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「エシカル消費者」とソーシャルビジネス ∼“エシカルジュエリー”

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「エシカル消費者」とソーシャルビジネス ∼“エシカルジュエリー”
「エシカル消費者」とソーシャルビジネス
∼“エシカルジュエリー”企業「HASUNA」のビジネスモデル
㈱大和総研
資本市場調査部
環境・CSR 調査課
主任研究員
横塚仁士
要約:事業活動を通じて貧困などの社会的課題の解決を目指すソーシャルビジネスが注目
を集めている。ソーシャルビジネス市場の拡大を考える上で注目されるキーワード
として「エシカル消費(者)」がある。本稿では“エシカルジュエリー”を手掛ける
日本企業である「HASUNA」社を事例として取り上げる。
本文:
1.ソーシャルビジネスの定義と注目される背景
雇用や貧困、福祉に関する問題や環境汚染などの社会的課題を解決する取組みとして、
ソーシャルビジネスへの関心が高まっている。経済産業省主催のソーシャルビジネス研究
会が 2008 年にまとめた報告書では、「社会的課題を解決するために、ビジネスの手法を用
いて取り組むものであり、①社会性、②事業性、③革新性の 3 つの要件を満たすものであ
る」1とソーシャルビジネスを定義している。
①の社会性は現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッション
とすること、②の事業性は①のミッションをビジネスモデルとしてビジネスの形に表し、
継続的に事業活動を進めていくこと、③の革新性は新しい社会的商品・サービスやそれを
提供するための仕組みを開発、または活用することとされている。
これらの国内におけるソーシャルビジネスの主体(社会的企業2)が事業を手掛ける分野
は次ページの図表 1 のように分類される。
また、経済産業省が 2009 年 2 月に公表した「ソーシャルビジネス 55 選」3では、国内で
活動をする社会的企業を以下のように分類している。
1. 街づくり・観光・農業体験等の分野で地域活性化のための人づくり・仕組みづくりに
取り組むもの
2. 子育て支援・高齢者対策等の地域住民の抱える課題に取り組むもの
3. 環境・健康・就労等の分野で社会の仕組みづくりに貢献するもの
4.企業家育成、創業・経営の支援に取り組むもの
55 選に入った企業のうち 1 の分類では 25 社、2 の分類では 18 社が紹介されており、
日本国内では街づくりや福祉分野における活動が目立っている。
1
経済産業省「ソーシャルビジネス研究会 報告書」
(2008 年 4 月)より引用。
2 本稿では以下で、ソーシャルビジネスの担い手を社会的企業と呼称する。
3 経済産業省ウェブサイト内の関連ページ(http://www.meti.go.jp/press/20090217003/20090217003.html)を参照。
1/9
図表 1:ソーシャルビジネスの事業分野
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
合計(N=473)
70.0 (%)
60.7
地域活性化・まちづくり
保健・医療・福祉
24.5
23.0
教育・人材育成
環境(保護・保全)
21.4
19.7
産業振興
子育て支援
18.0
障害者や高齢者、ホームレス等の自立支援
17.5
15.9
観光
13.5
文化・芸術・芸能
9.5
他のCB・SB事業者(※)の支援
国際交流・国際協力
スポーツ
4.4
2.7
2.7
安全・安心(防災・防犯)
交通
2.1
16.3
その他
無回答
0.8
(%)
(筆者注※)CB:コミュニティビジネス、SB:ソーシャルビジネス
出所:経済産業省「ソーシャルビジネス研究会
報告書」
(2008 年 4 月)
ソーシャルビジネスが注目される背景を経済産業省の産業構造審議会が 2008 年 2 月にま
とめた報告書4では以下のように説明している。
「(中略)従来、こうした社会的課題は、公的セクター(行政)によって、対応が図られ
てきたが、社会的課題が増加し、質的にも多様化・困難化していることを踏まえると、そ
れら課題の全てを行政が解決することは難しい状況にある」
。
このように、ソーシャルビジネスは社会構造の変化に伴い、図表 1 で列記した多様な分
野におけるニーズが登場してきたことに対応するものであり、行政がこれまで担当してき
た公共サービスの新しい担い手であるとも言える。
ソーシャルビジネスの主な担い手は以下の図表 2 のように分類される。
図表 2:ソーシャルビジネスの担い手に関する主な分類
分類
内容
事業型NPO
NPOとしての法人格を持ち、事業による社会的課題の解決を目指す
社会志向型企業
行政や企業が対象としない、または対応しきれない範囲において
株式会社などの形式で事業を展開する
ソーシャルファンド
特定の事業への投資を通じて配当を受け取ることを求めるファンド
出所:経済産業省「ソーシャルビジネス研究会
報告書」
(2008 年 4 月)に基づき大和総研作成
4 経済産業省・産業構造審議会地域経済産業分科会報告書(2008 年 2 月)より引用。
2/9
寄付などの慈善活動とは異なり、ソーシャルビジネスは担い手である社会的企業が継続
的に事業を行うことで、収益性と社会性(社会的課題の解決)を両立するものである。経
済同友会が 2010 年 7 月に公表した報告書5において、
「伝統的な慈善型の NPO の場合には、
(中略)、財源の不足が課題となるため、最小限のコストで最大の価値を提供するという組
織の効率性を期待することは難しい」と指摘されており、社会から必要とされるサービス
の担い手が収益性を重視することの重要性が強調されている。
ソーシャルビジネスの具体的な事業主体の内訳については、経済産業省が実施したソー
シャルビジネスの事業形態に関するアンケート調査が参考となる(図表 3)
。
図表 3:ソーシャルビジネスの組織形態
合計(N=473)
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
46.7
特定非営利活動法人
20.5
営利法人(株式会社、有限会社)
10.6
個人事業主
6.8
組合
ワーカーズコレクティブ
LLP(有限責任事業組合)
LLC(有限責任会社(合同会社))
1.7
0.4
0.0
16.3
その他
無回答
50.0 (%)
0.2
出所:経済産業省「ソーシャルビジネス研究会
報告書」
(2008 年 4 月)
このように事業形態では特定非営利活動法人(NPO)が半数近くを占めている。株式会
社などの形態を取る営利法人は 20.5%であるが、今後社会におけるソーシャルビジネスの
認知度の上昇に伴い、営利法人形態の事業体も増加が見込まれる。
ソーシャルビジネスと関連する、または対象範囲が重複する取組みであるコミュニティ
ビジネスや BOP6ビジネスなどもソーシャルビジネスと同様の目的を持つ取組みである。コ
ミュニティビジネスが事業主体の拠点がある地域共同体を対象としている点や、BOP ビジ
ネスが世界各地域の低所得者層を対象にしている点などにそれぞれ特徴が見られるが、い
ずれも事業を通じて社会的課題を解決しようという取組みである。
経済同友会の報告書7では、ソーシャルビジネスの市場規模を約 2,400 億円、雇用者数を
約 3.2 万人としており、現時点の売上高や雇用数は決して大きいとは言えない。しかし、経
済産業省のソーシャルビジネス推進イニシアティブ8は、2008 年度から 2012 年度を「ソー
シャルビジネス集中推進期間」とし、市場規模を 2.2 兆円、雇用者数を 30 万人に引き上げ
5
経済同友会(2010)
「市場を活用するソーシャルビジネス(社会性、事業性、革新性)の育成―日本的市民社会の構
築に向けて―」(http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2010/100713a.html)より引用。
6 途上国の低所得者層「BOP(Base of the Pyramid)層」を示す。
7 注釈 1 に同じ。
8 経済産業省ウェブサイト内の関連ページ(http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/sbcb/initiative.html)を参照。
3/9
ることを目指している。また、日本国内では、2010 年 1 月に鳩山首相(当時)が内閣府に
「新しい公共」9円卓会議を立ち上げ、社会的企業が活躍するための仕組みづくりの検討を
進めているほか、各地域でソーシャルビジネスの活動を支援する動きが始まっている。
このような動きを支えとしてソーシャルビジネスへの認知度が高まるに伴い、社会でも
一定の規模を持つ可能性は高いと考えられる。実際にソーシャルビジネスが発展している
イギリスでは、社会的企業が 5 万 5,000 事業者存在し、市場規模は 270 億ポンドに達する
と言われており10、日本国内における市場の潜在性は高いと言える。
2.マーケティングから見るソーシャルビジネス―エシカル消費者への訴求−
前章で紹介した通り、ソーシャルビジネスは様々な側面から「社会的課題」を「市場」
を通じて解決または緩和しようとしている。ソーシャルビジネスは様々な社会的課題に企
業の力で取り組む試みであるが、ビジネスの機会という観点からは、いわゆるニッチ分野
か新たに開拓される市場が起業時点での対象になると考えられる。そのようなソーシャル
ビジネスの成長を促す市場として期待されているのが「エシカル消費者」である。
米国誌『TIME』は、2009 年 12 月 21 日号で「The Rise of Ethical Consumer」と題す
る特集を掲載した。タイトルで取り上げられた「Ethical Consumer」は、購買時の判断基
準に価格や品質だけでなく倫理・道徳などの要素を加味する消費者であり、
「エシカル消費
者」という用語で国内でも取り上げられるケースが出てきている。
エシカル消費とは「倫理的や道徳的という意味であり、地球環境に配慮するエコロジー
を起点に貧困や人権問題も視野に入れ、進化した流れ11」であり、財やサービスが消費者に
到達する過程の中で環境や人権に対する企業の取組みに焦点が当てられる。
具体的には、生産から流通、販売に至るサプライチェーンの過程において、労働者を劣
悪な環境下で働かせていないか、低賃金で搾取していないかなどの労働・人権に対する取
組みや環境汚染物質を排出していないかなど環境保護の面からもチェックし、適切な行動
を行っている企業の製品やサービスを購入する動きである。企業活動に照らして言えば、
貧困や児童労働・強制労働の解消、伝統や職人技の再評価、コミュニティの再生などが主
なテーマである。
The co-operative bank が公表した報告書12によると、英国のエシカル消費の 2007 年の市
場規模は前年比 15%増の 355 億ユーロ(5 兆 8,823 億円13)と推計されている(図表 4)
。
図表 4 が示すとおり、現時点ではエシカル投資などのエシカル金融の比率が大きいが、エ
シカルをテーマにした製品やサービスも拡大している。
9 内閣府ウェブサイト(http://www5.cao.go.jp/entaku/)を参照。
10 鈴木正明(2009)
「英国のソーシャルエンタープライズ」より引用。
11 2010 年 9 月 6 日付日経 MJ『石鍋仁美のマーケティングの「非・常識」
』より引用。
12 The co-operative bank 「The Ethical Consumerism Report 2008」より。ただし、同報告書では製品への不買運動
や投資活動なども幅広い分野を対象に含んでいることに留意する必要がある。
13 2007 年 12 月時点の円ユーロ換算値(1 ユーロ:約 165.7 円)に基づいて計算した。
4/9
図表 4:英国における「エシカル消費」市場規模(06 年/07 年)
(億ユーロ)
400
エシカル食品・飲料
グリーンホーム(省エネ対応型住宅など)
エコツアー・移動
エシカル個人用消費品
コミュニティ(における消費や寄付)
エシカル金融
350
300
250
200
150
100
50
0
2006年
2007年
出所:The co-operative bank 「The Ethical Consumerism Report 2008」に基づき大和総研作成
日本国内においても、エシカル消費をテーマにした化粧品の販売が開始されるなど14、代
表的な事例であるフェアトレード製品などのエシカル消費・サービスを提供する企業が登
場しており、徐々に注目を集めつつある。
エシカル消費の国内動向については、トヨタ自動車㈱系のマーケティング企業である㈱
デルフィス15が 2009 年 1 月から 2010 年 1 月にかけて実施した「エシカル実態調査報告」
が参考となる。
同調査では、対象の 1,100 サンプルのうち、エシカルの名称を認知していた消費者は 1
割を超える程度であったが、エシカルへの意識や興味度・貢献度はいずれも高い結果にな
った。また、エシカルな商品やサービスの購入を検討している消費者は 30 代から 60 代の
女性でいずれも 60%を超えたと報告している。
経済広報センターが一般の消費者を対象に行った調査では、商品やサービスを購入する
際に「不祥事を起こしていない企業の商品・サービスを優先して購入を決める」が 37%、
「社会的責任を果たしている企業の商品・サービスを優先して購入を決める」が 24%に達
しており、少なからぬ消費者が購入時の判断材料として企業の倫理や社会的責任を重視し
ていることがわかる(図表 5)
。
14 ETHICAL(エシカル)ウェブサイト(http://www.ethicalcosme.jp/)を参照。
15 デルフィス社ウェブサイト(http://www.delphys.co.jp/)を参照。
5/9
図表 5:消費者が商品やサービスを購入する際に重視する内容
商品・サービスの質を優先して購入を決める
不祥事を起こしていない企業の商品・サービスを優先して購入を決める
自分や家族の好みを優先して購入を決める
環境に配慮している企業の商品・サービスを優先して購入を決める
商品・サービスの価格を優先して購入を決める
評判が良い企業の商品・サービスを優先して購入を決める
社会的責任を果たしている企業の商品・サービスを優先して購入を決める
ブランド力が高い企業の商品・サービスを優先して購入を決める
︵
10
20
30
40
50
60
70
80
90 %
︶
0
出典: 経済広報センター 「第 11 回生活者の“企業観”に関する調査報告書」
(2008 年)
有効回答総数:2,055 人(本調査項目は複数回答可)
このような点から、エシカル消費は今後も注目を集めることが予想され、日本国内でも
この分野で事業を行う新興企業が徐々に増加するものと考えられる。
3.日本の社会的企業「HASUNA」のビジネスモデル
前章でソーシャルビジネスの市場を考える上で「エシカル消費者」というキーワードが
あることを紹介した。本章では、日本の社会的企業として同分野で注目を集めている㈱
HASUNA の事業活動とビジネスモデルを紹介する。
3−1.HASUNA 設立のきっかけ
HASUNA は、2009 年 4 月に現在の代表取締役である白木夏子氏が設立した。学生時代
などに訪問したフィリピンやインドなどの開発途上国において、児童が置かれている厳し
い現状を目にしたことが起業の契機となった。
同社は、自社の事業活動を表すキーワードとして「世界と人を笑顔でつなぐ『エシカル
ジュエリー』
」と述べている。エシカルジュエリーとは、ジュエリーの原材料調達から生産、
販売面での人権や労働など倫理面に配慮する事業であり、欧米の一部ジュエリーメーカー
などが既に先行して行っている分野である。
白木氏が解決すべき課題として認識したのが、鉱山における児童労働問題であった。鉱
山労働は過酷であると同時に児童労働が多いという課題が指摘されているほか16、紛争ダイ
ヤモンドを巡って少年兵が起用されることや、採掘に伴う環境汚染という問題も生じてい
る。そのため、HASUNA はジュエリーを扱う過程での様々な問題の発生を防ぐための取組
みだけでなく、事業を通じて進出先地域社会に貢献することを目指している。
16 国際労働機関(ILO)が公表した統計では、
「無条件に最悪の労働をしている子ども」が世界で 840 万人存在し、
うち 570 万人が強制労働・債務奴隷に従事しているという。
(http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ipec/facts/numbers/index.htm)
6/9
3−2.HASUNA の事業内容
同社の製品群は、①フェアトレードによるアクセサリーコレクション、②ウェディング
ジュエリーの二種類に分類される。販売価格帯は①が 1 万∼4 万円の間で売れ筋の商品は 2
万円台であり、後者は 30 万∼ 100 万円で販売している。プラチナ・金やジュエリーなど
を、リサイクルやフェアトレード等の様々な方法を通じて生産された「エシカル」製品と
して販売している。
ジュエリーの素材は独自開発したルートで海外現地の職人から調達している。調達先の
選定に際しては、海外青年協力隊の経験者や現地在住の日本人の協力を得て作業を進めて
いる。現時点では ルワンダ、ミクロネシア、ベリーズ、コロンビアの 4 か国から製品・原
材料を調達している。調達先の概要は次ページの図表 6 の通りである。
図表 6 に記された進出先から仕入れた製品は関東地方のセレクトショップなどで販売さ
れており、東京都内の「VERITAS 新丸の内ビル店」に常設店舗として 09 年 9 月から納入
を開始している。
図表 6:HASUNA 社の海外における製品調達先
出所:㈱大和証券グループ本社・ミュージックセキュリティーズ㈱共催「ソーシャルビジネスカレッジ」
(2010 年 10 月 26 日)での白木氏の講演内容に基づき大和総研作成
3−3.事業展開上の課題と今後の計画
同社がこれまで事業を展開してきた中で直面した課題として、資金調達が挙げられる。
資金調達は多くの社会的企業家が抱える問題でもある。経済産業省が 08 年に公表したアン
ケート調査17では、事業展開上の課題として 473 社のうち 41%が「運転資金が十分に確保
できない」ことを問題点として挙げている。融資条件の厳しさや物的担保の提供など様々
な課題があり、この点は多くの社会的企業家がビジネスを継続・拡大する上での障害とな
っていると考えられる。
HASUNA 社は、設立当初は自己資金のみで経営を行っていたが、早期に資金繰りに行き
詰る事態に陥った。そのため、事業計画書を作成し、親族や友人、知人に出資を求める形
式での資金調達に切り替えた。
二点目の課題として、原価率が高いという点が挙げられる。同社には「エシカルなもの
17
注釈 1 に同じ。
7/9
を求めている人たちに『高く売りつける』のはよく思っていない」(白木氏)という理念が
あり、コストベースではなく現地の相場に合わせた価格設定をしているため利益率は低い。
そのため同社では利益率改善のため、①取引先に事業方針を説明して理解を得ることでセ
レクトショップへの委託手数料等の割引を受ける、②直販の製品を増やす、③フルオーダ
ーの製品は直販形式でのみ販売にするという対策を行っている。
同社が今後注力する分野としては、ブライダルジュエリーなどブライダル製品群が挙げ
られる。指輪などのブライダル製品は安定的な需要が見込まれるためであり、その需要者
の中でもフェアトレード等の付加価値を認めてくれる顧客層をターゲットにしていく考え
である。また、今後の事業計画としては 2011 年春をめどに直営店を設立する目標で、直営
店での販売により収益の安定化を目指す狙いである。
同社は収益の安定化と同時に社会的企業としての取組みとして、進出先の現状をウェブ
サイトなどを通じて発信し、社会的課題を消費者と共有する取組みを検討している。更に、
ジュエリーを巡る途上国の社会的課題に具体的にアプローチするため、分析ツールである
「HASUNA エシカルフレーム ワーク」を設計、調査研究活動も実施している。同調査は
今後も継続し、将来的にはエシカルビジネス経営の方法、参入等のためのコンサルティン
グサービスの実施も検討中である。
4.“エシカル消費”市場の可能性と今後の展望
第 2 章と第 3 章ではソーシャルビジネスを“エシカル消費”というキーワードに基づき
紹介した。この分野は成長が期待される一方で、発展途上であるため未知数の部分も多い。
一方で、グローバル規模でのビジネスを考えるとエシカルは今後も重要なキーワードに
なると考えている。エシカルは本稿で紹介した消費分野に加えて、投資分野でも徐々に影
響を強めている。近年、企業の社会的責任(CSR)の観点から投資を行う社会的責任投資
(SRI)の市場が欧米では拡大しており、2010 年に欧州と米国の SRI 関連団体が公表した
データでは、欧州の SRI の市場規模は前回(07 年)調査比で 87%増の約 5 兆ユーロ(566
兆円)
、米国は同 13%増の 3 兆ドル(240 兆円)に拡大した18。
両地域ともに投資の判断基準に ESG19の要素を組み込んだ投資家が増加したことが SRI
拡大の要因である。特に、人道的見地から兵器産業や紛争地域でビジネスを行う企業を投
資対象から外す動きが急増しており、事業会社に労働環境改善や人権擁護、コミュニティ
との共生などの企業倫理に配慮した活動を、金融を通じて求める流れが広がっていると考
えられる。実際に、図表 4 で紹介したエシカル消費でもエシカルをテーマとする金融サー
ビスが大きな比率を占めている。
この背景には、世界的な CSR への関心の高まりや、長期的な視点に基づくリスク回避の
一環として企業活動を倫理面からも監視する動きが強まっているためとも考えられる。消
費面でも投資面でも倫理を重視する動きが目立ち始めたことは、今後のエシカル消費市場
の拡大を後押しする要因になると予想される。その一方で、消費市場の拡大には、同分野
18 欧州に関する SRI の市場規模は鈴木裕・横塚仁士(2010)
「欧州における社会的責任投資(SRI)の市場規模が拡大」
(2010 年 10 月 19 日付大和総研 Strategy and Economic Report)、横塚仁士・鈴木裕(2010)
「米国における社会的
責任投資(SRI)の動向」
(2010 年 11 月 18 日付)をご参照されたい。
19 環境(Environmental)
、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったものであり、これらの観点か
ら見た事業活動を指す。
8/9
で事業活動を行う企業が多数登場し、多様な商品・サービスを市場に提供することも不可
欠の要素であると考えられる。
(以上)
【参考文献】
・ 経済産業省(2008)「ソーシャルビジネス研究会
報告書」
(2008 年 4 月)
・ 公益社団法人経済同友会(2010)「日本企業の CSR−進化の軌跡−自己評価レポート
2010」(2010 年 4 月)
・ 公益社団法人経済同友会(2010)「市場を活用するソーシャルビジネス(社会性、事業
性、革新性)の育成―日本的市民社会の構築に向けて―」(2010 年 7 月)
・ 国連開発計画編(2010)
「世界とつながるビジネス
BOP 市場を開拓する 5 つの方法」
英治出版
・ 常陽地域研究センター(2009)「社会起業家がもたらす変化の可能性」『JOYO ARC』
(2009 年 10 月号)
・ 鈴木正明(2009)「英国のソーシャルエンタープライズ―日本の社会的企業育成への示
唆を探る―」『日本政策金融公庫論集』第 3 号(2009 年 5 月)
・ 鈴木正明(2009)「社会的企業をどのように支援すべきか―収益性向上の取組みから得
られる含意―」
『日本政策金融公庫論集』第 4 号(2009 年 8 月)
・ デルフィスエシカル・プロジェクト(2010)
「見えてきた次の消費ベクトル「エシカル
実態調査報告」
エシカル・プロジェクトレポート 03」(2010 年 3 月)
・ 『日経 MJ』2010 年 9 月 6 日「石鍋仁美のマーケティングの「非・常識」
エシカル
消費の台頭(上)」
・ 『日経 MJ』2010 年 10 月 4 日「石鍋仁美のマーケティングの「非・常識」 エシカル
消費の台頭(中)」
・ 『日経 MJ』2010 年 11 月 1 日「石鍋仁美のマーケティングの「非・常識」
エシカル
消費の台頭(下)」
・ 馬場基記(2010)「三重県におけるソーシャルビジネス、コミュニティビジネスの動向
∼地域資源を活用した地域課題解決の取組みによる地域活性化∼」『三重トピックス』
Vol.59(2010 年 1 月号)
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