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2016年7月発行 - 東京大学分子細胞生物学研究所
1 東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌 7月号(第56号)2016. 7 IMCB Institute of Molecular and Cellular Biosciences University of Tokyo The University of Tokyo 研究分野紹介(膜蛋白質解析研究分野) �������� 1~3 目 次 研究室名物行事(ゲノム再生研究分野)���������� 15 受賞者紹介���������������������� 4 お店探訪������������������������ 16 Welcome to IMCB ����������������� 5~6 知ってネット���������������������� 16 転出のご挨拶(小柴和子、寺井健太、松浦 憲) ������ 7 編集後記������������������������ 16 着任のご挨拶(岡田由紀、牧野吉倫) ����������� 8 ドクターへの道(神元健児)��������������� 17 おめでとう!大学院博士・修士課程修了者�������� 9 留学生手記(Tran Phuoc Duy)�������������� 18 次代のホープ達�������������������� 10 海外ウォッチング(明楽隆志)�������������� 19 平成27年度 分生研セミナー一覧 ��������� 11~12 OBの手記(石岡利康)������������������ 20 平成27年度 プレスリリース一覧 ������������ 12 研究紹介(松浦絵里子、堀籠智洋)������������ 21 国際会議に出席してみて���������������� 13 研究最前線(分子情報研究分野、発生・再生研究分野、 平成27年度 第3回分生研研究倫理セミナー ������� 13 RNA機能研究分野)������������ 22~24 平成27年度 分子細胞生物学研究所 技術職員研修 開催報告 �� 14 研究分野紹介 膜蛋白質解析研究分野 膜蛋白質解析研究分野 教授 豊島 近 1988年にCa2+-ATPaseに取り組みだしてから、ほとんどのエネルギーをP型ATPase構造生物学研 究に、中でもCa2+-ATPaseとNa+, K+-ATPaseの2つのイオンポンプにつぎ込んできた。実に30年近 くもCa2+-ATPaseを研究してきたわけだが、この蛋白質を理解し得たとはまだとても思えない。以前 の理解は浅薄だったことを思い知らされることが多すぎる(そのことはこのたびGregori Aminoff賞 という結晶学の賞をスウェーデン王立科学アカデミーから授与されることになって書いた文章”The long way to understanding an ion pump1” にある程度書いた) 。ここまで長く少数の蛋白質を追求し ているのはP型ATPaseが理想的に面白いからである。1つにはイオン選択性の問題がある。このポ ンプは100万倍多いK+、10万倍多いNa+、1万倍多いMg2+がいる中から、Ca2+のみを厳密に選りだし て1万倍の濃度勾配に打ち勝って輸送できる。どうするのか?2つめは、ATPの化学エネルギーを 変換してとよく言うけれどその実態が明らかでないことである。このポンプでも、ATPの「構造」 が必要なのは良く理解できるが、そのエネルギーはどこで何のために使われているのか、誰も実証で きない。3つめとしては、巨大かつ極めて複雑なconformation変化が起こることが挙げられる。しか も化学反応(Asp残基の燐酸化とその加水分解)が起こる場所とイオン結合部位は50 Å離れており、 遠隔操作機構が必要だがその実体は何か。 蛋白質は立体構造を変化させてその機能を果たすのだから、 こういう疑問への答えは構造に書いてあるはずである。Ca2+-ATPaseに関しては反応サイクル全体を ほぼカバーする10個の中間体の結晶構造を得ており、傍目にはこれ以上何をするのだと思われるかも しれない。だが、上記のような根本的課題の答えとなる仮説を勿論持ってはいるけれど、その証明は 極めて困難である。これからが本当の研究で、その出発点にようやく立つことが出来たともいえる。 前回この欄に書いたのは2005年であるから既に10年以上の時間が経過している。その間の大きな 進歩としては、Ca2+-ATPaseに関しては、E2・BeF3-複合体2(E2P基底状態のアナログ。E2とはCa2+非 2 存在下で、膜内イオン結合部位がCa2+に対し低親和性の状態)とE1・Mg2+状態の構造決定に成功した こと3が挙げられる。前者では内腔側ゲートの開閉がattacking waterとなるたった1分子の水によっ て制御されていることが理解された。後者は、待望のE1状態(Ca2+非存在下でCa2+に対して高親和性 状態)の初の結晶構造であるが、調節蛋白質sarcolipinが結合しているという予想外の副産物があっ た。研究手段の面からは、高等動物培養細胞とアデノウィルスを用いた大型膜蛋白質大量生産系を確 立できたことが大きな進歩である。極めて効率の良いタグと組み合わせることで、実に150 mmφ培養 皿40枚分(培養液1L相当)からCa2+-ATPaseであれば4 mgの高度に精製された標品を得ることが出 来るようになり、構造研究の対象は大幅に拡大した。実際、発現蛋白質を用いて結晶化にも成功して おり、SERCA1aに関しては重要な変異体、さらには心筋のCa2+ポンプ(SERCA2a)や最も普遍的な SERCA2bに関しても結晶化に成功している。直近の課題は心筋においてβアドレナリン信号の直接 の受け手であり、巨大な調節複合体の中心となるともいわれる調節蛋白質phospholambanとの共結晶 を得ることである。 もう一つの主要なターゲットであるNa+,K+-ATPaseに関してはずっと遅れて2005年頃にスタートし た。人的資源の問題と試料調製の問題があったためであるが、デンマーク・オルフス大グループと 共同研究をすることになり試料の問題はなくなった。ちなみにオルフス大学はNa+,K+-ATPaseの発見 者であるJ.C. Skouが研究していたところであり(まだオフィスもある) 、現在も5つ以上の研究室が + + P型ATPaseを研究している。Na ,K -ATPaseは、全ての動物細胞に発現しておりATP1分子当たり3 個のNa+を細胞内から細胞外へ、2個のK+を細胞外から細胞内へ能動輸送し、神経興奮や心臓の拍動 等の生命活動の基盤を作り出すほか、多くの二次輸送体の動力源ともなる。但し、K+は無くても機 能する(1価イオンならほぼなんでもよい)ので、本質的にNa+のポンプである。Ca2+-ATPaseと相 同のαサブユニットに加え、高度に糖鎖修飾されたβサブユニットと組織特異的なFXYD蛋白質から なるヘテロ3量体である。しかも、多量のコレステロールを含んでいる。そのため、結晶化はCa2+ATPaseに比べ、格段に困難であった。最初の結晶化はP. Nissen(やはりオルフス大学)に先を越さ れたが、2009年にK+と結合した状態の構造を2.4 Åで決定し4、2013年にNa+と結合した状態の構造を2.8 Å分解能で決定することに成功した5。 Na+のポンプであるとはいえ、Na+,K+-ATPaseのNa+に対する親和性はK+より低く、mMレンジで ある。しかも、一般に、熱揺動のために、小さいイオン(Na+)に対する結合サイトは大きいイオン (K+)を排除することは困難だが、このポンプは厳密にNa+を選択し、Ca2+-ATPaseと同等以上の速 度でNa+を運搬できる。得られた構造はその理由を見事に説明するものであったが、選択性を向上さ せるために何重もの緻密なしかけがあり、Ca2+-ATPaseのCa2+結合部位はどうしてこんなに簡単でよ いのかと思わせるものであった。 一方、Na+,K+-ATPaseは強心ステロイドの標的でもある。ジギタリス様物質は実に200年以上前か ら魔女の薬として知られている。組織特異性が低いため使いにくく、近年は処方されなくなっている らしいが、新たに、ある種の高血圧に効く薬剤や“A rising star in acute heart failure” として臨床 試験段階にある薬剤など数多くの派生物が研究されている。その結合様式に関する通説はまったく 誤っていることを2009年に報告したが6、さらにその詳細な結合様式を決定している。 P型ATPaseの中には燐脂質をflipする(細胞外側から細胞質側へ運搬する)もの(P4型と呼ばれる) もあり、その不活性化がアポトーシスにおける“eat me signal” として働くもの(ATP11C)も同定 されている。イオンよりもはるかに大きな物質をどのようにして、しかも逆方向に運搬するのか、そ れでは正方向には何を運ぶのか、など興味は尽きない。強力発現系のおかげで、今やこの蛋白質も構 造決定の標的である。 「P型ATPaseは理想的に面白い」という状況はまだまだ続きそうである。 文献 1. C. Toyoshima. Phys. Scr. 91(2016)042501(14pp) 2. C. Toyoshima, Y. Norimatsu, S. Iwasawa, T. Tsuda, H. Ogawa. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104(2007)19831-6 3. C. Toyoshima, S. Iwasawa, H. Ogawa, A. Hirata, J. Tsueda, G. Inesi. Nature 495(2013)260-4 4. T. Shinoda, H. Ogawa, F. Cornelius, C. Toyoshima. Nature 459(2009)446-50 5. R. Kanai, H. Ogawa, B. Vilsen, F. Cornelius, C. Toyoshima. Nature 502(2013)201-6 6. H. Ogawa, T. Shinoda, F. Cornelius, C. Toyoshima. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106(2009)13742-7 3 図1 筋小胞体Ca2+-ATPase(SERCA1a)の反応 サイクル。SERCA1a は10本の膜貫通へリックスと 3つの細胞質ドメインを持つ分子量11万の膜蛋白質 である。我々が明らかにした中間体の結晶構造をリ ボンモデルで示す。紫円で囲ったものは、結合した Ca2+。 図2 高等動物培養細胞とアデノウィルスを用いた 大型膜蛋白質大量生産系。150 mmφ 培養皿40枚分 (培養液1L相当)からSERCAであれば4mgの高度 に精製された標品を得ることができる。写真は120 枚の150 mmφ培養皿。 図 3 Ca2+-ATPase(SERCA1a)とNa+,K+-ATPase の反応サイクル(a) 、中間体結晶構造のリボンモ デル(b)並びに膜内イオン結合部 位の詳細(c) 。 Na+,K+-ATPaseはSERCA1aと相同のαサブユニット, 1本の膜貫通へリックスを持ち糖鎖修飾されたβサ ブユニット, 組織特異的調節蛋白質FXYDからなるヘ テロ3量体である。E1 ~ P・ADP・3Na+(赤四角) とE2・Pi・2K+(黄緑四角)の2状態に相当する構 造を既に決定している。水色球はCa2+、すみれ色球 はNa+、緑球はK+、赤球は水をそれぞれ示す。Ca2+ 結合部位は膜貫通ヘリックスの束のほぼ中央に位置 するが、Na+結合部位は極端にM4,5ヘリックス側に 寄っている(紫丸はNa+,K+-ATPaseのNa+結合位置 を、水色丸はSERCA1aのCa2+結合位置を示す)。一 + + 方、K 結合部位はほぼ中央に位置し、 Na 結合部位(紫 丸)とは大きく異なる。 図5 Na+,K+-ATPaseのE2・Pi・2K+状 態 (a)と、 強 心ステロイドの1種であるウワバイン(OBN)結合時 (b) の膜貫通領域の断面図。紫球は結合したK+を示す。 図4 Na+結合部位の詳細。細胞質側から膜に対し てほぼ垂直に見た。Na+が接触可能な表面を青いネッ トで示す。ピンクの球(a)は結合したNa+、黄緑の 球(b)はNa+の位置に置いたK+を示す。K+はNa+よ り大きいため、ネットからはみ出す上にK+間が接近 しすぎる。つまり、協同的結合によって、K+は排除 されている。 4 受賞者紹介 受 賞 者 名:渡邊 嘉典(染色体動態研究分野/教授) 賞 名:2015年度内藤記念科学振興賞 受 賞 日:平成28年3月16日 受賞課題名:体細胞分裂と減数分裂における染色体の方向を決める分子機構 受 賞 者 名:藤井 晋也(生体有機化学研究分野/講師) 賞 名:平成28年度日本ビタミン学会奨励賞 受 賞 日:平成28年6月17日 受賞課題名:新たな構造基盤を有するビタミンD受容体リガンドの創製 受 賞 者 名:友重 秀介(生体有機化学研究分野/博士3年(受賞当時) ) 賞 名:日本薬学会第136年会 優秀発表賞(口頭発表の部) 受 賞 日:平成28年3月31日 受賞課題名:Huntingtinタンパク質を減少させるSNIPER化合物の創製 受 賞 者 名:青島 圭佑・井上絵里奈・岡田 由紀(病態発生制御研究分野) 賞 名:John Gurdon Poster Award 1 st International Symposium on the Future of Nuclear Transfer and Reprogramming 受 賞 日:平成28年3月10日 受賞課題名:Paternal H3K4 methylation is required for minor zygotic gene activation and early mouse embryonic development 青島 圭佑 井上絵里奈 5 〈Welcome to IMCB〉 -新人紹介- 染色体動態研究分野 藤原 靖浩 日本学術振興会特別研究員 永吉 里江 技術補佐員 生体有機化学研究分野 山下 博子 薬学系研究科 博士1年 塩井 隆太 薬学系研究科 修士1年 南條 舜 薬学系研究科 修士1年 写真:左から 藤原、永吉 RNA機能研究分野 坪山幸太郎 新領域創成科学研究科 博士1年 Brechin Vincent 新領域創成科学研究科 博士1年 木村 悠介 新領域創成科学研究科 修士1年 劉 偉 新領域創成科学研究科 大学院研究生 写真:左から 塩井、山下、南條 脳神経回路研究分野 写真:左から 坪山、劉、Brechin、木村 高橋 友海 総合文化研究科 修士1年 長嶋 辰海 新領域創成科学研究科 修士1年 膜蛋白質解析研究分野(豊島研究室) 魏 霞蔚 中国医学研究者 淡嶋 美香 理学系研究科 修士1年 写真:左から 高橋、長嶋 写真:左から 魏、淡嶋 6 計算分子機能研究分野 膜蛋白質解析研究分野(前田研究室) 畑 宏明 特任研究員 鷹羽健一郎 理学系研究科 博士1年 罗 佳杰 農学生命科学研究科 大学院外国人研究生 藤本 博晃 技術補佐員 写真:左から 藤本、罗 写真:左から 鷹羽、畑 ゲノム再生研究分野 平石 玲奈 理学系研究科 博士課程1年 細山田 舜 理学系研究科 博士課程1年 大岡 浩之 理学系研究科 修士課程1年 大木 孝将 理学系研究科 修士課程1年 横山 正明 理学系研究科 修士課程1年 写真:左から 横山、細山田、大木、平石、大岡 ゲノム情報解析研究分野 盛穎 総合文化研究科 博士1年 千代谷達郎 医学系研究科 修士2年 病態発生制御研究分野 中村 遼 特任研究員 写真:左から 千代谷、鄭 7 転出のご挨拶 心循環器再生研究分野 講師 小柴和子 この度、 4月1日付で東洋大学生命科学部応用生物科学科に准教授として着任いたしました。 分子細胞生物学研究所の皆様には大変お世話になり、心より感謝しております。学位を取得し てからの長い長いポスドク生活を経て、2010年2月より助教として、同年4月からは講師とし て、分子細胞生物学研究所にてようやく自分のテーマで研究を進めることができるようになり ました。このような機会を与えていただいたこと、また分子細胞生物学研究所という恵まれた 環境で6年間研究生活を送れたことは、とても幸運だったと思っております。新しい研究室に はまだ研究機器類が揃っておらず、加えて動物施設も引き続き使用させていただいております ので、しばらくは東洋大学と分子細胞生物学研究所を行き来することになるかと思います。引 き続きご高配を賜れましたら幸いに存じます。 東洋大学は文系の学部こそ白山という弥生キャンパスに近い場所にありますが、生命科学部 は群馬県邑楽郡板倉町というところにあります。群馬とは言っても大学の最寄駅の両隣の駅は それぞれ埼玉県と栃木県に属しており、板倉町は群馬県から細く突き出たようなところに位置しています。近辺には 貯水池が多くあり、キャンパスの側にも桜並木に囲まれた貯水池があって、季節になると地元の人達が花見に訪れる そうです。都会の喧騒から離れ、静かな環境で、勉強に研究に勤しんでいます。着任早々、学部2年生対象の生物学 実験を担当することになり、私自身が学生だった頃の知識を引っ張り出して久しぶりの学生実験に取り組み、新鮮な 環境を楽しんでおります。 最後になりますが、分子細胞生物学研究所の皆様に改めて感謝いたしますとともに、皆様の益々のご活躍とご発展 をお祈りしております。 分子機能形態研究分野 特任助教 寺井健太 今年の3月をもちまして、分生研から京都大学に異動となりました。着任当初は、何から手 を付けていいのか全くわからず、茫然自失のような状態であったことを記憶しております。4 年2か月間の間、先生方のみならず、他の研究室の学生さんや事務室の皆様に、ご迷惑をおか けしたことをお詫びいたします。 同時に、 全ての人たちが快くご指導下さり、感謝申し上げます。 このような環境に身を置けたことに対し、自分がどれだけ恵まれていたか痛感しております。 とりわけ、同年代の先生方には大変助けて頂きました。Scienceに始まり、Careerや馬鹿話、 上司や配偶者に対する不満と称賛、それらの解決方法、などなどです。この原稿を書きながら 思い出しましたが、“金曜締切と、翌週月曜AM 8締切は同義か?” という議論を交わしたこ ともありました。結論は割愛させて頂きますが。 4月からは、初心に帰りまして、微力を尽す所存です。今後もより一層のご指導が頂けるよ うに努力してまいります。 先端的研究教育プログラム 助教 松浦 憲 2016年6月1日付けで沖縄科学技術大学院大学(OIST)細胞シグナルユニット(山本雅教授) にスタッフサイエンティストとして赴任いたしました。私は分子情報研究分野で秋山教授の指 導の下、博士研究員、特任助教、助教として12年間の長きにわたり分生研という大変恵まれた 環境で研究を進める機会に恵まれ、心より感謝しております。与えられた機会に対し十分な成 果を上げられなかったかも知れないという心苦しさは残りますが、人としても研究者としても 多くのことを学び、成長できた、私の人生の中ではかけがえのない時間となりました。 新しく着任しました沖縄科学技術大学院大学は2011年に学校法人としてスタートし、2012年 9月から学生を受入始めたというまだ新しい大学ですが、風光明媚というに相応しい環境に、 革新的な建造物が建ち並び、設備やシステムも分生研同様充実しているようです。世界50カ国 以上から職員や学生が集い、外国人比率が7割以上の上、公用語も英語ですので半分海外の大 学に留学しているかのような感覚もあります。晴れた日の景色は大変素晴らしく、全体の環 境を含め一見の価値があると思いますので、沖縄を訪問する機会がありましたら是非一度見学にいらして下さい。私 で宜しければ可能な限りご案内いたします。研究面に関しましては、これまでの仕事に加え、CCR4-NOT複合体など RNA結合タンパク質の脳内における機能解析などに取り組む予定です。 最後になりましたが、秋山先生、多羽田先生、歴代の分子情報のメンバーの皆様、動物実験委員の先生方、事務の皆様、 JACの皆様をはじめ、分生研でお世話になった全ての方々に心より御礼申し上げます。分生研のさらなる発展と皆様 の益々のご活躍を祈念して、転出の挨拶とさせていただきます。 8 着任のご挨拶 病態発生制御研究分野 准教授 岡田由紀 2016年4月より病態発生制御研究分野の准教授に着任致しました。分生研には去る2012年2 月から特任准教授として在籍しております。所内の研究室の先生方や事務部の皆様の手厚いサ ポートの下、分生研の最先端かつリベラルな研究環境の素晴らしさを実感した4年間でした が、この度さらに研究室を継続させていただけることになりました。これまでに在籍し一緒に 頑張ってくれたメンバーに厚く感謝しますと共に、今後、皆様からのより一層のご指導・ご教 授をお願いする次第です。 当研究分野はその看板のとおり、病態発生の機序やその制御を、正常組織との対比を通して 理解することを目標としています。現在は特に生殖細胞のエピジェネティック制御を研究対 象の主体とし、ゲノムから個体まで総合的な理解を目指しています。「Somatic cells belong to you, while germ cells belong to your species」とは生殖分野で著名な某研究者の言葉ですが、 個体の起源となる生殖細胞は2世代前(祖母)の胎内で既に存在し、ゲノム配列だけでなく様々 な環境要因を反映して子孫に継承されます。一個体のある瞬間だけではなく継世代をも含む奥深さが、生殖細胞研究 の魅力のひとつだと感じています。 また当研究分野は生殖細胞・胚操作の技術を活用して、所内の遺伝子改変動物作製支援に携わっています。最近の 遺伝子編集技術の発展は目覚ましく、皆様からのご依頼を通して新しい技術を習得し、当研究室のみならず所内全体 の研究の発展に貢献できればと考えております。今後とも宜しくお願い申し上げます。 先導的研究教育プログラム 助教 牧野吉倫 この4月から、病態発生制御研究分野(岡田由紀准教授)の先導的研究教育プログラム助教 を拝命いたしました牧野吉倫と申します。分生研に来ましたのは2012年の2月で、昨年度まで は特任助教として岡田研究室に所属しておりました。 岡田研究室では、マウスの卵、精子などの生殖細胞系列、および受精後の初期発生における エピジェネティックな制御機構について研究が行われていますが、その中で私は精子幹細胞に 興味を持って研究を進めています。具体的には、ヒストンメチル化酵素のDot1Lやアセチル化 酵素のMyst4が、精子幹細胞の維持や分化においてどのような機能を果たしているのかについ て調べています。また、胎生期型のオス生殖細胞から成体型への発生・分化においての遺伝子 制御については不明な点が多く、この時期のキーレギュレーターとなる転写因子、エピジェネ ティック因子の探索も行っています。 2009年に岡田先生が京都大学・キャリアパス形成ユニットで独立された際に研究室に加えて いただき、立ち上げからお手伝いする貴重な機会を得ました。最初は二人の研究グループでしたが徐々に人数も増え 賑やかになり、研究室が盛り上がりつつあることを感じております。岡田先生のおおらかな性格と研究への情熱を反 映した研究室の雰囲気の中、少しでも研究室に貢献していきたいと考えておりますので、皆様方からのご指導を頂け ますと幸甚に存じます。また、ご用の際にはぜひお気軽に声をかけて頂けますようお願い申し上げます。 9 おめでとう!大学院博士・修士課程修了者 平成27年度をもって大学院博士課程及び修士課程を修了された方々と論文タイトルは以下のとおりです。 長い間の研究活動の結実、おめでとうございます。 染色体動態研究分野 修士課程 石原 敬史 理学系研究科 「減数第一分裂における姉妹動原体一方向性に必要なPlo1キ ナーゼ基質の探索」 海東 和麻 薬学系研究科 「核内受容体リガンドを指向した1,3,5-トリアジン誘導体の 設計と構造展開」 山本 昌平 理学系研究科 「マウス卵母細胞の紡錘体形成を制御する新規因子の探索」 RNA機能研究分野 修士課程 髙野 勇助 新領域創成科学研究科 「piRNA生合成におけるPIWIタンパク質とRNAの複合体形 成」 分子情報研究分野 博士課程 松村 厚佑 農学生命科学研究科 「大腸がんにおける新規長鎖非コードRNAの機能解析」 修士課程 石川 晴登 理学系研究科 「脂肪細胞分化におけるRNA結合タンパク質D8の機能解析」 髙橋 舜 理学系研究科 「長鎖ノンコーディングRNA NR-Xによるp53の発現制御機 構の解明」 葉山 侑理 「膠芽腫におけるCHTOPの機能解析」 理学系研究科 発生・再生研究分野 博士課程 松田 道隆 医学系研究科 「オンコスタチンMによるマウス肝線維化促進機構の解析」 修士課程 野上 亮佑 理学系研究科 「代償性肝再生時における肝中皮細胞の動態解析」 厚井 悠太 理学系研究科 「肝前駆細胞の増殖・分化能を支持するヒトiPS細胞由来肝類 洞内皮細胞/肝星細胞の樹立」 田中 杏奈 理学系研究科 「ヒトiPS細胞由来膵島形成培養系における支持細胞の有効性 と高効率分化誘導系の開発」 生体有機化学研究分野 博士課程 友重 秀介 薬学系研究科 「標的タンパク質のリガンドを必要としないプロテインノッ クダウン法」 西山 郵子 薬学系研究科 「ステロイド代替骨格となるフェナンスリジノン骨格を用い た生理活性物質の創製」 修士課程 岡崎 翔吾 薬学系研究科 「メタボリックシンドローム改善薬を志向したマルチター ゲット化合物の創製」 脳神経回路研究分野 修士課程 佐々木 愛季 新領域創成科学研究科 「ショウジョウバエ脳における体性感覚に関する2次神経の 網羅的解析」 心循環器再生研究分野 博士課程 森田 唯加 理学系研究科 「Cardiac cell fate determination and regeneration by the transcription factor Sall1」 修士課程 辻 真人 理学系研究科 「Sexual dimorphisms of mRNA and miRNA in human/ murine heart disease」 平石 玲奈 理学系研究科 「心臓発生における相乗的なRing1a/1bの前駆細胞制御機能」 藤川 大地 理学系研究科 「分化細胞から心房筋・心室筋細胞への分化転換」 ゲノム情報解析研究分野 博士課程 増田 晃士 農学生命科学研究科 「分裂酵母における複製起点決定因子の解明」 南野 雅 農学生命科学研究科 「コヒーシンアセチルトランスフェラーゼによる姉妹染色分 体間接着の構築機構の解析」 坂田 豊典 農学生命科学研究科 「ヒトコンデンシンによる染色体構造の構築と制御メカニズ ムの解明」 放射光連携研究機構 修士課程 中村 美紅 新領域創成科学研究科 「構造解析のための半合成的手法によるユビキチン化タンパ ク質の合成」 10 次代のホープ達 ◆ 分生研卒業生進路紹介 ◆ 平成27年度に博士課程及び修士課程をご卒業された方々の進路をご紹介します。(同一研究科進学を除く) 分子情報研究分野 ゲノム情報解析研究分野 博士卒 博士卒 松村 厚佑(農学生命科学研究科) :第一三共株式会社 増田 晃士(農学生命科学研究科) :分生研 特任研究 員 修士課程 南野 雅(農学生命科学研究科):The Francis Crick 石川 晴登(理学系研究科) :デンカ生研株式会社 Institute 髙橋 舜(理学系研究科) :金融庁 内閣府事務官 坂田 豊典(農学生命科学研究科) :日本学術振興会 葉山 侑理(理学系研究科) :分生研 特任研究員 特別研究員-PD 発生・再生研究分野 放射光連携研究機構 博士卒 修士卒 松田 道隆(医学系研究科) :独立行政法人国立国際医 中村 美紅(新領域創成科学研究科) :ジョンソン・エ 療研究センター ンド・ジョンソン株式会社 修士卒 野上 亮佑(理学系研究科) :日本製粉株式会社 生体有機化学研究分野 博士卒 友重 秀介(薬学系研究科) :ノートルダム大学 Postdoctral Fellow 西山 郵子(薬学系研究科) :国立がん研究センター研 究所 特任研究員 修士卒 岡崎 翔吾(薬学系研究科) :日本化薬株式会社 海東 和麻(薬学系研究科) :東京大学 工学系研究科 博士課程 進学 脳神経回路研究分野 修士卒 佐々木愛季(新領域創成科学研究科) :株式会社QUICK 情報・ナレッジ・開発本部 心循環器再生研究分野 博士卒 森田 唯加(理学系研究科) :分生研 特任研究員 11 平成27年度 分生研セミナー一覧 平成27年4月13日 講師:Ganley Austen, PhD Associate Professor, Massey University 演題:The ribosomal DNA repeats impacts chromosome segregation 平成27年6月3日 講師:Dr. Zoe Cournia Academy of Athens 演題:Investigating nanoparticle cellular penetration for enhanced drug deliver 平成27年6月12日 講師:Dr. Yuya Yamagishi Laboratory of Brain Development and Repair (Marc Tessier-Lavigne’ s Lab),The Rockefeller University 演題:Genome-wide siRNA screen identifies genes that regulate axon degeneration following injury 平成27年6月19日 講師:Dr. Alexander Lorenz The Institute of Medical Sciences(IMS), University of Aberdeen, UK 演題:Modulation and Governance of Homologous Recombination during Meiosis 平成27年6月26日 講師:ROTHSTEIN, Rodney Professor, Columbia University Medical Center 演題:The ribonucleotide reductase regulator, Sml1, is an ortholog of Mis18 and plays a dNTP-independent role in chromosome segregation 平成27年7月3日 講師:丸山 剛, PhD 北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野 演題:Drug-based CRISPR/Cas9 approach to promote HDR efficiency 平成27年7月8日 講師:Sung Hee Baek, Ph.D. Director, Chomatin Dynamics Reserch Center Professor, Department of Biological Sciences, Seoul National University 演題:Chromatin Dynamics and Epigenetic Reprogramming in Cancer and Stem Cells 平成27年7月21日 講師:Prof. John E. Straub Boston University 演題:Toward a Molecular Theory of Early and Late Events in Monomer to Amyloid Fibril Formation 平成27年7月23日 講師:Melita Vidaković, Ph.D. Principal investigator, Molecular Biology Laboratory, Institute for Biological Research, Belgrade, Serbia. 演題:The role of epigenetics mechanisms in Diabetes mellitus 平成27年9月8日 講師:Anindya Dutta, M.D., Ph.D. Byrd Professor of Biochemistry & Molecular Genetics Professor of Pathology, University of Virginia Health Sciences Center 演題:A surfeit of novel nucleic acids in mammaliancells: microDNAs, tRFs and lncRNAs 平成27年10月9日 講師:渡部 文子 博士 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 神経科学 研究部 准教授 演題:情動記憶ダイナミズムにおける侵害受容扁桃体の神経回路 制御機構 平成27年10月30日 講師:Anja Zeigerer, Ph.D. Institute for Diabetes and Cancer (IDC), Helmholtz Center Munich for Environmental Health 演題:Regulation of liver metabolism by the endosomal GTPase Rab5 平成27年11月9日 講師:Kotaro Nakanishi, Ph.D. Assistant Professor, Department of Chemistry and Biochemistry, The Ohio State University, USA 演題:最も大きいArgonauteと最も小さいArgonauteの構造と機 能解析 平成27年11月13日 講師:Masato Kanemaki, Ph.D. Center for Frontier Research, National Institute of Genetics 演題:The Auxin-Inducible Degron Technology in Human Cells 平成27年11月20日 講師:Tarun Kapoor, Prof. The Rockefeller University, New York, USA 演題:Examining how nanometer-sized proteins assemble dynamic micron-sized structures needed for successful cell division 平成27年11月24日 講師:宮岡 佑一郎 博士 Postdoctoral Fellow, Gladstone Institutes, San Francisco, Conklin Lab 演題:iPS細胞のゲノム編集による心筋症の原因となるスプライシ ング因子RBM20の解析 平成27年11月25日 講師:岩崎 信太郎 博士 University of California, Berkeley 演題:Demystification of hidden RNA specificity of the core RNA machinery 平成27年11月27日 講師:松峯 昭彦 准教授 三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 運動器外 科学・腫瘍集学治療学(整形外科学) 演題:「肉腫って何?」 平成27年11月27日 講師:鈴木 博視 博士 Rockefeller University 演題:クローディンの立体構造に基づいたタイトジャンクション の新知見 平成27年11月27日 講師:古川 浩康 博士 Cold Spring Harbor Laboratory 演題:NMDA受容体の構造と生物学 平成27年11月27日 講師:Chantal Desdouets, PhD INSERM(国立保健医学研究所)Cell cycle, regeneration and liver diseases 演題:Liver and Polyploidy: Insights into Development and Disease 平成27年12月1日 講師:Sean Burgess, Prof. University of California, Davis, USA 演題:Sexual dimorphisms drive oocyte and spermatocyte development in zebrafish 12 平成27年12月2日 講師:Ekihiro Seki, MD, PhD Principle Investigator, Associate Professor, UC San Diego, Division of Gastroenterology, Department of Medicine, Cedars-Sinai Medical Center 演題:TAK1, a critical regulator for liver homeostasis and carcinogenesis 平成27年12月7日 講師:Danesh Moazed, PhD Professor, Department of Cell Biology, Howard Hughes Medical Institute, Harvard Medical School 演題:Mechanism of establishment and epigenetic inheritance of heterochromatin 平成27年12月18日 講師:Rippei Hayashi, Ph.D. Postdoc in Julius Brennecke group, Institute of Molecular Biotechnology(IMBA),Vienna, Austria 演題:3́-5́ exonuclease Nibbler forms 3́ ends of piRNAs in Drosophila 平成28年1月25日 講師:上村 匡 博士 京都大学 大学院生命科学研究科 教授 演題:Nutri-developmental biology 事始め:栄養バランスの変化 に適応して発生する生体システムとは 平成28年3月4日 講師:Camilla Sjögren, Ph.D. Karolinska Institute, Stockholm, Sweden. 演題:The SMC5/6 complex binds DNA through ATP-dependent electrostatic interactions and topological entrapment 平成28年3月7日 講師:Franz Klein, Ph.D. Max F. Perutz Laboratories, University of Vienna 演題:Life without the tether – a meiotic synthetic lethality screen for spp1∆ 平成28年3月17日 講師:長坂 浩太 博士 がん研究所 演題:Sister chromatid resolution is an intrinsic part of mitotic chromosome organization in prophase. 平成28年3月24日 講師:Keiko Muraki, Ph.D. Postdoc at John P. Murnane laboratory, Department of Radiation Oncology, University of California, San Francisco 演題:Mechanism of the sensitivity of subtelomeric regions to DNA double-strand breaks 平成28年2月10日 講師:Luis Aragón, Ph.D. Cell Cycle Group Head, the Epigenetics, Development and Cancer Section of the MRC Clinical Sciences Centre and Imperial College London, UK 演題:SMC complexes and their roles coordinating DNA repair and chromosome segregation 平成27年度 プレスリリース一覧 平成27年4月24日 発表者:蛋白質複合体解析研究分野(放射光連携研究機構) 准教授 深井 周也、助教 山形 敦史 他 発表タイトル: 「自閉症などの神経発達障害に関連するタンパク質 が神経細胞同士を適切につなぐ仕組み」 平成27年9月11日 発表者:発生・再生研究分野 助教 木戸 丈友、教授 宮島 篤 発表タイトル: 「簡便で効率的なヒトiPS細胞由来成熟肝細胞誘導 法の開発」 平成27年6月5日 発表者:ゲノム情報解析研究分野 教授 白髭 克彦 発表タイトル: 「DNAをコヒーシンタンパク質が束ねる仕組みを 解明」 平成27年11月6日 発表者:染色体動態研究分野 教授 渡邊 嘉典 他 発表タイトル: 「減数分裂期テロメアの分子構造を解明 ~テロメアDNAと核膜の融合を指揮する分子反応を特定~」 平成27年6月9日 発表者:計算分子機能研究分野 准教授 北尾 彰朗 発表タイトル: 「生物の持つ多燃料エンジンが働く仕組み ~べん毛モーターのイオン透過機構を解明~」 平成28年1月19日 発表者:心循環器再生研究分野 日本学術振興会特別研究員PD 守山 裕大(当時)、講師 小柴 和子(当時) 発表タイトル: 「心筋を平滑筋へと変化させる遺伝子の発見 ~魚の心臓進化が教えてくれること~」 平成27年7月3日 発表者:RNA機能研究分野 助教 佐々木 浩(当時)、教授 泊 幸秀 他 発表タイトル: 「RNAiの仕組みに1分子観察で迫る ~複合体RISCが標的RNAを素早く正確に切る仕組み~」 平成27年7月23日 発表者:ゲノム情報解析研究分野 助教 須谷 尚史(当時)、博 士3年 坂田豊典(当時)、教授 白髭 克彦 他 発表タイトル: 「DNAから染色体をつくるための重要な過程を発見」 平成27年8月11日 発表者:染色体動態研究分野 教授 渡邊 嘉典 発表タイトル: 「染色体の整列をチェックする因子が整列を促進し ていたことを解明」 平成27年9月11日 発表者:染色体動態研究分野 教授 渡邊 嘉典、助教 丹野 悠司 発表タイトル: 「細胞のがん化につながる染色体不安定性の分子メ カニズムの解明」 平成28年2月26日 発表者:RNA機能研究分野 助教 泉 奈津子、教授 泊 幸秀 発表タイトル: 「生殖細胞のゲノムを守る小さなRNAが成熟する しくみを解明 ~小さなRNAを成熟させるRNA分解酵素「Trimmer」の同定~」 平成28年3月16日 発表者:分子情報研究分野 講師 中村 勉、教授 秋山 徹 発表タイトル: 「自閉症の原因となる遺伝子を特定 GABA受容体の運び屋タンパク質が発症の鍵握る」 平成28年3月18日 発表者:RNA機能研究分野 助教 三嶋 雄一郎、教授 泊 幸秀 発表タイトル: 「遺伝暗号の隠れた役割を発見 ~コドンが受精卵のmRNA安定性を決定する~」 13 ― 国際会議に出席してみて ― 分子情報研究分野 博士課程(当時) 松村 厚佑 会 議 名:K EYSTONE SYMPOSIA Stem Cells and Cancer 開 催 地:米国 コロラド州 開催期間:2016年3月6日〜2016年3月10日 発表演題:T he role of the novel non-coding RNA in human colorectal cancer stem cells. この度は公益財団法人応用微生物学・分子細胞生物学 研究奨励会からのご支援をいただき国際学会に参加する ことができましたので、報告させていただきます。開催 地のコロラド州ブリッケンリッジはロッキー山脈に位置 しており、会場のホテルは標高が約2,800メートルという 高所にありました。富士山の7合目にあたり、歩くだけ でも息が切れます。加えて凍えるような寒さでしたが、 会期中は朝から晩まで講演と質疑応答が続けられ熱い盛 り上がりを見せていました。 がんを構成する細胞は均一ではなく、がんを進行させ る能力をもった細胞はごく一部であることが分かってき ました。それらの細胞は自己複製能と分化能という正常 幹細胞と類似した性質を持つため、がん幹細胞と呼ば れています。今回参加したStem cell and cancerのミー ティングではそのがん幹細胞についての基礎研究から、 がん幹細胞を標的とした治療法の開発をすることがゴー ルです。ミーティングの内容も初日は基礎研究に始まり、 会が進行する毎に応用研究、臨床研究と進むBench-toBedside の構成になっていました。 終始トップサイエンティストによる目の覚めるような 講演が続きましたが、特に次世代シークエンサーを用い た一細胞解析とマウスの遺伝学を駆使した細胞系譜解析 が注目を集めていました。これらの研究の結果から、が んはがん幹細胞と非幹細胞の単純なモデルで記述出来る ように簡単ではないことがわかり、がんが如何に難病で あるかを思い知らせました。さらには一度分化した細胞 において特定の細胞内シグナルが走る事で再び幹細胞に 戻るという驚愕な講演もありました。また、がん細胞を in vitroで培養するとその不均一性が失われていってしま うという発表もみられ、普段我々が用いている培養がん 細胞で実験がどれだけ生体を再現しているのかというこ とを考えさせられました。 さて、キーストンシンポジウムの特徴として300人程 度の小規模であることが挙げられます。また、朝、晩は 一緒に話しながら食事をとる機会があり、世界中の研究 者と研究のことや、自身の出身のことを話しながら5日 間を過ごす事ができました。英語が不得意なこともあっ て十分に議論が出来たとは言えませんが、それでも、同 じ分野で研究する世界の研究者と実際に話す事が出来る 国際学会は素晴らしいと思いました。 最後になりましたが以上のような貴重な勉強と世界の 研究者と直接話すという感動的な機会を与えてくださっ た公益財団法人応用微生物学・分子細胞生物学研究奨励 会の方々に心より感謝申し上げます。 平成27年度 第3回分生研研究倫理セミナー 平成28年1月25日(月)に分生研に所属しているすべ ての学生・研究者・教員を対象に平成27年度第3回分生 研研究倫理セミナーを下記のとおり行いました。 〈セミナー〉 ・ 「研究の原点を見失わないために-Principle, Useful Tactic, & Challenge-」 京都大学大学院生命科学研究科 上村匡教授 ・「STAP事件から学んだこと」 毎日新聞科学環境部 須田桃子記者 〈研究交流会〉 各研究室の学生やポスドク等によるポスター発表(フ ラッシュトーク1分を含む)を実施 14 平成27年度 分子細胞生物学研究所 技術職員研修 開催報告 発生・再生研究分野 西條(及川)栄子 平成27年11月10日(火)、東京大学分子細胞生物学研究所―オリンパス―バイオイメージングセンター (TOBIC) (生命科学総合研究棟303号室)において、平成27年度分生研技術職員研修として、「TOBIC 共焦 点顕微鏡 FV1200トレーニング」が開催されました。 分生研の技術職員会では、毎年、技術職員の技術と知識の向上のため、全体研修を行っています。近年、様々 な種類の透明化試薬の開発と、顕微鏡の検出能力の開発が共に進み、組織サンプルを組織のまま染色し、in vivoでの細胞の位置関係を観察することが可能になってきています。そんな中で、Z軸方向を多段階で観察で きる共焦点顕微鏡の需要はますます高まっています。 そこで今年度は、昨年に引き続き、全体研修としてTOBICにて共焦点顕微鏡FV1200のトレーニングを受 けることにしました。 トレーニングでは、FV1200のシステム起動方法から、顕微鏡での目視観察方法、共焦点でのXYZ画像の取 得方法まで、原理を含めて、実際に操作できるように詳しく教えていただきました。FV1200を使いこなすこ とで、タイリング画像の取得やタイムラプス解析も可能になるということでしたので、今回得られた知識を 研究室に持ち帰り、これからの研究に役立てていきたいと思います。 最後になりますが、今回講師をつとめてくださいましたオリンパスTOBIC担当、幸村心元氏に心からお礼 を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。 15 研究室名物行事 ゲノム再生研究分野 鈴木 雄 分生研のみなさまこんにちは。小林研修士課程2 じた料理もその魅力の一つです。冬にはモツ鍋パー 年の鈴木 雄と申します。小林研が国立遺伝学研究 ティーをしたり、また夏にはラボで流しそうめんを 所から分生研に移り、早くも1年が経ちました。個 やってみようと企画しています。 性豊かでフレッシュな新入生が5名も仲間入りし、 ますますにぎやかなラボとなり、非常に楽しいラボ 3 先生や助教の方とのランチ 生活を満喫しています。去年までの小林研は、学生 13時になると小林研では先生、助教の方と一緒に も少なく、非常にひっそりとしたラボでした。その 学食に出かけます。毎日のように農学部食堂に行く ため、他の研究室で紹介されているようなスポーツ ので、見かけたことのある方も多いかと思います。 大会といった大々的な名物行事はありませんが、人 このように小林研では先生や助教の方と学生の距離 数の少ないラボでこその行事をいくつか紹介させて が非常に近い為、ランチを食べながら、ちょっとし ください。 た雑談から、相談事、進路についてなどの人生相談 さらには恋の悩みまで気軽に話すことができます。 1 先生との勉強会 小林研ではなんとも贅沢なことに週に1回、先生 このように人数が少ないラボですが、その分とて がマンツーマンで勉強を教えてくれます。新入生の もあたたかくてアットホームな雰囲気が小林研究室 ために、決められた参考書を使って毎週1章ずつ疑 の魅力です。今年は特に、個性豊かなメンバーが5 問点を解決していったり、論文の読み方や書き方を 人も増えたので、実験の時も、ランチの時も、ラボ 丁寧に教えてくれます。教科書には載っていない内 メンバー同士の会話が盛り上がるようになりまし 容や雑談もはずむため、勉強嫌いな私でも大変楽し た。研究や進路のことで悩んだ時や辛いことがあっ みな行事でした。また、このおかげで院試に受かる た時も、そして嬉しいことがあった時も、お互いに ことができたといっても過言ではない、私にとって 気軽に気持ちを共有できて支えあえるような雰囲気 の1大イベントであったともいえます。 はこの小林研の慣習によって形作られていると言っ ても過言ではありません。今後はさらに行事を増や 2 飲み会 して、さらに仲良しな小林研を盛り上げていきたい 小林研の飲み会で最も特異的な点は、学生よりも と思っています。 教授や助教といった職員の方が多いことです。これ を聞かれると学生は少し肩身が狭い思いをしている のではないか?とよく聞かれますが、そんなことは ありません!そう書かされたわけでも決してありま せん!!飲み会での会話も少しお堅い研究について の話は一切なく、非常に気さくで多様性に富んだ話 題がメインです。私を含めた学生にとっては、人生 経験豊富な先輩方のお話が聞けるということもあ り、楽しくて仕方ありません。また、小林研の方々 は選りすぐりの酒豪揃いで、ラボ呑みではお酒の種 類も多く、ビールやワイン、日本酒、焼酎といった 多彩なお酒やおつまみが揃います。また、季節に応 16 ◦お 店 探 訪◦ メキシコ料理 Ceviche 東大前駅近く 神経生物学研究分野 新田 陽平 中華料理・イタリアン・タイ料理・フランス カレー、分生研周辺には異国の料理を出すお店 は多々あれど、メキシコ料理は初めてではない だろうか。今回、紹介する「Ceviche」は5月 に開店したばかりのメキシコ料理店であり、農 学正門から本郷通りを北上して約350mに位置 している。バス停の目の前で、パスタ屋Kの隣 といえばピンと来る人もいるだろう。メニュー はブリート(プレートランチ:1000円)やタコ ス(400円)・ワカモレ・ナチョスといったベー シックなメキシコ料理を取り揃えている。ブ リートはテイクアウトする事も可能で、Sサイズ(400円) ・Mサイズ(600円) ・Lサイズ(800円)から選択する事が出来る。ブリー トはスパイスが効いた具材がぎっしり詰まっており、人によってはMサイズでお腹を満たす事が出来るだろう。米国滞在期間 の長い助教曰く「現地の味そのまま」との事なので、メキシコを意識した内装も相まってメキシコに滞在しているかのような 気分を味わえるかもしれない。近辺では珍しいメキシコ料理、開放的な雰囲気のあるお店の中でじっくりと、または気軽にテ イクアウトして各々に楽しんでみてはいかがだろうか。 【営業時間】月〜金 11時30分〜15時、18時〜22時 土・日 12時〜17時(夜は予約のみ) 【定 休 日】不定休(店頭の掲示板または電話にてご確認下さい。 ) 【電話番号】03-3868-3798 ○平成28年4月1日付 〈採 用〉岡田 由紀 准教授(病態発生制御研究分野) 牧野 吉倫 助教(先導的研究教育プログラム) 〈異 動〉西永 岩文 財務会計チーム専門職員 :教育学研究科へ 坪内 一彦 総務チーム係長 :教養学部等へ 油井 聡 総務チーム係長 :人間文化研究機構より 教職員の異動等について 以下のとおり異動等がありましたのでお知らせします。 ○平成28年3月31日付 〈退 職〉小柴 和子 講師(心循環器再生研究分野) 寺井 健太 特任助教(分子機能形態研究分野) ○平成28年5月31日付 〈退 職〉松浦 憲 助教(先端的研究教育プログラム) 編 集 後 記 今年度から分生研ニュースの編集委員を担当しております。分生 りました。今度は作り手側ということで、他の編集委員の方々と共 研の最新情報の発信に携わることができ、今号の編集に楽しく参加 に、より良い紙面作りのため努力していきたいと思います。今後と させて頂きました。お忙しい中、原稿の執筆にご協力頂きました先 もどうぞ宜しくお願い致します。 生方と職員、学生の皆様に、深く感謝申し上げます。今後もお願い することがあると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。 (ゲノム再生研究分野 赤松由布子) 今号より編集委員を務めることになりました。原稿執筆を快く引 き受けて下さいました先生、職員、学生の皆様に、心より御礼申し 上げます。同じ研究所内でも他の研究室のことを知る機会がなかな かないので、分生研ニュースは貴重な情報源として楽しみにしてお (神経生物学研究分野 前山有子) 分生研ニュース第56号 2016年7月号 発行 東京大学分子細胞生物学研究所 編集 分生研ニュース編集委員会(小川治夫、谷内出友美、岩川弘宙、 赤松由布子、前山有子、渡邉清美) お問い合わせ先 編集委員長 小川治夫 電話 03-5841-7813 電子メール [email protected] 17 ドクターへの道 神元健児 発生・再生研究分野 博士課程3年 「ドクターへの道」に文章を書く機会を与えて頂 し、博士に進学したとすると社会に出るのが(最低) いたので、博士進学の理由、是非、現状の3つにつ 3年遅くなる。例えば年収500万の企業に就職する いて自分なりの哲学を書いてみたい。不快に思う方 例を考えると、それが3年遅くなるので、1500万の も居るかもしれない。そんな時は、「何の偉業を成 ロスである。特別研究員などに選ばれれば、そのぶ し遂げたわけでもない一介の博士課程の学生の戯れ んを差し引いて考えると良い(例えばDC1の人は 言だ」と読み飛ばして頂ければと思う。 1,500-720=780万)。あなたの博士生活はその値段 私は東京大学理学部生物化学科、山本研究室(現 に見合う価値(見返り、満足感、個人的な意義)が 在は基生研に移動)を卒業後、宮島研で現在まで研 あるだろうか。 究させて頂いている。博士進学の理由は、大学入学 進学の是非についてネガティブなことも書いた 以前から生物の研究者になることを決意していたた が、博士課程進学を否定したいわけではない。私に めである。幼少期は天文学者になりたかった。親に とってこれまでの博士生活は非常に価値のあるもの 買ってもらった「SPACE ATRAS〜宇宙の全てが だったし、研究室の皆様にも大変感謝している。ま 分かる本〜」 を読み、 (当時、意味は分かっていなかっ た、東大は学生の学びをサポートしてくれる様々な たと思うが)閉じた宇宙・開いた宇宙、ブラックホー 取り組みがある。より価値のある博士生活にするた ルなどの、日常の理解を超えた神秘的な概念の世界 めに、是非活用しよう。例えば、GPLLIという教育 に思いを巡らせていた。中学〜高校生になり、生物 プログラムでは、特別講義を行うだけでなく、学内 の複雑さを学び始め、生物の中に潜む宇宙に興味が 外の実習、様々な共通研究設備の利用ができる。学 変わっていった。人生をかけて研究をしていきたい 会や海外渡航の経済的サポートもある。私もこれら という気持ちは常にあったため、当時既に、ある意 のサポートを利用し、大変貴重な学びの機会を得る 味盲目的に博士進学を決意していたと思う。 ことができた。言葉にするとありきたりだが、可能 修士の院試の手続きの時期には、博士課程進学の 性・チャンスは無限である。時折開催されている技 是非についていくつか進学関連の本なども読んだり 術セミナーも大変役に立った。見落としがちだが、 したが、結局、博士課程進学の決意が揺らぐことは 授業に参加するのも良い。博士課程では基本的に授 一切なかった。ただ、修士の学生一般に博士課程進 業の単位を取得する必要はないが、参加は制限され 学を推奨しているわけではなく、やはり個人の事情 ていない。特に異分野の話や、新しく覚えたい技術 に即して選択して欲しい。むしろ、不適に博士に進 の基礎知識などは、授業に参加すると自分で本を読 学し悲惨な結末を招く可能性も十分考えなくてはな むよりも理解が良い。私は老けて見られる風貌だが、 らない。私の博士進学の理由として、「科学が好き これまで修士の学生に混ざって授業を受けてもそん だから」という根底はもちろんあるが、個人的な意 なに違和感はなかった(と思う)。是非利用しよう。 見として、それだけでは不十分だと思う。進学を 博士課程では、主体的に活動し、色々な機会を利用 迷っている修士学生は、誰かの受け売りだが、博士 することが重要である。 進学の是非について「定量的に」考えてみよう。も 18 留学生手記 計算分子機能研究分野 新領域創成科学研究科 博士課程2年 Tran » If you ever heard how life is hard in Tokyo, you will be fascinated by it, itself when just arrived « I am currently second year doctoral student of Graduate School of Frontier Sciences, and working in Kitao laboratory of Institute of Molecular and Cellular Biosciences. I first came to Japan in August 2014 for the entrance examination. Everything in Japan is ordered and systematic from the first sight. Airport staff bowed their head and say“い らっしゃいませ”one by one. Although less English guidance in daily life, services in Japan are always the best. Not only private companies, but city halls and public services also have their own staff to help the foreign customers to overcome the language barrier. Despite the unpleasant hot weather in August 2014, the hospitality of Japanese people made my first Japan trip more impressive. After the entrance examination, I took the bus tour around the center of Tokyo. Tokyo is among the biggest cities combining of the ancient temple such as Asakusa pagoda, Meiji shrine, Emperor Palaces covered by the modern skyscrapers. The main difference of Tokyo with other big cities all over the world is there is less cars in downtown. One of the main factors of it is the electric train network in Tokyo is extremely convenient. I soon figured out why many Vietnamese students want to carry out their studies and researches in Tokyo. I successfully passed the entrance exam and got scholarship to allow my three year PhD study in Japan. I was very excited to discover the charming Phuoc Duy of Japan through daily activities, traditional activities, and especially Japanese cuisine. All Japanese foods can be in my favorite list including 納 豆, which is made from soybeans fermented with Bacillus subtilis . If you have ever been in love with Chinese noodles, you will be more enthusiastic about ラ ー メ ン, and つ け 麺 with plenty of taste and soup that you can think of. You can easily find good ramen shop nearby station or even near your home without any effort. Of course, the fresh taste of different kind of sashimi, the famous sake or hotpot are unmistaken trademark of Japan. The special thing related to Japanese restaurant is that most of the shop is tiny and“可愛 い” . Moreover, in some restaurants, I am so excited about watching how the chief makes your dishes while enjoying my meal. After one year and a half being student in 東京大学, I learnt a lot from my Supervisor and my labmates, which is not only scientific knowledge but also the soft skills. I have gradually synchronized with the extremely hard working rhythm of the Japanese. I learnt from my Supervisor how to carry out the research theme in efficient way, and how to solve the problem that I encountered … The most important things I learnt is that cooperation is very important in sciences. Cooperation between labmates and cooperation between laboratories can provide better results in sciences. For ending my letter here, I will keep all memories and valuable knowledge in my PhD student period to be my precious luggage for the future carrier. 19 海外ウォッチング ペンシルベニア大学 明楽隆志(元染色体動態研究分野) 渡邊嘉典研を卒業し、University of Pennsylvania (通称 UPenn)でポスドクを開始してから早一年が 経ちました。UPennはアメリカ合衆国ペンシルベニ ア州フィラデルフィアに本部を置く私立大学です。 日本での知名度はそれほど高くありませんが、アメ リカで常にトップクラスに位置する大学の一つです。 私が籍を置くMichael Lampson研は、体細胞分裂 と減数分裂における染色体分配のメカニズムを研究 しています。こう簡潔に説明すると渡邊研と何が違 うのかと思われる方も多いと思いますが、それはご もっともで、基本的には同じ現象に違う角度からア プローチしている研究室です。渡邊研時代に染色体 分配にはまだまだ面白い可能性が秘められていると 感じたので、ポスドクでも同じ分野を更に追究して いく道を選びました。 Lampson研 が 所 属 す るDepartment of Biologyで はMedical schoolやEngineering schoolなどとの学部 を越えた共同研究が盛んです。染色体分配を研究し ているラボも多く、現在4つのラボ合同でChromo Clubというミーティングが定期的に開催されてい て、学内に居ながら同じ分野の研究者から批判的な コメントをもらえる貴重な機会となっています。ま た、世界中から各分野の第一人者が毎週のように来 訪し、 セミナーを開いてくれるのも大きな魅力です。 もちろんセミナーを聞くだけでなく、セミナーの前 後に個別で自分の研究について話し、フィードバッ クをもらうことも可能です。 University cityに隣接するCenter cityに住んでいま す。文字通りフィラデルフィアの中心街なので、大 体何でも手に入る上、イタリアンマーケットという 激安の生鮮市場があるのも魅力です。余談ですがイ タリアンマーケットは映画「ロッキー」シリーズの 舞台となっています。Center cityからUPennまで は約4kmの距離で、バスや自転車で20分ほどで着 きます。私はというと自転車が早々に盗難されて以 来、走って通っています。適度な距離のジョギング なので、実験後の良いリフレッシュになっています。 住んでいるアパートでは、激しい雨漏り、長時間の 停電、共用の洗濯機の故障、ネズミ襲来など、この 一年間で未知の体験を数多くしました。問題が起き るたびに少しずつ精神的に鍛えられていくので、何 事も捉え方次第です。 ちなみに、UPennから電車で40分ほどの郊外には、 日本人が多く住む綺麗で安全な地域もあるので、私 が経験しているのがフィラデルフィアの典型という 訳では決してありません。留学を考えている方は、 安心して下さい。 以上、この一年間の海外体験記でした。研究でも 私生活でも多くの失敗を経験し少しタフになった実 感があります。学位取得後の道を模索中のみなさん、 海外でチャレンジと失敗を繰り返しつつ成長してい く研究生活はいかがですか? Lampson研 の メ ン バ ー は ボ スを筆頭に何故か運動好きが集 まっており、5kmのレースや マラソンに出るのが恒例行事に なっています。去年参加した地 域の5kmレースでは、全体で の一位が当研究室の大学院生、 二位がボス、私は六位でした。 なんとか今年は勝ちたいもので す。 UPennが拠点を置くフィラデ ルフィアは、ニューヨーク、ロ サンゼルス、シカゴ、ヒュース トンに続き、意外にもアメリカ で人口が5番目に多い都市で す(約150万人)。また、ニュー ヨークまで電車で1時間なので 気軽に行ける距離です。私は現 在、UPennなどの大学が集まる フ ィラデルフィアマラソン受付会場にて。左端が筆者、右端が同じ研究室の大学院生 20 OBの手記 園田・小林特許業務法人 パートナー・弁理士 石岡 利康 (学部・修士:生体有機化学(橋本研);博士:細胞増殖(鶴尾研(内藤准教授(当時)))) この度は、分生研ニュースへの執筆の機会を頂き、 ありがとうございます。私は、学部4年と修士の計3 年間を橋本研で、博士と卒業後の計4年間を故鶴尾 隆先生の鶴尾研で過ごしました。その後、園田・小 林特許業務法人に勤務して10年、現在は、所員数約 80名の中堅特許事務所となった当事務所を共同経営 しています。十年一昔とは言いますが、現在の分生 研の教授陣や研究内容は、私の学生時代からはほぼ 一新されており、その変化の速さには驚くばかりです。 はじめに、我々、弁理士の仕事について簡単にご 説明します。我々の基本的な業務(代理業務)は、 企業・大学等の発明者に話を伺い、特許出願の書類 を作成し、特許庁に出願する『出願業務』、その後、 特許庁から「新規性・進歩性がない」、「実験に比べ て権利範囲が広過ぎる」等の拒絶がなされますので、 これに対応する『中間処理業務』 、そして、 『訴訟』 等です。その他、調査、翻訳、ライセンス関係、意 匠(デザイン) ・商標(ブランド)・不正競争・著作 権等の仕事もあります。私自身は主に化学・バイオ・ 医薬系の特許を担当しています。 私がこの世界に飛び込んだ理由は……かっこいい ことを言いたいところですが、実際は、体力不足を 痛感した(研究は意外と体力勝負ですね)のと、ア カデミックの競争の激しさと不安定さに尻込みした ためです。また、私は、修士で有機化学、博士で生 物学を中心に研究してきたため、多様な技術・経験・ 見識を持つことができた一方、研究者としては『こ れが柱!』と言える中心的なものを持っていません でした。そんな折、世界的バイオ医薬企業の代理人 である現職場では分生研での経験を直接生かせるこ と、多様さも生かせること等を重視し、現職場に就 職しました。実際、弁理士としてはバイオ案件(= ほぼ製薬会社・大学からの依頼のみ)だけでは食っ ていけませんので、学部~修士で学んだ化学の経 験・知識は非常に役立っています。 仕事のやりがいについては、正直、基礎研究や製 品開発ほどのやりがいはありません。代理人はあく まで代理人であり、主体とはなり得ませんし、新し いものを創造する仕事でもありません。作業自体も、 地味な書面作成が圧倒的大部分です(訴訟も実質、 書面での議論です) 。反面、ビジネス上、研究開発 の成果は特許などの知的財産がその主な出口となる ため、我々の責任は重大であり、それがやりがいと 言えるかもしれません。例えば、定年まで製薬企業 で働いたとしても実際に研究開発で関与することに なる医薬製品は多くないと言われますが、我々は、 複数の製薬企業に対し、製品に直接関わる特許等の 代理をするわけですから、数多くの医薬製品の開発 に重要な立場で関与することになります。この10年 間だけでも、私が直接特許を扱った医薬製品は、各 種抗体医薬、C型肝炎治療薬やインスリン製剤など、 計12にも上ります。ただ、我々がミスした場合、こ れらの製品は台無しとなってしまう(すぐにジェネ リックが発売され得る)わけですから、その責任は 極めて重大です。 私個人は、現職場で、実務以外にも、国内外での 営業活動、海外での招待講演から知財学術誌の査読 (まさか現職で査読をしようとは思いもしませんで した)まで多様な経験をすることができました。共 同経営者になった後は、経営にも携わっています。 価格競争で競争力を維持するには?グローバル化の 波や巨大資本にはどう対抗するか?『小売店がどう すればAmazonとの競争に勝てるか?』のようなこ とを考えることもあります。分生研時代に複数の研 究室に所属し、様々なラボ経営を見てきた経験も生 かせそうです。 分生研(又はOB)の皆様に、研究以外にも多様 なキャリアパスがあることをご存知頂けましたら幸 いです。当事務所は名古屋大学の「博士・ポスドク のキャリアパス支援プログラム」に協力していまし たが、どの業種でも共通して、ロジカルな思考力(生 物系の人は理工系に比べ劣りがちなので特に)、多 様な活動・交流経験、語学力は、武器となり得ます。 以上、長々と書きましたが、この手記の内容や知 財(特許)関係の質問・相談(依頼)等ございまし たら、メール頂ければ、出来る限りご返信致します。 [email protected] 最後になりますが、分生研の皆様の今後ますます のご発展を心よりお祈り申し上げます。 中国特許庁訪問時。写真左は当事務所の代表(園田 吉隆) 、中央は当事務所の中国弁理士、右は筆者。 21 ショウジョウバエの分子遺伝学的手法を用い たmiRNA遺伝子抑制機構の研究 RNA機能研究分野 特任助教 松浦絵里子 小 分 子RNAの 一 種 で あ るmicro RNA(miRNA)は、生物全般に広 く保存され、個体の発生から老化 に至る幅広い生命現象を支えてい ます。ショウジョウバエにおいて、 miRNAはArgonaute1(AGO 1)に 取り込まれ、RNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれる複合体 を形成します。次にRISCは相補的 な配列を有する標的mRNAを認識し、その遺伝子発現を抑制 します。miRNAによる遺伝子抑制経路のひとつに「mRNA 分解」があります(図)が、これは標的mRNAのポリA鎖の 脱アデニル化を介して引き起こされます。私は、RISCに直接 相互作用し、脱アデニル化酵素などのエフェクター因子を標 的mRNAへリクルートするための架け橋として働くGW182 という因子に着目して研究を行っています。GW182の機能解 析はこれまで培養細胞やin vitro系を用いて行われてきまし た。しかし、生物個体での機能解析はほとんどされておらず、 GW182の生理的意義はよくわかっていません。 そこで、私は、in vivoでGW182の機能解析をするために、 まずショウジョウバエを用いてgw182 遺伝子の完全欠損変異 体を作出することにしました。gw182 遺伝子はショウジョウバ エの遺伝学的ツールがあまり利用できない第4染色体に存在 リボソームRNA遺伝子の核膜結合 先導的研究教育プログラム(ゲノム再生研究分野) 助教 堀籠智洋 リボソームは細胞内唯一の 「翻訳」 装置であり、全てのタンパク質合成 を一手に担っています。そのためリ ボソームは大量に必要で、例えば、 盛んに増殖している出芽酵母1細胞 には約20万個のリボソームが存在 し、毎分2,000個のリボソームが新 たに生合成されています。このリボ ソームの大量生産を実現するため、 リボソームRNA遺伝子(ribosomal DNA: rDNA)は真核生 物ゲノムにおいて最大の反復配列(酵母では約150コピー) を形成しています。長大なrDNA反復遺伝子群はゲノムの中 で最も不安定な領域となっており、コピー数の変動が頻繁に 起こります。rDNAでは複製阻害点RFBに結合するタンパク 質Fob1によりDNA複製が阻害され、それに引き続くDNA二 本鎖切断と組み換え反応によりコピー数の変動が引き起こさ れます。興味深いことにこのコピー数の変動しやすさと細胞 寿命には密接な関係があり、rDNAの安定性を低下させると 寿命が短縮し(sir2 Δ)、逆に安定性を向上させると寿命が していますが、幸 いにも新たなゲ ノム編 集 法 であ るCRISPR/Cas9 システムを用いる こ と で、gw182 の 完全欠損変異体 の作出に成功し まし た。RNA-seq 解析とレポーター 遺伝子を用いた 遺伝学的解析か ら、gw182 欠 損 変 異 体 で はmiRNA による遺 伝 子 抑 制が減弱している ことがわかりまし た。これらの結果 から、in vivoにお いてGW182は確か にm i R N Aによる 遺伝子発現抑制を 図 miRNAによる標的mRNAの分解 担っていることが 示唆されました。現在、GW182と脱アデニル化酵素群との相 互作用領域を削った複数の変異体とgw182 欠損変異体との遺 伝学的解析を用いて、GW182と脱アデニル化酵素群との相互 作用の重要性を検討しており、GW182を介したmiRNAの遺伝 子抑制機構と生理的役割のさらなる解明を目指しています。 延長する(fob1 Δ)ことが分かっています。 われわれの研究室では、複製フォークを停止させてDNA 二本鎖切断を引きおこすFob1に依存して、rDNAが核膜に 結合することを見出しました(図参照)。また、この核膜結 合がrDNAリピートの安定化に寄与することが分かっていま す。長大な反復配列の中からダメージを受けたrDNAを探し 出して解析することは非常に困難です。そこでわれわれは、 rDNA反復配列を10コピーまで減らしてダメージ箇所の範囲 を狭めたモデル株を用い、rDNAがFob1依存的に核膜に結合 する様子を定量的に顕微鏡解析しています。これにより、核 膜結合がrDNAの安 定性や細胞老化、さ らには酵母が分裂す る際に見られる「ゲ ノムの再生」現象に 果たす役割について 明らかにしたいと考 えています。 図 rDNAは複製阻害点結合タンパク 質Fob1依存的に核膜と結合する 22 自閉症の原因となる遺伝子を特定 ~ GABAA受容体のトラフィッキング異 常が自閉症発症に関連~ Nakamura T, Arima-Yoshida F, Sakaue F, Nasu-Nishimura Y, Takeda Y, Matsuura K, Akshoomoff N, Mattson SN, Grossfeld PD, Manabe T, Akiyama T. PX-RICS -deficient mice mimic autism spectrum disorder in Jacobsen syndrome through impaired GABAA receptor trafficking. Nat . Commun . 7:10861 doi: 10.1038/ncomms10861 (2016). がGABARAPおよび14-3-3とアダプター複合体を形成し、 GABAA受容体をニューロン表面へ輸送することを示しまし た。ヤコブセン症候群は11番染色体長腕末端部の欠失に起因 する先天異常疾患で、 半数以上の症例で自閉症を発症します。 自閉症を有するヤコブセン症候群患者の共通欠失領域に位置 する4つの遺伝子のうち、PX-RICSのみが組織発現・細胞機 能ともに脳と関連します。さらに本研究により、PX-RICSの 機能が失われると自閉症様行動が惹起されることが明らかと なり、ヤコブセン症候群患者に発症する自閉症の原因遺伝子 はPX-RICSであると特定できました。GABAA受容体の輸送 というGABAシナプスのポスト側の異常による自閉症発症は 新しい知見です。 この輸送システムを標的とする薬剤の創製、 GABAA受容体アゴニストの適用など、自閉症の新たな治療 戦略を拓くものと期待されます。 自閉症は、対人関係の障害、コミュニケーションの障害、 限定的な興味や強いこだわり等を中核症状とする発達障害の ひとつです。脳の興奮/抑制バランスの異常による社会認知 機能の障害が原因であると考えられていますが、詳しい発症 機構は分かっていません。私たちはこれまで、大脳皮質・海 馬・扁桃体などのニューロンに豊富に発現しているPX-RICS の細胞機能を解析してきました。本研究では、PX-RICS遺伝 子を欠損するマウスが、新規個体に対する興味の減少、他 個体からのアプローチに対する応答の減少、超音波啼鳴の 減少、習慣への強いこだわり、協調運動障害、てんかん高 感受性など、自閉症症状に類似した多彩な行動異常を示す ことを見出しました。さらにその分子機序として、PX-RICS 大腸がんの発症に重要な長鎖ノンコー ディングRNAの発見 Kenzui Taniue, Akiko Kurimoto, Hironobu Sugimasa, Emiko Nasu, Yasuko Takeda, Kei Iwasaki, Takeshi Nagashima, Mariko Okada-Hatakeyama, Masaaki Oyama, Hiroko Kozuka-Hata, Masaya Hiyoshi, Joji Kitayama, Lumi Negishi, Yoshihiro Kawasaki, and Tetsu Akiyama Long non-coding RNA UPAT promotes colon tumorigenesis by inhibiting degradation of UHRF1 Proc Natl Acad Sci U S A., 113, 1273-1278(2016) ヒトゲノムからは、タンパク質をコードしないノンコー デ ィ ン グRNA(ncRNAs) が 大 量 に 転 写 さ れ て い ま す。 ncRNAは長さによって20-30塩基の小さなRNAと200塩基以 上の長鎖ncRNAに分けられます。長鎖ncRNAは特定の性質 を持っておらず、分子ごとに異なるメカニズムで機能して おり、その機能解析は遅れていました。しかし近年、長鎖 ncRNAが発生・分化、胚発生、幹細胞性の維持や癌化など の多様な生物学的プロセスに、非常に重要な役割を果たすこ とが明らかとなってきました。 本研究では、大腸がんの腫瘍形成に関与する新規長鎖 野生型(WT)およびPX-RISC欠損マウス(KO)大 脳皮質ニューロンの表面に発現するGABAA受容体 ncRNAであるUPATを発見しました。また、UPATがエピ ゲノム制御因子であるUHRF1タンパク質と結合し、ユビキ チン化によるタンパク質分解からUHRF1を守ることによっ てUHRF1を安定化していることを明らかにしました。さら にUPATと結合して安定化したUHRF1は癌の生存に必要な SCD1やSPRY4の発現を活性化し、大腸がんの生存及び腫瘍 形成能を制御していることを見出しました(図) 。 本研究結果によって、ユビキチン化及びタンパク質分解を 制御する長鎖ncRNAが存在することが明らかになりました。 これらの結果は、新規長鎖ncRNAであるUPATがUHRF1に 結合することが大腸がんの造腫瘍性に非常に重要であること を示唆しています。今後、UPAT-UHRF1複合体を標的とし た薬剤を創製することにより、大腸がんの治療に貢献するこ とが期待されます。 23 イメージングと数理モデリングで迫る組 織増殖の制御機構 高い増殖能を持つ細胞も、恒久的に増殖能を維持し続けるの では無く、一定の確率に基づき増殖能を失うような確率的な 神元健児、金子洸太、Cindy Kok、岡田甫、宮島篤、伊藤暢(発 運命変化により制御されることが明らかとなりました。こう した細胞のふるまいの違い・多様性は胆管の組織構造と相関 生・再生研究分野) しており、細胞増殖の制御と組織の形態形成との関連も示唆 Heterogeneity and stochastic growth regulation of biliary epithelial cells dictate dynamic epithelial tissue remodeling. されました。 本研究により胆管樹状組織の詳細な増殖制御機構を明らか にできたことは、組織増殖一般の基本原理の解明につながる と共に、肝臓の再生機構の解明に重要な貢献を果たすものと 期待されます。 eLife , in press.(DOI: 10.7554/eLife.15034) 組織・臓器が形作られる発生過程や、障害からの再生過程 では、組織を構成する細胞が秩序だった増殖を行うことで機 能的な3次元組織構造体を構築します。今回、肝臓の内部を 複雑に走行する管である胆管が肝臓の障害・再生時に見せる 劇的な増殖および構造変化に注目し、その背後にある細胞増 殖制御機構を、イメージングと数理モデルを用いた新規手法 により明らかにしました。 肝障害時の胆管組織の構造変化や増殖は、肝臓の再生に重 要な役割を果たすことが知られているものの、その実態はこ れまで明らかになっていません。我々は3次元構造を保持し た組織中の細胞を精細に可視化・観察する方法を構築し、胆 管組織中の細胞一つ一つの細胞分裂の状態を定量的に追跡し ました。さらに、コンピュータシミュレーションを用いて様々 な数理モデルと実験データとの比較を行うことで、実際の データに合致するような数理モデルの作成に成功しました。 その結果、組織全体のダイナミックな増殖・構造変化の背後 では、その構成細胞の大半は増殖能を示しておらず、一部の 細胞の増殖が重要な役割を担うことが判明しました。また、 コドンが受精卵のmRNA安定性を決定 していることを発見 *Mishima, Y and Tomari, Y Codon usage and 3′UTR length determine maternal mRNA stability in zebrafish Mol Cell. 2016 Mar 17;61(6): 874-85. 動物の受精卵には母親に由来するmRNA(以下、母性 mRNA)が蓄えられており、これを鋳型として合成される さまざまなタンパク質が、受精直後の生命現象を支えていま す。しかし受精後一定の時間が経つと、一部の母性mRNA は速やかに分解され、胚自身の新しいmRNAに置き換わり ます。個体発生における母親離れとも言うべきこの時期にお いて、どのような規則に基づいて母性mRNAが分解される のかは、これまであまり分かっていませんでした。今回我々 は、ゼブラフィッシュという小型熱帯魚の受精卵を用いて、 母性mRNAの安定性を決定する要因を解析しました。安定 な母性mRNAと不安定な母性mRNAを網羅的に区別し、さ らに情報解析によってそれらの持つ特徴を詳細に比較した結 果、両者では遺伝暗号であるコドンの組成に偏りがあること が分かりました。またコドンの組成を改変した人工遺伝子 を合成し、コドンの組成がmRNAの3′ 末端にあるポリ(A) 鎖の長さに影響を与えることでmRNAの安定性の差を生み 出すことを実験的に証明しました。さらにこの分解現象には 3′UTRの長さが補助的な役割を果たしていました。以上の 結果から、タンパク質のアミノ酸配列を指定する遺伝暗号で あるコドンに、母性mRNAの安定性を規定する役割がある ことが明らかとなりました。 24 piRNA前駆体の末端を削り込むRNA分 解酵素「Trimmer」の同定 specific ribonuclease)類似のヌクレアーゼドメインと膜貫 通ドメインをもち、ミトコンドリア画分に多く存在した。興 味深いことにTrimmerは単独では機能できず、PIWIタンパ ク質結合因子であるPapiと協力して、piRNA前駆体の末端 Izumi N, Shoji K, Sakaguchi Y, Honda S, Kirino Y, Suzuki を削り込んでいることが明らかとなった。さらにTrimmer- T, Katsuma S, Tomari Y. Identification and Functional Analysis of the Pre-piRNA 3’Trimmer in Silkworms. Cell. 2016,164:962-73. Papi複合体によってpiRNAが前駆体から成熟型になること が、piRNAの機能発揮に重要であることを見出した。これ らの研究結果は、piRNAが前駆体から成熟するしくみとそ の重要性を明らかにしたものであり、生殖細胞のゲノムを守 るpiRNA生成メカニズムの理解を前進させる成果といえる。 piRNA(PIWI interacting RNA)は動物の生殖巣に発現す る30塩基程度の小分子RNAで、生殖細胞でのトランスポゾ ンの発現抑制に中心的役割を果たしている。piRNAはRNA 切断活性を有するPIWIタンパク質と複合体を形成し、標的 となるトランスポゾンの転写抑制、および転写されたトラ ンスポゾンRNAを切断することで、トランスポゾンの活性 を封じ込める。piRNAの生成機構は未だ不明な点が多く残 されているが、生成の最終段階で、成熟型より長いpiRNA 前駆体がPIWIタンパク質に取り込まれ、その末端が削り込 まれることで成熟型piRNAがつくられると考えられている。 piRNA前駆体を成熟型の長さまで削る因子は「Trimmer(ト リマー)」とよばれ、長い間その存在が予想されていたものの、 分子実体は不明であった。 本研究では、piRNAを発現するカイコ卵巣由来のBmN4 細胞を用いた生化学的解析から、機能不明のヌクレアーゼ であったPNLDC1(PARN like domain containing 1)をカ イコのTrimmerとして同定した。TrimmerはPARN(polyA piRNA前駆体を取り込んだPIWIタンパク質はPapiによって ミトコンドリア膜上に引き寄せられる。PapiはさらにpiRNA 前駆体に結合し、TrimmerがpiRNA前駆体の末端に近づきや すい状態をつくり、TrimmerがpiRNA前駆体の末端を削り込 み成熟させる。