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GaAs(111)A表面におけるSiドーピング機 構に関する理論的研究

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GaAs(111)A表面におけるSiドーピング機 構に関する理論的研究
Master's Thesis / 修士論文
GaAs(111)A表面におけるSiドーピング機
構に関する理論的研究
立松, 洋明
三重大学, 2008.
三重大学大学院工学研究科博士前期課程物理工学専攻
http://hdl.handle.net/10076/10827
-
、
●.:,・二:
11一モ・
i)'、藍二つ
,:I:-I
・・
こ:''
ij
修士論文
GaAs(111)A表面における
siドーピング機構に関する
理論的研究
三重大学大学院
博士前期課程
工学研究科
物理工学専攻
ナノデザイン研究室
立松洋明
平成20年度
二.重大,?I:大学院
T.苧研究科
ー
/
1l
I
目次
第1章
序論
第2事
理論および計算方法
5
6
2.1第一原理計算
2.1.1
密度汎関数法
7
13
2.1.1擬ポテンシャル法
2.1.2
2.2
2.3
17
2.2.1
Gibbsの自由エネルギーおよび化学ポテンシャル
17
2.2.2
表面エネルギー
18
表面における原子の吸着脱離
20
2.3.1気相中の化学ポテンシャル
20
吸着エネルギー
22
エレクトロンカウンティングモデル(ECM)
2.4.1
第3章
ECMによるGaAs(111)A表面の安定性
結晶成長条件下におけるGaAs(Ill)A表面構造
3.1
GaAs(111)A表面構造
3.2
GaAs(111)A表面上のGa原子の吸着
3.3
GaAs(111)A表面におけるAs-trimerの形成
第4章
23
24
26
表面構造状態図に基づくGaAs(Ill)A表面における
siドーピング機構
36
4.1低As分子線圧力下GaAs(111)A表面でのSiドーピング機構
4.2
15
表面エネルギー
2.3.2
2.4
表面系を扱うためのモデル
4.1.1
Gaおよびsi原子の吸着・脱離
4.1.2
Si-2Astrimerの形成
高As分子線圧力下GaAs(111)A表面でのSiドーピング機構
4.2.1
As-trimerの配置
:.帝人`、;I:人`、;'二院
36
42
42
「
Ll')7-A
′光村
J、jf:
4.2.2
4.3
第5章
Si原子の吸着・脱離
SiドープGaAs(111)A表面の安定性
統括
47
参考文献
謝辞
付録
:.市人,、j;:人,'i::院
IL.ノi,':桝''JuL村・
1
第1章
GaAs
序論
を始めとするⅡ-Ⅴ族化合物半導体を用いたデバイスはニーニ族化合物半
導体のもつ直接遷移型のバンドギャップ,高い電子移動度や高いドリフト速度
などの電子物性のため、
siデバイスでは達成不可能な、あるいはより高性能な
デバイスとして開発、実用化が行われている。例えば、電子移動度においては
常温でSiが1350cm2/vsであるのに対し,GaAsでは8000cm2/vsとなっている。
また、ドリフト速度においても
cm2/s,GaAs:
GaAsは
siのそれよりも高い(Si:
0.8-1.0×107
1.5-2.0×107cm2/s)。このようにGaAsは高速デバイスおよび高周波
デバイスの作成に適した特性をもっている。さらに、
siが間接遷移型のバンド
構造をもつのに対し、GaAsは直接遷移型のバンド構造をもち、光デバイスとし
ての用途に用いられている。
これらのGaAs半導体デバイス作製においては基板へのエピタキシャル成長
が重要な工程となってくる。ここでエピタキシャル成長とは,基板のもつ規則
正しい原子配列にそって結晶を成長させることを意味する。エピタキシャル成
長の代表的な方法として、分子線エビタキシヤル(MBE)法、有機金属気相エビ
タキシヤル(MOVPE)法などがある。
MBE成長では、基板表面において原子が
吸着して拡散しながら、二次元核を形成し,二次元核に吸着原子が取り込まれ
て新たな表面を形成していく。また,吸着原子の中には二次元核に取り込まれ
ることなく脱離するものもある。従って、これらのエピタキシャル成長機構を
解明するためには、エピタキシャル成長初過程のなかでも特に吸着、脱離およ
びマイグレーション過程の理解が重要である。さらにエピタキシャル成長過程
の舞台となる基板表面の構造も重要である。
GaAsのエピタキシャル成長として用いられるのは主に(oo1)表面、
面となる(111)A表面、およびAsが最表面となる(111)B表面であるo
表面構造およびその構造変化に対してはこれまでに多くの研究が行われている。
GaAs(001)表面に関しては、脱離エネルギーおよびAs原子吸着前後のエレクト
ロンカウンティングモデルからの偏差を用いて、As原子過剰ダイマ-や欠損ダ
イマ-を含む(oo1)表面において層ごとの成長がどのように維持されるかが検
I.重大学大学院
r.ノ芋研究科
Gaが最表
これらの
2
討された。その結果,エピタキシャル成長時に吸着前の
Ga原子がセルフサー
ファクタント原子として振る舞い、As原子の再配列を促進することが明らかに
されている[1].さらにKangawaらによって,温度および分子線圧力の影響を考
慮した
GaAs(001)-c(4×4)表面構造の安定性の検討が行われている。その結果、
得られた計算結果と実験によって示されている3つのGa-Asダイマ-からなる
GaAs(111)A表
c(4×4)表面の存在領域が良く一致することが報告されている[2].
面に関しては、
sTMおよび軟x線光電子分光法を用いて、
細が報告された。その結果、
(111)A表面構造の詳
(2×2)表面が現れることおよび理想表面のGa原子
が1個脱離したGa-vacancy表面構造が現れることが明らかにされた【3】。また、
表面エネルギーおよび化学ポテンシャルを用いた計算により、
構造の安定性が裏付けられている[4】。
Ga-vacancy表面
STMによ
GaAs(111)β表面に関しては、
る観測において3つのAs原子が吸着して3量体を形成したAs-trimer表面構造
が出現することが明らかにされている【5].さらに、
Kangawaらの提案した手法
を用いて,温度および分子線圧力の影響を考慮した結果、成長条件下において
はGa原子がセルフサーファクタント原子として振る舞い、
As-trimerが脱離す
ることが明らかにされている【6]。
また,エピタキシャル成長による半導体デバイス作製においては、結晶中に
不純物をドーピングすることによって半導体の伝導型を制御することも重要な
工程のうちの1つである。
GaAsにおいては一般にSiをドーピングすることに
よりその伝導を制御することが可能である。エビタキシヤル結晶成長において
は成長時にⅡ族元素およびⅤ族元素に加えて不純物ドーピングを目的としたⅣ
族元素(si)を分子線源として用いることによって伝導型を制御することが可
能である。
(001)表面を用いたエピタキシャル成長においては
Siをドーピング
することによりn型となることが知られている.この場合はAveryらによる走
査型トンネル顕微鏡(STM)およびDaweritz
らの反射率差分光法(RDS)を用いた
実験によって、Si原子の吸着サイトがsiの被覆率に依存することが報告されて
いる[7,8]o
第一原理計算においても
si原子の被覆率の増加により
着サイトが変化することが報告されている。一方、
GaAs(111)A表面においては
成長条件に依存して半導体GaAsの伝導型が変化することが報告されている。
具体的には電子密度測定に基づきsi原子の吸着サイトを観測し、低As圧にお
三重人草大学院
si原子の吸
j二学研究科
3
いてはsi原子はAsサイトに吸着されやすいのに対し、高As圧においてSi原
子がGaサイトに吸着しやすいことが提案されている[9】。さらに、
shigetaらは
GaAs(111)A傾斜基板に対してSiドーピングをしたGaAsの伝導型を決定してい
る。図1.1は伝導型の傾斜角に対する伝導型依存性を示したものである。その
結果,傾斜角o度における(111)A表面に注目するとⅡ-V比が7程度までの一般
的なMBE成長においてはp型になり,
Ⅱ-Ⅴ比が高As圧に対応するこれ以上
の場合においては〝型となる。すなわち、この実験結果はⅡ族元素とⅤ族元素
の流量を変化させることにより、成長する
している[101。このような実験結果に対して,
GaAsの伝導型が変化することを示
Taguchiらは第一原理計算に基づ
き、 GaAs(111)A表面におけるSiの吸着サイトの決定およびGaAs(111)A表面上
でのGa,As,およびsiによって形成され得る微細構造の決定を行いn型およびp
型となる
GaAs層の形成においてはこれらの微細構造が重要な役割を果たして
いることを提案している【11】。しかしながら、有限温度および分子線圧力下に
おけるこれら微細構造に対する安定性および
siドーピング機構の詳細な検討
はなされていない。
本研究ではGaAs(111)A表面に着目し、この表面におけるSi原子の吸着およ
び脱離に対してKangawaらによって提案された表面構造状態図作成手法を拡張
し,温度および分子線圧力の関数としてSi原子を含むGaAs(111)A表面の構造
安定性を比較する.さらにこの表面構造状態図に基づいて,
おける
GaAs(111)A表面に
siドーピング機構特に有限温度および分子線圧力といった成長条件下
におけるSi原子が取り込まれたGaAs(111)A表面の表面構造およびsiドーピン
グ機構と伝導型との関係性を解明する。表面に過剰に存在する
As原子の効果
(セルフサーファクタント)およびそのAs圧との関係に注目して、Siドーピング
機構の詳細を明らかにする。
本論文は,
4章から構成されている。本章「序論」では、
MBE成長過程に関
して重要な表面およびsiドーピングした表面についての研究動向を概観し、こ
れをもとに本研究における目的を示す。第2章「理論および計算手法」では,
表面エネルギーによる表面構造状態図および吸着エネルギーによる表面構造状
態図を決定するために用いる第一原理計算および化学ポテンシャルについて、
さらに表面構造の安定性を議論するために用いるエレクトロンカウンティング
:.垂人草大学院
l-.学研光村
4
モデルについて説明する。第3章「GaAs(111)A表面構造および成長初期過程」
では表面エネルギー計算による表面構造状態図から本研究による計算の妥当性
を示し、また、表面構造状態図を用いて成長条件下におけるGaAs(111)A表面構
造について議論する.第4章「siドーピングを行ったGaAs(111)A表面構造お
よび成長初期過程」では吸着エネルギーによる表面構造状態図によりp型およ
び〃型におけるSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面構造に到るまでの初期
成長過程を示す。その後、表面エネルギー計算による表面構造状態図を用いて
As分子線圧力と伝導型の関係を明らかにする。第5章「結論」では以上の結果
を総括する。
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4.2
l.3
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0.1
l.5
0.8
i: tAJlj事
plJn…=lJtfnき.1れ紳l山且nd !luヽ
r3tlO(LT■i.
図1.1
Siドーピングを行ったGaAs(111)A表面上における基盤傾斜角に対す
る供給量比依存性【10】
・-.看大学大学院
工学研究科
5
第2事
理論および計算方法
計算科学的手法には大きく分けて,「原子レベルからの計算手法」と「電子レ
ベルからの計算手法」がある.「原子レベルからの計算手法」では、原子は単一
の粒子として表現され、原子核や電子といった微細構造は問題にしない。代表
的なものとして経験的原子間ポテンシャル法がある。一方,「電子レベルからの
計算手法」の代表が第一原理計算である。原子は原子核と電子という2種類の
粒子からなる集合体として扱われるため、結果として、第一原理計算では原子
は原子核の周りに電子がシュレ-ディンガ一方程式によって決まる電子密度を
もって分布している複合粒子として表現されることになる。
「原子レベルからの計算手法」として経験的原子間ポテンシャル法がある。
経験的原子間ポテンシャル法は電子と原子核を一体化した原子を考え、これら
の原子の凝集エネルギーを求める手法である。第一原理計算のようにシュレディンガ一方程式を解く必要はなく、古典的な方程式を解くため、多数の原子
からなる大きな系を扱うことが可能である。しかしながら,原子間ポテンシャ
ル法は電子の挙動を考慮していないため、本研究で扱う表面構造といった電子
の再配列が重要である系については、定量的な議論はできないという欠点があ
る。
一方,第一原理計算は「電子レベルからの計算手法」の代表である。第一原
理計算とはシュレ-ディンガ一方程式を解くことにより、物質を構成する多数
の原子核がつくるポテンシャル中の電子の挙動を取り扱う手法である。シュレ
-ディンガ一方程式を解くため、計算量が多くなり、少数の原子しか扱うこと
ができないという欠点がある。しかしながら、電子の挙動を扱うため、バンド
構造や電子密度分布などの電子構造を直接求めることが可能である。さらに、
表面構造や吸着原子のマイグレーションポテンシャルについて、かなり正確に
評価することが可能である。
本研究では、
「電子レベルからの計算手法」である第一原理計算を用いた
GaAs(111)A表面構造の全エネルギー計算結果を利用することによって、表面表
L:.車人草人学院
仁学研究科
6
面エネルギーの計算やGa,As,およびsi原子の吸着一脱離による表面構造状態図
を作成し、
GaAs成長初期過程の検討を行う。以下に本研究の手順を示す。表面
構造安定性の評価については,基準とする表面構造に対する表面エネルギー差
を用いる。表面エネルギー差は、基準とする表面構造に対する表面構造ごとの
全エネルギー差や原子の個数差によって決定され,負の方向に大きい表面表面
エネルギー差をもつ表面構造ほど安定である。温度、圧力の変化に対する表面
構造の安定性に関しては、Ga、As、
具体的には、
Ga、
As、
Si原子の吸着一脱離現象に注目し検討する。
Si原子の吸着(脱離)エネルギーと気相中の化学ポテンシ
ャルを比較することで、どのような構造が安定であるのかを評価する。吸着(脱
離)エネルギーは、少数原子を扱う場合のエネルギー計算には高精度な第一原理
計算を用い、気相中の化学ポテンシャルは量子統計化学に基づいた計算を用い
る。次節より、本研究で用いる計算方法について説明を行う。
2.1第一原理計算
第一原理計算の目的は粒子性と波動性の両方をもっている電子の結晶中での
振る舞いをできるだけ正確に調べることである。電子は式(2.1)に示すシュレディンガ一方程式に従うことが知られている。
[一芸∇2
・v(r)・]v'r'-Ev(r),
(2.1)
また、式(2.1)は原子単位を用いて式(2.2)のように書き直すことができる。
ト三∇2
v(r)l]v(r)-Ev(r),
I
ここで、原子単位とはm=1、
e=1、
(2・2,
h=1となるように長さ、電荷などの単位を
′
規格化する単位である。原子単位では長さの基準1【a.u.】は1【a.u.】=0.529【Å】、エ
ネルギーの基準1[Ht]は1[Ht]=27.2116[eV】である.しかし、結晶のような多電
:_車人J軍人学院
T-.一半研究村
7
子系では、電子の反対称性の性質によりシュレ-ディンガ一方程式が非常に複
雑になる。そこで、多電子系の方程式を解くことはせずに、ある近似のもと、
数値的に解く手法がとられている。多電子系における近似法は主に2つある。1
つは、ハートリ・フォツク(Hartree-rock)法と呼ばれており、電子の多体波動関
数を1つのスレイタ一行列式で近似する方法である。ハートリ・フォツク法は
主に量子化学の分野で用いられている。もう1つの近似法は、電子系のエネル
ギーが全電子密度に依存すると考え、エネルギーが最小となる電子密度を求め
ることによって,シュレ-ディンガ一方程式を解く密度汎関数法である。密度
汎関数法はHohenbergとKohnによって提唱され、
Kohnとshamによって定式
化された[12,13】。この手法は金属、半導体などの物質に対し用いられている。
以下に、本研究で用いた密度汎関数法および擬ポテンシャル法について説明す
る。
密度汎関数法
2.1.1
密度汎関数法の基礎となる「Hohenberg-Kohnの定理」は次の2つの
定理からなる。
1.縮退のない基底状態の全エネルギーは電子密度二の汎関
数として一意的に決定される。
2.基底状態でのエネルギーE[p]は電子密度pで最小化する
ことによって得られる。
以上の定理を基に
Kohnと
shamによって、基底状態にある多電子系
の全エネルギーは電子密度p(r)の汎関数として以下の式(2.3)、
(r)p(r)dr
[p(r)],
E[p(r)]Ts [p(r)]・
Jva(
・U[p(r)]・E,c
-
u[p(r)]-i
二三垂入学人学院
(2.3)
(2.4)
I,
drdr
llp(r)p(r′)
1r-r'1
(2.4)
l'.学研究科
8
ここで、
p
(r)は全電子密度で、式(2.3)の各項は第1噴から順に電子間
相互作用のない系での運動エネルギー、外場ポテンシャルvex((r)による
エネルギー、電子間クーロン相互作用エネルギーであり、最後の項が
電子の反対称性による交換相互作用および他の全ての寄与を含む交換
相関エネルギーである。基底状態の電子琴度は式(2.3)が最小となる条
件から求められる。
次に、p('・)についてのE[p]の変分をとることで、1.ら_
を行う。すなわち、
N
-
Ⅳ電子系における制約条件
Jp(rkr,
(2.5)
のもとで、
鹿L@(r)J
-0,
6p(r)
(2.6)
であるo変分を行った結果は、有効1電子ポテンシャルveff(r)のもとで
の1電子問題の形で書ける。
(r)-CL・Qi
(r),
[一三∇2
(r)I]Qi
I
(2.7)
veH
〃
-
p(r)
(r)l2,
∑l4・,I
(2.8)
J=0
式(2.8)でのiについての和は、スピンの自由度も考慮してc,.の小さい順
に電子をN個まで詰めることによって得られる.式(2.7)での少,・(r)は1
電子方程式の固有関数を表し、
Eiは固有値を表す.有効1電子ポテン
シャルve〝(r)は、
:_電人草大ノ、;I:院
1-.学研究科
9
veH
(r)-V-∫(r)・蹄r′.
(r)+ (r)+
=vα′
vH
v,c
89(r)
(r),
と書ける.ここでvH(r)は電子のハートリーポテンシャルを表し,
(2.9)
v,c(r)
はE[p]のp(r)についての汎関数微分
vxc
(r)
[p]
8p(r)
E,c
-
(2.10)
'
であり、交換相関ポテンシャルと呼ばれる。
以上のように、Kohnとshamによって、有効1電子ポテンシャルveff(r)
のもとで、電子間相互作用のない1電子問題を解けば良いことが示さ
れた.この一連の式(2.7)-(2.10)はKohn-Sham方程式と呼ばれる.
Kohn-Sham方程式により多電子問題を有効1電子問題に書き換える
ことができたが,交換相関エネルギーE,c[p]およびその@(r)についての
汎関数微分γ"(r)は定まらないままである。しかし、これらの正式な表
式を得ることは多電子問題を正確に解く
ことになるため、一般的には
不可能である。そこで、空間的に電子密度が変動している場合にもそ
の変動がゆるやかであって、局所的に位置
r
の近傍ではその点の電子
密度二(r)と同じ電子密度をもつ一様な電子ガスとみなすことができる
ものと近似する。この近似は局所密度近似(LDA)と呼ばれる。局所密度
近似を行うと交換相関エネルギーExc[p]は電子密度pの一様な電子ガス
の粒子当たりの交換相関エネルギーcxc[p]を用い、
Exc
[p]
-
pにp(r)を代入して、
[p(r)i,(r)dr,
Jcxc
(2・11)
で評価できる。したがって、式(2.10)で与えられる交換相関ポテンシャ
ルv,c(r)は
-_:.電大′1f:大学院
r-.学研究科
10
(r)
γ∫。
(p)Q
d8xc
-
(2.12)
で与えられる.このようにして、
p(r)についての変分操作は単にpにつ
いての微分操作に置き換えることができる。このように実際の局所密
度近似を用いた計算では、
E.rc(p)が分かればよいということになる.交
換相関エネルギーc,c[p]の具体的な表式を与えるために、交換相関エネ
ルギーを交換部分E,(p)と相関部分Ec(p)に分けると次式が得られる.
(2.13)
e,c(@)-cx(p)+ec(p),
この分割に従って、交換相関ポテンシャルγ∫。(r)も
(r)-γ∫
(r)+γ。 (r),
γ∫。
(2.14)
のように分割する。
交換部分c,(p)は、
cx(p)--言(孟p)3,
(2.15)
で与えられる。ただし、ここではスピン分極をしていない場合を仮定
している。したがって、交換ポテンシャルv∫(r)は、式(2.ll)に式(2.13),
(2.14)を用いて
vx
(2.16)
-
-2[孟p(r,']ミ,
となる。
:-_蚕大学大学院
I-.学研究村
ll
一方、相関部分Ec(p)については、多くの局所密度関数に対する計算
に対しては、ceperleyとAlderによる量子モンテカルロ法に基づく計算
結果を解析的にフィ
ットしたものが用いられている【14,15】。本研究に
おいてもこれを用いる。Perdewとzungerによると、低い電子密度にお
ける極限(r∫>>1)においては
cc
(p)=
(2.17)
'
1+P.√+β2rs
と表すことができる。ここでr∫は1個の電子の占める球の半径であり、
-1・
?(rs)3
(2.18)
P
で定義される。パラメータγ、
β1、 β2の値を表2.1に示す。さらに、式
(2.12)-(2.14)を用いることにより、相関ポテンシャルvc(r)は次式で表さ
れる。
vc
'r'-[(1・
'p'・]@=g.,,I
piic
高い電子密度の極限(rs>o,
cc(p)-Alnrs+B+Crs
rs
完
(2.19)
0)においてEc(p)は,
lnrs +Drs,
(2.20)
であり、このときの相関ポテンシャルvc(r)は、
vc(r)-Alnrs
・三(2D-C)rs,
I(B一三A)・号crs.mrs
:.雇人学人学院
r_学研究村
(2.21)
12
である.パラメータA、
B、
C、
Dを表2.1に示す.
近年では,さらに交換相関エネルギーに対して電子密度二(r)とともに密度勾
配d()/drに対する依存性の効果を考慮する近似法が開発されてきた。この近似
法を一般化密度勾配近似法(GGA法)と呼ぶ。GGA法では交換相関エネルギーは
Exc
(p(r),d@
/dr),
(2.22)
のように電子密度p(r)とその密度勾配dp/drの汎関数として表される.この近
似では、一様電子ガスでない場合の交換相関項も扱うことができるので、局所
密度近似法よりも近似の信頼性は高くなっている。本研究では、perdew,Burke、
Emzerhofが提案し、研究者らの頭文字と発表年からpBE96と呼ばれるGGA法
を用いた.
[16,17]
表2.1一様な電子ガスに対してのCeperley-Alderによる量子モンテカルロ
計算結果から得られたフィッティングパラメータ【14】
P arameters
γ
Pl
β2
A
β
C
β
:.電大学人学院
V alue
-0.1423
1.0529
0.3334
0.0311
-0.0480
0.0020
-0.0116
L学研究村
s
13
擬ポテンシャル法
2.1.2
密度汎関数法によって、多電子問題を有効1電子問題に書き換えることがで
きること、そして、そのときのポテンシャルが有効1電子ポテンシャルveN(r)
として与えられることを前節で示した。ここでは、波動関数を展開する基底関
数および外場ポテンシャルve,((r)について説明する.
基底関数としては様々なものが使われており、その遠いにより平面波基底法、
OPW(orthogonal
plane
wave)法、
APW(augmentedplane
wave)法、グリーン関数法
などがある。外場ポテンシャルとしては、全電子ポテンシャルと擬ポテンシャ
ルの2種類に分けられる。本研究で扱うような動的過程を含めた半導体表面を
扱う場合には、平面波基底法と擬ポテンシャルの組み合わせを用いることが多
い。本研究においてもこれを採用する。平面波展開された基底はブロツホの定
理を満たす.基底を平面波で展開すると波動関数QJ.(r)は
4,j(r)
-
∑cj,k.G
・G)r],
eXP[i(k
(2.23)
G
である.ここで、
cj,A.G展開係数、
kは波数ベクトル、
Gは逆格子ベクトルであ
る。
次に、擬ポテンシャルについて説明する。擬ポテンシャルとは、原子核とイ
オン芯をまとめた擬原子と価電子の相互作用ポテンシャルである。擬ポテンシ
ャルを用いる動機は、激しく振動する内殻状態の波動関数を平面波展開する場
令,非常に多くの平面波が必要になるためである。内穀にある電子状態は、結
晶であっても孤立原子であってもはとんど変わらない。実際に固体の性質を決
めているのは電子全体ではなく価電子である。初期の擬ポテンシャルは,実験
データを利用するなど半経験的なものであったが、
Hamann
らによって提案さ
れた擬ポテンシャルは実験データを使わない非経験的なGeの擬ポテンシャル
であった【18].この擬ポテンシャルはノルム保存擬ポテンシャルと呼ばれるo
ノルム保存擬ポテンシャルは内穀の外の領域r>r。(r。は内殻領域の半径)では価
電子状態の真の波動関数に一致し,
r<r。では節(node)をもたない波動関数を与
二電大学人学院
L'.学研究科
14
!
i
える.また、有効1電子ポテンシャルを求めたとき,
I
ルを正しく与えるには必要である。したがって、ノルム保存擬ポテンシャルは
董
I
l
i
r>rcの領域では真のポテ
ンシャルに一致しなければならない.そのためには,
r<rcでの擬波動関数二ps(r)
のノルムが真の波動関数二′(〟)のノルムと一致していることが静電ポテンシャ
次の条件を満足しなければならない。
1.価電子状態の波動関数がr<r。で節をもたない。
2・
4,t(r),
r≧rcではQps(r)チ
I,<,cd3rlQ((r)l2・
3・ノルム保存の条件l,<,cd3r[Qps(r12
-
しかしながら,
B、
C,
N、
0といった第二周期の元素では2s、
2p軌道が,また
遷移金属元素などではdやf軌道が価電子軌道として現れるが、これらの価電
子軌道における電子は原子核周辺に強く局在しているために平面波基底では非
常に高い周波数成分まで必要となり、計算量が莫大となる。そこで、ノルム保
存の条件を厳格に適用しないことによって、高い周波数成分を必要としない擬
ポテンシャルが利用されている。この擬ポテンシャルは超ソフト擬ポテンシャ
ルと呼ばれている。本研究では、Ga、
Asのポテンシャルについてはノルム保存
擬ポテンシャルを使用する【19】。
I.
・T}.'人苧大J'I':院
r.
I;,[・'研究科
15
表面系を扱うためのモデル
2.1.3
表面系の電子状態計算では、バルク結晶の場合とは異なり、垂直方向
に関しての並進対称性が破れている。そのため,この方向に対してブロ
ツホの定理が使えない。これを回避するためのモデルとして周期スラブ
模型が使われている。周期スラブ模型は、薄膜模型とも呼ばれる。表面
平行方向に関しては周期性をもった無限系のブロツホの定理を用いる0
垂直方向に関しては、数層の無限に広い格子面を重ねたスラブを表面垂
直方向にある程度の距離をおいて配置することにより、表面垂直方向に
仮想的な周期性を課す。このようにして、表面垂直方向にもブロツホの
定理が適用できるようにする。図2.1(a)に周期スラブ模型の模式図を示す。
図2.1中の太線で示した領域がユニットセルを示しており,周期的境界条
件を用いている。
しかしながら、
GaAs(111)表面などの極性半導体表面の研究に周期スラ
ブ模型を用いる場合、次のような問題点がある。
1.
スラブの表面から反対側の表面へ電荷移動が起こる。
2.
2つの表面がスラブを通じて相互作用する。
この間題点を解決する手法として,周期スラブ模型の下端を仮想水素原
子(非整数個の電荷)で終端する手法がある【20】。こうすることで下端水素
側を仮想的なバルクとして取り扱うことができる。さらに,水素終端す
ることにより計算時間を短縮できるという利点もある。図2.1(b)に水素終
端を行った周期スラブ模型を示す。
本研究で用いた計算モデルには8層のGaAs,
1層の水素終端,
をユニットセルとする周期スラブ模型を用いた。ただし、水素終端に用いた水
素は価電子1.25の擬似水素である。
千-A-_重大苧人苧院
r.苧研究科
12Åの真空層
16
(a)
図2.1
2.2
(b)
(a)周期スラブ模型(b)水素終端を考慮した周期スラブ模型
表面エネルギー
全エネルギーおよび化学ポテンシャルを用いて表面構造の安定性
を議論する方法に表面エネルギーがある。表面エネルギーの特徴は化
学ポテンシャルに対する依存性を考慮して、各表面構造間の相対的な
安定性を明らかにできることである。本研究では表面エネルギーおよ
びAs化学ポテンシャルを用いて表面構造状態図を作成し、GaAs(111)A
表面および
siドーピングGaAs(111)A表面における
As化学ポテンシ
ャル依存性を考慮した安定表面構造を決定する。
2.2.1
Gibbsの自由エネルギーおよび化学ポテンシャル
表面は気相とバルクとの境界であるため、気相との間で粒子、すなわち原子
の受け渡しが起こり得る。表面で気相の雰囲気と熱平衡にある場合には、表面
構造の安定性は表面原子の化学ポテンシャルに依存する。したがって、表面構
造の安定性を議論するために、
Gibbs
の自由エネルギーから導出される化学ポ
テンシャルを考慮する必要がある。
:.電大J、芦大学院
1二号研究科
17
熱力学ポテンシャルの1つであるGibbsの自由エネルギーGは次のように定
義されている。
G-U+pV-TS,
(2.24)
ここで、
vは体積、
Uは系の内部エネルギー、pは圧力、
Tは温度、
sはエント
2、
ロピーである.系に存在する物質にi=1、
...と名前をつけ、物質iの量をni
とする.物質量niは、モル数として取り扱う場合もあれば、粒子数として取り
扱う場合もある.物質iに対する化学ポテンシャルニ,.は,
Gibbsの自由エネル
ギーGを物質iの量n,.に関して微分したものであると定義されている.
∂G
〝f=
(2.25)
'
an,・
化学ポテンシャルを導入することにより、吸着原子の被覆率が異なる、
つまり、計算に用いているユニットセル内の粒子数が異なる場合にも、
実現可能な表面構造に対する表面エネルギーを比較し,どの表面構造
が安定かを示唆することが可能となる。
2.2.2
表面エネルギー
本研究で検討する
Siドーピング機構に対しては表面の安定性の戟
点からも議論可能である.
Siドーピングを行った
おける表面構造の安定性は、
シャルFLG‥
FLAs、
Ga原子、
As原子、
GaAs(111)A
表面に
si原子の化学ポテン
FLsiに依存し、表面エネルギー†surfaceを最低にするよ
うな構造が最も安定である.表面エネルギー†s。.faceはp=0、
T=0にお
いて
γsu4ace-E,ola)
-
FLGanGa
-
FLAsnAs-
〟sjnSi
(2.26)
,
:_毛人草大学院
F-.学研究科
18
と定義される【11,21,22].ここで、
Etotolは,第一原理計算によって求
めた単位格子あたりの系の全エネルギーを用いる.また、
nG‥
Ga、
nsiは、それぞれ単位格子あたりに含まれる
As,
る。ただし、今回の計算では,比較する表面構造の
nAs、
Siの原子数であ
Si原子の数は同じ
なので、〟siの表面エネルギー依存性は考慮しない。また、化学ポテン
シャルは限られた範囲内のみを変化し得るので、
Ga、
As、
Si原子の化
学ポテンシャルは、それぞれの単体バルク結晶における化学ポテンシ
ャルpGa(b。.k)、
FLAs(bu)k)、
FLsi(bulk)よりも必ず小さい.したがって、
〃Ga ≦ 〃Ga(b此),
(2.27)
〃As ≦ 〝As(b此),
(2.28)
FLsi ≦ FLsi(bulk)
(2.29)
,
となる条件が課せられ、FLGa、FLAs、〝siの上限はそれぞれFLGa(bulk)
,FLAs(bulk)、
psi(bulk)となる.もし、この条件を設けないとすると、原子はエネルギ
ことになる。
ー的に安定である単体バルクや分子を形成してしまう
FLGa(bulk),
As、
FLAs(bulk),
Ga、
FLsi(bulk)には、それぞれ第一原理計算で求めた
Si単体バルクにおける1原子あたりの全エネルギーを用いる。さ
らに、結晶内部でのGaAs平衡性から〃Gaと〝Asは次の関係となる。
FLGa
+
FLAs=
ここで、
(2.30)
FLGaAs(bulk)'
GaAs単位格子あたりの化学ポテ
FLGaAs(bulk)はバルクにおける
ンシャルであり、第一原理計算で求めた。すなわち、
おける
Ga-As
GaAs
バルクに
pairあたりの全エネルギーを用いる。式(2.30)を用いる
ことにより、式(2.26)は、
ysu4qce
=
E,ob,
=
EtoLa)
-
(FLGaAs(bulk)
-
-PG,zAs(bu/A)nGa
FLAB )nGa
-〟As
-
FL^snAs
(nAs -nGa
I.蛮人学大学院
-
)
-
FLs,・nsi
PsinS,.,
r.学研究科
(2.31)
19
となり,
FLGaを消去することができる.また、上述したように二siに表
面エネルギーは依存しない。従って、
〝Asの1変数関数として表面エ
ネルギーを記述することができる。
ここで、生成熱△Hfが
AHf
FLGa(bu.k)+ FLAs(bulk)
-
-
(2.32)
FLGaAs(bu.k),
であり、式(2.30)を考慮すると
FLGa
+
FJAs=
FLGa(bu.k)+ FLAs(bulk)
-
AHf
(2.33)
I
となる。式(2.33)より、式(2.31)における〝Asの取り得る値は、
AHf
FLAB(bulk)
-
≦ FLAB ≦ pAs(bulk)
(2.34)
,
となる。さらに、式(2.34)を式変形することにより
-
△Hf
≦ FL,,s -FLAB(bulk) ≦ 0,
(2.35)
となり、扱いやすい値となる。従って表面エネルギーは(〝As∴〝As(bulk))
の関数としたはうが扱いやすくなるために式(2.31)を変形して
γsu,face Eto,al
=
+
-
-
FLGaAs(bulk)nGa
FL^s(bulk)(nAs -nGa)
E(o,aL
-
FLGaAs(bulk)nGa
-
FLAB
(nAs
-
nGa
FLAB(bulk)(nhs
-
-
(FL^s
-
-
)
-
FLs,・ns,・
nGa)
FLAB(buLk))(nA5 -nGa
)
-
FLAB(bulk)(nhs
)
-nGa
-
FLs,・nsi
,
(2.36)
式(2.36)において、右辺の第1、
〃Asは線形関数となるので、
右辺の第1、
2、
4、
2,
4、
5項は定数値である。
†s。rfa。。と
(〝As-〃Ga)が直線の傾きであり、式(2.32)
5項は直線の切片に相当する。それぞれの構造ごと
I:.電大学大学院
r.学研究科
20
の全エネルギーEtota]を第一原理計算によって求めることにより、化学
ポテンシャルと表面エネルギーの関係を得ることができる。
2.3
表面における原子の吸着・脱離
2.3.1気相中の化学ポテンシャル
従来、原子の表面への吸着一脱離については、第一原理計算等の計算結果から
得られた吸着(脱離)エネルギーを比較することで議論を行ってきた。しかし、
この方法では温度、分子線圧力といった気相の状態を考慮することができない。
物質は気相中で温度、圧力に対応するエネルギーをもっており、そのエネルギ
ーに応じて吸着一脱離現象は大きく異なる。すなわち、物質は気相中でGibbsの
自由エネルギー
G-U+pV-TS,
(2.37)
で定義されるエネルギーをもっている.ここで,
は圧力、
vは体積、
Uは系の内部エネルギー、p
Tは温度、sはエントロピーである.しかし、本研究で扱う
のは原子レベルであるため、量子論に従う必要がある。そこで、本研究では
Kangawaらによって提案された1原子あたりの理想気体の自由エネルギー,す
なわち気相中の原子の化学ポテンシャルFLgasと基板表面の化学ポテンシャル
FLso[idを比較する手法によって,温度、圧力を考慮した吸着原子の吸着-脱離につ
いて議論を行う【23,24].すなわち、
FLgasがpsoILdより小さければ吸着原子(分子)
は気相中でより安定となるため脱離が起こり、逆にFLgasがFLsol,.dより大きければ
吸着原子(分子)は基板表面で安定化するため吸着が優位になるとする。ここで,
Ga原子、si原子およびAs2分子の気相中の化学ポテンシャルは量子統計化学の
考えを用いて、それぞれ以下の式で表される。
・Ga-g-
(2.38)
-
-kBT.n(箸×g(2-kBT/2ア)
ー三重大学大学院
rl二学研究科
21
・sz1-g-
(2.39)
-
・As2-gas
-kBT.n(箸×g(2-kBT/2ア)
)
--kBT.n(賢×{)i,
=
t1-Ir_.r:
(2.40)
×{rotx{vibr
(2.41)
8n 2IkBT
E仰t
(2.42)
'
d2
EvL・br
-
(1
1eXP(=))-1
(2.43)
,
(i,ans. (,oい(vib,はそれぞれ並進、回転、振動を表す分配関数である.
kB、
はボルツマン定数、絶対温度、電子の基底状態に存在する量子重度、
p^s2,m、
h、/、
q,
T,
vはAs圧、原子(分子)の質量、プランク定数、慣性モーメント,回転
g
子の対称因子である.ここで,慣性モーメントzは換算質量mI及びAs2の回転
半径∫を用いて
I
-
(2・44,
m](;)2・
で与えられる。As2分子の回転半径rおよび振動数vの値には、非経験的分子起
動計算により見積もられた値(r=1.0621Åv=446cm
1)を使用した【25].
2.3.2吸着エネルギー
吸着エネルギー〃s。1idは原子(分子)が外部から固体表面に吸着し、安定化さ
れたときに発生するエネルギーである。図2.2に示すように〃s。.idは原子が吸着
後の全エネルギーと吸着前の全エネルギーとの差をとることにより求めた。本
研究ではGa、
Si、
As原子の吸着エネルギー〟s。1idとGa、
Si原子,
に換算したAs2分子の気相中の化学ポテンシャル〃gasを比較することにより、
Ga、
Si、
As原子のGaAs(111)A表面への吸着脱離を議論した.図2.3に示すよ
:.重大苧大学院
.t二学研究科
1原子あたり
22
うにFEso)id<JJgasならば吸着が起こり,
FLs。Iid>FLg。sならば脱離が起こる.
+二)
二■=二二
(E(2x2)+Esi)
E(2x2).Si
図2.2Si原子を用いた場合の吸着エネルギー算出方法
fLi,'.・tハ
FL.:'f'J',
fL.:;.'!L'J
_< lJ.f,?・t.
図2.3GaAs(111)A表面における吸着・脱離状態の決定条件
2.4エレクトロンカウンティングモデル(ECM)
本研究で扱うGaAsはsp3混成軌道を形成する.
Ga原子のsp3混成軌道のエ
ネルギーsh(Ga)、As原子のsp3混成軌道のエネルギーsh(As)は図2.4で表される.
eh(Ga)>eh(As)となるため、
Gaのダングリングボンド(表面の未結合手)から
-:.重大苧大学院
_r_l'PL'研究科
23
Asのダングリングボンドに電子の移動が起こる。従って,
Gaのダングリング
ボンドが空になり、Asのダングリングボンドは完全に電子が詰まる。この結果、
表面は安定化する。以上の規則がエレクトロンカウンティングモデル
GaAs
(ECM)である[25].今回扱ったsi原子のsp3混成軌道のエネルギーch(Si)は図2.4
で表され、
おいても
∈h(Si)>£h(As)となる。従って、
Ga、
Siドーピングを行った
Siのダングリングボンドが空になり、
GaAs表面に
Asのダングリングボンド
は完全に電子が詰まった状態を長安定表面とすることにより適応可能である。
エレクトロンカウンティングモデルを用いることにより、
った
siドーピングを行
GaAs表面のダングリングボンド中の電子数を勘定するだけで、表面の安
定性をある程度議論することができる。
E
p(Ga)
E
p(Asき
′
E#
、\亡h(Si
∼
㌔.蔓_畢選a)
Cs:s軌道のエネルギー準位
8p:p軌道のエネルギー準位
ch:sp3軌道のエネルギー準位
vB:価電子帯
図2.4
cB:伝導帯
Siドーピングを行ったGaAsのsp3混成軌道のエネルギー準位を表す模
式図
三蛮人苧大学院
工学研究科
24
2.4.1
ECMによるGaAs(111)A表面の安定性
初期成長過程においてSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面では様々な表
面構造が出現する。本節ではこれらの表面構造の安定性を具体的に議論するた
めに必要となるECMの計算方法をGa-vacancy表面およびsi原子が吸着した
Ga-vacancy表面を例にとり説明する。
Ga原子およびAs原子はそれぞれ3個と5個の価電子をもつ。これら2種類
の原子が閃亜鉛鉱構造の結晶を構成すると、原子のまわりに4本のボンドが形
成される。結晶中では1本のボンドにGa原子およびAs原子からそれぞれ平均
して3/4個、
5/4個の電子が供給されて、合わせて電子が2個含まれる通常のボ
ンドが形成される。したがって,
Gaダングリングボンド、
ンドには電子がそれぞれ3/4個、
5/4個含まれる。今回扱うGa-vacancy表面を
Asダングリングボ
例にとると図2.5(a)よりユニットセルあたりAsダングリングボンドは正味3本
存在することがわかる。従って、この
Asダングリングボンドを満たすために
電子数は6個(=3×2)必要である。
一方、既存のAsダングリングボンドが持つ電子数は5/4個であり、ダングリ
ングボンドは3本あるからAsダングリングボンド中に計15/4個(=5/4×3)の電
子がある。さらに,電子数が5/4個のGaダングリングボンドも3本存在するた
めGaダングリングボンド中に計9/4個(=3/4×3)の電子がある。従って、これら
を合計すると6個(=15/4+9/4)となり、Asダングリングボンドが必要とする電子
数を満たすため、
Ga-vacancy表面は安定していることがわかる。
ECMの具体的な計算方法を上述したが、既知の表面に新たな原子を吸着させ
た表面の
ECM
はより簡単な方法で求めることができる。ここでは例として、
前述したGa-vacancy表面にSi原子を吸着させた場合のECMをこの方法を用い
て考える。このとき、新たにsi原子を扱うが図2.3よりSi原子のダングリング
ボンドを空にして、
As原子のダングリングボンドを満たすようにECMを適用
する。
2.4.1節よりGa-vacancy表面はECMを満たしていて,過剰な電子数はoであ
る。そこにSi原子が吸着する。まず、このときsi原子吸着により必要となる
電子数を検討する。
siの吸着により、図2.5(b)に示す表面にはSi原子吸着によ
I:.蛮人J'ii]:人草院
1-.学研究科
25
り3本の新たなボンドが現れる。これらのボンドはGa-vacancy表面に元々あっ
た2個の電子をもっている
Asダングリングボンドによって形成されるため、
si原子のダングリングボ
si原子吸着により新たな電子は必要としない。また、
ンドも形成されるが、上述した理由によりダングリングボンドは空になる。従
って、
Si原子吸着により必要となる電子数はoである。一方、
si原子吸着によ
り供給される電子数はsi原子の価電子数4である。従って、Si原子が吸着した
Ga-vacancy表面は過剰な電子数が4(=4-0)となり、エレクトロンカウンティング
を満たさないoすなわち,
si原子が吸着したGa-vacancy表面は不安定な表面構
造であることがわかる。
エレクトロンカウンティングを満たすた
めに必要な電子数
3×2-6
ボンドとして使用されていない電子数
3/4×3+5/4×3-6
(a)
si原子吸着により新たに必要となる電子数
0+0-0
si原子吸着により新たに供給される電子数
4
+Ga
図2.5
@As+SI'
(b)
(a)Ga-vacancy表面におけるGa、
Asダングリングボンドの模式図
(b) Si原子が吸着したGa-vacancy表面における新たな結合手とsiダン
グリングボンドの模式図
:_重大苧^一字院
.卜学研究科
26
第3章
結晶成長条件下におけるGaAs(Ill)A表
面構造
反射高速電子線回折(RHEED)およびsTMの実験結果からGaAs(111)A表面に
おいてはS.Y.TongらがGa-vacancy表面を観測しており、一方J.M.C.Thornton
らはAs三重体安定化面(As-trimer表面)を観測している【26,27]。また、理論研
究においてもN.
Moll等が計算した表面エネルギー状態図により、これらの面
が安定となることを示している。本章ではGaAs(111)A表面の表面エネルギーを
計算することにより計算の妥当性を検証し、さらに、気相中の化学ポテンシャ
ルを考慮した表面構造状態図により、成長条件下におけるGaAs(111)A表面構造
を決定する。
3.I
GaAs(111)A表面構造
複数の表面構造において原子数が異なる場合には、各表面構造の全エネルギ
ーを直接比較して表面構造の安定性を議論することはできない。そこで、基準
とした表面構造に対して各表面構造における表面エネルギーのエネルギー差を
計算して,表面構造の安定性を検討する.本研究では、
GaAs(111)A-(2×2)理想
(ideal)表面から1個のGa原子を取り除いたGa-vacancy表面を基準とし、図
3.1(a)-(c)に示すようなGa-vacancア表面、
ideal表面に3個のAs原子が吸着した
As-trimer表面,およびideal表面の各表面に対して表面エネルギー差を計算し、
その化学ポテンシャル依存性を考慮して表面構造状態図を作成する。
各種GaAs(111)A表面における表面エネルギー差を図3.2に示す.図におい
て横軸の値は、
As原子の化学ポテンシャルとバルク
Asの化学ポテン
シャルの差(〃As-〃As(bu.k))であり,その差が大きい場合はAsが欠乏した
状態を表し、その差が小さい場合は
基準表面としたGa-vacancy表面は、
As
FLAs
が過剰な状態を表している。
-FLAs(bulk)に対して常に表面エネルギー
差oで一定である。
:.重大苧人草院
l二学研究村
27
また、図3.3にN.Moll等が計算した状態図を示す【4】。図3.2と図3.3の状態
図とも,
As過剰状態では
As-trimer表面のエネルギーが低くなり、安定とな
る。一方、As欠乏状態ではGa-vacancy表面が安定であることを示している。
これは実験においてGa-vacancy表面が示されていることおよび非常に高いAs
圧下ではAs-trimer表面が示されていることと一致する。従って,本研究の表面
N.Mollらの計算結果および実験結果と定性的に一致し
エネルギー計算結果は、
ており,本研究で用いたGGA近似の第一原理計算に基づく表面エネルギー計
算結果の妥当性を示している。
<
憩
+
●
夢
▲
笹
谷
●
昏
●
撃●
+;,-=. や+.
I
.
●
1&
@
鮭
:二-:-:
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▲
三。-:I
4'
●!-_
._こ
●ざt一三●;T
療
齢■
1
(112)
▲
▲
⑳・●
●せ●専J ●、ヰ:I
●f3
⑳
●⑳
●⑳
●⑳
.=
L轡-〃㌔-▲轡屯
こl.....J
●
●
:ヨ■■■Fつ-
(a)
Ga-vacancy
■
●
■こ
(b)
こi■己I
▼
1yl''ll
+-軒-^海・
こ
●
-w・-
-も野-----4qw-;-i^
(c)
As-trimer
図3.1表面エネルギー計算に用いたGaAs(111)A各表面構造
:.垂人学大学院
LA.学研究科
ideal
---・・-㌔
--{-''
28
′■ヽ
15
.a
篭1.
j5
ql
io
宏
一5
h
-10
〃As-〟As(bulk)
(eV)
図3.2表面エネルギー計算によるGaAs(111)A表面構造状態図
′一■\
tq
管
d)
≡
ヽ_′
8
i
60
hi=h:
50
4(I
-0.6
-0.4
-0.
2
0. 0
(eV)
LLAs一帖軸dk)
図3.3N.Mollらが行った表面エネルギー計算によるGaAs(111)A表面構造
状態図
:.串人I、;::人一、;;:院
1-_L、iヱ:研ノJ)t不こト
29
3.2
GaAs(Ill)A表面上のGa原子の吸着
前節で示した表面エネルギー計算およびRHEED、
られている
GaAs(111)A
STMの実験結果から考え
表面における安定な表面構造は図
3.1(a)に示す
Ga-vacancy表面である【26128].従って、成長条件下においてもGa-vacancy表面
構造は出現すると考えることができる。結晶成長過程を考えるとGa-vacancy表
面はGa原子欠陥サイト【Ga-vacancyサイト】を持つので、
GaAs格子を保持する
ためには、このサイトをGa原子が占めることが不可欠である。
Taguchiの計算
によるとGa原子1個を表面に吸着させた場合Ga-vacancyサイトは最安定サイ
トにはならないが、
Ga原子,
As原子それぞれ1個ずつを表面に吸着させた場
合、 Ga-vacancyサイトはGa吸着原子にとって最安定サイトとなることが明ら
かにされている【29]。そこで、まず表面構造状態図により、
Ga-vacancy表面に
おけるGa原子の吸着を検討する。
Ga原子の吸着サイトはTaguchiの計算により最安定となったGa-vacancyサイ
【29]図
トを含めることにより形成される六員環の中心サイトを採用する。
はGa雰囲気下でのGa-vacancy表面構造におけるGa原子の吸着・脱離を温度
3.4
およびGa圧の関数として示したものである。この図からGa雰囲気下において
温度450-640K
以下ではGa原子が吸着し、温度450-640K
が脱離することがわかる。従って,図
以上ではGa原子
から実験により報告されている
3.4
Ga原子はGa-vacancyサイトに吸
GaAs(111)A表面の成長温度890Kにおいて、
着しないことがわかる。
しかしながら、表面に過剰に存在するAs原子を考慮するとGa原子が吸着し
やすくなることがわかる。図3.5はGa雰囲気下でのAs原子1個が吸着した
Ga-vacancy表面(As+Ga-vacan、cy表面)におけるGa原子の吸着・脱離を温度およ
びGa圧の関数として示したものである。この図は,
Ga雰囲気下において温度
以上ではGa原子が
910-1300K以下ではGa原子が吸着し、温度910-1300K
脱離することを示している.さらに、実験により報告されている
表面の成長温度
890Kにおいては,
Ga原子は
As+Ga-vacancy表面において
Ga-vacancyサイトに吸着することがわかる。この結果はAs原子がGa吸着を促
進するセルフサーファクタント効果によるものであると考えられる。
三重人′軍人学院
GaAs(111)A
r-_学研究科
30
表3.1はGa-vacancy表面およびAs+Ga-vacancy表面におけるGa原子の吸着
エネルギーを示したものであり、セルフサーファクタント効果の指標となるも
のである。この表から、
Ga原子の吸着エネルギーが表面に存在するAs原子に
よって1.9eVも変化し、表面がより吸着しやすくなっていることが判る。さら
に、この吸着エネルギーの増大により、Gaが吸着した表面の安定領域が拡大し
ていることも理解できる。As原子による吸着エネルギーの変化は以下に説明す
るECMによって解釈可能である。
Ga-vacancy表面においてはECMを満たす(zbef。r。=0)のに対し,As+Ga-vacancy
表面においてはAs原子のダングリングボンドに1個の電子が存在し,
満たすためには3個の電子が不足している(zbef.re=13).一方、
ECMを
Ga原子吸着後の
ideal表面およびAs原子が1個吸着したideal表面(As+ideal表面)においては、
それぞれGaダングリングボンドに3個(zaft。r=+3)およびo個(zaft。.=0)の電子が
過剰に存在する。従って,吸着前後での表面ダングリングボンドに存在する電
子数におけるECMからの差の絶対値変化△z(=lZaft。rl-1Zb。f。r。l)は、
Ga-vacancy表
面およびAs+Ga-vacancy表面では、それぞれ+3および13となり、As+Ga-vacancy
表面が小さい。このようにGaAs(001)表面の場合と同様に,
着エネルギーは小さくなり,その結果、
大したものと考えられる。
Ga原子が吸着した構造の安定領域が拡
【2]
三毛大J-?:入学院
△zが小さいため吸
Tl学研究科
31
10
8
10
Ga
6
10
4
【torr]
pressure
図3.4Ga-vacancy表面におけるGa原子吸着・脱離の表面構造状態図
10
8
10
Ga
6
10
pressure
4
[torr]
図3.5As原子吸着後のGa-vacancy表面(As+Ga-vacancy表面)におけるGa原子吸
着・脱離の表面構造状態図(As2雰囲気下)
三毛大学人学院
1二学研究科
32
表3.1
(a) Ga-vacancy表面および(b)
As+Ga-vacancy表面におけるGa原子の吸
着エネルギー
吸着原子
(a)
GaonGa-Vacancy
(b)
GaonGa-vacancy+As
3.3
吸着エネルギー【eV]
-1.69
-3.56
GaAs(111)A表面におけるAs-trimerの形成
前節ではGa-vacancyサイトへのGa原子の吸着を示した。しかし、
As+ideal
表面におけるAs原子の吸着位置は本来のGaAs格子サイトからずれているため,
このままでは本来の規則正しい結晶成長を維持することはできない。本来の格
子位置にAs原子が吸着した表面として、この表面にさらに2個のAs原子が吸
着したAs-trimer表面を考える.本節では成長条件下において、
As+ideal表面か
らAs-trimer表面が形成されるかを表面構造状態図に基づき検討する0
まず、
As+ideal表面における1個のAs原子の吸着・脱離を検討する。図
3.6はAs+ideal表面におけるAs吸着サイトを示す。最表面のAs原子と未結合
のGa原子の上(サイトA)、最表面のAs原子と結合しているGa原子2個と結
合している表面第3層As原子の真上(サイトB)、Ga-vacancyサイトに吸着した
Ga原子の上(サイトc)、六員環の中心(サイトD)、
Ga-vacancyサイトに吸着し
たGa原子を含む六員環の中心(サイトE),第2層のGa原子の真上(サイトF)、
および最表面のAs原子と結合しているGa原子3個と結合している表面第3層
As原子の真上(サイトG)の7つのサイトを初期吸着サイトとして考慮し、各構
造の全エネルギーを計算し、吸着サイトを設定した。図3.7はAs+ideal表面に
As原子を吸着させた場合の全エネルギーをサイト
Aを基準に表したものであ
る。計算の結果サイトcが最安定サイトという結果が得られた。この結果は2
個のAs原子がdimerを形成することによりECが十1となる安定な表面構造をと
るためであると考えられる。この結果を用いて、成長条件下におけるGa-vacancy
表面構造にGa原子とAs原子がベアになって吸着した表面構造へのAs原子の
サイトFに対する吸着および脱離を表面構造状態図に基づき作成し、検討する。
三重大学大学院
:r.学研究科
33
図3.8はAs2雰囲気下でのAs+ideal表面におけるAs原子の吸着・脱離を温度
およびAs圧の関数として示したものである。
As2雰囲気下において温度735以上ではAs原子が脱離す
963K以下ではAs原子が吸着し,温度735-963K
ることがわかる。従って、図3.8より実験により報告されているGaAs(111)A表
面の成長温度890Kにおいて、
As原子は高As圧下で吸着し、低As圧下で脱離
することがわかる。さらに、この表面(2As+ideal表面)に1個のAs原子の吸着・
脱離を検討する。図3.9はAs2雰囲気下でのにおける2As+ideal表面に1個の
As2
As原子の吸着・脱離を温度およびAs圧の関数として示したものである。
雰囲気下において温度1420-1830K
1830K
以下では
As原子が吸着し、温度1420-
以上ではAs原子が脱離することがわかる.従って、図3.9より実験に
より報告されているGaAs(111)A表面の成長温度890Kにおいて、
サイトに吸着し、
As原子はAs
As-trimerを形成することがわかる【30】。
図3.10に3章で述べた結果をまとめた状態図を示す。
As2雰囲気下において
温度735-940K以下ではAs-trimer表面構造が出現し,温度735-940K
940K以上ではGa-vacancy表面が出現
940K以下ではAs+ideal表面が出現し、
する.従って、図3.10より実験により報告されているGaAs(111)A表面の成長
温度890Kにおいて、
し、 10
As原子は、
10-4Iorr以上のAs圧下でAs-trimer表面が出現
4lorr以下のAs圧下でAs+ideal表面が出現することがわかる。この結果
から4章では、低As圧下におけるSi原子の吸着・脱離を検討する際の表面構
造はAs+ideal表面を採用し、高As圧下におけるsi原子の吸着・脱離を検討す
る際の表面構造はAs-trimer表面を採用する。
一三重大苧大学院
T_学研究村
以上
34
チ
1.2
\_■′
1
4)
dJ
U
0.8
岳 0.6
責
0.4
苛
8.2
替
0
岳
-■
ed
-
a
図
3.6
吸着サイト
図3.7Ga-Asベアが吸着した
Ga-vacancy表面構造に
Ga原子とAs原子がベアになっ
GaAs(111)A
て吸着した表面構造における
各サイトへ
吸着サイト
た場合のAサイトを基準とし
Ga-vacancy表面の
As
原子を吸着し
た全エネルギー差
冒
[空甲ワモ
C)
h
ゴ
葛
阜ペ
¢
A
ヨ
B
10-8
10-(,
As2
101ヰ
Pressure
【torll]
図3.8As+ideal表面におけるAs原子の吸着・脱離に対する表面構造状態図
(As2雰囲気下)
二重大17二人学院
T/、芦研'')t}i村
10-2
35
2800
宣2400
巴2000
#
1L:nn
恕ー2Adl表面
=⊥ZU
旨80
B40
0
10ー8
As2
10-6
10-4
Pressure
【toIT]
図3.92As+ideal表面におけるAs原子の吸着・脱離対する表面構造状態図
(As2雰囲気下)
980
冒94O
i A
屯)
E空
900
ヨ 860
1j
空 820
む
a
白
a
780
740
700
10ーB
10
10
6
As空p1・eSSure
【torr]
図3.10GaAs(111)A表面における表面構造状態図(As2雰囲気下)
一三重大学人学院
工学研究科
4
10
2
36
第4章
表面構造状態図に基づくGaAs(Ill)A表
面におけるSiドーピング機構
GaAs(111)A表面はsi原子をドーピングすることにより、両性(p曹
にもなる性質)を示す.
型になり、
4.8×1016Iorr以下の一般的なMBE成長条件においてはp
4.8×1016lorr以上の高As圧下においてはn型になることは実験によ
り示されている【6].しかし、
p型およびn型を示す表面構造および成長初期過
程ともに明確に示されていない。そこで、気相中の化学ポテンシャルを考慮す
ることにより、成長条件下を考慮した表面構造状態図を用いてβ型および〃型
を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)』表面の成長初期過程を議論し、表面
構造を決定する。さらに、
As圧依存性に注目して、表面エネルギーを用いて表
面構造状態図により決定したp型およびn型を示す表面構造の妥当性を検討す
る。
4.1低As分子線圧力下GaAs(Ill)A表面でのSiドーピング機
構
3.3節より通常のMBE成長過程においてGaAs(111)A表面はAs+ideal表面を
とることがわかる.p型を示すsiドーピングを行ったGaAs(Ill)A表面の結晶
成長も同様の成長環境で行われるため、
As+ideal表面が現れると考える。本節
ではAs+ideal表面からp型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面に至
るまでの成長初期過程を成長条件を考慮した表面構造状態図を用いて検討する。
4.1.1Gaおよびsi原子の吸着・脱離
表面上においてSi原子は非常に少ないため、まずAs+ideal表面におけるGa
原子の吸着・脱離を検討する。まず、
Ga原子の吸着サイトを図3.6に示す各サ
イトにおいて全エネルギーを計算して検討し、最も全エネルギーが低くなった
I.重大苧人学院
T.学研究科
37
サイトをGa吸着サイトとして決定する。図
4.1はAs+ideal表面にGa原子を吸
着させた場合の全エネルギーをサイトAを基準に表したものである。計算の結
果最表面のAs原子と2層目のGa原子とボンドを形成したサイトBが最安定サ
イトという結果が得られた。この結果を用いて、成長条件下におけるAs+ideal
表面へのGa原子のサイトBに対する吸着および脱離を表面構造状態図を作成
し、検討する。
図4.2はGa雰囲気下におけるAs+ideal表面におけるGa原子の吸着・脱離を
温度およびGa圧の関数として示したものである。Ga雰囲気下において温度590
-830K
以下ではGa原子が吸着し、温度590-830K
以上ではGa原子が脱離す
ることがわかる。従って、
Siドーピングを行ったGaAs(111)A表面の成長温度
領域は770-870Kなので、
Ga原子はAs+ideal表面に吸着しないことがわかる.
【6]従って、
Ga原子はAs+ideal表面に吸着しないため、通常のMBE成長条件
下において成長が進行するにはSi原子がAs+ideal表面に吸着することが不可
欠である。そこで,
As+ideal表面へのSi原子の吸着・脱離を検討する。まず,
吸着サイトを決定する。
Si原子の吸着サイトを図3.6に示す各サイトにおいて
全エネルギーを計算して検討し、最も全エネルギーが低くなったサイトを
si
吸着サイトとして決定する。
図4.3はAs+ideal表面にsi原子を吸着させた場合の全エネルギーをサイトA
を基準に表したものである。計算の結果サイト最表面のAs原子および2層目
のGa原子とボンドを形成するサイトFが最安定サイトという結果が得られた。
この結果を用いて、成長条件下における
As+ideal表面へのサイト
F
に対する
Si原子の吸着および脱離を表面構造状態図に基づき作成し,検討する。
図4.4はsi雰囲気下でのAs+ideal表面における
およびsi圧の関数として示したものである.
1630K
Si雰囲気下において温度1160-
以下ではSi原子が吸着し、温度1160-1630
ることを示している.従って、
は
Si原子の吸着・脱離を温度
770-870K
なので、
以上ではSi原子が脱離す
Siドーピング表面のGaAs(111)A成長温度領域
Si原子は
As+ideal表面に吸着することがわかる.義
4.1(a),(b)は、それぞれAs+ideal表面におけるGa原子の吸着エネルギー,
子の吸着エネルギーを示したものである。表4.1(b)に示すAs+ideal表面に対す
るsi原子の吸着エネルギーは表4.1(a)に示すAs+ideal表面に対するGa原子の
I:.重大苧大学院
z'.学研究村
si原
38
吸着エネルギーより、
2.2eV小さくなっている。そのため、
As+ideal表面にお
けるSi原子はAs+ideal表面におけるGa原子よりも吸着しやすい状況にあり、
結果として境界温度が高くなり、成長温度においてもsi原子は吸着すると考え
られる。これはAs+ideal表面にGa原子が吸着した表面は、それぞれエレクト
ロンカウンティングが+1となるが、si原子が吸着した表面はエレクトロンカウ
ンティングがoになるためより安定した表面を形成すると考えられる0
1.2
1
宣
0
4)
0
冒
.8
.6
貞 0 .4
:召
0 2
昏
6
=コ
亡8
0
0.2
F!巴
B
0.4
吸着サイト
図4.1
As+ideal表面の各サイトへGa原子を吸着した場合のAサイトを基準と
した全エネルギー差
T・-_重大学大学院
f'.学研究科
39
10
Ga
6
10
pressure
4
【torr]
図4.2As+ideal表面におけるGa原子の吸着条件
宣
U
0.8
;
責
守
1
0.6
0.4
昏
0.ヱ
6
====1
E弓
0
巴≡:
B
-0.2
-0.4
吸着サイト
図4.3
As+ideal表面の各サイトへSi原子を吸着した場合のAサイトを基準と
・'.貴大学大子院
1-.学研寛刑
40
した全エネルギー差
10ー8
10-6
Si pressure
10
10-4
[torr]
図4.4As+ideal表面におけるSi原子の吸着条件
表4.1
As+ideal
(a) As+ideal表面におけるGa原子の吸着エネルギーおよび(b)
表面におけるSi原子の吸着エネルギー
吸着前/吸着後
(a)
GaonAs+ideal
(b)
SionAs+ideal
4.1.2
吸着エネルギー[ev]
-2.26
-4.50
Si・2Astrimerの形成
前節までに通常のMBE成長条件下においてAs+ideal表面において、
卜、.:・'二川ノJ)t'.
fごL
・ド)(-;'ノ\、∵j′ニ!;`;i
Si原子
2
41
が吸着することが明らかとなった。本節ではさらにAs+ideal表面に
si原子が
吸着した表面(si+As+ideal表面)にAs原子の吸着を考慮することにより、trimer
の形成について検討する。図4.5はAs2雰囲気下におけるSi+As+ideal表面にお
けるAs原子の吸着・脱離を温度およびAs2圧の関数として示したものである。
As2雰囲気下において温度1150-1490K以下ではAs原子が吸着し、温度1150
-1490K以上ではAs原子が脱離することを示している.実験により報告され
ている
Siドーピングを行った
770-870Kなので、
GaAs(111)A
表面における成長温度領域は
As原子はsi+As+ideal表面に吸着し,低As圧下においても
trimerを形成することがわかる[6】。
4.1節で議論してきたp型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面にお
ける成長初期過程について図
4.6
を用いて確認する.低
As+ideal表面上にSi原子が吸着し、
As
圧下においては
si+As+ideal表面を形成する。その後さら
にAs原子が吸着し、trimerを形成したsi+2As+ideal表面が現れることを表面構
造状態図によって明らかにした。
10
8
10
6
A艶PreHure
図4.5
10
4
[torr]
Si+As+ideal表面におけるAs原子の吸着条件(As2雰囲気下)
!りご 卜、;::榊`たf:ト
7T: )、丁・-;:-人∵;::
42
==コ
As+ideal
図4.6
Si+2Ås+ideal
Si+As+idea(
低As庄下におけるSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面成長初期過
梶
高As分子線圧力下GaAs(Ill)A表面でのSiドーピング
4.2
4.1節と同様に3.3節の表面構造状態図を参考にすると、高As圧下のMBE
成長過程においてGaAs(111)A表面はAs-trimer表面をとることがわかるo
n型
を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面の結晶成長も同様の成長環境で
行われるため、
As-trimer表面が現れると考える.本節ではAs-trimer表面からp
型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面に至るまでの成長初期過程を
成長条件を考慮した表面構造状態図を用いて検討する。
4.2.1
As・trimerの移動
Ⅳ族である
n型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面において、
Si
原子の吸着サイトはⅡ族であるGa原子の格子サイトにならなければならない。
(a)】において、
3.3節より高As圧下において現れるAs-trimer表面[図4.8
子の格子サイトは存在しない。そこで、
As-trimer表面【As-trimer'表面:図4.8
すると、
Ga
原子の格子サイトが存在する
(b)】とAs-trimer表面の全エネルギーを比較
As-trimer'表面の全エネルギーは
As-trimer表面の全エネルギーより
o.o8eV高いだけである。従って、エネルギー差がほとんどないため、表面上に
f卜](I;J''ノ、:一;いノ」. i- 、;p桝'J;tlll
Ga原
43
(a)
図4.8
(b)
(a) As-trimer表面(b)As-trimer'表面
おいては,
4.2.2
As-trimer'表面を形成し得ることが考えられる。
Si原子の吸着・脱離
4.2.1で示したAs-trimer'表面におけるAs-trimerの中心上のサイトはGaサイ
トであり、
si原子が吸着することにより
GaAs(111)A表面はn型を示す.この
サイトにおけるSi原子の吸着・脱離を成長条件を考慮した表面構造状態図を用
いて議論する。図4.9はsi雰囲気下におけるAs-trimer'表面におけるSi原子の
吸着・脱離を温度およびsi圧の関数として示したものである。Si雰囲気下にお
以下ではSi原子が吸着し、温度865-1221K以上ではSi
いて温度865-1221K
原子が脱離することがわかる。実験により報告されているSiドーピングを行っ
た
GaAs(111)A
表面における成長温度領域は
As-trimer'表面に吸着し,
n
型
770-870K
なので、
Si原子は
層を形成することがわかる【6].これは
GaAs
As-trimer'表面に対するSi原子の吸着エネルギーは-3.3eVで小さく,
Si吸着後
のAs-trimer'表面(si+As-trimer表面)ではECを満たし、安定した表面となるた
めである。
4.2節の結果より,高As圧下においてはAs-trimer'表面の中心上に
si原子が吸着することにより,
〃
型
GaAs層を形成することが考えられる(図
4.10)0
A-.事大苧大学院
I二号研究科
44
10
8
10
Si
6
10-i
pressure
[torr]
図4.9As-trimer'表面におけるSi原子の吸着条件
ー・ー
図4.10
高As圧下におけるSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面成長初期過
程
A-.東大苧大学院
IA.学研究村
45
4.3
SiドープGaAs(Ill)A表面の安定性
温度およびAs圧を関数とした表面構造状態図を用いて,
4.1および4.2で、
それぞれp型およびn型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面におけ
る成長初期過程を議論してきた。これらの結果は
siドーピングを行った
GaAs(Ill)A表面における通常のMBE成長条件においてはp型を示し,高As
圧MBE成長条件においては〝型を示すという特徴とよく一致した。この特徴
は,表面エネルギーを評価することでも定性的に議論することは可能である.
そこで,本節では、
4.1節および4.2節で作成した表面構造状態図の妥当性を
2.2節で説明した表面エネルギーおよび化学ポテンシャルを用いることにより
4.1節および4.2節で作成し
As圧依存性を考慮した表面構造状態図を作成し、
た表面構造状態図による結果の妥当性を検討する。
図4.11は4.1節で議論したp型を示すsi+As+ideal表面、
si+2As+ideal表面、
および4.2で議論した〝型を示すsi+As-trimer表面における基準表面に対する
表面エネルギー差を示したものである。図3.2に示すGa-vacancy表面と同様に
基準表面としたsi+As+ideal表面は,〟As-〟As(bulk)に対して常に表面エネルギー
差oで一定である.図4.11より左端からFLAsIFLAs(bulk)を大きく
していくと
〟As-〝As(bulk)=-0.6【eV】付近でSi+As+ideal表面よりもsi+2As+ideal表面が安定
な表面構造となり、さらにFLAs-FLAB(bulk)が増大するとFLAs-FLAs(bulk)=10.4[eV]
付近でSi+2As+ideal表面よりもsi+As-trimer表面がエネルギー的に有利となり,
安定な表面構造となることがわかるo
これより、
FLAB-FLAs(bulk)≧-0.6[eV]で
p
型を示す表面構造はsi+As+ideal表面からsi+2As+ideal表面に変化すること、
およびFLAsIFLAs(bu一k)≧-0.4[eV]においてp型からn型になることがわかり、
ドーピングを行ったGaAs(111)A表面は一般的なMBE成長条件においてはp
型になり,高As圧下においては〝型になるという実験結果とも定性的に一致
する。したがって、成長条件下でsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面にお
いて,
4.1節および4.2節で表面構造状態図を用いて検討したp型の場合は
si+2As+ideal表面が現れるという結果および〃型の場合はsi+As-trimer表面が
現れるという結果は妥当であると考えられる。
二事大学-A-学院
1'.学研究科
Si
46
寄LO
声
q?
己
=o
tJ
隻
司
叫
hLO
ー20
-0.8
-0.6
-0.4
FLAs・FLAs(bulk)
・0.2
(ev)
図4.11表面エネルギー計算によるSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面構造
状態図
:_事大学大学院
r.学研究科
0.0
47
第5章
統括
本研究は,
GaAs(Ill)A表面およびsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面に
対して、表面構造の安定性、分子線圧力と温度変化による表面構造状態図の作
成,および表面構造状態図から各表面における薄膜成長初期過程について検討
したものである。
具体的に,
表面においては,
GaAs(111)A
As
原子の化学ポテンシャル
FLAs-FLAs(bulk)に対して各表面構造がもつ表面エネルギーを計算して、表面構造
の安定性を議論し、N.Moll等の実験と比較することにより、計算の妥当性を確
認した[4].さらにKangawa等によって提案された手法を拡張し、温度および分
子線圧力の関数としてGaAs(111)A表面構造状態図を作成し、
Taguchi等の研究
を考慮してGaAs(111)A薄膜成長初期過程について議論を行った[29].
n型およびp型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面においては、
それぞれ
表面構造状態図により明らかとなった表面構造を基に複
GaAs(111)A
数の吸着サイトにおける全エネルギー計算およびTaguchi等の研究を考慮する
ことにより、
GaAs(111)A表面と同様の手法で作成した表面構造状態図を用いて、
成長初期過程について議論した【11】。さらに表面構造状態図により明らかにさ
れた各表面構造に対して
GaAs(111)A
表面と同様の手法で表面エネルギーを計
算して実験結果と比較することにより,表面構造状態図による成長初期過程の
議論に対する妥当性を明らかにした。以下に、得られた結果を総括する。
(1) GaAs(111)A表面構造の安定性
GaAs(111)A表面構造はN.
Moll等によって表面エネルギー計算が行われてお
り、本研究の表面エネルギー計算結果と比較している。本研究の計算結果はAs
原子の化学ポテンシャルが低い領域ではGa-vacancy表面構造が、高い領
域ではAs-trimer表面構造が安定となり,N.Moll等によって表面エネルギー計
算と定性的に一致し、本研究の計算結果の妥当性が示されている.
(2) GaAs(111)A表面における成長初期過程
:A.電大1'F人学院
f二)-;i]・'研究科
48
実験結果から考えられている
GaAs(111)A
表面における安定な表面構造であ
るGa-vacancy表面構造に対して、成長条件下においてGa原子は単体では吸着
できないが、
As原子とGa原子が同時に吸着することにより吸着できることが
表面構造状態図によりわかる.これは△z(=lZafte,L-1Zbef.rel)を考慮することにより
解釈することができ、
As
原子がセルフサーファクタント原子として振る舞い
原子の吸着を促進したことを示している。さらに表面構造状態図を用いて
Ga
As原子の吸着・脱離を考慮すると、低As圧下においてはAs+ノideal表面が出現
するのに対し、高As圧下においてはAs+ideal表面にさらに2個のAs原子が吸
着し,全ての原子がGaAs格子サイトに収まったAs-trimer表面が安定な表面構
造となることがわかる。
(3)p型を示すsiドーピングを行ったGaAs(Ill)A表面における成長初期過程
p型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面の結晶成長は通常のMBE
成長条件で成長が進むためGaAs(111)A表面と同様の成長環境で行われる.従っ
て,低As圧下においてはGaAs(111)A表面構造状態図からAs+ideal表面が現れ
ると考える。このAs+ideal表面に対して表面構造状態図を用いてGaおよびsi
原子の吸着・脱離をそれぞれ検討すると、
si原子が吸着した表面(si+As+ideal
表面)が現れることがわかる。これはAs+ideal表面にGa原子が吸着した表面は、
それぞれECMが+1となるが,
si原子が吸着した表面はECMがoになるため
より安定した表面を形成すると考えられる。また、
個の
si+As+ideal表面にさらに1
As原子の吸着を考慮して表面構造状態図を作成すると、成長条件下にお
いてはsi+As+ideal表面に1個のAs原子が吸着し、
trimerを形成することがわ
かる。
(4)n型を示すsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面における成長初期過程
高As圧領域においてSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面はn型を示す
ことが知られているが、
トは存在しない。そこで、
GaAs(111)A表面(As-trimer表面)にGa原子の格子サイ
As-trimerの中心上にGa原子の格子サイトが存在す
るAs-trimer'表面とAs-trimer表面の全エネルギーを比較するとはぼ一致したた
め,
As-trimerの移動が考えられる。このAs-trimer'表面に表面構造状態図を用
いてSi原子の吸着・脱離を検討すると、
三毛大学人苧院
Ga原子の格子サイトにsi原子が吸着
7二号研究科
49
し、 GaAs(111)A表面はn型を示すことがわかるo
この原因はSi原子が吸着し
たAs-trimer'表面のECがoとなり、安定した表面を形成するためであると考え
られる。
(5) SiドープGaAs(111)A表面構造の安定性
表面エネルギーを比較することにより本研究の
Siドーピングを行った
GaAs(111)A表面における表面構造状態図の妥当性を検討すると、化学ポテ
ンシャルFLAsIFLAs(bulk)がFLAs-FLAs(bulk)≦-0.6[eV]ではSi+As+ideal表面がエ
ネルギー的に有利となり、
-o.6[eV]<pAsIFLAs(bulk)≦1-0.4[eV]では
si+2As+ideal表面がエネルギー的に有利となり,
では
FLGa-FLGa(bulk)>
-0.4[eV]
si+As-trimer表面が安定となる。この結果は一般的なMBE成長条件に
おいてはp型になり、高As圧下においてはn型になるという実験結果と定
性的に一致し、本研究のSiドーピングを行ったGaAs(111)A表面における表
面構造状態図の妥当性を示している。
以上の結果から,
siドーピングを行ったGaAs(111)A表面はまずAs圧に依存
してGaAs(111)A表面の表面構造が変化し、表面構造が変化することにより
原子の吸着サイトも変化し、伝導型が決定することが明らかとなった。これら
の結果は、実験結果と定性的に一致、あるいは実験結果に示唆的な解釈を与え
るものであり、
siドーピングを行ったGaAs(Ill)A表面の成長メカニズムの解
明に対する有用性を示すものである。
:A.看人J'声大'}i:・'院 王二子研究科
Si
50
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Farrell,
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S.Y.
Tong,
27)
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Wool,
K.
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Ito,
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Shiraishi
Ito,
Y・
S°i. 507
S.
Hiraoka,
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285.
∫. P. Ⅲarban,
A・
D.
andL.
Xu
S°i.
Haberern
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Kangawa,
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Westwood,
R.H.
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:.素人苧大学院
r-.学研究科
Phys.
Lett.
52
謝辞
本研究を進めるにあたり,終始,多大な御教示を賜りました伊藤智徳教授、中
村浩次準教授、秋山亨助教には大変お世話になり、深く感謝の意を表します。
また、研究室の皆様にも大変お世話になりました。改めて感謝致します。
二電人草大学院
t'.J111?:研究科
53
付録A
As分子線圧力下GaAs(111)A表面でのSiドーピング
今回の論文では高As圧領域においてsiドーピングを行ったGaAs(111)A表面
はAs-trimer'表面のAs-trimerの中心上にsi原子が吸着することにより〃型を示
すことを示した。一方、本節では成長過程においてAs-trimer'表面からGa原子
の格子サイトが存在するGa-vacancy表面が現れることをECにより示唆し、成
長条件下を考慮した表面構造状態図を用いてGa-vacancyサイトにおけるSi原
子の吸着・脱離を検討する。
A.1高As分子線圧力下GaAs(Ill)A表面における結晶成長過
程
本節では4.2.1で示されたAs-trimer'表面(図A.1)からGa-vacancy表面まで
の成長過程を
ECを用いて検討する。ただし、結晶成長過程を検討すること
からGa、As原子はそれぞれGaAs原子の格子サイトに吸着する場合のみを考
慮する9
まず、
As-trimer'表面に対して、
1個のGa原子が六員環の中心サイトに吸
着した表面構造【Ga+As-trimer表面:図A.2(a)】、
As-trimerの中心上に吸着した
表面構造【Ga'+As-trimer表面:図A.2(b)】、および1個のAs原子がAs-trimer'
表面に存在する唯一の
Asサイトに吸着した表面構造【As+As-trimer表面:図
A.2(c)】のECを比較する。図A.2に示すようにGa+As-trimer表面のECは+1
となり、
め、
oに近いた
Ga一+As-trimer表面およびAs+As-trimer表面の-3よりも
As-trimer'表面にまずGa原子が吸着し、
Ga+As-trimer表面が現れると考
える。これはGa+As-trimer表面はGa-Asボンドが5本と多く、
As-Asボンド
も2本あるため、
As+As-trimer
Ga'+As-trimer表面のGa-Asボンドのみ6本、
表面のGa-Asボンドが3本,
As-Asボンドが4本よりも安定した表面を形成
することがわかる。
次にボンドが多く存在する表面を考えると
Ga+As-trimer表面の
の中心上に吸着した表面構造【2Ga+As-trimer表面:図A.3(a)】および1個のAs
:.貴大学人学院
l-.学研究科
As-trimer
54
原子が
Ga+As-trimer表面に存荏する唯一の
As
サイトに吸着した表面構追
【As+Ga+As-trimer表面:図A.3(b)]が考えられ、これらの表面におけるECを比
較する。図
A.3
に示すように
As+Ga+As-trimer表面の
2Ga+As-trimer表面の+4より0に近いため、
は-2
EC
となり、
Ga+As-trimer表面にAs原子が吸
着しAs+Ga+As-trimer表面が現れると考える。これはAs原子を供給すること
によりダングリングボンドの数が増加し、表面にあった過剰な電子を解消し
たことによると考えられる。
最後に,
As+Ga+As-trimer表面において残った2つのGa原子の格子サイト
Ga
へそれぞれ
原子が吸着した表面構造を比較する。図
A.4
に示すように
As+Ga+As-trimer表面にGa原子が吸着してもAs-Asボンドが残っている表面
構造【As+2Ga+As-trimer表面:図A.4(a)]のECは+1となり、
表面に
Ga
原子が吸着することにより
As+Ga+As-trimer
ボンドを失った表面構造
As-As
【As+2Ga'+As-trimer表面:図A.4(b)】の-3よりもoに近いため,As+Ga+As-trimer
表面に
Ga
原子が吸着し
As+2Ga+As-trimer
表面が現れると考えられる。
As+2Ga+As-trimer表面はAs-Asボンドが残っているため、
っていない
As-Asボンドが残
As+2Ga'+As-trimer表面に比べて安定した表面を形成すると考え
られる。
従って、残ったGaサイトにGa原子を吸着することにより,
面が形成される。図A.5は以上の結果をまとめたものである。
-:.電大学人Jlfu:院
r二学研究科
Ga-vacancy表
55
図A.1
As-trimer'表面
EC:+1
(a)
EC:-3
(c)
図A.2
(a)Ga+As-trimer表面(b)Ga'+As-trimer表面(c)
二fTl:)こ・'i::人′lj::
!こニノ;!
、'′-
'先i;:i
lr-)rrL
As+As-trimer表面
56
EC:+4
(a)
図A.3(a)
2Ga+As-trimer表面(b)
As+Ga+As-trimer表面
EC:+1
(a)
図A.4(a)
As+2Ga+As-trimer表面(b)
As+2Ga'+As-trimer表面
:.
)\、
圭L,
fs.A.人'、i,I:
′1.;,'二享;I;I-:
・、i::研先手1l・
57
EC:0
EC:+1
=】
EC:-2
EC:+1
EC:0
図A.5
高As圧下におけるGaAs(111)A成長過程
二、
)、∴;二)(、i・'-抗
fT・.I
「
、;::糾′花車ごぎ・
58
A.2
Si原子の吸着・脱離
成長条件下におけるGa-vacancy表面へのSi原子のGa-vacancyサイトに対す
る吸着・脱離を表面構造状態図を作成し、検討する。図A.6(a)-(c)はそれぞれSi
雰囲気下におけるGa-vacancy表面、
(As+Ga-vacancy
表面)、
2
1個のAs原子が吸着したGa-vacancy表面
個の
As
原子が吸着した
表面
Ga-vacancy
(2As+Ga-vacancy表面)におけるSi原子の吸着・脱離を温度およびsi圧の関数
として示したものであるoAs原子の吸着サイトの決定方法はAs+Ga-vacancy表
面においては
Taguchi等により明らかにされた最安定吸着サイトを,
2As+Ga-vacancy表面においては2つのAs原子がAsサイトを占めるような場
合を
3つ考え、
Si原子が吸着できる表面で最安定になるものを採用した【8】。
si雰囲気下においてそれぞれ温度630-900K
、
下ではsi原子が吸着し、それぞれ温度630-900K
以上では
Si原子が脱離することがわかる。従って、
2As+Ga-vacancy
1340-1870K以
、1140-1600K、1340-1870K
GaAs(111)A成長温度領域は770-870Kなので、
よび
1140-1600K、
Siドーピング表面の
Si原子はAs+Ga-vacancy表面お
表面に吸着することがわかる。この結果は
3.2
Ga-vacancy表面におけるGa原子の結果と同様にAs原子がGa原子の吸着を促
進するセルフサーファクタント効果によるものであると考えられる。そこで,
3.2
と同様にセルフサーファクタント効果の指標として吸着エネルギーと吸着
前後での表面ダングリングボンドに存在する電子数の
ECMの絶対値からの差
の変化△zを用いて議論する。
表A.1(a),(b)および(c)は、それぞれGa-vacancy表面,
As+Ga-vacancy表面,お
よび2As+Ga-vacancy表面におけるSi原子の吸着エネルギーを示したものであ
る。表A.1(c)に示す2As+Ga-vacancy表面に対するSi原子の吸着エネルギーは
表A.1(a)および(b)に示すGa-vacancy表面およびAs+Ga-vacancy表面に対する
Si原子の吸着エネルギーより、それぞれ2.OeV、
ため、
2.8eV/トさくなっている。その
As+Ga-vacancy表面および2As+Ga-vacancy表面における
Si原子は
Ga-vacancy表面におけるsi原子よりも吸着しやすい状況にあり、結果として境
界温度が高くなり、成長温度においてもsi原子は吸着すると考えられる。次に
この吸着エネルギーの変化を解釈するために△z(=lZ。ft。rトIZb。f。r。l)について検討
二.車大学人学院
r-_I?:研究村
の
59
する。
si原子吸着前についてはGa-vacancy表面はECMを満たす(lZb。f。r。l=0)の
に対し、
As+Ga-vacancy表面および2As+Ga-vacancy表面においてはECMがそ
れぞれ-3(IZb。f.,el=3)および-4(IZbef.rel=4)である.一方、
si原子吸着後については
Si原子がGa一VaCanCyサイトに吸着したGa-vacancy表面(si+Ga-vacancy表面)、
Ga-vacancy
Si原子がGa-vacancyサイトに吸着したAs+Ga-vacancy表面(si+As+
表面)、およびsi原子がGa-vacancyサイトに吸着した
(si+2As+
2As+Ga-vacancy表面
Ga-vacancy表面)のECMは+4(Zaft。rJ=4)、
る.従って、
+1(ZafterJ=1)、
0(Zaf(e,J=0)であ
△Z(=1Zafte,A-lZbef.,。l)はGa-vacancy表面においては+4であるのに対
し、 As+Ga-vacancy表面および2As+Ga-vacancy表面では12、
-4と小さい.この
ように3.2に示すGaAs(111)A表面におけるGa原子の吸着と同様に△zが小さい
ため吸着エネルギーは小さくなり、その結果、
si原子が吸着した構造の安定領
域が拡大したものと考えられる。
As+Si+Ga-vacancy表面、
si+2As+
性を上述したECMの結果から考察する.
は+1,
Si+2As+
Ga-vacancy表面の相対的な表面構造の安定
Si+As+Ga-vacancy表面におけるECM
Si+2As+
Ga-vacancy表面におけるECMはoである。従って、
Ga-vacancy表面はsi+As+Ga-vacancy表面より安定であり、
As原子が2個吸着
するときにsi原子はGa-vacancy表面構造に吸着すると考えられる。この結果
を考慮するとGa-vacancyサイトへの原子の吸着は通常MBE成長条件のp型の
ときにはAs原子が1個吸着するときに起こり、高As圧MBE成長の〃型のと
きにはAs原子が2個吸着するときに起きることを示しているので、実験結果
を反映していることがわかる。
:_
「ノ、j・'二研先手.l,
tT..:人J、;:人J、;'二r;I;t
60
10
8
Si
10-6
10・4
pressure
[torr]
(b)
:_
r;I,'i I-_J、;::
L7)FノJJt
fこfL
1T・.:八一、i,I:人J、j::
61
(c)
図A.6
(a) Ga-vacancy表面,(b)
および(c)
As+Ga-vacancy表面におけるSi原子の吸着条件、
2As+Ga-vacancy表面におけるSi原子の吸着条件を示す表面構造状態
図
表A.1
(a) Ga-vacancy表面、
(b) As+Ga-vacancy表面、および2As+Ga-vacancy
表面におけるSi原子の吸着エネルギー
吸着原子
(a)
SionGa-vacancy
吸着エネルギー【eV】
-2.37
(b)
SionAs+Ga-Vacancy表面
-4.41
(c)
Sion2As+Ga-Vacancy表面
-5.24
4.2.2
As-trimerの形成
前節において,
Si+2As+Ga-vacancy表面(図A.7左側)が現れることを示唆した
が、si原子をAs原子で蓋をした表面構造(図A.7右側)は全エネルギーがo.o7eV
A.
[L.J、i,':桝'JJti
fll・
・Tf.I人ノ、i・'二人ノ、;,'・'F,'t
62
低いだけなので、最表面に存在する
2つのAs原子は表面上を移動しやすいこ
とがわかる。従って、図A.7に示すように2As+Ga-vacancy表面においてSi原
子は吸着し、その後
As
原子は移動して
Si原子に蓋をした表面(si+2As'+
Ga-vacancy表面)に変化する場合も考えられる。
上述したようにSi+2As+
Ga-vacancy表面に
Ga-vacancy表面およびsi+2As'+
おける最表面の2個のAs原子は移動しやすい。そこで,
Si+2As'+
Ga-vacancy
表面におけるAs原子の吸着によるAs-trimerの形成を表面構造状態図を用いて
検討する。図A.8はAs2雰囲気下におけるSi+2As'+
Ga-vacancy表面における
As原子の吸着・脱離を温度およびAs2圧の関数として示したものである。
雰囲気下において温度1090-1430K
1430K以上では
ている
ので,
以下では
As2
As原子が吸着し、温度1090-
As原子が脱離することが示されている.実験により報告され
Siドーピングを行ったGaAs(111)A表面の成長温度領域は770-870Kな
As原子はSi+2As'+Ga-vacancy表面に吸着し、
As-trimerを形成し、通常
のGaA高As分子線圧力下でのGaAs結晶成長と同様な経緯で〝型GaAs層が形
成されるものと考えられる。
図A.7
(図A.9)
Ga-vacancy表面構造にsi原子および2個のAs原子が吸着した
構造におけるAs原子の移動
:_
E;',[t l'.ノ、;'二L7')1'・一光fll・
rr.:人一、;::人′、;,I:
表面
63
冒
卜二=二!
Q)
芦■
コ
I-
(弓
宇わ
Q)
a
己
B
10-8
10
As2
図A.8
6
10-4
Pressure
【torr]
Ga-vacancy表面構造にsi原子および2個のAs原子が吸着した
造におけるAs原子の吸着条件(As2環境下)
==コ
Ga-vaGanGy
S i+2鮎+Ga-vacancy
==コ
-I
S i+2As7 +6a-vacancy
図A.9
S i+3As+Ga-vacancy
高As圧下におけるGaAs(111)A表面成長初期過程(As2雰囲気下)
:.
I:;i
1T7:人J、j三:人J、;::
I-.J、;I:研究村
表面構
Fly UP