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本当の勇気について考え, 自分を見つめ直す
実践例 4年 勇気 本当の勇気について考え, 自分を見つめ直す 鳥取市立面影小学校教諭 濵津良輔 副読本の場面絵には、児童が資料の背景や 登場人物の気持ちをとらえやすくする工夫が 果たすと考えている。この学習では、大粒の はじめに 涙を流している太郎の表情を拡大して掲示し、 施されたものが多く、学習にも重要な役割を ﹁つながれ かがやけ 面影っ子﹂をテーマ に、本校は児童の信頼関係の育成と自信づく 殿様に直接訴える太郎の心情を児童に深く理 解させ、共感させた。 りに取り組んでいる。友達との関係をより深 にも、正しいことは何かを常に考え、正しい ②ワークシートを利用して めるためにも、より光り輝く自分になるため と思うことを勇気をもって実行しようとする のよくない行動に接したときや、ルールに反 ながら意見の対立は好まない。しかし、友達 学校の子どもたちは、友達と協力しながら 学習したり活動したりしており、当然のこと 認でき、意図的指名にも役立つと考えられる。 間指導でだれがどんな意見をもっているか確 の自信にもつながる。また教師にとっても机 考えを整理するのに役立つとともに、発表へ を書き込ませた。書くという活動は、自分の 態度は、とても重要であると考えている。 する行為を見かけたときなどに黙認する姿を 展開前段で﹁本当の勇気とはなんだろう﹂ という問いかけをして、ワークシートに考え 時折見かける。仲良しの友達であっても﹁君 ③終末の教師の話を大切に む。太郎の言葉に、殿様は城へ帰って行った。 の前に立ちはだかり、鳥を殺さないように頼 弓で射殺そうとする。太郎は命をかけて殿様 狩りで獲物が獲れなかった殿様が、その鳥を よわむし太郎と子どもたちは、池に飛んで くる白い鳥を大切に世話していた。ある日、 資料の概要 情で聞き入り、学習を静かに振り返っていた。 う小さな体験談であったが、児童は真剣な表 に声をかけて道案内してとても喜ばれたとい 本時は教師の話で学習をまとめた。子ども のとき、どきどきしながらも目の不自由な人 のやっていることはよくないことだから、や めたほうがいいよ﹂ときちんとアドバイスで きる勇気が、より高次の親友関係をつくり上 げるために必要であると考えている。 ﹁本当の勇気とは何 今回の授業を通して、 か﹂を児童に問いかけ、これまでの自分を振 り返らせたい。また、勇気をもって行動する ことは決して容易ではなく、強い決意や大き な責任が伴うこともあるが、行動した後に感 じられるすがすがしさについても触れ、実践 の意欲につなげていきたい。 指導の工夫 ①場面絵を活用して 2 0 0 7 . 1 0 道徳と特別活動 28 学習指導案 ●主 題 名 本当の勇気 ●資 料 名 「よわむし太郎」 ●本時のねらい 正しいと思ったことを迷わないで勇気をもって行動に移そうとする心情を育てる。 〈1 −⑷勇気〉 展開例 学習活動 主な発言と予想される児童の反応 導入 1.「勇気」という言葉について考える。 ○「勇気」とはどういうものだと思いますか。 ・怖いことを我慢する心。 指導上の留意点 ・普段どんなときに「勇気」という言葉を使 うのかを思い起こさせ,「勇気」について 学習しようとする意識を高めさせる。 ・間違っていることを「間違っている」と言え る強い態度。 実践例 道徳 太郎のとった勇気ある行動を通して,本当の勇気とは何かについて考えよう。 2.資料「よわむし太郎」を読んで話し合う。 展開前段 ○ 涙をこぼしながら,殿様の前に立つ太郎はど んな気持ちだったと思いますか。 ・拡大した挿絵を利用して,情景や場面を確 認しながら学習を進めたい。 ・太郎の勇気ある行動の根底にある優しさに ・白い鳥が殺されてしまうと,子どもたちが悲 しむ。 気付かせ,真の勇気ある行動のすばらしさ に共感させる。 ・自分は殺されてもよいから,白い鳥を守りた い。 ・たとえ殿様でも,悪いことは許さない。 ・殿様は時の権力者であり,その殿様に逆ら うことは自分の命も危ういことを理解させ ○ 弓を下ろして城に帰ってしまう殿様は,どん ・殿様の気持ちを考えることを通して,太郎 る。 なことを考えているのでしょう。 ・自分は間違っていた。 の勇気ある行動が殿様の心を動かし,子ど もたちが大切にしている白い鳥の命を救っ ・勇気ある太郎の行動に比べて,自分のしてき たことが恥ずかしい。 たことを押さえる。 ◎ 本当の勇気とは何だと思いますか。 ・弱いものの味方になること。 ・危険なことに挑戦することではなく,正し いと思うことをきちんと行ったり,間違っ ・正しいことは正しい,間違いは間違いと言え る強さ。 たことにきちんと向かっていったりするこ とが本当の勇気であることに気付かせ,価 ・自分が正しいと思ったことを行動に移すこと のできる強い心。 値を認識させたい。 展開後段 3.自分の経験を想起し,話し合う。 ○ 自分の生活の中で,自分が正しいと思って最 後までやり通したことはありますか。またその ・正しいことを勇気をもって行った経験を振 り返らせ,次の勇気ある実践へとつなげた い。 終末 とき,どんな気持ちでしたか。 4.勇気をもって行動した後に感じるすがすがし さについて,教師の話を聞く。 29 道徳と特別活動 2007. 10 ・勇気をもって行動することの価値について 考え,学習のまとめとする。 それから、太郎のことをよわむし太郎と呼ぶ 者はいなくなった。 ●出典 ﹃4年生の道徳﹄ ︵文溪堂︶ 授業の記録 ︿導入﹀ T﹁勇気﹂という 言葉を聞いて、 どんなことを考 えますか。 T 太郎の様子を見て、殿様は馬を返して、 城に向かって帰って行きましたね。そのと き、殿様は心の中でどんなことを考えてい るのでしょう。 C 自分のやってきたことが自分でも分かっ たと思う。 C 子どもたちの心を傷つけていることに気 がついたのだと思う。 C 太郎の正しい強い気持ちに負けたと思っ ている。 C﹁自分のしたことが恥ずかしい﹂という気 T ﹁何が﹂殿様をそうさせたのでしょう。 C 太郎の勇気だと思う。 持ちがとても強かったと思う。 C 自信をもって 生活すること。 C 強い人に立ち 向かうこと。 ︿展開前段﹀ 思ったことを勇気をもってやったことがあ りますか。 C 部活動が苦しくてやめようと思ったけれ ど、最後までがんばろうと思い、今でも続 けている。 C それは勇気と少し違うと思う。勇気とは、 自分のためではなく、だれかほかの人のた めに行動しようとする強い心のことだ。 T あなたは、そういうことがありましたか。 C 友 達 が 二 人 乗 り を し て い る の を 見 て、 ﹁ 二 人 乗 り は い け ん で。﹂ と 注 意 し た。 と ても言いにくかったけれど。 T そのとき、どんな気持ちがしましたか。 C 注意するときはどきどきしたけれど、友 達が二人乗りをやめてくれたのを見たとき は、何か﹁いいことをしたな﹂と思って、 とても気持ちよかった。 ︿終末﹀ ても喜ばれたこ を話す。︶ い気持ちになっ とや、その後と けて案内し、と T はじめに﹁勇気﹂について考えましたが、 ﹁本当の勇気﹂とは何だと思いますか。 てもすがすがし T︵子どものとき、目の不自由な人に声をか C 弱い人や動物を守ることのできる人が、 本当に勇気のある人だ。 たという体験談 T 今までの自分の生活で、自分が正しいと ︿展開後段﹀ C 自分が損をしても、正しいと思ったこと をすることだと思う。 C 資料の太郎のように、間違ってることを 止めようとする強さだと思う。 一番のもとだと思う。 C 太郎の心や子どもたちの心もそうだけれ ど、殺さないでほしいという鳥の強い心が C 普通の勇気ではなく、太郎の強い勇気や 強い心だと思う。 T 太郎はどんな人ですか。 C 背が高くて、力持ちの人だと思う。 C どんなことがあっても、いつもにこにこ 笑っている人だと思う。 T そんな太郎が、目から大きな涙を流して、 殿様に頼みましたね。どんな気持ちだった のでしょう。 C 子どもたちが大切にしている鳥を守りた い。殺さないでほしいと思っている。 C もっと強い気持ちだと思う。自分は死ん でもよいという覚悟があると思う。 C 太郎の涙は、心の涙だと思う。子どもた ちの心や鳥たちの心を傷つけないでほしい という、心の涙。 2 0 0 7 . 1 0 道徳と特別活動 30 ■効果的な副読本の場面絵の活用 子どもたちの心に響く授業展開を進める上 で,副読本の挿絵などを活用することは重要 な手だてである。本実践でも,大粒の涙を流 している主人公太郎の表情を拡大して子ども たちに提示している。授業記録からも「殺さ ないでほしい」という反応から, 「自分は死ん でもよいという覚悟」や「子どもたちの心や 鳥の心を傷つけないでほしいという心の涙」 というような深まりや広がりを見せている。 場面絵の効果的な活用の工夫の成果であろう。 ■共感の奥にある子どもの心情を 引き出す工夫 共感的な資料の活用においては,ある場面 における主人公などの気持ちや考えを「主人 公はどのような気持ちだったか」や「主人公 はどんなことを考えていたか」といった内容 の発問で授業を展開することが一般的であっ た。 今とりわけ,中・高学年の授業においては “共感の奥にあるもの”を授業の中に引き出 し,単に心情を問うだけではなく,その奥に ある“なぜそう感じるか”“その思いの拠っ 31 道徳と特別活動 2007. 10 てくるところのものは”といった所まで問う ていくことが,授業を深まりのあるものにす るために大切になってきている。以前は“切 り返しの発問”といったようなことで,指導 案の段階では意図しない発問として位置付け られていたが,現在では,本実践例のように 「何が殿様をそうさせたのでしょう」といっ た発問を投げかけ,子どもたちにより深い心 の動きに気付かせるような工夫がされてきて いる。大いに取り入れたい工夫である。 なお 「本当の勇気」について問うているが, この発問は展開の後段の「自分の経験を想起 し」とつなげて展開したほうが効果的ではな いかと思われる。 ■道徳的実践意欲につなげる工夫 道徳授業の目標は道徳的価値の自覚であ り,その目標の一つは道徳的価値を自分なり に発展させていくことである。勇気をもって 行動した後のそう快感に触れさせることによ り,意欲をもたせたいという実践者のねらい は,道徳授業の目標を達成する上からも大切 なことである。実戦意欲につながるものであ る。 (本誌編集委員会) まとめ ﹁本当の勇気﹂とは何か。資料﹁よわむし太 郎﹂を使って児童に問いかけたかったテーマ である。勇気とは、単に危険なことに向かっ ていく気持ちではなく、正しいことは正しい という毅然とした態度で行動したり、自分の 立場が悪くなることも覚悟の上で弱い人の立 場に立とうとしたりする強さであると考えら れる。児童の﹁勇気﹂に関する既成概念をよ り高次の概念に高めるため、﹁本当の﹂とい う言葉をつけてその違いを考えさせる方法を と っ た。 ま た、﹁ 勇 気 ﹂ が﹁ 本 当 の 勇 気 ﹂ に 高まっていく様子をイメージさせるため、両 者を大きな赤い矢印でつないだ。 勇気ある行動をすることは時に困難が伴う そう が、同時に大きな満足感や爽快感も得られる ことが多い。勇気をもって行動した後のすが すがしさを協調したことで、﹁自分も勇気を もって行動したい﹂という実践への意欲につ ながっていくものと期待している。 この学習を通して、児童は勇気ある行動の 尊さに気付き、これまでの自分や今の自分に ついての認識を深めたと思う。これからも、 児童が自分のあり方や生き方を深く見つ直す ことのできるような道徳授業を実践できるよ うに研鑽を深めていきたい。 実践例 道徳 子どもの心に響く指導の工夫