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後退発進時におけるドライバの運転行動に関する調査研究 報告書

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後退発進時におけるドライバの運転行動に関する調査研究 報告書
後退発進時におけるドライバの運転行動に関する調査研究
背景と目的
1.
米国から提案された ERBA(Extended Range Backing Aids:拡張距離後方障害物警報シス
テム)は、より速い速度での後退時における障害物検出及び警報呈示を目指したものであ
るが、日本では未だなじみが薄い状況にある。このため、ERBA の標準化検討を行う上で
欧米国での使用環境、期待される効果、センサ技術の調査、後退時におけるドライバ行動
調査が必要と考えられる。
平成14年度は、新しいセンサ技術の動向を、ERBA を含む新標準化テーマのシステム
動作要件の策定に活用することを目的とし、ERBA システムの開発動向、ERBA が有効な
駐車パターン、駐車場での進入/退出形態の実態調査、ERBA 以外の新しい運転支援シス
テムの開発動向、新しいセンサデバイスに関する技術調査を行った。
平成15年度は、日本国内において一般的なドライバが行う後退挙動に関する基礎的な
データ収集を図ることを目的とし、テストコース上に再現した後退場面に対して、複数ド
ライバの後退直進挙動及び後退駐車挙動を調査した。具体的には、後退直進時における平
均速度、障害物出現時における車両停止位置、視認行動、障害物出現時における衝突余裕
時間(Time to Collision; TTC)、障害物認知位置等を解析した。これらの調査結果を基に、
標準化が進む ERBA システムの警報呈示基準や検知範囲基準の妥当性を検討した。
2.
実施内容
2.1
実車走行実験による後退時のドライバ行動調査
図 1 に示す後退場面を設定し、通常の後退速度にて目的の駐車スポットへ後退駐車する
よう教示する。以下に示す障害物出現/非出現の合計 7 走行をランダムに行う。障害物出
現の場合には、実験車両後方から障害物までの距離が約 5m となった地点で、障害物が実
験車両後方に存在しているよう、障害物を飛び出させる。また、予め障害物を車両後方に
るために警報の呈示を
得たいと感じる極限の
2.3m
障害物
据置き、安全に停止す
5.0m
スタート位置
10m
20m
5m
4.5m
走 行車線
地点を評価させる。
・ 被験者:30~60 歳代
の,女性 9 名/男性
11 名
-10m
-20m
-5 m
0m
目的駐車スポット
後 退直進 距離
図 1. 後退場面
・ 障害物非出現:障害
物出現位置から、5m(1 走行), 10m(2 走行), 20m(2 走行)の位置からスタート
・ 障害物出現(20m スタートのみ):警報なし(1 走行)、警報あり(1 走行)
3.
得られた成果
3.1
後退直進時の平均速度
・ 後方障害物に衝突した被験者の後退速度の平均値は定常状態で 1.9m/s(図 2)、衝突しな
かった被験者の場合には同じ条件で 1.1m/s であり(図 3)、顕著な差が観測された。
-1-
・ 後退直進時の速度が大きい場合には、後方障害物へ衝突する危険性が増加し、逆に速度
が小さい場合には衝突を回避できる可能性が高いと判断できる。
3.0
3.0
後 退進 行方向
スタート
2.5
2.5
後退直進速度
平均:1.9(m/s)
分散:0.6(m/s)
2.0
後退直進速度 (m/s)
2.0
後退直進速度 (m/s)
後退進行方向
スタート
1.5
1.0
後退直進速度
平均:1.1(m/s)
分散:0.2(m/s)
1.5
1.0
0.5
0.5
障害物出現
障害物出現
0.0
0.0
-20
-15
-10
-5
0
5
-20
-15
-10
障害物出現位置からの距離 (m)
図 2. 後退直進速度と後退距離(衝突被験者)
3.2
-5
0
5
障害物出現位置からの距離 (m)
図 3. 後退直進速度と後退距離(非衝突被験者)
障害物出現時の停止距離
・ 停止距離は、障害物を認知し停止した際の、車両後端から障害物までの距離と定義する。
・ 後退直進速度が大きいために衝突の危険性が高いと考えられる被験者に対しても、警報
呈示が停止距離を安全側にシフトさせる効果は高かった。
・ 警報呈示なしで障害物手前で停止できた被験者も、より早い地点で警報呈示を望む。
・ 今回の実験において設定した警報呈示タイミング(車両後方 5m の地点で警報呈示)と、
ドライバが望む警報タイミングはほぼ等しいと判断される。
3.3
障害物出現時の衝突余裕時間(Time to collision: TTC)
・ TTC は、障害物を認知しブレーキ操作を開始した時点で、障害物までの残り距離を後退
直進速度で除した値とする。
・ TTC で 1.2s~1.4s の範囲が、衝突/非衝突の境界値となる(図 4)。
・ 後退直進速度が大きく、障害物との衝突危険性の高いと判断されたドライバが望む TTC
は、ブレーキ操作時点で約 1.7s である(図 5)。
8
8
平均=4.3s
7
6
5
最小=1.4s
4
最大=1.2s
3
2
平均=0.8s
6
5
システム遅れ時間
による制限(0.15s)
4
平均=1.7s
3
2
1
1
0
0.0
ブレーキ操作開始時・障害物までの距離(m)
ブレーキ操作開始時・障害物までの距離(m)
7
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
0
0.0
ブレーキ操作開始時・速度(m/s)
非衝突/警報なし障害物
0.5
1.0
1.5
非衝突/望ましい
衝突/警報なし障害物
図 4. 警報非呈示の場合の TTC
2.0
2.5
ブレーキ操作開始時・速度(m/s)
衝突/望ましい
図 5. 望ましい警報呈示タイミングでの TTC
-2-
3.0
3.4
警報呈示からブレーキ操作開始までの反応時間
・ 警報呈示時には速やかにブレーキ操作を開始するよう教示を行ったが、ほぼ全ての被験
者が平均値で 0.5s の間にブレーキ操作を開始した(図 6)。
3.5
障害物の走路への進入からブレーキ操作開始までの反応時間
・ 障害物に衝突した被験者は概ねこの反応時間が顕著に長く、後方障害物の認知までに多
0.8
衝突グループ
平均=0.5s
標準偏差=0.1s
非衝突グループ
平均=0.5s
標準偏差=0.1s
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
推
定
不
能
0.2
0.1
推
定
不
能
衝突グループ
平均=1.2s
標準偏差=0.4s
1.8
1.6
認
知
無
し
限
て
大
い
と
な
仮
い
定
た
め
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
推
定
不
能
00
4
00
5
01
1
01
2
01
5
01
9
01
0
01
6
0.0
被験者番号
被験者番号
図 6. 警報呈示からブレーキ操作
開始までの反応時間
3.6
非衝突グループ
平均=0.7s
標準偏差=0.2s
1.4
00
6
00
7
00
9
01
4
01
7
01
8
02
0
02
1
02
2
02
3
02
4
02
5
00
4
00
5
01
1
01
2
01
5
01
9
01
0
01
6
0.0
2.0
00
6
00
7
00
9
01
4
01
7
01
8
02
0
02
1
02
2
02
3
02
4
02
5
0.9
障害物進入からブレーキ開始までの遅れ時間(s)
警報呈示からブレーキ開始までの遅れ時間(s)
くの時間を要することが理解できる(図 7)。
1.0
図 7. 障害物進入からブレーキ操作
開始までの反応時間
後退時の視認位置及び視認時間
・ 後退直進時は、主に後方を直接視認するグループと、主にドアミラーを見る被験者に大
別される。それぞれ、車両後方、ドアミラーを長時間見続ける傾向がある。
・ 後退駐車時は、後退直進時と比較して後方を直接視認する割合が極端に低下し、全体と
してドアミラーを見る傾向が大きくなる。
3.7
障害物認知位置(認知角度)
・ 認知角度は、障害物を縦方向及び横方向のどの位置で認知したか、を示す指標とし、図
8 に示すように、実験車両後方、横方向 X、縦方向 Y の距離で障害物を認知した場合、
認知角度αを tanα=X/Y と定義する。
・ 衝突を回避した被験者であっても認知角度が小さい被験者数はわずかであり、多くの被
験者は認知角度が大きい。衝突回避に成功した場合であっても、後方障害物の認知が遅
れる傾向がある(図 9)。
90
車両右端
80
α
障害物
70
X
推
推
定
定
不
不
能
能
Y
実験車両後方
認知角度:小
⇒認知が早い
認知角度(度)
60
視認角度が顕著に小さい
50
40
30
20
認知角度:大
⇒認知が遅い
10
衝突グループ
非衝突グループ
0
004 005 010 011 012 015 016 019
006 007 009 014 017 018 020 021 022 023 024 025
被験者番号
図 8. 後退時の視認位置及び視認時間
図 9. 障害物認知位置(認知角度)
-3-
4.
本実験結果に基づく考察
4.1
衝突/衝突回避のプロセス
少 な く と も 今 回 の 実 験 結果 か ら
被験者20名
6名
14名
後退直進速度が小さい
後退直進速度が大きい
は、後方障害物との衝突あるいは衝
突回避のプロセスは、図 10 に示す
9名
衝突回避のための
時間的余裕が極端に少ない
ドアミラー/
ルームミラー多用
ように A~D までの5パターンに分
直接後方視認
類できる。これらのパターンをまと
めると、後方障害物との衝突は、
「衝突回避のための時間的余裕」と、
5名
5名
2名
2名
1名
直接
後方視認
1名
1名
5名
3名
認知角度が
極端に大きい
認知角度が
大きい
認知角度が
小さい
障害物認知
の反応が
短い
障害物認知
の反応が
極端に長い
障害物認知
の反応が
長い
障害物認知
の反応が
短い
5名
1名
3名
3名
8名
衝突回避のための
空間的余裕が
極端に少ない
衝突回避のための
空間的余裕が
多い
衝突回避のための
空間的余裕が
極端に少ない
衝突回避のための
空間的余裕が
少ない
衝突回避のための
空間的余裕が
多い
結果として
衝突回避のための
時間的余裕が
減少する
衝突回避のための
時間的余裕が
多い
衝突
回避
認知角度が
極端に大きい
認知角度が
極端に小さい
障害物認知
の反応が
極端に長い
「衝突回避のための空間的余裕」が
顕著に減少することにより生じる。
したがって、時間的余裕を確保する
ためには、TTC 等に代表される障害
物までの距離と後退速度に基づい
た警報、空間的余裕を確保するため
には、後方バックソナーやビデオカ
メラ等による後方視認性の確保が
望まれる。
4.2
検知基準範囲の妥当性
ERBA 国 際 標 準 ドラ フ ト に規 定
されている、後退速度の検知範囲基
準(3m/s 以下の車両)、及び車両後
衝突
A
回避
B 衝突/衝突回避のプロセス
C
D
図 10.
回避
E
方障害物に対する検知範囲基準(車
両後方 5m)に関しては、少なくとも今回の実験結果からは妥当であると判断できる。こ
れは、本実験においては後退速度が 3m/s を超える被験者は存在しなかったこと、被験者が
望ましいと感じる警報呈示タイミングと、本実験で行った警報呈示タイミング(車両後方
5m)での停止距離がほぼ等しかったことによるものである。
4.3
TTC に基づく警報呈示タイミング
TTC に基づく望ましい警報呈示基準は、少なくとも今回の意実験結果からは、障害物と
の衝突前 1.8s~2.2s 程度が望ましいと判断された。非衝突/衝突の TTC 境界値が平均で 1.3s、
衝突した被験者が望む警報タイミングでの TTC 平均値が 1.7s であるという結果を基に、
これらの値に警報に対する反応時間 0.5s を加算し、警報呈示基準を算出した。
5.
研究成果の利用
本研究の成果は、ISO/TC204/WG14 の国内審議を担当する走行制御分科会、およびその
下部組織である ERBA サブワーキングに提出され、ERBA の標準化活動に利用する。
-4-
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