...

PDF DOWNLOAD

by user

on
Category: Documents
33

views

Report

Comments

Transcript

PDF DOWNLOAD
株式会社 小田急百貨店新宿店
営業政策部 営業政策担当
1974年、東京生まれ
1998年、小田急百貨店新宿店入社。
入社後、婦人服飾雑貨を担当。2003年
より服飾品部バイヤー。
2009年のリニューアル期にサントリー
ズ・アレー担当となり、その立ち上げに
従事。
2010年9月より現職。
■インタビュアー エシカル・プロジェクト 山岸 浩之
││﹁共感マーケティング﹂を軸に展開するその手法
安藤 寛之 氏
エシカル、
百貨店バイヤーの取り組み
エシカル・プロジェクト
レポート
平場の実績を生かした
コンセプトショップ街、
サンドリーズ・アレー
山岸 浩之 それでは、
まず最初にこれまでの略歴を教えていただけ
ますか。
安藤 寛之氏(以下、敬称略)
入社後、最初に配属されたのが
婦人服飾雑貨でした。
「服飾アイテム」
と総称される、スカーフ
やマフラー、傘、
帽子、
ハンカチ、
靴下、
ベルトなどが並ぶ、
「平場
(ひらば)
」
と呼ばれている場所です。
平場は、自分たちで商品を買いつけ、編集して売る場所です。
百貨店には平場と、ショップにお任せする2つの形式がありま
す。私が担当していたのは「婦人服飾雑貨」で、半年が1つのス
パン。その半年を2つに分け、1年を大きく4つくらいに分けた
シーズンアイテムにずっと携わってきました。
入社6年目にバイヤーになり、服飾雑貨のバイヤーを丸5年
務め、2年前に今の「サンドリーズ・アレー」に異動になりまし
た。サンドリーズ・アレーは、複数のショップと「スウィングス
ペース」
(催事場)と呼ばれるイベントスペースが一本の小路
の周りに並んでいる、街を散歩する感覚でお買物をお楽しみい
ただけるエリアです。そのイベントスペースに、自分たちでエ
ポックメイクなものを2週間のタームで入れて…という感じで
進めるので、2,000円の手袋を500個仕入れて様子をみるとい
うような、
一般的な商売とは若干違います。
運良く早い段階でバイヤーにしてもらえたので、仕入れの経
験としては7年。婦人アイテムに関してはかなり詳しくなりま
した。その経緯から、新しいショップを入れ、コーナーや世界
観を作るという今の仕事に至ったという感じです。
山岸 配属先はご自身が希望されたんですか?
安藤 そうです。入社当初はこの業界が全くわからなかった
ので、とにかく忙しいところを希望しました。百貨店に入社
する人の9割5分は、洋服やファッションアイテムが好きです。
私も嫌いではないですが、それが目的ではなかった。エンター
テインメントを販促の切り口に、人の集客装置をいろいろ変え
られるのがおもしろそうだなと。
山岸 サンドリーズ・アレーの準備段階についてお聞かせくだ
さい。
安藤 まずファッションを広義でとらえたときに、
「日本のも
のづくり」などの観点を取り入れていくことが必要でした。ま
た洋服の売上がどんどん落ちている中で、雑貨だけはそこそこ
数字もいいという流れをとらえ、雑貨で新しいファッションの
価値を提案することになりました。
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
取り組みの1つに、産学
連携の「香川県の手袋組合
・商工会と組んだグローブ
フェア」があります。モー
ド学園の生徒さんたちに
手袋のデザインを描いて
もらい、それを香川の職人
さんに作ってもらうんで
す。難しいデザインが多
い の で す が、職 人さんは
「任しとき。やっぱりメー
ドインジャパンやで!」と
実際に作ってしまう。そうした手袋を店頭で販売し、コンテス
明が我々にはどうしても必要だったのです。
トを開催しているんですよ。
事実世の中のOLは、ユニクロのパンツをはいてもヴィトン
マーチャンダイジングの指針として、
「できるだけトレーサ
も持つ。
「もの」
を買うときに、高い安いだけで買うわけじゃな
ビリティの証明ができるものを扱う」
「商品の背景にある作り
い。それよりも、そこに
「物語」
があれば共感するはず。その共
手の思いや技術・文化などの『物語』を紹介できるショップを入
感軸でとらえた共感マーケティングをやろうと。
れる」という2点がありました。やるべき方向性を突き詰める
既存のファッションマーケットからはずれようとする理由は
と、この2つなのではないかと。そういったものを大切にして
百貨店が今までのファッション1本では食えなくなっていると
いるブランドとお付き合いしたいという思いがあり、結果的に
いう現状があります。
「日常みんなが一番大事にしていること
フェアトレードに行きついたんです。
は何か」と考えた結果、サンドリーズのような売り場がコンセ
プトとして立ち上がったんです。
百貨店は今までのファッションだけでは
食えなくなる!
物語で訴える共感マーケティングへ
ここまでターゲットの幅が広いのは、みんなが持つ「社会に
対する思い」を一番の軸にしたいと思っているから。それを裏
付けるのは作り手の物語、生産背景や工程などです。それらを
「すごいものを作っているでしょ?」と言ってもかっこ悪くな
りがちなので、いかにベタなものをかっこよく見せるかが腕の
安藤 サンドリーズ・アレーのイメージターゲットはわかりや
見せどころ。そういうお手伝いをするのが我々の仕事かなと
すくて、
「新宿西口OL」です。その西口OLを中心にしたすべて
思っています。
の人間相関関係を包括的にターゲットとしています。言って
しまえば全員ですが、OLさんのライフスタイルを具体的に考
山岸 発想の体系としては、トップダウンというよりも、ボト
えて、見えてくるものは何かと。キャリア予備軍、キャリアの
ムアップ的な感じですよね。
リーダーなど一つひとつイメージし、実際に女性のバッグの中
身から、オフタイムの行動に至るまで分析してみました。マー
安藤 そうですね。でも当初は全く逆でした。最初のリニュー
ケットが広く、間口を拡大できるアイテムを深掘りしたんで
アルのコンセプトは、よりハイグレード、よりハイクオリティ。
す。服だと「これぐらいの年齢で、こういうテイスト感を持っ
特にヨーロッパ系、インポート系のラグジュアリーブランドを
た人はこんなのが好き」という具合に進むので限定せざるを得
集めることだったんです。従来百貨店とはそういうものです
ないんですが、雑貨はもっとターゲットが広い。非服飾雑貨と
が、果たしてそれが本当に我々の勝負どころなのか、業界とし
して、携帯アクセサリーや旅行の案内、パーティー雑貨、ビュー
てだけでなく、
店として生き残れるのかが疑問でした。
ティー関係など、商品での受け皿を広範囲でとらえることがで
また、当初の方向性を修正して、会社を納得させることに必
きるのです。
死でした。会社を説得して導入にこぎつけたマザーハウスな
ファッションの価値軸としては、
「価格が高いか低いか」
とい
どは、その価値をわかる方にはわかっていただけるので、そう
う軸と
「コンサバか、
尖っているか」
という軸でとらえます。
いう方が顧客になり、応援もしてくれます。でもファッション
価格が高く、尖っているものがいいわけですが、たとえばマ
軸でいくと、マトリックスではどうしても悪い方になる。最近
ザーハウス(注1)はどうかというと、価格は比較的安くデザイ
の働く女性はヴィトンも欲しいには欲しいが、それだけがすべ
ンは比較的コンサバティブと、上記の価値観とは逆ですね。だ
てじゃないんです。それを会社にわかってもらうことが必要
から「今のファッションの価値観では説明できない」という証
でした。
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
日本の中で活動してもあまり大きくならな
い。でも社会に向けて発信すれば、今まで
日本が「ものづくり」で世界を席巻したよう
なインパクトを出せるんじゃないかと彼ら
は感じているのではないでしょうか。我々
には30代∼ 40代も当然大事なターゲット
ですが、どちらかというとその世代は既存
ファッションが好きですよね。10年後の百
貨店が生き延びるには、今の20代が30代
になり、可処分所得が増えたときにガンガ
ンものを買ってもらうようにしなければな
らない。今から種まきをするために、20代
の子たちが持っている興味に少しフォーカ
スしないといけないわけです。20代には
山口さんのような社会的な活動をしている
方が非常に多かったので、これは広がりが
マザーハウス代表取締役社長
山口絵理子との出会い
山岸 このプロジェクトは、安藤さんを含めたチームワークな
あるだろうと。そのあたりは打算的というか、商売目線でもあ
りました。あとは個人的に応援したいと思いました。
山岸 それでマザーハウスをまず入れてみようと提案したわ
けですね。
んですか?
安藤 はい。まずはイベントスペースで2週間くらい売ってみ
安藤 商品面では上司と二人でやっています。エコプロダク
たんです。
ツ展(注2)に出店していたマザーハウスを見つけて来たのは、
その上司なんです。当時ファッションのバイヤーがエコプロ
山岸 そこで手応えがあったと。
ダクツに行くことはなかったのですが、我々は「絶対何かある
はずだ」
と思っているので行くんですよ。
安藤 お客様を呼ぶ仕組みができていたんですよ、マザーハウ
そのとき私はまだ平場にいて、本来そこでバッグをやるのは
スさんは。百貨店が2万通のDMを出してもレスポンスは1%
ありえなかったんですが、無理やりやったんです
(笑)
。
「かっこ
あるかないか。それに対し、マザーハウスさんは60 ∼ 70%も
よくないんじゃない」
など、いろいろな意見がありました。でも
返ってくるんです。とにかくファンがたくさんいる。そのファ
頑張っている女の子に、
「彼らの物語」に共感してもらいたかっ
ンに対し、ダイレクトに彼らが発信すれば、ヒット率が全然違
た。当時山口絵理子さん(マザーハウス代表取締役社長)は25
う。だから反響という意味ではすごくありましたね。
歳でしたが、彼女の頑張っている姿は間違いなく「私も頑張ろ
現在に比べるとまだまだできあがっていなかったので、ファ
う!」という共感マーケットに合致すると思ったんです。それ
ンは納得して買うというよりも、応援するために買うという部
で敢えてファッション軸から離れるという選択をしました。
分もありました。でも、たとえ応援したくて買ったとしても、
そこには間違いなく経済効果が発生している。
「ものづくり」
山岸 マザーハウスさんとの出会いにピンときたきっかけは
に関してはだんだんよくなってくると思っていたので、1回目
あるのでしょうか。
から成功と見ています。
安藤 いわゆるインポートの頂上モデルではない、かっこいい
「もの」を探していたんですね。同じデザイン性やイタリアの
発色のいい皮などと闘っても、やはり勝ち目がない。だけどマ
ザーハウスは、たとえジュートのしつらえが悪くても、
「女の子
イベントスペースでの成功から
百貨店初の常設店舗へ
のかっこいい社長像」
がある。山口さんのブログを読むと、
「応
山岸 そこから常設の直営でやろうというのは、けっこうハー
援したいな、この子」と思うんです。山口さんをはじめとした
ドルが高いイメージがありますが。
80年代生まれの人は、本当に社会貢献への思いが強いですが、
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
安藤 雑貨の平場で3回やった時点で、
「毎回バッグじゃない
か」と言われていました。でも、私はその時すでに山口さんと
山崎さん
(マザーハウス代表取締役副社長)
となら、身を粉にし
てやることができると感じていたんです。もし私の手を離れ
て誰かに譲ったら、その人は私と同じテンションでやるかどう
かはわからない。それはシステムや企業としては評価されな
い考え方かもしれませんが、やはり思いは人とともにあります
よね。
平場だと、お客様の問合せや在庫の発注などの実務の部分
で、他の従業員たちにもいろいろとお願いをしなければいけな
かったんですが、そのときに思いが共有できなかった。結果的
にお客様にも迷惑をかけるし、マザーハウスさんにとってもよ
くない。また、普段スカーフを売っている人がいきなりバッグ
を売ることは、現場にとってすごくストレスがありました。そ
ういったことを解消するにはもう、
ショップをやるしかないと。
安藤 ターゲットである西口OLと同世代の「頑張る女性」を探
していて、まず山口さんに出会い、そして
「ピープルツリー」
(注
山岸 入谷と戸越にはマザーハウスのショップはありました
4)
にめぐり会ったのがきっかけです。
が、
百貨店では初めてですよね。
ピープルツリーは最初に催事場のエレベーター前で展開し
たところ、そのナチュラルオーガニック感・世界観がウケまし
安藤 そうですね。当時すでにマザーハウスには引き合いが
た。百貨店の顧客も内部の人間も、当時はフェアトレードの商
出始めていたと思うんですけど、それでも我々を選んでいただ
品など見たことがなかったんですね。まだクオリティは高い
いたのは感謝しています。
レベルではなかったですが、それを許せるだけの世界観と理由
がある初めてのショップでした。そして実際、売れました。そ
山岸 オープン当時に比べ、品質も上がってきて、現時点での
のうちサンドリーズ・アレーの入り口で第2回をやろうという
全社的な評価は上がっていると。
話が浮上したんです。
安藤 すごく上がっています。基本的に、よしにつけ、悪しき
フェアトレード系のブランドを幅広く展開しているショップ
につけ、
数字が上がれば評価は上がるんですね。数字は本当に
がある」というお話を聞きました。ブランド単体ではなく「編
正直。マザーハウスさんのデータによると、うちの売り上げは
集という概念」を入れてくれるコーディネーターがいると。そ
その時にピープルツリーさんから「ロハス・オーガニック・
一見さんばかりだそうです。もう完全に顧客商売だけではな
うしてご紹介いただいたのが「センスオブライフ」の阪本さん
くなっています。
だったんです。
山岸 フリーのお客様が増えたということですね。
山岸 センスオブライフは、スウィングスペースの方でもイベ
ントをされていましたが、
結果的に評判はよかったんですか。
安藤 そういうことですね。ここ1年くらいの間に、マザーハ
ウスを知らないフリーのお客様が気に入って購入する状態に
安藤 評判も、
数字もよかったですね。
変わってきました。今は9割ぐらいがフリーの方です。山崎さ
んには
「クオリティが大事だと考える、いいきっかけになった」
山岸 スウィングスペースはいろいろなイベントを行ってい
と言っていただきました。
ますが、ジャンルの関係なくお客様の反応がいいということで
すか。
エシカルなつながりの拡大、
センスオブライフとの出会い
安藤 我々はスウィングスペースを、新規顧客開拓の場所に
したいと思っています。普段うちの店の中で買わない人が、ス
ウィングスペースで買うことによって、うちのファンになって
山岸 そのお店のあと、期間限定で「センスオブライフ」
(注3)
もらうとか、店のカードを作ってもらうのが狙いです。フェア
が入りましたが、代表の阪本さんとはどういったお付き合いが
トレードで引っ掛かった顧客の触手が、既存の他のファッショ
あるんですか。
ンアイテムに伸びれば最高ですし、そうでなくても新規顧客獲
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
得の面で効果をあげていますね。
安藤 そうですね。地の利もあると思います。全国平均と客
お客様を見ているとわかるんですが、普段百貨店で買物を
数を比較しても、サンドリーズ・アレーはそれなりに集客のい
しないだろうという方にも興味を持っていただき、実際に商品
い売り場なので、その恩恵はおおいにあります。マーケットの
を買ってもらえたりしました。さらに、うちでファッションア
顧客情報を得る上でもサンプル数がとても多いので、マスに近
イテムを買っている方も購入してくれる例も増えてきました。
いマーケット情報が得られるのではと思っています。
相互での新しい循環が生まれていると感じましたね。
山岸 どれくらいの人が通るんですか。
有名なファッションブランドのフェアもたまにやるんです
が、それは新規顧客の獲得というより、既存顧客への訴求とい
安藤 店内は1日3,000人ぐらいです。クリアランスセールの
う感覚が強いです。
ときは5,000人ぐらいですね。外のウィンドーは10万人くら
フェアトレードやエシカルが、マーケットや商材として視野
の広い人たちから少しずつ認知されはじめていても、百貨店で
い通ります。だからイベントスペースのウィンドーの価値は
高いんですよ。
はまだまだ浸透していない。これからよりクオリティを上げ
ていけば、
確固たるものになるのではないかと思っています。
山岸 今ちょうどそのスウィングでMOTTAINAI(もったいな
い)
雑貨コレクション
(注5)
をやっていますが、これもやはりそ
これからは、
「伝え手」
として売り方と
見せ方で勝負
ういった情報の中から発掘したものなのでしょうか。
山岸 今年4月、表参道ヒルズ内に「Do Good, Be Happy!」
(注
安藤 元々ライセンス商品としては有名なものなんです。か
の店舗についてはどのようにご覧になっていますか。
6)
と
「PATH THE BATON」
(注7)
が出店していますが、これら
つてバイヤーとしてハンカチの担当をしていたんですが、その
ハンカチメーカーの1つ、
ブルーミング中西さんがMOTTAINAI
安藤 トレンドだなと思います。ちゃんと商売になり始めた
のライセンスをやっていて。これは何だと調べてみて背景を
ということですよね。ビジネスになるから始められるし、続け
知り、本体の伊藤忠さんを紹介してもらいました。商品バリ
られる。フェアトレードを企業体やショップの形態としてやっ
エーションもかなりあって、背景、物語もしっかりしています
ているところはまだまだ少ないと思うんです。ネット販売だ
ね。
けのところも多い中、形にしているということはそもそも資本
力があったり、ちゃんと後援する人がいたりと、体制が整って
山岸 売り場を見ると、普通のお客様が、普通にものを選んで
いるということです。
いる感じで入ってきていますよね。
態勢を整えてでもやろうとする商材がフェアトレードやそ
ういったものであるというのは、いよいよ時代がきてるなと思
いますね。裏を返すと、うちもうかうかしていら
れない。洗練したものを用意していかないと。
表参道に入っているような人たちって、世界の
作り方がうまいんです。明らかにその道のプロが
入っているんですよ。特に「PATH THE BATON」
の方は、VMD(=Visual Merchandising)が抜群な
んですよ。フェアトレード系のブランドは比較的
今まであまり「世界つくり」までは意識していな
かったと思います。単品のやりとり、つまり商品
をまずは用意することに終始していたのではない
でしょうか。
山岸 そもそもそういう発想がないですよね。
安藤 そうですね。だから「セレクト」という発想
を持てる人、編集のセオリーを持った人が必要で
す。阪本さんは百貨店出身ですが、そのあたりで
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
フェアトレードのショップの中では、編集力が高いと思いま
安藤 商売という目線で考えたら、売れるものを売ればいい。
す。もちろん本人ひとりのセンスでできるものではないし、高
だけど、どうせやるなら、世のため人のためにしたい。具体的
いセオリーを持っている人でないとできないですけど。もう1
にいうと、次世代のため、自分の子どものため。自分の子ども
つの「Do Good, Be Happy!」は、子ども軸がすごくいいですよ
が暮らしやすい世の中とか、自分の子どもに薦めたいものと
ね。お子さんと一緒にとか、子どもを大事にするとか、すごく
か、食べさせたいものとか。そういったものを用意するときの
エシカルだなと思います。包括的に「子どもの時代へ残す地
モチベーションはかなり高い。それを仕事に反映させたいと
球」といったことが感じ取れるあたりが、特に素晴らしいです
思うのはすごく自然な発想で、そう考えると、エコだとか環境
ね。我々にはできないかもしれません。
を考えるのは、
自己実現の一環だと思います。
我々小売は、作り手でもないし、使い手でもなく、
「伝え手」
だ
今、地域のクリエイターさんやものづくりの人たちを発掘し
と思うんです。その「伝え手」としてなにができるかというと、
て、新しい企画をやろうとしているんですよ。それはまさに日
売り方と見せ方です。その2つをどうリンクさせるかが、我々
本活性化で、日本のものづくりが沈んでいく中での、技術の継
の仕事。彼らはその伝え方がうまい。
承でもあります。彼ら産地の人たちは技術がない。我々伝え
コミュニティーづくりもキーだと思います。ファン作りやイ
手が場所を提供し、
こんなにいいものがあると発信することで、
ベントはもちろん、社長自ら1対1で会話をしたり、昼食会を開
少しずつよくなるきっかけになればいいと。そしてうちを皮切
いてみたり。そうやって草の根的にファンを増やすことで、す
りにどんどんクローズアップされて、大きなスケールメリット
ごく強固なコミュニティーが作られると思いますね。コミュニ
になったらいいなと思っています。こういったことが私にとっ
ティーを醸成するための環境づくりが本当に素晴らしいです。
てのエシカルなんです。日本をよくしたいと言ったら大げさで
すけど、
お手伝いができれば。
モチベーションのベースは
「自分の子どもに残す日本」
山岸 今後の展望としては、
どういった方向を考えていますか。
例えば仮にルイヴィトングループが、最高感度のファッショ
ンアイテムで何兆円も売り上げて、社長の鶴の一声で売上の
5%を難民救済に充てれば、何十億何百億の援助ができます。
それは一つの世直しかもしれないし、いいことだとは思います。
一方でマザーハウスの山口さんのビジネス規模はその500分
の1かもしれませんが、先の例に比べて、とても能動的でプロセ
安藤 フェアトレードやエシカルを、今までの概念にある
スに魂がある。その頑張る姿に共感し、お金じゃない元気をも
「ファッション」
に代わるもの、代弁するものとして大事にして
らえる。そういったことを「伝えて」いきたいですね。日本に元
いきたいですね。マザーハウスさんのような会社と共存共栄
気な人が増えれば増えるほど、
次の世代に伝わっていくし、
自分
していけたらと考えています。
の子どもが元気な人に刺激をもらえたらと思います。
もう一つは、新しい切り口で新しいことをやりたいと思って
います。それはやはり中国マーケットかなと。いきなりエコ
が難しければ、メードインジャパンでやろうかとか。今後、あ
る程度ものに満足した彼らのモチベーションに、必ず
「エコ」
や
「エシカル」がくると思います。その時にちゃんと提案できる
ものを準備しておきたいですね。日本の地域のもの作りには、
電鉄系だからこそできる、
街作り・沿線作り、
そしてエシカル
山岸 ロハスという言葉についてどう思われますか。
この概念がしっかりと根付いているものがすごく多いんです
よ。地域の素材と人材を生かし、それを次の世代に伝承する。
安藤 以前はロハスというものを自分も含めて、みんな全然わ
とても「エシカル」だと思います。そのメードインジャパンを
かっていなくて、ゆったり暮らせるとか、余裕を持って暮らせ
小売として徹底的にやるということは、日本を活性化すること
るとか、いろいろなキーワードが混在していました。ただ、ロ
でもある。回りまわって日本をよくする。国づくり街づくり
ハスは受動的なイメージ。それと、あまりにも流行語になって
につながる話です。
しまったかと。それに比べると、エシカルはもっと能動的です
よね。
山岸 先日センスオブライフさんを訪ねたときに、壁に「エコ
ロジー」
「オーガニック」
「フェアトレード」のワードが貼ってあ
山岸 僕らも、エシカルという概念は地道に浸透させることが
るのを見て、ああ、
「エシカル」はまだこういうレベルにはなっ
必要かなと思っています。ロハスのようにいきなり上がって
ていないんだなと思いました。安藤さんにとっての
「エシカル」
急激に下がるというのはよくないと思いますし。考え方によっ
という言葉のとらえ方や、発展性についてはどのように思って
て浸透させるにあたり、
必要なことは何でしょうか。
いらっしゃいますか。
Delphys Ethical Project
エシカル・プロジェクト レポート 安藤 寛之氏 インタビュー
安藤 やはり共感軸を増やすということと、キーワードをいく
つか作ってあげて、
「それがエシカルなんですよ」
ということを
わかりやすく伝えてあげることだと思います。
注1:【マザー ・ハウス】バングラデシュのジュート(麻の一種・黄麻を使った繊
維)を使い、オリジナルのバッグづくりを現地で行う。2006年創業。
注2:【エコプロダクツ展】1999年から継続して開催されている、産業環境管
理協会・日本経済新聞社主催の日本最大級の環境展示会。
山岸 コーズマーケティングはもう少しキャンペーン的な形
でやっているように思います。あれはあれで共感軸ではある
と思いますが、
売りに近い感じですよね。
注3:【センスオブライフ】ロハスをコンセプトに、雑貨・アパレル・食品など多
岐にわたる分野でのソーシャルプロデュース。事業を行う。2004年創業。
注4:【ピープル・ツリー】フェアトレードカンパニーとして、アジア、アフリカ、
南米の15 ヶ国、50団体が手作りで生産した、自然素材を活かした衣料品や
安藤 そうですね。我々は利益を出してなんぼだし、元々は大
アクセサリー、食品、雑貨などを扱っており、公正な価格の支払いやデザイン・
手アパレルを中心に安く作って高く売る商売をやっていると
を支える。
ころですから、なかなかリンクしないんですが。ただ、鉄道系
の店なので、お客様が小田急沿線にお住まいの方ばかりです。
三越さんや伊勢丹さんは元が呉服屋なので、商売の基盤が違
う。我々は沿線の価値を上げるためにファッション娯楽の観
点で頂上モデルが必要だったので百貨店を持った。入口が全
然違うんです。
実は電鉄系のほうが、
我々の企業目標である、
街作り、
沿線作
り、価値向上などに、エシカルを直接リンクさせやすいと思っ
技術研修の支援、継続的な注文を通じて、環境を害さない持続可能な生産
注5:【MOTTAINAI Shop】期間限定のセレクトショップ。商品購入ごとに売上
金の一部がアフリカでの植林運動「グリーンベルト運動」へ寄付される。環
境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイ
さんが創設した同運動は、植林を通じ貧困からの脱却、女性の地位向上、
ケニア社会の民主化に寄与する。名称の由来は、マータイさんが2005年に
来日した際に感銘を受けた「もったいない」という日本語から。
注6:【Do Good, Be Happy!】環境や人に優しいアイテムを国内外から集めた
セレクトショップ。表参道ヒルズ店は親子向け商品やギフトアイテムを中心に、
レディスウエア、ガーデニンググッズまで、幅広い層に対応した品揃え。
ているんです。たとえばピンクリボンのようなものもベタに
注7:
【PATH THE BATON】不用品に価値を付けて販売する新しい形態のリサイ
できる。高級ブランドの商品に勝手にピンクリボンを付ける
クルショップ。プロフィールや写真など、出品者の歴史や価値観情報を一緒
ことはできませんが、うちはピンクリボンのロゴをバーンと
に提供するのが特徴で、商品は委託販売。
貼って、電車を走らせてもいいわけです。そういったベタな強
みや普遍性を利用していったら、エシカルがもっと浸透してい
くのではと思いますね。
百貨店の未来のために、
情報発信と
コミュニティーづくりの中心でありたい
山岸 5年後、
10年後のビジョンを考えるのはまだ難しいですか。
安藤 ご存知の通り、百貨店はかなり厳しい状況ですので
(笑)
、なかなか難しいです。標榜するテーマを今のまま続けら
れるのであれば、ショップとしてはおもしろい洗練されたもの
を中心に、エコやエシカルなど含め、トレンドに合わせた提案
ができたらいいと思います。
コミュニティー作りの中心になるような機能も作りたいで
すね。人がたくさん通るなら情報を持って帰って欲しいし、家
に帰ってもその情報を中心に人とやりとりして欲しい。何を
ツールに使うかわかりませんが、具体的にサンドリーズアレー
から発生する人と人のつながりが、リアルに見られる仕組み作
りができたらいいなと。モノを売るだけの機能では、なかなか
夢が見られないですね。
山岸 広告業界も同じように厳しい感じです(笑)
。今日は私
にもとても勉強になりました。どうもありがとうございました。
Delphys Ethical Project
Fly UP