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日本中近世の懸想文作法について: 『善文例』 を軸に
日本 中近 世 の懸 想 文 作 法 に つ いて:r艶 書 文 例 』 を軸 に マ ル クス ・リュ ッター マ ン 国際 β本文 化研究 セ ンター 序 今 回 の 海 外 シ ン ポ ジ ウ ム は 日露 の 交 流 の 場 で あ る。 た め に 、 冒 頭 に て 本 題 に 相 応 し い 糸 口 を 探 り 、 和 歌 の 露 訳 の 影 響 に 関 す る 小 話 で 論 を 啓 き た い と 思 う。 即 ち 1928年 か ら1932年 の 間 、D・D・ シ ョス タ コ ヴ ィ チ(11HMHTPH営 八HMHTPHEB四 IHOCTAK:OBH:-q)が 作 曲 した 「六 つ の ロ マ ン ス 」(テ び 楽 団 の た め 以 上 二 つ の バ ー ジ ョ ン が あ る)は ノ ー ル と ピア ノ の た め 及 日本 人 詩 人 の 言 葉 に よ る歌 だ そ う だ1。 楽 譜 解 説 に よ れ ば 、 そ の 第 一 曲 は 「リ ュ ボ ブ 」(「JIIOBOBL」=恋)と 題 が あ り、 テ キ ス トはA・ プ ラ ン ト(A.BPAHIIT)著 『ヤ ポ ン ス カ ヤ の リ リカ 』 (∬πOHC跏 』砌P㎜;『 和 歌 』)2に よ るそ うで あ る 。 こ の 本 は 極 め て 入 手 しが た く 、L・ エ ル マ コ ヴ ァ(Jm以MHJIAM匚HXA首JIOBHA]EPMAK:OBA)氏 の助 け を 得 て 、 そ の 訳 文 の み な らず 、 典 拠 に つ い て の 御 教 示 も 得 た 。 即 ち こ の 歌 は 『古 事 記 』(上 巻)の 沼 河 比 賣(ぬ な か わ ひ め)が 八 千矛 神(や ち ほ こ の か み)に 歌 っ た 二 首 目の 歌 の 前 半3に 基 づ い て い る こ と が 判 明 し た4。 「JIIOBOBB」 に 着 手 し た1928年 に は シ ョス タ コ ヴ ィ チ が1.1・ キ ー(HBAHHBAHOBH:qCO」 πJIEPTHHCKH:益)と 答 えて ゾ レル テ ィ ン ス い う親 友 の 音 楽 学 者 の 仲 介 を 得 て 、 レニ ン グ ラ ー ドで 野 崎 義 雄 や 日本 人 留 学 生 に 接 した こ とが あ っ た 。 ま た 、 同 じ く レニ ン グ ラー ドで 山 田耕 筰 の 指 揮 の も と で 牧 とい う歌 手 が 山 田作 品 を 歌 っ た コ ン サ ー トを 聞 い た と言 わ れ て い る 。 こ の コ ンサ ー トが 「 恋 」 の ロマ ンス作 曲 の直接 の 触 発 とな っ た と も言 わ れ て い る 。 しか し、 同 じ く早 く も1913年 に プ ラ ン トの 著 作 を 読 ん だ1・F・ ス トラ ヴ ィ ン ス キ ー(HroPΦE双oPoB四:cTPABHHcK:H益)の の ロ マ ン ス 」 に 強 く影 響 され た 背 景 も あ っ た と思 わ れ る5。 厂三 つ 因 に プ ラ ン トの 訳 文 はK・ フ ロー レ ン ツ(KarlFlorenz)の 独語 訳 に素直 に沿 って い る と 同 時 に フ ロ ー レ ン ツ の 訳 文 も 『古 事 記 』 に 忠 実 で あ る6。 即 ち 、 沼 河 比 賣 は 夜 中 に で か け て ゆ き 、 日の 出 の 如 く八 千 矛 神 も お 現 れ に な る 時 に 八 千 矛 神 は 「 胸を 撫 で 」(和 加 夜 流 牟 泥 遠 曾 陀 多 岐 、 わ か や る む ね を そ だ た き)、 御 自分 の 手 で 姫 の 「 手 を握 っ て 」 、 抱 く(麻 多 麻 傳 多 麻 傳 佐 斯 麻 岐 ま た ま で た ま で さ しま き)と 歌 い 上 げ 、 しか も 「脚 を の ば して 」 と も 「 永 く 、 永 く」 と も読 め る 「 毛 毛 那 賀 爾 」(も も な が に)「 で あ る7。 寝 よ う」(伊 波 那佐 牟遠 い は な さむ)と す ぐ さ ま 肯 定 して応 え る の さ て 、神 話 の 恋 歌 は 男 神 の 女 住 ま い の 門 前 に て の 募 りに 対 す る原 型 的 な 女 神 の 返 事 で あ る が 、 出 版 され た 「ロ マ ン ス 」 の バ ー ジ ョン で は そ の 返 事 が 男 子 の 告 白 に 換 え られ て い る。 な お 且 つ 、 西 洋 的 モ チ ー フ で 置 き換 え られ た こ とが 分 る。 本 文 に も訳 文 に も な い 「接 吻 」 、満 開 直 前 の 「バ ラ」 、 「私 」 と 「貴 方 」 の 明 らか な 特 定8、 そ して 「OK:AKJIIOB皿0刄TEB∬KAK:JIIOBJIIO牙CTPACTHO」 と繰 返 し 「は げ し く 愛 し て い る」 と 直 接 呼 び 掛 け る風 情 は 、 「あ ま り恋 い の こ と を 口 に す る な 」(阿 爾 那古 斐 岐許志 夜 あ や に 、 な 恋 ひ 聞 こ し)と い う姫 の 歌 の 原 文 か らの み な らず 、 後 世 の 和 歌 の 趣 向 か ら も程 遠 い 。 「リ ュ ボ ブ 」 は 原 文 の意 味 か ら懸 け 離 れ 、別 色 の 作 165 マ ル ク ス ・リ ュ ッタ ー マ ン 品 が つ く りだ され た とい っ て よ い9。 と い うこ と で 、 小 論 で は ロ シ ア に 伝 わ っ た 恋 の 和 歌 に深 入 りは しな い が 、 日本 国 内 で の 恋 愛 表 現 の特 質 を 検 討 し、 と りわ け和 歌 が 散 文 に 変 身 した とい う、 新 た な研 究 境 地 に踏 み 出 した い 。 ヨバ ヒ文 ・懸 想 文 ・艶 書 とい う文 章 は 消 息 の 一 類 と して ど の よ うに 生 成 した か 。 そ れ を 初 歩 的 に 考 え て み た い 。 ヨバ ヒ 文 ・懸 想 文 ・艶 書 な ど は 現 代 で は 「恋 文 」 に 相 当 す る と思 わ れ る。 言 っ て み れ ば ビ レー ・ダ ム ー ル(billetd'amour)や ラ ブ レタ ー(lovele枕er)で あ る。 恋 文 とは 何 か と 問 え ば 、 仮 に 二 つ の 要 素 で 限 定 が 可 能 だ と思 う。 つ ま り一 つ は 文 字 で も っ て 相 手 の 恋 慕 を 募 る も の 。 も う一 つ は 相 手 に 対 して 自ず か らの 慕 い や 思 い を 告 白 す る も の。 恋 文 は こ の よ う な 二 類 の 文 章 を さす とい?て い い 。 募 り乃 至 告 白 を 男 女 が 唱 和 しあ う表 現 法 と して 和 歌 が あ っ た こ と は 勿 論 で あ る。 和 歌 そ の も の も手 紙 の 機 能 を 果 た して い た が 、 歌 の 艶 書 以 外 に 散 文 も 伝 わ っ て い る。 そ れ に 焦 点 を 当 て っ つ 日本 の 中 世 が 生 み 出 した 『堀 河 院 艶 書 合 』 の 付 録 に あ る 『艶 書 文 例 』 を 通 じ て 論 じて ゆ き た い10。 な お 、 小 論 で は 非 言 語 的 な 記 号 に つ い て は 割 愛 す る こ と を お 断 り して お く11。 1.ヨ バ イ 及 び 懸 想 と書 簡 との 関 連 日本 古 典 の 世 界 で は 恋 し い 思 い の 募 り乃 至 告 白 を表 す 文 章 を 「よ ば ひ ぶ み 」(呼 ば ひ 文)や 「け そ うぶ み 」(懸 想 文)と い う.懸 想 は 文 字 通 りで 「思 い を 懸 け る」 こ と を意 味 して い る 。 周 知 の 如 く 、 『源 氏 物 語 』 そ の 他 に み られ る詞 で あ る 。 ヨバ ヒは よ く 「 夜 這 ひ 」 と書 く が 、 そ れ は 文 字 遊 び に過 ぎ な い 。 周 知 の 『竹 取 物 語 』 や 『宇 津:保物 語 』 の 諸 例 に よれ ば12、 男 達 が 競 い 合 っ て 、 な が く ヨ ビ ツ ヅ ケ ル(よ ぶ の 未 然 形+ふ[何 回 も繰 返 して 行 う こ と])こ と を 意 味 す る。 そ して彼 等 の 場 合 も ま さ に 歌 を 紙 に書 き留 め た 事 実 が あ っ た 。 小 論 で 扱 う書 簡 で は 思 い を 懸 け る 風 習 と 、 呼 び か け 続 け る 風 習 と が 著 し く 関 連 して い る 。 即 ち 恋 文 で は 口頭 の や り と り、 一 種 の 口頭 文 学 に遡 る流 れ が み え る 。 平 安 時 代 の 古 典 的 表 現 法 は 歌 う作 法 か ら、 そ の 歌 を記 す 作 法 へ と変 身 した 事 実 が 特 徴 で あ る と思 わ れ る。 象 徴 的 に捉 えれ ば 、 後 述 の 関 東 の 筑 波 峯 か ら平 安 京 の御 所 へ と発 展 した と い う こ と が で き る。 さて 、 『古 事 記 』 で 厂都 摩 杼 比 之 物 」(つ ま どひ の もの)と い っ た 賜 り物 で も っ て 男 が 女 に 約 束 を し13、 そ の 段 階 ま で に は 飽 く ま で も 「妻 を 問 う」 作 法 が 続 く よ うに 、 訪 問 の 慣 習 が あ る こ と は よ く知 られ て い る。 夜 中 に 出 逢 い 、 契 る とい う原 型 的 な風 習 は も ちろ ん結婚 の 「 婚 」(昏 加 η)の 字 に も ひ そ ん で い よ う14。 しか し、 『万 葉 集 』 の 七 夕 を 初 め と した 祭 りな ど も 強 く 関 わ る の で 、 訪 問 と別 に 、 或 い は そ の 前 の 段 階 で 祭 りの 歌 上 手 を 発 揮 せ ざ る に は 通 れ な い 事 情 も あ っ た 。 さ らに は 、 ヨ バ ヒ と い う風 習 と歌 垣(「 うた が き 」 、 東 で は 「か が い 」)も ま た 相 互 関 係 に あ り、 『万 葉 集 』 で年 中行 事 の 一 面 と し て 読 み とれ る こ と も 見 逃 せ な い 。 歌 垣 は 豊 年 の 願 い も込 め て 農 村 や 郷 の レベ ル で 豊 作 を願 望 しつ つ 、 歌 を 交 わ す 儀 礼 で あ る 。 お 正.月、 種 を 巻 く春 、 収 穫 の 秋 に 因 ん で 、 男 女 を 出 会 わ せ 、 互 い に タ マ を和 ら げ る祭 りの 場 、 そ れ が 歌 垣 で あ る 。 一 例 で は め お とが 筑 波 の 山 に 行 き 集 い 歌 垣 で 歌 を 交 わ す 行 事(「 往 集 加 賀 布 櫂 謌 尓 」)が 描 か れ る。 ひ とづ ま に あ も ま じ わ らむ(「 他妻 爾 吾 毛 交 牟 」)や あ が っ ま に ひ と も こ と どえ(「 吾 妻 爾 他 言 問 」)と い う状 況 も あ っ た ほ ど で あ る15。 即 ち筑 波 の 峯 の 女 体 崇 信 に深 い 縁 の あ る 行 事 の 中心 に は 男 女 の 歌 の や り と りが あ っ た 。 「歌 上 手 は な ま め か しい 」 とは 現 在 も或 い は 近 年 ま で 農 ・ 166 日本 中近世 の懸想 文作 法 につい て 魚 村 の 祭 に しば しば み られ る現 象 で 、 こ の 頃 で は 猥 雑 と卑 し め が ち な セ リ フ も 含 ま れ て い る16。 ところが 、京 で は 「 夜 祭 」 を は じめ 「淫 奔 」 や 「 男 女 無 別 上 下 失 序 」(だ んじょ わ く こ とな く じ ょ うげ じ ょ を う し な う)を 禁 ず る 律 令 の 改 正 法 と も い うべ き 「 格」 (き ゃ く)(『 類 聚 三 代 格 』 、798[延 暦 十 七]年)に よ れ ば17、 郷 村 の 風 習 と 中 央 権 力 規 範 と の 緊 張 が 強 くな りつ つ あ っ た と思 わ れ る。 言 い 換 え れ ば 、 そ れ は儒 教 に 根 ざす 道 徳(文 明 規 範)と 庶 民 の 慣 習(い わ ゆ る 野 蛮 的 悪 習 に 対 す る 禁 欲)と の拮 抗 を も 見 せ つ け て い る。 と い うの は 、 『八 雲 御 抄 』 ・ 『好 色 一 代 男 』 な どで 触 れ ら れ て い る 中 ・近 世 の 「雑 魚 寝 」(ざ こ ね)・ 「 御 籠 」(お こ も り)の よ う な各 風 俗 や 諸 無 礼 講 も伝 わ れ ば 、 一 方 、 貴 族 社 会 が 土 俗 的 な 風 習 を排 除 ・超 越 し た せ い か 、 南 北 朝=14世 紀 頃 の 『詩 林 菜 葉 抄 』 の よ う に 、 歌 垣 の 存 続 を否 定 す る 史 料 も あ る の で 、 家 が 媒 介 して 儒 教 的 に 男 女 の 関 係 を 結 ぶ 習 慣 を あ る 程 度 抑 制 しだ し た と思 わ れ る。 そ の 合 間 に御 所 の 文 学 的 ・歌 論 的 表 現 が 現 れ た こ とに 注 目 した い 。 し た が っ て 、 日本 の 王 制(天 皇 ・公 家 の 王 朝 国 家)が 中 心 とな る宮 廷 文 化 に お い て は い わ ば ヨバ ヒ が 昇 華 され る に つ れ て 、 『古 今 和 歌 集 』 の 序 で 唱 え られ た よ う に、 厂 男 、 女 の 仲 を も 和 らげ 」 る歌 、 即 ち ル ー ル に 沿 っ て の 恋 の 和 歌 は 表 現 法 と し て 定 着 して い た18。 和 歌 の 遊 戯 性 や 文 学 性 の 傍 ら 実 用 的 な 性 質 も あ っ た こ と を 一 旦 認 め た 場 合 、 そ の 求 愛 礼 法 を コ ー テ ィ ン グ=courting 、 即 ち 宮 廷 風 に プ ロポ ー ズ を す る こ と の 和 様 式 と捉 え て も よ か ろ う。 そ こ で 、 先 駆 体 と し て の 歌 に 根 ざ しつ っ も、 所 々 散 文 が 歌 と一 対 に な る こ と も しば しば 現 れ 、 歌 の な い 恋 文 も 出 て 来 た 。 一 方 で は 近 世 の 女 訓 や 重 宝 記 な ど の 教 訓 書 に そ れ ぞ れ の 作 法 と儒 教 的 規 範 の 伝 承 が み と め られ る よ うに 、 規 範 の 浸 透 す る過 程 に 於 い て も村 落 や 町 に 伝 わ る 慣 習 とい わ ゆ る 上 品 な 規 範 との 拮 抗 す る多 様 な 事 情 が 伺 わ れ る。 当 然 の こ と に 、 か か る 拮 抗 が あ っ た 限 り、 江 戸 時 代 も 明 治 時 代 を 経 て も儒 教 的 且 つ キ リス ト教 的 モ ラ ル は庶 民 の 問 で も そ の 度 を 増 す とは い え 、 貴 賎 の 片 方 に 軍 配 が 上 が っ た の で は な い 。 一 方 で は 裕 福 な 家 同 士 な らば 、 家 毎 に 結 婚 を 儀礼 化 し、 教 育 の 場 で も 男 女 を厳 か に 峻 別 す る よ うな 儒 教 的 傾 向 が み られ る19。 他 方 で は 多 くの 民 俗 学 的 調 査 に よ る と20、 ヨバ ヒ の 近 代 的 な 有 り様 が 全 国 的 に 実 証 され る。 斯 く して 社 会 層 、 場 所 、 身 分 、 事 情 、 時 期 な ど に よ っ て 、 愛 情 の 表 示 法 も左 右 さ れ 、 人 々 もそ れ ぞ れ の 慣 習 や 規 範 に配 慮 しな が ら行 動 して き た と い う多 彩 な 文 化 的 背 景 や 文 脈 が あ る 。 し か し、 基 本 的 に は 戦 後 ま で ヨバ ヒ は 軽 視 され る傾 向 に あ り、 家 や 家 格 の 上 昇 を 目標 とす る価 値 観 と共 に 、 見 合 い で 家 格 を 上 昇 させ る若 し く は確 保 す る こ とが 比 重 的 に 増 え た 戦 略 は 事 実 で あ ろ う21。 2.懸 想 文 か ら ラ ブ レタ ー へ の 過 程 の 略 図 歌 や 和 歌 な どの テ キ ス トと して の 性 質 を 検 討 す る に あ た っ て 、 求 愛 や 告 白 は 果 た して 書 簡 か ど うか を 確 認 す る 作 業 は さ ほ ど容 易 で は な い 。 恋 文 が そ の ま ま 残 る こ と 自体 は ま ず な い と い っ て も い い 。 残 っ た と して も 、 下 書 き な どの 形 に過 ぎ な い だ ろ う と考 え られ る。 な お か つ 、 宛 先 や 、 愛 称 な どの 親 し気 な 表 現 も な く、 た だ の 歌 な らば 、 な か な か 恋 文 と判 断 で き な い 。 ドイ ツ 中 世 文 学 研 究 の 成 果22か ら諸 問 題 点 を 取 り上 げ れ ば つ ぎ の よ うな 注 意 が 必 要 で あ る。 ※ 逸 文 が 多 い 事 。 中 に は難 解 の 文 章 も少 な くな い 事 ※ 雜i紙(皮 紙 も)や 抜 紙 の 群 集 が 多 い 事 167 マ ル ク ス ・リュ ッ タ ー マ ン ※ 殆 どの 文 章 に は 日付 け も 、 宛 書 も 記 され て い な い 事 ※ 歌 の趣 向 が 好 ま れ た の は 主 で 、 猥 雑 な 詞 ま で 集 め る意 向 も あ っ た 事 ※ 群 書 中 の 告 白 文 章 の 多 くは 実 用 とい うよ り、 風 刺 や 遊 び の た め に 収 め られ た事 ※ 歌 や 物 語 が 引 用 され た 散 文 も 目立 っ 事 つ ま りは 、 伝 来 形 態 上 多 くの 問 題 が 残 され て い る事 実 が確 か に あ る 。 日本 の 故 実 書 に よれ ば 書 状 の 実 用 的 機 能 が 明 確 で あ る よ うだ が 、 多 くの 場 合 は 物 語 や 連 想 遊 び と して 活 用 ・嗜 ま れ た 可 能 性 も 否 定 で き な い 。 機 能 論 や 伝 来 形 態 論 に 関 し て 贅 言 は さ け る が 、 西 洋 の レ ト リ ッ ク専 門 書(例 え ばBoncompagno著[ca.ll65-1240]のRota V6neris[愛 の 車 輪 、13.c])23に も 恋 文 が 作 文 の 基 本 教 育 と して 載 せ られ た と 思 わ れ る ご と く、 室 町 時 代 の 礼 書 に つ い て も 、 何 が 教 育 の み か 、 何 が 実 用 か 、 とい う分 別 は 決 して 容 易 で は な い 。 結 局 何 れ の 要 素 もま じ りあ う と言 っ て も い い か も しれ な いQ と こ ろ が 、12世 紀 成 立 の 『堀 河 院 艶 書 合 』 の 付 録 に 本 歌 取 りを 基 に して 散 文 で 書 かれ た文 章 が文 字通 り 「 艶 書 文 例 」 と して 意 識 され て い た し、 しか も条 目で 書 礼 に 関 す る規 範 も載 せ て あ る の で 中 世 懸 想 文 の 実 用 的 典 型 と理 解 され る。 な お か っ 懸 想 文 の:解説 は今 川 了 俊24を は じ め 、 小 笠 原 流25や 伊 勢 流26の 中 世 武 家 流 に 浸 透 し た ほ ど の 普 及 も あ っ た の で 、武 家 と公 家 の合 間 に根 付 い て い た社 交 的 需 要 が 定 着 し て い た と言 っ て も よ か ろ う。 「 艶 書 文 例 」 が 成 立 した14世 紀 は 艶 書 的 本 歌 取 り の 散 文 の形 成 時 代 で あ っ た と思 わ れ 、 室 町 時 代 は 懸 想 散 文 の 黄 金 時 代 で あ っ た に 違 い な いQ 懸 想 文 の 趨 勢 に つ い て 、 拙 見 を 大 雑 把 に 述 べ て み れ ば 、 正 式 的 な 書 法 と して は 、 四 つ の 段 階 が あ っ た よ うに 思 わ れ る 。 平 安 ・鎌倉 時 代 の 古 典 文 学 に よ れ ば 、 懸 想 の 歌 は い わ ば ヨバ イ を 昇 華 した 形 で 交 わ され て い た 。 一 方 、 禁 裏 の 男 女 歌 合 の場 で も 捩 っ た ほ どの 遊 び に 展 開 し、 歌 集 や 物 語 に 伝 承 さ れ た 形 態 が 継 承 され た 。 こ の 歌 一 首 の 文 は 第 一 の 段 階 で あ る。 南 北 朝 以 降 の 礼 儀 作 法 史 料 や 故 実 書 に従 え ば 、 公 卿 の 歌 を散 文 に 書 き 換 え 、 一 般 的 な 書 札 礼 に 組 み 入 れ られ 、 書 簡 と して 実 用 散 文 化 した 現 象 が 第 二 の 段 階 で 、 公 家 ・武 家 問 わ ず 定 着 して い た とみ られ る。 江 戸 時 代 に は い る と 、 と りわ け18世 紀 か ら懸 想 文 が 一 般 的 な 書 札 礼 か ら排 除 さ れ 、 廓 や 傾 城 専 用 の 案 内 書(『 文 の た よ り』 等)に 制 限 され る傾 向 が 一 層 つ よ く な り、 そ れ が 第 三 の 段 階 とい え る 。 女 訓 書 を分 析 す れ ば 、 物 語 や 歌 の 文 脈 で 僅 か し か 恋 文 ら し い 技 法 が 洩 らず して 、 且 つ 『堀 河 院 艶 書 合 』 の題 目 の裏(付 録)に 秘め ら れ た形 で少 々 中世 の散 文 も伝承 は され たが 、消 息模範 書 に はそ れ が見 当た らない。 往 来 も の な ど、 教 訓 書 の 出版 に あ た っ て 懸 想 を 憚 っ た 風 情 が 目立 っ て い る。 即 ち 恋 文 は 一 般 的 な 書 簡 作 法 か ら 姿 を 消 した が 、 明 治 時 代 に移 り、 キ リス ト教 理 の規範 、 貞操 を訴 えるモ ラル の基 で も、性 的愛 情 の表現 や表 意 法 がす ぐに正式 化 し た 気 配 は な い 。 柳 田 國 男 やJ.F・ エ ン ブ リー(Jo㎞FeeEmbree)な 者 の ラ ブ レ ター(英 文 も)に つ い て 触 れ27、 どの 民 俗 学 者 は 若 ラ ブ レ タ ー ご っ こ も 、 と りわ け女 子 の 間 で 恋 文 を 書 く手 習 い や 遊 び が あ っ た とい う。 手 習 い の 枠 を で な い ま ま の模 様 が 描 か れ て い る。 恋 文 手 習 は 滑 稽 で あ り、 自主 的 恋 文 は 卑 しい 若 し く は 正 し くな い 、 と い うモ ラル は 比 較 的 支 配 的 で 権 威 的 に な っ て い た と言 え る か も 知 れ な い 。 大 正 ・昭 和 時 代 の 手 紙 作 法 書 は 恋 文 に 触 れ る こ と は あ る 。 管 見 の 限 り例 文 は 一 般 的 な 手 紙 作 168 日本 中近世 の懸想 文作 法 につい て 法 書 で はまだ滅 多 にない とはい え、 昭和 初 期 の頃 か ら 「 愛 人 よ り」 な ど と題 した ケ ー ス は 見 当 た ら な い こ とは な い 。 しか もこの例 文 で は 「 深 紅 の バ ラ 」 とい う表 現 が 認 め られ る こ と を考 えれ ば 、 西 洋 の比 喩 に伴 う表 現 が 目立 っ て い る28。 即 ち一 般 的 な 手 紙 模 範 書 に 求 愛 状 な ど、 つ ま り第 四 の 段 階 と して の 恋 文 様 式 が 掲 載 され る よ う に な っ た の は 戦 前 か らで あ り、 戦 後 も さ らに 普 及 した29。 敢 え て 言 うな らば 、 近 代 に な っ て 、 正 式 の 場 に お け る モ ラル の 質 が 禁 欲 的 な 傾 向 に あ っ た 処 か ら、 徐 々 に 個 人 同 士 の 恋 愛 表 現 を あ る程 度 認 め る 処 へ と シ フ トして き た 。 或 は 、 言 い 換 え れ ば 、 恋 文 は 公 家 の 和 歌 の 心 を汲 む 室 町 時 代 の 正 式 性 か ら出 発 し、 江 戸 時 代 の 郭 文 章 の 特 別 な 域 に 押 し こ め られ 、 再 び 市 民 社 会 の 正 式 性 に 回 帰 した とい う図 式 で 把 握 され る か も 知 れ な い 。 と い え ば 、 現 在 も 、 西 洋 の 比 喩 と訳 語 、 表 現 、 儀 式 、 マ ナ ー が 普 遍 的 に な る 一 方 、 そ れ らは 近 代 以 前 の そ れ ぞ れ の 流 れ と あ い 混 じっ た は ず な の で 、 前 近 代 的 な 文 化 の 要 素 を浮 き彫 りに し、 再 検 討 ・評 価 の 下 拵 え を据 え る こ とが 求 め ら れ る。 そ こ で 、 和 歌 と散 文 、 詩 歌 の 文 学 的 遊 戯 と社 交 の 実 用 の 連 綿 を 顧 み て 、 恋 文 の 性 質 を探 る こ とに し よ う。 3.中 世 に お け る 懸 想 文 様 式 の 諸 要 素r艶 書 文例 』 を例 に 3.1文 通 の 作 法 『堀 河 院 艶 書 合 』 の 付 録 と し て 元 禄 期 に 刊 行 され た 「艶 書 文 例 」 は 三 部 で 構 成 され て い る。 書 法 に つ い て の 条 目の部 と そ れ に つ ぐ模 範 文 章 は 『詞 花 懸 露 集 』30と ほ ぼ 同 じ内 容 で あ り、 最 後 の 部 の 文 例 は 小 川 剛 生 氏 の 紹 介 し た 二 条 良 基 著 と推 測 さ れ る 『思 露 』(『 艶 書 文 例 』 と も)31の (『 詞 花 懸 露 集 』 ・ 『思 露 』/『 構 成 と内 容 に 酷 似 して い る。 い ず れ の 系 統 艶 書 文 例 』)も 室 町 時 代(14・15世 紀)ま で に編 集 され た 故 実 書 の 流 れ を 汲 ん で い る と 思 わ れ る が32、 必 ず とい っ て い い ほ ど、 単 独 で は な く 、 康 和 四(1102)年 成 立 の 『堀 河 院 艶 書 合 』 に 附 随 した 形 を と っ て い る こ と が 注 目に 値 す る。 小 論 で は 、 書 誌 学 的 な 問 題 を さて お い て 、 史 料 の 内 容 分 析 を 基 に 、 懸 想 文 の 作 法 及 び 技 法 を 考 察 す る の が 目的 な の で 、 先 ず は 、 そ れ ぞ れ の 想 定 上 の 場 面 や 状 況 を簡 単 に 示 した い 。 そ の た め に 「艶 書 文 例 」 の 構 成 を み よ う。 『堀 河 院 艶 書 合 』 付 録 1.男 初 め て 女 へ+返 事34 「 艶 書 文 例 」 の 構 成33 II.厂又 」 男 か ら女 へ+返 往 往 歌 あ りSho㎞KK992 来 歌 な し III.女 の 答 え な い(「 心 強 き 」)場 合36 往 来 事35 歌 あ り1:SKK990 歌2:Sho㎞KK1040 来 IV逢 歌 あ り:KKIIO8 初 の 後 、 男 が 翌 朝 に 暫 く文 歌 あ り1:FB12916 を 遣 わ さ な い(間 遠 な)場 合37 歌2:KK995 往 歌 あ り:SKKll10 な し 来 歌 あ り1:KKWR926 歌2:KK727 V逢 初 の 後 翌 朝38 往A歌 あ り1:*SKKI284 往B39歌 あ り1:KK706 169 マ ル ク ス ・リュ ッタ ー マ ン 歌2:Sho㎞KK958歌2:M巻2,141 往C歌 あ り1:*SKS1008,*SZ956往D歌 あ り1:R504,SY732 歌2:SKKl230歌2:KK632,1詑5 往E歌 あ り1:M巻11,2645往F歌 あ り1:*FBI3030 歌2:乃 ε6歌2:SZ799 歌3:SKK1424歌3:*SKK1357 歌4:Sho㎞KK958(=駐A歌2)*1詑26 往G歌 あ り1:SGSlO27来40歌 あ り1:Sho㎞KK1331 歌2:Sho㎞KK1228歌2:Sho㎞KKl304 歌3:ShokuKK1086 VI.男 初 め て 女 へ41VII.女 往 歌 あ り:*FBI1614る 来 歌 あ り:*GS561往 の 答 え な い(「 」)場 合+返 歌 あ り;? 来 VIII.翌 朝431X.男 X,女 初 め て 女 へ+返 歌 あ り;?往 歌 あ り*KK724 来 歌 あ り;?来 歌 あ り;? う け ひ 兼 ねXI.翌 XIV:翌 XVI.上 歌 あ り;? 往 歌 あ り;?来 来 歌 あ り;? 歌 あ り;? 初 め て 女 へ47XIII.男 往 歌 あ り;?往 来 な し 朝49、 事44 朝45 る 」)場 合46往 XII.男 歌 あ り;? 往 の 答 え な い(「 うけひ 兼 ね 事42 初 め て 女 へ(春)48 歌 あ り;? 来 夏XV:訪 往 歌 あ り;?』 来 歌 あ り;?来 な し れ な い 男 へ(秋)50 往 歌 あ り;? 歌 あ り;? 位 の 人 へ51 往 歌 あ り;? 来 な し こ の 構 成 は 系 統 的 に は1.∼V(『 詞 花 懸i露 集 』 系)とVI.∼XVI.(『 思 露 』 系)と 二 部 か ら な っ て い る よ う で あ る 。 伝 授 系 統 に よ る か も しれ な い 。 写 本 の 系 統 は 今 ひ と つ 定 か で な い し 、 ミ ッ シ ン グ リ ン ク を 操 作 ・補 充 す る 作 業 も ま だ 必 要 で あ る 一 方 、 文 章 や 内 容 に も変 形 が か な りあ る ら しい た め 、 写 本 の 内 容 比 較 も行 うべ き 事 情 が あ る。 文 章 を 分 析 して み れ ば 、 時 間 が た つ に つ れ て 再 編 が 繰 返 され 、 も と の 例 文 とで 170 日本 中 近 世 の懸 想 文 作 法 に つ い て は 詞 の 二 点 や 三 点 が 合 致 して い て も、 文 章 全 体 の 姿 が 可 成 り変 わ っ た こ と が 判 明 し て い る。 しか し、 二 部 を そ れ ぞ れ 編 した 段 階 で は 、 い くつ か の 場 面 が 想 定 され て い た こ と で 諸 写 本 は 大 体 通 じ て い る こ と は 相 違 な く認 め られ る 。 編 纂 の 整 理 法 に した が え ば 、 次 の よ うな構 成 と な る。 『堀 河 院 艶 書 合 』 付 録 ① 男 初 めて女 へ→ ②a返 「艶 書 文 例 」 に お け る懸 想 の 文 通 作 法 事 あ り→ ③ 又 女 へ → ④a返 事 あり b×b× ⑤ ↓ 「度 々 」 文 を遣 わ し、 「 数 を尽 し」 て も 「 心 強 い 」 女 が 「う けい か ね る」 場 合 、 男 は さ らに 「 恨 み 」 の 文 を 送 る。 ⑥ 逢 初(あ ↓ い そ め)が 成 立 し、 そ の後 に は a理 ↓ 由 は 幾 つ か 考 え られ る が 、 ↓ b後 ノ朝 七 通 ほ どを繰 返 し 暫 く男 は 文 を遣 わ さず 、 待 た せ て (間遠 な 人 へ)文 を送 る。 発信 ↓ c③ に 当 る も の と して 女 の 恨 み も あ る(「 ⑦ 問 わ な い 男 へ 」) 。 ↓ 女 の お 返 事(契 り) 但 、 「上 位 の 人 へ 」 な ど とい う特 殊 な ケ ー ス は 別 に あ っ た 。 男 の プ ロ ポ ー ズ か ら女 の 返 事 へ 、 返 事 が到 来 す る と 、 ま た プ ロ ポ ー ズ へ と。 逢 初 を ね ら っ て も 、 な か な か 成 立 は しな い 。 逢 初 の 翌 日 は 後 朝 と い い 、 男 は 必 死 に 募 る。 七 通 ま で 送 っ て も 、 待 っ て 、 我 慢 す る の が そ の宿 命 。 或 は 、 余 裕 が あ れ ば 、 暫 く後 朝 の 文 を遣 わ さず 、 時 間 を お い て か ら とい うこ と も あ っ た し、 訪 問 しな い 彼 へ の 苦 情 も発 信 され る こ と は想 定 され た が 、 主 流 は む し ろ 男 の 我 慢 す る場 面 、 或 い は 男 の 恨 み で あ っ た。 終 結 は 救 い の 詞 に 近 い 彼 女 の 返 事 に あ ろ う。 斯 く し て 男 女 の や り と り は そ も そ も ゲ ー ム の よ うな 現 象 で あ る。 比 較 して み る に 、 『堀 河 院 艶 書 合 』 に は そ の や り と りの 性 質 が 巧 み に表 現 され て い る。 四十 対 の 歌 が あ り、 一 対 め か ら 二 十 対 め ま で は 男 か ら女 へ の 歌 と返 しで 、 二 十 一 対 め か ら四 十 対 め ま で は 逆 で 女 が 先 に歌 い か け 、 男 が 答 え る。 そ して 最 後 は さ らに 殿 上 人 の 人 首 が 載 っ て い る。 こ の 八 首 は 返 し の な い 想 像 の 恋 歌 にす ぎ な い が 、 短 い 散 文 が 付 け て あ る と こ ろ が 特 徴 で あ る。 女 が さき に 歌 い か け 、 男 が 答 え る こ とは 正 式 的 な 場 で は 不 可 能 な た め 、模 擬i的で 諷 刺 的 な 遊 戯 に過 ぎ な い 。 殿 上 人 の 懸 想 は 想 像 上 の遊 び で あ ろ う。 艶 書 合 わ せ は い わ ば 恋 ご っ こ の場 で も で あ り、 現 実 か らや や か け 離 れ て い る と こ ろ に こ そ そ の 楽 しみ の 本 質 が あ っ た こ と も想 像 に 難 くな い52 。 思 うに、 「 艶 書 文例 」 の模範 文 の設 定 もまた 歌合 の先 例 に沿 った遊 戯 の一 面 を持 つ と と も に 、 真 剣 派 に も応 え る面 を 提 供 して い る 。 要 す る に 、 娯 楽 的 に も実 用 的 に も読 み うる。 「艶 書 文 例 」 の ス トー リー は 最 終 的 に はV .の よ うに 女 の 返 事 で 終 る の 171 マ ル ク ス ・ リュ ッ タ ー マ ン で あ る 。 男 が た び た び 何 通 も 遣 わ し続 け る よ う に 我 慢 さ せ ら れ る 場 面 は 逢 初 の 前 に も 、 そ の 後 に も 続 い た と解 釈 さ れ る 。 女 性 の 決 定 的 な 、 明 確 な 告 白 が こ な い 中 の 緊 張 に こ そ 和 風 の ス リル と 和 歌 物 語 の 性 格 が み ら れ る 。 と こ ろ が 、 と違 っ て 、 女 が 先 に 募 り、 男 が 返 り こ と を遣 わ す 設 定 は 『堀 河 院 艶 書 合 』 「艶 書 文 例 」 に は み ら れ ず し て 、 且 つ 書 札 礼 に は 一 切 認 め られ な い の で あ る。 そ れ も ま た そ の 実 用 性 に 限 定 さ れ て い る 一 面 に 起 因 して い る と思 わ れ る。 3.2詞 の 技 法 「艶 書 文 例 」 の 言 葉 は 和 歌 に 由 来 す る 表 現 が 殆 ど で あ る 。 歌 に 沿 っ て 散 文 に 書 き 換 え て 、 引 用 文 を 列 ね て い る 。 包 括 的 に 纏 め て み れ ば 、 次 の よ うな 、 周 知 の 如 き比 喩 体 系 の映 像 が浮 ぶ。 男 は め る)こ とが で き な い の で 「唐 紅 」(か っ て(1.往 り、 ら く れ な い)ほ 、IX.往 「垣 間 見 」 を し て か ら 「 鳥 の 跡 」=文 どに 、IX.来)、 れ ば 」(夜 往)と 「思 い 」 が 深 く 染 ま る 「 袖 」 や 「言 の 葉 」 と 言 葉 っ ぱが空 か ら 、II.来)時 「 散 っ て 」 く る よ う に外 な ら ぬ 言 、 それ を受 けた女 こそ は、た とえば が ふ け る と 、VIII.往)「 マ ツ チ の 山」 の よ うに 「ゆ う ざ 「 待 つ 」(IV来 、VIII. 男 が 想 像 に 描 い た りす る 。 ま た は 女 が 待 っ て く れ る よ う に 示 唆 す る こ と も 稀 な が ら 実 際 に あ っ た ろ う 。 し か し概 し て 言 え ば 、 女 と し て は 、 た と え れ ど も(VII。 来)、 不 安 で あ る。 し 」 と い う(VIII.来)。 の き ら 「色 」 や 男 が 告 白 を す る 。 し か し告 白 は不 安 の 多 い 賭 け で あ 「上 の 空 」 で あ る(1.往)。 の 葉 が 降 っ て く る(1.来 「思 い と じ め 」 る(あ 字 ・消 息 を 遣 わ す(XII.往)。 女 は彼 の詞 を 、IX.来)。 「 心 も とな 「 上 空 な る 風 の 頼 り」 と しか 承 れ な く 、 男 「ゆ く 末 の 心 も い と ど 頼 み が た 」 く 、 来 、VIII.来 「あ わ れ 」 な 「う し ろ め た し 」 と い い(II.来)、 「頼 み が た く て 悔 し 」 い と 女 は い う(VI. あの人 は きっ と、 「引 く 手 あ ま た 」 い る で し ょ う 、 社 の 「大 ぬ さ 」 の よ う に(V往B,VII.来)。 甲 斐 無 く 何 通 も 言 の 葉(X.往)を (X.往 、X.来)を な り、 遣 わ して も 、 返 事 が こ な い 事 情 は 男 の 「 恨 み」 招 く。 普 通 は 恋 い を 忍 ぶ べ き に も か か わ らず 、 恨 み は 日 ご と深 く 「 い と ど 忍 び が た 」 い(X.往 、X.来)。 即 ち 、 堪 え が た く、 隠 しが た い と い う。 あ け ゆ く 空(VIII.往)、 彼 が 後 の 朝 は 夜 の 契 り を 思 い 返 し(II.往 「よ な よ な 」 と の み G、XI.往)。 「 松 原 」 の よ うに彼 女 の 反 応 を 「 強 き 心 」(V往G)に 、XIV往)、 対 して 歎 き っ づ け 、 「 つ れ ない色 をか こち わ び 」(V往G、XII.)、 女 の 「あ わ れ 」 を 募 る(V往D、V:往F、X往 一文 字 の言の葉 、 す こ し の 厂思 い 」 さ え 「ゆ る さ ば 」(VII.往)。 恨 み が 「苔 の 下 の よ う に 朽 ち 果 て 難 し 」(VII.往)。 今 度 は 「 待 つ 」 場 で も あ る(V往 、XVI.)。 待て ば待 つ ほ ど 要す るに 「涙 」 の 場 で あ る (Iv往)。 後 の 朝 に 限 らな い が 、 しか し翌 朝 に こ そ 「 露 」(III .往 、V:往F)、 C)、 「 袂 」 の ど、 や 「白 波 」 、 「露 」(XV:往)、 「時 雨 」(1.往)の 「 悲 し さ 」(V往E)、 往C、V往F)や 木 」(み (II.往)人 や 172 「 涙 」(IV:来 「 か な し び 」(XIII.)や 「み を つ く し 」(運 々が 「 宮 木 を ひ く」 程 、V往D、V往F)、 、X.往)、 「 袖 に 露 」(V往 「道 芝 の 露 」(VIII.往)、 よ うに そ して 、わび る 、V往D)と 「し げ 」 し い(V往E□XV:往)「 「 深 き あ わ れ 」(XV往)や 「 堀 江 」 な 、V:往E、XV往 、XVI.) 「 憂 き 身 」(III.往 河 な ど の 道 し る べ)(V往A)や な れ ぎ 、 水 に 浸 っ た ま ま の 木)(IV往 「 忘 れ が た き」 「 袖 」(IV来 「 袖 の 涙 」(VIII.来 、 して 、V 「 見 馴れ 「ぬ れ ま さ る 」 ものお もひ」 恋 で 片 思 い を した り、 悩 む 。 日本 中近世 の懸 想文 作法 につ いて しか し、 噂 が た つ の で は な い か 。 往)、 「 見 る 目 」(V.往D)が 「立 ち 聞 き 人 」(IV.来)や 気 に な る。 を っ け た 鳥 や 山 鳥 や 鶏](III.往 、IV.来 .往)。 (1.往)で 噂 を さ け 、 笑 い の 種(II.来)に よ うに 噂 は 「心 の 内 の 忍 ぶ 恋 」 は 「乱 れ 」 な が ら(IX 又 は そ の 北 に あ る と い う 「シ ノ ブ 山 」 の よ う に .往)陸 . 守 の 祭 り に木 綿 、V.往D、VII.来)の ツ タ の 高 い 山 」 ま で 越 え る か も 知 れ な い(III ブ の 国 」 ・陸 奥 の 文 字 刷 り の 様 に 「 人 目 」(IV 「ゆ うつ け ど り 」[関 「タ 「シ ノ 奥 の 国 の よ うに 、 「 心 の 奥 」 に 秘 め られ た 「忍 ぶ 」 恋 な りた く は な い 。 噂 の リ ス ク を 憚 ら な い こ と こそ 説 得 の 目的 で あ る。 逢 うか 逢 わ な い か 。 は っ き り と定 め ず に 、 判 断 を 保 留 す る返 事 が 殆 ど で あ る 。 「夢 と 」 思 う か 、 現 実 で あ ろ うか(XI.来)。 女 性 の愁 い はお おむ ね消 極 的 な ものに留 ま るが 、 「 問 わ ぬ 男 」 に積 極 的 に 恋 を求 め る 文 章 は 一通 あ る 。 後 の 朝 で 待 た さ れ 「枕 ち り つ も る ま で い つ 払 う べ し 」(XV.往)と 非 難 し て し ま う。 さ て 、 比 喩 体 系 は 見 た 通 りで あ る が 、 こ れ か らは 具 体 例 で も っ て 、 そ の 作 風 を み る こ と に し よ う。V.は 最 後 の 返 書(女 ⑥bの 場 面 に あ た る 状 況 で 、 そ の 往 文 のA・B号(男)及 の 来 書)を 例 ①(V.往A)は び 詳 し く検 討 す る 。 「後 朝 」(あ α5励α加 〃α)と 題 し て い る53。 ひ そ め て 乃 ち 乃 あ し多 爾 ハ 碗o醒 ε'εηoc痂 ηo 文 章 は 次 の 通 り。 [V往A]佐 て も あ ら津 乃 者 満 の け さ 乃 露 遣 さ む か し盤 物 越 お もハ ざ り介 り と お も ひ 志 ら連 候 爾 徒 け て もい 川 し可 那 る 松 山 乃 な ミ さへ 心 爾 可 ㌻里 て ひ と 可 多 な らぬ 袖 乃 うへ な 爾 者 本 りえ 乃 み 越 つ く し も可 く ば 可 りや ハ と古 と 者 里 爾 も春 記 て こそ 候 へ こ 丶 ろ を 見 す 流 こ と乃 者 も 候 者 で あ 那 可 し こ 』 ン 5・'ε〃20,々 傭 〃 η0加 〃2α54η0ん85αη・ 孟3卿55,んθ3α〃脇 α3痂Wα 〃20η0・ ・脚W… ・妙 翩 ・ 漉 ・ ∫56一'・・〃・ ・勧 聯 ・56・6瀉 ・ 吻 ・吻・,'醜・厩 卿 α・ 〃漁 η・57η0濔3αθん0ん ・召0η∫んαん傭 帥 ∫'0ん α'α ηαmη〃3046・8η0"θ跏 η加 α5g飾 厂'θ η0 砺一 ・一 繍 繍 澀・60ん αん〃わαんα吻 ・Wの ・ん・'・W副 刀肋 ・5〃9"θん ・3∂5δ 厂 αaん・ん ・・ 。 0〃2∫8曜 褫0∫0η0加 溺0615δ尸 卿 α∂2.0η0ん αぬ ん00ηαんα3毓0 解 説 文 で は 荒 津 を 説 明 し62、 [V.往A,歌1:]ま 歌 は 二 首 紹 介 され て い る。 川 山 と ち ぎ りや を ハ ん つ 連 那 くて 袖 乃 志 ら な み 多 ち ま佐 る と も 協 孟3妙0〃2α'0/0毎g屠ア00Wαημ4〃3〃君2〃 α肋'θ/50靤 刀05伽 砌 α〃2'/ ∫ α6伽 撚o剛'o〃20(波 が絶 対超 えない松 山の 「 待 つ 」 、 そ の よ うに 約 束 した の に 。 で も 情 け の 薄 い[頼 りに な ら な い 、 波 の 超 え る 山 の よ う な]あ なた の た め私 の 袖 が 白波 の よ うな 涙 に 浴 れ て い る) こ こ で は 男 が 女 の 本 歌 を と る 。 本 歌 は 『新 古 今 和 歌 集 』no.1284を い:松 山 と 肋OWO〃3〃 契 り し人 は 君 劭0肋'θ/30虎 つ れ な くて 袖 越 す波 に 残 る月影 ん05〃澱 〃励'〃0ん0鯢 云3〃 ん∫ 肋gθ(陸 参 照す れ ば よ 漁 孟3卿 〃窟o/c勿gか 耡 ∫ 奥 に あ る と い う松 山 の よ う に 波 が 超 え な い ほ ど 貴 方 の 心 も 変 わ ら な い と 、 「待 つ=待 て 」 と、 こ う貴 方 は 約 束 し た。 で も、 貴 方 は こ な い し、 情 け も 薄 く、 頼 りに な ら ぬ 山 だ か ら、 波 の よ う に 私 の 涙 が 袖 を 越 す 。 月 光 は 貴 方 の 面 影 に な っ て そ の 波 に 映 っ て い る だ け) 。 松 山 は 波 の 超 え ぬ よ うに 、 心 の 変 わ ら な い 例 え で 、 そ の 歌 に も さ ら に 本 歌 が あ る63 。 さ て 、 二 首 目 の 歌 は 次 の 通 り: [V.往A、 歌2:]古 ひ しとも い者 ゴな べ て 爾 と 乃 者 も が 那 初 納 ∫'0〃20/加 始0η0加'θ ηo加 な りぬ べ し 心越 見春 累 η'/η0厂伽 ∂θ3痂/ん0ん0ハ00〃2融 こ 捌"0'0 〃209αηα 173 マ ル ク ス ・リ ュ ッタ ー マ ン この歌 は 『続 古 今 和 歌 集 』 のno.958と 恋 しとも 言 はばお ろか に ほ ぼ 同 じ で あ る64: な りぬ べ し 心 を見す る こ との は も が な ん傭 枷0〃20/加 αわαOZOん0η'/ηα癇 〃ろθ 訥 〃 ん0ん0ハ00澀細 捌/ん0'0η0加 海090η α (恋 し い 、 と告 白 して も 、 平 凡 な 詞 に す ぎ な い 。 心 を 明 か す 詞 が あ っ て 欲 しい) 艶 書 の散 文 は こ の 歌 二 首 の み の 詞 に よ っ て つ く られ た も の で は な く 、 注 に あ る如 く 、 そ の他 の 典 拠 も考 え あ わせ な け れ ば な らな い 。 『続 古 今 和 歌 集 』 ・ 『新 古 今 和 歌 集 』 ・ 『拾 遺 和 歌 集 』 な ど を 取 り 上 げ られ る が 、 或 は 直 接 『百 人 一 首 』 か ら 拾 っ た か も しれ な い 文 言 が 目立 っ て い る 。 した が っ て 仮 に文 章 の 意 味 を 次 の よ うに 訳 し た い。 荒 津 の 濱 の よ うに袖 分 か れ の 場 で す 。 朝 の 露 の よ うに 、泣 い て お りま す 。 袖 分 か れ の 時 が 来 ま した 。 今 朝 は 昔 は 「思 い 」 な ん か して い な か っ た の だ な あ と 、 つ くづ く思 わ れ る よ うに な り ま し た 。 松 山 の 波 の よ うに 超 え な い は ず の 波 が 私 の 心 に か か っ て(な ぜ 逢 わせ て くれ な い の か)、 浪速 の堀 江 の よ うに激 し く て 、 袖 を 非 常 に 濡 らす ほ ど泣 い て お りま す 。 正 に そ の(流 れ に 立 つ)道 し る べ も こ ん な も の で し ょ う。 こ の ぬ れ 具 合 は 大 変 で す よ 。 こ の 心 を表 す 言 葉 も あ り ませ ん 。 穴 賢 々 々 さて、 『万 葉 集 』 か ら 伝 承 さ れ る 比 喩 や 『古 今 和 歌 集 』 ・ 『続 古 今 和 歌 集 』 の 歌 を 下 に 敷 い た 散 文 で あ る。 荒 津 の 濱 は お 別 れ の 場 の 比 喩 、 松 山 は 伝 説 的 な 名 所 や 頼 りに な る支 え の 例 え 、 袖 が ぬ れ る こ と、 朝 の 露 は 勿 論 翌 日の 朝 の 別 れ や そ の 悲 しみ や 涙 の 比 喩 で あ る 。 そ れ が さ ら に 強 ま り 、 激 し い わ び し さ に 至 り、 浪 速 堀 江(潟 氾 濫 し て い た 時 に 、 仁 徳 天 皇 が 大 阪 湾 に 開 通 し 、 つ く っ た 掘)の き 留 め(あ な か し こ あ な か し こ)は が 流 れ に準 え る。書 周 知 の よ うに 平 安 時 代 か らの 仮 名 文 の 礼 法 。 全 体 と し て難 解 な 箇 所 も あ り、 パ ッチ ワー ク の よ う な マ ダ ラ模 様 を な し 、 文 法 的 に は 潔 く な い と 思 う 。 返 書 は 勿 論 来 な い の で 、 男 は 再 び 文 を 遣 わ す 。 例 ②(V:往B)は 次 の 通 り。 [V往B:]お 本 ぬ さ乃 多 乃 ミ可"多 さ も ワ き て う記 身 爾 志 ら連 候 な 可" ら 堂 ゴ春 乃 も 里 乃 志 め し ば 可 り 乃 こ ㌧ ろ ひ 可 連 候 ま ン爾 い 者 し ろ 乃 ま 川 の ち ぎ り 乃 千 代 も 可 者 ら ぬ 御 こ 》路 爾 て 候 へ 可 し と い 津 し 可 ふ 可 ミ 草 乃 露 バ 可 り 乃 一 婦 で ワ 可"身 な 可"ら 者 可 な う候 て と ゴ め 候 伽5・ η・65珈 ・囎 伽5α 吻・Wα厩66〃 κ吻 ∫η励 かα鷹6加 ηα9・m67駕 α5〃 η・御副 η0685伽2θ3玩わ0ん α跏0ん0ん0卸0励 αハ856rδ 脚 〃2α η∫加 α5伽0η0〃7α 孟3〃69ηOC乃 ∫9か' η・・勿 ・澀・んm〃 α厂 αη〃・ん・ん・箔 ・η舵367α θん α5肋 ・π3〃5励ゆ ん α激 魏70η ・孟3卿 ゐαんα加 ・掀 抑 ∂271脚9・ 加 ηα9・7♂2加加 〃636アα∫'ε'・ ∂伽 θ5676 こ の 文 例 の 場 合 も 解 説 文 が つ い て い て 、 歌 二 首 が 紹 介 さ れ て い る73。 [V:往B,歌1:]大 爾 な りぬ 連 者"お ぬ さ乃 もへ と え こ そ ひ くてあ ま多 た の ま ざ り介 れ 6η〃3απ0/乃読Z4'ε0〃Zα'α η'/ηαガηZ炉 εわ0/0〃謬0θ ∂bθん030/緬 η0〃2αZα ガんε箔 ε この歌 は 『古 今 和 歌 集 』no.706に 当 た る74。 名未 詳 の女 の作。 ま たは [V往B,歌2:]い 者 代 乃 者 満 松 可"え を む 春 び を記 て 真 幸[「 ま さち し」< ま さ き く1あ ら者"今 可 へ り古 ん加 α3廨0η0/加 〃3翩0纏g偲0加 〃3〃 わ'0ん ∫'θ /脚5αc傭 痂 かεc畝 毓 塀 αm肋/砌 174 α㎞ ε磁oη(磐 代 で 松 の 枝 を 結 ぶ 。 吉 を 願 日本 中近世 の懸 想文 作法 につい て い つ っ 。 無 事 な ら ば 、 ま た こ こへ い ち 早 く帰 っ て き ま し ょ う) の 「 今 」 を 厂又 」 と記 す な ど、 写 本 に よ る相 違 点 で あ る と思 わ れ 、 大 体 『万 葉 集 』 no.141の 歌 そ の も の を 引 い て い る と思 わ れ る75: 磐 白 乃 浜 松 之 枝 乎 引 結 真 幸 有 者 亦 還 見 武 加 α5伽0η0/加 〃2α 〃2傭〃gOε0/ 鰍'〃2〃3〃 わ∫/〃2α5α 厭 〃α7訪o/〃20'α 加 θ7ノ 〃2∫ 〃3μ4(私[有 間 皇 子(ca.640-58)] は 磐 代 で 松 の 枝 を 結 ぶ 。 吉 を願 い つ つ 。 牟 婁 の 温 泉 に て の 斉 明 天 皇 の 裁 判 で 中 大 兄 皇 子 の 御 前 で 無 罪 を 弁 じて 無 事 に 済 む な らば 、 ま た こ こ へ 帰 っ て こ よ う) 即 ち 、 こ の 歌 は 挽 歌 で 、 そ の 心 も 究 極 の 別 れ を 告 げ る 場 面 を意 味 し て い る の で 、 気 持 ち の 深 み の 程 度 を あ らわ す 比 喩 と理 解 して よい 。 意 訳 は 下 記 の 通 り。 大 幣=引 っ 張 り鮹 の よ うな 人 気 の あ る 私 だ とお 思 い に な っ て 、 頼 りに な ら な い[と 思 わ れ て]悲 し き身 に な っ て し ま い ま した こ と も広 く 噂 に な っ て い る の で し ょ うが 、 今 は 糺 の 森 で 貴 方 に の み ひ か れ た よ う に 契 り を した と こ ろで す か ら、永遠 に 「 待 つ」 と、磐 代 で の松 の誓 い をいた だ きた い。 さっ さ と こ の 一 筆 を は か な い 牡 丹 の 露 の よ う に書 き 留 め て し ま い ま した 。 つ ま りこの 幣)や 植 物(ふ 「 艶 書 文 例 」 は 名 所(平 み ぐ さ 、 松)の 安 の タ ダ ス ノ モ リ 、 岩 代)や 祭 礼 の 具(大 比 喩 を も っ て 率 直 に 契 りを 募 る。 掛 け 言 葉 は 歌 と同 様 。 『古 今 和 歌 集 』 か ら は恋 歌 を と る が 、 後 半 に は挽 歌 ま で 転 用 し、 未 来 へ の 、 答 え へ の 期 待 と願 望 を 強 調 す る 。 『古 今 和 歌 集 』 の 歌 は 有 原 業 平 あ て の 読 む 人 知 ら ざ る 女 性 に よ る も の だ が 、 こ こで は 男 が や や 非 難 的 に使 っ て い る。 これ は む し ろ滑 稽 と解 釈 す べ き か 。 対 比 法 を も っ て の本 歌 取 りの 手 法 とで もい え る だ ろ う。 ま た 、 同 じ く 、 ま さ に 磐 代 で の 松 の 願 い ご と も 男 が 松 に 託 して い た の を こ こ で は 女 の行 為 に 転 用 して い る。 尚 、Vの 往 文 が 何 度 も繰 りか え され る。 そ れ は 中 世 の物 語 類 や 作 法 書 も伝 え て い る 通 りで あ る76。 返 書 の 全 く無 い 場 合 も想 定 で き る が 、 例 文 集 に お い て は 最 終 的 に 肯 定 的 な 答 え が 載 っ て い な い 例 も あ る77。 例 ③(V:来)を [V:来]ち り く流 御 古 と 乃者 爾 ワ 可 と も お も ひ も者 て ぬ 心 越 も お 本 多 C伽 者"可 見 よ う。 身 乃 秋 もお もひ 志 ら連 候 な 可 ら津 ら し し免 し志 る 御 事 も 候 者 じ とせ ん な 記 な み り爾 て 可 し く 勧 削0ん0'0η0加 η帥 α9卿 励0α ん'78襯00〃20∫5乃砌 鷹 ∂厂伽09邵 '0〃20,0〃20∫〃20加'θ〃〃ん0ん0ハ0790〃200∂03伽 θ5伽 加 ㍑0ん0'0〃ZO3∂r僻 偏5〃 アα8痂 砂 り03θ η ηα窺 ηα碗 ∂bゐα初 ガ 祕 己 んα3痂んπ 解 説 で は 歌 二 首 が説 明 され る 。 [V:来,歌1:]人 心 王可 ら め痂'090んOm/Wα9α ミ乃 秋 爾 な連 ばこそ う記 言 乃 者 之 志 遣"く 散 祕 η0αん∫η〃 η邵幼 αん030〃 ん∫ん0∫0η0加 〃0/訪 な盈 〃 c初跏7α〃2θ(あ の ひ との 心 は ご 自 身 が 秋 に な る 私 に お 飽 き に なれ ば こそ 葉 が しげ く 散 っ て い る よ うに い や な お こ と ば を 盛 ん に 言 い 散 ら して い ら っ し ゃ る の で し ょ う)。 これ は 『続 古 今 和 歌 集 』no.1331に [V来,歌2:]徒 れ 当 た る80。 ら し と も 思 ひ も者 て ぬ 醜rα 訥 〃0〃20/0〃20∫〃20伽8翩 女 の 歌 の よ う だ が 、 定 か で は な い: 心 こそ 〃0κOmん030/η な越 つ 連 那 さ 乃 あ ま り成 介 α0孟3節εηα30η0/α 〃207∫ηα纏 ε形 175 マ ル ク ス ・リ ュ ッ ター マ ン (冷淡 だ と も諦 め切 れ な い 心 こ そ[貴 りな の で した)。 本歌 は 方 の]相 も 変 わ ら ぬ 情 け な さの あ ま 『続 古 今 和 歌 集 』no.130481 つ らしとも 思ひ もはてぬ 心 こそ なほ恋 しさの あ ま りな りけれ(冷 淡 だ とも諦 め切 れ ない心 こそ[私 た)。 の]相 も変 わ らぬ恋 しさのあ ま りなので し 「 つ れ な さ」 とい う一 言 に よ っ て 意 味 が 一 変 す る。 本 歌 の 「 恋 し さ」 と正 反 対 で あ る 。 本 歌 も 男 が発 信 して い る と考 え あ わ せ て み れ ば 、 意 図 的 に 対 比 を 狙 っ て い る と 思 わ れ る。 意 訳 をす れ ば: 貴 方 の 詞 の 葉 が 秋 の 葉 の よ うに お 飽 き に な っ た 意 向 も伝 わ る よ う に散 っ て き ま した 、 とい う思 い が 知 られ て い ま す が 。 で も、 全 く 情 け を 配 っ て くれ な く て も 思 い 切 れ な い の よ 。 そ れ も 信 じ て くれ な い で し ょ う。 仕 方 が な い。 甲斐 のない 涙 を流す ので す。 か しく 「艶 書 文 例 」 と比 較 す る と、 『堀 河 院 艶 書 合 』 で は 第 一 号 の 歌 を は じめ 、 男 の 歌 に は満 遍 な く男 の 本 歌 が 引 用 され て い る。 女 の 本 歌 取 りは 非 常 に す くな い が 、 『万 葉 集 』 のno.2538を 引 く六 号 の 返 しは 例 外 に す ぎ な い 。 一 方 、 そ の 歌 は 女 性 の 作 風 を 醸 し 出 して い る の で 、 対 比 法 は 採 用 され て い な い 。 従 っ て 「艶 書 」 の 散 文 は 歌 合 を さ ら に展 開 させ た 本 歌 取 りの 遊 戯 と して 理 解 で き る。 結論 小 論 で 懸 想 文 や 艶 書 の 作 法 を分 析 し た 結 果 、 男 女 の 文 通 ル ー ル や 手 順 が 見 え て き た と思 う。男 性 が 募 り、告 白 を し、女 性 が 曖 昧 に 答 え る 往 来 が 度 々繰 り替 え され る。 うま く い く 場 合 は 「逢 初 」 が 成 立 す る 。 或 い は 男 が 我 慢 し き れ な く な っ た 時 「 恨 み 」 の 姿 勢 で 挑 戦 。 逢 っ た こ と で 成 功 して も、 「 後 の 朝 」 を 何 通 も遣 わ しつ づ け ざ れ ば 通 れ ま い 。 女 か ら返 事 が な か な か こ な い の が 通 例 で あ る。 しか し、 結 局 は 来 書 が あ れ ば 、 出 会 い の ス トー リー が 幸 甚 に 結 ば れ る こ と も あ る。 普 遍 的 な 散 文 の 恋 文 は 歌 垣 を初 め と し た 風 習 且 っ 『古 今 和 歌 集 』 を 初 め と し た 和 歌 集 の 伝 統 を汲 ん で 南 北 朝 時 代 ∼ 室 町 時 代 に誕 生 し、 本 歌 取 りの 方 法 を借 りて 書 き換 え る とい う特 徴 を も っ て い た こ と が 判 明 した 。 しか し、 本 歌 を み た 場 合 、 も と も との 「 私 」(発 信 者)が 「貴 方 」(宛 先)に あ い か わ っ た こ と 、 女 が 男 宛 に使 っ た 詞 が 男 が 女 に 向 か っ て 使 う詞 へ 転 じ た と い う具 合 で 本 歌 の 性 的 色 合 が 塗 り替 え ら れ 、 往 ・来 の 詞 が 交 換 され た こ と が 多 い よ うで あ る。 例 え ば 、 大 幣 の 比 喩 を歌 う往 文 の 例 ② で は 『古 今 和 歌 集 』no.706の 女 作 をつ か っ て い る 。 『万 葉 集 』no.141の 挽 歌 を 引 用 して 、 男 が 松 に託 して い た願 い の 徴:を宛 先 の 女 の 行 為 に 転 用 して い る。 例 ③ の 本 歌 『続 古 今 和 歌 集 』no.1304は 男 の歌 で あ る に も か か わ らず 、 こ こ で は 返 書 、 即 ち 女 の 文 に つ か わ れ て い る 。 そ し て 「恋 し さ」 が 厂つ れ な さ 」 に変 じた 類 で み られ る よ うに 、 核 心 の 用 語 を 正 反 対 の 語 意 に 一 変 させ る 手 も あ っ た 。 そ れ ら の 置 き 換 え を総 括 的 に 対 比 法 と呼 び た い 。 対 比 法 は そ の 他 の 例 で も み られ る。 例 え ばII.Bは 女 性 の文 章 で 、 本 歌 は 『古 今 集 』 のno。1108。 し た が っ て 、 こ の 本 歌 取 りは 男 の 作 の み な らず 、 な お か つ 天 皇 の 御 作 とな っ て い る 歌 を基 に敷 い て い る。 176 日本 中 近 世 の 懸 想 文 作 法 につ い て そ こ で 、 純 粋 な 遊 戯 の 『堀 河 院 艶 書 合 』 と比 較 す れ ば 、 何 れ も 、 遊 び の根 幹 は 本 歌 取 りで あ る が 、 歌 合 で は本 歌 を と る の は 男 が ほ とん どで 、 女 は 一 首 の み の 程 度 で あ る。 対 して 「艶 書 文 例 」 の 散 文 で は 男 女 問 わ ず 本 歌 を 多 く取 る ば か りで は な く 、 さ ら に そ れ ぞ れ の 異 性 の 作 者 の 歌 を 取 る ぐ ら い の 性 交 換 もふ く め て 展 開 さ せ て い く。 し か しな が ら 、 作 法 の 上 で 艶 書 の 散 文 模 範 に は 女 が 先 に 男 に 呼 び 掛 け る 例 は 見 当 た ら な い と こ ろ か ら 、 実 用 的 な 機 能 に よ っ て 限 定 され る条 件 も あ っ た と 思 わ れ る の で あ る。 史料 「 艶 書 文 例 」(「 阿 仏 尼 消 息 」 と と も に) 1998『 堀 河 院 艶 書 合 』(江 [大 阪:奈 戸 時 代 女 性 文 庫 、 第 八 十 九 巻)、 良 屋 長 兵 衛 、 文 化 五(1808)年[初 大 空 社 刊 元 禄 十 一 (1698)年]。 「 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TERuoKAYasutaka暉 峻康 隆 1976「 日本 の 書 簡 体 小 説 」 11巻)、 『世 間 胸 算 用 』(現 小 学 館 、pp.239-261[1『 代 語 訳西 鶴 全集 、第 日本 の 書 翰 体 小 説 』 越 後 屋 書 店1943]。 YuAsAYbshiko湯 浅佳子 1997「 近 世 艶書 文 学 にお ける 松 學舎 大学 大学 院 YANAGI肌Kunio柳 『詞 花 懸 露 集 』 」 『二 松 』 第6号(二 文 学 研 究 科)、pp.179-205。 田國 男 1968「 よばい の零落 」 、 43-54。 こ こで は 『定 本 柳 田 國 男 集 』 第15巻 、 筑 摩 書 房 、pp. 「 婚 姻 の 話 し 」(pp.1-198)内 。=「 妻 問 ・妻 よ1まレ、」(1947)o 注 130ηgオ1わ .D励 娩Eα 翩5乃03'oんov'c乃.Tokyo:ZenonMusicl991;8εc加Ro澀 ∬〃ηg声7距 ロ シア語で は 2プ η07緲4κ10v娩(∼ 「 ㎜ETLPOMAHCOBHAC■OBA∬110HCKHXHOETOB」 ラ ン ト の ∬loHc】 棚 ∬HPHKA中 (ERMAKovA)2005(p.156-57)を 3「 4プ αηzε η ηoc乃 〃bア'θ η ノqρα鷹c乃 θr ρ,21.Hamburg:MusikverlagHansSikorski1986な 古 事 記 」1958(『 の二首 ど参 照 。 とい う。 「恋 」 の 出 典(古 事 記)に つ い て はEPMAKoBA 参 照 され た い 。 古 事記 ・祝 詞 』 、 日 本 古 典 文 学 大 系 、 第 一 巻)、pp.102f。 ラ ン トは ドイ ツ 語 や フ ラ ン ス 語 の 訳 書 の 存 在 や 、 カ ー ル ・フ ロ ー レ ン ツ(KarlFlorenz) な ど の 名 前 に 触 れ て い る の で 、 参 考 に い れ た こ と が 分 る 。 フ ロ ー レ ン ツ の 文 学 通 史 が1909 年 に 、 そ し て 神 道 関 係 史 料 集 が1901年 に 出 版 さ れ 、 ハ ン ス ・べ 一 トゲ(HansBethge)や ク ラ ブ ン ド(Klabund=Al丘edHenschke)の よ う な 詩 ・文 人 に 影 響 を 及 ぼ し た 。 プ ラ ン ト は べ 一 トゲ の 名 前 も 取 り 上 げ て い る し 、 直 訳 で は な く 、 ド イ ツ 語 訳 の 他 、 英 語 や フ ラ ン ス 語 の 訳 文(AsToN1899,REvoNl910).を 敷 い た と 言 う。BPAHπT(BRANDT)1912,p.6やEPMAI(OBA (E㎜o鴨)2005(p.156)参 5L・ 照。 エ ル マ コ ヴ ァ 氏 の ご 教 示 に よ れ ば 、 ス トラ ヴ ィ ン ス キ ー は 八,月 二 十 日/九 書簡 で 『ヤ ポ ン ス カ ヤ リ リカ 』 に 刺 激 を受 け た ・ こ と を 指 摘 し て い る。 6BPへH双T(BRANDT)1912,p.11。EPMAKOBA(ERMAKo糖)2005(p.157)で も 引 用 され て い る 。 沼 河 比 賣 の 歌 の 訳 は プ ラ ン トが 取 り 上 げ て い るFLoRENz1909(p.32£)に(因 p.265fに 7語 も)載 月 二 日付 け の み にFLo齟Nz1901, せ て あ る。 意 不 明 と言 わ れ る部 分 も あ る が 、 大 意 に は 変 わ りは な か ろ う。 8「 」【E>KAHE∬OBATbC牙B狐EM」 や 、 「KIPACHBAKAKHBETOKE双BAPA.C口BET田HH:H PyKyHE)KHyK)rOP刑yIOOTCTPACTHHJIK)BBHKTEBE.∬Pyl<ynOJIO>KyHArPy双b TBOIO」 9当 な ど と い う表 現 。 時 も こ の 頃 も 、 素 直 な 訳 文 が 公 刊 され た 状 況 で さ え 、 音 楽 な ど の 市 場 に お け る 受 容 や 普 及 に 伴 っ て 捻 れ る こ とが よ くみ られ る。 或 い は 「ロ マ ン ス 」 の 編 集 に あ た っ て 、 西 洋 人 の 好 み に 適 応 さ せ る 狙 い も あ っ た か も知 れ な い 。 斯 く して 日本 の 文 学 や 文 化 へ の 西 洋 人 の 歪 め ら れ た観 念 が 固 ま っ た と い う一 面 が み え て い る。 10「 艶 書 文 例 」 (1965)な 11懸 180 『堀 河 院 艶 書 合 』1998。 『堀 河 院 艶 書 合 』 は 日 本 古 典 文 学 大 系 、 弟 七 十 四 巻 どの活字 本 もある。 想 文 の 非 言 語 的 な 要 素 に つ い て は 拙 論 で 述 べ た こ とが あ る 。RUTTERMANN2002a、2002b、2007 日本 中近 世 の懸想 文作 法 につ い て を 参 照 され た い 。 12『 竹 取 物 語 ・伊 勢 物 語 ・大 和 物 語 』(日 保 物 語 』 第 一 巻(日 昇1968、pp.23f匚 13『 本 古 典 文 学 大 系 、 第 九 巻)、pp.30f参 本 古 典 文 学 大 系 、 第 十 巻)、pp.205-208(「 照 。 『宇 津: 藤 原 の 君 」)参 照。 久曾 神 も見 よ。 古事記 』 下、 巻 、pp.306f)。 「 雄 略 天 皇 、 皇 后 求 婚 」 、(『 『礼 記 』 の 「曲礼 」(四 14『 礼記 』 「 郊 特 犠 」(四 15『 万葉 集 』no.1759(日 16森 栗1995、pp.140f惨 古 事 記 ・祝 詞 』 、 日本 古 典 文 学 大 系 、 第 一 部 備 要)p.9bで は 「 弊 」 とい う も の に あ た る。 部 備 要)、p.10a。 本 古 典 文 学 大 系 、 第 五 巻)、pp.394f。 照(「歌 が 上 手 で な ま め か しか っ た 」、歌 詞 も 掲 載 され て い る)。EMB肥E 1939,p.173。 17『 類 聚 三 代 格 後 編 ・弘 仁 格 抄 』(新 18『 古 今 和 歌 集 』 序(日 19『 女 用 知 恵 鑑:宝織 』(往 訂 増 補 国 史 大 系 ・普 及 版)、p.590。 本 古 典 文 学 大 系 、 第 八 巻)、pp.93。 来 物 大 系 、 第 九 十 四 巻)、p.101オ 。 『嫁 娶 重 宝 記 』(近 世 文 学 資 料 類 従 参 考 文 献 編 、 第 十 六 巻)、pp.389£ 。 『女 教 補 談 嚢 』(往 教 訓 岩 根 松 』(往 来 物 大 系 、 第 八 十 八 巻)。 『女 来 物 大 系 、 第 八 十 九 巻)。 20BRowNl979,pp.202f匚(no.8-9,205(no.48),p.246(fbotnotesl71,182)。 赤 松1986。 森 栗 1995、PP.140ff。EMBREEl939,P.173。 21DoRE1978、p.166。 22ScHuLz-GRoBERT1993,S.43,114。 23序 に あ る 如 く車 輪 は 拷 問 の 道 具 を さ す の で 、 苦 悩 の 比 喩 で あ る。 ル血g競 θ 詔oηco〃脚g翩5 Ro'α 阨 ηθ廊1927参 照。 24『 今 川 了 俊 書 札 礼 』(続 25『 三議 一 統大 雙紙 』 集 大 諸礼 集 群 書 類 従 、 第 二 十 四 巻 、 下)、pp.453-470。 「 筆 法 門 」(続 群 書 類 従 、 第 二 十 四 巻 、 上)、pp.320-334。 小笠 原流 礼法伝 書 』 、 第 二 巻(東 『大 諸 礼 洋 文 庫 、 第御 百 六 十 二 巻)、pp.52-72。 で は 『住 吉 物 語 』 や 『古 今 和 歌 集 』 ・ 『後 撰 和 歌 集 』 ・ 『拾 遺 和 歌 集 』 が 頻 繁 に 引 用 され 、 本 歌 取 の 方 法 が 詳 し く説 明 され て い る。 26「 書 札 之 事 」 『宗 五 大 艸 紙 』(群 27EMBREE1939,p.194。 書 類 従 、 第 二 十 二 巻)、pp.593-602。 ま た 、 文 通 を 通 じ て 見 合 い を成 立 させ る雰 囲 気 も あ っ た よ うだ 。 柳 田1968(1947),p.49。 28昭 和 二(1927)年 大 正14(1924)年 刊 の 『手 紙 の 新 しい 書 き 方 ペ ン 字 練 習 模;範作 例 』 、p.306、pp.270-72。 刊 の 『手 紙 百 科 大 辞 典 実 用 便 覧 』(pp.30-41、 と りわ けp.33f.)で は 「男 子 と女 子の 手紙 」の傍 らで 「 恋 文 」 に 少 し触 れ る こ と に 留 ま っ て い る。 29昭 和23(1948)年 刊 『新 式 ペ ン 手 紙 宝 典 』(pp.124-51、 と りわ けp.130)で は 「 恋 いそ つ も りて … 」 と題 し て 、 女 性 が 見 合 い の 決 定 に よ っ て 愛 人 に お 断 り若 し く は 心 情 を発 露 して い る こ と が 設 定 さ れ て い る。 昭 和 四 十 五(1970)年 250f.)に は 「求 愛 状 」 や 刊 の 『手 紙 ・実 用 文 事 典 』(pp.47ff.、p. 「ラ ブ レ タ ー 」 の 模 範 文 が み え る。 二 十 年 後(平 成2年)に 刊行 さ れ た 『こ ま っ た と き の 手 紙 の 書 き 方 』(pp.374-95)は 「 恋 愛 の手紙 」 で は さらに細 か く 「 デ ー ト」 や 「求 愛 」 、 「愛 の 復 活 を 求 め る 」 や 「 男 性 が 断 る 時 」 や 「子 持 ち の 男 性/女 性 か ら 求 愛 の 手 紙 」 の 例 文 が 載 せ られ て い る。 30湯 浅1996参 31恐 ら くは 三 条[藤 原]厳 子 、 通 称 通 陽 門 院 の た め に 纏 め た 案 内 書 と考 え られ 、 『艶 書 文 例 』 照。 と い う異 本 も伝 わ っ て い る 。 小 川2005参 32湯 浅1996、p.199。 照。 小 川2005、pp.339£ 。 33堀 河 院 艶 書 合(江 戸 時 代 女 性 文 庫 、 第 八 十 九 巻)。FB=夫 =伊 勢 物 語 、KK=古 今 和 歌 集;KKWR=古 今 和 歌 六 帖 、M=万 遺 和 歌 集 、SKK=新 歌 集 、SZ=千 古 今 和 歌 集 、ShokuKK=続 載 集 、*=酷 木 和 歌 抄 、GS=夫 木 和 歌 集,ム θ 葉 集 、R一 李 花 集 、SGS=新 古 今 和 歌 集 、SY=新 似 。 『新 編 国 歌 大 鑑:』1983の 第 一 巻(勅 葉 和 歌 集 、SKS=散 撰 集 編)、 後拾 木奇 『古 今 和 歌 集 』 181 マ ル ク ス ・リュ ッ ター マ ン 1958(日 本 古 典 文 学 大 系 、 第 人 巻)、 古 今 和 歌 集 』1958(日 34者 『万 葉 集 』(日 じ免 多 る 可 多 ヘ ハ 吻 吻 θ艀 〃ん伽 35又 本 古 典 文 学 大 系 、 第 四 ∼ 七 巻)、 本 古 典 文 学 大 系 、 第 二 十 八 巻)、 『続 古 今 和 歌 集 』(木 船1994)を 『新 参 照 。 θwα。 返 し ㎞ θ5腕。 〃纏 α。 返 し 勿 ε5痂。 36多 び Σ 墨 文 な ど や り て 乃 ち な 越 心 つ よ き 可 多 へ は'α 玩'α 玩 ル 〃3∫〃α40ア 毋 ∫'¢ηoc痂 ん0ん0箔OZ剛0ん'ん 伽 37あ ひ そ め て 後 ま ど 越 な 可 多 ヘ ハ 碗o肥'θ 38あ ひ そ め て 乃 ち 乃 あ し 多 爾 ハoおo〃2θ'θηoc痂 ηoo訥'∫αη∫wα。 39〃 ηoo εWα 。 ηoc痂 〃zo46η α鰄 α εwα 。 返 事 舵 砂 ∫ 。 吻 α又 。 40返 し肋 ε訥'。 41お と こ 者 じ め て 女 乃 も と へ 屋 る べ き 躰o'oんo吻'〃2θ'εoη 朋 ηo〃20'oθ アα祕 εん"ε'。 女 乃 可 へ しoηηα〃oんαε8痂。 42お と こ ふ ミ 乃 可 ず 越 走 く せ ど も を ん な う 遣 ひ 可 年 バ う ら む る 躰o'欲oル 〃2'ηoんoz〃o 醜 肋3θ4b〃20,0η 〃α〃んθ'加ηθ肋 〃ア硼 〃削 ∫♂。 を ん な 乃 可 遍 り こ と0朋 α η0ん0θ購0'0。 43お と こ 後 朝 乃 文 乃 躰o'oんoηoc伽oα5肋oηoル 44者 じめて お とこ をん な乃 も とへ吻 謝 ηo'θ∫。 を ん な 乃 可 へ しoη砌 ηoんαε3痂。 砌 θ'θo'oんooη 澱 ηo〃20'oε 。 女 乃 可 遍 り こ とoη ηoηo 初 θア'んo∫o。 45乃 ち 乃 あ し 多 の ふ ミ 乃 躰 ηoc痂 ηoα5励 αηoル 〃2∫ ηo'θ∫ 。 女 可 へ り 事oη ηoんoθ航o'o。 46文 の 可 ず 越 走 くせ ども女 うけ ひ 可 年 バ うらむ る 躰ル砌 訛 ε'初ηθ加 螺0〃2〃㍑'ε'。 女 乃 可 遍 り 古 堂0朋 47者 ηo肋z〃o醜 肋5θ40〃20,0η ηα αη0加 θr'ん0∫0。 じ免 て お と こ 乃 も と よ り吻 ∫ 〃2ε'θo'o初〃o〃∼o'oア07'。 48者 じめ て 女 乃 も とへ 屋 る 躰 。 49後 春吻 ∫ 〃2θ'θoη ηαηo〃20∫oε翅 削'θ∫,加剛 。 朝 ηoc痂 ηoα3肋 α。 女 乃 可 遍 しo刀欄 ηoんoε3痂。 50た え て とハ ぬ お と こ 乃 も とへ を ん な 乃 屋 累 躰 ∫8碩 ん'。 お と こ 乃 返 し0'0κ0η0加 51く 秋'α θ'θ'ow砌 〃o'oんoηo溺o∫oθoη 澱 ηoア07〃 ε識 。 ら 井 多 可 記 人 爾 心 乃 い ろ 越 あ ら ハ 春 べ き 躰 ㎞ 厂o'∫訛 αん∫肋oη'んoんoハo〃o'moαmwα3〃 わθん' 'θ∫ 。 52湯 浅1996、p.197。 『堀 河 院 艶 書 合 』1965(日 本 古 典 文 学 大 系 、 弟 七 十 四 巻)、pp.263- 70も 参 照 。 53ド イ ツ 文 学 のTagelied(日 54お 別 れ の場 の 比 喩 。 答 の 歌)参 照。 の 歌 、 夜 明 け の 歌 、Albaと 『万 葉 集 』 第 三 巻(日 も:曙)に 酷 似 した 場 面 で あ る。 本 古 典 文 学 大 系 、 弟 六 巻)、no.3215/3216(問 「白 妙 乃 袖 之 別 乎 難 見 爲 而 荒 津 之 濱 屋 取 爲 鴨(し た み し て あ ら つ の は ま に や ど りす る か も):草 ろた へ のそ で のわ かれ をか 枕 羈 行 君 乎 荒 津 左 右 送 来 飽 不 足 社(く ら た び ゆ く き み を あ ら つ ま で お く りそ こ ぬ る あ き た ら ね こ そ)」 55露(=荒 56『 津)=涙 百人 一首』 。 ざ り け り」)、 57『 、お別 れ のわび の意 味。 『拾 遺 集 』no.710(「 こで は 『後 拾 遺 和 歌 集 』no.770(元 波 越 さ じ と は 」)。 輔:「 後 の心 に 新 古 今 和 歌 集 』no.1284。 59『 百人 一首』 。 『新 古 今 和 歌 集 』no.1049(「 く らぶ れ ば 「も の も 」 は ち ぎ りきな 『新 古 今 和 歌 集 』no.1284(藤 58『 を あひ みて の 『古 今 和 歌 六 帖 』no.2598(こ 百人 一首』 。 の松 山 さま く 。 形 見 に袖 を 原 定 家 朝 臣)も 浪 速潟 短 き蘆 の 昔 は もの も 思 は 「も の を 」 と あ る)。 し ぼ りつ っ 末 参照。 ふ しの間 も 逢 は で こ の世 過 ぐ し て よ と や 」)。 60『 百人 一首 』。 『拾 遺 集 』no.766(「 も あ は ぬ と そ 思 う」)。 『新 古 今 和 歌 集 』no.1077も 61『 続 古 今 和 歌 集 』no.958。 62跏 傭 〃 〃o加 〃2αη030漉 濱 は分 かれ の比喩 。 182 わ び ぬ れ ば い ま は た お な じ 浪 速 な る み を つ く して 参 照。 ηowα 初 君εη〃oアo〃2θ7〃 あ ら 津 乃 者 満 乃 袖 乃 王 可 れ と よ め る 。 荒 津 の 日本 中近世 の懸 想文 作法 につ いて 63本 歌 は 『古 今 和 歌 集 』no.1093(日 本 古 典 文 学 大 系 、 第 八 巻 、p.328):君 心 を わ が 持 た ば 末 の 松 山 波 も 越 え な む(私 をお きて あだ し が あ な た を さ しお い て 、 心 変 わ りす れ ば 、 陸,奥に あ る と い う末 の 松 山 を 波 こ そ 越 え て し ま う で し ょ うか ら 、 あ り え な い 。)歌 い手 は男 か女 か は 明確 で な い 。 64木 65 船1994、p.342。 『古 今 和 歌 集 』no.706。 66 「理 解 し て 」 の 意 味 、 67 『古 今 和 歌 集 』no.792。 68 『新 古 今 和 歌 集 』no.1220。 69 『万i葉 集 』no.141。 70 『新 古 今 和 歌 集 』no.768。 71 『玉 葉 集 』no.1534。 72 『続 古 今 和 歌 集 』no.1536。 73距405〃 『古 今 和 歌 集 』no.255参 ηo〃20r吻03伽zεηαwαwoんoんomηo励 照。 α耀ア〃η∫アo〃2θr'多 ゴ春 乃 も里 乃 志 め な者 ハ 心 乃 ひ 可 累 ゾ爾 よ め り。 ル ㎞ 謝 勧30wα ゐo珈 ηo加3ッ6ηor'ふ 可 ミ[=深 見]草 ハ 牡 丹 乃 異 名 な り。 74『 古 今 和 歌 集 』no.706(日 な りぬ れ ば 思へ どえこそ 本 古 典 文 学 大 系 、 第 八 巻)、p.241。 頼 ま ざ りけ れ(大 大幣 の 引 く手 あま た に 幣 の よ うに 、 貴 方 は 引 っ 張 り鮹 だ よ。 恋 し く思 うが 、 い か に 貴 方 の 心 を 頼 りにす る こ と が 出 来 よ うか)。 75『 万 葉 集 』no.141(日 76『 宇 津 保 物 語 』1959(第 本 古 典 文 学 大 系 、 第 四 巻)、p.87。 一 巻 、 日本 古 典 文 学 大 系 、 第 十 巻),pp.206£(「 照 。 『書 札 作 法 抄 』(続 群 書 類 従 、 第 九 巻 、 続 群 書 類 従 完 成 会1959、p.633。 77小 拾 遺 和 歌 集 』 、no.629の 笠 原 流 の 終 結(『 本 歌 取 り)を 藤 原 の君 」)参 こ う解 釈 す る 。 「 筆 法 門」 、 「 三 議 一 統 大 雙 紙 」1959(続 群 書 類 従 、 第 二 十 四巻 、 上)、pp.328-32。 「 筆 法 門」 、 「 三議 一 統 ・大 雙 紙 」1993 、 『大 諸 礼 集 』(小 笠 原 流 礼 法 伝 書 、 第 二 巻 、 東 洋 文 庫 、 第562巻)、pp. 62-67。 78『 続 古 今 和 歌 集 』no.1331。 79『 続 古 今 和 歌 集 』no.1304。 80木 船1994、p.476参 照(人 心 わが身 の秋 に なれ ば こそ 憂 きこ とのは の し げ く散 る ら め)。 81木 船1994、p.466参 照。 183