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WS1-1 当院における過小グラフト症候群(Small-for-size-graft
WS1-1 当院における過小グラフト症候群(Small-for-size-graft-syndrome: SFSGS)症例の検討 井原 欣幸 1、浦橋 水田 耕一 1 1 自治医科大学 泰然 1、眞田 外科学講座 幸弘 1、岡田 移植外科、2 同 憲樹 1、山田 直也 1、平田 雄大 1、安田 是和 2、 消化器・一般外科 緒言)最近成績の向上から成人肝移植での左葉系グラフトが見直されているが、小児肝移植で過小グラフトサイズが問題 となるのは年長児以降の胆道閉鎖症(BA)症例や Wilson 病等の劇症肝炎症例などである。BA 症例など移植時の高度癒着 や側副血行路の発達、未成熟な免疫系や脾摘の影響など小児例特有の問題点も多く、その成績もまだ十分とは言えない。 今回当院の症例から小児例での SFSGS の長期経過と問題点を検証する。対象と方法)2001 年 1 月から 2014 年 1 月まで の当院での生体肝移植症例 247 例中、GV/SLV35%以下であった SFSGS 症例 8 例について検討した。結果)内訳は男児 3 例女児 5 例で、移植時の平均年齢は 13±2.4 歳であった。原疾患は胆道閉鎖症 6 例(1 例は再移植症例)、Wilson 病 2 例 で、PELD score は 8.9±3.8 であった。ドナーは母親が 7 例で父親は 1 例のみ、平均 GV/SLV 比と GW/BW 比は 33.9± 1.2%、0.76±0.13%であった。使用されたグラフトは左葉 3 例、拡大左葉 4 例、後区域 1 例で、術中血流 Modulation は脾摘が 4 例、脾動脈結紮が 1 例であった。術後合併症(重複有り)はグラフト機能不全 1 例、腸穿孔 1 例、腹腔内膿瘍 5 例、カテーテル刺入部膿瘍 2 例、敗血症 2 例、門脈狭窄 1 例、胆管吻合部狭窄 1 例で、再手術 4 例、死亡 3 例とその予 後は非 SFSGS 症例に比べ有意に不良であった。死亡の 3 例全例で腹腔内膿瘍を認め、うち 2 例は敗血症で死亡した。結 語)SFSGS 症例では、門脈圧上昇、shear stress 増加から免疫能の低下を招き、腹腔内膿瘍、菌血症など、術後感染症の 発症が高く直接予後に影響すると言われる。術後の感染コントロール、カテーテル管理を厳重にし、監視培養や腹腔内外 の US、CT 等画像検索をより入念に行うことが重要であると考えられた。また小児例での脾摘はその適応に慎重である べきである。 WS1-2 生体肝移植における左葉グラフト選択基準の検討 小寺 山本 由人、江川 雅一 東京女子医科大学 裕人、高橋 豊、大森 亜紀子、山下 信吾、尾形 哲、片桐 聡、有泉 俊一、 消化器外科 (はじめに)教室では 1997 年 9 月から生体肝移植を導入し、全例左葉グラフとを使用し、2009 年 10 月まで 31 例を経験 した。2 年間の休止期間を経て 2011 年より右葉グラフとも含めた新たなプログラムを立ち上げるにあたり、31 例の左葉 グラフト症例のアウトカムから左葉グラフトの適応を検討した。(結果)レシピエント平均年齢は 47.9 歳(22-69)、平均 MELD スコアーは 13.7(1-32)GRWR]は 0.67(0.36-1.07)であった。全 31 例中 12 例が死亡、1 年生存率は 58%であった。 これら生存の有無より ROC 解析を施行すると GRWR が 0.65 が得られた。GRWR が 0.65 以上(n=16)の 1 年生存率は 73%に対し 0.65 以下は 38%であった。(p=0.04)GRWR が 0.65 以下での生存例はドナー平均年齢が 24.2 歳と死亡例に比 し若かった。一方で GRWR 0.65 以上での死亡例はドナー平均年齢が 47.2 歳と生存例に比し高かった。同様の検討を MELD スコアでするも生存例と死亡例に差はなかった。GRWR 0.65 以上での死亡例の平均年齢は 53 歳と高かったが GRWR 0.65 以下での死亡例の平均年齢は生存例と差はなかった。(まとめ)以上の結果を踏まえ、教室での左葉グラフト の適応は GRWR 0.65 を基準とし検討している。ただし、ドナー年齢やレシピエントの年齢が高い場合は、ドナーの残肝 が 35%以上を確保できるのであれば GRWR が 0.65 以上を目指したグラフト選択が望ましいと考えている。この基準に 沿って 2011 年より 2013 年 4 月まで 8 例の左葉グラフトによる生体肝移植を施行した。レシピエント平均年齢 55.1 歳 (43-65)ドナー平均年齢 46 歳(30-57)平均 MELD スコア 18.3(15-27)、平均 GRWR0.74(0.64-1.11)であった。現在全 例生存中である。 45 WS1-3 当院における左葉グラフト選択基準と移植成績の検討 伊藤 孝司、牛込 京都府立医科大学 秀隆、昇 修治、鈴木 智之、越野 勝博、中尾 俊雅、串山 律子、吉村 了勇 移植・一般外科 【目的】生体肝移植ドナー手術合併症では左葉の方が右葉グラフトより合併症が少ないとの報告がある。今回当科で行っ ているグラフトの選択基準や移植後成績などについて検討した。 【当科の方針】ドナー選択基準として、ドナー年齢は 65 歳まで、心身ともに健康であること、残肝>30%以上としている。左葉、右葉グラフトの選択は、GRWR が 0.6%以上で あれば、第一に左葉グラフトを選択する。また肝移植手術では門脈血流量を増やすため側副血行路は可能な限り結紮遮断 し、門脈圧を測定し高値であれば脾臓摘出を追加する。【対象と方法】2003 年 9 月から 2013 年 12 月まで施行した肝移 植 85 例のうち、脳死肝移植 3 例、小児肝移植 14 例を除く 68 例の成人生体肝移植を対象とした。グラフトの内訳は左葉 30 例、右葉 38 例であった。それぞれ左葉、右葉グラフト群における年齢、体重、MELD スコア、GRWR、術後腹水量、 レシピエント生存率を比較検討した。 【結果】左葉、右葉グラフト群におけるレシピエント因子として、疾患、年齢、性 別、体重、MELD スコア(左葉 4-40(中央値 15)、右葉 8-26(16))には有意差は認めなかった。またドナー側因子として の年齢、性別、体重にも有意差は認めなかった。手術因子では GRWR は左葉 0.54-1.15(中央値 0.83)%、右葉 0.71-1.77(1.07)%と左葉グラフトが有意に小さかった。術後腹水量においては術後 7 日目で左葉 196-4230(1290)ml、 右葉 0-7965(796)ml に有意差を認めた。術後の血小板数、凝固能、Tbil 値には有意差はなかった。左葉グラフト群、右 葉グラフト群のレシピエント生存率はそれぞれ 90、97%(1 年)、79、88%(3 年)、73、88(5 年)%で有意差は認めなか った。死因として 1 例のみ small-for-size が関連したと考えられた。 【結語】ドナーの合併症、負担軽減の観点から可能 な限り左葉グラフトで生体肝移植をすることが望ましいと考えられるが、GRWR が小さいグラフトでは術中の門脈血流/ 圧のコントロールが必要と考える。 WS1-4 左葉グラフトによる生体肝移植の適応基準 石崎 陽一、徳川 順天堂大学 医学部 友彦、藤原 典子、吉本 次郎、須郷 広之、今村 宏、川崎 誠治 肝胆膵外科 左葉グラフトは、レシピエントでは初期の不良な成績が示すように、右葉グラフトに比べて不利であることは確かであ るが、左葉グラフトの最大の利点はドナーにとって残肝容積の点で安全性が高いことである。これまでは GV/SV 比 40% 未満、GRWR 0.8%未満の症例では過小グラフト症候群を来たして成績が不良であるとされていたが、この基準を満たす 左葉グラフトは少ない。多くの左葉グラフトは GV/SV 比 30-40%、GRWR 0.6-0.8%の範囲にあり、適応基準をわずかに 変えることにより、左葉グラフトの適応がかなり増加することになる。また最近は門脈血流調節を併施することで成績が 向上したとする報告が多く認められるが、生体肝移植のラーニングカーブにより成績が改善しているのも間違いなく、門 脈血流調節の意義は明確ではない。当科の移植適応基準は術前評価で GV/SV 比 30%以上の左葉グラフトで門脈血流調節 を併施していない。2003 年 9 月~2013 年 3 月までに施行した生体肝移植 65 例中成人例 51 例を対象とした。GV/SV 比 の中央値は 38.6%(26.1-54.0%)、GV/SV 比 40%未満の症例が 30 例(59%)認められた。グラフト重量の中央値は 420g(280-690g)。術後 2 週間の平均一日腹水量が1L以上の症例が 26 例(51%)認められたが、GV/SV 比 40%未満の群 と 40%以上の群で発生率に差はなく、全例でドレーン抜去可能であった。九大基準、クラビアン基準いずれかを満たし た Small for size syndrome は1例も認められなかった。1 年生存率 100%、3年 98%、5年 95%と良好であった。左葉 グラフトの適応基準は術前評価で GV/SV 比 30%以上と考えられた。 46 WS1-5 GRWR 0.7%未満の過小グラフトを用いた左葉生体肝移植に関する検討 本田 猪股 正樹、入江 裕紀洋 熊本大学病院 友章、門久 政司、室川 剛廣、林田 信太郎、李 光鐘、阪本 靖介、 小児外科・移植外科 【目的】当院では生体肝移植におけるグラフトの適応において GRWR 0.7%以上を一つの基準としている。近年 Donor safety の観点から左葉グラフトの需要は高まっており、GRWR 0.7%未満となった左葉グラフト症例の経過を後方視的に 検討することで基準の妥当性を再考する。 【方法】2014 年 3 月までに当院で施行した左葉生体肝移植 100 例のうち、 GRWR が 0.7%未満となった 19 例を対象とした。術前・術中因子(年齢、BMI、MELD、CIT、WIT、手術時間)、累積生存率、 術後外科的合併症について GRWR 0.7%以上の左葉グラフト群と比較検討した。【結果】GRWR 0.7%未満群の平均移植 時年齢は 49.9 歳、平均 GRWR は 0.6%(0.47-0.69)、平均観察期間は 53.4 ヶ月であった。術中門脈圧を測定した 10 例中、 再灌流後門脈圧が 20mmHg を越えていた 8 例で脾動脈結紮(4 例)または脾摘(4 例)を行い、有意に平均門脈圧は低下し た(24.6→19.6mmHg)。GRWR 0.7%未満群では有意に術前 BMI が高値であった(22.2 vs. 20.7)が、MELD(16.5 vs. 13.3)、CIT(105.8 vs. 100.2 分)、WIT(48.9 vs. 47.4 分)、手術時間(843.0 vs. 793.0 分)の差は認めなかった。GRWR 0.7% 未満群の 1, 5 年累積生存率はそれぞれ 94.4%、94.4%と GRWR 0.7%以上群(75.3%、64.2%)と比較しても良好であっ た。また、両群間で術後外科的合併症の発症率に有意差は認めなかった。 【結語】再灌流後適切な門脈圧コントロールを 行うことで、GRWR 0.7%未満の過小グラフトでも良好な術後成績を得られる可能性が示唆された。 WS1-6 左葉グラフトを用いた成人間生体肝移植の成績 池上 俊彦、増田 信州大学 医学部 雄一、大野 康成、三田 篤義、浦田 浩一、小林 聡、中澤 勇一、宮川 眞一 外科 【はじめに】本邦では成人間生体肝移植に右葉移植が多く行われてきたが 2012 年に左葉移植例が右葉移植例を上回った。 当科でのグラフト選択は GV/SLV30%以上、ドナー残肝 35%以上、左葉系グラフトの優先であり、左葉移植を中心に施 行したのでその予後について検討した。【対象と方法】2013 年までに施行した初回成人間生体肝移植症例 168 例のうち 左葉移植(尾状葉付きを含む)例は 158 例。このうち APOLT 症例を除いた 140 例を対象とし背景及び予後を検討。さら に移植後 1 年以内に死亡した A 群 14 例と 1 年以上生存した B 群 126 例に分けて背景を検討。脾動脈結紮と摘脾は脾機 能亢進症の改善を目的に施行。【結果】男性 57、女性 83、原疾患は C 型肝硬変 37、PBC 28、FAP 26、劇症肝炎 12、 PSC 8、B 型肝硬変 7、シトリン欠損症 7、胆道閉鎖 6、その他 9 で 33 例が HCC 合併。患者は年齢 46.3±14.3 歳、体 重 54.5±10.5kg、Alb 3.3±0.6g/dl、Cr 0.71±0.41mg/dl、eGFR 87.8±42.9ml/min、T.Bil 7.6±9.4mg/dl、血小板 13.1 ±10.5×104、PT-INR 1.59±0.94、MELD 17.0±10.6、GV/SLV 39.3±6.8、手術時間 971±231 分、術中出血量 2931 ±2713ml、術中 MAP 輸血量 891±1319ml、尾状葉付き 34、胆管胆管/胆管空腸 31/109、摘脾/脾動脈結紮 10/10。ドナ ーは男 101、女 39、年齢 37.2±11.6 歳、60 歳以上 5、体重 62.5±9.8kg、ABO 一致/適合 104/36。1, 5, 10, 15 年生存率 は 90.0、82.2、74.0、61.5%。この中で両群間に有意差が見られたのは(結果は A 群/B 群) Cr 1.0±0.8 / 0.7±0.3 (p=0.0048)、T.Bil 14.3±14.1 / 6.8±8.5(p=0.0047)、eGFR 63.3±31.5 / 90.3±43.2(p=0.0305)、術中 MAP 輸血量 1768 ±2760 / 794±1023(p=0.0083)。1 年以内の死因は肝不全 7、肝不全を含む多臓器不全 3、感染症 3、脳出血 1。【結語】 当科では左葉を用いた成人間生体肝移植の 5 年生存率は 82.2%。移植後 1 年以内の死亡に関連する因子として術直前の ビリルビン高値、腎機能低下、術中大量輸血が挙げられた。 47 WS1-7 左葉グラフト生体肝移植における門脈圧調節 植村 忠廣、海道 利実、森 章、小川 波多野 悦郎、岡島 英明、上本 伸二 京都大学 晃平、藤本 康弘、秦 浩一郎、吉澤 淳、冨山 浩司、 肝胆膵移植外科 目的:当院では 2006 年以降、ドナーの安全性を考慮し左葉グラフトを第一選択としている。現在では Graft Recipient Weight Ratio(GRWR) 0.6%を下限とし、左葉グラフトで GRWR が 0.6%未満の場合には、予定残肝容積が 30%以上あ れば中肝静脈なしの右葉グラフトを第二選択としている 。Small for size syndrome(SFSS)を回避するため、術中門脈 圧を測定し、最終門脈圧を 15mmHg 以下に保つことを目標とし、再還流後に門脈圧が 16mmHg 以上の症例には脾摘を 行うことで門脈圧を調節している。今回、門脈圧調節下における左葉グラフト成人生体肝移植の成績を検討した。方法: 2008 年 3 月から 2013 年 12 月までの左葉グラフト成人生体肝移植 104 例を対象に、L 群:0.8%=<GRWR(n=54), M 群: 0.7%=<GRWR<0.8%(n=26), S 群:GRWR<0.7%(n=25)の 3 群に分けて門脈圧、患者生存率、SFSS の発生率を検討 した。SFSS の分類には Clavien 基準を用いた。結果:背景因子であるドナー因子(年齢、性別、冷保存時間、温虚血時 間)、レシピエント因子(年齢、原疾患、脾摘の有無、MELD score、Child-Pugh、ABO 不適合)に有意差を認めなかっ た。手術開始時の門脈圧は 3 群間に有意差を認めなかったが、グラフト再還流時の門脈圧は L 群において有意に低かっ た(p<0.05)。しかし門脈圧調節により手術終了時には 全ての群で平均門脈圧は 15mmHg 以下に保たれており 3 群間 に有意差を認めなかった。患者生存率では 3 群間に有意差を認めず、SFSS 発生率も 3 群間に有意差を認めなかった。患 者生存における多変量解析では、最終門脈圧 16mmHg 以上が有意に不良な因子であった(p=0.0034)。結語:GRWR 下 限を 0.6%とし、かつ門脈圧を制御することで、左葉グラフトを用いた生体肝移植の適応拡大ならびにドナーの安全確保 を図られた。 WS1-8 当院での左葉グラフト選択基準と成績 宮田 國土 陽一、菅原 典宏 寧彦、赤松 東京大学医学部付属病院 延久、金子 順一、石沢 武彰、青木 琢、阪本 良弘、長谷川 潔、 肝胆膵・人工臓器移植外科 【緒言】成人生体肝移植でのグラフト選択基準については、いまだ一定の明確な基準はない。今回我々は、当院でのグラ フト選択基準を提示し、当院での移植後の成績について報告する。【方法】1996 年 1 月~2013 年 12 月までに当院で施 行した APOLT 症例を除いた成人生体肝移植 434 例を対象とした。3 次元画像解析ソフトによる肝 volume 評価を行い、 レシピエントの標準肝容積の 40%以上の volume が得られかつ、ドナーの残肝容積が 30%以上となるグラフトを選択し ている。以上の条件を満たせば、ドナーの残肝容積が多くなる左葉グラフトを積極的に使用している。左葉には尾状葉を 付け、短肝静脈も再建している。レシピエントの術前背景因子、レシピエント、ドナーの手術成績、およびレシピエント の生存率をそれぞれのグラフトで比較した。【結果】グラフトの内訳は右葉グラフトが 246 例、左葉グラフトが 163 例、 後区域グラフトが 25 例であり、術前 MELD score は右葉グラフト群で左葉グラフト群より優位に高かった(p=0.013)。 レシピエントの手術時間、体重あたりの出血量にはグラフト種類による差は見られなかった。一方、ドナーの手術時間、 体重あたりの出血量はともに左葉グラフト群で右葉グラフト群より優位に高かった(495.2min vs 451.3min, p<0.001、 8.6ml/kg vs 7.6ml/kg, p=0.031)。レシピエント、ドナーの術後入院日数はともに、グラフト種類による差は見られなか った。レシピエントの 5 年生存率はグラフト間で差はなかった(82.2% vs 85.1%, p=0.643)。 【結語】グラフトによるレ シピエントの生存率に差はないが、左葉グラフトはドナーの残肝容積も多いとう点で有用な術式であると考えられる。し かし、ドナーの手術時間、出血量が多いという認識で手術に当たらねばならない。 48 WS2-1 生体肝移植における高齢ドナーグラフトの治療成績 -クッパー細胞からの検討- 日高 夏田 匡章、高槻 光寿、曽山 明彦、足立 智彦、北里 周、村岡 いづみ、木下 綾華、 孔史、釘山 統太、ジャスラン バイマカノフ、藤田 文彦、金高 賢悟、黒木 保、江口 長崎大学大学院 晋 移植・消化器外科 【はじめに】2010 年日本肝移植研究会の報告では、ドナー年齢の上昇につれてレシピエント生存率は有意に低下する。高 齢ドナーグラフト、特に HCV の成績とグラフト類洞機能について検討を行った。 【対象と方法】2014 年 4 月まで当科で施行した生体肝移植症例 198 例中、観察期間 1 年以上経過した成人症例 161 例を 対象とした(観察期間中央値 45.8 ヶ月)。グラフト選択基準は左葉系グラフト(拡大左葉)を第1選択、GV/SLV 比 30%以 上を指標、左葉系グラフトで 30%下回れば右葉系グラフト(中肝静脈なし)を選択、欝血を考慮 35%以上基準としている。 ドナー年齢を 49 歳以下(n=112)、50 歳以上(n=49)に分けてグラフト生存率、HCV 症例での生存率、グラフト不全の因 子解析(多変量)を行った。摘出肝ゼロ生検を用いてグラフトの類洞機能評価をクッパー細胞(CD68)免疫染色にて検討し た。 【結果】レシピエント患者背景は MELD(49 歳未満, 50 歳以上:16, 17(中央値))、GV/SLV 比(47.1%, 47.3%)であった。 ドナー年齢別でグラフト生存率を比較すると、49 歳以下:1/3/5 年 82.1/79.2/73.8%、50 歳以上:73.0/59.3/50.5%で有意 に高齢ドナーが低値であった(p=0.01)。HCV 症例で 49 歳以下:80.0/77.7/74.7%、50 歳以上:64.9/39.8/33.2%で有意 に HCV 症例では高齢ドナーの成績が低下していた(p<0.01)。高齢ドナーでの HCV 治療不応が原因として挙げられた。 グラフト不全の多変量解析では、ドナー年齢 50 歳以上、敗血症が有意な因子であった。グラフト肝のクッパー細胞数は、 20 歳代ドナー(42.5 個/視野, n=44)で有意に高齢ドナー(19.2 個/視野、n=48)より多かった(p=0.01)。 【結語】50 歳以上高齢ドナーグラフトは若年グラフトと比べて術後生存率が低下し、HCV レシピエントでは顕著であっ た。グラフト不全の原因として敗血症、高齢ドナーが挙げられた。高齢ドナーではグラフト肝内のクッパー細胞が少ない ことから類洞機能低下による感染症が原因と考えられた。 WS2-2 生体肝移植における D-MELD score を用いた donor-recipient match ~グラフト種類別にみた検討~ 種村 臼井 彰洋、水野 正信、櫻井 三重大学 修吾、加藤 宏之、村田 洋至、伊佐地 秀司 泰洋、栗山 直久、安積 良紀、岸和田 昌之、 肝胆膵・移植外科 【背景】近年脳死肝移植領域では至適なドナー、レシピエントの組み合わせ(donor-recipient match)が移植後の予後を左 右すると論じられ、ドナー年齢、レシピエント MELD score を掛け合わせた D-MELD score の有用性が報告されている。 しかし生体肝移植においてはグラフトサイズがリスク因子として関与する点において脳死肝移植と大きく異なる。今回 我々は生体肝移植における D-MELD score の有用性を、特にグラフトサイズに着目して検討した。【目的、方法】2002 年 3 月から 2013 年 12 月までに行った成人間生体肝移植 113 例を対象とした。 D-MELD score(Halldorson JB, et al, Am J Transplant 2009;9:318-26)に従って、D-MELD<1000:Low DML(n=96)、D-MELD≧1000:High DML(n= 17)に分け、生存率、死亡率、術後合併症を比較検討した。さらに右葉グラフト肝移植(n=71)、左葉グラフト肝移植(後 区域グラフト 3 例を含む n=42)に分け、同様の検討を行った。 【結果】全症例:血管系合併症は High DML 群で有意に 高率であった(9% vs 29% p=0.02)。90 日死亡率は High DML 群で有意に高率であった(14% vs 35% p=0.03)。累積生存 率に差はなかった。右葉グラフト肝移植例:合併症頻度、90 日死亡率、累積生存率に差はなかった。左葉グラフト肝移 植例:術後 14 日目の T-Bil 値(mg/dl)は High DML 群で有意に高値であった(7.0±7.1 vs 17.2±7.7 p=0.005)。血管系 合併症は High DML 群で有意に高率であった(11% vs 50% p=0.02)。90 日死亡率は High DML 群で有意に高率であっ た(11% vs 50% p=0.02)。累積生存率に差はなかったが、High DML 群で低い傾向であった(5 年生存率:74.3% vs 50.0%)。 【結後】D-MELD score は生体肝移植において、術後早期の予後を予測しうると考えられた。特に左葉や後区域などの volume の小さなグラフトを用いた場合、D-MELD による影響は大きくなり、術後長期予後にも影響する可能性が示唆 された。 49 WS2-3 ドナー年齢の生体肝移植成績に及ぼす影響 三田 宮川 篤義、池上 眞一 信州大学 俊彦、寺田 立人、増田 雄一、大野 康成、浦田 浩一、中澤 勇一、小林 聡、 移植外科 【背景】肝移植におけるドナー不足を背景にマージナルドナーへの適応拡大がなされ、ドナー年齢の上限は徐々に拡大さ れてきた。ドナー年齢が肝移植成績に及ぼす影響は少ないとされるが、C 型肝炎に対する肝移植では悪影響が報告されて いる。【対象と方法】2013 年までに初回成人間生体肝移植を施行した 168 例を対象とし、原疾患が C 型肝硬変の 42 例 (NHCV 群)とそれ以外の 126 例(HCV 群)に分けて retrospective に評価した。ドナーの年代ごとにレシピエントのグラ フト生着率を比較検討した。【結果】NHCV 群 126 例について、ドナー年齢が 30 歳未満(<30、n=35)、30 歳代(30's、 n=27)、40 歳代(40's、n=33)、50 歳代(50's、n=24)、60 歳代(60's、n=7)を比較すると、グラフト生着率に差を認めな かった(5 年 82.4、95.5、84.8、78.9、85.7%、10 年 70.2、90.7、77.5、68.7、85.7%、p=0.2965)。HCV 群 42 例につ いて、ドナー年齢が<30(n=17)、30's(n=15)、40's(n=7)、50's(n=3)を比較するとグラフト生着率に差を認め(5 年 87.8、 85.6、71.4、0%、10 年 87.8、66.0、0、0%、p<0.0001)、40's、50's は<30、30's に比べて有意に低下していた。HCV 群のグラフト喪失原因は、ドナー年齢が 40 歳未満では fibrosing cholestatic hepatitis による肝不全、肝細胞癌再発、感 染症がそれぞれ 6.3%ずつ、事故が 3.1%であったのに対し、40 歳以上では C 型肝炎再発による肝不全、その他のグラフ ト不全、肝細胞癌再発、その他がそれぞれ 20.0%ずつであった。HCV 群 42 例中 36 例に再発 C 型肝炎に対する抗ウイル ス治療を行ったが、治療反応が得られた 14 例ではドナー年齢が若かった(29.8±9.0 vs 38.1±12.7、p<0.05)。 【結語】 C 型肝炎以外に対する生体肝移植では、ドナー年代ごとのグラフト生着率に差を認めなかったが、C 型肝炎では、ドナー 年齢が高くなるとグラフト生着率に悪影響がみられた。その原因の一つとして C 型肝炎再発に対する治療反応性が示唆 された。 WS2-4 生体肝移植におけるリスク因子としての高齢ドナーと背景疾患との 関連性 楳田 祐三 1、高木 保田 裕子 1、高木 1 岡山大学 弘誠 1、杭瀬 崇 1、内海 方嗣 1、信岡 章乃夫 2、藤原 俊義 1、八木 孝仁 1 医歯薬学総合研究科 消化器外科 、2 岡山大学 大輔 1、吉田 医歯薬学総合研究科 龍一 1、篠浦 先 1、 消化器内科 【緒言】肝移植におけるドナー高年齢は、移植予後を規定する主要なリスク因子とされている。これまでに、我々はドナ ー年齢の Margin 設定は、他の主要因子である Graft 容量とレシピエント重症度を鑑みて設定する必要があることを提唱 してきた。 【目的】C 型肝炎、及び C 型肝炎以外の疾患に背景疾患を大別し、高齢ドナー・非高齢ドナーにおける生体肝 移植の予後解析行い、生体肝移植におけるリスク因子としてのドナー年齢と背景疾患との関連性について検討した。 【対 象】98 年 8 月~13 年 3 月の成人生体肝移植 242 例。【結果】ドナー平均年齢は 39.9 歳(最高齢 67 歳, 50-59 歳 20%, 60 歳以上 9%)、移植後年内死亡は 35 例(14.5%)で、短期予後不良を規定するドナー年齢 Cut-off は 56 歳(ROC-AUC:0.61)、 背景疾患:C 型肝炎 83 例、非 C 型肝炎 159 例。両疾患群において、高齢ドナー(≧56 歳)vs 非高齢ドナー(<56 歳)で 比較検討を行うと、グラフト及びレシピエント背景因子は、年齢, MELD, GW/RBW の何れも有意差なしであったが、移 植予後(1/3/5yrs 生存率)は、C 型肝炎群:58.3/46.7/46.7% vs 87.1/77.5/70.8%(p=0.025)、非 C 型肝炎群:69.5/69.5/69.5% vs 88.9/87.3/87.3%(p=0.026)と、何れの背景疾患群においても高齢ドナーで予後不良であった。多変量解析では、両背 景疾患群において短期予後不良因子に関わる種々の危険因子を検出したが、ドナー年齢が有意となったのは C 型肝炎群 においてのみであり(Odds 1.16/ 1 year-old, p=0.04)、C 型肝炎においてドナー高年齢はより影響を与えることが示唆さ れた。【結語】高齢ドナーからの生体肝移植は予後不良である。患者背景に応じた至適グラフトの選別が移植予後向上へ の要諦であるが、ドナー年齢については背景疾患の特性に留意し、年齢限界を設定する必要性が示唆された。 50 WS2-5 当院における高齢ドナーからの生体肝移植成績の検討 門久 猪股 政司、入江 裕紀洋 熊本大学病院 友章、本田 正樹、室川 剛廣、林田 信太郎、李 光鐘、阪本 靖介、 小児外科・移植外科 [背景と目的]社会の高齢化に伴い、移植医療分野においても今後一層の高齢化が予想される。しかし、高齢ドナーの適応 に関しては未だ議論のある部分であり、特に C 型肝炎に対する高齢ドナーからの肝移植長期予後は不良であると報告さ れている。[対象と方法]1998 年 12 月~2014 年 3 月までに当院で経験した生体肝移植 394 例中、ドナーが 60 歳以上の 高齢者であった 23 例を対象とし、高齢ドナーからの C 型肝炎、及び C 型肝炎以外の疾患における生体肝移植成績につ いて検討した。なお、当院では、70 才未満をドナーの選択条件にし、脳 MRI なども加えて慎重に術前評価を行っている。 [結果]ドナーの平均年齢は 63 歳(60-68 歳)、摘出肝は、右葉 8 例、左葉 9 例、外側区域 5 例、後区域 1 例であった。 術後合併症として胆汁漏を 3 例(うち右葉 2 例)、胸水貯留 3 例(うち右葉 2 例)に認めたが、術後経過は概ね良好であり、 平均在院期間は 27 日(12-51日)であったレシピエント背景は、平均年齢 40 歳(0-65 歳)、平均観察期間 1183 日(13 -4508 日)、原疾患は C 型肝炎が 3 例、C 型肝炎以外が 20 例(再移植 3 例、胆道閉鎖症 3 例、原因不明肝硬変 3 例、NASH 2 例、その他 9 例)であった。グラフト全生存率は 82.3%(19/23)であり、死亡原因は敗血症 2 例、肺炎 1 例、食道潰瘍 出血 1 例であった。C 型肝炎 3 例のうち、1 例は術後早期に敗血症にて死亡、残り 2 例は C 型肝炎再発を認めて治療中 である。[結語]高齢ドナー特有の術後合併症は見られなかった。C 型肝炎に対する高齢ドナーからの肝移植成績でも、症 例は少ないが、若年ドナーと遜色は無かった。より若いドナーが望ましいものの、慎重な術前評価の上、やむを得ない場 合での高齢ドナー選択は許容されると考える。 WS2-6 東京大学における高齢ドナーからの生体肝移植の成績 長田 梨比人 1、菅原 寧彦 1、田中 智大 2、赤松 延久 1、金子 順一 1、石沢 武彰 1、 田村 純人 1,2、青木 琢 1、阪本 良弘 1、長谷川 潔 1、野尻 佳代 2、國土 典宏 1 1 東京大学 医学部 肝胆膵・人工臓器移植外科、2 東京大学医学部附属病院 臓器移植医療部 【背景】高齢化社会の到来にともない、生体肝移植ドナー選択においてもその影響があると考える。当科のこれまでの生 体肝移植における、高齢ドナー症例の成績について報告する。 【方法】1996 年 1 月から 2012 年 12 月までに施行した当 院の生体肝移植症例を対象とし、ドナー年齢 60 歳以上を高齢ドナーとし、レシピエント原疾患の C 型肝硬変の有無でレ シピエント予後を比較した。 【結果】対象期間に 495 人のレシピエントに対して 5 例の再移植を含む、500 例の生体肝移 植が施行された。このうち、高齢ドナーであるものは 27 例(5.4%)であった。全症例での生存率を比較すると(1/3/5 年、 以下同様) 非高齢ドナー:92.3/87.5/85.3%、高齢ドナー:74.1/74.1/64.2%であり、高齢ドナー症例で有意に劣っていた (p=0.0032)。レシピエント原疾患に C 型肝硬変がある症例は 134 例で、うち高齢ドナーは 9 例(6.7%)であった。生存率 は 非 高 齢 ド ナ ー : 90.4/84.6/81.8% 、 高 齢 ド ナ ー : 55.6/55.6/27.8% で あ り 、 高 齢 ド ナ ー 症 例 で 有 意 に 劣 っ て い た (p=0.0002) 。またレシピエント原疾患に C 型肝硬変がない 361 例では、高齢ドナーはこのうち 18 例(5.0%)であった。 生存率は非高齢ドナー:93.0/88.5/86.7%、高齢ドナー:83.3/83.3/83.3%であり、両群間に明らかな有意差は認められな かった。(p=0.3882)【結語】当院の経験では、高齢ドナーは全体で予後不良であることが示された。しかし C 型肝硬変 以外の肝疾患では適切に症例を選択することで、非高齢ドナーと遜色ない結果を得ることができる。 51 WS2-7 60 歳以上のドナーを用いた生体肝移植:当科の成績と全国集計の検討 吉住 朋晴 1、調 憲 1、池上 徹 1、二宮 瑞樹 1、播本 憲史 1、井口 友宏 1、山下 洋市 1、 伊藤 心二 1、武石 一樹 1、木村 光一 1、松本 佳大 1、中川原 英和 1、今井 大祐 1、 別城 悠樹 1、池田 哲夫 1、川中 博文 1、内山 秀昭 1、古川 博之 3、上本 伸二 2、梅下 浩司 4、 前原 喜彦 1 1 九州大学 消化器・総合外科、2 京都大学 4 大阪大学 消化器外科 肝胆膵・移植外科、3 旭川医科大学 消化器病態外科、 【目的】我々は、生体肝移植後グラフト不全がグラフト重量、ドナー年齢、MELD スコアで規定され、移植後 6 ヶ月生存 を指標として、短期予後予測式=0.011 x グラフト重量(%)-0.016 x ドナー年齢-0.008 x MELD スコア-0.15(門脈大循環 シャント存在時):1.15 以上で予後良好である事を報告してきた。今回、60 歳以上の高齢ドナーを用いた場合の短期及 び長期成績について検証する。【方法】1)当科の成績:成人間生体肝移植 431 例中、60 歳以上のドナーを用いた成人間 生体肝移植 9 例。グラフト選択の基準は、グラフト重量/標準肝重量(GV/SLV)が 35%以上では拡大左葉グラフトを、そ れ以外では右葉あるいは後区域グラフトを選択した。2)2011 年末までに 60 歳以上のドナーを用いて初回生体肝移植を 施行した症例の全国集計 271 例。 【成績】1)ドナーは男性 7 例/女性 2 例。採取したグラフトは右葉 4 例、拡大左葉 3 例、 左葉 1 例、後区域 1 例。レシピエントは平均 52 歳、男性 4 例/女性 5 例。平均 GV/SLV は 41.2%。平均 MELD13.4。平 均予後予測値 1.10。1 年グラフト生存率は 33.3%と、60 歳未満の 89.8%に対して有意に不良であった(P<0.001)。2) レシピエントは成人 245 例、小児 26 例。ドナーは 60-70 歳で、男性 160 例/女性 111 例。採取したグラフトは右葉 140 例、拡大左葉 49 例、左葉 54 例、後区域 11 例、外側区域 13 例、その他 3 例。成人症例の 1 年グラフト生存率は 63.9%、 で小児例の 80.8%に比べ、不良な傾向にあった(P=0.1)。5 年生存率は成人例で 51.4%、小児例の 76.9%に比べ、有意に 不良であった(P<0.02)。【考案】60 歳以上のドナーを用いた生体肝移植では、特に成人例で成績不良と考えられた。 WS2-8 高齢ドナーによる成人生体肝移植の成績 森 章、海道 上本 伸二 京都大学 利実、水本 雅己、秦 浩一郎、小川 晃平、藤本 康弘、冨山 浩司、岡島 英明、 肝胆膵・移植外科 目的:脳死ドナー提供数が増加しない中、生体肝移植のおけるドナーの安全性を確保し、レシピエントの成績向上を図ら ねばならない。成人生体肝移植における 60 歳以上の高齢ドナーの安全性と、レシピエントの成績について解析した。対 象:1994 年から 2013 年までに当科で成人生体肝移植術を施行した全 788 例を前期(1994 年-2005 年)469 例、後期(2006 年-2013 年)319 例に分類した。高齢ドナー症例は、前期 27 例(5.8%)、後期 31 例(9.7%)であった。検討項目:レシピ エント年齢、MELD、Child-Pugh、HCV 関連有無、ドナー続柄、血液型適合性、GRWR、グラフト生着期間。結果: 高齢ドナー全 58 症例のレシピエント年齢分布は 50 歳を境に二峰性であり 50 歳未満(子)と 50 歳以上(配偶者か兄弟姉妹) でグラフト生着期間は同等。前期と後期で比較すると、高齢ドナー症例のレシピエント年齢、Child-Pugh、MELD に差 がなく、GRWR は後期で有意に低値(P=0.009)。グラフト生着期間は、前期では高齢ドナー症例で有意に不良(P=0.001) だが、後期では同等になっている。HCV 有無では、有意差なし。ドナーの安全性は、後期において、高齢ドナーの術後 AST、ALT のピーク値が有意に高値であるが、T-Bil、PT-INR、Grade IIIa 以上の合併症率は、若年ドナーと有意差な し。まとめ:ドナーの安全を優先し、後期には、小さいグラフト肝を用いるようになったが、高齢ドナー症例においても、 グラフト生着期間は前期より改善し、非高齢ドナーと同等である。肝移植後 C 型肝炎再発に対する薬物治療が進歩して おり、グラフト生着期間の延長が期待できる。ドナーの適格性評価を慎重に行い、ドナーの安全性を確保した上で、高齢 ドナーによる成人生体肝移植術は、レシピエントの成績を損なわないと考える。 52 WS3-1 小児 ABO 血液型不適合肝移植症例の検討:治療方針および短期・ 長期成績について 浦橋 泰然、水田 自治医科大学 耕一、井原 欣幸、眞田 幸弘、岡田 憲樹、山田 直也、平田 雄大 移植外科 【背景】ABO 血液型不適合肝移植(ABO-I-LTx)において、低年齢の小児症例では術後成績は良好とされてきたが、小児 症例における ABO-I-LTx の標準的治療方針は未だ確立されていない。今回、小児 ABO 不適合肝移植における周術期管 理の変遷と至適治療法について検討した。【対象と方法】2001 年 5 月~2013 年 12 月までに当院で施行した 245 例の小 児生体肝移植例のうち ABO-I-LTx 39 例、 40 回(15.9%)を対象とした。年齢は、8 ヵ月~15 歳(中央値:24 ヵ月)。疾 患は、胆道閉鎖症 27 例、代謝性肝疾患 5 例、グラフト肝不全 5 例、Wilson 病 1 例、門脈還流異常症 1 例。これまでの プロトコールは術前血漿交換(PE)を 2 回施行し、抗体価 16 倍以下を目標にし、免疫抑制療法はタクロリムスとメチル プレドニゾロンの 2 剤で、追加免疫抑制療法は、術前・術後の抗体価や術後の肝機能により考慮、プロスタグランジン E1 は、術中より中心静脈カテーテルより 2 週間持続投与、脾摘は 5 歳以上の症例に対して考慮した。 【結果】39 例中 35 例が生存中で、良好な肝機能を維持していた。一致・適合症例と比べて、術前、術子、術後各因子に有意差は認められな かったが、ABO-I-LTx 群でレシピエント生存率が有意に低い傾向にあった(p<0.05)。また ABO-I-LTx 群でリツキサ ン投与群と非投与群間では各因子に有意差は認められなかった。リツキサン 200mg/m2 投与群とそれ以外の投与群では 前者のグラフトおよびレシピエント生存率に有意に良好であった。【結語】プログラフ、ステロイド、セルセプト 3 剤併 用に加えて、1)PE は術前 2 回、術前抗体価 16 倍以下、2) リツキサン 200mg/m2 を 3 週間前に 1 回投与、3)局所療法 は行わず、4)脾摘も可及的に行わない方針を標準的治療法として採用し、良好な治療成績が保たれている。 WS3-2 当院における小児 ABO 血液型不適合生体肝移植の治療成績 佐々木 健吾、松波 昌寿、内田 阪本 靖介、笠原 群生 国立成育医療研究センター 孟、重田 孝信、金澤 寛之、福田 晃也、中澤 温子、 臓器移植センター 【背景】ABO 血液型不適合(ABO-I)肝移植では年齢によって抗体関連拒絶反応(AMR)の発生頻度や生存率が異なり、1 歳未満の ABO-I 肝移植では特殊療法無しで良好な治療成績が報告されている。当院における小児 ABO-I 肝移植の治療 成績を検討したので報告する。【対象・方法】2014 年 2 月までに施行した 244 例の小児生体肝移植患者を対象とした。 非 ABO-I 群:207 例、2 歳未満 ABO-I 群:33 例、特殊療法なし、2 歳以上 ABO-I 群:4 例、リツキシマブ+術前血漿 交換+門脈内局所注入療法における拒絶反応、感染症、生存率について比較検討した。 【結果】観察期間は平均 3.5±2.4 年、抗ドナー血液型抗体価 IgM/IgG(倍)は、術前ピーク値、術後ピーク値の平均が、2 歳未満 ABO-I 群でそれぞれ 43/33、 14/6、2 歳以上 ABO-I 群で 96/532、98/65 であった。AMR は緊急症例で術前リツキシマブ投与を行えなかった 2 歳以 上 ABO-I 群の1例(25.0%)に生じた。急性細胞性拒絶反応は、非 ABO-I 群が 42.0%、2 歳未満 ABO-I 群が 45.5%、2 歳以上 ABO-I 群が 50.0%で生じた。感染症発症率は、血液培養陽性例が非 ABO-I 群、2 歳未満 ABO-I 群、2 歳以上 ABO-I 群においてそれぞれ 30.0%、30.0%、50.0%、サイトメガロウイルス感染は 31.9%、30.0%、75.0%、Epstein-Barr ウイ ルス感染は 19.8%、21.2%、75.0%であった。5 年生存率は 91.2%、87.0%、75.0%であった。【結論】2 歳未満の血液型 不適合肝移植において特殊療法なしで良好な治療成績をえている。2 歳以上においても良好な治療成績をえられている が、感染症が多い傾向が認められたため今後は門脈注入療法を行わないプロトコールに変更し治療成績を検討していく予 定である。 53 WS3-3 教室における ABO 不適合肝移植に対する周術期プロトコールの変遷と その治療成績 和田 浩志 1,3、丸橋 繁 1、濱 直樹 1、友國 晃 1、富丸 慶人 1、川本 弘一 1,3、小林 省吾 1、 江口 英利 1、藪中 重美 3、萩原 邦子 3、梅下 浩司 2、土岐 祐一郎 1、森 正樹 1、永野 浩昭 1,3 1 大阪大学大学院 消化器外科学、2 大阪大学大学院 周手術期管理学、3 大阪大学医学部附属病院 移植医療部 【背景】肝動脈注入療法・門脈内注入療法に加えて、リツキシマブ(抗 CD20 抗体)の導入により ABO 不適合肝移植の治 療成績は向上しつつある。教室では 2005 年から ABO 不適合肝移植プログラムを開始しており、その周術期プロトコー ルの変遷と治療成績について報告する。 【対象】教室で施行した ABO 不適合予定肝移植 15 例を対象とし、5 例ずつプロ トコールを改訂している。〈第一期〉(2005 年 2 月~2007 年 7 月, n=5)術前抗 A/B 抗体価は 8 倍以下を目標に血漿交換 を行い、1024 倍以上でリツキシマブを術前に投与。脾摘を施行し、PGE1 とステロイドの肝動注、Gabexate Mesilate の門注、ステロイド、タクロリムス、シクロフォスファミドの全身投与を行う。術後は抗体価 128 倍以上、または急激 な上昇(前値の 8 倍以上)で血漿交換を施行。 〈第二期〉(2011 年 3 月~2013 年 1 月, n=5)PGE1 とステロイドの肝動注を 門注に変更し、Gabexate Mesilate は全身投与とした。シクロフォスファミドの代わりにミコフェノール酸モフェチル (MMF)を使用した。 〈第三期〉(2013 年 1 月~2014 年 3 月, n=5)門注レジメは変更せず、術前にリツキシマブを投与し た。【結果】第一期の 5 例中、1 例が病理学上 AMR と診断された。合併症として、動脈瘤を 1 例、動脈狭小化を 2 例、 門脈血栓を 4 例に認めた。第二期の 5 例はすべて血管合併症や拒絶を認めなかった。第三期の 5 例中、1 例で出血後の肝 不全による手術関連死亡を認めた。また、14 例で CMV 感染を、8 例に菌血症を認めた。全 15 症例の 1 年、3 年、5 年 生率は 85.7%、73.5%、73.5%であり、ABO 血液型適合肝移植と遜色ない成績である。【まとめ】ABO 不適合肝移植を 15 例に施行し、1 例の液性拒絶を経験したが治療し得た。多くの症例で感染症が発生し、免疫抑制が過剰である可能性 が示唆される。今後はリツキシマブを基軸としてプロトコールの簡素化を行い、症例を蓄積し再検討する予定である。 WS3-4 リツキシマブ減感作療法による ABO 不適合移植の短期成績に及ぼす Fcγreceptor 一塩基多型の影響 坂井 谷峰 寛、田中 友加、清水 誠一、井手 健太郎、佐々木 由布、矢野 琢也、佐伯 吉弘、 直樹、安部 智之、大平 真裕、石山 宏平、尾上 隆司、小林 剛、田代 裕尊、大段 秀樹 広島大学 消化器・移植外科 [目的]リツキシマブを含む減感作療法は抗体性拒絶反応を抑制する一方で、過剰免疫により重症感染症を誘発する可能性 がある。リツキシマブの親和性は Fcγreceptor(FcγR)の一塩基多型(SNP)で異なり、また B 細胞リンパ腫に対する奏 功性との関連が知られている。そこで、リツキシマブ減感作療法による ABO 不適合肝移植の短期成績に及ぼす FcγR SNP の影響について検討した。[方法]2007 年以降に実施した ABO 不適合生体肝移植のレシピエント 19 例を対象とし、 FcγR IIa[131H/R]および FcγR IIIa[158F/V]の SNP を PCR 法で測定した。リツキシマブ投与後の末梢血 B 細胞の存 在率はフローサイトメトリーで評価した。また、術後 1 か月以内の血清中の総 IgG 値の回復率および菌血症の発症率を 解析した。これらの評価項目と FcγR SNP との関連性を解析した。[結果]FcγR IIa HH10 例/R-carrier9 例、FcγR IIIa VV9 例/F-carrier10 例のうち、リツキシマブ投与 1 週間後と術直前の末梢血 B 細胞は全例とも検出されず、FcγR SNP による差は認めなかった。しかし術後 1 か月以内の血清総 IgG 値の回復率はリツキシマブ高親和性と考えられる FcγR IIa HH 症例では R-carrier に比較して有意に低く(P=0.031)、菌血症を高率に発症し(HH 50%、R-carrier 11%)、より 多量の免疫グロブリン投与を要した。一方で、リツキシマブと比較的親和性が低いと考えられる FcγR IIIa SNP に関し ては総 IgG 値の回復率に有意な差は認めなかったが、菌血症の発症率は、自然免疫に重要な IgG3 と低親和性である Fc γR IIIa F-carrier が、IgG3 高親和性の VV 症例より高頻度で(F-carrier 50%、VV 11%)、予後が不良であった。[結語]Fc γR の SNP はリツキシマブ投与後の末梢血 B 細胞除去効果への影響は認めなかったが、術後早期の血清総 IgG 値の回復 率に影響する。FcγR SNP は重症感染症の発症にも深く関わり、リツキシマブ減感作療法による ABO 不適合肝移植の 予後に影響を及ぼすと考えられる。 54 WS3-5 当科における成人血液型不適合生体肝移植 16 年間の成績 篠田 星野 昌宏、板野 理、尾原 健、黒田 達夫、北川 秀明、北郷 雄光 実、阿部 雄太、日比 泰造、八木 洋、松原 健太郎、 慶應義塾大学 【背景】当科の成人血液型不適合(ABOI)肝移植は、1998 年の初例実施し以来 16 年となる。今回当科の成人 ABOI 肝移 植の成績をまとめた。【方法】成人 ABOI 肝移植プロトコールは、以下の通り。術前(後)血漿交換+リツキシマブ(2003 年以降)、術中脾摘、術後 3 剤門注療法+3 剤(CNI、ステロイド、代謝拮抗薬)全身投与。緊急症例においても、極力プ ロトコールを順守する。当科の成人 ABOI 肝移植 26 例の成績、合併症を解析した。 【結果】5 年生存率は、リツキシマブ 導入以前(1998~2002 年)の 4 例が 50%であったのに対して、同薬導入後 2003~07 年の 12 例が 68%、2008 年以降の 10 例が 88%と徐々に改善している。ABOI プロトコールは、03~07 年と 08~13 年の比較で、術前血漿交換は行う回数 が減少、リツキシマブは術前後複数回であったのが術前 1 回のみになるなど簡略化が図られた。一方、26 例全例に術中 脾摘、術後 3 剤門注療法が施行された。合併症としては、後出血(43% vs 血液型適合例 21%)、CMV 感染症(92%、不 顕性を含む vs 同 46%)、TMA(35%vs 同 5%)等を認めているが、適抗体関連拒絶は 1 例も認めていない。また、26 例中急性肝不全で緊急移植を行った症例が 3 例あり、いずれもリツキシマブ投与が術直前直後となったが、それぞれ 7 年、6 年、1.5 年生存している。 【考察・結語】当科の成人 ABOI 肝移植の成績は、開始後 16 年の間に飛躍的に改善した。 血液型適合例に比べ術中操作が多く、免疫抑制が濃厚であるため、術後合併症が多いが、慎重な術後管理で良好な成績が 得られている。当科プロトコールを順守することで、緊急 ABOI 肝移植も実施できる可能性がある。 WS3-6 当院における血液型不適合肝移植の検討 亀井 秀弥、大西 康晴、小倉 名古屋大学医学部附属病院 靖弘 移植外科 【背景と目的】当院では 183 例の生体肝移植のうち、小児症例も含め、現在まで 26 例に血液型不適合肝移植を施行して いる。当初は血漿交換に引き続き、肝動脈注入療法を施行していた。2005 年 10 月以降は、リツキシマブを導入し、血 漿交換(PE)+肝動脈注入療法を施行していたが、現在では、リツキシマブ+PE+ステロイド門脈注入療法を行い、術後 よりカルシニューリンインヒビターと MMF を投与している。当院における血液型不適合肝移植の成績を、小児、成人 症例別にそれぞれ検討するとともに、成人症例においては、免疫抑制療法別に、その成績を比較検討する。 【対象と方法】 当院で施行した血液型不適合肝移植症例を対象とした。小児症例は 1 歳未満と 1 歳以上でそれぞれ検討を行い、血液型 適合症例と比較した。成人症例ではリツキシマブ導入前症例を A 群、リツキシマブ+PE+肝動脈注入療法症例を B 群、 リツキシマブ+PE+門脈注入療法症例を C 群として比較検討した。 【結果】血液型不適合肝移植における生存率は、1 年、 3 年、5 年でそれぞれ、84.3、84.3、77.2%で、血液型適合肝移植症例と有意差はなかった。血液型不適合肝移植 26 例 中、小児症例は 11 例で、うち 1 歳未満が 6 例、1 歳以上が 5 例であった。1 歳未満の 1 症例を除き、全症例が現在まで 生存していた。成人症例の検討では、A 群では現在生存者はなく、4 例中 3 例が術後 3 か月以内に死亡した。B 群では 6 例中 5 例が生存しているが、3 例に周術期敗血症を認めた。C 群では 6 例中 5 例が生存しており、1 例に周術期敗血症を 認めたのみであった。【結論】リツキシマブ+PE+門脈注入療法にて血液型不適合肝移植は良好の成績となっている。 55 WS3-7 血液型不適合生体肝移植の長期成績と免疫学的検討 高槻 足立 光寿、日高 智彦、北里 長崎大学 大学院 匡章、曽山 明彦、木下 綾華、夏田 孔史、バイマカノフ 周、藤田 文彦、金高 賢悟、黒木 保、江口 晋 ジャスラン、 移植・消化器外科 【目的】当科では、2001 年の第 1 例目以来、血液型不適合生体肝移植も積極的に行ってきた。長期経過症例の成績と免疫 学的マーカーの推移を検討する。 【対象と方法】2014 年 3 月までに施行した初回移植症例 190 例のうち、不適合症例 32 例(17%)。うち小児例は 3 例(0 歳、0 歳、7 歳)で、大半が成人症例(年令中央値 53(25-70))であった。初期の症例を除 く成人症例 22 例と 7 歳の小児例に術前 1 週間にリツキシマブ 375mg/m2 を投与し、術直前に血漿交換を施行。前半の成 人例 13 例にステロイド+PGE1 の局所療法を、後半の 16 例には局所療法を施行しなかった。脾摘は、血小板 5 万以下 または HCV 肝硬変症例のみに施行した(18 例(56%))。経過中の抗ドナー血液型抗体および CD19/20 の推移を検討した。 【結果】全体の患者生存率は不適合 1 年 84%、5 年 79%、一致/適合 1 年 84%、5 年 70%と両者間に有意差を認めなかっ た。成人症例で局所療法の有無でも生存率に差を認めなかったが、局所療法あり群で術後 CMV 抗原血症の頻度が有意に 高かった(9/13(69%) vs 5/16(31%), P<0.05)。術前、術後 1 ヶ月、6 ヶ月、1 年、3 年、5 年の抗ドナー血液型 IgM 抗 体価(倍)は 64、4、4、4、2、2 で術後全経過を通して術前の値よりも有意に低値で推移し、CD19/20(%)は術後 1 年で 術前値に復していた。レシピエント血液型 O 型(9 例)でドナー血液型 A 型(7 例)または B 型(2 例)の症例のみを抽出し て抗 A、抗 B 抗体の両者を測定して同様の検討を行ったところ、抗ドナー血液型抗体は抗非ドナー血液型抗体と比較し て術前値は同等であったが、術後は全経過を通して有意に低値であった(64、2、4、4、2、2 vs 64、8、16、16、16、16 (P<0.05))。【まとめ】:リツキシマブの導入により血液型不適合生体肝移植の長期予後は良好であり、局所療法はむし ろ感染症の合併症が多く施行しない方針としている。また長期経過において、ドナー特異的に免疫寛容状態となっている 可能性が示唆された。 WS3-8 Rituximab を用いた血液型不適合生体肝移植の短期及び長期成績 小川 上本 晃平、海道 伸二 京都大学 利実、岡島 英明、藤本 康弘、植村 忠廣、秦 浩一郎、吉澤 淳、冨山 浩司、 肝胆膵・移植外科 【目的】Rituximab の導入により血液型不適合生体肝移植の成績は向上したが、依然として抗体関連拒絶反応(AMR)を発 症する症例は存在する。今回、当科における Rituximab を用いた最近の血液型不適合生体肝移植症例において、短期及 び長期成績について検討した。 【対象と方法】2006 年 5 月から 2014 年 3 月までに行った成人血液型不適合症例のうち Rituximab を用いた 88 例を対象とした。原則として術前 2 週間以上前に Rituximab(300-500mg/body)を投与し、移植 直前の抗体価 8 倍以下を目標に血漿交換を施行した。術中からの局所注入療法は初期は動脈、その後門脈注入療法を行 っていたが、最近では行っていない。免疫抑制は感染症のリスクが低ければ術前より MMF を投与、術後はタクロリム ス、MMF、ステロイドの 3 剤投与を基本とした。 【結果】Rituximab の初回投与日は中央値で術前 22 日前であり、7 例 において追加投与がなされていた。全体の 1 年生存率は 71%、3 年生存率は 68%であった。1 年以内のグラフトロスは 26 例あり、その原因は肝不全 10 例、敗血症 10 例、脳出血 3 例、呼吸不全 2 例、その他 1 例であった。術後に抗体価が 64 倍以上に上昇した症例は 29 例(33%)であり、うち病理所見、臨床所見から AMR と診断した症例が 15 例(17.0%)あ った。また抗体価の上昇を伴わないものの、肝内胆管狭窄、多発肝膿瘍等の AMR に伴う臨床所見に類似した所見を 8 例 に認めた。AMR を発症した 15 例中 10 例が、また AMR 類似症例の 4 例が術後 1 年以内にグラフトロスに陥った。長期 成績としては術後 1 年以上生存した症例の 3 年、5 年生存率はそれぞれ 94%、94%であった。 【結語】Rituximab を使用 しても AMR を発症する症例は存在するため、短期成績向上のためには Ritximab の至適術前投与量・投与タイミング、 さらに術前のタクロリムス、MMF 投与を組み合わせた最適な脱感作療法の確立が重要である。1 年以上生存した症例の 成績は良好であった。 56 WS4-1 当院における再肝移植症例の検討 増田 雄一、池上 信州大学 俊彦、大野 医学部附属病院 康成、三田 篤義、浦田 浩一、中澤 勇一、小林 聡、宮川 眞一 移植外科 背景:周術期管理、手術手技の向上により、肝移植術後成績の向上がもたらされている。しかしながらグラフト喪失症例 は引き続き存在し、再肝移植により救命しうる症例が存在する。再肝移植術が成功しても、術後血栓症、真菌感染症など の合併症が高率に発症し、初回肝移植症例よりも死亡率が高いことが報告されている。当院での再肝移植症例の周術期合 併症、術後生存率を検討した。方法:2013 年 12 月までに当院にて施行された 293 例の初回生体肝移植の 1、3、5 年生 存率は 90.7、87.1、84.9%であり、在院死は 6.8%であった。この中で再肝移植術が施行された 5 例において、後方視的 に検討した。結果:初回肝移植から再移植までの期間の中央値は 65 ヶ月(11-117 ヶ月)であった。初回肝移植時の適応疾 患は、原因不明肝炎、アラジール症候群、胆道閉鎖症、家族性アミロイドポリニューロパチー、C 型肝硬変がそれぞれ 1 例であった。再移植の適応は、肝硬変が 4 例、門脈・肝動脈血栓症が 1 例であった。2 例は脳死グラフト(全肝移植 1 例、 部分肝移植 1 例)、3 例が生体グラフトであった。生体グラフトの 2 例において血行再建時に自家血管グラフトを必要と した。手術時間の中央値は 18 時間(14.5-33.0 時間)であった。術後合併症は胆管狭窄、深部静脈血栓症、原因不明肝炎 再発がそれぞれ 1 例であった。血管吻合部における血栓症、真菌感染症の発症は認めなかった。事故にて 1 名を 7.5 ヶ月 で失い、1、5 年生存率は 80%であった。再肝移植症例の生存率は、初回肝移植後生存率と有意差を認めなかった。結語: 当院の再肝移植症例の生存率は比較的良好であった。 WS4-2 広島大学病院における脳死再肝移植症例の検討 清水 誠一 1、石山 宏平 1、尾上 隆司 1,2、井手 健太郎 1、大平 真裕 1、田原 裕之 1、 田中 友加 1、安部 智之 1、橋本 慎二 1、平田 文宏 1、森本 博司 1、佐伯 吉弘 1、谷峰 坂井 寛 1、矢野 琢也 1、小林 剛 1、黒田 慎太郎 1、田代 裕尊 1、大段 秀樹 1 1 広島大学大学院 2 国立病院機構 医歯薬保健学研究院 中国がんセンター 応用生命科学部門 直樹 1、 消化器・移植外科学、 臨床研究部 脳死肝移植における再肝移植の成績は、初回肝移植と比較して不良であることが報告されており(1年生存率:55.6% vs 88.3%)、移植適応は慎重に行う必要がある。今回、広島大学病院における 4 例の脳死再肝移植症例の検討を行い、手術 手技に工夫を要した 1 症例の手術手技を供覧する。脳死再肝移植患者背景は、年齢:40-56 歳(中央値 46.5 歳)、男性 4 例、女性 0 例、原疾患:Wilson 病 1 例、PSC1 例、HCV2 例、術前 MELD score:18-42(34)、待機日数:3-673 日(60.5 日)であった。手術因子は、虚血時間 347-710 分(566.5 分)、手術時間:566-1156 分(787.5 分)、出血量:4000-22700ml (11050ml)であった。術後観察生存期間は 80-1046 日(610 日)で、術後転帰は 3 例生存、1 例死亡であった。当院で施行 した脳死肝移植 10 症例のうち再肝移植症例は初回脳死肝移植症例に比べて、手術時間が長く(566-1156 分(787.5 分) vs 569-931 分(713.5 分))、出血量も多い傾向を認めた(4000-22700ml(11050ml) vs 2900-12100ml(4630ml))。さらに、 再肝移植症例では、血行再建に苦慮する症例が多く、3 症例に脳死ドナーから採取した血管グラフトによる再建が必要で あった。再肝移植の予後指標としては UCLA のリスク分類を用いたところ、術後軽快した 3 症例では Category I-III に 分類され、死亡した症例は Category IV に分類されており、再肝移植適応判断として有力であると考えられた。再肝移 植症例はレシピエントの全身状態が悪いことが多く、また高度な手術手技が求められる症例が多い。術後合併症は致命的 となるため、リスク因子の十分な検討に加え、術後合併症を回避するための手技の工夫が重要となる。 57 WS4-3 肝不全に対する再肝移植の適応と予後 金子 順一 1、菅原 田中 智大 2、野尻 1 東京大学附属病院 寧彦 1、赤松 佳代 2、田村 延久 1、石沢 純人 1、國土 武彰 1、青木 典宏 1 肝胆膵・人工臓器移植外科、2 東京大学附属病院 琢 1、阪本 良弘 1、長谷川 潔 1、 臓器移植医療部 【背景】本邦における肝移植後のグラフト機能不全に対する再肝移植の成績は明らかではない。当科における成人生体肝 移植症例の中で再肝移植を施行した症例を解析した。 【対象と方法】2014 年 3 月まで当科で施行された成人生体肝移植例 447 例の内、術後肝不全を合併し、制御不能な感染症または肝細胞癌再発を含む悪性腫瘍の合併がない症例に対し生体な いし脳死ドナーからの再肝移植を検討した。また、再肝移植施行後の予後を初回肝移植例と比較した。 【結果】再肝移植 を施行するに至った成人例は 6 例(6/447、1.3%)であった。再肝移植の術式は、生体肝移植が 3 例、脳死肝移植 3 例(内、 海外施行例 1 例)であった。再肝移植施行例の初回肝移植を適応とした疾患は、B 型劇症肝炎 2 例、B 型肝硬変 1 例、C 型肝炎合併肝細胞癌 1 例、原発性胆汁性肝硬変 1 例、原発性硬化性胆管炎 1 例であった。初回肝移植後肝不全の原因は、 肝動脈狭窄ないし閉塞による胆管炎合併肝不全 2 例、原発性硬化性胆管炎再発 1 例、ステロイド抵抗性急性拒絶反応 1 例、慢性拒絶 1 例であった。再肝移植の時期は初回肝移植から中央値 1.0 年(0.1-4.1 年)であった。再肝移植を施行した 6 例の中で 2 例が術後 0.5 年、6.7 年に亡くなった。死亡原因はそれぞれ重症急性膵炎、移植後リンパ増殖性疾患合併サ イトメガロウイル腸炎であった。再肝移植後の 5 年生存率は 83%であり、初回肝移植例の 5 年生存率 84%と比較し有意 差を認めなかった(p=0.27)。 【結論】制御不能の感染症または悪性腫瘍の合併がない肝不全に対する再肝移植は有効であ る。再肝移植後の予後は初回肝移植症例と比較して同等であった。 WS4-4 小児肝移植後のグラフト機能不全症例に対する再肝移植 松波 昌寿 1、福田 笠原 群生 1 晃也 1、佐々木 1 国立成育医療研究センター 健吾 1、内田 臓器移植センター 孟 1、重田 孝信 1、中澤 移植外科、2 国立成育医療研究センター 温子 2、阪本 靖介 1、 病理診断部 肝移植後のグラフト機能不全に対しては再移植が唯一の治療手段であるが、適切な再移植適応・治療成績を得るためには 解決するべき課題が多い。当院における小児肝移植後にグラフト機能不全例の再肝移植適応と成績について検討した。 【対 象・方法】当院での小児肝移植 261 例中、グラフト機能不全に対して再移植を施行した 6 例(2.3%)を対象とした。初回 移植時年齢中央値 9 ヶ月(7 ヶ月-17 歳)、初回肝移植適応疾患は劇症肝不全 3 例、胆道閉鎖症 2 例、原発性過蓚酸尿症 1 例であった。再移植術前管理状態、術前血液浄化療法の有無、P(M)ELD score、グラフト機能不全の原因、初回から再 移植までの期間、再移植後生存期間につき検討した。【結果】再移植時の年齢の中央値は 1 歳 2 ヶ月(9 ヶ月-17 歳)、再 移植直前には全例 ICU 管理で、術前血液浄化療法を 4 例に施行、P(M)ELD score 中央値 23(10-50)、グラフト機能不 全の原因は難治性拒絶反応が 5 例、門脈血栓症が 1 例、初回から再移植までの期間の中央値は 54 日(8-306 日)、初回移 植と再移植のタイプは生体→生体 1 例、生体→脳死 4 例、脳死→生体 1 例、再移植後感染から多臓器不全となった 1 例(再 移植前 MELD score 50、再移植後 47 日に死亡)を除く 5 例は生存し経過観察中(176-928 日、1 年生存率 83.3%)である。 【考察】再移植適応として難治性拒絶反応が 83.3%と多かった。成人例の初回移植後の MELD score が 18.9 を超えると graft loss の確率が高くなるとの報告があり、今回の小児での検討では再移植前の P(M)ELD score の中央値は 23 であっ たことから小児での再移植の補助的な指標として今後多数例での検討が必要と考えられた。 【結語】小児肝移植における 再移植により比較的良好な治療成績を得た。今後更なる成績向上のために再移植適応の指標に関する検討が必要と考えら れた。 58 WS4-5 当科における成人再肝移植症例の検討 室川 猪股 剛廣、入江 裕紀洋 友章、門久 熊本大学医学部附属病院 政司、本田 正樹、林田 信太郎、李 光鐘、阪本 靖介、 小児外科・移植外科 目的:当科における成人再肝移植症例の検討を行った。対象/方法:2001 年 5 月から 2013 年 5 月まで小児・成人生体肝 移植症例は 359 例でそのうち 17 例(4.7%)と他院で初回移植を受けた 11 例の計 28 例に対して再移植を行った。そのう ち 18 歳以上の再移植症例は 16 例であった。原疾患は胆道閉鎖症 6 例、ウイルス性肝炎 3 例、劇症肝炎 2 例、原発性硬 化性胆管炎 2 例、原因不明肝硬変 1 例、家族性アミロイドポリニューロパチー1 例、アラジール症候群 1 例であった。再 移植時年齢は 18-65 歳で、再移植適応は慢性拒絶反応 9 例、原疾患再発 4 例、門脈閉塞 1 例、不適合移植関連合併症 1 例、HBc 抗体陽性ドナーからの B 型肝硬変1例であった。使用グラフトは生体部分肝 12 例、脳死全肝 1 例、脳死分割 肝 1 例、ドミノ全肝 2 例であった。再移植後生存率、死因ならびに成績に影響する因子(術前状態、MELD スコア、術前 T-bil、Cr、Plt、グラフト体重比、初回から再移植までの期間)を検討した。結果:1 年生存率は 68.8%、3、5 年生存率 は 61.9%であった。死亡例は 6 例(敗血症 3 例、多臓器不全 2 例、脳出血 1 例)で、4 例は再移植後に退院できずに死亡 していた。術前状態が ICU の 2 例は CHDF を併施され、ともに再移植後約半年(ともに 177 日)で死亡していた。MELD スコアは 4-38(中央値 23)で生存群(10 例)と死亡群(6 例)で死亡群が高い傾向が示唆された(P=0.064)。また術前 T-bil(2-40.5mg/dl)、Plt(2.0-49.1 万/μl)は 2 群で有意差を認めなかったが、Cr(0.32-4.6mg/dl)は死亡群に高い傾向が 示唆された(P=0.057)。グラフト体重比は 0.65-2.4(中央値 0.96)、初回から再移植までの期間は 140 日から 17 年 3 ヶ月 (中央値 2514 日)であったが、ともに転帰とは相関が得られなかった。考察:腎不全合併症例は再移植後成績が特に不良 である可能性が示唆された。結語:患者の状態を見極めて、極度の悪化、特に腎不全に至る前に再移植を考慮することが 成績向上に必要と思われた。 WS4-6 再肝移植症例に対する手技的工夫 八木 藤原 孝仁、篠浦 俊義 岡山大学病院 先、楳田 祐三、吉田 龍一、信岡 大輔、内海 方嗣、高木 弘誠、杭瀬 崇、 肝胆膵外科 再肝移植の症例は全身状態の悪化・手技的複雑さのために、その術後成績は一般的に初回肝移植に比べ悪いとされてい る。2014 年 1 月までに今回我々は当院で施行した肝移植症例 328 例(小児 52 例、成人 276 例)について検討し、我々が 経験した再移植症例の問題点とその対策、とくに手技的工夫について報告する。323 名の患者に対して当院で施行した肝 移植のうち再移植は 6 例で、当院での初回移植患者の再移植は 5/322(1.55%)であったが、6 例全例生存中である。急 性期再移植は 3 例あり原因は Compartment syndrome による肝壊死、de novo AMR、PVT+HAT に対してそれぞれ脳死、 脳死および生体肝移植で対応した。急性期の場合手技的問題は少ないが、無肝状態であるため全身状態が悪く再移植の決 断と速やかな施行が求められる。急性グラフト不全の 2/3 が脳死肝移植で救命された意義は大きい。とくに 2 例目の症例 は術前 CDCXm 陰性の長男からの部分肝提供を受け経過は順調で歩行食事も可能であった。POD7 に突然門脈血流の低 下とともにステロイド不応の急性肝不全が進行し、POD9 には脳症 IV 度に陥り呼吸管理を要した。移植後 Lminex にて classIDSA が強発現しており de novo AMR と診断した。POD10 に脳死登録し POD15 に脳死提供があり救命できた。 一方慢性期においての手技的複雑さは術中出血・術中死亡・術後のリスクを直接左右する問題である。なかでも先行移植 が生体左葉である場合とくに Portal axial deviation が生じていることが多く、術中にこれを解決する必要がある。我々 は脳死あるいは再肝移植(急性慢性を問わず)時には血行動態の安定化と無肝期延長対策として必ず VV bypass を使用し ている。脳死の graft recovery 時に Size mismatch を正確に把握することが難しいので、Size mismatch がある場合に は procurement 時の迅速な graft reduction を行う、もしくは conventional OLT を用いて移植を行っているいるのでビ デオにて供覧する。 59 WS4-7 当院における再移植症例の検討:再移植適応をどうするか 藤本 岡島 康弘、海道 英明、上本 京都大学 利実、小川 伸二 晃平、吉澤 淳、小川 絵里、植村 忠廣、秦 浩一郎、森 章、 肝胆膵移植外科 背景:肝不全に対する治療法として、本邦で肝移植が行なわれるようになってから四半世紀になろうとしている。報告に より異なるが、移植後 7 割から 9 割の生存を得ており肝不全の治療法としてほぼ確立されたといえる。しかしながら、 残りの患者は様々な理由で死亡しており、感染と並んで、グラフト機能不全がその理由となっている。再移植は、善意で 提供されたグラフトを replace することになること、また限られたグラフトをどう分配するのかという問題もはらむこと から、できれば避けたい。しかし、再移植により救命できる症例も少なからず存在し、 「再移植をいつどのような症例に 行なうか」、は移植外科医を悩ませてきた。当院における再移植症例を検討し、今後に向けて、再移植の適応を検討した い。 方法:Retrospective chart review により 2013 年末までの再移植症例 93 例(小児 50 例、成人 43 例)について、以下の 項目を検討した。再移植までの期間、再移植理由、手術関連情報、グラフトおよび患者生存率、死亡理由。 結果:再移植までの期間は、小児で平均 1.2 年、成人で 4.1 年。再移植理由としては、小児成人ともに慢性拒絶が半数近 くを占め、成人では原疾患(PSC, HCV)が続いた。ABO 不適合移植が 3 割を占め、手術時間は平均で 13 時間を超え、最 長は 24 時間に及んだ。平均出血量は小児で約 3L、成人で約 10L。10 年グラフト生着率は小児で 42%、成人で 36%、10 年生存率は小児、成人とも 51%。小児成人とも初回移植から再移植までの期間が 2 年未満の症例は、2 年以上の症例に 比べ有意に生存率が悪い。成人症例では再移植時 MELD28 を境として患者生存率に差が見られる(10 年生存率 76% vs. 31%)。小児 3 例、成人 5 例で再々移植となっている。 結語:再移植原因としては慢性拒絶が多くみられ、今後、慢性拒絶に至るまでの経過の分析が必要である。再移植の重症 度に加え、再移植までの期間が移植後成績を左右する。脳死グラフトの allocation の参考とすべきかもしれない。 WS4-8 脳死肝移植待機リストにおけるグラフト機能不全の現状 玄田拓哉 1、市田隆文 2 1 順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器内科、2 日本脳死肝移植適応評価委員会 【目的】グラフト機能不全は肝移植の重要な適応疾患である。脳死肝移植レシピエント評価では、初回移植後 3 カ月以内 もしくは継続して入院管理下にある症例は早期グラフト不全として医学的緊急性 10 点が与えられ、3 カ月以上経過した 症例は晩期グラフト不全として 8 点以下で登録される。しかし、わが国の現状に関しまとまった検討は行われておらず、 その詳細は不明な部分が多い。今回の検討では、脳死肝移植登録症例から見たわが国のグラフト機能不全の現状を解析し た。 【方法】2013 年 3 月末までに脳死肝移植レシピエント候補として登録された 1835 例を対象とし、グラフト機能不全 患者の登録数の推移、初回肝移植の適応疾患、待機生存率、移植後生存について解析した。 【結果】グラフト機能不全は、 4 番目に頻度の高い脳死肝移植適応疾患であり、総数 178 例で全体の約 10%を占め、年次登録数は増加傾向にあった。 グラフト機能不全症例の初回肝移植の適応として最も頻度が高い肝疾患は原発性硬化性胆管炎で、19%を占めていた。 待機生存期間の中央値は、早期グラフト不全 41 日、晩期グラフト不全 735 日で有意な差が認められた(P<0.001)。一方、 同期間に登録された劇症肝炎患者の待機生存期間の中央値は 32 日で、早期グラフト不全と比較して差が認められなかっ た(P=0.891)。脳死移植施行例の中で、劇症肝炎に対する初回肝移植とグラフト機能不全に対する再肝移植の移植後 1 年 生存率はそれぞれ 89.5%、69.5%であり、統計学的には有意ではないもののグラフト機能不全の 1 年生存率に約 20%の 低下が認められた(P=0.057)。【結論】脳死待機リストにおけるグラフト機能不全は増加傾向にあり、その発症に原発性 硬化性胆管炎の関与が示唆された。また、グラフト機能不全に対するわが国の医学的緊急性の配点は、待機生存からみて 妥当と考えられた。 60 WS5-1 腹腔鏡補助下肝ドナー手術の成績と妥当性 丸橋 繁 1,2、小林 省吾 1、和田 浩志 1,2、濱 直樹 1、友國 晃 1、富丸 慶仁 1、川本 弘一 1、 江口 英利 1、藪中 重美 2、萩原 邦子 2、梅下 浩司 3、上野 豪久 2,4、土岐 祐一郎 1、森 正樹 1、 永野 浩昭 1,2 1 大阪大学大学院医学系研究科 外科学講座 消化器外科学、2 大阪大学医学部附属病院 3 大阪大学大学院医学系研究科 周周術期管理学、4 大阪大学大学院医学系研究科 移植医療部、 小児外科学 生体肝移植ドナー手術においてドナーの安全性が最も重要であり、可能であればドナーの身体的・精神的負担を軽減する ための低侵襲性が望まれる。当科では倫理委員会承認のもと、2009 年 4 月より腹腔鏡補助下肝ドナー手術(LAD)を導入 した。今回、LAD の成績と妥当性について検討した。 【患者と方法】安全性を第一に考慮し、腹部正中の小開腹を併用した HALS による肝授動およびハイブリッド肝切除を行 った。従来の開腹肝ドナー手術と同様に a)最小限の肝門剥離、b) 脈管断端処理法などの工夫を踏襲した。2014 年 3 月 までに LAD 35 例が施行され、外側区域 20 例(LAD-LL 群)、左葉(尾状葉)15 例(LAD-Left 群)であった。LAD 35 例と、 過去に施行した開腹症例(外側区域 32 症例、左葉(尾状葉)47 症例)の成績を比較検討した。手術侵襲の評価として血清 CRP、鎮痛剤必要回数を用い、また QOL 評価として SF36v2 アンケートを行った。 【結果】正中創長は LAD-LL 群 7.5±0.7cm、LAD-Left 群 10.5±1.4cm であった。手術時間は、LAD-LL 群 375±65min、 LAD-Left 群 510±90min で、開腹症例に比べ左葉(尾状葉)グラフトで長かった(P<0.001)。出血量では開腹症例との 差を認めなかった。開腹移行例はなく術後合併症(Clavien grade≧2)は胃排泄遅延 1 例(2.9%)のみ認めた。術後在院日 数は LAD-LL 群 9.0±2.3 日、LAD-Left 群 12.8±3.6 日と外側区域グラフトで短縮されていた(P=0.001)。SF36v2 アン ケートでは、LAD 群で Bodily pain(BP)の回復が 6 ヵ月でみられ、開腹ドナー症例に比べ良好であったが他のスコアは 差がなかった。LAD-Left 群で手術時間と相関する因子の検討では、BMI や腹部前後径よりも右葉の大きさが良い相関 を示した(P=0.007)。 【まとめ】種々の準備のもと慎重に導入した腹腔鏡補助下肝ドナー手術(左葉系グラフト)は、安全に施行可能であり、術 後成績も良好であった。本術式は、安全性および低侵襲性の観点から、施行には十分な妥当性があると考えられた。 WS5-2 当科における小開腹左葉系グラフト採取術 板野 富田 理、篠田 昌宏、北郷 実、阿部 雄太、日比 泰造、八木 紘史、藤野 明浩、星野 健、黒田 達夫、北川 雄光 慶應義塾大学 医学部 洋、松原 健太郎、尾原 秀明、 外科 【背景】当科では、左葉系グラフト採取術を小開腹創から行う工夫をしている。2009 年 2 月より外側区域グラフト、2010 年 11 月より左葉グラフト採取術に本術式を導入し、2014 年 1 月からは一部操作に腹腔鏡を導入した。当科の、左葉系 採取術の手技と成績を紹介する。 【術式】現行の手順は以下の通り:1)腹腔鏡下に術中肝生検(ゼロバイオプシー)を施行 する、2)肝生検結果を確認後上腹部正中に約 10 cm の小開腹創をおき、創にウンドリトラクターを装着、トンプソン鉤 を用いて小切開創を上下左右に牽引・移動させることで有効な視野を確保、3)原則すべての手術手技は小開腹創より直 視により施行するが、三角間膜切離、アランチウス管切離、尾状葉脱転等直視下に施行が困難な深部の手技は適宜小開腹 創よりファイバースコープにて観察(ビデオ補助)し施行する、4)肝静脈処理は小開腹創からでも安全に把持できるよう シャフトの長いサテンスキ鉗子を用いて施行、5)創は安全に手技が実施できる長さにまで術者判断で延長する。【結果】 本術式をこれまでに外側区域 15 例(拡大外側区域 3 例含む)、左葉 14 例(尾状葉付 4 例含む)の計 29 例に対して行った。 外側区域グラフトは、平均 11.5cm(7.5~17cm)の創より平均 253 グラムのグラフトを摘出した。出血量は少量~400 グ ラム、平均手術時間 408 分、平均術後在院日数 11.9 日であった。左葉切除は平均 12.7(10~16cm)の創より平均 432 グ ラムのグラフトを摘出し、出血量は少量~600 グラム、平均手術時間 443 分、平均術後在院日数 12.8 日であった。いず れも、過去の通常開腹の術式に比べ遜色ない結果であった。 【結語】生体肝移植左葉系グラフト採取術は、腹腔鏡等各種 デバイスの工夫によって小開腹下に施行可能である可能性が示唆された。 61 WS5-3 腹腔鏡下または小切開によるドナー肝切除の是非 山下 洋市、池上 徹、伊藤 調 憲、前原 喜彦 九州大学大学院 心二、吉住 朋晴、播本 憲史、武石 一樹、川中 博文、池田 哲夫、 消化器・総合外科(第二外科) 【はじめに】生体肝移植ドナー肝葉切除術では、万全の安全性を担保する手術手技が必須である。近年肝切除術に於いて 鏡視下手術の導入が著しいものの、2010 年の腹腔鏡下ドナー肝葉切除に於ける術中出血死例の報告も記憶に新しい。我々 は、安全性と低侵襲の両立を目的として上腹部正中切開によるドナー肝葉切除を導入している。【対象】上腹部正中切開 アプローチによる生体肝移植ドナー肝葉グラフト採取術 41 例を対象とした。 【手術手技】上腹部正中切開(約 12cm)にて 開腹後、ケント鉤で腹壁を高めに持ち上げ、さらにゴッセ鉤にて正中創を開創する。まず、右葉の脱転を行うが、術者に よる間膜の切離に応じて助手が右葉を脱転することで下大静脈壁右壁まで露出することが可能である。胆嚢摘出の後、採 取肝側グリソン一次分枝の一括テーピングを行い、その後肝門剥離を採取グラフト側からのみから直線的に最小限に行 う。下大静脈の前面半分を、尾状葉つき拡大左葉グラフトの場合は主に左側から、右葉の場合は右側から行うが、下大静 脈を鑷子で直接把持することで短肝静脈の距離を確保することが重要である。グラフト肝静脈を確保した後、Hanging maneuver を用いて肝実質離断を行う。実質離断は、肝表面は超音波切開凝固装置にて、その後は CUSA と Tissue Link にて行う。肝離断終了後胆管切離を行い、グラフト採取を行う。【結果】41 例の内、尾状葉付き拡大左葉グラフトが 22 例、右葉グラフトが 19 例であった。ドナー年齢の平均および BMI はそれぞれ 37 才、21 であった。平均出血量、平均 手術時間、平均在院日数は、それぞれ 298ml、284 分、9 日であった。他家血輸血は一例も行っていない。術後合併症は 4 例(9.8%)に発症したがいずれも治癒している。【まとめ】上腹部正中切開による生体肝移植肝葉グラフト採取術は、安 全性と低侵襲を両立する手術手技である。 WS5-4 当科におけるドナー手術の変遷と現状 -腹腔鏡補助下ドナー手術を導入して- 岡島 安近 上本 英明、冨山 浩司、瀬尾 智、秦 浩一郎、田浦 康二朗、植村 健太郎、藤本 康弘、小川 晃平、水本 雅巳、森 章、波多野 伸二 京都大学 医学部 忠廣、増井 悦郎、海道 俊彦、 利実、 肝胆膵・移植外科 【はじめに】生体肝移植ドナーにおいては手術創に伴う愁訴が多くみられる。これに対し当科では手術創を小さくする取 り組みを行い、今回その変遷と現状を検討した。 【方法】2012 年 1 月から 2014 年 2 月までの成人生体肝移植ドナー症例 68 例を逆T字ないし逆L字切開で行っていた 31 例(逆T字群)とその後、正中切開のみで行った 13 例(正中切開群)さら に正中切開創を小さくし腹腔鏡補助を用いた症例 24 例(腹腔鏡補助群)について比較検討した。逆T字群、正中切開群、 腹腔鏡補助群おける男女比 15/16、8/5、11/13、手術時平均年齢 47.2 歳、40.4 歳、49.7 歳、平均 BMI 21.5、24.2、21.6、 右葉グラフト症例数/左葉グラフト症例数 15/16、5/8、16/8 であった。検討項目は各群における平均手術時間、平均出血 量、平均ドナー術後在院日数、術後合併症について行った。 【結果】逆T字群、正中切開群、腹腔鏡補助群で手術時間は 中央値で 6 時間 43 分(4 時間 42 分-8 時間 48 分)、6 時間 58 分(5 時間 15 分-10 時間 19 分)、7 時間 26 分(6 時間 4 分 -10 時間 51 分)、出血量の中央値は 370ml(20-1250)、320ml(40-920)、265ml(22-1559)、ドナー在院日数の中 央値は 12 日(7-34)、12 日(9-17)、11 日(8-46)で、いずれも 3 群間で有意差を認めなかった。術後合併症で胆汁漏が逆 T字群で 3 例(9.7%)、正中切開群では無く、腹腔鏡補助群で 1 例(4.2%)、神経症状が逆T字群で 2 例(6.5%)、正中切 開群で 1 例(7.7%)、腹腔鏡補助群ではみられなかった。腹腔鏡補助から開腹に移行した症例を 3 例(12.5%)に認めた。 【まとめ】手術創を小さくした腹腔鏡補助下グラフト肝採取術は従来の開腹術と比較し手術時間、出血量、術後合併症に おいて同等の侵襲で行うことができた一方、在院入院日数の短縮もみられなかった。 62 WS5-5 上腹部正中切開でのハイブリッドドナー肝採取術は小切開肝切除とは 異なる 曽山 夏田 明彦、高槻 光寿、日高 匡章、北里 周、足立 智彦、村岡 いづみ、木下 孔史、バイマカノフ ジャスラン、藤田 文彦、金高 賢悟、黒木 保、江口 長崎大学大学院 綾華、 晋 移植・消化器外科 当科では、上腹部正中切開からの用手補助腹腔鏡下肝授動と直視下の脈管処理、肝実質切離によるハイブリッドドナー 肝採取術を現在まで 60 例(右葉 25 例、左葉 34 例、後区域 1 例)に施行した。従来開腹群と比し、手術時間の延長なく、 同等の出血量で施行可能であった。腹腔鏡を用いずに上腹部正中切開により行うグラフト採取術の報告もあるが、 「第三 の目」腹腔鏡を用いる事で、ドナーの体格に関係せず、肝授動を安全にストレス無く施行可能である。鏡視下授動の際に は、下大静脈、下大静脈靭帯を露出する必要はない。直視下操作にて十分なワーキングスペースにて、下大静脈、肝静脈、 副腎等の処理が可能である。血管周囲は扱わないので鏡視下操作中の出血の心配は極めて少ないが、いつでも用手操作が 可能であり、既に正中切開を設けており迅速な対応が可能である。ハイブリッド法では、直視下操作にて、開腹手技で確 立された手技を応用しており、複雑な脈管解剖への対応、様々な方向からの術中エコー、術中リアルタイム胆道造造影な どが可能である。Hanging maneuver が従来の左手の役割を担うが、術者が困難を感じたら右肋弓下切開をいつでも付 加すればよい。現在、肝静脈切離にはカッター無しの vascular stapler を用いており、鉗子逸脱の懸念がなく、吻合に十 分なカフを保つことが可能である。術野面積を術中写真を用いて画像解析ソフトにより推算すると、女性ドナー、右葉提 供症例を対象にした正中切開+右季肋下切開施行例との比較で有意差は認めなかった(各 n=5、中央値、ハイブリッド vs 右季肋下切開=103cm2 vs 100cm2)。ハイブリッドドナー肝切除術は、小さい創で手術を施行する事が目的ではない。腹 腔鏡を用い、肝授動の為に必要であった季肋下切開が不要となり、創関連合併症を減らすことができ、従来開腹手術で確 立された種々の工夫を用いて、質の高いドナー肝切除を施行しうる理に適った術式と考えられる。 WS5-6 生体肝移植ドナーに対する腹腔鏡下手術 高原 武志、新田 岩手医科大学 浩幸、長谷川 康、片桐 弘勝、菅野 将司、板橋 英教、若林 剛 外科 当施設では、肝授動を腹腔鏡下に施行し、肝離断を hanging manuever を用いながら小開腹下に肝離断を行う腹腔鏡 補助下肝切除を開発し、これまであらゆる type の術式に利用してきた。視野の悪い小開腹肝切除は絶対に危険であるこ とも主張してきた。さらに悪性疾患に対して段階的に腹腔鏡下肝葉切除から亜区域切除へと段階的に取り組んできた。 2007 年 1 月より、当施設でも肝移植を開始し、2014 年 3 月までに生体肝移植を 48 例、脳死肝移植を 3 例施行した。生 体ドナー手術において、2 例目以降連続して 39 例に腹腔鏡補助下ドナー手術を、直近の 8 例は完全腹腔鏡下ドナー手術 を施行した。腹腔鏡を利用したドナー手術における段階的な手技の変遷をビデオにて供覧する。また、ドナー手術の短期 成績を示すとともにこの手術がレシピエントの短期成績に与える影響も提示する。現在での結論は、Flexible 腹腔鏡でし か得られない拡大視効果を利用した下大静脈周囲の肝臓の剥離と、気腹下での主肝静脈をランドマークとした直線的な肝 離断は腹腔鏡下肝切除の最大のメリットと考えている。肝臓外科・移植外科・内視鏡外科に精通した施設で、生体肝移植 ドナー手術において、血管構築を含めた充分な術前シミュレーションのもと、奇異な解剖学的変異が無い症例には、肝静 脈をランドマークとする腹腔鏡下肝切除の導入は妥当であると思われる。 63 WS6-1 肝移植後慢性期に終末期を迎えた症例へのレシピエント移植 コーディネーター(RTC)の関わりと役割 辻 あゆみ 1、高槻 光寿 2、日高 匡章 2、曽山 2、北里 周 2、黒木 保 2、江口 晋 2 1 長崎大学病院 看護部、2 長崎大学大学院 明彦 2、村岡 いづみ 2、木下 綾華 2、足立 智彦 移植・消化器外科 【はじめに】肝移植後慢性期に終末期を迎えた患者への関わりを通して RTC の役割を再考したので報告する。 【症例】56 歳女性。カロリ病に対し夫をドナーとした初回生体肝移植施行(摘出肝に術前不明であった肝内胆管癌あり)、約 1 年半 後に慢性拒絶によるグラフト不全にて息子をドナーとした再移植施行。順調に回復していたが外来フォロー中に腰痛出 現、腰胸椎に転移性の骨腫瘍を認めた。手術適応はなく放射線療法施行するが PD。同時期よりオピオイド導入、院内緩 和ケアチームの介入も開始。その後化学療法を導入したが副作用発現のため中止。病状進行に伴い疼痛増強し、PS も徐々 に低下。自宅から移植施設は遠方であるため、地元施設でのフォローも可能であることは説明されていたが、移植施設の 方が安心すると 2 週間~1 ヶ月間隔での通院を継続していた。RTC は患者や夫からの電話相談に対応し必要な場合には 医師へ報告、緩和ケアチームとも身体面・精神面の情報共有をはかり援助を継続した。患者は可能な限り自宅での生活を 希望しており、主介護者である夫もその思いを尊重していたが、就労中のため患者は日中独居の状態であった。患者の不 安も強く、自宅での生活を継続するには支援体制が必要と判断、本人や夫、主治医と相談し院内の地域医療連携室に情報 を発信し、介入を依頼した。緊急時は地元施設での対応とし、在宅医による往診、訪問看護が開始。その後約 1 ヶ月間 を自宅で過ごし死亡された。「子どもや親族みんなで最期を看取ることができて良かったです」と夫は感謝の意を表され た。 【結語】終末期において患者の症状が可能な限り緩和され、不安が軽減された状態で生活を送るために、RTC が患者 の情報を発信し他部門と連携を果たす役割は大きい。家族が満足した看取りを行う上でも、RTC は医師と共に理解状況 に応じた情報提供を随時行っていく必要がある。 WS6-2 退院支援・退院調整におけるレシピエント移植コーディネーターの 役割を考える 熊谷 久美子 1、須郷 広之 2、藤原 典子 2、吉本 次郎 2、今村 宏 2、石崎 陽一 2、川崎 誠治 2 1 順天堂大学医学部附属順天堂医院看護部、2 順天堂大学肝胆膵外科 【はじめに】近年、在院日数短縮が加速する中、移植医療も例外ではない。しかしながら移植患者の場合には、その特殊 性から受け入れ可能な施設は限られることが多く、退院支援・退院調整も容易ではない。今回、入院が長期となり要介護 の状態で退院となった事例を通してレシピエント移植コーディネーターとしての関わりを振り返りその役割について考 察した。 【症例】60 歳代の女性。C 型肝炎による非代償性肝硬変で生体肝移植術を施行した。既往歴に脳出血後遺症による右不全 片麻痺と多量の腹水を術前から認め、ADL は歩行器歩行(数m)の状態であった。術後、免疫抑制剤による痙攣のため鎮 静・長期臥床となり術後 60 病日目に寝たきりの状態で一般病棟へ移った。リハビリを開始するがポータブルトイレへの 移動、ズボンの上げ下ろしは困難で介助を要した。回復期となり今後の療養先について検討したが、自宅は夫と 2 人暮 らしであり本人、夫ともに転院を希望した。しかし、転院先はすぐには見つからなかった。本人、家族と繰り返し面談を 行い、最終的に目標を自宅への退院と変更した。 一般的な肝移植後の退院指導に加え、自宅へ帰ることへの不安内容(独居の時間の排泄ケアの調整、宅配食について、 免疫抑制剤の管理方法、夫への介護技術指導、外来への通院方法、緊急時の対応など)を具体的に一つずつ、病棟看護師、 退院支援部門看護師、PT、薬剤師、ケアマネージャー、訪問看護師の協力のもと一緒に解決していくことで自宅退院へ の意思が固まった。術後 177 病日で、退院となり、現在独歩で外来通院できるまで回復し順調に経過している。 【まとめ】レシピエント移植コーディネーターは退院後の自宅環境、自己管理能力、家族のサポート体制などを評価し、 その上で必要な指導・支援が受けられるよう調整し統合的な退院支援を行うことが求められる。患者が安全かつ安心して 退院後も療養できるようコーディネートすることが重要と考えられた。 64 WS6-3 レシピエント移植コーディネーターと病棟看護師との連携 薮中 重美 1,2、家平 裕三子 1、中土居 1 大阪大学医学部部附属病院 智子 1、萩原 邦子 1,2 看護部、2 移植医療部 臓器移植患者指導管理料が開始されレシピエント移植コーディネーター(以下 RTC)の外来ケアが注目されているが、 入院中も含めた継続的ケアも重要な役割である。当院では RTC は臓器別担当制で移植全過程を通じて一人の RTC が担 っている。今回、特に RTC と病棟看護師との連携の現状と課題について報告する。 当院では劇症肝炎症例では劇症肝炎ワーキングを開催し、移植希望があった場合は外科医が往診することも多い。RTC は往診に同行しカルテや受け持ち看護師から患者の社会的背景などを情報収集する。移植説明後に患者や家族と面談し、 家族背景を把握した上で移植の際に問題となる点を査定すると共に、移植への意思決定支援を行う。これらの情報は劇症 肝炎ワーキングで共有するだけではなく、移植になった場合に病棟看護師が患者及び家族へのケアに生かせるように、カ ルテ記載するとともに病棟カンファレンスにも参加し情報提供している。 移植後退院に向けてリハビリや生活指導を行う場面で、家族のサポート体制が希薄な場合や、患者に対し過干渉となり 自立を妨げてしまうなど家族問題が生じることがある。RTC は移植前より患者や家族と関わり家族背景や社会的側面を 熟知していることから、病棟看護師が解決困難と感じる家族問題に積極的に関わることができる。そのため定期的な病棟 訪問は入院患者の問題把握や受け持ち看護師との情報共有が容易となり、ケアの充実につながる。病棟看護師にとって安 心して相談できる RTC は、チームメンバーとして必要不可欠な存在となっている。このことは RTC 自身の仕事に対す る満足感や達成感につながっている。 移植患者数が増加すると RTC が移植全過程を継続したケアの提供が難しくなり、ケアの質も担保が困難となる。その ためには患者数に応じた RTC 数の確保が今後の課題と考える。 WS6-4 当院におけるレシピエント移植コーディネーターの現状と今後の課題 後藤 美香 1、池上 宮川 眞一 2、百瀬 俊彦 2、中澤 美希 3 1 信州大学医学部附属病院 3 信州大学 勇一 2、浦田 医学部附属病院 集中治療部、2 信州大学 浩一 2、三田 医学部 篤義 2、大野 康成 2、増田 雄一 2、 移植外科、 移植医療センター 【背景】2011 年に認定レシピエント移植コーディネーター(RTC)制度が開始され、昨年度までに 103 名の認定 RTC が誕 生した。ほとんどの施設でその役割を看護師が担っているが、施設内での所属や配属体制、院内での役割の認知度により、 RTC の役割を十分に発揮できない状態になりうる。現在、長野県には臓器移植における認定 RTC は 1 名であり、これま で当院で施行している肝臓・腎臓移植に対する移植過程への関わりのみならず、院内外からの求めに応じて心臓・肺移植 における意思決定への介入と術前フォロー、移植施設退院後のフォローにも関わってきた。また、今年度より当院は 膵 島移植の認定施設となり RTC 増員を申請した。 【現状】看護部からの移植医療センター配属定数 2 名(臓器移植・造血幹 細胞移植)の変更は不可。後進の育成を目指すため、認定 RTC は配置転換。1 か月の重複期間が設けられ、その間に急遽 作成したクリニカルラダーを用いて指導にあたり、業務フォローの継続体制を試みているが、規定の研修を受けた専任 RTC の移植外来への設置という基準が満たされず、今年度は移植後患者管理指導料の加算がとれない状況にある。 【結語】 多種多様 な役割を背負い業務を遂行してきた RTC にとって、認定制度の創設および診療報酬加算の新設が、RTC を必 要不可欠な職種と認識させるきっかけになるのではないかと期待した。しかし、意向により施設内で知識・技術を生かせ る環境は失われた。認定 RTC が JATCO などによる研修を継続して受講し、臨床現場においては患者ケアのさらなる充 実・向上を目指し、後進の育成、移植医療・移植看護のスキルアップを示すことで、専門職として力を発揮できる環境と 確固たる職種として認知されていく事を期待する。 65 WS6-5 今、レシピエント移植コーディネーターに求められている役割 山本 真由美、柏浦 北海道大学病院 愛美、岡林 靖子 看護部・臓器移植医療部 日本における生体肝移植数は、2012 年末までに 6884 例となり、ここ数年は年間約 380~400 例実施されている。2010 年 7 月に臓器移植法の改正が施行され、以前よりは脳死下での臓器提供数は増えたが、脳死肝移植数は年間 40 件程度で あり、生体肝移植数にとって代わる数ではない。また 2011 年 10 月には脳死肝移植患者の選択基準の一部改正が行われ、 医学的緊急度 8 点・10 点が設定された。その結果 6 点で登録している患者の待機日数が、さらに長期化した。医学的緊 急度 8 点が設定されたことにより、肝不全進行時に速やかにアップグレードするために、内科医との連携を強化するよ うに努力している。しかし、現状は内科医からの連絡は少なく、家族からの病状悪化に伴う不安の訴えで状況を把握する に至っている。レシピエント移植コーディネーター(RTC)の増え続ける業務(移植後患者や生体肝移植予定患者への支援 など)のなかで、タイムリーに脳死肝移植待機患者の病状の変化を把握するのは難しい。圧倒的に生体肝移植が多い日本 での RTC に求められている役割の範囲は広く、多種多様化してきている。最近では移植医にコンサルトする前に、移植 適応となり得るのかの事前確認や複雑な社会背景を抱えている患者との直接面談を依頼されることが増えてきた。なかに は、入院まで飲酒しておりかつ断酒宣言していない患者や家族サポートが皆無である患者の移植希望の相談など、医療の 公平性とは?と倫理的価値判断に悩む場合もある。複雑化する移植相談に対応しながら適切な移植医療の推進に向けて、 専門的な役割を発揮していかなければならない。認定 RTC としては、更なるアセスメント能力の向上及び倫理的問題へ の対応能力を高めていくことが必要である。 WS6-6 慶應義塾大学病院におけるレシピエント移植コーディネーターの活動 高岡 千恵 1、伊澤 阿部 雄太 3、日比 北川 雄光 3 1 慶應義塾大学病院 由香 1、添田 泰造 3、八木 英津子 2、篠田 昌宏 3、板野 修 3、尾原 洋 3、松原 健太郎 3、藤野 明浩 3、星野 看護部、2 慶應義塾大学 看護医療学部、3 慶應義塾大学 医学部 秀明 3、北郷 実 3、 健 3、黒田 達夫 3、 外科 【はじめに】2011 年にレシピエント移植コーディネーター(以後 RTC)認定制度が開始となり 3 年が経過した。各施設の 認定臓器や担当診療科の特殊性、勤務形態などにより、RTC の業務内容は施設ごとに異なると考えられるが、具体的な 活動内容を施設間で共有する機会は少ない。そこで今回、当院 RTC の活動についてこれまでの経験をふまえて報告する。 【活動の実際】当院では、紹介前の受診相談時から移植前、移植後と長期に渡る患者やドナー(候補)の意思決定支援、体 調管理指導、他施設を含めた医療者間の調整、事務的な諸手続き、医療スタッフへの教育等、業務は多岐に渡り、言わば 移植の「よろず相談所」のような役割を担っている。 <生体・脳死肝移植の対応>2014 年 4 月現在、当院では生体肝移植 212 例、脳死肝移植 2 例を経験した。レシピエント の病状を的確に把握しながら意思決定支援をはじめ移植至適時期を逸しないよう生体移植・脳死登録準備における様々な 調整を行っている。特に生体ドナーの擁護・意思決定支援は重要な役割と考えており、自発的意思の評価をはじめ、ドナ ーのリスク、移植成績、家族や社会生活への影響等の理解について、精神科医と密に連携しながら対応している。脳死移 植に関しては、待機患者の体調管理指導と体調変化の把握に努め、フォローアップ施設と連携しながら医学的緊急度再評 価にも迅速に対応している。 <急性肝不全・劇症肝炎患者の対応>急性肝不全・劇症肝炎症例においては、救命の観点から迅速な適応評価、および移 植準備が必須であり、当院では生体・脳死移植両方の選択肢を提示し並行して対応している。紹介元医療機関からの第一 報の多くは RTC が対応しており、患者情報の収集および予後予測に基づく緊急性の判断、迅速かつ円滑な諸手続きへの 対応や関連部署への情報発信など、緊急を要する業務は多岐に渡る。 66 WS6-7 東京大学医学部附属病院における肝移植希望患者の動向 野尻 佳代 1、菅原 長谷川 潔 2、國土 寧彦 1,2、田中 典宏 1,2 1 東京大学医学部附属病院 智大 1、赤松 臓器移植医療部、2 東京大学 延久 2、田村 純人 2、金子 順一 2、青木 琢 2、 肝胆膵・人工臓器移植外科 【背景】日本では、肝臓病で年間約 3 万人の患者が死亡している。2011 年の臓器移植法改正は、肝移植を待ち望む患者に とって福音となったが、脳死移植の件数は伸び悩み、生体移植に頼らざるを得ない状況は続いている。その中で、外来初 診時から関わるレシピエント移植コーディネーターは、患者家族の意思決定の支援に関与している。 【目的】東京大学医 学部附属病院(以下当院)での肝移植を希望した患者で、生体肝移植を受けられなかった理由について報告する。【結果】 2011 年から 2014 年 2 月までに、肝移植目的で当院を受診した患者は 390 名であった(観察最終日は 2014 年 3 月 31 日)。 そのうち 383 名が生体肝移植を希望し、7 名が脳死肝移植を希望した。生体肝移植に至らなかった 328 名のうち、患者 側の理由が 180 名(54.9%)、ドナー側の理由が 148 名(45.1%)であった。患者の理由として、医学的適応なし 35.3%(年 齢 3%、重症 6.7%、HCC 進行 4.6%、HCC 以外の癌等他の疾患合併 2.1%、感染症 1.5%、コントロール不能の精神疾 患 0.6%、薬物依存を含む直前まで大量飲酒 7%、時期尚早 5.8%、状態改善 4%)、本人の移植希望なし 11.3%、家族意 思なし(患者の意思確認困難のため)0.9%、drop7.3%であった。ドナー側の理由として、ドナーなし 31.7%、ドナー検査 後に意思を撤回 1.2%、肝容積不足 7%、肝障害 2.1%、高度肥満 0.6%、治療中の疾患等の存在 2.1%、ドナー検査により 疾病の発見が 0.3%であり、最終的に生体肝移植に至ったのは 51 名(13.3%)であった。【考察】移植に至らない理由とし て、患者が重症化してからの紹介が多く、早めの紹介が望まれる。また、生体ドナーの不在により、希望する患者の多く が移植を受けられないことが分かった。そのような背景を踏まえ、外来時におけるレシピエント移植コーディネーターと して、適切な情報提供や関わりが重要な役割であると考えた。 WS6-8 移植後外来におけるレシピエント移植コーディネーターによる看護指導の 現状と課題~免疫抑制剤の服薬管理について~ 梅谷 由美 1、石橋 朋子 1、竹下 1 京都大学医学部附属病院 看護部 麻美 1、上本 伸二 2 移植医療部、2 京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 移植医療部 【背景・目的】平成 24 年度診療報酬改定により移植後患者指導管理料取得が開始された。当院でも平成 25 年 4 月より加 算のシステム作りを始動し、同 10 月から移植後外来における看護指導を開始した。具体的には、患者およびドナーの生 活状況の把握や問題点を抽出することで、個々に応じた免疫抑制療法や感染対策などの生活指導を実施した。今回、移植 外来におけるレシピエント移植コーディネーター(RTC)による看護指導の現状と課題について報告する。【対象・方法】 対象者は平成 25 年 10 月から平成 26 年1月末までに指導した 300 名。年齢の中央値 33.5 歳(0 歳~74 歳)、移植後日数 の中央値 2260.5 日(41 日~8392 日)。指導方法は外来エリアにコーディネーター指導室を設置し個別に対応した。全身 状態・生活・家族・ドナー等、それぞれの状況を問診し、免疫抑制療剤の内服管理・感染対策について、幼児期、学童期、 思春期、青年期など成長段階に応じて指導を行った。今回、7 歳から 18 歳までの 75 名の服薬管理について解析評価した。 【結果】移植後の生活状況は、就学、就労、女性の場合は妊娠・出産も含め殆どの患者が社会復帰をしていた。免疫抑制 療法については年代別に管理方法が変化し、親管理から親子での管理、自己管理へと移行が出来ていた。一方で学童期・ 思春期・青年期において病歴や服薬の必要性が十分理解されていない場合、それに伴うアドヒアランスの不良群が見られ た。また経過や成長に応じた対応ができない保護者も見られた。【結語・考察】今回、外来における RTC の個別面談に より、詳細な情報収集、問題点の抽出と適切な指導が出来た。今後の課題としては、移植後の長期経過症例が増加する中、 グラフト機能不全や疾患の再発防止のために自立した服薬管理を進めていくことや、各成長過程に応じた指導を行うべく RTC の増員があげられる。 67