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大豆不耕起狭条密植栽培における雑草防除について
大豆不耕起狭条密植栽培における雑草防除について 兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 作物・経営機械部 牛尾昭浩 1.はじめに 米政策改革の施行により、大豆生産技術のさらなる向上が要望されている。そのなかで、省力・低コストかつ 大区画転換畑における大型機械体系に対応した栽培方法として、播種前の耕起を省略して、稲作と同程度の 狭い条間で播種し、その後も中耕、培土を省略するという「不耕起狭条密植栽培」技術の開発が、普及に向け て進んでいる。大豆の不耕起無中耕無培土栽培は、従来から雑草防除が課題とされている。条間が 70cm の 慣行栽培法では、中耕培土による除草作業が行われるが、条間 30cm の狭条栽培では、中耕培土作業を省略 するので、新たな雑草防除体系が必要となる。そこで、加西市にある農林水産技術総合センター内のほ場なら びに現地ほ場において、耕起の有無による雑草の発生程度や不耕起播種法に用いる除草剤の有効な施用 方法について検討し、不耕起狭条密植栽培に適応した雑草防除体系の確立をめざした。 2.播種前耕起の有無が雑草の発生量に 500 及ぼす影響 雑草をグリホサート剤等の非選択性茎葉処 理型除草剤で防除するが、処理後に発生 する雑草のようすを、耕耘によって除草する ところと比較した。その結果、既に繁茂して いる雑草を茎葉処理型除草剤で防除した不 耕起区では、除草剤処理後に土壌を撹拌し ないので、土中に埋蔵されている雑草種子 の位置が変わらないために、新たな雑草の 発生がかなり遅れた。ところが、耕起区では、 土壌が攪拌されることによって埋蔵されてい た雑草種子が土壌表面に露出し、発芽する 発生量 (生鮮重 g/m2) 不耕起栽培では、播種前に繁茂している イネ科 400 非イネ科 300 200 100 0 0 不耕起 耕起 処理1週間後 不耕起 耕起 処理4週間後 図1 耕起の有無が雑草の発生量に及ぼす影響 不耕起区は既存雑草を防除するために、グリホサート系剤を処理した。 ものが多くみられた。その後、不耕起区でも 雑草が発生するものの、耕起区では、すで に繁茂した雑草が、不耕起区に比べて著し く多くなった(図 1、2)。 3.土壌処理型除草剤による雑草防除効 果について 狭条栽培では中耕による除草作業を省く ので、播種後の土壌処理型除草剤による抑 草効果を高く保つ必要がある。そこで、播種 前に繁茂している雑草を茎葉処理型除草剤 で防除した後に、土壌処理型除草剤で高い 雑草防除効果を得るための方法として、投 下薬量は同じで散布水量を多くすることによ ってできるだけ均一に薬剤を散布する手段 図 2 耕起に有無による雑草の埋蔵種子のようす の有効性を検討した。その結果、ベ ンチオカーブ・ペンディメタリン・リニ ュロン乳剤とジメテナミド・リニュロン 乳剤とも、散布水量の違いにかかわ 表1 播種直後薬剤処理36日後のm2当たり残草量および対無処理区比率 施用薬剤 らず、いずれの区でも残草がみられ L/a 5 10 15 5 10 15 10 なかった(表1)。これは、供試した薬 剤の防除効果が優れていることに加 A+C えて、土壌表面を短期間で大豆の 茎葉が被覆することによって日光が 散布水量 B+C 遮られ、新たな雑草の発生を抑制 する効果が発揮されたものと考えら Cのみ れた。したがって、発芽揃いを良好 無 にするために水分調整した種子を 雑草生草重および対無処理区比率(m2当たり) イネ科 非イネ科 合計 重量 比 重量 比 重量 比 g % g % g % 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 37 7 830 100 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.1 t 161 100 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 37 4 991 100 注) イネ科:メヒシバ、エノコログサ、イヌビエ、アゼガヤ 等 非イネ科:イヌタデ、アメリカセンダングサ、シロザ 等 表中のtは対無処理区の重量比1%以下のもの 薬剤名) A:ベンチオカーブ・ペンディメタリン・リニュロン乳剤;70ml/a B:ジメテナミド・リニュロン乳剤;50ml/a C:グリホサートイソプロピルアミン液剤;40ml/a 密播して、大豆の初期生育を旺盛 にすることで速やかに土壌を被覆す れば、雑草抑制効果がいっそう高ま ることがうかがえた(図2)。 (相互遮蔽により、左写真では地面が見えない。) 30×15cm:主茎長 33cm、葉柄長 17cm 30×30cm:主茎長 27cm、葉柄長 14cm 図 2 大豆茎葉の土壌被覆による雑草抑制効果(播種 1 ヶ月後) 以上より、播種時の既存雑草は、グリホサ ート系などの非選択性茎葉処理剤を大豆 表2 播種後に処理できるおもな除草剤 処理時期 農薬の種類 と処理法 が発芽するまでに土壌処理型除草剤と同 播種直後出芽前 時散布することで対応できる。さらに、大豆 茎葉処理 グリホサートイソプロピルアミン塩液剤 グリホサートアンモニウム塩液剤 土壌処理 ベンチオカーブ・ペンディメタリン・リニュロン乳剤 ジメテナミド・リニュロン乳剤 プロメトリン・メトラクロール乳剤 トリフルラリン乳・粒剤 アラクロール乳剤 リニュロン水和剤 茎葉が速やかに土壌を被覆することによっ て雑草抑制効果を高めることができれば、 除草剤散布作業を播種直後の1回のみで 十分な防除効果が発揮されることが明らか になった。 4.大豆生育期に使用できる除草剤につ いて ただし、天候不順等によって初期の雑草 防除効果が劣ったときには、大豆の生育期 備考 全般 全般 全般 全般 全般 イネ科 イネ科 非イネ科 生育期(およそ雑草5葉期程度まで) 茎葉処理 セトキシジム乳剤 フルアジホップ乳剤 テプラロキシジム乳剤 クレトジム乳剤 キザロホップエチル水和剤 ベンタゾン液剤 注) 備考は防除効果の高い草種を記述 イネ科のみ イネ科のみ イネ科のみ イネ科のみ イネ科のみ 非イネ科のみ に使用できる選択性茎葉処理型除草剤を散布すること 表3 雑草のベンタゾンに対する感受性 (処理3週間後の残草指数) である。大豆の生育期に処理できる除草剤(畦間処理 処理時の葉齢 草種 科 3葉 6葉 を除く)として、イネ科雑草のみに効果のある薬剤に加 カヤツリグサ カヤツリグサ 4 4 えて、平成 17 年 4 月に広葉雑草対象の除草剤(ベンタ イヌタデ タデ 4 4 ゾン液剤)が登録認可された。この除草剤は、使用条 スベリヒユ スベリヒユ 4 4 タカサブロウ キク 4 4 件によっては大豆に対して、黄化、縮葉などの薬害が アメリカセンダングサ 〃 4 3 生じる恐れがある。また、転換畑に多くみられるカヤツリ ホソアオゲイトウ ヒユ 3 1 イヌビユ 〃 2 1 グサ、イヌタデ、アメリカセンダングサ等には防除効果 シロザ アカザ 2 1 が高いものの、一部の草種には防除効果がかなり劣る クサネム マメ 2 1 トウダイグサ 0 0 (表3)。したがって、ベンタゾン液剤の使用にあたって、 エノキグサ 残草指数: 4;枯死 県等の農業関係指導機関の指導を必ず受けて、この 3;著しい生育抑制 剤の効果や薬害の周知徹底を図り、使用方法を決して 2;かなりの生育抑制 1;わずかに生育抑制 誤らないようにする必要がある。ベンタゾン液剤使用基 0;効果なし 準に加えて、兵庫県としての生産者への指導事項は以 になる。表 2 は、播種直後から処理できる主な除草剤 下の通りである。 ○ この剤は播種直後の土壌処理剤との体系処理で使用すること。 ○ 薬害や効果の面から、夕刻に散布するのが望ましい。 ○ 黒大豆については、栽培方法等の面から、中耕培土による雑草防除体系が望ましい。 ○ 現在、兵庫県で作付けされている主要な品種は、概ねこの剤の適用範囲であるが、使用条件によって は減収する恐れがあり、一部の雑草については除草効果が劣るので、この剤に大きく依存するような栽 培管理にならないようにすることが望ましい。 ○ エダマメ(黒大豆を含む)栽培には使用できないので、特に留意すること。 大豆不耕起狭条播種法における除草体系 播種前に雑草の草高が 播種後出芽前に 大豆茎葉が地面を覆うまでに 30cm を超えて繁茂しそうなとき 同時施用 先に雑草が繁茂しそうなとき 茎葉処理型除草剤 土壌処理型除草剤 選択性 生育期処理剤 非選択性茎葉処理型除草剤 播種 5.今後の展望 大豆栽培において、大区画転換畑を活用したコンバイン収穫体系には、狭条密植栽培法が最適である。一 部に薬害等の懸念材料が残るものの、その栽培方法の最重要課題である雑草防除体系がほぼ確立できつつ ある。この栽培法を導入するには、播種機やコンバインに加えて、液剤を均一に散布できる乗用管理機等の機 械装備が必要になるが、大規模に作付けすればするほど、機械装備に見合うだけのメリットを十分に享受でき ると考えられる、今後は、県奨励品種である「サチユタカ」と併せて検討を重ねて、省力・低コスト栽培の主流と なるべく、この技術の普及拡大を図る予定である。 -用語- ○選択性除草剤:作物と雑草との間で成分の吸収量や体内移行程度の違いによって殺草力に差が生じる場合、成 分が植物体内に入ってからの変化が作物と雑草とで異なる場合、作物と雑草の生育程度の差や種子位置の違 いによる場合などを利用して、作物と雑草の間で生育抑制(枯殺)効果に差をつけている除草剤。作物と雑草 に対する選択性のない除草剤は、非選択性除草剤と呼ばれている。 ○土壌処理型除草剤:薬剤が土壌表面に均一に散布されることによって、膜状に薬効成分の処理層が形成され、 表層から発芽する雑草に対して除草効果を発揮する除草剤。 ○茎葉処理型除草剤:薬剤成分が雑草の茎葉部に直接散布されることで除草効果を発揮する除草剤。