管理をはじめとした適 480 平均枝肉重量 H14~16 425kg H17~19 461kg kg 1,647円 H17~19 2,028円 440 420 また、今後A農場では後継者が本格的に就農し規 400 380 平均枝肉単価 H14~16 切な飼養管理指導を継続していく必要がある。 460 模拡大を計画していることから、増頭に伴う飼 2 ,5 0 0 養管理技術を確立しなければならない。その上 2 ,0 0 0 円 1 ,5 0 0 1 ,0 0 0 で、消費者から“安全・安心な畜産物の生産” 500 0 H 14 図6 H 15 H 16 H 17 H 18 H 19 枝肉成績の推移 また、19年には新潟県肥育牛求評評例会で最 優秀賞を受賞するに至った。 が強く求められていることを理解してもらい、 和牛肥育生産組合にHACCP方式を取り入れるなど 衛生管理のさらなる徹底を図り、意欲にあふれ る農家のサポートをしていきたい。