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新規事業創出のための技術マーケティングと研究開発マネジメント

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新規事業創出のための技術マーケティングと研究開発マネジメント
新規事業創出のための技術マーケティングと研究開発マネジメント
G2
関西熱化学㈱
山 下 浩
㈱ソフト 99 コーポレーション 石 居
テイカ㈱
奥 田 雅
松下電器産業㈱
福 井 康
史
誠
朗
之
松下電工㈱
雄
鎌
田
策
Ⅰ.はじめに
近年、技術革新のスピードがめざましく、企業間の競争が激化してきている中、研究開発投資に
見合う利益に結びついていないという現実があり、それ故、最近では技術マネジメントや技術経営
といったことが重要視されるに至っている。本グループでは新規事業を創出するための技術マネジ
メントとはどうあるべきかといった観点で研究を進めてきた。グループ内の各メンバーの企業は、
同じ製造業ではあるものの、対象製品の特徴(材料・素材系、機能複合・システム系)や対象市場
(B to C、B to B)が異なっており、共通した技術マネジメントの考え方が適用されるとは言い難
い。また、種々のケーススタディ企業の研究を通じて企業の製品領域、対象市場を分類して、各セ
グメントにおいてどのような技術マネジメントが有効であるかの検証を行った。
Ⅱ.課題認識
種々議論の中から、グループ内メンバーの各企業が抱える共通の課題認識として、新事業が創出
されていないという点に集約された。短期的な既存事業・既存技術からの創出だけではなく、中・
長期的に新事業創出を担う本社技術部門からも創出されていないのではないか、ということにも議
論が及んだ。これら新事業を創出するために必要な要件を議論し、
「技術マーケティング」
、
「研究開
発マネジメント」に焦点を当て、我々の研究課題の範囲として設定した。
Ⅲ.前提となる仮説
技術マネジメントに関する課題を明らかにすべく、グループ内メンバーの各企業において研究開
発が大きな事業に至らなかった事例をもとに
研究開発の規模の大きさ
議論を進めると、
その要因は各企業の特性によ
C と B to B にそれぞれ分類し、図Ⅲ―1に示
すように4つのセグメントでコース内企業各
社の分類を行った。ここでは、
「自社製品領域」
に関しては、材料・素材系と機能複合系という
定性的な分類ではなく、
研究開発規模の大きさ
で分類することでより定量的な分類を行った。
同様に「対象市場領域」に関しては一般消費者
の購入決定権の大きさで分類することでより
ワックス
スキンケア
対象 市 場領域
材系と機能複合系に、
「対象市場領域」を B to
BtoC
toC
・顧客ニーズ:顕在化
エアコン
・顧客評価:消費者の感性
目薬
トラクタ
シリコン系シーリング材
真空ポンプ
酸化チタンメカニカル
シール
BtoB
toB
機能複合系
デジタル
家電
プラント
配管ダク ト
誘電体
制御機器
・顧客ニーズ:潜在化
技 術 マーケティング
そこで、我々は「自社製品領域」を材料・素
自社製品領域
材料・素材系
一 般 消費 者 の購 入 決 定権 の大 き さ
り異なるのではないかと考えた。
コージェネ
・顧客評価:製品のQCD
コークス
・「少数のコア技術」
・「複数技術の融合」
・研究開発期間 :短い
・研究開発期間 :長い
・研究開発費 :小
・研究開発費 :多
研究開発マネジメント
<図Ⅲ―1> 企業のセグメンテーションとその特徴
定量的な分類を行った。
これらの各セグメント
で新事業創出の技術マネジメントが異なり、
「技術マーケティング」の優先課題、
「研究開発マネジ
メント」の優先課題もそれぞれ最適な考え方があるはずであるという仮説を立てた。
Ⅳ.ケーススタディ
以上の前提となる仮説にもとづき、ケーススタディの6社について、前述のセグメントにポジシ
ョニングを行った上で、それぞれの技術マネジメントの特徴を「技術マーケティング」と「研究開
発マネジメント」の観点から整理を行い、仮説の検証を進めた。企業ごとに整理したものを表Ⅳ―1
に示す。
表Ⅳ―1 ケーススタディ企業の特徴
ケーススタディ
企業名
技術マーケティング
研究開発マネジメント
②住友3M
BtoB/材料・素材
③東陶機器
BtoB/材料・素材
・ 教育された営業マンによる市場開拓型の
提案活動
・ リードユーザによる調査
・ ショールームによる自社技術開示で新規
市場を開拓
・ 学会、フォーラムや展示会による自社技
術のアピール
④島精機製作所
BtoB/機能複合
・ 最終顧客へアプローチし、アプリを拡大
・ 開発部長の拘りが成功の秘訣
・ 工場内ショールーム
①日東電工
BtoB/材料・素材
⑤P&G
BtoC/材料・素材
⑥日産自動車
BtoC/機能複合
・ ブランドマネージャ
・ 徹底的な消費者調査
(消費者へ実物を提示)
・ アプリケーションは自動車(+α:自動車
の周辺テーマ)に集中
・ 事業ごとのロードマップで共有
・ テーマへの技術リソースの配分は CTO が決定
・
・
・
・
アイディア尊重、アングラ許容
豊富な異業種技術者間のネットワーク
積極的なアプリケーション開拓
知財収入で投資回収
・ アプリケーションの提案
・ 積極的なM&Aで技術を獲得
・ 研究フェーズ管理
・ AEでは、モノをつくって確認
Ⅴ.仮説の深堀と提案
ケーススタディから我々が仮説の前提としている「対象市場領域」と「自社製品領域」の二軸のポ
ジショニングごとに、各セグメントのキーワードをもとに整理を行った。図Ⅴ−1 より、
「技術マー
ケティング」については「対象市場領域」ごとに、
「研究開発マネジメント」については「自社製品
領域」ごとに、共通の項目で整理が可能であることが明らかになった。すなわち、対象市場領域が
「B to C」の技術マーケティングは「市場深耕」
、対象市場領域が「B to B」の場合は「市場開拓」
というキーワードで共通性があり、自社製品領域が「材料・素材系」の研究開発マネジメントは「テ
ーマの多産」
、自社製品領域が「機能複合系」の場合は「技術の進化」というキーワードで共通性が
あることがわかった。
1.提案①:
「市場深耕」型技術マーケ
材料・素材系、機能複合系にかか
に重要な意味を持つ。このような市場
ではターゲットとする顧客をどこに
リードユーザ
ショールーム
学会・フォーラム
最終顧客へ
アプローチし、
アプリを拡大
BtoB
toB
かが、コンセプト構築において非常に
体からターゲットとすべき顧客を選
択するための「顧客ポートフォリオ」
BtoC
toC
積極的なM&A
研究フェーズに
よるテーマ管理
アイデア尊重
アングラ許容
アプリの開拓
技術責任者の
こだわりを反映
テーマの多産
技術の進化
BtoB
toB
おいてマーケティングすればよいの
重要となる。そこで、我々は、市場全
市場開拓
あるが、それ以上にコンセプトが非常
徹底的な
消費者調査
アプリケーション
は自市場(+α)
に集中
対象市場領域
品が本来持つ機能や性能も重要では
材料・素材系 自社製品領域 機能複合系
機能複合系
BtoC
toC
対象市場領域
わらず、B to C 市場においては、商
材料・素材系 自社製品領域
市場深耕
ティング
技術マーケティング
研究開発マネジメント
<図Ⅴ―1> キーワードからの共通項
を提案した。顧客ポートフォリオとは、顧客構成比と顧
25%
育成顧客
重点顧客
客成長度の二軸上に、顧客の規模を大きさとした円を顧
客層ごとにマッピングし、今後予想される各顧客の推移
20%
50歳
を表現して、どの顧客をコンセプト構築のターゲットに
平均
15%
するのかを決定するツールである。
現状優位性
実際の DVD レコーダの市場調査の事例をもとに、顧
客ポートフォリオの運用を説明する。現在使用している
40歳
30歳
10歳 20歳
10%
人の割合を「現状の優位性」
、1 年以内に購入予定のあ
る人の割合を「将来成長性」
、人口構成比率を「顧客の
規模」として、それぞれの顧客層の値を横軸、縦軸、円
の大きさで表現すると、図Ⅴ―2 のように表される。こ
こで、50 歳代の顧客は、将来の大衆追随者になるポテ
円の大きさ
=顧客の規模
5%
再編顧客
0%
0%
5%
将来成長性
10%
効率化顧客
15%
20%
25%
<図Ⅴ−2> DVD レコーダ
ンシャルを持ち合わせる「育成顧客」に位置づけられる
顧客ポートフォリオの例
ことがわかる。
2.提案②:「市場開拓」型技術マーケティ
専門誌
HP
技術者
技術者
ショールーム
展示会
オープンラボ
技術者
ング
B to B 市場で新規市場を開拓する方法
としては、営業が主にマーケティングする
新規
ユーザ
コア技術
方法と技術者が主にマーケティングする
学会/協会
フォーラム
新規
ユーザ
あぶり出し
技術者
技術者
新規
ユーザ
出身大学研究室
講演会/公的研究機関
商社の活用
技術者
技術者
新規
ユーザ
技術者
方法の2つがある。それぞれにはメリット、
デメリットがあり、デメリットを補う仕掛
けをすることにより、より効果的にマーケ
ティングを進めることが可能となる。技術
者によるマーケティングでは、技術者同士
が直接話しをすることができ、技術的に深
見えない市場の
見えない技術者
市場と技術が融合する場
<図Ⅴ−3> 市場と技術が融合するためのしかけ
いやり取りの中から潜在ニーズを引き出す可能性が高くなる。また、営業のフィルタなしの生の情
報入手が可能で、研究開発期間を短縮できるといったメリットがある。しかしながら、技術者は深
い視野を持ち合わせている反面、研究分野に偏りがあり、視野の広がりには限界がある場合が多々
見受けられる。そこで、市場と技術が融合する仕掛けを設けることにより、目に見えないユーザー
の技術者を目に見えるところにあぶり出し、直接技術者同士で話をすることにより効率的に市場を
開拓することが有効だと考えられる。仕掛けをうまく利用し、市場と技術を融合し市場開拓してい
る事例として商社活用の事例とホームページ活用の事例を挙げ、新しい“融合の場”を提案した。
技術の数
3.提案③:
「テーマ多産」型研究開発マネジメント
Ⅰ
Ⅰ 技術
アプリ
TOTO
Ⅱ
Ⅱ
テーマの多産にも種々の考え方がある。創出されるアプリケーシ
ョン(商品)の数と構成する技術の数の関係により図Ⅴ―4 に示す
ような分類が考えられる。この分類の中で、
「技術の有効活用」
「強
日産
いモノづくり」という観点からタイプⅡの「多対多」の組み合わせ
が最も有効な多産と考える。ここで多産とは単純なテーマの数では
Ⅲ
Ⅲ
◆開発投資:大
◆開発効率:小
◆リスク:大
◆開発投資:大
◆開発効率:大
◆リスク:小
◆開発投資:大
◆開発効率:中
◆リスク:小
◆開発投資:小
◆開発効率:特大
◆リスク:大
アプリケー
ションの数
Ⅳ
Ⅳ
なく図Ⅴ―4 に示されるような「多対多」
、すなわちテーマとアプリ
ケーションの結合の数が多いほど多産であるということが言える。
3M
<図Ⅴ―4>テーマ数とア
プリ数の関係
次に、テーマおよびアプリケーションの多産に関して提案
1.技術の機能分解
を行った。ポイントは一つの技術からいかに複数のアプリケ
材料
酸化チタン
ーションを考え出すかである。酸化チタンを例に説明する。
機能
光の吸収・反射
難燃性
技術の機能分解を行い、アイデアを出す。材料の機能抽出を
機能の分解1 機能の分解2
白色化
・白い・明るい・まぶしい
・かくす・ごまかす
親水・分解
・・・・
UV/IR吸収・反射
2.アプリの抽出
行い、これをさらに分解し平易な言葉の表現に変換し(図中
塗料・壁紙・雨どい
蛍光灯、外装塗装
チョーク、カーテン、入浴剤
石鹸、ホワイトチョコレート
包装材、コーヒーフレッシュ
・白い・明るい・まぶしい
・かくす・ごまかす
1)
、さらにそれらの表現から連想されるアプリケーション
のアイデアを抽出する作業を行う(図中2)
。最後に、これ
3.アプリ実現のための技術抽出
らアプリケーションを実現するための技術的手段の抽出作
粒子製造技術、粒径制御技術
表面被覆技術、粒子分散技術
乳化技術、有機溶媒技術
塗料
・・・
業を行う(図中3)
。そして、これらのアプリケーションと
技術手段の評価方法の提案を行い、多産技術評価の考え方と
<図Ⅴ―5>多産のステップ
して多産指数という指標を導入した。
4.提案④:
「技術進化」型研究開発マネジメント
機能複合系の製品開発は、研究開発の過程で複数の技術がタイミングよく融合してアプリケーシ
ョンを創出し、事業化される。したがって、技術進化型マネジメントには、テーマの早期選択と集
中が重要であり、早期にアプリケーションを想定し、具体的なビジョンを描き、複数の技術がタイ
ミングよく結合・融合しなければならない。しかしながら、特に、機能複合系の領域を自社製品の
対象とする企業のコーポレート研究所からなかなか新事業が創出されないのは、特定技術だけに責
任を持つ専門研究所から構成され、アプリケーションとして責任を全うし、事業化を推進する組織
がない場合が多いためであると考える。すなわち、専門研究所主体のロードマップでは、技術の融
合が必然的に発生せず、研究開発テーマが事業化前に“死の谷”に葬られることになる。したがって、
我々は、コーポレート研究所の中に、アプリケー
ション開発タスクフォース(以下 TF)のような
テーマ
探索
テーマの多産
アプリケーションに必要な研究所の技術者はもち
研究テーマの数と投資額(直径)
ロード
マップ
アプリケーション
開発TF
新事業
新事業
ロード
マップ
く、事業化の加速に必要な外部企業との標準化推
進やアライアンス活動も行い、アプリケーション
事業化
死の谷
入を行う。また、ここでは、技術開発だけではな
Ideas
専門研究所B
アプリケーションを基軸とした技術リソースの投
実用化
開発
死の谷
した。このアプリケーション開発 TF には、その
先行技術
開発
テーマの選択と集中
専門研究所A
アプリケーションに責任を持つ機能の設立を提案
ろんのこと、引き継がれる事業部からも参画し、
実用可能性
検討
企業
大学
企業 大学
早期、選択と集中
外部技術
事業化加速
中心のロードマップを遂行することになる。
<図Ⅴ―6>
アプリケーション開発 TF
Ⅵ.まとめ
(1) 対象市場領域が「B to C」の場合の技術マーケティング:
「市場深耕」が優先課題
既存市場に存在するターゲット顧客の選定がポイントであり、顧客ポートフォリオを提案
(2) 対象市場領域が「B to B」の場合の技術マーケティング:
「市場開拓」が優先課題
顧客技術者のあぶり出しがポイントであり、技術訴求型ねずみ算式市場開拓の方法を提案
(3) 自社製品領域が「材料・素材系」の場合の研究開発マネジメント:
「テーマ多産」が優先課題
技術とアプリの多対多対応がポイントであり、多産の考え方とテーマの評価手法を提案
(4) 自社製品領域が「機能複合系」の場合の研究開発マネジメント:
「技術進化」が優先課題
研究開発テーマの早期の選択と集中がポイントであり、アプリを軸とした組織の有効性を提案
以 上
ロード
マップ
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