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JOHO KANRI - 科学技術情報プラットフォーム
PRINT ISSN 0021-7298
ONLINE ISSN 1347-1597
第54巻第7号平成23年10月1日発行(毎月1回1日発行)
情報管理
JOHO
KANRI
Journal of Information Processing and Management
月号
October
2011
知財情報を活用した企業戦略
ライフサイエンス分野を中心として
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
企業等における電子ジャーナル等の利用動向調査
連載:
統計情報活用への招待
第 4 回 人口・世帯の公的統計
翻訳記事:
ArXiv創設20年
vol.54 no.7
p.377-438
http://johokanri.jp/
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
知財情報を活用した企業
戦略
377
秋元 浩
387
石井啓豊
400
安部耕造
矢口 学
嶋瀬俊太郎
406
浅田昭司
ライフサイエンス分野を中心として
■わが国は先端技術研究ではトップレベルにありながら,知財の活用によ
る産業化では他国に遅れをとっています。ライフサイエンス,特に製薬
上流
下流
2~3年
2~4年
3~5年
3~7年
1~2年
新製品は15年以上
◆長期間にわたる研究開発
企業を中心に世界の動向を概観し,知財の特徴や問題点を解説します。
さらに知財をグローバル経営に組み込むための戦略の構築や知財戦略に
15~17年
必要な人財育成について提言します。まさに産官学連携によるグローバ
◆成功確率
約1/30,000
◆1社あたりの研究開発費
1,274億円(大手10社平均:対売上高
◆1製品に占める特許
少数の特許で最終製品を強力に保護
19%)
ルな事業展開が求められています。
日本製薬工業協会「DATA BOOK 2011」を参考に作成
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
■情報環境の大きな変化により,情報専門家の養成とその基礎となる図書館情報学
知識情報空間(モデル,フレーム)
情報過程
知識空間
人が持つ知識
(社会的にoccurrent状態)
表現・
探索・解釈
のあり方が問われています。図書館情報学の領域について米国における状況を整
情報資源空間
知識の記録
(社会的にdispositional状態)
理した上で,その対象世界に対する基本的な視点を検討し,新しい規定を提示し
現実世界を知識情報空間
として捉える
現実の関連世界(生活や仕事などの活動を支える知的活動と情報の世界)
ます。さらにこの視点から対象世界把握のフレームとしての知識情報空間を示し,
?
!
!
stu
…
pqr
…
abc
…
その構成を論じます。図書館情報学の性格について議論し,図書館情報学を「知
def …
!?
!
xyz
…
識情報学」ともいうべき領域として展望します。
企業等における電子ジャーナル等の利用動向調査
■日本の企業にとって,電子ジャーナルの導入や外国誌高騰問題への対応は,依然
増加傾向
31%
変わってい
ない
29%
大きな課題のままです。科学技術振興機構(JST)では,2008年12月に行った調
査に引き続いて,2011年2月から3月にかけて,主に企業を対象として,電子ジャー
ナルや外国誌の利用動向調査を実施しました。その結果を報告します。国内企業
減少傾向
40%
に対するまとまった実態調査は,他に例がありません。
2011年(回答総数312)
連載:
統計情報活用への招待
第4回 人口・世帯の公的統計
■本シリーズ第1回から第3回では,公的統計の基本や作成ステップについて解説し
市区町
村名
町丁名
人口
総数
男
世帯
総数
女
南区
滝野
100
49
51
37
南区
澄川
14
6
8
5
南区
真駒内
4,857
3,007
1,850
1,273
南区
真駒内曙町
2,930
1,325
1,605
1,553
南区
真駒内曙町1丁目
2,178
966
1,212
1,279
南区
真駒内曙町2丁目
―
―
―
―
「-」は計数が0の地域を意味する。
てきました。第4回からは各論に入り,公的統計を分野別に紹介します。今回は
人口・世帯に関する主要な統計を取り上げます。人口・世帯の統計は,企業がビ
ジネスを行う上でも,基礎データとして必ず押さえておくべき統計です。
目次
月号
October
翻訳記事:
ArXiv創設20年
415
GINSPARG, Paul
421
上野京子
423
大久保公策
426
名和小太郎
429
立花 肇
432
野末俊比古
■プレプリントサーバーの創設者であるPaul Ginsparg氏が,急速にオンライン化が進んだ研究論文シェア
の20年間にわたる歴史,そして学術コミュニケーションの未来について語ります。『nature』からの翻
訳記事です。
リレーエッセー:
インフォプロってなんだ?
私の仕事,学び,そして考え 第29回
視点:
情報の運用論(その2)
ランダム・ウォーク半世紀:
30-10年前:情報工学から情報法学へ
この本!~おすすめします~:
科学技術情報と外国語
図書紹介:
『研究ベース学習』
433
情報界のトピックス
437
PINUP
438
編集後記
vol.54 no.7
JOHO KANRI 2011
October
Journal of Information Processing and Management
Contents
Business strategy for utilizing
intellectual property information
377
A prospect of knowledge informatics through redefinition
of library and information science
387
ISHII Hirotoyo
A follow-up survey on e-journal usage among companies
and the academia in Japan
400
ABE Kozo
YAGUCHI Manabu
SHIMASE Syuntaro
Series:
406
ASADA Shoji
Translation:
415
GINSPARG, Paul
Relay essay:
421
UENO Kyoko
Opinion:
423
OKUBO Kousaku
Random walk for a half century:
426
NAWA Kotaro
My bookshelf:
429
TACHIBANA Hajime
New boook:
432
NOZUE Toshihiko
AKIMOTO Hiroshi
Focusing on life science field
Guide to effective use of statistics
Part 4: Official statistics on population and households
ArXiv at 20
What I do, study, and think as an information professional (29)
Pragmatics of the information (2)
Shift from information engineering to information law
Science and technology information & foreign language
433
Topics of the information community
437
PINUP
438
Editor's note
知財情報を活用した企業戦略
知財情報を活用した企業戦略
ライフサイエンス分野を中心として
Business strategy for utilizing intellectual property information
Focusing on life science field
秋元 浩1
AKIMOTO Hiroshi1
1 知的財産戦略ネットワーク株式会社(〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー 10階)Tel : 03-5288-5401 E-mail : [email protected]
1 Intellectual Property Strategy Network, Inc. (Sapia Tower 10F 1-7-12 Marunouchi Chiyoda-ku, Tokyo 100-0005)
原稿受理(2011-08-01)
情報管理 54(7), 377-386, doi: 10.1241/johokanri.54.377 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.377)
著者抄録
京都大学・山中伸弥教授の新型万能細胞(i P S細胞)の研究に見られるように,日本の大学・研究機関の研究レベルは
世界でもトップクラスであり,今後もこのような発明・研究を生み出す素地は十分に整っているといえる。しかし,
日本はライフサイエンス分野(医薬,医療分野等)を含めた先端分野の研究では善戦しつつも,知財の活用による産
業化という面ではいまだ欧米の後塵を拝しているのが現状である。このような状況を打破して日本の企業が国際競争
に打ち勝つためには,わが国の英知を結集した効率的な産学官連携により,大学等から生み出された研究情報に基づ
く知財を積極的に活用してグローバルな事業展開を図っていくことが重要であり,そのために新しいチャレンジング
な試みとして知的財産戦略ネットワーク(IPSN)/ライフサイエンス知財ファンド(LSIP)が設立された。
キーワード
知的財産戦略,経営戦略,産学官連携,IPSN,LSIP,医薬品,ライフサイエンス,特許制度,オープンイノベーション
1. はじめに
のような戦略を構築すべきであろうか。本稿ではラ
イフサイエンス分野,特に製薬企業を中心に,知的
20世紀後半から,貿易・投資の自由化や交通・通
信手段の発達により,企業は国境を越えて事業を展
開することが当たり前となった。企業にとっては世
財産情報を活用した企業戦略について考えてみたい。
2. 世界経済の動き
界でのビジネスチャンスが広がる一方で,国家間,
企業間の競争は激しさを増している。このようなボー
ダレスの潮流の中で日本の企業が国際競争力を強化
してグローバルな事業展開を図っていくためにはど
2.1 GDP(市場レートベース)シェアから見た世
界と日本
世界経済に目を向けると,1990年代は米国,欧州,
377
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
http://johokanri.jp/
October
Journal of Information Processing and Management
日本の三極が世界を牽引してきたが,近年は日本を
いる。この中で,2015年までに特許・実用新案・意
除くアジアとりわけ中国やインドの存在感が増して
匠の年間出願件数を200万件,審査官数を9,000人と
いる。G D P(市場レートベース)の長期的なシェア
すること等を明示している。中国は知財大国になる
の変化を見ると2009年は,米国24.9%,欧州(ドイツ・
ための戦略を構築している。
英国・フランス・イタリア)17.7%,日本は8.8%で
インドは2005年に医薬品の物質特許制度が導入さ
あるのに対し,中国8.3%,インドは2.2%にとどまっ
れたことにより,I T産業に次ぐ成長産業として製薬
ているものの,2030年には米・欧・日すべてのシェ
を国家戦略の1つとして掲げており,創薬整備環境を
アが縮小される中,中国は23.9%,インドは4.0%と
着々と整えている。同国はジェネリック医薬品の分
1)
。中国やインド
大幅な拡大が予測されている(図1)
野でも世界有数の規模となっており,シプラ,ラン
は巨大な人口を抱えていることから,今後の急速な
バクシー,ルピンなどの大手メーカーが多く存在し
経済成長によって一定水準の消費力を有する中間所
ている。
得層が急増すると見込まれており,2020年には世界
の中間層の40%が,そして2030年には60%がアジア
で占められ,その大部分が中国およびインドである
と予想されている2)。
2.3 世界医薬品市場シェア
医薬品の世界市場シェアを見ると,世界のおよそ
40%を北米が,30%近くを欧州が占めているが,過
去20%以上を有していた日本は一時10%を割ってい
2.2 中国・インドの国家戦略
る3)。医薬品市場においても急速な経済成長および人
近い将来,世界の大市場となりうる中国とインド
の国家戦略について見てみよう。
口増加が見込まれる中国・インドの市場拡大が予想
される。
中国では,2009年10月に第三次改正専利法(特許・
特に,両国とも国策としてライフサイエンス分野
実用新案・意匠法に相当)を施行し,制度面では先
の研究・開発に注力しており,世界の巨大市場とし
進国と並んだ。また,
「中国知的財産権保護行動計画」
ての存在感も増すと考えられているが,欧米ではイ
を2006年から毎年策定し,知財保護強化を目指して
ンドの方が将来的な評価は高い。
2009年
2030年
中国, 8.3
その他,
21. 3
インド, 2.2
その他,
23.2
日本, 8.8
その他
地域, 2.1
その他
アジア, 5.4
中国, 23.9
その他
地域, 1.6
インド, 4.0
欧州, 10.2
欧州, 17.7
米国, 24.9
その他
北米・中南米,
79
7.
日本, 5.8
その他
北米・中南米,
6.5
その他
アジア,6.8
米国, 17.0
内閣府「世界経済の潮流2011年Ⅰ 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」
と新興国のプレゼンス拡大」p.93の図を基に作成
図1 GDP(市場レートベース)シェアの変化
378
図1 GDP(市場レートベース)シェアの変化
知財情報を活用した企業戦略
上記のような世界の市場動向に照らせば,現時点
究の質の高さがうかがえる。ちなみに,企業経営層
では企業は市場規模の大きい米国市場に重点を置い
にも同じアンケート調査を行ったところ,あまり役
た企業戦略を構築すべきであるが,今後は世界市場
に立たないとの回答が多かったという。産業への応
の中心となりうる中国・インドにも十分に目を向け
用を考える経営層から見れば,大学の研究成果は企
た戦略・戦術を立てる必要があるだろう。
業が望む形での出口が見えないからであろう。
日本の世界市場シェアが縮小・停滞し,今後も目
3. 日本のライフサイエンス分野における
覚ましい拡大が見込まれない状況において,製薬企
研究成果
業がより多くの新薬創出を可能とするためには,大
学は研究の初期段階から世界市場を視野に入れた事
現在,世界の医薬品の売上ランクに占める日本オ
業化という出口を見据えた研究を行い,その成果を
リジンの製品は16品目 注1) で,日本は米国,イギリ
グローバルな観点からの知的財産戦略に基づいて保
スに次ぐ世界第3位の創薬大国であり,製薬産業の技
護した上で,企業へうまくつなげるシステム作りが
術力はグローバルに見ても高い水準を保っている。
重要である。
また,日本のライフサイエンス分野における大学等
アカデミアの研究は山中伸弥・京大教授の新型万能
4. ライフサイエンス分野の研究開発と知財
細胞(iPS細胞)研究に象徴されるように,世界のトッ
近年のライフサイエンス分野の研究開発プロセス
プレベルといっても過言ではない。
ある大学の准教授が製薬企業約100社に対し,大学
の特徴を図2に示したが,(1)技術進展が著しい,(2)製
等の公的機関の研究が企業に役に立っているかとい
品化までに長期間を要する,(3)研究開発に対する先
うアンケート調査を行ったところ,多くの企業内発
行投資が巨額である,(4)成功確率が極めて低い,(5)1
明者は役に立つと回答した。企業内発明者は学会・
つの製品が少数の特許で保護されている,といった
シンポジウムでの発表や論文という大学等の研究成
点があることはよく知られている。総務省の「科学
果から基礎研究の補完,解決策のヒント,着想・企
技術研究調査」によれば,2009年度の産業別の売上
画の補完,アイデアを得て自社の研究に活用するか
高に対する研究費の比率は,全産業の平均が3.31%
らである。ここからも日本の大学等のアカデミア研
であるのに対し,医薬品製造業は11.66%と全産業の
上流
下流
2~3年
2~4年
3~5年
3~7年
1~2年
15~17年
◆長期間にわたる研究開発
新製品は15年以上
◆成功確率
約1/30,000
◆1社あたりの研究開発費
1,274億円(大手10社平均:対売上高
◆1製品に占める特許
少数の特許で最終製品を強力に保護
19%)
日本製薬工業協会「DATA BOOK 2011」を参考に作成
図2 新薬の研究開発の特徴
379
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JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
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October
中で最も高い。製薬企業の研究開発費が高額となる
を行うことが,必要不可欠の最重要課題となった。
のは世界共通の現象で,2009年度の日米における主
欧米,特に米国の企業との競争が必然的な重要課題
要製薬企業の総売上高に対する研究開発費の比率は,
になるという局面においては,情報通信機器産業,
日本の大手10社の平均で19.1%,米国の大手7社の平
半導体産業,自動車産業などと医薬品産業とで大き
4)
。
均で15.2%となっている
な差異はないように見える。しかしながら,医薬品
また,知財面から見ると製薬企業にとっては,競
産業以外のこれらの産業分野では,1つの製品にかか
合他社や後発(ジェネリック)医薬品会社の参入へ
わる特許が非常に多く,関連するすべての特許を自
の抑止力,あるいは,模倣品の防止の観点から,多
社でカバーすることが不可能なため,特許群のクロ
数の国で強力な特許を取得することの重要性は非常
スライセンスが常態となっており,1つの特許で製品
に高く,競争戦略上の最重要課題となっている。
の保護が可能な範囲はかなり限定される。これに対
日本の製薬企業の研究開発は,昭和51年(1976年)
して,医薬品産業では,医薬品が1件の物質特許で
の特許法改正での物質特許制度の導入を契機に本格
も保護が可能なことから,有効な特許の取得は,競
化した。物質特許制度の導入以前は,化学物質を特
合他社や模倣品に対する端的かつ効果的な防御手段
許で保護するには製法特許によるしかなく,そのた
となる。このため,医薬品産業のビジネス構造では,
め,日本では,欧米の製薬企業が創出した医薬品で
特許による製品の保護が最重要の経営的戦略課題の1
あっても,特許に抵触しない方法で製造が可能であ
つとなり,この点が,医薬品産業の特許に対する依
れば,創出した会社以外の会社が独自に製造・販売
存度が他業種とまったく異なる所以であると考えら
を行うことが可能であった。物質特許制度の導入に
れる。
より,日本の製薬企業は,欧米の製薬企業との競争
に生き残るために,基礎段階からの研究開発を行い,
5. 米国の知的財産制度
独自の新薬を創出することが必要となった。その
結果として研究開発力が向上し,日本の製薬企業は
世界に通用する新薬を生み出すことができるように
制度は日本の制度とかなり異なっている。
なった。一方,医療費の抑制政策などの要因により
日本をはじめとする多くの国では「先願制度」を
日本国内の市場が伸び悩みとなったことと,研究開
採用しており,先に出願した人に特許権が与えられ
発費が増加の一途をたどったことから,1980年代以
る。これに対して,米国では「先発明制度」と「仮
降には,創出した新薬を携えての海外への進出も開
出願制度」を採用しており,これらを組み合わせる
始された。
と日本よりも半年から1年早く特許権を取得できる仕
自社が研究開発を行った新薬を欧米で上市する,
380
世界の医薬品市場の半数近くを占める米国の特許
組みとなっている。
あるいは,欧米の製薬企業にライセンスイン(導入)
「先発明制度」とは,先にコンセプト(概念)を発
するには,欧米,特に医薬品市場の半数近くを占め
明した人に特許権を与える制度である。すなわち,
る米国で他社あるいはジェネリックを排除すること
実験によって成果が生み出される前に,そのコンセ
ができる有効な特許を取得していることが非常に重
プトを生み出した時点までさかのぼって,実験で証
要になる。そのため,1980年代以降,日本の大手製
明したことに関係なく,先にコンセプトを発明した
薬企業では,欧米の製薬企業との競争に勝ち残るた
人が権利を取得することができる。一方,「仮出願制
めに,グローバルな知的財産戦略の構築,特に,米
度」とは,発明全体の一部にすぎないコンセプトで
国の特許制度を十分に理解しその特徴に応じた対応
あっても,その後の展開の方向が明確であれば,実
知財情報を活用した企業戦略
験で一部分が実証された時点で全体のコンセプトに
資産経営として認識し,いかに効率よく経営に組み
ついて仮出願を行う制度である。1年以内に何度でも
込んでいくかという全体的な考え方が極めて重要と
仮出願を繰り返してコンセプトを実証していき,最
なる。ここでは,(1)経営戦略と融合した戦略的な知
終的に発明として本出願すれば1年以内の最初の仮出
的財産体制の構築,(2)企業の知的財産活動に対する
願時期までさかのぼって権利が付与される。このこ
コスト原理の導入,(3)事業のグローバル展開へのフ
とは,特許を出願するより前の段階で,知財をめぐ
レキシブルな対応に焦点を当ててみたい。
る実践的な戦略・戦術をグローバルな視点から考え
る必要があることを意味する。経営戦略に沿ってど
6.1 戦略的な知的財産体制の構築
のような権利化を行うか,ビジネスをどう展開する
企業が世界で生き残るためには,知的財産戦略を
か,どの国に出願するか,さらに周辺特許をどのよ
研究開発戦略に融合させ,さらには製造営業戦略と
うに押さえるかなど綿密な戦略立案が必要なのであ
連携させた全社的な戦略を立てる必要がある。医薬
る。現時点では,市場規模の大きな米国の特許制度
全部門の事業戦略を策定する機能として,いわゆる
を十分に理解し,その特徴に応じて米国を重視した
営業,製造,開発および研究が基幹とされていたが,
対応を行う必要がある。
さらに,知的財産とアライアンスが重要なファクター
しかしながら,こうした知財のグローバル展開の
であり,これらを総合的に考えた上で全医薬部門の
重要性は,企業には認識されているものの,日本の
事業戦略を策定する基本的なコンセプトが必要とな
大学や研究機関では経済的問題もあって海外展開を
る。
視野に入れた出願対応を行っているところは少な
このコンセプトに基づいて,知的財産に関する機
い。現在の日本には,大学・ベンチャー,さらには
能を,(1)情報戦略機能,(2)権利戦略機能,(3)技術提
T L O(技術移転機関),知財関係者等に至っても意識
携機能,(4)係争訴訟機能,(5)企画推進機能にフレキ
が日本国内での出願にとどまっていることが多く,
シブルに統合再編成し,研究開発部門および製造営
米国の特許制度を理解し,グローバルな視点から特
業部門との融合・連携を図ることが必須である。
許戦略を行うことができる人財は十分でないのが実
状である。この辺りの人財の早期育成と確保は重要
な課題である。
6.2 知財活動に対するコスト原理の導入
企業の知的財産活動に対するコスト原理の導入は,
現在,米国では特許改革法案(米国発明法案)の
今までブラックボックス扱いとされることが多かっ
改定作業が議会で行われており,2011年3月8日に上
た知的財産活動のコストにメスを入れようとするも
院本会議を通過,6月23日には下院本会議を通過し,
のである。言い換えれば,企業における知的財産部
法案成立に向けた最終局面を迎えている5) ,6)。この改
門を,真のプロフィットセンターとするための道を
定法案には先発明制度から先願制度への改正も含ま
追求するためには,コスト原理の考え方の導入が必
れており,特許実務上の影響も大きいと思われる。
要となる。
法案成立までの行方をフォローしていく必要がある。
6. 知的財産をグローバル経営に組み込む
ための課題:知的資産経営
知財活動に対するコスト原理の導入では,(1)実務
レベルにおける対応,(2)訴訟・交渉との関連におけ
る予防,攻撃あるいは防御からの対応,(3)主力製品
のライフサイクルマネジメント策の対応など各面か
らのコストパフォーマンス(費用対効果)を考える
知的財産制度の諸課題と同様に,知的財産を知的
べきであり,定量的あるいは半定量的数値目標を導
381
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
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October
入すべきである。日本の製薬企業では,知的財産部
7. 知的財産戦略ネットワーク(株)とラ
の総費用は通常R & Dの総費用に対して5 ~ 5.5%であ
イフサイエンス知財ファンド(LSIP)
るが,欧米並みの2 ~ 3%を目標に,活動付加価値(率)
=(基本収益+成果収益)注2)/知的財産部総経費の
これまでライフサイエンス分野をめぐる世界の状
概念を導入しつつ,知的財産部の活動付加価値と企
況や知的財産戦略を組み込んだグローバル経営の必
業全体の事業価値における無体財産の中の知的財産
要性について述べたが,日本が知的財産による世界
価値とを連動させる手法を採用して,自社の知的財
競争力をさらに強化するためには,日本の英知を結
産価値を向上させる戦略を進めるべきである。いず
集したオールジャパン体制で効率的な産学官連携を
れにしても,企業の知的財産活動に対するコスト原
図りながら大学等の優れた研究成果を社会に還元し
理の導入は,知的財産を知的資産経営として認識し,
ていくことが必須である。
有効に経営戦略に組み込んでいく中で必須である。
7.1 知的財産戦略ネットワーク(IPSN)の情報提
6.3 グローバル展開への対応
供活動
事業の急速なグローバル化への対応の中で,真に
これまでもさまざまな場面で産学共同研究の重要
グローバルな知的財産戦略の展開とはどのような体
性が声高に叫ばれているにもかかわらず,その際に
制で可能なのかということは,知的資産経営に関す
有効な知的財産戦略が伴っていないため,これがベ
る新しい試みとしては重要な挑戦となる。
ンチャーや大学から企業への技術移転のネックと
まず,体制・組織のイメージであるが,理想的に
なっている場合が多々見られる。どんなに優れた研
は,知的財産部門のバーチャルなヘッドクオーター
究・技術であっても,その特許がグローバルな出口
(VHQ)が,日(中・韓)
・米・欧の三(五)極をバーチャ
戦略の下,効果的なタイミングで強くて広い権利に
ルに統合し,戦略推進機能,情報推進機能,技術提
なっていて競合品を抑えることができなければ医薬
携・係争訴訟機能などの各実務機能をV H Qのもとに,
品企業にとっては使い物にならない。
それぞれ独立させてフレキシブルにアメーバのごと
こうしたライフサイエンス分野における日本の知
き有機生命体的な連携を保ちつつ,的確かつ迅速に
的財産戦略の現状を憂いて,筆者を含めて3名の発起
各戦術を最も効果的に遂行していく形態が考えられ
人により2009年7月1日,「知的財産戦略ネットワーク
る。このような体制を構築すれば,各極で実施され
(株)
(IPSN)
」
が設立された。IPSNでは,
そのネットワー
た発明について,現地でリアルタイムに処理するこ
クを通じて,バイオ・ライフサイエンス分野や先端
とができるとともにコストメリットも可能となるで
医療分野における知的財産戦略のコンサルティング,
あろう。
ベンチャーの知財面における支援,人財の育成と確
現実に,二国間協定の形で,特許審査ハイウェイ
がかなりの国々で実施されている。グローバルな対
応については,常に10年程度先を見越して対応計画
を立案することが必要である。
保,アジアネットワークの構築などの事業を行って
いる。
1つの例として,知財情報の活用という観点から
行っているIPSNの事業を紹介しよう。
I P S Nでは,国内外の大学・研究機関等から入手し
た研究/知財情報を企業(主に製薬)に提供し,共
同研究・委託研究・ライセンス等の事業化の機会拡
大を図るための取り組みを行っている。I P S Nの専門
382
知財情報を活用した企業戦略
スタッフの手元には莫大な数の公的資金による研究,
等から入手した情報のうち,企業が関心を持つと思
学会,未公開特許並びにその他種々の研究開発に関
われる研究・知財情報をリスト化して掲載している。
する情報が集まる。これらの情報の内容を専門スタッ
シーズ探しの手段の1つとしてぜひ活用していただき
フが精査し,事業化の出口が見えるもの,知財情報
たい8)。
の不備があっても補塡が可能なもの等をスタッフの
目利きにより選別していくと,企業へ提供可能な情
7.2 ライフサイエンス知財ファンド(LSIP)
報はかなり絞られる。2010年3月から開始した企業へ
L S I P(エルシップ,L i f e - S c i e n c e I n t e l l e c t u a l
の情報提供では,これまで(2011年6月現在)129の
Property Platform Fundの略)は,2010年8月6日に設
案件を提供した。企業は,関心のある情報について
立されたわが国初の知財ファンドで,官民出資ファ
はさらなる詳細情報の入手をI P S Nに求める。その後
ンドの株式会社産業革新機構(I N C J)と民間企業の
うまくいけば情報提供機関との面談・マッチングへ
出資を受け,IPSNがその運営を行っている。LSIPは,
と進んでいく。I P S Nが大学等から入手した莫大な研
I N C Jの出資をベースに,ライフサイエンス分野の知
究/知財情報の中から,どの情報を選別して企業へ
的財産(特許権等)のうち,製薬企業が強い興味を
提供するかは専門スタッフの力量による。IPSNでは,
示すと考えられたバイオマーカー,E S細胞/幹細胞,
企業に有用な研究シーズを識別できる「目利き力」,
がん,アルツハイマーの4領域を対象として,大学・
および事業化を見据えた知的財産戦略を立案・実践
公的研究機関等で有効活用されていないようなもの
できる「企画力」が専門スタッフに要求される必須
を購入し,それらを集約し,利用しやすいように価
の能力である。
値を高めた上で,産業に広くライセンスすることに
21世紀に入り新薬のシーズの枯渇にあえぐ製薬業
より,これらの知的財産による革新的な技術の実用
界においては,すべてを自社技術でまかなうクロー
化の実現や,これらの知的財産を活用するベンチャー
ズドイノベーションから,アイデアや技術をライセ
創出の原動力とすることでライフサイエンス産業の
ンスイン(導入)・ライセンスアウト(導出)する
発展をもたらすことを目的としている。
などの戦略に基づき効果的に活用するオープンイノ
わが国では,これまで大学が生み出した特許の活
ベーションへの期待が高まっている。欧米メガファー
用については,各大学に設置されているTLO,または
マの創薬パイプラインは,研究初期から前臨床段階
大学内の知的財産本部を中心とする技術移転組織で
まで,社外ベンチャーあるいはアカデミアの創薬シー
行われてきていたが,このシステムが必ずしも期待
ズに基づくものが6割以上を占めているのに対し,日
どおりに機能していないと指摘されている。その原
本企業のそれは4割に届かず,欧米に比べて日本企業
因についてはさまざまな分析が行われており,産業
のオープンイノベーション化が遅れていることが示
の側からは「特許のライセンスを受ける企業の側は
唆されている7)。
ある程度まとまった知的財産群のライセンスを希望
今後は国際競争力を強化するためにも研究の初期
しているのに対し,各大学がバラバラに特許を取得
段階から大学等のアカデミア,ベンチャー企業,他
しているため,企業の望むような形でのマーケティ
の企業研究所あるいはTLO等と積極的にネットワーク
ングが行えていない」,「大学の特許は研究目的から
を組んで遂行することが必要であり,例えばI P S Nの
の派生という形で取得されているため,バックアッ
ような媒介ネットワークを通じて,大学等アカデミ
プするためのデータが不十分で,特許としての広が
アあるいはベンチャーからのシーズ探しに乗り出す
りも狭く,企業の望むような「権利範囲が広く,かつ,
べきである。なお,I P S Nではホームページ上に大学
強固なもの」とはなっておらず,知的財産としての
383
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価値に問題がある」など幾つかの問題点が指摘され
8. 終わりに:日本の未来へ
ている。公的研究機関の特許もこれと同様の問題を
抱えていると指摘されており,さらに,ベンチャー
本稿では,ライフサイエンス分野における企業戦
などの企業にも,同様の問題を抱えているため事業
略を知財情報の活用という観点から述べた。知財情
化に結びつかない特許が眠っている可能性があると
報の活用が重要であるということは上述の通りであ
も指摘されている。
るが,その知財情報を活用する人財を育成・確保す
L S I Pは,このような問題点を解決するため,まず,
ることも忘れてはならない。ライフサイエンス分野,
前述の4領域について,原則として大学のほか,科
とりわけ製薬においては,米・欧に比較して,企業
学技術振興機構(J S T)をはじめとする公的研究機関
がグローバル化を目指した戦略を展開した歴史が浅
から,また必要に応じて,ベンチャー企業を含む企
いことから,日本国内でグローバル戦略を展開でき
業等から,一定の価値はあるものの活用されていな
る人財が決定的に不足している。この現状を打開す
いような知的財産を購入し,それらを集約するほか,
るためには,グローバルな経営感覚および知的財産
必要に応じて知的財産を強化するための補足研究の
戦略について,実際の修羅場を潜ってきた産業界の
支援,J S Tの大学等に対する外国出願支援を補完する
プロをオールジャパン体制で結集・活用し,次代を
形で出願国を拡大することにより産業が利用しやす
担う人たちに対してOJTによる指導を一定期間受けさ
い形での権利化を目指すことの支援,あるいは集約
せ,実践的な体験を経て必要な人財を育成・確保し
した知的財産の補強のための周辺特許の取得などを
ていくことが必要かつ急務である。I P S Nでは試験的
行っている。LSIPは,このような活動により取得した
な取り組みとして2011年9月から国立大学の知的財産
知的財産を,製薬企業等がライセンスを受けること
担当者を1名,また2012年4月から他の国立大学の弁
を希望するような魅力ある「知的財産群」とするこ
理士資格者を受け入れることにしている。研修者に
とを狙っている。
は,
企業に有用な研究シーズを識別できる「目利き力」
,
先端技術分野でのオープンイノベーションのため
事業化(社会・企業ニーズ)を見据えた知的財産戦略
の受け皿の構築は,日本の技術立国のための重要な
を立案・実践できる「企画力」
,医薬・ライフサイエ
課題と考えられる。I N C Jは,産業技術総合研究所,
ンス分野に特化した知識・技術を有する「知力」
,世
理化学研究所,J S T等との連携強化を推進しており,
界市場で戦える戦略・戦術を有する「グローバル力」
ライフサイエンス分野においては,基礎的・基盤的
そして大学と企業を結ぶコーディネータ的役割「コ
研究におけるオールジャパン体制のオープンイノ
ミュニケーション力」を身につけていただき,日本の
ベーション構想が,LSIPを契機に具現化しつつあると
将来を担う知財人財となってもらいたい(表1)
。
いえる。
最後に,日本経済が低迷する中で起こった東日本
大震災について少し述べたい。
東日本大震災はわが国に未曾有の被害をもたらし
表1 ライフサイエンス分野で必要とされる知財人財とは?
表1 ライフサイエンス分野で必要とされる知財人財とは?
◆企業に有用な研究シーズを識別できる(目利き力)
◆事業化(社会・企業ニーズ)を見据えた知財戦略を立案・実践できる(企画力)
◆医薬・ライフサイエンス分野に特化した知識・技術を有する(知力)
◆世界市場で戦える戦略・戦術を有する(グローバル力)
◆大学と企業を結ぶコーディネータ的役割(コミュニケーション力)
384
知財情報を活用した企業戦略
たが,われわれは被災地の復興から,さらには,そ
化し,グローバルに通用する事業を創造していくこ
の先の新しい創生を目指していかなければならな
とが重要であると考える。そして,産学官が一体と
い。復興から創生への道は,長く困難なものである
なって再生に向けた具体的な事業構想を打ちたてる
かもしれないが,その道を乗り越えるために開発さ
こと,その構想には,実行可能な戦略的な知財マネ
れるさまざまな技術は,これまでの技術と相まって
ジメントを支える知財システムが構築されているこ
新生日本の貴重な財産となるであろう。これらの技
とが重要であると考える。
術は活用することを見据えて適正に知財として権利
本文の注
注1) ファルマ・フューチャーのランキングを元に,厚生労働省において編集(2006年)
。
注2) ここでは,実施料収入のような長期的収入を基本収益,知的財産権・訴訟のような短期的収入を成果
収益としている。
参考文献
1) 内閣府. 世界経済の潮流2011年Ⅰ 歴史的転換期にある世界経済:「全球一体化」と新興国のプレゼン
ス拡大. 2011, p. 92-94. http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh11-01/pdf/s1-11-1-4.pdf (accessed
2011-08-23).
2) 内閣府. “第2章第1節3.アジア域内内需の拡大の余地”. 世界経済の潮流2010年Ⅰ アジアがけん引する景
気回復とギリシャ財政危機のコンテイジョン. 2010. http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh10-01/
pdf/s1-10-2-1.pdf, (accessed 2011-08-23).
3) IMS World Review Executive 2010. IMS. 2010, 210p.
4) 日本製薬工業協会. DATA BOOK 2011. 2011, p. 39, 75.
5) “特許改革法案2011(米国発明法案),上院本会議を通過”. JETRO. http://www.jetro.go.jp/world/n_
america/us/ip/news/pdf/110309.pdf, (accessed 2011-08-23).
6) “特許改革法案(リーヒ・スミス米国発明法案)
,下院本会議を通過”. JETRO. http://www.jetro.go.jp/
world/n_america/us/ip/news/pdf/110624.pdf, (accessed 2011-08-23).
7) 矢吹博隆. 製薬企業ビジネスモデルの変革(上)研究開発モデルの革新. 国際医薬品情報. 2011, no. 940, p.
22-27.
8) 知的財産戦略ネットワーク. “研究情報リスト”. 知的財産戦略ネットワーク. h t t p : / / w w w. i p s n . c o . j p /
research/article/index.html, (accessed 2011-08-23).
Author Abstract
In Japan, we believe that Japanese universities and research institutes are very sophisticated and competent
to create innovative inventions or researches such as the first establishment in the world of iPS (induced
Pluripotent Stem) cell invented by Professor Yamanaka, Kyoto University in August 2006. However, we are still
regrettably behind the western countries in the aspect of “creative IP” where a maximized intellectual property
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right brings the activation of industries, though we are proud of the research capabilities in the area of life
science (medicine and medical treatment, etc). To overcome this situation, it has strongly urged Japanese
industry to carry out the business activities for utilizing intellectual property based on research information
and industry-academia-government collaboration through effectively putting our wisdom and power, so that
IPSN/LSIP have been established as new challenging trials in Japan.
Key words
intellectual property strategy, management strategy, industry-academia-government collaboration, IPSN, LSIP,
pharmaceuticals, life science, patent system, open innovation
386
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
図書館情報学の再規定による知識情報学
の展望
A prospect of knowledge informatics through redefinition of library and information
science
石井 啓豊1
ISHII Hirotoyo1
1 筑波大学名誉教授
1 Professor Emeritus, University of Tsukuba
原稿受理(2011-08-23)
情報管理 54(7), 387-399, doi: 10.1241/johokanri.54.387 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.387)
著者抄録
情報環境が激変しているなかで,情報専門家の養成とその基礎となる図書館情報学の発展のあり方は,実務現場にとっ
ても大きな関心事である。本稿の目的は,図書館情報学の本質的なあり方を検討して,その発展的な方向性を明らか
にすることである。米国における新しい潮流を確認した上で,図書館情報学は「社会のあらゆる活動の基盤としての『記
録による知識共有』に関わる,人間の行為と制度と技術を扱う領域」であると規定した。さらに,対象世界を捉える
枠組みとして知識情報空間(モデル)を提示し,図書館情報学の新しい構成を検討した。以上によって,図書館情報
学は「知識情報学」として発展する可能性を持つことを示した。
キーワード
図書館情報学,知識情報学,将来展望,分野定義,対象領域,知識情報空間
1. はじめに
私事で恐縮だが,筑波大学大学院図書館情報メディ
ア研究科での最終講義で,図書館情報学のあり方に
情報環境が激変しているなかで,情報専門家の養
ついて考えたことなどをお話しした。本稿はその一
成とその基礎となる図書館情報学のあり方は,実務
部を見直して書き直したものである。本稿の出発点
の現場にとっても大きな関心事であると思われる。
の1つとなったのは,石井の論考1)で,それは現在の
本稿は図書館や情報管理業務の基礎となるべき領域
筑波大学情報学群知識情報・図書館学類の教育課程2)
としての図書館情報学のあり方について検討したも
の編成における基礎的な考え方の1つになった。
のであり,具体的には,図書館情報学の領域規定と
はじめに,2章で図書館情報学がどのような領域か
対象世界をどのようなフレームによって捉えるか,
について,米国における状況を整理する。次に3章で,
についての意見を提示したものである。
図書館情報学の対象世界に対する基本的な視点を検
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討し,図書館情報学の新しい規定を示す。4章ではこ
イクルを解明する分野への進化を促した。詳細は省
の視点から対象世界把握のフレームとしての知識情
略するが,L I Sは「記録された知識を最終的に入手可
報空間を示し,5章で知識情報空間の構成を示す。以
能でアクセス可能なものとするプロセスと制度のす
上を踏まえて,6章で図書館情報学の性格について議
べてに関わる」と規定している。
論し,図書館情報学を「知識情報学」というべき領
域として展望できるという点について述べる。
(3)利用者指向の規定
1980年代には利用者指向の理論研究が生まれた3)。
なお,本質的と思われる論点と論理はできる限り
I F L Aが出したL I S研究の国際的な動向比較の報告書
提示したが,論拠となる原文献等の参照などはかな
4) で用いられた定義はこの傾向を強く反
(2003年)
り省略し,代わりにレビュー等の文献をあげた。
2. 米国における図書館情報学の規定
映していると思われる。L I Sは「情報探索という見方
から情報過程を捉える分野である。この見方は情報
探索だけに焦点を当てた研究をいうのではなく,こ
の見方によって分野を本質的に構造化することであ
最初に,図書館情報学の主として米国における新
る。L I S研究のターゲットは個人やグループの情報探
しい動向に関与している研究者の報告等を参照しな
索,情報探索行動をもたらす要因と,情報探索を支
がら,図書館情報学がどのように規定されてきたか
援し情報へのアクセスを提供するさまざまな構造・
を以下の6点にまとめた。
制度と条件である」と規定している。
(1)現在の標準的規定
Encyclopedia of Library and Information Science,
Estabrookは,米国における1990年代以降の予算措
3rd ed.のLibrary and Information Science(Estabrook
置が,LIS分野の拡張と他の分野からのLISの研究課題
執筆)の項3)によると,図書館情報学(以下,LISという)
への参入に強いインセンティブを与えることに貢献
は「あらゆる形態の情報の生成,管理,利用に関す
したとしている。その中心はDigital Library Initiative
る学際的領域であり,情報の表現――文明の文献的
(1996年開始)であり,「情報をデジタル形式で収集,
証拠――と,情報にアクセスするための技術と組織
蓄積,組織化する手段の劇的発展と,コミュニケー
に焦点を置いている」ものであり,L I Sの関心の範囲
ションネットワークを通じてユーザフレンドリーな
には「情報表現物(データ,レポート,本,ビデオ,
方法でその情報を探索,検索,処理できるようにす
博物館資料など)とともに,それを人々が入手し,
ること」を目的としていた3)。
役立てることができるようにするための社会的,技
(5)21世紀初頭におけるLIS/IS研究
術的システム,学術コミュニケーションの計量分析
(4)と ほ ぼ 同 時 期 に 米 国 の 一 部 でL I Sの 大 学 院 を
や意思決定における情報の価値,情報を入手し利用
School of Informationに再編する動きが生まれた。教
可能にするための図書館や文書館,博物館などの組
育課程の再編成としては今後どのような展開になる
織,企業や組織内部の情報資源管理など」が含まれ
かはわからないとも指摘されているが3),Durrance5)
る。そして,この領域の大きな特徴は「利用者指向的」
は,日本図書館情報学会の50周年記念の講演で,図
な点だとしている。
書館中心から情報中心へのパラダイムの変化と学際
(2)情報トランスファーモデル
L I Sの初期モデルは,1970年代初期のTa y l o rによる
388
(4)Digital Library
性の増加に伴い,L I Sで行われる研究の新しい枠組み
が生まれてきたことを示唆している。
情報トランスファーモデルである3)。このモデルは図
そして米国内の大学のLIS研究とLIS教育課程のWeb
書館中心の当時の分野から,情報トランスファーサ
サイトに基づき,2000年代初頭でのL I S教員の研究課
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
題を整理した表を示している(表1)。この表はそれ
までの伝統的なL I S領域をすべて含むが,それとは異
表1 21世紀初頭におけるLIS / IS研究の大まかなグループ分け
グループ
研究課題
情報技術
技術の可能性と限界,歴史的側面(さまざまな
情報技術革新を含む),問題点;法律上の問題,
情報技術の影響,情報技術の見極めと選択,
技術における人的要素,インターネットやWeb技
術のような特定の情報技術,サイバー・インフラ
ストラクチャー
情報/知
識(コンテ
ンツ)
情報の本質と価値の定義,情報のライフサイク
ル,出版(電子的なものも含む),物理的・仮想
的,コレクション,情報の経済学,情報および情
報サービスの原価計算と価格付け,付加価値
機能,計量書誌学;ウェブメトリックス
情報シス
テム
情報の蓄積と検索,コンピューター化された情
報システム,利用者志向の情報システム設計,
知識/情報の組織化の手法,システム性能の
向上,検索モデル,データベースとファイルの構
造,コンピューターと人間のインターフェース,エ
キスパートシステム&インテリジェント・エージェ
ント,システムないし情報源の利用研究
人間の情
報行動
情報ニーズ,情報探索および探索プロセス,情
報利用者の特性,情報利用,人間と情報の相
互作用,情報リテラシー,情報利用の効果(成
果),意思決定に及ぼす情報の影響,情報への
アクセスを増大させる通信手段および専門的実
践(サービス開発も含む)
複数の領
域にまた
がる分野
歴史的側面,マネージメントの手法および関心
事,評価の手法および問題点,情報政策,研究
手法
なるカテゴリにまとめている。研究の関心は当時の
情報環境と情報問題を幅広くカバーしており,L I S研
究者は,情報をより効果的に利用できるようアクセ
スを拡大することに関連する問題を,幅広く捉えて
いるとしている。
(6)LIS研究の課題と機会
次に,研究ドメインとしてのL I S研究に関する最近
の議論として,テキサス大学のSchool of Information
(ALA認定のコースを持つ)のDeanであるDillonの議
6)。
論を見よう
D i l l o nの指摘の1つはL I Sが共有の理論的コアを十
分発展させていないことである。そして,D i l l o nは
「L I S研究は,現代のビッグで,重要な情報問題(b i g
questions)を追求し,強固な解答を提供するよう企
てなければならない」として,LISにはどのようなbig
questionsがあるか,あるいは構えるべきかについて,
テキサス大学のSchool of Informationの同僚に尋ねた
結果を次の3つの問題に集約して示している。
注:Durranceの翻訳版5)から表の形式だけを変えて引用
( a )情報という用語が有意味に使われている多様な
研究領域(コミュニケーション,生命の維持,
この3つの問題が位置づけられる土台としての,LISに
学習と発見)を関連づける情報の本質的性質は
関する共通のフレーム,言い換えると,なぜこの3つ
何か?
の問題を探求するのかは示されていない。この問題
(b)情報提供モデル(蓄積,検索,管理など)から,
情報が文化,組織,あるいは個人を育む方法を
見つけ,構成するために用いるモデルにどう
やって移行するか?
設定にはL I Sが社会的な意義と重要性を獲得するため
の研究戦略の側面も考慮されていると思われる。
ここで紹介したものの中では,(1)はL I Sの動向を比
較的中立的に捉えており,(3)はL I Sに定着した利用者
( c )世界の大半がわれわれとオンラインでつながる
の視点を中核として持ち込んでいる。一方,
(4),
(5),
(6)
ように,コンピューターネットワーク基盤にど
は新しい動向を示すものとして取り上げたので,L I S
うすれば建設的に影響できるか?
の伝統的視点とは一線を画しているように思われる。
これらのテーマは個別的な研究課題ではなく,個
以上の動向を見ると,米国では1990年代からL I S
別的な研究課題が引き出されるもとになるものであ
分野の領域としての位置づけが大きく変化しつつあ
り,ポイントは「この種の問題はその分野の期待を
る。そこには,L I Sの研究展開を受けた指向性(利用
設定し,理論的,実際的に,基礎的な情報研究の方
者指向)と,情報技術と情報環境の激変による技術
向性を形成するという点」である。
指向が大きく関わっている。一方,Estabrookも指摘
3つの問題は十分練られていて,興味深い。しかし,
しているように,L I Sの形成から現在までの歴史の中
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で,図書館はL I Sの中核の位置から徐々に遠ざかりつ
つある。
ている。
この定義には,市場や企業などの現代の主要な経
しかし,最新の動きを主導している人たちの意見
済活動自体は記されていないが,「目的と…稀少な手
でも,新しいL I S分野が何であるかについての考え方
段との関係」として現象(人間の行動)への視点が
は明確には述べられていないし,一方,新しい方向
示されている。市場や企業は「人間の行動」の具体
でも常に伝統的領域は包含されている。Estabrookは
的現れの1つではあるが,例えば狩猟採集の時代にも
文献3)の記事の最後で,「L I S分野の展開に関して,
このような「人間の行動」は異なる形で存在し,経
情報とコミュニケーションをどのように定義するか,
済学はどちらも統一的に理解しようとしているから
しゅうれん
LISの各領域が本当に収斂しつつあるかについて,LIS
を創設し確立する歴史を通してずっと議論してきた」
とくくっている。
であろう。
2章に示したE s t a b r o o kによる定義は非常に工夫さ
れており,L I Sに関係する者としては納得できるが,
これらの議論をそのままわが国の状況に当てはめ
それでも経済学の場合と比べると,やや不分明であ
ることはできないが,共感できる点がないとも言い
ると感じられる。視点を明示しているという点では
切れない。分野が置かれている環境は同様であり,
前章の(3)の方が明瞭である。
わが国でもL I Sの領域規定の確立と,理論的基盤の形
成が大きな課題であることは否めない。
3. 図書館情報学の規定
Estabrookの規定でいう「あらゆる形態の情報の生
成,管理,利用」はさまざまな視点から問題領域と
して位置づけることができると思われる。例えば「目
的と稀少な手段との関係としての,人間の行動」の
一部として取り上げると(どのように研究するかは
3.1 対象世界を見る視点
L I Sは何を問題にする学問か,その独自性はどこに
さておき)
,それはLISというよりはむしろ経済学の一
部ではないかという疑問も生じる。
あるかについて検討するには,まずL I Sが解くべき問
情報は幅広くさまざまな分野に関連するので,問
題が潜む世界を明らかにする必要がある。学問分野
題はLIS固有の視点が不明瞭な点であろう。LISの実践
の対象世界は,その分野において体系的に理論的説
世界(図書館や情報管理などの実務の世界)は,
教育,
明あるいは解釈を与えたい出来事(現象)の世界で
学術,生活,職業生活,政治,ビジネス,文化,そ
ある。対象世界は客観的な所与のものではなく,現
のほかあらゆる活動において,情報アクセスを実現
実のどこをどのように捉えて探求の対象とするか(ど
するという役割を担っている。したがって,このよ
のような視点から,何を対象として取り上げるか)
うな人間活動の領域を個別に挙げてみてもL I Sの視点
ということであり,それはその領域の基本概念と基
は特定できない。
本問題をどのように設定するかということに結びつ
く。
L I Sの実践世界が行っているのは情報に関すること
であるが,それは人々が情報によって何かを実現で
例えば,経済学の定義を見てみよう。Coase7)は「現
きるようにするためであろう。L I Sの視点は,情報自
在における経済学の本質についての支配的な見解は,
体ではなく,情報によって人々あるいは社会が実現
ロビンズ(Robbins)の次の定義に示されて」いると
できることに関わると考えられる。
述べて,
「経済学は,目的と,さまざまな用途に使用
することが可能な稀少な手段との関係としての,人
間の行動を研究する科学である」という定義を示し
390
3.2 視点としての知識共有
ところで,根本8)は「図書館が,『人類の蓄積して
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
きた知識』を文献という媒体を通して有効に利用す
識が重要な位置を占めていることを示している。
るための機能を担った機関ないし制度であることは,
これらの点に注目すると,L I S固有の視点は,文献
内外の様々な論者が繰り返し指摘してきたことであ
を通じて人々が知識を表現し,あるいは獲得すると
る」と述べるとともに,「知識の伝達を担うものはな
いう点であって,それは「記録による知識の共有」
にも文献や図書館にかぎられるわけではない」と図
ということではないかと思われる。
書館だけを知識伝達の担い手として単純に規定でき
以下の説明のために,現実世界での知識共有とそ
ないことも指摘している。
れを捉えるフレームを図1に示した。知識と知識共有
L I Sの学問的性格に関連して知識の問題を取り上げ
の性格に関する論点をいくつか取り上げてみよう。
ている例には,Sheraらの社会認識論,Wilsonによる
(1)知識
公共的知識(と間接的知識)と図書館に関連する研
人の生活や仕事,遊び,そのほかあらゆる活動に
究などがある注1)。Buckland9)は,図書館などの情報
おいて知識は活動の基盤となっている。知識が人と
管理組織を支える理論的知識の領域――理論情報学
社会のあらゆる活動の基礎として決定的に重要な役
――を想定し,その領域を「知識の表示に関係」が
割を果たしているという認識から,最近では知識基
あるとして「情報の蓄積と検索,人々のニーズと知
盤社会や知識マネージメントなどが話題になってい
識や記録とも関連する領域」としている。
る。人は,自身の行為,直接的なコミュニケーション,
武者小路10)はさらに踏み込んで,LISが知識の問題
メディア,文献や資料などの記録を介して自身の知
にどのように関わっているかを明らかにするために,
識を変化させ,また他者の知識に働きかけている。
L I S文献における知識の概念・用語法の綿密な調査を
これが図1の「現実の関連世界」である。
行い,そこでの知識概念と用語としての「知識」の
(2)知識の共有
実態について幅広く検討し,L I Sの諸側面において知
現実世界とそれをみるモデル
に関する一般的構図
現実世界を「どのよう
な対象としてみるか」
に関する見方(モデル)
を使って考える
人は科学知識や技術的・道具的な知識,文化的価
知識情報空間(モデル,フレーム)
知識空間
人が持つ知識
(社会的にoccurrent状態)
情報過程
表現・
探索・解釈
情報資源空間
知識の記録
(社会的にdispositional状態)
現実世界を知識情報空間
として捉える
現実の関連世界(生活や仕事などの活動を支える知的活動と情報の世界)
?
!
!
pqr
…
現実世界
人々が生活,仕事,
社会的活動などを行
いつつ、生きている
世界
abc
…
stu
…
def …
!?
!
xyz
…
凡例:
記録を作り,利用する(記録によるコミュニケーション)
直接コミュニケーション
情報資源の維持・管理
レファレンス
塗りつぶした人物は情報専門家 図1 現実世界を概念化した知識情報空間と現実世界の関係
391
情報管理
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2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
値や美的価値などに関する知識,言語の使用に関す
ところで,科学知識の客観性は哲学の重要な主題
る知識を持っている。人は知識のある部分は他の人
の1つである 注3)。今日では科学理論が普遍的な客観
たちも自分と同じように持っていると信じているし,
性を持つとは単純には言い切れないと考えられてい
また他の人が自分の知らない知識を持っていること
る。その場合,知識の共有は科学知識が形成され継
も信じている。知識のある部分は社会の多くの人が
承され,変更されていく動的な過程を前提として考
持っているし,逆に,特定の人しか持たない知識も
えなければならない。
あると信じている。このような状態で知識を持って
いることが知識を共有しているということであるが,
(5)科学におけるコミュニケーション
科学知識の形成と継承,変更の過程には,学会や
人の知識は常に変化しており,したがって,知識の
学術雑誌やそこでの論文査読制度や社会的普及など
共有の状態も動的な状況にある。知識の共有は1台の
の科学コミュニケーションが必須の要素として組み
自動車を共同で所有しているという場面とは本質的
込まれている。ところで,科学知識が客観的,普遍
に異なる。
的なものであれば,科学コミュニケーションの役割
(3)常識的知識
は客観的な知識獲得に至る道具的存在であるが,そ
人は日常的な事物,生活のノウハウ,人物の類型
うでなければ科学コミュニケーション,特に記録に
や役割,社会的なルールや規範,慣習なども知って
よる討議の過程は合意と共有のための重要な過程で
いる。Berger & Luckmann11)は,このような知識を
あり,科学の本質的側面と考えなければならない。
常識的知識(commonsense knowledge)と呼び,
「日
いずれにしろ,科学知識の共有は記録を介したコミュ
常生活の常態的で自明的なルーティーンのなかで私
ニケーションを抜きに考えることはできない注4)。
が他者とともに共有している知識」としている。
知識と知識共有の問題が広範囲にわたる大きな問
人は家庭や地域コミュニティー,職場や組織,多
題であることは上記の点からすぐにわかるが,これ
様な関心に基づく集団,社会的階層,民族や人種,
らの話題の中でL I Sが占めるべき位置は記録に関わる
国家などの,歴史的に構成されてきた多重の枠組み
問題であると考えられる。記録を介した知識共有は,
の中で生きており,さまざまな集団に同時に属しつ
人間社会において文化と文明の発展の基礎を支えて
つ,独自であるとともに社会的に拘束された存在と
きたことは,記録と図書館が存在しない世界を想像
考えられよう。常識的知識はこのような社会に基礎
すればわかる。記録を介した知識共有の本質的あり
を置いて形成され,維持される知識であり,個人の
方を明らかにすることによって知識共有を発展させ
知識は社会的に構成されるという側面を持ち,その
ることはL I Sの独自の視点であり,食料や健康,環境
ようにしてさまざまな程度に知識を共有しあってい
などの問題と同様に社会の基本的な課題であると考
る。そこではコミュニケーションが重要な役割を果
えられる。
たしている。このような議論は主として社会学にお
いてなされてきた注2)。
(4)科学知識
392
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October
L I Sは実践世界を基盤として発展してきたので,記
録を知識共有のための社会的資源と捉える視点を
持っている。さらに,「知識の共有」の過程には情報
自然に関する科学知識も共有されている。伝統的
に関わるコミュニケーションが重要な役割を果たし
には科学は自然界に関する客観的で普遍的な知識を
ていることはいうまでもない。L I Sはこのような視点
獲得する営みと考えられてきた。もしそうであれば,
から「情報の生成,管理,利用」を取り上げている。
知識の共有の中核部分は,この普遍的,客観的な内
このように考えてくると,L I Sは「社会のあらゆる活
容を人が知っているということを意味する。
動の基盤としての『記録による知識共有』に関わる,
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
人間の行為と制度と技術に関する領域」として規定
いう2つの状態が区別されている14)。例えば,私が会
できよう。
議中に何かの解決案を発見したとき,私は現にその
4. LISの対象世界―知識情報空間―
解決案を知っている(occurrent状態)し,一方,会
議中にはまったく意識していないけれども自宅の住
所はもちろん知っていて,必要なときにはいつでも
3.2で示したように,「知識共有」は現実の世界の現
occurrentな状態で意識できる(dispositional状態)
。
象と考えられるが,目の前で観察可能な事象として
このアナロジーを用いて,知識の2つの状態の基
展開しているわけではない。本章では,上記のL I Sの
本的な性格を表すことができる。人が知っている状
規定のもとでその研究対象世界をどのように捉える
態の知識(上記のoccurrent, dispositionalの両状態
かについて検討したい。
を含む)は社会や個人がすぐに利用できる状態,す
図1には,現実世界から,知識の2つの状態を識別
なわち「社会的にoccurrent状態」にある。一方,物
することによって,思考の枠組みとして仮構したフ
理的に記録され,保持されている状態にしかない知
レーム(思考の枠組み,モデル。以下ではフレーム
識を社会や個人はすぐには利用できない。記録か
という)を示してある。図の左側に示してあるのは,
ら誰かが知識として得ることで,初めて社会的に利
現実世界をどのように捉えるか,ということに関す
用 で き る 状 態 に な る。 こ れ は, い わ ば「 社 会 的 に
る一般的構図である。この構図によって知識共有の
dispositional状態」にあると例えることができよう(こ
現実世界とそれを捉えたフレームを右側に示してあ
こでは,本来の意味とは異なるので,意味を明確に
る。右側上部にはLISの対象世界のフレームを示した。
するために,
「社会的に」を付加している)
。
これは1つの社会を対象として取り上げた場合の単純
知識が社会のあらゆる活動の基盤であるという見
化したフレームである。社会は複合的,複層的に捉
方は,知識を社会の資源として位置づけるというこ
えられるので,関心と目的に応じてその都度対象世
とである。この点からすると,このフレームは「世
界を同定する必要がある。
界を人的資源による知識の空間(以下,知識空間と
このフレームでは知識は,現に人が知っている状
いう)と記録という情報資源の空間(以下,情報資
態にある知識と,物理的に記録され,保持され,表
源空間という)に分割し,両者の相互作用を通じて
現と解釈を通じて人々の持つ知識に遷移できる状態
資源としての社会の知識が動的に保持されている」
の知識(記録)という2つの状態で存在するとしてい
と見ていることになる。
る。平たく言えば,生きた知識と記録された知識と
いうわけである。
知識とそれに関わる情報の世界という意味で,こ
のフレーム全体を「知識情報空間」と呼ぶことがで
2つの状態は,人と記録の相互作用によって結合し
きよう。これは,L I Sの研究対象を見るフレームとし
ている。この相互作用は,記録の生成(表現),探索,
て考えたものなので,知識情報空間がそのまま社会
解釈という少なくとも3つの側面を含むと考えられ
的に実在しているのではない。このような視点とフ
る。
レームによって対象世界を見ることがL I Sの独自性と
ところで,個人の知識の状態についてo c c u r r e n t
knowledge(人が現に意識している状態にある知識)
と,dispositional knowledge(ある時点では意識し
価値の源を構成するのではないかという提案である。
5. 知識情報空間の構成
ていないけれども,人が確かに知っていて,必要な
ときには意識することができる状態にある知識)と
図2に知識情報空間に関わる現実世界の諸側面(あ
393
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2011
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慣習や日常生活
による生活知識
・常識の形成
人々の相互作用機会の
構造化(学会,会議,
議会,集会等)
メディアによ
る現実の社会
的構成
社会の多様性と
しての知識の構成
情報リテ
ラシー
知識空間
人が持つ知識
(社会的にoccurrent状態)
・・・
科学の制度化によ
る知識の構造化
情報探索過程
の構成と情報
獲得
表現・解釈・
探索
著述・
編集
テクニカル
コミュニケ
ーション
データベー
スと情報検
索の仕組み
外テキスト
の解析によ
る知識発見
ドキュメント
集合の計量的
特性
情報資源空間
知識の記録
(社会的にdispositional状態)
情報過程
メディアと
情報の影響
ディスコース
コミュニティ
の形成
ネット空間のシステ
ムによるドキュメン
トの関係付けと構造化
情報ニーズと
情報に基づく
行為,意思決定
教育制度によ
る知識の選択
と学びの制御
知識を持つ人々の組織化
(大学ファカルティ,経
営組織,専門職業等)
・・・
情報過程
の認知科
学
ドキュメントのメ
タレベルの構造化と
書誌コントロール
ドキュメントの
生成と流通機構
ドキュメントの社会的な
構造化の制度(図書館,
文書館,博物館等)
ドキュメント
の文化的構成
人々の活動の記号的
事物(建築,機械,
景観など)の構成
・・・
ドキュメントに関わる
所有・権利等の規範
図2 知識情報空間の諸側面(問題領域)の例
るいは問題領域)の例を(思いつく範囲で)示した。
る。
5.1 知識空間
5.2 情報資源空間
知識空間において,知識の内容は直接的なコミュ
情報資源空間は,知識が表現された記録からなる。
ニケーションを介して,あるいは,情報資源空間を
厳密には,記録に含まれる表現そのもの(本稿では
介して動的に変化している。ところが,知識は人が
これを外テキスト注5)ということにする)の集合であ
知ることによって初めてそれとわかり,一人の人が
る。外テキストの内容は人による解釈によってしか
すべてのことを知ることもできない。社会がどのよ
わからない。解釈は人が置かれた状況と意図によっ
うな知識を保持しているかは,人によって理解が異
て異なりうるから,外テキストがどのような知識を
ならざるを得ない。
記録しているかを客観的に知ることはできない。し
すなわち,知識空間の総体は社会が直接利用でき
たがって,情報資源空間がどのような知識を記録し
る状態にある知識の総体ということができるとして
ているか(すなわち社会が持つ情報資源の内容の総
も,誰もその総体を知らない。しかし,知識空間に
体)を知ることはできない。
対応する現実世界を構成する実体はその社会の構成
しかし,情報資源空間に対応する現実世界を構成
メンバーなので,知識空間の諸側面はそれを有する
する実体は,外テキストを保持するドキュメントであ
人を基礎として把握できると考えられる。例えば,
る。ドキュメントは個々の文献や資料,文書,データ
組織や制度(さまざまな機関と内部組織,知識に関
ベースなどであるが,知識の記録という意味では,よ
する専業的組織,組織の人的資源管理,人的ネット
り広い範囲で捉える必要がある。OtletやBrietによる
ワーク等々)は,積極的に社会制度として知識の状
広い捉え方によれば,例えば動物園のゾウや保存され
態を構造化しているといえる。さらに,知識マネー
た町並みもドキュメントである注6)。情報資源空間は,
ジメントは組織内部の知識空間の組織化と活用を目
具体的にはドキュメントを単位として把握できると
指していると解することもできる。知識空間の諸側
考えられる。
面を把握する他の方法には,コミュニケーションに
よる相互作用に注目する方法などもあると考えられ
394
例えば,図書館や文書館,博物館などの制度は,
積極的に社会制度として,その社会の潜在的能力と
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
して持つべきドキュメントの集合を構造化してい
は知識空間の知識を記録として情報資源空間に投入
る。学校図書館の蔵書は学校教育の考え方や意図を
する過程であり,逆に,後者は情報資源空間から探
反映した資料によって児童・生徒が学ぶ知識の世界
索によって外テキストを取り出し,その解釈によっ
を構造化しており,それが(知識空間に対応する実
て知識空間が変化する過程なので,両者を分割して
体としての)児童・生徒の知識の構成に関与すると
情報資源空間の両側に配置することができる。図3の
見ることができる。文献やネットワーク上のWebペー
上段に,こうして分解した知識情報空間の図を示し,
ジに示される外テキストの多様性はどのような構造
下段には,一般に知られている,情報に関わるコミュ
を持つか,と考えることもできる。
ニケーションの過程を示した。
情報資源空間の諸側面を把握するもう1つの方法
メッセージの解釈を通じて情報が獲得され,受け
は,ドキュメント間の関係に注目するものであろう。
手の知識の変化をもたらすと考えると,上段と下段
書誌コントロールは情報資源空間の内部をドキュメ
は,
実は同じ構図であることがわかる。両者の相違は,
ントの関係性によって構造化することに関係してい
知識情報空間が社会の知識の総体を対象として概念
ると考えられるし,また,計量情報学による論文間
化しているのに対して,後者は情報に関わるコミュ
の共引用関係の分析は,情報資源空間の内部構造を
ニケーションの個々の過程を概念化していることで
リサーチフロントに注目して分析していると考える
ある。この点から,知識空間と情報資源空間のイン
ことができる。情報検索システムやデータベースシ
ターフェースとして情報過程が介在しているという
ステムは,情報資源の検索と利用のための仕組みと
ことができる。
して,ドキュメントを関係づけ,構造化している。
情報過程は人とドキュメント(外テキストを持つ)
との関係において生じる現象なので,両者の関係性
5.3 情報に関わるコミュニケーション過程
のもとに把握する必要がある。しかも,人は社会的
この対象世界において情報に関わるコミュニケー
背景と状況の中での行為として知識を表現し,探索
ション過程はどのように位置づけることができるだ
し,情報を獲得するので,人の意識のあり方が問題
ろうか。情報の定義の議論は他の文献(最近では,
の焦点である。一方,ドキュメントも人と組織と技
例えば緑川信之17))に譲って,ここでは単純な方法
術を含むさまざまな仕組みや社会的制度のもとで成
で両者の関係を示そう。
立している。図2に情報過程の諸側面と考えられるも
すでに述べたように,図1に示した知識情報空間
の知識空間と情報資源空間の間には,知識の「表現」
のを示してあるが,それは情報過程の多様な側面の
一部に過ぎない。
と「探索,解釈」が介在している。前者の「表現」
知識情報空間(知識空間を表現側と探索・解釈側に分解したもの)
知識空間
人々が持つ知識
情報資源空間
知識の記録
表現
知識空間
人々が持つ知識
探索・解釈
情報に関わるコミュニケーションのプロセス
送り手によるメッセージの
表現と発信
メッセージ
ドキュメントに担われた
外テキスト
受け手によるメッセージの
探索と解釈による情報の獲得
図3 情報に関わるコミュニケーションプロセスと知識情報空間の関係
395
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6. 知識情報学への展望
行為のあり方,その社会との関係性を理解しなけれ
ばならない(A1)。人文学・社会科学の諸分野がいわ
L I Sは知識情報空間として捉えた現実世界に生じて
ば縦割りにしてきた現象を,記録の共有という焦点
いる諸現象の記述,現象の説明としての理論の探求,
によって総合的に理解し,さらには認知的メカニズ
技術の構築,それらの実践世界と社会への応用を目
ムとしても理解したい。
指す領域である。ここでは,社会にとっての情報資
また,人間社会の必然的な発展として,図書館や
源を文献に限定する必要はない。例えば,組織の文
情報に関する社会的仕組みの起源と機能,知識と情
書や記録,博物館資料,視聴覚資料,特許情報,技
報の共有の社会的メカニズムと文化を理解したい
術文書,データ,データベース,W e bサイト,その
ほかの幅広い情報資源を視野に入れた領域として構
想できよう。
(A2)
。
さらに,L I Sの中核にある技術の基礎を明らかにし
たい(A3)。そこでは,人がある時点での情報資源の
ところで,図2は知識情報空間として切り取られた
部分的空間を踏まえつつ知識を表現し,外テキスト
現実世界の諸側面の例示であるが,それは取りも直
を構成していく過程と,人が情報資源空間を探索し,
さず,L I Sが構えるべき個別の問題領域である。そこ
外テキストの解釈から知識を変化させていく過程に
には3タイプのものが混在している。すなわち,人々
働きかける技術的基礎を形成したいし,また情報資
が記録により知識を共有しているという側面(共有
源空間を現実に実現する技術的基礎を発展させたい。
の現象)と,記録による知識共有を支える仕組みが
L I Sの中核にある専門知識と技術は主としてB1 ~
社会に存在するという側面(社会的仕組み),そして,
B3に関するものである。この領域をさらに深化させ
この両側面がさまざまな技術によって実現している
て,激変していく技術と社会環境に適応しなければ
という側面(技術)である。社会的仕組みは,例え
ならない。
ば図書館やネットワークという現象を問題とする領
域である。
L I Sは実践世界を持ち,どちらかというとB1 ~ B3
の応用的領域を扱ってきた。そのため,既存の学術
この区分と基礎-応用の区分を組み合わせると,
分野の区分から見れば学際的,総合的であり,特に
図4に示したL I Sの分野の構成が得られる。L I Sの基礎
基礎部門を他の分野に依存する傾向があると感じら
として,記録によって知識を共有する人々の意識と
れる。
しかし,図4のように見ると,まだ理論的な実績は
あまりないが,独自の解明すべき現象と基礎部門と
応用部門を持つ分野と考えることができる。そう考
知識情報学
基礎部門
応用部門
記録による知識共有に関する
記録による知識共有を実現
するための
現象の解明(心理的,
A1
社会的,文化的)
B1 人的支援の方法
A2 社会的仕組みの解明
B2
A3 知識情報技術の解明
B3 応用技術
制度の設計と経営の
方法
えると,他の分野の成果を参照しつつも,それだけ
では不足であって,それを足場にして,独自の理論
的基盤を構成し,解明すべき課題に対する解答を発
見しなければならない。実際,LISは図4の諸課題につ
いてすでに多くの成果をあげてきている。
図書館は知識共有のための社会的制度として,主
として紙と本という技術的制約のもとで成立してき
た。図書館学とL I Sはそこでの行為と制度と技術に関
図4 知識情報学の構成
396
して図4の問題を扱ってきたといえよう。そこに見い
図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
だされた本質的な内容は,新しい技術的環境とそれ
(1)図書館情報学は「社会のあらゆる活動の基盤と
に影響された社会的環境のもとでも有効性を持つで
しての『記録による知識共有』に関わる,人間の行
あろう。そのように考えると,LISの伝統的な世界は,
為と制度と技術に関する領域」である。
新たな知識共有のあり方が展開しつつある世界と地
続きの世界である。
ところで,近代ヨーロッパにおける社会科学の誕
(2) L I Sの対象世界は,人的資源による知識の空間
(知識空間)と情報資源としての記録の空間(情報資
源空間)と両者の相互作用(情報過程)からなる知
生と制度化,変遷には,社会的変化(資本主義の勃
識情報空間というフレーム(思考の枠組み,モデル)
興,政治的,経済的構造の変化など)が関係してい
によって規定できる。
るとされる18)。そうであれば,現在の学術の諸分野
(3)図書館情報学は知識情報空間として捉えた現実
の構成が普遍的・永続的なものというわけでもない。
世界に生じている諸現象の記述,現象の説明として
情報社会とか知識基盤社会などと呼ばれる現在の地
の理論の探求,技術の構築,それらの実践世界と社
殻変動は,L I Sにも新たな展開の好機を提供している
会への応用を目指す領域である。実際,これまでも
ということである。
それに関する成果をあげてきた。
そこで,もし,L I Sの分野の自然な発展として,こ
れまでに述べたようなフレームを構えることができ,
(4)このような規定と視点から対象世界を見ること
がLISの分野としての独自性と存在意義の源泉である。
それがL I Sとその実践世界にとって生産的なものであ
(5)以上の点に基づくと,図書館情報学は,これま
るならば,L I Sは自らを新しく再規定して,図書館情
での伝統と発展を踏まえて,情報環境の変化に対応
報学という世界から,知識情報学というべき世界に
しつつ,社会にとって基本的な意義のある視点のも
発展するのがよいであろう。
とで,より広い現象を対象とする分野ということに
L I Sの現段階では,基礎的領域での理論化の努力と
ともに,その出自から考えて目的指向の総合科学と
なる。
(6)この対象世界は知識と情報資源の世界であって,
いう位置づけによって,社会的な存在意義を強化す
図書館情報学は自らを新しく再規定して,知識情報
ることが望ましいとも考えられるが,そのためには
学というべき世界に発展するのがよいと考えられる。
L I S研究の位置づけと意義を社会に説明できなければ
ならない。L I S研究者と大学・大学院教育への期待は
謝辞
大きいし,実践現場の努力とそこからの問題提起が
本稿の元となった着想と論理について,これまで
われわれの分野の展開に大きく貢献することは疑い
図書館情報大学,筑波大学の先輩,同僚諸氏,授業
ない。
やゼミの学生の皆さんから貴重な示唆や教示を数多
7. 結論
くいただきました。改めてお礼を申し上げます。また,
本稿の原稿に助言をくださった筑波大学の長谷川秀
彦教授,宇陀則彦准教授,大庭一郎講師に感謝しま
図書館情報学の領域規定と対象世界規定を検討し
た結果,以下のような結果を得た。
す。最後ですが,本稿をまとめる機会を与えてくだ
さった
『情報管理』
編集委員会にお礼を申し上げます。
397
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本文の注
注1) 根本彰は書誌コントロールという視点を基礎としつつ,これらの点を論じている。文献8) p . 33-35,
90-91を参照。
注2) 例えば文献11),12)を参照。
注3) 哲学の視点からは,例えば文献13)が参考になる。
注4) このような考え方の1つとしてフッサールの議論がある。野家啓一(文献13) p. 315-325)は「フッサー
ルは幾何学を取り上げて,言語共同体において理解され,受け入れられることによって間主観的客観
性を獲得し,歴史的に形成された言語共同体における文書による伝承を通じて理解され,受け入れら
れることによって歴史的客観性を獲得すると論じている」と説明している(なお,原典では経験科学
も同様と捉えているように思われる)
。
注5) 外テキストは本稿の造語である。表現が物理的実体として記録されたもの(例えば紙の上のシミ)を
指す。O C Rによる文字認識は,紙の上のシミが存在し,ある記号表現として特定できるという考え方
を前提としている。これに対して,物理的な実体の有無はともかくとして,私が記号表現として知覚
し,意識に生じた内容(表象)として表現を規定する考え方もある(いわば,内テキストである)
。
この区別はLISにおける情報技術によるアプローチと意味解釈的なアプローチの間での方法論的ギャッ
プ(本質的なギャップではなく,問題に依存したアプローチの相違と解するのがよいと思うが)に関
係していると考えられる。文献15)を参照。
注6) 文献16)がOtletやBrietによる捉え方も含めてレビューしている。
参考文献
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大学大学院図書館情報メディア研究科編.筑波大学大学院図書館情報メディア研究科, 2005, p. 28-40.
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the Sixth International Conference on Conceptions of Library and Information Science “Featuring the
Future” . Boras, Sweden, 2007-08. Information Research. 2007, vol. 12. no. 4. http://informationr.net/ir/124/colis/colis03.html, (accessed 2011-08-25).
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9) バックランド, M. K. 図書館・情報サービスの理論. 高山正也訳. 勁草書房, 1990, p. 28-29.
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図書館情報学の再規定による知識情報学の展望
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2004, no. 52, p. 1-42.
11) バーガー , ピーター・L.; ルックマン, トーマス. 現実の社会的構成:知識社会学論考. 山口節郎訳. 新曜社,
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15) Chandler, Daniel. Semiotic for beginners : Signs. http://www.aber.ac.uk/media/Documents/S4B/sem02.
html, (accessed 2011-08-25).
16) Lund, Niels Windfeld. "Chapter 9: Document Theory". Annual Review of Information Science and
Technology. American Society for Information Science & Technology. 2009, vol. 43, p. 9.1-9.55.
17) 緑川信之.「情報」概念の再考. Library and Information Science. 2006, no. 56, p. 23-42.
18) ウォーラーステイン, イマニュエル; グルベンキアン委員会. 社会科学をひらく. 山田鋭夫訳. 藤原書店,
1996, 212p.
Author Abstract
Directions of future development of library and information science (LIS) and higher education of information
professionals are of great concern to information practitioners and librarians under the drastic change in
information environment. The purpose of this paper is to examine the object of LIS study and to reconstruct
the definition of LIS so as to get a clear view of a future development of the field. After examining a new
stream of LIS in the United States, LIS was defined as a field on human actions, social institutions, and
technologies which relate to ‘sharing knowledge through records in a society’ , which is fundamental to
all kinds of activities in the society. A ‘knowledge and information space’ model was proposed to frame the
object of LIS study. The intellectual structure of the field was also shown. Thus LIS has possibility and potential
ability to develop as a newly restructured field of ‘knowledge informatics’.
Key words
library and information science, knowledge informatics, future prospect, definition of study, object of study,
knowledge and information space
399
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企業等における電子ジャーナル等の利用
動向調査
A follow-up survey on e-journal usage among companies and the academia in Japan
安部 耕造1 矢口 学2 嶋瀬 俊太郎2
ABE Kozo1; YAGUCHI Manabu2; SHIMASE Syuntaro2
1 独立行政法人科学技術振興機構 情報企画部(〒102-0081 東京都千代田区四番町5-3)Tel : 03-5214-8402 E-mail : [email protected]
2 独立行政法人科学技術振興機構 情報提供部(〒102-0081 東京都千代田区四番町5-3)
1 Department of Information Planning, Japan Science and Technology Agency (5-3 Yonban-cho Chiyoda-ku, Tokyo 102-0081)
2 Department of Service, Japan Science and Technology Agency (5-3 Yonban-cho Chiyoda-ku, Tokyo 102-0081)
原稿受理(2011-08-11)
情報管理 54(7), 400-405, doi: 10.1241/johokanri.54.400 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.400)
著者抄録
科学技術振興機構(J S T)は,2008 年 12 月に行った調査に引き続き,企業における電子ジャーナルの導入等に関する
アンケート調査を 2011 年 2 月から 3 月にかけて実施し,企業等に所属する J D r e a m Ⅱ利用者 507 名から回答を得た。
その結果,企業での電子ジャーナル導入状況は前回の調査から若干の進展が見られるものの,いまだ低い水準にとど
まっていることが明らかになった。
キーワード
電子ジャーナル,価格高騰,企業,外国誌,実態調査,アンケート,利用調査
1. はじめに
誌高騰問題への対応については,個別の事例報告は
あるものの2),2008年の調査の他にまとまった調査
科学技術振興機構(J S T)では,わが国の科学技術
が行われていなかった。一方で,外国誌の価格につ
情報流通の中枢的機関として,大学や研究機関に限
いては,恒常的にその高騰化が進んでおり3),いわゆ
らず国内の科学技術情報の流通状況を把握するため
るリーマンショックを契機とした景気低迷の長期化
に,2008年12月に国内の企業等を対象にアンケート
や継続的な円高傾向等の環境変化が起きていること
による動向調査を行った
1)
。その結果,企業での電子
ジャーナルの普及は進んでおらず,また外国誌の高
企業等の電子ジャーナルや外国誌の利用動向調査を
騰問題が大学だけでなく企業にも深刻な影響を及ぼ
実施した。その結果について報告する。
している状況が明らかとなった。
国内の企業における電子ジャーナルの導入や外国
400
も踏まえ,J S Tでは2011年2月から3月にかけて再度,
企業等における電子ジャーナル等の利用動向調査
2. 調査方法
2008年の調査と同様の層を対象として,J S Tが提供
する文献情報提供サービス「JDreamⅡ」の利用者と
して,JDreamⅡ電子版ニュースに登録されている約
7,000のメールアドレスに対しアンケート協力依頼の
管理・経営
4%
品質管理
3%
営業
2%
その他
13%
研究・開発
36%
生産技術・
製造技術
4%
企画・マー
ケティング
4%
メールを送付し,W e b上に設けたアンケートに回答
していただいたく形を取った。教育機関以外の機関
(以下「企業等」
)に所属する方507人からの回答が得
られたほか,大学を中心とした教育機関(以下「大
知財
16%
図書館・情報
18%
図2 回答者従事業務(回答総数507)
学等」
)所属者79人からも回答を得ている。以下,特
に断りのない限り企業等から得られた回答結果につ
3.2 電子ジャーナルの導入状況
いて報告する。
3.2.1 電子ジャーナル導入の有無
所属する機関において電子ジャーナルを導入して
3. 調査結果
いるとの回答は32.5%であり,2008年の調査時の導
入率28.8%から若干増加している(図3)
。一方で大
3.1 回答者概況
学等では79人のうち68人(86.1%)が電子ジャーナ
回答者の所属組織は,製造業を中心とした企業が
76%,その他公的機関や個人等が24%であった(図
ルを導入していると回答しており,大学等に比する
と企業ではいまだ低い水準にとどまっている。
1)
。また従事する業務としては,研究・開発,図書館・
電子ジャーナルを「導入していない」とした342人
情報関係,知的財産関係が7割を占めており,2008年
に対してその理由を尋ねたところ,2008年調査時と
調査時とほぼ同様の構成となっている(図2)。
同じく予算上の困難を挙げる声が多かった(表1)
。
また,
「その他」を選んだ回答者69人のうち43人は「電
子ジャーナルの必要性がない」旨の回答であった。
3.2.2 電子ジャーナルの占める割合
その他
9%
電子ジャーナルを「導入している」と回答した165
国公立機関
8%
人に対して,購入している資料全体に占める電子
ジャーナルの割合を尋ねたところ,「わからない」と
医療・福祉
7%
農林水産
回答した28人を除く137人のうち「7 ~ 9割程度」ま
1%
サービス業
7%
卸売・小
売・不動産
2%
電気・ガス・
水道・情報・
運輸
3%
製造業
57%
鉱業・建設業
6%
図1 回答者所属機関(回答総数507)
導入している
28.8%
導入している
32.5%
導入して
いない
67.5%
導入して
いな い
71.2%
2008年(回答総数669)
2011年(回答総数507)
図3 企業等における電子ジャーナル導入割合
401
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表1 電子ジャーナルを導入しない理由(複数選択可)
2008年
選択肢
度数
冊子体の必要性もあり,結果的に予
算的に困難であるから
137人
サービスの運用方法が明確ではなく,
導入に踏み切れない
55人
パッケージ契約などでは希望していな
い資料も混在するため
32人
その他
わからない
248人
全体
476人
2011年
割合
度数
29%
55人
7%
69人
52%
20%
113人
33%
342人
2008年
企業等
大学等
度数
割合
度数
およそ1割以下
34人
25%
27人
20%
およそ1~3割程度
37人
27%
38人
半分(4~6割)程度
28人
20%
26人
7~9割程度
33人
24%
43人
全て(10割)
全体
割合
度数
割合
3人
7%
28%
9人
20%
19%
11人
24%
31%
22人
49%
6人
4%
3人
2%
0人
-
138人
100%
137人
100%
45人
100%
割合
21人
16%
2
21人
9%
10人
7%
3
23人
10%
11人
8%
4~10
62人
26%
28人
21%
11~20
29人
12%
15人
11%
21~50
43人
18%
23人
17%
51~100
23人
10%
5人
4%
101~300
9人
4%
8人
6%
301~999
0人
-
10人
7%
1,000以上
7人
3%
4人
3%
236人
100%
135人
100%
全体
2011年
企業等
度数
8%
表2 購入資料のうち電子ジャーナルが占める割合
選択肢
2011年
割合
19人
32%
13%
2008年
度数
1
16%
46人
12%
購入タイトル数
割合
111人
12%
58人
表3 購入タイトル数比較
3.4 外国誌の購入状況,価格高騰の影響
3.4.1 外国資料購入タイトル数
冊子体もしくは電子ジャーナルで定期購読してい
る外国資料のタイトル数は,
「わからない」を除く
135人のうち70人(52%)が「10以下」と回答しており,
2008年調査時と同じく過半数を占めた
(表3)
。一方で,
2008年調査時では7%にとどまっていた「100タイト
たは「全て(10割)」とする回答が33%であった(表2)。
ル以上」とする回答割合が今回の調査では16%(22人)
「7 ~ 9割程度」が約半数を占めている大学等に比す
に上昇しており,企業等の一部において直近数年で
ると低い割合であるが,2008年の調査時の割合(28%)
ビッグディール契約などにより購入タイトル数が増
からは5%増加している。
加している状況がうかがわれる。
3.3 記事単位購読の利用状況
3.4.2 外国資料購入数の10年前と比較した増減
今回の調査では新たに「記事単位での電子ジャー
10年前と比較した外国資料購入タイトル数の増減
ナル購読」の利用有無を尋ねる設問を追加したとこ
を尋ねたところ,「減少傾向」であるとの回答が最も
ろ,「利用している」との回答は73人(14%)にとど
多かった。しかしながら,「わからない」とした人を
まった。
除いた回答のうち,「減少傾向」との回答割合は2008
利用していない理由(複数選択可)としては「必
要に応じて複写サービスを利用しているため」が
年調査時よりも減少しており,代わりに「増加傾向」
との回答割合が増加している(図4)。
53%を占め,次いで「クレジット決済の場合,個人
での立替払いとなり手続が煩雑」との回答が30%で
あった。特に決済方法については,「月末締めで所属
変わって
いない
30%
増加傾向
20%
変わって
いない
29%
増加傾向
31%
機関宛請求での決済が可能であれば利用したいか」
を尋ねたところ「わからない」を除いた290人のうち
402
減少傾向
40%
2011年(回答総数312)
179人(62%)が「利用したい」と回答しており,利
減少傾向
50%
2008年(回答総数230)
用が浸透しない大きな要因の1つと考えられる。
図4 10年前と比較した外国資料の購入タイトル数
企業等における電子ジャーナル等の利用動向調査
減少傾向にあるとした理由は,「予算削減」が最も
数を削減しているとの回答が88人(80%)に上って
多く68%,次いで「雑誌価格の高騰」が31%,
「利用
いる。また,今後さらに高騰化した場合の対応策を
が少なく必要性が低下した」が22%となり,2008年
問うた設問でも,タイトル数を減らしつつ代替手段
の調査時とほぼ同様の傾向であった。特に,リーマ
を利用する等の回答が多数を占め(表4),外国誌の
ンショック以降の動向を尋ねる設問においては,「わ
価格高騰が企業の購入タイトル数の減少に直結する
からない」との回答を除く431人のうち「購入タイト
ことが浮き彫りとなっている。
ル数の抑制に拍車がかかっている」との回答が170人
(39%)に上っており,一部の機関では景気低迷が資
料購入にも影響を与えている状況がうかがわれる。
3.4.4 外国資料削減の影響
外国資料の購入タイトル数の減少が研究開発,調
一方で,
「増加傾向」であるとした理由では「電子
査活動に及ぼす影響を問うた設問では,企業等,大
ジャーナルのパッケージ購読に伴うタイトル数の増
学等のいずれも研究開発や競争力への影響を懸念す
加」を挙げる回答が最も多い。「増加傾向」との回答
る回答が多かった(表5)
。一方で「必要がある学術
割合が2008年調査時よりも増加していることを踏ま
雑誌等は間違いなく購読し続けるため,それほど問
えると,電子ジャーナルのパッケージ購読の浸透が
題には感じていない」とする割合が,大学等では9%
進んでいると考えられ,3.4.1に示した多数のタイト
であったのに対して企業等では21%に上っており,
ルを購読する機関の割合の増加にも影響を与えてい
ると考えられる。
表4 今後さらに高騰化した場合の対応策(複数選択可)
選択肢
3.4.3 外国誌価格高騰の影響
外国誌価格高騰の影響を尋ねた設問では,2008年
調査時に引き続き,企業等の多くが近い将来に不安
を覚えているという結果であった(図5)。
「価格高騰に対応するための予算がなくて困ってい
る」と回答した110人に,価格高騰化に対して現在実
施している対応策を問うた設問では,購入タイトル
その他
5%
当面は問題がない
と思う
30%
価格高騰に対応
するための予算が
なくて困っている
28%
現時点では困って
いないが将来的に
は問題になる可能
性が高い
37%
図5 外国誌価格高騰の影響(回答総数388)
度数
割合
タイトル数をどんどん減らしていくしかない
150人
30%
国内雑誌の購読を削減または中止していく
56人
11%
コンソーシアム契約等を模索する
41人
8%
二次情報DB(JDreamⅡなど)の契約や利用を削減していく
40人
8%
タイトル数は減らすが,二次情報DBやSDI,コンテンツ(目次)サー
ビス等を利用し,論文ごとのコピーサービスに依存していく
163人
32%
研究者にWeb検索で自ら無料サイト等の情報を利用するように推
奨していく
165人
33%
公立図書館等外部の図書館を頼る
105人
21%
その他
25人
5%
わからない
128人
25%
全体
507人
表5 外国資料の削減が及ぼす影響(複数選択可)
企業
大学
選択肢
度数
割合
度数
割合
論文を参照する機会が減少し,研究開発や調
査能力が弱くなると思う
230人
45%
54人
68%
収集予算等がある大企業や海外企業等と比較
して,競争力等に負の影響が生じると思う
128人
25%
33人
42%
中小企業等は,学術文献にアクセスできる手段
が減少し,日本の全体的な研究開発力が低下
すると思う
117人
23%
20人
25%
必要がある学術雑誌等は間違いなく購読し続
けるため,それほど問題には感じていない
104人
21%
7人
9%
「学術雑誌の参照」と研究開発や調査活動能力
とは関係があるとは思っていない
25人
5%
3人
4%
その他
19人
4%
6人
8%
わからない
115人
23%
8人
10%
全体
507人
79人
403
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2011
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表6 外国誌高騰化に対する主な意見(自由記述)
●競争がないので, 発行者の一方的な価格上昇に, 購読中止
しか対抗手段がないのが実情。
術情報がより親しみやすく入手 ・ 流通するようになることは中
小企業などの開発者や経営者が知識を深める上でも有効だ
●一企業単独の対応は限界がある。 企業連合, あるいは韓国
とは思う。
などのような国単位でのコンソーシアムの結成があってもい
●電子ジャーナルへの移行を促進させる狙いがあるようだが遺
いが, わが国の政府はまったく考えていない。 企業間でのコ
憾。 参加可能なコンソーシアムでは, 現在購読している雑誌
ンソーシアムによる情報交換 ・ 交渉力の強化が必要。
をカバーできるパッケージがないため, 参加を見送っている。
●電子ジャーナルも便利な面があるが, 冊子体の方が, 研究
ただ, プリント版がこれ以上値上がりしたら予算的に厳しい
者にとっては, 利用しやすいので, 冊子体の価格を下げて
ので, 2012 年からは電子ジャーナル導入を余儀なくされると
ほしい。
考えている。
●雑誌契約と電子ジャーナルのタイトルごとの購入を秤にかけ
ると, アクセス数の少ない雑誌は個別に入手した方が安上が
●購読する雑誌は必要最小限とし, システムで必要な情報を
収集し論文単位で購入する方法にシフトしつつある状況。
り, というケースもある。 また, 包括的な電子ジャーナル契
●最近電子ジャーナルの値段が一時より安くなってきたので,
約も模索するなどして購読費用が高すぎる雑誌は個別契約し
高騰化問題はそんなに焦りを感じるほどではなくなってきた。
ない, なども考慮する必要がある。
たとえ雑誌タイトルを削っても, パッケージの電子ジャーナル
●海外雑誌の高騰により技術分野での知識を得る機会が減る
ことは, 日本の技術力の低下につながりかねない。 必要な
ものの吟味は今以上に厳しくなると思われるが, 必要な情報
についてはある程度の高騰価格でも入手すると考えている。
を導入しているので利用者から不満が出ないようだ。
●ブラウジングにより得られる参考情報がなくなるおそれがあ
る。 購入数が減れば必要な情報を見逃すおそれがある。
●冊子の場合は, バックナンバーを保持できる状態であるが,
●必要な雑誌だけを吟味して購読するように社員の姿勢が変
電子ジャーナルの場合はいまだに出版社によるアーカイブ整
わってきたことは良いことだと思うが, あまりにも値上がりの
備がされておらず最新情報のみを閲覧するだけの目的で購
速度が速すぎる。 電子ジャーナルも 1 誌単位の金額が思い
読するには,企業としては厳しい状況である。 また,パッケー
切り下がれば, 冊子体から電子に切り替えを検討することも
ジ商品が増加しているが, 必要なものだけを購読することが
できると思うが, 現状ではどういう方向性にしていくべきか判
できず,不要な分に費用が嵩むことが予想される為,パッケー
断がつかない。
ジ商品でもなかなか契約ができない状況である。
●グローバル化がさらに進行する事が予想される中では, 中
●専門的な領域であれば, 必要な情報源は絞られている為,
小企業といえどももっと海外に目を向けるべきであるとは思う
高騰化の影響は少ないと思う。 ただし, 基礎研究分野で体
が, 現状では手続の煩雑さや目前の仕事に手一杯でそこま
力のない研究機関の運営に影響を及ぼすほど高騰化が進ん
で考えている余裕がないというのが本音。 海外の文献 ・ 技
でしまった場合, 国家的な援助があると良いと思う。
広範な資料を網羅する必要がある大学等の図書館に
・高騰化が続けば購読数をさらに削減してい
比して,企業では必要な資料分野が限られる等の事
く
由が影響しているものと推測される。
・記事単位での購入など,他の入手手段に移
行する
・研究開発活動への影響を懸念 3.4.5 外国誌高騰への意見
外国誌高騰に対する意見を自由記述形式で収集し
18人
6人
・高騰を続ける理由がわからない,妥当な理
たところ160件の意見が得られた。回答を内容別に大
由があると思えない まかに分類したところ以下の通りであり,円高傾向
・国等による対策(ナショナルライセンスや
によって一時的に高騰化が緩和されている状況であ
コンソーシアムの整備等)を要望 16人
るものの,将来への不安や困惑の声が多数を占めて
・特に高騰化しているという実感がない 13人
いる。
・外国雑誌は購読していない,または購読数
・対処に困っている 404
17人
22人
が少ないため,影響は小さい 15人
9人
企業等における電子ジャーナル等の利用動向調査
・出版者側の事情を理解,仕方ない ・その他 7人
用して必要な記事は複写を取り寄せる等の利用形態
37人
も根強く,自社に適したパッケージ契約がないなど,
なお,寄せられた主な意見について表6に抜粋して
いる。
4. まとめ
電子ジャーナル購読に伴う契約形態が,企業等にとっ
て必ずしも適したものとなっていないことも影響し
ているものと考えられる。
また,外国誌の価格高騰に対しては際限が見えな
いことへの困惑や不満を感じている企業は依然とし
前回より2年余り経過して実施した今回の調査で
て多い。記事単位購読などの代替手段へシフトする
は,企業等において電子ジャーナルの導入度合いが
ことで対応する企業もある一方,「これ以上対処しよ
若干増加するなどの変化が見られているものの,大
うがない」
「国等による対策が必要」等の意見もあり,
学等に比べれば電子ジャーナルの活用はいまだ低い
それぞれの機関単独での取り組みを越えた議論が必
水準にとどまっている。冊子体を有しておくことへ
要とされている。
のニーズが高いのと同時に,二次情報サービスを利
参考文献
1) 河崎泰介, 矢口学, 加藤治. 企業等における電子ジャーナル等の利用および外国誌高騰問題についての実態
調査 国内における外国誌情報の危機的状況. 情報管理. 2009, vol. 52, no. 4, p. 216-223.
2) 渡辺喜代美. 企業におけるシリアルズ・クライシスの現状. 情報管理. 2010, vol. 53, no. 5, p. 266-272.
3) 尾城孝一, 星野雅英. 学術情報流通システムの改革を目指して 国立大学図書館協会における取り組み. 情
報管理. 2010, vol. 53, no. 1, p. 3-11.
Author Abstract
This paper describes the update of the survey conducted in 2008 on e-journal subscription among the private
companies. 507 people responded to a questionnaire sent to the bibliographic database “JDreamⅡ” users in
the period from February to March, 2011. The results show that e-journal subscription rate still stays low at 33
% with small increase of 4 % from the previous survey.
Key words
e-journal, rising price, company, foreign journal, actual condition survey, questionnaire, usage survey
405
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連載
統計情報活用への招待
第4回 人口・世帯の公的統計
Series: Guide to effective use of statistics
Part 4: Official statistics on population and households
浅田 昭司1
ASADA Shoji1
1 データ工房(〒153-0043 東京都目黒区東山1-13-15)E-mail : [email protected]
1 DATA・LABO (1-13-15 Higashiyama Meguro-ku, Tokyo 153-0043)
情報管理 54(7), 406-414, doi: 10.1241/johokanri.54.406 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.406)
1. 人口・世帯の主要統計
本とする「人口推計」のような加工統計もある。表1
に人口・世帯の主要統計一覧を示す。
406
本シリーズの第1回から第3回においては,公的統
公的統計のデータはすべてインターネットで公開
計に共通する基本的な知識について解説してきた。
されているが,どこまでさかのぼれるかは統計によっ
第4回から第11回においては,分野別に主要な統計を
て異なる。主要な統計は,総務省統計局のホームペー
紹介する予定である。
ジにある「日本の長期統計系列」
(http://www.stat.
今回は,人口・世帯についての主要な統計を紹介
go.jp/data/chouki/index.htm)に整理されている。中
する。国の行政の基となるのが税収であり,いくら
には「労働力調査」の「月報」のようにインターネッ
税収が得られるかを知るために始められたのが人口
トでのみ公開しているものもある。町丁字別人口の
統計である。政府が種々の統計整備を進める中で最
ように,インターネットでは全国のすべてのデータ
初にスタートした基本統計である。企業がビジネス
が公開されており,都道府県によっては独自に冊子
を行う上でも,潜在顧客数や市場性の把握,地域の立
にしているケースもある。
地特性などを把握する際には基礎データとして必ず
一部の統計については,インターネットで情報を
おさえねばならない統計が人口・世帯の統計である。
得る場合の探し方ガイドや検索機能が用意されてい
人口の統計というとまず思い浮かべるのは国勢調
るが,ほとんどの統計にはそうしたガイドはない。
査であろう。しかし,実は人口に関する統計は各種
そのような時には,まず「調査の概要」をよく読ん
あり,国勢調査のような全数を調査する調査統計か
でみることが助けになる。概要を読めばその統計で
ら,日々の業務を推進する中で収集されるデータを
はどのようなデータが収録されているかおよそのこ
基に作成される「住民基本台帳に基づく人口,人口
とがわかるので,それを理解した上で統計一覧に行
動態及び世帯数」のような業務統計,国勢調査を基
き,表のタイトルを見ながら必要とするデータの有
統計情報活用への招待
表1 人口・世帯の主要統計一覧
表1 人口・世帯の主要統計一覧
統計名
国勢調査
人口動態統計
人口推計
住民基本台帳に基づく人口,人
口動態及び世帯数
住民基本台帳人口移動報告
日本の将来推計人口
日本の世帯数の将来推計
社会保障・人口問題基本調査
労働力調査
生命表
出入国管理統計
登録外国人統計
海外在留邦人数調査統計
作成開始年
大正9年
(1920年)
明治32年
(1899年)
大正9年
(1920年)
昭和43年
(1968年)
昭和29年
(1954年)
昭和30年
(1955年)
平成10年
(1998年)
昭和15年
(1940年)
昭和22年
(1947年)
明治24年
(1891年)
昭和36年
(1961年)
昭和34年
(1959年)
昭和43年
(1968年)
周期
作成機関
統計の種類
調査統計
(全数調査)
URL
5年
総務省
月
厚生労働省
業務統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
月
総務省
加工統計
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm
年
総務省
業務統計
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/17216.html
月
総務省
業務統計
http://www.stat.go.jp/data/idou/index.htm
加工統計
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/suikei07/index.asp
加工統計
http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2008/t-page.asp
調査統計
http://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/cyousa.html
5年
5年
年
国立社会保障・
人口問題研究所
国立社会保障・
人口問題研究所
国立社会保障・
人口問題研究所
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm
月
総務省
調査統計
http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm
年
厚生労働省
加工統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/list54-57.html
月
法務省
業務統計
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_nyukan.html
年
法務省
業務統計
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html
年
外務省
調査統計
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/10/index.html
筆者作成
無を確認すると必要なデータが見つかりやすい。た
が住所になるが,そうでなければ10月1日午前零時に
だしそれも時間のかかることでもあり,データにた
いるところで調査することになっている。
どり着けないケースも多い。インターネットでの検
おおむね50世帯が1調査区として設定されており,
索に行き詰まった場合は,府省の担当者に聞くのが
その総数は約90万である。約70万人の国勢調査員が,
お勧めである。時間を節約できる上に周辺情報につ
10月1日までの1週間で調査票を世帯ごとに配布し,
いても会話の中で収集できるというよさがある。
10月1日以降に1週間かけて回収に回る。調査員は,
2. 主要統計の概説
町内の自治会からの推薦や,登録調査員,市町村職
員O B,新聞による公募で集めた人などであり,任命
期間中は非常勤の国家公務員として調査に従事して
2.1 国勢調査(総務省)
いる。また,登録調査員制度というのがあり,調査
2.1.1 調査の概要
のベテランの人が登録されている。
国勢調査は国内の人口や世帯の実態を把握し,各
1920年に開始された10年ごとの大規模調査と,そ
種法令の基準人口となり,行政分野の基礎データと
の中間年に行われる簡易調査がある。西暦の末尾に0
なる。また調査時にわが国に常住しているすべての
のつく年が大規模調査で,諸外国でもこの年に一斉
人を対象にした人口・世帯の全数調査である。常住
に人口統計調査が行われる。西暦の末尾に5のつく年
している人とは,3か月以上にわたって住んでいるか,
が簡易調査である。韓国とカナダではほぼ5年ごとに
または住むことになっている人のことをいう。
「3か
行われているが,アメリカやイギリスではほぼ10年
月以上」を基準とした理由は,公職選挙法で選挙権
ごとに1回である。
が得られる資格要件の1つである「3か月以上市町村
に住所を有すること」に合わせたものである。外国
籍の人も含む。ただし,いわゆるホームレスの人は,
3か月以上とどまっているところがあれば,その場所
わが国の調査の場合,以下の< >でくくった項
目が大規模調査の時だけに調査する項目である。
[世帯員に関する調査]…15項目
氏名,男女の別,出生の年月,世帯主との続き柄,
407
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配偶者の関係,国籍,<現在の住居における居住期
から,冊子体としては,東京,神奈川,埼玉,千葉,
間>,<5年前の住居の所在地>,<在学・卒業等な
茨城,愛知,大阪など一部の都道府県しか発行して
ど教育の状況>,仕事をしたかどうか(就業状態)
,
いないため,インターネットでの利用となる。
所属の事業所の名称および事業の種類(産業)
,本人
の仕事の種類(職業)
,従業上の地位,従業地または
通学地,<従業地または通学地までの利用交通手段>
[世帯に関する事項]…5項目
インターネットにより次の手順でデータが得られ
る。
政府統計の総合窓口(e-Stat)→「地図や図表で見る」
の中の「地図で見る統計(統計G I S)」→「データダ
世帯の種類,世帯員の数,住居の種類,住宅の床
面積の合計(延べ床面積),住宅の建て方
ウンロード」→「統計調査(集計)を選択」の中の「平
成17年国勢調査(小地域)
」→男女別人口総数及び世
帯総数
ちゅうかん
(3)昼間人口
2.1.2 統計からわかること
「国勢調査」からどのようなデータが得られるかを
流入)することにより形成される人口のことであり,
例示する。
常住人口である夜間人口に対比されるものである。
(1)市区町村別人口・世帯数
世帯というのは,居住と生計を共にする社会生活
国勢調査では,従業地・通学地人口として集計され
上の単位であるが,国勢調査では一般世帯と施設等
ている。昼間人口=常住人口-流出人口+流入人口
の世帯(寄宿舎の学生,高齢者福祉施設等の居住者等)
として算出される。
に二分している。施設等の世帯では棟ごと等を単位
(4)最終学歴別人口
学歴別の人口の統計は,大規模調査の時に行われ
としている。
ている。市区町村別・年齢5歳階級別に表章される。
(2)町丁字別,年代別人口
町丁字別の人口については,国勢調査の結果が表2
のようにインターネットで検索できる。統計の用語
(5)未既婚別,就業状態別人口
未婚か有配偶か,死別・離別かといった配偶関係を,
として総務省統計局では「小地域」と表章している。
男女別,年齢別にとらえている。有配偶とあって既
調査区の区切り方によって町丁字と必ずしも完全に
婚としていないのは,結婚したものの死別,離別し
一致はしていないがほぼ同等のものである。年齢5歳
たという状態を分けてとらえているからである。既
階級別人口,種類別世帯数,住宅の種類,従業者の
婚としてとらえるには,有配偶,死別,離別を合計
産業,職業などもわかる。詳細な数値にわたること
する。
表2 町丁別人口・世帯数の例(北海道札幌市南区)
表2 町丁別人口・世帯数の例(北海道札幌市南区)
市区町
村名
町丁名
人口
総数
男
世帯
総数
女
(6)人口集中地区の人口
人口集中地区とは,隣接した人口密度の高い調査
区の集合体で,人口総数が5,000人以上で,かつ人口
密度が1平方k m当たり4,000人以上の地区のことをい
南区
滝野
100
49
51
37
南区
澄川
14
6
8
5
う。DIDs(Densely Inhabited Districtsの略)という
南区
真駒内
4,857
3,007
1,850
1,273
記号がつけられている。かつては市・郡別によって
南区
真駒内曙町
2,930
1,325
1,605
1,553
南区
真駒内曙町1丁目
2,178
966
1,212
1,279
ある程度人口密度の高い地域を特定できたが,市町
南区
真駒内曙町2丁目
―
―
―
―
「-」は計数が0の地域を意味する。
*総務省「平成17年国勢調査(小地域)」を基に作成
408
昼間人口とは,通勤や通学により人が移動(流出,
村の大幅な合併により山村部まで市になっていると
ころが多く,人口集中地区の意味合いがより重要視
されるようになった。
統計情報活用への招待
(7)母親の数
表3 「国勢調査報告」と「住民基本台帳に基づく人口,人口動態
表3 「国勢調査」と「住民基本台帳に基づく人口,人口動態及
及び世帯数」の人口・世帯数の違い
び世帯数」の人口・世帯数の違い
「子どものいる世帯」としてまとめられた報告で,
子どもの年代別に母親の数がわかる。ただし,大規
模調査の時のみ。
(8)子どもの数,子どもの年齢別の世帯数
人口(千人)
世帯数(千世帯)
国勢調査
128,056
50,928
住民基本台帳に基づく人口,
人口動態及び世帯数
127,058
53,363
世帯主との続き柄,配偶関係,年齢,男女別2人以
上の一般世帯人員という表があり,未婚で子どもと
調査」の方が多くなっている。また,両者の調査時
いう数値が該当する。
点が異なること(国勢調査は10月1日,住民基本台帳
(9)自営業者数
従業上の地位として業主という分類があるが,こ
れが自営業者である。
(10)通勤・通学の交通手段
に基づく人口,人口動態及び世帯数は3月31日)など
によるものである。
世帯数の差については,これらの違いに加えて世
帯の把握方法が異なることなどによるものである。
交通手段としては,徒歩,JR,JR以外の鉄道・電車・
例えば,寮・寄宿舎の学生・生徒や社会施設の入所
乗り合いバス,学校・勤め先のバス,自家用車,ハ
者については,「国勢調査」では棟ごとにまとめて1
イヤー・タクシー,オートバイ,自転車などである。
世帯としているのに対し,「住民基本台帳に基づく人
2種類以上の組み合わせについても調べられている。
口,人口動態及び世帯数」では生計が独立している1
(11)共働き世帯数
夫婦ともに就業している世帯の数がとらえられて
いる。
(12)核家族数
核家族とは,夫婦のみ,夫婦と子ども,片親と子
どもの世帯のことをいう。
人を1世帯としているため,日本人のみを対象にして
いるにも関わらず「住民基本台帳に基づく人口,人
口動態及び世帯数」の方が多くなっている。
(3)国勢調査の外国人数と法務省の外国人登録者数
との違い
国勢調査による外国人数は2005年10月1日現在で
約156万人であるの対し,法務省の外国人登録者数は
2.1.3 読む上での注意点
(1)総人口と日本人人口
総人口は外国籍の人を含めた数値である。一般に
日本の人口という場合は総人口のことをいう。
(2)
「国勢調査」と「住民基本台帳に基づく人口,人
口動態及び世帯数」の人口・世帯数の違い
両者の平成22年の結果を見ると表3のように,人口
2005年12月末日現在で,約201万人である。この約
45万人の違いは,以下の要因が考えられる。
(A)国勢調査の対象とならない90日以内の短期滞
在者の中に,外国人登録をしている人がいる。
(B)外国人登録をしている人が,国勢調査時には
一時帰国していた。
(C)外国人登録を抹消しないで帰国した人がいる。
では約100万人「国勢調査」が多く,世帯数では,逆
(D)調査時点の隔たりがある。
に「住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世帯
(E)国勢調査時に留守だった等の理由により,一
数」の方が約244万世帯多くなっている。両者の違い
部の項目について調査できなかった。
については,「国勢調査」はわが国に居住するすべて
の人(日本人および外国人)を対象としているのに
2.1.4 データの探し方
対し,
「住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世
国勢調査は表数が260もある膨大な統計である。イ
帯数」は日本人のみを対象にしているために,
「国勢
ンターネットにしろ,冊子体にしろ目的とするデー
409
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タの有無の確認は容易ではない。そのようなユーザー
をサポートするために,総務省統計局では「ユーザー
ズガイド」をインターネット上で公開し,統計の概要,
探 し 方, 読 み 方, 利 用 方 法, な ど を 説 明 し て い る
(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/users-g.
h t m)
。データの探し方についてもインターネットで
の探し方と冊子体での探し方の両方についてわかり
やすく解説されている。
る。
(4)双子の数
複産の種類として,双子,三つ子,四つ子,五つ
子以上がわかる。
(5)夫と妻の婚姻時の年齢
初婚,再婚別に夫妻の結婚年齢がわかる。夫妻の
年齢のクロス表になっている。
(6)離婚の種類別の件数
協議離婚,調停離婚,審判離婚,判決離婚の4種類
2.2 人口動態統計(厚生労働省)
2.2.1 調査の概要
別の件数がわかる。
(7)事故死亡者の場所と原因
人口は日々変わるものである。この動きを示す統
死因は世界保健機関(WHO)の基本分類にのっとっ
計が人口動態統計で,出生,死亡,婚姻,離婚,死
た「疾病,傷害及び死因分類」で,かなり詳細に分
産などの人口動態事象を明らかにしている。1か月間,
類されている。例えば,事故死亡者の場合,亡くなっ
1年間などの期間における数を出生届,死亡届,婚姻
た場所(家,学校,スポーツ施設,街路)までもデー
届,離婚届などの各種の届け出から移記した業務統
タがとられている。
計である。1898年に制定された戸籍法に基づき,翌
年から1件につき1枚の個別票を作成し,中央集計す
2.3 人口推計(総務省)
るという近代的な方法で作成されてきた。第2次世界
国勢調査を基準人口として,厚生労働省の「人口
大戦の影響を受けた1944年~1946年を除き推移を見
動態統計」から出生児数,死亡者数を,法務省の「出
ることができる。集計の対象は,日本において発生
入国管理統計」から入国者数,出国者数を,法務省
した日本人に関するものであるが,日本人の外国に
の資料から国籍異動を,総務省の「住民基本台帳人
おける状況および外国人の日本における状況につい
口移動報告」から都道府県間転出入者数などを加減
ても参考として掲載されている。
して推計人口が算出される。
毎月1日現在で年齢5歳階級,男女別推計人口が,
2.2.2 統計でわかること
(1)市区町村別の出生,死亡,婚姻,離婚,死産の件数
都道府県別,市部・郡部別,保健所別,市区町村
そして毎年10月1日現在で年齢各歳別,都道府県別の
推計人口が算出されている。
年少人口・生産年齢人口・老年人口も表章されて
別にわかる。死亡数の内訳として,乳児(1歳未満),
いる。年少人口は,0歳~14歳であり,経済価値を
新生児(生後4週未満)も表章されている。死産は自
生産するに至らない年齢層である。生産年齢人口は,
然死産,人工死産別である。
15歳~64歳であり,経済価値を生産できる年齢層で
(2)合計特殊出生率
ある。老年人口は,65歳以上である。
1人の女性が生涯で産む子どもの数として算出され
すうせい
ている。この値の趨 勢が将来の人口増減の一因とな
る。
(3)結婚して第1子が生まれるまでの平均期間
他にも第1子,第2子,第3子などの出生間隔がわか
410
2.4 住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世
帯数(総務省)
住民基本台帳に記録されている市区町村別の人口,
世帯数を記録した業務統計である。住民基本台帳は
統計情報活用への招待
選挙人名簿や学齢簿を作る基となる記録である。ま
章されている。なお,都道府県別については,同所
た,国民健康保険,介護保険,国民年金,児童手当,
より「都道府県別の将来推計人口」が,そして市区
印鑑証明などに関する事務の基礎ともなる。
町村については「日本の市区町村別将来推計人口」
人口については,市区町村別に年齢5歳階級別の男
が発表されている。
女別の数がわかる。住民票の記載数および削除数も
男女別,年齢別の人口の予測がわかる。65歳以上
収録している。記載数は,転入届および職権(首長
の人口の割合についても100年先までの超長期予測を
の調査により判明した結果を反映)によって記載さ
行っている。本推計では,
出生率の将来動向に関して,
れた数であり,削除数とは転出届および職権により
中位(長期的に合計特殊出生率が,1.26の水準へと推
削除された数である。商圏人口というマーケティン
移する)
,高位(同様に1.55の水準へと推移する)
,な
グの概念に近い広域市町村圏別人口・世帯数が集計
らびに低位(同様に1.06の水準へと推移する)の3種
されている。圏域の数は334である。東京,名古屋,
類の仮定を設けて予測している。高位,中位,低位
大阪の中心部からの50㎞圏の距離別(10㎞単位)人
のうち一般的には中位の人口予測が活用されること
口および人口動態がわかる。また市区町村の人口ラ
が多い。
ンキングがわかる。
予測の方法は,国際間の人口移動を考慮しつつ,
1952年 か ら1967年 ま で は, 住 民 登 録 法 に 基 づ い
既に生存する人口は,将来生命表を用いて年々加齢
て集計された「住民登録人口及び世帯数」により,
していく人口を求める。同時に,新たに生まれる人
1968年以降は,住民基本台帳によるものである。人
口は合計特殊出生率を仮定して将来の出生数を計算
口動態は1979年から,年齢別の人口は1994年から新
する。
たに追加された項目である。外国籍の人が収録され
ていない点を注意する必要がある。
2.7 日本の世帯数の将来推計(国立社会保障・人
口問題研究所)
2.5 住民基本台帳人口移動報告(総務省)
住民票の届け出を元に集計したもので,住民登録
法に基づいて,1954年から集計が始まり,1967年ま
推計は25年先まで行っている。2008年(平成20年)
3月推計では,2005年から2030年までで,各年10月1
日現在についての推定である。
で実施され,それ以降は,住民基本台帳法に基づい
都道府県別,世帯主年齢別,核家族世帯(夫婦の
て集計がなされている。外国籍の人は集計に入って
みの世帯,夫婦と子からなる世帯,ひとり親と子か
いない。
らなる世帯別)・単独世帯・その他世帯別に5年に1回
県別,市区町村別,月別の転出者数,転入者数,
予測している。対象は一般世帯のみで,施設等の世
海外からの転入者数などがわかる業務統計である。
帯(寄宿舎の学生,
高齢者福祉施設等の居住者等)は,
また県別に移動前の転入者の県別の数,逆に移動後
含まれていない。
の県別の数が男女別にわかる。
2.8 社会保障・人口問題基本調査(国立社会保障・
2.6 日本の将来推計人口(国立社会保障・人口問
題研究所)
人口問題研究所)
国立社会保障・人口問題研究所は,厚生労働省の
戦後より国勢調査および人口動態統計の結果を踏
付属機関であった社会保障研究所と人口問題研究所
まえて,将来推計人口が作成されている。推計期間
が統合された組織である。実地調査として行われて
は50年間である。参考推計としてさらに50年間が表
いる社会保障・人口問題基本調査は,5つの統計を順
411
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番に行っている
(表4)
。
調査年は最近の実施年である。
以下は,表4のうち最も歴史の古い「出生動向基本
調査」について記載したものである。
2.8.1 概要(出生動向基本調査)
結婚,出産,子育ての現状について調べる全国標
本調査で,1940年(昭和15年)からほぼ5年ごとに実
表4 社会保障・人口問題基本調査の5年サイクルのテーマ一覧
表4 社会保障・人口問題基本調査の5年サイクルのテーマ一覧
調査年
調査統計名
概要
2005年 出生動向基本調査
結婚,出産,子育ての現状
2006年 人口移動調査
人口の移動傾向の変化
2007年 社会保障生活調査
2008年 全国家庭動向調査
2009年 世帯動態調査
個人の社会・経済的活動,家族間の相互
扶助,社会保障制度との関わり
出産・子育て,高齢者の扶養・介護などの
家庭の諸機能
世帯の形成,変化の実態と要因
施している。夫婦調査は,50歳未満の結婚している
女性が対象であり,独身者調査は,18歳以上50歳未
計結婚出生率という用語が出生動向基本調査で用い
満の独身の男性・女性を対象に行っている。1982年
られているが,これは,夫婦一組から生まれる平均
の第8回調査から独身者調査が追加された。「国勢調
出生児数である。前述の厚生労働省の
「人口動態統計」
査」は,静態調査であり,ある一時点での断面をと
で用いられる合計特殊出生率は,1人の女性が生涯に
らえたものである。それに対し,この調査は,人生
産む子どもの数を表すものであるが,未婚者や離別
を縦断的に見た回顧的調査で,出産歴などを問うた
者を含む女子人口全体についての平均出生児数であ
ものである。この調査の結果から将来どのようなラ
り,生涯を独身で過ごす人々の増加など結婚の動向
イフコースを歩むのかという分析を行い,将来の人
によって影響を受ける数値である点が,合計結婚出
口を見通す際の基礎資料を提供するもので,前述の
生率と異なる点である。
「日本の将来推計人口」・「日本の世帯数の将来推計」
の推計に役立てられている。
2.9 労働力調査(総務省)
15歳以上の人口について,毎月の就業状態・就業
2.8.2 統計でわかること(出生動向基本調査)
夫婦調査では,結婚について,夫妻が出会った年
齢,結婚した年齢,交際期間,出会ったきっかけ,
時間・産業・職業等の就業状況,失業・休業の状況
の実態を把握したものである。
就業状況を調べている調査だが,15歳以上を対象
出生のタイミング,避妊の方法,人工妊娠中絶の経
にしているため,毎月の世帯数を類型別にとらえる
験,理想の子ども数と予定の子ども数などを調べて
ことができる。世帯主の年齢階級,世帯の種類・世
いる。独身者調査の結婚に対する意識では,「一生結
帯の家族類型別世帯数,世帯人員別世帯数,夫の就
婚するつもりはない」人の割合,異性と交際してい
業状態,妻の就業状態別夫婦のいる世帯数(時間階
る人の割合,結婚しない理由,同棲経験・性交経験,
級3区分)などがわかる。
結婚相手の重視点等を調べている。出生率は,人の
毎月の状況について約4万世帯を対象に調査してい
意識が関わってきており変動が激しい。そこででき
ることから,家計調査など毎月の調査において,総
るだけ多くの情報を得て,予測をする必要があり独
世帯を算出するためのベンチマークとして調査結果
身者調査が追加されたのもそのためである。
が使用されている。毎月の状況は,インターネット
でのみ公表されているが,データを得るには次の手
2.8.3 読む上での注意点(出生動向基本調査)
412
順を踏む。
(2011年6月の調査結果例)
公的統計では,一般に耳にしない特殊な用語が使
総務省統計局のホームページ→労働力調査→調査
われている。用語の解説などでその意味するところ
結果目次へ→基本集計→結果表→2011年の中から6月
を正確に把握する必要がある。一例をあげると,合
→第21表「世帯主の年齢階級,世帯の種類・世帯の
統計情報活用への招待
表5 労働力統計に見る世帯数のデータ例(平成23年6月)
表5 労働力調査に見る世帯数のデータ例(平成23年6月)
全国(岩手県,宮城県および福島県を除く)
第21表 平成23年 6月
世帯主の年齢階級,世帯の種類・世帯の家族類型別世帯数
(万世帯)
2 人 以 上 の 世 帯
親 族 世 帯
世帯の家族類型
総 数
総 数
総 数
核家族
世 帯
その他の親
族世帯
単身世帯
非親族
世 帯
うち
学生を
除く
世帯主の男女 世帯主の年齢階級
男女計
全年代合計
4,950
3,396
3,390
2,831
559
6
1,554
15~24歳
203
18
17
13
4
1
185
83
25~29
224
97
94
89
5
2
127
122
30~34
280
196
196
187
9
83
82
-
1,444
(万世帯)
世 帯 の 家 族 類 型
総 数
世帯主の男女
男女計
夫婦のみ
の世帯
夫婦と
子供から
なる世帯
ひとり親と
子供から
なる世帯
夫婦と
親から
なる世帯
夫婦,
子供と親か
らなる世帯
100
その他
の世帯
世帯主の年齢階級
全年代合計
3,389
1,088
1,392
350
15~24歳
17
6
6
1
25~29
94
35
46
8
30~34
196
47
126
14
-
221
238
0
3
0
1
4
0
4
5
総務省「労働力調査」を基に作成。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001076815
家族類型別世帯数」
表も作成されている。
調査世帯数が4万世帯であることから,全国・10地
平均寿命,ある年齢の生存率,ある年齢のものが
域別では統計として十分なサンプル数があるので使
ある年齢で死亡する確率,特定死因を除去した場合
用できるが,県別などでは誤差が大きくなるため表
の平均余命などがわかる。
章されていない。時系列回帰モデルを使った推計値
として,就業者数,完全失業率など5項目が発表され
ているが,この中には残念ながら世帯数は入ってい
ない。
2.11 出入国管理統計(法務省)
日本人および外国人の出入(帰)国の状況を明ら
かにし,出入国管理行政の施策の基礎資料とするも
のである。終戦後米軍が行っていた出入国管理業務
2.10 生命表(厚生労働省)
生命表は,わが国の死亡状況が今後変化しないと
仮定した時,各年齢のものが1年以内に死亡する確率
や平均的にみて今後何年生きられるかという期待値
を昭和24年11月からわが国が行い同39年から機械集
計化され,同46年からは従来の調査票から出入国記
録による調査に改められた。
外国人については,月別,国籍別,港別,在留資格別,
などを死亡率や平均余命などの指標によって表した
年齢別,男女別,滞在期間別の出国・入国人数がわ
ものである。年齢ごとの死亡数と,その期間の平均
かる。日本人については,月別,主要港別,住所地別,
人口または中央人口を基に計算される。
年齢別,男女別の出国・入国人数がわかる。
0歳の平均余命が一般に呼ばれている平均寿命であ
日本人の渡航先および渡航目的については,平成
る。完全生命表と簡易生命表の2種類があるが,完全
13年7月1日から出・帰国記録カード(いわゆるEDカー
生命表は,国勢調査による年齢別人口に基づき,5年
ド)が廃止されたため,情報項目が得られなくなり,
に1回作成されている。一方,簡易生命表は,総務省
現在は集計していない。
発表の10月1日現在の推計人口に基づいて作成するも
ので,毎年の平均余命がわかる。都道府県別の生命
413
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2011
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2.12 登録外国人統計(法務省)
外国人登録法に基づく外国人登録者の数を,国籍
別,都道府県別,職業別,在留資格(在留目的)別に,
分析集計したものである。対象外になっているのは,
観光客のような90日未満の短期在留者,生後60日未
満の子ども,外交,公用旅券を所持する者,日米地
「住民基本台帳人口移動報告」から
移動人口データを得る
自市区町村内の移動についての
データがない
「国勢調査」の5年前の常住地がど
こであったかについての集計から
自市区町村内の人口移動数が全
体に占める割合を求め,その割合
分を「住民基本台帳人口移動報告」
に加算
「住民基本台帳人口移動報告」は,
人員ベースなので,引越数に当た
る世帯数移動に換算
位協定などに該当する軍人・軍属とその家族である。
単身世帯とファミリー世帯とでは,
引越料金が異なることからそれぞ
れの引越数を算出
これらの者のうち,90日未満の短期在留者,生後60
日未満の子どもでも外国人登録を行っている者は含
まれている。1959年に第1回を発刊し,1974年まで
は5年ごとに発刊,10年間の中断の後,1984年以降2
年ごとに発刊,そして1995年からは毎年発刊してい
る。
在留資格(在留目的)として,永住者,日本人の
推定した引越数に単価を乗じて市
場規模を算出
事業所の引越数については,日本
通運とサカイ引越センターの公表数
値を基に算定
図1 引越しサービス業の市場規模推定プロセス
図1 引越しサービス業の市場規模推定プロセス
は,引越しサービス業の市場規模を推定した際の事
例をご紹介する。
配偶者,定住者,留学,就学,研修,技術提供,企
引越しサービス業の市場規模を示す公的な統計は
業内転勤,興業などの外国人登録者数がわかる。戦
ない。そこで,総務省「住民基本台帳人口移動報告」
前から日本に在留している韓国・北朝鮮・中国など
から住民票の移動データを基に引越した世帯数を推
の人およびその子孫は特別永住者として登録されて
計した。「住民基本台帳人口移動報告」には,自市区
おり,一般永住者と区別されている。
町村内の移動についてのデータがない。そこで「国
勢調査」の5年前の常住地がどこであったかについ
2.13 海外在留邦人数調査統計(外務省)
世界各地に在留する邦人の実態について,在外公
ての集計から自市区町村内の人口移動数が全体に占
める割合を求め,その割合分を「住民基本台帳人口
館に提出されている在留届を基礎資料とするほかに
移動報告」に加算して全体の移動数を求めた。また,
日系進出企業,日本人会,邦人研究者・留学生がい
「住民基本台帳人口移動報告」は,人員ベースなので,
る大学,研究機関,各種学校などに調査票を配布し,
引越数に当たる世帯数移動に換算した。次に単身世
協力を求め調査したものである。在留期間が3か月に
帯とファミリー世帯とでは,引越料金が異なること
満たない旅行者や短期滞在者は調査から除外されて
からそれぞれの引越数を算出した。事業所の引越数
いる。また,日本国籍を有しない日系人も対象外。
については,日本通運とサカイ引越センターの公表
ただし,巻末に参考統計として,日系人の数を紹介
数値を基に算定した。その結果,2008年度の引越し
している。永住者と長期滞在者について,国別,都
サービス業の市場規模を5,720億円と推定できた。内
市別の状況がわかる。
訳は,単身世帯が810億円,ファミリー世帯が3,480
3. 人口・世帯統計の活用事例
億円,事業所が1,430億円である。
次回は,分野別のテーマとして,医療・福祉・健
康の公的統計の中から主要な統計について,調査の
民間企業においては,人口・世帯の統計は市場規
模を推定する上で欠かせないデータである。ここで
414
概要,統計からわかること,活用方法などをご紹介
する予定である。
ArXiv創設20年
翻訳記事
ArXiv創設20年
ArXiv at 20
GINSPARG, Paul1
1 コーネル大学物理学科
1 Department of Physics, Cornell University (Ithaca, New York 14853, USA) E-mail : [email protected]
情報管理 54(7), 415-420, doi: 10.1241/johokanri.54.415 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.415)
プレプリントサーバーの創設者であるPaul Ginspargが,急速にオンライン化が進んだ研究論文シェアの20年間に
わたる歴史,そして学術コミュニケーションの未来について考える。
20年前の8月,私は,高エネルギー理論物理学の一
のW e bリソースとなり,今や約70万件のフルテキス
領域に携わる研究者数百人を対象とした電子掲示板
トを収載し,毎年新たに75,000件が追加され,毎週
(B B S)を立ち上げた。その頃の私は,ニューメキシ
約40万人のユーザーが約100万件の論文をダウンロー
コ州のロスアラモス国立研究所に異動したばかりで,
ドしている(図1のグラフ参照)。このシステムは当
初めて自分のデスクに自分自身のコンピューターを
初,物理学の最も活発な研究分野を対象としていた
持った。そして,これまで紙媒体で郵送されていた
が,その後,数学,非線形科学,コンピューター科学,
未発表の論文(プレプリント)を,研究者間で簡単
統計学,さらに最近では物理学者が進出し始めてい
に閲覧し合えるようにしたいと考えていた。
る生物学や金融学などの主要領域にも広がってきて
物理学分野におけるプレプリントのリポジトリ・
いる。
アラートシステム([email protected])を開始し
20年経った今,a r X i vがオリジナルのソフトウエア
たのは,W e b時代幕開けの直前であった。その1年以
を用いながら,予想を1,000倍近く超える人々にサー
上後でも,C E R N(欧州原子核研究機構)の研究者に
ビスを提供するほど安定し成功を収めていることは
「WWWが何かまったくわからない。WWW って何?」
心強いことではあるが,新しいオンライン技術のト
とe-mailを送ったような状態であった。当初のプラン
レンドと好機に対応していくには,いくつかの点で
は,年間100件程度のフルテキスト論文の投稿を受け
徹底的な見直しが必要である。
付け,論文の郵送が追いつくまでの3か月間,それら
私は初め,このリポジトリを3時間の小旅行程度に
を保管することであった。希望があったため,論文
考えていて,一生続くものだとは思っていなかった。
はどれも消去せずにいた。
そもそも,a r X i vは完全な自動化により,私自身の研
数年のうちにこのシステムは進化し,a r X i v. o r gで
究キャリアを妨げないはずであった。しかし,運営
本稿は,GINSPARG, Paul. “ArXiv at 20”. nature. vol. 476, p. 145-147, 2011. <http://dx.doi.org/10.1038/476145a> を,ネイチャー・
ジャパン株式会社の責任において翻訳したものである。
415
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図1 に伴う管理業務には毎日数時間を要し,一年中休み
スを入手できるようになった。しかし,全体的に学
な し に な る こ と も あ る。 そ の た め2011年9月 か ら,
術出版が依然として過渡期にあることは驚きであ
このサイトはニューヨーク州イサカのコーネル大学
る。品質管理の最善の手段(トップダウンか,クラ
図書館のスタッフの管理下に完全に置かれることと
ウドソースか,どの段階で行うか),運営資金の調達
なる。私はアドバイザリー・ボードに残り,テキス
方法,科学的再現性を確保できるデータやツールを
トとデータの検索および次世代文書フォーマットと
どう統一するか,といったコンセンサスは得られて
情報フィルターのサポートに関する複数の研究プロ
いない。
ジェクトを継続する予定である。
416
私が目指しているのは,電子的基盤をただ単に効
a r X i vを振り返ることは,この20年間の情報技術の
率の良い配信手段として利用するだけでなく,来る
大変革によって変貌した研究世界を振り返ることで
べき次の変革が,究極的には堅固な知識構造をもた
あり,現在では必要に応じて大量の文献と関連リソー
らし,科学的データを処理・体系化する手段を根本
ArXiv創設20年
的に変えることである。
移された。このサイトは,図書館の他のどのリソー
スよりも日々多くのユーザーに利用されているもの
民主的な目標
の,そのほとんどが学外からのアクセスであるため,
大学の予算配分の優先順位を明確にしづらい。ま
BBSを構築したのはそもそも,研究活動の場を標準
た,少額の寄付でも,従来の創設寄付で得られる以
化するためであった。今では想像しづらいが,かつ
上の高い知名度が得られなければ,進んで寄付をし
てはジャーナルでの公式発表前に,特権を有する一
てくれる裕福な資金提供者がいないため,図書館は
部の研究者にプレプリントを印刷・写真複写・郵送
最近,ヘビーユーザーであるさまざまな施設・機関
するために相当な時間と労力を費やしていた。それ
に運営費の負担を求めている(http://arxiv.org/help/
がセントラル・リポジトリという発想によって,ネッ
s u p p o r t)
。より大きな組織に財政上の負担と管理を
トワークにアクセスできる世界中のすべての研究者
委ねる一方で,長期的なビジネスモデルを探る時間
がフルテキスト論文を投稿し,読むことができるよ
稼ぎをしているのである。
うになり,大学院生以上であれば等しく参加できる
物理学者は電子プレプリントの幅広い共有を素早
ようになった(初期のインターネットは学術研究者
く受け入れたが,他の分野ではそれにまだ乗り気で
の専有物であり,一般人がオンラインを使用し始め
ない研究者もいる。正式なレビュー前のデータとア
たのは数年後のことである)。
イデアに対する姿勢は,分野によって大きく異なる。
arXivは開発から2年で進化を遂げ,全世界の研究者
電子プレプリントの共有を選択するには,それぞれ
にとって主な日常リソースのひとつとなった。a r X i v
の分野でユーザーに最も適した方針とプロトコルを
は知的優先権を主張する場となり,これによってさ
開発しなければならないのだろう。1997年に生物学
らなる成長が促された。
者のグループ向けに行った私の講演をきっかけに,
従来のジャーナルがオンライン化する以前の1991
現在PubMed Central(米国国立衛生研究所が運営)
年に登場したa r X i vは,今では当たり前となってい
として知られるリソースが創設され,私は最初のア
る多くのツールのパイオニアであった。われわれは
ドバイザリー・ボードを務めた。そこでは,主要出
抄録ページをさまざまなフォーマットとリソースの
版社が参加しないことを恐れて,たとえ慎重に審査
中心として利用し,著者名を検索機能に自動リンク
されたとしても査読前の論文は収載しないことをす
させた。また,ファイル共有のため,c o m p r e s s e d
ぐさま決定した。このように個々の研究者が情報配
postscriptからPDFまで電子フォーマットをいち早く
信の遅れを好むのには正当な理由がある。それは,
採用した。このリポジトリによってはっきりしたの
正確さよりも不確実さを選んでしまうという理由か
は,研究者が電子的情報配信手段への完全な移行を
ら,フォローアップのための予備時間を確保するた
歓迎し,心待ちにしていたことだった。また,ユー
め,また社会学的にみた時の出版というものに対す
ザーがコンテンツを提供する基本的な枠組みを示し
る認識の違いに至るまで,さまざまな理由である。
た点において,
「双方向のWebサイト」の原型ともなっ
ある特定の分野では,ともかくピア・レビューがな
た。このコンテンツの価値は,さらに情報共有によっ
されるまでは研究と見なさないのである。
て増幅される。
しかし,a r X i vを採用した分野で,その後に採用を
テクノロジーの構築は,社会的・金銭的な管理よ
中止したところはなく,もはやa r X i vの成長は止めら
り も 多 く の 意 味 で 簡 単 で あ っ た。10年 前, メ イ ン
れない状況である。コンピューター科学などの一部
サイトは私の移動とともにコーネル大学図書館内に
の分野での採用は,当初はほんのわずかであったが,
417
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JOHO KANRI
2011
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長い年月を経て劇的に増加した。物理学のいくつか
の領域でも採用が遅れたことはある。2008年,鉄化
合物の超伝導に関する新しい研究から生まれた物性
物理学の実験研究者らは,研究成果の情報配信に対
して保守的なグループを形成した。しかし彼らは最
終的に,優先権の主張と研究成果を理論物理学者の
前に差し出す必要に迫られ,a r X i vを利用することと
なった。
現在でも,知的優先権の認識については分野によっ
て大きく異なる。私は疑問を感じているが,一部の
分野では,科学者が研究成果を学会などの公的な場
で発表していても,別のグループが同じ研究結果を
写真1 1990年代初期のarXivサーバー
このコンピューターが物理学の世界を変えた。
得て先にジャーナルで発表すれば,まるで査読に
よって妥当性が確認されるまではその情報が存在し
るが,私は個々の科学者の熱心なブログが大きく成
なかったかのように,そのグループに完全な知的優
長するとは思っていない。ディスカッションに関す
先権が与えられうる。ジャーナル編集者や査読者は,
る,より拡張性のあるツールがmathoverflow.netな
安定したリソース上で公的にアクセス可能な,a r X i v
どのQ & Aサイトで提供されている。ここでは熟練し
のような資料で,論文の正当な帰属性を明確にする
た数学者が,お互いに投稿した質問に答える過程で,
よう努力すべきではないだろうか。
a r X i vに収載された数学分野の論文へのリンクを提供
している。
今後めざすもの
繰 り 返 し に な る が, コ ス ト と 人 件 費 の 関 係 で,
a r X i vでは従来のような査読は実施できないであろ
418
a r X i vを利用する分野が多様化したため,多岐に
う。基本的な品質管理維持を目的とした,プレプリ
わたる要望が存在している。一部のユーザーはサイ
ントの最低限のフィルタリングでさえ,相当な日常
ト上の論文に直接関連したコメントスレッドのサ
的管理が必要である。新しく登録される抄録にはボ
ポートを求めている。別のユーザーは著者から提供
ランティアの外部モデレーターがざっと目を通し,
されたコンテンツの品質確保を望んでいる。私は双
主題領域の妥当性を評価している。また,テキスト
方向性を高めることに共感しており,現在のソー
分類(text classifier)などのさまざまなオートフィル
シャルW e bでは一方向のチャネルは時代遅れであろ
ターにより,問題のある投稿には警告を与える。こ
う。しかし,オンライン上のディスカッションで実
のような投稿の割合は全体の1%未満であるが,特定
用性と礼節を維持することは大きな労力を要するた
の領域(物理学における一般相対性理論,量子力学,
め,われわれは,このようなサービスはメインリポ
統一理論,数学におけるリーマン予想の証明,ゴー
ジトリ外で行うべきという方針でいる。同じ考え方
ルドバッハの予想,フェルマーの大定理の新しい証
が自己管理形式または「クラウドソース」形式のレ
明,コンピューター科学のP対NP問題など)に集中し
ビューにも適用される。近年,ある外部のブログが
て見られる傾向がある。
有用なコメントスレッドを立ち上げ,トラックバッ
モデレーターは,それぞれの分野に対して潜在す
ク機能によってa r X i vの抄録ページとリンクさせてい
る関心が何かを明らかにするという課題を担って
ArXiv創設20年
いるが,
「科学とは何か」という命題に立ち向かわ
の更新を共有できるソーシャルネットワークのマイ
ざるを得ない時がある。この点でa r X i vは,S c i e n c e
ンドが人生経験の中で染みついている。しかし,大
Citation Indexがジャーナルの認定機関となったよう
学院生を対象とした私の個人的な調査によると,大
に,収録基準を策定することで,意図せずに研究者
部分の年長の科学者が熟知している情報収集技術は,
の認定機関となっている。物事を判断する時,寛大
大学院生にも知られていた。そしていまだにサイテー
な方向に偏りがちになるが,一部の著者が,a r X i vが
ションツリーをたどり,キーワードで検索し,仲間
決して十分に寛大ではないと異議を唱えるのは避け
や指導者と相談している。後者は,信頼性の低い情
られない。
報源を排除するために,これまでと同様に重要であ
る。学生たちはまた,自宅で作業する時はオープン
デジタル世代
アクセスリソースを優先的に検索していると言って
いる。購読ジャーナルへのアクセスは,施設のプロ
紙媒体によるジャーナルの有用性は廃れてしまう,
キシを介して可能だとしても,面倒だと感じている。
という考え方は1990年代初期にすでにあった。David
大量のデータをナビゲートすることは,否応なく
Merminは1991年のPhysics Todayで,「もっと早く
情報過多の懸念を生じさせる。この現象は,文字が
ジャーナルを廃止し,やり方を再構築すべきであっ
生まれた時代までさかのぼり,印刷機の発明によっ
1)と印象的なコメントを残した。1990年代半ばに
た」
て加速され,それ以来いつの世代でも繰り返し強調
は,a r X i v上での査読前論文への無条件で自由なアク
されている。より優れたフィルターを求めることで
セスと,品質管理されているが登録制による学術誌
表面的には対応できるが,不完全なフィルターであ
購読とが,いつまでも共存し続けることはないと考
れば,フィルターがないよりも有害となりうる。例
えられていた。研究者は15年間にわたり,学術コミュ
えば,よく利用されているレコメンダシステムは,
ニケーションと報酬体系における両者の役割をうま
世界的に人気のある受動的手段に基づいており,個
く区別し,両方の媒体を利用し続けてきた。
人が読む選択肢を広げる可能性があるが,実際には
紙への印刷よりも現代のテクノロジーの方が適し
すべての人を同じ方向へと広げている。その結果,
ている論文フォーマットや機能への移行も,驚くほ
分野全体における多様性がなくなってしまう(皮肉
ど遅い。PDFなどのページマークアップ形式が,操作
な評者なら,すでに流行している分野の流行度を高
可能なグラフィックスやダイナミックビュー,アノ
めると言うだろう)
。
テーションおよびセマンティックマークアップなど
a r X i vを通じて日々同じインターフェースから同じ
の機能をサポートするX M Lベースのフォーマットに
情報を取り込んでいると,われわれが予期せぬ影響
しぶしぶ道を譲った程度である。このようなある種
をユーザーに与えている時がある。デイリーアラー
の警戒感は,数世紀もの間,紙媒体で提供されてい
ト(daily alert)に新しいプレプリントの投稿が表示
た研究文献の記録を安定的に維持したい,という妥
される順番は,たとえ1日だけでも,その日の読者に
当な要求の結果である。
大きな影響を与える。そして6年後,引用記録に無視
次世代の研究者のための学術的コミュニケーショ
できないほどの痕跡を残す2),3)。一部の研究者はこの
ン・インフラストラクチャーを構築するには,現在
ことに気づいていて,自らの投稿が,毎日の午後の
の大学生や大学院生を理解する必要がある。彼らは,
最終受付時間のちょっと後に到着するような時刻を
すぐにオンラインが活用でき,世界中の検索エンジ
選び,翌日のメールで最も目立つようにしている。
ンが利用でき,リンク,写真,ビデオ,自分の状況
長期間にわたり「人気のある」論文をハイライトし
419
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JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
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たフィルターは,この効果を悪化させるであろう。
きである。2011年9月には,国際的な組織がサポート
したがって,群衆行動を抑えるためには,a r X i vのど
する会議がコーネル大学図書館主催で開かれ,a r X i v
のようなレコメンダシステムも,最小限,個々の読
の,各分野の共同支援による共同管理リソースへの
者の好みと関心に応じて個別化する必要がある。こ
移行についてディスカッションされる。そして,次
のようなシステムについての実験が現在行われてお
世代の研究者のニーズに合わせ続けていくことが課
り,うまく機能すれば,1 ~ 2年以内にはオンライン
題となるだろう。
で利用できるようになるかもしれない。
私は,この分野で新しいアイデアを実現させるた
a r X i vの長期的役割,従来の出版業界との関係,資
めには,ある程度ハードルを低くして,たとえほと
金調達モデルの詳細,および知的財産の全般的な監
んどの研究者が失敗したとしても,どこかの数人の
督に関するものなど,現時点での未解決の問題は,
若手研究者が運命的な新たな旅路へと,小さな船を
a r X i vの利用者と利害関係者とで協力しつつ解決すべ
こぎ出せることを望んでいる。
参考文献
1) Mermin, N. D. Publishing in Computopia. Physics Today. 1991, vol. 44, no. 5, p. 9.
2) Haque, A.; Ginsparg, P. Positional effects on citation and readership in arXiv. Journal of the American
Society for Information Science and Technology. 2009, vol. 60, no. 11, p. 2203-2218.
3) Haque, A.; Ginsparg, P. Last but not least: Additional positional effects on citation and readership in arXiv.
Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2010, vol. 61, no.12, p. 23812388.
420
リレーエッセー ●インフォプロってなんだ?
What I do, study, and think as an information professional
ͼϋέ΁ίυ̺̽̀̈́ͭȉ
জ͈ॽমĭġġ‫͍ڠ‬ĭġġ̷̱̀ࣉ̢
ષ࿤ȁ‫ނ‬ঊ
లȁġȁġٝ
ijĺ
‫ૂڠا‬༭‫ފ‬ٛȁૂ༭মު໐
情報管理 54(7), 421-422, doi: 10.1241/johokanri.54.421 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.421)
はじめに
る方々があまり活用していない,ということに気づ
私が所属しているのは,インフォプロや研究者向
いたときであった。一定のルールに基づいた索引が
けの情報サービスであるSTNやSciFinderを提供する機
付与されていることがC Aの一番の強みのはずである
関であり,今までこのシリーズに登場された皆様と
が,作成する側の意図が利用者に伝わっていないの
は立場が異なる。そのため今回の話には戸惑いがあっ
では意味がない,ということを痛いほど感じ,では
たが,今まで仕事の上で多くのインフォプロの方に
その良さや有効な活用方法を知ってもらうにはどう
接する機会があったので,その中で印象に残った方々
すればよいか,ということを考えるようになった。
の仕事に対する姿勢などを思い出しながら,これか
この経験は私のその後の仕事に大きな影響を与える
らインフォプロを目指す皆様へのヒントをご提供で
ことになった。
きればと思い,お引き受けすることにした。
その後異動になり,データベースを作る立場から
サービスを提供する現在の業務に変わった。異動し
就職してから現在まで
た当時はモデム時代であったが,その後恐ろしいほ
本題に入る前に,私自身の経歴について述べる
どのペースでこの業界は発展を続け,データベース
と,大学の工学研究科化学工学専攻の修士課程を修
サービスそのものはもちろん,その利用者の業務も
了後すぐに化学情報協会に入社し,初めはChemical
大きく変化し,インフォプロ(情報のプロ)という
Abstracts(CA)の抄録・索引を作成する部署に配属
名前がぴったりの時代になった。
された。ここでの業務は,日本特許を読んで,C A用
に英文抄録を作成し,特許中の主題や物質を抽出し
尊敬するインフォプロ
て索引を作成することであった。索引作成には厳密
私が今まで出会ったインフォプロの中で,この方
なルールがあるが,自分の作成した索引がルールに
はすごいなと思った方々には,下記のような共通点
のっとっているかを調べるのにS T Nを随分と活用し
がある。
た。この経験があったので,S T NやC A冊子体の講習
・利用するサービスについての理解が深い
会の講師をこの頃から担当していた。私がインフォ
・情報収集に熱心
プロ(当時はサーチャーと呼ばれていた)と出会っ
・横のつながりを大事にする
たのは,この講習会講師を始めた頃であった。
・聞き上手で聞きだし上手
講師の仕事を始めて一番衝撃を受けたのは,自分
これらについて具体的に説明したいと思う。
たちが最も神経を使って作成している索引を検索す
421
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JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
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October
(1)利用するサービスについての理解が深い
そう多くはない。その分,インフォプロにとって技
データベースやサービスにはそれぞれ特徴があ
量向上の場を見つけるのはなかなか難しいと思う。
る。当たり前のことだが「収録されていない情報は
一方,誰でも得意分野を持っている。自身のレベル
見つからない」のである。従って,どのサービスを
アップに熱心な方たちは,インフォプロ同士のつな
利 用 す る 場 合 で も, 収 録 情 報, 収 録 範 囲, 収 録 方
がりを通して,ノウハウを可能な範囲で共有してい
針,検索機能をしっかりと把握しておく必要がある。
る。誰もが始めたときは初心者であるが,どんどん
1980年以降のデータしかないデータベースで1970
力をつけていく方は,いろいろな会(研究会,分科会,
年の論文や特許を見つけることはできない。たとえ
セミナー,シンポジウムなど)に積極的に顔を出し
収録対象雑誌が数千誌あっても,実際には抄録が全
ているように感じる。そのような場に参加すること
体の30%程度しか収録されていないデータベースで
で,多くのインフォプロと知り合いになり,刺激を
キーワード検索をしても,網羅的な検索とはいえな
受け,情報交換をし,知識を蓄積している。
い。化合物に関する調査でも,それぞれのデータベー
スでの索引方針や索引方法を調べずに検索しても結
(4)聞き上手で聞きだし上手
依頼者が求めていることを把握することがイン
果の意味するところは説明できない。「コンテンツ」
フォプロの業務の中で重要な要素であることは言う
を常に意識して,サービスやデータベースを利用で
までもない。しかし,依頼者は自分にとって当然の
きる方は,検索結果について自信が持てるので,周
事実は説明時に省略したり,漠然とした要望しか伝
りからも非常に信頼されている。
えてこないこともある。質問者が満足する回答を提
(2)情報収集に熱心
供するには,何よりもどのような情報が本当に必要
サービスは日々進化している。新たなコンテンツ
なのかを理解することが大事である。それにはまず
や機能がどんどんと追加されていくが,その最新情
は相手の話を聞く,要求のポイントを聞きだすこと
報のフォローを欠かさない人は,新しい情報を十二
から始まる。聞き上手であり聞きだし上手であるこ
分に活用できるので,その分有用な情報へアクセス
とは,信頼されるインフォプロになるために必須の
できる可能性が高くなる。その一方で,業務を始め
能力である。
た頃のノウハウだけを頼りに検索を行い,当時の情
報をそのまま信じている方も結構いらっしゃる。と
ても残念なことである。
今回あげたスキルはどれをとっても特別なものは
ただこれにはサービスする側にも責任の一端はあ
ない。ちょっとした心構えで誰でもが身につけるこ
ると感じている。ユーザーミーティングやセミナー・
とができるものばかりである。これからインフォプ
講習会の開催やホームページでの広報は行っている
ロを目指す皆様はぜひこの4つの要素を頭の片隅にお
が,インフォプロの方が忙しい業務の中で情報収集
いて,仕事を進める上で時折思い出していただけれ
に時間をかけることができなくなっているという現
ば幸いである。
状も理解できる。サービス側としても,より効果的
インフォプロの皆様のレベルアップは,そのまま
な情報伝達手段を考え,もっと多くの利用者にサー
データベースサービスの発展につながる。提供側と
ビスをより有効に活用してもらえるようにしなくて
しても全面的にバックアップしていきたいと考えて
はいけないと感じている。
いる。
(3)横のつながりを大事にする
一社あたりのインフォプロの数はほとんどの場合
422
最後に
視点 ●情報の運用論(その2)
情 報 の 運 用 論( そ の2)
国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター 大 久 保 公 策
情報管理 54(7), 423-425, doi: 10.1241/johokanri.54.423 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.423)
1. 情報の支配(コントロール)とは?
ことで,その授権や禁止のかみ合う議論が始められ
る気がします。社会で情報が生まれて増幅し形を変
わが国の情報に関わる議論や制度はどうもあいま
えて時にアーカイブされ時に失われてゆく「生活史」
いだと感じます。それは情報に関わる日常レベルで
を望ましいものにデザインする運用のための第一歩
の運用感覚の未発達に起因しているのではと思いま
です。
す。例えば所有に基づく財物の運用感覚は非常に発
達しています。「自分の物を他人の物と交換する」
「貸
今回は情報の運用上,制度が授権・禁止するべき
さまざまな形の情報の「支配」を見てみます。
したものは返してもらう」等の「所有」という概念
に基づく物の運用規範は万人に共有されており,法
律を参照する必要もほとんどありません。情報に関
2. 自然状態での情報の支配――伝える相手を選
ぶ
して「僕のアイデア」「彼のデータ」等日常で使われ
る言葉もこの「所有」感覚に基づいて議論されるこ
情報の本質的機能とは伝達性です。そして情報を
とがあります。しかし所有権とは「財物」を対象に「処
シグナル化した人には「相手を選んで伝達/秘匿」
分を排他的に決められる権限」ですから,安直にこ
する権限があります。つまり情報の自然な処分権と
の感覚を情報にあてはめるとあいまいの原因になり
は伝達対象の選択権限です。上手に選択すればちょっ
ます。
とだけ世界を有利に変えられます。
いま対象を一般化して「何かの処分を排他的に決
例えば情報を伝達容易な形にして自発的に提供す
められる権限」を「支配(コントロール)」と呼びま
る「情報発信」はインターネット時代の日本の流行
しょう(表1)
。すると社会には情報関連の対象も含
語です。個人のブログ同様に企業だけでなく大学や
めてさまざまな対象の「支配」を決めている制度が
研究所等の組織でも「情報発信に努める」ことには
あると気づきます。支配欲はよかれあしかれ社会の
熱心です。そして研究所や大学のホームページには
大きなエネルギーとなっているのでしょう。情報に
企業並みに「知らせたい」ニュースや広報が並びま
関しても大きな文脈の中で支配制度を慎重に考える
す。しかしながら客観的にどこかの大学や学部につ
いて考える際に「知りたい情報」,すなわち機関の活
表1 支配する権利のいろいろとその授権制度
表1 支配する権利のいろいろとその授権制度
動歴の客観的かつ多角的特徴――人事財務・施設や
物の支配権
所有権
教育研究に関する詳細な年次統計等――を示す内部
情報の支配権
特許権,著作権,プライバシー権,情報公開法
には必ず存在する情報には到達困難です。つまりこ
身体の支配権
臓器移植法,ヘルシンキ宣言,ニュルンベルク綱領 等
とさらに強調する「情報発信」の後ろに,豊富な内
423
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
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部情報の大部分の秘匿が行われています。このよう
常識化している点で「物の貸し借り」は安心です。
に考えれば「情報発信」とは内部でアクセス可能な
小学生でも「必ず返す」
「また貸し禁止」
「壊さない(価
情報に対して特定の効果――大抵は利己――を持つ
値保全)」等の基本ルールを想像力と実体験で身につ
ように選択的に秘匿/伝達する完全な「内部情報へ
けています。
の支配行使」です。一方情報発信と類義のように使
「貸し出し運用」の為に社会がかけるコストはこの
われる「透明性」とは情報公開法等の定める義務と
ルールの徹底だけです。つまり「貸し出し」は私有
して公共の利益――すなわち利他――の為に外部か
財産制を認めながら少ないコストで物品あたりの総
ら要求される内部情報を提示する態度です。つまり
便益を何倍にもする賢い物の運用法です。
情報源に秘匿/伝達の選択という処分権の行使を禁
じています。簡単には都合のいいことを見せるのが
情報にも「貸し出し」のような賢い運用法ができ
ないでしょうか?
情報発信で,都合の悪いことも見せるのが透明性で
「支配者」が情報を伝達しても,受容者に再伝達の
す。つまり両者は原始的な支配の行使の有無におい
自由がなければ「支配者」の「受容者選択の排他性
て,また権利行使と義務履行という意味において完
=支配」が守られます。つまり「貸し出し」のよう
全な対立概念です。英語ではそれぞれadvertisement/
な運用法とは受容者に「再伝達を禁止」することで
P Rとd i s c l o s u r eとなりますから混同は起こりえませ
す。
「他言は無用」そうすれば「支配者」の「受容者
ん。
選択の排他性」=「支配」が保たれます。
この規則は物品運用での「また貸し禁止」と同じ
3. 高度な情報支配――情報の貸し出し
です。それでは物品運用の「壊さない(価値保全)
」
はどうでしょうか? 情報の価値は知る者の数と逆
情報は一度伝達すると受容者にも再伝達の自由が
発生します。
これでは「支配者」は「受容者選択の排他性」す
なわち「支配」を失ったことになります。
す。ただし「人の口に戸は立てられぬ」といわれま
すから,また貸し禁止を守らせる方法が重要です。
印刷物や道具等の形での情報表現の量産と大量配
「支配」できない情報は利害が対立する相手にも伝
布が可能になると,貸し出し運用のもたらす便益は
わる可能性があります。無限に伝達され価値を失う
国レベルで莫大になります。そこで国家は法により
可能性もあります。
全国民に「情報のまた貸し禁止」を強制しました。
このような支配の喪失のリスクを防ぐ為に防衛的
秘匿が必要な社会では,情報は利害同一集団にとど
まり,社会の情報は無数に分断されることになりま
す。
情報あたりの利用者受益者の数はわずかにとどま
りますから,非常にもったいない運用状態です。
物品の所有者は支配権(所有権)を保持して物を
誰かに「貸してあげる」という運用ができます。貸
424
相関しますから,「他言は無用」で価値保全も万全で
すなわち知的財産法は「他言は無用」による情報の
貸し出しです。
本や映画は媒体を買って表現を借りているだけ,
工業製品は物品を通じてデバイスの製造法等の表現
を借りているだけということです。
一部の資本家以外は情報媒体や工業製品の製造手
段を持たない時代には,また貸し禁止はそれほど遵
守困難なルールではなかったと思われます。
してあげると借り手はお礼をするだけで便益を享受
いずれにせよ情報の「貸し出し運用法」が整備さ
でき,所有者は物から引き出した余剰の便益で感謝
れると,防衛的秘匿が無用になり社会は情報の表現
を得ることができます。そして運用ルールが単純で
にあふれたに違いありません。つまりグーテンベル
視点 ●情報の運用論(その2)
クだけでなく「法による情報支配の保護」が社会に
次回はプライバシー情報や科学データの運用など
大きく貢献したのです。ただしコピー機やスキャナー
の新しい問題について支配権を使って考えコモンズ
等の新技術の出現で支配の保障が困難になっている
の必然についても考察を試みます。
のは周知のとおりです。
最後に筆者は法律についてはきちんと勉強をした
一方観測データや分析データ等の事実データの表
ことがありませんので,ここで書いている内容は歴
現はどんなにコストがかかっていても知的財産法の
史的な事実や法的詳細と必ずしも符合しないことを
ような貸し出し運用規則がありません。従って個人
ご注意いたします。科学データの運用について考え,
や企業内のデータは防衛的に秘匿され,まれに契約
調べたいろいろな情報を筆者なりに解釈し,物語的
で貸し出されています。当然社会はデータに乏しい
に推移や因果に並べ替えたにすぎません。機会があ
状態です。
ればぜひ法律家にお読みいただき必要な訂正を加え
しかしネットワーク時代に,法や契約によらずに
ていただきたいと思います。
また貸しが困難な情報の貸し出し技術が生まれまし
た。それはデータをデータベースサーバーに閉じ込
め,W e bブラウザ等のクライアントソフトを唯一の
アクセス法とすることです。この方法を使えばデー
タに対する検索利用が許されますが,全データをコ
ピーや改変再配布する「また貸し」ができません。
デジタル放送やD V D等のコピープロテクト技術も同
様に,法の遵守を期待せず技術で「また貸し禁止」
を徹底しようというものです。「技術による情報支配
執筆者略歴
大久保 公策(おおくぼ こうさく)
1982年東京大学工学部卒業。'86年大阪大学医学部卒
業。'91年同大学院医学部博士課程修了。同大細胞工学
センター助手。'94年同大細胞生体工学センター助教授。
2001年産業科学総合研究所生物情報研究センター遺
伝子発現頻度解析チーム・チームリーダー。'02年九州
大学防御医学研究所教授。'04年より国立遺伝学研究所
教授。'09年より同研究所生命情報・DDBJ研究センター・
センター長。
の防衛」の登場です。
425
情報管理
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Random walk for a half century
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30-10年前:情報工学から情報法学へ
名和小太郎
情報管理 54(7), 426-428, doi: 10.1241/johokanri.54.426 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.426)
1976年,私たちは日本で最初の実用のパケット網
に受けるようになった。業界誌からも,ビジネス誌
ACTを開発し稼働した。ところが郵政省がその稼働を
からも,さらには全国紙からも意見を求められるよ
直ちに停止せよと指示してきた(前号参照)。A C Tが
うになった。
公衆電気通信法(以下,公衆法)を侵害したという。
私は茫然とした。
当時,企業人の美学は組織の一員として黒子に徹
することであった。この環境のなかで,私の行動は
当時,通信回線の利用は電電公社が仕切っており,
目立ったらしい。そのためだろう。私はコンピュー
その約款――100ページ以上――は公衆法に基づいて
タ室長の職を解かれ,社長直轄の新設シンクタンク
作られているはずであった。ユーザーたる私は公社
部門へと転出を命じられた。
の言うがままに回線の契約をしていた。それが公衆
私は新しいボスに訊ねた。「なにを大切とお考えで
法違反だといわれた。公社も郵政省の指摘に困惑し
すか」
「法令の遵守だ」
。当世風にいえば,ボスはシ
たらしい。
ンクタンクに対して,CSR(企業の社会的責任)の機
郵政省の指摘はA C Tが共同使用(関連会社間の利
能を求めていたことになる。そういえば,梅棹忠夫
用)
,他人使用(取引先との利用)において,法を逸
はシンクタンクのCSR的機能を「お稲荷様的効用」と
脱している,というものであった。この時期,公衆
称していた。当時,都心のビルの屋上にはお稲荷様
法には,ネットワークという概念はなく,通信回線
が鎮座していた。
はポイント・トゥ・ポイントでサービスするという
発想しかなかった。
私たちの会社はもとはといえば繊維メーカーで
あった。だがこの時期,
石油化学,
住宅建築,
電子部品,
詳しい説明は省くが,ACTはポイント・トゥ・ポイ
医療機器…と,ビジネス・モデルの異なる分野に事
ント的には合法だが,ネットワーク的には合法とは
業を広げつつあった。だからボスの意図は理解でき
言い切れなかった。結果として,私は郵政省と公社
た。私はそれを自分に都合よく解釈することとした。
に小突かれつつ,落としどころを探さなければなら
ない羽目に追い込まれた。
当時,公衆法は郵政省と公社とが心得ていればよ
化論がくすぶり始めた。ある日,コンピュータ・ユー
い法律であった。だが,こんな事情で,私はビジネ
ザーの大先輩である石原善太郎さんが,突然,私の
ス分野で唯一,公衆法に詳しい人間になってしまっ
オフィスに来訪され,経団連で公社民営化の組織を
こうもり
た。いわば鳥なき里の蝙 蝠になった。おりしも,シ
426
1980年代になると,ビジネス界では,公社の民営
立ち上げるから手伝え,とおっしゃった。
ステムのコンピュータ・ネットワーク化は大規模企
石原さんは言った。委員会のメンバーはユーザー
業での関心対象になりはじめていた。そうした企業
本位で決めたい,大学,役所の関連機関,コンピュー
のシステム部長から,私は公衆法対策の相談を頻繁
タ事業者の参加は避けたい,と。委員会に参加して
ランダム・ウォーク半世紀 ●30-10年前:情報工学から情報法学へ
みると,そこにはIBMのGUIDE/SHARE(『情報管理』
を 放 っ た。 当 時, 法 学 の 専 門 誌 はA5判, 縦 書 き が
54巻3号本欄参照)で知り合った顔が並んでいた。
当たり前であったから(法学誌『ジュリスト』が横
これが最初で,このあとあれこれの公的,私的の
委員会に参加を求められるようになった。これもCSR
組みになるには2001年まで待たなければならなかっ
た)。
の一助と私は割り切った。公社民営化論に関する私
の蝙蝠的な言辞がそれなりに面白がられたらしい。
私は法学についてはズブの素人であった。したがっ
て,さまざまな文化衝撃を受けた。私は理工系の分
思いがけないことが生じた。中曽根内閣が第2次臨
野で長らく仕事をしてきたものであり,ここには,
時行政調査会を立ち上げ,その財界代表の委員とし
すべては変化する,という認識があった。ポパーは
て,私のボスを任命したのである。その第2臨調の主
これを反証可能性という論理で,クーンはこれをパ
要課題は,
今日の言葉でいえば,
事業仕分けであった。
ラダイム・シフトとピースミール・エンジニアリン
ボスには会社経営という本業があった。だから調
グの組み合わせとして示していた。
査会への対応を私たち部下に丸投げした。私に割り
だが,このような発想は法律家の文化のなかには
振られた役割は情報・通信制度に関する論点整理で
なかった。法律家は人間の社会的な活動について,
あった。
その予見可能性を重視し,これを維持するために法
その論点は多岐にわたった。まず,公社の民営化。
このほかに,ソフトウェアの知的所有権,統一個人
コード制,地域情報化,情報通信主権,個人データ
保護,統計データの公開など。
律の変更に慎重なためであった(『情報管理』52巻
3-4号「技術者と科学者 同じ,それとも違う(上)
(下)
」参照)
。
ということで,私のみるところ,法律というのは
このとき,私の付き合いも広がった。まず官僚諸
出来の悪いコンピュータ・プログラムに見えた。そ
氏とあれこれの審議会などを通じて顔見知りになっ
れはやたらとc a l l命令の多い,相互引用のもつれあっ
た。さらに国会の参考人として呼び出されたり,代
たプログラムに似ていた。
議士のゴースト・ライターをさせられたり,もした。
シンクタンクを「知と権力に架かる橋」と呼んだ人
1985年,公社はNTTになった。この後,NTTの営業
がいるが,この後,この言葉を私は実体験すること
担当がユーザーのコンピュータ室に挨拶にくるよう
となる。こんな事情で,技術者風情の私はいつしか
になった。公社の時代,ユーザーは盆暮に地元の電
法律の世界に迷い込んでしまった。
話局に付け届けをしていたのだが。
1980年代初頭,情報通信制度に関心をもつ研究者
当時,私はもう一つのテーマを持っていた。それ
は少なかった。私は,飛びこみで,あるいは伝手を
はデータベースの著作権についてであった。私はデー
たどって,法学者に教えを乞うた。幸いにも,井出
タベースの事業者団体から,利害関係者として,著
嘉憲(行政法)
,北川善太郎(民法),堀部政男(プ
作権審議会へ放り込まれていた。この目的は1986年
ライバシー保護),山本草二(国際法)などの諸先生
に著作権法の改正として実現した。だが,私の蝙蝠
が親切に相手になってくれた。
的な存在が珍しかったのだろう。なんだかんだ21世
法とコンピュータ学会がその機関誌を発行したの
紀初頭まで,この審議会の専門委員をさせられた。
は1983年であった。私はここに入会した。その学会
とくに90年代になると,デジタル技術の発達とイ
のジャーナルはB5判,横書きで法学の世界では異彩
ンターネットの普及にともない,著作物は千変万化
427
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
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しっかい
の姿形をとるようになった。私は,著作権法の枠組
が悉 皆に,しかもフル・テキストの形で収録されて
みそれ自体が破綻を生じていると理解し,いたずら
いた。判例にいたっては19世紀のものまで入ってい
な権利強化は問題を解決することにはならないと気
た。
づき,いろいろな提案をした。たとえば,登録を権
私は,このデータベースを利用して正統派の法学
利取得の前提にせよ,あるいは,鍵をかけた著作物
者がとりあげない周辺的な話題を論じた。それは,
のみを保護の対象にせよ,さらには,著作物の利用を,
地図の製造物責任,人工降雨の所有権,実験動物の
使用が先,許諾は後にせよ,つまりオプトアウトに
特許などにわたった。法学者からの反響は皆無であっ
せよ,とも言った。
たが,技術者やジャーナリストには受けた。蝙蝠的
いずれも,今日では法律家諸氏も主張するものと
な能力にさらなる磨きがかかった。
なった。だが,当時は,私の言説はベルヌ条約の原
則もわきまえない素人論,と無視された。この時代,
虚名のなせるわざか。いろいろな話が飛びこんで
会議の公開も議事録の公開もなかった。私は,いま
きた。まず,情報処理学会から学会の倫理綱領をと
になって,先行者としての証拠を示せないことが口
りまとめよ,と求められた。水野幸男さんからであっ
惜しい。
た。つぎに,京大哲学科から大学院に情報倫理の講
義枠を設けたので手伝え,と招かれた。加藤尚武さ
1991年,私は新潟大学法学部に教師として招かれ
んからであった。さらに,ボランティアの研究集団
た。与えられた講義名は「情報法」であった。招じ
からリスク・コミュニケーションについて新しい社
てくれた学部長は言った。「情報法」という呼び方に
会実験――コンセンサス会議――をするから参加せ
苦情が入ったよ,と。そして,「○○法」というのは
よ,という誘いがあった。若松征男さんからであっ
民法や刑法などきちんとした法律を指し,怪しげな
た。また環境庁から低炭素社会の基本設計をするの
法律は「法○○」と命名するのだそうだ,法哲学,
で協力せよと求められた。西岡秀三さんからであっ
法社会学のようにね,と笑った。
た。
私は徒手空拳であった。だが,思いがけない道具
を手にした。それはL E X I Sという米国の法学データ
ということで,私のランダム・ウォークは止まる
ことがなかった。上滑りに上滑りが重なった。
ベースであった。ここには,法令,判例,法学論文
参考資料
a) 行政管理庁監修・旭リサーチセンター編. コンピューター・社会・情報政策. 日刊工業新聞社, 1983.
b) 名和小太郎. 電子仕掛けの神. 勁草書房, 1986.
c) 名和小太郎. 雲を盗む. 朝日新聞社, 1995.
d) 名和小太郎. サイバースペースの著作権. 中央公論社, 1996.
428
この本!おすすめします ●科学技術情報と外国語
立 花 肇 (ゼファー株式会社)
科学技術情報と外国語
情報管理 54(7), 429-431, doi: 10.1241/johokanri.54.429 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.429)
生物学・農学研究者として18年,科学技術情報専
門家として30年が過ぎてしまいました。ここ15年ほ
どは文献や特許の翻訳に関わることが多く,翻訳に
関連する本を読む機会が増えました。科学技術情報
と外国語の関係について考えてみると,昔の人たち
は英語,ドイツ語,フランス語,ロシア語など,種々
の外国語を学ぶ必要がありました。しかし今日では,
ドイツもフランスも小学校から英語を教えていま
す。最近アフリカ南部を訪れましたが,どこの国も
英語を国語としていました。ですから私たちは英語
だけをマスターすればよいのです。英日・日英翻訳
http://www.d21.co.jp/products/isbn9784887596894
http://www.d21.co.jp/products/isbn9784887596894
について,いろいろ教えられた本も多くありますが,
それらの中からぜひ皆さんに読んでいただきたい本
して,本書にまとめたものです。全部で140の英文が
をご紹介します。また,今回の東日本大震災を期に,
あり,その1つ1つを丁寧に読めば,誤訳率は確実に
科学技術のあり方を考え直す必要が出てきました。
減少するでしょう。
当然,科学技術情報のあり方,科学技術情報担当者
日本人はなぜ誤訳をするのでしょうか。それは,
のあり方についても,考えなければなりません。こ
日本語と英語の構造的な違い,文法の違いをきちん
こでは,比較的読みやすく,読んで飽きない本を3冊
と理解していないためです。科学技術文献や解説書
ご紹介します。
の誤訳について,上智大学教授だった別宮貞徳氏が
多くの著書で,翻訳者の実名を挙げて指摘している
『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』
のは有名ですが,著名な科学者も結構誤訳をしてい
越前敏弥
ます。だからといって,私たちが誤訳をしてもよい
ディスカヴァー・トゥエンティワン
ということにはなりません。
(ディスカヴァー携書),2009年,1,050円(税込)
本書によると,誤訳を避けるためには英文を必ず
左から右へと読み進むことだそうです。「何だ,当た
著者の越前敏弥氏はあの『ダ・ヴィンチ・コード』
り前じゃないか」と思われそうですが,左から右へ
の翻訳者として有名ですが,翻訳学校で長年教えた
ときちんと読めば,何が省略されているのか,代名
ことがあり,日本人が誤訳に陥りやすい英文を収集
詞が何を指しているのかが,間違いなく読み取れる
429
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
October
http://johokanri.jp/
といいます。このことは,日本語にするときに頭か
日英特許翻訳の専門家として活躍し,青山学院大で
ら順に訳せと言っているのではありません。頭から
技術翻訳を教えていた人です。長年の経験で得た多
理解しなさいと言っているのであって,日本語にす
くのノウハウを蓄積して,ようやく本書にまとめま
るときには正しい日本語,美しい日本語に書き換え
した。本書には「高品質の英文明細書にするために」
ればよいのです。
という副題が付いていますが,ご承知のように特許
本書では,前半で日本人が誤訳しやすい英文を文
法の項目別に配列し,比較的短い英文について正し
い訳し方を示し,後半ではそれらが複雑に混在した,
明細書というのは,法律文書であると同時に技術文
書でもあるので,注意すべき点が多々あります。
私たち日本人がどんなに頭を絞っても,優れた英
難易度の高い英文を示しています。筆者はこの本を
文明細書を考え出すことはできません。ではどうす
頭からゆっくりと3回読みましたが,それで大体日本
ればよいかといえば,優れた英文明細書をそっくり
人が犯しやすい過ちを理解することができました。
真似ればよいのです。日本特許情報機構(JAPIO)が
この4月から,会員企業に限って英語と日本語の例文
『特許翻訳の基礎と応用―高品質の英文明細書
が対になったデータベースのサービスを開始しまし
にするために』倉増一
た。これも同じ考えで,日英翻訳では優れた英文を
講談社サイエンティフィク,
どうやって見つけ出すかが重要です。本書にはたく
2006年,3,675円(税込)
さんの例題が載せてあり,それらの英文を自分の翻
訳したい日本語に適切に割り当てていくことにより,
優れた英文を仕上げることができます。
実際に本書をテキストとして,筆者等は倉増一氏
に講師をお願いし,勉強会を開きました。毎月1回で
2年間続けて,かなり力はつきましたが,日英翻訳で
1本立ちするまでにはなりませんでした。日英翻訳と
いうものの難しさを実感しました。
『遠き落日』上下巻,渡辺淳一
角川書店(角川文庫),1982年,483円(税込)
http://www.kspub.co.jp/book/detail/1556102.html
http://www.kspub.co.jp/book/detail/1556102.html
海外に特許を出願するには,どうしても英語の明
いた小説で,映画化もされたのでご存知の方も多い
細書を書く必要があります。筆者は研究者の時代に
ことでしょう。作者の渡辺淳一氏は筆者の高校の先
多くの海外特許を出願しましたが,その英文は外注
輩に当たる方で,医師で小説家として有名です。こ
によるものでした。しかしそれでも,その英文が適
れまでたくさんの野口英世の伝記がありますが,作
切かどうかを判断しなければなりませんでした。外
者は日本とアメリカで膨大な資料を集め,小説家と
注に出す特許部(知財部)の担当者ならなおさらで
しての文才と医師としての事実を見つめる科学的な
す。しかし本書が出るまで,適切な教科書が見当た
目で,人間野口英世を見事に表現しています。
りませんでした。
著者の倉増一氏は筆者の古い友人でもありますが,
430
本書は世界的細菌学者である野口英世の生涯を描
筆者がなぜ渡辺淳一氏の描く野口英世の虜になっ
たかといえば,第一に野口英世は情報専門家であり,
この本!おすすめします ●科学技術情報と外国語
英世の研究方法は,これまでの経験と情報をフル
に生かして,病原菌を突き止めることでした。今に
なってみるとその中に多くの過ちが見られます。最
も大きいのはウイルスの存在に気がつかなかったこ
とです。しかしそれは英世1人が悪いのではなく,当
時の多くの学者もそうでした。
私たちが学ばなければならないのは,人類が知り
得たことはほんのわずかであり,自然界にはまだま
だ未知の謎が多く存在するという事実です。人間は
ⓒ角川書店
謙虚な気持ちで自然界に対して教えを請わなければ
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=199999130714
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.
php?pcd=199999130714
なりません。科学技術情報担当者も同じことで,情
科学研究における情報の大切さをよく理解し,それ
ちで新しい世界への探索法を,科学者に提示する義
を実践したことがあります。第二には語学の大切さ
務があります。野口英世は正にそのことを,自らの
を認識して,20歳代前半で英,独,仏語の文献を辞
命に代えて私たちに教えてくれたのです。
報が存在しない未知なる神秘に対して,敬虔な気持
書なしで読むほどであり,英語の論文はネイティブ
福島県出身の野口英世は,東北人の誇りだといわ
より速い速度で書いたといわれています。そして第
れています。大震災からの復興には,野口英世の持
三に,これが最も重要ですが,情報と自分の勘に頼
つ強烈なイメージとエネルギーが必要なのではない
りすぎて,未知なる物への恐れを忘れたことにより,
でしょうか。
自らの命を落としたことです。
英世は医師登録試験に合格したのに,郷里に帰っ
て開業する道を選ばず東京にとどまり,順天堂を経
て北里研究所に勤務しました。しかしどこでも学閥
が強く,学校を出ていない英世は臨床や動物実験を
することができず,他人の手伝いや情報管理の仕事
をするだけでした。しかし英世は図書館の仕事や医
事週報などの出版の仕事を通じて,情報の大切さを
学びそれを生かして,新しい道を開拓してゆきます。
執筆者略歴
膨大な文献を読破して,それらを翻訳したり総説を
立花 肇(たちばな はじめ)
書いたり,レポートにまとめたりしています。
卒,東洋高圧(現三井化学)入社,18年間農材研究所勤務。
こうした英世の武器は語学でした。福島で中学に
通う間に外国人に付いて英語とドイツ語を学び,東
1940年北海道利尻島生まれ。1963年北海道大学農学部
農薬,医薬,環境保護の研究に従事。日本化学物質安全・
情報センター(JETOC)に3年間勤務の後,1984年より三
井化学技術情報センターにおいて情報活動を行う。1995
京に出て医師になるための予備校に通いながら,フ
年(株)湘南情報サービスを設立(三井化学の子会社)し,
ランス人にフランス語を学んでいます。それに比べ
代表取締役社長に就任。2000年に同社はゼファー(株)
て今の医師はなんて楽なことでしょう。英語さえ知っ
ていればインターネットでPubMedを検索でき,欲し
い情報を入手できるのですから。
と合併し,三井化学から独立。現在は同社の取締役会長。
主に科学技術論文の翻訳・抄録作成を行っている。
2004 ~ 2009年:(社)情報科学技術協会会長
2003 ~ 2010年:実践女子大学・短期大学講師
431
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
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October
コロナ社
2011年
研究ベース学習
A5判
208p.
2,730円(税込)
小山田耕二,日置尋久,古賀崇,持元江津子●著
ISBN 978-4-339-07793-3
情報管理 54(7), 432-432, doi: 10.1241/johokanri.54.432 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.432)
「研究ベース学習」とは聞き慣れない表現であろ
う。著者らが「『プロジェクトベース学習』を念頭に」
「命名したもの」だからである(p . i)。主に大学1年生
なわち「論文や口頭発表の手法」を取り上げている
(p .74)。第4章「学術文献の探索と評価」では,研究
が「受験勉強で忘れてしまった」「『研究する力』」を
過程における学術文献の位置づけを概観したうえで,
思い出し,
「研究を体験」することを本書はめざして
論文と図書の違いにまで遡り,学術文献の種類や特
いる(p.i)。
徴,主に図書館を活用した文献の探索・収集の方法
大学生,とりわけ1年生が「スタディスキル」を身
について,個々の二次資料にも触れながら丁寧に書
につけることを意図した図書は,すでに少なからず
いている。少ない紙幅でインターネット上のものを
出版されている。本書が類書と異なるのは,単なる
含めた学術文献の評価にまで触れているのは見事で
手順書としてではなく「指南書」(p . i)として編まれ
ある。
ていることであろう(手順書に意味がないと言いた
第5章「論文執筆と研究発表」では,論文執筆につ
いわけではない)。「スキル」を身につけたとしても,
いて,事実と意見の区別,剽窃・捏造の禁止,といっ
大学での学習によって成果が得られるとは限らな
た基本的な事柄に触れたうえで,論文の構成から段
い。スキルの基盤として重要なのは,学習――ここ
落・文の書き方まで,詳細に述べている。論文の投
では「研究ベース学習」ということになろう――を
稿や査読についても節を設けている。大学1年生が学
進めるうえでの心構えとでも呼ぶべきものであろう。
術雑誌に投稿することは少ないだろうが,論文が学
本書は,まさにそれを説くところから始まってい
術の世界における評価システムのなかで存在してい
る。すなわち,第1章「研究する心を取り戻す」では,
ると知ることは有益であろう。論文のあとに,口頭
受験勉強(的な学び)からの脱却を促している。第2
発表に関する説明が続いている。
章「科学的方法について」では,科学哲学の歴史を
大学における学びが「学問」ではなく「学習」と呼
紐解きながら,推論,演繹と帰納,命題などの概念
ばれるようになり,
「研究」に基づく(はずの)もの
を整理したうえで,本書が基礎に据える仮説検証法
であることが見えづらくなっている今,本書が世に出
について説明している。事例を通した説明によって,
る意義は小さくない。
学生が
(小手先の)
スキルに走り,
仮説構築からデータ収集・分析,仮説評価までの流
れが体験的に理解できる。
「コピペ」でレポートをお手軽に仕上げてしまうよう
になる前に,できれば入学直後に手に取ってほしい一
このうち,
「データの収集と分析」については,第
冊である――むろん,2年生以上・大学院生になって
3章において,アンケート調査を取り上げて,具体的
からでもお薦めできるのだが。指導者である大学教
な方法を解説している。調査票における質問文の作
員にとっても一読の価値があろう。巻末には付録とし
り方からグラフの種類の選択まで,豊富な事例を挙
て京都大学での実践例が掲載されている。
げながら説明している。
432
第4,5章は,「『研究ベース』での情報発信」
,す
(青山学院大学教育人間科学部 野末俊比古)
情報界のトピックス ●Topics of the information community
情報管理 54(7), 433-436, doi: 10.1241/johokanri.54.433 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.433)
オーファンワークス(孤児著作物)・プロジェ
なる。9月10日現在リストには167作品が掲載されて
クトに5大学が参加
いる。他大学のオーファンワークスはその大学の構
成員しか見ることが許されないが,ミシガン大学が
著作権者不明のオーファンワークスを特定するこ
オーファンワークスであると見なした作品を他の大
とによって,HathiTrustデジタルコレクションに含ま
学もHathiTrustに登録している場合は,両方の大学で
れる自館の蔵書へのアクセスを広げようという,ミ
公開することができる。また,一般公開されている
シガン大学図書館が先導するプロジェクト(v o l .54,
大学図書館においては,訪問者は図書館のコンピュー
n o .4の本欄にて既報)に,フロリダ大学とウィスコ
ターからのアクセスが可能である。
ンシン大学に加え,新たにカリフォルニア大学,コー
(http://www.libraryjournal.com/lj/newsletters/n
ネ ル 大 学, デ ュ ー ク 大 学, エ モ リ ー 大 学, ジ ョ ン
ewsletterbucketljxpress/891836-441/hathitrust_
ズ・ホプキンス大学の5大学図書館が参加することが
orphan_works_project_grows.html.csp)(http://www.
8月24日発表された。50を超える研究機関が参加す
universityofcalifornia.edu/news/article/26172)(http://
るHathiTrustには950万件のデジタル化図書が登録さ
news.library.cornell.edu/news/110824/orphanworks)
れているが,そのうちミシガン大学が440万件以上,
(accessed 2011-09-12).
カリフォルニア大学が約300万件など,これらの大
学が提供する図書の割合は87%を占めている。現在
JSTORが初期のジャーナルコンテンツを公開
HathiTrustコレクションのうちパブリックドメインに
属するものはわずか27%しかないが,徐々にアクセ
J S T O Rは, 米 国 で 出 版 さ れ た1923年 以 前 の 学 術
ス可能な図書が増加することが期待される。L i b r a r y
ジャーナルコンテンツと,それ以外の地域で出版さ
Journal誌によれば,ミシガン大学のオーファンワー
れた1870年以前の学術ジャーナルコンテンツを,9月
クス特定作業は次のように進められる。まず研究者
6日から無料公開すると発表した。機関に所属してい
が主に1923年から1963年に出版された特定作品の権
なくても,誰もが登録することなく自由に利用する
利状況を調査し,著作権保有者を特定できない場合,
ことができる。対象となるのは,200を超えるジャー
その書誌情報をHathiTrust Digital Libraryの「Orphan
ナルに掲載され,パブリックドメインに属する論文
Works Candidates」のページに90日間掲載する。そ
50万件で,J S T O Rの持つコンテンツの6%に当たる。
の間に著作権保有者が名乗り出なければ,その作品
分野は,芸術・人文科学,経済学,政治学,数学,
はオーファンワークと見なされ,著作権保有者が現
その他の科学など多岐にわたる。ただし,パブリッ
れて異議を唱えるまでは,ミシガン大学の学生と教
クドメインに属するコンテンツのすべてが無料公開
職員や研究者に公開される。7月にはオーファンワー
されるわけではない。現在153か国7,000機関に学術
ク候補作品の第一陣が掲載されており,そのうち著
ジャーナルのバックナンバーを提供しているJ S T O R
作権保有者不明の作品は10月には公開されることに
は,このサービスを利用できない独立研究者などに
433
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
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October
より多くのコンテンツを無料提供するための第一歩
Technologies Policy Support Programmeが,その
であるとしている。今年7月に,J S T O Rアーカイブか
80%を負担する。
ら約480万件の論文を盗んだとして,オープンアクセ
(http://www.libereurope.eu/news/europeana-
スの活動家Aaron Swartz氏が逮捕されるという事件
libraries-content-content-content)(accessed 2011-09-
(vol.54, no.6の本欄にて既報)があったが,その影響
について,J S T O Rは次のように述べている。「初期の
ジャーナルコンテンツ公開は,以前から計画されて
12).
米国特許法「先願主義」へ
いたものであるが,その動機が誤解されるのを避け
るために,計画を早めるか,遅らせるか慎重に検討
米国議会上院は9月8日,米特許法改正案「リーヒ・
した。その結果,計画を推し進めることが個々の研
スミス米国発明法案」
(H . R .1249)を89対9で可決し
究者,図書館,出版者にとって最大の利益となると
た。この改正案での主な変更点は,従来の「先発明
考えたのである」。
主義」から「先願主義」への移行である。世界の中
(http://about.jstor.org/participate-jstor/individuals/
で米国のみが「先発明主義」を採用しており,IBMや
early-journal-content)(accessed 2011-09-12).
Microsoft,Intelなどのテクノロジー企業などは他国
E uropeana Librariesプロジェクトがコンテン
ツ収集を開始
と同様の先願制度を支持してきた。同法案は6月に下
院を通過しており,オバマ大統領の署名を待つ段階
となった。
(http://www.opencongress.org/bill/112-h1249/)
2011年1月に始められたEuropeana Librariesプロ
ジェクトが,ヨーロッパの主要な大学・研究図書館
19館が所蔵する,500万点に及ぶデジタルオブジェク
(accessed 2011-09-12).
Twitter,アクティブユーザーが1億人突破
ト収集の第一段階を9月5日に開始した。既に3図書館
が所蔵する約100万点のオブジェクトを処理中で,年
米Tw i t t e rは9月8日,同サービスのアクティブユー
末までに47コレクションのうちの9コレクションに含
ザー数が1億人を突破したと発表した。同社はアク
まれる150万点がE u r o p e a n a(欧州デジタル図書館)
ティブユーザーを「過去1か月に1回以上ログインし
に集められる。2012年末までには全オブジェクトの
たユーザー」と定義している。この1億人のアクティ
収集が終了する予定である。ボドリアン図書館は,
ブユーザーのうち,半分以上は毎日T w i t t e rにログイ
デジタル化された大量の図書やジャーナルとオック
ンしている。また40%は自分ではツイートせず,情
スフォード大学が所蔵する貴重品を,エストニアの
報収集などに利用しているとしている。同社はユー
タルトゥ大学は,署名,写真,地図,カントの手紙,
ザーアカウント総数を発表していないが,今年4月に
ビデオクリップを,ドイツのバイエルン州立図書館
は,ユーザーアカウント数が2億人以上であることを
は,3Dデジタルブックやただ1つしか存在しない中世
明らかにしている。
のマニュスクリプトを提供する。これらのコンテン
(http://blog.twitter.com/2011/09/one-hundred-
ツは,EuropeanaとThe European Library(欧州図書館)
million-voices.html)(accessed 2011-09-12).
のW e bサイトから自由にアクセスすることができ
る。プロジェクトのコストは387万ユーロ(約4.1億円)
で,欧州委員会のInformation and Communication
434
情報界のトピックス ●Topics of the information community
Google,著作権侵害対策の進捗を発表
る「電子海賊版」が大量に出回ることを懸念してい
る。代行業者への質問としては,1)許諾のない状況
米G o o g l eは9月2日,著作権侵害に対する4項目の
で今後もスキャンを続ける予定があるか,2)依頼者
取り組みについて,進捗状況を発表した。この取り
の目的が「私的利用」であるかどうかをどのように
組みは,2010年12月に同社が発表したもので,「権利
確認しているのか,3)法人からのスキャン依頼に応
者による削除要求を簡易化するツールの提供と,24
じているか,の3点について回答を求めている。
時間以内の対応」「検索キーワードのオートコンプ
(http://www.shueisha.co.jp/info/release110909.pdf)
リートへの著作権侵害関連用語の非表示」「AdSense
(accessed 2011-09-12).
(広告配信サービス)からの著作権侵害サイトの締め
出し」
「合法的なプレビューコンテンツの容易な検索」
津波警報の配色を統一,誰にでも見やすい色に
の4項目。このうち,削除要求のためのツールは2011
年初めに作成済みで,すでに十数社のコンテンツ業
N H Kと在京民放各局が8月中旬までに,テレビ画面
界パートナーに利用されている。また対応時間も24
で表示される津波警報・注意報で使う色を,判別し
時間を下回っているという。オートコンプリートへ
やすい色で統一したことがわかった。2010年2月のチ
の対応についても,1月から著作権侵害関連の用語の
リ地震の際,警報の配色について,色覚障害者から
フィルタリングを実施している。同社は,「高付加価
「大津波警報と津波警報を見分けられない」との指摘
値のコンテンツが許可された形で利用できるように
があったことがきっかけ。N H Kなどから相談を受け
することは,著作権侵害との戦いの中で不可欠」だ
た,色のバリアフリー研究を行う東京大学の伊藤啓
として,権利者やユーザーのために,今後もプロセ
准教授が,なるべく多くの人に見分けやすい配色と
スを改善していくとしている。
色調の開発に取り組んだ。3月の東日本大震災には間
(http://googlepublicpolicy.blogspot.com/2011/09/
に合わなかったが,5月から導入を開始し,8月中旬
making-copyright-work-better-online.html)(accessed
までに統一の配色が導入された。新しい配色は,大
2011-09-12).
津波警報は紫,津波警報は赤,津波注意報は黄色とし,
出版社・作家ら,電子書籍の「自炊代行業者」
へ質問状
背景の陸はグレー,海は濃い青とした。最も目につ
きやすい「赤」を,最も危険度の高い「大津波警報」
ではなく,より発令頻度の高い「津波警報」に使う
よう配慮されている。また,大津波警報はラインの
講談社,集英社など出版大手7社と,作家・マンガ
線幅を2倍にする,ラインの輪郭を見やすくするなど,
家ら122人は9月5日,紙の書籍の電子書籍化を代行す
デザイン面の変更もされている。全国各地の放送局
る業者約100社に対して,著作権侵害の疑いがあると
も順次,新しい配色・デザインに対応していく予定。
して連名で質問状を送付した。紙の書籍を断裁して
(http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/color/tsunami/)(accessed
スキャナーで読み取り,電子書籍化する行為は「自炊」
2011-09-12).
と呼ばれる。質問状では,ユーザー個人による「自炊」
は著作権法上の「私的複製」として認められるものの,
電子端末,中高年層にも普及
専門業者による「自炊代行」は複製権の侵害にあたり,
代行業者に対して作家が許諾を与えたことはないと
米国の調査会社Nielsenは8月25日,2011年4月~ 6
指摘。自炊代行業者の既成事実化によって,いわゆ
月における電子端末ユーザーの年齢・性別などにつ
435
情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
いての調査結果を発表した。年齢層別では,55歳以
に対し,スマートフォンでは男女比は等しく,タブ
上のタブレットユーザーの比率が,2010年10月~ 12
レットでは男性が多かった(57%)
。また2010年10月
月の調査では10%だったのに対し,今回の調査では
~ 12月との比較では,どの種類の電子端末でも女性
19%に増加している。また電子書籍リーダーでは,
ユーザーの比率は増加している。
55歳以上のユーザーは30%となり,中高年層で電子
(http://blog.nielsen.com/nielsenwire/?p=28695)
端末の普及が進んでいることがわかった。性別では,
(accessed 2011-09-12).
電子書籍リーダーは女性ユーザーが多い(61%)の
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October
PINUP
・10月28日(金)
10:00 ~ 12:30 トーク&トーク
「あなたの会社の特許・知財活動を評価す
る!?」
「電子書籍の浸透を阻むものは何か」
13:30 ~ 15:20 プロダクトレビュー(4社)
13:30 ~ 16:55 一般発表(3会場,14件)
第8回情報プロフェッショナルシンポジウム
(INFOPRO2011)
独立行政法人科学技術振興機構(J S T)と社団法人
情報科学技術協会(INFOSTA)の共催による「第
8回情報プロフェッショナルシンポジウム」(略称
INFOPRO2011)が下記により開催される。
■日時:2011年10月27日(木)午後 ~ 10月28日(金)
■会場:日本科学未来館7階
〒135-0064 東京都江東区青海2-3-6
URL: http://www.miraikan.jst.go.jp/
■プログラム概要:
・10月27日(木)
13:00 ~ 14:55 一般発表(2会場,8件)
プロダクトレビュー(4社)
15:30 ~ 17:00 特別講演
「はやぶさ」が挑んだ人類初の往復の宇宙
飛行,その7年間の歩み
川口淳一郎 独立行政法人宇宙航空研究開
発機構 教授
17:30 ~ 19:30 情報交流会
■シンポジウム参加費(予稿集代,消費税含む)
一般:6,300円,学生:2,100円
■情報交流会参加費(消費税含む)4,200円
■参加申込
・INFOPRO 参加申込ページ
(http://johokanri.jp/infopro.html)から
・または,本誌広告ページの申込用紙にて,用紙
に記載の送付先へ郵送またはFax
■問い合わせ先
INFOPRO受付担当
Tel:03-5391-2174 Fax:03-5391-2232
E-mail : [email protected]
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情報管理
JOHO KANRI
2011
vol.54 no.7
Journal of Information Processing and Management
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October
■今年の十五夜は6年ぶりに満月となりました。9
月12日,見事な月をごらんになりましたか。
■秋元氏の「知財情報を活用した企業戦略」記事の
中に,米国特許改正法案(Leahy-Smith America
Invents Act)
(http://hdl.loc.gov/loc.uscongress/
legislation.112hr1249)成立までの行方をフォロー
していく必要がある,とあります。法案は9月8日上
院で可決,12日には大統領に提出され,16日署名
の運びに。
いよいよ米国も先願主義の国となります。
■ご挨拶を兼ねて,6月20日筑波大学春日キャンパ
スで行われたアウターネット(筑波地区情報交流会)
主催の公開セミナーを聴講しました。このときの講
演録は間もなく『薬学図書館』に掲載されます。
■ 秋 元 氏 に は, 武 田 薬 品 工 業 の 常 務 取 締 役・ 知
的財産部長であられた2004年1月にも本誌に講演
録を掲載させていただきました(h t t p : / / d x . d o i .
org/10.1241/johokanri.46.642)
。知財活動の功績
により,2010年10月には経済産業大臣表彰(知財
功労賞)を受けておられます。
■筑波大学をこの春退官された石井啓豊先生には,
最終講義の後半をもとにご寄稿をお願いしました。
最終的にはすべて新たに書き起こし,推敲を重ねて
誌面に収めていただきました。最終講義の前半で語
られた先生の豊かな歩みについても,改めてご紹介
できたらと思っております。
■「知識と情報資源の世界」を対象とする知識情報
学の基礎と応用は,本誌の主題範囲でもあります。
(KM)
訂正
vol.54, no.6「オンライン百科事典「ポプラディ
アネット」 学校における活用事例」
p.328左段6章の5行目に誤りがありました。
誤:立法以来25年間
正:立法以来50年間
お詫びして訂正いたします。
(『情報管理』編集事務局)
『情報管理』誌では,国の内外から広く投稿原稿を受け付けています。日ごろのご研鑽の成果を執筆
されて,本誌に発表されることをお待ちしております。
□次号予定
●情報検索における評価方法の変遷とその課題
●大勢の智恵を結集してつくる「科学シミュレータ」と仮想ラボセンター SciNetS(サイネス)の基盤
●Cytoscapeによる特許情報のネットワーク解析とビジュアル化
●人文科学における電子学術出版の可能性:クリエイティブコモンズライセンスに基づく協同と共有
●統計情報活用への招待:第5回 医療・福祉・健康の公的統計
情報
管理
JOHO KANRI
Journal of Information Processing and Management
科学技術振興機構
vol.54 no.7 October 2011
●編集委員会
<委員長>水野充(科学技術振興機構)
<編集委員>
小河邦雄
(大正製薬㈱)
・気谷陽子
(筑波大学附属図書館)
・
小林良子(㈱日本能率協会総合研究所)・清水美都子(㈶
日本特許情報機構)・青山幸太・安部耕造・飯田創治・木
村美実子・國岡崇生・栗本達児・黒田明子・佐藤恵子・土
屋江里・火口正芳・日高真子・矢口学・余頃祐介(以上科
学技術振興機構)
2011年10月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥13,650(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
編集・発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8470
E-mail: joho-kan jst.go.jp
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Published monthly by Japan Science and Technology Agency (JST)
JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN
・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,最寄りの情報提供部または各支所宛に現品をご返送下
さい。送料は当機構の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。
・未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。
© Japan Science and Technology Agency 2011 無断転載を禁ず
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