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8. 戦略のためのExcel
第 VIII 部 戦略 第 8 部 戦略 製品開発や営業などの企業活動や一般社会活動において、さまざまな戦略が取られます。戦いに勝 つためには、古来「空間的・時間的に兵力を1点に集中せよ」といわれます。有名な戦略として「ラ ンチェスターの法則」があります。イギリスの航空工学のエンジニアであった Frederick William Lanchester(1868-1946)が発見した法則で、コロンビア大学の数学教授 Bernard Osgood Koopman とアメリカ海軍作戦研究班が軍事目的のランチェスター戦略として展開し、日本の田岡信夫 (1927-1984)が販売戦略として確立したものです。 ランチェスター戦略には、第一の法則と第二の法則があり、組織の販売能力を「1人あたりの販売 能力」×人数に分解した場合、第一の法則は、 「人数が同じ場合には、1人あたりの能力が高い方が勝 つ」 、第二の法則は、 「1人あたりの能力が変わらなければ、人数が多い方が勝つ」というものです。 さらに、1次法則と 2 次法則にわけると、前者は「一騎打ちで勝つ」ための法則、後者は「集団戦で 勝つ」ための法則ということができます。ここでは、Excel の機能を用いて数学モデルをビジュアル に表現して知見を得ます。 1. ランチェスターの1次法則 1.1 数学モデル X 軍と Y 軍が一騎打ちで戦う場合を考えます。今、Y 軍の兵士 1 人は X 軍の兵士を E 人倒すとす ると、E が高ければ高いほど、能力が高いことになります。この能力を表す係数 E を交換比といいま す。 このような場合、X 軍の生存者を x、Y 軍の生存者を y とすると、次式が成立します: (式 1) E(y0-y)=(x0-x) ここで、y0、x0 は Y 軍、X 軍の最初の人数(初期値)です。したがって、(y0-y)、(x0-x)は Y 軍、 X 軍それぞれの戦死者の数です。 (式1)を変形します。 𝟏 𝒚=𝒚𝟎 − (𝒙𝟎 − 𝒙) (式 2) 𝑬 表 1 式 2 から考えられる状況 ケース 条件 y0、x0 状況 E 1 y0 > x0 E > 1 Y は兵士数が多く、能力も高い 2 y0 > x0 E < 1 Y は兵士数が多いが、能力は低い :Y が勝つか不明 3 y0 < x0 E > 1 Y は兵士数が少ないが、能力が高い:Y が勝つか不明 4 y0 < x0 E < 1 Y は兵士数が少なく、能力も低い 9-1 :Y が勝つ :Y は負ける 第 VIII 部 戦略 式 2 から考えられる状況は表 1 のとおりです。ケース 1、4 は、勝負は明らかです。では、ケ ース 2,3 で Y が勝つためにはどうしたら良いのでしょうか? 1.1 Excel の利用 まず、ケース 3 の場合を検討します。x0=300、y0=100 (y0<x0)とします。交換比 E の値 を変えながら、 (式 2)の x と y の関係を数表(図 1)とグラフ化(図 2)します。 図 1 交換比 E の値を変えて式 2 を計算する(初期値 y0=100、x0=300) y:Y軍の人数 ランチェスター1次法則 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 100 200 x :X軍の人数 300 y2 y3 y4 y1 図 2 ランチェスターの 1 次法則のグラフ化 Y 軍の人数 y、または X 軍の人数 x が 0 になった時点で戦いは終わりです。図 2 から、y1、 y2 は Y 軍の負け、y3 は引き分け、y4 は Y の勝ち、であることがわかります。 9-2 第 VIII 部 戦略 Y 軍が勝つためには、𝐸 > 𝑦𝑥00 でなければならないことがわかります。 【個人戦で少数軍が勝利するためには、人数比より高い能力(交換比)が必要】 2.ランチェスターの 2 次法則 2.1 数学モデル X 軍と Y 軍が集団で戦う場合を考えます。X 軍の生存者を x、Y 軍の生存者を y とし、Y 軍の死亡 者数は、X 軍の生存者数 x に比例すると仮定します。同様に、X 軍の死亡者数は Y 軍の生存者数 y に 比例するとします。ここで、k は、比例定数です。 -dy = k1x -dx = k2y これら 2 式から、式 3 を得ます。 𝐝𝒚 𝐝𝒙 = 𝒙 𝑬𝑬 (式 3) X 軍と Y 軍の初期値を x0、y0 として(式 3)を解くと、 𝐸(y0 2 − y 2 ) = x0 2 − x 2 𝐲 𝟐 = 𝐲𝟎 𝟐 − 𝑬𝟏(𝐱 𝟎 𝟐 − 𝐱 𝟐 ) (式 4) 2.2 Excel の利用(1次と2次の比較) x0=300、y0=300 (y0=x0)とします。交換比 E=2 とし、式 2 と式 4 により両軍の生存者 を計算し、グラフ化します。 図 3 ランチェスターの 1 次・2次法則の比較 9-3 第 VIII 部 戦略 2.3 Excel の利用(交換比の違い) x0=200、y0=100 (y0 < x0)とします。交換比 E を変化させ、(式 4)にしたがって 2 次法 則に従うグラフを作成します。両軍が同時に 0(相打ち)になる場合の E 値を限界交換比と言い ます。 図 4 ランチェスタの 2 次法則:限界交換比は 4 以上 限界交換比は、E=(x0/y0)2 になります。 2.3 勝者の損害 勝敗だけでなく、損害の大きさを予測します。損害の目安として、軍隊では 30%の戦死者をもって 全滅とします。戦死者 1 人に対して 2 倍以上の負傷者がいると考えるからです。 図 5 では、x0=70、y0=100 (y0 < x0)とし、交換比 E=1 と 2 において計算をしています。 実戦では、交換比は 1 に近い値です。 9-4 第 VIII 部 戦略 図 5 勝者の損害 [問題] 1. アメリカ軍は、敵の 3 倍の数で攻撃するのを原則としています。1次法則を適用し、損害を予 測してください。E=1 とします。 2. アメリカ軍は、敵の 3 倍の数で攻撃するのを原則としています。2 次法則を適用し、損害を予測 してください。E=1 とします。 [発展問題] 1.M コンビニエンスストアは、K コンビニエンスストアとライバルです。そこで、M コンビニは、 出店数を K の 5 倍とし、広告も K の 2 倍の効果が出るようにしました。 ここでは、1 次法則と 2 次法則の中間であるという仮定で、勝敗の様子を示しなさい。 <ヒント:𝐲 α = 𝐲𝟎 α − 𝑬𝟏(𝐱 𝟎 α − 𝐱 α ) を利用する。ここで、α=1.5> 9-5