...

説明資料 資料4 PDF 6059KB

by user

on
Category: Documents
46

views

Report

Comments

Transcript

説明資料 資料4 PDF 6059KB
平成25年度ボイラー・タービン主任技術者会議(於:福岡合同庁舎)
『失敗から学ぶ知識と教訓』
~火力発電プラントの事故は
どうして起こったか?~
平成26年2月20日(木)
一般財団法人電力中央研究所
特別顧問 新田 明人
1
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
設計基準と高温損傷(クリープ)
2
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
設計基準の成り立ち
原子力は解析によ
る設計で過度な損
傷・変形等を防止
【火力基準】
・20 世紀初頭,米国でボイラの破損事故が頻発
・米国内統一設計方法を策定(保険会社が主導)
・多くの事業者が採用可能な標準化
・審査,検査可能な基準(客観性)
日本:発電用火力設備に
関する技術基準
1914 年,米国機械学会(ASME)に Boiler & Pressure Vessel 委員会を設置
⇒ “ASME Boiler & Pressure Vessel Code : Section Ⅰ, Power Boilers”
(ボイラの設計・製作に関する統一的規則)を制定
『公式による設計』の概念成立
<技術的にやさしい>
・基本板厚を一意的に定める
・許容応力を一意的に定める
★許容応力・Sy 値(降伏応力)の 5/8
・Su 値(引張強さ)の 1/4→1/3.5
・Sr 値(105h クリープ破断強度)の
平均値の 2/3 あるいは最小値の 4/5
余裕は許容応力のみに陽に考慮
例:火力の技術基準によるボイラ管の
厚さの計算
Pd
t =
+ 0.005d + α
200S + P
ここで,t:計算上必要な厚さ(mm)
d:管の外径(mm)
P:最高使用圧力(kg/mm2)
S:許容引張応力(kg/mm2)
α :腐れ代(0 あるいは1mm)
高温の許容応力
3
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
発電用火力技術基準における
許容引張応力の求め方
200
許容引張応力 σA(MPa)
引張強度基準
引張強度基準
クリープ破断
クリープ破断
強度基準
強度基準
1%/105h
耐力
クリープ強度
引張強さ
100
高温域では
クリープ破断
強度ベース
SUS321ステンレス鋼
SUS321ステンレス鋼
105hクリープ破断強度
0
0
200
400
600
温度 T(℃)
800
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
4
クリープ現象
は1834年に
初めて報告
クリープ(Creep)
『金属は高温使用で伸びて壊れる』
絶対温度(K)で表した融点の約1/2以上の温度
<鉄:905K(632℃)、鉛:300K(27℃)>
一次
(遷移)
クリープ
二次
(定常)
クリープ
ひずみ
クリープ曲線
A
(破断)
時間とともに徐々にひずみが増大
= クリープ(変形)
0
室温でも
クリープ
三次
(加速)
クリープ
・クリープ変形は破壊を伴う。
・弾性範囲内の比較的小さな
応力でも生じる。
・高温での重要な損傷モード
の一つ
Creep ≠ Creap
時間
5
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
クリープ損傷
・(実機の)クリープ損傷は主に結晶粒界で起こる。
・粒界すべりによる粒界三重点でのくさび型き裂と空孔の拡散に
よるキャビティに大別される。
・最終破断は結晶粒界上でき裂あるいはキャビティが発生、成長、
合体することによって生じる。
引張応力σ
クリー プキャビティ
粒界すべり
粒界すべり
くさび型き裂
粒界析出物(介在物)
キャビティ
結 晶粒 界
粒界三重点
30μm
キャビティ 空孔
粒界拡散
クリープによる粒界破壊モード
σ
結晶粒界に生じたクリープキャビティ
(CrMoV鋳鋼)
6
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
高温破壊様式と破壊機構領域図
SUS等
STBA24等
(a) キャビティの成長・合体および
縦軸はヤング率Eで規格化
くさび型き裂による粒界破壊
(b) 粒界および粒内キャビティの
破壊機構を考える上の留意点
粒内変形による成長
・低強度・高延性材と高強度・低延性材の違い
(c) ラプチャー
・高応力・短寿命側と低応力・長寿命側の違い
破壊機構で寿命は変わる!
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
7
クリープ温度域での許容応力設定上の留意点
① 外挿の範囲
これまで、1桁以上の外挿は好ましくないとされている。
従って、10万時間への外挿には1万時間以上のデータ
時間と金を掛けずに
が必要。
取得し易いデータ
② 外挿の落とし穴
特に高強度材(例えば、最近の高クロム鋼)の短時間データ
から外挿すると、許容応力を高めに設定することがあり、
使用中に許容応力を下方修正せざるを得なくなる。
対策として、外挿に使用するデータの応力範囲は当該温度
における耐力σ0.2の半分以下に限定する。
実力より高めの外挿値
応力
0.5σ0.2
実力値
外挿に使用できる
応力範囲
10万時間
破断寿命
8
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
事故に学び事故を防ぐ!
9
わが国のボイラ事故発生率の推移
事故発生率の減少
設計・対策技術の進歩
トラブル経験の減少
技術力・技術者
(人)の空洞化
トラブル事例・
対策DBの構築
10
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗知識データベース整備事業
文部科学省プロジェクトとして(独)科学技術振興機構で実施(2001~2006年度)
(統括:畑村洋太郎先生)
搭載データ数(2011年3月)
分野
事例
百選
機械
448
37
材料
209
35
化学
333
14
建設
146
20
その他
39
0
1175
106
合計
典型的な事例につ
いて、読み物風に
詳細に記述
事例の
カテゴリー
畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
内の失敗知識データベースに移行
(http://www.sozogaku.com/fkd/index.html)
11
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗知識データベースの搭載事例
カテゴリー:電力・ガス
カテゴリー:原子力
失敗百選
Copyright (C) 2011 CRIEPI. All rights reserved.
12
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗事例の閲覧ランキング(2011年2月分)
① エキスポランド ジェットコースター事故(2007)
② 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落(1985)
③ 福知山線脱線事故(2005)
④ JCOウラン加工工場での臨界事故(1999)
⑤ 三菱自動車のリコール隠し(2002)
⑥ 名古屋空港で中華航空140便エアバスA300‐600Rが着陸に失敗炎上(1994)
⑦ スペースシャトル・コロンビア号の帰還失敗(2003)
⑧ みずほファイナンシャルグループ大規模システム障害(2002)
⑨ 東京ビッグサイトエスカレータ逆走(2008)
⑩ 東名日本坂トンネルの火災(1979)
⑪ 六本木回転ドア事故(2004)
⑫ JR東海道線で救急隊員轢死(2002)
⑬ 富士通HDD(ハード・ディスク・ドライブ)不良問題(2002)
⑭ 深海無人探査機「かいこう」行方不明(2003)
⑮ 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出(2004)
⑯ タイタニック号の沈没(1912)
⑰ 国営諫早湾干拓事業による漁業被害(1997)
⑱ こんにゃくゼリー事故(2008)
⑲ 広島新交通システムの橋桁落下(1991)
⑳ リバティー船の脆性破壊(1943)
13
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗百選の閲覧ランキング(2011年2月分)
① 世界貿易センタービル倒壊(2001)
② 航空母艦大鳳の魚雷一本の命中による沈没(1944)
③ 韓国ソウル聖水大橋の崩落事故(1994)
④ 建設現場の墜落災害ー安全帯の不適切使用に起因する事故(2003)
⑤ 富士通HDD(ハード・ディスク・ドライブ)不良問題(2002)
⑥ 三菱自動車のリコール隠し(2002)
⑦ 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落(1985)
⑧ アポロ13号(1970)
⑨ 大阪千日デパートビル火災(1972)
⑩ タコマ橋の崩壊(1940)
⑪ 国営諫早湾干拓事業による漁業被害(1997)
⑫ みずほファイナンシャルグループ大規模システム障害(2002)
⑬ 第四艦隊事件(1935)
⑭ 信楽高原鉄道での列車正面衝突(1991)
⑮ 北海道南西沖地震による奥尻島の津波(1993)
⑯ タイタニック号の沈没(1912)
⑰ 広島新交通システムの橋桁落下(1991)
⑱ 雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件(2000)
⑲ 立川市杭打ち機転倒事故(1991)
⑳ 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出(2004)
14
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗シナリオの表現
(失敗曼荼羅)
原因まんだら
個人に起因する原因
即ち、ヒューマンエラー
行動まんだら
出典:畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
結果まんだら
15
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
原因まんだらの因子の半数は
ヒューマンエラー
調査・検討の不足
環境調査不足
誤判断
手順の不遵守
状況に対する誤判断
事前検討不足
誤認知
仮想演習不足
誤った理解
手順無視
連絡不足
狭い視野
不注意
無知
疲労・体調不良
伝承無視
注意・用心不足
知識不足
理解不足
16
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
対角線図による失敗出来脈絡
(シナリオ)の表現
(時間の進行)
1
原因
2
(代表図)
3
(ステップの進行)
原因と行動を
仕切る2本線
4
(知識化コメント)
(知識化コメント)
5
6
7
行動の中の2種類の 8
キーフレーズを
9
10
仕切る1本線
行動
11
12
行動と結果を 13
14
仕切る2本線
結果
出典:畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
17
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
失敗知識データベース整備事業
搭載データ数(2011年3月)
分野
事例
百選
機械
448
37
材料
209
35
化学
333
14
建設
146
20
その他
39
0
1175
106
合計
材料分野の破壊事故事例の収集
JSTからの委託事業として
(社)日本高圧力技術協会内に
材料分野情報収集委員会を設置し実施
(委員長:小林英男先生)
小林英男先生
18
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
材料分野の代表的な事例の選出
2007年出版
1.脆性破壊(金属がガラスのように割れる)
3事例
2.疲労破壊(金属疲労は勤続疲労)
6事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
3.クリープ破壊(金属は高温使用で伸びて壊れる)
3事例(うち、2例が火力発電プラント事故)
4.応力腐食割れ(錆びないステンレス鋼が腐食で
割れる)
4事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
5.エロージョン/コロージョン(材料は水の流れで
削られる)
3事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
6.材料劣化(材料も人と同様に老化する)
4事例(うち、1例が火力発電プラント事故)
7.大規模破損(不安定、崩壊、爆発、転覆、倒壊、
墜落はなぜ起きるか)
6事例
19
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
本書における事故事例のまとめ方
・概要
・機器
・事象
通常の事故事例報告
・経過
・原因
・対処
・対策
・背景
本書における
・後日談
事故事例報告の特徴
・よもやま話
・知識化
20
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
クリープ破壊事故
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
21
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータ
のバースト(1974年)
22
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
米国テネシー州ギャラティン
TVAギャラティン発電所2号ユニット
破壊経路
低圧ロータ
中圧ロータ
・1957年5月運転開始
・13.8MPa, 566℃, 3600rpmの
225MWベースロード運転
・1974年6月19日(106,000h後)
長期停止後の冷機起動中
3400rpmで脆性破壊
ギャラティン
1954年に大気溶解
インゴットから鍛造
955℃焼ならし処理
のCr-Mo-V鋼製
23
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
脆性破壊の結果,数十個の破片となり,
一部はボイラ建屋まで飛散
24
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
中心孔近傍に内在していた硫化マンガン偏析域
中心孔付近に存在した大きな
MnS偏析域に気付かずに運転
中心孔
No
中心孔検査
Yes
中心孔(逆V字偏析部の除去等)検査
・1968年:1010℃焼準Cr-Mo-V鍛鋼製
ロータに対しUT/MT探傷実施勧告
硫化マンガン
偏析域
1954年製造,大気中溶解
Cr-Mo-V鍛鋼(955℃焼準)
25
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
硫化マンガンからのクリープ疲労相互作用によるき裂成長
実験結果
バースト破片の観察結果
427℃,23h保 持
Nf = 76cyc les
起点近傍 の粒界き 裂によるMnSの連結
メタル温度:
413~427℃
MnS
427℃,23h保 持
N(=12 )/Nf = 0.16
き 裂発 生確 認
MnS
き裂
き裂
・運転中の焼戻し脆化
・クリープ疲労相互作用
繰り返し負荷による疲労損傷に定負荷による
クリープ損傷が重畳し,寿命が低下する。
26
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
1.誤判断
主シナリオ
2.狭い視野
3.規格不良
ヒューマン
4.計画・設計
エラー
5.計画不良
6.無検査
7.蒸気タービンロータ
8.大気溶解 CrMoV 鍛鋼
9.中心孔
10.MnS 偏析の見落とし
11.使用
12.運転・使用
13.機械の運転・操縦
14.破損
15.破壊・損傷
16.クリープ疲労
17.き裂・割れ
18.ロータバースト(飛散)
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
27
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<対処と対策>
Run判定であれ
ば,欠陥があっ
てもそのまま
①中心孔探傷検査の義務付け ⇒ 日本でも実施 継続使用
・1974年 : 1960年以前製造の全ロータに拡大
米国
⇒ TVAでは製造時欠陥を有する22本のロータを取替
電力研究所
②EPRI : ロータのRun/Retire判定用専用コードSAFER
(Stress And Fracture Evaluation of Rotors)開発
非破壊検査の
手を抜くな!
後日談
中心孔探傷に
よる指示欠陥
クリープ・疲労
き裂進展解析
Run/Retire
判定
③ロータ鋼の長時間加熱時効による焼戻し脆化特性DBの開発
④真空溶解・中実ロータの開発・導入
中実回転円筒の最大円周応力は
中空回転円筒の1/2
28
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<よもやま話>
過去の代表的な蒸気タービンロータのバースト事故
事故発生年
国名
ユニット名
種別
原因
1950
オランダ
Nijmijen
低圧ロータ
脆性破壊(詳細不明)
1951
ドイツ
(シーメンス社)
低圧ロータ
脆性破壊(試運転中)
(詳細不明)
1954
アメリカ
Ridgeland#4
低圧ロータ
脆性破壊(欠陥起点)
1972
日本
(三菱重工業)
低圧ロータ
脆性破壊(試運転中)
(欠陥起点)
1972
日本
海南#3
低圧ロータ
装置取付け不良+共振
1974
アメリカ
Gallatin#2
中圧ロータ
クリープ疲労+脆化
29
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故の概要
1950年代初期の
大気溶解インゴット
Ni-Cr-Mo-V鍛鋼(ASTM
A293 Class6)
1954年12月19日
過速度トリップ試験中
4ヶ月後
1954年8月19日運開
(出力165MW,回転数1,800rpm)
(出典) H.D.Emmert, “Investigation of Large Steam Turbine Spindle Failure,” Trans. Of ASME, pp.1547-1565(1956).
30
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故の原因と対策
製造時の中心孔UTによる指示欠陥(hydrogen flake)を無害欠陥(MnS)と判定
延性脆性遷移温度
高FATT>運転温度
指示欠陥
大気溶解で脱ガス不十分
非破壊検査は重要! MnS
事故後のサルファープリント
事故後の磁粉探傷試験結果
Ni-Mo-V鋼以上の代替材なし
対策
・ 水素含有量を最小化する真空脱ガス溶解法や熱処理法の導入
・ 非破壊検査,特に超音波探傷法の改善
⇒ 無害欠陥と有害欠陥の判別法(経験・知識の拡大)
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
31
米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故
1.誤判断
主シナリオ
2.狭い視野
3.未経験・不慣れ
4.計画・設計
5.計画不良
6.検査不良
ヒューマン
エラー
7.蒸気タービンロータ
8.大気溶解 NiMoV 鍛鋼
9.内在有害欠陥(hydrogen flake)の見落とし
10.使用
11.運転・使用
12.機械の運転・操縦
13.破損
14.大規模破損
15.破裂(脆性破壊)
16.ロータバースト(飛散)
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
32
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<知識化> : 「水平展開」
一般に、知識や経験が不足していたために、後に損害をもた
らすことになる問題を想定できない事例は多い。
問題がないと思えば、特別な対処や対策もなされない。
本事故は、これまで問題がなかったので大丈夫だと思い込み、
内部に大きな製造時の欠陥があることなど夢にも思わず使用
したために起こった。しかたない面もあるが、このように大きな
損害を与えた事故は貴重な経験でもある。この事故後直ちに
他のプラントの検査を行うことにより、事なきを得たプラントも
多くあった。
このようにそれまでの知識や経験の不足を補完し同じ失敗を
繰り返さないためにも、初めての失敗経験の知見を早急かつ
広範に伝え活かすこと、即ち水平展開することは重要である。
いずれにしても、疑わしきは検査をすべきであり、検査の手を
抜くと、後で痛い目に遭うことになる。
33
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管
の噴破(1985年)
34
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
・1971年運転開始
米国ネバダ州ラフリン
・石炭焚き790MWベースロード運転
モハベ発電所2号ユニット ・再熱蒸気条件4.14MPa, 538℃
・1985年6月6日(88,000h経過後)
外径762mm,肉厚33.5mm
水平直管側面シーム溶接部で噴破
1.25Cr-0.5Mo鋼(ASTM P-11)製
シーム溶接管
・死者6名,負傷者10名の大惨事
ラフリン
35
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
モハベ発電所の高温再熱蒸気管シーム溶接部の噴破事故
死者6名、負傷者10名
36
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<原因>
メーカーは管の製造を中止し,
過去の製造・検査記録を残していなかった。
◆(製造・検査記録がないため詳細は明らかではないが、)
1.25Cr-0.5Mo鋼板を曲げてシーム溶接で高温再熱蒸気
管を製造した際に、通常の非破壊検査で容易に検出で
きる程大きな欠陥が溶接部に生じた。
◆シーム溶接部に存在した大きな製造欠陥で応力が集中
し、クリープ損傷の進行を速めることとなり、数年間の
運転中にクリープき裂が大きく成長した。
◆途中で非破壊検査が行われていたならば、容易にき裂
は発見されたであろうが、そのまま運転が続けられたた
め、運転開始から約88,000時間が経過した時点で噴破
し、多数の死傷者を出す大惨事となった。
37
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
シーム溶接部に発生したクリープき裂
溶接金属
母材
クリープき裂
溶け込み境界
わが国では
’95年と’98年
に類似のき裂
発生事例報告
38
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
主シナリオ
1.無知
18.破損
19. 破壊・損傷
2.知識不足
20. クリープ
3.試験データ不足
4.製作
ヒューマン
エラー
5.ハード製作
21. き裂成長
6.機械・機器の製造
22. 配管噴破
23. 身体的被害
7.高温再熱蒸気管
24. 死亡
8.1.25Cr-0.5Mo 鋼
25. 死者 5 名、負傷者 10 名
9.シーム溶接
10.計画・設計
11.計画不良
12.無検査
13.製造欠陥の見落とし
14.使用
15.運転・使用
16.機械の運転・操縦
17.シーム溶接部溶け込み境界
破損
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
39
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
米国における蒸気管のバースト事故(’80年代)
1979年(サビーネ2号)
死者6名、
負傷者10名
<事の重大さに気付かず>
<死傷者の出る大惨事>
背景
シーム溶接部に関する充分な知識、知見の欠如
非破壊検査の不実施
<続いて起こった大事故>
40
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<対処と対策>(1)
事故後の1985年夏以降、50以上のプラントのシーム溶接管
が超音波、磁粉、放射線等による探傷が行われ、欠陥が見
つかった配管はシームレス管に取り替えられた。
事故後まもない1985年9月15日に、米国電力研究所(EPRI)
の非破壊評価(NDE)センターは、電気事業者の支援のため、
「クリープ損傷を受けた火力プラント配管の検査技術の開発、
評価および移転」に関する研究を開始(このプロジェクトには、
クリープき裂成長解析プログラムの開発、断熱材の除去を不
要とする高エネルギー放射線探傷技術の実証のほか、情報
交換会議の主催、シーム溶接配管の検査に関する教育的ワ
ークショップの開催などが含まれていた)
41
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<対処と対策>(2)
1985年11月には、シーム溶接配管の試験・評価に関する
情報交換会議がノースカロライナ州シャーロットで開催され、
電力会社57社からの107名を含む180名が出席した。
1987年2月には、同プロジェクトの成果として、シーム溶接
蒸気管の検査ガイドラインがまとめられ、その後電力各社
におけるシーム溶接管の運用管理指針となった。
何年も大きな事故
の発生なし
42
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
<後日談>事故は繰り返される!! 8件発生
米国における蒸気管のバースト事故(’92年以降)
事故時まで
誰もシーム
溶接管と知
らなかった
タイプⅣき裂
溶接熱影響部細粒域にクリープ損傷によるき裂(タイプⅣき裂)が発生
溶接熱影響部
溶接金属
溶接金属
タイプⅡ
溶接熱影響部
母材
母材
タイプⅠ
タイプⅣ
タイプⅣ
タイプⅢ
細粒域 粗粒域 粗粒域 細粒域
43
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<後日談>
最近の問題と対策(1)
◆高経年化に伴い、運転中のシーム溶接管の安全に関する
問題が顕在化
◆シームレス管も周溶接部のクリープに関連した事故や製造
不良のシームレス過熱器エルボでのクリープ損傷による
事故などの問題を抱えている。
◆シーム溶接部を対象に運転中の損傷を定期的に検査
◆クリープ損傷を出来る限り早期に発見できるように改良した
最新の超音波探傷法もあるが,これらはまだ高価であり、
実機へ適用するにはかなり綿密な計画と長時間のプラント
停止を要することに加え、タイプⅣき裂の場合には、き裂
貫通の直前近くになるまでき裂の検出が難しい(たとえば、
通常の2年間隔の検査ではき裂が検出されず貫通すること
もある)。
44
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<後日談>
最近の問題と対策(2)
◆EPRIは、1986年以降シーム溶接管の実時間オンライン
監視法としてアコースティック・エミッション(AE)法の開発
を進めてきた。
◆1995年にはAEガイドラインが出され、AEデータベースを
開発するとともに他の手法と比較するため、90以上の実
規模試験が1996年から2003年まで実施された。
米国の火力発電所実配管へのAE法の適用
導波棒を介したAEセンサーの
取付け
45
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<よもやま話>
蒸気配管溶接部のクリープ損傷の発生は「古くて新しい問題」!
◆最近、英国で58,000時間運用された改良9Cr鋼製ヘッダ(設
計圧力17.58MPa、設計温度580℃)の溶接部にタイプⅣき裂
が発生
◆わが国でも2004年6月に高クロム鋼(火SUS410J3)製再熱
蒸気管の溶接部が破損し,高クロム系鋼の溶接部における
タイプⅣき裂の発生が懸念されている。
◆最近の火力発電は電力需要の変動に対応するため頻繁な
起動停止や負荷変動運転を余儀なくされており、起動停止
等の過渡運転に伴う熱応力が繰り返されて熱疲労損傷が
生じ、それがクリープ損傷と重畳して寿命低下を招くクリー
プ疲労相互作用が大きな問題となっている。
46
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<よもやま話>
蒸気配管溶接部のクリープ損傷の発生は「古くて新しい問題」!
◆蒸気配管溶接部におけるクリープ損傷の発生は「古くて
新しい問題」であり,その解決には、溶接部でのき裂発生
の防止が難しいことを考えると、非破壊検査によるき裂の
早期発見とコンピュータ解析によるき裂の成長評価ならび
にき裂の進展監視を可能にする技術開発が必要である。
47
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<知識化> : 「知らぬは罪なり」
ハード(機器)の事故は材料に関する学識不足に起因すること
が多い。
たとえば、この一連の事故では配管材料の溶接部に関するデ
ータ、知識等が不十分であったことが最初の原因であったが、
このように使用している材料に関する学識不足によって引き起
こされる事故は多い。
材料特性の把握が不十分であれば、材料を過信し、この材料
は大丈夫だと盲信することになる。これが材料のもつリスクで
ある。
このリスクを断ち切らない限り、失敗は繰り返される。
技術に「知らぬが仏」はあり得ない。
「知らぬは罪」であり、罰が当たることになる。
48
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
まとめ
過去の事故事例を調べてみると、
◆現在では既によく知られた現象や事象がその当時は未知の
状態であったが故に仕方なく起こった事故も多い。
◆一方、知るべきことを知らなかった無知、手抜きや不注意な
ミスなどのために、本来なら回避できた事故も少なくない。
未知に起因する事故に関しては、未知であった現象や事象は
通常事故後直ちに水平展開して知識化され、事故の再発防止が
図られてきた。しかし、時間の経過とともに事故自体が風化し、
事故原因に対する意識が次第に希薄になっていくことも否めない。
また、未知やミスなどによる事故には、過去に大きな犠牲払っ
て知識化した情報が活かされていないという問題を孕んでいる。
したがって、事故の原因は何であれ事故という過去の苦い失敗
経験から得た知識・情報は未来にまで適切に伝承されなければ
ならない。
49
Copyright (C) 2014 CRIEPI. All rights reserved.
Fly UP