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子どもの死亡登録検証制度・東京でのパイロットスタディの実施
<本件に関する連絡先> 独立行政法人国立成育医療研究センター 電話:03-3416-0181 (代表) 佐藤 徹(サトウ トオル) 総務部総務課専門職(広報係) (内線 7783) Email: [email protected] 報道関係者 各位 子どもの死亡登録検証制度・東京でのパイロットスタディの実施 予防可能な子どもの死亡を減らす、足掛かりに 子どもの死亡で最も多い窒息や転落などの不慮の事故を減らすため、国立成育医療研究センター研究所政策科学研 究部長 森 臨太郎を初めとする小児科医らのグループが、国に死因や事故の状況を登録し、再発防止策に反映する制 度を整えるべく本研究を実施致しました。 本プレスリリースのポイント l 東京都内で 1 年間に発生する 0 歳~4 歳の小児全死因とそれにまつわる状況を調査。死亡診断書に加えて詳細な 情報を収集、またこれらの情報を分析することで、施策による予防策への糸口を検討しました。 l 調査において把握できた予防可能性の高い症例(11 症例/全 257 症例)の内、患者への啓発活動を通して予防が 可能であったと判断された症例が全体の 83%(10 症例/全 11 症例)存在しました。 l 今後、全国規模で検証を行う仕組みを作ることで、死亡原因を含む死亡に至る正しい情報・予防可能な因子を把 握・予防可能な小児の死亡の効果的な予防策と介入を可能にすることが期待されます。 背景・目的 一人の子どもの死亡は、その社会の子どもたちの健康や安全の指標となりうる。子どもの死亡登録検証制度(Child death review:以下 CDR と略す)は、予防可能な子どもの死亡を減らすために、様々な情報をもとに系統的に調査を行い、 予防可能な要因に関連する事項を、個人、家族、社会、政策など各々のレベルで検討し、効果的な予防策と介入を行う ことを目的とする。 1978 年にロサンゼルスで最初の CDR プログラムが設立されてから、30 年以上が経過し、米国のほぼ全土、英国など、 多くの先進国で、制度化されている。アリゾナ州における 1995 年から 5 年間にわたる CDR では、全死亡 4806 例のうち、 29%が予防可能な死亡として報告され、イギリスにおいては 2006 年から 1 年間パイロット研究が行われ、26%が予防可 能な要因が存在、43%で潜在的に予防可能な要因が存在したと報告し、子どもの死亡率を減らすための戦略になりうる と報告された。 日本は 1-4 歳児死亡率が他の先進国と比較して高く、2005 年の 1-4 歳児死亡率は OECD27 カ国の中で 17 位であっ た。新生児・乳児の低い死亡率と相反する高い幼児死亡率は、先進諸国では見られない。 以上のように、日本における 1-4 歳児の死亡率が高いことが指摘されて以降、関連する要因が様々な方向から検討さ れてきた。医学の向上のみならず、救急医療体制をはじめとする施策面の問題が示唆されるが、明確な原因の特定に は至っておらず、さらなる解明が必要である。 現在、自宅での死亡のみならず、保育中の死亡、指導中の死亡、自殺など、子どもの死亡に関して痛ましい報告や第 三者調査は個々にされているが、系統的に行う標記の制度はいまだ実現していない。 東京都内で 1 年間に発生する 0 歳~4 歳の小児全死因とそれにまつわる状況を調査する。死亡診断書に加えて詳細 な情報を収集、またこれらの情報を分析することで施策による予防策への糸口を検討する。 研究方法 本研究は、横断研究である。質問票を用いて聞き取り調査を行い、更に詳細な情報を収集し、期間内に発生した全死 亡例の実態を調査した。対象地域は東京都内の医療機関および監察医務院とし、調査の対象者は期間内に上記地域 で発生した新生児を含む 0~4 歳の全死亡症例とした。警察が関連した症例についても可能な限り情報を収集した。適 格基準として、都外在住であっても対象地域内で発生した場合にはそれを含むとし、除外基準として、都内在住であって も、死亡が都外発生の場合はそれを除いた。諸外国の制度と比較検討し、日本での実施に適する方法を明らかにする ため、パイロットスタディとして東京都での施行とした。対象地域として東京都を選定した理由は、23 区は監察医制度が 整備されており、また多摩・島嶼地区では、異状死体で検案により解剖が必要であると考えられた場合には、杏林大学 及び東京慈恵医科大学の法医学教室にて行政解剖に付されていることからである。 対象年齢について、諸外国の CDR では 18 歳未満までを対象としているところがほとんどであるが、本調査では 0~4 歳とした。その理由としては、日本における 1~4 歳児の死亡率が高く、実態調査が望まれるためである。対象期間を 2011 年 1 月 1 日~2011 年 12 月 31 日とし、対象者調査期間を 2012 年 4 月 1 日~2014 年 9 月 30 日とした。 ①症例の登録 1)ホットライン設置:ホットラインを設置し、事前に日本小児科学会や東京都医師会、東京都小児科医会などを通じて番 号を周知し、協力を呼び掛けた。 2)都内全病院 640 施設、小児科標榜のある 10 床以上の有床診療所 58 施設において、対象期間内の死亡例について 問い合わせた。 3)救急搬送症例のうち、該当年齢で心肺蘇生による搬送、もしくは心肺蘇生に近い重症症例を消防庁に問い合わせ、 搬送先の医療機関へその後の状況を問い合わせた。 4)東京都による死亡統計調査より死亡症例の全数を把握し、登録できていない症例がないかどうかを把握した。 5)監察医務院、杏林大学法医学教室、慈恵医科大学法医学教室で行政解剖を行った症例について問い合わせを行っ た。 0-4歳の死亡発生 症例登録 症例の登録 質問票による聞き取り調査 死体解剖が行われた場合→ 病理解剖・行政解剖の結果を聞き取り調査 情報収集 パネルレビュー 症例検討 最終診断および予防可能性の評価 ②情報収集方法 上記により登録された症例につき、先方へ訪問し、主治医、必要な場合には看護師にも質問票(添付資料)に基づい た聞き取り調査を行い、カルテや記録をもとに情報を収集した。また、急変覚知後に救急搬送が行われ、覚知より 48 時 間以内に死亡した症例については、院外における急変時の対応が死因と関連する可能性があるため、搬送記録につい ても可能な限りカルテをもとに情報収集した。行政解剖や病理解剖が行われた症例に関して当該機関へ出向き、結果の 聞き取り調査を行った。医療機関からの拒否、または医師や看護師からの情報収集が不能であった場合には登録不能 例とし、死亡診断書の病名のみの登録とした。 今回得られる情報は、欧米諸国のそれと異なり診療の中で日常的に取られているものに限られた。情報源の主は主 治医とその診療録で、新たな情報を得ることはできないため、質問票は日本の現状に合うように工夫を行い、日本の診 断ガイドラインなども積極的に参考にして作成した。聞き取りは医師 2 名で分担して行ったが、記入者間の見解の相違を 和らげる方策として、チェックリストを使用した。 主要観察項目は、対象症例の基本情報(性別、年齢、国籍(本籍)、身長、体重、居住地区、死亡した場所、死亡の原 因、死因の種類、健康保険の種類、出生歴、既往歴、社会的背景(乳児健診歴、家族構成、予防接種歴)、内因性疾患 の詳細(病因、治療内容))、蘇生の状況(心肺停止の発生状況、心肺蘇生の内容)、事故の状況及び予防措置の有無 (事故の発生状況、予防策の有無)、救急搬送の状況(搬送の詳細、救急隊による処置内容)、解剖の有無、及びその 結果、とした。 登録症例のうち、予防不可能な病死と判断できる症例以外について、その死亡原因が予防可能、予防可能かもしれ ない、予防不可能のいずれであったかの判断を行うため、症例の観察項目がそろった時点で、当部会で、症例のパネル レビューを行った。また、これらの症例において、死亡診断書、または死体検案書に記載している死因とは別に、調査結 果を踏まえ、基礎疾患も含めた独自の最終診断についても決定した。それらの結果を踏まえ、得られたデータの解析の 方針には記述的解析を行った。 結果 死亡登録 東京都内で 5 歳未満の死亡は 2011 年の間に 286 例あり、死亡症例の 80%は東京都こども救命センターのある病院 もしくは 3 次救急指定病院でおこり、20%はその他の小児科標榜病院で起こった。小児科を標榜していない病院での死亡 は認められなかった。日本小児科学会指定施設の分類を用いると、中核病院小児科 16 施設で全死亡の 70%(200/286 例)、地域小児科センター28 病院で 23%(66/286 例)が起こっていた。また、救急指定病院による分類を用いると、東京都 こども救命センターのある病院は4施設とも 10 例以上の死亡を認め、それ以外の 3 次救急指定病院においても 18/21 施設において少なくとも 1 例の死亡があった。一方、3 次救急指定病院でない小児科標榜病院では 11/169 施設でしか 死亡症例はなく、小児科を標榜していない病院や小児科標榜診療所では死亡症例はなかった。この他、死亡症例のうち 小児の死亡が年間 11 例以上ある 9 病院で 179(63%)例が死亡しており、年間 5 例以下の死亡しかない 16 病院での死亡 は 41(14%)例となっていた。 以上より、東京都内においては、中核病院小児科以外での死亡や、小児死亡例の少ない小規模病院での死亡数が 高いとは言えない、と思われる。 死亡症例 286 例のうち当該調査にて詳細を把握できたのは 257 例であった。本調査で把握できた全死亡例中、男児 48%(n=123)、女児 52%(n=134)、最も死亡率が高い年齢群は「28 日以降1歳未満」であった。日本国籍を持つ児は 99%、 居住地が東京都内でなかった割合は 19%、死亡小票上病死あるいは自然死は 86%、被用者保険は 77%、国民健康保 険は 19%、生活保護家庭は 4%、であった。病院にて死亡診断書が発行された症例は 203 例、23 区内での死亡のため 監察医務院にて検案が行われた症例は 41 例であった。解剖が行われた症例は 92 例(全症例(257 例)の 36%)であった。 死亡地別では、23 区において 72 例(36%、72/201 例)、多摩地区において 20 例(36%、20/56 例)であった。 心肺停止の発生状況について、院外発生 55 例(全体の 21%)、院内発生 202 例(全体の 79%)であった。院外発生例 のうち救急車による搬送が行われた症例は 53 例であった。死亡までの 48 時間以内に救急搬送が依頼(覚知)された症 例は、現場からの直送が 55 例と転院搬送が 2 例であり、うち救急隊接触時に心肺停止が認められたのは 54/57 例(95%) であった。救急隊現場到着時にバイスタンダーによる心肺蘇生(CPR)が行われていたかどうかについて情報が得られた のは 34 例であり、うち 17/34 例(50%)では救急隊到着まで目撃者によるバイスタンダーCPR は行われていなかった。ポ ンプ隊出動がみられた 3 例全例でポンプ隊によるバイスタンダー心肺蘇生が行われた。覚知から現場到着までの時間 は平均 7 分で、接触時に心肺停止であった症例に対して心肺蘇生が開始されるまでの時間はほとんどなく、覚知から病 院到着までの時間は 29 分であった。 検証 ①研究班における症例スクリーニング 上記の 257 症例において、予防可能性(9段階にて評価)および死因カテゴリー(添付資料)を小児科医 5 人で個別に 選定し、その結果に基づいて予防可能性および死因カテゴリーを設定した。 死因カテゴリーについては、外的要因(1-3)は併せて 6%、出生後の内的要因(4-6,9)は 13%、先天異常および周産期 要因(7-8)は 68%であり、不明死・説明不能(10)は 12%と分類された。 Category カテゴリー名と詳細 高頻度に見られた病名 1 故意に加わった外傷、虐待、ネグレクト ― 2 自殺または故意の自傷 ― 3 外傷およびその他の外因死 溺水、窒息 4 悪性腫瘍 難治性固形腫瘍 5 急性的な内科または急性外科疾患 ライ症候群、心筋炎 6 慢性的な病状(慢性疾患) 免疫不全 7 染色体異常、遺伝子異常、先天異常 18 trisomy、複雑心奇形、横隔膜ヘルニア 8 周産期/新生児期のイベント 超未熟児(在胎 22-25 週)、重症仮死 9 感染症 髄膜炎、急性細気管支炎 10 突然の予期しない、説明できない死亡 SIDS(乳幼児突然死症候群) また、スクリーニングにおいて、「予防が可能」(中央値 7-9)と判定された症例は 16 症例であった。 ②多職種におけるパネルレビュー 法医や法律、小児医療、救急医療など多職種の専門家を含めるパネルにおいて予防可能性の評価における7以上 の 16 症例において、スクリーニングにおいて主な死因が虐待(“故意に加わった外傷・虐待・ネグレクト”)として合意され た 3 例、周産期関連(“周産期・新生児期のイベント”)であった 1 例を除いた、12 症例について、予防可能性およびその ための施策に関して議論を行なった。 予防可能性の評価については、当部会委員(15 名)が症例の情報を共有し、ディスカッションを行ったうえで、予防可能 であったかどうかをそれぞれ 5 段階表示で提示し、回答の平均値を最終予防可能性とした。その結果、11 例(92%)にお いて予防可能性が高い(うち 8 例(67%)が「とても高い」、3 例(27%)が「高い」)で、中程度が 1 例(8%)と判断された。 また、小児死亡の予防のためにいかなる対策をとることが可能か、そしてそれによってどの程度死亡が予防可能であ ったかについて検討を行い、小児死亡の予防策への糸口を検討した。上記調査において把握できた症例のうち、当部会 にて患者への啓発活動を通して予防が可能であったと判断された症例が 10 例(83%)、判断不能とされた症例は 2 件であ った。 考察・まとめ 本調査では、2011 年 1 月 1 日から 12 月 31 日の 1 年間に発生した新生児を含む 0 歳~4 歳の乳幼児全死亡症例に ついて、対象症例の死亡判定医師への聞き取り調査および監察医務院での検死情報を収集し、うち 9 割について症例 の詳細な情報が得られ、カバー率は良好であった。また、予防が可能と判断された症例については全例剖検が行われ、 さらに捜査上不審な点があった場合は警察による司法解剖が行われていた。しかしこのような状態でも現場検証や家族 背景については情報が十分に得られない症例もあった。これらの症例について、救急医療による影響はあったか、また、 その死因と予防可能性、そして再発予防のためにいかなる対策をとることが可能か、について議論を行い、小児死亡の 予防策への糸口を検討した。 まず、救急医療についてであるが、小児重症例の重症化について先行研究で日本小児科学会指定の中核病院小児 科での死亡や小児死亡例の少ない小規模病院での死亡数が高いと報告されていた。しかし本調査では、死亡症例の大 多数は東京都こども救命センターのある病院もしくは 3 次救急指定病院、そして死亡症例が年間 11 例以上ある病院で 起こっており、東京都においては過去研究と異なり、比較的重症例の集約化が行われていると考えられる。また、覚知 から現場到着まで及び覚知から病院到着までの搬送時間については問題なく、また、接触時に心停止であった症例に 対して心肺停止が開始されるまでの時間が短時間であったことから、救急搬送体制および蘇生については、適切な対応 がなされており、問題は見られなかった。 次に予防可能性であるが、本研究では、生後 28 日以降の乳児および幼児に、予防が可能である症例が多く認められ た。小児死亡の 3 割は生後 28 日未満に起きており 8 割以上は予防が不可能であったが、生後 28 日以降の児では、そ の 1 割は予防が可能、3 割は予防が可能か不明である。よって、特に生後 28 日以降での小児死亡を重点的に検証する ことが重要だと思われる。 今回検討を行った、予防が可能と判断された症例においては、死因は外傷およびその他の外因死が最も多く、その中 でも特に溺水と窒息が多かった。予防法としては、公共設備、救急搬送体制および医療体制について、明らかに改善す べき点は挙げられなかった一方、保護者への啓発活動が有用であるとの意見が多く挙げられた。 病院受診に関して、昼間に一度受診し、夜間に急変した場合(痙攣、意識障害等)における救急受診(病院再診)の判 断についても、保護者への啓発や、外来でのよりていねい・具体的な説明が必要であると意見があった。 現在も保護者への事故予防のための啓発活動を目的として、自治体や民間団体などにおいてチラシや冊子、DVD な ど多くの資料が作成され、またその情報がホームページや妊婦健診、乳児健診、保健師訪問事業、などを通して保護者 に提供されている。しかし、様々な理由で日常生活や育児に穴があり、それが死亡に繋がっている実態が今回みられた。 こうしたことから、更なる啓発活動のためのアプローチが有用である可能性が示唆された。なお、保護者への啓発活動 の中で、特に行政の手が届きにくい家族がいる問題点とその解決案に意見が多く寄せられた。 【医師名・研究者名】 № 氏 名 役 職 等 1 森 臨 太 郎 国⽴成育医療研究・ ・ ・ ・ ・ 政策科学研究部⻑ 2 小林 美 智子 ⼤阪府⽴⺟⼦保健総合医療・ ・ ・ ・ 3 福 永 ⿓ 繁 東京都監察医務院・ 院⻑ 4 米 本 直 裕 5 佐 藤 喜 宣 杏林⼤学法医学教室 6 椎 間 優 子 国⽴成育医療研究・ ・ ・ ・ 政策科学研究部・ 研究員 7 森 崎 菜 穂 国⽴成育医療研究・ ・ ・ ・ 政策科学研究部・ 研究員 8 宮 地 麻 衣 国⽴成育医療研究・ ・ ・ ・ 政策科学研究部・ 研究員 (敬称略、順不同) 国⽴精神・神経医療研究・ ・ ・ ・ 情報管理・解析部・ ⽣物統計 解析室・ 室⻑