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physiological polyspermy
生理的多精 (physiological polyspermy) 貝類、昆虫類、軟骨魚類、有尾両生類 、爬虫類、鳥類などでは一つの卵に多 数の精子が入る現象が見られ、『生理 的多精』と呼ばれている。しかし、多精 の場合でも、雌性前核と合体するのは 一つの精子に由来する雄性前核だけで あり、他の精子由来の核は退化する。 このような多精受精の動物では卵細胞 質は多精拒否機構をもっておらず、卵 に侵入した全ての精子核は膨潤して雄 性前核を形成し、中心体は発達して星 状体を形成するが、ここまでで、中心体 は複製されることなく、核質とともに退 化する。つまり、多精の動物の多精拒 否は卵細胞膜にはなく、細胞質中にあ る。 しかし、詳細は不明である ( いくつか の仮説が立てられている )。 ⇔ parthological polyspermy 生理的多精の「卵細胞質内多精拒否」 実験 ①イモリの多精受精卵を針で2分割して 、卵の核と精子の核を含む卵片と 精子 核だけを含む卵片に分ける。 核の行動 を観察 卵核を含む卵片では一つの雄性前核が 卵核と合体して接合核を作り、他の雄性 前核は退化する。しかし、精子核だけを 含む卵片では精子核は退化せず、紡錘 体を形成して、多極分裂が起きる。 仮説 ① Frankhauser の仮説 「接合核から他の精子の抑制因子(退 化因子)が出される」 と仮定 ② Bataillon の仮説 「細胞周期を維持する活性因子が接合 核のある動物半球に局在する」 と仮定 ③ 岩尾康宏の仮説 (イモリ卵の交雑実験や核移植によって) 精子核の退化が核の種類に依存すること を見いだし、接合核でのみ中心体の複製 が起きることから、中心体複製因子を仮定 ②受精直後に卵核のみを微小ピペットで 、接合核形成後MPF(成熟促進因子)の活 吸引除去する。 性上昇に伴って染色体の形成、双極紡錘 核の行動 を観察 体の形成が起こるが、中心体複製因子の 作用が及ばない他の精子核は、この細胞 卵内の精子核の退化が抑制される。 周期の中に入れないため、退化に導かれ る と仮定。 岩尾康宏:「遺伝」、vol.43, no.9, 1989. 顕微授精・卵細胞質移植 精子の顕微注入 受精時の生理学的な解明 を目的とした研究(顕微注 入)が、発生学にて使われ ていたウニやカエルにて 行われた。精子1個をガラ ス・マイクロピペットにて卵 細胞質中に注入すること によって、受精の初期の 現象である精子頭部の膨 化や、前核形成などを観 察した。その後材料として 哺乳類が使われはじめた が、研究はもっぱら精子の 卵への侵入前後の生理学 的な面の解明が主であっ た。 家畜繁殖での家畜の増殖 (産子の生産)や、ヒトの不 妊治療への応用がその後 検討された(顕微授精とい う分野の発達)。 顕微授精による 後代(産子)生産 1980年代後半、精子の 卵細胞質中に顕微注入 することによって、僅かで はあるが、産子が得られ たとの報告がなされた。 この頃、ヒト男性不妊症 (乏精子症、精子無力症 、精子奇形、抗精子抗体 等)治療に顕微授精の臨 床応用が考えられ、まず は細胞質内へ直接注入 するのではなく、次ペー ジに示す幾つかの方法 が検討された。 顕微授精 ①細胞質内注入(intra-cytoplasmic sperm injection (ICSI)) : 第一 極体(第二減数分裂中期の核)か ら遠い位置に精子1個を注入。 ②囲卵腔内注入( subzonal insemination (SUZI) ): 精子を 透明帯と卵の間の囲卵腔へ注入。 精子は、前処理により、受精能獲 得ー初期先体反応終了したものを使用。複数個(5∼10個)の精子を注入するため、 多精受精を起こす可能性がある。 ③透明帯部分切開(partial zona dissection (PZD)) : 透明帯の一部を切開して、 精子の自由な侵入に任せる。精子は前処理により、受精能獲得ー初期先体反応終了 のものである必要がある。 ④透明帯穿孔(センコウ)(zona drilling (ZD)) : 透明帯を マイクロピペットに入れ た少量の酸性溶液(pH2∼3)を透明帯へ吹き付け、小孔を開けるか、あるいは 機械的に小孔を開け、精子の侵入を容易にさせる。 ヒト男性の不妊症の治療法への適用のため、それぞれの長短所の検討が行われた。 顕微授精 ①細胞質内注入(intra-cytoplasmic sperm injection (ICSI)) ②囲卵腔内注入( subzonal insemination (SUZI) ③透明帯部分切開(partial zona dissection (PZD)) ④透明帯穿孔(センコウ)(zona Drilling (ZD)) 精子はその先端にある先体から、卵並びに卵を取り巻く放射冠(顆粒膜)細胞由来の 物質の刺激により、放射冠と透明帯を貫通するのに必要なヒアルロニダーゼ、トリプシ ン様物質、アクロシンなどを放出(先体反応)。ひとたび精子は透明帯に接触するとこ れに接着し貫入する。精子頭部は、卵細胞膜との接触によりリソソーム酵素が放出さ れ、透明帯は他の精子の侵入を阻止する。③④は、媒精方法は通常の体外授精と同 じため、多精授精を起こしやすかった。②では、注入する精子を1個にすれば、多精 授精の危険性は避けられる。しかしながら、②の1個の精子は、③④の精子群と同様 に、精子自ら後からで卵細胞質内へ侵入して行かなければならない。②③④で受精 できる精子は必ず運動精子である。つまり、完全な精子無力症のばあい、これらの方 法は適応不可能である。 顕微授精 顕微授精の種々の術式の長 短所の検討は、実験動物マウ スをモデルにして活発に検討 が行われた。 ヒトの男子不妊症の治療法と しての臨床応用がその大きな 動機となっていると思われる。 実際、①は②∼④とほぼ同時 期より研究は開始され、198 8年にはLanzendorfがヒト卵の ICSIにより受精を確認していた が、成功率の低さと安全性の 未確認により、1992,93年頃 にようやくICSIが主流となるに 至った。 顕微授精の臨床応用 体外受精は、卵管因子をはじめとする多くの不妊原因に対して、有効 な治療法であったが、男性不妊(精液性状不良)特に精子減少症や 精子運動不良の場合、有効性が認められなかった。1985年には、 MetkaらがSUZIでの受精卵作出、1988年にはNgらがSUZIでの妊娠例 を報告。ICSIにおいては、前述のように1988年には受精が報告された が、現実には1992年のPalermoらの4例の妊娠例、1993年のvan Steirteghan らの150例中64.2%の受精率、44.7%妊娠率の報告に より、ICSIが主流となった。日本では、1992年に臨床応用が正式に承 認された。 閉塞性の無精子症に対し、1994年にはvan Steirteghan らが精巣上体 精子を回収し(microsurgical epididymal sperm aspiration; MESA),また Silberらは1995年に精巣生検により得られた精巣組織より精子を取り 出し(testicular sperm extraction; TESE), ICSIにて妊娠を報告した。更 に、精子となる前の精子細胞の注入(round spermatid injection;ROSI) 受精・妊娠・出産が報告された。現在では、顕微授精といえばICSIとい うことになった。