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Ⅵ.雑草の防除
Ⅵ.雑草の防除 1.雑草の生理・生態 (1)雑草とは 雑草とは、簡単にいうと、直接または間接的に作物の生育を阻害して、品質や収量に影響を及 ぼすような植物をいいます。 雑草は、一般的に生育が作物より旺盛です。また、多くの場合窒素を好むので、雑草にとって 耕地は最も生育に適した環境といえます。 (2)雑草害の発生要因 ① 直接的要因 作物に対する雑草害の直接的な要因には、光・養分・水の競合による生育の阻害があります。 ② 間接的な要因 間接的な要因としては、雑草は土壌を硬化させたり、病害虫の発生源になったり、作業能率を 低下させたりします。 光の強奪 養分の競奪 病害虫の発生源 刈取能率の低下 (3)雑草の分類 耕地雑草は、水田雑草が約 200 種、畑雑草が約 300 種で、このうち 70~80 種は水田、畑に共 通して発生します。しかし、実際に問題になる雑草は水田、畑とも 10~20 種程度です。 ① 生活型による分類 1年生雑草: 種子を毎年生産し、翌年その種子から発生します。 多年生雑草:スギナのように、地上部が枯れても根茎や球茎など体の一部が残り、そこから また成長するもので、種子を形成するものもあります。除草剤で地上部を枯らしても根茎な ど栄養繁殖器官まで影響を与えないことが多く、防除は困難です。 越年生雑草:1年生雑草のひとつで、秋に発芽し越冬後に開花・結実するものをいいます。 ② 形態による分類 雑草の形態的な特徴から分類するもので、イネ科、カヤツリグサ科、タデ科、キク科、アブラ ナ科、アカザ科などが最も基本的な分類基準になっています。 雑草の防除面からは、イネ科雑草、カヤツリグサ科雑草と、それら線形葉をもつ雑草を除い た広葉雑草に分けています。 道内の主な雑草 分 1 年 類 生 水 田 多 畑 地 年 性 1 年 生 (越年生含) 多 年 生 雑 草 名 イネ科雑草 タイヌビエなど 広葉雑草 オオアブノメ、ミズアオイ、ミゾハコベ、コナギなど イネ科雑草 エゾノサヤヌカグサ、ホソバドジョウツナギなど カヤツリグサ科雑草 ホタルイ、マツバイ、シズイなど 広葉雑草 ヘラオモダカ、オモダカ、ウリカワ、ヒルムシロなど イネ科雑草 イヌビエ、スズメノテッポウ、スズメノカタビラ、メヒシバなど 広葉雑草 シロザ、ハコベ、スカシタゴボウ、スベリヒユ、オオイヌタデ、 オニノゲシ、オオイヌノフグリ、タニソバ、ツユクサなど イネ科雑草 シバムギ、コヌカグサなど 広葉雑草 ヒメスイバ、エゾノギシギシ、セイヨウタンポポなど 2.雑草の防除 現在水稲の雑草防除は、除草剤の利用だけで行える段階に達しています。また畑でも、中耕や生 態的防除法を組み合わせる必要はあるものの、除草剤利用が中心の防除法となっています。 雑草の防除手段 防除方法 耕 種 的 防 除 内 耕うん、輪作、田畑輪換など 容 マルチングや敷わらの利用 機 械 的 防 除 除草用機械による中耕など 化 学 的 防 除 除草剤の利用 生 物 的 防 除 アイガモの利用など 物 理 的 防 除 焼却、焼土など熱を利用 (1)除草剤の選択性 除草剤には、作物に害がなく雑草だけを枯らす選択性とよぶ作用があります。その中にはイネ 科植物に効果が高く広葉植物には効果がないイネ科選択性、広葉植物に効果が高くイネ科植物 には効果がない広葉選択性の薬剤があります。また同じイネ科でも、イネ自体には害が少なく、 ノビエ、ヒメシバなどのイネ科雑草に強く作用するものもあります。 ①生態的選択性 作物と雑草との位置の違いや生育ステージの差を利用したものです。位置の違いを利用した 例としては、移植水田でのイネとタイヌビエの生長点の位置の違いがあります。イネは、移植さ れるため生長点が除草剤の処理層に触れないのに対して、タイヌビエは土壌中から発芽するた め除草剤の処理層にふれることにより影響を受け枯死します。多くの除草剤はこれらの点を有 効に利用しており、この場合には非選択的な除草剤でも選択的に利用することができます。 また、生長ステージの差を利用する方法も多く用いられています。多くの除草剤は発芽時の植 物に対しもっとも強く作用し、生育が進むにつれて殺草力が低下してきます。 移植栽培においては、作物の移植後に発生してくる雑草は作物との間に生育ステージの差が あるので、作物に害を与えない薬量で防除することができます。 除草剤の選択性の概念図 雑草 作物 B 100% 殺 選択性幅 草 程 実用上の 選択性幅 50% A a ※A-a: 生育を 50%抑制する薬量 度 ※B-b 点の薬量 b 0% b 点以上で作物に薬害 効果・経済性で B 点が優れる 少 薬 量 多 ② 生理的選択性 植物の種類によって、細胞膜の性質、器官構造あるいは生理作用は異なることから、除草剤 の有効成分の浸透・移行も植物の種類によって異なります。このような違いが作物と雑草間に あると、植物体内に入る薬量にも差を生じます。 例えば、広葉対象除草剤である 2,4-D は広葉植物体内での移動速度は速いが、イネ科植 物の体内では移動しにくい性質をもっているため、広葉雑草を選択的に枯らすことが出来ま す。 ③ 生化学的選択性 植物体内に吸収された薬剤は、植物のもついろいろな物質と接触して反応を起こし変化しま す。こうした反応の結果、吸収された除草剤が無毒の化合物に変わったり、逆にさらに殺草力 が強まったりすることがあります。 このような植物間の反応の違いを利用したものを生化学的選択性と言います。 (2)除草剤の作用特性 作物の栽培において、薬害を起こさず除草剤を効果的に利用するためには、以下のような特性 を十分に理解しておくことが大切です。 ①土壌中の移動性 移動性の大小は、薬害および除草効果に大きく影響します。移動性の大きなものは、作物の 種子や根に接触しやすくなるため薬害が生じやすく、効果が低下する傾向にあります。 一般に、火山性土、粘土および腐植の吸着力は強く、これらの含量の多い土壌では除草剤 の移動性は小さくなります。逆に砂土では移動性が大きくなります。除草剤の種類によっても移 動性は大きく異なりますが、移動性の小さい除草剤が扱いやすいです。 除草剤の土壌中での移行性 土性 沖積 移行性 吸着力 砂壌土 大 小 壌 土 大~中 小~中 埴壌土 中~小 中~大 埴 土 小 大 小 大 洪積・火山灰土 移行性:極小(0-1 ㎝) 小(1-2 ㎝) 中(2-4 ㎝) 大(4-6 ㎝) 極大(6 ㎝以上) ②土壌中の残効性 この特性は除草効果の持続期間につながります。 水田の場合、残効性はある程度長いものが望まれます。栽培期間の短い野菜などでは長い と後作に影響することがあります。残効性は気温の影響を受け、冬期は長くなる場合が多いの で注意が必要です。 ④ 温度と作用性 除草剤は一般に温度が高いほど活力が高まります。著しいものは、処理後に高温になると 作物に薬害を示すこともあります。その反対にIPC(クロロIPC)のように 20℃以上の温度で効 果が低下するものもあります。 (3)除草剤の処理方法 除草剤の処理方法には、生育中の雑草の茎葉に散布する雑草処理と、土壌に処理しておいて あとから発生してくる雑草を抑制する土壌処理に大別されます。 また、土壌処理は作物のステージにより、は種前・出芽前および生育期処理などに区別されま す。 除 草 剤 散 布 除 草 剤 散 布 作物 雑草種子 む 除 草 剤 処 理 層 雑草 作物種子 除草剤土壌処理 ① 除草剤茎葉処理 水田用除草剤 大きく分けて、体系処理と一発処理の二つに分類されます。体系処理とは、雑草の発生に合 わせ初期剤と中期剤を組み合わせる場合や、後期剤を必要に応じて組み合わせる方法です。 一発処理剤は、1回の散布により従来の2~3回散布していた手間を省く処理方法です。一発処 理剤の多くは一年生雑草(特にヒエ)に効果の高い成分とホタルイなど多年生雑草に効果の高い成 分との混合した薬剤です。 体系処理 (a)初期剤:ノビエの発生前から発生初期(1.0~1.5 葉期頃)に処理する剤。中期剤との体系処理 を行う。 例)ソルネット1キロ粒剤、ショキニーフロアブル など (b)中期剤:薬剤によって異なるが、1.5~2.5 葉期までのノビエに有効なものが多い。初期剤との 体系処理を行う。 例)マメットSM など (c)後期剤:ノビエの生育が進んだ場合(5 葉期程度)に処理する剤。雑草が多くやむを得ない場合 使用する。 例)バサグラン粒剤、クリンチャーバス ME など 一発処理 (a) 初期一発処理剤:1.5 葉期までのノビエに処理 して有効な剤が多い。 例)ハチクフロアブル、ウリホス1キロ粒剤など (b) 初中期一発処理剤: 2.0 葉期までのノビエに処理し有効なものが多 い。2.5 葉期まで有効なものもある。 例)ウェスフロアブル、スマートフロアブル、 ホームランキング 1 ㌔粒剤 75、など 1 葉期 1.5 葉 2.5 葉 3.5 葉 期 期 期 タイヌビエの葉令 水稲除草剤の使用時期(例) ※ 使用時期は、薬剤ごと登録で定められておりますので、個々の薬剤についてはラベル等で 確認願います。 水稲用除草剤の使用にあたっての注意 水稲の栽培条件、雑草の種類及び発生状況に適応した薬剤を選択し作用型に留意し使用する。 軟弱な苗を移植すると、薬害が発生しやすくなるので健苗の移植に努める。 散布時には完全止め水とし、落水口や漏水個所の点検・整備を行い、水田水を流出させないようにす る。散布後7日間は、田面を露出させないようそのまま湛水を保ち、落水やかけ流しをしない。また止め 水期間中の入水は静かに行う。 移植前処理は、移植時の落水や田植機等よる処理層の破壊などによって除草効果が変動しやすいこ と、除草剤成分の河川への流出による環境への影響を考慮し使用しない。 薬剤ごとに定められた使用法(使用時期、使用量)を厳守する。特に使用時期、使用方法、かんがい水の 管理に留意する。使用時期については、作物残留を回避するため農薬登録の使用晩限に留意する。ま た、かんがい水の管理に留意する。 散布に当たっては、隣接畑地に飛散させないよう細心の注意をする。 一発剤処理の使用にあたっては、次の注意事項を厳守し、効果の向上と薬害防止、河川環境の保護に 努める。 ・散布時における雑草の生育状況を的確に把握し、適期内に使用する。 ・散布は、水深 3-5 ㎝で必ず止め水にして行う。 ・散布後は田面が露出したり、土壌表面の薬剤処理層を攪拌すると除草効果が低下するので、効果が持 続している間は落水や中干し、中耕等は行わない。 ・薬剤の散布基準量を守るとともに、散布ムラのないよう均一散布に努める。 ・砂質土壌や漏水の多い水田、軟弱な苗を移植した水田、極端な浅植えで根が露出する水田では薬害の 発生する恐れがあるので使用を避ける。 ・代かきから移植までの日数は、およそ5日以内として処理時期を設定してあるので、代かきから移植ま での日数が長い時は、雑草の発生時期・葉令に注意して散布する。 ・フロアブル剤などの場合、藻類や表層はく離の発生が多い状態では薬剤の拡散性が阻害されるので注 意する。 (北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド(平成 20 年度)より一部改編) SU系除草剤抵抗性水田雑草について 近年イヌホタルイ、ミズアオイ、アメリカアゼナの中でスルホニルウレア系(SU系)除草剤が効かな いものが見つかっています。 抵抗性雑草の場合には、農協・普及センターと相談し適切な除草剤を選定する必要があります。 ②野菜・畑作用除草剤 大きく分けて、土壌処理剤、選択性雑草処理剤、非選択性雑草処理剤の3つに分類できます。 分 類 対象雑草 徴 雑草発生前に処理。イネ科雑草に高い効果。 イネ科 土 壌 処 理 剤 特 例)トレファノサイド、ゴーゴーサン、ラッソー乳剤など 雑草発生前に処理。広葉雑草に高い効果。 広 葉 例)ロロックス、ゲザガード、ゲザプリムフロアブルなど イネ科・広葉 イネ科、広葉雑草とも高い効果。 例)ゲザノンフロアブルなど イネ科雑草(3~5葉期)の生育期に処理し、イネ科雑草の イネ科 み選択的に枯殺。 例)セレクト乳剤、ナブ、ワンサイド P 乳剤、ポルトフロアブルなど 選択性茎葉処理剤 広葉雑草の生育期に処理し、広葉雑草に高い効果。 広 葉 非選択性茎葉処理剤 例)バサグラン液剤、ベタナール乳剤など イネ科・広葉 雑草の生育期に処理し、すべての雑草に高い効果。 例)クサトリキング、プリグロックスL、バスタ液剤など 普通畑では中~後期に使える除草剤がなく、長期間にわたって栽培する作物では除草剤だけ で全期間の防除が難しいため、中耕や手取り除草と組み合わせます。 播 種 後 日 数 耕起 非選択性 茎葉処理 播種・定植 播種後 土壌処理 10 日 20 日 30 日 40 日 1 生育初期茎葉処理 1 中 2 非選択性茎葉処理 2 土 寄 せ 3 中 3 手 取 り 耕 注①:大豆など選択性の全面茎葉除草剤がある場合。 ②:マルチ栽培や畦間が広い場合に散布カバーを付けて使用できる。 ③:①、②のように茎葉処理が使えない場合。 普通畑作物畑における除草体系 (日本植物防疫協会 農薬概説(2007)より) 耕 畑地用除草剤の使用にあたっての注意 ① 全面土壌散布 全面土壌散布とは、雑草の発生前並びに発生直後に薬剤を土壌表面に処理し、土壌表面に処理層を 形成して、出芽に必要な水と同時に薬剤が種子に吸収されるか、出芽中並びに出芽直後の幼芽・幼根 に接触、又は、吸収され植物の生理機能を乱し、殺草効果をあげる方法である。 全面土壌散布の除草剤には、効果の持続期間が比較的長いものが多く、使用時期は作物のは種直後 から出芽(萌芽)前で、雑草の発生前か発生初期に処理する。 効果の持続中に中耕除草などにより処理層を破壊すると効果が著しく低下する。 覆土が浅かったり、覆土むらなどがあると薬害の危険があるので、砕土、整地をていねいに行い、均一 に覆土する。なお、鎮圧を実施することにより効果を一層高めることができる。 土壌が乾燥している場合は効果が劣るので、散布水量を増すとか、土壌水分が適度にある時に散布 する。 乳剤、水和剤などの散布にはスプレーを使用し、噴霧口は除草剤専用ノズルを使用する。細粒剤の散 布に当たっては専用の機具を使用する。 散布水量は、10 アール当たり 100 リットルを標準とし、特に散布水量の異なるときは、注意事項に記載 している。 ② 雑草茎葉散布 雑草茎葉散布には、生育中の雑草に直接薬剤を散布し、接触した部分の組織を破壊して殺草する方 法と、茎葉や根から薬剤を吸収させ光合成阻害や細胞分裂阻害など植物体の生理的障害を誘発し、 殺草効果をあげる方法とがある。 処理後、降雤があると効果の低下や薬害を起こすことがあるので、散布後1日程度降雤のない好天の 日を選び散布する。 作物の生育にむらがあると処理時期の決定が困難であり、薬害を生ずる危険があるので生育をそろえ るよう配慮する。 散布水量は、10 アール当たり噴霧機で 80 から 100 リットルを標準とし、雑草に薬剤が均一に付着する よう散布する。 なお、除草剤によっては、展着剤を加用するものがあるので、必ず所定の展着剤を加用する。 付近の立毛中の作物に飛散しないように散布する。 ③ 共通事項 砂土系で有機物の少ない土壌では、薬剤の移動性が大きく薬害の危険があるので、土壌条件に応じ て使用量を少なめとするなどの注意が必要である。 土壌が乾燥し過ぎたり、長雤により土壌が過湿のときは、効果が不安定となるので使用をさけ適当な 土壌水分のときに散布する。 使用後のタンク・ブーム・ノズルなどに薬液が残らないよう散布器具は十分に洗浄するとともに、薬液及 び洗浄水を河川等に流さず、環境に影響を与えないよう処理する。 ④使用時期 麦類、豆類、直播てんさい及びとうもろこしの出芽前~出芽始の使用時期については、次の区分を基準参 考とする。 区 分 使 用 時 期 は種直後 は種当日~1日後 は 種 後 は種後2日~5日後 出 芽 前 は種後6日~出芽2日前 出芽直前 出芽の前日 出 芽 始 1個体でも出芽を認めたとき 出 芽 期 播種粒数の40-50%の出芽を認めた日 出 芽 揃 播種粒数の80%の出芽を認めた日 (北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド(平成 20 年度)より一部改編) 引用文献 農薬概説(2007) 社団法人 日本植物防疫協会 北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド(平成 20 年度)