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第3回 情報経済と産業連関
情報経済論 第3回 情報経済と産業連関 4、ポラトの情報経済論(1977) (1) ポラトの情報経済論の構造 ポラト( Marc Uri Porat, 1947- )はマッハルプやドラ ッカーに影響され、国民経済における情報活動を重視し『情 1 報経済』 (1977)を著した。そして、情報財と他財との流れ、 関連を構造的に解明しようとした。 まずポラトは「情報は組織化され、伝達されたデータである。情報活動は情報 財と情報サービスの生産、処理、流通において消費されるすべての資源を含む」 (p.2 邦訳 17 頁)として、情報活動を「第一次情報部門」と「第二次情報部門」に 分ける。 「第一次情報部門」はマッハルプの分類(知識産業)と同じで「市場向けに情 報機械を生産するか、情報サービスを販売するすべての産業」である。 「第二次情報部門」は「政府や非情報産業によって内部消費のために生産され たすべての情報サービス」である。 情報財や情報サービスの市場における流れは図 2-1 のようになる。 図2-1 ポラトによる財とサービスの流れ(市場取引) 金属板・銅 生産管理 民間の管理部門 コンピュータ (第二次情報部門) 通信サー ビス 第一次情報部門 民間の生産部門 食料 広告 自動車 衣料 テレビ・放送 コンピュータ 家 計 机・椅子 バス 教育 学校 道路 コンピュータ・通信施設 公共の管理部門 公共の生産部門 (第二次情報部門) 第一次情報部門 第二次情報部門 最終消費 非情報部門 (出所)ポラト『情報経済入門』、p.7.訳34頁より作成。 Porat, M. U. ., The Information Economy: Definition and Measurement , U.S. Department of Commerce, 1977. 小松崎清介監訳『情報経済入門』コンピュータ・エージ社, 1982 年 1 9 情報経済論 この分類をもとにアメリカの国民経済(1967 年)の「情報経済の構造」を計量 したのが表 2-1 である。 表2-1 ポラトによる情報経済の構造図(1967年) (単位:百万ドル) 生産者 第一次情報部門 第二次情報部門 非情報部門 付加価値 対GNP比 中 間 消 費 者 第一次 第二次 情報部門 情報部門 非情報部門 69,754 78,719 0 0 616 227,778 59,538 0 571,503 199,642 25.1% 167,826 21.1% 427,920 53.8% 最終消費 対GNP比 174,585 27,440 593,363 21.9% 3.4% 74.6% 795,388 (出所)図2-1に同じ、p.7.訳33頁。 GNP 比で見れば「第一次情報部門」(21.9%)「第二次情報部門」(3.4%)と いう比率であるが、付加価値でみると両者の合計は GNP の 46%を超えたと結 論づけられる。 (2) ポラトの情報経済論の意義 ポラトの情報経済論は情報生産部門自体の分類に関してはマッハルプやドラ ッカーと同じ手法を用いており、依然として情報生産に関する過大評価がある。 しかしながら、マッハルプやドラッカーが単に GNP における情報生産部門(知 識生産部門)の構成比の分析にのみ終始したのと異なり、情報生産部門(情報 生産部門内)と非情報生産部門の生産と流通の構造を明かにし、国民経済にお ける情報生産=情報産業の果たす役割を明らかにした意義は大きい。 なお、生産部門を分割して、その連関の構造を明らかにする手法は、マルクス 『資本論』第 2 巻「資本の流通過程」の第 3 篇「社会的総資本の再度生産と流通」に おける再生産表式に遡る。マルクスの再生産表式はケネーの経済表(→「経済学 概論」)の検討に基づいて形成され、またレオンチェフの産業連関表の形成に影 響を与えた。 10 情報経済論 補論1 再生産表式から産業連関分析へ (1)社会的総資本の再度生産と流通 資本主義経済において企業(個別資本)は利潤を追求して行動するが、社会 全体としては社会的分業が編成され、生産活動と消費活動が繰り返し行われ、資 本主義経済自体が再生産される。この再生産の条件や法則を解明するのが再生 産論であり、マルクスはこの社会的再生産の総括図式を「再生産表式」として構 成した。ここで、生産部門は生産財生産部門と消費財生産部門に 2 部門分割され それぞれの価値構成(不変資本、可変資本、剰余価値)の流通が解きあかされる。 生産財部門の生産物は両部門で不変資本に充当され、消費財部門の生産物は両 部門の労働者(可変資本)+資本家(剰余価値)によって消費される。 第Ⅰ部門(生産財生産部門) 不変資本 生産財 +剰余価値 可変資本 第Ⅱ部門(消費財生産部門) 不変資本 +剰余価値 可変資本 11 消費財 情報経済論 (2)再生産表式(講義資料「再生産表式」参照) ①生産部門の 2 部門分割と単純再生産のための条件(資本家が剰余価値のすべ てを消費する場合) 生産額 第Ⅰ部門 Ⅰ W = 第Ⅱ部門 Ⅱ W = 不変資本 可変資本 剰余価値 Ⅰ C + Ⅰ V + Ⅰ M Ⅱ C + Ⅱ V + Ⅱ M Ⅰ W = Ⅰ C + Ⅱ C Ⅱ W = Ⅰ V + Ⅰ M + Ⅱ V + Ⅱ M ∴ Ⅱ C = Ⅰ V + Ⅰ M 例) 生産額 不変資本 可変資本 剰余価値 第Ⅰ部門 6000 4000 1000 1000 第Ⅱ部門 3000 2000 500 500 ②拡大再生産-ケース1(剰余価値のうち一定の割合を、資本構成の比率に従っ て追加投資する場合) 第1期 第Ⅰ部門 第Ⅱ部門 第2期 第Ⅰ部門 第Ⅱ部門 第3期 第Ⅰ部門 第Ⅱ部門 生産額 6000 3000 生産額 6600 3300 生産額 6660 3360 不変資 本 4000 2000 不変資 本 4400 2200 不変資 本 4440 2240 可変資 本 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1000 500 400 100 500 250 200 50 1000 500 可変資 本 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1100 550 440 110 550 250 240 60 1100 550 可変資 本 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1110 555 444 111 560 250 248 62 1110 560 12 情報経済論 ③拡大再生産-ケース2(剰余価値のうち一定の割合を、資本構成を高度化させ ながら追加投資する場合) 例)剰余価値のうち 50%を消費、残りをすべて 第1期 第Ⅰ部 門 第Ⅱ部 門 第2期 第Ⅰ部 門 第Ⅱ部 門 第3期 第Ⅰ部 門 第Ⅱ部 門 生産額 不変資 本 可変資 本 6000 4000 1000 3000 2000 500 生産額 不変資 本 可変資 本 6500 4500 1000 3250 2250 500 生産額 不変資 本 可変資 本 6500 4500 1000 3250 2250 500 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1000 500 500 0 500 250 250 0 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1000 500 500 0 500 250 250 0 剰余価 値 剰余価値の内訳 資本家消 不変資本 可変資本追 費 追加 加 1000 500 500 0 500 250 250 再生産表式において、両部門間の比率、資本構成(資本の有機的構成=不変資 本/可変資本)、剰余価値率、資本蓄積率などを操作することによって、資本主義 的生産の傾向と、恐慌(過剰生産=需要不足)の可能性を明らかにすることが できる。ただし、これはあくまでも恐慌の可能性であって、それが資本主義再生 産の不可能性に帰結するものではない。 13 0 情報経済論 (3)再生産表式から産業連関分析へ 現実の経済における再生産過程はマルクスのモデルのように単純に2部門に 分割されるものではなく、また生産される財(またはサービス)も、ある時には 生産財として、またある時には消費財として「消費」さ れる。 そこで、産業を多部門に分割し、生産される財(サー ビス)を産業間取引も含んで把握した表( Matrix)に よって分析しようとする産業連関分析を、 1930 年代の 半 ば に ロ シ ア 生 ま れ の 経 済 学 者 、 W. レ オ ン チ ェ フ (Wassily Leontief, 1906~1999)が開発した。彼は F. ケネーの経済表、K.マルクスの再生産表式、そして L.ワ ルラスの一般均衡理論からこの着想を得たと言われて いる。 W.レオンチェフ 14 情報経済論 (3) 産業連関表と産業連関分析(講義資料「行列式と産業連関分析」参照) ① 産業連関表 レオンチェフが開発した産業連関表は、各財・サービスの投入産出の相互関 係を示したものであり、IO 表(Input -Output Table、投入産出表)とも呼ばれ る。 国民所得統計が付加価値の生産・分配・支出を中心に経済活動を把握しよう とするのに対して、産業連関表は、中間投入の産業間取引も含んで把握しようと するものである。 表 3-3 は、2部門モデルでの産業連関表のひな型である。 表 3-3 産業連関表のひな型 中間需要 産業1 産業2 中間投入 産業1 x11 x12 産業2 x21 x22 粗付加価値 V1 V2 国内生産額 X1 X2 最終需要 国内生産額 F1 F2 X1 X2 2 投入係数 表 3-3 の財・サービスの投入額、粗付加価値を国内生産額で除したものが投入 係数となり、表 3-4 のような投入係数表ができる。これは労働・資本などの生産 要素の投入単位を示している。 表 3-4 投入係数表のひな型 中間需要 産業1 産業2 産業1 a11 a12 産業2 a21 a22 粗付加価値 v1 v2 国内生産額 1 1 投入係数表のタテ列は、各産業の各中間財投入単位を示しているのであるか ら、各時点において採用されている生産技術構造を反映している。そして、生産 技術構造が変化すれば、投入係数も変化する。 15 情報経済論 図 3-1 は、電子計算機・同付属装置の投入係数表(上位 10 部門、2000 年)で ある。 図3-1 電子計算機・同付属装置の投入係数表(上位10部門) 電子部品 0.200000 その他の対事業所サービス 0.150000 0.100000 重電機器 0.050000 0.000000 物品賃貸サービス 半導体素子・集積回路 電子計算機・同付属装置 研究 プラスチック製品 商業 広告・調査・情報サービス 3 産業連関分析の基本モデルと逆行列 産業連関表のヨコ行の需給バランス表を、投入係数を用いて書きかえると。生 産量決定モデルができあがる。 投入係数が(所与の生産技術構造のもとで)短期的に一定であると仮定する と、投入係数と最終需要が与えられれば、連立方程式を解くことによって各産業 の生産量が求められる。この解を求めることが産業連関分析に他ならない。 ここで、最終需要の変化が産業全体に及ぼす生産波及効果を把握することが 可能で、多部門の分析においては逆行列係数を求めることによって可能になる。 以上の内容を講義ではベクトル計算と表計算ソフトにおけるベクトル関数を 利用して行う。 16 情報経済論 ④ Excel を利用した逆行列係数の算出と波及効果の推計 逆行列係数は、表計算ソフトにおけるベクトル関数を利用して算出する。以下 2 部門モデルを使って産業連関分析を行い、産業の波及効果を調べてみる。 1、産業連関表 中間投入 農業 コンピュータ 粗付加価値 国内生産額 中間需要 コンピュータ 最終需要 国内生産額 農業 150 20 30 200 20 30 50 100 30 50 200 100 2、投入係数表 中間投入 農業 コンピュータ 粗付加価値 国内生産額 4、計算の準備 A= I-A= 中間需要 コンピュータ 農業 0.75 0.2 0.1 0.3 0.15 0.5 1 1 0.75 0.1 0.2 0.3 0.25 -0.1 -0.2 0.7 各部門の投入量を 国内生産額で割った もの 単位行列 I= 1 0 F= 10 0 0 1 逆行列 5、逆行列係数表 (I-A)-1= 4.51613 0.64516 1.29032 1.6129 4.51613 0.64516 1.29032 1.6129 6、波及効果の計算 (I-A)-1= X= (I-A)-1 F = 45.1613 6.45161 17 逆行列