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不動産価格指数(住宅)の作成方法 - 土地総合情報ライブラリー
不動産価格指数(住宅)の作成方法 平成25年5月 国土交通省 土地・建設産業局 目 次 1.不動産価格指数(住宅)の概要 ..................................................................... - 2 (1)不動産価格指数(住宅)の概要 .............................................................. - 2 (2)不動産価格指数(住宅)の推計フロー .................................................... - 3 2.利用するデータ .............................................................................................. - 3 (1)不動産の取引価格情報提供制度とは ....................................................... - 3 (2)取引事例データの特徴 ............................................................................ - 4 (3)速報と確報における利用データ .............................................................. - 4 (5)試験運用での不動産価格指数(住宅)の対象範囲と用途の定義 ............. - 5 3.ストラティフィケーション(層化)の方法 .................................................... - 7 (1)用途に関する層化 ................................................................................... - 7 (2)地域に関する層化 ................................................................................... - 8 4.データのクリーニング及びスクリーニング方法 ............................................. - 9 (1)欠損値を有するデータの除去方法 ........................................................... - 9 (2)異常値を有するデータの除去方法 ......................................................... - 10 5.採用する推計モデル ..................................................................................... - 12 (1)不動産価格指数(住宅)を推計する上での考え方 ................................ - 12 (2)不動産価格指数(住宅)の推計モデルの概要 ....................................... - 12 6.採用する説明変数 ........................................................................................ - 15 (1)不動産価格指数(住宅)で採用する説明変数 ....................................... - 15 7.指数の算出基準 ............................................................................................ - 16 8.上位指数への集約方法 ................................................................................. - 17 (1)ウェイトに関する考え方 ....................................................................... - 17 (2)ウェイトの計算方法 .............................................................................. - 18 (参考1)説明変数の定義 ................................................................................. - 19 (参考2)ヘドニック法について ....................................................................... - 21 (1)ヘドニック法とは ................................................................................. - 21 (2)ヘドニック回帰モデルについて ............................................................ - 23 - -1- 1.不動産価格指数(住宅)の概要 (1)不動産価格指数(住宅)の概要 不動産価格指数(住宅)は、全国の住宅(住宅地及び区分所有建物)に関して、国土交 通省が実施する「不動産の取引価格情報提供制度」により蓄積されたデータを活用し、個 別物件の品質をヘドニック法によって調整して推計した指数である。 利用する情報に応じて、 「速報」と「確報」の 2 段階の指数を公表している。 不動産価格指数(住宅)の概要は以下の通りである。 図表 不動産価格指数(住宅)の概要 速報 確報 ・住宅総合 ・住宅総合 名称 ・更地・建物付土地 (地目が「宅地」である ・更地(地目が「宅地」である更地) (対象用途) 更地及び建物付土地) ・建物付土地 ・マンション (区分所有建物) ・マンション(区分所有建物) ・全国 対象地域 ・ブロック別(北海道、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄) ・都市圏別(南関東、名古屋、京阪神) 算出期間 2008 年 4 月より 基準時点 2008 年 4 月より 2009 年 3 月までの算術平均値を 100 として基準化 算出頻度 月次 推計方法 ヘドニック法(時間ダミー変数法) 利用する情報 取引月から公 表までの期間 公表頻度 ・不動産取引価格情報 ・不動産取引価格情報 (アンケート調査による情報) (アンケート調査による情報) ・鑑定調査員による現地調査情報 約5ヶ月 約1年 毎月 毎四半期 -2- (2)不動産価格指数(住宅)の推計フロー 不動産価格指数(住宅)は、以下のような推計フローに従って推計を行なう。 図表 不動産価格指数(住宅)の推計フロー 2.利用するデータ 不動産価格指数(住宅)で利用するデータは、国土交通省が実施する「不動産の取引価 格情報提供制度」により蓄積された取引価格情報(以下「取引事例データ」という。 )であ る。 (1)不動産の取引価格情報提供制度とは 不動産の取引価格情報提供制度とは、不動産市場の信頼性・透明性を高め、不動産取引 の円滑化、活性化を図ることを目的とし、不動産取引当事者へのアンケート調査に基づく 不動産の実際の取引価格等に関する情報を国民に対して提供する制度である。 本制度は平成 17 年度より一部の地域で開始され、平成 20 年度以降は、全国的な調査と して実施されている。取引毎に取引価格、取引時期、所在地、床面積、建築年、最寄り駅 等の情報が蓄積され、一定の秘匿処理後に、国土交通省ホームページの土地総合情報シス テム1にて、四半期毎に公表されている。 1 http://www.land.mlit.go.jp/webland/ -3- (2)取引事例データの特徴 取引事例データの価格は、実際に取引されて成立した、土地又は土地・建物一体の価格 である。市場でのの取引は買い進みや売り惜しみ等、様々な事情により成り立ち、また、 土地・建物には権利等が付着している場合がある。事例データは、これらを反映した「生」 の情報であるという特徴がある。 (3)速報と確報における利用データ 取引事例データは、①登記異動情報、②アンケート調査票、③現地調査という 3 段階の ステップによって作成されている。なお、土地総合情報システムに実際に公表される情報 は、これにさらに秘匿処理がなされたものである。 速報では、①登記異動情報を基にした情報と②アンケート調査票による情報に基づいて 推計を行い、確報は①と②に③現地調査による情報を加えた全ての情報に基づいて推計を 行う。 したがって、速報では利用できる情報が確報と比べて少なくなるが、現地調査前の情報 だけで推計を行うため、速報性に優れた指数となる。また、確報では、現地調査により、 より詳細な情報が付加されることで、より細分化された指数の作成が可能になる。 図表 取引事例データと不動産価格指数(住宅)の作成フロー -4- (5)試験運用での不動産価格指数(住宅)の対象範囲と用途の定義 不動産価格指数(住宅)は前述の通り、速報と確報の 2 種類の指数の公表している。こ こでは、それぞれの指数の対象範囲の違いを、取引事例データの全体との対応から示す。 図表 取引事例データの全体と指数の対象範囲 マンション (確報版) マンション (速報版) 林地 4% 山林 2% その他 5% 農地 10% 宅地_ 畑 宅地見込地 3% 田 0% 3% 宅地_工業地 宅地_商業地 1% 4% 住宅総合 (速報版) 宅地_住宅地 _ その他 1% 区分所有建 物 16% 843,888件 宅地_住宅地 _更地 22% 更地 (確報版) 宅地_住宅地 _建物付地 29% 宅地 (速報版) 住宅総合 (確報版) 建物付住宅地 (確報版) 注)登記原因年月が 2008 年 4 月から 2011 年 7 月までのデータを対象に作成している。 速報での「更地・建物付土地」は、登記上の地目が「宅地」である更地・建物付土地を すべて対象とするため、割合は少ないものの、住宅地以外の商業地・工業地等を含まれて いるものとなっている。 一方、現地調査による情報を付加した確報では、用途が「住宅」である「更地」と「建 物付土地」に区分する。 不動産価格指数(住宅)における、それぞれの用途の定義は、以下の通りである。 図表 用途の定義 用途 指数系列 速報 住宅総合 更地・建物付土地 定義 ・ 移転登記がなされたもののうち、登記上の「地目」が「宅地」であ るもの。(更地、建物付土地を含む。) -5- マンション 確報 住宅総合 ・ 「区分所有建物」もしくは「区分所有建物の敷地」として移転登記 がなされたもの。2 更地 ・ 移転登記がなされたもののうち、登記上の「地目」が「宅地」であ って、アンケート調査により「更地」と判明したもの。 建物付土地 ・ 移転登記がなされたもののうち、登記上の「地目」が「宅地」であ って、アンケート調査により「建物付土地」と判明したもの。 マンション ・ 「区分所有建物」もしくは「区分所有建物の敷地」として移転登記 がなされたもの。 2 移転登記がなされたものを対象としているため、一部の新築マンション(新規に区分登記がなされたも の)については対象に含まれない。 -6- 3.ストラティフィケーション(層化)の方法 住宅は、その用途及び地域等によって価格形成要因が異なるため、価格指数を算出する 上では、適切な層(部分母集団)に区分して、ストラティフィケーション(層化、stratification) を行うことが求められる。 例えば用途であれば、住宅地、商業地、工業地などの土地の種別、地域であれば、都道 府県別やブロック別、都市圏別などの層に区分することが考えられる。 不動産価格指数(住宅)では、不動産の価格形成要因は用途や地域により大きく異なる と考えられるため、用途別及び地域別の指数を作成することで同質な層に区分することと した。 (1)用途に関する層化 用途に関しては、前述したとおり、速報版指数と確報版指数で層化が可能となる区分が 異なり、宅地の土地種別(住宅地、商業地等)と類型(更地、建物付土地等)に関する情 報が速報版の段階では利用できないため、以下のような層区分となっている。 図表 用途に関する層区分 土地種別 宅地 農地 類型 更地 建物付土地 住宅地 商業地 工業地 その他 林地 その他 マンション (区分所有建物) 【確報版】 更地(住宅地) 指数 【確報版】 建物付土地 指数 【速報版】 宅地指数 【速報・確報版】 マンション指数 その他 -7- (2)地域に関する層化 地域に関しては、地方ブロック別、都市圏別の層区分としている。地方ブロックの区分 方法は、地理的・経済的な地域区分に加え、指数の推計において一定数以上かつ安定的な サンプル数が必要となること等を考慮し、以下のような層区分としている。 図表 地域に関する層区分 公表される指数系列 全国指数 (指数は非公表・非算出) ブロック指数 都市圏指数 北海道地方 東北地方 関東地方 南関東圏 北陸地方 中部地方 名古屋圏 全国 近畿地方 京阪神圏 中国地方 四国地方 九州・沖縄地方 注)薄いグレーで着色している指数を公表している。 -8- 都道府県名 北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 新潟県 茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 山梨県 富山県 石川県 福井県 長野県 静岡県 岐阜県 愛知県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県 4.データのクリーニング及びスクリーニング方法 取引事例データは、登記異動情報に基づく情報に加え、アンケート調査票による情報か ら作成されるため、個々の物件の属性情報(取引価格、面積、最寄り駅からの距離等)に は、記入ミスや未記入等がある可能性がある。このため、特定の属性情報の欠損のあるデ ータ及び都道府県別に予め設定した異常値処理範囲を超える値を有するデータについて、 推計データセットから除去している。 ただし、出来る限りデータ数を保持することを意図し、欠損値及び異常値の除去は必要 最低限のものに留めている。 (1)欠損値を有するデータの除去方法 不動産価格指数(住宅)を推計する際に必要となる、下の図表に示す属性項目について、 1 つでも欠損のあるデータは、推計データセットから除去する。 図表 欠損値を有している場合に除去する属性項目 用途別 属性項目 速報版指数 更地・ 確報版指数 マンション 更地 建物付土地 マンション 建物付土地 登記原因日 ○ ○ ○ ○ ○ 取引価格 ○ ○ ○ ○ ○ 面積 ○ ○ ○ ○ ○ 最寄り駅からの距離 ○ ○ ○ ○ ○ 地上階層 ○ 築年数 ○ ○ ○ ○ 建物総階数 ○ ○ 建物延床面積 ○ -9- (2)異常値を有するデータの除去方法 異常値に関しては、都道府県別に予め定めた異常値処理範囲(最大値・最小値)を設定 し、これらを超える値を有するデータを、推計データセットから除去する。 図表 異常値を有している場合に除去する属性項目 用途別 属性項目 速報版指数 更地・ 確報版指数 マンション 更地 建物付土地 マンション 建物付土地 価格(総額) 最大値 ○ ○ ○ ○ ○ (円) 最小値 ○ ○ ○ ○ ○ 面積 最大値 ○ ○ ○ ○ ○ (㎡) 最小値 ○ ○ ○ ○ ○ 平米単価 最大値 ○ ○ ○ ○ ○ (円/㎡) 最小値 ○ ○ ○ ○ ○ 最大値 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 最寄り駅から の距離(m) 築年数(年) 最大値 ○ 建物総階数 最小値 (階) 異常値処理範囲は、それぞれの地域特性(地価公示の最高価格等)を考慮し、東京都、 三大都市圏等とそれ以外の都道府県で異なる数値を設定している。この異常値処理は、市 場環境の変化等に応じて修正していくことを想定している。 - 10 - 図表 都道府県別の異常値処理範囲 用途 処理対象項目 地域 最小値 最大値 500 円 350 万円 500 円 150 万円 その他の地域 500 円 100 万円 すべての地域 15 ㎡ 10 万㎡ 10 万円 200 億円 10 万円 150 億円 その他の地域 10 万円 50 億円 最寄り駅からの距離(m) すべての地域 ※ 40km 築年数(年) すべての地域 ※ 60 年 建物総階数 すべての地域 1階 なし 1 万円 500 万円 1 万円 300 万円 その他の地域 0.5 万円 200 万円 すべての地域 10 ㎡ 500 ㎡ 50 万円 20 億円 50 万円 15 億円 その他の地域 50 万円 5 億円 最寄り駅からの距離(m) すべての地域 ※ 20km 築年数(年) すべての地域 ※ 50 年 建物総階数 すべての地域 1階 なし 東京都 三大都市圏 平米単価 広島県 (円/㎡) 福岡県 更地・建物付土地共 面積(㎡) 通 東京都 三大都市圏 取引価格(総額)(円) 広島県 福岡県 建物付土地 東京都 三大都市圏 平米単価 広島県 (円/㎡) 福岡県 面積(㎡) 区分所有 東京都 (マンション) 三大都市圏 取引価格(総額)(円) 広島県 福岡県 ※最寄り駅からの距離と築年数は最大値のみの異常値処理を行なっているが、欠損値処理の段階で、0 未満のデータは 欠損値として除去している。 - 11 - 5.採用する推計モデル 不動産価格指数(住宅)では、推計モデルとして「ヘドニック回帰法(hedonic regression method) 」を採用し、特に「時間ダミー変数モデル(Time Dummy Variable Model) 」に より推計を行なっている。また、過去時系列の改訂を最小限に留めるため、その推計対象 データを徐々に移動させていく「Rolling Window 法(もしくは Moving Window 法)」を 採用している。 (1)不動産価格指数(住宅)を推計する上での考え方 住宅は、その立地や設備、規格、築年数などの属性(attribute)が住宅毎に異なってお り、全く同質な財は他には存在しない。また、住宅の「品質」も技術革新等によって変化 するスピードが早く、住宅自体の取引も散発的であるという特徴を有している。つまり、 住宅用不動産には非同質性という特殊性があり、非常に個別性の強い市場となっている。 そのため、取引価格の価値を異時点間で比較するためには、住宅の価格変動を、属性の 変化によるものと「純粋な価格変動」とに分解する必要がある。 このような品質を調整した価格指数を作成する方法のひとつがヘドニック法である。ヘ ドニック法については、 「 (参考2)ヘドニック法について」参照。 (2)不動産価格指数(住宅)の推計モデルの概要 以下では、不動産価格指数(住宅)の推計モデルについて示す。 まず、時点 における不動産 の取引価格を 性 とする。また、個々の不動産 は、 個の属 を有していると仮定する。いま、全体として、 て、そのうちの 期から始まる 期間を 期にわたるデータがあるとし と表す。ここで 期間を「Window 期間」 と呼び、 は Window の長さを示す3。 そこで、 期間に対し、以下のモデルを逐 次的に適用する。 (2.1) たとえば、 を 12 ヶ月として、第 1 期を 2008 年 4 月とすれば、まずは[1, 12]期間として 2008 年 4 月か ら 2009 年 3 月まで推計を行い、次は[2, 13]期間として 2008 年 5 月から 2009 年 4 月までの期間で推計を 行う。 3 - 12 - ここで、それぞれの変数は以下の通りである。 :時点 における不動産 の取引価格 :定数項 : 期における時間ダミーのパラメータ :時間ダミー変数(取引時点は 1、それ以外では 0 となる(ただし基準時点は 0) ) :住宅の属性 のパラメータ(ただし、 期間内では変化しないものとする) :時点 における不動産 の属性 の属性値 :誤差項 ただし、 は自然対数を示し、 (全体が 期からなるデータのうち、ある 一部の 期間を取り上げて、その 期間の先頭期から順に番号を付したもの)である。 次に、全期間 期のうち 期から始まる 期間 に上記モデルを適用して 得られた時間ダミーのパラメータ を、 期を明示的に記し、 と表す。 図表 Window 毎の時間ダミーのパラメータ t r 1 2 3 T 1 2 3 ここで、全期間のうちの最初の 期間の対数価格指数 と定義すると、次の は、 を、 と書 ける。 具体的には、対数から真数に戻した品質調整済みの価格指数 は、次のようになる。 (2.2) したがって、第 1 期を基準点とした場合、第 1 期と第 期の価格比は、最初の Window 期間の最終時点(第 時点)の時間ダミーパラメータの推定値と、次の Window 期間の最終 時点から数えて 2 時点目(第 時点、第 時点)の時間ダミーパラメータの推定値によっ て計算することが可能である。 上記の作業を全ての Window 期間に逐次的に適用することで、基準時点を 1 とした、全 期間についての品質調整済価格指数を得ることができる. - 13 - ここで、不動産価格指数(住宅)の推計では、Window 期間 を、12 ヶ月としている。こ の「Window の期間(長さ) 」をどのように設定するのかについては、理論的な制約は存在 しないが、一般には、住宅市場は季節変動特性として、年度末の 2 月、3 月には取引件数が 多く、その後、取引件数が減少していく傾向があるため、Window の長さは 1 年(12 ヶ月) を超える期間であることが求められる。しかし一方でその期間が長くなると、市場構造の 変化を適切に捉えることができなくなってしまう。このため、不動産価格指数(住宅)の 試験運用段階における Window の長さについては、12 ヶ月としている。 - 14 - 6.採用する説明変数 (1)不動産価格指数(住宅)で採用する説明変数 不動産価格指数(住宅)で使用する説明変数は、データ取得プロセス上の制約の下で利 用可能な属性情報から、欠損値が少なく、価格に与える影響が大きく、また符号条件も常 識と一致する説明変数を選択している。 具体的には、不動産の基本的な品質である「広さ」「近さ」「新しさ」や「地域性」、「取 引条件」といった特性について、以下の変数を採用している。 図表 不動産価格指数(住宅)で採用する説明変数 速報 不動産の特性 広さ 説明変数 面積(マンションについては 専有面積) 更地・ 建物付土地 マンション 更地 建物付土地 マンション ○ ○ ○ ○ ○ 部屋の地上階数 近さ 新しさ 確報 ○ ○ 建物延床面積 ○ 建物総階数 ○ ○ 最寄り駅からの距離 ○ ○ ○ ○ ○ 県庁所在地からの距離 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 築年数 ○ 改修済み 地域性 取引条件 ○ 所在する都道府県 ○ ○ ○ ○ ○ 市街化区域か否か ○ ○ ○ ○ ○ 道路(道路法上の道路及び区 画街路)に接しているか否か ○ ○ 南向き ○ ○ ○ ○ ○ ○ 取引主体 ○ - 15 - ○ 7.指数の算出基準 不動産価格指数(住宅)の算出基準は、2008 年 4 月から 2009 年 3 月までの 2008 年度 の算術平均を 100 としている。前述した Rolling Window 型の時間ダミー変数法に基づくヘ ドニック推計からは、2008 年 4 月を 100 とする時系列が得られるため、そこから 2008 年 度平均を 100 として基準化している。 具体的には、以下のような処理を行なっている。 (2.3) ここで、 は 2008 年度の算術平均値を 100 として基準化した不動産価格指数(住宅)で あり、その値は、推計によって得られた原系列 を 2008 年度 の算術平均値で除 した上で、それに 100 を乗じることで算出している。 なお、元データである事例データについて全国的な調査として実施されたのが平成 20 年 度以降(2008 年 4 月以降)であるため、不動産価格指数(住宅)の算出開始時点も、対象 地域の拡大に合わせて「2008 年 4 月」としている。 - 16 - 8.上位指数への集約方法 不動産価格指数(住宅)では、ブロック別・用途別の価格指数に加え、その上位指数と して、用途を集約した「住宅総合指数」 、地域を集約した「全国指数」を算出する。 また、都市圏別指数として「南関東圏指数」、「名古屋圏指数」、そして「京阪神圏指数」 を算出する予定であるが、それらの都市圏別指数は、その都市圏に属する都道府県別指数 を集約して算出する。 (1)ウェイトに関する考え方 不動産価格指数(住宅)では、ブロック別指数を全国指数に、用途別指数を住宅総合指 数に、そして都道府県別指数を都市圏別指数にするため、毎月の取引金額に基づいて加重 平均を行なっている。 一般に、加重平均を行う際には、ストックベースとフローベース(セールスベース)が あるが、現在の我が国においては不動産価格指数(住宅)での分類に対して適切に対応す る住宅ストックデータが未整備のため、不動産価格指数(住宅)ではフローベースでのウ ェイト付けを行うこととしている。 - 17 - (2)ウェイトの計算方法 不動産価格指数(住宅)では、フローベースでのウェイト付けを行うこととしているが、 具体的には取引金額によるウェイト付けを行なっている。 個々の不動産の取引金額は、アンケート調査票に基づく項目であるため、全ての取引を 網羅しているわけではない。そのため、アンケート調査票のみに基づいて算出された取引 金額ベースでのウェイトは、我が国全体の正確なフローとは言えない可能性がある。そこ で、アンケート調査票に基づく取引事例データから、その「平均取引金額」を算出し、そ れに登記異動データの「総取引件数」を乗じることで、 「取引総額」を算出することとした。 例えば「住宅総合指数(速報版) 」を算出する際の、宅地指数のウェイト は、以下の ように計算している。 (2.4) ここで、 は、時点 における宅地のウェイト、 ける宅地のサンプル数、 り、 は時点 における取引事例データにお は時点 における登記異動情報における宅地のサンプル数であ は時点 における取引事例データにおける宅地 の取引価格である。 - 18 - (参考1)説明変数の定義 速報及び確報で使用する変数の定義は以下のとおり。 ①面積 マンションでは、以下のとおり。 面積 = 専有部分の公簿面積 更地・建物付土地では、以下のとおり。 面積 = 画地の規模(公簿面積) ②部屋の地上階数 マンションでは、当該専有部分建物(部屋)が、マンション全体の総階数のうち何階に 位置するかという情報を用いている。 地上階数 = 専有部分の階数 ただし、当該専有部分建物が地下にある場合、この「地上階数」変数は 0 としている。 ③建物延床面積 建物付土地については、建物の延床面積を利用している。 建物延床面積 = 建物の延床面積 ④建物総階数 建物付土地については、以下のとおり。 建物総階数 = 建物の総階数 マンションについては、以下の通り。 建物総階数 = マンションの総階数 ⑤最寄り駅からの距離 物件の所在する大字等の中心点から、これに最も近い駅までの直線距離を用いている。 最寄り駅からの距離距離 = 物件の所在する大字等の中心点から、最も近い駅まで の直線距離 ⑥県庁所在地からの距離 物件の所在する大字等の中心点から、物件の所在する都道府県の県庁所在地(県庁所在 地の中心駅)までの直線距離を用いている。 最寄り駅からの距離距離 = 物件の所在する大字等の中心点から、所在する都道府 - 19 - 県の県庁所在地までの直線距離 ⑦築年数 築年数は、以下のように計算している。 築年数 = (登記原因年月日 - 建築年月日)/ 実年日数 この場合、築年月日については月日が欠損しているデータが存在しており、これについ ては以下のように処理している。 ・ 建築時期の年しか判明していない場合、当該年の 1 月 1 日とする。 ・ 建築時期の月が判明している場合、当該月の 1 日とする。 ⑧改修済みか否か マンションについては、改修済みか否かという情報を利用している。 改修済みダミー = 改修済みであれば 1、未改修であれば 0 となる ⑨所在する都道府県 都道府県ダミーを以下のように設定している。 都道府県ダミー = 取引がその都道府県内であれば 1、それ以外であれば 0 となる ただし、単一の都道府県で構成されている「北海道地方」の推計においては、都道府県ダ ミーは利用していない。また、都市圏別指数の推計においても、都道府県ダミーは採用し ていない。 ⑩市街化区域か否か 当該不動産の行政的条件を示す属性として、その区域区分が「市街化区域」であるかど うかを示す「市街化区域ダミー」を採用している。 市街化区域ダミー = 市街化区域に所在すれば 1、それ以外であれば 0 となる ⑪道路に接しているか否か 更地及び建物付土地が、道路(道路法上の道路及び区画街路)に接しているかという情 報を利用している。 道路ダミー = 道路に接していれば 1、道路に接していなければ 0 ⑫南向きか否か 南向きに位置しているかをダミーとしている。 南向きダミー = 南向きであれば 1、それ以外であれば 0 - 20 - ⑬取引主体 不動産取引における売手・買手が、どのような主体なのかにを表すダミー変数を用いて いる。売主及び買主の主体について、以下の区分に分ける。 売主及び買主主体区分 = 1:個人 2:民間法人 3:地方公共団体 4:国 そこで、売主・買主属性に関しては、以下のようなダミー変数を設定している。 売主法人ダミー = 売主主体区分が 2 であれば 1、それ以外であれば 0 となる 売主公共ダミー = 売主主体区分が 3 か 4 であれば 1、それ以外であれば 0 となる 買主法人ダミー = 買主主体区分が 2 であれば 1、それ以外であれば 0 となる 買主公共ダミー = 買主主体区分が 3 か 4 であれば 1、それ以外であれば 0 となる (参考2)ヘドニック法について (1)ヘドニック法とは 標準的なミクロ経済学では、品質など財を規定している条件が異なるものは、すべて異 なる財であると定義されている。そのため、従来の財と少しでも違う新商品が出現すると、 今までの効用関数とは全く別の効用関数を想定する分析を行う必要に迫られてしまう。こ れでは、製品差別化の盛んな品質競争や、同質な財が存在しない不動産価格等を正面から 捉えることができない。 そこで、Lancaster(1966)は、新しい消費者理論4として、財は客観的に定義できる複数の 属性の組み合わせによって作られており、その属性は量的にも測定可能であると仮定し、 その上で、消費者はその属性をどれだけ消費するかを選択していると捉えた。つまり、財 の消費によって取得される属性の量に対して消費者の選好を定義したのである。伝統的理 論と新しい理論の相違点は、伝統的理論が消費者の効用関数を財の消費量の上に定義して いるのに対し、新しい理論は効用関数を欲求の充足水準の上に定義し、その充足水準が財 消費者が根源的に効用を感じるものは何なのかという考え方については、大きく分けて 2 つの定式化が ある。1 つは Lancaster に代表される「新しい消費者理論 (a new approach to consumer theory) 」であ り、もう 1 つは Becker や Muth に代表される「家計の生産理論 (household production theory) 」である。 前者の新しい消費者理論は、財の持つ属性をそのまま消費者の効用関数の変数である欲求とみなすのに対 し、家計の生産理論は、財の属性そのものではなく、いくつかの財から生産されるものを欲求としている。 そのため、前者は品質の問題を議論するのに適しており、後者は消費者の非市場活動の分析に適している と言われている。 4 - 21 - の消費量に依存するとしている点である。 また、Rosen (1974)は、市場がある財の消費者と供給者によって構成され、その取引から 多様な属性を有する財の価格が決定されるとした。この市場価格は属性ベクトルに対応し て決定され、ヘドニック価格関数の形に書くことができ、財の消費者と供給者はこの関数 を与件として行動するとした。 そして、Epple(1987)は、消費者と供給者を複数想定し、Rosen の研究を発展させた計量 経済モデルを定式化している。 上記のような理論的研究に基づき、ヘドニック法5は、主に Lancaster(1966)の新しい消 費者理論と、Rosen(1974)のモデル等を基礎に、財やサービスの価格をそれらが持つ様々な 特性へ回帰させることにより、特性の有する価値を明らかにしようとするものである。 5 そもそも「ヘドニック」とは、ギリシャ語で「快楽」を示す”hedonikos”から由来しており、ある財の特 性・品質、いわば快楽を考えようというものである。例えば、ワインやタバコ、食後のデザート等の「享 楽商品」は”hedonic product”とも呼ぶ。 - 22 - (2)ヘドニック回帰モデルについて 不動産価格指数(住宅)を作成する際に準拠している、住宅価格指数ハンドブック6から 引用して、ヘドニック回帰モデルと推定方法について、簡単に紹介する。 まず、ヘドニック法では、個別性の強い財は、その属性(attribute)や特徴(characteristic) によって表現できると考える。つまり、財は、本質的に(品質に関する)特徴の束である と捉える。住宅という分野を考えてみると、この属性の束には、その不動産の構造的な側 面と立地的な側面の両方を含めることができる。それらは別々に売却することはできない ため、属性に対する市場は存在せず、属性の価格は独立して観察されることはない。不動 産への需給が、不動産の価格に対する属性の限界貢献度(marginal contribution)を暗示的に 決定することになる。回帰の手法は、これらの限界貢献度や潜在価格(shadow price)を推定 するために用いることができる。ヘドニック法の目的は、属性に対する支払い意思額(WTP: willingness to pay)や、属性を生産する限界費用(marginal cost)の推定値を得ることである が、ここでは、ヘドニック法のもう一つの目的である、品質調整済み価格指数の作成に着 目する。 まず、不動産 n の価格 p_n^t は、K 個の属性の品質 z_nk^t の関数であると仮定する。 T+1 の期間において、時点 0 から時点 T まで、次のように書ける。 p_n^t=f(z_n1^t, ,z_nK^t,ϵ_n^t ) (t=0, ,T) ここで、ϵ_n^t は誤差項(ホワイト・ノイズ)である。標準的な回帰の手法を用いて属性の 限界貢献度を推定するためには、上記の(2.1)式はパラメトリック・モデルである必要が ある。最も良く知られたヘドニック関数の特定化は、以下のような線形モデルと対数線形 モデルである。 線形モデル : 対数線形モデル: p_n^t=β_0^t+∑_(k=1)^K▒〖β_k^t z_nk^t+ϵ_n^t 〗 ln〖p_n^t 〗=β_0^t+∑_(k=1)^K▒〖β_k^t z_nk^t+ϵ_n^t 〗 Residential Property Price Handbook http://epp.eurostat.ec.europa.eu/portal/page/portal/hicp/methodology/owner_occupied_h ousing_hpi/rppi_handbook 6 - 23 - ここで、β_0^t とβ_k^t は、それぞれ切片と推定される属性パラメータである。多くの説 明変数は、連続的ではなくカテゴリー的になり、もし当該カテゴリーに属している場合は 1、 そうでないならば 0 を取るダミー変数の集合で表現されることになる。 例えば、ハイテク製品などの場合、通常は、対数線形モデルが他のモデルよりも望まし い。それは、価格は対数正規分布に従う傾向があるため、分散の不均一性 (heteroskedasticity)の問題が減少するからである(Diewert, 2003 を参照のこと)。その一方 で、住宅の分野では、線形モデルがより推奨される。建物の大きさと、それが建てられて いる土地の大きさは、2 つの重要な価格決定変数であるが、不動産の価値は、一般的に、建 物の価格と土地の価格の合計に等しいため、土地と建物は、もしデータが存在するのであ れば、線形の方法でモデルに組み入れられるべきである。ただし、全てのデータソースが 土地と建物の大きさに関する情報を含んでいるわけではない。土地(もしくは建物)のサ イズが説明変数に含まれていない場合、多くの実証研究では、対数線形モデルの方がある 程度パフォーマンスが良いことを示している 。 線形モデル(2.2)式と対数線形モデル(2.3)式における属性パラメータβ_k^t は、時 間と共に変化することができる。これは、住宅市場の状況が属性の限界貢献度を決定する という考え方に合致している。つまり、需給状況が変化すれば、それらの貢献度が一定で あると期待する先験的な理由はない(Pakes, 2003 を参照のこと)。しかし、市場の状態は徐々 に変化するように思われるため、おそらく短期の間だけ、(切片ではなく)属性パラメータ は時間と共に一定であるという、簡略化するための仮定は当然設定することができる。対 数線形モデルの場合、これは、次のように(5.3)式の制約型となる。 ln〖p_n^t 〗=β_0^t+∑_(k=1)^K▒〖β_k z_nk^t+ϵ_n^t 〗 以下に示すように、時間依存の切片β_0^t は、一定の品質の価格指数に変換することが できる。ここで、大きさ N(0),N(1), ,N(T)を持ち、時点 t=0, ,T において売買された不動 産のサンプル S(0),S(1), ,S(T)に対する売却価格と属性に関するデータを持っているとしよ う。標準的な誤差の仮定の下では、特に誤差の平均が 0 で分散が均一(一定)である場合、 ヘドニックモデルは、それぞれの時点におけるサンプルデータに対して、最小二乗法(OLS: Ordinary Least Squares)を用いて推定することができる。制約型の式は、完全共線性 (perfect collinearity)を防ぐために 1 つのダミー変数を排除し、時点を示すダミー変数を 含めることにより、全ての期間のデータ集合に基づいて推定することができる。制約型の 対数線形モデルに対する推計式は、一般に時間ダミー変数ヘドニックモデル(Time Dummy Variable Hedonic Model)として知られており、次のようになる。 ln〖p_n^t 〗=β_0+∑_(τ=1)^T▒〖δ^τ D_n^τ+∑_(k=1)^K▒〖β_k z_nk^t+ϵ_n^t 〗〗 - 24 - ここで、時間ダミー変数 D_n^τ は、時点τにおける観測であれば 1、そうでないならば 0 の値を取り、基準時点 0 に対する時間ダミー変数は除外されている。そして、価格指数は、 時間ダミーの回帰方程式から推定されたものに直ちに従う。時点 t=0, ,T で、大きさ N(0),N(1), ,N(T)を有するサンプル S(0),S(1), ,S(T)の集合データ全体を回帰させることで、 係数β _0 ,δ ^t (t=1, ,T)と、係数 β _k (k=1, ,K)を得る。時間ダミーパラメータは、 対数価格に対する「時間」の影響を計測する。時間ダミー係数を累乗(べき乗)すること で、属性の量における変化をコントロールし、基準時点 0 とそれぞれの比較時点 t の間に おける品質調整済住宅価格の変化を計測する。言い換えれば、時点 0 から時点 t までの時 間ダミー指数は、次のようになる。 P_TD^0t=exp〖(δ ^t)〗 - 25 -