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蛋白質核酸酵素:植物2次代謝産物の分子多様性を創出するIII型
Review 植物2次 代謝産物の分子多様性を創出する III型 ポリケタイ ド合成酵素の生合成工学 阿部郁朗 多様な化学構造 と生物 活性を示す植物 ポ リケタイ ドの基本骨格 を構 築する,カ ル コン合成酵 素 スーパー ファミ リーと総 称されるIII型ポ リケタイ ド合成酵素 に関す る研究 は,近 年 それ らの結 晶構 造が報告 され るなど,急 展 開を遂げつつ ある.本 稿 では,こ う した研究の動 向 とあわせ, 結 晶構造 に基づい て部位 特異的変異 を導入 して酵素機能 を改変 する可能性や,こ れ ら酵素 が示 す異例ともいえ る広範 な基質特異性 を利用 した非天然型化合物 ライブラ リーの 構築 について解 Database Center for Life Science Online Service 説 する. Key words III型 ポ リケタイ ド合成酵素 カル コン合 成酵素 スー パー フ ァミ リー 代謝産物 生合成工学 は じめに 植 物2次 れ て い る. 健 康 食 品 ブ ー ム で そ の 抗 が ん作 用 な どが 話 題 に な っ て PKS酵 素 反 応 は,脂 肪 酸 生 合 成 の 場 合 と同 様 な,CoA い る お 茶 や 赤 ワ イ ンの ポ リ フ ェ ノ ー ル,脂 肪 分 解 パ ワー エ ス テ ル の 縮 合 に よ る 炭 素 鎖 伸 長 の 化 学 で あ る.PKS の ラズ ベ リー ケ トン,抗 ア レル ギ ー 薬 の基 に な っ た ク ロ は,分 子 進 化 的 に は脂 肪 酸 合 成 酵 素 と同 一 の起 源 を もつ モ ン化 合 物,さ も の と考 え られ て お り,複 数 の 機 能 ドメ イ ンが1本 らに大麻 の幻覚 発 現物 質 カ ンナ ビ ノ イ のポ ド,そ して お そ ら くア ロエ や ダ イ オ ウ な どの 薬 効 成 分 ア リ ペ プチ ド鎖 に 連 続 し て存 在 す るI型(モ ン トラ キ ノ ン類 に 至 る ま で,こ 個 々 の 機 能 を有 す る酵 素 サ ブ ユ ニ ッ トの 複 合 体 か らな る な,実 れ ら一見 互 い に無 関係 に多 岐 に わ た る化 学 構 造 と生 物 活 性 を有 す る植 物 有 用2次 代 謝 産 物 の 基 本 骨 格 が,カ (chalcone synthase;CHS)ス ル コ ン合 成 酵 素 ー パ ー フ ァ ミ リー と総 称 II型(サ ブ ユ ニ ッ ト型),そ に 分 類 さ れ る(図1).I型 タ ー ゼ(ketosynthase;KS)の ジ ュ ー ル 型), し て 上 述 し たIII型(CHS型) やII型 のPKSは,ケ ほ か に も,ア トシ ン シル キ ャ リ さ れ る 一 連 のIII型 ポ リ ケ タ イ ド合 成 酵 素(polyketide ア ー ・プ ロ テ イ ン(acyl carrier protein;ACP)な synthase;PKS)に ざ ま な機 能 を もつ ドメ イ ンや サ ブユ ニ ッ トか ら構 成 され よ っ て 生 合 成 さ れ る こ とが,最 近に な り しだ い に 明 らか に され つ つ あ る1∼3).III型PKSは い どさま る長 大 で 複 雑 な酵 素 蛋 白 質複 合 体 で あ る.抗 生 物 質 と し ず れ も,植 物 に 普 遍 的 に 存 在 す る フ ラ ボ ノ イ ドの 基 本 て 重 要 な マ ク ロ ライ ドや テ トラサ イ ク リ ンの 骨 格 を構築 骨 格 を構 築 す るCHSと す る 放 線 菌 や 糸 状 菌 由 来 のI型 ア ミ ノ 酸 レベ ル で50∼70%程 やII型 のPKSに つ いて 度 の 配 列 相 同性 を示 し,こ れ ま で に 多 くの 植 物 か ら200 は,コ 種 を こ え る 相 同 遺 伝 子 が 得 ら れ て い る.シ ニ ッ トの 遺 伝 子 モ ジ ュ ー ル の 組 換 え な ど に よ る生 合 成 工 ナ(Arabidopsis thaliana),イ ロイ ヌナ ズ ネ(Oryza sativa)な ど,ゲ ノ ム 中 に 複 数 の遺 伝 子 コ ピー が 存 在 す る例 も多 い.し し,各 か 遺 伝 子 が コ ー ドす る 蛋 白 質 が 実 際 に どの よ う な ン ビナ トリア ル 生 合 成 の 概 念 に基 づ き,各 触 媒 ユ 学 の研 究 が 現 在 盛 ん に 行 な わ れ て い る4,5).こ れ に 対 し, お もに 植 物 に特 異 的 に 存 在 す るIII型酵 素 は,KSの 構 成 さ れ る.縮 合 反 応 に は,脂 肪 酸 合 成 酵 素 が 必 要 とす 酵 素 機 能 を担 っ て い る の か,確 認 され た 例 は 限 られ て お るACPや4'-ホ り,酵 素 の 構 造 機 能 相 関 に つ い て は 今 後 の 研 究 が 待 た 酵 素 活 性 中 心 の シス テ イ ン残 基 がCoAエ Ikuro Abe,静 Engineered 岡 県 立 大 学 薬 学 部 biosynthesis of plant みで ス ホ パ ン テ イ ン を ま っ た く要 求 せ ず, ス テ ル か ら直 E-mail:[email protected] polyketides 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.48 No.16(2003) 2275 Database Center for Life Science Online Service 図1 ポ リ ケ タ イ ド合 成 酵 素 の 反 応 様 式 (a)複 数 の 機 能 ドメ イ ン が1本 の ポ リ ペ プ チ ド鎖 に 連 続 し て 存 在 す るI型(モ す る 酵 素 サブ ユ ニ ッ トの 複 合 体 か ら な るII型(サブ ジ ュ ー ル 型)に よ る マ ク ロ ラ イ ドの 生 成,(b)個 ユ ニ ッ ト型)に よ る テ トラ サ イ ク リ ン の 生 成,(c)KSの 々 の機 能 を有 み で 構 成 さ れ るIII型(CHS型)に よ る カ ル コ ン の 生 成. KS;ketosynthase,ACP;acyl carrier protein,AT;acyltransferase,KR;ketoreductase,DH;dehydratase,ER;enoylre- ductase,TE;thioesterase. 接 ア シ ル基 を 受 け取 っ て,ポ リケ タイ ド鎖 の伸 長 を触 媒 CHSのX線 結 晶 構 造 解 析 が 報 告 さ れ る な ど,そ の 構 造 と す る の が 特 徴 で あ る.巨 大 で 複 雑 なI型 やII型 のPKS 機 能 に 関 す る研 究 は急 展 開 を遂 げ つ つ あ る.本 稿 で は, に 比 べ,分 最 近 の研 究 の 動 向 とあ わせ,結 子 量42∼44Kの ー か らな るIII型PKSは 単 純 な蛋 白質 の ホモ ダ イマ ,大 腸 菌 に お い て も遺 伝 子 発 現 晶 構 造 に基 づ く部 位 特 異 的 変 異 導 入 に よ る酵 素 機 能 改 変 の 可 能性 や,こ れ ら酵 素 可 能 な,比 較 的 安 定 で取 扱 い の容 易 な 酵 素 で あ る.PKS が 示 す 異 例 と もい え る広 範 な 基 質 特 異 性 を利 用 し た非 天 酵 素 研 究 の 中心 的 課 題 と もい え る,基 質 の分 子 認 識 や 酵 然 型 新 規 化 合 物 ラ イ ブ ラ リー の 構 築 につ い て解 説 す る. 素 反 応 機 構,さ ら に そ の 人 為 的 な 制 御 に よ る有 用 物 質 生 産 とい っ た 問 題 を考 え る う え で,き わ め て優 れ た モ デ ル I.カ ル コン合 成酵 素 スー パー フ ァミ リー シ ス テ ム と な りう る. こ う し た 植 物 由 来III型PKS酵 素 に 関 し て は,近 年 多様 な構 造 と生物活性 を示す植物 ポ リケ タイ ドの生合 成 に お い て,そ の 基 本 骨 格 を決 定 す る カ ル コ ン合 成 酵 素(CHS) と ス チ ル ベ ン合 成 酵 素(stilbene synthase;STS)は,そ れ ぞ れ 1分 子 の ク マ ロ イ ルCoA(1a)を ス タ ー タ ー と し て,3分 ロ ニ ルCoAに 子 のマ 由 来 す るC2単 を 順 次 縮 合 し た の ち,共 位 通 のテ ト ラ ケ タ イ ド中 間 体 の 生 成 を 経 て,CHSで は ク ラ イ ゼ ン縮 合 に よ り閉 環 して新 た な 芳 香 環 を 形 成 し4,2',4',6'-テ トラ ヒ ド ロ キ シ カ ル コ ン(ナ リ ン ゲ ニ ン Database Center for Life Science Online Service カ ル コ ン)(2a)を,一 方,STS で は 脱 炭 酸 を 伴 っ た ア ル ドー ル 縮 合 に よ り3,4',5-ト リ ヒ ドロ キ シ ス チ ル ベ ン(レ ス ベ ラ ト ロ ー ル)(3a)を ま た,精 生 成 す る(図2)2,3) . 製 酵 素 を 用 い たin vitro の 反 応 で は,主 生成物 であ るカ ル コ ン や ス チ ル ベ ン 以 外 に も, 2分 子 あ る い は3分 ルCoAが 子 のマ ロニ 縮 合 した段 階 で酵 素 反 応 が 終 了 して 生 成 した もの と 考 え られ る,ビ ス ノ ル ヤ ン ゴ ニ ン (bisnoryangonin;BNY)(4a) や ク マ ロ イ ル トリ酢 酸 ラ ク ト ン (p-coumaroyltriacetic tone;CTAL)(5a)と acid lacい っ たパ イ ロ ン誘 導 体 が 副 生 成 物 と して 得 ら れ る6).カ ル コ ンは フラボ ノ イ ドの 生 合 成 前 駆 体 と し て 植 物 に 普 遍 的 に存 在 す る の に 対 し,ス チ ル ベ ン は ブ ド ウ(Vitis vinifera),ピ hypo-gaea),マ tris,Pinus ー ナ ッ ツ(Arachis ツ(Pinus strobus)な sylvesど,限 ら 図2 CHSスー パ ー フ ァミ リーを構 成 す るIII型ポ リケ タ イ ド合 成 酵 素 が 触 媒 するCoAエ ステル の縮 合反 応 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.48 No.16(2003) 2277 れ た 植 物 に よ り種 特 異 的 に 生 産 さ れ7),抗 オ リベ ト ー ル 酸 合 成 酵 素(olivetolic こ と に よ り フ ィ トア レ キ シ ン(植 物 生 体 防 御 物 質)と し て OAS)10)は,ヘ 機 能 す る も の と 考 え ら れ て い る.ま 導 体 を,ま ワ カ ワ(Piper methysticum)(ポ た,天 然 か ら は,カ リネ シ ア で は そ の根 を興 奮 キ サ ノ イ ルCoAか た,ホ ッ プ(Humulus ン合 成 酵 素(valerophenone acidsynthase; ら レゾ ル シ ノ ー ル誘 lupulus)の バ レロ フ ェ ノ synthase;VPS)11)は,イ ソ 性 嗜 好 飲 料 と す る)の ス チ リ ル パ イ ロ ン 誘 導 体(カ ヴァラ バ レ リ ルCoAを ク ト ン)1)や,ア 含 まれ 前 駆 体 と な る フ ロ ロ グ ル シ ノ ー ル 誘 導 体 を 生 産 す る.さ マ チ ャ(Hydrangea macrophylla)に る セ コ イ リ ド イ ド誘 導;体6)の よ う に,BNYやCTALに ら に,芳 由 来 す る 生 理 活 性2次 と し て,ガ CHSやSTS以 代 謝 産 物 も 数 多 く 知 ら れ て い る. 外 に も,天 性 を 示 すIII型PKSが 合 成 酵 素(acridone CoAの 来 の ア ク リ ドン synthase;ACS)8)は,ク マ ロ イ ル 代 わ り に ア ン ト ラ ニ ルCoAを ウ(Hypericum 縮 合 す る.ま androsaemum)由 酵 素(benzophenone ス ター タ ー と して た,オ 方,芳 hybrida)由 来 の4-ヒ ドロキ シ-6-メ チ ル-2-パ イ ロ ン(ト リ 酢 酸 ラ ク ト ン)合 成 酵 素(2pyrone synthase;2-PS)12),ア マ チ ャ(H.macrophylla) 由 来 の ク マ ロ イ ル ト リ 酢 酸 ラ ク ト ン 合 成 酵 素(CTAL synthase;CTAS)6),そ 素(styrylpyrone し て,ス チ リ ルパ イ ロ ン合 成 酵 synthase;SPS)1)な ど が 知 ら れ て い 来 の ベ ン ゾ フ ェ ノ ン合 成 CoAの 縮 合 数 に つ い て み て み る と,ほ と ん どの 酵 素 が CHSと 同 様 に3分 縮 合 し て テ トラ ベ ン ゾ イ ル の ベ ン ゾ フ ェ ノ ン は さ ら に代 子 の マ ロ ニ ルCoAを ケ タ イ ド を 生 成 す る の に 対 し,2-PSやSPSで 子,ま 麻 た,後 BAS)13)は,1分 述 す る ダ イ オ ウ(Rheum イ オ ウ 由来BAS.一 子 の マ ロ ニ ルCoAの 合 し てC6-C4骨 図3 植 物 由 来III型 ポ リケ タ イ ド合 成 酵 素 の ア ミ ノ 酸 配 列 の 比 較 M.s CHS:ア ル フ ァル フ ァ由 来CHS,S.b CHS:コ ガネ バ ナ 由来CHS,A.h ン ル ー ダ由 来ACS,R.pBAS:ダ リ ケ タ イ ド鎖 の 長 さ を 決 定 す る マ ロ ニ ル STS:ピ 連 のCHSスー は2分 palmatum)由 ベ ン ザ ル ァ セ ト ン 合 成 酵 素(benzalacetone 香 環 を も た な い 脂 肪 酸 のCoA sativa)の カ ン ナ ビ ノ イ ドの 生 合 成 に か か わ る R.gACS:ヘ ー ベ ラ(Gerbera 方,ポ エ ス テ ル を ス タ ー タ ー と す る も の も 知 ら れ て お り,大 (Cannabis 香 環 の 代 わ り にα-パ イ ロ ン 環 を 形 成 す る 酵 素 る.一 ま ざ ま な 生 物 活 性 を 有 す る キ サ ン ト ン誘 導 体 に 変 換 さ れ る.一 ス ター ター と して ビー ル の 苦 味 成 分 の トギ リ ソ synthase;BPS)9)は 基 質 と す る が,こ 謝 さ れ て,さ と え ば, graveolens)由 3分 子 の マ ロ ニ ルCoAを CoAを 然 か らは さまざ まな酵素 活 報 告 さ れ て い る(図2).た 薬 用 植 物 ヘ ン ル ー ダ(Ruta Database Center for Life Science Online Service 菌 活 性 を示 す synthase; み を脱 炭 酸 的 に縮 格 を も つ ジ ケ タ イ ド(6)を 生 成 す る. ー ナ ッツ由 来STS,G.h2PS:ガ ー ベ ラ 由来2-PS, パー フ ァミ リー酵 素 は 互 い に50∼70%の 相 同性 を示 す が,そ の ア ミ ノ酸 配 列 か ら酵 素 機 能 を推 定 す る の は不 可 能 で あ る.酵 素活 性 中 心 を構 成 す る4つ の アミ ノ酸 残基(Cys164,Phe215,His 303,Asn336)の 2278 うち,BASの 蛋白質 核酸 酵素 み が 唯一 特 徴 的 にPhe215を Vol.48 No.16(2003) 欠損 して い る. 来 の 上 述 し た 一 連 のCHSス ーパ ー ファ ミリー酵素 につ い て は,す で に ク ロ ー ニ ング が 報 告 さ れ て お り,ア ミノ酸 度 の 相 同性 を示 す こ とが 明 は,CHSと らか に され て い る(図3).し か し,ポ ス トゲ ノ ム の 時 代 示 し,大 くの 関 連 酵 素 遺 伝 子 の 同 定 が 容 易 に は な っ ,い くつ か の 全 長cDNAク ー ン を 得 る こ と に 成 功 し た .こ レベ ル で 互 い に50∼70%程 に あ っ て,多 の う ち1つ ア ミ ノ 酸 レベ ル で60∼75%程 ロ の ク ロー ン 度 の相 同性 を 腸 菌 で 遺 伝 子 発 現 さ せ た 組 換 え 酵 素 は,1分 の ク マ ロ イ ルCoAと1分 子 の マ ロ ニ ルCoAと 子 の脱炭酸 た もの の,活 性 部 位 の微 妙 な構 造 の 違 い で 基 質 や 生 成 物 的 縮 合 反 応 に よ りベ ン ザ ル ア セ ト ン(6)(ジ の 特 異 性 が 大 き く変 化 す る こ とが 知 られ て お り,そ の た 単 一 生 成 物 と し て 与 え た13).こ め ア ミ ノ酸 配 列 か ら酵 素 機 能 を推 定 す るの は不 可 能 で あ は ダ イ オ ウ の 抗 炎 症 成 分 で あ る リ ン ド レ イ ン(図4)な る の が 現 状 で あ る.こ ど,フ れ らIII型PKSは,ほ ぼ同一 の ケ ケ タ イ ド)を の こ と か ら,本 ア セ ト ン 合 成 酵 素(BAS)で るが,酵 ス ー パ ー フ ァ ミ リ ー に 属 す る 酵 素 の う ち で,1分 素 の構 造 機 能 相 関,と マ ロニ ルCoA縮 くに ス ター ター基 質 や 伸 さ ら に ポ リケ タイ ド鎖 長 を決 定 す る 合 数 の 制 御 とい っ た 問 題 は 非 常 に 興 味 深 い もの が あ る. CHS様III型PKS酵 ロ ニ ルCoAの 素 が 存 在 す る こ とが 明 らか に さ れ, 注 目 を集 め て い る(図2).こ ト ン や,シ あ る こ と が 判 明 し た.CHS 子 の マ み を 縮 合 さ せ る も の と し て は,BASが 一 の 例 で あ る(図2) .ま た,BASの リ ー(Rubus ideaeus)果 と こ ろで 近 年,植 物 以 外 に も,放 線 菌 な どの 微 生 物 に, ク ロー ン ェ ニ ル ブ タ ノ イ ド生 合 成 の 鍵 酵 素 と な る ベ ンザ ル ミス トリー に よ って 一 連 の ポ リケ タイ ド化 合 物 を生 産 す 長基 質の分子 認識 Database Center for Life Science Online Service ー ニ ング を試 みた ところ 唯 発 見 に よ り,ラ ズ ベ 実 の香 気 成 分 で あ る ラ ズ ベ リ ー ケ ョ ウ ガ(Zingiber officinale)の ウ コ ン(Curuma longa)の ジ ン ゲ ロ ー ル, ク ル ク ミ ン な ど,一 連 の フェ れ ら微 生 物 の酵 素 は植 物 の 場 合 と は異 な り,た とえ ばStreptomyces griseus由 来 の酵 素(RppA)は,5分 て,1,3,6,8-テ 子 の マ ロ ニ ルCoAの み を基 質 と し トラ ヒ ドロ キ シ ナ フ タ レ ン(ペ ン タ ケ タ イ ド)を 隼 成 し,こ の 放 線 菌 に お け る メ ラ ニ ン合 成 を担 う こ とが 判 明 して い る14).一 方,Amycolatopsis orienta 由 来 の 酵 素(DHPAS)は3,5-ジ ヒ ドロ キ シ フ ェ ニ ル 酢 酸 (テ トラ ケ タ イ ド)を 生 成 す るが,こ れ は さ ら に3,5-ジ ヒ ドロ キ シ フ ェ ニ ル グ リ シ ン とい う変 形 ア ミノ 酸 に変 換 さ れ,バ ン コ マ イ シ ンな どの 抗 生 物 質 の 生 合 成 にお い て 重 要 な 役 割 を 演 ず る こ と に な る15).こ れ ら微 生 物 酵 素 は,酵 素 活 性 中 心 を構 成 す る ア ミノ 酸 残 基 を含 む 領 域 を 除 い て,高 30%程 等 植 物 のCHSと は全 体 の ア ミ ノ酸 レベ ル で 度 の相 同性 しか 示 さ な い.ま た互 い の相 同性 も 低 い こ とか ら,そ れ ぞ れ が 異 な る ポ リ ケ タイ ドの 生 産 に か か わ っ て い る 可 能 性 が 予 想 さ れ る. 筆 者 らの 研 究 室 で は,さ ら な る新 規III型PKS酵 素を 求 め て,遺 伝 子 ク ロ ー ニ ン グ の試 み を続 け て い る.な か で も潟 下,抗 菌,消 炎,鎮 静 な ど多 彩 な薬 効 で 知 られ る 代 表 的 な 薬 用 植 物 で あ る ダ イ オ ウ(Rhem は,ク ロモ ンや ナ フ タ レ ン を は じめ,ア palmatm) ン トラ キ ノ ン誘 導 体 な ど の ポ リケ タ イ ド化 合 物 を 豊 富 に産 生 し,し た が っ て 植 物 に 普 遍 的 に 存 在 す るCHS以 PKS酵 素 遺 伝 子 の 存 在 が 予 想 さ れ る.そ 外 に も,複 数の こで まず,CHS ス ーパ ー フ ァ ミ リ ー酵 素 にお い て 保 存 さ れ て い る配 列 を 基 に設 計 し た 縮 重 入 りプ ラ イ マ ー を用 い て,PCRク ロ 図4 ベ ンザル ア セ トン に 由来 す る こと が予 想 さ れる 植 物2 次 代謝産 物 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.48 No.16(2003) 2279 ニ ル ブ タ ノ イ ド(図4)のC6-C4骨 III型PKSが 格 の 生 合 成 に,実 際 に 広 く関 与 す る 可 能 性 が 示 さ れ た.現 在,他 の ク ロ ー ンに つ い て も酵 素 機 能 を 検 討 中 で あ るが,最 III型PKSに は 上 述 した よ う に,ナ 近 フ タ レ ン(ペ ン タ ケ タ ま れ,隣 接 す るHis303と たCys164の の 水 素 結 合 に よ り安 定 化 さ れ チ オ レー トア ニ オ ンが,こ れ を求核 攻撃 し て チ オ エ ス テ ル を 形 成 す る こ と に よ り反 応 が 開 始 さ れ る (図5a).次 い で マ ロ ニ ルCoAの 脱 炭 酸 を伴 っ た ポ リケ イ ド)な ど,カ ル コ ン以 外 の 骨 格 を構 築 す る酵 素 の 存 在 タ イ ド鎖 の 伸 長 反応 を3回 く り返 し(図5b∼e),最 終的 が 次 々 に 明 らか に さ れ て お り,ア ン トラ キ ノ ン(オ ク に テ トラケ タ イ ド中 間 体 が ク ライ ゼ ン縮 合 に よ り閉 環, タケ タ イ ド)な どの 骨 格 を構 築 す る新 しい タ イ プ の 酵 素 新 た に芳 香 環 を 形 成 して 反 応 が 終 了 す る(図5f).こ の発 見 も待 望 され る と こ ろで あ る. 間,His303とAsn336は,マ の イ ナ ス に荷 電 した遷 移 状 態 中 間体 を安 定 化 す る こ と に よ り,マ ロ ニ ルCoAの 脱炭 酸 とそ の 結 果 生 じ る カ ル ボ ア ニ オ ンの 求 核 攻 撃 を促 進 II.ポ リケタイ ド合成酵素の構造と機能 し,一 方,活 性 中 心 の 入 り口 に位 置 す るPhe215は,マ 分 子 量42Kの 蛋 白質 のホモ ダイマ ーか らなる アル フ ア ル フ ァ(Medicago sativa)由 Database Center for Life Science Online Service 年 にNoelら に よ り1.56Aの が 報 告 さ れ て い る16).酵 来CHSに 結 晶構造 解析 素 の 活 性 中 心 は,4つ 酸 残 基(Cys164,Phe215,His303,Asn336)で る 中 心 部 の 大 き な キ ャ ビ テ ィ に 存 在 し,ス ク マ ロ イ ルCoAが 酵 素 活 性 中 心 を構 成 す る上 述 した4つ の ア ミノ は,CHS以 構 成 され CHSス タ ー ター 基 質 結 合 す る ポ ケ ッ ト と,マ 子 の 配 向性 を保 ち つ つ,ポ リ ケ タ イ ド鎖 の 伸 長 反 応 に関 与 す る もの と考 え られ て い る17∼22). つ い て は,1999 分 解 能 でX線 ロニ ルCoA分 外 のIII型PKSで も 保 存 さ れ て お り,他 の ー パ ー フ ァ ミ リ ー 酵 素 に お い て も同 様 な ケ ミス ト リー に よ っ て,CoAエ ス テル の縮合 お よび伸 長反 応 が 進 行 す る もの と予 想 さ れ る.た ロ ニ ルCoA の ア ミノ酸 残 基 と え ば,CHSと 共通 の 縮 合 に よ り ポ リ ケ タ イ ド鎖 の 伸 長 と 閉 環 反 応 が 進 行 す の テ トラ ケ タ イ ド中 間体 の 生 成 を 経 て ス チ ル ベ ンの骨 格 る ポ ケ ッ トと か ら な る.酵 を 構 築 す るSTSは,ア 素 反 応 の メ カ ニ ズ ム は,ま ス タ ー タ ー と な る ク マ ロ イ ルCoAが 図5 ミノ 酸 レベ ル で 互 い に70%程 度 の 相 同性 を示 し,酵 素 反 応 に 関 与 す る保 存 領 域 の ア ミ カ ル コ ン 合 成 酵 素 反 応 の メカ ニ ズ ム (a)ス タ ー ター 基 質 ク マ ロイ ルCoAの 結 合,(b)伸 中 間 体 の生 成,(d)ト リケ タイ ド中 間体 の 生 成,(e)テ 2280 ず 活 性 部 位 に 取 り込 蛋 白質 核酸 酵素 Vol.48 No.16(2003) 長 基 質 マ ロ ニルCoAの 脱 炭 酸 反 応,(c)新 た な 炭 素-炭 素 結 合 の 形 成 に よ る ジ ケ タ イ ド トラ ケ タ イ ド中 間 体 の生 成,(f)テ トラケ タ イ ド中 間体 の 閉 環 と新 た な 芳 香 環の 形 成. ノ 酸 は お お む ね 同 一 と 考 え ら れ る.そ CHSの 生 成 物 特 異 性 の 制 御 が,酵 れ で はSTSと 素活 性 部位 の どの よ う な構 造 の差 異 に起 因 す るの で あ ろ うか.最 STSの を構 成 す る キ ャ ビ テ ィ 自体 は881A3と,CHSと 近 得 られ た 結 晶 構 造 に基 づ く と,両 酵 素 蛋 白 質 は 全 体 的 に 子 の マ ロ ニ ルCoAを 取 り込 む だ け の ス ペ ー ス は十 分 に あ る こ とが 予 想 され る.し か しな が らBASで は,こ のPhe215が 欠 損 し て お り,こ の た め は ほ ぼ 同 一 の 立 体構 造 を 共 有 して お り,ど うや ら活 性 部 に ポ リケ タ イ ド鎖 の伸 長 が1回 位 の微 妙 な構 造 の 違 い が,最 終 的 な テ トラ ケ タ イ ド中 間 が 考 え ら れ る.そ 体 の フ ォ ー ル デ ィ ング と閉 環 反 応 に 大 き な影 響 を及 ぼ す 換 す る こ と に よ り カル コ ン合 成 能 が 回復 す る の で は な い よ うで あ る3).こ の 結 果,CHSで か と考 え,部 位 特 異 的 変 異 に よ りPheに 反 応 が,一 方,STSで は ク ラ イ ゼ ン型 の 閉環 は脱 炭 酸 を伴 っ た ア ル ドー ル 縮 合 で 終 わ っ て し ま う可 能 性 こ で 筆 者 ら は,こ のLeuをPheに 置 置 換 した と こ ろ,は た して この ミュ ー タ ン トは3分 子 の マ ロ ニ ルCoA が 進 行 して ス チ ル ベ ン の 骨 格 を形 成 す る こ と に な る(図 を取 り込 ん で,実 2).興 示 さ れ た25). 一 方 ,薬 用 植 物 コ ガ ネバ ナ(Scutellaria baicalensis)由 味 深 い こ と に,大 腸 菌 に発 現 した ピ ー ナ ッ ツ 由 来 のSTSは,少 な くと もin vitroの 反応 で は,ス チ ル ベ ン に加 え て2∼3%程 度 の カ ル コ ン を も生 成 す る こ とが 報 告 さ れ て い る23). Database Center for Life Science Online Service 様 な 大 き さ で,3分 ほ ぼ同 の キ ャ ビ テ ィの 大 き さ と形 状 が,酵 素 の 基 質 と生 成 物 特 異 性 を 決 定 す る重 要 な 要 因 と な る こ とが,最 セ ス タ ー ター と して2分 子 の マ ロニ ルCoAを 縮 合 す る ガ ー ベ ラ 由 来 の2-PSは,ア CHSと 近や は り に よ り明 らか に さ れ て い る24).す な わ ち,ア チ ルCoAを にPhe215の 変 異 を 導 入 して 酵 素 活 性 に 及 ぼす 影 響 を検 討 した と こ ろ,同 活 性 中 心 を構 成 す る ア ミ ノ酸 残 基 に 加 え て,活 性 部 位 Noelら 来CHSに,逆 際 に カ ル コ ン合 成 能 を回 復 す る こ とが ア ミ ノ酸 レベ ル で74%の 置 換 体 で 若 干 量 の カ ル コ ンの 生 成 が 認 め ら れ た も の の,他 の置 換 体(Tyr,His,Ser,Cys,Leu,Ala) で は ポ リ ケ タ イ ド鎖 の 伸 長 反 応 が2回 い,主 相 同 性 を 示 し,蛋 白 質 の活 で 終 了 して し ま 生 成 物 と して2分 子 の マ ロ ニ ルCoAを BNY(4a)(ト ル フ ァ ル フ ァ由 来 全 体 で は ほ ぼ 同 一 の立 体 構 造 を共 有 す る もの の,そ るTrpの じ芳 香 族 ア ミノ 酸 で あ 縮 合 した リ ケ タ イ ド)を 与 え る こ とが 示 さ れ た25). こ の結 果 か ら もPhe215が ポ リケ タ イ ド鎖 の 伸 長 反 応 に お い て重 要 な役 割 を担 う こ とが 再 確 認 され たが,し かし なが ら興 味 深 い こ と に,い ず れ の 逆 変 異 酵 素 に お い て も 性 部 位 キ ャ ビ テ ィ の 大 き さ(274A3)は,CHS(923A3)と ベ ンザ ル ア セ トン(6)(ジ ケ タ イ ド)の 生 成 は 認 め られ な 比 べ て1/3程 結 晶構 造 解 析 の 結 か っ た 、 一 方,Noelら タ ー ター 基 質 の結 合 ポ ケ ッ トの 体 積 つ い て,Phe215をSerに 度 しか な い こ と がX線 果 示 され て い る.ス が 明 ら か に小 さ く,こ の こ とが2-PSの 基 質お よび生成 物 特 異 性 を 決 定 して い る よ う で あ る.Noelら の 活 性 中心 キ ャ ビ テ ィ を構 成 す る28ア ち4残 基 がCHSで ミノ 酸 残 基 の う 変 異 酵 素 を作 製 し て そ の 活 性 を詳 細 に 検 討 した と こ ろ, や 完 全 に2-PSと 変 異 酵 素 が,も は して機 能 す る こ と を報 告 して い る24). 筆 者 らが ク ロ ー ニ ン グ に 成 功 し た ダ イ オ ウ 由 来BAS は,ク マ ロ イ ルCoAに1分 炭 酸 的 に 縮 合 す るCHSス 子 の マ ロニ ルCoAの み を脱 ー パ ー フ ァ ミ リー酵 素 で あ る13).興 味 深 い こ とに,BASで 置 換 し た ミュ ー タ ン トが,も 基 質 と して は 受 け つ け ず,代 りに ア ン トラ ニ ルCoAを は,2-PS は異 な る こ とに 着 目 し,部 位 特 異 的 3ア ミ ノ 酸 を 同 時 に 置 換 し たCHSの はや ク マ ロ イ ルCoAを は,ア ル フ ァ ル フ ァ由 来CHSに は活 性 中心 を構成 す る4 ス タ ー ター と し て 非 天 然 型 新 規 テ トラ ケ タ イ ド ・パ イ ロ ン誘 導 体 を 生 成 す る こ と を報 告 して い る26). こ う した 一 連 の 結 果 は い ず れ も,III型PKS酵 る.今 後 さ らに,結 晶 構 造 に 基 づ く部 位 特 異 的 変 異 の導 入 や キ メ ラ酵 素 の作 製 な どに よ り,活 性 部 位 キ ャ ビ テ ィ の 大 き さや,活 性 中 心 ア ミノ 酸 残 基 の 立 体 配 置 を変 化 さ せ て酵 素 機 能 の改 変 が 可 能 に な る.そ の 際,酵 ス タ ー ター お よび伸 長 基 質 の 分 子 認 識,さ タ イ ド鎖 伸 長 の 鍵 とな る マ ロ ニ ルCoA縮 が 保 存 さ れ て い る一 方 で,マ 構 の解 明 が 課 題 とな ろ う. 脱 炭酸 とポ 素 の構 造 機 能 相 関 を考 え る う え で た い へ ん興 味 深 い もの と い え つ の ア ミ ノ酸 残 基 の う ち3つ(Cys164,His303,Asn336) ロ ニ ルCoAの わ 素 による らに,ポ リケ 合 数 の制 御 機 リ ケ タ イ ド鎖 の 伸 長 に 関 与 す る と さ れ るPhe215がLeu に置 換 し て い る の が 特 徴 的 で,III型PKSと 215を 欠 く唯 一 最 初 の 例 で あ る(図3).CHSと して はPhe III.非天然型新規化合物ライブラリーの構築 の 相 同性 に基 づ い て ホ モ ロ ジ ー モ デ ル を組 ん で み る と,活 性 部 位 2次 代 謝 酵 素 の な か に は,酵 素 活 性 中 心 構 造 の 微 妙 な 蛋白質 核酸 酵素 Vol.48 No.16(2003) 2281 違 い で 基 質 や 生 成 物 の 特 異 性 が 大 き く変 化 す る もの が あ り,こ れ が2次 代 謝 産物 の 「分 子 多 様 性 」 と多 彩 な 「生 イ ロ ン誘 導 体 と と も に,高 収 率 で認 め られ た.さ らに 驚 くべ き こ とに,(3)CHS 物 活 性 」 を もた らす 直 接 の原 因 と な っ て い る.一 方 で, に お い て は,ベ 2次 代 謝酵 素 の 基 質 特 異 性 の 制 御 は,生 命 活 動 に必 須 な み な らず,芳 香 環 を もた な い 脂 肪 族 エ ス テ ル ま で もが 同 1次 代 謝 酵 素 の そ れ と比 べ て 必 ず し も厳 密 な もの で は な 様 に基 質 と し て 受 け 入 れ られ,3分 く,こ う した 広 範 な基 質 特 異 性 を利 用 して,非 を縮 合 の の ち,新 た な芳 香 環 を形 成 し て フ ロ ロ グ ル シ ノ ー ル 誘 導 体 を生 成 す る こ とが 示 され た .こ れ に対 し,(4) 規 化 合 物 の 効 率 的 な 生 産 が 可 能 と な る.そ Database Center for Life Science Online Service 香 族 テ トラ ケ タ イ ドの 生 成 が,パ 天然 型 新 こで筆 者 ら どの芳香 族 エス テ ル の ン ゾ イ ルCoAや 子 の マ ロ ニ ルCoA は,有 機 化 学 の 視 点 か ら,化 学 的 に合 成 した 人 工 基 質 を STSで プ ロ ー ブ と し て,CHSを 新た た場 合 に は芳 香 環 の 形 成 に よ る レゾ ル シ ノ ー ル 誘 導 体 の な 酵 素 機 能 の 探 索 と開 拓 を試 み て い る.酵 素 結 晶構 造 に 生 成 は 認 め られ ず,若 干 の 違 い を示 し た.一 方,非 常 に 基 づ く と,活 性 中心 キ ャ ビ テ ィ に は こ れ ら修 飾 基 質 を受 興 味 深 い こ とに,(5)CHS,STSい ず れ の酵 素 にお い て け 入 れ る だ け の ス ペ ー ス が 十 分 にあ る もの と予 想 され, も,4分 縮 合 し た 生 成 物 や,1 した が っ て 修 飾 基 質 の構 造 に対 応 して在 来 み られ な い 骨 分 子 の マ ロニ ルCoAの 格 を有 す る 「超 天 然 型 」 化 合 物 を与 え る可 能 性 も十 分 に セ トン型 の生 成 物 は ま っ た く検 出 され な か っ た. は じめ とす るIII型PKSの は,ベ ン ゾ イ ルCoAな 脂 肪 族CoAを 子 以 上 の マ ロ ニ ルCoAを 作 用 させ 脱 炭酸 的縮合 によ るベ ンザ ル ア う して得 られ る化 合 物 につ いて そ れ で は,脱 炭 酸 を伴 っ た ク ラ イ ゼ ン縮 合 の く り返 し も,天 然 に存 在 す る ポ リ ケ タ イ ド化 合 物 と同 様 に重 要 な に よ りポ リ ケ タイ ド鎖 の伸 長 ユ ニ ッ トと して 機 能 す る マ 生 物 活 性 を 示 し,医 薬 品 な どの シー ド化 合 物 と な る こ と ロ ニ ルCoAに が 期 待 さ れ る か らで あ る. ルCoA(7)や 考 え ら れ る.ま た,こ まず 酵 素 反 応 の ス ター タ ー ユ ニ ッ トに対 す る基 質 特 異 代 え て,炭 素 数 が1つ 多 い メ チ ル マ ロ ニ ス ク シ ニ ルCoA(8)を うで あ ろ うか(図6b)30).コ 性 に焦 点 を 絞 っ て,化 学 合 成 した 基 質 ア ナ ロ グ を,大 腸 ル マ ロニ ルCoAと 菌 に 発 現 させ 精 製 し た コ ガ ネ バ ナ(S.baicalensis)由 は,1分 CHS,あ る い は,ピ ー ナ ッ ツ(A.hypogaea)由 に作 用 させ る こ とに よ り酵 素 変 換 を試 み た.す 本 来 の 基 質 で あ る ク マ ロ イ ルCoA(1a)の キ シ基 をハ ロゲ ンで 置換 したCoAエ る い は,ベ 来 来STS な わ ち, 芳 香 環 ヒ ドロ ス テ ル(1b-1e),あ ンゼ ン環 を フ ラ ンや チ オ フ ェ ン とい っ た ヘ テ ロ 芳 香 環 で 置 換,した基 質 ア ナ ロ グ(1f,1g),さ ン ゾ イ ルCoA(1h)な イ ルCoA(1j)な らに,ベ ど の 芳 香 族 エ ス テ ル や,ヘ キサ ノ どの 脂 肪 族 エ ス テ ル を基 質 と し て 作 用 させ た(図6a)27∼29). まず,(1)両 酵 素 の 場 合 と も,フ ッ素置 換 アナ ログで 作用 させ た場合 は ど ガ ネ バ ナ 由 来CHSに,メ ク マ ロ イ ルCoAを 子 の メ チ ル マ ロ ニ ルCoAを 作 用 させ た 場 合 に 縮 合 した 段 階 で ポ リケ タ イ ド鎖 の 伸 長 が 停 止 し て し ま い,脱 る こ と を 見 い だ した.こ れ に 対 し,ス ク シ ニ ルCoAを 作 用 させ た場 合 に は,酵 素 反 応 は ま っ た く進 行 せ ず,こ れ は 立 体 的 な 要 因 に 加 え て,ス 炭 素 の 求核 性 が,β ク シ ニ ルCoAの ケ ト酸 で あ る マ ロ ニ ルCoAに 生 理 型 ス ター ター 基 質 と して ベ ンゾ イ ル CoA(1h)や ヘ キ サ ノ イ ルCoA(1j)を,ま た,非 伸 長 基 質 と して メ チ ル マ ロ ニ ルCoAを 誘 導 体 と と も に得 られ た の に対 し,立 体 的 にか さ 高 い 塩 の メ チ ル マ ロ ニ ルCoAを 素 や 臭 素 な どの 置 換 体 で は,2分 (10-12)を 生 成 した(図6c)31). 一 般 に酵 素 の 基 質 特 異 性 は厳 密 で ,鍵 の こ とか ら クマ ロ イ ルCoAの 芳香 環 現 され るが,こ 生理型 「同 時 に」 作 用 「同 時 に」 基 質 と して 受 け 入 れ,2分 られ る の み で,こ 比べ 最 後 に,非 れ カ ル コ ンお よ び ス チ ル ベ ンの フ ッ素 置 換 体 がパ イ ロ ン 子 あ る い は3分 子 の マ α位 の て,確 実 に 落 ち る こ とが そ の 原 因 と して 考 え られ た. させ た と こ ろ,驚 の 縮 合 に よ り生 じるパ イ ロ ン 誘 導 体 が 得 炭酸 の後 に C6-C5骨 格 を も つ ジ ケ タ イ ド(9)を 主 生 成 物 と し て 与 え は 最 後 の芳 香 環 の形 成 まで 酵 素 反 応 が 進 行 し て,そ れ ぞ ロ ニ ルCoAと チ くべ き こ と に酵 素 は こ れ ら ア ナ ロ グ も 子 あ る い は3分 子 縮 合 し た新 規 バ イ ロ ン誘 導 体 と鍵 穴 な ど と表 の よ う に植 物 由 来III型PKSがin vitroで 置 換 基 の 立体 電 子 的 な 要 因 が酵 素 反 応 に大 き な影 響 を与 示 した 基 質 特 異 性 制 御 の 寛 容 さ(い い 加 減 さ!)と 触 媒 能 え る こ とが 示 さ れ た.次 の ポ テ ンシ ャル は特 筆 に値 す べ き も の が あ る.結 局,一 に,(2)ク マ ロ イ ルCoAの 芳香 環 を フ ラ ンや チ オ フ ェ ン で置 換 した ア ナ ロ グ を作 用 させ 部 の ア ナ ロ グ 体 を 除 い て,ほ た場 合,意 外 な こ と に,こ れ ら修 飾 基 質 も 同様 に ス タ ー が,酵 素 反 応 の ス ター タ ー あ る い は伸 長 基 質 と して 機 能 ター と して 機 能 し,ヘ テ ロ芳 香 環 を もつ 非 天 然 型 新 規 芳 し,一 連 の 非 天 然 型 新 規 ポ リケ タ イ ドを生 成 す る こ とが 2282 蛋 白質 核酸 酵素 Vol.48 No.16(2003) とん どすべ て の人 工基 質 Database Center for Life Science Online Service 図6 ス ターター 基 質 ア ナ ロ グ(a),伸 長 基 質 ア ナ ロ グ(b),両 基 質 ア ナ ロ グ(c)を 同 時 に 用 い た 場 合 のCHSお よ びSTSに よ る酵素 変換 通 常,CHSお よ びSTSは,本 来 の 基質 で あ る ク マ ロイ ルCoA(1a)を トロー ル(3a)を 生 成 す る.ま た,in bitroの ス タ ー ター と して,そ れ ぞ れ ナ リンゲ ニ ン カル コ ン(2a)と レス ベ ラ 酵 素反 応 で は,こ れ 以 外 に も,2分 が終 了 して 生成 した も の と考 え られ るBNY(4a)とCTAL(5a)が 子 あ る い は3分 子 の マ ロ ニ ルCoAが 縮 合 した 段 階 で 反 応 副 生 成 物 と して得 られ る. 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.48 No.16(2003) 2283 示 され た.も ち ろ ん 同様 な事 態 が 植 物 の細 胞 内 で 実 際 に 起 こ る こ と は 植 物 に と っ て は な は だ不 都 合 な は ず で あ り,細 胞 内 で の 酵 素 蛋 白質 の発 現 や 基 質 の供 給 な どを厳 密 に 制 御 す る 機 構 が 存 在 す る に 違 い な い.い ず れ にせ 3) 4) 5)市 6) せ る こ とに よ り,こ れ まで 以 上 の 「分 子 多 様 性 」 と新 し 8) (1984) Lukacin, 9) 10)田 Database Center for Life Science Online Service る 生 合 成 酵 素 を と りあ げ,こ れ を利 用,そ 11) 12) して 改 変 す る こ と に よ り新 規 有 用 物 質 の生 産 に結 びつ け て い く試 み は た い へ ん魅 力 的 で あ る.そ の 意 味 で,比 較 的 安 定 で取 り 扱 い の 容 易 な一 連 のIII型PKS酵 よ う.近 年,結 に 関 して 数 々 の興 味 深 い 事 実 が 明 らか に さ れ て きた が, そ の触 媒 機 構 の全 容 を 解 明 す る ま で に は 至 っ て い な い. 一方 ,酵 素 の 構 造 機 能 相 関 や 分 子 進 化 の 問 題,さ ら に実 際 の 植 物 に お け る生 合 成 の 改 変 と い っ た 問 題 に つ い て は,今 後 の研 究 の展 開 が 待 た れ て お り,有 機 化 学,構 生 物 学,植 13) 素 は 格 好 の材 料 と い え 晶構 造 の解 明 な ど に よ り,酵 素 反 応 機 構 に立 っ た 共 同 作 業 が 必 要 と され て い る.新 14) 15) 16) 17) 造 物 生 理 学 な ど多 領 域 の 学 問 の 相 互 理 解 の う え 18) しい 機 能 を有 19) す る 「ス ー パ ー 改 変 酵 素 」 と 「超 天 然 型 ポ リ ケ タ イ ド」 の創 出 を め ざ した 生 合 成 工 学 に,ひ き続 き挑 戦 した い. 本 稿 執 筆 に あた り,静 岡 県 立 大 学 薬 学 部 野 口博 司教 授 を は じめ 20) 21) とす る共 同研 究者 の 方 々 に厚 くお礼 申 し上 げ る.ま た,共 同研 究 を通 し て 貴 重 な 情 報 を ご 教 示 い た だ い た フ ラ イ ブ ル グ 大 学 Joachim Schroder教 授,な らび に ソ ー ク研 究所Joseph Noel教 授 22) に深 謝 す る.本 研 究 の一 部 は,文 部 科 学省,日 本 学 術振 興 会,(財) 東京 生 化 学 研 究 会,な らび に(財)ノ バ ル テ ィス科 学 振 興 財 団 の研 23) 究助 成 に よ り行 な わ れた もの で あ り,こ こ に深 く感謝 す る. 24) 25) 1) Dewick, P. M.: Medicinal Natural A Biosyn- 26) 2) thetic Approach, 2nd Ed., Wiley, West Sussex (2002) Schroder, J.: in Comprehensive Natural Products Chemistry (ed. Sankawa, U.), Vol. 2, pp. 749-771, Elsevier, Oxford 27) (1999) 28) 2284 蚤白 質 核 酸 酵素 Vol.48 Products, No.16(2003) K., Urbanke, C., Ernwein, C., Liu, B., Falkenstein-Paul, H., Schmidt, W., Beerhues, Plant J., 34, 847-855 (2003) 中 伸 治 ・田 浦 太 志 ・森 本 聡 ・正 山征 洋:日 L. : 本薬 学会 第 121年 会,講 演 要 旨 集2,p、108(2001) 今 後 の 天 然 物 化 学 研 究 の展 開 に つ い て 考 え た 場 合,多 薬 品 と して 重 要 な2次 代 謝 産 物 の 基 本 骨 格 構 築 にか か わ R., Springob, Schroder, G., Schroder, J., Matern, U. : FEBS Lett., 448, 135-140(1999) ブ ラ リ ー の 効 率 的 な 生 産 が 可 能 に な る. 様 な化 学 構 造 と生 物 活 性 を有 す るポ リ ケ タイ ドな ど,医 白 質 核 酸 酵 素,44,1562-1571(1999) 7) い 「生 物 活 性 」 を備 え た,「 超 天 然 型 」 新 規 化 合 物 ラ イ お わ りに 瀬 浩 志:蛋 Akiyama, T., Shibuya, M., Liu, H. M., Ebizuka, Y. : Eur. J. Biochem., 263, 834-839 (1999) Schoppner, A., Kindl, H. : J. Biol. Chem., 259, 6806-6811 よ,こ う した 異 例 と もい え る広 範 な 基 質 特 異 性 を利 用 し て,今 後 さ ら に新 た な 基 質 ア ナ ロ グ と酵 素 と を組 み合 わ Austin, M. B., Noel, J. P.: Nat. Prod. Rep., 20,79-110(2003) Hutchinson, C. R. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 33363338(1999) Okada, Y., Ito, K.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 150155(2001) Eckermann, S., Schroder, G., Schmidt, J., Strack, D., Edrada, R. A., Helariutta, Y., Elomaa, P., Kotilainen, M., Kilpelainen, I., Proksch, P., Teeri, T. H., Schroder, J. : Nature, 396, 387-390 (1998) Abe, I., Takahashi, Y., Morita, H., Noguchi, H. : Eur. J. Biochem., 268, 3354-3359 (2001) Funa, N., Ohnishi, Y., Fujii, I., Shibuya, M., Ebizuka, Y., Horinouchi, S.: Nature, 400,897-899 (1999) Li, T. L., Choroba, 0. W., Hong, H., Williams, D. H., Spencer, J. B. : Chem. Commun., 2156-2157 (2001) Ferrer, J. L., Jez, J. M., Bowman, M. E., Dixon, R. A., Noel, J. P. : Nature Struct. Biol., 6, 775-784 (1999) Jez, J. M., Ferrer, J. L., Bowman, M. E., Dixon, R. A., Noel, J. 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