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平成20年度修士論文一覧 - 東京大学 大気海洋研究所 気候システム

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平成20年度修士論文一覧 - 東京大学 大気海洋研究所 気候システム
CCSR News
2009 . 7 No.17
である事が分かった。
■平成20年度修士論文一覧
荒金 匠
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
及川 栄治
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
CALIPSOデータおよびGCMシミュレーションによる
台風0616に生じた爆発的対流に関する数値的研究
曇天域のエアロゾル直接効果に関する研究
2006年10月に発生した台風16号BEBINCAは最低
海面気圧をとる位置では対流はあまり立っておら
2006年にCALIPSO衛星が打ち上げられたことよ
ず、その北方で深い対流が生じており、スパイラル
り、初めて全球のエアロゾルや雲の鉛直分布のデー
バンドをもつ典型的な台風の構造とは異なる様相を
タ が 得 ら れ る よ う に な っ た。 そ こ で、CALIPSO
示していた。このBEBINCAについて、対象領域の水
Level 2デ ー タ と 全 球 三 次 元 エ ア ロ ゾ ル モ デ ル
平解像度を約24kmへ局所的に高めた正20面体非静
SPRINTARSを 結 合 さ せ た 大 循 環 モ デ ルMIROC/
力学モデル NICAMを用いて数値的研究を行なった。
AGCMによるシミュレーション結果を用いて、2007
NICAMの計算結果はBEBINCAの北方の深い対流
年のエアロゾルと雲の全球規模での成層状態の解析
を再現していたので、この北方の対流の形成メカニ
を行った。この解析結果によると、観測とモデル共
ズムについて解析を行なった。北方の対流域への下
に曇天域のエアロゾル層と雲層は近接しているとい
層水蒸気の流入があることを水蒸気フラックスの解
う傾向が見出された。しかし、モデルの層の高度は
析によって示し、また北方の対流域には、主に東進
観測の層の高度より低かった。
する上層トラフの影響と考えられる総観規模の力学
さらに、解析したエアロゾルと雲の均質層を用い
的な上昇流のforcingが存在することを、Hoskins and
て、曇天域のエアロゾルの直接効果による放射強制
Pedder(1980)のQベクトルを用いて明らかにした。
力を計算した。その結果、観測とモデルの曇天域の
エアロゾルの直接効果による放射強制力はともに、
井手 智之
ほぼすべての領域で正の値となった。全球平均では、
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
観測とモデルのものが同等の値を取ると思われる。
2
氷期-間氷期における大気CO2濃度変化への鉄循環
これは、IPCCで示された全球平均値-0.5W/m 程度
の役割
に比べて小さい結果となった。
氷期・間氷期サイクルにおける大気CO2濃度変動に
は、気候条件やダスト分布の違いによる海洋生物生
大野 知紀
産の変化が重要だと考えられている。これらの影響
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
を定量的に評価する為、海洋での鉄循環を陽に扱っ
3次元モデルにおける成熟期の軸対称的な熱帯低気
た海洋物質循環モデルを用いて、氷期における大気
圧の構造について
CO2濃度と生物生産が現在気候に比べてどのように
熱帯低気圧は古くから最も注目されている研究領
変化するかを数値シミュレーションにより議論を
域の一つである。現在最も広く受け入れられている
行った。
熱帯低気圧の強度の見積もりについての理論は軸対
その結果、最終氷期極大期(LGM)での大気CO2
称性を仮定したEmanuel(1986)により提案された
濃度変動には現在条件の鉄―栄養塩制限分布が強く
ものがあるが、今後の応用のためにも熱帯低気圧の
影響している事がわかった。また、現在条件の鉄―
3次元構造を考慮したより現実的な見積もりを与え
栄養塩制限分布はダストデータや鉄供給パラメータ
る理論が望まれる。本研究では非軸対称的な構造に
の不確実性によって大きく変化し、それによって
ついて議論する前段階として、非軸対称的構造を含
LGMでの大気CO2濃度変化量にも大幅なばらつきが
んだ熱帯低気圧が先の理論によってどの程度説明さ
生じた。以上の結果から、ダストの効果を考慮した
れるか、先行研究から熱帯低気圧の強度に対して影
LGMでの大気CO2濃度変動の定量的な把握には、現
響を与えるパラメータに対する感度実験を行った。
在条件での鉄―栄養塩制限分布の再現が重要であ
そこではモデルが非軸対称成分を含むにも拘らず2
り、それにはダスト分布だけではなく、これまであ
次元的なモデルと同様の結果が得られた。ここでは
まり重要視されていなかったダスト量の再現も必要
この感度実験の結果について検討する。
東京大学気侯システム研究センター
10
CCSR News
金森 史郎
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
武田 淳平
2009 . 7 No.17
(新領域創成科学研究科
環境学研究系自然環境学専攻)
インドネシア周辺における対流圏界面近傍の大気擾
Rstar放射コードに含まれるエアロゾルモデルの改
乱に関する研究
良. 特に鉱物ダストモデルについて
2005年の11月から12月にかけて、インドネシア・
IPCC第4次報告書において、エアロゾルの放射
スマトラ島において赤道大気上下結合の第二次国際
強制力の不確定性が大きいことが示されている。中
観測キャンペーン(CPEA-II)が行われた。これに
でも、鉱物ダストエアロゾルによる直接効果の不確
より得られたラジオゾンデの観測結果から、12月9
定性が、光学特性に関する知見の不足、非球形性、
日から12月15日頃にかけて、対流圏界面付近におい
混合状態によって大きい。本研究では、Rstar放射
て気温低下が生じていることが分かった。そこで、
伝達コードを用いて、鉱物ダストエアロゾルモデ
再解析データや数値モデルの結果を用いて気温低
ルの日射量や放射強制力効率因子(β)を計算し、
下、対流活動、圏界面や成層圏の大気波動の関係を
AERONET, SEDE-BOKER観測点における観測結果
明らかにすることを目的として解析を行った。その
と比較して、どのエアロゾルモデルが現実的か調べ
結果、この気温低下は、対流活動に関係した周期が
た。その結果、最もよく日射量の観測値に一致して
15-20日程度の鉛直伝播しないケルビン波により形
いたエアロゾルモデルは、2 %のスス(Soot)を混
成されたものであることが示唆された。また、成層
合したADEC1と、1%のSoot を混合したSokolik99で
圏においては、鉛直伝播する周期が10-12日のケル
あり、それらによるβが約70という値は、東アジア
ビン波、さらに3-5日周期の混合ロスビー重力波を検
域における約100といった値と比べ、非常に小さい
出した。熱収支解析から、混合ロスビー重力波に関
ものとなっている。このことから、サハラ域周辺に
しては、気温低下にほとんど関与しないことが示唆
おけるSootによる影響は、東アジア域と比べて小さ
された。
いということがわかった。
仙石 健介
(理学系研究科 地球惑星科学専攻)
軸対称結合モデルによる台風の集団的振舞いの再現
性について
気候変動に対する台風の振舞いの変化を調べる第
一歩として、比較的簡略な軸対称大気海洋結合モデ
ルに、再解析データの海面水温や風といった環境場
変数を入力するという方法で台風の一生の再現を試
みた。現実の台風経路をもとに軸対称モデルに入力
する変数を再解析データから参照した場合、多数の
事例で風速の時系列を正確に再現でき、軸対称モデ
ルが入力に対して正確に応答することが確認でき
た。次に、経路も環境場の風から計算し、外部入力
として環境場変数しか必要としない実験を行った。
そして発生の場所、日時を変えた大量の実験結果の
統計を取り、観測と比較した。その結果、例えば発
生個数の年々変動は1981 ~ 2005年で相関係数0.48、
有意水準5%で有意となり、特に1993年以降ではよ
く一致した。このことから、再解析の代わりに大気
海洋結合大循環モデルでの温暖化実験の値を用いる
ことで温暖化時の台風の振舞いを見積もることがで
きると考えられる。
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東京大学気侯システム研究センター
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