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研究課題:「災害復興地域における災害ソーシャルワークの実践的研究

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研究課題:「災害復興地域における災害ソーシャルワークの実践的研究
研 究 課 題 :「 災 害 復 興 地 域 に お け る 災 害 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 実 践 的 研 究 ― 高 齢 社 会 の
復興に向けたまちづくりの後方支援から―」
代表研究者:佐原まち子(国際医療福祉大学医療福祉・マネジメント学科 教授)
1、研究の背景
平 成 2 3 年 3 月 11 日 に 発 生 し た 東 日 本 大 震 災 は 、歴 史 的 に も 経 験 の な い 大 規 模 な 被 害 を
もたらし、広範囲に及ぶ東北沿岸地域に壊滅的打撃を与えた。直後から医療ソーシャルワ
ー カ ー の 職 能 団 体 (公 社 )日 本 医 療 社 会 福 祉 協 会 は 、 災 害 対 策 本 部 を 立 ち 上 げ て 、 主 に 被 害
の 大 き か っ た 宮 城 県 石 巻 市 に 入 り 、2 0 日 後 に は 全 国 の 会 員 に 参 加 を 呼 び か け て 支 援 活 動 を
開始した。これまでに参加した医療ソーシャルワーカーは現地支
援 延 べ 約 2,800 名 、 そ の 活 動 を 支 え る 事 務 所 支 援 述 べ 約 1,000 名
に及んでいる。保健医療分野で働く医療ソーシャルワーカーが、
職場を短期間離れて石巻へ出向き、交代体制で現地責任者を中心
に 活 動 を 継 続 し て い る 。( 平 成 2 5 年 9 月 現 在 )
平 成 23 年 4 月 か ら 9 月 ま で は 福 祉 避 難 所 に お い て 、 ケ ー ス ワ
ー ク を 中 心 に 被 災 後 の 心 理 ・社 会 的 ア プ ロ ー チ に よ る 支 援 を 実 施
した。特に必要だったのは、福祉避難所閉鎖に伴う仮設住宅等へ
の移行支援であった。そこで求められたソーシャルワーカーの役
割や機能、技法やスキル等は、これまで各自が実践現場で培った
技術を基にしているが、災害時に特有の配慮は必要だった。
平 成 2 3 年 1 0 月 か ら の 災 害 復 旧 ・ 復 興 期 で は 、被 災 地 の 専 門 職 に 対 す る 後 方 支 援 に 加 え 、
(公 社 )日 本 医 療 社 会 福 祉 協 会 の 現 地 責 任 者 を 中 心 と し た 、 復 興 に 向 け た ま ち づ く り の 後 方
支援を実践してきた。生活ニーズ調査の分析から、復興期における予防的な専門職による
フォローアップ支援を必要とする世帯は、高齢単身や高齢夫婦世帯よりも世帯維持の中核
を担う成年世代にひとり親のいる拡大家族に高いことがわかった。災害後の復興を支える
ために、これら脆弱な家族を継続的包括的に支援している。また潜在的な回復力をもつ独
居の成年男性や、復興に取り組む地域住民のグループ化は、地域の回復力を高めるので、
こ れ ら の 支 援 活 動 を 実 施 し て い る 。平 成 25 年 10 月 に は 、復 興 公 営 住 宅 へ の 移 行 支 援 を 求
め ら れ 、今 一 度 、全 国 の 医 療 ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー の 力 を 結 集 す る こ と が 必 要 と な っ て い る 。
2、研究の目的
これまで災害ソーシャルワークは、卒前卒後教育においても十分なされてこなかった。
実践活動だけでなく、研修プログラムの開発が求められている。そこで医療ソーシャルワ
ーカーの被災地での実践経験と、避難所閉鎖後の在宅被災者支援から明らかになったこと
を踏まえ、今後の災害に備えた、コミュニティ形成支援を担う人材育成の災害ソーシャル
ワーク研修プログラムを開発する。
3、研究方法
(公社)日本医療社会福祉協会の石巻現地支援活動に協力し、福祉避難所での活動に参加
した医療ソーシャルワーカー達と、活動体験や意見を共有しながら、必要とされる知識及
び技術を抽出する。トライアル研修を開催して検証を行い、アクションリサーチの方法に
より、現在も継続している復興期における支援活動などの現状
を踏まえて、災害ソーシャルワークに必要な知識技術の洗い出
しを行い、研修プログラムを開発した。
(1) 計 画 期
宮城県石巻市被災地支援の実践から、石巻市内の専門職の状況を確認し協力体制の共有
を目的とし①被災地域の医療ソーシャルワーカーとの交流をはかり、②希望される医療ソ
ーシャルワークの知識や技術を、宮城県医療ソーシャルワーカー協会と協力し研修開催し
た。また③災害後の医療機関で現地の医療ソーシャルワーカーたちが実践を振り返る事例
検討会の開催を後方支援した。福祉避難所等での医療ソーシャルワーカーとしての後方支
援 、避 難 所 閉 鎖 後 で の 実 践 を 振 り 返 り 、医 療 ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー に 求 め ら れ た 役 割 と 機 能 、
そこで有効であった面接技法・手法を抽出しトライアル研修へとつなげた。
(2) 実 践 期
検討結果からトライアル研修Ⅰ・トライアル研修Ⅱ、を企画し実施した。その内容を、
以下に示す。
①トライアル研修Ⅰ
災害救助法、災害後に必要とする社会資源手続きなど
の法的知識を学ぶ。トライアル研修Ⅰでは、災害救助法
についてその成り立ちや制度の利用に関する知識の講義
を受けた。社会資源の活用では弁護士より実際の非常時
の法律に即した支援の必要性などを学ぶことができた。
どちらも事前に備える知識としては必須の内容であり、
日頃の相談では使うことのない災害時の基礎知識であるとアンケート調査結果から評価さ
れた。しかし被災した当事者の生活問題を全体的包括的に理解し、短時間に即応的に解決
を支援するソーシャルワークとしては、よりソーシャルワークを意識した実践的な知識の
提供が必要となる。そこで今後は現地支援経験者である医療ソーシャルワーカーが講師と
なり、災害ソーシャルワークの援助の実際として法制度の活用と理解を講義することが必
要であると分かった。
②トライアル研修Ⅱ
国家レベルでの災害救助に関する知識として自衛隊の
救護活動の実際の理解、DMATの活動理解を進めた。
災害時の多職種連携として、医療ソーシャルワーカーに
は特に必要な知識であり研修プログラムには必須である
ことが分かった。
演習として、医療ソーシャルワーカーが被災地で支援
を行った事例をもとに模擬事例を作成し、災害ソーシャ
ルワークのグループ演習を実施した。しかしながら被災
地での活動経験があるソーシャルワーカーであっても、
研修という平時の場面では、災害時の混乱した状況や整
っていない環境等、災害時の臨場感がもてないことが明
らかとなり、事例検討等の演習方法には工夫を要するこ
とがわかった。
(3)評 価 お よ び 情 報 の 追 加
① フ ォ ー カ ス ・ グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー の 実 施:ト ラ イ ア ル 研 修 の 有 効 性 と 改 善 す べ き 点 を 評
価するためにトライアル研修を受講し、現地活動経験もある熟練した医療ソーシャルワー
カ ー に 対 し て 、フ ォ ー カ ス ・ グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー を 実 施 し た 。災 害 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 研 修
の目標を達成する際に必要な研修内容や効果的な伝達方法について、明らかにすることが
目的である。短期間で担当する医療ソーシャルワーカーが交代するので、援助過程を的確
に申し送る記録の技術、職場を離れて被災地に支援に入る場合の準備について、送り出し
の側にも研修が必要であるとわかった。
②送り出し側へのインタビュー調査:現地支援活動に医療ソーシャルワーカーを多く送り
出していた3施設の責任者に、職場として、どのように職員を送り出すことができていた
のかをインタビュー調査した。その結果、災害支援で緊急時に職員を派遣するには、日頃
の業務体制の整備、組織的に送り出す準備、現地支援終了後に職場復帰する職員への職場
内 の 受 け 入 れ 態 勢 、 PTSD 予 防 の 意 識 化 な ど 、 送 り 出 す 側 の 体 制 整 備 が 必 要 で あ る こ と が
明らかになった。
(4)プ ロ グ ラ ム の 修 正
トライアル研修Ⅰと研修Ⅱについて、トライアル研
修を受講し、現地活動経験もある熟練した医療ソーシ
ャルワーカーと企画者による評価、また現地での実践
した経験のある医療ソーシャルワーカーらからの評価
をもとに、災害ソーシャルワーク研修のプログラム内
容を修正し、以下の手順で改良を加えた。
①プレセッションの実施:修正したプログラムを検証
す る た め に 、フ ォ ー カ ス ・ グ ル ー プ イ ン タ ビ ュ ー に 参 加
した熟練した医療ソーシャルワーカーに対してプレセッションを行った。プレセッション
で取り上げたのは演習方法である。模擬事例を準備し、ロールプレイを交えて短時間に記
録を読み状況を把握して面接する演習を実施した。
②グループインタビュー:プレセッション後にインタビューを行い、研修目的が達せられ
たかを確認した。短時間に事例を理解し、引き継いで追加した情報を記録し、次に申し送
る 演 習 か ら 統 一 さ れ た 途 切 れ な い 援 助 継 続 に は 、さ ら な る 演 習 方 法 の 再 検 討 が 求 め ら れ た 。
4、結果
トライアル研修、プレセッションの結果から最終
的 に 災 害 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 研 修 の プ ロ グ ラ ム (2 日
間 ) を 開 発 し た 。各 講 義 や 演 習 の 目 的 は 以 下 の と お り
である。
講義Ⅰ「災害ソーシャルワークに臨む姿勢(価値・
倫 理 )」
災害支援に対する基本的姿勢を確認し災害支援
に臨むソーシャルワーカーの価値について振り返る
講義である。日ごろの業務におけるソーシャルワー
クと定義や価値・倫理は変わらないが、災害現地に
出 向 く と き に 必 要 な 、現 地 の 風 土 や 地 域 が 持 つ ス ト レ ン グ ス を 把 握 す る こ と を 目 的 と す る 。
被災した人々が自らの力で復興期に回復していく力を信じ、それを阻害しない支援をめざ
す必要性について講義する。
講 義 Ⅱ 「 支 援 対 象 の 理 解 と SW」
被災された人々は、支援する専門職の想像を超える心の傷を抱えている可能性がある。
災害の起こり方や状況の違いなど、支援する対象それぞれの状況を理解しようとする姿勢
が求められる。援助するために必要な物品をはじめ援助環境は整っていない。平時とは異
なる情報収集が必要となるなかで、医療ソーシャルワーカーには自分自身を道具とし、目
の前の混乱する当事者の状況を丁寧に理解しようとすること、被災者のおかれている状況
を共感的に理解する姿勢を示す、ソーシャルワークスキルが求められる。
講義Ⅲ「ソーシャルワークに必要な法制度
災害救助法・被災者生活再建法」
基本的な災害時に必要とされる 2 つの法を中心に、事前知識を習得する。単に法律を知
るのでなく、具体的な実践事例の理解を通して災害時に必要なソーシャルワーク援助の技
術の習得を目指す。
講義Ⅳ「外部支援者の理解と連携構築」
災害時には、多くの支援者が外から多数入ることにより、情報共有に混乱をきたすこと
がある。そこで現地の社会資源がどの様になっているのかを把握する際に、それぞれの機
能や特徴を理解し有機的に連携を組むための協力者理解について学ぶ。それぞれの組織の
支 援 者 が 入 れ 代 る 中 で 、構 築 さ れ て い く 災 害 時 の 連 携 の 特 徴 と 会 議 参 加 で の あ り 方 ・ 参 加 方
法と申し送りなどについて理解する。
講義Ⅴ「災害支援者が受ける二次的被害」
災害時に支援者は、医療ソーシャルワーカーを含め何かをしなければという高揚した気
持ちで臨むことが多い。しかし支援者自身も被災していることや、外からの支援であって
も被災地で目にしたことや被災者の体験を共感的に理解することで傷つくことがある。予
防的知識として、自らを守るためにも二次外傷性ストレスに関する基礎知識を持つ。
講義Ⅵ「支援者を現地に送り出す側の準備」
医療ソーシャルワーカーを派遣するには、日ごろからの体制整備が重要になる。この体
制整備は、実は災害時だけでなく平常時の危機管理でもある。組織的に送り出す準備と、
現 地 支 援 終 了 後 に 職 場 復 帰 す る 職 員 の 職 場 内 で の 受 け 入 れ 態 勢 、P T S D 予 防 の 意 識 化 な ど 、
送る出す側の体制整備について考える。
講義Ⅶ「災害時のソーシャルワークにおける記録・サマリーの特徴」
災害時には、短期間に複数医療ソーシャルワーカーが交代する現場となるため、記録の
書き方、申し送り方法、他機関連携のサマリーなどの記載方法を習得する。平時とは異な
り 、簡 潔 に 援 助 の 視 点 を 申 し 送 る 方 法 と し て ジ ェ ノ グ ラ ム を 含 む エ コ マ ッ プ が 有 用 で あ り 、
そのスキルの獲得。また模擬事例による災害ソーシャルワークの総括的な実践演習を行う
まとめ
災害では、刻々と予測しにくい状況変化が起きる。その変化に合わせ、短時間に全体を
俯瞰するアセスメント力が求められる。交代して支援をつなぐSWが同じ視点を共有し、
複数のかかわりでも統一感のある、途切れのない支援が展開できなければならない。開発
した災害ソーシャルワーク研修を受講したソーシャルワーカーの活躍が期待される。
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