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子供の自尊心
両親の期待度調査の結果 子安 増生・郷式 徹・箕浦 康子 1.本研究の目的 パーソナリティや学力の形成に対して,周囲の大人の期待が及ぼす影響は大きい。特に,両親 の期待(parental expectation)は,日常的に接する親子関係の中で生ずる自然な感情をベース にしており,それが子どものパーソナリティや学力の形成に及ぼす影響は大きいと考えられる。 たとえば,Davis-Kean(2005)の研究は,1968 年からアメリカで実施されている縦断研究の データセットにもとづき,868 人の 12 歳児データを抽出して分析が行われた。さまざまな指標 について構造方程式モデルによって検討したところ, 「両親の学歴」が「教育期待」に影響し, それが子どもの「読書経験」 ,ならびに親の「暖かさ」を介して,標準学力検査の成績に影響す ることが明らかになった。この研究における「両親の教育期待」の測定は, 「お子さんの将来の 進学は,どの段階までだと思いますか」と尋ね「11 学年」から「博士号取得」までの8段階評 定で答えてもらうというものであり,進路期待は1項目が含まれるのみであった。 Oishi & Sullivan(2005)の研究1では, 日本の大学生 78 人とアメリカの大学生 114 人を対象に, 「人生満足度」 , 「自尊心」 , 「 両 親 の 期 待 充 足 度 認 知(perceived fulfillment of parental expectations) 」の3尺度の比較が行われた。その結果,この3尺度すべてにおいて,アメリカの 大学生の平均得点は日本の大学生の平均得点よりも高いが,両群とも, 「両親の期待充足度認知」 の尺度と他の2尺度との間に有意な正の相関が見られた。研究2では,アジア系アメリカ人 37 人とヨーロッパ系アメリカ人 37 人との比較が行われ,同様の傾向が見出された。両親の期待が パーソナリティ形成に果たす役割は,子どもの場合だけでなく,大学生においても大きかったの である。 本研究は、以上のような研究を参考に、国立 A 大学の学生 135 人(平均 19.6 歳;SD=1.12) , および,国立 B 大学の学生 46 人(平均 18.9 歳;SD=0.88) ,合計 181 人を対象とし,親の期待度 の認知と実現度の認知の 2 点から行った予備的研究(子安・郷式,2007)に基づいて選定された 項目を用いて “子どもによい放送” プロジェクトの対象者の親に実施したものである。分析は、 期待度の認知と実現度の認知の関係のほか、メディア接触との関連性、およびその他の尺度との 関連性を検討する。 2.各項目の基本統計量 「期待」と「実現」の各項目の回答の平均と標準偏差(SD)を男児・女児別に表1に示した。 「期待」と「実現」という質問内容による違い、項目間の違い、および性差を検討するため、2 (期待と実現)× 20(項目)× 2(性別)の3要因分散分析を行った。その結果、期待と実現と — 57 — 項目の交互作用(F (13.80, 11175.89) =52.95, p<.01, η2=.061) 、項目と性別の交互作用(F (14.21, 、期待と実現と性別の交互作用(F(1, 810) =29.53, p<.01, η2=.012) 11506.70) =3.98, p<.01, η2=.005) 、 項目の主効果(F(14.21, が見られた。また、 期待と実現の主効果(F(1, 810) =1893.71, p<.01, η2=.7) 11506.70) =256.16, p<.01, η2=.24)が見られた。二次の交互作用および性別の主効果は見られなか った。 項目と性別の交互作用が見られたことから、どの項目に性差があるのか調べたところ、すべて の項目で性差が見られた。また、 「期待」と「実現」と性別の交互作用が見られたが、図1から は「実現」のほうが「期待」よりも平均値がすべての項目において低いものの、男児と女児のグ ラフどちらに関しても似通った形状を示した。図1は表1のデータと内容的に重複するが、 「期待」 と「実現」の違いおよび性別による各項目の変動の類似性をわかりやすくするために示したもの である。 性差に関連する交互作用の効果量が比較的小さいことと、性差の主効果が見られなかったこと から、以後の分析では性差を要因として検討する必要はないものと判断した。 表1 期待と実現の各項目の平均と標準偏差 1. 相手の立場に立てるやさしい子 2. 負けず嫌いの強い子 3. みんなと仲良くできる子 4. 自分の考えをつらぬける子 5. うそをつかない正直な子 6. うそも方便ということもわかる子 7. したいことは 「したい」 と言える子 8. したくないことは 「いや」 といえる子 9. したくてもがまんできる子 10. したくないことでもできる子 11. きびきびした活発な子 12. じっくりとものごとを考える子 13. 細かなことに気がつく子 14. ものごとにこだわらない大らかな子 15. ユーモアが理解できる子 16. 親の言うことをよく聞く子 17. 未知のものごとにも挑戦する子 18. 慎重にものごとに取り組む子 19. 勉強にも積極的な子 20. リーダーシップがとれる子 平均 4.74 3.72 4.72 4.25 4.71 3.28 4.53 4.46 4.21 4.14 4.14 4.46 3.80 3.99 4.26 3.77 4.38 3.93 4.38 3.94 期待 男児 SD 0.54 0.98 0.55 0.77 0.61 1.20 0.64 0.70 0.88 0.86 0.94 0.74 1.00 0.86 0.84 0.88 0.77 0.88 0.81 1.02 平均 3.66 3.07 4.16 3.39 3.60 2.49 3.77 3.65 3.32 3.09 3.20 3.05 2.99 3.13 3.63 3.33 2.88 3.16 3.13 2.91 実現 SD 0.98 1.17 0.83 0.94 1.07 1.07 0.96 0.99 1.04 0.97 1.11 1.07 1.05 0.94 1.00 0.94 1.03 1.04 1.14 1.15 平均 4.73 3.49 4.65 4.22 4.63 3.35 4.38 4.38 4.23 4.08 4.21 4.45 4.10 3.96 4.23 3.81 4.30 3.90 4.40 3.74 期待 女児 SD 0.50 1.01 0.60 0.76 0.59 1.16 0.67 0.72 0.77 0.82 0.83 0.68 0.87 0.95 0.87 0.89 0.77 0.84 0.67 0.94 平均 3.84 3.16 4.19 3.34 3.71 2.56 3.74 3.63 3.48 3.18 3.36 3.18 3.24 3.33 3.68 3.42 2.89 3.23 3.32 2.97 実現 SD 0.82 1.14 0.78 0.96 0.92 1.04 0.94 0.95 0.96 0.94 1.02 1.02 1.01 1.00 0.91 0.89 1.03 1.00 1.03 1.07 さらに図1からは「期待」と「実現」のグラフは( 「実現」のほうが「期待」よりも平均値が すべての項目において低いものの)似通った形をしていることが読み取れる。ただし、項目によ って「期待」の度合いはそれほど高くないが、 「実現」の度合いは高いもの(例えば、 「2.負け ず嫌いの強い子」 )や、 反対に「期待」の度合いはある程度高いが「実現」の度合いが低いもの(例 えば、 「12.じっくりものごとを考える子」 「17.未知のものごとに挑戦する子」 )があるために、 「期待」のグラフと「実現」のグラフがいくつかの項目に関して形状が異なり、 「期待」と「実現」 と項目の交互作用が見られたものと思われる。項目間の関連に関しては、次項以降で検討する。 — 58 — 図1 「期待」と「実現」の項目および男女別の平均値 5.00 4.50 4.00 3.50 3.00 男児期待 男児実現 2.50 女児期待 2.00 女児実現 3.因子分析による検討 項目間の関連、特に、各項目に影響する潜在因子を検討するため、探索的因子分析を行った。 全項目を分析対象として、反復主因子法によって因子抽出を試みた。その結果、固有値が1以上 および分散を説明する割合が 40%以上という基準、および、固有値スクリープロットの変化から、 5因子構造が妥当と判断した。そこで、再度5因子を仮定して、反復主因子法、Promax 回転に よる因子分析を行った。 Promax 回転後の最終的な因子パターンを表2に、因子間相関を表3に示した。なお、回転前 の5因子で 40 項目の全分散を説明する割合は 43.2%であった。 表2に示されているように、抽出された5因子のうち、第Ⅰと第Ⅳの2因子は「期待」に関す るもの、第Ⅴ因子に含まれる期待の「6.うそも方便ということもわかる子」を除いて、第Ⅱ・ 第Ⅲ・第Ⅴの3因子は「実現」に関するものであった。したがって、 「期待」項目と「実現」項 目はほぼ混ざることなく分離されたといえよう。各因子の内容は、 第Ⅰ因子: 「期待」の項目 4・7・8(第Ⅳ因子)と項目 6(第Ⅴ因子)を除いた残りの「期待」 項目が集まる、一般的期待因子 第Ⅱ因子: 「実現」の項目 5・9・10・12・13・16・18・19 からなる、実現された成熟性因子 第Ⅲ因子: 「実現」の項目 2・4・6・7・8・11・17・18 からなる、実現された自己主張・積 極性因子 第Ⅳ因子: 「期待」の項目 4・7・8 からなる、期待される自己主張因子 第Ⅴ因子: 「実現」の項目 1・3・14・15 および「期待」の項目 6 からなる、実現された協調 性因子 — 59 — 表2 探索的因子分析の結果(パターン行列) 養育者の子供への期待度 13. 細かなことに気がつく子 第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 0.722 0.036 -0.039 -0.125 -0.015 養育者の子供への期待度 18. 慎重にものごとに取り組む子 0.659 0.052 -0.046 -0.057 -0.124 養育者の子供への期待度 12. じっくりとものごとを考える子 0.618 0.047 -0.102 0.032 0.031 養育者の子供への期待度 19. 勉強にも積極的な子 0.614 0.116 -0.049 -0.039 -0.025 養育者の子供への期待度 16. 親の言うことをよく聞く子 0.608 -0.041 -0.088 -0.126 -0.052 養育者の子供への期待度 20. リーダーシップがとれる子 0.573 -0.046 0.161 -0.104 0.060 養育者の子供への期待度 11. きびきびした活発な子 0.552 -0.110 0.133 -0.029 0.038 養育者の子供への期待度 17. 未知のものごとにも挑戦する子 0.517 0.023 0.098 0.091 -0.038 養育者の子供への期待度 10. したくないことでもできる子 0.474 -0.013 -0.035 0.181 -0.117 養育者の子供への期待度 9. したくてもがまんできる子 0.457 -0.015 -0.001 0.205 -0.058 養育者の子供への期待度 15. ユーモアが理解できる子 0.453 -0.014 0.109 0.049 0.109 養育者の子供への期待度 3. みんなと仲良くできる子 0.430 -0.070 -0.118 0.050 0.252 養育者の子供への期待度 5. うそをつかない正直な子 0.411 -0.014 -0.083 0.059 0.105 養育者の子供への期待度 1. 相手の立場に立てるやさしい子 0.404 -0.111 -0.060 0.046 0.188 養育者の子供への期待度 14. ものごとにこだわらない大らかな子 0.372 -0.086 -0.035 0.070 0.112 0.282 0.011 0.104 0.080 0.003 養育者の子供への現実認識 18. 慎重にものごとに取り組む子 -0.027 0.743 -0.081 0.047 -0.099 養育者の子供への現実認識 12. じっくりとものごとを考える子 -0.008 0.721 0.030 0.071 -0.160 養育者の子供への現実認識 16. 親の言うことをよく聞く子 -0.006 0.617 -0.105 -0.004 0.164 養育者の子供への現実認識 19. 勉強にも積極的な子 -0.010 0.603 0.180 -0.018 -0.107 養育者の子供への現実認識 9. したくてもがまんできる子 -0.045 0.565 -0.054 0.082 0.299 養育者の子供への現実認識 13. 細かなことに気がつく子 0.052 -0.155 0.073 養育者の子供への期待度 2. 負けず嫌いの強い子 0.127 0.506 養育者の子供への現実認識 10. したくないことでもできる子 -0.018 0.482 0.061 0.057 0.218 養育者の子供への現実認識 5. うそをつかない正直な子 -0.099 0.428 -0.036 0.085 0.145 養育者の子供への現実認識 7. したいことは 「したい」 と言える子 -0.025 -0.172 0.713 0.141 0.068 養育者の子供への現実認識 8. したくないことは 「いや」 といえる子 -0.091 -0.195 0.672 0.124 0.061 養育者の子供への現実認識 11. きびきびした活発な子 -0.002 -0.072 0.661 -0.088 0.133 養育者の子供への現実認識 20. リーダーシップがとれる子 -0.021 0.124 0.653 -0.151 0.023 0.062 0.045 0.624 -0.091 -0.065 -0.074 0.142 0.585 0.107 -0.011 0.000 0.205 0.481 0.005 -0.047 養育者の子供への現実認識 6. うそも方便ということもわかる子 -0.002 0.210 0.314 -0.027 -0.026 養育者の子供への期待度 7. したいことは 「したい」 と言える子 0.081 -0.024 0.053 0.759 -0.030 養育者の子供への期待度 8. したくないことは 「いや」 といえる子 0.027 0.131 -0.061 0.703 -0.025 養育者の子供への期待度 4. 自分の考えをつらぬける子 0.267 0.047 0.079 0.324 0.020 養育者の子供への現実認識 2. 負けず嫌いの強い子 養育者の子供への現実認識 4. 自分の考えをつらぬける子 養育者の子供への現実認識 17. 未知のものごとにも挑戦する子 0.054 0.116 0.142 -0.022 0.574 -0.001 0.427 -0.057 -0.018 0.532 養育者の子供への現実認識 14. ものごとにこだわらない大らかな子 0.062 -0.066 0.290 -0.014 0.301 養育者の子供への現実認識 15. ユーモアが理解できる子 0.078 0.114 0.295 -0.068 0.292 養育者の子供への期待度 6. うそも方便ということもわかる子 0.221 0.086 0.103 0.079 -0.214 養育者の子供への現実認識 3. みんなと仲良くできる子 養育者の子供への現実認識 1. 相手の立場に立てるやさしい子 — 60 — 表3 因子間の相関 第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 1.000 0.235 0.318 0.353 0.219 0.235 1.000 0.386 0.058 0.129 0.318 0.386 1.000 0.125 0.224 0.353 0.058 0.125 1.000 0.159 0.219 0.129 0.224 0.159 1.000 とまとめることができよう。 4.「期待」と「実現」の間の関連モデル 因子間の構造をさらに検討するために、Amos5.0w を使用した SEM による表2のパターン行 列と同じ構造の検証的因子分析を行った。また、 先の探索的な因子分析よって「期待」項目と「実 現」項目はほぼ混ざることなく分離されたことから、第Ⅰ因子と第Ⅳ因子に影響を及ぼす「期待」 因子とその他の因子に影響を及ぼす「実現」因子の2つの潜在因子を構造に含む2次の因子モデ ルを構成した。なお、先行研究(子安・郷式,2007)では「期待」にも基づいて「実現」が生じ ていると考え、 「期待」に関する潜在因子から「実現」に関する潜在因子への回帰的な因果関係 を含む多重指標モデルを提案している。なお、子安・郷式(2007)の多重指標モデルでは、 「実現」 の一次因子の撹乱項目と「実現」の各因子に対応する「期待」の項目の誤差の間に共分散を設定 した多重指標モデル(一次因子・誤差共分散有)を採用している。本研究でもこれに倣い、図2 で示した多重指標モデル(一次因子・誤差共分散有)を検討した。ただし、誤差共分散のうち1% 水準で有意でないものについて除いた図2のモデルを検討した。 表4に示した適合度指標から、多重指標モデル(一次因子・誤差分散有)の GFI、AGFI が最 も大きく、RMSEA が最も小さいこと、また他のモデルよりも AIC が小さいことから、多重指 標モデル(一次因子・誤差分散有)が最も妥当性を備えたモデルであるといえよう。 — 61 — 図2 多重指標モデルの結果(標準化解) — 62 — 表4 各モデルの共分散構造分析の結果(適合度指標) GFI 検証的因子分析 0.807 2次の因子モデル 0.807 多重指標モデル(一次因子・誤差共分散有) 0.832 AGFI 0.784 0.785 0.808 AIC RMSEA 3849.50 0.071 3844.32 0.070 3337.01 0.064 5.「期待」「実現」とメディア接触との関係 養育者による「期待」と「実現」がメディア接触とどのように関連するのかについて検討した。 まず、養育者による「期待」と「実現」の項目に関して、因子ごとに平均値を算出した。その平 均値とメディア指標との相関係数を表5に示した。表5から、養育者による「期待」と「実現」 とメディア接触の各指標の間には、相関が見られないか、見られても比較的弱いものであった。 表5 期待と実現の因子ごとの項目の平均値とメディア接触量との関連 一般期待因子 N=821 テレビ接触時間量 テレビ接触子どもだけ テレビ視聴時間量 テレビながら テレビついているだけ ビデオ接触量 ビデオ接触子どもだけ ビデオ視聴時間量 ビデオながら ビデオついているだけ ゲーム接触時間量 ゲーム接触子どもだけ ゲーム接触大人と一緒 ゲーム接触子ども1人 -0.039 -0.056 -0.006 -0.013 -0.1 15 -0.075 -0.072 -0.089 -0.050 0.014 -0.053 -0.014 -0.076 -0.052 実現された成熟性 実現された自己主 期待される自己主 実現された協調性 因子 張・積極性因子 張因子 因子 N=817 N=814 N=829 N=815 -0.075 - 0 .1 1 8 -0.073 -0.053 -0.036 -0.051 -0.083 -0.063 0.004 0.023 -0.064 0.052 -0.008 -0.033 - 0 .1 1 4 - 0 .0 9 3 - 0 .1 0 1 -0.075 -0.077 -0.027 -0.036 -0.038 0.014 -0.012 - 0 .1 0 1 -0.045 -0.089 - 0 .1 0 4 - 0 .0 9 5 -0.077 - 0 .1 0 3 - 0 .0 9 9 -0.029 -0.009 0.008 -0.021 -0.033 0.088 0.051 0.051 -0.008 0.029 -0.084 -0.026 -0.090 - 0 .0 9 8 -0.028 -0.062 -0.044 -0.072 -0.045 -0.030 -0.081 -0.024 -0.057 -0.084 6.「期待と実現」の各因子とその他の質問項目の関連 期待と実現の5因子と関連する質問し調査の質問項目について探索的に検討した。なお、各因 子に関しては、それぞれの因子に含まれる質問項目の平均得点を指標として用いた。 まず、テレビの見せ方と期待と実現の各因子との相関を検討したところ(表6) 、親子でテレ ビを一緒に楽しむこと( 「10 ○○さんと一緒にテレビを見ることは楽しい」 「11 ○○さんはあ なたと一緒にテレビを見ると楽しそうだ」 )に関しては、すべての因子と弱い相関が見られた。 子どもに対する期待の高さやそれが実現している実感が、子どもと一緒にテレビを楽しむ母親ほ ど高いことを意味しているものと思われる。また、テレビを見る時間の制限( 「6 ○○さんが 見てよい時間を決めている」 )に関しては、因子Ⅳ「期待される自己主張因子」以外の因子で弱 い相関が見られた。子どもに対する期待の高さやそれが実現している実感が高い母親ほど、テレ ビを見る時間の制限を行う可能性が高いことを示しているものと思われる。その他に、 因子Ⅰ「一 般期待因子」とは「3 ○○さんに見せたくない内容の番組はチャンネルを変えたりして見せな い」 「4 ○○さんが見てよい番組を決めている」 「5 ○○さんが見てはいけない番組を決めて — 63 — いる」と弱い相関が見られた。また、因子Ⅱ「実現された成熟性」と「2 見ているテレビの内 容について○○さんと話す」の間に、因子Ⅴ「実現された協調性因子」と「3 ○○さんに見せ たくない内容の番組はチャンネルを変えたりして見せない」の間に弱い相関が見られた。 表6 各因子とテレビの見せ方(テレビ指導)の相関 1.テレビ 指導:一緒 に見る 2.テレビ 指導:内容 について話 す .0 55 832 3.テレビ 指導:チャ ンネル変え る .096 829 4.テレビ 指導:見て よい番組 決め .120 832 5.テレビ 指導:見て はいけない 番組決め .141 830 6.テレビ 指導新:見 てよい時間 決め .111 830 .089 831 9.テレビ 指導新:子 からの番組 への誘導 .070 831 10.テレビ 指導:一緒 に見ると楽 しい .133 830 11.テレビ 指導:一緒 に見ると楽 しそう .203 831 7.テレビ 指導:食事 中つけない 8.テレビ 指導新:番 組への誘導 -.023 830 理想と実現因子1 Pearson の相関係数 N .0 39 833 理想と実現因子2 Pearson の相関係数 N .0 63 828 .135 827 .069 825 .081 828 .070 826 .107 826 .0 42 825 . 088 827 .0 33 826 .169 826 .183 827 理想と実現因子3 Pearson の相関係数 .0 03 .074 .0 29 .0 52 .0 39 .094 .0 38 .0 56 . 088 .09 2 .098 理想と実現因子4 N Pearson の相関係数 N 825 .0 31 841 824 .0 51 840 821 .0 57 837 824 . 059 840 822 .0 38 838 822 .0 64 838 823 .0 49 838 823 .0 68 839 823 . 059 839 822 .103 838 823 .145 839 Pearson の相関係数 N .0 34 826 .0 55 825 .101 823 .073 826 .0 32 824 .115 824 .0 51 823 .0 40 825 .0 28 824 .133 824 .134 825 理想と実現因子5 ゲームの使わせ方と期待と実現の各因子との相関を検討したところ(表7) 、因子Ⅴ「実現さ れた協調性因子」と「2 ○○さんがしてよいゲームソフトを決めている」との間にのみ弱い相 関が見られた。 理想と実現因子1 表7 各因子とゲームの使わせ方(ゲーム指導)の相関 ゲームの使わ ゲームの使わ ゲームの使わ ゲームの使わ ゲームの使わせ ゲームの使わせ ゲームの使わせ 方8:一緒に ゲームの使わ せ方2:して せ方3:して せ方4:画面 せ方5:内容 方6:一緒にや 方7:一緒に せ方1:一人 良いソフト決 良い時間決 に近づき過ぎ についてよく ろうと誘われる ゲームをするの ゲームをすると 子楽しそう めている まっている ない 話す ことがある は母楽しい でさせない Pearson の相関係数 .0 51 .0 67 .0 29 .0 03 -.008 .047 .052 .050 833 832 831 833 832 832 831 831 理想と実現因子2 N Pearson の相関係数 N .074 828 .0 09 828 .010 826 -.016 828 .076 828 .017 827 .069 827 .0 42 827 理想と実現因子3 Pearson の相関係数 N .0 55 825 .0 45 824 .017 822 -.011 825 .004 824 .014 824 .034 823 -.0 04 823 理想と実現因子4 Pearson の相関係数 N .0 02 841 .0 28 840 .0 42 838 .0 58 841 .0 45 840 .0 61 840 .069 839 .080 839 理想と実現因子5 Pearson の相関係数 N .068 826 .103 826 .079 824 .0 45 826 .0 47 826 .0 28 825 .0 63 825 .0 26 825 また、テレビの見せ方と期待と実現の各因子との相関を検討した際に、親子でテレビを一緒に 楽しむこととはすべての因子で相関が見られた。そこで、家族の凝集性との相関を検討したとこ ろ、やはりすべての因子で相関が見られた(因子Ⅰ .177、因子Ⅱ .243、因子Ⅲ .168、因子Ⅳ .159、 因子Ⅴ .216) 。なお、家族の凝集性については、各項目の相関が比較的高い(0.3 ∼ 0.7 程度)の で項目ごとではなく 10 項目すべての合計を指標とした。 期待と実現の各因子に対するきょうだいの存在の影響を検討するために、一人っ子、兄もしく は姉のいる子ども、弟もしくは妹のいる子ども、年上のきょうだいと年下のきょうだいのいる子 どもの4つの群に分け(表8) 、因子ごとに1要因3条件の分散分析を行った。その結果、因子 Ⅲ「実現された自己主張・積極性」と因子Ⅴ「実現された協調性因子」に有意な差が見られた(因 =3.921, p<.01, η2=.014) 。Bonferroni の方法 子Ⅲ F(3,804) =3.725, p<.05, η2=.014;因子ⅤF(3,804) による多重比較の結果、どちらの因子においても年上のきょうだいのいる子どものほうが年下の ̶ 64 ̶ きょうだいのいる子どもよりも得点が高かった。しかし、その他の群差は見られなかった。 表8 きょうだいの有無と各因子の関連 表8. きょうだいの有無と各因子の関連 きょうだい有無 理想と実現因 子1 理想と実現因 子2 理想と実現因 子3 理想と実現因 子4 理想と実現因 子5 なし 年上のきょうだいのみ 平均値 4.21 4.22 標準偏差 0.44 0.44 N 134 303 年下のきょうだいのみ 上下のきょうだい なし 4.19 4.06 3.22 0.45 0.58 0.71 304 67 134 年上のきょうだいのみ 年下のきょうだいのみ 上下のきょうだい 3.30 3.27 3.24 0.67 0.65 0.64 303 304 67 なし 年上のきょうだいのみ 3.18 3.28 0.70 0.67 134 303 年下のきょうだいのみ 上下のきょうだい 3.09 3.18 0.68 0.72 304 67 なし 年上のきょうだいのみ 年下のきょうだいのみ 4.39 4.35 4.40 0.58 0.56 0.51 134 303 304 上下のきょうだい なし 4.36 3.46 0.69 0.53 67 134 年上のきょうだいのみ 年下のきょうだいのみ 3.58 3.45 0.54 0.59 303 304 上下のきょうだい 3.41 0.55 67 子育てや教育の情報について関心を持っている領域と期待と実現の各因子の関連について検討 した。そのため、子育てや教育の情報に関する各領域についての関心の有無と期待と実現の各因 子の間の相関比を求めたところ、すべてごく弱い相関(0.1 前後。 )であったが、因子Ⅰ「一般期 待因子」と「2学力や成績」 「4運動能力」 「6生活習慣」 「8友達とのトラブル」 「12 外国語」 「13 芸術」 「16 メディア(パソコンなど) 」との関連、因子Ⅱ「実現された成熟性」と「10 防犯・安全」 「12 外国語」 「13 芸術」 「15 自然とのふれあい」との関連、因子Ⅲ「実現された自己主張・積極性」 と「4運動能力」 「15 自然とのふれあい」との関連、因子Ⅳ「期待される自己主張因子」と「12 外国語」 「13 芸術」 「15 自然とのふれあい」との関連、因子Ⅴ「実現された協調性因子」と「2 学力や成績」の関連が見られた(無相関の検定で1%水準で有意なもののみ) 。 さらに、子どもの自立の度合いと期待と実現の各因子の関連について検討し、相関係数につい て表9に示した。また、期待と実現の各因子に対する母親の就労状態(Q 24)の影響も検討し たが、特に就労状態の違いによる影響は見られなかった。 — 65 — 表9 子ども生活の自立と期待と実現の因子との相関 表9.子ども生活の自立 と期待と実現の因子との相関 N 理想と実現 因子1 830 理想と実現 因子2 825 理想と実現 因子3 822 理想と実現 因子4 838 理想と実現 因子5 823 .049 .156 .028 .080 .011 -.007 .308 .056 -.001 .029 .012 .160 .023 .021 .114 .026 .333 .133 .026 .080 .064 .349 .154 .068 .145 .116 .351 .143 .059 .168 .015 .298 .105 -.001 .126 子供の生活自立 1. 朝ひと りで起きる 子供の生活自立 2. 自分で 使ったものを片付ける 子供の生活自立 3. 朝晩の 歯磨き 子供の生活自立 4. 学校へ 行く前の点検 子供の生活自立 5. お小遣 いを大事に使う 子供の生活自立 6. ひとり でやさしい本を読み通せる 子供の生活自立 7. 決まっ たお手伝いが出来る 【註1】図 1 のデータは球面性が仮定できない(Mauchly の球面性の検定を用いた場合)ため、 Greenhaouse-Geisser のεによる修正を行った結果を示した(石村,1997;小塩, 2004) 。 文 献 Davis-Kean, P.E.(2005) .The influence of parent education and family income on child achievement: The indirect role of parental expectations and the home environment. Journal of Family Psychology, 19, 294-304. 石村貞夫(1997) .SPSS による分散分析と多重比較の手順.東京図書. Oishi, S., & Sullivan, H.W.(2005) .The mediating role of parental expectations in culture and well-being. Journal of Personality, 73, 1267-1294. 小塩真司(2004) .研究事例で学ぶ SPSS と AMOS による心理・調査データ解析─因子分析・ 共分散構造分析まで─.東京図書. 子安増生・郷式徹(2007) .大学生における両親の期待度とその実現度の認知の比較.京都大学 大学院教育学研究科紀要.53, 1-12. — 66 —