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50keV Fe+ をイオン注入した GaAs の DLTS

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50keV Fe+ をイオン注入した GaAs の DLTS
Title
50keV Fe+をイオン注入したGaAsのDLTS
Author(s)
谷脇, 雅文; 小出, 秀人; 吉田, 博行; 林, 禎彦
Citation
Issue Date
北海道大學工學部研究報告 = Bulletin of the Faculty of
Engineering, Hokkaido University, 153: 115-119
1990-11-29
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/42257
Right
Type
bulletin (article)
Additional
Information
File
Information
153_115-120.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
北海道大学工学部研究報告
Bulletin of the Faculty of Engineering
第153号 (平成2年)
I−lol〈1〈aido University. No. 153 (1990)
50keV Fe+をイオン注入したGaAsのD:しTS
谷脇 雅文 小出 秀人1
吉田 博行2 林 禎彦2
(平成2年8月31日受理)
1)eep Level Transient Spectroseopy of
50keV Fe一亙on I燃p艮anted GaAs
Masafumi TANiwAKI, Hideto KomE,
Hiroyul〈i Yo$ruDA and Yoshihiko HAyAs}II
(Received Atigtist 31, 1990)
Abstract
The annealing process of 50 keV−Fe“ implaRted GaAs was studied by DLTS. Eight
trapping states were detected and identified. Fe had strong interactions with the implanta−
tion−induced point defects. A new trapping state appeared by annealing at 400eC, and the
trapping atates by point defects increased simultcaneously. This ineans that the created
Fe−related structure increases the number of point defects trapping states. The structure
probably causes the amorphization of heavily Fe’一imp}anted GaAs at 400“C.
1.序
筆者たちは,SIIおよびFeイオン注入によって化合物半導体に形成される欠陥と,焼鈍に伴う
欠陥の回復挙動を,透過電子顕微鏡によって研究してきた1 3}。遷移金属Feをイオン注入した場
合,特異な組織変化が観察された2,3)。注入によって双晶が形成される。双晶の形成は,注入組織
に強い歪が蓄えられた可能性を示す。さらにイオン注入することによって,双晶組織は非晶質に
変わる。双晶の非晶質化は,また400QC程度の比較的低温の焼鈍によってもおきる。通常のn型,
p型ドーパントを注入したときは,焼鈍すると下地に対して固相エピタキシャル成長する。筆者た
ちは,このちがいは,GaAs中でFeはn型, p型ドーパントと異なる結合をするため生じるので
あろうと考えた。Si, Sn, Zn等のn型, p型ドーパントはいわゆる四団体配位構造をとるが, Fe
は通常,より大きい配位数をとる。そのためFeがイオン注入された領域では, FeがGaあるいは
As原子(おそらくAs原子であろう)と結合し, GaAsの四面体配位構造をこわし,大きな歪が
たまり,これを緩和するため原子面がずれ,双晶が形成される。焼鈍するとFe周辺の原子配列は
四面体構造から大きくくずれ,結果としてFeイオンが注入された領域は結晶性を失って,非晶質
になる。上に述べた実験結果とその解釈から,GaAs中に注入されたFeは, Ga, Asあるいは格
嗣体電子工学講座
L現東燃 2.京都大学原子炉嘆験所
116
谷脇雅文・小出秀人・田 博行・林 禎彦
子欠陥と強い相互作用を行うことが予想される。それはまた注入されたFeが種々の捕獲準位をつ
くることを意味する。本研究では,DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)によって, Fe
イオンを注入したGaAsの欠陥準位を検出しその回復挙動を追跡した。すでに行っている透過電
子顕微鏡観察結果との対比を通して格子欠陥と捕獲準位の対応づけを行うとともに,注入および
焼鈍による欠陥の挙動を明らかにすることを試みた。
2.実
験
LEC(1!1)GaAsウエハーの表面を#6000アルミナ粉末で研磨した。水洗および超音波洗浄後,
鏡面処理(H、O:H202:H2SO4=1:1:3,その後水洗)した。煮沸したトリクレン,アセトン,
エタノール洗浄し,酸化膜エッチング(HCI中数10秒)した。鏡面とは反対側の面にNi−AuGeを
蒸着し,水素気流中で420℃,30分焼鈍しオーミック電極をつくった。このようにして作った試料
鏡面に50keV Feイオンを注入した。注入量はIOioions/cm2とIOiiions/cm2の2種類とした。注
入したままの試料以外に,200,300,400℃の各温度で30分間の熱処理を行ったものを作った。こ
れらの試料の鏡面にAuショットキーバリアーを蒸着した。ショットキー接合の特性を電流一電圧,
容量一電圧測定によって評価した後,DLTS測定した。方形波パルス幅は10msec,順バイアスを
印加することによって測定領域(深さ方向)をかえた。
3.結
果
A.10ieions/cm2注入試料のDLTS
IOioions/cm2注入試料のDLTSの焼鈍による変化を,バイアス0,0V(表面近傍),一〇.5V(やや
深い領域),一1.OV(さらに深い領域)べつに,図1に示す。深さ領域を注入した試料で見積ると,
それぞれ20−90nm,90−140nm,140−180nmである。注:入したままの試料には表面近傍,やや
深い領域の両方のDLTSにPl,2,3,4の4個のピークが観察された。 P1,2,4のピークはノン
ドープLEC−GaAsで観察されるものと同じであり,それぞれEL!2, EL6, EL2である4)。 P3は
ノンドープGaAsにはほとんど認められない。これはイオン注入によって形成されるピークであ
り,EL3に相当する。現在のところEL6はAsアンチサイト欠陥AsG。の複合欠陥, EL3は点欠
Temperatufe{K)
Temperature(K}
Temperature CK}
100 200 300 400
。
ioo 20e 300 400 o
。
as
200’C
r
leo 200 300 400
as
@蒲㍉〔)へ▽
200℃
2eo’c
em=12.14s’”
em=1214s’i
BIAS.一1.eV
BIAs=e.ov
ernt12.14s”
P,H,= O.5Y
P.H. =esV
BIAS=一〇.5V
t
’t’
P,H.. O.5V
套
30。OC
婁
釜
奪
妻
4eo’c
300’C『
400’C
P6 P3
ストハヘ
P6 p3
蓮
300C
嚢
4。び。(
_ノヤ
P4
P6
P3
P4
P4
1e;C Fe’ irnplanted 6aAs
1o’: Fe’ imptanted GaAs
1e’e Fe’ implanted GaAs
図1 10’oions/cm2注入したGaAsのDLTS(左からバイアスO.OV,一〇.5V,一LOV)
117
50keV Fe+をイオン注入したGaAsのDLTS
陥およびその集合体に起因するものと考えられている。EL2はもっとも議論されてきたピークで
あるが,現在のところ,やはり,ASG、の複合欠陥とする見方が有力である。 P1,零,4ピークのエ
ネルギー準位はそれぞれ0.25,0.27,0.85eV(伝導帯から)であった。
200℃焼鈍によってEL12は消滅し, P2,3,4ピーク強度は大きくなる。表面近傍では,“P3”
ピークが大きくかつシングルte ・一クに近いものになっている。このピークのトラップ密度は,5.9×
1014/cm3であり,焼鈍前の8.4×1013/cm3の7倍以上になっている。一一一一般にEL3は単一一の捕獲準
位によるものより,ピーク幅が広く,各種点欠陥による捕獲準位の集合したものとみなされてい
る。焼鈍前はP3ピークの幅は通常のEL3ピークと同様広かったので,焼鈍によってある点欠陥
ピークだけが大きくなったものと考えられる。そこでこのピークをP5と置く。
300℃焼鈍によって,表面近傍のEL3ピークはふたたび幅が広くなった。この捕獲準位密度は,
注入したままのものと同程度であり,P5に相当する欠陥がもとどおりの量になったものと考えら
れる。400℃焼鈍によってP2が消滅し190K付近に新しいピークP6が現れた。それとともにP3,
4ピークも大きくなった。
B.10”ions/cm−2注入試料のDLTS
loiiions/cm2注入試料のDLTsの焼鈍による変化を,バイアス。,ov(表面近傍),一〇.5v(やや
深い領域),一1.OV(さらに深い領域)べつに,図2に示す。注入したままの試料表面近傍には, P7
(ET = O.12eV), P8(ET=.e.29eV)の二つのピークが観測される。深い領域では, P2およびP3ピ
ークが見られる。特に点欠陥ピークであるP3が大きいが,これは,注入量が多いため形成される
点欠陥量が多いからであろう。表薦領域のみに観察されるP7とP8はノンドープGaAsや10ioions/
cm2注入試料では,明瞭に観察されなかったものであり,注入Fe原子に直接関係したものと考え
られる。
o
Ternperature{K)
Ternperatufe{K)
tOO 200 300 400 O
100 200 300 400
Temperature CK)
loe 200 300 1,00
。
as
200’C
200’C
em二…2145闇コ
em=12!4s”
BIAStt−O.5V
BIASt−1 OV
P2
P.H.耳 G 5 V
勇
’6−
tFl 300’c“,
蜜
嚢
夏
PH .05V P2
300’C
募
e
4ee ’c
導
300’C V
400’C
PG
P6
P3
P3
1o”E Fe’ }rnplanted GaAs
10” Fe’ implanted GaAs
10” Fe’ implanled GaAs
図2 10”ions/cm2注入したGaAsのDLTS(左からバイアス
O.OV, 一〇.5V, 一1.OV)
118
谷脇雅文・小出秀人・濁 博行・林 禎彦
200℃焼鈍した試料の表面領域のDLTSスペクトルでは, P7ピークの強度はあまり変わらない
が,P8強度が大きく増加している。この捕獲準位密度は,2.9×10ユ。/cm2である。深いところの欠
陥密度も大きくなっている。300℃焼鈍によって,すべてのピーク成分が減少した。表面領域のP7,
P8が大きく減少し,深い領域のP3は小さくなり, P2は消滅している。400℃焼鈍によって欠陥
:量は,再び増加している。表面領域では非常に幅の広いピークP9が観澗され,深い領域でもP3
ピークの肩(190K付近)e[ P9成分が見られる。ピーク位置から考えてP9は10ioions/cm2で観察
されたP6と同じものとみられる。
4.考
察
A.P2(EL6)とP4(EL2)
先に述べたように,このピーク,EL6はASG、に関するものと考えられているが5),この研究で
観察された焼鈍によるこのピークの変化からその真偽を確かめてみよう。イオン注入・焼鈍によ
るP2ピークの変化は,どちらの注入量に対しても,同じであった。200℃焼鈍で大きくなり300℃
で減少,400℃でなくなる。Ga空孔VG、は150℃で移動し, As空孔は240℃で移動するとされてい
る6)。とすると200℃焼鈍によってVG。が集まって, AsG。を作りやすくするであろう。300℃およ
び400℃焼鈍すると,VA,が移動してAsG,と合体しこれを消滅するであろう。これは観察されたP2
すなわちEL6の挙動であり,本研究の結果はEL6がASG、に関係した捕獲準位であることを支持
している。P4すなわちEL2は10’oions/cm2注入した試料には,まだ観測されたが,10’iions/cm2
注入した試料には観察されなかった。イオン注入によってEL2が消滅することはすでに谷口と生
駒によって報告されている7)。ショットキー障壁が低下(0.65eV)するとEL2が消滅するとする報
告もあるが8・9),400。C焼鈍で障壁は,0,72eVに回復したけれどEL2は復活していない。それゆえ,
イオン注入による損傷によってEL2は壊されたものと考えられよう。 TRIM code正。)による解析
結果から,およそ1017keV/cm3の損傷エネルギーでEL2は消滅するものとみられる。
B.P5およびP8
P5, P8はFeイオン注入試料以外には観察されない。P5は10’oions/cm2注入試料で, P8は1en
ions/cm2試料で観察されたものであるが,類似点が多い。どちらのピークも200℃焼鈍でEL3ピ
ークのなかから,非常に大きく現れ,300℃焼鈍で急減する。エネルギー準位はややことなるが,
ピーク幅は単一のものに近い。それ故,P5, P8はFeに関連したものであり,ともに起源を同じ
くするものとみられる。さきに述べたように200℃の焼鈍で活発に移動するものはVG。である。こ
のような事情からP5, P8はFeとVGaあるいはFeと複i数のVG。が結合したものと考えること
が自然である。表面領域で,P5, P8の捕獲準位密度はそれぞれ5.9×10i4,2.9×1015/cm3であり,
それぞれ,Fe濃度2×1015,2×1016/cm3のほぼ,1/10程度であることも,これを支持している。
C. P7
10’oions/cm2試料や,深い領域のDLTSが,分離したいくつかのピーク成分からなっているの
とは対照的に,10”ions/cm2注入試料表面のDLTSは,一本目P7 te 一一クのみを示している。あ
る程度欠陥量が多くなければ現れないことから,このピークは点欠陥の小さな集合体に起潤する
ものである。注入したままのGaAsには格子間原子の集合体(たとえば転位ループ)があらわれ
る。4×1013,10i4ions/cm2注入したGaAsの電子顕微鏡写真から評価すると,1011ions/cm2注入
試料の表面領域には,原子濃度として4×1014/cm3の格子間原子集合体が形成されている。 P7の
50keV Fe十をイオン注入したGaAsのDLTS
l19
捕獲準位密度4.9×10i4/cm3とほぼ等しい。
D. P6
Feイオン注入GaAsでは,400℃焼鈍でふたたびP3が大きくなるという,普通では,考えにく
いことがおきた。同時にこの系以外にはみられないP6ピークが現れている。透過電子顕微鏡研究
で観察された焼鈍による非晶質化という特異な挙Wt2・ 3)と対応していることが示唆される。実際,
焼鈍によって固相エピタキシャル成長するSnイオン注入GaAsのDLTSには,このようなこと
は起きなかった11)。400℃ではGaやAs(Snも)はほとんど拡散しないが, Feは15nm程度は拡
散できる。おそらく拡散によってFeはGa, Asとともに短範囲の構造をつくり,その結果周囲の
GaAsとの問に格子欠陥をつくりだし,点欠陥集合体ピークP3を増加させたものであろう。P6ピ
ークは,この構造がつくる捕獲準位と考えられる。
4.結 論
GaAsにFeをイオン注入・焼鈍し,電子捕獲準位とその変化を, DLTSで追跡した。8個の準
位を検出し,その同定をおこなった。注入されたFeは,点欠陥およびGa, Asと強い相互作用を
おこなって,Feイオン注入GaAsの回復挙動を特異なものにしていることが示された。
参考文献
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