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平成25年度ボイラー・タービン主任技術者会議(於:福岡合同庁舎)
『失敗から学ぶ知識と教訓』
~火力発電プラントの事故は
どうして起こったか?~
平成26年2月20日(木)
一般財団法人電力中央研究所
特別顧問 新田 明人
1
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設計基準と高温損傷(クリープ)
2
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設計基準の成り立ち
原子力は解析によ
る設計で過度な損
傷・変形等を防止
【火力基準】
・20 世紀初頭,米国でボイラの破損事故が頻発
・米国内統一設計方法を策定(保険会社が主導)
・多くの事業者が採用可能な標準化
・審査,検査可能な基準(客観性)
日本:発電用火力設備に
関する技術基準
1914 年,米国機械学会(ASME)に Boiler & Pressure Vessel 委員会を設置
⇒ “ASME Boiler & Pressure Vessel Code : Section Ⅰ, Power Boilers”
(ボイラの設計・製作に関する統一的規則)を制定
『公式による設計』の概念成立
<技術的にやさしい>
・基本板厚を一意的に定める
・許容応力を一意的に定める
★許容応力・Sy 値(降伏応力)の 5/8
・Su 値(引張強さ)の 1/4→1/3.5
・Sr 値(105h クリープ破断強度)の
平均値の 2/3 あるいは最小値の 4/5
余裕は許容応力のみに陽に考慮
例:火力の技術基準によるボイラ管の
厚さの計算
Pd
t =
+ 0.005d + α
200S + P
ここで,t:計算上必要な厚さ(mm)
d:管の外径(mm)
P:最高使用圧力(kg/mm2)
S:許容引張応力(kg/mm2)
α :腐れ代(0 あるいは1mm)
高温の許容応力
3
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発電用火力技術基準における
許容引張応力の求め方
200
許容引張応力 σA(MPa)
引張強度基準
引張強度基準
クリープ破断
クリープ破断
強度基準
強度基準
1%/105h
耐力
クリープ強度
引張強さ
100
高温域では
クリープ破断
強度ベース
SUS321ステンレス鋼
SUS321ステンレス鋼
105hクリープ破断強度
0
0
200
400
600
温度 T(℃)
800
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4
クリープ現象
は1834年に
初めて報告
クリープ(Creep)
『金属は高温使用で伸びて壊れる』
絶対温度(K)で表した融点の約1/2以上の温度
<鉄:905K(632℃)、鉛:300K(27℃)>
一次
(遷移)
クリープ
二次
(定常)
クリープ
ひずみ
クリープ曲線
A
(破断)
時間とともに徐々にひずみが増大
= クリープ(変形)
0
室温でも
クリープ
三次
(加速)
クリープ
・クリープ変形は破壊を伴う。
・弾性範囲内の比較的小さな
応力でも生じる。
・高温での重要な損傷モード
の一つ
Creep ≠ Creap
時間
5
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クリープ損傷
・(実機の)クリープ損傷は主に結晶粒界で起こる。
・粒界すべりによる粒界三重点でのくさび型き裂と空孔の拡散に
よるキャビティに大別される。
・最終破断は結晶粒界上でき裂あるいはキャビティが発生、成長、
合体することによって生じる。
引張応力σ
クリー プキャビティ
粒界すべり
粒界すべり
くさび型き裂
粒界析出物(介在物)
キャビティ
結 晶粒 界
粒界三重点
30μm
キャビティ 空孔
粒界拡散
クリープによる粒界破壊モード
σ
結晶粒界に生じたクリープキャビティ
(CrMoV鋳鋼)
6
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高温破壊様式と破壊機構領域図
SUS等
STBA24等
(a) キャビティの成長・合体および
縦軸はヤング率Eで規格化
くさび型き裂による粒界破壊
(b) 粒界および粒内キャビティの
破壊機構を考える上の留意点
粒内変形による成長
・低強度・高延性材と高強度・低延性材の違い
(c) ラプチャー
・高応力・短寿命側と低応力・長寿命側の違い
破壊機構で寿命は変わる!
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7
クリープ温度域での許容応力設定上の留意点
① 外挿の範囲
これまで、1桁以上の外挿は好ましくないとされている。
従って、10万時間への外挿には1万時間以上のデータ
時間と金を掛けずに
が必要。
取得し易いデータ
② 外挿の落とし穴
特に高強度材(例えば、最近の高クロム鋼)の短時間データ
から外挿すると、許容応力を高めに設定することがあり、
使用中に許容応力を下方修正せざるを得なくなる。
対策として、外挿に使用するデータの応力範囲は当該温度
における耐力σ0.2の半分以下に限定する。
実力より高めの外挿値
応力
0.5σ0.2
実力値
外挿に使用できる
応力範囲
10万時間
破断寿命
8
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事故に学び事故を防ぐ!
9
わが国のボイラ事故発生率の推移
事故発生率の減少
設計・対策技術の進歩
トラブル経験の減少
技術力・技術者
(人)の空洞化
トラブル事例・
対策DBの構築
10
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失敗知識データベース整備事業
文部科学省プロジェクトとして(独)科学技術振興機構で実施(2001~2006年度)
(統括:畑村洋太郎先生)
搭載データ数(2011年3月)
分野
事例
百選
機械
448
37
材料
209
35
化学
333
14
建設
146
20
その他
39
0
1175
106
合計
典型的な事例につ
いて、読み物風に
詳細に記述
事例の
カテゴリー
畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
内の失敗知識データベースに移行
(http://www.sozogaku.com/fkd/index.html)
11
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失敗知識データベースの搭載事例
カテゴリー:電力・ガス
カテゴリー:原子力
失敗百選
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12
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失敗事例の閲覧ランキング(2011年2月分)
① エキスポランド ジェットコースター事故(2007)
② 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落(1985)
③ 福知山線脱線事故(2005)
④ JCOウラン加工工場での臨界事故(1999)
⑤ 三菱自動車のリコール隠し(2002)
⑥ 名古屋空港で中華航空140便エアバスA300‐600Rが着陸に失敗炎上(1994)
⑦ スペースシャトル・コロンビア号の帰還失敗(2003)
⑧ みずほファイナンシャルグループ大規模システム障害(2002)
⑨ 東京ビッグサイトエスカレータ逆走(2008)
⑩ 東名日本坂トンネルの火災(1979)
⑪ 六本木回転ドア事故(2004)
⑫ JR東海道線で救急隊員轢死(2002)
⑬ 富士通HDD(ハード・ディスク・ドライブ)不良問題(2002)
⑭ 深海無人探査機「かいこう」行方不明(2003)
⑮ 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出(2004)
⑯ タイタニック号の沈没(1912)
⑰ 国営諫早湾干拓事業による漁業被害(1997)
⑱ こんにゃくゼリー事故(2008)
⑲ 広島新交通システムの橋桁落下(1991)
⑳ リバティー船の脆性破壊(1943)
13
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失敗百選の閲覧ランキング(2011年2月分)
① 世界貿易センタービル倒壊(2001)
② 航空母艦大鳳の魚雷一本の命中による沈没(1944)
③ 韓国ソウル聖水大橋の崩落事故(1994)
④ 建設現場の墜落災害ー安全帯の不適切使用に起因する事故(2003)
⑤ 富士通HDD(ハード・ディスク・ドライブ)不良問題(2002)
⑥ 三菱自動車のリコール隠し(2002)
⑦ 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落(1985)
⑧ アポロ13号(1970)
⑨ 大阪千日デパートビル火災(1972)
⑩ タコマ橋の崩壊(1940)
⑪ 国営諫早湾干拓事業による漁業被害(1997)
⑫ みずほファイナンシャルグループ大規模システム障害(2002)
⑬ 第四艦隊事件(1935)
⑭ 信楽高原鉄道での列車正面衝突(1991)
⑮ 北海道南西沖地震による奥尻島の津波(1993)
⑯ タイタニック号の沈没(1912)
⑰ 広島新交通システムの橋桁落下(1991)
⑱ 雪印乳業の乳製品による集団食中毒事件(2000)
⑲ 立川市杭打ち機転倒事故(1991)
⑳ 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出(2004)
14
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失敗シナリオの表現
(失敗曼荼羅)
原因まんだら
個人に起因する原因
即ち、ヒューマンエラー
行動まんだら
出典:畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
結果まんだら
15
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原因まんだらの因子の半数は
ヒューマンエラー
調査・検討の不足
環境調査不足
誤判断
手順の不遵守
状況に対する誤判断
事前検討不足
誤認知
仮想演習不足
誤った理解
手順無視
連絡不足
狭い視野
不注意
無知
疲労・体調不良
伝承無視
注意・用心不足
知識不足
理解不足
16
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対角線図による失敗出来脈絡
(シナリオ)の表現
(時間の進行)
1
原因
2
(代表図)
3
(ステップの進行)
原因と行動を
仕切る2本線
4
(知識化コメント)
(知識化コメント)
5
6
7
行動の中の2種類の 8
キーフレーズを
9
10
仕切る1本線
行動
11
12
行動と結果を 13
14
仕切る2本線
結果
出典:畑村創造工学研究所ホームページ
(http://www.sozogaku.com/hatamura/)
17
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失敗知識データベース整備事業
搭載データ数(2011年3月)
分野
事例
百選
機械
448
37
材料
209
35
化学
333
14
建設
146
20
その他
39
0
1175
106
合計
材料分野の破壊事故事例の収集
JSTからの委託事業として
(社)日本高圧力技術協会内に
材料分野情報収集委員会を設置し実施
(委員長:小林英男先生)
小林英男先生
18
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材料分野の代表的な事例の選出
2007年出版
1.脆性破壊(金属がガラスのように割れる)
3事例
2.疲労破壊(金属疲労は勤続疲労)
6事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
3.クリープ破壊(金属は高温使用で伸びて壊れる)
3事例(うち、2例が火力発電プラント事故)
4.応力腐食割れ(錆びないステンレス鋼が腐食で
割れる)
4事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
5.エロージョン/コロージョン(材料は水の流れで
削られる)
3事例(うち、2例が原子力発電プラント事故)
6.材料劣化(材料も人と同様に老化する)
4事例(うち、1例が火力発電プラント事故)
7.大規模破損(不安定、崩壊、爆発、転覆、倒壊、
墜落はなぜ起きるか)
6事例
19
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本書における事故事例のまとめ方
・概要
・機器
・事象
通常の事故事例報告
・経過
・原因
・対処
・対策
・背景
本書における
・後日談
事故事例報告の特徴
・よもやま話
・知識化
20
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クリープ破壊事故
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
21
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火力発電所蒸気タービンロータ
のバースト(1974年)
22
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
米国テネシー州ギャラティン
TVAギャラティン発電所2号ユニット
破壊経路
低圧ロータ
中圧ロータ
・1957年5月運転開始
・13.8MPa, 566℃, 3600rpmの
225MWベースロード運転
・1974年6月19日(106,000h後)
長期停止後の冷機起動中
3400rpmで脆性破壊
ギャラティン
1954年に大気溶解
インゴットから鍛造
955℃焼ならし処理
のCr-Mo-V鋼製
23
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
脆性破壊の結果,数十個の破片となり,
一部はボイラ建屋まで飛散
24
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
中心孔近傍に内在していた硫化マンガン偏析域
中心孔付近に存在した大きな
MnS偏析域に気付かずに運転
中心孔
No
中心孔検査
Yes
中心孔(逆V字偏析部の除去等)検査
・1968年:1010℃焼準Cr-Mo-V鍛鋼製
ロータに対しUT/MT探傷実施勧告
硫化マンガン
偏析域
1954年製造,大気中溶解
Cr-Mo-V鍛鋼(955℃焼準)
25
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
硫化マンガンからのクリープ疲労相互作用によるき裂成長
実験結果
バースト破片の観察結果
427℃,23h保 持
Nf = 76cyc les
起点近傍 の粒界き 裂によるMnSの連結
メタル温度:
413~427℃
MnS
427℃,23h保 持
N(=12 )/Nf = 0.16
き 裂発 生確 認
MnS
き裂
き裂
・運転中の焼戻し脆化
・クリープ疲労相互作用
繰り返し負荷による疲労損傷に定負荷による
クリープ損傷が重畳し,寿命が低下する。
26
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
1.誤判断
主シナリオ
2.狭い視野
3.規格不良
ヒューマン
4.計画・設計
エラー
5.計画不良
6.無検査
7.蒸気タービンロータ
8.大気溶解 CrMoV 鍛鋼
9.中心孔
10.MnS 偏析の見落とし
11.使用
12.運転・使用
13.機械の運転・操縦
14.破損
15.破壊・損傷
16.クリープ疲労
17.き裂・割れ
18.ロータバースト(飛散)
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27
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<対処と対策>
Run判定であれ
ば,欠陥があっ
てもそのまま
①中心孔探傷検査の義務付け ⇒ 日本でも実施 継続使用
・1974年 : 1960年以前製造の全ロータに拡大
米国
⇒ TVAでは製造時欠陥を有する22本のロータを取替
電力研究所
②EPRI : ロータのRun/Retire判定用専用コードSAFER
(Stress And Fracture Evaluation of Rotors)開発
非破壊検査の
手を抜くな!
後日談
中心孔探傷に
よる指示欠陥
クリープ・疲労
き裂進展解析
Run/Retire
判定
③ロータ鋼の長時間加熱時効による焼戻し脆化特性DBの開発
④真空溶解・中実ロータの開発・導入
中実回転円筒の最大円周応力は
中空回転円筒の1/2
28
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火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<よもやま話>
過去の代表的な蒸気タービンロータのバースト事故
事故発生年
国名
ユニット名
種別
原因
1950
オランダ
Nijmijen
低圧ロータ
脆性破壊(詳細不明)
1951
ドイツ
(シーメンス社)
低圧ロータ
脆性破壊(試運転中)
(詳細不明)
1954
アメリカ
Ridgeland#4
低圧ロータ
脆性破壊(欠陥起点)
1972
日本
(三菱重工業)
低圧ロータ
脆性破壊(試運転中)
(欠陥起点)
1972
日本
海南#3
低圧ロータ
装置取付け不良+共振
1974
アメリカ
Gallatin#2
中圧ロータ
クリープ疲労+脆化
29
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米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故の概要
1950年代初期の
大気溶解インゴット
Ni-Cr-Mo-V鍛鋼(ASTM
A293 Class6)
1954年12月19日
過速度トリップ試験中
4ヶ月後
1954年8月19日運開
(出力165MW,回転数1,800rpm)
(出典) H.D.Emmert, “Investigation of Large Steam Turbine Spindle Failure,” Trans. Of ASME, pp.1547-1565(1956).
30
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米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故の原因と対策
製造時の中心孔UTによる指示欠陥(hydrogen flake)を無害欠陥(MnS)と判定
延性脆性遷移温度
高FATT>運転温度
指示欠陥
大気溶解で脱ガス不十分
非破壊検査は重要! MnS
事故後のサルファープリント
事故後の磁粉探傷試験結果
Ni-Mo-V鋼以上の代替材なし
対策
・ 水素含有量を最小化する真空脱ガス溶解法や熱処理法の導入
・ 非破壊検査,特に超音波探傷法の改善
⇒ 無害欠陥と有害欠陥の判別法(経験・知識の拡大)
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31
米国Commonwealth Edison Ridgeland#4
低圧蒸気タービンロータの脆性破壊事故
1.誤判断
主シナリオ
2.狭い視野
3.未経験・不慣れ
4.計画・設計
5.計画不良
6.検査不良
ヒューマン
エラー
7.蒸気タービンロータ
8.大気溶解 NiMoV 鍛鋼
9.内在有害欠陥(hydrogen flake)の見落とし
10.使用
11.運転・使用
12.機械の運転・操縦
13.破損
14.大規模破損
15.破裂(脆性破壊)
16.ロータバースト(飛散)
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32
火力発電所蒸気タービンロータのバースト(1974年)
<知識化> : 「水平展開」
一般に、知識や経験が不足していたために、後に損害をもた
らすことになる問題を想定できない事例は多い。
問題がないと思えば、特別な対処や対策もなされない。
本事故は、これまで問題がなかったので大丈夫だと思い込み、
内部に大きな製造時の欠陥があることなど夢にも思わず使用
したために起こった。しかたない面もあるが、このように大きな
損害を与えた事故は貴重な経験でもある。この事故後直ちに
他のプラントの検査を行うことにより、事なきを得たプラントも
多くあった。
このようにそれまでの知識や経験の不足を補完し同じ失敗を
繰り返さないためにも、初めての失敗経験の知見を早急かつ
広範に伝え活かすこと、即ち水平展開することは重要である。
いずれにしても、疑わしきは検査をすべきであり、検査の手を
抜くと、後で痛い目に遭うことになる。
33
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火力発電所高温再熱蒸気管
の噴破(1985年)
34
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
・1971年運転開始
米国ネバダ州ラフリン
・石炭焚き790MWベースロード運転
モハベ発電所2号ユニット ・再熱蒸気条件4.14MPa, 538℃
・1985年6月6日(88,000h経過後)
外径762mm,肉厚33.5mm
水平直管側面シーム溶接部で噴破
1.25Cr-0.5Mo鋼(ASTM P-11)製
シーム溶接管
・死者6名,負傷者10名の大惨事
ラフリン
35
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
モハベ発電所の高温再熱蒸気管シーム溶接部の噴破事故
死者6名、負傷者10名
36
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<原因>
メーカーは管の製造を中止し,
過去の製造・検査記録を残していなかった。
◆(製造・検査記録がないため詳細は明らかではないが、)
1.25Cr-0.5Mo鋼板を曲げてシーム溶接で高温再熱蒸気
管を製造した際に、通常の非破壊検査で容易に検出で
きる程大きな欠陥が溶接部に生じた。
◆シーム溶接部に存在した大きな製造欠陥で応力が集中
し、クリープ損傷の進行を速めることとなり、数年間の
運転中にクリープき裂が大きく成長した。
◆途中で非破壊検査が行われていたならば、容易にき裂
は発見されたであろうが、そのまま運転が続けられたた
め、運転開始から約88,000時間が経過した時点で噴破
し、多数の死傷者を出す大惨事となった。
37
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
シーム溶接部に発生したクリープき裂
溶接金属
母材
クリープき裂
溶け込み境界
わが国では
’95年と’98年
に類似のき裂
発生事例報告
38
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
主シナリオ
1.無知
18.破損
19. 破壊・損傷
2.知識不足
20. クリープ
3.試験データ不足
4.製作
ヒューマン
エラー
5.ハード製作
21. き裂成長
6.機械・機器の製造
22. 配管噴破
23. 身体的被害
7.高温再熱蒸気管
24. 死亡
8.1.25Cr-0.5Mo 鋼
25. 死者 5 名、負傷者 10 名
9.シーム溶接
10.計画・設計
11.計画不良
12.無検査
13.製造欠陥の見落とし
14.使用
15.運転・使用
16.機械の運転・操縦
17.シーム溶接部溶け込み境界
破損
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39
火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
米国における蒸気管のバースト事故(’80年代)
1979年(サビーネ2号)
死者6名、
負傷者10名
<事の重大さに気付かず>
<死傷者の出る大惨事>
背景
シーム溶接部に関する充分な知識、知見の欠如
非破壊検査の不実施
<続いて起こった大事故>
40
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<対処と対策>(1)
事故後の1985年夏以降、50以上のプラントのシーム溶接管
が超音波、磁粉、放射線等による探傷が行われ、欠陥が見
つかった配管はシームレス管に取り替えられた。
事故後まもない1985年9月15日に、米国電力研究所(EPRI)
の非破壊評価(NDE)センターは、電気事業者の支援のため、
「クリープ損傷を受けた火力プラント配管の検査技術の開発、
評価および移転」に関する研究を開始(このプロジェクトには、
クリープき裂成長解析プログラムの開発、断熱材の除去を不
要とする高エネルギー放射線探傷技術の実証のほか、情報
交換会議の主催、シーム溶接配管の検査に関する教育的ワ
ークショップの開催などが含まれていた)
41
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<対処と対策>(2)
1985年11月には、シーム溶接配管の試験・評価に関する
情報交換会議がノースカロライナ州シャーロットで開催され、
電力会社57社からの107名を含む180名が出席した。
1987年2月には、同プロジェクトの成果として、シーム溶接
蒸気管の検査ガイドラインがまとめられ、その後電力各社
におけるシーム溶接管の運用管理指針となった。
何年も大きな事故
の発生なし
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<後日談>事故は繰り返される!! 8件発生
米国における蒸気管のバースト事故(’92年以降)
事故時まで
誰もシーム
溶接管と知
らなかった
タイプⅣき裂
溶接熱影響部細粒域にクリープ損傷によるき裂(タイプⅣき裂)が発生
溶接熱影響部
溶接金属
溶接金属
タイプⅡ
溶接熱影響部
母材
母材
タイプⅠ
タイプⅣ
タイプⅣ
タイプⅢ
細粒域 粗粒域 粗粒域 細粒域
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<後日談>
最近の問題と対策(1)
◆高経年化に伴い、運転中のシーム溶接管の安全に関する
問題が顕在化
◆シームレス管も周溶接部のクリープに関連した事故や製造
不良のシームレス過熱器エルボでのクリープ損傷による
事故などの問題を抱えている。
◆シーム溶接部を対象に運転中の損傷を定期的に検査
◆クリープ損傷を出来る限り早期に発見できるように改良した
最新の超音波探傷法もあるが,これらはまだ高価であり、
実機へ適用するにはかなり綿密な計画と長時間のプラント
停止を要することに加え、タイプⅣき裂の場合には、き裂
貫通の直前近くになるまでき裂の検出が難しい(たとえば、
通常の2年間隔の検査ではき裂が検出されず貫通すること
もある)。
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<後日談>
最近の問題と対策(2)
◆EPRIは、1986年以降シーム溶接管の実時間オンライン
監視法としてアコースティック・エミッション(AE)法の開発
を進めてきた。
◆1995年にはAEガイドラインが出され、AEデータベースを
開発するとともに他の手法と比較するため、90以上の実
規模試験が1996年から2003年まで実施された。
米国の火力発電所実配管へのAE法の適用
導波棒を介したAEセンサーの
取付け
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<よもやま話>
蒸気配管溶接部のクリープ損傷の発生は「古くて新しい問題」!
◆最近、英国で58,000時間運用された改良9Cr鋼製ヘッダ(設
計圧力17.58MPa、設計温度580℃)の溶接部にタイプⅣき裂
が発生
◆わが国でも2004年6月に高クロム鋼(火SUS410J3)製再熱
蒸気管の溶接部が破損し,高クロム系鋼の溶接部における
タイプⅣき裂の発生が懸念されている。
◆最近の火力発電は電力需要の変動に対応するため頻繁な
起動停止や負荷変動運転を余儀なくされており、起動停止
等の過渡運転に伴う熱応力が繰り返されて熱疲労損傷が
生じ、それがクリープ損傷と重畳して寿命低下を招くクリー
プ疲労相互作用が大きな問題となっている。
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<よもやま話>
蒸気配管溶接部のクリープ損傷の発生は「古くて新しい問題」!
◆蒸気配管溶接部におけるクリープ損傷の発生は「古くて
新しい問題」であり,その解決には、溶接部でのき裂発生
の防止が難しいことを考えると、非破壊検査によるき裂の
早期発見とコンピュータ解析によるき裂の成長評価ならび
にき裂の進展監視を可能にする技術開発が必要である。
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火力発電所高温再熱蒸気管の噴破(1985年)
<知識化> : 「知らぬは罪なり」
ハード(機器)の事故は材料に関する学識不足に起因すること
が多い。
たとえば、この一連の事故では配管材料の溶接部に関するデ
ータ、知識等が不十分であったことが最初の原因であったが、
このように使用している材料に関する学識不足によって引き起
こされる事故は多い。
材料特性の把握が不十分であれば、材料を過信し、この材料
は大丈夫だと盲信することになる。これが材料のもつリスクで
ある。
このリスクを断ち切らない限り、失敗は繰り返される。
技術に「知らぬが仏」はあり得ない。
「知らぬは罪」であり、罰が当たることになる。
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まとめ
過去の事故事例を調べてみると、
◆現在では既によく知られた現象や事象がその当時は未知の
状態であったが故に仕方なく起こった事故も多い。
◆一方、知るべきことを知らなかった無知、手抜きや不注意な
ミスなどのために、本来なら回避できた事故も少なくない。
未知に起因する事故に関しては、未知であった現象や事象は
通常事故後直ちに水平展開して知識化され、事故の再発防止が
図られてきた。しかし、時間の経過とともに事故自体が風化し、
事故原因に対する意識が次第に希薄になっていくことも否めない。
また、未知やミスなどによる事故には、過去に大きな犠牲払っ
て知識化した情報が活かされていないという問題を孕んでいる。
したがって、事故の原因は何であれ事故という過去の苦い失敗
経験から得た知識・情報は未来にまで適切に伝承されなければ
ならない。
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