...

2011年6月発行 - 東京大学分子細胞生物学研究所

by user

on
Category: Documents
211

views

Report

Comments

Transcript

2011年6月発行 - 東京大学分子細胞生物学研究所
1
東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌
6月号(第46号)2011. 6
IMCB
Institute of Molecular and Cellular Biosciences
University
of Tokyo
The University
of Tokyo
目 次
高難度蛋白質立体構造解析センター紹介…………………… 1∼3
平成22年度分子細胞生物学研究所・医科学研究所合同技術発表会を終えて …… 16
受賞者紹介…………………………………………………………… 4
国際会議に出席してみて……………………………………… 17∼18
退職のご挨拶(横田 明)………………………………………… 5
2010年度分生研所内発表会…………………………………… 19∼22
転出のご挨拶(川口大地、田中晃一、青山洋史、諸田 清)6∼7
第26回バイオテクノロジー懇談会…………………………… 23∼24
着任のご挨拶(岩崎信太郎、榎本 豊、佐々木浩、山岸有哉、
Welcome to IMCB …………………………………………… 25∼26
小林和幸)…………………………………… 7∼8
お店探訪……………………………………………………………… 27
おめでとう!大学院博士・修士課程修了者………………… 9∼10
編集後記……………………………………………………………… 27
次代のホープ達………………………………………………… 10∼11
研究紹介(金井隆太、古俣麻希子、
2010年度 分生研セミナー一覧……………………………… 12∼13
須谷尚史、中戸隆一郎)………………………… 28∼29
2010年度 プレスリリース一覧…………………………………… 13
研究最前線(RNA機能研究分野、心循環器再生研究分野、
事務部 業務紹介…………………………………………………… 14
生体有機化学研究分野、脳神経回路研究分野、
平成22年度分子細胞生物学研究所技術職員研修………………… 15
核内情報研究分野、核内情報研究分野)…… 30∼32
高難度蛋白質立体構造解析センター紹介
2010年7月に発足した分子細胞生物学研究所・高難度蛋白質立体構造解析センターについて、センター長
の豊島 近教授にお話を伺いました。
編集委員:まず、センター設立の目的と運営方針から教えて下さい。
豊島:宣言みたいなものは分生研概要を見ていただくとして、精神としてはですね、2つあると思います。
世の中の風潮として、ともかく「結晶が出来ないことには始まらない」と言うことで、生産も易しく、結晶
化も易しいものへと言う傾向が強い。それではいかんわけですよね。今後の薬の標的の大部分は膜蛋白質で
あると言われます。現在PDB(Protein Data Bank)には膨大な数の立体構造が登録されていますが、膜蛋白
質の、しかも高等動物の膜蛋白質の構造となると両手では
足りないかもしれないけど、本当に数えられるくらいしか
ない。皆、発現しやすいバクテリアのホモログに行くわけ
です。それではいかんと。結晶化にはまず大量の精製蛋白
質が必要なわけですが、バクテリアの膜蛋白質の生産技術
をいくら向上させても、高等動物の膜蛋白質は発現できな
いわけです。難しくても正面から向き合わないと進歩はな
いですよね。もう1つは、人材の不足です。そういう難し
いことに挑戦しようという意欲のある若い世代が決定的に
不足している。
「ポスドクを雇える金は出来たけど人がい
ない」と言うのはよく聞く話です。社会が成熟すると、皆
保守的になるから仕方ないかもしれないけれど、少しでも
外から見える形にしたい、次の世代を育てたいという思い
豊島センター長。低温室での実験の途中にお邪魔しました(横の
椅子に保温着が掛けてあります)。
2
がありますね。
編集委員:センターには多くの研究室が所属していますね。それぞれの研究室の特徴を簡単にご紹介いただ
けますか?研究室間の連携はどのように計画されていますでしょうか。
豊島:大別すると、構造解析に関する所謂ウェットな実験を行う「高難度蛋白質生産分野(小川准教授)」、
「膜
蛋白質解析分野(豊島教授)」、
「蛋白質複合体解析分野(深井准教授)」の3研究室、創薬開発を担当する「分
子標的薬剤設計分野(杉田准教授)」、計算機でのシミュレーションを行う「計算分子機能分野(北尾准教授)」
の計5研究室から構成されています。
「高難度蛋白質生産分野」は高等動物培養細胞や昆虫細胞の発現系を用
い、高難度蛋白質の生産(発現・精製)に、取り組んでいます。こうして生産された高難度蛋白質は「膜蛋
白質解析分野」と協力し結晶化が行われます。「膜蛋白質解析分野」は脂質を用いた膜蛋白質結晶化等、独自
技術やノウハウを数多く持っており、この分野で世界をリードしています。
「蛋白質複合体解析分野」は分生
研が受け皿となっている東大の放射光連携機構と兼担してもらっていますが、独自に膜蛋白質や超分子複合
体などの生物学的・医学的に重要な蛋白質の結晶構造解析に取り組んでいます。蛋白質の構造が決定された
ら、それを元に分子を活性化、或いは阻害する分子を設計できれば創薬につながるわけですが、これには「分
子標的薬剤設計分野」に期待するところが大きいですね。有機化学の知識が構造屋にはだいたい決定的に不
足していますから。薬剤が出来れば蛋白質との複合体結晶を作成し、構造情報をフィードバックして改良と
いうのが理想的スタイルですし、
「計算分子機能分野」にも提供し、計算機上での構造最適化等を行うことが
できます。計算機上でのドッキングだけで薬剤開発ができるか、と言うと今はまだ難しいみたいですね。
編集委員:センターへは、外部から構造解析を依頼したり、構造解析についての支援をお願いしたりできる
のですか?
豊島:もちろんです。センターには高密度培養を可能にするファーメンターや、X線回折装置、結晶化・構
造解析に必要な機器類が整備されています。10μlの試料で96種類の条件検討を行うことのできる結晶化ロ
ボットを用いれば、最低0.1mgの蛋白質で最初のスクリーニングが可能です。今はスクリーニングのための溶
液キットなどもよく整備されていますから、最初のスクリーニングで当たりが出ることも多いですよ。先ずは、
誰でもいいですから、スタッフにご相談を。
編集委員:センターと企業との産学連携についても教えて下さい。
豊島:センターとしては今現在は特にないですが、研究室単位では既に進んでいるところもありますし、今
後積極的に行っていきたいですよね。その為には、まず宣伝が必要でしょうね。
編集委員:素人の質問で恐縮ですが、少し技術的なことを伺いたく思います。先生は、X線・電子線結晶解
析を用いて世界的な成果を挙げておられますが、結晶解析がNMRなど他の方法に比べて持つ優位点を教えて
いただけますか?
豊島:NMRには分子量の壁がありますし、蛋白質に安定同位体を取り込ませないとそもそもシグナルがない
わけです。大きい膜蛋白質を対象にするなら、特に、動物から蛋白質をとってきてというと、結晶を作るし
かない。電子顕微鏡で単分子という手もありますが、分解能の点であまりにも情報不足です。特に薬剤開発
(図)Ca2+ポンプの構造変化
3
を視野に入れようとしたらX線結晶解析しか現実的にはないですね。
編集委員:X線結晶解析では解析可能なよい結晶を得るのはなかなか難しいと聞きます。そのための条件と
は何でしょうか?特に結晶化が難しい蛋白質の場合について教えて下さい。
豊島:よく言うのですが、
「蛋白質がhappyな条件をまず捜すこと」です。一週間程度の長期安定性を見るの
が簡単ですね。ですから、活性が測定できない蛋白質というのはしんどいです。その次は「ある特定の状態
に蛋白質を固定すること」です。蛋白質は熱運動でふらふら動いているものですから、それを特定の構造に
固定してやらないといけない。阻害剤があれば、それが有効に働く場合は多いですし、Ca2+ポンプ(図)の
場合は燐酸アナログが使えました。一番難しかったのは、結局最初に構造を決定した、Ca2+結合時の結晶です。
この状態では3つある細胞質ドメインが自由なので、ごく薄い結晶しかできませんでした。
編集委員:そのCa2+ポンプの構造についてですが、先生のご興味を最も強くひいた点は、どこだったのでしょ
うか?
豊島:研究の進みから見ると、最初は電子顕微鏡レベルのチューブ状結晶で、カルシウム非結合時の構造で
した。その次にカルシウム存在下での電子顕微鏡レベルの三次元微結晶、さらにそのX線レベルの大きい三
次元結晶となるわけですが、ともかく、そこから見えてきた構造変化が非常に大きい。それで、次にカルシ
ウム非結合時の原子構造が得られてみると、どうやってこうなるのか予想もつかないくらい大きい。構造変
化が分子全体に渡って起こっているものだから、何が卵で何が鶏かわからない。まして「どうして構造がこ
うなっているのか」がわからない。というわけで、構造は見えたけれど理解できない、そういう状況が続い
たわけです。ああ、こうなってるんだ、と解った気になったのは4つ目の中間状態の構造が解けた時ですね。
編集委員:構造変化の謎への強いご興味が解明に繫がったのですね。次に蛋白質立体構造研究におけるコン
ピューターの役割についてのお考えをお聞かせ下さい。将来は、一次構造の情報だけからコンピューターで
三次構造が正確に予測できるようになるのでしょうか?
豊島:計算機の性能や解析プログラムの飛躍的向上に伴い、構造解析の計算自体は格段に速く且つ簡単になっ
てきています。実際、分子量が5万程度の分子で、2Å分解能程度のデータが収集できれば、電子密度図を
自動的に計算し、アミノ酸配列に従って構造を解いてくれるようなプログラムも開発されています。一方、
結晶構造はそもそも動的な蛋白質の一つの静止状態の構造を見ているにすぎないわけですから、生体中での
実際の動きを理解するには分子動力学計算が欠かせません。ですが、この目的のためには計算機はまだまだ
非力で、ようやくμsecの計算が現実的になってきている段階です。Ca2+ポンプのように分子量11万、反応サ
イクル1周するのに30msecかかるような系をシミュレーションするのはまだ非現実的ですね。一次構造から
の立体構造予測はコンテストがあるくらいで、これも信頼性があるという状態ではないですね。
編集委員:まだこれからということですね。近い将来正確な予測が可能になるものと思っていました。その
ほかに蛋白質の立体構造解析について専門外の人間がよく抱きやすい誤解がありましたら教えて下さい。
豊島:よく言われるのが「結晶構造は生体中ではあり得ない人為的構造ではないか」というものです。確か
に結晶化条件は生理的条件とは異なることがほとんどでしょう。ただ、蛋白質は動いているので、結晶中の
構造は、存在確率は低いかもしれないが実際にある構造の一つである、というのが正しい理解でしょう。あと、
「分解能3Åなのに1Åの動きを議論していいのか」というのもありますね。3Åというのは波の山と山の間
隔で、波の山がどこに位置するかは位相が決めているわけです。位相の精度というのは普通の解析では表に
は出てきませんが、分解能の1/3くらいの精度は普通あると考えられます。ですので、3Å分解能で1Åの動
きはまあ議論できますが、水や側鎖の詳細な議論とかは、本来許されないものですね。
編集委員:最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか?
豊島:日本ではまだまだ構造に対する関心が低いように思います。科学も一つの文化ですから、自分が学ん
でこなかったものには、なかなか眼が向かないしハードルが高いですよね。分生研の中の交流ももっと盛ん
にして行かなければと思います。そのためにはある程度のサービス体制とか結晶化講習会みたいな啓蒙活動
も必要かもしれません。今や分生研には、高等動物膜蛋白質でも結晶化に十分な量を作れる技術と設備があ
るわけですから、是非トライしてみて欲しいですね。
編集委員:お忙しい中、ありがとうございました。
実験の合間に時間を割いていただき、センターの基本精神、組織運営、難解な立体構造解析の話まで、門
外漢の質問に一つ一つわかりやすく答えて下さいました。今後もセンターの役割は世界的に重要性を増して
いくと思います。ますますのご発展をお祈り申し上げます。
(文責 土本)
4
受賞者紹介
受 賞 者 名:今井 祐記
(若手研究者自立促進プログラム骨関節疾患制御研究分野/
特任講師)
賞 名:日本骨代謝学会 研究奨励賞
受 賞 日:2010年7月22日
受賞課題名:骨代謝制御における性ホルモン受容体研究
受 賞 者 名:石川 稔
(生体有機化学研究分野/助教)
賞 名:第23回有機合成化学協会研究企画賞
(武田薬品工業研究企画賞)
受 賞 日:2011年2月18日
受賞課題名:異常凝集型タンパク質の分解誘導剤:有機合成化学を基盤と
した新たな神経変性疾患治療戦略の提案
受 賞 者 名:深井 周也
(放射光連携研究機構/准教授)
賞 名:平成23年度科学技術分野
文部科学大臣表彰 若手科学者賞
受 賞 日:2011年4月11日
受賞課題名:X線結晶構造解析による細胞シグナリング複合体の研究
5
退職のご挨拶
バイオリソーシス研究分野 准教授 横田 明
東京大学を3月に退職致しましたが、研究室の後片づけがあり、大阪の自宅に戻ったのは4月末でした。
17年間単身赴任でしたので、大阪の山奥にある住まいは草ぼうぼうでした。目下、自宅で晴耕雨読のまねご
とをやっております。
東京大学分子細胞生物学研究所在職中は多くの方々にお世話になり、楽しく研究を行うことが出来ました。
心から感謝致します。
1994年11月に分子細胞生物学研究所の微生物微細藻類研究分野の助教授として採用され、細菌の分類研究、
カルチャーコレクション、そして学生の教育に取り組むことを始めました。当初はどのような研究をしてい
こうかといろいろ考えることばかりで、まったく順調ではありませんでした。そうこうしているうちに数年
たち、1999年に杉山純多教授が退官された後、研究室を引き継いでからやっと少しづつ調子が出てきました。
研究室での良き仲間にめぐまれ、バイタリティのある学生にもめぐまれ、研究がどんどん進みました。研究
に励み、一緒に酒を飲み、スポーツを楽しみ、人生をエンジョイできたすばらしい時期だったと感謝してお
ります。
一方、カルチャーコレクションについては菌株カタログ第3版を出した2004年頃までは順調でしたが、大
学法人化の波を受けて人員の補充が十分でなく、コレクションとしてはまさにエンデンジャー化してしまっ
たことから、菌株の品質低下の前にJCM、NIESへの移管を決意しました。幸い、両コレクションから快諾を
いただき、2008年に無事移管を済ますことができました。
分子細胞生物学研究所での17年間に多くの方々にお世話になり、よき先輩、同僚、後輩、学生、そして協
同研究者に恵まれてきました。ここに、心から感謝の意を表します。
最後に、バイオリソーシス研究室はなくなりましたが、研究室の研究成果である東大泡盛「御酒」をくれ
ぐれも御愛飲いただけますよう、研究所の皆様にお願いを申しあげます。
6
転出のご挨拶
先導的教育プログラム 助教 川口大地
大学院時代も含めて7年間お世話になった分生研を2011年1月に退職し、現在はアメリカの
サンディエゴにあるソーク研究所にてポスドクとして新たな研究生活を送っております。アメ
リカに来てすぐは生活のセットアップで精一杯という感じでしたが、ようやく最近は南カリ
フォルニアの温暖な気候の下、海・山に囲まれた自然豊かな環境で研究に集中できるように
なってきております。
分生研では情報伝達研究分野(後藤研)にて神経幹細胞の運命決定制御に関する研究を行っ
てきました。後藤由季子教授の下で個性豊かな仲間と共に非常に楽しく刺激的な研究生活を送
ることができ、後藤教授と後藤研の皆様にはとても感謝しております。ソーク研究所では、神
経回路形成に関する研究を行っていく予定です。分生研で学んだ多くのことを糧に研究を楽し
みながら一日一日を大事に過ごしていきたいと思っております。最後になりましたが、お世話になった分生研の皆様
に深く感謝申し上げますと共に、皆様のご健康と益々のご活躍を心より願っております。
先導的教育プログラム 講師 田中晃一
平成23年4月1日付けにて、京都大学微生物科学寄附研究部門へ異動いたしました。
分子細胞生物学研究所に在籍させていただいた6年半の間、皆様には大変お世話になりまし
た。渡邊教授をはじめ研究室の皆様、諸先生方、研究室員の方々、事務の方々のおかげで、非
常に恵まれた環境で研究させていただけたことに心より感謝し、この場をお借りして厚く御礼
申し上げます。分生研では本当に多くのことを学ばせていただきました。今後はこの貴重な経
験を生かし、新たな気持ちでさらに成長できるよう努力していきたいと願っております。今後
ともどうぞ変わらずご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、分生研の今後ますますのご発展を心よりお祈りして、転出の挨拶とさ
せていただきます。どうもありがとうございました。
生体有機研究分野 助教 青山洋史
2011年4月1日付で東京薬科大学薬学部に講師として赴任いたしました。分生研では橋本祐
一教授が舵を取っておられます生体有機化学研究分野に約4年半の間、席を置かせていただき
ました。そこでは私の専門領域の化学だけでなく、生物学分野の基礎知識から応用研究に至る
様々な研鑽を積ませていただきました。生体有機化学研究分野は本館の2階に位置しており、
私自身の記憶がなくても、生体有機の近辺で白とは呼べないくらい汚れた白衣を着ていた人物
と言った場合には記憶に残っている人もいらっしゃると思います。
さて、現在の勤務先である東京薬科大学は130年以上の歴史を有する大学で、生命科学にも
積極的に力を入れており、研究を行う環境としては分生研ほどではないにしてもかなり充実し
ている感があります。その中にあって、私が所属する研究室は物理化学の指導を行う研究室で
ありますので、私の研究者人生の中においてもまた少し違った研究が行えるという期待と緊張とがおり混ざった日々
を過ごしております。また、大学は高尾山が目と鼻の先にあるという自然にあふれた環境にあります。普段は研究や
教育の生活が主になりますが、せっかくの環境でありますので休日には都心に住んでいた頃にはなかなか接すること
ができなかった自然を満喫したいと思っております。また、夏には高尾山でビアホールも開催されるとのことですの
で、こちらも楽しみに毎日頑張っていきたいと思っています。
在籍中には生体有機化学研究分野のスタッフや学生・卒業生をはじめ、分生研に所属する様々な方々にお世話にな
りました。この場をお借りして篤く御礼申し上げます。末筆ながら分生研のますますのご発展を心よりお祈り申し上
げます。
7
事務長 諸田 清
平成23年4月1日付けにて、白金台にあります医科学研究所へ異動いたしました。
分子細胞生物学研究所へ着任いたしましたのは、平成22年4月1日でしたので1年間という
短い期間ではありましたが、分生研が生態系及び遺伝学などの高水準な研究を行っていること
はもちろん、理系の大部分の研究科から院生を受け入れ、大学院教育にも積極的に取り組んで
いることなど実感いたしました。また、所の管理運営に執行部として携わり、平成22年7月の
改組の実現、新棟の着工など皆様方の協力を得て、充実した1年間となりました。
この間、秋山所長をはじめ諸先生方、職員の皆様方、そして事務部の皆様にも本当にお世話
になりました。今年の秋には分生研の狭隘解消策の一つである新棟竣工も予定されており、完
成を見ず心残りもありますが、
この一年間ご指導いただきました皆様方に深く感謝いたします。
私としても今後も一層努力してまいりたいと思いますので、変わらずご指導ご鞭撻を賜りま
すようよろしくお願い申し上げます。
最後になりますが、分子細胞生物学研究所の益々のご発展と皆様方のご健康を心よりお祈り申し上げます。
着任のご挨拶
先導的研究教育プログラム 助教 岩崎信太郎
四月からRNA機能研究分野、泊研究室で先導的研究教育プログラム助教をさせていただき
ます岩崎信太郎と申します。よろしくお願いします。
私は修士1年まで東大駒場キャンパスの渡辺雄一郎先生の研究室で植物のRNAサイレンシ
ングの研究を行っていました。その後、泊幸秀先生が分生研に研究室をもつというお話を聞い
て分生研にお邪魔をすることになり、研究室の立ち上げ時から泊研究室でお世話になっていま
す。泊研究室ではショウジョウバエの抽出液を用いた生化学的解析を中心にRNAサイレンシ
ングがどのような分子メカニズムを介して働くのかを研究してきました。今年の三月に無事、
学位を取得し、先導的研究教育プログラム助教として引き続き泊研究室でお世話になっており
ます。当初は自分を含めたった3人の研究室でしたが、現在17人に増えだいぶ賑やかな研究室
となり、感慨深いものがあります。その間、人数が増えるにつれ、扱う生物種も増えていき現
在ではショウジョウバエ、カイコ、ヒト、植物と多様です。加えてそれらの生物を扱う人々のバックグラウンドも多
様性豊かであり、そこから得られる知識や技術も多く、日々充実した研究生活を送っております。
RNAサイレンシングは非常に競争が激しい分野ですが、それに負けないよう、むしろこの分野を先導できるよう、
日々精進しております。まだまだ若輩者ではありますが、分生研の皆様どうぞよろしくお願いします。何かありまし
たら、気兼ねなくお声をかけていただけるとありがたいです。
発生・再生研究分野 助教 榎本 豊
2011年4月から発生・再生研究分野の助教として着任しました榎本豊と申します。分生研に
は初めて足を踏み入れました。どうぞよろしくお願いいたします。
これまでは、本学の医学系研究科博士課程に在籍しており、医科学研究所の北村俊雄先
生のご指導のもと研究をしておりました。そこでは、白血病において発現異常が見られた
microRNAの機能解析と、マクロファージやマスト細胞、好中球など自然免疫に関わる細胞に
発現が見られる新規のペア型レセプターファミリーの機能解析という二本立てで研究に取り組
んでいました。分子生物学や細胞生物学的アプローチから、生体内における高次機能を解明し
たいと考えていた自分にとっては、まさにうってつけのテーマでした。そして、研究テーマを
ゼロの状態から立ち上げて、研究を進めていく上で必要なツールを作製し、さらに共同研究者
とディスカッションをして研究の方向性を定めていく、という経験をさせていただきました。
これから研究者としての一歩を踏み出すためのよいトレーニングを積むことができ、非常に恵まれた環境だったなと
思っております。
この度、発生・再生研究分野に移りまして、研究をする対象も肝臓へと変わります。しかし、肝臓にも様々な細胞
が存在しており、血球細胞も多く存在しています。さらには、免疫反応も肝臓の機能形成や肝疾患に関わっているこ
とが示唆されており、これまでのバックグラウンドを活かして研究を進めていきたいと考えております。
今私がこうして研究をできるのも、これまで様々な方がサポートしてくださったおかげだと思っております。今度
は自分が、研究をする上でよい環境作りに微力ながら貢献したいと考えております。まだまだ拙い部分ばかりですが、
よろしくお願いいたします。
8
先導的研究教育プログラム 助教 佐々木 浩
本年4月1日付けで、先導的研究教育プログラムの助教として着任いたしました佐々木浩と申しま
す。私は、東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻の横山茂之研究室にて、卒業研究から博士課程
までの学生生活を過ごし、本年3月に学位を取得いたしました。
私は「みる」ということに興味をもっています。これまでは構造生物学、特にX線結晶構造解析と
いう手法を選び、生物学が対象とするもっとも微細なレベルで、生命現象を担う部品の精緻なメカニ
ズムを観察してきました。具体的には、遺伝暗号の対応関係を形成するアミノアシルtRNA合成酵素
について、その高度な基質特異性がどのように保障されているかを、構造解析と生化学解析の両面か
ら追究してきました。
これから私は、RNA機能研究分野(泊幸秀准教授)にて、1分子イメージングによるRNAサイレン
シング機構の分子ダイナミクスの解明を目指そうと考えています。18 30塩基長程度の小分子RNAに
よるRNAサイレンシングは、真核生物に広く保存された転写後遺伝子発現制御機構です。RNAサイレンシングを担う核酸・タ
ンパク質複合体については、泊研究室をはじめとした多くの生化学的・細胞生物学的研究によってその解明が進み、構成因子
や素過程が明らかとなってきました。しかし、それらの因子がどのように会合して機能的な複合体を形成するか、その順序と
構造変化の詳細については、まだ詳しいことが明らかとなっていません。1分子イメージングを用いることで、素子の振る舞
いの平均値としての生命現象ではなく、個々の素子の振る舞いを観察して、元の確率分布を記述し、RNAサイレンシング機構
の原理を明らかにしたいと考えています。
私自身にとって、泊研でのこれからの研究生活は、テーマとしても方法論としても、まったく新しい挑戦となります。分生
研という素晴らしい研究環境のもとで、これまでに培った構造生物学的なものの考え方を活かし、この問題に取り組もうと考
えております。未熟な点も多々あると思いますが、分生研の皆さまからご指導ご鞭撻を賜れば幸甚に存じます。どうぞよろし
くお願いいたします。
先導的研究教育プログラム 助教 山岸有哉
4月より、染色体動態研究分野の助教に就任させていただきました山岸有哉と申します。私はこの
3月まで5年間、同じ染色体動態研究分野の渡邊嘉典教授のご指導のもと、大学院生として過ごして
学位を取得しました。大学院時代は、シュゴシンとCPC(Chromosomal Passenger Complex)という、
進化的に保存された、染色体分配の本質的な制御因子が、その職場といえる染色体上のセントロメア
領域にどのようにして局在するのかということをテーマに研究してきました。今後も染色体分配の制
御因子の機能やその局在化のメカニズムを中心に研究を続けていきたいと考えています。それと同時
にこれからは、今までのような何よりも自分の研究が中心という大学院生気分ではなく、研究室のス
タッフとして自覚を持ち、研究室全体のアクティビティや士気の向上を目指して、自分に出来ること
を探して積極的に行っていきたいと考えています。そうすることで必ず自分の研究にもプラスになる
と思います。
また、分生研という場所は研究環境、研究レベル共に世界でトップレベルの研究所であると思っています。このような環境
で研究ができる利点を活かし、様々な分野の第一線で活躍する分生研の研究者の方々とも積極的にコミュニケーションをとり
ながら、研究活動に励んで行きたいと考えています。まだ学位を取り立ての若輩者ですが、皆様どうぞご指導・ご鞭撻のほど
よろしくお願いいたします。
事務長 小林和幸
4月1日付けで諸田前事務長の後任として着任いたしました小林と申します。
これまで東大をはじめいろいろな機関を経験してきましたが、理系の部局が多かったことから分生
研での薬品などのにおいや廊下に置かれた実験器具等にも違和感なく融け込むことができました。
また、分生研の活動について、秋山所長から本研究所が極めて高水準の先端的・先導的研究を活発
に行っており、学内はもとより世界的にその成果が認められているとの説明を受け身の引き締まる思
いがしました。この活発な研究活動の推進に対して、これまでの経験を活かし少しでも貢献できれば
と考えております。
東日本大震災の対応や新棟の建設といった当面の課題がありますが、秋山所長はじめ教職員の皆様
方のご指導とご協力をいだき、事務長としての重責を果たしていく覚悟ですのでよろしくお願いいた
します。
9
おめでとう!大学院博士・修士課程修了者
染色体動態研究分野
博士課程
山岸 有哉
理学系研究科
「シュゴシンおよびChromosomal Passenger Complex(CPC)
のセントロメア局在化機構の解析」
石黒 伸茂
理学系研究科
「シュゴシン-PP2A複合体はⅠ型カゼインキナーゼ依存的な
セパレースによるRec8の切断に拮抗する」
修士課程
渋谷 大輝
農学生命科学研究科
「Aurora BによるCAP-Hのリン酸化はコンデンシンⅠとヒス
トンH2Aとの結合を促進する」
進 寛明
理学系研究科
「動原体タンパク質Dsn1の減数分裂特異的な挙動の解析と相
互作用因子の同定」
核内情報研究分野
博士課程
林 珍仙
農学生命科学研究科
「分子遺伝学的アプローチによる新たなクロマチン構造調節
機構に関する研究」
井上 和樹
農学生命科学研究科
「Y染色体遺伝子欠損マウスを用いた骨格性差構築の新規分
子基盤の解明」
村田 拓哉
農学生命科学研究科
「ヒストンH1による特異的へテロクロマチン構造変換機構に
関する研究」
修士課程
肥塚 真実子
「Y染色体遺伝子の機能解析の試み」
農学生命科学研究科
辻 直也
農学生命科学研究科
「破骨細胞における脂溶性リガンドの核内受容体を介した生
体内高次機能の解明」
戸田 康裕
農学生命科学研究科
「骨格筋におけるアンドロゲン受容体の作用機構の解明」
分子情報研究分野
博士課程
船戸 洸佑
理学系研究科
「膠芽腫がん幹細胞におけるヒストン脱アセチル化酵素
SIRT2の機能解析」
辻 真之介
農学生命科学研究科
「大腸癌の発症と幹細胞性に関する研究」
修士課程
髙橋 理那
「癌幹細胞マーカー CD133の機能解析」
理学系研究科
情報伝達研究分野
博士課程
岡崎 朋彦
工学系研究科
「抗ウイルス生体防御を司るシグナル伝達の解析」
古舘 昌平
「成体神経幹細胞の発生起源と制御機構」
工学系研究科
修士課程
赤岩 慧
工学系研究科
「ニューロン分化関連遺伝子プロモーターから発現する非
コードRNAの解析」
田中 和哉
工学系研究科
「抗ウイルス生体防御に関わるアダプター分子IPS-1のシグナ
ル伝達の解析」
韓英讃
工学系研究科
「Regulation of Src-FAK signaling by the proto-oncogene Akt」
山崎 権彦
新領域創成科学研究科
「神経系前駆細胞におけるp57の役割」
神経生物学研究分野
博士課程
清水 一道
理学系研究科
「Wnt5/PCP経路によるショウジョウバエキノコ体の軸索形
成制御に関する研究」
河盛 治彦
理学系研究科
「非典型カドヘリンタンパク質Fatはショウジョウバエ視覚
中枢においてHippoシグナル制御を通して神経幹細胞領域の
完全性を維持する」
小木曽 由梨
理学系研究科
「Dppモルフォゲン活性勾配の安定性」
(Mechanisms ensuring robustness of the Dpp morphogen
activity gradient)
修士課程
市之瀬 敏晴
理学系研究科
「ショウジョウバエ記憶中枢における転写活性測定による記
憶痕跡の同定」
発生・再生研究分野
博士課程
河村 由布子
理学系研究科
「Studies on the expression and function of a membrane
protein TROP2」
(細胞膜タンパク質TROP2の発現および機能解析)
高瀬 比菜子
理学系研究科
「The role of adult liver stem/progenitor cells in liver
regeneration and the mechanism of their emergence」
(成体肝幹/前駆細胞の誘導機構および肝再生における役割
の解析)
春田 諒
理学系研究科
「膠芽腫幹細胞の腫瘍形成能におけるPleiotrophine-ALKシグ
ナルの役割」
修士課程
谷貝 知樹
理学系研究科
「マウス急性肝炎モデルにおけるSemaphorin 3Eの機能解析」
前田 七奈
農学生命科学研究科
「大腸癌由来癌幹細胞の発生・維持機構の解明」
江波戸 一希
「肝再生における細胞周期の解析」
松井 真弓
「ヒト膠芽腫幹細胞の研究」
加藤 英徳
新領域創成科学研究科
「生体肝への遺伝子導入による肝癌発生機構の解析」
農学生命科学研究科
理学系研究科
10
佐久 拓弥
新領域創成科学研究科
「ヒトiPS細胞からの膵臓細胞分化誘導系」
和田 将司
新領域創成科学研究科
「肝線維化および肝再生におけるレニン-アンジオテンシン系
の作用」
生体有機化学研究分野
博士過程
伊藤 幸裕
「プロテインノックダウン法の開発」
薬学系研究科
佐藤 伸一
薬学系研究科
「新規細胞死誘導剤を基盤とした酸化的ストレス誘導性ネク
ローシスの分子機構解明」
本島 和典
薬学系研究科
「マルチ創薬テンプレート手法の有用性の実験的実証∼新規
生理活性物質の創出と選択性の付与∼」
修士過程
藤田 優史
「難水溶性を改善したAhRリガンドの創製」
薬学系研究科
三田 裕介
薬学系研究科
「LXXLL配列を模倣したビタミンD受容体-コアクチベーター
相互作用阻害物質の創製」
RNA機能研究分野
博士課程
岩崎 信太郎
新領域創成科学研究科
「小分子RNA複合体の形成過程とその機能」
修士課程
深谷 雄志
新領域創成科学研究科
「microRNA による脱アデニル化反応の解析」
小林 真希
新領域創成科学研究科
「ショウジョウバエ Argonaute1 の RISC 形成過程」
脳神経回路研究分野
博士課程
宮崎 隆明
新領域創生科学研究科
「Neural architecture of the primary gustatory center
visualized with the enhancer-trap systems in Drosophila
melanogaster」
(複数のエンハンサートラップシステムを用いて可視化した
キイロショウジョウバエ一次味覚中枢の神経構造)
四宮 和範
新領域創生科学研究科
「Establishing a comprehensive online database containing
information of Drosophila brain neurons」
(ショウジョウバエ脳神経の情報に関する網羅的オンライン
データベースの確立)
修士課程
小川 千尋
新領域創生科学研究科
「 GAL4エンハンサートラップシステムによるキイロショウ
ジョウバエ味覚二次神経の同定」
久和 昌平
新領域創生科学研究科
次代のホープ達
染色体動態研究分野
博士課程卒
山岸 有哉(理学系研究科):助教
石黒 伸茂(理学系研究科):学振特別研究員
「ショウジョウバエ嗅覚神経細胞のクラス分化機構の解析と
神経特異的ラベル手法の確立」
膜蛋白質解析研究分野 前田研
博士課程
畠山 理広
農学生命科学研究科
「エンドサイトーシスを制御する新規アダプター分子Aly2の
機能解析」
修士課程
吉田 佐央里
農学生命科学研究科
「酵母アルカリストレス応答性Rim101経路におけるプロテ
アーゼ複合体構成因子間の相互作用の解析」
陳 佳文
農学生命科学研究科
「Identification of novel regulatory components in the yeast
TOR pathway」
計算分子機能研究分野
博士課程
原田 隆平
理学系研究科
「Free energy landscape analysis of biomolecules by massive
parallel multi-scale simulation」
(超並列マルチスケールシミュレーションによる生体分子の
自由エネルギー地形解析)
修士課程
根本 崇正
新領域創成科学専攻
「熱運動に基づく単量体タンパク質内部の集団的構造変化の
予測」
若井 信彦
新領域創成科学専攻
「Theoretical Analysis of α-Actin Stability at High
Pressure」
心循環器再生研究分野
修士課程
堺 康行
理学系研究科
(東京工業大学との協定により受託)
「心不全発症に関わるクロマチン結合因子の研究」
ゲノム情報解析研究分野
修士課程
南野 雅
東京工業大学大学院生命理工学研究科
「Esco1、Esco2によるコヒーシンのアセチル化制御」
九十九 雅理
東京工業大学大学院生命理工学研究科
「Eco1アセチラーゼによる姉妹染色分体間接着とDNA複製の
連携機構の研究」
長迫 亮
東京工業大学大学院生命理工学研究科
「NIPBL-Mau2複合体の機能解析」
松嶋 全人
東京工業大学大学院生命理工学研究科
「ヘテロクロマチンを構成するHP1ファミリータンパク質の
動態の解析」
放射光連携研究機構
博士課程
山下 雅美
新領域創成科学研究科
「Exocyst複合体サブユニットSec 3局在の構造基盤」
◆ 分生研卒業生進路紹介 ◆
修士課程卒
渋谷 大輝(農学生命科学研究科)
:博士課程進学
進 寛明(理学系研究科)
:博士課程進学
11
核内情報研究分野
博士課程卒
林 珍仙(農学生命科学研究科)
:学振特別研究員(核内情
報研究分野)
井上 和樹(農学生命科学研究科)
:特任研究員(核内情報
研究分野)
村田 拓哉(農学生命科学研究科):帝京大学薬学部
修士課程卒
肥塚 真実子(農学生命科学研究科):旭化成ファーマ株式
会社
辻 直也(農学生命科学研究科):農学生命科学研究科博士
課程(核内情報研究分野)
分子情報研究分野
博士課程卒
船戸 洸佑(理学系研究科):東京大学分子細胞生物学研究
所特任研究員
辻 真之介(農学生命科学研究科):第一三共株式会社
佐藤 伸一(薬学系研究科)
:ポストドクトラルフェロー(米
国スクリプス研究所)
本島 和典(薬学系研究科):株式会社エーピーアイコーポ
レーション
修士課程卒
藤田 優史(薬学系研究科)
:アステラス製薬株式会社
三田 裕介(薬学系研究科):大学院薬学系研究科博士課程
進学
RNA機能研究分野
博士課程卒
岩崎 信太郎(新領域創成科学研究科)
:東京大学 分子細胞
生物学研究所 助教
修士課程卒
深谷 雄志(新領域創成科学研究科)
:博士課程進学
小林 真希(新領域創成科学研究科)
:博士課程進学
修士課程卒
髙橋 理那(理学系研究科):日本化薬株式会社
春田 諒(理学系研究科):文部科学省
前田 七奈(農学生命科学研究科):塩野義製薬株式会社
松井 真弓(農学生命科学研究科):大洋薬品工業株式会社
脳神経回路研究分野
博士課程卒
宮崎 隆明(新領域創生科学研究科):National Institute of
Health 研究員
四宮 和範(新領域創生科学研究科):科学技術振興機構 研究員
情報伝達研究分野
博士課程卒
岡崎 朋彦(工学系研究科):分生研・学術支援専門職員
古舘 昌平(工学系研究科):分生研・学術支援専門職員
膜蛋白質解析研究分野 前田研究室
博士課程卒
畠 山 理 広( 農 学 生 命 科 学 研 究 科 ): 米 国Brandeis
University ポスドク
修士課程卒
赤岩 慧(工学系研究科):株式会社三井住友銀行
田中 和哉(工学系研究科):シティバンク銀行株式会社
韓英讃(工学系研究科):帰国
山崎 権彦(領域創成科学研究科):株式会社コムクラフト
修士課程卒
吉田 佐央里(農学生命科学研究科)
:JR東日本旅客鉄道株
式会社
陳 佳文(農学生命科学研究科)
:農学生命科学研究科 博
士課程進学
神経生物学研究分野
博士課程卒
清水 一道(理学系研究科):ポスドク
河盛 治彦(理学系研究科):東京大学分子細胞生物学研究
所 特任研究員
小木曽 由梨(理学系研究科):リードエグジビションジャ
パン株式会社
計算分子機能研究分野
博士課程卒
原田 隆平(理学系研究科)
:理化学研究所 特別研究員
修士課程卒
市 之 瀬 敏 晴( 理 学 系 研 究 科 ):Max Planck Institute of
Neurobiology
心循環器再生研究分野
修士課程卒
堺 康行(東京工業大学大学院生命理工学研究科):株式会
社オービック
発生・再生研究分野
博士課程卒
河村 由布子(理学系研究科)
:分生研 心循環器再生研究
分野 特任研究員
高瀬 比菜子(理学系研究科):日本学術振興会特別研究員
分生研 発生・再生研究分野
修士課程卒
谷貝 知樹(理学系研究科):博士課程進学
江波戸 一希(理学系研究科):博士課程進学
加藤 英徳(新領域創成科学研究科):博士課程進学
佐久 拓弥(新領域創成科学研究科):富士レビオ株式会社
和田 将司(新領域創成科学研究科):田辺三菱製薬株式会
社
生体有機化学研究分野
博士課程卒
伊藤 幸裕(薬学系研究科)
:ポストドクトラルフェロー(米
国スクリプス研究所)
修士課程卒
根本 崇正(新領域創成科学専攻)
:価値創発基盤株式会社
若井 信彦(新領域創成科学専攻)
:博士課程進学
ゲノム情報解析研究分野
修士課程卒
南野 雅(東京工業大学大学院生命理工学研究科):東京大
学大学院農学生命科学研究科博士課程進学
九十九 雅理(東京工業大学大学院生命理工学研究科):デ
ロイトトーマツコンサルティング株式会社
長迫 亮(東京工業大学大学院生命理工学研究科)
:SBIホー
ルディングス株式会社
松嶋 全人(東京工業大学大学院生命理工学研究科):株式
会社ブルボン
放射光連携研究機構
博士課程卒
山下 雅美(新領域創成科学研究科):ドイツ マックスプ
ランク生化学研究所
12
2010年度 分生研セミナー一覧
平成22年4月2日
Professor Robert G. Roeder
Laboratory of Biochemistry and Molecular Biology
The Rockefeller University
Transcriptional Regulatory Mechanisms in Animal
Cells
平成22年4月8日
田矢 洋一 博士
Cancer Science Institute of Singapore
National University of Singapore
核内と細胞膜周辺での癌抑制遺伝子産物p53とRB
蛋白質の新しい生理機能
平成22年4月15日
岡田 由紀 特定助教
京都大学キャリアパス形成ユニット グループヘッド
クロマチンのメチル化修飾と発生・疾患
平成22年4月30日
藤田 照典 研究本部長
三井化学株式会社取締役
オレフィン重合新触媒:FI触媒の開発と展開
平成22年5月13日
及川 司 特別研究講師
慶應義塾大学医学部 総合医科学研究センター
破骨細胞分化におけるアダプター分子Tks5の機能
解析
平成22年6月7日
Professor Benoit Roux
Department of Biochemistry and Molecular Biology
The University of Chicago
A microscopic view of ion selectivity
平成22年6月30日
廣井 誠 博士
University of California-Berkeley
ショウジョウバエ水の味覚の分子基盤
平成22年7月27日
白川 昌宏 教授
京都大学工学研究科分子工学専攻生体分子機能化学講座
DNAメチル化とヒストン修飾の分子認識機構と、
細胞内タンパク質の構造生物学を目指した手法開発
平成22年9月17日
風間 北斗 博士
理化学研究所脳科学総合研究センター 知覚神経回
路機構研究チーム
Precision and plasticity in the fly olfactory circuit
平成22年10月4日
家田 真樹 博士
慶應義塾大学医学部循環器内科 講師
iPS細胞を介さない心筋への直接リプログラミング
法の開発
平成22年10月8日
Anne Brunet 博士
Department of Genetics, Stanford University
Mechanisms of aging and longevity
平成22年10月21日
伊藤 武彦 博士
東京工業大学大学院生命理工学研究科 教授
新型シークエンサの情報解析とゲノム情報
平成22年10月25日
Frank Uhlmann 博士
Cancer Research UK London Research Institute,
London, UK
Chromosome condensation: compacting the
eukaryotic genome
Camilla Sjögren 博士
Karolinska Institute, Stockholm, Sweden
The Smc 5/6 complex‒resolving topological tension
during replication.
平成22年11月1日
Michael Caplan 博士
Yale University
Na, K-ATPase trafficking: new tools and novel
partners
Flemming Cornelius 博士
Aarhus University
Interaction of cardiotonic steroids with the Na,
K-ATPase.
Yasser A. Mahmmoud 博士
Aarhus University
Characterization of Na, K-ATPase isoforms in pig
heart sarcolemma: Kinetic and biochemical analysis.
鈴木 裕 博士
旭川医科大学
Mechanism of Ca pump as revealed with stable
analogs of phosphoenzyme intermediates and
moutations.
小川 治夫 博士
東京大学分子細胞生物学研究所
Sequential dissociation of K+bound to Na, K-ATPase.
13
平成22年11月1日
Bonita J. Brewer 博士
Department of Genome Sciences,University of
Washington
The Evolution of Replication Origins and Genome
Architecture.
Marco Foiani 博士
Molecular Biology at the Department of Biomolecular
Sciences and Biotechnology of the University of
Milan
Mechanisms coordinating chromosome replication
and transcription.
平成22年11月9日
吉川 寛 博士
JT生命誌研究館 顧問
アゲハ蝶の食草選択の鍵となる味覚受容体の発見と
機能解析
平成22年12月2日
杉本 勝則 博士
Dept. Cell Biology and Molecular Medicine,
University of Medicine and Dentistry of New Jersey
Activation of Tell kinase in response to DSB
induction :can Tell tell us better than ATM?
平成22年12月3日
David Toczyski 博士
Department of Biochemistry and Biophysics,
University of California, San Francisko
How to not get fired: Control of replication by the
DNA damage checkpoint
平成22年12月16日
半田 宏 博士
東京工業大学ソリューション研究機構 大学院生命理工学研究科生命情報専攻 教授
ケミカルターゲットから生命の謎への挑戦
平成22年12月17日
西山 朋子 博士
Jan-Michael Peters lab.
Research Institute of Molecular Pathology, Vienna,
Austria
How Sororin mediates sister chromatid cohesion
平成23年1月24日
Xiangwei He 博士
Department of Molecular and Human Genetics,
Baylor College of Medicine
Plasticity and Epigenetic Inheritance of CENP-A
Nucleosome Positioning in Fission Yeast
Centromere
平成23年2月1日
川島 茂裕 博士
Laboratory of Chemistry and Cell Biology, The
Rockefeller University
分裂酵母を用いたケミカルジェネティクス戦略
平成23年2月7日
清末 優子 博士
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター
光学イメージング解析ユニット
微小管細胞骨格のパターニングに関わる分子機構
と、細胞運動におけるその役割
平成23年3月7日
Hongjun Song 博士
Institute for Cell Engineering
Department of Neurology and Neuroscience
Johns Hopkins University School of Medicine
Molecular mechanisms regulating adult
hippocampal neurogenesis
2010年度 プレスリリース一覧
平成22年5月31日
泊 幸秀 准教授
「小さなRNAが働くしくみ―シャペロン装置の新た
な機能」
平成22年8月23日
渡邊 嘉典 教授
「サイクリン依存性キナーゼによるリン酸化反応が
染色体分配の方向を制御する」
平成22年9月30日
渡邊 嘉典 教授
「染色体のヒストンのリン酸化によってセントロメ
アが形成される」
平成22年11月1日
加藤 茂明 教授
「Y染色体遺伝子由来の精巣特異的なタンパク質
(TSPY)はアンドロゲン依存性の精巣胚細胞腫瘍
におけるアンドロゲン受容体の活性を抑制する」
平成23年3月7日
加藤 茂明 教授
「ホルモン療法耐性前立腺癌の進行を司る新たな癌
増悪因子 Wnt-5a の同定」
14
事務部 業務紹介
事務長
小 林 和 幸
こばやし かずゆき
1.事務の総括
2.風通しを良くし、明るく活
気ある職場にしたいと思い
ます。
主任
大久保 幸 子
おおくぼ さちこ
1.広 報、MTA、 大 学 院
関係、出張旅費を担当
2.お気軽にお声掛け下さ
い。
安 武 真知子
岡 崎 紀 子
係長
おかざき のりこ
磯 山 勉
1.出張旅費、出勤簿・休
暇簿管理、RI関連業
務、郵便発送など
2.よろしくお願いします。
いそやま つとむ
1.チームの総括を担当
2.今年はスカイダイビン
グとセスナ操縦に挑
戦!
主任
やすたけ まちこ
守 幸 代
1.MTA・知財・遺伝子組換・
動物実験・学振・留学生
等
2.責任感と向上心を持って
頑張りますっ!
もり ゆきよ
1.短時間職員の採用・給与、
共済
2.よろしくお願いします。
主任
河 野 久 枝
野 口 由 紀
こうの ひさえ
のぐち ゆき
1.広報、MTA、大学院関
係、出張旅費を担当
2.よろしくお願いします。
1.常勤職員の採用、給与を
担当
2.よろしくお願いします。
チームリーダー(主査)
永 嶋 智 明
ながしま さとあき
主任
古 田 幸 司
ふるた こうじ
1.施設関係、物品管理等
2.よろしくお願いします。
石 垣 歩
いしがき あゆみ
1.科研費、旅費等
2.よろしくお願いします。
1.総務チームの総括
2.マウスとラットの天敵の
ネコが大好きです。
係長
印 藤 朝 子
いんどう ともこ
佐々木 毅
ささき たけし
1.大学運営費、物品の調達
など。
2.研究室のメンバー紹介も
是非企画して下さい!
1.受託研究、共同研究を主
とした外部資金一般、営
繕関係
2.今年こそビオトープを作
成したいと目論んでおり
ます。
大 島 秀 之
主任
おおしま ひでゆき
大 島 大 輔
1.運営費、予算・決算、施
設関係
2.よろしくお願いします。
おおしま だいすけ
係長
係長
戸 田 浩 子
西 永 岩 文
とだ ひろこ
にしなが いわふみ
1.運営費、予算・決算 他
2.晴れた日は外遊び!
1.科研費、寄附金
2.よろしくお願いします。
※1.
担当業務、2.
ひと言
1.科研等外部資金、営繕
2.明鏡止水の心境でありた
い。
チームリーダー(専門員)
矢 野 雅 彦
やの まさひこ
1.財務会計チームの総括
2.レーシングカートでドリ
フトしてます。
育休:橘
15
平成22年度分子細胞生物学研究所技術職員研修
日 時:平成23年1月27日(木曜日)午前10時∼午後4時
場 所:新棟302会議室(公開講習)、および新棟4階(セルソーター実習)
分生研には、以前から共通機器としてセルソー
ター FACS Vantage(BD社製)があり、限られた
研究室において細胞の分取および解析に使用されて
きました。所内でのセルソーティングの需要の高ま
りに伴い、前年度には新型のセルソーター MoFlo
(ベックマン・コールター社製)が導入され、ほ
ぼ毎日稼働しています。今年度にもセルソーター
FACSAria(BD社製)が導入され、研究所のFACS
設備は一層の増強がはかられました。セルソーティ
ングは非常に強力な実験のツールでありますので、
技術職員としてセルソーティングの原理と操作方法
を学び、
各研究室の研究に役立てることを目的とし、
平成22年度技術職員全体研修
実習の様子
平成22年度分子細胞生物学研究所技術職員研修は、
フローサイトメーター講習会を行いました。
だいたヒト標準血液サンプルを用いて、実際に手を
午前中は、所内の公開講習として行いました。
動かし、MoFloでのソーティングや解析の実習、な
MoFloのメーカーであるベックマン・コールター社
らびに質疑応答を行いました。
より講師をお招きし、セルソーティングの概念、原
一日だけの短い時間でしたが、フローサイトメー
理、および操作方法を学びました。また、若手研究
ターの原理と操作方法、ならびに研究への応用を学
者自立促進プログラム・西村(那須)教子先生より、
び、非常に充実した研修となりました。講義と実習
特別講演として「癌研究のためのフローサイトメト
を受け持ってくださいましたベックマン・コール
リー」の題で、ソーティングを利用した実際の研究
ター社の皆様、ならびに、特別講演をいただきまし
への適用をお話いただきました。
た西村(那須)教子先生にはこの場をお借りしまし
午後は、ベックマン・コールター社にご用意いた
て深くお礼を申し上げます。
平成22年度技術職員全体研修
若手研究者自立促進プログラム
特任助教
西村(那須)教子先生 講演
16
平成22年度分子細胞生物学研究所・医科学研究所合同技術発表会を終えて
分子情報研究分野 武田 泰子
平成23年3月4日(金)、弥生講堂アネックス・
エンゼル研究棟講義室において平成22年度「分子細
胞生物学研究所・医科学研究所合同技術発表会」を
開催いたしました。分生研では研究所内外の皆様に
本研究所技術職員の研究支援業務への取り組みをご
理解いただくとともに、情報や意見の交換を通じて
技術力の向上を図ることを目的として技術発表会を
行っております。4回目となる平成22年度は医科学
研究所と合同で技術発表会を開催いたしました。各
研究所の技術職員代表者が所属する研究所の紹介と
する非常に良い機会ともなりました。更に、二つの
技術職員の概要を述べた後、5名の技術職員が担当
研究所から技術職員が集い交流を図ることで、技術
する研究課題の発表や受講した研修の報告を行いま
職員の組織等の在り方についての意見交換もなさ
した。
れ、とても有意義な時間となりました。
当日は25名の教職員、学生の皆様にご参加いただ
参加者の皆様には、多数の貴重なご質問、ご意見
き、活発な意見交換がなされました。技術職員によ
をいただき、非常に参考になりました。技術職員一
る発表は、新規に習得した高度技術についての報告
同、今後の研究支援業務の中でそれらを生かし、更
から各分野の最先端とも言えるような学術的なもの
なる技術力の向上に努めて参りたく思います。
まで、深く掘り下げた内容となり大いに刺激を受け
開催にあたり多大なるご協力をいただいた、秋山
ることが出来ました。また、技術ならびに機器や施
徹所長、加藤茂明技術部長と全ての参加者の皆様に
設を共有し最大限に活用していくことが研究支援を
深い感謝の意を述べ、今回の発表会のご報告とさせ
より円滑に行っていくためには重要であると再認識
ていただきます。
17
― 国際会議に出席してみて ―
応用生命工学専攻 博士課程3年 淡川孝義
の研究者との交流の必要性を感じた。本国際会議出
席は、私にとって非常に貴重な体験となった。
会議名称:PACIFICHEM 2010
開催期間:2010年12月15日∼12月20日
演題「A physically discrete
㸥 -lactamasetype thioesterase catalyzes product release
in atrochrysone synthesis by iterative type I
polyketide synthase」について英語で口頭発表を
行った。また、質疑応答や個人的なディスカッショ
ンの中で、海外の研究者とコミュニケーションを
行った。最先端の研究内容に触れ、その国際的な発
表の舞台に立つことで、大いに刺激を受けた。日本
国内の研究の発展のために、国内だけでなく世界中
核内情報研究分野 博士課程3年 井上和樹
会議名称: KEYSTONE SYMPOSIA Histone Code:
Fact or Fiction?
開催期間 2011年 1月 10日∼1月 15日
KEYSTONE SYMPOSIAは生物学の各分野別に
分けて研究の最近の進展を発表、議論する会議であ
ります。今回参加したHistone Codeの分野は、今回
新しく開催された分野であり、参加者は300人弱の
小さな規模でしたが、Dr. David AllisやDr. Bryan
Turnerといった、この分野を切り開いた著名な研
究者たちが数多く参加しておりました。開催地の
ミッドウェイは最高気温0度と凍える寒さでしたが、
会議は、毎日、朝8時から夜10 時まで続けられ、
初日から最終日まで講演や質疑応答など熱く盛り上
がっていました。今回の会議では、数多くの女性若
手研究者が口頭発表をしており、この分野での女性
研究者の勢いを感じました。また、夜に行われたポ
スター発表では、JmjCドメインを有するUty遺伝子
のノックアウトマウスの解析に関する研究成果をポ
スターにて発表させていただきました。ポスター
セッションは、アルコールを片手に自由な雰囲気で
核内情報研究分野 博士課程2年 加藤裕美
会議名称:KEYSTONE SYMPOSIA Histone Code:
Fact of Fiction?
開催期間:2010年1月10日∼1月15日
行われ、国内学会と海外学会の違いに驚きを覚えま
したが、リラックスした雰囲気で研究について議論
をできることは素晴らしいことだと思いました。ま
だまだ英語がつたないこともあり、十分に議論がで
きたとは言えませんが、世界の研究者の方たちと議
論することで大変勉強になりました。
最後になりましたが、国際学会に参加する機会を
与えてくださいました財団法人応用微生物学研究奨
励会ならびに関係者の皆様方に改めて心から御礼申
し上げます。
2011年 1 月10日 ∼ 2011年 1 月15日 ま で、 ア メ
リ カ ユ タ 州 ミ ッ ド ウ ェ イ で 開 催 さ れ たKeystone
SymposiaのHistone Code: Fact or Fiction?に参加し
た。初日のKeynoteでは、ヒストン修飾の発見を歴
史的に辿りながら、Histone Codeの全体像が説明さ
れた。2日目以降、エピジェネティクスとヒスト
18
ン修飾に関る最新の研究が報告された。例えば、
PolcombやSirを介したヘテロクロマチン形成・維
持機構やヒストン修飾とクロマチン構造の関連性、
ヒストンメチル化修飾制御機構の最新の研究が報告
された。さらに最終セッションではパネリストと会
場のディベート形式で、Histone Code hypothesisの
科学的妥当性について議論された。Histone Codeの
定義はまだ不明瞭な部分があり、十分に考慮した上
で使用する必要があるということだった。また、夜
のポスターセッションでは、自分の研究を発表した。
今回の学会で初めて自分の研究をまとめて発表する
ことにより、自分の研究に対する考えを整理すると
ともに、第三者と情報交換することができ、今後自
応用生命工学専攻 博士課程2年
Crisitane Akemi Uchima
会議名称:26th Fungal Genetics Conference at
Asilomar
開催期間:2011年3月15日∼3月20日
The 26th Fungal Genetics Conference(http://
www.fgsc.net/26thFGC/)was held in Pacific Grove
City, California, US, from March 15th to 20th.
The venue was in Asilomar Conference Center
(http://www.visitasilomar.com/), which provides
accommodations for presentations, housings, and
meals in one unique center. The Fungal Genetics
conference is the biggest worldwide conference on
genetics of filamentous fungi, gathering more than
1,000 researches and professionals in this field.
The programming of this conference could be
divided into three sessions during the day: plenary
sessions, realized in the morning(from 8:30 am to
12 pm)
; concurrent sessions given in the afternoon
(from 3 pm to 6 pm); and poster sessions
presented in the evening(from 7:30 pm to 10:30
pm). Plenary sessions introduced about genome
evolution, symbioses, growth and reproduction, and
regulatory networks of fungi. In addition, selected
works were invited to present in the concurrent
sessions where many other topics were could be
seen. Within a great variety of research themes,
the most interesting topic for me was named
Biobased products, Biofuels, and Bioenergy
presented on March 18th. Dr. Goutami Banerjee
from Michigan State University in the USA,
for example, she discussed about optimization
分の研究を進める
にあたり有意義で
あった。
今回の学会参加
により、エピゲノ
ム研究の最新情報
を得るとともに、
自分の研究に有用
な情報交換をする
ことができ、貴重
な経験となった。
of commercial enzyme mixtures for biomass
applications that have higher specific activity, thus
lowering the cost of bioethanol production. On the
other hand, Dr. Antonius van Maris from Delft
University of Technology in Netherlands presented
his work about synthetic biology strategies on
Saccharomyces cerevisiae that enable efficient
fermentation of mixtures of glucose, xylose, and
arabionose. My work entitled Production and
characterization of β-glucosidases from termites
and their applicability in bioethanol production
was presented in poster format on March 16th
(refer to the abstract attached). Dr. Banerjee,
who I mentioned before, asked me some questions
and also gave me some advices to improve my
research. Besides the biofuel topic, I also attended
sessions, which theme is related to some research
done in the laboratory of Microbiology, such
as exocytosis and endocytosis. Thus, I am able
to forward interesting information to other lab
members.
Giving a final view of this conference, I would
say that it gave me the opportunity to wide my
knowledge about fungi research.
19
2010年度分生研所内発表会
発生分化構造研究分野 林 陽平
去る11月26日(金)
に2010年 度 分 生 研 所
内 発 表 会・ 懇 親 会 が
開 催 さ れ ま し た。 今
年度は発生分化構造
研究分野が幹事を務
めさせていただきま
し た。 開 催 に あ た り
ましては応微研奨励
会 を は じ め、 多 く の
方々のご協力をいた
だ き ま し た。 発 生 分
化構造研究分野一同心よりお礼申し上げます。この
場をお借りして、所内発表会の報告をいたします。
今年で12回目を迎えた所内発表会は、IML棟3階
会議室にて10時30分から17時30分まで行われまし
た。16研究分野の代表者による研究成果の発表と、
審査員をはじめとする聴衆の方々との間で活発な討
論が行われ、研究分野を超えた幅広い議論がなされ
ました。以下に発表者を紹介いたします。(敬称略)
情報伝達研究分野 古館 昌平(博士課程3年)
「成体神経幹細胞の発生起源と制御機構」
神経生物学研究分野 河盛 治彦(博士課程4年)
「Fatカドヘリンによるショウジョウバエ神経分化
制御機構に関する研究」
ゲノム情報解析研究分野
Lina Marcela Gallego
(博士課程2年)
「CHARACTERIZATION
OF
SMC5/6
COMPLEX IN HUMAN CELL LINES」
心循環器再生研究分野 堺 康行(修士課程2年)
「心不全発症に関わるクロマチン結合因子の研究」
核内情報研究分野 金藤 紫乃(博士課程2年)
「骨芽細胞系列におけるエストロゲン受容体の高
次機能解析」
RNA機能研究分野 包 明久(博士課程2年)
「ショウジョウバエDicer-1の基質認識機構」
バイオリソーシス研究分野 朴 相和(博士課程3年)
「Phylogenetic studies on marine bacteria within
the phylum Proteobaceteria and Bacteroidetes」
細胞形態研究分野 岡村 瞳(修士課程1年)
「ポドソームにおける膜構造形成とシグナル伝達」
発生分化構造研究分野 平野 孝典(修士課程2年)
「ヒストン modification web における機能的な
ハブとなる化学修飾残基の特定」
脳神経回路研究分野 伊藤 正芳(博士課程1年)
「幹細胞の系譜に基づいたショウジョウバエ脳の
神経回路の解析」
膜蛋白質解析研究分野 陳 佳文(修士課程2年)
「Identification of novel proteins involved in the
TOR pathway」
分子情報研究分野 船戸 洸佑(博士課程3年)
「膠芽腫がん幹細胞における脱アセチル化酵素
SIRT2の機能解析」
発生・再生研究分野 高瀬 比菜子(博士課程3年)
「FGFシグナルによるマウス成体肝幹/前駆細胞と
肝再生の制御」
発表形式は、プロジェクタによる発表15分、質疑
応答5分で行っていただきました。審査形式は、各
研究分野から2名ずつの審査員を選出していただ
き、1発表者に対して7名が審査を担当しました。
審査基準は、従来通り、①発表内容②プレゼンテー
ション③質疑応答④応用性及び将来性の4項目と
し、それぞれ5段階の評価を行っていただきました。
このうち①、②、③の合計点を優秀賞の選定に、④
を審査員特別賞の選定に用いました。
審査の結果、以下の方々が2010年度所内発表会優
秀賞および審査員特別賞を受賞されました(敬称
略)。入賞者には、応微研奨励会から盾が、また優
秀賞の入賞者には副賞としてヘルスメーター、マッ
サージクッション、抱き枕といったリラクゼーショ
ングッズが送られました。おめでとうございます。
生体有機化学研究分野 藤田 優史(修士課程2年)
「難水溶性を改善したAhRリガンドの創製」
染色体動態研究分野 石黒 伸茂(博士課程3年)
「Ⅰ型カゼインキナーゼは、シュゴシン-PP2Aに拮
抗するリン酸化によって減数分裂におけるRec8コ
ヒーシンの切断を促進する」
計算分子機能研究分野 若井 信彦(修士課程2年)
「高圧条件下におけるαアクチン構造安定性の理
論的解析」
20
優秀賞
第1位 古館 昌平
情報伝達研究分野 博士課程3年
第2位 船戸 洸佑
分子情報研究分野 博士課程3年
第3位 金藤 紫乃
核内情報研究分野 博士課程2年
特別賞
高瀬 比菜子
発生・再生研究分野 博士課程3年
堺 康行
心循環器再生研究分野 修士課程2年
優秀賞 第1位
「成体神経幹細胞の発生起源と制御機構」
情報伝達研究分野 古館 昌平(博士課程3年)
成体神経幹細胞によるニューロンの新生は、私た
ち哺乳類の学習や記憶などに貢献すると考えられて
います。本研究では発生の過程で成体神経幹細胞が
作られるメカニズムに関して端緒となるデータを得
ましたので、それについて発表させて頂きました。
このコメントを書くにあたりまして、研究室の先輩
や後輩から何か面白いことを書けと非常に強い圧力
がかかっているのですが、今回ばかりは自粛させて
頂きたいと思います。というのも、私個人は本来、
受賞に値するはずもないからです。私は、後藤教授
に拾われた身です。五年前の冬、ある事情から研究
する場を失い路頭に迷いかけた私と友人のO崎君
は、藁にもすがる思いで後藤教授を訪ねました。ど
うしても研究者になりたいのでどうか後藤研に入れ
て下さいと懇願した私たちに後藤教授は、
「力になっ
てあげたいけれど、今うちにはこれ以上机を置くス
ペースがないから…」と申し訳なさそうにおっしゃ
いました。そこで、内心は半ば諦めつつも「机なん
かみかん箱でいいし、何だったら廊下でもいいです
から!」と食い下がったところ、なんと、後藤教授
の心が目に見えてぐらぐら揺れだしたのです!「み
かん箱もダメなら、立ったまま画板で実験するので
入れて下さい!!!」と全身全霊をかけて畳み掛け
たまさにその瞬間から現
在に至るまで、私は後藤
教授に足を向けて寝たこ
と が あ り ま せ ん。 ま た、
みかん箱でいいと言って
おきながら、ラボにたっ
た2つしかない肘掛け付
きの高級椅子を、後藤教
授や助教の先生を差し置
いて自分とO崎君が独占し
O崎君の高級椅子
ている現状には、あいた
口が塞がりません。
今こうして自分の研究を皆様に聞いて頂けるよう
になったのも後藤教授のお陰です。本当にありがと
うございます。後藤研の方々に毎日支えてもらって
います。特に一緒に実験をしている山崎君と久保田
君のお陰で研究がどんどん発展しています。心から
感謝します。発表を聞いて下さった皆様、本当にあ
りがとうございました。分生研の皆様にも大変お世
話になっております。これからもどうぞ宜しくお願
い申し上げます。
優秀賞 第2位
「膠 芽 腫 が ん 幹 細 胞 に お け る 脱 ア セ チ ル 化 酵 素
SIRT2の機能解析」
分子情報研究分野 船戸 洸佑(博士課程3年)
はじめに、このような発表の
機会を与えてくださったことに
感謝申し上げます。今年の所内
発表会でも、素晴らしい研究発
表を数多く聞くことができ、と
てもよい刺激を受けました。そ
の中で、優秀賞という評価を頂
けたことを大変光栄に思います。
今回、私は『膠芽腫がん幹細胞における脱アセチ
ル化酵素SIRT2の機能解析』という内容で発表させ
て頂きました。膠芽腫は、最も悪性度が高い脳腫瘍
であり、極めて致死率が高いことが知られています。
近年、がんを構成する細胞の中でも、造腫瘍能が高
いのは、ごく一部の細胞であることが明らかになり
ました。これらの細胞は「がん幹細胞」と呼ばれ、
膠芽腫を含めた多くのがんで、その存在が確認され
ています。また、がん幹細胞は、薬剤耐性や高い
DNA修復能を持つことから、がん再発の主要な原
因であると考えられ、がん幹細胞を標的とした治療
を行うことで、がんを根治できるのではないかと期
待されています。
本研究では、ヒト膠芽腫検体から樹立した膠芽腫
がん幹細胞を用い、脱アセチル化酵素であるSIRT2
が、その増殖や造腫瘍能に関わること、さらに、そ
の分子メカニズムの一端として、SIRT2が、p53ファ
ミリーのひとつであるp73を脱アセチル化すること
を明らかにしました。この研究によって、がん幹細
胞を標的とした新しい治療への足がかりを作ること
ができたのではないかと考えています。
がん幹細胞研究は、まだ未成熟な分野ではありま
すが、がん治療を劇的に転換させる可能性を秘めて
います。今回の発表を通して、この分野への期待の
高さを感じることができ、気持ちを新たに、研究に
精進しようと思います。
最後になりましたが、円滑に会を進行して下さっ
た堀越研の皆様、どうもお疲れ様でした。賞品とし
21
て頂いたマッサージクッションは、最高です。また、
審査員の皆様、本研究を進める上でご指導下さった
秋山先生、ならびに、発表練習に付き合ってくれた
秋山研の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。
優秀賞 第3位
「骨芽細胞系列におけるエストロゲン受容体の高次
機能解析」
核内情報研究分野 金藤 紫乃(博士課程2年)
まず始めに、日頃の研究成果
を発表する機会を与えて頂いた
こと、さらにはこのような賞で
評価していただけたことに感謝
を述べたいと思います。所内発
表会は自分のセッションを聞い
た限りでも素晴らしい発表ばか
りだったので、まさか賞をいた
だけるとは思わず、ただただ驚いてしまいしたが、
今後の研究の大きな励みになりました。この賞に恥
じないよう、頑張りたいと思います。ありがとうご
ざいました。
現在の研究室に入室してから4年、同じく骨研究
を始めて4年が経ちました。入室当初は骨代謝に関
して全くの「ど素人」で骨に興味を持ったこともな
かった私が、骨好きが高じて半年のアメリカ留学ま
でするようになったのは、ひとえに骨研究を指導下
さった今井講師のおかげだと思っております。本当
にありがとうございます。
骨は硬く、一見変化がないように見られがちです
が、実は常に骨吸収と骨形成がカップリングして代
謝されている、ダイナミックな組織です。骨組織に
は、骨を形成する骨芽細胞と骨を吸収する破骨細胞、
重力負荷を感知し伝達しているといわれている骨細
胞があり、これらの機能や数は免疫系のサイトカイ
ン、性ホルモン、血中P/Ca濃度などさまざまな因
子により巧妙に調節されています。なかでも私の研
究対象である骨細胞は重力負荷を感知してその刺激
を骨芽細胞や破骨細胞に伝えたり、リン・カルシウ
ム代謝を制御したりすることにより骨代謝に関与し
ていると言われています。当研究室の興味の対象で
ある核内受容体では、性ホルモン受容体(エストロ
ゲン受容体、アンドロゲン受容体)やビタミンD受
容体が骨細胞内でそれらの機能調節に関与している
ことが予想されています。しかし、骨細胞は骨組織
中の細胞数の9割以上を占めていながらも硬組織に
埋まっており、単離が困難な細胞です。また、増殖
しないことから基本的にセルラインが存在せず、初
代培養系も確立されていない状態です。このような
事情から、骨細胞内の核内受容体の機能を明らかに
するために、現在、組織特異的なノックアウトマウ
スを用いたアプローチで研究を進め、所内発表会で
は表現型の一部を発表させて頂きました。このよう
に基本的に生体でのアプローチしか可能でなかった
骨細胞ですが、先日留学先の先生との電話で、これ
まで不可能であった骨芽細胞から骨細胞(骨細胞は
骨芽細胞の最終分化形といわれています)への分化
系が出来たらしいという話を聞き、立ち遅れている
骨細胞研究も徐々に進展しているのかと思うと、思
わず嬉しくなりました。自分の研究もほんのわずか
でも骨細胞研究に寄与できればいいなと思い、頑
張っていこうと思いました。
最後になりましたが、この所内発表会に尽力して
下さった幹事の方々、ありがとうございました。
特別賞
「FGFシグナルによるマウス成体肝幹/前駆細胞と肝
再生の制御 」
発生・再生研究分野 高瀬比菜子(博士課程3年)
私が分生研に来てから3年が
経とうとしています。博士課程
に所属したばかりの頃はPCRと
SDS-PAGEがかろうじてできる
レベルでしたので、周囲の人材
の優秀さに驚愕したものです。
特に所内発表会は学生によるプ
レゼンテーションであるにもか
かわらず、そのレベルの高さに大いに刺激を受けて
きました。今回、
「FGFシグナルによるマウス成体
肝幹/前駆細胞と肝再生の制御」という題目で発表
をさせていただきました。光栄にも特別賞をいただ
くことが出来、非常に嬉しく思っています。
肝臓では重篤な障害を受けた際に、正常肝には存
在しない特殊な肝幹/前駆細胞(オーバル細胞)が
出現します。オーバル細胞の出現は肝障害の程度と
相関が見られることが分かっていますが、実際に肝
再生に対して積極的な貢献をしているのか、また、
どのような分子機構で制御されているのか、明らか
になっていませんでした。本研究ではFGF7がオー
バ ル 細 胞 の 出 現 に 必 要 か つ 十 分 な 因 子 で あ り、
FGF7を介したオーバル細胞の出現が肝再生に重要
な働きをすることを明らかにしました。実際に、
FGF7欠損マウスではオーバル細胞の出現が顕著に
抑えられ、肝障害下で死亡率の上昇が見られました。
その一方でFGF7の過剰発現によりオーバル細胞の
出現が誘導され、肝障害の程度が軽減されました。
FGF7を産生するのはオーバル細胞の周囲に存在す
るThy1陽性の間葉系細胞であることから、我々の
結果は肝臓においても幹/前駆細胞のニッチが存在
する可能性を提唱するものです。現在、我々はヒト
の肝疾患を含めた他の肝障害においても解析を進め
ています。
今回の発表では鋭いご質問、ご指摘を多くいただ
22
きました。いま思い返してみると正確な回答をでき
なかった部分がいくつも思い出され、悔やまれます。
分野が異なる人に向けてのプレゼンテーションの難
しさと楽しさを痛感した発表となりました。
最後になりますが、幹事を務めてくださった発生
分化構造研究分野の皆様、審査員の方々、ご支援下
さった応微研奨励会の皆様に感謝を申し上げます。
また、よきライバルであり仲間である同期たちに感
謝いたします。研究の遂行に際して平素よりご指導
いただいている宮島先生、伊藤先生、発表準備に際
して忌憚のない意見をいただいた宮島研の皆様に、
この場を借りて心よりお礼申し上げます。
特別賞
「心不全発症に関わるクロマチン結合因子の研究」
心循環器再生研究分野 堺 康行(修士課程2年)
まず始めに、今回研究成果を
発表する機会をいただきありが
とうございました。そして、こ
のような栄誉ある賞を頂いたこ
とを光栄に思います。
私はこの度の所内発表会にお
いて、クロマチン再構築複合体
の構成因子であるBaf60cの欠損
によって起こる心肥大の発症メカニズムについて発
表させていただきました。心肥大は非常に高頻度に
発症し、かつ心不全を誘発するなど、我々の健康を
脅かす重大な疾患であるといえます。私の研究は心
臓発生過程の遺伝子発現の変化によって起きる心臓
形態から心肥大へ至るモデルを提案することを目指
しております。Baf60cは、未分化の中胚葉性細胞に
転写因子Gata4、Tbx5と共に遺伝子導入することで
心筋細胞へ誘導するキー因子です。しかしこのよう
な重要な役割を担う因子にもかかわらず、Baf60cの
心臓における発現量は心臓の発生ステージが進むに
つれて減少していくことがわかりました。また、
Baf60cを欠損したマウスの心臓では心肥大の症状が
みられました。私はこれらの点に着目し、Baf60cが
恒常的に発現すると心臓の成熟を妨げると考えまし
た。これを検証するためトランスジェニックマウス
を用いた実験で遺伝子発現を調べた結果、Baf60cの
恒常的発現は胎児期に発現すべき遺伝子の亢進を招
き、心筋細胞の異常増殖を起こしていることがわか
りました。
また、この度の発表ではBaf60cの発現を制御する
転写因子Sall4の機能についても併せてご紹介させて
いただきました。Sall4の欠損はBaf60cの恒常的発現
を招くため、心肥大の原因遺伝子である可能性は高
いと考えられますが、より具体的な発症メカニズム
を検証することが今後の課題であるといえます。
私自身はこれまで多くの人の前で発表させていた
だく機会があまり多くなかったため、今回の発表会
は非常に有意義なものであったと感じております。
慣れないためか途中で緊張して声が震えるなどの場
面もありましたが、最終的には審査員の皆様からわ
かりやすかった等のコメントを頂いたので、自信を
つけることができました。一方、内容の定量的デー
タに欠けているなどの厳しいご指摘も頂きましたの
で、今回の発表を見直しつつ、一つ一つ今後の糧と
させていただきたいと思います。
最後になりましたが、所内発表会の運営をしてい
ただいた発生分化構造研究分野の皆様ならびに審査
員の方々に感謝の意を申し上げます。また、本研究
上でのきめ細かな御指導と修論指導を頂きました竹
内先生に深謝致しますとともに、継続的な実験指導
とサポートをして下さいました小柴先生、杉崎さん、
小島さんに感謝致します。そして、本修士研究を滞
り無く遂行する上で非常に多くの援助に助けられま
したことにおきまして、心循環器再生研究分野の皆
様にはこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。
所内発表会終了後には、農学部食堂にて懇親会が
開催されました。約170名の皆様にご参加いただき、
2時間あまりにわたって盛大に行われました。橋本
教授による乾杯のあと、歓談の時間を挟み入賞者の
表彰も行われ、さまざまな研究分野の間で交流がな
されました。
今回の所内発表会を振り返ってみて、前回幹事で
ある創生研究分野の山守様や各研究分野の皆様、事
務部総務チーム古原様のご協力のおかげで滞りなく
所内発表会を開催できましたことに幹事一同心より
感謝しております。発表会を通して、分生研の研究
テーマの多様さと各研究分野の興味・取り組み方の
違いを改めて強く感じました。私自身、非常に多岐
にわたった内容の発表を全て聞かせて頂き、自身の
考え方や視野を広げる素晴らしい機会を得ることが
できました。そして、その後の懇親会は、発表者や
審査員・質問者の方々と交流し、理解を深めるとと
もに自身の研究との関連性を議論する場となりまし
た。参加者の皆様も発表会、懇親会を通して自身の
研究を発展させる何らかの糧を得てくださっている
ことを期待します。
最後となりましたが、今回の発表会を執り行うに
あたり、多くのご協力を頂きました各研究分野の発
表 者・ 審 査 員・
連絡係の皆様、
応微研奨励会の
曽我野様、分生
研事務の皆様に
この場を借りて
厚くお礼申し上
げます。
懇親会の様子
23
第26回バイオテクノロジー懇談会
1月20日(木)、弥生講堂にて、第26回バイオテ
る核内受容体群の生体内機能やエピゲノム制御を代
クノロジー懇談会が開催された。本懇談会は、従来
表とする詳細な分子メカニズムを明らかにすること
から企業との情報交換や交流をはかる目的で分生研
で疾患病態の理解が深まれば、新規治療や新たな創
と財団法人 応用微生物学研究奨励会との共催によ
薬の一助となることが期待される。
り行われている。本年度、幹事はサッポロビール株
式会社および第一三共株式会社が務め、4つの講演
が行われた。各分野の最先端の研究成果が発表され
有意義な懇談会となった。講演会終了後には懇親会
「二心房二心室の心臓はどのようにしてできたか?
―脊椎動物の進化から学ぶ―」
心循環器再生研究分野 講師 小柴 和子
が開かれ親睦を深めた。
ヒトの心臓は、心房と心室が2つの区画に分かれ
講演要旨は以下のとおりである。
た二心房二心室の形態を有しているが、中隔欠損な
どの先天性心疾患により、この区画化が正常に行な
「骨関節疾患病態解明を目指した分子生物学的アプローチ」
われないと心臓は正しく機能することができず、重
骨・関節疾患制御研究分野
篤な場合は個体の死に直結する。我々は心臓区画化
特任講師 今井 祐記
メカニズムの解明に進化的な方向からのアプローチ
本邦をはじめとする先進諸国は、医療技術発展の
を試みた。
功績により平均寿命が延び、それに伴い高齢化社会
脊椎動物はその生活環境が水中から陸上に変化す
が急激に進行している。これら生命寿命推進の一方
るのに伴って、心臓形態を変化させてきた。魚類で
で、高齢者の生活の質を保ち、健康寿命を延ばすこ
は一心房一心室、両生類では二心房一心室、爬虫類
とが必須の課題となっている。健康寿命の拡大が期
は二心房と不完全な二心室を持つとされ、鳥類・哺
待される中、易骨折性を認める骨粗鬆症患者数は我
乳類では二心房二心室の心臓を有する。このように
が国で約1100万人存在すると推計されており、また
心臓形態を複雑化させ、肺循環を獲得することによ
変形性関節症や関節リウマチに対する人工関節置換
り、静脈血と動脈血を完全に分離することが可能と
手術は年間10万件以上施行されるなど、国民的疾患
なり、より効率よく活動できるようになった。では
である骨・関節疾患の克服が重要な課題と言える。
脊椎動物はどのようにこのような心臓形態の複雑化
しかしながら、これらの疾患病態の詳細な分子メカ
を進めていったのであろうか?
ニズムの多くは不明である。我々は、これまで閉経
我々はまず、心室形態に着目し、心室中隔獲得過
後骨粗鬆症の病態解明を目指し、性ホルモンによる
程にある爬虫類から、心室中隔形成メカニズムを明
骨代謝制御機構の解明を行ってきた結果、核内受容
らかにできるのではないかと考えた。現存する爬虫
体群であるエストロゲン受容体が骨組織で直接的に
類はカメ目、ヘビ・トカゲなどの有鱗目、ワニ目で、
機能し、骨吸収を担う破骨細胞の寿命を調節するこ
これらの心臓を詳細に調べると、有鱗目では心室中
とで骨量維持に作用していることを明らかにした。
隔が全く形成されていないのに対し、カメ目では不
さらに、骨組織における他の細胞種においても、エ
完全な中隔が形成され、ワニ目では心室は中隔によ
ストロゲンのみならずアンドロゲンが骨量維持に関
り二室に分かれていた。興味深いことに心臓主要転
与していることを見出しつつ在る。一方、第2の遺
写因子であるTbx5の発現様式は、心室形態に関連
伝暗号とされるエピゲノムの骨組織における制御機
してカメとトカゲとでは異なることが明らかとなっ
構は全く明らかにされておらず、骨関節疾患病態の
た。さらにマウスに強制的に爬虫類様のTbx5発現
解明を試みるにあたり、非常に重要な観点と言える。
様式をとらせると、マウス心臓が爬虫類様の心室形
骨組織の恒常性を維持する上で、破骨細胞は最もダ
態を示した。このことから、Tbx5という一つの遺
イナミックな機能である骨吸収を担う。我々は、破
伝子が発現パターンを変化させながら、心室形態進
骨細胞において発現変動するヒストン脱メチル化酵
化を制御していることが明らかとなった。
素群に着目し、特異的遺伝子欠損マウスの作出/解
次いで我々は心房形態進化を理解すべく、心房中
析によりエピゲノム制御因子の生体内高次機能を明
隔獲得過程にある動物を解析中である。両生類は魚
らかにしつつある。上述の如く、骨関節組織におけ
類のうちの肉鰭類から進化したと言われ、肉鰭類に
24
はシーラカンス・肺魚が含まれる。3Dイメージン
イン(IL-10、TGF-β)の産生を増強したことから、
グを用いてこれら動物の心臓形態を観察したとこ
制御性免疫を活性化することでアレルギー抑制作用
ろ、通常の魚類とは明らかに異なる興味部深い結果
を発揮することが示唆された。
が得られた。
【L. brevis SBC8803による腸管バリア機能増強】
腸管上皮細胞は腸内細菌や食品由来抗原の体内への
「ヒストン脱アセチル化酵素SIRT6によるクロマチ
ン制御と代謝・老化との関連について」
侵入を抑制する。腸管バリア機能の破綻は腸内細菌
や異物の生体内への侵入を許すため、炎症性腸疾患
第一三共株式会社 先端医薬研究所
発症の原因の一つであると言われている。我々は
來生 江利子
L. brevis SBC8803がCaco2/bbe細 胞 株 お よ び マ ウ
老化は組織や細胞が無秩序に崩壊・衰退していく
ス小腸において、細胞保護作用が報告されている熱
過程であると長い間考えられてきたが、近年の著し
ショックタンパク質(HSP27、Hsp25、Hsp70)の
い研究の発展により、老化や寿命が他の生物プロセ
発現を誘導することを確認した。さらに、マウス
スと同様に、遺伝子によって制御されていることが
小腸を用いたex vivoループアッセイにより腸管バ
明らかになってきた。さらにこれらの遺伝子が、代
リア機能を評価した。その結果、マウス小腸へのL.
謝疾患、がん、心疾患、神経疾患などの、老化関連
brevis SBC8803刺激は酸化ストレスによる小腸から
疾患にも深く関与していることが見出されており大
のマンニトール漏出を抑制した。また、デキストラ
変注目を集めている。本講演では、この中でも特に
ン硫酸ナトリウム(DSS)投与による大腸炎モデル
重要な役割を担うサーチュインファミリーの一員で
マウスに対するL. brevis SBC8803の投与は大腸炎
あるSIRT 6について最新の知見を紹介したい。
を抑制し、マウスの生存日数を有意に延長した。L.
brevis SBC8803はCaco2/bbe細胞株およびマウス小
「Lactobacillus brevis の免疫調節作用および腸管保護作用」
腸においてp38 MAPKを活性化した。さらに、p38
サッポロビール株式会社
MAPK阻害剤SB203580はL. brevis SBC8803による
価値創造フロンティア研究所 瀬川 修一
Hspsの発現亢進およびex vivoループアッセイにお
一部の乳酸菌はビールを混濁させる性質を有する
けるマンニトール漏出抑制を阻止した。
ため、多くのビールメーカーではこのような乳酸菌
【L. brevis SBC8803によるアルコール性肝障害抑
を醸造工程中から排除する対象として研究を行って
制作用】アルコールの摂取は腸管バリア機能の低下
きた。弊社が保有する乳酸菌の中から生理活性を有
を促し、腸管から肝臓へのエンドトキシンのトラ
する株としてL. brevis SBC8803を選抜し、アレル
ンスロケーションがアルコール性肝障害発症の一
ギー抑制作用、腸管バリア機能向上およびアルコー
つの要因であると報告されている。そこで、我々
ル性肝障害抑制作用に対する効果を検証した。
はLieber-Decarliエタノール飼料をC57BL/6Nマウ
【L. brevis SBC8803に よ る ア レ ル ギ ー 抑 制 作
スに投与し、L. brevis SBC8803の効果を検証した。
用】加熱殺菌したL. brevis 59株のうち、L. brevis
4∼5週間のエタノール飼料の投与はマウス血清中
SBC8803がマウス脾臓細胞およびパイエル板細胞か
の肝機能マーカー(AST、ALT)の上昇を認めたが、
らのインターロイキン(IL)-12およびインターフェ
L. brevis SBC8803の投与はその上昇を抑制し、さ
ロ ン(IFN)
-γ の 産 生 を 増 強 し た こ と か ら、Th1
らに肝臓における炎症性サイトカインTNF α、脂
免疫応答を誘導する株として本株を選抜した。オ
質合成に関与する転写因子SREBPsの発現を抑制し
ボ ア ル ブ ミ ン(OVA) 免 疫 マ ウ ス へ のL. brevis
た。エタノール投与マウスへのL. brevis SBC8803
SBC8803の経口投与はマウス血清中総IgE抗体量お
の経口投与はマウス小腸における誘導性熱ショック
よびOVA特異的IgE抗体量を有意に抑制した。さら
タンパク質(Hsp25、Hsp27)の発現を増強した。
に塩化ピクリル塗布によりアトピー性皮膚炎様症状
これらの結果から、L. brevis SBC8803は腸管バリ
を呈するNC/NgaマウスへのL. brevis SBC8803の経
ア機能を強固にすることで、アルコール性肝障害を
口投与は皮膚炎の発症を抑制し、血清中IgE量の上
抑制すると推察している。
昇を抑制した。L. brevis SBC8803の経口投与はTh1
サイトカイン(IL-12、IFN-γ)およびTh2サイト
カイン(IL-4)産生を抑制し、免疫制御性サイトカ
25
〈Welcome to IMCB〉 −新人紹介−
染色体動態
核内情報
阿部 真弓 理学系研究科 修士課程1年
宮崎 聖良 理学系研究科 修士課程1年
後藤 祐平 理学系研究科 修士課程1年
楊 晴惠 特定有期 特任研究員
森本 晃弘 特定有期 特任研究員
井上 和樹 特任研究員
林 珍仙 学振特別研究員
稲本 進 博士研究員
靳 遠祥 外国人研究員
吉川由利子 協力研究員
陳 淑䆾 博士課程1年
桂 彰吾 博士課程1年
伊藤 亮 博士課程1年
鴨志田祐己 博士課程1年
吉村 充騎 修士課程1年
坂田 豊典 修士課程1年
羽田 政司 修士課程1年
村松 厚佑 修士課程1年
写真:左から、阿部、宮崎、後藤、楊、森本
分子情報
柳田 聡 受託研究員
渡邉 紘介 理学系研究科 修士1年
眞鍋 瑛美 農学生命科学研究科 修士1年
写真:左から、柳田、渡邉、眞鍋
細胞形態
坂本 恵香 学術支援職員
写真:前列左から:桂、靳、羽田、陳、吉村
中列左から:鴨志田、伊藤、松村、坂田
後列左から:稲本、井上、林、吉川
情報伝達
長尾 元史 博士研究員
宇都宮 駿 工学系研究科 修士1年
河合 宏紀 工学系研究科 修士1年
須藤 雄太 工学系研究科 修士1年
吉田 一成 新領域創成科学研究科 修士1年
写真:左から、河合(興味津々丸)、宇都宮(うっつー)、長尾(にゃがお男爵)、吉
田(ヨッシー)、須藤(スッとう)
神経生物学
廣井 誠 助教
発生分化構造
細野枝里菜 薬学系研究科 修士1年
26
発生・再生
榎本 豊 助教
木戸 丈友 特任助教
稲垣奈都子 特任研究員
渡邊 亜美 特任研究員
宮田奈保子 学術支援職員
菊地 曉子 学術支援職員
冨田 真生 技術補佐員
今泉 典子 技術補佐員
木庭 乾 新領域創成科学研究科
修士1年
藤井清太朗 理学系研究科 修士1年
写真:左上囲み、左から木戸丈友・今泉典子
生体有機化学
唐木 文霞 薬学系研究科 博士1年
友重 秀介 薬学系研究科 修士1年
写真:左から友重、唐木
後列左から、榎本豊・木庭乾・藤井清太朗・宮田奈保子
前列左から、稲垣奈都子・菊地曉子・渡邊亜美・冨田真生
RNA機能
脳神経回路
浜田 萌子 技術職員
佐々木 浩 助教
吉川 真由 新領域創成科学研究科 博士課程1年
遠洞 弥生 新領域創成科学研究科 修士課程1年
成瀬 健 新領域創成科学研究科 修士課程1年
写真:手前から成瀬、吉川、遠洞、佐々木
骨関節疾患制御
今井 祐記 特任講師
関根 弘樹 特任研究員
延 珉榮 学振外国人特別研究員
計算分子機能
大森 聡 特任研究員
心循環器再生研究分野
宮崎 雅恵 技術補佐員
塚原由布子 博士研究員
中村 遼 理学系研究科 修士1年
森田 唯加 理学系研究科 修士1年
山田小和加 理学系研究科 修士1年
浅野 哲也 東京理科大学理工学部応用生物科学科 4年
写真:左から延、今井、関根
ゲノム情報解析
南野 雅 農学生命科学研究科 博士課程1年
増田 晃士 農学生命科学研究科 博士課程1年
池田 祐一 農学生命科学研究科 修士課程1年
Claire Renard 特任研究員
写真:後列左から浅野・宮崎・塚原
前列左から森田・山田・中村
写真:左からClaire、増田、南野、池田
放射光連携研究機構
伊藤 桜子 特任助教
窪田 恵子 特任研究員
東間 彩 新領域創成科学研究科 修士1年
小川 理々 技術補佐員
写真:右から、東間彩、伊藤桜子、窪田恵子、小川理々
27
お店探訪
中華料理店、
「広宴」を紹介します。不
忍通りの一本裏手の細い通りに隠れた、家
庭的な雰囲気のいわゆる「街の小さな中華
発生・再生研究分野 助教 宮岡佑一郎
料理屋さん」です。
お勧めは回鍋肉定食や焼売定食などの
各種定食です。600円から800円のお手頃な価格で、本格的な中華料理が楽しめます。料理も
たっぷり、ご飯も大盛りなので、お腹を空かせた学生さんも満足できること請け合いです。ま
た全ての定食にソース焼きそばがつくところも嬉しいところ。このソース焼きそばがまた普通
のソース焼きそばではなく、独特な味わいで一度お試しすることをお勧めします。
「やたらにニンニクを使うのは逃げだと思うんですよ」というご主人の強いこだわりから、
全ての料理でニンニクは必要最低限の量しか使われておりません。それでいて、全ての料理が
とてもおいしい。餃子ですらあまりニンニクの存在を感じさせませんが、中華料理店ならでは
のおいしい餃子です。
筆者は町内会のお祭りや古紙回収などの行事で店主ご夫婦とよくご一緒するのですが、とて
も気さくなお二人で、お店も馴染みやすく素敵な雰囲気になっています。筆者は妻が仕事でい
ない夜に子供を保育園に迎えに行き、そのまま広宴で夕食ということがよくあります。私は回
鍋肉定食を頼むことが多く、子供も回鍋肉もソース焼きそばも餃子も大好きでよく食べます。
ぜひ皆さんも一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
営業時間:11:30−14:00
17:00−21:00
定 休 日:土曜
電話番号:03-3821-4901
住 所:東京都台東区
池之端2-5-27
〈辞 職〉青山 洋史 助教(生体有機化学研究分野)
泉 奈津子 助教(先導的研究教育プログラム)
教職員の異動等について
以下のとおり異動等がありましたのでお知らせします。
○平成23年1月31日付
〈辞 職〉川口 大地 助教(先導的研究教育プログラム)
○平成23年2月28日付
〈辞 職〉反町 有子 総務チーム主任
瀧 聡美 総務チーム一般職員
○平成23年3月31日付
〈任期満了退職〉横田 明 准教授(バイオリソーシス研究分野)
田中 晃一 講師(先導的研究教育プログラム)
編 集 後 記
2度目の編集委員、少しは余裕を持って仕事をこなせ
るかと思っておりましたが、まだまだ未熟でご迷惑をお
かけしております。今回は主に「着任のご挨拶」「転出
のご挨拶」
を担当させていただいております。異動のあっ
た先生方に原稿執筆をお願いする時、日々の生活でつい
忘れてしまいがちな時の流れを感じて、懐かしい気持ち
に浸ったり、新鮮な気持ちになったりしております。今
年は東日本大震災があり、忘れられない年となりそうで
す。被災された方々に心よりお見舞い申し上げるととも
に、被災地の一日も早い復興をお祈り致します。
(情報伝達研究分野 樋口麻衣子)
○平成23年4月1日付
〈採 用〉榎本 豊 助教(発生・再生研究分野)
佐々木 浩 助教(先導的研究教育プログラム)
岩崎信太郎 助教(先導的研究教育プログラム)
山岸 有哉 助教(先導的研究教育プログラム)
〈配置換〉丹野 悠司 助教(染色体動態研究分野)
:先導的研究教育プログラムより
諸田 清 事務長
:医科学研究所 事務部長へ
小林 和幸 事務長
:大学院経済学研究科・経済学部事務長より
村上 靖朋 財務会計チーム係長
:東洋文化研究所へ
佐々木 毅 財務会計チーム係長
:生産技術研究所より
守 幸代 総務チーム主任
:東洋文化研究所より
二次元電気泳動と二次元NMRを最近よく利用して実
験しています。博士課程3年生のコメント「石川先生っ
て二次元が大好きですよね。今度、フィギュア買ってき
ますね!」 どんなフィギュアがデスクに飾られるか、
楽しみです。
(生体有機化学研究分野 石川 稔)
分生研ニュース第46号
2011年6月号
発行 東京大学分子細胞生物学研究所
編集 分生研ニュース編集委員会(土本卓、石川稔、樋口麻衣子、村
上智史、西條(及川)栄子)
お問い合わせ先 編集委員長 土本卓
電話 03―5841―8471
電子メール [email protected]
28
ナトリウム・カリウムイオンポンプのイオン輸送
メカニズムの構造的基礎
膜蛋白質解析研究分野 金井隆太(助教)
ナトリウム・カリウムイオンポン
プ(Na+、K+-ATPase)は細胞膜上
に存在し、ATPの加水分解エネル
ギーを利用してNa+を細胞内から細
胞外へ、K+を細胞外から細胞内へ、
それぞれ濃度勾配に反して能動的に
輸送する。ここで作られたNa+、K+
の細胞内外での濃度勾配は神経伝達
に必須な膜電位の発生や浸透圧の調
節等、基本的な生命活動に必須な役割を担っている。このイ
オン輸送反応は図のような反応サイクルに示される。ここで
気づくのが8個に及ぶ反応中間体の多さである。反応式で表
せば、
3Na+(in)+2K+(out)+ATP → 3Na+(out)+2K+(in)+ADP+Pi
でとても単純のように見えるが、8個もの反応中間体の存在
はこの一連の反応が巧妙に制御されていることを示唆してい
る。その巧妙な制御とは具体的にどういうものか?
複製装置と姉妹染色分体間接着確立の連携機
構の解明
ゲノム情報解析研究分野 古俣麻希子(助教)
姉妹染色分体が複製後、染色体分
配の直前まで束ねられているのはコ
ヒーシンとよばれるタンパクにより
ます。姉妹染色体分体をコヒーシ
ンがどうやって束ねるのか?―い
ま、コヒーシン分野の研究者のおそ
らく誰もが考えているモデルは、前
もって染色体に結合しているリング
状のコヒーシンの中を複製装置が通
過し、複製直後の姉妹染色体分体を束ねるというものだと思
われます。したがって、この問題は、生命の継承にとって必
須の遺伝情報の「複製」と「分配」を連携する非常に重要な
機構を解き明かそうというものですが、未だ満足な答えは得
られていません。最近、コヒーシンを構成するタンパク質の
一つ、Smc3が、DNA合成期にアセチルトランスフェラーゼ
Eco1によりアセチル化されることが解りました。Smc3がア
セチル化されないような状況下では、コヒーシン接着確立に
欠損が生じるので、このSmc3のアセチル化の分子的制御機
構を解明できれば、上の問題にも答を与えることが出来るの
ではないかと思い研究を行っています。
私の研究の第一の目的は、兎に角、アセチル化Smc3特異
的な抗体を取得することです。アセチル化コヒーシンを「検
私は現在、膜蛋白質解析研究分野(豊島研)に所属し、こ
の問いに答えるべくNa+、K+-ATPaseの原子レベルでの結晶
構造解析に取り組んでいます。既に当研究室によって反応中
+
間体のうちの1つ、E2・P・
i 2K 状態の立体構造が明らかにさ
+
れています(E2とはNa に低親和性な(つまり、相対的にK+
に対して高親和性な)状態。ちなみに、E1はNa+に高親和性
を示す状態。)。そこで、私はその他の状態、特にE1P状態の
Na+、K+-ATPaseの結晶化、構造決定に取り組んでいます。
私自身はNa+、K+-ATPaseの研究を始めてから1年弱でまだ
勉強中ですが、時折、現れる綺麗な蛋白質結晶に一喜一憂し
ながら過ごしています。
出できる」特異的抗体はすでにスクリーニングにより得るこ
とが出来ましたが、問題は「免疫沈降に使える」抗体を得る
ことです。そのような抗体が得られれば、染色体レベルでの
Smc3タンパクのアセチル化パターンの変遷を調べ、さらに、
アセチル化型コヒーシン複合体と非アセチル化型複合体の構
成を比較することで、上の問に本質的な解答を得ることが
出来ると考えたからです。これまでに、Smc3内のアセチル
化部位を含む配列を抗原とする約800種類のマウスハイブリ
ドーマ培養液に対するスクリーニングを、酵母細胞抽出液を
用いたウエスタンおよび染色体免疫沈降により行い、3種類
の「使えそうな」アセチル化Smc3特異的な抗体を得ました。
これらのうち、最近得た抗体は、その特異性が最も優れてお
り、アセチル化されたSmc3を少量の界面活性剤を含むバッ
ファーを用いた場合にのみ免疫沈降することが出来ます。こ
の結果は、Smc3のアセチル化部位が別のタンパクの結合部
位であることを示唆しているのかもしれません。現在、免疫
沈降効率を高めるべく種々の塩、界面活性剤でバッファーを
調整し、思いつく限りの条件で試行錯誤を続けています。
図 DNA複製と同時に起こるコヒーシン接着の確立
29
姉妹染色分体間の接着確立とDNA複製の共役
機構の解明
てコヒーシンのアセチル化がDNA複製の進行と共役して引
き起こされること、そして複製装置中のCtf4、Ctf18という
2つの因子がアセチル化反応に重要な役割を果たしているこ
とを見いだした。またEco1がCtf4、Ctf18と直接相互作用す
ゲノム情報解析研究分野 須谷尚史(助教)
ることも見いだした。Ctf4、Ctf18によってEco1によるコヒー
シンアセチル化反応が複製装置近傍に限局されることにより
DNA複製により生成した一対の
姉妹染色分体対に特異的な接着形成が引き起こされているこ
姉妹染色分体はコヒーシンという複
とが考えられ、現在より詳細な解析を行っている。
合体で接着されていることが知られ
こ の 他 に も、 接 着 確 立 の 抑 制 因 子(Sutani et al., Curr.
る。この接着を手がかりにして細胞
Biol., 2009) や コ ヒ ー シ ン に 特 異 的 な 脱 ア セ チ ル 化 酵 素
は娘細胞へと分配するべき同じ遺伝
(Beckouët et al., Mol. Cell, 2010)など、コヒーシン制御に
情報をもつ染色体対を認識してお
関わる様々な因子の同定に我々は成功してきている。これら
り、接着の欠損や誤った染色体間の
の研究をさらに推し進めることにより、コヒーシン制御ネッ
接着は染色体異数化を引き起こす。
トワークの統合的な理解へと繋げてゆきたい。
すなわち、癌の発生・悪性化やダウン症等の先天性疾患の原
因となりうる。それでは、接着はどのようにして姉妹染色分
体対の間に確実にそして特異的に確立されるのであろうか。
我々はその分子的なメカニズムを理解したいと考えている。
コヒーシン研究における近年のブレイクスルーは、コヒー
シンが接着を確立する際にはEco1アセチラーゼによりアセ
チル化されることが不可欠であるという発見である。我々は
アセチル化コヒーシンを認識する抗体を作製し、これを用い
Ctf4、
Ctf18を介したコヒーシンアセチル化とDNA複製の共役機構(モデル)
次世代シーケンサを用いたタンパク-DNA相互
作用の情報学的解析
現量解析を定量的に行う技術)の場合、RNAスプライシン
グやアイソフォーム、未知の転写物なども考慮する必要があ
り、更に複雑な解析が要求されます。
次世代シーケンサを使った実験には、空間情報を考慮し
ゲノム情報解析分野 中戸隆一郎(助教)
た応用法もあります。空間的に近接している離れた2つの
DNA配列情報を網羅的に得る(Hi-Seq法)
、また特定のタン
私の専門は計算機によるゲノムの網羅的解析です。現在は
パクを介して近接している複数のDNA配列部位のデータを
特にChIP-seq(次世代シーケンサ
網羅的に得る(ChIA-PET)といった解析法で、これらの手
を用いて特定のタンパクがゲノム上
法にもこれから挑戦する予定です。
のどの領域に結合するかを調べる技
今までに解析してきたデータを色々と組み合わせていけ
術)を中心に解析を行っています。
ば、今まで思いつかなかったような未知の現象を発見できる
次世代シーケンサはとにかく産出さ
のではないか?と期待しつつ、日々山のようなデータと格闘
れるデータ量が膨大で、1回解析す
しています。
るのに多大な時間と手間がかかりま
す。また、例えば転写因子であれば、
遺伝子上流にはっきりしたピークが現れるので比較的わかり
易いですが(図)
、どこに貼りつくかわからない、配列特異
性もない、そもそもどういう役割を果たしているかわかって
いないというようなタンパクの場合、解析は一筋縄ではいき
ません。ChIP-seq解析で得られる結合領域の幅や、結合強度、
分布などは対象タンパクや用いた抗体で異なり、それによっ
て最適な抽出条件も変わるので、大抵は得られた結果とにら
めっこしながらピークの抽出条件を変えることの繰り返しに
なります。うまくいってなさそうなサンプルでも、何か得ら
れる知見がないかと、毎回手さぐりで解析しています。また、
RNA-seq(転写物をシーケンシングすることで遺伝子の発
図 ChIP-seqによる解析の例。赤のピークが対象とするタンパクの結合
を示す。
30
Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーに
よるRISC loading
岩崎信太郎*、小林真希*、依田真由子、坂口祐里子、勝間進、
鈴木勉、泊幸秀(RNA機能研究分野)
Mol. Cell 39(2), 292-299(2010)(*同等貢献)
18-30nt程度の小分子RNA(small RNA)は自身と相補的
な配列をもつRNAの発現調節を行うことが知られています。
small RNAはRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ば
れるRNA-タンパク質複合体を形成して初めて機能します。
RISCの構成タンパク質の中でもsmall RNAと直接結合し、
中心的役割を担うのがArgonaute(Ago)と呼ばれるタンパ
ク質です。RISCが形成される際、small RNA二本鎖がAgo
へ積み込まれます(RISC loading)。これまでの研究により
RISC loadingにはATPが必要であることが分かっていました
が、どんな因子がATPを消費し、RISC loadingを担っている
かは全く分かっていませんでした。
今回の研究によりショウジョウバエとヒトにおけるRISC
loadingにHsc70/Hsp90シャペロンマシナリーが必要である
ことを発見しました。Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーは
ATPの加水分解を伴いながら、結合したタンパク質の構造
を変化させることによって、そのタンパク質を成熟化させる
ことが知られています。近年解析された高度好熱菌Thermus
エピジェネティック因子群の発現量がヒト
先天性心疾患の多様な表現型、重篤性に
影響を及ぼす
竹内純、杉崎弘江、他(心循環器再生研究分野)
Nature Communications (2011)
重篤な先天性疾患は必ずしも子に引き継がれる訳でない。
また、親に現れない疾患が突如、子で現れてしまうケースも
ある。症状が重篤化する場合もある。それは何故なのだろう
か?本研究はこの理由の一つとして、クロマチン再構成因子
が関わっていることを証明した。
心臓は発生過程において最も早期に機能する臓器であり、
先天性心疾患患者は全出生児の約1.2%、流死産児の約10%、
心不全における死亡者は全体の約16 30%を占めることから、
胎生期、生後の生命維持活動においても重要な器官である。
しかしながら、先天性心疾患原因遺伝子は約0.1 ∼2%程度
の報告しか無く、かつ、家族性心疾患家系においてもその表
現型は一様では無い。このように心疾患が高頻度で発症し、
疾患様式が多様性である背景として先天性の遺伝子異常に相
乗的に作用するエピジェネティック因子が存在すると想定し
研究を行ってきた。
Holt-Oram症候群(TBX5が責任遺伝子:7万人に一人の
割合で発症)もNKX変異(ヒト家族性先天性心疾患:2、
thermophilusのAgoホモログの立体構造から、small RNA二
本鎖はAgoに対して大きすぎ、small RNA二本鎖が取り込ま
れるはずの位置には収まりきらないことが示唆されており、
RISC loadingが起こるためにはAgoのダイナミックな構造変
化が必要であることが考えられます。本研究の結果により、
RISC loadingは「Hsc70/Hsp90シャペロンマシナリーがATP
を消費しAgoの構造を変化させることでsmall RNA二本鎖が
Agoの中に取り込まれる」反応である、と説明することがで
きるようになりました。
3万人に一人の割合で発症)による先天性心疾患においても
家族内でさえその重篤性がまちまちで、発症率はもっと高い
と予測されていたが、詳細な原因が分かっていなかった。そ
こで、エピジェネティック因子の発現量がヒト先天性心疾患
の表現型や重篤性直接関与すると考え、SWI/SNF-BAFの
主要因子であるBrg1モデルマウスを用いて疾患重篤化を証
明した。一連の結果は、エピジェネティック因子群の一つク
ロマチン構造変換複合体がヒト先天性心疾患の多様な表現型
を擁する理解だけでなく、他の先天性疾患や後天的に発症す
る疾患への理解に多く貢献する研究結果である。
31
タンパク質ノックダウン法:メチルベスタチ
ンとリガンド連結低分子による標的タンパク
質の特異的分解
設計・化学合成しました。そしてこの低分子が、生細胞中で
伊藤 幸裕、石川 稔、内藤 幹彦、橋本 祐一(生体有機
十分に解明されておらず、また抗がん剤の標的として注目さ
化学研究分野)
れているにもかかわらずCRABP阻害剤が存在しないからで
す。今回、合成した低分子が、CRABP減少を介してがん細
胞の遊走を阻害することも見出しました。
今回創製したCBABPを分解する低分子は、がんの分子標
的薬として期待されます。また今後、CRABP以外の標的タ
ンパク質も特異的に分解できれば、翻訳後タンパク質を減少
させる一般的手法(タンパク質ノックダウン法)を確立でき
ると期待しています。
Journal of the American Chemical Society, 132, 58205826(2010)
ヒトゲノム解析終了後、タンパク質の機能解明がますます
重要になってきています。特定のタンパク質の未知の機能を
解明する為に、当該タンパク質をコードする遺伝子やその転
写物に作用する操作によって、標的タンパクの翻訳量を減ら
す方法がこれまで活用されてきました。しかし、既に出来上
がったタンパク質量を減少させる実用的な方法はありません
でした。
ユビキチンリガーゼ(E3)は、不要な基質タンパク質と結合
してユビキチンを付加することにより、不要なタンパク質を
分解へ導きます(図上)。我々は、基質タンパク質の代わりに、
標的のタンパク質とE3からなる非生理的な複合体を生理的
標的タンパク質を期待通り特異的に減少させることを確認し
ました。なお標的タンパク質としては、細胞内レチノイン酸
結合タンパク質(CRABP)を選択しました。CRABPの機能は
な条件下で人工的に形成できれば、標的タンパク質を特異的
にユビキチン化し、標的タンパク質を分解できると考えまし
た(図下)。そして、E3と標的タンパク質の複合体を形成さ
せる為に、E3の一種に対する低分子リガンド(メチルベス
タチン)と標的タンパク質のリガンドを連結させた低分子を
ショウジョウバエ味覚中枢の初の体系的
神経投射マップ
Neural architecture of the primary gustatory center of
Drosophila melanogaster visualized with GAL 4 and LexA
enhancer-trap systems.
Miyazaki, T. and Ito, K.(脳神経回路研究分野)
J Comp Neurol 518, 4147-4181(2010)
当研究室ではこれまで視覚・嗅覚・聴覚の感覚中枢の詳細
な構造を解析してきたが、これに引き続き、残る重要な感覚
情報処理機構の1つである味覚中枢の詳細な解析を行った。
哺乳類の味覚系では舌にある味覚感覚細胞は軸索を持たず、
味覚神経を介して間接的に脳に投射するため、それぞれの味
の情報を処理する領域が脳の味覚中枢でどのように配置され
ていることを調べるのは困難であった。それに対し昆虫では、
味覚感覚神経の軸索が脳に直接投射するため、味覚中枢にお
ける感覚マップを作ることが原理的には可能である。実際、
特定の味覚を検出する受容体タンパクを発現する感覚神経の
脳での投射パターンを調べる研究が、これまでいくつか発表
されてきた。
しかし、視覚中枢や嗅覚中枢がグリア細胞などで仕切られ
た明瞭な構造を持つのに比べ、味覚中枢は複雑な構造で、か
つ周囲との境界が明瞭でないため、これまで味覚中枢の全体
構造もきちんとした投射マップも分かっていなかった。そ
こで本研究では、従来から用いられてきたGAL4に加えて、
LexAを用いた発現誘導系を使って新たに多数の系統を作成
し、その中から味覚中枢を特異的にラベルする系統を選び出
した。この系統と、特定の味覚神経をラベルするさまざまな
GAL4発現誘導系統で二重ラベルを行い、それぞれの味覚神
経の投射パターンを詳細に比較解析した。これによって、初
の体系的な味覚中枢の神経投射マップを構築することができ
た。その結果、甘みと水の情報は味覚中枢の重複する領域に
送られること、甘みと水/苦み/炭酸の3つの情報はそれぞ
れ異なる領域に送られること、味覚情報と「口が対象物に接
触した」ことを検知する触覚情報は、隣接するが異なる領域
に送られること、といった味覚情報処理の基本構造が判明し
た。高次の味覚情報処理研究の基盤となる味覚一次中枢各部
の明確な領域を定義した初のマップができたことにより、今
後の味覚研究の進展が期待される。
32
細胞外シグナル依存的な
ヒストン脱メチル化酵素複合体の同定
馬場敦史、大竹史明、奥野陽亮、横田健一、岡田麻衣子、今
井祐樹、Min Ni、Clifford A Meyer、五十嵐勝秀、菅野純、
Myles Brown、加藤茂明(核内情報研究分野)
深いことに、PHF2は飢餓シグナル・グルカゴンの下流経路
であるPKAによってリン酸化され、リン酸化依存的に脱メ
チル化酵素活性を発揮することが明らかとなりました。さら
にPHF2が糖新生酵素PepckのPKA依存的発現調節に関与す
ることが示唆されました。以上より、ヒストン脱メチル化酵
素がシグナル伝達経路下流で活性調節されて標的遺伝子発現
制御に関わる機構の一端を明らかにすることができました。
Nat Cell Biol, in press (2011)
細胞のシグナル応答の一端は、シグナル依存的な遺伝子発
現調節によって担われています。標的遺伝子の発現制御にお
いて、ヒストンN末端アミノ酸残基の翻訳後修飾(アセチル
化、メチル化、リン酸化等)が重要な役割を果たすことが知
られています。これら修飾は可逆的であり、シグナル依存的
な転写のON/OFFにおいてダイナミックに変化します。し
かしながら、ヒストン修飾酵素群のシグナル依存的な活性調
節機構については十分に解明されていません。
私達はこの問題に取り組むため、エネルギー代謝調節を担
う転写因子群に着目しました。核内レセプターである胆汁酸
受容体(FXR)やHNF 4は、肝臓等に発現し、飢餓や摂食
等の栄養状態に応答して標的遺伝子発現を調節します。そこ
で私達は、肝臓由来細胞株の核抽出液から、FXR相互作用
因子複合体群の精製を試みました。その結果、機能未知因子
であるPHF2とARID5Bからなる複合体を同定しました。解
析の結果、PHF2/ARID2B複合体はヒストン脱メチル化酵素
活性を有し、FXRやHNF4の転写共役活性化因子(コアクチ
ベーター)として機能することが明らかとなりました。興味
ホルモン療法耐性前立腺癌の進行を司る
新たな癌増悪因子 Wnt-5a の同定
高橋さゆり、渡邉資之、岡田麻衣子、井上和樹、上田崇、高
田伊知郎、渡部徹郎、山本陽子、福田亨、中村貴、秋本千央、
藤村哲也、星野麻衣子、今井祐記、Metzger D.、宮園浩平、
南康博、Chambon P.、北村唯一、松本高広、加藤茂明(核
内情報研究分野)
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108, 4938-4943(2011)
現代食生活の欧米化に伴い、我が国においても前立腺癌の
発症頻度は急激に上昇しており、2020年には男性癌発症数の
第2位になると予想されています。前立腺癌の多くは男性ホ
ルモン感受性癌であり、抗アンドロゲン剤による男性ホルモ
ン遮断療法が有効でありますが、やがてアンドロゲン依存性
の消失に至るケースが大多数を占めます。このような前立腺
癌や乳癌などのホルモン療法抵抗性癌の研究のアキレス腱
は、個体レベルでホルモン抵抗性癌を再現することが困難な
点にありました。
我々は、抗男性ホルモン剤耐性前立腺癌において高頻度で
見出される男性ホルモン受容体(AR)点変異(T877A)を
前立腺のみに導入した遺伝子改変マウスを確立することによ
り、AR点変異体が抗男性ホルモン剤や他種ステロイドホル
モンへの応答能を獲得した結果、前立腺癌の増殖が進行する
ことを実証しました。一方、こうした前立腺癌の進展には、
通常異なる細胞種間(上皮細胞−間質細胞)における液性因
子を介したコミュニケーションが大きな役割を果たしていま
す。そこで、前立腺癌モデル動物を用いたスクリーニングに
より、「Wnt-5a」という細胞外分泌タンパク質が癌細胞より
自己分泌されることで、AR点変異体がより活性化され、癌
の増殖が加速されることが明らかとなりました。実際の前立
Signal-sensing activation of a histone lysine demethylase
complex
Atsushi Baba, Fumiaki Ohtake, Yosuke Okuno, Yuuki Imai,
Maiko Okada, Min Ni, Clifford A Meyer, Katsuhide Igarashi,
Jun Kanno, Myles Brown, and Shigeaki Kato
Nat Cell Biol, in press(2011)
腺癌患者の検体を詳しく調べたところ、多くの検体でWnt5aの発現が亢進していることが見出され、Wnt-5aの癌増悪
因子としてのヒト進行性前立腺癌への寄与が示唆されまし
た。
Noncanonical Wnt signaling mediates androgen-dependent
tumor growth in a mouse model of prostate cancer
Sayuri Takahashi, Tomoyuki Watanabe, Maiko Okada,
Kazuki Inoue, Takashi Ueda, Ichiro Takada, Tetsuro
Watabe, Yoko Yamamoto, Toru Fukuda, Takashi
Nakamura, Chihiro Akimoto, Tetsuya Fujimura, Maiko
Hoshino, Yuuki Imai, Daniel Metzger,
Kohei Miyazono, Yasuhiro Minami, Pierre Chambon,
Tadaichi Kitamura,
Takahiro Matsumoto, and Shigeaki Kato
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108, 4938-4943, 2011
Fly UP