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シュテファン・ツワイクの 「心の焦燥」 について

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シュテファン・ツワイクの 「心の焦燥」 について
Hirosaki University Repository for Academic Resources
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シュテファン・ツワイクの「心の焦燥」について
富沢, 成美
弘前大学人文社会, 14, 1958, p.81‐97
1958-03-15
http://hdl.handle.net/10129/1422
Rights
Text version
publisher
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
シ ュテ フ ァン ・ツ ワ イ クの
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「
心 の 焦 燥」に つ い て
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成
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富
絶間な き、決 して満足す ることのない好右 心であ り、彼 を一隻の漂流す るオラ
ンダ幽霊船に し、一人の情熱的 な巡礼 とした ところの、物 を見 、物を認識 し、
一切 の生を生 きよ うとす るデモ -ニ ッyユな衝動であ る。・
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彼は フロイ トの
(
1)
重要 な鍵を 自分の ものに した作家であ る。彼は魂 の狩 人であ る。」 と書 いてい
る如 く、シュ テ ファン .ツ ワイ クの生涯は 、倦 くことな き人間の探究 とその創
造的表現に捧げ られた ものであった。一八八一年 ウィ ーンで も有数 の紡織工場
主の長男 と して生れてい るが 、その感激 し易い性情 と強烈 な好右心に動か され
て、少年の頃か ら親 んだ文学 の世界が彼 の死に至 るまで人間探究 の 場 と な っ
た.早 く十八才に して、処女詩集 「銀 の絃」に よ って文壇 に萱上 して以来 、一
九 四二年に ブ ラジルで 、 自らその生涯に決算を与え るまでの四十余年の間に、
彼は随筆 、戯曲、短篇 、詩、伝記 、論 文 の各種 の ジャ ンルに於 て、驚異的 な量
にのぼ る著作 を残 してい る。 中で もその精確 な史実的考証 と心理的人物描写 の
深 さに於 て優れた特 色を もつ伝記的作品は-股に高 く評価 され て お り、 ツ ワ
イ クの本領 もこ ゝにあ ると云い得 るであ ろ う。 しか し又 、 ツワイ クは、数多い
短篇小説 も書 いてい るが 、その中で も人間の暗い衝動 、 と くに性的愛欲 の世界
を坂扱った ものが少 くない。 これ は彼 の師 であ り、彼 の父 の友人 であ り、同 じ
ウイ -ン生れ の心理学者 ジクムン ト・フロイ 十の影響 に よる ものであ るが 中で
も短篇集「ア毛 ツ ク」は最 も激烈 な中年の人間 の愛欲 を描いた ものであ り、作者
自ら「一つ の激情 の書」と副題をつけてい る如 く、又巻頭詩 の中で、 「己れ の探
測を見 出す激情 のみが汝 の最後 の実体を燃え立た しむ る. 自己を完全に失え 7
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ロマン ・ロランが 「彼 の芸術的個性 の特質は 、認識せ ん とす る欲望であ り、
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もののみが 自己を与え られてい るのだ.」 と項ってい る如 く、彼の生活的価値
観の一端 を うかがい知 ることの出来 る作品である。 更に また ヽ 「カザ ノ ヴァ自
(
2)
伝」に関す る小論 の中で、 「カザ ノヴ ァ自伝 の永遠性を決定的な ものに したの
は、その形式ではな くて一人の人間の充実である。 -・
-強烈に生 き生 き と、集
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g)に生 きれば生 きる程 、人間は一層完全に 顕 れ
中的に一度限 りに (
る。 ・
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-道徳は不滅に とっ て無 であ り、強度 (
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)こそ一切である。
」 とも云 うよ うに、ツ ワイ クの愛 したのは純粋に燃焼す る強烈 な激情 であ り、
又強固な鉄 の如 き意志の力であった。
今 こ ゝに砺上げ よ うとす る 「心の焦燥」は、彼の後期 の作品であ り、これに
よって作者は、生涯を通 じて最初に して最後の長篇小説を試みたのであった。
これには序がついていて、これは作 者が第二次世界大戦 の始 まる前年つ ま り一
九三八年の生涯の最後 の ウイ-ン滞在期に、第一次大戦でその剛勇の故にマ リ
ア ・テ レサ勲賞を授け られた ホープミラーとい う人物か らその当時に体験 した
数寄 な出来事を聞か され 、今 こ ゝに紹介す る次第である といった ことあ り書で
ある。 ツワイ クの短篇は一人称形式で書かれた ものが少 くないが 、 この長篇 も
やは りホ ー プミラーが語 り手 となっ て所謂一人称小説 (I
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man) の手法が
なされてい る。 このよ うな告 白形式は、一人の人間の心理風景を比較的奥 の方
まで展開 させて くれ るので、 「神に祭 り上げ ることではな くて、人間を人間 ら
(
3)
しくす ることが創造的心理学の最高法則である。」 とい う作者の心理的人物構
成に とっ て甚だ好適な方法ではあるが 、一方種 々の人物の性格描写乃至は個 々
の事件が語 り手の限 られた眼に よってのみ把握 され説明 されてゆ くのであるか
ら、語 り手 自身が (これが主要人物である場合は尚更そ うであるが)作品の場
か ら浮 き上っ て しまった り、そのためにかえっ て客観的迫真力を殺 ぐことにな
り易い欠点 もある。 この長篇は 四百頁に亘 るものであるが、主人公が事件 の発
展 と共に どの よ うな必然性を もって心理 を展開 させ行動 してゆ くかをみてゆ く
た桝 こ、一応客観的 な作品分析 を試み ることにす る。
時は第一次大戦 の直前、所はハ ンガ リ-国境に近い オ-ス T
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)-の田舎町 、
こ ゝの守備隊に転任 して きた二十五才 の青年騎兵大尉 ホー プミラーが数十 日間
-8
2-
に経験す る体験談 であ る。
この町 の零圃気 も軍隊の生活 も単調 で退屈であ る。 あ る 日、ゆ きつけ の食料
店兼喫茶店 で美 しい少女が注文を と りに くるのに出会 う。 彼女は イ ロ-ナ とい
Vヴアの姪であ るが 、 この少女 の
って この界隈 きっ ての大金持 ケ-ケス フ7 - J
魅力にひ きつけ られ て、大尉はあ る薬剤師の紹介で 、町 の外に孤立 してい るそ
の屋敷に招待 され る. 最初の訪問の とき、大尉は ケ-ケス フアール ヴアの一人
娘 エ-デ ィ トに彼女 の下肢が麻痔 してい ることを知 らずにダ ンスの相 手 を申 し
込む. エ-デ ィ T
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は昔は活麿 な健康 な少女で未来 のバ レ リ-ナを夢みていた の
だが五年前か ら突然 のあ しなえに躍っ て以来不幸 な生活を送っ てい る十七才 の
少女であ る。イ ローナは走った婿約者が あ るのだが 、結婚す る際相当 の持参 金
相手 を申 し込 まれた とき、エーデ ィ トは 踊っ てい る客達 を眺め で恰 も自分が掃
ってい るよ うな気持になっ ていた のでつい立 ち上 ろ うとす るが立てない ので 自
分 の不具に気 がつ きわっ と泣 きだす . す ぐ後でイ ロ-ナか ら事情 を 聞 き 知 っ
た大尉は 白分 のやった失態 の重大 さに気附 き、狼狙 して逃げ出す。 この ときの
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二
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を与 え るとい う伯父 との約束で、エ-デ ィトの相手 を して暮 してい る. 大尉に
大尉は 、専 ら白分 の失態が仲間や町 中の人 々に知れわた り、 噸笑 の的 に な る
に違い ない と際限 のない妄想に とらわれ る. こ ゝで既 に彼 の性格 の本質的 な特
徴 の一つのあ らわれ であ るところの世 間体を心配す る弱 きが示 され る。 彼は エ
ーデ ィトに謝 罪 の気持 を伝え るために花を送 る。 翌 日大尉 の もとに彼女か ら花
の礼 と、いつ で も訪ね て くれ るよ うに とい う内容 の手紙が と ゞく。 彼 は早速 で
かけて エーデイ T
tとイ ローナ と共に楽 しいひ とときを過すが 、エーデ ィ トが 久
レグアは感激す る. この一家
しぶ りで明 る く笑った といっ て、ケーケス フ7 - )
の ものたちに対す る自分 の影響 にす ぐ有頂点になった大尉は 、 これ までなげや
りな、 ど うで もい ゝ生活 を して きたが今は じめて 自分 の存在 に意義を見出 し、
り、 どんな苦 しみを も同情 に よっ て理解 し、克服す ることに よって 自分 を豊か
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2) と考え、彼 の 自分 自身 に驚 く心は彼が知 らず して傷
にす ることだ 。」 (
け 、そ してその昔 しみ に よっ て、彼 に 「同情 の創造的 な力」を教 えて くれた あ
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「自分を人に与え る事に よっ て 自己を高め ることだ。 どんな運 命 とも兄弟にな
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の病気 の少女 に対す る感謝 の故 に震 え るのであ る。 しか し、こ うい う感情は ロ
マンチ ックな ものにす ぎず 、こ うい う同情は甘い センチ メンタルな同情 にす ぎ
ない ことが解 る 日が まもな くやって くる。
こ うして大尉は毎 日の よ うに郊 外の屋敷を訪れ る。 彼 のためにすべ ての便宜
が と ゝのえ られ深い好意が示 され る。 けれ どもあ る 日、一つ の別な想念が彼を
襲 う. 大尉は突然 自分が食客 と して ケ-ケス フ7
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'ヴ了に金で買われてい る
よ うに感ず る。 毎 日毎 日あの家 の人 々が 自分 の来訪を待ってい るのだ とい う考
えが大尉の義務意識 を呼び起 し、更に 自分 の来訪を彼等が当然 の ことの よ うに
思っ てい るにちがい ない とい う想像が彼の 自尊心を傷け 、彼等が 自分を待っ て
い るにちがいない事を知 りつ ゝ何の ことわ りもせずに訪 問を中 止す る。 以上 の
意識 の背後には、
その前 日の晩 に、ケ-ケス フ7
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ル ヴア家 に出入 りしは じめて
以来長 く席を共に しなかった同僚達 に出合っ て、彼等にひやか された ことに よ
っ て生 じた仲間に対す る体面上 の思惑が契機 となっ てひそんでい るのであ る。
この虚栄的 な自己防禦が悲劇 的 な エーデ ィ トに対す る裏切 りに まで進 んでゆ く
のであ る。 翌 日大尉が訪ね てゆ くと、 エーデ ィ トは 高い塔 の テラスで彼 を待 ち
うけてい る。
彼女は昨夜 まん じ りとも しなかったので大尉が入っ て きた とき、う
たたねを してい るがほめ ると早速彼に昨 日何故来て くれ なかっ たのか とたずね
る。 大尉は適当にいい逃れ よ うとす るが 、 エーデ ィ トは運 転手や イ ローナに探
知 させて彼が 同僚達 と酒場 で過 していた こ とを知っ ていた ので、大尉の嘘は彼
女の気持を傷け るばか りであ る。 「何故本当 の こ とを云わ ないのですか。不具
の娘 の相手 なんか してい るよ りは健 康な足で属 に乗った り散歩 した りす る方が
楽 しい くらいは私 も知っ ています。 私はた ゞあなたが 下手 な作 り話で云いわけ
を しよ うとな さることが気に食わ ない のです。 -・
-私は嘘には倦 き倦 き しま し
た。私は同情は まっぴ らです 。 私は嘘や厭わ しい思いや りを我燥す ることがで
きない のです。」 とい う意味 の言葉を彼にむかつ てたてつづけに投げつけ る.
エーデ ィ トが 話 し終 りタバ コをのむ とい うので大尉は マッチを擦って火をつけ
てやろ うとす るが興奮 して手がふ るえ ど うして も うま くゆか ない。 エ ーデ ィ ト
はそれをみ て 「私の馬鹿気たお しゃべ りのためにそんなに興奮す るな んてあな
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のでないことに気附く
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イトは大尉にむか
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ば相手を当惑させる
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の考え
のが
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このとき大尉は今迄、
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て明菜
に同情
に対する拒否を宣告したのである
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人娘なので父親によって甘やかされて育
は母に死なれ
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つもおずおず。
怒り易く
その長年の病苦
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になり
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によって神経質、 自分
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」という
たは父のいうとおり本当にめずらしい方なのですね
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るとすればいつ頃治
この老父の態度はい
るのか是非聞
いてくれと頼まれる
。 と遠慮深い
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翌
日大尉は
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詐欺師仲間とも関係を絶ち
と結婚し
、 デイトが生れ
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となのり幸福
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の遺産相続事件に介入し
その相続人である未亡人
の小間使
、 ての子供に死なれ
の経歴が長
々と語られる
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な家庭を営むことになる
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々明るい生活
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この老いた大富豪は貧乏な
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当時彼
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に対して手数料を払いたいと
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ゝり。 金に対す
つづける
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金の力も及ばず遂
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父に早く死に別れて以来
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公証人
に全く気附かず
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に近づき
って四分
、 彼女が彼
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のも
のにしてしまう
郎
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二
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賛沢 を惜 しまない。 しか し、彼女が突然 の足萎えになっ て以来、冷静で不屈な
意志 と精力を もって活動 して きた彼は、心配の余 り気力が衰え、心臓病にな り
萌在 ではその生命 さえ気遣われ る状態にあ るとい う。
医者 の長話が終った後 で、大尉は カーニ ッツの依頼 を思い出 し、それ とな く
エーデ イトの病気 につい ての見解 をたずね る。 こ ゝで コソ ド←/
レ拝 、医師 と し
ての独 自の信念を表 白す る。 「健康だ の病気だ の とい うことか ら して良心を も
った恥か しか らぬ医者 の 口にすべ きでない二つ の言葉 なのだ。況や治 るとか治
らない とか い う言葉に於 ておやだ.前世紀 の最 も怜倒 な人間であ るニ -チ エは
不治の病人の もとでは医師た らん と しては ならぬ 、 とい う恐 るべ き言葉 を云っ
てい る。 しか しこれ は、彼が我 々に解明 させ よ うと して与えたすべ ての逆説的
に して危険 な言葉 の中で も最 も間違った言葉だ 。 その逆 こそ正 しいのだ。私は
次の よ うに主張す る。 不治 の病人の もとに於 て こそ人は医師た るべ きであ る。
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否 、所謂不治 の病人の もとでのみ医師 と しての実が示 され るのだ と。 我 々は決
して不治 とい う言葉を使ってはならない。最 も絶望的 なケ -スに際 して も、私
は現在 の医学では まだ治 るとい う訳にはゆか ない (
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う丈だ ろ う。」 (S 1
76日 .
) コソ ドールの この信念は 、医学生時代 、彼 の父が
当時は不治 の病 であった糖尿病 にかかっ て、教 授に不治を宣告 され 、 目前で死
んでゆ くのを ど うす るこ ともで きなかった とい う体験 に よっ て生れたのだ とい
う。 最後迄彼は エーデ ィトの病気 に対 して、明確 な予想を避け る。 治 るとも治
らない とも言わず 、た ゞ忍耐 して時を待 ち、可能 な限 り手を尽すだ け だ と い
う。 話 しの終 りに、 ヴイ ー ノッ トとい う教授が 、最近新 しい治療法に よっ て足
萎えの患者を治す ことに成功 した とい う報告 の記事を見た と附け加 える。
ホ ーフ ミラーが兵舎 に帰っ て くると途 中で カーニ ッツが彼 を待 ち 伏 せ てい
る。 この老人は娘 の病気 についての報告を次 の 目まで待ち切れ なかったのだ。
大尉は同情心 に動か され て、医者が病人の治療 の見込みにつ いて頑強に沈黙 を
守 りとお したに も拘 らず 、新 しい治療法に よっ て、エ ーデ ィトの病気 は 、数 ヶ
月で治 ると云った ど無責任 な嘘をつ く。老 人は歓喜 して帰宅 し、早速娘 に知 ら
せ て二人 とも涙を流 して喜び合 う。 翌 々 日、楽 しい計画に従っ てお祭 り気分の
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6-
ピク
大尉は自分の軽薄な嘘言が彼等
にこのような影響を
ニックが行われるが、 与えたことを後悔し
いな
これまでこんなに愉快な目に会
ったことはないと思
。 ピク
五時に酒場で待
には
に
ついて口を滑らしたにちがいない。
、 ってくれるようにとある。
んなと
に楽しむ
一
がら
それ
ってくると
ニックから帰
コソド
,からの電報が来ている
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。
、 大尉が新しい治療
自分の言葉
み
心配するど
の力
に自己陶酔して
ころか、 緒
酒場
教授にその治療法
い合せたところ
で医者は
についての精しい指示を問、
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とな
ったと伝える。 「同情というものは
るところの
ようと決意す
」
である
センチメンタルでない創造的な同情
、
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に
に大尉と老人に対す
に批判して次のよう
る同情を痛烈
他人を同情
も憩
のた
でも
ることにはとんでもな
こす
って愚弄す
い
。 他人の感情をも
る
自ら何を欲す
辛抱
の
これのみが価値あるのだが
るかを知り
一つは、
。 強く
デ
その返事によると
ことが明らか
には全く効果がないという
ィtの場合
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、更
はますます同情を必要とする
丁度
に最初のうち丈病人にとって
モルヒネのよう、
。 有益
そして遂
には与え得る以上にも
々は適
・・。
。 さもなければそれは
同情
てあそぶのはやめてくれ
い大きな責任がある
い
。-・。 本来他人の不幸
その
のだ
しかし
いも
に対
二種類の同情があるのだ
-一つは。
、 する切ない感動から
いう
如何なる冷淡より
当に同情を制禦しなければならな
い
。
、 害をひきお
適当に配量し叉中止することを知らなければ
それは
。 致命的な毒となる
神経がますます多く
モルヒネを必要とするように感情。・-- 我
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即
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(共に苦しむこと
eid
en
)ではなくて
の心から他人の苦しみを遠ざけることにすぎない同情であ、 他
薬である
であり、
すぎない気弱な
センチメンタルな同情
、 自分
共に耐え忍び
己れの力の最後まで
否この限界を越えるまでやり
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できるだけ速かに開放された
いと願う単なる心の焦りに、 Mit
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の全体を貫いているモチ
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を破壊す
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であるといって
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にその証人に立
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この言葉
の終りの部分は
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この長篇
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この作品、
うに強い る。 しか し彼には 、エーデ ィト達 の喜びを一撃 の も とに破壊 して、彼
等を元 の暗い状態におい もどす勇気が ない。結局大尉が全責任を もつ とい う約
束の もとに、エ-デ ィ1
-の処置 は彼 に まかせ られ る。 医者 も、医師 と しての良
d よ りも大尉 の Unge
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d に期待をかけ る。 しか し病 人の歓喜の
心の Gd ul
状態 を利用す るときは、確か に最初は効果があ るけれ ども、病人の思 うよ うに
完全に治 らない ときは、危険な反動は避け られ ない とい うことも注意す る。 と
ころが 、その夜寒つかれぬ俵に読 んだ千一夜物語 りの中に、あ る若者が路傍に
積 ってい る足萎えの老人に同情 して背負っ てやった とた んに 、そ の 老 人 は
Dj
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m の正体を現 して若者の首を しめて乗物に して しま うので、彼は Dj
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の命ず るとお りに走ってゆか な くてはならない-・
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・とい う話が出てきた とき、
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lの よ うにあのケ-ケス ファ ー /
レグアが 自分の運命 を この若者の 運
この Dj
命の よ うに支配 し束縛す るのだ とい う恐怖を感ず る。 そ して、自分 の背負った
責任が途方 もな く厄介な重大な ものに思われ 、 「この世の中で最 もよ くない も
のは悪意や残 忍ではな くて、弱 きに よってひ きお こされ るのた。」 と考え始 め
る。
次の 日大尉が訪れ ると、エ-デ ィトは 、やは り高い塔 の テラスで待
l ち うけて
い る。 彼女 の楽 しげな様 子に も拘 らず 、大尉が浮か ない顔を してい るので、少
し不満をおぼえた ら し く、彼 に何故 自分の ところにいつ も来 て くれ るのか とた
ずね る。 彼 の返答が彼女 の孤独を慰め るため とい う意味を出なかったので突然
ヒステ リーをお こ してテラスか ら飛びお りよ うとす る。 泣 き出 した彼女は部屋
につれ去 られ るが 、 もう一度大尉を呼んで来 させ る。 その とき、 エ-デ ィトは
爆発的 な激情 で彼を襲い狂熱的 な接吻で圧倒す る。 始めて大尉は この発育不全
の不具の娘の中に一人の女性 を認識す るのであ る。 エ-デ ィトがいか に彼の同
情 を憎んでいたか - この夜は じめてイ ローナの 口か ら、 エ-デ ィトが毎 日口
にす るのは彼 の こ とはか りであ る とい うこ とを知 る。 彼女はいつ大尉が愛の言
葉 を語 るか まち こがれ て 、ついに まち切れ なかったのセあった。大尉は、同情
なんか ではない、 もつ と別な感情 の故に訪ね て くれ るのだ と思っ てい るらしい
工-デ イトの気特を、出来 る丈はや く覚 ま して くれ とイローナに頼むが 、そん
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な残酷な ことはできない と云われ る。 これ まで恋の憧保 と悩み こそ最 も大 きい
心の苦悩だ と思って きた大尉は、 「自分の意に反 して愛 され るとい うこと」更
に 「この熱烈 な愛情を防 ぐことがで きない とい うこと」の方が もつ と大 きな苦
痛であると考え る。女が男の愛情 を拒むのは天性 に適ってい る。 しか し一旦女
の方か ら愛情を示 してきた場合は、それを しりぞけ るのは女の最 も尊い ところ
を侮辱す ることになるのだ・
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・とい うのが大尉の完特 であったO彼は今や エー
デ イT
-に完全に とらえ られ て逃げ る術 もない ことを嘆 く. 不具の娘 エーデ イト
に対す る同情の限界 を知 る。
町に帰って きて、数時間同僚達 につ き合った後 、兵舎 に来 てみ ると、エーデ
イトか ら長い手紙が きてい る。 -
自分の よ うな化物は人を愛す る権利 も人か
ら愛 され る権利 もない。 自分は 自分に とっ てす ら厭わ しくて堪 らない存在 なの
だ。 しか しど うか大尉を愛す る権利だけは与えて くれ 。 そ して どうぞ今 まで ど
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うり訪ね てきて くれ 一 一といった内容 であ る. 大尉はふ るえ る手で 何 度 も読
みかえす。二時間後に再び手紙が くる。 それには、前の手紙は全部嘘だ。す ぐ
破棄 して欲 しい。明 日は決 して訪ねて くれ るな とい う内容が書かれてある。 彼
ノ
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く
女は彼か ら何の返事 ももらわ ないので、絶望 の余 り幾度か 自殺を図 るのである
が 、この ときは まだ大尉は知 らない。
翌 日の演習の際 、大尉は エーデ イトの事ばか り考えていたので、へ まをやっ
て上官に叱 られ恥をさらす。 同僚が彼を慰めた とき、同情がいかに 人 の 完 持
を傷け るものかを悟 る. 大尉は、軍隊か らもケーグ ス フ7-J
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,ヴア家か らも逃
の会計 の助手 の仕事にあ りつ く。 軍部に辞表を書いて提出 しさえす れ ば 自 由
にな り救われ るのだ と考え る。 早速辞表を書 き、 「喜ば しい気持」でそれをた
たんで胸のポケッ トに入れ よ うとした とき、エーデ ィトの二通の手萩 の存在に
気附 く。--一
彼等が待 と うと泣 こ うと自分に何の関 りが あるのだ・
・
・
・
-彼女の病
気が治 るか治 らないか な どとい うヒステ リックな問題全体が一体 自分に何の関
りがあるのだ -
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) と無理 に 自分に云い きかせ るもの ゝ、明 らかに この
辞表は、傷け られた名誉のためではな くて、実際は、ケーケス フアール ヴア家
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げ出 よ うとす る。 昔の同僚 で今は金持 の女 の夫 となってい る男の世話で、商船
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の人 々か ら、 自分の偽楠か ら、 自分の責任か らの逃亡 のための ものであ ること
を知っていたので、又、 コソ ド-/
レとの約束を思い出 し、さすがに この医者に
黙って脱 出す る訳 に もゆかず 、別れ の挨拶をす るためにその家 を訪ね る。 大尉
は この家 に くる前 までは適当にいいのがれ よ うとしていたけれ ども、い ざ コソ
ドール と暗闇の中で対坐す ると、エーデ ィトの突然の愛の告 白、 自分 の驚情 、
狼狙 、不安 な どについて打 ち開けて しま う。 医者は大尉の逃亡計画を喝破 して
それは エーデ ィトに対す る殺人行為 にな ると断言す る。更に彼は、大尉が何故
エーデ イトの愛を恐れ るのか とい う本当 の理 由を心理学者的洞察で もって解明
す る. 大尉を エーデ ィトか ら遠 ざけた ものは 、彼女の病気 ではな くて、 も し彼
が エーデ ィトと恋愛関係に入った場合、第三者がそれ を知った ら噺笑す るだ ろ
うとい う不安 であ るとい う。 その とき大 尉は コソ ドー/
レが 自分 の心臓に針を突
き刺 した よ うに感ず る。 コソ ドールに よると、大尉は、ケ-ケスファー/
レグア
の云 う如 き 「素晴 ら しい善良な人間」 ではな くて、 「
感情 の不安定 と心の焦燥
のために放置 してお くことので きない仲間」 であ る。 大尉は 、 自分 の逃亡が エ
ーデイ トの死 を意味す るとい う絶望的 な理 由のために 、辞職す る決意を放棄す
る。 か くて、スイスの療養所に旅立つ までの数 日の間だけ エーデ ィトに愛の希
望 をいだかせておけば よい とい う約束で大尉は再びケ ーケス フアール ヴアの家
を訪ね ることになる。
三 日間は無事 にす ぎる。 といっ て も、大尉は 、彼が エーデ ィトを妹い なので
は ない とい う態度丈を懸命になっ て保持す るが 、積極的 な愛情 の表現は何一つ
しよ うとしない。大 尉の関心事 は、一刻 も早 くこの義務的 な芝居か ら開放 され
たい とい う廉いばか りであった。逆に エーデ イ十の関心事 といえは、 もはや 自
分 の足萎が治 るか治 らないか とい う問題ではな く、大尉の 自分に対す る感情 の
如何であ る。 彼 の心が冷い限 り、スイスへ の療養の旅 も何 になろ う。 彼女は突
然 出発を拒否す る。 しか し、娘 の絶望 を見 るに しのび ない父親 の必死 の款麻に
動か され て、- -この とき父親は娘が何回か 自殺を試みた事を知 らせ る- -逮
に大尉は エーデ イ十が元 の よ うに健康な体 になった ら結唱す ると約束す る。 勿
論 彼は エーデ ィ十が歩け るよ うにな る筈が ない と確信 していたか らであ り、彼
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女が旅 にでれ ば、 自分 は再び 自由になるのだ と考えてい るか らであ る。 翌 日、
大尉は酒 の力を借 りてケ-ケス フアール プア家 を訪れ る と、 エーデ イトは じめ
一家全体が明 るい幸福 の光 に包 まれ て大尉を歓迎す る。 大尉は容易に こ うい う
雰 囲気 に支配 され 、みんなの感謝 の まなざ しに囲 まれ ていい気分 にな る。 エー
デ イトは大尉の指に エンゲージ ・リングをはめ、彼 もは じめて 自発的 な衝動 に
か られ て彼女 の唇に接 吻す る。 か くして婚約が成立す るが 、帰 り際に予期 しな
かった事件がお こる。玄関 の扉か らエーデ イトが松葉杖を用いず 自力 で大尉に
向っ て必死の力を出 して操 り人形の よ うに歩 きは じめ るのであ る。 奇蹟が生 じ
たのである。 ところが も う一歩 で大尉が 自分 を抱 きとめて くれ ると思った彼女
は力尽 きて大尉 の足下に倒れ る。大尉は彼女の方に一歩 も近 よるで もな く抱 き
とめ よ うとす るので もなかったが 、 もつ と残酷 な ことには、彼女が倒れた瞬間
大尉は ぎょっ として後に退 くのである。 エーデ ィトは泣 きなが らみんなに運 び
女 の絶望的 な怒 りの眼を怖れて夢 中で逃げ去 る。 大尉の頭 の中は混乱 し、 さま
ざ まな妄想が浮ぶが 、それ らはすべ て 自分一個人 の利己的 な顧 慮にす ぎず 、エ
ーデ イトやその父 の こ とについては何 の同情 も感 じてい ない。彼が夢選病者の
よ うになって町 の酒場に入 る と、同僚達が 、最初に大尉を ケ-ケス フ7 - )
レプ
アに紹介 して くれた薬屋 の 口か らす でに大 尉 とエーデ イトとの婚約 の ことを聞
知っ ていた のでそれ は本当か とたずね る。 大尉は彼等 の軌 胃か ら身 を守 るため
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去 られ る。 大 尉は エーデ イトに慰めの言葉 をかけてや らなければ と思 うが、彼
に、そんな ことは断 じてない と嘘をつ く。 彼等はたやす く大尉の言 葉 を 信 じ
る。大尉が金のために不具の娘 に身売 りす るな どとい う恥か しい ことをす る筈
ことに気附いた大尉は 自署を図 るが 、連隊長 の と りはか らいで中止す る. 彼は
コソ ドー ルに手紙 を書 いて、すべてを説 明 し、 も しエーデ イトさえ 自分 の弱点
を許 しさえすれば 、病気が治 るまい と治 ろ うと生涯を共に したい と述べ る。 し
か し偶然がわ ざわい して大尉の気持を知 る前に大尉の嘘が ニーデ ィトの耳に入
り、彼女 は塔か らとびお りて死ぬ。丁度 同 じ 日に オ ース トリーの皇太子夫妻が
暗賀 され 、戦争がは じまる。大尉は 工-デ イトの死 を忘れ るために剛勇を発揮
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が ない とい うのが彼等 の言い分 であった。 しか し、 こ うい う嘘はす ぐ発覚す る
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す る。戦争が終 り帰ってみ ると、 ケーケス フアール ヴ了は娘の死後数 日 して死
んで しまい、同僚達 も戦死 した り或いは昔 の事な ど忘れて しまっ てい る。 彼は
新たに生 きる勇気 を獲得す るが、あ る 日コソ ドール夫妻に会っ て、良心が知 る
限 り、罪は忘れ得 る ものでない事 を知 る。 こ ゝで物語 りは終ってい る0
以上 の概略 に よっ て も理解 され るよ うに、 この作品のイデ ーは、 「同情」 と
い う感情 の三つの様相にあ る。その一つは、ホ ー プ ミラーに よっ て示 され る 「
他人の不幸に対す る切 ない感動か らで きる丈速かに開放 されたい と顧 う単 なる
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心の焦 りにす ぎない気弱で センチ メンタルな同情 、即 ち Mi
て 自分の心か ら他人の苦 しみ を遠ざ け ることにす ぎない同情」 であ り、第二 の
それは、 コン ドールに よっ て示 され る 「自ら何 を為 さん と欲す るか を知 り、共
に苦 しみつ ゝ、辛抱強 く自分 の力 の最後 まで、否、 この限界 を越 え るまでや り
ぬ こ うと決意 してい る同情」であ り、最後 のそれは、ケーケス フアール ヴアに
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よっ て示 され る同情 で、前二者 の中間に位す るものであ るが、兵 に Mi
ではあるが、同時に創造的 な忍耐 も知 らない同情であるJ コン ドール に云あせ
ると、ケ-ケス フアール ヴアは、 「隈 々まで不幸に覆われ てい るこの世界 に彼
の子供 の不幸 しか ない よ うに思っ てい る」老 人であ るが、盲 目的 である とはい
え、それ丈尚一
一層子供た対す る愛情が純粋 で しか も強烈 であ る訳 で、それ故兵
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n であ り得 るのであ る。 しか し彼 の同情 は、 「アモツ ク」 の世界
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)」 と通ず るもので、その特色は 「
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に於 け る 「悉依 (
にある。 ところが この同情は 自ら何を為 さん と欲す るかを知 らず 、いたず らに
苦 しむのみであ る。 遂 に、彼は己れ の同情 の故 に、つ ま り強烈 な 自分 の愛情 の
犠牲 となる。 彼 の幸福 のすべては娘の幸福 の如何にか ゝっ てお り、娘 の幸福を
頗 うことが 、彼 の生存 の意味 のすべてであ るか らであ.
る. ホー プミラーの同情
が 、彼 の卑′
トな エゴイズ ムの-変形であ る如 く、ケーケス フアール ヴアのそれ
は、彼 の全存在 を賭けた ものだったか らであ る0 -万 ホー プ ミラーは、生活上
の信念 も、全身的 な強い情熱 も持たない凡庸で臆病な事なかれ主義者 であ り、
ひたす ら身の無事にのみ汲 々として、その弱 さの故に、相手を も自分を も傷け
てゆ く。 彼の弱 きは、 自分 の心に重い荷を背負えない弱 きであ る。 彼は愛情か
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ら も責任か らも逃亡 しよ うと企 てる。 自殺の決意 も、結局卑怯な逃亡K.
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らなかった。最 も高い意味 での同情は、医師 コソ ドールに よって生活的に実践
され る。彼はある女の 目を治療 して失敗 し、盲 目になったその女 と結嬉 し、貧
民窟に居 を構えて全身を貧 しい病人達 のために捧げてい る。 人輯愛の理想像で
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あるが 、これは、正確 な論理 と、不屈の実行力に よっ て創造的 な同情 のイデー
の担い手 となってい るのである。
各 々に於 て三つ の愛情 の頬型 と夫 々対応関係を有 してい ることである. 同情 の
質を規定す る ものは愛情 の質にはか ならない。従って、最 も問題 となるホ-フ
ミラーのエーデ イトに対す る感情 を今一度分析 してみ ることにす る。
この作品の文芸的悲劇性 は、ホ-フミラーに よっ て表現 され る 「センチ メン
タル」な同情が 、エーデ ィトを、更に又 ケ-ケス フアール ヴアを も絶望的 な死
に追い込む とい うモチ ーフにある。 外的 な運命の力で もな くであるが-
尤 も偶然は別
横転的 な暗い悪意で もない、一人の善良な気弱な人間の同情が 、
其 の同情が持つ如 き創造的 な力を もた ないのみ ならず、かえって、相手に対 し
て致命的 な破壊力 となる点にある。 ホ- フミラーの不安定 な想念は、エーデ イ
トに対す る感情 の不安定を説明 して くれ る。 コソ ドールか らエーデ イトの足萎
えが気 に入 らないのか と問われた とき、ホ-フミラーは直ちに 「違い ます」 と
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答え、 「私を彼女にあんなにひ きつけた のは、ほかな らぬあの頼 りなさ、無力
さであった。叉 、私が、恋す るものが もつ あのや さ しい感情に近い感情す ら、
ときお り懐いたのは、彼女の苦 しみ、彼女 の孤独、不具な どが私の心をあんな
に動か したか らである。」 (
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) と説明 してい る。 彼が エーデ ィトに対 す
る気持を告 白 しているのは、作品全体を通 じて只 この箇所 のみである。 のみな
らず 、この告白す ら余 り明 白な感情を表 白 してい るとはいえない9 しか も、イ
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ローナの間に も、決 して恋 してなんかいない、 と答えてい る。 エーデ イトの恋
を、いつ も 「馬鹿 々々 しい恋」 とい ゝ、 「意に反 して愛 され ること」 と云って
みた り、それで も彼は彼女 との結婚を決意 した ときには、 「私の人生には、ま
だ一つ の価値があ ります。 それは、私があざむいた のは、
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更に理解すべ きことは、 この作品に表現せ られ てい る同情 の三様相は、その
彼女ではない とい うことを彼女に実証す ることです。」 (S,
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) と書いて も
い る。 従って、彼は、エーデ ィトに対 して、弱いなが らもあ る程度 の愛情はい
だいていたのであ り、彼女の愛か ら彼をひ きはなそ うと したのは、否応な しに
負わ された責任感情の重圧 であ り、束縛感であった。けれ ども、これは、意識
の表面に現れた、いわば本能的な 自己隔著 であっ て、その意識下に潜 んでいた
のは、軍人仲間をは じめ、世の中の人 々に対す る自己防衛 、即ち、世間体をお
もんはか るエゴイズ ムであった。同情を拒否 した エーデ ィトとは逆 に、ケ-ケ
ス フアール ヴ了は、必死の軟膜 に よっ て、ホー プミラーの同情を請 うのであ り
ホー プミラーはいっ も打負か され て、守れ ない約束を し、結局裏切 るとい う破
目におちい る。 エゴイズ ムが傷かない限 りに於 ての同情は、エゴイズ ムが傷 く
や否や 「呪わ しい」同情に変 るのは当然であ り、畢寛 、エゴイスティックな愛
情は エゴイスティックな同情 に通ず るのである。
ところで、作者 ツワイ クが 、何故 、同情 のイデ ーに関心を もったのであるか
その生活に於け る問題性 を探っ てみなければならない。
ツワイ クの伝記作者ハ ンス ・ア レンスのい う如 く、 「友情 の天才」であ り、
「旅行の天才」であった彼は、学生時代か らア メ リカ、ア フ リカ、アジアの各
地 を旅行 し、欧洲で も到 る所 を遍歴 し、その土地 々々に友人をつ くり、有名人
のみ なちず 、ご くつ まならない人 々ともよ く親交を結 んだ といわれ る。 本来情
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d であ り、人間の一切 の欲望をその運命 と して 肯 定
熱的 な Me
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tであった彼が 、一九三 七 年
し、その純粋な燃焼を讃 美す る一種の Huma
五 月二 日、ナポ リか ら彼の妻 フ リーデ リーケに宛てた手紙 の中で、 「私は うぬ
ぼれ てい る訳 ではないが 、私な しで居 ることが君に とっ て、か な り辛い ことは
知ってい る。しか し、君はそんなに多 くの人 々を失っ てい るわけではない。
私は
も う昔の俵の私ではない。人間嫌 いの、只 も う仕事だけを楽 しむ、そ して、す
っか り自分 の中にひ きこもった人間になって しまった.私が 、 どんなに多 くの
人 々と訣別 したか君 も知ってい る通 りだ。私は又、 自分 の周囲が 、静か にな り
空虚になってい るのほ、私 のせいなのだ 、 とい うことも知ってい る。 あの ドイ
ツか らやって きた打撃は 、我 々み んなに、君が想像 してい るよ り以上に深 く梨
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き当った のだ 。」 と書いてい る。 一体何が彼を して この よ うな孤独 な手紙 を書
かせたのだ ろ うか。更に、 「友人達 が私にひ どい仕打 を して も、私は友情 を も
ちつ ゞけて、決 して この内面的 な義務か ら逃れ よ うと しない ことは、君 も知っ
てい るだ ろ う。 頼むか ら、君が私を失ったな どとは決 して考えないで くれ 。 そ
して、あの人 々の事は、気 に しないで欲 しい。彼等が私を批難す るのには 、彼
等に も一部の理が あ るのだ 。 彼等は、私が近年 、 コンプ レッ クスのために、ザ
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レツブ/
レクで どんな苦痛 を味ったか知 らないのだ。」
一九三三年 ナチ政権が完全独裁 を掌握 して以来 、その民族政策は年 と共に露
骨になっ て くるが 、半ユダヤ人であった ツワイ クも「罪 な くして罪 におち入 る」
よ うな体験 を した にちがいない。昔 の友人達 の多 くの ものが彼 と別れた の も、
恐 ら く、その辺 の事情 に よるもの と思われ る。 一九三 七年 、 ウィ ーンの家庭が
官憲 の手 に よっ て、家宅捜 索 まで行われ てい るが 、 これが ツ ワイ クを故 国か ら
去 らせ る動機 とな る. フ リーデ リーケの手記に よると、この事件は、彼の誇 り
を とったが可成 りその効果が あった に も拘 らず 、彼は、彼女 に対 してはか り腹
を立てた 、 とい うことであ る。 しか し、 フ リーデ リーケほ 、彼 の怒った本当の
気持 は分 らなかった のではないか と疑われ る。彼女 の歎巌 その ものが 、彼の気
持 を傷けたのでは なかった ろ うか。一九三七年二 月二八 日ロン ドンか らの手紙
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を非常 に傷けた ので、彼女が帝室 の高官か ら個 人的 に、特別 な宥恕 を得 る措置
の中で 、 「私は こ ゝで人に隠れ て生活 してい る。 私が居 る とい うこ とは 、 まだ
きたい。」 と書いてい るが 、 フ リーデ リーケの証に よる と、 「この本」 とは当
時執掌 中の 「マゼ ラ ン」であ り、 「本質的 な仕事」 とは、ほか ならぬ 「心の焦
燥」であ る。
こ ゝで再び作品に 目を向け る。
ホ ー プ ミラーが エーデ イT
か らエンゲ ージ リングを指 にはめ られ 、突然 の衝
動 にか られ て、は じめて彼女の唇に接 吻 し、二 人の気持が相当に投合 していた
に も拘 らず 、 エーデイ T
が 、い じら しくも、ホ ー プ ミラーへの愛情 の力 を実証
す るあの感動的 な奇蹟 を最 も非人間的 な残酷 さで裏 切 るとい うのは、彼 の エゴ
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誰 も知 らない。私は、私の本質的 な仕事を完 成す るために、 この本か ら手を引
イズ ムを どんなに支配的だ と考えて も、 この行動には、彼の性格描写か らみ て
も、場 の情景か ら云っ て も、必然性 を認 め るのは困難 であ る。 又 、 この ことが
エーデ ィトに対 して決定的 な打撃 にならなかった ことを一応承認すれば、翌 日
彼女は嬉 しげに、スイスの療養所へ の旅支度 を してい るのだか ら、 「偶然」 さ
え起 らなけれ ば、 ホ- フ ミラーに遂 に生 じた 、 エーデ イトとの生活へ の決意に
よっ て、悲劇は避 け られた筈であった。決定的 な瞬間に何故 「偶然」を もって
こなければ ならないか。 エーデ イ トは、彼女に とって此 の上 ない幸福 な、ホ フ ミラーの意思を知 らず に、全 く救 いのない死 に追い込 まれ てい る。 作 者の こ
の よ うな 自然 とは云え ない作品構成が一体 どこか ら くるか。云 うまで もな く、
安っぽ い同情 の恐 るべ き逆効果 のモチ ー フが作者 の意図であったか らであ る。
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しか し、作者は何故 と くにそ うい う発想を した のであろ うか 、 これが問題 でな
ければ ならない。更に、ホ - フ ミラーが エーデ イトと婚約 し、それを と り返 し
のつか ない災厄だ と思い、様 々な不安 な妄想に襲われ るが、 自分 の伯母が この
ことを知れは、 ケ-ケス フアール ヴアが昔 の カーニ ッツで、 エーデ イトは 「半
ユダヤ人」 であ ることを探 り出 さない筈は ない。伯母に とっては 「世の中で、
ユダヤ人 と親類になる くらい恐 ろ しい ことは ない」 のだ と心配 した りす る。
ユダヤ人に対す る世 人の偏見は、永い歴 史を有 してい るが 、一九二〇年、ナ
チがその党綱領 で、ユダヤ人の市民権剥脱 を公言 して以来、その民族政策的宣
伝は、年 と共に激 しくな り、 ナチが政権 を掌握 してか らは、オ ース トリーに対
す る武力圧迫がは じま り、一九三八年には 、 これ を武力に よっ て併 合 し て い
る。半 ユダヤ人であ るツ ワイ クが、 こ うい う時勢 の中で、 どの よ うな屈辱を感
じなが ら生 きなければならなかったか容易に想像で きる。 ツワイ クの もつユダ
ヤの血 のために、 これ までの友人達 が彼 に対 して不 自然 な態度を と りは じめた
であろ うことは上述 の手紙 に よっ て も察知 され る。故 国を追われ て、 ロン ドン
ア メ リカ、 ブラジル と亡命の旅にのは るのは この頃 である。
ツワイ クの追放体験 こそ、 この長篇のモチ ー フの契機 となったのだ といって
も過言ではあるまい。 ユダヤ人である事 を余 りに意識 していたに違 いない彼が
単 なる思いつ きで、ケ-ケス フアール ヴアにユダ ヤ人の面貌を与えた とは思わ
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れない。作者は、ホ- フミラーが ケ-ケス フアール ヴ了の経歴を知った とき、
「あのたれ下った まぶたの奥の、へ y トウ形の、 メラン コ リックな眼は、/、ン
ガ リ-の貴族の眼ではな くて、ユダヤ人の千年 もの悲劇的な戦 に よって轟 くな
り、同時に疲優 した まなざ しなのだ、 とい うことを ど うして見逃 していたのだ
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) と考え させてい る。今、 自ら宿命的 な不幸 と屈辱を体 験 し
ろ う。」 (sl
た ツワイ クが、甘 い同情 を断乎 として拒否 し、同時に、最後 まで、ケ-ケス フ
アール ヴア父娘を救 う気になれ なかった もの と思われ る。 コソ ドールの説 く高
次の同情 も、新たな意味を替得す るであろ う。
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註(
1
) 短篇集 「アモ ツク」の仏訳本の序
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