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「川下り方式インターンシップによる 産学連携ものづくり実践教育」について

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「川下り方式インターンシップによる 産学連携ものづくり実践教育」について
「川下り方式インターンシップによる
産学連携ものづくり実践教育」について
増
田
新
(機械システム工学部門准教授)
1.はじめに
ものづくりのプロセスは、しばしば川の流れ
に例えられます。現実のものづくりプロセスを
単純化したものを図 1 に示しますが、基本的に
は、企画、開発の上流工程から、試作検証、量
産設計を経て、生産に至るという流れになって
います。大学におけるこれまでの工学教育は、
この一連のプロセスの断面・断面で必要とされ
る、工学的能力やスキルを磨き鍛えるものでし
た。しかし、現実のものづくりプロセスが一種
の「流れ」である以上、これら全体を貫き、見
通す「俯瞰的な視点」を育む実践的教育もまた、
必要不可欠であるとわれわれは考えています。
同様のことは、ものづくりの主体である製造
業の現場でも耳にすることが多くなりました。
技術の高度化・専門化が進み、また、ものづく
りを一から立ち上げた経験を持つ世代が企業か
ら去りつつある現在、ものづくり全体をプロ
デュースすることのできる人材をいかに育てる
のかが大きな課題になっているのです。
このような問題意識のもと、京都工芸繊維大
学では、平成 20 年度から 3 カ年の計画で文部
科学省からの委託を受け、ものづくりのプロセ
スの上流から下流までを追跡的に実体験、ある
いは擬似体験する実践的な技術者育成プログラ
ム、通称「川下り方式インターンシップ」プロ
グラムを開発することになりました。幸いにも、
京阪地区の大手メーカー企業各社様、京都地区
の中小加工企業のネットワークである京都試作
ネット様から強固なコミットメントをいただき、
これに本学を加えた三者による密接な連携のも
図1
事業のコンセプト
とに、計画を推進しています。わが国のものづ
くりを支える高度技術者育成に向けたチャレン
ジにどうぞご注目ください。
2.「川下り方式インターンシップ」とは
本プログラムにおいて、参加学生は少人数の
チームを組み、メーカー企業から提供された実
践的な設計課題に取り組みます。与えられた課
題を分析して、それを解決する機械や装置、こ
れをここでは、マイプロダクトと呼びますが、
マイプロダクトが形になるまでの全プロセスを、
「当事者として」、「モノと情報の流れ」を追跡
しながら実体験します。ちょうど、マイプロダ
クトという「舟」に乗って、役割と現場をスイッ
チしながら、ものづくりプロセスという「川」
を上流から下流に下っていく、そうしたイメー
ジを込めて、われわれは「川下り方式」と呼ん
でいます。
プログラム全体は、「守秘義務研修」「ものづ
くりデザイン実習」
「ものづくりインターンシッ
プ」「ものづくりのマネジメント」の各パート
からなります(図 2)。
最初に、インターン学生として企業に入る際
に必須となる守秘義務に関する研修を行います。
次に、参加学生は少人数のチームに分かれ、
チー
ム毎にメーカー企業から提供された設計課題を
与えられます。ここでまず学生は、
「開発設計
技術者」としての立場に立つことになります。
そして、与えられた課題を満足する機械や装置、
つまりマイプロダクトをデザインすることを求
められます。設計作業は基本的には大学キャン
パス内で行いますが、要所で課題を提供いただ
いたメーカー企業に赴き、企業技術者へのプレ
ゼンテーションとディスカッションを行います。
そしてこれらを経てデザインを洗練させ、詳細
設計を完成させます。
設計が完成すると、学生には「発注者」とし
て自分が設計したマイプロダクトの部品加工を
京都試作ネットに実際に発注してもらいます。
その際の打ち合わせ・見積作業を実体験するこ
会
誌
1
9
図2
「川下り方式インターンシップ」の構想
とで、加工コストに照らして設計の善し悪しを
自己評価し、図面を通じた技術コミュニケー
ションの重要性を学ぶことができます。
続いて、学生は発注情報とともに発注先の企
業に移動し、そこでインターンシップを行いま
す。つまり、今度は「加工技術者」としてその
部品を加工する立場に回るわけです。そこでは
熟練したプロの手によって品物が加工工程に分
解され、加工され姿を現す、そのプロセスをつ
ぶさに観察し、また、加工工程の一部に関する
実習にも取り組みます。さらに、設計時に自分
たちが想定していた加工工程とプロの仕事との
違いを分析させることで、設計時には意識しづ
らい「作る側の論理」に気づかせることができ
ます。ここでのインターンシップは、単なる工
場見学とも中途半端な技能研修や就労体験とも
異なる、濃密な体験として学生の身に刻まれる
ことになるでしょう。
インターンシップが終了したら、再び発注側
の立場に回り、できあがった品物の納品を受け
ます。マイプロダクトの組み立てを行い、課題
で要請された性能を満足するかの評価を行いま
す。
最後に、品質管理・生産管理などの生産技術
に関する研修をメーカー企業から講師を招聘し
て行います。これを踏まえて、学生は、
「生産
技術者」として、マイプロダクトの製品化や実
用化を意識したディスカッションを行い、課題
を整理します。そしてプログラムのまとめとし
て成果発表会をおこない、プログラム受講中に
得た経験と知識を整理してプレゼンテーション
します。
以上のように、本プログラムにおいては、学
生は、ものづくりの流れに沿って役割と現場を
スイッチしながら、「開発」「設計」「加工」
「生
産」といった複数の立場を経験することになり
ます。これらの立場による視点の違いを理解す
ることにより、ものづくりプロセスの全体を見
通す能力を育むことができると考えています。
他にも、知識を問題解決につなげる工学セン
ス、一つのアイディアを複数の視点から検証す
る批判的思考能力、図面などを通じた技術コ
ミュニケーション力を涵養することができ、そ
うした取り組みをとおして、ものづくりプロセ
スの全体を見通す能力を持つ俯瞰的人材を育成
し、将来、ものづくりプロセスのプロデューサ
となりうる人材、すなわち企業において先導的
役割を担うことのできる人材を、社会に供給す
ることを目指しています。
会
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